(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023135701
(43)【公開日】2023-09-29
(54)【発明の名称】鋼管矢板井筒基礎における土ベラ落とし装置及び土ベラ落とし方法
(51)【国際特許分類】
E02D 13/00 20060101AFI20230922BHJP
E02D 5/04 20060101ALI20230922BHJP
【FI】
E02D13/00 Z
E02D5/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022040916
(22)【出願日】2022-03-16
(71)【出願人】
【識別番号】000201478
【氏名又は名称】前田建設工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000132161
【氏名又は名称】株式会社スギノマシン
(74)【代理人】
【識別番号】100130362
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 嘉英
(72)【発明者】
【氏名】布川 洋樹
(72)【発明者】
【氏名】千田 紗綾
(72)【発明者】
【氏名】小川 恭平
【テーマコード(参考)】
2D049
2D050
【Fターム(参考)】
2D049FB03
2D049FB14
2D050AA08
2D050CB10
2D050EE00
(57)【要約】
【課題】 鋼管矢板井筒基礎を構築する際に、特殊な形状の土ベラ落とし装置を用いることなく、容易かつ確実に土ベラ落としを行うことができるようにする。
【解決手段】 井筒(鋼管矢板10)の内周面に設置する支保工の腹起し20よりも鋼管矢板10側に設けた、上下方向に貫通するパイプ挿通孔50と、パイプ挿通孔50に挿通して、井筒(鋼管矢板10)の内周面に向かって高圧水を噴射する高圧水噴射パイプ60と、高圧水噴射パイプ60に高圧水を供給する高圧水供給装置90とを備える。高圧水噴射パイプ60は、その先端部において周方向に等間隔で設けた複数の高圧水噴射口70を有している。各高圧水噴射口70は、少なくとも、横方向の開口70b、斜め上方向の開口70cを有している。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼管矢板井筒基礎を構築する際に、鋼管矢板で形成した井筒の内周面に存在する土ベラを除去するための装置であって、
前記井筒の内周面に設置する支保工の腹起しよりも鋼管矢板側に設けた、上下方向に貫通するパイプ挿通孔と、
前記パイプ挿通孔に挿通して、前記井筒の内周面に向かって高圧水を噴射する高圧水噴射パイプと、
前記高圧水噴射パイプに高圧水を供給する高圧水供給装置と、
を備え、
前記高圧水噴射パイプは、その先端部において周方向に等間隔で設けた複数の高圧水噴射口を有する、
ことを特徴とする鋼管矢板井筒基礎における土ベラ落とし装置。
【請求項2】
前記パイプ挿通孔は、前記鋼管矢板の継手部分の内面側と前記支保工の腹起しとの間に充填する間詰めコンクリート内に埋設したシース管からなる、
ことを特徴とする請求項1に記載の鋼管矢板井筒基礎における土ベラ落とし装置。
【請求項3】
前記複数の高圧水噴射口は、それぞれ、前記高圧水噴射パイプの軸方向に対して、少なくとも、横方向、斜め上方向に向かって開口している、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の鋼管矢板井筒基礎における土ベラ落とし装置。
【請求項4】
鋼管矢板井筒基礎を構築する際に、鋼管矢板で形成した井筒の内周面に存在する土ベラを除去するための方法であって、
前記井筒の内周面に設置する支保工の腹起しよりも鋼管矢板側に、上下方向に貫通するパイプ挿通孔を設け、
前記パイプ挿通孔に高圧水噴射パイプを挿通し、
前記高圧水噴射パイプの先端部において周方向に等間隔で設けた複数の高圧水噴射口から高圧水を噴射することにより、前記井筒の内周面に存在する土ベラを除去する、
ことを特徴とする鋼管矢板井筒基礎における土ベラ落とし方法。
【請求項5】
前記パイプ挿通孔は、前記鋼管矢板の継手部分の内面側と前記支保工の腹起しとの間に間詰めコンクリートを充填する際に、当該間詰めコンクリート内にシース管を埋設することにより形成する、
ことを特徴とする請求項4に記載の鋼管矢板井筒基礎における土ベラ落とし方法。
【請求項6】
前記複数の高圧水噴射口は、それぞれ、前記高圧水噴射パイプの軸方向に対して、少なくとも、横方向、斜め上方向に向かって開口しており、
前記各高圧水噴射口から高圧水を噴射することにより、前記井筒の内周面に存在する土ベラを除去する、
ことを特徴とする請求項4又は5に記載の鋼管矢板井筒基礎における土ベラ落とし方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は鋼管矢板井筒基礎における土ベラ落とし装置及び土ベラ落とし方法に関するものであり、詳しくは、鋼管矢板を用いた井筒基礎を構築する際に、鋼管矢板の継手部分に存在する土ベラを効果的かつ確実に除去するための装置及び方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
海洋構造物等の水中構造物を構築するには、水中に存在する地盤中に鋼管矢板を打ち込んで鋼管矢板井筒を形成し、クラムシェル等の掘削機械を用いて井筒内の土砂を掘削することにより、井筒内の土砂を取り除いている。
【0003】
ところで、井筒基礎を構築するには、井筒内の土砂を取り除かなければならないが、クラムシェル等の掘削機械を用いただけでは、鋼管矢板の内周面、特に、鋼管矢板の継手部分に存在する土砂(土ベラ)を取り除くことができない。そこで、従来、鋼管矢板の内周面、特に、鋼管矢板の継手部分に存在する土砂(土ベラ)を取り除くための技術が種々開発されている(特許文献1~4参照)。なお、以下の記載において、鋼管矢板の継手部分に存在する土砂を「土ベラ」と片仮名を含んで記載し、土砂を除去するための治具を「へら」と平仮名で記載することにより、両者を区別している。
【0004】
特許文献1に記載された技術は、鋼管矢板と鋼管継手とで囲まれた部分の土ベラを除去するための治具に関するものである。この土ベラ落とし治具は、鉛直部材と、鉛直部材の下端部付近に土ベラ側に傾斜するように接続された斜め部材とからなる本体部と、鉛直部材の背面に設けられた重量調整可能な重錘と、鉛直部材の上端部に設けられた複数の吊環と、斜め部材の下端部付近に設けられた「へら」とを備えている。そして、吊環による吊り位置の調整及び重錘の重量調整を行うことにより、「へら」が鋼管矢板に任意の水平力で押し付けられるように水平力を確保して、鋼管矢板と鋼管継手とで囲まれた部分の土ベラを落とすようになっている。
【0005】
特許文献2に記載された技術は、鋼管矢板と鋼管継手とで囲まれた部分の土ベラを除去するための方法に関するものである。この土ベラ落とし方法は、矢板を地盤に打設する工程と、矢板の掘削側の地盤を掘削する前に、鉛直方向下方及び水平方向にジェットを噴射しつつ、矢板に沿って水ジェットノズルを降下させて、水平方向のジェットにより矢板と矢板の掘削側の土との縁を切る工程とを含んでいる。そして、矢板の掘削側の土との縁を切る工程の後に、矢板の掘削側の地盤を掘削する工程をさらに実施するようになっている。
【0006】
特許文献3に記載された技術は、鋼管矢板の側面に付着した付着土(土ベラ)を取り除くための排土装置に関するものである。この排土装置は、処理対象となる鋼管矢板の側面に密着するようにアール加工が施された「へら」が支柱に取り付けられている。この「へら」は、上側の「へら」と下側の「へら」とを有している。そして、上側の「へら」の下面及び下側の「へら」の上面に、鋼管矢板の側面に付着する付着土に対してジェットウォーターを吹き付けるジェットノズルが設けられている。
【0007】
特許文献4に記載された技術は、埋設された杭の露出面に付着した付着物を除去するための付着物除去装置に関するものである。この付着物除去装置は、杭の露出面に対応した形状に形成される本体部と、本体部と接合する軸部とを備えている。そして、本体部の杭と対向する面の左右方向に、付着物に対して水を噴射して付着物を除去するための水噴射ノズルが複数配置されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第6786444号公報
【特許文献2】特許第6754245号公報
【特許文献3】特許第3528149号公報
【特許文献4】特開2002-242219号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述したように、海洋構造物等の水中構造物を構築するために、鋼管矢板を用いて井筒基礎を形成する。この際、井筒内の掘削作業で除去しきれない土砂(土ベラ)を除去する必要がある。土砂(土ベラ)の除去にあたって、井筒内をドライアップした状態における土砂の撤去は不可能であることから、鋼管の内壁面に付着した土砂(土ベラ)を除去するには、高圧水噴射パイプ(例えば、鋼管)の先端部に高圧水噴射ノズルを取り付け、この高圧水噴射ノズルから土砂(土ベラ)に対して高圧水を噴射していた。
【0010】
ところで、鋼管矢板を用いて井筒基礎を構築する際に、井筒内に支保工(腹起し、切り梁等)を設置し、鋼管矢板が井筒内に倒れ込まないように支持している。井筒内に切り梁を設置するには、鋼管矢板の内周面に腹起しを設置し、対向する腹起しの間に切り梁を掛け渡している。以下、井筒内に設置した切り梁及び腹起しを含む部材を支保工という。
【0011】
井筒内には上下方向に複数段の支保工を設置するが、一段目(最上段)の支保工を設置した後に掘削作業を行うため、高圧水を噴射する装置を用いて土砂(土ベラ)の除去を行おうとすると、高圧水を噴射するための高圧水噴射パイプを支保工に挿入する部分から土砂(土ベラ)が存在する井筒の内周面までの距離が長くなり(例えば、最大で1,400mm程度)、高圧水の威力が弱まってしまう。また、腹起しを避けて、高圧水噴射パイプを井筒の内面に接近させる必要があるため、高圧水噴射パイプの支持具(H刑鋼等)を加工して、特殊形状の支持具を製作する必要もあり、土ベラ落とし装置の製作に時間と手間を要することになる。
【0012】
本発明に係る鋼管矢板井筒基礎における土ベラ落とし装置及び土ベラ落とし方法は、上述した事情に鑑み提案されたもので、鋼管矢板井筒基礎を構築する際に、特殊な形状の土ベラ落とし装置を用いることなく、容易かつ確実に土ベラ落としを行うことができる装置及び方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係る鋼管矢板井筒基礎における土ベラ落とし装置及び土ベラ落とし方法は、上述した事情に鑑み提案されたもので、以下の特徴点を有している。すなわち、本発明に係る鋼管矢板井筒基礎における土ベラ落とし装置及び土ベラ落とし方法は、鋼管矢板井筒基礎を構築する際に、鋼管矢板で形成した井筒の内周面に存在する土ベラを除去するための装置及び方法に関するものである。
【0014】
本発明に係る鋼管矢板井筒基礎における土ベラ落とし装置は、井筒の内周面に設置する支保工の腹起しよりも鋼管矢板側に設けた、上下方向に貫通するパイプ挿通孔と、パイプ挿通孔に挿通して、井筒の内周面に向かって高圧水を噴射する高圧水噴射パイプと、高圧水噴射パイプに高圧水を供給する高圧水供給装置とを備えている。また、高圧水噴射パイプは、その先端部において周方向に等間隔で設けた複数の高圧水噴射口を有することを特徴とするものである。
【0015】
上述した鋼管矢板井筒基礎における土ベラ落とし装置において、パイプ挿通孔は、鋼管矢板の継手部分の内面側と支保工の腹起しとの間に充填する間詰めコンクリート内に埋設したシース管により形成することが可能である。
【0016】
上述した鋼管矢板井筒基礎における土ベラ落とし装置において、複数の高圧水噴射口は、それぞれ、高圧水噴射パイプの軸方向に対して、少なくとも、横方向、斜め上方向に向かって開口した構造とすることが可能である。
【0017】
本発明に係る鋼管矢板井筒基礎における土ベラ落とし方法は、井筒の内周面に設置する支保工の腹起しよりも鋼管矢板側に、上下方向に貫通するパイプ挿通孔を設ける工程と、パイプ挿通孔に高圧水噴射パイプを挿通する工程と、高圧水噴射パイプの先端部において周方向に等間隔で設けた複数の高圧水噴射口から高圧水を噴射することにより、井筒の内周面に存在する土ベラを除去する工程とを含むことを特徴とするものである。
【0018】
上述した鋼管矢板井筒基礎における土ベラ落とし方法において、パイプ挿通孔は、鋼管矢板の継手部分の内面側と支保工の腹起しとの間に間詰めコンクリートを充填する際に、当該間詰めコンクリート内にシース管を埋設することにより形成することが可能である。
【0019】
上述した鋼管矢板井筒基礎における土ベラ落とし方法において、複数の高圧水噴射口は、それぞれ、前記高圧水噴射パイプの軸方向に対して、少なくとも、横方向、斜め上方向に向かって開口している。そして、各高圧水噴射口から高圧水を噴射することにより、井筒の内周面に存在する土ベラを除去することが可能である。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る鋼管矢板井筒基礎における土ベラ落とし装置及び土ベラ落とし方法によれば、井筒の内周面に設置する支保工の腹起しよりも鋼管矢板側に、上下方向に貫通するパイプ挿通孔を設ける。このパイプ挿通孔は、鋼管矢板の継手部分の内面側と支保工の腹起しとの間に間詰めコンクリートを充填する際に、当該間詰めコンクリート内にシース管を埋設することにより形成することができる。
【0021】
そして、高圧水噴射パイプをパイプ挿通孔(シース管)に挿通するとともに、高圧水噴射パイプの先端部に設けた高圧水噴射口から井筒の内周面(鋼管矢板の内周面/特に、鋼管矢板の継手部分)に対して高圧水を噴射することにより、井筒の内周面に存在する土砂(土ベラ)を取り除くようになっている。
【0022】
このように、本発明に係る鋼管矢板井筒基礎における土ベラ落とし装置及び土ベラ落とし方法では、井筒の内周面に設置する支保工の腹起しよりも鋼管矢板側に高圧水噴射パイプを設置することができるので、高圧水噴射口から土砂(土ベラ)が存在する井筒の内周面までの距離が短くなる。このため、高圧水の勢いが弱まることなく土砂(土ベラ)に噴射されるので、特殊な形状の土ベラ落とし装置を用いることなく、容易かつ確実に土ベラ落としを行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の実施形態に係る鋼管矢板井筒基礎における土ベラ落とし装置の模式図(側面図)。
【
図2】本発明の実施形態に係る鋼管矢板井筒基礎における土ベラ落とし装置のパイプ挿通孔の模式図(一部平面図)。
【
図3】本発明の実施形態に係る鋼管矢板井筒基礎における土ベラ落とし装置に使用する高圧水噴射口(噴射ノズル)の形状を示す説明図。
【
図4】本発明の実施形態に係る鋼管矢板井筒基礎における土ベラ落とし方法の手順を示すフローチャート。
【
図5】従来の鋼管矢板井筒基礎における土ベラ落とし装置の模式図(側面図)。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態に係る鋼管矢板井筒基礎における土ベラ落とし装置及び土ベラ落とし方法(以下、土ベラ落とし装置、土ベラ落とし方法と略記することがある)を説明する。
【0025】
図1~
図4は本発明の実施形態に係る土ベラ落とし装置及び土ベラ落とし方法を説明するもので、
図1は土ベラ落とし装置の模式図(側面図)、
図2はパイプ挿通孔の模式図(一部平面図)、
図3は高圧水噴射口(噴射ノズル)の形状を示す模式図、
図4は土ベラ落とし方法の手順を示すフローチャートである。また、
図5は従来の土ベラ落とし装置の模式図(側面図)である。なお、
図3において、(a)は側面模式図、(b)は平面模式図である。
【0026】
<土ベラ落とし装置の特徴>
本発明の実施形態に係る土ベラ落とし装置は、海洋構造物等の水中構造物を構築するために、鋼管矢板を用いて井筒基礎を形成する際に使用する装置であり、井筒内面(鋼管矢板の内周面)に対して高圧水を噴射することにより、井筒内面(鋼管矢板の内周面/特に、隣り合う鋼管矢板同士を接続する継手部分)に存在する土砂(土ベラ)を除去するようになっている。
【0027】
この土ベラ落とし装置は、特に、井筒の内周面に設置する支保工の腹起しよりも鋼管矢板側に、上下方向に貫通するパイプ挿通孔を設けて、当該パイプ挿通孔に高圧水噴射パイプを挿通し、高圧水噴射パイプの先端部に設けた高圧水噴射口から高圧水を噴射する点に特徴がある。
【0028】
<土ベラ落とし装置の詳細>
本発明の実施形態に係る土ベラ落とし装置は、
図1及び
図2に示すように、井筒(鋼管矢板10)の内周面に設置する支保工の腹起し20よりも鋼管矢板10側に設けた、上下方向に貫通するパイプ挿通孔50と、パイプ挿通孔50に挿通して、井筒(鋼管矢板10)の内周面に向かって高圧水を噴射する高圧水噴射パイプ60と、高圧水噴射パイプ60に高圧水を供給する高圧水供給装置90とを備えている。なお、支保工は、腹起し20、切り梁30等の部材により構成されている。
【0029】
<鋼管矢板>
鋼管矢板10は、鋼管杭に継手40を設置したもので、剛性の大きな壁体を構築することができる部材である。本実施形態に係る土ベラ落とし装置は、
図2に示すように、断面円形状の鋼管矢板10を使用しているが、構築する井筒基礎の形状、構築箇所の土質等、種々の条件に合わせて適宜な形状の鋼管矢板10を用いることができる。また、鋼管矢板10の継手40には、種々の形状のものがあり、
図2に示すように、本実施形態ではP-P型の継手40を用いているが、P-T型、L-T型の継手40等、他の形状の継手40を用いてもよい。
【0030】
<パイプ挿通孔>
パイプ挿通孔50は、
図1に示すように、鋼管矢板10の継手40部分の内面側と支保工の腹起し20との間に設けてある。このパイプ挿通孔50は、
図2に示すように、鋼管矢板10の継手40部分の内面側と支保工の腹起し20との間に充填する間詰めコンクリート110内に埋設したシース管51により形成することができる。鋼管矢板10の継手40部分は、隣り合う鋼管矢板10の間で凹部となっている。この凹部内に存在する土砂(土ベラ200)は、クラムシェル等の掘削機器では完全に取り除くことができない。
【0031】
従来の土ベラ落とし装置では、
図5に示すように、腹起し20の井筒内側から、井筒(鋼管矢板10)の内周面に対して高圧水噴射パイプ60を臨ませて、土ベラ200の除去を行っていた。そして、高圧水噴射パイプ60の高圧水噴射口70を、井筒(鋼管矢板10)の内周面に近づけるため、高圧水噴射パイプ60あるいはその支持部材に加工を施さなければならなかった。この点、本発明の土ベラ落とし装置は、腹起し20の井筒外側に高圧水噴射パイプ60を設置することができるので、土ベラ200を効果的かつ確実に除去することができる。なお、
図5において、本発明と同様の機能を有する部材には、同一の符号を付している。
【0032】
<高圧水噴射パイプ>
高圧水噴射パイプ60は、高圧水供給装置90から供給される高圧水を噴射ノズル100に送水するためのパイプである。この高圧水噴射パイプ60は、例えば、複数に分割した配管用炭素鋼鋼管を直列に接続することにより、井筒の深さに対応した長さとしたパイプであり、先端部に噴射ノズル100を連通接続し、基端部にフレキシブルパイプからなる高圧ホース80を連通接続してある。そして、高圧ホース80は、高圧水供給装置90に連通接続されている。図示しないが、複数に分割した配管用炭素鋼鋼管は、高圧ソケットにより互いに接続されて1本の高圧水噴射パイプ60となっている。また、最上部に位置する配管用炭素鋼鋼管の上端部にL型配管を取り付け、このL型配管に高圧ホース80を連通接続するようにしてもよい。高圧水噴射パイプ60の長さは、接続する配管用炭素鋼鋼管の数や長さにより調節することができる。
【0033】
<高圧水噴射口>
本実施形態に係る高圧水噴射口70は、高圧水噴射パイプ60の先端部に連通接続した噴射ノズル100に設けられている。噴射ノズル100には、
図3(b)に示すように、周方向に等間隔で複数箇所(例えば、5箇所)の高圧水噴射口70が設けてある。なお、高圧水噴射口70の設置位置は、周方向に等間隔であればよく、3箇所、4箇所、5箇所、6箇所以上としてもよい。高圧水噴射口70からの高圧噴射水の噴射量は、例えば、900L/minである。
【0034】
各高圧水噴射口70は、
図3(a)に示すように、高圧水噴射パイプ60の軸方向に対して、それぞれ軸線方向に対する角度が異なる複数の方向に向かって開口している。なお、
図3(a)に示す高圧水噴射口70は、3箇所に開口(斜め下方向の開口70a、横方向の開口70b、斜め上方向の開口70c)を備えているが、斜め下方向の開口70aを省略して、横方向の開口70b、斜め上方向の開口70cの2箇所に開口させることが好ましい。すなわち、斜め下方向の開口70aを有している場合には、高圧噴射水の反力により高圧水噴射パイプ60を上方へ向かって押し上げる力が働く。このため、高圧水噴射パイプ60を安定して保持することができないおそれがあり、横方向の開口70bと斜め上方向の開口70cの2箇所に開口した高圧水噴射口70とすることが好ましい。
【0035】
図3(a)に示す例では、斜め下方向の開口70aは、噴射ノズル100の軸線に対して下向きに30°の角度を有しており、横方向の開口70bは、噴射ノズル100の軸線に対して90°の角度を有しており、斜め上方向の開口70cは、噴射ノズル100の軸線に対して上向きに50°の角度を有している。なお、噴射ノズル100の軸線に対する各開口の角度は、
図3(a)に示す例に限定されず、構築する鋼管矢板井筒の形状や土ベラの付着状況等に応じて、適宜変更することができる。
【0036】
<土ベラ落とし方法>
本発明の実施形態に係る土ベラ落とし方法は、海洋構造物等の水中構造物を構築するために、鋼管矢板10を用いて井筒基礎を形成する際に、井筒(鋼管矢板10)の内面に存在する土ベラ200を除去するための方法である。海洋構造物等の水中構造物を構築する際に、鋼管矢板10を用いて井筒基礎を構築するには、水中に存在する地盤中に鋼管矢板10を打ち込んで鋼管矢板井筒を形成し、クラムシェル等の掘削機械を用いて井筒内の土砂を掘削して排出する。しかし、クラムシェル等の掘削機器では、鋼管矢板10の内周面に付着した土ベラ200を完全に除去することができず、特に、鋼管矢板10の継手40部分は凹部となっているため、土砂の除去が困難である。
【0037】
そこで、本発明の実施形態に係る土ベラ落とし方法は、
図4に示すように、井筒の内周面に設置する支保工の腹起し20よりも鋼管矢板10側に、上下方向に貫通するパイプ挿通孔50を設ける工程(S1)と、パイプ挿通孔50に高圧水噴射パイプ60を挿通する工程(S2)と、高圧水噴射パイプ60の先端部において周方向に等間隔で設けた複数の高圧水噴射口70から高圧水を噴射することにより、井筒の内周面に存在する土ベラ200を除去する工程(S3)とを含んでいる。そして、井筒の内周面のすべてにおいて土ベラ200が除去されるまで(S4)、上述した工程(S1~S3)を繰り返して実施し、井筒の内周面のすべてにおいて土ベラ200が除去されたら処理を終了する。
【0038】
<パイプ挿通孔を設ける工程>
パイプ挿通孔50を設ける工程では、鋼管矢板10の継手40部分の内面側と支保工の腹起し20との間に間詰めコンクリート110を充填する際に、当該間詰めコンクリート110内にシース管51を埋設することにより、パイプ挿通孔50を形成する。高圧水噴射パイプ60は、このシース管51内に挿通して、井筒の内周面(特に、鋼管矢板10の継手40部分)に存在する土ベラ200を除去する。
【0039】
<土ベラを除去する工程>
本実施形態に係る高圧水噴射口70は、
図3(b)に示すように、高圧水噴射パイプ60の先端部において周方向に等間隔で複数箇所(例えば、5箇所)に設けてある。そして、各高圧水噴射口70は、
図3(a)に示すように、高圧水噴射パイプ60の軸方向に対して、少なくとも、横方向、斜め上方向に向かって開口している(横方向の開口70b、斜め上方向の開口70c)。したがって、各高圧水噴射口70から高圧水を噴射することにより、井筒(鋼管矢板10)の内周面に存在する土ベラ200を効果的に除去することができる。
【0040】
また、高圧水噴射口70は、高圧水噴射パイプ60の先端部において周方向に等間隔で複数箇所(例えば、5箇所)設けられているため、高圧水を噴射する際に高圧水噴射パイプ60のバランスをとることができる。例えば、高圧水噴射口70が井筒(鋼管矢板10)の内周面に対向する側だけに設けられている場合には、当該高圧水噴射口70から高圧水を噴射すると、井筒(鋼管矢板10)の内周面から反力を受けて、高圧水噴射パイプ60が井筒(鋼管矢板10)の内周面から離れる方向に移動してしまう。また、何らかの要因で、高圧水噴射口70から噴射される高圧水の噴射方向がずれると、高圧水噴射パイプ60の均衡を保つ(バランスをとる)ことができない。すなわち、高圧水噴射パイプ60を所望の位置に留まらせることができずに、所謂、高圧水噴射パイプ60が暴れる状態となってしまう。したがって、本実施形態では、高圧水噴射パイプ60の先端部において周方向に等間隔で複数箇所に高圧水噴射口70を設けてある。
【符号の説明】
【0041】
10 鋼管矢板
20 腹起し
30 切り梁
40 継手
50 パイプ挿通孔
51 シース管
60 高圧水噴射パイプ
70 高圧水噴射口
70a 斜め下方向の開口
70b 横方向の開口
70c 斜め上方向の開口
80 高圧ホース
90 高圧水供給装置
100 噴射ノズル
110 間詰めコンクリート
200 土ベラ