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特開2023-135727窒化物半導体発光素子の製造方法、及び窒化物半導体発光素子
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023135727
(43)【公開日】2023-09-29
(54)【発明の名称】窒化物半導体発光素子の製造方法、及び窒化物半導体発光素子
(51)【国際特許分類】
   H01L 33/32 20100101AFI20230922BHJP
   H01L 21/205 20060101ALI20230922BHJP
   C30B 29/38 20060101ALI20230922BHJP
   C23C 16/34 20060101ALI20230922BHJP
   C23C 16/18 20060101ALI20230922BHJP
   C30B 25/02 20060101ALI20230922BHJP
【FI】
H01L33/32
H01L21/205
C30B29/38 D
C23C16/34
C23C16/18
C30B25/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022040955
(22)【出願日】2022-03-16
(71)【出願人】
【識別番号】599002043
【氏名又は名称】学校法人 名城大学
(71)【出願人】
【識別番号】000002303
【氏名又は名称】スタンレー電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000497
【氏名又は名称】弁理士法人グランダム特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹内 哲也
(72)【発明者】
【氏名】柴田 夏奈
(72)【発明者】
【氏名】岩谷 素顕
(72)【発明者】
【氏名】上山 智
(72)【発明者】
【氏名】倉本 大
【テーマコード(参考)】
4G077
4K030
5F045
5F241
【Fターム(参考)】
4G077AA03
4G077AB01
4G077AB04
4G077AB10
4G077BE13
4G077BE15
4G077DB06
4G077FJ01
4G077HA02
4K030AA11
4K030AA13
4K030AA16
4K030AA17
4K030AA18
4K030AA20
4K030BA02
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4K030BA11
4K030BA38
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4K030CA04
4K030DA08
4K030FA10
4K030JA06
4K030JA10
4K030LA14
5F045AA04
5F045AB09
5F045AB14
5F045AB17
5F045AB18
5F045AC08
5F045AC12
5F045AC15
5F045AC16
5F045AC19
5F045AD11
5F045AD12
5F045AD14
5F045AF04
5F045BB12
5F045BB16
5F045CA10
5F045CA12
5F045CA13
5F045DA53
5F045DA55
5F045DA57
5F045DA58
5F045HA11
5F241AA03
5F241AA04
5F241AA43
5F241CA04
5F241CA05
5F241CA22
5F241CA40
5F241CA49
5F241CA57
5F241CA60
5F241CA65
5F241CA77
5F241CB15
(57)【要約】
【課題】品質の良好な窒化物半導体発光素子の製造方法、及び品質の良好な窒化物半導体発光素子を提供する。
【解決手段】有機金属気相成長法を用いた窒化物半導体発光素子の製造方法であって、Al及びInを組成に含むn-AlInN層12を結晶成長させる第1層積層工程と、第1層積層工程を実行後、n-AlInN層12の表面にGaを組成に含むGaNキャップ層13を結晶成長させるキャップ層積層工程と、キャップ層積層工程を実行後、GaNキャップ層13の表面にGaを組成に含むGaN層14を結晶成長させる第2層積層工程と、を備えている。この窒化物半導体発光素子の製造方法は、キャップ層積層工程を実行後であって第2層積層工程を実行する前に、反応炉内への原料ガスの供給を停止し、且つ反応炉内へ水素を供給して少なくともGaNキャップ層13の表面をクリーニングする水素クリーニング工程を更に備える。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機金属気相成長法を用いた窒化物半導体発光素子の製造方法であって、
Al及びInを組成に含む第1層を結晶成長させる第1層積層工程と、
前記第1層積層工程を実行後、前記第1層の表面にGaを組成に含むキャップ層を結晶成長させるキャップ層積層工程と、
前記キャップ層積層工程を実行後、前記キャップ層の表面に前記Ga及び前記Inの少なくともいずれかを組成に含む第2層を結晶成長させる第2層積層工程と、
を備え、
前記キャップ層積層工程を実行後であって前記第2層積層工程を実行する前に、反応炉内への原料ガスの供給を停止し、且つ前記反応炉内へ水素を供給して少なくとも前記キャップ層の表面をクリーニングする水素クリーニング工程を更に備える窒化物半導体発光素子の製造方法。
【請求項2】
前記キャップ層の積層方向の厚みは0.3nm以上、且つ5nm以下である請求項1に記載の窒化物半導体発光素子の製造方法。
【請求項3】
前記水素クリーニング工程において前記反応炉内に供給する水素の流量F1[slm]、前記水素クリーニング工程において前記反応炉内に水素を供給する供給時間T[min]、及び前記水素クリーニング工程において前記反応炉内に供給するアンモニアの流量F2[slm]によって決定する式1の数値Aは、20以上、且つ80以下である請求項1又は請求項2に記載の窒化物半導体発光素子の製造方法。
A=(F1×T)/F2・・・式1
【請求項4】
前記第2層積層工程における成長温度は、前記第1層積層工程における成長温度以下である請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の窒化物半導体発光素子の製造方法。
【請求項5】
Al及びInを組成に含む第1層と、
前記第1層の表面に積層され、Gaを組成に含むキャップ層と、
前記キャップ層の表面に積層され、Ga及びInの少なくともいずれかを組成に含む第2層と、
を備え、
前記キャップ層におけるバンドギャップは、前記第1層と前記第2層において前記キャップ層に隣接する領域のバンドギャップよりも小さい窒化物半導体発光素子。
【請求項6】
前記キャップ層の積層方向の厚みは、0.3nm以上、且つ5nm以下である請求項5に記載の窒化物半導体発光素子。
【請求項7】
前記キャップ層におけるGaの面濃度は、2.5×1014cm-2以上、且つ4.1×1015cm-2以下である請求項5又は請求項6に記載の窒化物半導体発光素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は窒化物半導体発光素子の製造方法、及び窒化物半導体発光素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
バンドギャップや屈折率が異なる窒化物半導体薄膜を積層して半導体多層膜を製造する場合、特にInを含む窒化物半導体薄膜による多層膜反射鏡において、貫通転位などの欠陥が高密度に存在することが問題となっていた。特許文献1では、AlInN層を形成した直後に水素を導入する工程を実行することによってAlInN層の表面に存在するInのクラスタを除去し、貫通転位などの欠陥の発生を抑制する方法(水素処理)を開示している。特許文献2では、AlInN層の上部とGaN層の下部との界面におけるIn組成の減少割合をAl組成の減少割合より大きくする、すなわち実質Inが少ない層がAlInN層とGaN層との界面に存在する構造によって貫通転位などの欠陥の発生を抑制することを開示している。具体的には、AlInN層を形成した直後に0nmより大きく1nm以下のInを含まないキャップ層を形成し、その後、基板温度を昇温する昇温工程を実行することによって、AlInN層の表面に存在するInのクラスタを除去し、欠陥の発生を抑制すること(昇温処理)を開示している。ここで、キャップ層は、AlInN層の表面を満遍なく覆った状態に加え、AlInN層の表面に島状に形成された状態も含む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018-14444号公報
【特許文献2】特開2018-98347号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような状況下、素子構造の形成を目的として、いくつかの窒化物半導体薄膜多層膜構造を検討した結果、以下の新たな課題が見いだされた。具体的には、AlInN層の表面にInを含む層を有する構造を形成する場合である。先ず、上述した昇温工程では温度上昇を伴うために、Inを含む層を有する構造を形成することが困難である。一方、上述した水素処理では、AlInN層の表面に、基板の転位密度よりも大幅に高い密度でピット(穴)が発生し、表面平坦性が大きく悪化してしまうことが新たにわかった。ピットは貫通転位など結晶欠陥の存在により結晶の表面に現れたものと考えられる。このように、特許文献1、2に開示された技術だけでは転位発生の抑制が不十分な場合(すなわち、成長温度を低く抑えた上での結晶成長が不可欠である、Inが含まれる層を有する構造をAlInN層の表面に結晶成長させる場合)が存在することが明らかとなった。
【0005】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、AlInN層の表面にピット密度が低い、すなわち欠陥の少ない結晶を結晶成長させ、高出力かつ長寿命の窒化物半導体発光素子を製造する窒化物半導体発光素子の製造方法、及び窒化物半導体発光素子を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1発明の窒化物半導体発光素子の製造方法は、
有機金属気相成長法を用いた窒化物半導体発光素子の製造方法であって、
Al及びInを組成に含む第1層を結晶成長させる第1層積層工程と、
前記第1層積層工程を実行後、前記第1層の表面にGaを組成に含むキャップ層を結晶成長させるキャップ層積層工程と、
前記キャップ層積層工程を実行後、前記キャップ層の表面に前記Ga及び前記Inの少なくともいずれかを組成に含む第2層を結晶成長させる第2層積層工程と、
を備え、
前記キャップ層積層工程を実行後であって前記第2層積層工程を実行する前に、反応炉内への原料ガスの供給を停止し、且つ前記反応炉内へ水素を供給して少なくとも前記キャップ層の表面をクリーニングする水素クリーニング工程を更に備える。
【0007】
この構成によれば、キャップ層積層工程を実行後の結晶の表面を水素によってクリーニングすることによって、次に積層される第2層を良好に結晶成長させることができる。
【0008】
第2発明の窒化物半導体発光素子は、
Al及びInを組成に含む第1層と、
前記第1層の表面に積層され、Gaを組成に含むキャップ層と、
前記キャップ層の表面に積層され、Ga及びInの少なくともいずれかを組成に含む第2層と、
を備え、
前記キャップ層におけるバンドギャップは、前記第1層と前記第2層において前記キャップ層に隣接する領域のバンドギャップよりも小さい。
【0009】
この構成によれば、キャップ層によって、次に積層される第2層を良好に結晶成長させることができ、更に、キャップ層に含まれるGaが上下に隣接する第1層及び第2層にある程度拡散して、キャップ層におけるバンドオフセットが低減するので、キャップ層における電子の移動をスムースにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】窒化物半導体発光素子の製造方法によって製造される窒化物半導体発光素子1の構造の一例を示す模式図である。
図2】の窒化物半導体発光素子の製造方法における、第1層積層工程、キャップ層積層工程、水素クリーニング工程、第2層積層工程、及びGaInN量子井戸活性層を積層する工程までを示すタイムチャートである。
図3】(A)から(H)は、キャップ層積層工程の実行時間を変化させてGaNキャップ層の厚みを変化させた各サンプルのGaInN量子井戸活性層の表面を原子間力顕微鏡で観察した画像であり、(I)は、キャップ層積層工程と水素クリーニング工程とを実行せずに作製したサンプルのGaInN量子井戸活性層の表面を原子間力顕微鏡で観察した画像である。
図4】キャップ層積層工程の実行時間を変化させてGaNキャップ層の厚みを変化させた各サンプルにおけるGaNキャップ層の厚みに対するピット密度の関係をプロットしたグラフである。
図5】窒化物半導体発光素子の製造方法によって製造される窒化物半導体発光素子2の構造を示す模式図である。
図6】水素クリーニング工程において反応炉内へのH2、NH3の供給の割合を変化させ、且つ反応炉内へのH2の供給時間を変化させた各サンプルにおける反応炉内へのH2、NH3の流量、反応炉内へのH2の供給時間、数値A、及びピット密度を示す表である。
図7】水素クリーニング工程において反応炉内へのH2、NH3の供給の割合を変化させ、且つ反応炉内へのH2の供給時間を変化させた各サンプルにおける数値Aに対するピット密度の関係をプロットしたグラフである。
図8】比較例4のサンプルの構造を示す模式図である。
図9】比較例4のサンプルにおける、SIMS分析によるGa、Al、及びInの深さ方向プロファイルを示すグラフである。
図10】実施例7から10、及び比較例7のサンプルにおける、価電子帯底のエネルギー準位を示す模式図である。
図11】比較例7及び実施例9のサンプルにおける、電流電圧特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明における好ましい実施の形態を説明する。
【0012】
第1発明において、キャップ層の積層方向の厚みは0.3nm以上、且つ5nm以下であり得る。この構成によれば、第2層積層工程において第2層を積層した際に、第2層において生じる転位を良好に抑制することができる。
【0013】
第1発明において、水素クリーニング工程において反応炉内に供給する水素の流量F1[slm]、水素クリーニング工程において反応炉内に水素を供給する供給時間T[min]、及び水素クリーニング工程において反応炉内に供給するアンモニアの流量F2[slm]によって決定する式1の数値Aは、20以上、且つ80以下であり得る。
A=(F1×T)/F2・・・式1
この構成によれば、水素クリーニング工程において反応炉内に供給する水素の流量F1[slm]、水素クリーニング工程において反応炉内に水素を供給する供給時間T[min]、及び水素クリーニング工程において反応炉内に供給するアンモニアの流量F2[slm]を調整して数値Aをこの範囲にすることによって、キャップ層積層工程後における結晶の表面に対する水素のクリーニングの効果を高めることができる。数値Aは、少なすぎると、クリーニングの効果がなくなり、多すぎると水素による表面ダメージの影響が生じ始める。
【0014】
第1発明において、第2層積層工程における成長温度は、第1層積層工程における成長温度以下であり得る。この構成によれば、Inを含んだ第1層に熱の影響が及ぶことを抑制することができる。
【0015】
第2発明において、キャップ層の積層方向の厚みは、0.3nm以上、且つ5nm以下であり得る。この構成によれば、第2層を積層する際に、第2層において生じる転位を良好に抑制することができる。
【0016】
第2発明において、キャップ層におけるGaの面濃度は、2.5×1014cm-2以上、且つ4.1×1015cm-2以下であり得る。この構成によれば、第2層を積層する際に、第2層において生じる転位を良好に抑制することができる。
【0017】
<実施例1~6、比較例1~4>
次に、本発明の窒化物半導体発光素子の製造方法の一例について図面を参照しつつ説明する。この製造方法は、AlInN層の表面側にGaN層を介してGaInN/GaN多重量子井戸活性層(発光層)を形成した素子構造を用いた発光ダイオード(以下、窒化物半導体発光素子1ともいう)の製造方法の一例である。この素子構造は、発光ダイオード以外にも、レーザーダイオードや太陽電池など様々な光デバイス構造の基本構造となり得る。
【0018】
この窒化物半導体発光素子1は、図1に示すように、n-GaN基板10、n-GaNバッファ層11、第1層であるn-AlInN層12、キャップ層であるGaNキャップ層13、第2層であるGaN層14、GaInN量子井戸活性層15、p-AlGaN層16、p-GaN層17、p-GaNコンタクト層18、p側電極19A、及びn側電極19Bを備えている。n-GaN基板10は、n型の特性を有したGaN(窒化ガリウム)の単結晶の基板である。窒化物半導体発光素子1は、n-GaN基板10の表面(図1における上側の面)に、有機金属気相成長法(MOVPE:Metal Organic Vapor Phase Epitaxy)を用いて、エピタキシャル成長を行うことによって製造し得る。
【0019】
窒化物半導体発光素子1を製造する際には、III族材料(MO原料)としてTMA(トリメチルアルミニウム)、TMGa(トリメチルガリウム)、TEGa(トリエチルガリウム)、TMI(トリメチルインジウム)を用いる。また、V族材料の原料ガスには、アンモニア(NH3)を用いる。ドナー不純物の原料ガスには、SiH4(シラン)を用いる。アクセプタ不純物のMO原料には、CP2Mg(シクロペンタジエニルマグネシウム)を用いる。
【0020】
先ず、n-GaN基板10の表面に、バッファ層としてn-GaNバッファ層11を500nmの厚みで結晶成長させる。具体的には、n-GaN基板10をMOVPE装置の反応炉内(以下、単に反応炉内ともいう)に配置する。そして、n-GaN基板10の温度(成長温度)が1050℃となるように反応炉内の温度を調整し、反応炉内にキャリアガスとして水素(H2)を供給する。n-GaNバッファ層11におけるSi(ケイ素)の濃度は、5×1018cm-3になるように反応炉内へのSiH4の供給量を調整する。
【0021】
[第1層積層工程]
次に、第1層積層工程を実行する。具体的には、n-GaNバッファ層11の表面に、Al及びInを組成に含むn-AlInN層12をエピタキシャル成長させる。詳しくは、図2に示すように、n-GaN基板10の温度(成長温度)が840℃になるように反応炉内の温度を調整し、反応炉内にキャリアガスとして窒素(N2)を供給する。また、TMA、TMI、SiH4、及び流量4L/minのNH3を反応炉内に供給し、厚みが43nmのn-AlInN層12を結晶成長させる。n-AlInN層12におけるAlNのモル分率は82%であり、InNのモル分率は18%である。n-AlInN層12におけるSiの濃度は、1.5×1019cm-3になるように反応炉内へのSiH4の供給量を調整する。キャリアガスは、N2以外に、Ar(アルゴン)などの不活性ガス、又はこれらを混合した混合ガスとしてもよい。
【0022】
[キャップ層積層工程]
次に、第1層積層工程を実行後、キャップ層積層工程を実行する。具体的には、図2に示すように、n-GaN基板10の温度(成長温度)、反応炉内へのキャリアガス(N2)、NH3の供給を維持したまま、TMA、TMI、及びSiH4の供給を停止するとともに、TEGaを反応炉内に供給して、n-AlInN層12の表面にGaを組成に含むGaNキャップ層13を所定の厚みに結晶成長させる。GaNキャップ層13の厚みは、反応炉内へのTEGaの供給時間を変更することによって変化させることができる。
【0023】
[水素クリーニング工程]
反応炉内へのTEGa(原料ガス)の供給を停止してGaNキャップ層13の結晶成長を終了した後、すなわちキャップ層積層工程を実行後、水素クリーニング工程を実行する。具体的には、図2に示すように、n-GaN基板10の温度をキャップ層積層工程における温度(840℃)に保持し、反応炉内に供給する流量16L/minのキャリアガスをN2からH2に徐々に切り替える。具体的には、反応炉内に供給するキャリアガスの流量を16L/minに保持したまま、N2の割合を減少させつつH2の割合を増加させる。
【0024】
ここで、水素クリーニング工程を開始すると同時に反応炉内へのN2の供給を停止した後、直ちにH2の供給を開始すると、反応炉内のガスフローが乱れるおそれがある。このため、水素クリーニング工程を開始すると同時にキャリアガスをN2からH2に徐々に切り替えることによって、反応炉内に供給するキャリアガスの流量を変化させないようにして、反応炉内のガスフローの乱れを抑制するのである。原理的には、反応炉内に供給するキャリアガスの流量に変動が生じないのであれば、水素クリーニング工程を開始すると同時にN2を停止した後、直ちに反応炉内にH2の供給を開始してもよい。窒化物半導体発光素子1の製造方法では、1.5分かけてN2からH2に完全に切り替える(図2参照)。この操作によって反応炉内にH2が供給され始め、薄いGaNキャップ層13を含むn-AlInN層12の表面をH2で清浄化することができる。
【0025】
このまま、反応炉内にキャリアガスとしてH2のみが供給される状態を所望の時間保持してもよい。しかし、窒化物半導体発光素子1の製造方法では、キャリアガスとしてH2のみが反応炉内に供給される状態を保持する時間を設けず、キャリアガスがH2のみとなった時点で、直ちにキャリアガスをH2からN2に徐々に切り替える。具体的には、反応炉内に供給するキャリアガスの流量を16L/minに保持したまま、1.5分かけてH2の割合を減少させつつN2の割合を増加させる。このように、3分かけて反応炉内に徐々にH2を導入することから、反応炉内に供給したH2の供給量は(16[L/min]×3[min])÷2=24[L]となり、実質的には反応炉内に16slmのH2を1.5分間供給したことと等価である。こうして、水素クリーニング工程は、反応炉内へ水素を供給してGaNキャップ層13の表面をクリーニングする。ここで、n-AlInN層12の表面にGaNキャップ層13が島状に形成されている場合、水素クリーニング工程は、反応炉内へ水素を供給してGaNキャップ層13、及びn-AlInN層12の表面をクリーニングする。
【0026】
[第2層積層工程]
次に、第2層積層工程を実行する。具体的には、図2に示すように、キャップ層積層工程、及び水素クリーニング工程を実行後、n-GaN基板10の温度をn-AlInN層12を結晶成長する際の温度(840℃)から797℃まで降下させて、キャリアガスがN2の状態を保持しつつ、TEGaの反応炉内への供給を開始して、GaNキャップ層13の表面に厚みが30nmのGaN層14を結晶成長させる。GaN層14は、Gaを組成に含む。第2層積層工程における成長温度は、第1層積層工程における成長温度よりも低い。水素クリーニング工程は第2層積層工程を実行する前に実行される。
【0027】
続いて、NH3とTEGaの反応炉内への供給を保持しつつ、GaInN量子井戸活性層15(MQW)を成長させる。具体的には、TMInの反応炉内への供給を開始して厚みが3nmのGaInN量子井戸層を結晶成長させた後、TMInの供給を停止して厚みが6nmのGaNバリア層を結晶成長させる。GaInN量子井戸活性層15は、1つのGaInN量子井戸層と1つのGaNバリア層を1ペアとして、この1ペアを5ペア積層させた構成である。最後のGaNバリア層の結晶成長が終了した後、反応炉内へのTEGaの供給を停止し、GaInN量子井戸活性層15の結晶成長を終了する。
【0028】
[GaNキャップ層と水素クリーニング工程の効果の検証]
ここで、GaNキャップ層13と水素クリーニング工程の効果を検証するために、GaNキャップ層13の厚みを変化させてGaInN量子井戸活性層15まで結晶成長させた実施例1から実施例5、及び比較例1から比較例3の合計8種類のサンプルを作製した。具体的には、これらサンプルの各々のGaNキャップ層13の厚みは、0nm(比較例1)、0.15nm(比較例2)、0.3nm(実施例1)、0.6nm(実施例2)、0.9nm(実施例3)、1.2nm(実施例4)、2.4nm(実施例5)、5nm(実施例6)とした。各サンプルにおけるGaNキャップ層13の厚みは、キャップ層積層工程を実行する時間、すなわち、反応炉内へのTEGaの供給時間を変更することによって調整した。更に、キャップ層積層工程及び水素クリーニング工程を実行せずに、GaInN量子井戸活性層15まで結晶成長させた比較例3のサンプルも作製した。
【0029】
比較例3のサンプルにおける、GaInN量子井戸活性層15の表面のピット密度は、1.5×107cm-3であった(図3(I)参照)。ここで、n-GaN基板10が有する転位密度の保証値は、1×106cm-3である。このことから、n-AlInN層12の表面の上に存在する過剰のIn原子同士の結合が、n-GaN基板10の転位密度を上回る密度の転位発生の原因であると考えられる。
【0030】
また、キャップ層積層工程を実行せず(GaNキャップ層13が全くない(0nm))、水素クリーニング工程を実行した比較例1のサンプルであっても、GaInN量子井戸活性層15の表面のピット密度は、8.8×108cm-3となっている(図3(A)、図4参照)。つまり、GaInN量子井戸活性層15の表面のピット密度は、キャップ層積層工程を実行せず、且つ水素クリーニング工程を実行した場合、キャップ層積層工程及び水素クリーニング工程を実行しない場合よりも大幅に上回ることがわかった。
【0031】
また、GaNキャップ層13の厚みが0.15nmの比較例2のサンプルも水素クリーニング工程なしの場合(比較例3)よりも高いピット密度(転位密度)であることがわかった(図3(B)、図4参照)。一方で、GaNキャップ層13の厚みが0.6nmの場合(実施例2)に最も低いピット密度が得られることがわかった(図3(D)、図4参照)。そして、この厚み(0.6nm)の1/2(0.3nm)の厚み(実施例1)以上、且つ8.3倍(5nm)の厚み(実施例6)以下の場合に水素クリーニング工程によって転位密度が効果的に低減できることがわかった。
【0032】
具体的には、GaNキャップ層13の厚みが、0.3nm以上、且つ5.0nm以下の場合に、ピット密度が6.3×106cm-3以下になる。つまり、GaNキャップ層13の積層方向の厚みは、0.3nm以上、且つ5nmであることが好ましい。また、GaNキャップ層13の厚みが0.6nm(実施例2)以上、1.2nm(実施例4)以下の場合におけるピット密度は、5×106cm-3以下であり、より好ましい値を示すことがわかった。そして、GaNキャップ層13の厚みが0.6nm(実施例2)以上、0.9nm(実施例3)以下の場合、ピット密度が2.3×106cm-3以下であり、更により好ましい値を示すこともわかった。従って、GaNキャップ層13の厚みは、0.6nm以上、1.2nm以下がより好ましく、0.6nm以上、0.9nm以下とすることが更により好ましい。このように、水素クリーニング工程の効果とは、積層した結晶の表面におけるピット密度を抑制することである。
【0033】
ここで、実施例2のサンプルにおいて、0.6nmのGaNキャップ層13を結晶成長した場合に、どれだけのGaが存在するかを調査した。具体的には、図8に示すような比較例4のサンプルを別途用意した。詳しくは、比較例4のサンプルは、実施例2のサンプルと同様に、厚みが43nmのn-AlInN層12の表面に、厚みが0.6nmのGaNキャップ層13を形成し、その後、水素クリーニング工程を実行した。そして、GaNキャップ層13の表面に更に10nmの厚みのAlInN層44を結晶成長した。実施例2のサンプルでは、GaNキャップ層13の表面にGaN層14を結晶成長させたが、ここでは、GaNキャップ層13のGaがどれだけ存在するかを見極めたいため、比較例4のサンプルでは上部にもGaを含まないAlInN層44を結晶成長した。
【0034】
図9に、比較例4のサンプルにおけるSIMS分析によるGa、Al、及びInの深さ方向プロファイルを示す。図9に示すように、Gaの体積濃度のピーク値は、およそ3×1021cm-3であった。また、このGa体積濃度プロファイルの半値幅はおよそ2nmであった。このプロファイルに基づいてGaの面濃度を算出すると、4.9×1014cm-2であった。すなわち、上述したように0.6nmのGaNキャップ層13を設けると、n-AlInN層12とAlInN層44との間には、4.9×1014cm-2の面濃度でGaが存在することがわかった。このGaの面濃度は、GaNキャップ層13の厚みを変更するとこれに従って変化する。具体的には、GaNキャップ層13の厚みが0.3nm(実施例1)の場合は、Gaの面濃度が2.5×1014cm-2となり、GaNキャップ層13の厚みが0.9nm(実施例3)の場合は、Gaの面濃度が7.4×1014cm-2となり、GaNキャップ層13の厚みが1.2nm(実施例4)の場合は、Gaの面濃度が9.8×1014cm-2となり、GaNキャップ層13の厚みが5nm(実施例6)の場合は、Gaの面濃度が4.1×1015cm-2となることがわかった。
【0035】
以上により、少なくともAlとInを含む層(n-AlInN層12)の表面に、少なくともGaを含む層(GaN層14)とInを含む層を有する構造(GaInN量子井戸活性層15)を積層する場合には、厚みが0.3nm以上、5nm以下のGaNキャップ層13を設けるとともに水素クリーニング工程を実行して、GaNキャップ層13におけるGaの面濃度を2.5×1014cm-2以上、且つ4.1×1015cm-2以下にすることによってピットや転位の生成を大きく抑制できることがわかった。
【0036】
第1層積層工程を実行してn-AlInN層12を結晶成長した後、キャップ層積層工程、水素クリーニング工程、及び第2層積層工程を実行し、更にGaInN量子井戸活性層15を結晶成長した後、p-AlGaN層16、p-GaN層17、p-GaNコンタクト層18、p側電極19A、及びn側電極19Bを結晶成長し、発光ダイオード(窒化物半導体発光素子1)を作製する。
【0037】
具体的には、GaInN量子井戸活性層15を結晶成長させた後に、継続して以下の結晶成長を行う。先ず、GaInN量子井戸活性層15の表面に、厚みが20nmのp-AlGaN層16を結晶成長する。p-AlGaN層16におけるAlNのモル分率は20%であり、GaNのモル分率は80%である。p-AlGaN層16におけるMgの濃度は、2×1019cm-3になるように反応炉内へのCP2Mgの供給量を調整する。
【0038】
次に、p-AlGaN層16の表面にp型クラッド層として厚みが70nmのp-GaN層17を結晶成長する。p-GaN層17におけるMgの濃度は、2×1019cm-3になるように反応炉内へのCP2Mgの供給量を調整する。次に、p-GaN層17の表面に厚みが10nmのp-GaNコンタクト層18を結晶成長する。p-GaNコンタクト層18におけるMg濃度は、2×1020cm-3になるように反応炉内へのCp2Mgの供給量を調整する。そして、n-GaN基板10の裏面にn側電極19Bを設けるとともに、p-GaNコンタクト層18の表面にITO電極(p側電極19A)を設け、更に金属によるパッド電極(図示せず)を設ける。こうして、発光ダイオードとして機能する窒化物半導体発光素子1が完成する。
【0039】
次に、上記実施例における作用を説明する。
【0040】
有機金属気相成長法を用いた窒化物半導体発光素子の製造方法であって、Al及びInを組成に含むn-AlInN層12を結晶成長させる第1層積層工程と、第1層積層工程を実行後、n-AlInN層12の表面にGaを組成に含むGaNキャップ層13を結晶成長させるキャップ層積層工程と、キャップ層積層工程を実行後、GaNキャップ層13の表面にGaを組成に含むGaN層14を結晶成長させる第2層積層工程と、を備えている。この窒化物半導体発光素子の製造方法は、キャップ層積層工程を実行後であって第2層積層工程を実行する前に、反応炉内への原料ガスの供給を停止し、且つ反応炉内へ水素を供給してGaNキャップ層13及びn-AlInN層12の表面をクリーニングする水素クリーニング工程を更に備える。この構成によれば、キャップ層積層工程を実行後の結晶の表面に過剰に存在するInを水素によってクリーニングすることによって、次に積層されるGaN層14を良好に結晶成長させることができる。このため、この窒化物半導体発光素子の製造方法は、ピット、すなわち転位など欠陥の発生が十分に抑え込むことができるので、高効率、高出力、長寿命の発光ダイオード(窒化物半導体発光素子1)を作製することができる。
【0041】
この窒化物半導体発光素子の製造方法において、GaNキャップ層13の積層方向の厚みは0.3nm以上、且つ5nm以下である。この構成によれば、第2層積層工程においてGaN層14を積層した際に、GaN層14において生じる転位を良好に抑制することができる。
【0042】
この窒化物半導体発光素子の製造方法において、GaNキャップ層13を設け、水素クリーニング工程を実行した場合に、GaNキャップ層13が有するGa面濃度は、2.5×1014cm-2以上、且つ4.1×1015cm-2以下である。この構成によれば、第2層積層工程においてGaN層14を積層した際に、GaN層14において生じる転位を良好に抑制することができる。
【0043】
この窒化物半導体発光素子の製造方法において、第2層積層工程における成長温度は、第1層積層工程における成長温度以下である。この構成によれば、Inを含んだn-AlInN層12に熱の影響が及ぶことを抑制することができる。
【0044】
窒化物半導体発光素子1において、GaNキャップ層13の積層方向の厚みは、0.3nm以上、且つ5nm以下である。この構成によれば、GaN層14を積層する際に、GaN層14において生じる転位を良好に抑制することができる。
【0045】
窒化物半導体発光素子1において、GaNキャップ層13におけるGaの面濃度は、2.5×1014cm-2以上、且つ4.1×1015cm-2以下である。この構成によれば、GaN層14を積層する際に、GaN層14において生じる転位を良好に抑制することができる。
【0046】
<実施例7~10、比較例5~7>
次に、本発明の窒化物半導体発光素子の製造方法を具体化した別の一例について、図面を参照しつつ説明する。この製造方法は、n-AlInN層112の表面側にAlGaInN組成傾斜層114を有する、n型AlInN/GaN多層膜反射鏡構造の形成と、この構造を用いた面発光レーザー(以下、窒化物半導体発光素子2ともいう)の製造方法の一例である。n型AlInN/GaN多層膜反射鏡構造は、面発光レーザーのみならず、発光ダイオードや太陽電池など様々な光デバイス構造において利用できる。この構造を用いた面発光レーザー(窒化物半導体発光素子2)の構造の一例の断面模式図を図5に示す。
【0047】
窒化物半導体発光素子2は、図5に示すように、n-GaN基板110、n-GaNバッファ層111、第1層であるn-AlInN層112、キャップ層であるGaNキャップ層113、第2層であるn-AlGaInN組成傾斜層114、第1n-GaN層115、第2n-GaN層116、GaInN量子井戸活性層117、p-AlGaN層118、p-GaN層119、p-GaNコンタクト層120、p側電極122A、及びn側電極122Bを備えている。n-GaN基板110は、n型の特性を有したGaNの単結晶の基板である。窒化物半導体発光素子2は、n-GaN基板110の表面(図5における上側の面)に、有機金属気相成長法を用いてエピタキシャル成長を行うことによって製造し得る。
【0048】
窒化物半導体発光素子2を製造する際には、III族材料(MO原料)としてTMA、TMGa、TEGa、TMIを用いる。また、V族材料の原料ガスには、NH3を用いる。ドナー不純物の原料ガスには、SiH4を用いる。アクセプタ不純物のMO原料には、CP2Mgを用いる。
【0049】
先ず、n-GaN基板110の表面に、バッファ層としてn-GaNバッファ層111を500nmの厚みで結晶成長させる。具体的には、n-GaN基板110をMOVPE装置の反応炉内に配置する。そして、n-GaN基板110の温度(成長温度)が1050℃となるように反応炉内の温度を調整し、反応炉内にキャリアガスとしてH2を供給する。n-GaNバッファ層111におけるSiの濃度は、5×1018cm-3になるように反応炉内へのSiH4の供給量を調整する。
【0050】
[第1層積層工程]
次に、第1層積層工程を実行する。具体的には、n-GaNバッファ層111の表面に、n-AlInN層112をエピタキシャル成長させる。詳しくは、n-GaN基板110の温度(成長温度)が840℃になるように反応炉内の温度を調整し、反応炉内にキャリアガスとしてN2を供給する。また、TMA、TMI、SiH4、及びNH3を反応炉内に供給し、厚みが38nmのn-AlInN層112を結晶成長させる。n-AlInN層112におけるAlNのモル分率は82%であり、InNのモル分率は18%である。また、n-AlInN層112におけるSiの濃度は、1.5×1019cm-3になるように反応炉内へのSiH4の供給量を調整する。キャリアガスは、N2以外に、ArやNe(ネオン)などの不活性ガス、又はこれらを混合した混合ガスとしてもよい。
【0051】
[キャップ層積層工程]
次に、キャップ層積層工程を実行する。具体的には、n-GaN基板110の温度(成長温度)、反応炉内へのキャリアガス(N2)、NH3の供給を維持したまま、TMA、TMI、及びSiH4の供給を停止するとともに、TEGaを反応炉内に供給してn-AlInN層112の表面にGaNキャップ層113を結晶成長させる。GaNキャップ層113の厚みは、0.3nmとする。
【0052】
[水素クリーニング工程]
反応炉内へのTEGaの供給を停止してGaNキャップ層113の結晶成長を終了した後、水素クリーニング工程を実行する。具体的には、n-GaN基板110の温度(成長温度)をキャップ層積層工程における温度(840℃)に保持し、反応炉内に供給するキャリアガスをN2からH2に徐々に切り替える。反応炉内へのNH3の供給は、維持している。詳しくは、反応炉内に供給するキャリアガスの流量を所定の流量に保持したまま、N2の割合を減少させつつH2の割合を増加させ、30秒かけてN2からH2に切り替える。この操作により反応炉内にH2が供給され始め、薄いGaNキャップ層113を含むn-AlInN層112の表面をH2によって清浄化する処理を行うことができる。そして、このまま反応炉内にキャリアガスとしてH2のみが供給される状態を所定時間保持する。その後、キャリアガスをH2からN2に徐々に切り替える。具体的には、反応炉内に供給するキャリアガスの流量を所定の流量に保持したまま、H2の割合を減少させつつN2の割合を増加させ、30秒かけてキャリアガスをH2からN2に切り替える。
【0053】
[第2層積層工程]
キャップ層積層工程及び水素クリーニング工程を実行後、第2層積層工程を実行する。具体的には、成長温度をn-AlInN層112を結晶成長する際の温度(840℃)を保持したまま、キャリアガスがN2の状態で、Al及びInを組成に含み厚みが5nmのn-AlGaInN組成傾斜層114を結晶成長する。n-AlGaInN組成傾斜層114は、以下の要領で結晶成長させる。第2層積層工程における成長温度は、第1層積層工程における成長温度と同じである。
【0054】
先ず、n-AlInN層112を成長させる際の反応炉内へのTMA、TMIの供給量にして結晶成長を開始し、反応炉内へのTMA、TMIの供給量を徐々に減少させる。これとともに、第2層積層工程の開始直後には供給していなかったTEGaの反応炉内への供給を開始し、TEGaの供給量を徐々に増加させる。そして、最終的に、反応炉内へのTMA、TMIの供給を停止させるとともに、TEGaの供給量をn-AlInN層112の成長速度と同程度まで徐々に増加させる。これにより、積層方向にn-AlInN層112から第1n-GaN層115へと組成傾斜しながら変化し、厚みが5nmのn-AlGaInN組成傾斜層114を結晶成長させる。また、n型の特性を得るために、n-AlGaInN組成傾斜層114におけるSiの濃度は、6×1019cm-3になるように反応炉内へのSiH4の供給量を調整する。
【0055】
TMA、TMI、TEGa、及びSiH4の供給を停止し、5nmのn-AlGaInN組成傾斜層114の結晶成長を終了した後、反応炉内へのNH3の供給を保持しつつ、n-GaN基板110の温度(成長温度)を第1n-GaN層115の成長温度である1050℃まで上昇させる。このとき、反応炉内へのTMA、TMI、TEGa、及びSiH4の供給を停止しているので、結晶の成長は中断している。そして、結晶成長が中断しているときに、キャリアガスをN2からH2に徐々に切り替える。
【0056】
そして、n-GaN基板110の温度が1050℃に到達した後、反応炉内へのTMGaの供給を開始し、厚みが43nmの第1n-GaN層115を結晶成長させる。第1n-GaN層115におけるSiの濃度は、5×1018cm-3になるように反応炉内へのSiH4の供給量を調整する。n-AlInN層112、GaNキャップ層113、n-AlGaInN組成傾斜層114、及び第1n-GaN層115は、多層膜反射鏡構造のうちの1つのペアPに相当する。
【0057】
第1n-GaN層115を結晶成長した後、第1n-GaN層115の表面に再びn-AlInN層112を結晶成長させる(すなわち、ペアPを繰り返して結晶成長させる)ために、反応炉内へのTMGaの供給を停止して結晶の成長を中断する。そして、結晶の成長が中断しているときに、n-GaN基板110の温度を1050℃から840℃まで降下させる。このとき、キャリアガスをH2からN2に徐々に切り替える。こうして多層膜反射鏡構造のうちの1つのペアP(n-AlInN層112、GaNキャップ層113、n-AlGaInN組成傾斜層114、及び第1n-GaN層115)を40回数繰り返して結晶成長させることによって40個のペアPが積層するn-AlInN/GaN多層膜反射鏡Mを結晶成長する。
【0058】
[水素クリーニング工程における反応炉内へ供給するH2、NH3の割合の検証]
ここで、水素クリーニング工程の効果(すなわち、積層した結晶の表面におけるピット密度を抑制すること)は、水素クリーニング工程において反応炉内に供給するH2の流量(以下、単にH2の流量ともいう)と、水素クリーニング工程において反応炉内にH2を供給する供給時間に比例すると考えられる。一方、水素クリーニング工程において結晶の表面の保護のために反応炉内にNH3を供給しているが、結晶の表面を保護する効果が強すぎる(すなわち、水素クリーニング工程において反応炉内へのNH3の流量(以下、単にNH3の流量)が多すぎる)とInを除去する効果が薄れてしまう。従って、水素クリーニング工程の効果は、NH3の流量に反比例すると考えられる。ゆえに、この水素クリーニング工程の効果を数値A(以下単に、数値Aともいう)として、この数値AをH2の流量F1[slm]、反応炉内へのH2の供給時間T[min]、及びNH3の流量F2[slm]で定量化すると数値Aは、以下の式で表すことができる。
【0059】
【数1】
【0060】
この数値Aは、小さすぎるとn-AlInN層112の表面に存在する不必要なInが十分に除去できず、大きすぎるとn-AlInN層112の表面の平坦性の悪化や新たな転位の発生につながる。このため、数値Aが所定の数値範囲において適切な効果(積層した結晶の表面におけるピット密度を抑制すること)をもたらすと考えられる。
【0061】
数値Aとこの効果との関係を把握するために、n-GaN基板110の表面にn-GaNバッファ層111を結晶させた後、ペアPを10回繰り返して結晶成長させた実施例7~10、比較例5、6の6種類のサンプルを作成した。具体的には、これらサンプルは、H2の流量F1を一定とし(31[slm])、反応炉内へのH2の供給時間T、NH3の流量F2を変化させている。
【0062】
図6に示すように、比較例5のサンプルは、数値Aが12であり、10個のペアPが積層した表面のピット密度(以下、単にピット密度ともいう)が1.6×106cm-2であった。実施例7のサンプルは、数値Aが23であり、ピット密度が8.3×105cm-2であった。実施例8のサンプルは、数値Aが23であり、ピット密度が4.2×105cm-2であった。実施例9のサンプルは、数値Aが58であり、ピット密度が1.5×105cm-2であった。実施例10のサンプルは、数値Aが72であり、ピット密度が1.3×105cm-2であった。数値Aが72になるまで、水素クリーニング工程を実行するほど、その効果が顕著になることがわかった。一方、比較例6のサンプルは、数値Aが93であり、ピット密度が4.4×106cm-2と増加する傾向に転じた。すなわち、図7に示すように、数値Aがおよそ80を超えると水素クリーニング工程で得られるメリット以上にピット密度が増加するというデメリットが生じることがわかった。
【0063】
図7に示すように、数値Aが20を超えるとピット密度は、n-GaN基板110が有する転位密度の保証値(1×106cm-3)以下になることがわかった。一方で、数値Aが80を超えるとピット密度が1×106cm-3に近づいて、この値を超えることもわかった。すなわち、複数のペアPが積層したn-AlInN/GaN多層膜反射鏡Mの表面のピット密度を良好に低減するには、適切な数値Aの範囲(20~80)が存在することがわかった。なお、この検証では、ペアPを10回繰り返して結晶成長したサンプルを用いているが、ペアPを積層する数が11以上であっても数値Aをこの範囲(20~80)にすることによって、積層した結晶の表面におけるピット密度を抑制する効果を発揮し得ると考えられる。換言すると、H2の流量F1[slm]、反応炉内へのH2の供給時間T[min]、及びNH3の流量F2[slm]によって決定する数値Aは、20以上、且つ80以下の間の大きさになるように設定することによって複数のペアPが積層したn-AlInN/GaN多層膜反射鏡Mの表面のピット密度を良好に低減させ得る。
【0064】
ところで、n-AlInN層112と、第1n-GaN層115と、の間にn-AlGaInN組成傾斜層114を設けるのは、図10(A)に示すように、n-AlInN層112と、第1n-GaN層115と、の間に形成される価電子帯底のバンドオフセットを実質的になくしてヘテロ界面に形成されるポテンシャル障壁をなくし、電子の移動をスムースにする(すなわち、低抵抗化させる)ためである。一方、実施例7から10では、n-AlInN層112と、n-AlGaInN組成傾斜層114と、の間にGaNキャップ層113を設けているため、理論的には図10(B)に示すような価電子帯底のエネルギー準位に大きなオフセットを生じてしまう。GaNキャップ層113が十分薄ければ、この影響は大きくないが、ペアPの数が増加すると、その影響が蓄積して抵抗が増加する懸念があった。
【0065】
そこで、比較例7として、GaNキャップ層113を設けず、かつ水素クリーニング工程も実行せずに、n-AlInN層112と、n-AlGaInN組成傾斜層114と、第1n-GaN層115と、を10回繰り返して結晶成長したn-AlInN/GaN多層膜反射鏡を形成し、その電流電圧特性を測定した。また、比較のために、実施例9のサンプルにおける電流電圧特性も測定した。これらの結果を図11に示す。図11に示すように、GaNキャップ層113を設けても、実施例9における電流電圧特性に比べ、電流電圧特性が著しく悪化しないことが明らかになった。これは、実際のGaNキャップ層113は、図10(B)に示すような急峻な界面を有する構造ではなく、図9のSIMS結果からもわかるように、上下に隣接する層(すなわち、n-AlInN層112とn-AlGaInN組成傾斜層114)にGaがある程度拡散した構造であり、その分、GaNキャップ層113におけるバンドオフセットが低減してなだらかに変化する構造(図10(C))になっているからである。一方で、図9のGaプロファイルが示すように、依然としてGaは、n-AlInN層112とn-AlGaInN組成傾斜層114との間に集中して存在し、周囲(n-AlInN層112とn-AlGaInN組成傾斜層114)よりも高い濃度である。つまり、窒化物半導体発光素子2において、GaNキャップ層113におけるバンドギャップは、n-AlInN層112とn-AlGaInN組成傾斜層114においてGaNキャップ層113に隣接する領域、すなわちGa濃度が少ない領域のバンドギャップよりも小さい。以上、本発明は、表面平坦性という構造的特性と、電気的特性と、の双方の要求を満足させ得ることが明らかになった。
【0066】
ペアPを40回繰り返して結晶成長してn-AlInN/GaN多層膜反射鏡Mを形成した後、n-AlInN/GaN多層膜反射鏡Mの表面に、成長温度1050℃にて、厚みが400nmの第2n-GaN層116を結晶成長させる。第2n-GaN層116におけるSiの濃度は、5×1018cm-3になるように反応炉内へのSiH4の供給量を調整する。
【0067】
次に、第2n-GaN層116の表面に、GaInN量子井戸層と、GaNバリア層との1ペアが5回積層されて構成されたGaInN量子井戸活性層117を成長させる。そして、GaInN量子井戸活性層117の表面に、厚みが20nmのp-AlGaN層118を結晶成長させる。p-AlGaN層118におけるAlNのモル分率は20%であり、GaNのモル分率は80%である。p-AlGaN層118におけるMgの濃度は、2×1019cm-3になるようにCp2Mgの供給量を調整する。
【0068】
次に、p-AlGaN層118の表面に、p型クラッド層として、厚みが70nmのp-GaN層119を結晶成長させる。p-GaN層119におけるMgの濃度は、2×1019cm-3になるようにCp2Mgの供給量を調整する。そして、p-GaN層119の表面に、p-GaNコンタクト層120を結晶成長させる。p-GaNコンタクト層120におけるMgの濃度は、2×1020cm-3になるようにCp2Mgの供給量を調整する。
【0069】
こうして、少なくともAlとInを含む層(n-AlInN層112)の表面に、少なくともGaとInを含む高品質な層(n-AlGaInN組成傾斜層114)を有するペアPが40回繰り返して結晶成長されたn-AlInN/GaN多層膜反射鏡Mと、pn接合に挟まれ、紫色領域で発光するGaInN量子井戸活性層117と、を有する共振器構造までが形成される。この共振器は、発光波長の整数倍を有しており、共振器長が4波長に相当する。
【0070】
図5に示すように、面発光レーザーは、n-AlInN/GaN多層膜反射鏡Mと、共振器構造と、を有するウエハ上に絶縁膜121、p側電極122A、n側電極122B、そして、SiO2/Nb25誘電体多層膜反射鏡Dを結晶成長することによって完成する。以下に、絶縁膜121、p側電極122A、n側電極122B、及びSiO2/Nb25誘電体多層膜反射鏡Dを結晶成長させて面発光レーザー(窒化物半導体発光素子2)を作製する工程について説明する。
【0071】
先ず、p-GaNコンタクト層120を結晶成長させた後、上記半導体ウエハのp型半導体層(p-AlGaN層118、p-GaN層119、p-GaNコンタクト層120)からH2を脱離させ、p型半導体層に添加されたp型ドーパントであるMgの活性化を行う。次に、半導体ウエハの表面にフォトレジストによるパターニングを形成し、部分的にエッチングすることによって、素子となる直径40μmの円形状をなしたメサ構造を形成する。
【0072】
そして、p-GaNコンタクト層120の表面に、厚み20nmのSiO2膜を積層し、フォトリソグラフィとスパッタリング法によって直径10μmの円形状の開口Hが形成された絶縁膜121を形成する。そして、開口Hから露出するp-GaNコンタクト層120の表面に接触するようにITOによる透明なp側電極122Aをスパッタリング法を用いて形成する。これとともに、n-GaN基板110の裏面にn側電極122Bを設ける。そして、p側電極122Aの表面の外周部にCr/Ni/Auによるパッド電極を形成する(図示せず)。
【0073】
最後に、フォトリソグラフィとスパッタリング法によってp側電極122Aの表面に、SiO2/Nb25誘電体多層膜反射鏡Dを結晶成長させる。こうして、GaInN量子井戸活性層117の上方にSiO2/Nb25誘電体多層膜反射鏡D、下方にn-AlInN/GaN多層膜反射鏡Mを有し、波長の整数倍に相当する共振器長を有する垂直共振器面発光型レーザーとして機能する窒化物半導体発光素子2が完成する。
【0074】
この窒化物半導体発光素子の製造方法は、水素クリーニング工程において反応炉内に供給する水素の流量F1[slm]、水素クリーニング工程において反応炉内に水素を供給する供給時間T[min]、及び水素クリーニング工程において反応炉内に供給するアンモニアの流量F2[slm]によって決定する式1の数値Aは、20以上、且つ80以下である。
A=(F1×T)/F2・・・式1
この構成によれば、水素クリーニング工程において反応炉内に供給する水素の流量F1[slm]、水素クリーニング工程において反応炉内に水素を供給する供給時間T[min]、及び水素クリーニング工程において反応炉内に供給するアンモニアの流量F2[slm]を調整して数値Aをこの範囲にすることによってキャップ層積層工程後における結晶の表面に対する水素のクリーニングの効果を高めることができる。
【0075】
窒化物半導体発光素子2は、Al及びInを組成に含むn-AlInN層112と、n-AlInN層112の表面に積層され、Gaを組成に含むGaNキャップ層113と、GaNキャップ層113の表面に積層され、Ga及びInを組成に含むn-AlGaInN組成傾斜層114と、を備え、GaNキャップ層113におけるバンドギャップは、n-AlInN層112とn-AlGaInN組成傾斜層114においてGaNキャップ層113に隣接している領域のバンドギャップよりも小さい。
【0076】
この構成によれば、GaNキャップ層113によって、次に積層されるn-AlGaInN組成傾斜層114を良好に結晶成長させることができ、更に、GaNキャップ層113に含まれるGaが上下に隣接するn-AlInN層112及びn-AlGaInN組成傾斜層114にある程度拡散して、GaNキャップ層113におけるバンドオフセットが低減するので、GaNキャップ層113における電子の移動をスムースにすることができる。
【0077】
今回開示された実施の形態は全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、今回開示された実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。

(1)上記実施例とは異なり、n型不純物として、Ge、Te等を用いても良い。また、p型不純物としてMg、Zn,Be、Ca、Sr、及びBa等を用いてもよい。
(2)上記実施例とは異なり、サファイア基板等の他の基板を用いて結晶成長しても良い。
(3)上記実施例とは異なり、第2層積層工程において、Inのみを組成に含む層を結晶成長してもよい。
(4)上記実施例とは異なり、GaNキャップ層にGaN以外の元素が含まれていてもよい。
(5)上記実施例とは異なり、数値Aを調整するためにH2の流量や供給時間を変化させてもよい。
【符号の説明】
【0078】
1,2…窒化物半導体発光素子
12,112…n-AlInN層(第1層)
13,113…GaNキャップ層(キャップ層)
14…GaN層(第2層)
114…n-AlGaInN組成傾斜層(第2層)
A…数値
F1…水素クリーニング工程において反応炉内に供給する水素の流量
F2…水素クリーニング工程において反応炉内に供給するアンモニアの流量
T…水素クリーニング工程において反応炉内に水素を供給する供給時間
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11