(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023135747
(43)【公開日】2023-09-29
(54)【発明の名称】接合部検査システム
(51)【国際特許分類】
G01N 21/95 20060101AFI20230922BHJP
E04B 1/38 20060101ALI20230922BHJP
E04D 3/367 20060101ALI20230922BHJP
G01N 21/84 20060101ALI20230922BHJP
G01N 21/88 20060101ALI20230922BHJP
【FI】
G01N21/95 Z
E04B1/38
E04D3/367 A
G01N21/84 B
G01N21/88 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022040987
(22)【出願日】2022-03-16
(71)【出願人】
【識別番号】505250410
【氏名又は名称】株式会社横河技術情報
(71)【出願人】
【識別番号】502410196
【氏名又は名称】株式会社 横河システム建築
(74)【代理人】
【識別番号】110001335
【氏名又は名称】弁理士法人 武政国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】田部 成寿
(72)【発明者】
【氏名】嶽本 啓太
(72)【発明者】
【氏名】松見 明彦
【テーマコード(参考)】
2E108
2E125
2G051
【Fターム(参考)】
2E108AA02
2E108AS02
2E108BB04
2E108BN02
2E108CC01
2E108DD07
2E125AA62
2E125AD06
2E125AE12
2E125AG52
2E125CA95
2G051AA90
2G051AB13
2G051AC15
2G051CA04
2G051CB01
2G051CC11
2G051DA15
2G051EA14
2G051EB10
(57)【要約】
【課題】本願発明の課題は、従来技術が抱える問題を解決することであり、すなわち隣接する2つのパネル材の接合部の検査を従来技術に比して容易に行うことができる接合部検査システムを提供することである。
【解決手段】本願発明の接合部検査システムは、隣接する2つのパネル材の接合部を検査するシステムであって、走行体と反射鏡、画像取得手段を備えたものである。反射鏡は上方を映すように走行体に設置されるものであり、画像取得手段は反射鏡に映された像を動画や連続静止画による接合部画像として取得する手段である。そして接合部の下方に反射鏡が配置された状態の走行体が接合部に沿って走行すると、画像取得手段が複数の接合部画像を取得し、この接合部画像に基づいて接合部の状態を確認することができる。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
隣接する2つのパネル材の接合部を検査するシステムであって、
前記パネル材の両端には、垂直、又は略垂直に折り曲げられた接続端部が設けられ、
前記接合部は、一方の前記パネル材の前記接続端部と他方の前記パネル材の前記接続端部を重ね合わせたうえで、該接続端部の一部を折り曲げることで形成され、
手押し式、又は自走式の走行体と、
前記走行体に設置され、上方を映すように配置された反射鏡と、
前記反射鏡に映された像を、動画、又は連続静止画による接合部画像として取得する画像取得手段と、を備え、
前記接合部の下方に前記反射鏡が配置された状態の前記走行体が、該接合部に沿って走行すると、前記画像取得手段が複数の前記接合部画像を取得し、
前記接合部画像に基づいて前記接合部の状態を確認することができる、
ことを特徴とする接合部検査システム。
【請求項2】
前記反射鏡は、前記走行体の走行方向に対して垂直、又は略垂直な方向にスライドするように設置され、
また前記反射鏡には、スライド方向に弾性力を付与する弾性材が取り付けられ、
前記弾性材によって押された前記反射鏡が前記接合部に接近した状態で、前記走行体が該接合部に沿って走行する、
ことを特徴とする請求項1記載の接合部検査システム。
【請求項3】
前記走行体に設置される遮光体を、さらに備えた、
ことを特徴とする請求項1又は請求項2記載の接合部検査システム。
【請求項4】
前記走行体に設置され、前記接合部の上部を走行するガイド用車輪を、さらに備え、
前記接合部の上部に前記ガイド用車輪が配置された状態の前記走行体が、該接合部に沿って走行するとき、前記反射鏡と該接合部との間隔が一定、又は略一定に保たれる、
ことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の接合部検査システム。
【請求項5】
前記走行体の走行中に、前記接合部画像を画像解析することによって、前記接合部の良否を自動判定する良否判定手段と、
前記良否判定手段が不良個所を検出したときに、警告情報を出力する警告手段と、をさらに備えた、
ことを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の接合部検査システム。
【請求項6】
前記良否判定手段が前記不良個所を検出したときに、不良個所情報と、該不良個所情報に関連付けられる識別子と、を記憶する検査結果記憶手段と、
識別マークが含まれた前記接合部画像を前記画像取得手段が取得したときに、前記不良個所情報の一部、又は全部を出力する検査結果出力手段と、をさらに備え、
前記検査結果出力手段は、前記識別マークに係る前記識別子に基づいて前記検査結果記憶手段から前記不良個所情報を読み出して出力する、
ことを特徴とする請求項5記載の接合部検査システム。
【請求項7】
隣接する前記パネル材の前記接続端部の一部を折り曲げる接合手段を、さらに備え、
前記接合手段を前記反射鏡よりも走行方向における前方に配置することによって、前記走行体が走行しながら、該接合手段によって前記接合手段が形成されるとともに、前記画像取得手段によって前記接合部画像が取得される、
ことを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれかに記載の接合部検査システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、パネル材の接合に関する技術であり、より具体的には、パネル材を接合した箇所を移動しながら検査することができる接合部検査システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
板状のパネル材を敷き並べて広い平面構造を構築することがあり、工場や倉庫、戸建て住宅といった建物に敷設される屋根はその代表的な例である。そして建物の屋根には、鋼製のパネル(ガルバリウム鋼板(登録商標)など)を葺いた板金屋根が採用されることがある。この板金屋根は、複数の鋼製パネル(板金)によって形成され、その葺き方によって一文字葺き屋根や横葺き屋根、平葺き屋根などに分類される。このうち折板屋根は、隣接する鋼製パネルどうしを重ねることなく並べたうえで、これら鋼製パネルの一部を接合しながら形成される屋根構造である。
【0003】
隣接する鋼製パネルを接合する場合、「ハゼ」による手法が利用されることがある。このハゼは、両端を折り曲げた鋼製パネル(溝板)の立ち上がり部分を利用して連結するものであり、より詳しくは隣接する立ち上がり部分どうしを係止して折り曲げることによって接合部を形成する手法である。
【0004】
ハゼを用いた鋼製パネルの接合に関しては、例えば特許文献1や非特許文献1をはじめ、これまでにも様々な技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】「ルーフシステム(株式会社横河システム建築)」 https://www.yokogawa-yess.co.jp/yess01/feature/yess0303
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
非特許文献1に示される「二重ハゼ工法」は、高い水密性能、施工性の容易さを両立した屋根工法であり、大規模な建物にも対応可能な技術である。
図6はその二重ハゼ工法を説明する図であり、(a)は二重ハゼ工法に用いられるパネル材PSを模式的に示す断面図、(b)~(d)は二重ハゼ工法によってパネル材PSを接続するまでの手順を示すステップ図である。
図6(a)に示すようにパネル材PSは、平坦部FTと、その両端に略垂直(垂直を含む)に折り曲げられた接合部EGを含んで構成され、隣接する接合部EGどうしを利用して接合することができるものである。以下、二重ハゼ工法によってパネル材PSを接続する手順について説明する。
【0008】
まずは
図6(b)に示すように、既に敷設されたパネル材PS(図では左側)の左接合部EGLの一部と、新たに敷設するパネル材PS(図では右側)の右接合部EGRの一部を重ね合わせる。次いで
図6(c)に示すように、左接合部EGLと右接合部EGRを重ねた状態のまま、右平坦部FTRが左平坦部FTLと略同一面となるまで新設のパネル材PSを回転させる。そして
図6(d)に示すように、重なり合った左接合部EGLと右接合部EGRをさらに折り込むことで、隣接する2つのパネル材PSの接合部JTが形成される。
【0009】
通常、パネル材は一定の長さを有することから、隣接するパネル材どうしの接合部も概ね直線状に一定の長さで形成される。例えば
図6のケースでは、紙面奥行方向に向かって一定長の接合部が形成されるわけである。また、屋根などの平面構造を構築する場合、複数のパネル材が敷き並べられ、すなわち複数の接合部が形成されることとなる。一方、施工後には接合部に関する検査が実施される。したがって、複数個所に形成された一定長の接合部を検査する必要があり、これには相当の時間と労力を要していた。特に、
図6に示すような手法で形成される接合部は、その下端部に不具合が生じること多いことから下方から覗く検査を強いられ、そのため検査を行う者に大きな負担がかかるうえ、不具合個所を見逃すおそれすらあった。
【0010】
本願発明の課題は、従来技術が抱える問題を解決することであり、すなわち隣接する2つのパネル材の接合部の検査を従来技術に比して容易に行うことができる接合部検査システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願発明は、接合部の下端を反射鏡に映すとともに、その反射鏡の像を撮影しながら移動する、という点に着目して開発されたものであり従来にはない発想に基づいて行われたものである。
【0012】
本願発明の接合部検査システムは、隣接する2つのパネル材の接合部を検査するシステムであって、走行体と反射鏡、画像取得手段を備えたものである。なお、パネル材の両端には略垂直(垂直を含む)に折り曲げられた接続端部が設けられており、パネル材の接合部は隣接する接続端部を重ね合わせたうえでその一部を折り曲げることで形成される。手押し式あるいは自走式の走行体は、接合部に沿って走行するものであり、反射鏡は、上方を映すように走行体に設置されるものであり、画像取得手段は、反射鏡に映された像を動画や連続静止画による接合部画像として取得する手段である。そして接合部の下方に反射鏡が配置された状態の走行体が接合部に沿って走行すると、画像取得手段が複数の接合部画像を取得し、この接合部画像に基づいて接合部の状態を確認することができる。
【0013】
本願発明の接合部検査システムは、走行体の走行方向に対して略垂直(垂直を含む)な方向にスライドするように反射鏡を設置したものとすることもできる。この場合、反射鏡にはスライド方向に弾性力を付与する弾性材が取り付けられ、走行体は、弾性材によって押された反射鏡が接合部に接近した状態で接合部に沿って走行する。
【0014】
本願発明の接合部検査システムは、遮光体をさらに備えたものとすることもできる。この場合、走行体が接合部に沿って走行するとき、遮光体に覆われた反射鏡と画像取得手段には直接的に日光や照明光が当たらないうえに、不要な画像が鏡に映り込むことを防ぐといった効果がある。
【0015】
本願発明の接合部検査システムは、ガイド用車輪をさらに備えたものとすることもできる。走行体に設置されるガイド用車輪は、接合部の上部を走行することができるものである。この場合、接合部の上部にガイド用車輪を配置すると、反射鏡と接合部との間隔が略一定(一定を含む)に保たれたまま走行体は接合部に沿って走行する。
【0016】
本願発明の接合部検査システムは、良否判定手段と警告手段をさらに備えたものとすることもできる。この良否判定手段は、走行体の走行中に接合部画像を画像解析することによって接合部の良否を自動判定する手段であり、警告手段は、良否判定手段が不良個所を検出したときに警告情報を出力する手段である。
【0017】
本願発明の接合部検査システムは、検査結果記憶手段と検査結果出力手段をさらに備えたものとすることもできる。この検査結果記憶手段は、良否判定手段が不良個所を検出したときに不良個所情報と不良個所情報に関連付けられる識別子を記憶する手段であり、 検査結果出力手段は、識別マークが含まれた接合部画像を画像取得手段が取得したときに不良個所情報の一部(あるいは全部)を出力する手段である。この場合、検査結果出力手段は、識別マークに係る識別子に基づいて検査結果記憶手段から不良個所情報を読み出して出力する。
【0018】
本願発明の接合部検査システムは、接合手段をさらに備えたものとすることもできる。この接合手段は、隣接するパネル材の接続端部の一部を折り曲げる手段である。この場合、接合手段を反射鏡よりも走行方向における前方に配置することによって、走行体が走行しながら接合手段によって接合手段が形成されるとともに、画像取得手段によって接合部画像が取得される。
【発明の効果】
【0019】
本願発明の接合部検査システムには、次のような効果がある。
(1)下から覗くことなく検査を行うことができることから、検査者の負担が軽減され、すなわち従来に比して容易かつ短期間で検査を行うことができる。その結果、労務費を低減するとともに工期を短縮することができる。
(2)また、検査者の負担が軽減されることから、不具合の検出漏れなども低減することができる。
(3)接合部画像を画像解析することによって良否を自動判定する仕様とすれば、検査者の熟練度等に伴う結果のばらつきが生じることなく、客観的かつ迅速に検査結果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】(a)は接合部を模式的に示す平面図、(b)は接合部を模式的に示す部分断面図。
【
図2】本願発明の接合部検査システムの主な構成を示すブロック図。
【
図3】(a)は走行体とこれに搭載される各設備を模式的に示す断面図、(b)は走行体を模式的に示す側面図。
【
図4】本願発明の接合部検査システムを用いて隣接するパネル材を接合し、その接合部を検査するとともに、不良個所を修正後に再検査を行うまでの一連の流れを示すフロー図。
【
図5】貼付された識別マークに基づいて、検査結果出力手段が検査結果情報を受信する状況を模式的に示すモデル図。
【
図6】(a)は二重ハゼ工法に用いられるパネル材を模式的に示す断面図、(b)は左接合部の一部と右接合部の一部を重ね合わせる手順を示すステップ図、(c)左接合部と右接合部を重ねた状態のまま新設のパネルを回転させる手順を示すステップ図、(d)は重なり合った左接合部と右接合部を折り畳むことで接合部を形成する手順を示すステップ図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本願発明の接合部検査システムの実施形態の一例を図に基づいて説明する。本願発明は、屋根を構成するパネル材の接合部のほか、パネル状の部材を接合する様々な接合部に関する検査に利用することができるが、便宜上ここでは二重ハゼ工法によってパネル材PSを接続することで形成される接合部を対象として説明する。
【0022】
図1は、接合部を模式的に示す図であり、(a)は上から見た平面図、(b)は鉛直面で切断した部分断面図である。既述したとおりパネル材PSは、平坦部FTと、その両端に略垂直(垂直を含む)に折り曲げられた接合部EGを含んで構成され、隣接する接合部EGどうしを重ね合わせたうえで折り込むことによって接合部JTが形成される。また、
図1(a)に示すようにパネル材PSは一定の長さを有することから、接合部JTも概ね直線状に一定の長さで形成される。便宜上ここでは、接合部JTの長手方向(図では上下方向)のことを「接続軸方向」、接続軸方向に直交する水平方向のことを「接続軸直角方向」ということとする。
【0023】
本願発明の接合部検査システムは、接合部JTに沿って(つまり、接続軸方向に)移動しながら接合部JTの画像を取得し、その画像に基づいてその出来形の良否を判定することを一つの特徴としている。なお接合部JTの画像を取得するにあたっては、反射鏡で下方から接合部JTを映すとともに、その反射鏡に映された像を画像取得手段で撮影する。これにより、不具合が生じやすい接合部JTの下端部を容易かつ効率的に把握することができるわけである。便宜上ここでは、画像取得手段によって取得される検査用の画像のことを、特に「接合部画像」ということとする。
【0024】
図2は、本願発明の接合部検査システム100の主な構成を示すブロック図である。この図に示すように本願発明の接合部検査システム100は、走行体101と反射鏡102、画像取得手段103を含んで構成され、さらに遮光体104やガイド用車輪105、良否判定手段106、警告手段107、検査結果出力手段108、接合手段109、測位手段110、モデル生成手段111、出力手段112、検査結果記憶手段113、接合部画像記憶手段114、学習済みモデル記憶手段115を含んで構成することもできる。
【0025】
接合部検査システム100を構成する主な要素のうち良否判定手段106と警告手段107、検査結果出力手段108、モデル生成手段111は、専用のものとして製造することもできるし、汎用的なコンピュータ装置を利用することもできる。このコンピュータ装置は、CPU等のプロセッサ、ROMやRAMといったメモリ、マウスやキーボード等の入力手段やディスプレイを具備するもので、パーソナルコンピュータ(PC)やサーバー、iPad(登録商標)といったタブレット型PC、スマートフォンを含む携帯端末などによって構成される。ディスプレイを具備したコンピュータ装置を利用する場合は、そのディスプレイを出力手段112として利用するとよい。
【0026】
検査結果記憶手段113と接合部画像記憶手段114、学習済みモデル記憶手段115は、汎用的コンピュータの記憶装置を利用することもできるし、データベースサーバーに構築することもできる。データベースサーバーに構築する場合、ローカルなネットワーク(LAN:Local Area Network)に置くこともできるし、インターネット経由で保存するクラウドサーバーとすることもできる。
【0027】
以下、本願発明の接合部検査システム100を構成する主な要素ごとに詳しく説明する。
【0028】
(走行体)
図3は、走行体101を模式的に示す図であり、(a)は走行体101とこれに搭載される各設備を示す接続軸方向に見た断面図、(b)は走行体101を示す接続軸直角方向に見た断面図である。この図に示すように走行体101は、ベースプレート101Aや側板101B、車輪101Cなどを含んで構成することができ、接合部JTに沿って(つまり、接続軸方向に)走行することができるものである。例えば、モータやエンジンを搭載して自走可能とすることもできるし、ハンドルを取り付けることによって手押し式とすることもでき、車輪101Cや後述するガイド用車輪105が回転することによって走行体101は走行する。
【0029】
図3(b)に示すように、車輪101Cやガイド用車輪105はそれぞれ接続軸方向において2以上の箇所に配置することが望ましく(ただし、場合によっては1箇所でも可)、また接続軸直角方向においても2以上の箇所に配置するとよい。
図3では、接続軸直角方向において車輪101Cとガイド用車輪105を配置しているが、ガイド用車輪105を設けることなく2列(
図3(a)では左右)の車輪101Cを配置することもできる。なお便宜上ここでは、接続軸方向において走行体101が走行する方向(
図3(b)では左側)のことを「前方」、その反対側を「後方」ということとする。
【0030】
(反射鏡)
反射鏡102は、その鏡面に接合部JTを映すことができるものであり、従来用いられている種々の鏡(ミラー)を利用することができる。また反射鏡102は、
図3(a)に示すように上方を映すように(つまり、鏡面が上面となるように)配置されたうえで走行体101に設置される。そして走行体101は、反射鏡102が接合部JTの下方の配置された状態のまま、接続軸方向に走行する。
【0031】
ところで、既述したように
図6に示すような接合部JTは、その下端部に不具合が生じること多い。したがって反射鏡102は、可能な限り接合部JTの下端部に近づいてこれを映し出すとよい。そこで
図3(a)に示すように、反射鏡102にスライダー102Aと弾性材102Bを取り付けるとよい。このスライダー102Aは、反射鏡102を載置した状態で走行体101の走行方向に対して略垂直(垂直を含む)な方向(つまり、接続軸直角方向)にスライドすることができるもので、一方の弾性材102Bは、スライダー102A(つまり、反射鏡102)のスライドに弾性力を付与するものである。すなわち、コイルバネなどを利用した弾性材102Bが弾性力を付与することによって、接合部JTに接近する方向(
図3(a)では右側)にスライダー102Aを押し込み、これにより反射鏡102は接合部JTの下端部に接近することができるわけである。なお、スライダー102Aの接合部JT側の先端(
図3(a)では右端)が接合部JTに当接するまで弾性材102Bによって押される構成とすることもでき、この場合は接合部JTの先端にローラーやベアリングなどを配置していくとよい。
【0032】
(画像取得手段)
画像取得手段103は、動画や連続静止画を取得することができるものであり、デジタルビデオカメラやデジタルカメラ、あるいはスマートフォン、タブレット型PCなどを利用することができる。画像取得手段103によって取得された動画や連続静止画を構成する各画像(つまり、接合部画像)は、接合部画像記憶手段114に記憶される(
図2)。なお動画、連続静止画ともに極めて短い間隔で取得された画像(フレーム)で構成されるものであるが、一般的に毎秒24~60枚(つまり、24~60fps)の画像によるものを動画とすることから、ここでは特に24fps未満あるいは60fpsを超える画像で構成されるものを連続静止画としている。
【0033】
また画像取得手段103は、
図3(a)に示すように反射鏡102の鏡面(つまり、上面)を映すように配置されたうえで走行体101に設置される。すなわち画像取得手段103は、鏡面に映された接合部JT(特に、下端部)の像を撮影するわけである。なお
図3(a)に示す画像取得手段103は、側板101Bに固定された支持バーSBによって支持されているが、これに限らずベースプレート101Aに固定された支持バーSBを利用したり、他の支持手段によって画像取得手段103を支持したりすることができる。そして走行体101は、画像取得手段103が、動画や連続静止画を取得しながら、接続軸方向に走行する。
【0034】
(遮光体)
遮光体104は、日光や照明光を遮るとともに不要な画像が鏡に映り込むことを防ぐものであり、従来用いられている種々の遮光材を利用することができる。この遮光体104は、反射鏡102と画像取得手段103に外部からの日光等が当たらないように、しかも不要な画像が鏡に映り込まないように配置されたうえで走行体101に設置される。すなわち遮光体104に覆われることによって、走行体101が接続軸方向に走行するときも、反射鏡102は日光等が当たらない状態(つまり、暗室状態)、不要な画像が鏡に映り込まない状態で接合部JTを映すことができ、画像取得手段103もやはり日光等が当たらない状態、不要な画像が鏡に映り込まない状態で撮影することができる。なお
図3(a)では、断面視でL字型とした遮光体104を側板101Bに固定しているが、これに限らず様々な形状の遮光体104を種々の手段によって走行体101に設置することができる。また、日光や照明光、あるいは不要な画像の影響を考える必要がないケースでは、遮光体104を省略する(設けない)こともできる。
【0035】
(ガイド用車輪)
ガイド用車輪105は、接合部の上部を走行するように配置されたうえで走行体101に設置されるものである。上記したとおり、できるだけ反射鏡102が接合部JTに接近した状態で、走行体101が走行し、画像取得手段103が動画等を取得することが望ましい。しかしながら、走行中に走行体101が接合部JTから離れていくと、反射鏡102にスライダー102Aと弾性材102Bを利用したとしても結果的に反射鏡102も接合部JTから離れていくこともある。
【0036】
このようなケースが想定される場合は、接合部JTの上部を走行するガイド用車輪105を利用するとよい。ガイド用車輪105が接合部JTをいわばレール代わりとすることによって走行体101の走行路が規制され、すなわち、反射鏡102と接合部JTとの間隔が略一定(一定を含む)に保たれた状態で、走行体101が走行するとともに、画像取得手段103が動画等を取得することができるわけである。そのためガイド用車輪105は、
図3(a)に示すようにその接触面を溝形状とするなど、接合部JTの上部に嵌合する(外れ難い)構造にするとよい。
【0037】
(良否判定手段)
良否判定手段106は、走行体101の走行中に画像取得手段103が取得した接合部画像を画像解析することによって、その接合部画像に含まれる接合部JTの良否を自動判定する手段である。既述したようにこの良否判定手段106は、スマートフォンやタブレット型PC、PCといった汎用的なコンピュータ装置に構成することができる。したがってこのコンピュータ装置を走行体101に搭載することによって、接合部JTの検査中にその場で即時的に(リアルタイムで)接合部JTの良否を把握することもできる。
【0038】
良否判定手段106が接合部JTの良否を自動判定するにあたっては、従来用いられてきた種々の画像解析技術を利用することができ、例えば機械学習によって接合部JTの良否を自動判定することもできる。機械学習によって自動判定する場合、モデル生成手段111によって生成された「学習済みモデル」に接合部画像を入力することによって接合部JTの良否を自動検出する。この学習済みモデルは、良好な状態の接合部JTの接合部画像と、不具合のある接合部JTの接合部画像からなる「教師データ」を数多く機械学習することによって生成される。学習済みモデルを生成するための機械学習は、CNN(Convolutional Neural Network)などの深層学習(deep learning)のほか、従来用いられている種々の機械学習技術を採用することができる。またモデル生成手段111によって生成された学習済みモデルは、学習済みモデル記憶手段115に記憶される。
【0039】
警告手段107は、良否判定手段106が不良個所を検出したときに、検査者にその旨を警告するために警告情報(アラート)を出力する手段である。例えば、ディスプレイなどの出力手段112に文字情報としての警告情報を出力することもできるし、スピーカなどの出力手段112に音声情報としての警告情報を出力することも、腕時計が具備する振動機などの出力手段112に振動情報としての警告情報を出力することもできる。
【0040】
良否判定手段106が不良個所を検出すると、当然ながらその部分の接合部JTは修正されなければならない。検査中に、すなわち不良個所を検出するたびにその接合部JTを修正する場合は問題ないが、ひとまず全範囲(あるいは、ある程度まとまった範囲)の検査を実施した後に該当箇所の修正を行う場合は、その不良個所を明確に特定することが難しいこともある。そこで、走行体101に測位手段110を設置することとし、走行中の画像取得手段103の位置(つまり、撮影位置)をこの測位手段110によって測定する構成にするとよい。測位手段110としては、リニアエンコーダやロータリーエンコーダといった走行距離計や、衛星測位システム(GNSS:Global Navigation Satellite System)の衛星受信機、追尾式トータルステーションなど従来用いられている種々の手法を採用することができる。
【0041】
良否判定手段106は、画像取得手段103が接合部画像を取得するたびに(つまり、全てのフレームに対して)良否の自動判定を行う仕様とすることもできるし、ある程度間隔をあけて(つまり、フレームを間引いたうえで)良否の自動判定を行う仕様とすることもできる。良否判定手段106によって判定された結果は、「検査結果情報」として検査結果記憶手段113に記憶させるとよい。この検査結果情報は、良否判定手段106が正常箇所と判定した結果(以下、「正常箇所情報」)や、異常箇所と判定した結果(以下、「異常箇所情報」)、接合部画像データ、接合部画像の取得時刻、測位手段110が即位した撮影位置(座標)などを含んで構成することができ、検査結果情報を特定する識別子(ID:IDentification)と関連付けられた(紐づけられた)うえで検査結果記憶手段113に記憶される。
【0042】
(接合手段)
接合手段109は、隣接する接合部EGどうしを折り込むことによって接合部JTを形成するものであり、
図6に示す二重ハゼ工法による場合は
図6(c)の状態から
図6(d)の状態にする操作を行うことができるものである。また接合手段109は、走行体101に設置され、走行体101が接続軸方向に走行している最中に順次、接合部JTを形成していく。そのため接合手段109は、反射鏡102よりも前方となる位置で走行体101に設置するとよい。これにより、接合手段109によって形成された接合部JTを、いわば後追いで画像取得手段103が接合部画像を取得するとともに、良否判定手段106が接合部JTの良否を自動判定することができる。
【0043】
(検査結果出力手段)
検査結果出力手段108は、接合部検査システム100による検査が行われ、その後に検出された不良個所を修正し、さらにその後に実施される検査(以下、便宜ここでは「再検査」という。)で利用される手段である。そこで、
図4を参照しながら上記した一連の作業について説明するとともに、その中で検査結果出力手段108についても説明する。
【0044】
図4は、本願発明の接合部検査システム100を用いて隣接するパネル材PSを接合し、その接合部JTを検査するとともに、不良個所の修正後に再検査を行うまでの一連の流れを示すフロー図である。接合部検査システム100を所定位置に配置すると、走行体101が接続軸方向に走行し、接合手段109が接合部JTを形成していく(
図4のStep211)。接合手段109によって接合部JTが形成されると、反射鏡102が接合部JT(特に、下端部)を映し出すとともに画像取得手段103が接合部画像を取得する(
図4のStep212)。
【0045】
画像取得手段103によって接合部画像が取得されると、良否判定手段106がその接合部画像に基づいて接合部JTの良否の自動判定を行う(
図4のStep213)。そして、良否判定手段106が正常箇所と判定した場合は(
図4のStep214のNo)は、検査結果情報(正常箇所情報を含む)を検査結果記憶手段113に記憶させうえで、引き続き走行体101が走行しながら、接合部JTの形成(
図4のStep211)~接合部JTの自動判定(
図4のStep213)を繰り返し行う。一方、良否判定手段106が異常箇所と判定した場合は(
図4のStep214のYes)は、警告手段107が出力手段112に警告情報を出力する(
図4のStep215)。
【0046】
警告手段107によって警告情報が出力されると、
図5に示すように検査者が該当位置(異常個所)に識別マークMKを貼付する(
図4のStep216)。この識別マークMKは、例えばQRコード(登録商標)などを利用することができ、他と識別可能(すなわちユニーク)な識別子IDと関連付けられたもので、しかもこの識別子IDを読み出すことができるものである。そして、検査結果情報(異常箇所情報を含む)を識別マークMKに係る識別子IDと関連付けたうえで検査結果記憶手段113に記憶させる。なお、検査者が識別マークMKを貼付するときは、走行体101を一旦停止させてもよいし、そのまま継続して走行させてもよい。
【0047】
施工範囲全体、あるいは1レーン分の接合部JTなど、あらかじめ計画した範囲の接合部JTが形成されると、貼付された識別マークMKを頼りに異常個所とされた接合部JTの修正を行う(
図4のStep217)。
【0048】
施工範囲全体で接合部JTが形成され、全ての接合部JTの修正が完了すると、再度、接合部検査システム100を所定位置に配置し、走行体101を接続軸方向に走行させる。もちろんこのときは、接合手段109が接合部JTを形成する操作は行わない。そして走行体101が走行しながら、反射鏡102が接合部JT(特に、下端部)を映し出すとともに、画像取得手段103が接合部画像を取得する(
図4のStep221)。
【0049】
画像取得手段103が接合部画像を取得すると、無線(あるいは有線)通信手段を介してその接合部画像が検査結果出力手段108に伝送される。そして、その接合部画像に識別マークMKが含まれていないときは(
図4のStep222のNo)、引き続き走行体101が走行しながら画像取得手段103によって接合部画像を取得していく。一方、その接合部画像に識別マークMKが含まれるときは(
図4のStep222のYes)、検査結果出力手段108が識別マークMKから読み出される識別子IDを検査結果記憶手段113に照会し、検査結果記憶手段113からその識別子IDに係る検査結果情報(常箇所情報を含む)を受け取る。なお
図5では便宜上、画像取得手段103と検査結果出力手段108を別の設備として示しているが、画像取得手段103、検査結果出力手段108ともに例えば同じスマートフォンを利用して構成することもできる。
【0050】
検査結果情報を受け取ると、検査結果出力手段108はその検査結果情報(異常箇所情報を含む)の一部(あるいは全部)をディスプレイといった出力手段112に出力する(
図4のStep223)。そして、検査者はその検査結果情報(異常箇所情報を含む)を目視しながら、適正に修正が行われているか確認する(
図4のStep224)。もちろん、修正が不十分と判断された場合は、検査者がその場で適正に修正するとよい。以上説明した一連の工程を、施工範囲全体で完了するまで繰り返し行って終了する。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本願発明の接合部検査システムは、屋根を構成するパネル材の接合部のほか、パネル状の部材を接合する様々な接合部に関する検査に利用することができる。本願発明が、良好な構造物を提供し、いわば高品質な社会資本(インフラストラクチャー)を提供することを考えれば、産業上利用できるばかりでなく社会的にも大きな貢献を期待し得る発明といえる。
【符号の説明】
【0052】
100 本願発明の接合部検査システム
101 (接合部検査システムの)走行体
101A (走行体の)ベースプレート
101B (走行体の)側板
101C (走行体の)車輪
102 (接合部検査システムの)反射鏡
102A (反射鏡に取り付けられる)スライダー
102B (反射鏡に取り付けられる)弾性材
103 (接合部検査システムの)画像取得手段
104 (接合部検査システムの)遮光体
105 (接合部検査システムの)ガイド用車輪
106 (接合部検査システムの)良否判定手段
107 (接合部検査システムの)警告手段
108 (接合部検査システムの)検査結果出力手段
109 (接合部検査システムの)接合手段
110 (接合部検査システムの)測位手段
111 (接合部検査システムの)モデル生成手段
112 (接合部検査システムの)出力手段
113 (接合部検査システムの)検査結果記憶手段
114 (接合部検査システムの)接合部画像記憶手段
115 (接合部検査システムの)学習済みモデル記憶手段
EG 接合部
EGL 左接合部
EGR 右接合部
FT 平坦部
FTL 左平坦部
FTR 右平坦部
JT 接合部
MK 識別マーク
PS パネル材
SB 支持バー