(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023135750
(43)【公開日】2023-09-29
(54)【発明の名称】紫外光照射装置
(51)【国際特許分類】
A61L 2/10 20060101AFI20230922BHJP
A61L 9/20 20060101ALI20230922BHJP
【FI】
A61L2/10
A61L9/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022040994
(22)【出願日】2022-03-16
(71)【出願人】
【識別番号】000102212
【氏名又は名称】ウシオ電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤澤 繁樹
(72)【発明者】
【氏名】柳生 英昭
(72)【発明者】
【氏名】久野 彰裕
【テーマコード(参考)】
4C058
4C180
【Fターム(参考)】
4C058AA23
4C058BB06
4C058DD16
4C058EE26
4C058KK02
4C180AA07
4C180DD03
4C180HH17
4C180HH19
4C180LL20
(57)【要約】
【課題】人及び動物に対する高い安全性を確保しつつ、病原体の不活化能力を向上させた紫外光照射装置を提供する。
【解決手段】紫外光照射装置は、200nm以上240nm未満の波長帯域に属する紫外光を発光する光源と、前記紫外光が入射する光学フィルタと、を備え、前記光学フィルタの、入射角0度で入射する透過スペクトルは、0度光を透過する第一透過帯域及び第二透過帯域と、前記0度光の透過を制限する第一制限帯域とを有し、前記第一透過帯域は、200nm以上240nm未満の波長帯域内に存在し、前記第二透過帯域は、300nmを超え400nm未満の波長帯域内に存在し、前記第一制限帯域は、少なくとも、240nm以上300nm未満の波長全域に亘って存在するとともに、前記第一制限帯域の上限が、300nmを超え380nm以下の範囲内に形成されている。
【選択図】
図9A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
200nm以上240nm未満の波長帯域に属する紫外光を発光する光源と、
前記紫外光が入射するように配置され、誘電体多層膜を含む光学フィルタと、を備え、
前記光学フィルタの、前記紫外光が前記光学フィルタに対して入射角0度で入射する0度光の透過スペクトルは、前記0度光を透過する第一透過帯域及び第二透過帯域と、前記0度光の透過を制限する第一制限帯域とを有し、
前記第一透過帯域は、200nm以上240nm未満の波長帯域内に存在し、
前記第二透過帯域は、300nmを超え400nm未満の波長帯域内に存在し、
前記第一制限帯域は、少なくとも240nm以上300nm以下の波長全域に亘って存在するとともに、前記第一制限帯域の上限が、300nmを超え380nm以下の範囲内に形成されていることを特徴とする、紫外光照射装置。
【請求項2】
前記第一制限帯域は、さらに、300nmを超え310nm未満の波長全域に亘って存在するとともに、前記第一制限帯域の上限が、310nm以上360nm以下の範囲内に形成されていることを特徴とする、請求項1に記載の紫外光照射装置。
【請求項3】
前記第一制限帯域は、さらに、310nm以上320nm未満の波長全域に亘って存在することを特徴とする、請求項2に記載の紫外光照射装置。
【請求項4】
前記第二透過帯域は、380nm以上400nm未満の波長全域に亘って存在することを特徴とする、請求項1に記載の紫外光照射装置。
【請求項5】
前記第二透過帯域は、さらに、360nm以上380nm未満の波長全域に亘って存在することを特徴とする、請求項4に記載の紫外光照射装置。
【請求項6】
前記第二透過帯域は、さらに、340nm以上360nm未満の波長全域に亘って存在することを特徴とする、請求項5に記載の紫外光照射装置。
【請求項7】
前記0度光の前記透過スペクトルは、さらに、前記0度光の透過を制限する第二制限帯域を、200nm以上210nm以下の波長帯域に有することを特徴とする、請求項1~6のいずれか一項に記載の紫外光照射装置。
【請求項8】
前記光学フィルタの、前記紫外光が前記光学フィルタに対して入射角50度で入射する50度光の透過スペクトルは、240nm以上280nm未満の波長全域に亘って存在する、前記50度光の透過を制限する第三制限帯域を有することを特徴とする、請求項1~6のいずれか一項に記載の紫外光照射装置。
【請求項9】
前記誘電体多層膜は、高屈折率層と低屈折率層が交互に積層された積層体を含み、
前記積層体は、1.0μm以上3.0μm以下の膜厚であることを特徴とする、請求項1~6のいずれか一項に記載の紫外光照射装置。
【請求項10】
前記積層体は、1.0μm以上2.0μm以下の膜厚であることを特徴とする、請求項9に記載の紫外光照射装置。
【請求項11】
前記積層体は、HfO2層とSiO2層が交互に積層され、
前記積層体に含まれる、全てのHfO2層の膜厚の合計が、0.5μm以上2.0μm未満であることを特徴とする、請求項9に記載の紫外光照射装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外光照射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
200nm~280nmの波長範囲にある紫外光(UVC帯域)は、環境中に存在する細菌やウイルス等の病原体を不活化させることが知られており、殺菌灯等に利用されている。しかし、当該紫外光は、生体の皮膚内部にまで浸透し、皮膚内部の細胞にダメージを与えることも知られていている。また、近年、紫外光の人への影響に関する研究が進んでおり、UVC帯域であっても波長が240nmより短い波長帯域の紫外光は、波長が短くなるほど皮膚表層又は角膜上皮で吸収されやすく、皮膚内部の細胞が影響を受け難くなることで安全性が高まることが確認されている。そこで、波長が240nmより短い波長帯域の紫外光を人体または人が存在する環境中に積極的に照射する紫外光照射装置が実用化されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
昨今、新型コロナウイルス感染症の流行の影響もあり、環境中に存在する細菌やウイルス等の病原体を紫外光で不活化するニーズが高まっている。そのため、200nm~240nmの波長範囲にある紫外光を放射する装置のさらなる活用が望まれている。一方、240nm~280nmの波長範囲にある紫外光は、人体への有害性が相対的に高いため、240nm~280nmの波長範囲にある紫外光が外へ多量に放射されないよう、より適切に抑制することが必要である。
【0005】
本発明は、人及び動物に対する高い安全性を確保しつつ、病原体の不活化能力を向上させた紫外光照射装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る紫外光照射装置の一態様は、
200nm以上240nm未満の波長帯域に属する紫外光を発光する光源と、
前記紫外光が入射するように配置され、誘電体多層膜を含む光学フィルタと、を備え、
前記光学フィルタの、前記紫外光が前記光学フィルタに対して入射角0度で入射する0度光の透過スペクトルは、前記0度光を透過する第一透過帯域及び第二透過帯域と、前記0度光の透過を制限する第一制限帯域とを有し、
前記第一透過帯域は、200nm以上240nm未満の波長帯域内に存在し、
前記第二透過帯域は、300nmを超え400nm未満の波長帯域内に存在し、
前記第一制限帯域は、少なくとも240nm以上300nm以下の波長全域に亘って存在するとともに、前記第一制限帯域の上限が、300nmを超え380nm以下の範囲内に形成されている。
【0007】
200nm以上240nm未満の波長帯域に属する紫外光は、人体に対する影響が小さいものの、当該紫外光を人の存在する環境に照射する場合には、当該紫外光の照射量を抑制することが求められる場合がある。例えば、ACGIH(American Conference of Governmental Industrial Hygienists:米国産業衛生専門家会議)、又はJIS Z 8812(有害紫外放射の測定方法)では、人への一日(8時間)あたりの紫外光照射量が、許容限界値(TLV:Threshold Limit Value)以下とするように、規定されている。
【0008】
しかし、波長ごとに規定されるTLVは、紫外光に対する人体への影響についての研究の進展に伴って見直されることがある。例えば、現行のACGIHでは、波長が222nmである光のTLVは一日(8時間)あたり22mJ/cm2とされている。今後、人体に対する222nmの波長の光の安全性がより明らかになるにつれて、TLVが緩和されることが期待される。
【0009】
TLVが緩和されると、不活化能力の向上のため、200nm以上240nm未満の波長帯域に属する紫外光の照射量を増加させることができる。他方で、人体への有害性が相対的に高い240nm~280nmの紫外光も増加することになる。詳細は後述するが、上述の紫外光照射装置は、200nm以上240nm未満の波長帯域に属する紫外光の照射量を増加させても、240nm~280nmの紫外光を、より適切に抑制できる。
【0010】
以下、本明細書で用いられる用語等の定義を示しつつ、紫外光照射装置についての説明とその作用効果を詳述する。
【0011】
本明細書において、光源から発光される200nm以上240nm未満の波長帯域に属する紫外光とは、光源が発光する発光スペクトルの少なくとも一部が、200nm以上240nm未満の波長帯域において強度を示すことを表す。必ずしも、200nm以上240nm未満の波長全域において強度を示さなくてもよい。
【0012】
200nm以上240nm未満の波長帯域に属する紫外光を発光する光源として、KrClエキシマランプ、KrBrエキシマランプ、又は、発光する光の少なくとも一部が220nm以上240nm未満の波長帯域において強度を示す光を含むLEDが例示される。
【0013】
200nm以上240nm未満の波長帯域において強度を示す光は、病原体を不活化する作用を有するとともに、人及び動物に対する有害性が低い光である。そのため、斯かる光を発光する光源を使用した紫外光照射装置は、人が頻繁に往来する空間や、人が長時間作業を行う空間に設置することができる。なお、人や動物に安全な波長範囲は、好ましくは、波長が200nm以上237nm以下、より好ましくは、波長が200nm以上235nm以下、さらに好ましくは、波長が200nm以上230nm以下である。本明細書では、200nm以上240nm未満の波長帯域に属する光を、「目的光」と言うことがある。
【0014】
本明細書において、「病原体」は、細菌及び真菌(カビ)等の菌類、並びに、ウイルスを含む。「不活化」とは、病原体を死滅させること、又は、感染力や毒性を失わせることを包括する概念である。
【0015】
上述したように、光源から出射した紫外光が入射する位置に、誘電体多層膜を含む光学フィルタが配置されている。光学フィルタの特性は、透過する波長を横軸に、透過する光の相対強度を縦軸に示した透過スペクトルによって評価できる。詳細は後述するが、光学フィルタは、光学フィルタへの入射角によって、その透過スペクトルが異なる。そのため、本明細書では、入射角を区別して光学フィルタの特性を評価する。本明細書において、光学フィルタに対して入射角θ度で入射する光は、「θ度光」と表現する。θは、0度(0deg)以上、かつ、90度(90deg)未満である。
【0016】
前記光学フィルタは、前記紫外光が前記光学フィルタに対して入射角0度で入射する0度光の透過スペクトルは、0度光を透過する第一透過帯域及び第二透過帯域と、0度光の透過を制限する第一制限帯域とを有する。
【0017】
本明細書において、透過率は、所定の入射角で光学フィルタに入射する光線の分光スペクトルと、当該光線の当該光学フィルタから出射する分光スペクトルとをそれぞれ分光光度計で測定し、(光学フィルタから出射する光強度/光学フィルタに入射する光強度)×100(%)を求めることにより得られる。
【0018】
本明細書において、透過率の具体的数値について特段の言及がなく、単に、「第一透過帯域」及び「第二透過帯域」と示すとき、「第一透過帯域」及び「第二透過帯域」における光学フィルタの透過率は15%以上である。
ただし、第一透過帯域における透過率は、30%以上であると好ましく、50%以上であるとさらに好ましく、60%以上であるとさらに好ましく、70%以上であるとさらに好ましく、80%以上であるとさらに好ましい。
ただし、第二透過帯域における透過率は、20%以上であると好ましく、25%以上であるとさらに好ましく、30%以上であるとさらに好ましく、35%以上であるとさらに好ましく、40%以上であるとさらに好ましく、45%以上であるとさらに好ましく、50%以上であるとさらに好ましい。
また、第二透過帯域における透過率は、後述する第一制限帯域における最大透過率より10%以上高いと好ましく、15%以上高いとさらに好ましく、20%以上高いとさらに好ましい。
【0019】
本明細書において、光学フィルタを透過する紫外光の透過率について具体的数値について言及がないとき、光学フィルタの透過を制限する第一制限帯域の透過率は、5%未満である。
ただし、第一制限帯域における透過率は、4%以下に制限されると好ましく、3%以下に制限されるとさらに好ましく、2%以下に制限されるとさらに好ましく、1%以下に制限されるとさらに好ましい。特に、光源から放射される有害光の割合が大きい場合、第一制限帯域の透過率は、より小さい数値を採用することが望ましい。
【0020】
第一透過帯域について説明する。第一透過帯域が200nm以上240nm未満の波長帯域内に存在するとは、光学フィルタの透過スペクトルにおいて、所定の透過率以上(特段の言及がない場合は、透過率が15%以上)を示す第一透過帯域が、200nm以上240nm未満の波長帯域内の少なくとも一部に含まれることを示す。第一透過帯域が、200nm以上240nm未満の波長全域に亘って存在しなくてもよい。
【0021】
第一制限帯域について説明する。第一制限帯域が、少なくとも、240nm以上300nm以下の波長全域に亘って存在するとは、光学フィルタの透過スペクトルにおいて、所定の透過率未満(具体的数値について特段の言及がない場合には、5%未満の透過率)が、240nm以上300nm以下の波長帯域の全てに存在することを示す。
【0022】
240nm以上300nm以下の波長帯域の光のうち、240nm以上280nm未満の波長帯域の光は、特に、人及び動物に悪影響を与えるおそれのある光(以下、「有害光」ということがある。)の波長帯域である。有害光は、望んで発光される光ではなく、光源の性質上やむを得ず発光される光である。そこで、光学フィルタを使用して、有害光の透過を制限する。
【0023】
前記光学フィルタの特徴点の一つは、第一制限帯域(例えば、透過率が5%未満となる波長帯域)が、有害光の波長帯域(240nm以上280nm未満)を超えて、280nm以上300nm以下にまで及んでいることにある。詳細は後述するが、0度光に対する透過スペクトルにおける第一制限帯域を、240nm以上300nm以下の波長全域に拡大することで、広角度に光学フィルタに入射する有害光をも適切に制限できる。これにより、TLVが緩和され紫外光の照射量を増加させた場合でも、広角度に入射する有害光を効果的に制限できる。
【0024】
前記光学フィルタの特徴点の一つは、0度光の透過スペクトルが第二透過帯域を有することにある。第二透過帯域について説明する。第二透過帯域が300nmを超え400nm未満の波長帯域内に存在するとは、光学フィルタの透過スペクトルにおいて、300nmを超え400nm未満の波長帯域内において、所定の透過率以上(特段の言及がなければ、15%以上)の部分が存在することを示す。第二透過帯域が、300nmを超え400nm未満の波長全域に亘って存在しなくてもよい。
【0025】
第二透過帯域を有することの作用効果を説明する。光の透過を制限する波長帯域の上限値を高めるには、光学フィルタを構成する誘電体多層膜の膜厚を増加させることが有効である。しかしながら、誘電体多層膜の膜厚をむやみに増加させると、目的とする第一透過帯域の透過率を下げて、目的とする光をも減衰させてしまう。加えて、膜厚の増加は、誘電体多層膜の形成コストを増やす。
【0026】
0度光の透過スペクトルの300nmを超え400nm未満の波長帯域内に第二透過帯域がある場合には、誘電体多層膜の膜厚は比較的薄いため、第一透過帯域の透過率の低下を防ぐことができる。
【0027】
300nmを超え400nm未満の波長帯域の光は、本明細書で規定する目的光でもなく、有害光でもないために、従来、当該波長帯域の光に対する光学フィルタの透過特性が着目されることはなかった。0度光の透過スペクトルにおいて、300nm以上400nm未満の波長帯域内に第二透過帯域を有する光学フィルタは、従来の設計思想の延長線上にない設計思想に基づくものである。
【0028】
前記光学フィルタの0度光の透過スペクトルにおいて、カット上限波長が310nm以上380nm未満の波長帯域内に存在する光学フィルタを使用してもよい。本明細書において、「カット上限波長」とは、第一軸を透過率[%]とし、第一軸に垂直な第二軸を波長[nm]として表される透過スペクトルの、透過率曲線から定められる。具体的には、第一制限帯域と第二透過帯域とに挟まれる波長帯域において、当該透過スペクトルが第二透過帯域に達する位置(例えば、透過率15%)における透過率曲線の接線と、第二軸に平行であり、透過率0%を通過する基準線との交点での波長をいう。例外的に、当該交点での波長が第一制限帯域内にある場合は、第一制限帯域の上限波長を、「カット上限波長」とする。
なお、カット上限波長は、310nm以上370nm以下の波長帯域内に設定されるものであってもよく、310nm以上360nm以下の波長帯域内に設定されるものであってもよい。
【0029】
前記光学フィルタの0度光の透過スペクトルにおいて、前記第一制限帯域の上限波長は、300nmを超え380nm以下の範囲内に設定される。ここで、第一制限帯域の上限波長は、301nm以上としてもよく、303nm以上としてもよく、305nm以上としてもよく、307nm以上としてもよい。第一制限帯域の上限波長が長波長側に設定されるほど、より広角度の光線成分まで、有害光の放射を適切に制限できる。
【0030】
前記光学フィルタの0度光の透過スペクトルにおいて、前記第一制限帯域は、さらに、300nmを超え310nm未満の波長全域に亘って存在するとともに、前記第一制限帯域の上限が、310nm以上360nm以下の範囲内に形成されていても構わない。この構成を備えるとき、前記第一制限帯域は、240nm以下の下限波長と、310nm以上360nm以下の範囲内に形成される上限波長と、の間の波長全域に亘って存在する。ここで、第一制限帯域の上限波長は、313nm以上としてもよく、315nm以上としてもよく、317nm以上としても良い。第一制限帯域の上限波長が長波長側に設定されるほど、より広角度の光線成分まで、対する有害光の放射を適切に制限することができる。また、カット上限波長を、320nm以上370nm未満の範囲内に形成してもよい。
【0031】
前記光学フィルタの0度光の透過スペクトルにおいて、前記第一制限帯域は、さらに、310nm以上320nm未満の波長全域に亘って存在しても構わない。また、カット上限波長を、310nm以上360nm未満の範囲内に形成してもよく、320nm以上350nm未満の範囲内に形成してもよい。
【0032】
前記第二透過帯域は、380nm以上400nm未満の波長全域に亘って存在しても構わない。前記第二透過帯域は、さらに、370nm以上400nm未満の波長全域に亘って存在しても構わない。前記第二透過帯域は、さらに、360nm以上400nm未満の波長全域に亘って存在しても構わない。前記第二透過帯域は、さらに、350nm以上400nm未満の波長全域に亘って存在しても構わない。
【0033】
前記光学フィルタの0度光の透過スペクトルは、さらに、0度光を透過させない第二制限帯域を、200nm以上210nm以下の波長帯域内に有しても構わない。これにより、大気中でオゾンを生成させる200nm近傍の紫外光の放射をより適切に制限し、環境中でのオゾン生成をより高精度に抑えることができる。
【0034】
前記光学フィルタの、前記紫外光が前記光学フィルタに対して入射角50度で入射する50度光の透過スペクトルは、240nm以上280nm未満の波長全域に亘って前記50度光の透過を制限する第三制限帯域を有しても構わない。これは、TLVが緩和され紫外光の照射量を増加させた場合でも、50度という広角度に入射する有害光を効果的に制限できることを直接的に示している。
【0035】
前記誘電体多層膜は、高屈折率層と低屈折率層が交互に積層された積層体を含み、前記積層体は、1.0μm以上3.0μm以下の膜厚であっても構わない。光学フィルタの透過スペクトルにおいて、有害光を幅広い波長域において制限するには、積層体が、全体で少なくとも1.0μm以上の膜厚であることが望まれる。しかしながら、膜厚が増加するにつれて、目的とする200nm以上240nm未満の波長帯域に属する光を透過しにくくなるから、積層体は、全体で3.0μm以下の膜厚にすることが望まれる。さらに、前記積層体は、1.0μm以上2.0μm以下の膜厚であっても構わない。
【0036】
前記積層体は、HfO2層とSiO2層が交互に積層され、
前記積層体に含まれる、全てのHfO2層の膜厚の合計が、0.5μm以上2.0μm未満であっても構わない。この誘電体多層膜において、HfO2は高屈折率層として機能し、SiO2は低屈折率層として機能する。
【発明の効果】
【0037】
人及び動物に対する高い安全性を確保しつつ、病原体の不活化能力を向上させた紫外光照射装置を提供できる。
【0038】
紫外光照射装置を提供することは、国連が主導する持続可能な開発目標(SDGs)の目標3「あらゆる年齢の全ての人々が健康的な生活を確保し、福祉を促進する」に対応し、また、ターゲット3.3「2030年までに、エイズ、結核、マラリア及び顧みられない熱帯病といった伝染病を根絶するとともに、肝炎、水系感染症及びその他の感染症に対処する」に大きく貢献するものである。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【
図1】紫外光照射装置の一実施形態を示す図である。
【
図2】
図1の紫外光照射装置を+Z側から見た図である。
【
図3】
図1の紫外光照射装置をX方向に見たときの断面図である。
【
図4】本実施形態の光源の発光スペクトルを示すグラフである。
【
図5】目的光と有害光について、照射時間と照射量の関係を示す図である。
【
図6】光学フィルタへ入射する光の入射角別の強度分布を示す図である。
【
図8】点光源から全方位に一様な光束で出射される光の進行について説明する図である。
【
図9A】本実施形態に使用される光学フィルタの透過スペクトルである。
【
図9B】参考例である光学フィルタの透過スペクトルである。
【
図10】光学フィルタから透過スペクトルを求める方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
図面は、適宜、XYZ座標系を用いて示されている。明細書は、適宜、XYZ座標系を参照しながら説明される。本明細書において、方向を表現する際に、正負の向きを区別する場合には、「+X方向」、「-X方向」のように、正負の符号を付して記載される。正負の向きを区別せずに方向を表現する場合には、単に「X方向」と記載される。すなわち、本明細書において、単に「X方向」と記載されている場合には、「+X方向」と「-X方向」の双方が含まれる。Y方向及びZ方向についても同様である。
【0041】
[紫外光照射装置の概要]
図1~
図3を参照しながら、紫外光照射装置の一実施形態の概要を説明する。
図1は、紫外光照射装置1の一実施形態の外観を模式的に示す図面である。
図2は、
図1の紫外光照射装置1を+Z側から見た図である。
図3は、
図1の紫外光照射装置1をX方向に見たときの断面図である。
【0042】
本実施形態の紫外光照射装置1は、筐体60と、筐体60の内部に収容された光源30(
図2,3参照)と、光源30が発光する光を筐体60の外部に取り出す光取出し部20と、を備える。
【0043】
図2に示されるように、本実施形態の光源30は、X方向に配列される複数の発光管30aと、一対の電極30bとを備えるエキシマランプである。各発光管30aは、Y方向に延伸する。電極(30b,30b)間に電圧が印加されることによって、各発光管30aが発光する。Z方向は、X方向及びY方向に直交する方向である。発光した光を、光取出し部20より取り出す。
【0044】
紫外光照射装置1では、光源30の発光管30aの管軸方向(Y方向)の長さが70mm、光源30と光学フィルタ40との離間距離が8mm、光学フィルタ40のサイズが(X,Y)=(60mm,45mm)となっている。なお、ここに記載されているそれぞれのサイズ構成は、単なる一例であって、それぞれのサイズは任意である。
【0045】
図3に示されるように、紫外光照射装置1から出射する紫外光L1の光軸Lcが、出射方向を示す矢印とともに示されている。本実施形態において、光軸LcはZ軸に沿っている。光取出し部20には光学フィルタ40が配置されている。紫外光照射装置1が出射する光は、すべて光学フィルタ40を透過している。光学フィルタ40の詳細は後述する。
【0046】
本実施形態に使用されるエキシマランプは、KrClエキシマランプである。KrClエキシマランプは、発光管30a内に、発光ガスG1として、クリプトン(Kr)ガスと塩素(Cl)ガスを有する。
図4は、KrClエキシマランプの発光スペクトルを示すグラフである。KrClエキシマランプは、
図4に示すような、光強度I(λ)の最大ピークを示す波長が222nmである紫外光L1を発光する。なお、
図4の発光スペクトルにおいて、縦軸はそれぞれの波長における光強度を、波長が222nmのときの光強度を100(%)とした規格値で示す。
【0047】
図4に示されるように、KrClエキシマランプが発光する光は、人及び動物に悪影響を与えるおそれのある有害光の波長帯域(240nm以上280nm未満)にも、僅かだが強度を示す。
図4の発光スペクトルは、258nm付近に小さな極大値m1を有するが、このm1付近の光は、励起されたCl
*同士(
*は励起された状態を示す)が衝突して発光する、塩素発光と言われる現象による光である。特に、発光管30aに封入されるCl濃度が高い場合には、この光を多く発光する。
【0048】
とはいえ、
図4に示されるように、有害光の光強度は目的光(例えば、222nm)の光強度に比べて格段に小さい。そのため、全体的に紫外光の照射量が少ないときには、有害光の透過を妨げる光学フィルタを使用さえすれば、有害光が問題視されることがない。しかしながら、光学フィルタは、微量ではあるが有害光を透過する。本発明者は、TLVが緩和され、全体的に照射量が増えるようになると、紫外光照射装置1の動作条件によっては、光学フィルタを透過する微量の有害光が問題視され得ることを突き止めた。
【0049】
[有害光が問題視される理由]
光学フィルタ40を透過する微量の有害光が問題視される理由を説明する。本発明者は、TLVの緩和に応じて、紫外光照射装置1が出射強度又は実照射時間を増やすことを検討した。しかしながら、研究の結果、出射強度又は実照射時間を増やす場合には、以下の問題が発生することがわかった。
【0050】
図5を参照しながらこの問題を説明する。
図5は、目的光L10と有害光L20についての、照射時間ti(横軸)と、一日の照射量D(縦軸)の関係を示したグラフである。照射時間tiは、一日のうち照射した時間の総和(積算時間)を意味する。紫外光照射装置1は、一日のうち、常に紫外線を照射する動作だけではなく、照射と非照射を間欠的に繰り返す動作でもよい。照射時間ti(単位:sec)が長くなるほど、照射量D(単位:mJ/cm
2)は大きくなる。
【0051】
従来、目的光L10のTLVがV11(mJ/cm2)であり、有害光L20のTLVがV2(mJ/cm2)であると規定されていたと仮定する。従来、目的光L10の照射量がV11(mJ/cm2)を超えないように、照射限度となる時間をt1(sec)と設定していた。つまり、領域A11にのみ注目していた。有害光L20の照射量はV2(mJ/cm2)に全く及ばないため、領域A11さえ注目していれば、領域A21は注目する必要が無かった。
【0052】
ここで、目的光のTLVが緩和されることにより、照射量Dの基準値を、従来のV11(mJ/cm2)から新たにV12(mJ/cm2)まで、ΔV1だけ高く設定される場面を検討する。TLVの緩和に応じて照射時間をt2(sec)まで延長することを検討したところ、従来では考慮する必要のなかった、有害光L20の照射量が、有害光L20のTLVであるV2(mJ/cm2)に近づくことが判明した(領域A22参照)。
【0053】
そうすると、TLVの緩和に応じた照射時間を設定するためには、目的光L10の照射量がV12(mJ/cm2)を超えないようにするだけでなく(領域A21参照)、有害光L20の照射量が有害光のTLVであるV2(mJ/cm2)を超えないようにする(領域A22参照)必要がある。よって、TLVが緩和され、照射量が増えるようになると、光学フィルタを透過する有害光が問題視されるおそれがある。
【0054】
[広角度に入射する光を考慮した光学フィルタ]
上述した事情により、本発明者は、光学フィルタを透過する有害光をさらに抑制できる紫外光照射装置を検討した。鋭意研究の結果、本発明者は、光学フィルタに対し広角度で入射する光が透過しにくい光学フィルタを設計又は選択すべきであることを見出した。その理由を以下に説明する。
【0055】
図6は、紫外光照射装置1における、光学フィルタ40に照射される紫外光の角度成分ごとの光強度の相対値(相対強度)を示している。この図は、紫外光照射装置1から出射する紫外光の配光分布から計算により導かれた。横軸は光学フィルタ40への入射角を示し、縦軸は紫外光の相対強度を示す。入射角とは、
図7に示されるように、光学フィルタ40の入射面40sの法線N1と、光学フィルタ40に入射する光線L3との間になす角θである。
【0056】
図6より、大部分の光線は、入射角が10~60度の範囲、特に、20~50度の範囲に存在することが分かる。とりわけ、30~40度の入射角で光学フィルタ40に入射する光線成分は、0度の入射角で光学フィルタ40に入射する光線成分に比べてとても多いことが分かる。
【0057】
図8を用いて、30~40度の入射角で光学フィルタ40に入射する光線成分は、0度の入射角で光学フィルタ40に入射する光線成分より多くなる理由を説明する。
図8は、点光源Q1から全方位に一様な光束で出射される光の進行について説明する図である。
図8に示すように、点光源Q1から全方位に一様な光束で光出射されて、一部が平面Pxに照射されると仮定とする。
【0058】
そして、
図8に示すように、点光源Q1から出射された光束が、入射角θが0度で入射する平面Px上の領域をP0、入射角θが30度で入射する領域をP30とする。すると、
図8からわかるように、平面Px上において、領域P0は1点のみであるのに対し、領域P30は、領域P0を中心とした円環状の領域となる。
【0059】
さらに、上述したように、点光源Q1から全方向に一様な光束で光が出射されていると、位置P0の一点のみに入射する光の光束よりも、円環状の領域を形成する位置P30全体に入射する光の光束の合計の方が大きいことがわかる。すなわち、光源が点光源であることを仮定すると、所定の面に対して入射する光の光束の総量は、入射角θが0度から大きくなるにつれて大きくなる。これは光束の角度成分ごとの相対強度が、位置P0よりも位置P30のほうが大きくなることを意味する。
【0060】
本実施形態の紫外光照射装置1に搭載されている光源30は、発光管30aの管軸方向に点光源が配列されているものと等価とみることができる。そうすると、配列された点光源それぞれで見た場合を想定すると、光学フィルタ40に入射する光束は、入射角θが0度の場合に最小となり、0度から大きくなるにつれて、徐々に光束の総量が大きくなる。
【0061】
光学フィルタ40に入射する紫外光の強度は、光束の量に比例する。そして、光学フィルタ40に入射する光束の量は、入射角θが0度から大きくなるにつれて増加する。そして、入射角θがある程度大きい領域となると、光学フィルタ40に入射できない光束の量が増加するため、紫外光の光束の量は減少していくことになる。入射する光束の量が減少し始める入射角θは、光源30と光学フィルタ40との距離、光源30の発光管30aのサイズ、光学フィルタ40が形成されている面積等によって調整される。
【0062】
図6に示した、角度成分ごとの相対強度は、波長によって左右されない。例えば、目的光であっても、有害光であっても、同様の傾向を示す。斯かる知見に基づき本発明者は、特に、広範囲の入射角度で入射する光線の透過を妨げ得る光学フィルタを検討した。
【0063】
図9A及び
図9Bを参照しながら、光学フィルタ40の特徴について説明する。
図9Aは、本実施形態である光学フィルタ40の透過スペクトルを示す。
図9Bは、参考例である光学フィルタ90の透過スペクトルを示す。
図9A及び
図9Bは、共に誘電体多層膜を含む光学フィルタである。誘電体多層膜の詳細は後述する。
【0064】
図9A及び
図9Bに示される透過スペクトルは、以下のとおりである。「0deg」は光学フィルタ(40,90)に対して入射角0度で入射する0度光の透過スペクトルである。以下同様に、「20deg」は20度光の透過スペクトルであり、「30deg」は30度光の透過スペクトルであり、「40deg」は40度光の透過スペクトルであり、「50deg」は50度光の透過スペクトルであり、「60deg」は60度光の透過スペクトルである。
【0065】
図9A及び
図9Bに示されるように、入射角が大きくなるにつれて透過スペクトルが短波長側にシフトする傾向がある。これは、「ブルーシフト」と呼ばれることがある。ブルーシフトは、誘電体多層膜に入射する入射角が大きくなるにつれて、多層膜で反射される光の位置と多層膜の膜内を往復する光の入射位置との間のずれによって生じる光路長差ができることに因るものと考えられる。
【0066】
はじめに、参考例である
図9Bの光学フィルタ90の透過スペクトルを説明する。0度光の透過スペクトルに基づいて、目的光を透過する第一透過帯域TB1(ここでは、透過率が15%以上)と、有害光の透過を制限する第一制限帯域RB1(ここでは、透過率が5%未満)と、第二透過帯域TB2(ここでは、透過率が15%以上)を有する。第一透過帯域は、200nm以上240nm未満の波長帯域内に存在するため、目的光を透過することがわかる。第一制限帯域RB1は、有害光の波長帯域である240nm以上280nm未満の波長全域に亘って存在するため、0度光の透過を十分に妨げることができる。
【0067】
しかしながら、30度光、40度光、50度光、及び60度光の透過スペクトルは、有害光の波長帯域である240nm以上280nmにおいて5%以上の透過率を有する。つまり、光学フィルタ90は、光学フィルタ90に広角度(30~60度)で入射する有害光を透過させやすいことを表している。そして、
図6で示したように、広角度、とりわけ30~40度で光学フィルタ90に入射する光は多い。そのため、TLVが緩和され、照射量を増加させようとしても、光学フィルタ90を使用する場合、広角度に入射する多くの有害光が光学フィルタ90を透過するため、有害光のTLVによって照射量の増加が制限される。
【0068】
そして、
図9Bをみると、第一制限帯域280nm以上300nm未満の0度光が5%未満の透過率に抑えられていないため、第一制限帯域RB1は、「240nm以上300nm未満の波長全域に亘って存在する」という構成を満たさないことがわかる。入射角が大きくなるにつれて透過スペクトルが短波長側にシフトする傾向にある事実を考慮すると、0度光の透過スペクトルにおいて、第一制限帯域を、有害光の波長帯域である240nm以上280nm未満だけでなく、より長波長側にまで拡張しなければ、光学フィルタ90に高角度で入射する有害光を妨げることができない。
【0069】
次に、
図9Aに示した、本実施形態の光学フィルタ40の透過スペクトルを説明する。透過スペクトルは、目的光を透過する第一透過帯域TB1(ここでは、透過率が15%以上)と、有害光の透過を制限する第一制限帯域RB1(ここでは、透過率が5%未満)と、第二透過帯域TB2(ここでは、透過率が15%以上)を有する。第一透過帯域は、200nm以上240nm未満の波長帯域内に存在するため、目的光を透過することがわかる。第一制限帯域RB1は、有害光の波長帯域である240nm以上280nm未満の波長全域に亘って存在するため、0度光の透過を十分に妨げることができる。
【0070】
そして、
図9Aの光学フィルタ40は、
図9Bと異なり、30度光、40度光、50度光、及び60度光の透過スペクトルにおいても、有害光の波長帯域である240nm以上280nm未満の光の透過を制限することができる。
図9Bの光学フィルタ40は、広角度(30~60度)で入射する有害光を透過し難いので、TLVが緩和され紫外光の照射量を増加させても、広角度に入射する有害光を効果的に制限できる。よって、有害光のTLVによって照射量を設定する必要がなく、目的光のTLVのみを考慮して照射量を設定できる。
【0071】
図9Aを見ると、広角度で入射する有害光を透過させない光学フィルタ40の0度光の透過スペクトルにおいて、第一制限帯域RB1は、240nm以上320nm未満の波長全域に亘って存在する。入射角が大きくなるにつれて透過スペクトルが短波長側にシフトする傾向にある事実を考慮すると、0度光の透過スペクトルにおいて、第一制限帯域を、有害光の波長帯域より長波長側に拡張しているからこそ、広角度光の透過を妨げられる、とも言うことができる。
【0072】
0度光の透過スペクトルにおいて、第一制限帯域を、有害光の波長帯域より長波長側に拡張するだけならば、例えば、誘電体多層膜の膜厚を厚くするだけでよい。しかしながら、上述したように、目的光を透過するための第一透過帯域の透過率を維持し、誘電体多層膜の形成コストを抑制するためには、誘電体多層膜の膜厚は上限値を有する。
【0073】
このような、誘電体層膜の膜厚を厚すぎないようにした光学フィルタは、0度光の透過スペクトルにおいて、第一制限帯域の長波長側に第二透過波長帯域が表れる。すなわち、0度光の透過スペクトルにおいて、第一制限帯域の長波長側に、320nm以上の波長帯域内に存在する第二透過帯域TB2がある光学フィルタ40は、目的光を透過するための第一透過帯域の透過率を維持し、誘電体多層膜の形成コストを抑制できる。
【0074】
本発明者の鋭意研究によれば、光学フィルタを配置しない場合における、目的光(波長が222nmの光。以下同じ)の光強度を1とした場合、第一制限帯域を有害光の波長帯域(240nm以上280nm未満)に留めた(拡張しなかった)光学フィルタにおける、目的光の光強度は、誘電体多層膜の成膜の品質にも依るが、概ね0.80~0.90の範囲である。
【0075】
そして、第一制限帯域を240nm以上320nm未満まで拡張した光学フィルタは、第一制限帯域を拡張しなかった光学フィルタに比べて僅かな膜厚総数の増加で済む。そのため、拡張した光学フィルタにおける目的光の光強度は、拡張しなかった光学フィルタにおける目的光の光強度に比べて、同等程度か、僅かに低下するとしても僅かな低下量で済む。つまり、光学フィルタの第一制限帯域の上限波長を320nm未満、さらには330nm未満まで拡張しても、目的光の光強度は高水準を維持しやすい。よって、第一制限帯域を240nm以上320nm未満まで拡張した光学フィルタは、広角度で入射する光の透過を抑えつつ、目的光の光強度の低下量を抑制できるため、有効である。
【0076】
これに対し、第一制限帯域を240nm以上400nm以下まで拡張した光学フィルタにおける、目的光の光強度は低下しやすく、例えば、0.6~0.75となる(目的光の光強度を1とする)。つまり、第一制限帯域を240nm以上400nm未満まで拡張すると、目的光の光強度の低下量は、0.10~0.15(すなわち10~15%)も低下してしまう。目的光の光強度の低下量が大きすぎるため、照射量の向上という目的に合致し難い。それゆえ、第二透過帯域が、300nmを超え400nm未満の波長帯域内に存在することが、有効である。とりわけ、300nmを超え400nm未満において、第一制限帯域を拡張しすぎないように、より短波長側から第二透過帯域が存在すると、さらに目的光の光強度の低下量を抑制できる。
【0077】
0度光の透過スペクトルに表れるカット上限波長C1に視点を移すと、
図9Bでは、カット上限波長C1が310nm未満に存在するのに対して、
図9Aでは、カット上限波長C1が320nm以上350nm未満の波長帯域内に存在する。
図9Aの光学フィルタ40は、カット上限波長C1を使用しても、
図9Bの光学フィルタ90と区別できる。
【0078】
本発明者の鋭意研究によれば、入射角度が大きくなるにつれて透過スペクトルが短波長側にシフトする量は、概ね0.6~0.8(nm/deg)と表されることがわかった。つまり、入射角度が1度大きくなると、特定の入射角による透過スペクトルは、0.6~0.8nm短波長側にシフトする。
【0079】
図6より判明した、30~40度の入射角で光学フィルタ40に入射する光線成分が最も多いという知見を加味すれば、光学フィルタ40は、入射角が40度以下の光を考慮した光学フィルタであることが望ましい。入射角が40度以下の光を考慮した光学フィルタでは、0度光の透過スペクトルにおける第一制限帯域が、240nm以上300nm以下の波長全域に存在するとともに、0度光の透過スペクトルにおいて、第一制限帯域の上限となる波長が、300nmを超え380nm以下の範囲に形成されている。そして、第二透過帯域が、第一制限帯域の長波長側である300nmを超え400nm未満の波長帯域内に存在する。
【0080】
第一制限帯域は、さらに、波長300nmを超え310nm未満の波長全域に亘って存在するとともに、前記第一制限帯域の上限が、310nm以上360nm以下の範囲内に形成されている透過スペクトルを有する光学フィルタを使用してもよい。また、第一制限帯域は、さらに、310nm以上320nm未満の波長全域に亘って存在する透過スペクトルを有する光学フィルタを使用してもよい。
【0081】
入射角が40度以下の光を考慮するのみならず、さらなる広角度光の透過を妨げるべく、入射角が50度以下の光を考慮する光学フィルタの使用を検討してもよく、入射角が60度以下の光を考慮する光学フィルタの使用を検討してもよい。入射角が60度以下の光を考慮する光学フィルタは、0度光の透過スペクトルにおける第一制限帯域が、240nm以上330nm未満の波長全域に存在する。例えば、第一制限帯域の上限波長が、330nm以上360nm以下の範囲内に形成されている光学フィルタを使用できる。そして第二透過帯域が、第一制限帯域の上限波長以上400nm未満の波長帯域内に存在する。
【0082】
さらに、本実施形態に使用される
図9Aの透過スペクトルを有する光学フィルタ40は、参考例である
図9Bの光学フィルタ90と比較して、200nm以上210nm以下の波長帯域に属する紫外光の透過が制限されている。例えば、0度光において、200nm以上210nm以下の波長帯域に、光学フィルタ40を透過する紫外光の透過率が5%未満となる波長帯域が存在する。この波長帯域を第二制限帯域RB2と呼ぶ。第二制限帯域RB2により、大気中でオゾンを生成させる200nm近傍の紫外光の放射をより適切に制限することができ、環境中でのオゾン生成をより高精度に抑えることができる。これは、周辺部材のオゾン劣化を防ぐことにも寄与する。
【0083】
第二制限帯域RB2の上述した効果は、200nm近傍の紫外光を制限することにより得られる。第二制限帯域RB2は、例えば、波長200nm以上202nm以下の波長帯域の全域が制限されてもよく、波長200nm以上205nm以下の波長帯域の全域が制限されてもよく、波長200nm以上207nm以下の波長帯域の全域が制限されてもよく、波長200nm以上210nm以下の波長帯域の全域が制限されてもよい。
【0084】
第二制限帯域RB2における透過率は、5%以下に制限されることを例示した。しかしながら、第二制限帯域RB2における透過率は、4%以下に制限されると好ましく、3%以下に制限されるとさらに好ましく、2%以下に制限されるとさらに好ましく、1%以下に制限されるとさらに好ましい。
【0085】
また、本発明に適用される光学フィルタは、0度光の透過スペクトルにおいて、第一制限帯域RB1と第二透過帯域TB2とに挟まれる波長帯域が狭いと好ましい。言い換えれば、透過率曲線に対し、より傾きの大きな接線との交点から得られるカット波長を実現することが好ましい。これにより、第一制限帯域RB1と第二透過帯域TB2の区切りが明瞭となり、第一制限帯域RB1の帯域幅や透過帯域の帯域幅を、より明確に規定できる。具体的には、透過率が5%未満である第一制限帯域と、透過率が15%以上である第二透過帯域との間の波長幅は、10nm以下であることが望ましく、さらには、5nm以下であることが望ましい。第一制限帯域RB1と第二透過帯域TB2の間に限らず、制限帯域と透過帯域とに挟まれる波長帯域を狭くすることは、所望の波長範囲において、高い性能で制限帯域と透過帯域を設けるために、より適した特性となる。
【0086】
[透過スペクトルの求め方]
図10は、光学フィルタ40から透過スペクトルを求める方法の一例を説明する図である。紫外光照射装置1から光学フィルタ40を取り外し、光源30と分光光度計50を備える実験系に取り付ける。光学フィルタ40を、
図10に示すように、光源30の中心Q2から光学フィルタ40の入射面に向かう光線が光学フィルタ40の法線N1に対して所定の入射角θを得られるように、光学フィルタ40を傾けて配置する。光源30から光学フィルタ40に指向性の光L2を入射させる。光学フィルタ40を透過した光の光強度を分光光度計50で測定する。測定した光強度を、光学フィルタがない場合に出射光の光強度で除することで、所定の入射角θにおける、光学フィルタ40の透過スペクトルが得られる。また、入射角θを変更しながら測定することにより、入射角ごとの透過スペクトルが得られる。
【0087】
[光学フィルタの構造]
光学フィルタ40は、母材上に形成された誘電体多層膜で構成される。誘電体多層膜は、高屈折率層と低屈折率層が交互に積層された積層体で構成される。本実施形態では、光学フィルタ40の誘電体多層膜に、HfO2層及びSiO2層が交互に積層された積層体を使用した。積層体は、他に、例えば、SiO2層及びAl2O3層が交互に積層されたものでもよい。HfO2層及びSiO2層が交互に積層された誘電体多層膜層は、SiO2層及びAl2O3層が交互に積層された誘電多層膜層よりも、同じ波長選択特性を得るための層数を減らすことができるため、選択した紫外光の透過率を高めることができる。誘電体多層膜として、他に、TiO2やZrO2等も使用できる。
【0088】
誘電体多層膜を形成する母材には、目的光を透過可能な材料で構成される。母材の具体的な材料としては、例えば、石英ガラスや、ホウケイ酸ガラス、サファイア、フッ化マグネシウム材、フッ化カルシウム材、フッ化リチウム材、フッ化バリウム材等のセラミクス系材料や、シリコン樹脂、フッ素樹脂等の樹脂系材料を採用し得る。
【0089】
誘電体多層膜の膜厚は、上述したように、厚すぎると、第一透過領域の透過率が低下し、目的光が誘電体多層膜を透過しにくくなる。膜厚が薄すぎると、有害光(特に光学フィルタに広角度で入射する光線)を透過するようになる。斯かる事情を考慮して、誘電体多層膜の積層体は、全体で、1.0μm以上3.0μm以下の膜厚であるとよく、さらに、1.0μm以上2.0μm以下の膜厚であるとよい。積層体の膜厚がこの範囲にあるとき、目的光の目的光を透過するための第一透過帯域の透過率を維持しつつ、有害光(特に光学フィルタに広角度で入射する光線)を妨げやすい。
【0090】
光学フィルタの透過スペクトル特性は、誘電体多層膜の積層体全体の膜厚のみならず、誘電体多層膜の材質の組み合わせ、材質別の膜厚合計、積層数、及び誘電体多層膜を構成する各膜の表面粗さによっても変化する。それゆえ、例えば、HfO2層とSiO2層が交互に積層された積層体のうち、全てのHfO2層の膜厚の合計が、0.5μm以上2μm未満であることを規定してもよい。HfO2層の膜厚の合計が0.5μm以上であると、有害光を防ぐ効果が十分に得られる。一方、HfO2層の膜厚の合計が2μm以上であると、目的光の透過率が制限される場合がある。そのため、HfO2層の膜厚の合計は2μm未満とすることが望ましい。このように、規定された光学フィルタは、目的光の目的光を透過するための第一透過帯域の透過率を維持しつつ、有害光(特に光学フィルタに広角度で入射する光線)を防ぐことができる。
【0091】
以上で、紫外光照射装置の一実施形態を説明した。本発明は上記した実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で、上記の実施形態に種々の変更又は改良を加えたりできる。
【0092】
本実施形態では、光源30としてKrClエキシマランプを採用しているが、これに限らない。光源30に、他のガスが封入されたエキシマランプ(例えば、KrガスとBrガスが封入された、207nm付近に最大強度を示すエキシマランプ)を採用しても構わない。また、光源30に、LED等の固体光源を採用しても構わない。他のガスが封入されたエキシマランプやLED等の固体光源を採用した場合でも、本発明は成り立つ。
【0093】
例えば、光源30は、主たる発光波長が200nm以上240nm未満の範囲内に属する紫外光を発光する光源であればよい。光源30はエキシマランプに限られず、光源30にLED等の固体光源を採用しても構わない。例えば、240nm未満に主たる発光波長を有するAlGaN系LEDやMgZnO系LEDが光源30として採用され得る。また、光源30としてコヒーレント光源を用いる場合には、ガスレーザや固体レーザ素子からコヒーレントな紫外光を放射する光源を用いてもよく、又は、ガスレーザや固体レーザ素子から放射される光を利用して波長の異なるコヒーレント光を新たに発生させる波長変換素子を用いる光源を用いてもよい。波長変換素子として、例えば、レーザ素子から放射される光の周波数を逓倍化させて、第二次高調波(SHG)や第三次高周波(THG)等の高次高周波を発生させる非線形光学結晶が使用できる。さらに、光源30は、主たる発光波長が200nm以上240nm未満の範囲内に属する紫外光を発光する蛍光体を利用する光源であってもよい。ここでの「主たる発光波長」とは、光源30の発光スペクトル上で、ある波長λに対して±10nmの波長域Z(λ)を規定した場合において、発光スペクトルにおける全積分強度に対して40%以上の積分強度を示す波長域Z(λi)における、波長λiを指す。
【符号の説明】
【0094】
1 :紫外光照射装置
20 :光取出し部
30 :光源
30a :発光管
30b :電極
40 :光学フィルタ
40s :入射面
50 :分光光度計
60 :筐体
90 :光学フィルタ