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特開2023-135752積層体および回路基板ならびに積層体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023135752
(43)【公開日】2023-09-29
(54)【発明の名称】積層体および回路基板ならびに積層体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 18/18 20060101AFI20230922BHJP
   B32B 15/01 20060101ALI20230922BHJP
   B32B 15/08 20060101ALI20230922BHJP
   B32B 3/30 20060101ALI20230922BHJP
   C23C 18/34 20060101ALI20230922BHJP
   H05K 1/09 20060101ALI20230922BHJP
【FI】
C23C18/18
B32B15/01 G
B32B15/08 J
B32B3/30
C23C18/34
H05K1/09 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022040996
(22)【出願日】2022-03-16
(71)【出願人】
【識別番号】399054321
【氏名又は名称】東洋アルミニウム株式会社
(72)【発明者】
【氏名】村松 賢治
(72)【発明者】
【氏名】関口 文也
【テーマコード(参考)】
4E351
4F100
4K022
【Fターム(参考)】
4E351AA02
4E351AA04
4E351AA07
4E351AA13
4E351BB01
4E351BB33
4E351CC06
4E351CC07
4E351DD10
4E351DD19
4E351GG13
4F100AB10A
4F100AB16B
4F100AB31A
4F100AB33A
4F100AK33C
4F100AK53C
4F100BA03
4F100BA07
4F100DD01A
4F100DD01B
4F100DG10C
4F100DG11C
4F100EC10A
4F100EC10B
4F100EH71B
4F100EJ15A
4F100EJ34A
4F100EJ85A
4F100GB43
4F100HB21A
4F100HB21B
4F100JG01A
4F100JG01B
4F100JG04C
4F100JL11
4F100YY00A
4K022AA02
4K022AA42
4K022BA14
4K022CA02
4K022CA15
4K022DA01
4K022DB02
4K022DB26
4K022EA02
(57)【要約】
【課題】従来必要であったジンケート処理を行う必要が無く、コストおよび環境負荷の低減ができ、かつ、アルミニウム基材とニッケルめっき層の間の密着性に優れた積層体を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明の積層体1は、アルミニウム基材11の少なくとも一方の面にニッケルめっき層12が直接積層されており、前記ニッケルめっき層12と前記アルミニウム基材11との界面において前記ニッケルめっき層12の一部が前記アルミニウム基材11の深さ方向に錨状に埋め込まれた錨状部32を備え、前記錨状部は、ND-TD断面の顕微鏡視野において、TD方向に1個以上/120μm有する。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム基材の少なくとも一方の面にニッケルめっき層が直接積層されており、
前記ニッケルめっき層と前記アルミニウム基材との界面において、前記ニッケルめっき層の一部が前記アルミニウム基材の深さ方向に錨状に埋め込まれた、または、前記アルミニウム基材の一部が前記ニッケルめっき層の深さ方向に錨状に突出した錨状部を備えており、
前記錨状部は、ND-TD断面の顕微鏡視野において、TD方向に1個以上/120μm有することを特徴とする、積層体。
【請求項2】
前記アルミニウム基材は、厚みが5μm以上200μm以下のアルミニウム箔および厚みが200μm超え2mm以下のアルミニウム板の少なくともいずれかであることを特徴とする、請求項1記載の積層体。
【請求項3】
絶縁性基板の少なくとも一方の面に、請求項1または2記載の積層体が回路パターン状に形成されて積層されていることを特徴とする、回路基板。
【請求項4】
請求項1または2に記載の積層体を製造する方法であって、
アルミニウム基材の少なくとも一方の表面を粗面化処理する工程と、
前記粗面化処理されたアルミニウム基材の表面にニッケルをめっきするめっき工程と、
を順に備えることを特徴とする、積層体の製造方法。
【請求項5】
アルミニウム基材の少なくとも一方の表面を粗面化処理する工程と、
前記粗面化処理されたアルミニウム基材の表面にニッケルをめっきするめっき工程と、
を順に備え、
前記アルミニウム基材が鉄を0.2質量%以上1.7質量%以下含有するアルミニウム合金からなるアルミニウム箔であり、
前記粗面化処理がエッチング液に塩酸を用いる化学エッチングであることを特徴とする積層体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層体および回路基板ならびに積層体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えばプリント配線基板等の回路には銅が用いられている。近年、コストダウンや軽量化の目的でアルミニウムを用いた回路が検討されている。
【0003】
アルミニウムは銅と比べて軽量で安価な金属であるが、表面に存在する酸化被膜が半田との接合を妨げてしまうため、アルミニウムの表面に直接半田付けを行っても接合強度が十分ではない。そのため、アルミニウム表面に半田による接合を行う場合、例えば特許文献1では亜鉛置換めっきにより亜鉛層を形成し、その上にニッケルめっき層を形成する方法が開示されている。この亜鉛置換めっきによる亜鉛層の形成を行うことによって、アルミニウム基材とニッケルめっき層との間の密着性を確保することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005-060809号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示される亜鉛置換めっき(ジンケート処理)は製造工程が長くなりコスト高となるばかりでなく、廃液の環境負荷が大きいことが課題となっている。
【0006】
以上の背景から、アルミニウム表面に亜鉛置換めっきをせずに直接ニッケルめっきができることが求められている。
【0007】
従って、本発明の目的は、従来必要であったジンケート処理を行う必要が無いのでコストおよび環境負荷の低減ができ、かつ、アルミニウム基材とニッケルめっき層の間の密着性に優れた積層体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題に鑑み、本願発明者らは、アルミニウム基材の表面に特定の凹凸形状を形成すれば、アルミニウム基材にジンケート処理を行わなくても、アルミニウム基材とニッケルめっきとの間の密着性が顕著に向上することを見出した。
【0009】
すなわち、本発明は以下の特徴を備える。
1.本発明の積層体は、アルミニウム基材の少なくとも一方の面にニッケルめっき層が直接積層されており、前記ニッケルめっき層と前記アルミニウム基材との界面において、前記ニッケルめっき層の一部が前記アルミニウム基材の深さ方向に錨状に埋め込まれた、または、前記アルミニウム基材の一部が前記ニッケルめっき層の深さ方向に錨状に突出した錨状部を備え、前記錨状部は、ND‐TD断面の顕微鏡視野において、TD方向に1個以上/120μmである。
2.前記アルミニウム基材は、厚み5μm以上200μm以下のアルミニウム箔および厚み200μm超え2mm以下のアルミニウム板の少なくともいずれかであることが好ましい。
3.本発明の回路基板は、絶縁性基板の少なくとも一方の面に、上記1または2に記載の積層体が回路パターン状に形成されて積層されている。
4.上記1または2に記載の積層体を製造する方法であって、アルミニウム基材の少なくとも一方の表面を粗面化処理する工程と、前記粗面化処理されたアルミニウム基材の表面にニッケルをめっきするめっき工程と、を順に備える。
5.また、本発明の製造方法は、アルミニウム基材の少なくとも一方の表面を粗面化処理する工程と、前記粗面化処理されたアルミニウム基材の表面にニッケルをめっきするめっき工程と、を順に備え、前記アルミニウム基材が鉄を0.2質量%以上1.7質量%以下含有するアルミニウム合金からなるアルミニウム箔であり、前記粗面化処理がエッチング液に塩酸を用いる化学エッチングであることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明の積層体によれば上記の構成を備えることにより、ジンケート処理を行わなくともニッケルめっき層/アルミニウム基材間の密着性の点で優れ、上記積層体をプリント配線基板の回路に用いた際の半田(はんだ)との密着強度に優れる。また、本発明の製造方法はジンケート処理工程を含まずともアルミニウム基材とニッケルめっき層とを強固に密着することができ、前記ジンケート処理工程を含まないのでコストおよび環境負荷の低減ができる。さらに、本発明の回路基板は、従来の銅基材を用いた回路基板と比べて、軽量性、コストパフォーマンスに優れる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】(a)は粗面化処理工程前のアルミニウム基材の模式的断面図であり、(b)は粗面化処理工程後のアルミニウム基材の模式的断面図であり、(c)はめっき工程後のアルミニウム基材(積層体)の模式的断面図である。
図2】実施例1に係る積層体のND-TD断面のFE-SEMによる二次電子像である。
図3】実施例4に係る積層体のND-TD断面のFE-SEMによる二次電子像である。
図4】比較例3に係る積層体のND-TD断面のFE-SEMによる二次電子像である。
図5】実施例1に係る粗面化処理工程後かつめっき工程前のアルミニウム基材のND-TD断面のFE-SEMによる二次電子像である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の積層体について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0013】
(積層体)
図1(c)に示す様に、本発明の積層体は、アルミニウム基材11の少なくとも一方の面にニッケルめっき層12が直接積層されており、前記ニッケルめっき層12と前記アルミニウム基材11との界面において前記ニッケルめっき層12の一部が前記アルミニウム基材11の深さ方向(厚み方向)に錨状に埋め込まれた錨状部32を備え、前記錨状部は、ND‐TD断面の顕微鏡視野において、TD方向に1個以上/120μmであることを特徴とする。
【0014】
上記特徴を備えることで回路製品に使用し半田付けを行った場合に、半田の密着強度(半田/ニッケルめっき層間およびニッケルめっき層/アルミニウム基材間の両方の密着強度)に優れつつ、前記アルミニウム基材と、前記ニッケルめっき層との間に、ジンケート処理層を含まないため、コストや環境負荷を低減することができる。
【0015】
(アルミニウム基材)
本発明の積層体に用いるアルミニウム基材は表面に凹凸構造を有し、前記凹凸構造の少なくとも一部の形状は、ニッケルめっき層を積層し積層体とした際の錨状部に対応した形状である。アルミニウム基材としては、アルミニウム板であってもアルミニウム箔であってもよい。アルミニウム基材の材質は公知の純アルミニウムまたはアルミニウム合金を用いることができる。アルミニウム合金を用いる場合には、成分として、珪素(Si)、鉄(Fe)、銅(Cu)、マンガン(Mn)、マグネシウム(Mg)、クロム(Cr)、亜鉛(Zn)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、ガリウム(Ga)、ニッケル(Ni)、カルシウム(Ca)およびホウ素(B)の少なくとも1種の合金元素を必要範囲内において添加したアルミニウム合金、或いは上記合金元素の含有量を限定したアルミニウム合金を用いることができる。なかでも鉄を0.2~1.7質量%含有するアルミニウム合金箔を用いることが好ましく、例えば、JISで規定される1N30、8079、8021等の材質のアルミニウム合金箔が挙げられる。鉄の濃度が上記範囲であると、エッチングの際にAl-Fe系金属間化合物が起点となりアルミニウムの溶解が進むため、より短い時間で所望の表面形状とすることができる。また鉄の濃度が上記範囲のアルミニウム合金箔であると、アルミニウムの箔圧延性も良好となる。上記のアルミニウム合金の成分は、例えばICP発光分光分析装置(JIS H1307)によって測定される。
【0016】
図1(b)に示すようにアルミニウム基材11の表面は、後述するニッケルめっき層との界面から突出する錨状部の形状と対応する凹凸形状を有する。アルミニウム基材の表面の凹部42において、その一部または全部において凹部42の開口縁部の一部分または全部から開口部幅方向中心に向けて突き出した突出部が形成されていることが好ましい。これによって凹部42は開口幅がその内部より狭くなり、このような凹部内を埋めるように形成されたニッケルめっきは、アルミニウム基材11とニッケルめっき層12を脱離困難とする錨状部として機能する。また、孤立部46(空孔)が観察されるとき(図1(b)においては空孔であるが、図1(c)ではニッケルが孤立しているように観察される)、視野内の奥行方向には凹部42が存在する、つまり、断面観察において観察される孤立部46(空孔)は、凹部42の一断面と考えられる。
【0017】
あるいは錨状部は、アルミニウム基材11の表面から突出した凸部44であって、凸部44は径の太い部分と細い部分を有し、凸部の根元に近い位置(積層体においてアルミニウム基材側)に径の細い部分を有し、凸部の先端に近い位置(積層体においてニッケルめっき層側)に径の太い部分が配置された凸形状であってもよい。凸部44もニッケルめっきにより図1(c)の錨状部34として機能する。また、孤立部48(図1(b)においてはアルミニウムが孤立して空隙によって取り囲まれているが、図1(c)ではニッケルめっきによって取り囲まれている。)が観察されるとき、視野内の奥行方向には凸部44が存在する、つまり、断面観察において観察される孤立部48(島状のアルミニウム)は、凸部44の一断面と考えられる。
【0018】
アルミニウム基材の表面には自然酸化被膜はあってもよいが、無くてもよい。通常、酸化被膜の存在により、アルミニウム基材とめっき層との間の密着性は低下するため、酸化被膜は無い方がよいことが知られているが、本発明の積層体に用いられるアルミニウム基材は、所定の表面形状を備えることにより、酸化被膜が存在していてもニッケルめっき層との間に強固な密着性を備えることができる。
【0019】
アルミニウム基材の表面粗さは特に限定されないが、TD方向の算術平均粗さRaは0.25μm以上1.50μm以下であることが好ましく、TD方向の十点平均粗さRzは2.5μm以上10.0μm以下であることが好ましい。表面粗さが上記範囲であるとアルミニウム基材とニッケルめっき層との密着性をより一層強固にすることができる。しかしながら、錨状部を備えずに、表面粗さだけが上記範囲であった場合は十分な密着性は得られない。なお、本明細書における表面粗さはJIS B0601:1994規格に準じて、触針式粗度計(株式会社東京精密製SURFCOM1400D)で測定した際のN=3の平均値である。また、TD方向とは、アルミニウ箔またはアルミニウム板の製造時の圧延方向と垂直な方向であって、かつ圧延面と平行な方向である。
【0020】
アルミニウム基材の厚みは特に限定されないが、本発明の積層体の生産性を考慮すると、アルミニウム基材がアルミニウム箔の場合は5μm以上200μm以下であることが好ましい。上記範囲内であれば、アルミニウム基材が可撓性を備えるため、めっき工程をロールツーロールで連続処理を行うことができるので生産性が向上する。アルミニウム基材の厚みが15μm以上150μm以下であることが特に好ましい。ニッケルめっき層は固く可撓性が低いため、アルミニウム基材が上記範囲内であると、積層体の可撓性がより向上し、生産性をさらに向上させることができる。
【0021】
アルミニウム基材の厚みが5μm未満であると、アルミニウム基材自体の強度が低下するため、アルミニウム基材とニッケルめっき層との密着性、および積層体と半田との間の密着性が十分であっても基材破壊となるため、十分な密着強度を発揮できないおそれがある。
【0022】
(ニッケルめっき層)
本発明の積層体において、アルミニウム基材表面に積層されるニッケルめっき層は、アルミニウム基材へのめっき工程によって積層される層であり、電解めっきまたは無電解めっきのいずれかで積層されるニッケルめっき層であってもよい。ニッケルめっき層はアルミニウム基材の一方の表面に積層されても、両方の表面に形成されてもよいが、少なくともアルミニウム基材との界面には錨状部を備えている。
【0023】
ニッケルめっき層の厚みは1μm以上10μm以下であることが好ましい。上記範囲であるとアルミニウム基材とニッケルめっき層との間の密着性、および、ニッケルめっき層と半田との間の密着性をより強固にする効果がある。ニッケルめっき層の厚みが1μm未満ではアルミニウム基材表面に均一にめっきすることが難しく、また半田との密着性も得られにくくなるおそれがある。ニッケルめっき層の厚みが10μm超であるとニッケルめっき層が硬く脆いため、積層体とした際の可撓性が失われてしまうおそれがある。また、積層体を回路製品に適用した場合、回路が断線するリスクが高まる。なお、ニッケルめっき層の厚みは、顕微鏡視野内においてND―TD断面を観察し、ND方向(厚み方向)にニッケルめっき層の最表部からニッケルめっき層の最深部までの長さをランダムで5箇所計測し、その平均値を算出して求めることができる。なお、ND-TD断面とは、アルミニウム基材であるアルミニウム箔またはアルミニウム板の圧延方向に垂直な断面である。
【0024】
ニッケルめっき層のアルミニウム基材とは反対側の表面粗さは特に限定されず、回路製品に適用する際に、半田付けを行った後にニッケルめっき層表面と半田との間で界面剥離しにくい粗度であることが好ましい。
【0025】
(錨状部)
本発明の積層体の断面の一例として、図1(c)の模式図を用いて錨状部の形状を説明する。錨状部とは、ニッケルめっき層からアルミニウム基材に向かって突出した錨状部32(突出部)であって、前記錨状部32(突出部)の径が太い部分と細い部分とがあり、アルミニウム基材の深さ(ND)方向において、深い方に前記太い部分が、浅い方に前記細い部分を備えるものを指す。
本明細書においては顕微鏡視野内においてND―TD断面から観察したときに、アルミニウム基材側の、アルミニウム基材とニッケルめっき層との間の界面から離間した位置に存在するニッケルの孤立部36も錨状部として取り扱う。これは、図1(c)に例示する様に、断面観察において孤立部36が観察されるとき、視野内の奥行方向には突出部が存在する、つまり、断面観察において観察される孤立部36は、突出部の一断面であるためである。また、前記錨状部の厚み方向の長さを1μm以上とすることが好ましい。前記錨状部の厚み方向の長さが1μm以上であると、アルミニウム基材とニッケルめっき層との間の密着性をより強固にすることができる。
【0026】
さらに、錨状部は、アルミニウム基材からニッケルめっき層に向かって錨状に突出した突出部34であってもよい。また、ニッケルめっき層側に存在するアルミニウムの孤立部38も錨状部として取り扱う。
【0027】
(測定方法)
錨状部32、34、36、38は、ND-TD断面の顕微鏡視野において、TD方向に1個以上/120μmあるのがよい。この場合の錨状部の数は、FE-SEMにより倍率1000倍で断面観察をおこない、観察視野内でTD方向120μmの範囲を観察して、半田付けする側のニッケルめっき層とアルミニウム基材との界面について上記に相当する錨状部をカウントし、ランダムに視野を変えてその5点の平均値により求めることができる。錨状部をTD方向に1個以上/120μmとすることにより、より確実にアルミニウム基材とニッケルめっき層との優れた密着性を確保することができる。なお、アルミニウム基材の両面にニッケルめっき層を積層し、その両面のニッケルめっき層に対して半田付けする場合は、それぞれのニッケルめっき層とアルミニウム基材の界面ごとに測定し、評価するものとする。
【0028】
(回路基板)
本発明の積層体は回路基板に好適に用いることができる。すなわち、本発明の別の態様によれば、絶縁性基板の少なくとも一方の面に、上記積層体が回路パターン状に形成されて積層されている回路基板が提供される。本発明の積層体を回路基板の材料に用いることで、従来用いられていた銅と比較し軽量かつ低コストであり、かつジンケート処理されていないアルミニウムを基材としながらも、半田付けの強度に優れた回路基板を得ることができる。
積層体は絶縁性基板の片面に設けられていてもよいし、両面に設けられていてもよい。前記絶縁性基板としては特に限定されず、公知の樹脂、ガラス、セラミックスあるいはそれら二種以上の複合材からなる基板を採用することができ、好ましくは軽量性の点で絶縁樹脂からなる基板が好ましい。具体的には、リジット基板としては、紙フェノール樹脂、ガラスクロスエポキシ樹脂、ポリアマイド樹脂等の樹脂を用いた基板が挙げられる。フレキシブル基板としては、PET(ポリエチレンテレフタレート)フィルム、PEN(ポリエチレンナフタレート)フィルム、PI(ポリイミド)フィルム等のフィルムを用いた基板が挙げられる。これらの中でも、半田付けの際の熱に耐える、耐熱性を有する樹脂基板であることが好ましい。一方、ガラス基板としては、ソーダライムガラス系、無アルカリガラス系のガラス基板を挙げることができ、セラミック基板としては、アルミナ基板、窒化アルミ基板等を挙げることができる。
【0029】
また、前記絶縁性基板と積層体の接着には公知の接着剤を用いることができる。例えば、ウレタン接着剤、アクリル接着剤、シリコーン接着剤、エポキシ接着剤等が挙げられる。
【0030】
(積層体の製造方法)
本発明の積層体は、以下の工程により好適に製造することができる。
すなわち、アルミニウム基材の少なくとも一方の表面を粗面化処理する工程と、粗面化処理されたアルミニウム基材の表面にニッケルをめっきするめっき工程と、を順に備える。
前記アルミニウム基材が鉄を0.2質量%以上1.7質量%以下含有するアルミニウム合金からなるアルミニウム箔であり、粗面化処理がエッチング液に塩酸を用いる化学エッチングであることが好ましい。
以下、各工程について詳述する。
【0031】
(アルミニウム基材を粗面化処理する工程)
アルミニウム基材の少なくとも一方の表面を粗面化処理する工程では、これに先立って、アルミニウム基材を用意する。
粗面化処理する前のアルミニウム基材は、公知の方法によって製造されるものを使用することができる。例えば、上記の所定の組成を有するアルミニウムまたはアルミニウム合金の溶湯を調製し、これを鋳造して得られた鋳塊を適切に均質化処理する。その後、この鋳塊に熱間圧延および冷間圧延を施すことにより、アルミニウム基材を得ることができる。
なお、上記の冷間圧延工程の途中で50~500℃、特に150~400℃の範囲内で中間焼鈍処理を施してもよい。また、上記の冷間圧延工程の後に150~650℃、特に200~400℃の範囲内で焼鈍処理を施して軟質アルミニウム基材としてもよい。焼鈍処理を施すことで、アルミニウム基材の可撓性を向上させることができるばかりでなく、アルミニウム基材表面の圧延油を除去することができる。
【0032】
粗面化処理する前のアルミニウム基材の厚みは、特に限定されない。本発明の積層体の生産性を考慮すると、アルミニウム箔の場合は5μm以上200μm以下であることが好ましく、15μm以上150μm以下であることが特に好ましい。アルミニウム板の場合は、厚みが200μm超え2mm以下であることが好ましい。アルミニウム基材の厚みは冷間圧延工程において、圧延ロール間の間隔や荷重等を制御することで、適宜調整される。
【0033】
粗面化処理する前のアルミニウム基材を粗面化処理する方法は限定されず、本発明の所定の表面凹凸形状が得られる方法であればよい。特に、化学エッチングによる粗面化処理であることが好ましく、エッチング液に塩酸を用いる化学エッチングであることがさらに好ましい。
【0034】
アルミニウム基材表面には圧延工程によって油分や微粉が混ざった不安定な酸化被膜が存在するが、粗面化処理を行うことにより酸化被膜が除去され、さらにアルミニウム基材表面が溶解され複雑な凹凸形状が形成される。アルミニウム基材表面は全面が均一に溶解していくのではなく、一部のアルミニウムを残しつつ厚み方向へ溶解が進んでいく。その結果、凹部はアルミニウム基材の深さ方向に広がりを持ち、前記凹部の開口幅はその内部より狭くなった形状を持つ。
【0035】
化学エッチングは、酸性またはアルカリ性の溶液を用いて行なわれる。エッチング液としては、例えば、硫酸、燐酸、クロム酸、硝酸、フッ酸、酢酸、苛性ソーダ、塩化第二鉄、過塩素酸等の単独の溶液またはそれらの二種以上の混合溶液を使用することができる。また、水等の溶媒を用いて適当に上記の溶液を希釈してエッチング液として使用してもよい。好ましくは0.5質量%以上40質量%以下の塩酸水溶液を用いることができる。
【0036】
エッチング時間とエッチング時の液温は、エッチング液の種類、濃度やアルミニウム基材表面に要求される凹凸部の形状や大きさに応じて適宜調整できる。例えば、液温が室温(20℃程度)の場合、浸漬法またはスプレー法により20~200秒程度エッチング処理することが好ましい。また、エッチング時間短縮の目的でエッチング液を加温してもよい。
【0037】
粗面化処理はアルミニウム基材の片面または両面のどちらに行ってもよい。通常は片面だけに施せばよいが、その場合には、アルミニウム基材の粗面化処理を施した面にニッケルめっき層を積層し、例えば半田付け等を行う際に、粗面化処理しニッケルめっきした面に半田付けするように配置する。
【0038】
また、前記粗面化処理に先立って、必要により、脱脂や洗浄を行ってもよい。脱脂や洗浄の方法は特に限定されず公知の方法を採用することができ、例えば苛性ソーダ水溶液等のアルカリ溶液によって行ってよい。
【0039】
(ニッケルめっきするめっき工程)
本発明の積層体の製造方法において、ニッケルめっき層の形成方法は公知の方法によって行うことができ、例えば電解めっきまたは無電解めっきを採用することができる。つまり、粗面化処理に続いて、アルミニウム基材を電解ニッケルめっき液に浸漬させて通電、もしくは無電解ニッケルめっき液に浸漬させることでアルミニウム基材表面にニッケルめっきを行う。このとき、凹部に入り込むようにニッケルめっき層が積層されることで錨状部が形成される、あるいは、凸部を包むようにニッケルめっき層が積層されることで錨状部が形成される。前記錨状部が形成されることで、アルミニウム基材とニッケルめっき層との間の密着性を確保することができる。本発明は上記のように界面に錨状部を有する積層体とすることで、工程負荷の高いジンケート処理を省略しつつも、ジンケート処理を行った積層体と同等のめっき密着性と、半田付け後の密着強度を得られる。
【0040】
ニッケルめっき層の形成の後に、半田濡れ性向上の目的で後処理を行ってもよい。後処理の方法は銅めっき、スズめっき、金めっきなどである。
【0041】
以下に実施例および比較例を示して本発明を具体的に説明する。但し、本発明は実施例に限定されるものではない。
【実施例0042】
(実施例1)
アルミニウム基材としてアルミニウム箔(JIS-8021材 硬質箔、厚み35μm、200mm×300mm)を準備した。次に準備したアルミニウム箔の両面について、スプレー法によって液温25℃の塩酸水溶液(濃度8質量%)で40秒エッチングによる粗面化処理を行った。粗面化処理を行ったアルミニウム箔は水洗、乾燥させた後、触針式粗度計(株式会社東京精密製SURFCOM1400D)でアルミニウム箔の粗面化処理を行った面の表面粗さを測定した。
次いで、粗面化処理後のアルミニウム箔を無電解ニッケルめっき液(奥野製薬工業株式会社製トップニコロンMP―GE重金属フリー中リンタイプ)中に浸漬しニッケルめっきを行った。液温を90℃とし、15分間浸漬させることでニッケルめっき層を形成した後、水洗、乾燥をさせて積層体を作製した。
【0043】
(断面観察)
得られた積層体から観察試料を切り出し、前記観察試料の断面(ND-TD)をクロスセクションポリッシャ(日本電子(株)製SM-09010)により平滑に加工した後、そのND-TD断面のうち、ニッケルめっき層およびニッケルめっき層とアルミニウム基材の界面が入るようにある領域の断面を電界放出形走査電子顕微鏡(日本電子株式会社製JSM-7200F)FE-SEMを用いて観察した(図2参照)。図2より、複数の錨状部が形成されていることがわかる。また、倍率1000倍の顕微鏡視野において、TD方向120μmの範囲を観察し、後記の半田付けする側のニッケルめっき層とアルミニウム基材との界面について錨状部の数をカウントした。上記の観察を5視野で実施し、平均値を算出した。
錨状部の数が1個以上/120μm(TD)であれば○、1個未満の場合は×とした。
ニッケルめっき前の粗面化処理を行った面のアルミニウム基材も同様にしてND-TD断面を観察した(図5参照)。図5よりアルミニウム基材の表面に凹部(42)や孤立部(46)が形成されていることがわかる。
【0044】
(半田付け評価)
積層体評価用サンプル(サイズ60mm×70mm)のニッケルめっき層の一方表面上に、Sn、AgおよびCuを含有する組成の半田ペースト(商品名「SN97C P506 D4」、株式会社日本スペリア社製)を、中心間隔が3.35mm、それぞれが1.25mm×1.60mm面積で厚み80μmとなるように2点塗布し、その2点均一にまたがるように3216型チップ抵抗を配置した。
【0045】
前記サンプルを卓上型真空はんだリフロー装置(ユニテンプジャパン株式会社製RSS-450-210)に入れ、真空引きした後に窒素流量1L/分の雰囲気で250℃まで加熱し、30秒保持した。
【0046】
リフロー完了後、半田付けされたチップ抵抗に対し、ボンドテスター(Nordson DAGEシリーズ4000)を使用してシェア強度を測定した。ツール移動速度は0.3mm/秒で実施した。積層体中のアルミニウム基材がアルミニウム箔の場合は、評価用サンプルはプリプレグを使ってFR-4基板と熱接着させて補強するのが好ましい。10点測定し、その平均値を密着強度とした。密着強度(シェア強度)の結果を表1に示す。シェア強度50N以上だったものを○、シェア強度50N未満だったものを×とした。
【0047】
(実施例2)
エッチング液温15℃、時間15秒とした以外は実施例1と同様に積層体を作製した。
【0048】
(実施例3)
エッチング液温30℃、時間20秒とした以外は実施例1と同様に積層体を作製した。
【0049】
(実施例4)
アルミニウム箔の組成が1N30硬質箔、箔厚み15μmであり、エッチング液温30℃とした以外は実施例1と同様に積層体を作製した。ND-TD断面のFE-SEMの観察写真を図3に示す。図3より複数の錨状部が形成されていることがわかる。
【0050】
(実施例5)
エッチング液温37℃とした以外は実施例4と同様に積層体を作製した。
【0051】
(比較例1)
粗面化処理を行わないこと以外は実施例1と同様に積層体を作製した。
【0052】
(比較例2)
粗面化処理として、酸エッチングの代わりにSiC Paper#500(Struers社製)で表面やすり掛けを行うこと以外は実施例1と同様に積層体を作製した。
【0053】
(比較例3)
アルミニウム箔として1N99軟質箔、箔厚み120μmを用いること以外比較例1と同様に積層体を作製した。ND-TD断面のFE-SEMの観察写真を図4に示す。図4より比較例3の積層体には、錨状部が形成されていないことがわかる。
【0054】
それぞれの実施例および比較例について各評価を実施した。その結果を表1に示す。

【0055】
【表1】
【0056】
以上の結果に示される様に、本発明の積層体は、ジンケート処理を行わなくても、アルミニウム基材とニッケルめっき層との間の密着性に優れるため、半田付けを行った際の密着強度に優れていることが分かる。
【符号の説明】
【0057】
1 積層体
2 粗面化処理前のアルミニウム基材
11 アルミニウム基材
12 ニッケルめっき層
32、34 錨状部(突出部)
36、38 錨状部(孤立部)
42 凹部
44 凸部
46 孤立部
48 孤立部

図1
図2
図3
図4
図5