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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023135754
(43)【公開日】2023-09-29
(54)【発明の名称】生体適合部材、およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61L 27/24 20060101AFI20230922BHJP
   A61L 15/32 20060101ALI20230922BHJP
   A61L 15/42 20060101ALI20230922BHJP
   A61L 15/64 20060101ALI20230922BHJP
   A61L 27/56 20060101ALI20230922BHJP
   A61L 27/58 20060101ALI20230922BHJP
【FI】
A61L27/24
A61L15/32 310
A61L15/42 310
A61L15/64 100
A61L27/56
A61L27/58
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022040999
(22)【出願日】2022-03-16
(71)【出願人】
【識別番号】504179255
【氏名又は名称】国立大学法人 東京医科歯科大学
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(74)【代理人】
【識別番号】100108062
【弁理士】
【氏名又は名称】日向寺 雅彦
(74)【代理人】
【識別番号】100168332
【弁理士】
【氏名又は名称】小崎 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100146592
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 浩
(74)【代理人】
【氏名又は名称】白井 達哲
(74)【代理人】
【識別番号】100172188
【弁理士】
【氏名又は名称】内田 敬人
(74)【代理人】
【識別番号】100197538
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 功
(72)【発明者】
【氏名】木村 剛
(72)【発明者】
【氏名】徳野 陽子
(72)【発明者】
【氏名】岸田 晶夫
(72)【発明者】
【氏名】内田 健哉
【テーマコード(参考)】
4C081
【Fターム(参考)】
4C081AA12
4C081AA14
4C081AB19
4C081BA12
4C081BA16
4C081BB07
4C081CD121
4C081DA04
4C081DA06
4C081DB01
4C081DB03
4C081EA02
4C081EA04
4C081EA12
(57)【要約】
【課題】生体内環境における残存性の向上と、機械的な強度の維持とを図ることができる生体適合部材、およびその製造方法を提供することである。
【解決手段】実施形態に係る生体適合部材は、生体適合材料を含む複数の繊維を有する生体適合部材である。前記繊維が延びる方向において、隣接する前記繊維同士が複数の箇所で共有結合している。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体適合材料を含む複数の繊維を有する生体適合部材であって、
前記繊維が延びる方向において、隣接する前記繊維同士が複数の箇所で共有結合している生体適合部材。
【請求項2】
前記繊維が、第1の方向に延びる第1の領域と、前記繊維が、前記第1の方向と交差する第2の方向に延びる第2の領域と、が積層され、
前記第1の領域と、前記第2の領域と、の境界において、1つの前記繊維に対して、積層方向に隣接する複数の前記繊維が共有結合されている請求項1記載の生体適合部材。
【請求項3】
化学架橋成分は含まず、隣接する前記繊維が熱架橋されている請求項1または2に記載の生体適合部材。
【請求項4】
37℃の培地に6日間浸漬しても形状を維持する請求項1~3のいずれか1つに記載の生体適合部材。
【請求項5】
水を主成分とする液体をさらに含み、前記液体の含有率が、40質量%以上、90質量%以下である請求項1~4のいずれか1つに記載の生体適合部材。
【請求項6】
表面に直径が10μm以上のボイドが、1個/mm以上の密度設けられている請求項1~5のいずれか1つに記載の生体適合部材。
【請求項7】
前記生体適合材料は、コラーゲンである請求項1~6のいずれか1つに記載の生体適合部材。
【請求項8】
生体適合材料を含む繊維を堆積させて堆積体を形成する工程と、
前記堆積体に揮発性の液体を浸透させる工程と、
前記堆積体に浸透させた前記液体を揮発させる工程と、
前記液体を揮発させた前記堆積体に、大気圧よりも減圧された環境において、熱架橋処理を施す工程と、
を備え、
前記堆積体を形成する工程において、前記繊維を一方向に引っ張り、堆積された前記繊維が延びる方向を揃え、
前記揮発性の液体を浸透させる工程において、隣接する前記繊維同士の間に働く毛管力により、隣接する前記繊維同士の間の距離を狭め、
前記熱架橋処理を施す工程において、距離が狭められた前記繊維同士を複数の箇所で共有結合させる生体適合部材の製造方法。
【請求項9】
前記揮発性の液体を浸透させる工程において、前記堆積体に、前記揮発性の液体が充填されない空間を形成する請求項8記載の生体適合部材の製造方法。
【請求項10】
前記熱架橋処理が施された前記堆積体に、静水圧処理を施す工程をさらに備えた請求項8または9に記載の生体適合部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、生体適合部材、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、医療分野において用いられる生体適合部材が提案されている。生体適合部材は、例えば、生体内において使用したり、細胞培養用足場として使用したりする。一般的に、生体適合部材は、高い生体適合性を有すると共に、生体内の反応によって徐々に消失する様になっている。生体適合部材が、生体内の反応によって消失すれば、細胞の増殖や組織の再生が阻害されるのを抑制することができる。
【0003】
ところが、生体適合部材の用途によっては、生体内環境(例えば、37℃)において、ある程度の期間残存し、圧縮弾性率などの機械的な強度の低下が少ない方が好ましい場合がある。
そこで、生体内環境における残存性の向上と、機械的な強度の維持とを図ることができる技術の開発が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2021-122557号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、生体内環境における残存性の向上と、機械的な強度の維持とを図ることができる生体適合部材、およびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態に係る生体適合部材は、生体適合材料を含む複数の繊維を有する生体適合部材である。前記繊維が延びる方向において、隣接する前記繊維同士が複数の箇所で共有結合している。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】(a)、(b)は、生体適合部材を例示するための模式図である。
図2】エレクトロスピニング装置を例示するための模式図である。
図3】堆積体の切り出しを例示するための模式図である。
図4】堆積体を用いて生体適合部材を製造する工程を例示するための模式図である。
図5】堆積体を用いて生体適合部材を製造する工程を例示するための模式図である。
図6】堆積体を用いて生体適合部材を製造する工程を例示するための模式図である。
図7】堆積体を用いて生体適合部材を製造する工程を例示するための模式図である。
図8】静水圧処理を例示するための模式図である。
図9】減圧処理を例示するための模式図である。
図10】堆積体の表面のSEM写真である。
図11】(a)、(b)は、集積体の表面のSEM写真である。
図12】(a)、(b)は、静水圧処理と凍結乾燥処理を行った集積体の表面のSEM写真である。
図13】本試験例に係る生体適合部材100の圧縮弾性率の測定結果を示す表である。
図14】(a)は、蒸留水中で行った測定結果を示すグラフである。(b)は、生理食塩水中で行った測定結果を示すグラフである。
図15】水中動的粘弾性測定について、温度37℃における結果をまとめた表である。
図16】集積体の浸漬試験の結果を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照しつつ、実施の形態について例示をする。なお、各図面中、同様の構成要素には同一の符号を付して詳細な説明は適宜省略する。
【0009】
(生体適合部材)
図1(a)、(b)は、生体適合部材100を例示するための模式図である。
図1(a)は生体適合部材100の模式斜視図、図1(b)は図1(a)における生体適合部材100をZ方向から見た図である。
なお、図1(a)、(b)は、生体適合部材100の構成を概念的に現した模式図であり、実際の構成とは必ずしも一致していない。例えば、後述するように、繊維6の直径は、生体適合部材100の厚みに比べて非常に小さいが、図を見やすくするために、繊維6を実際よりも大きく描いている。後述する他の図についても、同様である。
また、図中における矢印X、Y、Zは互いに直交する三方向を表している。例えば、生体適合部材100の厚み方向(生体適合部材100の主面に垂直な方向)をZ方向としている。また、厚み方向に対して垂直な1つの方向をY方向とし、Z方向とY方向とに垂直な方向をX方向としている。
【0010】
図1(a)、(b)に示すように、生体適合部材100は、複数の繊維6を有する。繊維6の直径は、例えば、60nm~3μm程度である。後述するように、繊維6は、例えば、エレクトロスピニング法を用いて形成することができる。
【0011】
生体適合部材100においては、Z方向(厚み方向)における所定の領域において、繊維6が延びる方向がほぼ揃っている。すなわち、生体適合部材100においては、Z方向における所定の領域において、繊維6が大体同じ方向に延びている。
また、生体適合部材100においては、繊維6が第1の方向に延びる第1の領域と、繊維6が第1の方向と交差する第2の方向に延びる第2の領域とが積層されている。
【0012】
例えば、図1(a)、(b)に例示をした生体適合部材100の場合には、生体適合部材100の表面領域においては繊維6がX方向に延びている。また、表面領域の下方においては、繊維6がY方向に延びる領域と、繊維6がX方向およびY方向に交差する方向に延びる領域とが設けられている。
【0013】
なお、図1(a)、(b)においては、繊維6が延びる方向が異なる4つの領域がZ方向に重ねて設けられる場合を例示したが、繊維6が延びる方向、および繊維6が延びる方向が異なる領域の積層数は、生体適合部材100の用途などに応じて適宜変更することができる。
【0014】
例えば、繊維6がX方向に延びる領域と、繊維6がY方向に延びる領域とが、交互に、Z方向に積層されていてもよい(例えば、図3を参照)。
また、繊維6が延びる方向が同じ領域が、Z方向に積層されていてもよい。
【0015】
例えば、生体適合部材100が用いられる生体の部位の構造に合わせて、繊維6が延びる方向、および繊維6が延びる方向が異なる領域の積層数を変更することができる。この様にすれば、生体適合部材100の生体適合性をさらに高めることができる。
【0016】
例えば、生体適合部材100が、生体の腱などに用いられる場合には、繊維6が延びる方向が揃っている領域を1つ設けることができる。この様にすれば、生体の腱などに対する生体適合部材100の生体適合性を向上させることができる。
例えば、生体適合部材100が、生体の皮膚などに用いられる場合には、繊維6が延びる方向が異なる領域をZ方向に複数設けることができる。この様にすれば、生体の皮膚などに対する生体適合部材100の生体適合性を向上させることができる。
【0017】
なお、図1(a)、(b)においては、Z方向における所定の領域において、繊維6が延びる方向がほぼ揃っていることを表すため、繊維6と繊維6を離隔させて描いているが、隣接する繊維6同士はほぼ密着している。
【0018】
また、隣接する繊維6同士においては、繊維6に含まれている生体適合材料(線状の高分子)中の原子同士が、直接共有結合している。後述するように、生体適合部材100には、化学架橋成分が含まれておらず、隣接する繊維6が熱架橋されている。また、例えば、繊維6が延びる方向において、隣接する繊維6同士が複数の箇所で共有結合している。そのため、隣接する繊維6同士が直線状に結合されている。なお、隣接する繊維6は、X方向またはY方向のみならず、Z方向にもある。
【0019】
また、隣接する繊維6同士の共有結合は、繊維6が延びる方向が同じ領域の内部のみならず、積層された領域同士の境界においても生じている。例えば、共有結合は、積層された領域同士の境界において、積層方向(Z方向)に隣接する繊維6同士においても生じている。
【0020】
この場合、共有結合している箇所が多くなれば、結合力が強くなる。1つの領域の内部においては、繊維6が延びる方向がほぼ揃っている。そのため、1つの領域の内部においては、1つの繊維6と、これに隣接する1つの繊維6との間における共有結合している箇所が多くなる。
【0021】
これに対し、積層された領域同士の境界においては、一方の領域に含まれる繊維6が延びる方向と、他方の領域に含まれる繊維6が延びる方向とが交差している。そのため、積層された領域同士の境界においては、積層方向に隣接する1つの繊維6と、これに隣接する1つの繊維6との間における共有結合している箇所が少なくなる。しかしながら、積層された領域同士の境界においては、1つの繊維6に対して、積層方向に隣接する繊維6が複数ある。そのため、積層された領域同士の境界においては、1つの繊維6に対して、積層方向に隣接する複数の繊維6が共有結合されている。その結果、積層された領域同士の境界において結合力が弱くなるのを抑制することができる。
【0022】
隣接する繊維6同士の共有結合は、架橋により行うことができる。この場合、隣接する繊維6同士を化学架橋によって共有結合させると、生体適合材料が変性したり、毒性をもったりして生体親和性が低下するおそれがある。また、隣接する繊維6同士を、単に、熱架橋(熱脱水架橋、加熱脱水架橋などとも称される)によって共有結合させると、繊維6の表面が変性(例えば、酸化)して、生体親和性が低下するおそれがある。
本実施の形態に係る生体適合部材100には、化学架橋成分が含まれていない。すなわち、隣接する繊維6同士を化学架橋によって共有結合させていない。また、隣接する前記繊維は熱架橋されている。ただし、本実施の形態に係る生体適合部材100においては、熱架橋を行う際に、繊維6の表面が変性するのを抑制している。そのため、隣接する繊維6同士の結合力を高めることができるとともに、高い生体親和性を得ることができる。なお、熱架橋に関する詳細は後述する。
【0023】
また、生体適合部材100においては、繊維6同士はほぼ密着しているため、生体適合部材100を顕微鏡で観察しても、それぞれの繊維6が識別できるとは限らない。また、積層された領域同士の境界も、明瞭に観察できるとは限らない。
【0024】
また、生体適合部材100の表面などには、直径が10μm以上のボイドが、1個/mm以上の密度で設けられていてもよい。
例えば、生体適合部材100の表面に、直径が10μm以上のボイドが、1個/mm以上の密度で設けられていれば、生体適合部材100を生体内に配置したときに、生体の細胞がボイド内に進入しやすくなる。そして、ボイド内に進入した細胞を足場にして、生体適合部材100の内部に細胞がさらに進入していく。そのため、生体適合部材100の生体適合性をさらに高めることができる。
【0025】
またさらに、生体適合部材100は、水を主成分とする液体を含むことができる。水を主成分とする液体は、例えば、純水、生理食塩水、ウシ胎児血清(FBS)などの血清、各種液体培地、タンパク質やRNA、DNA、基質を含む水溶液、細胞などの懸濁液、体液、血液である。例えば、水を主成分とする液体は、繊維6と繊維6との間に保持されている。水を主成分とする液体が、生体適合部材100に含まれていれば、生体適合部材100が配置される生体組織の構成に近づけることができる。
【0026】
例えば、水を主成分とする液体の含有率は、40質量%以上、90質量%以下とすることができる。この様にすれば、生体適合部材100における液体の含有率を、生体組織における液体の含有率に近づけることができるので、生体適合部材100の生体適合性をさらに高めることができる。
また、生体適合部材100が水を主成分とする液体を含んでいれば、含水処理などをしなくても、そのまま生体内に配置したり、細胞培養用足場として使用したりすることができる。
【0027】
また、生体適合部材100が水を主成分とする液体を含んでいれば、生体適合部材100の柔軟性が高くなる。そのため、生体適合部材100をハサミやメスで切断するのが容易となる。また、生体適合部材100を生体内に配置したときに、周囲の細胞組織が損傷するのを抑制することができる。
【0028】
繊維6は、生体適合材料を含む。生体適合材料は、例えば、生体由来材料である。生体由来材料は、例えば、生命活動によって生成された材料、または、これを加工して得られた材料である。また、生体適合材料は、生体由来材料でなくてもよい。例えば、生体適合材料は、合成高分子、人工合成で得られた機能性タンパク質や合成ポリペプチド等であってもよい。
【0029】
例えば、生体適合材料は、コラーゲン、ラミニン、ゼラチンなどのタンパク質、デオキシリボ核酸(DNA)、リボ核酸(RNA)等の核酸、及び、キトサン、キチン、ヒアルロン酸、アルギン酸、ヘパリンなどの多糖類等である。また、生体適合材料としての合成高分子は、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリ(メタクリル酸2-ヒドロキシエチル)(PHEMA)、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)(PNIPAAm)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリシアノアクリル酸エステル、ポリエチレンテレフタラート(PET)、ナイロン66、ポリウレタン(PU)、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリ乳酸(PLA)、ポリグリコール酸、ポリカプロラクトンなどのポリヒドロキシ酸類、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、ポリジメチルシロキサン(PDMS)などのシリコーンである。
【0030】
前述した様に、繊維6が、生体適合材料を含んでいれば、生体適合部材100の生体適合性を向上させることができる。生体適合性を向上させることができれば、例えば、生体適合部材100を生体内に配置しても、毒性を示すことがない。また、生体における炎症等の拒絶反応を抑制できる。
この場合、高次元のコラーゲンを含む繊維6により生体適合部材100が形成されていれば、拒絶反応をより効果的に抑制できる。
そのため、以下においては、一例として、繊維6が、高次元のコラーゲン、すなわち、立体構造のコラーゲンを含む場合を説明する。一般的なコラーゲン分子の構造は3重らせん構造であり、繊維6に含まれる高次元のコラーゲンも、3重らせん構造を有している。
【0031】
生体適合部材100の形態は、例えば、シート状である。生体適合部材100の平面寸法および平面形状は、生体適合部材100の用途などに応じて適宜変更することができる。
繊維6が延びる方向が揃っている1つの領域の厚みは、例えば、5μm~500μm程度である。生体適合部材100の厚みは、積層数に応じて適宜変更することができる。前述した様に、積層数は、生体適合部材100の用途などに応じて適宜変更することができる。一般的には、生体適合部材100の厚みは、例えば、0.03mm~50mm程度である。
【0032】
生体適合部材100は、固体であり、流動性はない。また、水を主成分とする液体を含む生体適合部材100は、軟質な弾性体である。そのため、生体適合部材100を、ハサミやメスで容易に切断することができる。例えば、医療現場において、生体適合部材100をピンセットでつまみつつ、ハサミやメスで切断したり、傷口の形状に合わせて折り曲げたりして加工することができる。すなわち、本実施の形態に係る生体適合部材100は取り扱いが容易である。
【0033】
また、繊維6が高次元のコラーゲンを含む場合は、生体適合部材100は、例えば、透明または半透明である。生体適合部材100が、透明又は半透明であれば、組織損傷部や腫瘍切除後の空間に合わせて生体適合部材100を配置するのが容易となる。
【0034】
前述した様に、Z方向における所定の領域において、繊維6が延びる方向はほぼ揃っている。また、隣接する繊維6同士はほぼ密着するとともに、隣接する繊維6同士が共有結合している。そのため、所定の領域において、繊維6が高密度に配置された緻密な構造を持つことで、シート材料としての圧縮弾性率を高くすることができる。
【0035】
例えば、生体適合部材100が、繊維6がX方向とY方向の二方向に延びる領域を有する場合には、Z方向における生体適合部材100の圧縮弾性率Emを5kPa以上とすることができる。
また、動的粘弾性法により、粘弾性-温度曲線の測定を行うと、室温(例えば、23℃)から90℃の領域において貯蔵弾性率E'は損失弾性率E''よりも高くなる。
【0036】
生体適合部材100の圧縮弾性率が低くなると、例えば、水を主成分とする液体を生体適合部材100に含有させたときに、生体適合部材100が脆弱化し、形状を維持できなくなる場合がある。例えば、液体の含有率を生体組織に近い値にすると、生体適合部材100がジェル状になるなどして、生体適合部材100の取り扱いが困難となる。
【0037】
この場合、生体適合部材100の圧縮弾性率が5kPa以上であり、貯蔵弾性率が損失弾性率よりも高い、いわゆる弾性体であれば、生体適合部材100は水を主成分とする液体を含有しても、形状を維持することができる性質を有しているといえる。また、生体適合部材100を、ピンセット等でつまんで持ち上げても形状を維持することができる。そのため、生体適合部材100の取り扱いが容易となる。
【0038】
ここで、繊維6を生体由来材料により形成し、繊維6を含む生体適合部材100を生体内に配置すると、生体の代謝に伴って生体由来材料が消費されるので、繊維6がほぐれていく。この場合、隣接する繊維6同士が、分子間力、疎水性相互作用、水素結合などの非共有結合的相互作用により接合されていると、隣接する繊維6同士の接合力が弱くなる。隣接する繊維6同士の接合力が弱いと、生体内の反応によって生体適合部材100が消失し易くなる。
【0039】
この場合、生体適合部材100の用途によっては、生体適合部材100が早期に消失する方が好ましい場合もあるが、生体適合部材100が、生体内環境(例えば、37℃)において、比較的長い期間残留し、且つ、機械的な強度を維持している方が好ましい場合もある。
【0040】
例えば、細胞培養用足場などは、生体内環境において、比較的長い期間残存し、且つ、機械的な強度を維持していることが好ましい。
また、生体適合部材100を生体内に配置した際に、圧力や熱が、周囲の生体組織から生体適合部材100に加えられる場合がある。この場合、隣接する繊維6同士の接合力が弱いと、積層させた領域同士の間に隙間が生じ易くなる。積層させた領域同士の間に隙間が生じると、生体適合部材100が消失し易くなる。しかしながら、生体適合部材100を生体内に配置する場合にも、生体適合部材100が、比較的長い期間残存し、且つ、機械的な強度を維持していることが好ましい場合がある。
【0041】
本実施の形態に係る生体適合部材100においては、生体適合部材100の内部において、隣接する繊維6同士が複数の箇所で、共有結合している。そのため、隣接する繊維6同士の間の結合力を高めることができるので、生体適合部材100を生体内環境に配置しても、繊維6がほぐれるのを抑制することができる。その結果、生体内環境において、生体適合部材100の残存性の向上と、生体適合部材100の機械的な強度の維持とを図ることができる。
例えば、後述するように、生体適合部材100は、37℃の培地に6日間浸漬しても形状を維持することができる。
【0042】
また、生体適合部材100は、周辺の細胞組織との適合性が高い。そのため、例えば、生体適合部材100を、組織損傷部や腫瘍切除後の空間に配置すれば、細胞増殖の足場としたり、傷口の治癒や組織再構築を促進したりすることができる。また、人工物や薬物を体内に埋め込む際の被覆材として生体適合部材100を用いる場合がある。生体適合部材100を被覆材として用いれば、体内での炎症を抑えることができる。また、生体外において細胞・組織を増殖させる際に、生体適合部材100を足場として用いる場合がある。生体適合部材100を足場として用いれば、細胞・組織を効率的または三次元的に増殖・培養させることができる。
これらの用途においても、生体適合部材100が、比較的長い期間残存し、且つ、機械的な強度を維持していることが好ましい場合がある。
【0043】
本実施の形態に係る生体適合部材100は、これらの様な用途に好適に用いることができる。
【0044】
(生体適合部材の製造方法)
次に、本実施の形態に係る生体適合部材100の製造方法について説明する。
まず、エレクトロスピニング装置101を用いて、繊維6を形成し、形成された繊維6を堆積させて堆積体7を形成する。また、形成された繊維6を堆積させる際に、繊維6を機械的に一方向に引っ張ることで、堆積体7における繊維6が延びる方向をなるべく揃える。また、繊維6同士の間の距離をなるべく小さくする。
【0045】
図2は、エレクトロスピニング装置101を例示するための模式図である。
図2に示すように、エレクトロスピニング装置101には、ノズル102、電源103、および収集部104が設けられている。
電源103は、ノズル102に電圧を印加して、原料液110を帯電させる。
原料液110は、生体適合材料を溶媒に溶解したものである。生体適合材料は、例えば、コラーゲンである。溶媒は、例えば、水、アルコール類などである。
収集部104は、例えば、円柱状を呈し、一方向に回転する。また、収集部104には、ノズル102に印加する電圧と逆極性の電圧を印加してもよい。
【0046】
帯電した原料液110は、静電力により収集部104に向けて引き出される。引き出された原料液110は、引き伸ばされ、原料液110に含まれている溶媒が揮発して繊維6が形成される。この際、原料液110に含まれている生体適合材料の分子の向きは繊維の長手方向にある程度揃うように配置される。形成された繊維6は、回転している収集部104の上に堆積する。この際、繊維6が機械的に一方向に引っ張られるので、堆積体7における繊維6が延びる方向がある程度揃えられる。また、繊維6同士の間の距離を小さくすることができる。
【0047】
なお、回転する収集部104により、繊維6を一方向に引っ張る場合を例示したが、例えば、繊維6が引き出される方向にガスを流し、ガス流により繊維6を一方向に引っ張ることもできる。
【0048】
次に、所望の方向に延びる繊維6が含まれるように、堆積体7から堆積体7a~7cを切り出す。
図3は、堆積体7a~7cの切り出しを例示するための模式図である。
図3に示すように、堆積体7における繊維6が延びる方向を基準に、堆積体7a~7cの回転方向の位置を変えて堆積体7a~7cを切り出せば、所望の方向に延びる繊維6を含む堆積体7a~7cを得ることができる。
例えば、堆積体7aは、X方向に延びる繊維6を含む。堆積体7bは、Y方向に延びる繊維6を含む。堆積体7cは、X方向に対して45°傾いて延びる繊維6を含む。
なお、以下においては、一例として、堆積体7a、7bを用いて生体適合部材100を製造する場合を説明する。
【0049】
図4図7は、堆積体7a、7bを用いて生体適合部材100を製造する工程を例示するための模式図である。
まず、図4に示すように、基材112の上に、堆積体7a、7bを交互に積層させる。
【0050】
基材112の組成および形状は特に限定されないが、積層された堆積体7a、7bとの密着性が良好になるような組成及び形状が好ましい。基材112の材料は、例えば、ポリスチレン(PS)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリ乳酸(PLA)、ポリエチレンオキサイド(PEO)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリエチレンテレフタラート(PET)、ポリカーボネート(PC)、ポリウレタン(PU)、シリコーンなどの合成高分子、コラーゲン、ゼラチン、ラミニン、キトサン、キチンなどの天然高分子、ステンレス、チタン、アルミニウムなどの金属類、二酸化ケイ素、アルミナ、チタニア、ジルコニアなどのセラミック、脱細胞化組織、ヒトの皮膚、歯、臓器などの生体組織であってもよい。また、基材112として、既に製造した生体適合部材100を用いてもよい。基材112として、生体適合部材100を成形して形成した基板、布、球体、棒、チューブ等の部材を用いてもよい。基材112として、人工血管、人工弁、人工関節、人工歯、オルガノイドなどの人工ミニ臓器、培養肉、植物肉などの人工肉類などの人工生体構造物を用いてもよい。さらに、基材112には、薬剤、細胞、血液、体液、血清などが含まれていてもよい。
【0051】
次に、図5に示すように、積層された堆積体7a、7bに、揮発性の液体を浸透させる。
揮発性の液体は特に限定されないが、繊維6がなるべく溶解しないものとすることが好ましい。例えば、水、アルコール類(エタノール、メタノール、イソプロピルアルコール、ブタノールなど)、アルコール水溶液、ケトン類(アセトン、エチルメチルケトンなど)などを用いる。
例えば、基材112に載置された堆積体7a、7bの上に、エタノールを含ませたウエス113を載せる。すると、ウエス113に含まれているエタノールが堆積体7a、7bに浸透する。この場合、エタノールの浸透量を調整して、堆積体7a、7bの内部に微小な気泡(揮発性の液体が充填されない空間)が形成されるようにすることができる。堆積体7a、7bに所定量のエタノールが浸透したらウェス113は剥せばよい。
【0052】
またさらに、図6に示すように、堆積体7a、7b上に基材112と同様の基材112bと重し114を載せ、堆積体7a、7bを積層方向に圧縮しつつ、浸透させた揮発性の液体を揮発させて集積体17を形成することもできる。こうすることで、図7に示すような、平面方向の収縮を抑えつつ積層方向の密着性を高めた集積体17を形成することができる。尚、堆積体7a、7bの上に基材112bや重し114を載せずに揮発・乾燥させても良い。
【0053】
前述した様に、堆積体7a、7bに含まれている繊維6は延びる方向がある程度揃っており、繊維6同士の間の距離もある程度小さくなっている。そのため、揮発性の液体が揮発する際に、隣接する繊維6同士の間に、液体の毛管力が作用しやすくなる。液体の毛管力が働くことで、隣接する繊維6同士が密着する。この場合、繊維6同士が、例えば、非共有結合的相互作用によって部分的に接合する。非共有結合的相互作用は、例えば、分子間力、疎水性相互作用、水素結合などである。
【0054】
集積体17においては、繊維6が三次元的に集積している。また、堆積体7a、7bに、前述した微小な気泡が形成されていれば、揮発性の液体が揮発した後に、集積体17にボイドを形成することができる。基材112と密着した集積体17の厚みは、揮発性の液体を浸透させる前の堆積体7a、7bの厚みの2/3~1/5程度になる。また、集積体17は透明又は半透明になる。
【0055】
ここで、集積体17においては、隣接する繊維6同士が、非共有結合的相互作用により部分的に接合されている。そのため、前述した様に、隣接する繊維6同士の接合力を大きくするのは困難である。隣接する繊維6同士の接合力を大きくすることができないと、生体内環境において、集積体17が、比較的短い期間で消失したり、比較的短い期間で集積体17の機械的な強度が低下したりする。
【0056】
そこで、次に、生体内環境における残存性の向上と、機械的な強度の維持とを図るために、隣接する繊維6同士を共有結合させる。隣接する繊維6同士の共有結合は、熱架橋により行うことができる。ただし、単に熱架橋を行うと、繊維6の表面が変性(例えば、酸化)して、生体親和性が低下するおそれがある。
【0057】
そのため、本実施の形態に係る生体適合部材100の製造方法においては、大気圧よりも減圧された環境において、集積体17に熱架橋処理(いわゆる真空熱架橋処理)を施すようにしている。
大気圧よりも減圧された環境における熱架橋処理は、例えば、集積体17を、圧力が10Pa以下、温度が100℃~200℃程度の雰囲気に10分~48時間程度晒すことで行うことができる。
【0058】
この場合、大気圧よりも減圧された環境における熱架橋は、コラーゲンを構成するアミノ基などによる脱水縮合反応であるため、熱架橋処理の前に集積体17を乾燥させることが好ましい。集積体17を形成する際に用いた液体は揮発性の液体であるため、例えば、自然乾燥などによっても集積体17を乾燥させることができる。しかしながら、集積体17を大気中に長時間放置すると、繊維6の表面が変性するおそれがある。
そのため、必要に応じて、熱架橋処理の前に、集積体17に、ドライエア乾燥処理、真空乾燥処理、凍結乾燥処理などを施すこともできる。例えば、集積体17を液体窒素などに浸漬させて凍結させたのち、高真空で氷を昇華すればよい。
【0059】
ここで、熱架橋は、繊維6の架橋される部分同士の間の距離が小さくなるほど生じ易くなる。そのため、例えば、繊維6を機械的に引っ張って作成した堆積体7a~7cに熱架橋処理を直接施しても、隣接する繊維6同士が共有結合する箇所を多くするのは困難である(図10を参照)。
【0060】
前述した様に、集積体17においては、液体の毛管力により、隣接する繊維6同士がほぼ密着している。また、隣接する繊維6同士が、非共有結合的相互作用により部分的に接合されている。そのため、集積体17に、大気圧よりも減圧された環境において熱架橋処理を施せば、低温または短時間の熱処理で隣接する繊維6同士をより多くの箇所で共有結合させることができる。共有結合している箇所が多くなれば結合力が高くなるので、前述した様に、生体内環境における生体適合部材100の残存性の向上と、生体適合部材100の機械的な強度の維持とを図ることができる。
【0061】
一般的に、繊維6は、吸着水や結合水を含んでいる。また、前述した様に、集積体17は、内部に微小なボイドを有している。ここで、集積体17が減圧された環境で加熱されると、熱脱水反応によって脱離する水分、あるいはボイド内に含まれるガス(例えば、空気)は熱膨張する。そのため、発生したガスが、集積体17の内部から外部に抜けるように、例えば、隣接する繊維6および堆積体7a、7bの密着状態を調整することができる。また、熱架橋処理の前に、集積体17に静水圧処理、凍結乾燥処理を施すこともできる。
【0062】
熱架橋処理が施された集積体17aは、基材112から剥離して生体適合部材100として用いることもできるし、基材112と一体のまま生体適合部材100として用いることもできる。
【0063】
すなわち、以上の様にして、生体適合部材100(熱架橋処理が施された集積体17a)を製造することができる。
【0064】
以上の様にして製造された生体適合部材100は、乾燥状態となっている。そのため、生体適合部材100の保存や搬送が容易となる。
一方、前述したように、生体適合部材100を使用する際には、水を主成分とする液体を生体適合部材100に含ませる。
そのため、必要に応じて、熱架橋処理が施された集積体17aに含水処理を施すこともできる。
【0065】
含水処理は、例えば、水を主成分とする液体に集積体17aを浸漬させて静置したり、水を主成分とする液体を集積体17aに供給したり、水を主成分とする液体を霧状にして集積体17aに吹き付けたりすることで行うことができる。水を主成分とする液体は、繊維6同士の間にあるボイドや隙間に浸透し、繊維6が水を吸収して膨潤する。含水処理が施されると、集積体17aは室温の環境下で2倍~5倍に膨潤する。ボイドや隙間への液体の浸透を促進するために、減圧処理、静水圧処理、超音波処理などを施すことができる。
以上の様にして、水を主成分とする液体を含む生体適合部材100を製造することができる。
【0066】
ここで、含水処理を施した際に、集積体17aを充分に膨潤させた方が好ましい場合がある。この様な場合には、熱架橋処理が施された集積体17aに静水圧処理を施すことができる。
図8は、静水圧処理を例示するための模式図である。
図8に示すように、熱架橋処理が施された集積体17aと、水を主成分とする液体116とを密閉袋117に封入する。集積体17aと液体116とが封入された密閉袋117は、ポンプ118が接続されたチャンバ119の内部に載置される。
【0067】
そして、ポンプ118により、チャンバ119の内部に空気120を供給し、チャンバ119の内圧を上昇させる。チャンバ119の内圧が上昇すると、密閉袋117を介して、液体116および集積体17aが加圧される。ポンプ118の代わりにピストンを使用することもできる。また、空気120のかわりに水やプロピレングリコールなどの液体の圧媒を用いることもできる。チャンバ119の内圧は、例えば、5MPa以上、1GPa以下、好ましくは、100MPa以上、1GPa以下とすることができる。液体116が加圧されることで、繊維6同士の間にあるボイドや隙間に液体116が等方的に浸透する。また、繊維6同士の間に存在していた空気が集積体17aから排出される。以上の様にして、熱架橋処理が施された集積体17aに静水圧処理(含水処理)を施すことができる。
【0068】
静水圧処理を施せば、集積体17aの膨潤を促進することができる。また、静水圧処理を施せば、前述した含水処理に比べて、繊維6の水和を促進するとともに、集積体17aに効率的に液体116を含有させることができる。また、静水圧処理を施せば、生体適合部材100(集積体17a)に含まれる菌が減少する。生体適合部材100が殺菌されれば、生体適合部材100の生体適合性が向上する。
【0069】
また、熱架橋処理が施された集積体17aに減圧処理を施すこともできる。
図9は、減圧処理を例示するための模式図である。
図9に示すように、チャンバ121の内部に、熱架橋処理が施された集積体17aと、水を主成分とする液体116とを収納する。次に、真空ポンプなどを用いて、チャンバ121の内部を減圧する。例えば、チャンバ121の内圧を1気圧未満とする。液体116が減圧されることで、繊維6同士の間に存在していた空気が集積体17aから排出され、繊維6同士の間に液体116が浸透する。以上の様にして、熱架橋処理が施された集積体17aに減圧処理(含水処理)を施すことができる。
なお、減圧処理を施した後に、前述した静水圧処理を施してもよい。
【0070】
以上に説明した様に、本実施の形態に係る生体適合部材100の製造方法は、以下の工程を備えることができる。
堆積体に揮発性の液体を浸透させる工程。
堆積体に浸透させた液体を揮発させる工程。
液体を揮発させた堆積体に、大気圧よりも減圧された環境において、熱架橋処理を施す工程。
この場合、堆積体を形成する工程において、繊維を一方向に引っ張り、堆積された繊維が延びる方向を揃える。
揮発性の液体を浸透させる工程において、隣接する繊維同士の間に働く毛管力により、隣接する繊維同士の間の距離を狭める。
熱架橋処理を施す工程において、距離が狭められた繊維同士を複数の箇所で共有結合させる。
【0071】
また、揮発性の液体を浸透させる工程において、堆積体に、揮発性の液体が充填されない空間を形成することができる。
また、熱架橋処理を施す前に、静水圧処理を施す工程と凍結乾燥処理を施す工程とをさらに備えることができる。
また、熱架橋処理が施された堆積体に、静水圧処理を施す工程をさらに備えることができる。
【0072】
(試験例)
次に、試験例について説明する。
本試験例においては、生体適合材料として、生体由来材料であるコラーゲンを用いた。 揮発性の液体として、エタノールを用いた。
本試験例においては、前述した生体適合部材100の製造方法を用いて生体適合部材100を製造した。
【0073】
(外観観察)
生体適合部材100の製造における各工程の試料を、SEM(Scanning Electron Microscope:走査型電子顕微鏡)によって観察した。
【0074】
図10は、堆積体7aの表面のSEM写真である。なお、堆積体7b、7cの場合も同様である。
前述した様に、堆積体7aは、エレクトロスピニング法により形成された堆積体7から切り出される。エレクトロスピニング法により堆積体7を形成する際には、繊維6を機械的に一方向に引っ張って、繊維6が延びる方向をなるべく揃える。また、繊維6同士の間の距離をなるべく小さくする。
【0075】
しかしながら、繊維6を機械的に一方向に引っ張っても、繊維6が延びる方向を揃えたり、繊維6同士の間の距離を小さくしたりするのには限界がある。そのため、図10から分かるように、複数の繊維6を密着させるのは困難である。
前述した様に、熱架橋は、繊維6の架橋される部分同士の間の距離が小さくなるほど生じ易くなる。そのため、図10に示すような状態の繊維6に熱架橋処理を施しても、隣接する繊維6同士が共有結合する箇所を多くするのは困難である。
つまり、エレクトロスピニング法により形成された堆積体に、熱架橋処理を施しても、生体内環境における残存性の向上と、機械的な強度の維持とを図ることは困難である。
【0076】
図11(a)、(b)は、エタノールによる処理後の堆積体7aの表面のSEM写真である。図11(a)は、堆積体7aと基材112bとの密着を強くして処理を施し、図11(b)は、堆積体7aと基材112bとの密着を弱くして処理を施した場合である。
なお、堆積体7b、7cの場合も同様である。
図10において説明した様に、堆積体7aに含まれている繊維6は延びる方向がある程度揃っており、繊維6同士の間の距離もある程度小さくなっている。そのため、エタノールが揮発する際に、隣接する繊維6同士の間に、エタノールの毛管力が作用しやすくなる。
【0077】
そのため、図11(a)、(b)に示すように、エタノールの毛管力により、隣接する繊維6同士が密着する。また、前述した様に、繊維6同士が、非共有結合的相互作用によって部分的に接合する。非共有結合的相互作用は、例えば、分子間力、疎水性相互作用、水素結合などである。
【0078】
(偏光FT-IR-ATR法)
延伸された高分子材料においては、分子の長軸が延びる方向(分子軸)が、高分子材料(繊維)が延びる方向となる傾向がある。そのため、生体適合部材100の表面における分子の長軸が延びる方向を調べれば、繊維6が延びる方向が推定され、ひいては、繊維6が配向されているか否かを判定できる。なお、繊維6が大体同じ方向に延びていることを、繊維6が「配向」されていると称する。
【0079】
分子の長軸が延びる方向は、高分子材料の種類に応じた構造決定手段により知ることができる。例えば、ポリスチレンなどの場合にはラマン分光法を用いることができ、ポリイミドなどの場合には偏光吸光度分析法を用いることができる。本試験例においては、一例として、高分子材料がコラーゲンなどのアミド基を有する有機化合物である場合を説明する。アミド基を有する有機化合物の場合には、例えば、赤外分光法の一種である偏光FT-IR-ATR法(Fourier Transform-Infrared Spectroscopy- Attenuated Total Reflectance:フーリエ変換赤外分光全反射測定法)を用いて分子の長軸が延びる方向を知ることができる。
【0080】
以下、偏光FT-IR-ATR法による分析方法について説明する。
波数が1640cm-1の光の吸収強度をT1とし、波数が1540cm-1の光の吸収強度をT2とする。吸収強度T1は、分子の長軸が延びる方向と直交する方向における吸収強度である。吸収強度T2は、分子の長軸が延びる方向における吸収強度である。そのため、所定の偏光方向における吸光度比(T1/T2)が小さくなれば、その偏光方向に延びている分子が多いことが分かる。
【0081】
そして、含水処理後の生体適合部材100を凍結乾燥させた試料について、偏光方向とのなす角度を変更しつつ、吸光度比(T1/T2)を測定する。値が最大となる吸光度比をR1とし、値が最小となる吸光度比をR2とする。例えば、吸光度比R2が得られる生体適合部材100の向きは、吸光度比R1が得られる生体適合部材100の向きに対して90°回転している。そして、比(R1/R2)を配向度パラメータとする。配向度パラメータ(R1/R2)が大きいほど、配向の程度が高い。
【0082】
含水処理後の生体適合部材100を凍結乾燥させた試料においては、配向度パラ-メータ(R1/R2)の値は約1.10であった。このように、含水処理後の生体適合部材100においては、繊維6が配向していることが確認された。
【0083】
図12(a)、(b)は、静水圧処理と凍結乾燥処理を行った集積体17の表面のSEM写真である。図12(a)、(b)から分かるように、含水処理後の生体適合部材100の表面には、直径が10μm以上のボイドが1個/mm以上の密度で形成されていた。
【0084】
(圧縮弾性率)
生体適合部材100について、クリープメータを用いた定速圧縮試験を行った。生体適合部材100の厚みは、1~4mmとし、真空熱架橋処理の温度は140℃、時間は、1h、4hの2水準とした。比較例1においては、真空熱架橋処理を施さなかった。各水準について、直径8mmの試験片に打ち抜いた3つの試料を作製し、測定した。すべての測定において圧縮速度は0.05mm/sとし、印加する最大ひずみは50%とした。測定温度は20℃とした。
【0085】
図13は、本試験例に係る生体適合部材100の圧縮弾性率の測定結果を示す表である。
図13に示すように、3個の試料(実施例1~3)の測定結果において、歪み0~10%における圧縮弾性率E0は0.35~0.55kPaであった。歪み42~48%における圧縮弾性率Emは8.5~11.3kPaであった。
【0086】
(動的粘弾性測定)
生体適合部材100について、圧縮モードの水中動的粘弾法により粘弾性を測定した。生体適合部材100の厚みを3mmとし、昇温範囲を室温(例えば、24℃)から90℃までとし、昇温速度を2℃/分とし、昇温させながら粘弾性を測定とした。浸漬液は、蒸留水あるいは生理食塩水の2水準とした。蒸留水として富士フィルム和光純薬製の高速液体クロマトグラフ用蒸留水、生理食塩水として扶桑薬品工業製の生理食塩液PL「フソー」を用いた。生体適合部材100に正弦波力を印加し、歪み0.17~7%における貯蔵弾性率E'および損失弾性率E''を測定し、複素弾性率E*を算出した。正弦波力の周波数は1Hzとした。
【0087】
図14(a)は、蒸留水中で行った測定結果を示すグラフである。横軸に温度をとり縦軸に貯蔵弾性率と損失弾性率をとって、本試験例に係る生体適合部材100の貯蔵弾性率、損失弾性率-温度曲線を示している。図14(b)は、生理食塩水中で行った測定結果を示すグラフである。横軸に周波数をとり縦軸に貯蔵弾性率と損失弾性率をとって、本試験例に係る生体適合部材100の貯蔵弾性率、損失弾性率-温度曲線を示すグラフである。
【0088】
図14(a)、(b)に示すように、生体適合部材100は,真空熱架橋処理を施さなかった比較例と比べて,37℃以上における温度範囲の全域において弾性率の低下が小さかった。このとき、測定時の試料厚みに対応する装置のチャック間距離の変動は、測定開始時から終了時までの範囲で±10%以内で安定していた。なお、比較例1~4は、40℃以上の領域でチャック間距離の減少がみられ、測定終了時のチャック間距離は初期のおよそ43~46%であった。加熱に伴う軟化が生じたものと推察され、40℃以上のデータを記載していない。
【0089】
図15は、図14(a)、(b)の水中動的粘弾性測定について、温度37℃における結果をまとめた表である。37℃において、貯蔵弾性率が損失弾性率よりも高かった。このため、生体適合部材100は弾性体としての性質を維持した。測定時のチャック間距離から見積もった、測定時の試料の厚み維持率は95~98%であった。
【0090】
(浸漬試験)
エタノールによる処理が施され、熱架橋処理が施されていない集積体17と、エタノールによる処理が施された後、熱架橋処理が施された集積体17a(生体適合部材100)とを、MilliQ水による含水処理を施したのち、直径8mmの試験片に打ち抜いた。この試験片を、培地に浸漬させて37℃の温度で保管し、経過を観察した。培地としてDMEM(1%PS、10FBS)をそれぞれ700μL用いた。目視、位相差顕微鏡、実体顕微鏡により、集積体17および集積体17aの残存性を評価した。また、電子天秤により、熱架橋処理後および含水後、浸漬試験後における集積体17aの重量を測定し、含水重量分率を求めた。
【0091】
図16は集積体17と集積体17aの浸漬試験の結果を示す表である。6日浸漬後も形状を維持し、残存が認められたものは〇、浸漬後に収縮が認められるものの、残存が認められたものは△、浸漬後に観察困難で消失が認められたものは×とした。
熱架橋処理が施されていない集積体17は、1日程度で消失した。
熱架橋処理が施された集積体17aは、6日後においても試験片の形態を保っていた。
【0092】
この結果により、熱架橋処理が施された集積体17aは、熱架橋処理が施されていない集積体17に比べて、隣接する繊維6同士の結合力が大きく、分解されにくいことが示された。また、生体内において、生体適合部材100に応力や熱が加わっても、生体適合部材100が生体内にある程度残存することができ、機械的な強度も維持できることが推定された。
【0093】
(ラットの皮下移植)
生体適合部材100(熱架橋処理が施された集積体17a)をラットの皮下に移植し、1日後、4日後、7日後の状態を目視で観察した。N数は3とした。
その結果、真空熱架橋処理を4h行った集積体17aでは、移植して4日後においても生体適合部材100がゲル状となるらず、残存していた。移植して6日後においても、3個中1個は形状を維持して残存していた。
真空熱架橋処理を1h行った集積体17aでは、移植して1日後においても生体適合部材100がゲル状とならずに残存していた。移植して4日後の時点で消失していた。
この間、炎症等の拒絶反応は観察されなかった。
【0094】
以上に説明した実施形態によれば、生体内環境における残存性の向上と、機械的な強度の維持とを図ることができる生体適合部材、およびその製造方法を実現することができる。
【0095】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明及びその等価物の範囲に含まれる。また、前述の各実施形態は、相互に組み合わせて実施することができる。
【符号の説明】
【0096】
6 繊維、7 堆積体、7a~7c 堆積体、17 集積体、17a 集積体、100 生体適合部材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16