(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023135760
(43)【公開日】2023-09-29
(54)【発明の名称】記録ヘッドおよび画像形成装置
(51)【国際特許分類】
B41J 2/01 20060101AFI20230922BHJP
【FI】
B41J2/01 301
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022041013
(22)【出願日】2022-03-16
(71)【出願人】
【識別番号】000006150
【氏名又は名称】京セラドキュメントソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100111202
【弁理士】
【氏名又は名称】北村 周彦
(74)【代理人】
【識別番号】100177644
【弁理士】
【氏名又は名称】児玉 和樹
(72)【発明者】
【氏名】山上 浩平
【テーマコード(参考)】
2C056
【Fターム(参考)】
2C056EA16
2C056HA60
2C056JB04
2C056JC13
(57)【要約】
【課題】側面に沿ってせり上がる液体を適切に流路部に流入させることができる記録ヘッドを提供する。
【解決手段】
ワイプブレード25をノズル面32に接触させながら移動させることでノズル面32に付着したインク90が拭き取られる記録ヘッド14である。記録ヘッド14は、ノズル面32を下方に向け、ワイプブレード25の払拭方向に沿って延設されているヘッド本体部30と、ヘッド本体部30の払拭方向に延びる一対の側面33において払拭方向の中間部から両端に向かって下り勾配となるように設けられ、ワイプブレード25によるノズル面32の払拭動作に伴って一対の側面33に沿ってせり上がるインク90を流入させて払拭方向の両側に流下させる一対の流路部41と、を備えている。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
払拭部材をノズル面に接触させながら移動させることで前記ノズル面に付着した液体が拭き取られる記録ヘッドであって、
前記ノズル面を下方に向け、前記払拭部材の払拭方向に沿って延設されているヘッド本体部と、
前記ヘッド本体部の払拭方向に延びる一対の側面において払拭方向の中間部から両端に向かって下り勾配となるように設けられ、前記払拭部材による前記ノズル面の払拭動作に伴って一対の前記側面に沿ってせり上がる前記液体を流入させて払拭方向の両側に流下させる一対の流路部と、を備えていることを特徴とする記録ヘッド。
【請求項2】
前記ヘッド本体部の払拭方向に直交する幅方向に延びる一対の端面に設けられ、一対の前記流路部に沿って流下した前記液体を捕集する一対の捕集部を更に備えていることを特徴とする請求項1に記載の記録ヘッド。
【請求項3】
各々の前記流路部は、一面を開放し、且つ少なくとも2つの流路形成面を連続させて形成され、
少なくとも1つの前記流路形成面には、前記側面よりも前記液体の接触角が小さくなる親水層が形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の記録ヘッド。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項に記載の記録ヘッドを備えていることを特徴とする画像形成装置。
【請求項5】
請求項2に記載の記録ヘッドと、
一対の前記捕集部に捕集された前記液体を廃液タンクに回収する回収部と、を備えていることを特徴とする画像形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、払拭部材をノズル面に接触させながら移動させることでノズル面に付着した液体が拭き取られる記録ヘッドおよび画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
記録ヘッドを備えたプリンターが知られている(特許文献)。記録ヘッドの側面には一方から他方に向かって傾斜した溝が設けられている。側面に沿って回り込むインクは、毛細管力によって溝に捕捉され、自重によって傾斜下端側に集められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記した技術では、一方向に傾斜しているため、ノズル面から傾斜上端までの距離が長く(高く)なり過ぎることがあり、記録ヘッドの側面に沿って回り込む(せり上がる)インクが溝に到達できない虞があった。このため、インクが溝に入る前に落下してしまうことがあった。
【0005】
本発明は、上記事情を考慮し、側面に沿ってせり上がる液体を適切に流路部に流入させることができる記録ヘッドおよび画像形成装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、払拭部材をノズル面に接触させながら移動させることで前記ノズル面に付着した液体が拭き取られる記録ヘッドであって、前記ノズル面を下方に向け、前記払拭部材の払拭方向に沿って延設されているヘッド本体部と、前記ヘッド本体部の払拭方向に延びる一対の側面において払拭方向の中間部から両端に向かって下り勾配となるように設けられ、前記払拭部材による前記ノズル面の払拭動作に伴って一対の前記側面に沿ってせり上がる前記液体を流入させて払拭方向の両側に流下させる一対の流路部と、を備えている。
【0007】
この場合、前記ヘッド本体部の払拭方向に直交する幅方向に延びる一対の端面に設けられ、一対の前記流路部に沿って流下した前記液体を捕集する一対の捕集部を更に備えてもよい。
【0008】
この場合、各々の前記流路部は、一面を開放し、且つ少なくとも2つの流路形成面を連続させて形成され、少なくとも1つの前記流路形成面には、前記側面よりも前記インクの接触角が小さくなる親水層が形成されてもよい。
【0009】
本発明に係る画像形成装置は、上記のいずれかの記録ヘッドを備えている。
【0010】
本発明に係る画像形成装置は、請求項2に記載の記録ヘッドと、一対の前記捕集部に捕集された前記液体を廃液タンクに回収する回収部と、を備えている。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、側面に沿ってせり上がる液体を適切に流路部に流入させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施形態に係る画像形成装置の内部構造を示す概略図(正面図)である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る画像形成装置のラインヘッドを示す斜視図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係る画像形成装置のヘッドユニットおよび保守装置を示す正面図である。
【
図4】本発明の一実施形態に係る画像形成装置のワイピング装置を示す平面図である。
【
図5】本発明の一実施形態に係る記録ヘッドおよび滴下抑制部等を示す側面図である。
【
図7】本発明の一実施形態の第1変形例に係る記録ヘッド等を示す断面図である。
【
図8】本発明の一実施形態の第2変形例に係る記録ヘッド等を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付の図面を参照しつつ、本発明の実施形態について説明する。なお、図面に示すFr、Rr、L、R、U、Dは、前、後、左、右、上、下を示している。本明細書では方向や位置を示す用語を用いるが、それらの用語は説明の便宜のために用いるものであって、本発明の技術的範囲を限定するものではない。
【0014】
[画像形成装置]
図1を参照して、実施形態に係る画像形成装置1について説明する。
図1は画像形成装置1の内部構造を示す概略図(正面図)である。
【0015】
画像形成装置1は、インク滴を吐出してシートSに画像を形成するインクジェット式のプリンターである。画像形成装置1は、各種機器が収容された箱型のハウジング2を備えている。ハウジング2の下部にはシートSがセットされる給紙カセット3が収容され、ハウジング2の左側面の上側には印刷済みのシートSが積載される排紙トレイ4が設けられている。ハウジング2内の右側部には、給紙カセット3からヘッドユニット12に向けてシートSを搬送するための第1の搬送経路5が形成されている。第1の搬送経路5の上流には給紙部10が設けられ、第1の搬送経路5の下流にはレジストローラー11が設けられている。
【0016】
ヘッドユニット12は、ブラック、シアン、マゼンタ、イエローの4色のインクに対応した4つのラインヘッド13を有している。各ラインヘッド13には、3つの記録ヘッド14が搭載されている。各記録ヘッド14は、複数のノズル(図示せず)が形成されたノズル面32を下方に向けた姿勢で設けられている。なお、各記録ヘッド14には、チューブ(図示せず)を介して各色のインクパック(図示せず)からインクが供給される。
【0017】
搬送ベルト16は、ヘッドユニット12の下方に設けられ、複数の張架ローラー16Aに掛け渡されている。搬送ベルト16には多数の貫通穴(図示せず)が形成され、搬送ベルト16の内側には吸引部16Bが設置されている。ヘッドユニット12の左側には、シートSのカールを矯正するデカール装置17が設置されている。ハウジング2内の左側部にはデカール装置17から排紙トレイ4に向けてシートSを搬送する第2の搬送経路7が形成され、第2の搬送経路7の下流には排紙部18が設けられている。ハウジング2内の上部には、第2の搬送経路7の途中からレジストローラー11にシートSを搬送するための第3の搬送経路8が形成されている。
【0018】
ハウジング2の内部には、様々な制御対象機器を適宜制御するための制御部19が設けられている。制御部19は、メモリーに記憶されたプログラムやパラメーターに従って各種の演算処理を実行するプロセッサー等を含んでいる。なお、制御部19は、プログラム等を実行するプロセッサー等に代えて、集積回路等に形成された論理回路(ハードウェア)によって実現されてもよい。
【0019】
[画像形成処理]
ここで、画像形成処理(印刷動作)について説明する。制御部19は、様々な制御対象機器を適宜制御し、以下のように画像形成処理を実行する。
【0020】
給紙部10は、給紙カセット3から取り出したシートSを第1の搬送経路5に送り出す。レジストローラー11は、シートSを一時的に塞き止めてスキュー補正し、ラインヘッド13からのインク滴の吐出タイミングに合わせて、シートSを搬送ベルト16上へ送り出す。シートSは搬送ベルト16上に吸着されながら搬送され、各記録ヘッド14は、搬送ベルト16上のシートSに向かって複数のノズルからインク滴を吐出し、フルカラーの画像を形成する(印刷する)。ヘッドユニット12の下方を通過したシートSは、デカール装置17に送られてカールを矯正される。
【0021】
片面印刷されたシートSは、第2の搬送経路7を通って排紙トレイ4に排出される。両面印刷を実行する場合、片面印刷されたシートSは、第3の搬送経路8に進入し、表裏反転され、再びレジストローラー11に向けて搬送される。その後、上記した片面印刷時と同様の順序でシートSの裏面に画像が形成され、両面印刷されたシートSはカール矯正されて排紙トレイ4に排出される。
【0022】
この画像形成装置1には、各ラインヘッド13に搭載された各記録ヘッド14の保守を行う保守装置20が設けられている。まず、
図2および
図3を参照して、各ラインヘッド13(記録ヘッド14)について説明する。
図2はラインヘッド13を示す斜視図である。
図3はヘッドユニット12および保守装置20を示す正面図である。なお、4つのラインヘッド13は同一構造であり、各ラインヘッド13に搭載された3つの記録ヘッド14も同一構造であるため、以下の説明では、主に、1つのラインヘッド13および1つの記録ヘッド14について説明する。
【0023】
[ラインヘッド]
図2および
図3に示すように、ラインヘッド13は、3つの記録ヘッド14と、3つの記録ヘッド14を支持するヘッドベース15と、を有している。
【0024】
<記録ヘッド>
記録ヘッド14は、概ね前後方向に長い略直方体状に形成されている。記録ヘッド14は、ヘッド本体部30と、ヘッド駆動部31と、を有している(
図3参照)。
【0025】
(ヘッド本体部)
ヘッド本体部30は、ノズル面32を下方に向け、前後方向(払拭部材の払拭方向)に沿って延設されている(
図3参照)。ノズル面32に形成された複数のノズルは、前後方向および左右方向に間隔をあけて並べられている。
【0026】
(ヘッド駆動部)
ヘッド駆動部31は、ヘッド本体部30の上面に固定されている。ヘッド駆動部31の内部には複数のノズルに対応して複数の圧電素子(図示せず)が設けられている。各圧電素子は、電気的に制御部19に接続されて駆動制御される。各圧電素子は、電圧を加えられることで変形し、ノズルからインク滴を吐出させる。つまり、記録ヘッド14は、所謂ピエゾ方式のインクジェットヘッドである。なお、記録ヘッド14は、ピエゾ方式に限らず、サーマル方式等のインクの吐出法を採用してもよい。
【0027】
<ヘッドベース>
ヘッドベース15は、例えば、ステンレス等の金属素材で、前後方向に長い略平板状に形成されている。ヘッドベース15には、3つの記録ヘッド14を取り付けるための3つの取付穴(図示せず)が千鳥状に開口している。つまり、3つの記録ヘッド14は千鳥状に配置されている。ヘッド本体部30は、取付穴に嵌め込まれ、ヘッドベース15よりも下方に突出している(
図3参照)。ヘッド本体部30は、ノズル面32および外周面の下側をヘッドベース15よりも下方に露出させた状態でヘッドベース15に取り付けられている(
図3参照)。
【0028】
ヘッドユニット12(各ラインヘッド13)は、昇降装置(図示せず)によって昇降可能に設けられている。ヘッドユニット12は、搬送ベルト16に近接して上記した画像形成処理を実行可能とする印字位置(
図3の二点鎖線参照)と、印字位置よりも上方に設定された退避位置(
図3の実線参照)と、の間で昇降可能に設けられている。ヘッドユニット12を退避位置に移動することで、保守装置20による各記録ヘッド14の保守が可能となる(詳細は後述する)。なお、昇降装置は、電気的に制御部19に接続されて駆動制御される。
【0029】
[保守装置]
次に、
図3および
図4を参照して、保守装置20について説明する。
図4はワイピング装置23を示す平面図である。
【0030】
保守装置20は、ハウジング2の内部においてヘッドユニット12の左方に配置されている(
図1参照)。保守装置20は、記録ヘッド14のノズルの目詰まりを予防または修復する機能を有している。
【0031】
図3に示すように、保守装置20は、保守筐体21と、キャッピング装置22と、ワイピング装置23と、を備えている。保守筐体21は、右側面を開口した箱状に形成され、キャッピング装置22およびワイピング装置23を収容している。キャッピング装置22およびワイピング装置23は、それぞれ、スライド装置(図示せず)によって左右方向に移動される。なお、スライド装置は、電気的に制御部19に接続されて駆動制御され、キャッピング装置22とワイピング装置23のうち選択された方を移動させる。
【0032】
<キャッピング装置>
キャッピング装置22は、ヘッドユニット12に含まれる複数の記録ヘッド14に対応する複数のキャップ22Aを備えている。キャッピング装置22は、保守筐体21に収容された収容位置と、退避位置に上昇したヘッドユニット12の直下に設定されたキャッピング位置と、の間で左右方向に移動可能に設けられている。スライド装置がキャッピング装置22を収容位置からキャッピング位置に移動させた後、昇降装置が退避位置にあるヘッドユニット12を下降させることで、各キャップ22Aが記録ヘッド14のノズル面32(複数のノズル)を密封する。これにより、ノズル内でのインクの乾燥が抑制され、ノズルの詰りを予防することができる。
【0033】
<ワイピング装置>
図3および
図4に示すように、ワイピング装置23は、4つのワイパーキャリッジ24と、複数のワイプブレード25と、移動部26と、を備えている。なお、4つのワイパーキャリッジ24は同一構造であり、複数のワイプブレード25も同一構造であるため、以下の説明では、主に、1つのワイパーキャリッジ24および1つのワイプブレード25について説明する。
【0034】
(ワイパーキャリッジ)
ワイパーキャリッジ24は、前後方向に長い略平板状に形成されている。4つのワイパーキャリッジ24は、4つのラインヘッド13に対応するように設けられている。ワイピング装置23(4つのワイパーキャリッジ24)は、保守筐体21に収容された収容位置と、退避位置に上昇したヘッドユニット12の直下に設定されたワイピング位置と、の間で左右方向に移動可能に設けられている。また、ワイパーキャリッジ24は、ワイピング位置に配置された状態で、前後方向に移動可能に設けられている。
【0035】
(ワイプブレード)
1つのワイパーキャリッジ24には、3つの記録ヘッド14に対応する3つのワイプブレード25が起立姿勢で設けられている。払拭部材の一例としてのワイプブレード25は、例えば、合成ゴム等の弾性部材で略平板状に形成されている。ワイプブレード25は、記録ヘッド14のノズル面32よりも左右方向に幅広く形成されている。なお、ワイパーキャリッジ24とワイプブレード25との間には、回収トレイ27(
図4参照)が設けられている。
【0036】
(移動部)
移動部26(
図4参照)は、ワイパーキャリッジ24を介してワイプブレード25を前後方向(ノズル面32に沿って)移動させる。移動部26は、電動モーターやソレノイド等、駆動源となるアクチュエーターと、アクチュエーターの駆動力を前後方向の直線運動に変換してワイパーキャリッジ24(ワイプブレード25)に伝達する駆動伝達機構と、を含んでいる(いずれも図示せず)。移動部26(アクチュエーター)は、電気的に制御部19に接続されて駆動制御される。
【0037】
[ワイピング処理]
次に、
図4および
図5を参照して、ワイピング装置23によるノズル面32のワイピング処理(払拭動作)について説明する。
図5は記録ヘッド14等を示す側面図である。なお、ワイピング処理は、例えば、記録ヘッド14のノズル内のインクのパージ(捨て吐出)した後に行われる。
【0038】
制御部19は、スライド装置を駆動制御してワイピング装置23を収容位置からワイピング位置に移動させた後、昇降装置を駆動制御して退避位置にあるヘッドユニット12を下降させる。これにより、ワイプブレード25の先端部(上端部)がノズル面32に接触する。本明細書では、一例として、ワイプブレード25の上端部はノズル面32の前端部(払拭開始位置)に接触する(
図5参照)。
【0039】
次に、制御部19が移動部26を駆動制御してワイパーキャリッジ24を前方から後方へ移動させる(
図4の二点鎖線参照)。ワイプブレード25は、その先端部をノズル面32に接触させながら(押し付けられながら)移動されることで、ノズル面32に付着したインク90(液体)を拭き取る。ワイプブレード25で拭き取られたインク90は、回収トレイ27に落下し、回収トレイ27に開口した回収口(図示ぜず)を通して回収される。なお、本明細書では、インク90を拭き取る(掻き取る)方向を「払拭方向X」ともいう(
図4も参照)。
【0040】
制御部19は、昇降装置を駆動制御してヘッドユニット12を退避位置まで上昇させ、移動部26を駆動制御してワイパーキャリッジ24を払拭開始位置に戻し、スライド装置を駆動制御してワイピング装置23を収容位置に戻す。以上によって、ワイピング装置23によるワイピング処理が終了する。なお、ワイプブレード25が前方から後方へ移動されていたが、これとは反対に、ノズル面32の後端部を払拭開始位置とし、後方から前方へ移動されてもよい。
【0041】
ところで、払拭動作では、ワイプブレード25は所定の圧力をもってノズル面32に押し付けられるため弾性変形し、ワイプブレード25の左右両側の上角部はノズル面32よりも上方に突出するように変形する(
図6参照)。拭き取られたインク90は、主にワイプブレード25の表面(前面)に沿って流れ落ちる。しかし、パージ後にはノズル面32に比較的多くのインク90が付着していることもあり、拭き取られたインク90がワイプブレード25の左右両側の上角部から溢れ出し、ヘッド本体部30の左右両側の側面33にせり上がる(回り込む)ことがあった。側面33に付着したインク90は、印刷動作時に滴下してシートSを汚染することがあった。そこで、本実施形態に係る画像形成装置1には、ヘッド本体部30の側面33にせり上がったインク90の落下を抑制する滴下抑制部40が備えられている。
【0042】
[滴下抑制部]
図5および
図6を参照して、滴下抑制部40について説明する。
図5は記録ヘッド14および滴下抑制部40等を示す側面図である。
図6は、
図5のVI-VI断面図である。
【0043】
図5に示すように、滴下抑制部40は、一対の流路部41と、一対の捕集部44と、回収部45と、を備えている。一対の流路部41は、ヘッド本体部30の払拭方向Xに延びる一対の側面33(左右両側面)に設けられている。一対の捕集部44は、ヘッド本体部30の前後方向(払拭方向Xに直交する幅方向)に延びる一対の端面34(前後両端面)に設けられている。回収部45は、ヘッドユニット12よりも下方に設けられている。なお、一対の流路部41は互いに同一構造であるため、以下、一対である事を明示した場合を除き、1つの流路部41について説明する。これと同様に、一対の捕集部44についても、1つの捕集部44について説明する。
【0044】
<流路部>
図5および
図6に示すように、一対の流路部41は、ヘッド本体部30の一対の側面33から左右方向の中央に向かって凹んだ溝状に形成されている。流路部41は、側面33において前後方向(払拭方向X)の略中央から両端に向かって下り勾配となるように設けられている(
図5参照)。流路部41は、ワイプブレード25によるノズル面32の払拭動作に伴って側面33に沿ってせり上がるインク90を流入させて前後方向(払拭方向X)の両側に流下させる。
【0045】
図6に示すように、流路部41は、左右方向の外面(一面)を開放し、3つの流路形成面50を連続させて略U字溝状に形成されている。上下2つの流路形成面50はノズル面32と平行となる面であり、残り1つの流路形成面50は側面33と平行となる面である。側面33と平行な流路形成面50には、側面33よりもインク90(インク滴)の接触角が小さくなる親水層51が形成されている。親水層51は、例えば、既存の親水コーティング剤を流路形成面50に塗布することで形成される薄膜である。
【0046】
なお、流路部41の勾配(ノズル面32に対する傾斜角度)は、インク90の粘性や親水層51上におけるインク滴の接触角等の諸条件を考慮し、自由に設定することができる。好ましくは、流路部41の勾配は、インク90の適切な流下を担保しながら、できる限り小さな傾斜角度とする。また、側面33上におけるインク滴の接触角は60度以上で、親水層51上におけるインク滴の接触角は60度未満であることが好ましいが、これに限らず、当該接触角は自由に変更してもよい。また、ノズル面32および側面33には撥水処理が施されていてもよい。
【0047】
<捕集部>
図5に示すように、捕集部44は、上面を開放させたトレイ状に形成され、ヘッド本体部30の端面34の下部に固定されている。捕集部44は左右一対の流路部41の下端部に連通しており、捕集部44には流路部41からインク90が流れ込んでくる。つまり、捕集部44は、流路部41に沿って流下したインク90を捕集する。
【0048】
<回収部>
図5に示すように、回収部45は、回収チューブ46と、廃液タンク47と、吸引ポンプ48と、を有している。回収部45は、一対の捕集部44に捕集されたインク90を廃液タンク47に回収する。
【0049】
回収チューブ46は、一対の捕集部44と廃液タンク47とを連通させる管路である。回収チューブ46の上流側はニ分岐しており、その上流端部は一対の捕集部44の底面に設けられた一対の流出口44Aに接続されている。回収チューブ46の上流側は1本に合流しており、回収チューブ46の下流端部は廃液タンク47に設けられた流入口47Aに接続されている。廃液タンク47は、回収チューブ46を流通してきたインク90を貯留するための容器である。吸引ポンプ48は、例えば、遠心ポンプ、軸流ポンプ、ダイヤフラムポンプ等であって、ニ分岐した回収チューブ46の合流部分よりも下流側となる回収チューブ46に設けられている。吸引ポンプ48は、制御基板(図示せず)を介して制御部19に電気的に接続され、制御部19によって駆動制御される。吸引ポンプ48は、回収チューブ46を流通するインク90に圧力を与え、一対の捕集部44から廃液タンク47に向かってインク90を送る。
【0050】
[滴下抑制部の作用]
図5を参照して、ヘッド本体部30の側面33をせり上がるインク90の回収(滴下抑制部40の作用)について説明する。なお、吸引ポンプ48は、払拭動作の開始に連動して稼働し始めるものとする。
【0051】
ワイプブレード25によって払拭されるインク90の一部は、ワイプブレード25の左右両側の上角部から溢れ出し、ヘッド本体部30の一対の側面33をせり上がる。インク90は、流路部41までせり上がると、側面33から流路部41に流れ込む。流路部41の1つの流路形成面50に親水層51が形成されているため、インク90は、側面33から流路部41(親水層51)に向かって吸い込まれるように濡れ広がる。
【0052】
流路部41に流入したインク90は、流路部41に沿って前後両側(下端部)に向かって流れ落ちる(
図5に示す破線矢印参照)。インク90は、流路部41から捕集部44に流れ込み、捕集部44に一時的に貯留される。捕集部44に溜まったインク90は、吸引ポンプ48による吸引力を受けて、流出口44Aから回収チューブ46に吸い込まれ、回収チューブ46を通って流入口47Aから廃液タンク47の内部に流れ込む(
図5に示す破線矢印参照)。これにより、払拭動作時にヘッド本体部30の側面33をせり上がったインク90が廃液タンク47に回収される。
【0053】
以上説明した本実施形態に係る記録ヘッド14では、流路部41が側面33の前後方向(払拭方向X)の中間部から両端に向かって下方に傾斜していた。この構成によれば、流路部41が2つに分かれて傾斜が形成されるため、一方向に傾斜する場合に比べて、ノズル面32から傾斜上端(中間部)までの距離(高さ)を短く(低く)設定することが可能になる。これにより、記録ヘッド14の側面33にせり上がるインク90を適切に流路部41に流入させることができる。その結果、ヘッド本体部30の側面33にせり上がったインク90が側面33に残されることが抑制され、払拭動作後の印刷動作において、側面33から落下したインク90によるシートSの汚染を予防することができる。
【0054】
また、本実施形態に係る記録ヘッド14では、捕集部44が流路部41を流下してきたインク90を受ける構成とした。この構成によれば、流路部41の前後両端からインク90が落下することを防止することができる。
【0055】
また、本実施形態に係る記録ヘッド14によれば、親水層51が1つの流路形成面50に形成されることで、側面33をせり上がってきたインク90を流路部41に誘導することができる。これにより、ノズル面32からせり上がってきたインク90が側面33に残りづらくなるため、側面33からのインク90の落下を抑制することができる。
【0056】
また、本実施形態に係る画像形成装置1では、回収部45が、一対の捕集部44に捕集されたインク90(液体)を廃液タンク47に回収する構成とした。この構成によれば、捕集部44に溜まったインク90の漏出を抑制することができる。これにより、払拭動作後の印刷動作において、インク90の落下を適切に予防することができる。
【0057】
なお、以上説明した本実施形態に係る記録ヘッド14(滴下抑制部40)では、一対の流路部41が、ヘッド本体部30の一対の側面33から左右方向の中央に向かって凹んだ溝状に形成されていたが、本発明はこれに限定されない。第1変形例として、
図7に示すように、流路部42がヘッド本体部30の上部を切り欠くことで形成され、2つの流路形成面50が正面から見てL字状を成すように連続していてもよい。この場合、親水層51は、ノズル面32と平行となる流路形成面50に形成されるとよい。また、第2変形例として、
図8に示すように、流路部43が、上面を開放し、3つの流路形成面50を連続させて略U字溝状に形成されてもよい。この場合、左右2つの流路形成面50は側面33と平行となる面であり、残り1つの流路形成面50はノズル面32と平行となる面である。親水層51は、ノズル面32と平行となる流路形成面50に形成されるとよい。
【0058】
なお、本実施形態(各変形例を含む。以下同じ。)に係る記録ヘッド14では、流路部41~43(以下、「流路部41等」という。)が、ヘッド本体部30(の筐体)に一体成型されていたが、本発明はこれに限定されない。例えば、流路部41等が形成された部品がヘッド本体部30とは別部品として構成され、当該部品がヘッド本体部30の側面33に固定されることで、流路部41等が側面33に設けられてもよい(図示せず)。
【0059】
また、本実施形態に係る記録ヘッド14では、流路部41等が、側面33の前後方向の略中央から両端に向かって傾斜していたが、本発明はこれに限定されない。例えば、流路部41等は、前後方向の中央よりも前側または後側にずれた位置から両端に向かって下り勾配となるように設けられてもよい(図示せず)。例えば、ノズル面32の払拭方向Xの下流側(後方)でインク90の量が増える傾向があるのであれば、流路部41の最上端部を前後方向の中央よりも後方にずらしてもよい。また、流路部41等の前側と後側とで勾配(傾斜角度)が異なっていてもよい(図示せず)。
【0060】
また、本実施形態に係る記録ヘッド14では、複数の流路形成面50のうち1つの流路形成面50に親水層51が形成されていたが、本発明はこれに限定されない。親水層51は、少なくとも1つの流路形成面50の表面に形成されていればよく、例えば、全ての流路形成面50に形成されてもよい(図示せず)。また、例えば、流路部41の幅(細さ)を調整することで、毛細管現象によってインク90が流路部41に導かれる場合、親水層51は省略されてもよい(図示せず)。
【0061】
また、本実施形態に係る記録ヘッド14では、端面34に設けられた捕集部44が流路部41を流れてきたインク90を捕集していたが、これに限らず、捕集部44は省略されてもよい。この場合、払拭動作中において、ワイピング装置23の回収トレイ27が流路部41の前後両端(下端)から落下するインク90を受けるようにしてもよい。この構成であっても、払拭動作時に記録ヘッド14の側面33にせり上がったインク90が側面33に付着したまま残されることを抑制することができる。
【0062】
また、本実施形態に係る画像形成装置1では、吸引ポンプ48が吸引力を発生させることで、捕集部44に捕集されたインク90が廃液タンク47に回収されていたが、本発明はこれに限定されない。吸引ポンプ48が省略され、インク90は自重で回収チューブ46に沿って流れ落ち、廃液タンク47に回収されてもよい(図示せず)。また、廃液タンク47は、回収チューブ46を介して捕集部44に連通していたが、本発明はこれに限定されない。例えば、吸引ポンプ48および回収チューブ46が省略され、各捕集部44の流出口44Aに廃液タンク47の流入口47Aが直接接続されてもよい(図示せず)。また、各捕集部44が十分な容量を持つ場合、回収部45は省略されてもよい(図示せず)。
【0063】
また、本実施形態に係る画像形成装置1では、払拭動作時にワイプブレード25が払拭方向Xに移動してノズル面32を拭き取る構成であったが、本発明はこれに限定されない。移動部26は、ワイパーキャリッジ24(ワイプブレード25)を前後方向に往復移動させてもよい。
【0064】
また、本実施形態に係る画像形成装置1では、払拭部材の一例として、板状のワイプブレード25が採用されていたが、本発明はこれに限定されない。払拭部材の他の例として、不織布等のワイピングクロスが採用されてもよい(図示せず)。この場合、例えば、帯状に形成されたワイピングクロスを1つのローラーに巻き付け、ワイピングクロスをノズル面32に押し当てながら他のローラーに巻き取る構造としてもよい(図示せず)。
【0065】
また、本実施形態に係る画像形成装置1のワイピング装置23は、インク90が付着したノズル面32に洗浄液を付着させる洗浄液供給部(図示せず)を更に備えてもよい。洗浄液供給部は、ノズル面32をワイプブレード25で払拭する前、または払拭しながら洗浄液をノズル面32に付着させるとよい。
【0066】
また、本実施形態に係る画像形成装置1では、ワイピング装置23(ワイプブレード25)がノズル面32上のインク90(液体の一例)を拭き取っていたが、本発明はこれに限定されない。記録ヘッド14のノズルから吐出する液体の他の例として、水、液状の接着剤または液状の合成樹脂等であってもよく、ワイピング装置23はノズル面32上のこれらの液体を拭き取ることもできる。
【0067】
また、本実施形態に係る画像形成装置1では、画像形成装置1全体を制御する制御部19がワイピング装置23を制御していたが、これに限らず、制御部19の他に、ワイピング装置23を制御する専用の制御部(図示せず)が設けられてもよい。
【0068】
また、上記実施形態に係る画像形成装置1では、ラインヘッド13に3つの記録ヘッド14が搭載されていたが、これに限らず、ラインヘッド13には1つ以上の記録ヘッド14が搭載されていればよい。また、複数の記録ヘッド14がヘッドベース15に千鳥状に配置されていたが、これに限らず、例えば、一列に配置する等、配置形態は自由に変更してもよい。
【0069】
また、上記実施形態に係る画像形成装置1では、保守装置20による保守を実行する際に、ヘッドユニット12が昇降装置によって上昇されていたが、本発明はこれに限定されない。例えば、ヘッドユニット12が不動に設けられ、昇降装置が保守装置20(キャッピング装置22、ワイピング装置23)を上昇させ、キャップ22Aやワイプブレード25をノズル面32に接触させてもよい。
【0070】
また、上記実施形態に係る画像形成装置1は、カラープリンターであったが、これに限らず、モノクロプリンター、コピー機、ファクシミリ等であってもよい。
【0071】
なお、上記実施形態の説明は、本発明に係る記録ヘッドおよび画像形成装置における一態様を示すものであって、本発明の技術範囲は、上記実施態様に限定されるものではない。本発明は技術的思想の趣旨を逸脱しない範囲において様々に変更、置換、変形されてもよく、特許請求の範囲は技術的思想の範囲内に含まれ得る全ての実施態様を含んでいる。
【符号の説明】
【0072】
1 画像形成装置
14 記録ヘッド
25 ワイプブレード(払拭部材)
30 ヘッド本体部
32 ノズル面
33 側面
34 端面
41,42,43 流路部
44 捕集部
45 回収部
47 廃液タンク
51 親水層
90 インク(液体)