(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023135856
(43)【公開日】2023-09-29
(54)【発明の名称】遠隔操作システム
(51)【国際特許分類】
B25J 3/00 20060101AFI20230922BHJP
B23K 9/10 20060101ALI20230922BHJP
【FI】
B25J3/00 Z
B23K9/10 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022041158
(22)【出願日】2022-03-16
(71)【出願人】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090033
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100093045
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 良男
(72)【発明者】
【氏名】蔡 麗佳
【テーマコード(参考)】
3C707
4E082
【Fターム(参考)】
3C707AS11
3C707BS09
3C707CS08
3C707JT05
3C707JU12
3C707KS07
3C707KT01
3C707KT05
3C707KT18
3C707KV11
3C707LV15
3C707WA16
4E082ED10
4E082JA01
(57)【要約】 (修正有)
【課題】遠隔作業者が好適に作業を行うことができる遠隔操作システムを提供する。
【解決手段】作業システム1は、トーチ14を遠隔操作してワークに対する溶接作業を行わせる遠隔操作部31と、トーチ14の位置に応じた力を遠隔操作部31に出力させる制御装置4とを備えている。制御装置4は、トーチ14の先端が溶接中心面から離れるに連れて次第に大きくなる復元力を、遠隔操作部31に出力させる。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トーチを遠隔操作してワークに対する溶接作業を行わせる遠隔操作手段と、
前記トーチの位置に応じた力を前記遠隔操作手段に出力させる力覚制御手段と、
を備え、
前記力覚制御手段は、前記トーチの先端が所定の基準位置から離れるに連れて次第に大きくなる第1の力を、前記遠隔操作手段に出力させる、
遠隔操作システム。
【請求項2】
前記基準位置は、溶接方向に沿った溶接中心面である、
請求項1に記載の遠隔操作システム。
【請求項3】
前記力覚制御手段は、前記第1の力に加え、前記トーチの先端が前記ワークに近づくに連れて次第に大きくなる第2の力を、前記遠隔操作手段に出力させる、
請求項1又は請求項2に記載の遠隔操作システム。
【請求項4】
前記力覚制御手段は、前記第1の力及び前記第2の力の出力オンオフの切替えを個別に設定可能である、
請求項3に記載の遠隔操作システム。
【請求項5】
前記力覚制御手段は、前記第1の力及び前記第2の力の大きさを個別に変更可能である、
請求項3又は請求項4に記載の遠隔操作システム。
【請求項6】
前記力覚制御手段は、前記基準位置を変更可能に構成されている、
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の遠隔操作システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遠隔操作システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、作業者が遠隔から作業ロボットを操作して溶接等の作業を行う遠隔操作システムが知られている。
特許文献1に記載の遠隔操作システムでは、ロボットアームが障害物に近づいた場合に作業者に反力を知覚させることで、作業ロボットと障害物との衝突を回避している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、作業ロボットが障害物に近づいたときの反力は障害物との衝突を避けるうえでは効果的であるものの、例えばロボットアームを所定の基準線に沿って移動させたい場合等には有効に機能せず、好適に作業を行えないおそれがある。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、遠隔作業者が好適に作業を行うことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る遠隔操作システムは、
トーチを遠隔操作してワークに対する溶接作業を行わせる遠隔操作手段と、
前記トーチの位置に応じた力を前記遠隔操作手段に出力させる力覚制御手段と、
を備え、
前記力覚制御手段は、前記トーチの先端が所定の基準位置から離れるに連れて次第に大きくなる第1の力を、前記遠隔操作手段に出力させる。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、遠隔作業者が好適に作業を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】実施形態に係る作業システムを示す概念図である。
【
図3】実施形態に係るトーチの先端部周辺を示す図である。
【
図4】実施形態に係る作業システムの概略の制御構成を示すブロック図である。
【
図5】実施形態に係る操作支援処理の流れを示すフローチャートである。
【
図6】実施形態に係る操作支援処理を説明するための図である。
【
図7】実施形態に係る操作支援処理を説明するための図である。
【
図8】(a)反力と復元力のX方向の分布を求めた計算例の計算モデルであり、(b)その計算結果であって、反力と復元力及びその合力のX方向の分布例を示すグラフである。
【
図9】復元力の基準位置についての変形例を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0009】
[作業システムの構成]
図1は、本実施形態に係る作業システム1を示す概念図である。
この図に示すように、作業システム1は、本発明に係る遠隔操作システムの一例であり、作業者(オペレータ)WKの遠隔操作により溶接車両10に溶接作業を行わせるためのものである。具体的に、作業システム1は、溶接車両10と、遠隔操作装置3と、制御装置4とを備える。
【0010】
図2は、溶接車両10の斜視図である。
この図に示すように、溶接車両10は、水平に設置された鉄製の板材(鋼板)20上を矢印α方向に移動しながら、溶接対象物であるワーク、すなわち板材20同士を溶接する溶接ロボットである。溶接後、この板材20は、例えば、床として使用される。
なお、以下では、互いに直交するXYZの各方向を、各図に示すとおり設定する。一例として、XY平面が水平、Z方向が鉛直方向となっている。また、溶接車両10の移動方向(α方向)は、-Y方向となっている。ただし、溶接車両10の移動方向は-Y方向に限定されず、例えばその反対方向(+Y方向)であってもよい。
【0011】
本実施形態の溶接車両10は、アーク溶接により2つの板材20に対してV型開先突合せ溶接を行う。つまり、端部を斜めにカットして開先面(側面20a)とした2つの板材(鋼板)20を突合せてV型溝21の継手とし、この溝(開先)21を埋めるように溶接を行う(
図7参照)。溝21の底部にはセラミックの裏当て材25が配置され(
図2では図示省略)、裏当て材25の表面が溝21の底面25aとなっている。溝21は、板材20の用途にもよるが、例えば、全長が5m以上、幅が5mm程度、深さが10mm程度である。また、本実施形態では、溝21の長手方向がY方向と平行であり、溝21の幅方向がX方向と平行であり、溝21の深さ方向がZ方向と平行となっている。
溶接車両10は、後述のトーチ14でワイヤ(溶加材:図示せず)を溶融し、当該溶融された溶融物で溝21を埋めることにより、板材20同士を溶接する。
なお、以下では、ワークの表面、すなわち、溝21の側面20a及び底面25aと、板材20の上面20bとを、「ワーク面Sw」という場合がある。
【0012】
具体的に、溶接車両10は、車体11と、溶接装置12と、4つの車輪18と、各車輪18を回転駆動させる駆動部16とを備える。
【0013】
車体11は、各車輪18(車輪本体)を回転可能に支持する回動支持部(支持部)13を有する。
また、各回動支持部13の外側には、駆動部16が固定されている。駆動部16は、例えばギアモータ(ギアードモータ)で構成され、車輪18に連結されている。そして、駆動部16が作動することにより、車輪18を回転させることができる。この回転により、溶接車両10は、例えば板材20の上面20b(表側の面)を走行面として走行することができる。
なお、車輪18の配置数は、本実施形態では4つであるが、これに限定されない。
【0014】
車体11上には、溶接装置12が搭載されている。溶接装置12は、トーチ(溶接トーチ)14と、トーチ14を変位可能に支持する変位機構15とを備える。
トーチ14は、板材20に対して溶接作業を行う作業部である。本実施形態のトーチ14は、アーク放電によりアーク溶接を行うよう構成されている。このアーク溶接により、板材20同士を容易かつ強固に溶接することができる。
【0015】
変位機構15は、第1移動機構151と、第2移動機構152と、第3移動機構153と、回動機構(角度調整機構)154とを有する。
第1移動機構151は、トーチ14を車体11に対して、矢印α方向と平行な方向(Y方向)に移動させる機構である。
【0016】
第1移動機構151には、第2移動機構152が連結されている。第2移動機構152は、トーチ14を車体11に対して、矢印α方向と直交する方向(X方向)に移動させる機構である。
第2移動機構152には、第3移動機構153が連結されている。第3移動機構153は、トーチ14を車体11に対して、上下方向(Z方向)に移動させる機構である。
【0017】
第3移動機構153には、回動機構154が連結されている。回動機構154は、連結部155を介してトーチ14と連結されている。この回動機構154は、トーチ14を車体11に対して水平軸回りに回動させる機構である。
このような構成の変位機構15により、板材20同士の継ぎ目に対するトーチ14の位置および姿勢を適宜変更することができ、溶接を容易に行うことができる。
【0018】
図3は、トーチ14の先端部周辺を示す図である。
この図に示すように、トーチ14には、連結部材171を介して、撮像部17が連結、支持されている。撮像部17は、例えばCMOSカメラやCCDカメラ等で構成され、トーチ14および板材20(溝21)を含む撮影対象を撮像し、その画像情報を取得する。取得された画像情報は制御装置4に送信される。本実施形態の撮像部17は、溶接車両10の進行方向(-Y方向)側の斜め上方から、トーチ14周辺の溶接部を撮影する。
また、トーチ14には、レーザ光照射部19も支持されている。レーザ光照射部19は、溝21を含む板材20に向けてレーザ光LBを照射する。本実施形態のレーザ光照射部19は、トーチ14とX方向で同じ位置に、トーチ14のY方向に隣り合って配置されている。これにより、レーザ光照射部19からのレーザ光LBは、その中心がトーチ14とX方向で同じ位置で照射される。また、本実施形態のレーザ光照射部19は、レーザ光LBとして、X方向に沿ったラインレーザ光を照射するよう構成されている。これにより、撮像部17でワーク面Swの形状を正確に検出することができる。
【0019】
図4は、作業システム1の概略の制御構成を示すブロック図である。
この図に示すように、遠隔操作装置3は、作業者WKが溶接車両10から離れた別室等で、溶接車両10に対して遠隔操作を行う装置である。従って、作業システム1は、作業者WKの操作に溶接車両10が遅延なく追従するリーダフォロアシステムとなっている。
遠隔操作装置3は、作業者WKによって把持され、所望の方向に力を加えることができる遠隔操作部31を有する。
【0020】
作業者WKは、Y方向(に対応した方向)に力を加えて遠隔操作部31を操作すれば、変位機構15の第1移動機構151を介して、トーチ14をY方向に移動させることができる。
同様に、作業者WKは、X方向(に対応した方向)に力を加えて遠隔操作部31を操作すれば、変位機構15の第2移動機構152を介して、トーチ14をX方向に移動させることができる。
また、作業者WKは、Z方向(に対応した方向)に力を加えて遠隔操作部31を操作すれば、変位機構15の第3移動機構153を介して、トーチ14をZ方向に移動させることができる。
遠隔操作部31は、変位機構15を作動させて、トーチ14をX方向と、Y方向と、Z方向とに移動させ得る遠隔操作を行うことができる。また、遠隔操作部31は、後述するように、トーチ14とワークとの距離に応じた反力がフィードバックされる力覚提示デバイスとなっている。遠隔操作部31の形態は特に限定されず、例えばジョイスティック等を用いることができる。
【0021】
制御装置4は、例えばパーソナルコンピュータで構成される。制御装置4は、溶接車両10、遠隔操作装置3及び溶接車両10と電気的に接続されており、作業システム1各部の動作を統括的に制御する。また、制御装置4は、本発明に係る力覚制御手段の一例であり、トーチ14の位置に応じた力を遠隔操作部31に出力させたりする。なお、「電気的な接続」とは、無線による接続、有線による接続のいずれもでもよい。
具体的に、制御装置4は、CPU41と、記憶部42と、通信部43と、入力部44と、表示部45と、音声出力部46とを有する。
【0022】
CPU41は、入力部44の操作内容等に基づいて制御装置4の各部を動作させたり、記憶部42に予め記憶されているプログラムを展開し、展開されたプログラムと協働して各種処理を実行したりする。
記憶部42は、RAM(Random Access Memory)やROM(Read Only Memory)等により構成されるメモリであり、各種のプログラム及びデータを記憶するとともに、CPU41の作業領域としても機能する。
【0023】
通信部43は、遠隔操作装置3及び溶接車両10との間で各種情報を送受信可能な通信デバイスである。具体的に、通信部43は、遠隔操作装置3からの入力信号、すなわち命令を受信したり、当該入力信号を溶接車両10の通信部101に送信したりする。
入力部44は、作業者WKが制御装置4を動作させるための各種操作を行う操作手段であり、例えばマウス等のポインティングデバイスやキーボードを含む。
【0024】
表示部45は、例えば液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイその他のディスプレイで構成され、CPU41からの表示信号に基づいて各種情報を表示する。本実施形態の表示部45は、撮像部17で撮像された画像等を表示する。作業者WKは、表示部45に表示された画像を視認しながら、遠隔操作を行うことができる。なお、表示部45は、入力部44の一部を兼ねるタッチパネルであってもよい。
音声出力部46は、例えばスピーカで構成され、CPU41からの音声出力信号に基づいて各種音声を出力する。
【0025】
溶接車両10は、上記構成のほか、通信部101と制御部102を有する。
通信部101は、制御装置4の通信部43との間で各種情報を送受信可能な通信デバイスである。具体的に、通信部101は、制御装置4の通信部43から送信されてきた遠隔操作装置3からの入力信号を受信したり、撮像部17が取得した画像情報等を制御装置4の通信部43に送信したりする。
制御部102は、通信部101が受信した遠隔操作装置3からの入力信号に基づいて、溶接車両10の各部の動作を制御する。これにより、入力信号どおりに溶接車両10が遠隔操作される。
【0026】
[操作支援処理]
続いて、作業システム1の溶接作業時に実行される操作支援処理について説明する。
図5は、操作支援処理の流れを示すフローチャートであり、
図6及び
図7は、操作支援処理を説明するための図である。
操作支援処理は、作業者WKが溶接車両10を遠隔操作して行う溶接作業において、作業者WKによる作業状況の把握を促進して遠隔操作を支援する処理である。この操作支援処理は、例えば作業者WKの入力操作に基づいて、制御装置4のCPU41が記憶部42から該当プログラムを読み出して展開することで実行される。
【0027】
図5に示すように、操作支援処理が実行されると、まず制御装置4のCPU41は、作業者WKの遠隔操作によるワークの開先溶接を行う作業を開始する(ステップS1)。
この溶接作業では、CPU41は、作業者WKによる遠隔操作部31の操作内容に対応した入力信号を溶接車両10に送信する。溶接車両10の制御部102は、受信した入力信号に基づいて各部を動作させる。これにより、溶接車両10は、溝21に沿って移動しながら、トーチ14の先端(下端)から下方にワイヤを供給しつつ当該ワイヤを溶融して板材20同士を溶接する。
またこのとき、CPU41は、溶接車両10の撮像部17で撮影されたトーチ14周辺の溶接部の画像を表示部45にリアルタイム表示させる。この溶接部の撮影画像(映像)には、トーチ14先端から供給されるワイヤとワーク(溝21)、これらの間で発生するアーク、当該アークによってワイヤが溶融した溶融池(前方溶融池)が含まれる。作業者WKは、表示部45に表示された撮影画像を視認して溶接状況・状態を確認しながら、遠隔操作部31を操作する。
なお、本明細書では、特に断りのない限り、「トーチ14」とはその先端から供給されるワイヤが含まれるものとする。つまり、「トーチ14先端」とはワイヤ供給時にはワイヤ先端をいい、「トーチ14とワークとの衝突」にはワイヤとワークとの衝突が含まれる。
【0028】
次に、CPU41は、トーチ14の先端がワークに近づくに連れて次第に大きくなる反力Fbを算出し、遠隔操作部31に出力させる(ステップS2)。反力Fbは、本発明に係る第2の力の一例である。
具体的には、
図6に示すように、トーチ14先端の最近傍点を中心とする関心領域(ROI)を点群データから抽出し、それぞれの点からトーチ14先端に向かうベクトルの加重和として反力Fbを求める。ワーク面Swの点群データは、レーザ光照射部19によって随時取得される。ただし、レーザ光照射部19(又はワークのCADモデル)を用いて予め取得した点群データを用いてもよい。ROIは、点群のうちトーチ14先端に対する最近傍点を中心として、XYの各方向に所定個数の点を取り出して正方形状のものとする。そして、自身からトーチ14先端までの距離にその大きさが反比例する力を、ROIの各点がトーチ14先端に及ぼすとし、それらの合力として反力Fbを以下の式(1)により求める。
【数1】
ここで、P
iは、個数がN
ROIであるROI内のi番目の点の位置ベクトルであり、P
rは、トーチ14先端の位置ベクトルである。また、式(1)の係数Kは対角行列K=diag(kx,ky,kz)であり、kx,ky,kzの値の選び方によって力ベクトルの各成分に異方性を生じさせられるようにしている。kx,ky,kzの値は、例えば、ワークとの距離を同一にして、トーチ14先端を開先中心と開先面の中心にそれぞれ置いたときの力の大きさが同じになるように定める。この値は作業者WKが随時変更できる。
なお、上記式(1)では、反力Fbがトーチ14先端位置とワークとの距離(P
r-P
i)に反比例(-1乗)することとしたが、この指数は-1以下の実数(例えば-1.5乗、-2乗、-3乗等)としてもよい。例えば、この指数を-2乗や-3乗にすると、トーチ14先端が開先面に近づくに連れて、反力Fbがより急峻に強くなる。
【0029】
このように、遠隔操作部31から出力される反力Fbは、トーチ14先端とワーク面Swとの距離に反比例する。そのため、遠隔操作部31を操作する作業者WKは、トーチ14先端がワークに接近するほど強い反力Fbを感じる。すなわち、作業者WKは、遠隔操作部31にフィードバックされる反力Fbにより、トーチ14とワークとの距離を感知することができる。トーチ14は、ワーク面Swから所定距離にある衝突回避面Scよりもワーク面Swに近づくことはない(
図7(b)参照)。これにより、ワーク面Swに対するトーチ14の接近を作業者WKに認識させ、トーチ14とワークとの衝突を好適に防止できる。
【0030】
次に、
図5に示すように、CPU41は、トーチ14の先端が溶接中心面Cから離れるに連れて次第に大きくなる復元力Fcを算出し、遠隔操作部31に出力させる(ステップS3)。ここで、溶接中心面Cとは、
図7(a)、(b)に示すように、溶接方向(Y方向)に沿った基準面であり、溝21の幅方向の中心(開先中心)を通りYZ平面に平行な面である。また、復元力Fcは、本発明に係る第1の力の一例である。
具体的に、CPU41は、以下の式(2)により復元力Fcを求める。
【数2】
ここで、P
rは、トーチ14先端のX方向位置であり、Pcは、溶接中心面C(開先中心)のX方向位置である。また、kは任意の係数である。この値は作業者WKが随時変更できる。
【0031】
このように、遠隔操作部31から出力される復元力Fcは、トーチ14先端と溶接中心面Cとの距離に比例する。そのため、遠隔操作部31を操作する作業者WKは、トーチ14先端が溶接中心面Cから離れるほど強い復元力Fcを感じる。すなわち、作業者WKは、遠隔操作部31にフィードバックされる復元力Fcにより、トーチ14と溶接中心面Cとの距離を感知することができる。これにより、トーチ14を溶接中心面C近傍に好適に保持することができる。
【0032】
ここで、反力Fbと復元力Fcの各々についてX方向(溝21の幅方向)の分布を求めた計算例を示す。
図8(a)は、その計算モデルを示す図である。この図に示すように、この計算では、テーパ状の側面20aをX方向に垂直な面(図中の二点鎖線)として単純化したモデルを用い、反力Fb及び復元力Fcともにトーチ14先端のX方向位置のみに依存するものとした。
【0033】
図8(b)は、その計算結果であって、反力Fbと復元力Fc、及びこれらの合力FのX方向の分布例を示すグラフである。
この図に示すように、反力Fbは、トーチ14が溝21の側面20aにかなり近づくまで小さいままであり、側面20a付近に来ると急激に大きくなる。そのため、トーチ14と側面20aとの衝突を防ぐには効果的であるが、トーチ14を溶接中心面C(X=0)近傍に保持させる点ではさほど有効に機能しない。
この点、復元力Fcは、トーチ14先端と溶接中心面Cとの距離に比例して大きくなるため、トーチ14を溶接中心面C近傍に保持させるのに有効に機能する。
したがって、ワーク面Sw(側面20a)からの反力Fbと溶接中心面Cへの復元力Fcとの合力Fを作業者WKに知覚させることにより、作業者WKはトーチ14とワークとの衝突を回避しつつトーチ14を溶接中心面C近傍に保持することができる。
【0034】
次に、
図5に示すように、CPU41は、操作支援処理を終了させるか否かを判定し(ステップS4)、終了させないと判定した場合には(ステップS4;No)、上述のステップS1へ処理を移行し、溶接作業を続行する。
そして、例えば溶接作業の終了等により、操作支援処理を終了させると判定した場合には(ステップS4;Yes)、CPU41は、操作支援処理を終了させる。
【0035】
[本実施形態の技術的効果]
以上のように、本実施形態によれば、トーチ14の先端が溶接中心面C(開先中心)から離れるに連れて次第に大きくなる復元力Fcが、遠隔操作部31に出力される。
これにより、遠隔操作部31を操作する作業者WKは、復元力Fcを知覚することでトーチ14を溶接中心面C近傍に保持することができる。したがって、作業者WKは所望の軌道でトーチ14を移動させて、好適に溶接作業を行うことができる。ひいては、溶接品質が向上することは勿論のこと、溶接技能を習得するためのトレーニングツールとしても有効に利用できる。
【0036】
また、本実施形態によれば、復元力Fcに加え、トーチ14の先端がワークに近づくに連れて次第に大きくなる反力Fbが、遠隔操作部31に出力される。
反力Fbはトーチ14とワークとの衝突を防止するのに有効に機能する。したがって、作業者WKは、復元力Fcと反力Fbとの合力Fを知覚することにより、トーチ14とワークとの衝突を回避しつつトーチ14を溶接中心面C近傍に保持することができる。
【0037】
[その他]
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限られない。
例えば、復元力Fcは、トーチ14先端が所定の基準位置から離れるに連れて次第に大きくなる力であればよく、この基準位置は溶接中心面Cに限定されない。また、この基準位置は変更可能に構成されているのが好ましい。
具体的に、基準位置は、開先中心でなく、そこから左右(X方向)にずれた位置であってもよい。あるいは、
図9に示すように、溶接方向に対してトーチ14を左右に揺動させた基準位置(基準線)C1としてもよい。これにより、好適にウィービング溶接を実施することができる。
また、基準位置は、上記実施形態のような面状でなく線状であってもよい。例えば基準位置がY方向に沿った線である場合、X方向位置に加えてZ方向位置が復元力Fcのパラメータとなる。
【0038】
また、反力Fb及び復元力Fcの出力は、ユーザ操作等に基づいて、オンオフの切替えを個別に設定可能であるのが好ましい。さらに、反力Fb及び復元力Fcの出力は、ユーザ操作等に基づいて、その大きさを個別に変更・調整可能であるのが好ましい。
【0039】
また、上記実施形態では、遠隔操作装置3の操作対象が溶接車両10であることとしたが、本発明に係る遠隔操作手段の操作対象は、ワークに対して作業を行う作業部を有するものであれば特に限定されない。例えば、据え置き型のロボットアームであってもよいし、直動のスライダーやアクチュエータ等であってもよい。
また、遠隔操作装置3と制御装置4とは、一体的に(例えば一体の遠隔操作装置として)構成されてもよい。
【0040】
また、上記実施形態では、作業システム1により溶接作業が行われることとした。しかし、本発明に係る作業(種別)は溶接に限定されず、作業部を遠隔操作してワークに対して実行可能な作業であればよく、例えば研磨や塗装といった表面加工作業等を含む。
その他、上記実施形態で示した細部は、発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0041】
1 作業システム(遠隔操作システム)
3 遠隔操作装置
4 制御装置(力覚制御手段)
10 溶接車両
14 トーチ
20 板材
20a 側面
20b 上面
21 溝
25a 底面
31 遠隔操作部(遠隔操作手段)
41 CPU
C 溶接中心面(基準位置)
C1 基準位置(基準線)
Fb 反力
Fc 復元力
F 合力
Sc 衝突回避面
Sw ワーク面
WK 作業者