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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023135874
(43)【公開日】2023-09-29
(54)【発明の名称】糸巻取機
(51)【国際特許分類】
   B65H 54/28 20060101AFI20230922BHJP
   B65H 54/30 20060101ALI20230922BHJP
   B65H 54/34 20060101ALI20230922BHJP
   B65H 57/28 20060101ALI20230922BHJP
【FI】
B65H54/28 D
B65H54/30
B65H54/34 F
B65H54/34 J
B65H57/28
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022041181
(22)【出願日】2022-03-16
(71)【出願人】
【識別番号】502455511
【氏名又は名称】TMTマシナリー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118784
【弁理士】
【氏名又は名称】桂川 直己
(72)【発明者】
【氏名】川合 雅士
(72)【発明者】
【氏名】吉野 恭平
【テーマコード(参考)】
3F056
3F110
【Fターム(参考)】
3F056EA05
3F056EB01
3F110CA01
3F110CA04
3F110DB04
(57)【要約】
【課題】糸送りローラから送り出される糸の糸道が鉛直方向に対して傾斜している糸巻取機において、糸掛け作業の際のボビンホルダの位置の自由度を確保できる構成を提供する。
【解決手段】糸巻取機1は、接触ローラ31と、トラバース装置21と、を備える。接触ローラ31は、パッケージ92と接触して回転する。トラバース装置21は、トラバースガイドと、上流ガイドレールと、下流ガイドレールと、を有する。トラバースガイドは、糸送りローラ100から接触ローラ31に至る糸91に接触して糸91をトラバースする。上流ガイドレール及び下流ガイドレールは、トラバースガイドの巻幅方向の移動を許容し、トラバースガイドの糸道の上流側又は下流側に向かう移動を規制する。下流ガイドレールのうち糸道に対向する下流対向面は、パッケージ92の軸方向で見たときにおいて、糸道の下流に近づくに連れて糸道から離れる退避面を含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
糸送りローラから送り出された糸をボビンに巻き取ってパッケージを製造する糸巻取機において、
前記ボビンを保持するボビンホルダと、
前記パッケージと接触して回転する接触ローラと、
前記接触ローラに対向しており、前記糸送りローラから前記接触ローラに至る糸を前記接触ローラとの間で挟むように配置されるトラバース装置と、
を備え、
前記トラバース装置は、
前記糸送りローラから前記接触ローラに至る糸に接触して当該糸をトラバースするトラバースガイドと、
前記トラバースガイドの巻幅方向の移動を許容し、前記トラバースガイドの糸道の上流側に向かう移動を規制する上流ガイドレールと、
前記トラバースガイドの前記巻幅方向の移動を許容し、前記トラバースガイドの前記糸道の下流側に向かう移動を規制する下流ガイドレールと、
を有し、
糸の巻取中において、前記糸送りローラから前記接触ローラまでの糸道は鉛直方向に対して傾斜しており、
前記下流ガイドレールのうち前記糸道に対向する下流対向面は、前記パッケージの軸方向で見たときにおいて、前記糸道の下流に近づくに連れて当該糸道から離れる退避面を含むことを特徴とする糸巻取機。
【請求項2】
請求項1に記載の糸巻取機であって、
前記パッケージの軸方向で見たときにおいて、前記上流ガイドレールのうち前記糸道に対向する上流対向面は、前記糸道に沿うように設けられていることを特徴とする糸巻取機。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の糸巻取機であって、
前記ボビンホルダ、前記接触ローラ、前記トラバース装置を含む巻取部を複数備え、
前記巻取部が上下又は水平に並べて配置されることを特徴とする糸巻取機。
【請求項4】
請求項3に記載の糸巻取機であって、
前記巻取部は、上下に並べて配置され、
前記糸送りローラから上側に配置される前記接触ローラまでの糸道の鉛直方向に対する傾斜角度は、前記糸送りローラから下側に配置される前記接触ローラまでの糸道の鉛直方向に対する傾斜角度よりも大きく、
少なくとも上側に配置される前記巻取部の前記下流ガイドレールの前記下流対向面が前記退避面を含むことを特徴とする糸巻取機。
【請求項5】
請求項1から4までの何れか一項に記載の糸巻取機であって、
前記糸巻取機に対して前記糸送りローラが位置する方向を高さ方向としたときに、
前記トラバースガイドを前記接触ローラに対して相対的に昇降させる昇降装置を備えることを特徴とする糸巻取機。
【請求項6】
請求項1から5までの何れか一項に記載の糸巻取機であって、
前記パッケージの軸方向で見たときにおいて、前記ボビンに糸を掛ける糸掛け位置は、前記接触ローラを基準として、トラバースガイド側であることを特徴とする糸巻取機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として、糸をボビンに巻き取ってパッケージを製造する糸巻取機に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、1つのゴデットローラ(糸送りローラ)に対して2つの巻取装置が配置されている。そのため、ゴデットローラから巻取装置に向かう糸道は、鉛直方向に対して傾斜している。特許文献1には、糸道の傾斜に対応して、トラバース糸案内装置を傾斜させたレイアウトが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実用新案登録第3209831号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の巻取装置では、トラバース糸案内装置を傾斜させているため、鉛直方向下方に近づくに連れてトラバース糸案内装置が水平方向に大きく突出することになる。従って、特許文献1のレイアウトでは、トラバース糸案内装置の傾斜に起因して、巻取装置のボビンホルダに最初に糸を掛ける糸掛け作業の際に、糸を掛けるボビンホルダの位置によっては、トラバース糸案内装置に糸が接触し、糸切れを生じる可能性があるため、糸掛け作業の際のボビンホルダの位置の自由度が低下する。
【0005】
本発明は以上の事情に鑑みてされたものであり、その主要な目的は、糸送りローラから送り出される糸の糸道が鉛直方向に対して傾斜している糸巻取機において、糸掛け作業の際のボビンホルダの位置の自由度を確保できる構成を提供することにある。
【課題を解決するための手段及び効果】
【0006】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段とその効果を説明する。
【0007】
本発明の観点によれば、以下の構成の糸巻取機が提供される。即ち、糸巻取機は、糸送りローラから送り出された糸をボビンに巻き取ってパッケージを製造する。糸巻取機は、ボビンホルダと、接触ローラと、トラバース装置と、を備える。前記ボビンホルダは、前記ボビンを保持する。前記接触ローラは、前記パッケージと接触して回転する。前記トラバース装置は、前記接触ローラに対向しており、前記糸送りローラから前記接触ローラに至る糸を前記接触ローラとの間で挟むように配置される。前記トラバース装置は、トラバースガイドと、上流ガイドレールと、下流ガイドレールと、を有する。前記トラバースガイドは、前記糸送りローラから前記接触ローラに至る糸に接触して当該糸をトラバースする。前記上流ガイドレールは、前記トラバースガイドの前記巻幅方向の移動を許容し、前記トラバースガイドの前記糸道の上流側に向かう移動を規制する。前記下流ガイドレールは、前記トラバースガイドの前記巻幅方向の移動を許容し、前記トラバースガイドの前記糸道の下流側に向かう移動を規制する。糸の巻取中において、前記糸送りローラから前記接触ローラまでの糸道は鉛直方向に対して傾斜している。前記下流ガイドレールのうち前記糸道に対向する下流対向面は、前記パッケージの軸方向で見たときにおいて、前記糸道の下流に近づくに連れて当該糸道から離れる退避面を含む。
【0008】
下流ガイドレールに退避面が形成されることにより、糸掛け作業の際に糸が掛けられるボビンホルダの位置を接触ローラからトラバース装置側に寄った位置とすることができ、糸送りローラからボビンホルダに至る糸を接触ローラから遠ざけることができる。このため、糸掛け作業時に糸が接触ローラに接触して糸切れを生じるという問題が生じにくくなる。これにより、糸掛け作業の際のボビンホルダの位置の自由度を確保できる。
【0009】
前記の糸巻取機においては、前記パッケージの軸方向で見たときにおいて、前記上流対向面は、前記糸道に沿うように設けられていることが好ましい。
【0010】
糸と接触する蓋然性が高い下流ガイドレールにのみ退避面を形成することで、上流ガイドレールの形状を単純にすることができる。
【0011】
前記の糸巻取機においては、以下の構成とすることが好ましい。即ち、前記ボビンホルダ、前記接触ローラ、前記トラバース装置を含む巻取部を複数備える。前記巻取部が上下又は水平に並べて配置される。
【0012】
巻取部が並べて配置され、単一の糸送りローラから糸が供給される場合、糸送りローラから接触ローラまでの糸道を傾斜せざるを得なくなる。そのため、下流ガイドレールに退避面を設けた構成を有効に活用できる。
【0013】
前記の糸巻取機においては、以下の構成とすることが好ましい。即ち、前記巻取部は、上下に並べて配置されている。前記糸送りローラから上側に配置される前記接触ローラまでの糸道の鉛直方向に対する傾斜角度は、前記糸送りローラから下側に配置される前記接触ローラまでの糸道の鉛直方向に対する傾斜角度よりも大きい。少なくとも上側に配置される前記巻取部の前記下流ガイドレールの前記下流対向面が前記退避面を含む。
【0014】
これにより、糸道が傾斜する方の巻取部の下流ガイドレールに退避面を設けることができる。
【0015】
前記の糸巻取機においては、前記糸巻取機に対して前記糸送りローラが位置する方向を高さ方向としたときに、前記トラバースガイドを前記接触ローラに対して相対的に昇降させる昇降装置を備えることが好ましい。
【0016】
トラバースガイドと接触ローラの相対的な高さが変化することで、鉛直方向に対する糸道の傾斜角度が変化する。そのため、下流ガイドレールに退避面を設けた構成を有効に活用できる。
【0017】
前記の糸巻取機においては、前記パッケージの軸方向で見たときにおいて、前記ボビンに糸を掛ける糸掛け位置は、前記接触ローラを基準として、トラバースガイド側であることが好ましい。
【0018】
糸掛け位置がトラバースガイド側である場合、糸掛け時において糸道が下流ガイドレールに近くなる。そのため、下流ガイドレールに退避面を設けた構成を有効に活用できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の一実施形態に係る糸巻取機の正面図。
図2】糸巻取機のブロック図。
図3】トラバース装置及びその近傍の正面断面図。
図4】フリーレングスの違いによりトラバース幅が短くなることの説明図。
図5】糸掛け中の上段の巻取部の正面図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る糸巻取機1の正面図である。図2は、糸巻取機1のブロック図である。以下の説明では、糸の走行方向の上流又は下流を単に上流又は下流と称することがある。
【0021】
図1に示す糸巻取機1の上流には図略の紡糸機が配置されている。紡糸機で製造された糸91は、糸送りローラ100を介して、糸巻取機1に供給される。糸巻取機1は、糸91をボビン90に巻き取ってボビン90上に糸層を形成しパッケージ92を製造する。糸91は、例えばスパンデックス等の弾性糸である。ただし、糸91の種類はこれに限定されず、例えばナイロン又はポリエステル等の合繊糸であってもよい。
【0022】
図1に示すように、糸巻取機1は、上下に並んで配置された2つの巻取部10を備える。それぞれの巻取部10には糸91が個別に供給されており、それぞれの巻取部10で個別にパッケージ92が製造される。巻取部10には、パッケージ92の軸方向に並ぶ複数の糸91が供給される。巻取部10は、複数の糸91をそれぞれ巻き取って、複数のパッケージ92を製造する。
【0023】
2つの巻取部10は、それぞれ同じ装置を備えるため、以下では上下の巻取部10をまとめて説明する。図1に示すように、巻取部10は、フレーム11と、第1ハウジング20と、第2ハウジング30と、ターレット板40と、を備える。
【0024】
フレーム11は、巻取部10が備える各部を保持する部材である。第1ハウジング20には、トラバース装置21が取り付けられている。トラバース装置21は、後述するトラバースガイド23が糸91と係合した状態で巻幅方向(パッケージ92の軸方向)に往復動することにより、下流側に送られる糸91をトラバースさせる。図2に示すように、トラバース装置21は、トラバースカム22と、トラバースガイド23と、を備える。
【0025】
トラバースカム22は、ボビン90と平行に配置されたローラ状の部材である。トラバースカム22の外周面に螺旋状のカム溝が形成されている。トラバースカム22は、トラバースモータ51により回転駆動される。
【0026】
トラバースモータ51は、制御装置50によって制御される。制御装置50は、CPU、ROM、RAM等を備える。CPUは、ROMに記憶されたプログラムをRAMに読み出して実行することにより、巻取部10に関する様々な制御を実行する。
【0027】
トラバースガイド23は、糸送りローラ100から後述の接触ローラ31に至る糸91と係合する部分である。トラバースガイド23の先端は例えば略U字状のガイド部を有しており、糸91を巻幅方向で挟み込むようにして、糸91と係合する。トラバースガイド23の基端はトラバースカム22のカム溝に位置している。この構成により、トラバースカム22を回転駆動することで、トラバースガイド23を巻幅方向に往復動させることができる。
【0028】
第2ハウジング30には、接触ローラ31が回転可能に取り付けられている。接触ローラ31は、糸91の巻取り時にパッケージ92の糸層に所定の圧力で接触しながら従動回転することにより、パッケージ92の糸層形状を整える。トラバース装置21と接触ローラ31は糸送りローラ100から接触ローラ31に至る糸91を挟んで対向するように配置されている。
【0029】
接触ローラ31は、図略のアームを介して第2ハウジング30に取り付けられている。このアームが搖動することにより、接触ローラ31は、第2ハウジング30に対して鉛直方向に相対移動可能である。本実施形態の接触ローラ31は自重で下方に移動するが、シリンダ等のアクチュエータにより上下に駆動されてもよい。
【0030】
また、図2に示すように、巻取部10は、このアームの搖動を検出する位置センサ52を備える。位置センサ52は、例えば接触センサであり、第2ハウジング30に対して接触ローラ31が所定以上近づいたか否かを検出する。接触ローラ31の検出結果は制御装置50に出力される。
【0031】
第2ハウジング30には、操作パネル32が設けられている。操作パネル32は、オペレータが操作する装置である。オペレータは、操作パネル32を操作することにより、巻取部10に対して指示を行う。オペレータが行う指示としては、例えば、巻取りの開始、巻取りの停止、巻取条件の変更等である。
【0032】
ターレット板40は、円板状の部材である。ターレット板40は、フレーム11に回転可能に取り付けられている。ターレット板40の回転軸は、ターレット板40の中心位置である。ターレット板40は、図2に示すターレットモータ53により回転駆動される。ターレットモータ53は、制御装置50により制御される。
【0033】
ターレット板40のうち、中心位置を挟んで対向する2箇所には、それぞれボビンホルダ41が設けられている。ボビンホルダ41には、軸方向に並べて複数のボビン90を装着可能である。ターレット板40を回転させることにより、2つのボビンホルダ41の位置を変更することができる。各ボビンホルダ41は、ターレット板40に片持ち状態で支持されている。
【0034】
ボビンホルダ41は、ボビンホルダ41の軸位置を回転中心として、ターレット板40に対して回転可能である。2つのボビンホルダ41は、図2に示すボビンホルダモータ54によりそれぞれ個別に回転駆動される。ボビンホルダモータ54は制御装置50により制御される。
【0035】
2つのボビンホルダ41が上下に並んだ状態において、高い方のボビンホルダ41に対して糸91の巻取りが行われる。具体的には、一方のボビンホルダ41のボビン90に糸掛けが行われた後に、他方のボビンホルダ41が接触ローラ31に接触し、その状態で当該他方のボビンホルダ41が回転することにより、当該他方のボビンホルダ41のボビン90に糸91が巻き取られてパッケージ92が製造される。なお、接触ローラ31に接触する位置にあるボビンホルダ41に対して、当該ボビンホルダ41の自由端側の端部を支持するための先端支持部材45が設けられている。
【0036】
また、所定量の糸91を巻き取ってパッケージ92が満巻となった場合、ターレット板40が回転することにより、2つのボビンホルダ41の位置が切り替わる。その後、満巻となったパッケージ92が回収されつつ、一方のボビンホルダ41に装着されたボビン90に対して糸91が巻き取られる。
【0037】
図2に示すように、巻取部10は、昇降装置60を備える。昇降装置60は、第1ハウジング20及び第2ハウジング30を一体的に昇降させる。具体的には、第1ハウジング20及び第2ハウジング30は、図略の昇降部材に取り付けられている。この昇降部材には、ボールナット61が取り付けられている。また、フレーム11にはネジ棒62が取り付けられている。昇降モータ63を用いてネジ棒62を回転させることにより、第1ハウジング20及び第2ハウジング30を昇降させることができる。昇降モータ63は、制御装置50により制御される。なお、昇降装置60は、ボールネジに代えてシリンダを用いて実現されていてもよい。
【0038】
制御装置50は、パッケージ92の巻き太りに応じて昇降装置60を以下のように制御する。上述したように接触ローラ31は、第2ハウジング30に対して昇降可能である。そのため、糸91が巻き取られてパッケージ92が巻き太ることにより、接触ローラ31は第2ハウジング30に対して相対的に上方に移動する。制御装置50は、位置センサ52からの検出結果に基づいて、第2ハウジング30に対して接触ローラ31が所定以上近づいたか否かを判定する。制御装置50は、第2ハウジング30に対して接触ローラ31が所定以上近づいたと判定した場合、昇降装置60を制御して、第1ハウジング20及び第2ハウジング30を上昇させる。以上の処理を繰り返すことにより、パッケージ92の巻き太りに応じて第1ハウジング20及び第2ハウジング30を上昇させることができる。
【0039】
次に、巻取部10に供給される糸91の糸道について説明する。以下の説明では、上側に配置される巻取部10を「上段の巻取部10」と称し、下側に配置される巻取部10を「下段の巻取部10」と称する。
【0040】
本実施形態では、下段の巻取部10に供給される糸91が上段の巻取部10に干渉しないように、上下の巻取部10は、水平方向の位置を偏位させて配置されている。上段の巻取部10と下段の巻取部10の偏位の方向は、水平面内でパッケージ92の軸方向と直交する方向と一致する。
【0041】
また、上述したように、本実施形態では単一の糸送りローラ100から上段の巻取部10と下段の巻取部10に糸91が供給される。そのため、両方の巻取部10に供給される糸91の糸道を鉛直方向に平行にすることはできない。具体的には、下段の巻取部10に供給される糸91の糸道を鉛直方向に平行にし、上段の巻取部10に供給される糸91の糸道を鉛直方向に対して傾斜させている。言い換えれば、上段の巻取部10に供給される糸91の糸道の鉛直方向に対する傾斜角度は、下段の巻取部10に供給される糸91の糸道の鉛直方向に対する傾斜角度よりも大きい。
【0042】
また、本実施形態では、「平行」という用語は、厳密に平行なだけでなく、実質的な平行(角度が僅かに異なっていること)も含む。「垂直」についても同様である。また、糸道は、巻取りの進行又はトラバース装置21の位置等によって変化し得るが、特に言及がない限り、糸道は、巻取りの開始時点における糸道の位置を示すものとする。
【0043】
上段の巻取部10では傾斜する糸道に対応したレイアウトが要求される。例えば、糸91の巻取りに関する装置を全て傾斜させた場合、上段の巻取部10のサイズが大きくなるため好ましくない。そのため、本実施形態では、上段の巻取部10のうち第1ハウジング20のみが糸道に沿うように傾斜して配置されている。これにより、トラバース装置21が糸道に沿うように配置されるので、トラバースガイド23を用いて糸91を適切にトラバースさせることができる。また、巻取りに関する装置を全て傾斜させる構成と比較して、糸巻取機1をコンパクトにすることができる。
【0044】
次に、トラバース装置21を傾斜させたことにより生じる影響について、図3を参照して説明する。図3には、トラバース装置21及びその近傍の正面断面図が示されている。
【0045】
図3に示すように、トラバース装置21は、上流ガイドレール24と、下流ガイドレール25を備える。上流ガイドレール24及び下流ガイドレール25は、トラバースガイド23に接触して、トラバースガイド23の移動をガイドする。上流ガイドレール24及び下流ガイドレール25は、トラバースガイド23の巻幅方向(トラバース方向)の移動を許容する。具体的には、上流ガイドレール24と下流ガイドレール25により、スライド空間が形成される。トラバースガイド23の一部は、このスライド空間に位置している。そのため、トラバースガイド23は、巻幅方向にスライド可能である。
【0046】
また、上流ガイドレール24は、トラバースガイド23の上面と接触して干渉することにより、トラバースガイド23の糸道の上流側に向かう移動を規制する。下流ガイドレール25は、トラバースガイド23の下面と接触して干渉することにより、トラバースガイド23の糸道の下流側に向かう移動を規制する。この構成により、トラバースガイド23は、糸道に沿う方向に移動することなく、巻幅方向のみに移動することができる。
【0047】
ここで、上流ガイドレール24のうち糸道に対向する面を上流対向面24aと称する。下流ガイドレール25のうち糸道に対向する面を下流対向面25aと称する。本実施形態では、糸道の傾斜に合わせてトラバース装置21を傾斜させているため、上流対向面24aは、糸道に沿うように形成されている。更に詳細には、上流対向面24aは2段形状になっており、位置が異なる2つの面を含むが、何れの面も糸道に沿うように形成されている。
【0048】
これに対し、本実施形態の下流対向面25aは、糸道の下流に近づくに連れて当該糸道から離れる退避面25bを含む。詳細には、下流対向面25aは2段形状となっており、糸道に近い方の面が退避面25bである。
【0049】
なお、本実施形態の退避面25bは傾斜面(平面)であるが、湾曲を含んでいてもよい。本実施形態の退避面25bは鉛直方向に沿う。ただし、糸巻取機1の糸道によっては、退避面25bが鉛直方向に対して糸道側であってもよいし、トラバースカム22側であってもよい。上流対向面24aに退避面を設ける必要性は薄いが、部品の対称性等を考慮して上流対向面24aに退避面25bと対称形状の面(糸道の上流側に近づくに連れて糸道から退避する面)を設けてもよい。本実施形態では、2段の下流対向面25aの一方が退避面25bであるが、下流対向面25aの全体が退避面25bであってもよい。
【0050】
また、本実施形態の巻取部10は、接触ローラ31に対するトラバースガイド23の高さを一時的に変更する制御を行うことにより、パッケージ92の形状を整える機能を有する。接触ローラ31に対するトラバースガイド23の高さは、例えば上述の昇降装置60を制御することで変更可能である。昇降装置60により、第1ハウジング20及び第2ハウジング30が上昇させた場合、トラバースガイド23の高さが高くなる一方で、接触ローラ31の高さは自重により変化しないためである。
【0051】
図4に示すように、接触ローラ31に対するトラバースガイド23の高さを高くした場合、糸91のフリーレングスが長くなる(図4のFL1からFL2になる)。これにより、トラバース遅れが長くなり(図4のD1からD2になる)、トラバース幅が短くなる。従って、接触ローラ31に対するトラバースガイド23の高さを一時的に高くすることにより、パッケージ92の巻幅方向の端部の糸層が厚くなること(耳高)を抑制できる。
【0052】
また、接触ローラ31に対するトラバースガイド23の高さを変更することで、糸道が変化するため、退避面25bが設けられていない場合は、糸91と下流ガイドレール25が接触するおそれがある。この点、本実施形態の下流ガイドレール25には退避面25bが設けられているため、この制御時において糸91と下流ガイドレール25の接触を抑制できる。
【0053】
次に、図5を参照して、糸掛け時のボビン90の位置について説明する。糸掛けとは、糸巻取機1による巻取前に、一方のボビンホルダ41のボビン90に糸91を掛ける(固定する)ことである。本実施形態では、オペレータがサクションガン等を用いて糸91を捕捉してボビン90に複数回巻き付けることで糸掛けが行われる。なお、オペレータに代えて糸巻取機1が糸掛けを行ってもよい。
【0054】
オペレータは、例えば操作パネル32を操作して糸掛けを行うことを入力する。オペレータの入力を受けて、制御装置50は、ターレットモータ53を制御してターレット板40を回転させる。これにより、ボビンホルダ41が糸掛け位置に到達する。図5に示すように、本実施形態のボビンホルダ41の糸掛け位置は、接触ローラ31を基準としてトラバースガイド側である。その後、オペレータによる糸掛けが行われる。
【0055】
ここで、ボビンホルダ41の糸掛け位置が、接触ローラ31を基準としてトラバースガイド側である場合、糸道がトラバースガイド側に寄ることになる。そのため、糸91が下流ガイドレール25に近接することになる。従って、従来の下流ガイドレール25の形状であれば糸91が下流ガイドレール25に接触する可能性がある。この点、本実施形態の下流ガイドレール25には退避面25bが形成されているため、糸91が下流ガイドレール25に接触しにくい。一方で、従来の下流ガイドレール25の形状にて糸91が下流ガイドレール25に接触しないようにするには、糸道が接触ローラ31側に寄るような糸掛け位置にボビンホルダ41を配置する必要がある。しかしながら、このようなボビンホルダ41の糸掛け位置を選択すれば、糸91が接触ローラ31に接触し、糸掛け作業ミスに繋がる可能性がある。また、本実施形態のように、先端支持部材45が設けられている場合には、糸掛け作業が困難となる。このように、下流ガイドレール25に退避面25bを形成するようにすることで、糸掛け作業ミスを起こすことがなく、糸掛け作業が容易に行えるようなボビンホルダ41の糸掛け位置を選択することが可能となる。
【0056】
以上に説明したように、本実施形態の糸巻取機1は、ボビンホルダ41と、接触ローラ31と、トラバース装置21と、を備える。ボビンホルダ41は、ボビン90を保持する。接触ローラ31は、パッケージ92と接触して回転する。トラバース装置21は、接触ローラ31に対向しており、糸送りローラ100から接触ローラ31に至る糸91を当該トラバース装置21と接触ローラ31との間で挟むように配置される。トラバース装置21は、トラバースガイド23と、上流ガイドレール24と、下流ガイドレール25と、を有する。トラバースガイド23は、糸送りローラ100から接触ローラ31に至る糸91に接触して糸91をトラバースする。上流ガイドレール24は、トラバースガイド23の巻幅方向の移動を許容し、トラバースガイド23の糸道の上流側に向かう移動を規制する。下流ガイドレール25は、トラバースガイド23の巻幅方向の移動を許容し、トラバースガイド23の糸道の下流側に向かう移動を規制する。糸91の巻取中において、糸送りローラ100から接触ローラ31までの糸道は鉛直方向に対して傾斜している。下流ガイドレール25のうち糸道に対向する下流対向面25aは、パッケージ92の軸方向で見たときにおいて、糸道の下流に近づくに連れて糸道から離れる退避面25bを含む。
【0057】
下流ガイドレール25に退避面25bが形成されることにより、糸掛け作業の際に糸91が掛けられるボビンホルダ41の位置を接触ローラ31からトラバース装置21側に寄った位置とすることができ、糸送りローラ100からボビンホルダ41に至る糸91を接触ローラ31から遠ざけることができる。このため、糸掛け作業時に糸91が接触ローラ31に接触して糸切れを生じるという問題が生じにくくなる。これにより、糸掛け作業の際のボビンホルダ41の位置の自由度を確保できる。
【0058】
本実施形態の糸巻取機1において、パッケージ92の軸方向で見たときにおいて、上流対向面24aは、糸道に沿うように設けられている。
【0059】
糸91と接触する蓋然性が高い下流ガイドレール25にのみ退避面25bを形成することで、上流ガイドレール24の形状を単純にすることができる。
【0060】
本実施形態の糸巻取機1において、ボビンホルダ41、接触ローラ31、トラバース装置21を含む巻取部10を複数備える。巻取部10が上下又は水平に並べて配置される。
【0061】
巻取部10が並べて配置され、単一の糸送りローラ100から糸91が供給される場合、糸送りローラ100から接触ローラ31までの糸道を傾斜せざるを得なくなる。そのため、下流ガイドレール25に退避面25bを設けた構成を有効に活用できる。
【0062】
本実施形態の糸巻取機1において、巻取部10は、上下に並べて配置されている。糸送りローラ100から上側に配置される接触ローラ31までの糸道の鉛直方向に対する傾斜角度は、糸送りローラ100から下側に配置される接触ローラ31までの糸道の鉛直方向に対する傾斜角度よりも大きい。少なくとも上側に配置される巻取部10の下流ガイドレール25の下流対向面25aが退避面25bを含む。
【0063】
これにより、糸道が傾斜する方の巻取部10の下流ガイドレール25に退避面25bを設けることができる。
【0064】
本実施形態の糸巻取機1は、糸巻取機1に対して糸送りローラ100が位置する方向を高さ方向としたときに、トラバースガイド23を接触ローラ31に対して相対的に昇降させる昇降装置60を備える。
【0065】
トラバースガイド23と接触ローラ31の相対的な高さが変化することで、鉛直方向に対する糸道の傾斜角度が変化する。そのため、下流ガイドレール25に退避面25bを設けた構成を有効に活用できる。
【0066】
本実施形態の糸巻取機1において、パッケージ92の軸方向で見たときにおいて、ボビン90に糸91を掛ける糸掛け位置は、接触ローラ31を基準として、トラバースガイド23側である。
【0067】
糸掛け位置がトラバースガイド側である場合、糸掛け時において糸道が下流ガイドレール25に近くなる。そのため、下流ガイドレール25に退避面25bを設けた構成を有効に活用できる。
【0068】
以上に本発明の好適な実施の形態を説明したが、上記の構成は例えば以下のように変更することができる。
【0069】
上記実施形態の糸巻取機1は、巻取部10が上下に並べて配置されている。これに代えて、巻取部10が水平方向に並べて配置されていてもよい。この場合であっても、糸送りローラ100から少なくとも一方の巻取部10に供給される糸91の糸道は鉛直方向に対して傾斜するため、本発明を適用できる。また、本発明は、糸送りローラ100から供給される糸91の糸道が鉛直方向に対して傾斜するあらゆる糸巻取機に適用可能である。
【0070】
上記実施形態のトラバース装置21はカムドラム式であるが、トラバースガイド23を巻幅方向に往復動させることが可能であれば異なる構成であってもよい。例えば、トラバース装置21に代えて、ベルト式のトラバース装置を用いることもできる。
【0071】
上記実施形態のトラバース装置21において、下段の巻取部10の上流対向面24a及び下流対向面25aは、糸道に沿うように形成しても良い。
【符号の説明】
【0072】
1 糸巻取機
10 巻取部
23 トラバースガイド
24 上流ガイドレール
24a 上流対向面
25 下流ガイドレール
25a 下流対向面
25b 退避面
31 接触ローラ
40 ターレット板
41 ボビンホルダ
90 ボビン
91 糸
92 パッケージ
図1
図2
図3
図4
図5