(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023135877
(43)【公開日】2023-09-29
(54)【発明の名称】玉軸受
(51)【国際特許分類】
F16C 33/41 20060101AFI20230922BHJP
F16C 19/06 20060101ALI20230922BHJP
【FI】
F16C33/41
F16C19/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022041186
(22)【出願日】2022-03-16
(71)【出願人】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【弁理士】
【氏名又は名称】柴山 健一
(72)【発明者】
【氏名】早川 光希
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 智治
【テーマコード(参考)】
3J701
【Fターム(参考)】
3J701AA02
3J701AA32
3J701AA42
3J701AA52
3J701AA62
3J701BA25
3J701BA44
3J701BA49
3J701EA03
3J701FA32
3J701XB03
3J701XB12
3J701XB13
3J701XB14
3J701XB23
(57)【要約】
【課題】潤滑不足を抑制可能な玉軸受を提供する。
【解決手段】玉軸受1は、外輪2と、内輪3と、複数の玉4と、複数の玉4をそれぞれ保持する複数のポケット51が設けられた環状の保持器5とを備える。保持器5は、内輪3の案内面30cによって案内される。ポケット51は、保持器5における軸方向Lの一方の側の端面に端部開口部51bを介して開口すると共に、保持器5の内周面5b及び外周面5aにそれぞれ開口する。ポケット内面51aは、径方向に沿って延在する円柱状の玉保持空間Rの外周面に沿った形状を呈する。ポケット隙間Pは案内隙間Gよりも大きい。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周面に周方向に沿って延在する軌道面を有する外輪と、
前記外輪の内側に配置され、外周面に周方向に沿ってそれぞれ延在する軌道面及び案内面を有する内輪と、
前記外輪の前記軌道面と前記内輪の前記軌道面との間に配置された複数の玉と、
前記内輪の外側且つ前記外輪の内側に配置され、前記複数の玉をそれぞれ転動自在に保持する複数のポケットが設けられた環状の保持器と、
を備え、
前記保持器は、前記内輪の前記案内面によって案内され、
前記ポケットは、前記保持器における軸方向の一方の側の端面に端部開口部を介して開口すると共に、前記保持器の内周面及び外周面にそれぞれ開口し、
前記ポケットの内面は、前記保持器の径方向に沿って延在する円柱状の玉保持空間の外周面に沿った形状を呈し、
前記保持器の径方向に沿って見たときの前記ポケットの前記内面の直径と前記玉の直径との差の半分の値をポケット隙間とし、前記保持器の内径と前記内輪における前記案内面での外径との差の半分の値を案内隙間としたときに、前記ポケット隙間は前記案内隙間よりも大きい、玉軸受。
【請求項2】
外周面に周方向に沿って延在する軌道面を有する内輪と、
前記内輪の外側に配置され、内周面に周方向に沿ってそれぞれ延在する軌道面及び案内面を有する外輪と、
前記外輪の前記軌道面と前記内輪の前記軌道面との間に配置された複数の玉と、
前記内輪の外側且つ前記外輪の内側に配置され、前記複数の玉をそれぞれ転動自在に保持する複数のポケットが設けられた環状の保持器と、
を備え、
前記保持器は、前記外輪の前記案内面によって案内され、
前記ポケットは、前記保持器における軸方向の一方の側の端面に端部開口部を介して開口すると共に、前記保持器の内周面及び外周面にそれぞれ開口し、
前記ポケットの内面は、前記保持器の径方向に沿って延在する円柱状の玉保持空間の外周面に沿った形状を呈し、
前記保持器の径方向に沿って見たときの前記ポケットの前記内面の直径と前記玉の直径との差の半分の値をポケット隙間とし、前記保持器の外径と前記外輪における前記案内面での内径との差の半分の値を案内隙間としたときに、前記ポケット隙間は前記案内隙間よりも大きい、玉軸受。
【請求項3】
前記玉の直径をDwとしたときに、
前記ポケット隙間は0.08Dw以下であり、
前記案内隙間は0.01Dw以上0.06Dw以下である、請求項1又は2に記載の玉軸受。
【請求項4】
前記保持器の前記径方向において、前記保持器の外周面の位置は前記玉の中心位置よりも外側に位置し、前記保持器の内周面の位置は前記玉の中心位置よりも内側に位置している、請求項1~3のいずれか一項に記載の玉軸受。
【請求項5】
前記保持器における前記軸方向の前記一方の側の端部において、互いに隣接する前記ポケットの前記端部開口部間には、前記保持器の前記径方向に沿って延在するスリットが設けられている、請求項1~4のいずれか一項に記載の玉軸受。
【請求項6】
前記外輪の前記軌道面及び前記内輪の前記軌道面はそれぞれ溝状を呈し、
前記外輪の前記軌道面の溝深さ及び前記内輪の前記軌道面の溝深さは、前記玉の直径の0.15倍以上である、請求項1~5のいずれか一項に記載の玉軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、玉を保持する保持器を備える玉軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
玉を回転自在に保持する保持器を備えた玉軸受が知られている。このような玉軸受を高速回転させると、保持器に設けられた玉を保持するためのポケットのエッジ部と、玉の表面とが接近し、ポケットのエッジ部によって玉の表面の潤滑剤がかき取られることがある。そして、潤滑剤がかき取られることによって、玉軸受の内部の潤滑が不十分になることがある。このため、例えば特許文献1に記載された玉軸受では、保持器のポケットの内面の形状を円筒状とすることによって、ポケットのエッジ部と玉の表面とを離間させ、潤滑剤のかき取りを抑制することが行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、保持器のポケットの内面の形状を円筒状とした場合であっても、ポケットの内面の径が小さい場合には、保持器のポケットと玉の表面との距離を十分に保てずに、ポケットによる潤滑剤のかき取りを十分に抑制できないことがある。
【0005】
そこで、本発明は、潤滑不足を抑制可能な玉軸受を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係る玉軸受は、内周面に周方向に沿って延在する軌道面を有する外輪と、外輪の内側に配置され、外周面に周方向に沿ってそれぞれ延在する軌道面及び案内面を有する内輪と、外輪の軌道面と内輪の軌道面との間に配置された複数の玉と、内輪の外側且つ外輪の内側に配置され、複数の玉をそれぞれ転動自在に保持する複数のポケットが設けられた環状の保持器と、を備え、保持器は、内輪の案内面によって案内され、ポケットは、保持器における軸方向の一方の側の端面に端部開口部を介して開口すると共に、保持器の内周面及び外周面にそれぞれ開口し、ポケットの内面は、保持器の径方向に沿って延在する円柱状の玉保持空間の外周面に沿った形状を呈し、保持器の径方向に沿って見たときのポケットの内面の直径と玉の直径との差の半分の値をポケット隙間とし、保持器の内径と内輪における案内面での外径との差の半分の値を案内隙間としたときに、ポケット隙間は案内隙間よりも大きい。
【0007】
この玉軸受では、ポケット隙間が案内隙間よりも大きい。このため、玉軸受は、内輪によって保持器を適切に案内しつつ保持器のポケットと玉の表面との距離を十分に保つことができ、ポケットによる潤滑剤のかき取りを抑制できる。これにより、この玉軸受では、潤滑不足を抑制できる。
【0008】
本発明の他の態様に係る玉軸受は、外周面に周方向に沿って延在する軌道面を有する内輪と、内輪の外側に配置され、内周面に周方向に沿ってそれぞれ延在する軌道面及び案内面を有する外輪と、外輪の軌道面と内輪の軌道面との間に配置された複数の玉と、内輪の外側且つ外輪の内側に配置され、複数の玉をそれぞれ転動自在に保持する複数のポケットが設けられた環状の保持器と、を備え、保持器は、外輪の案内面によって案内され、ポケットは、保持器における軸方向の一方の側の端面に端部開口部を介して開口すると共に、保持器の内周面及び外周面にそれぞれ開口し、ポケットの内面は、保持器の径方向に沿って延在する円柱状の玉保持空間の外周面に沿った形状を呈し、保持器の径方向に沿って見たときのポケットの内面の直径と玉の直径との差の半分の値をポケット隙間とし、保持器の外径と外輪における案内面での内径との差の半分の値を案内隙間としたときに、ポケット隙間は案内隙間よりも大きい。
【0009】
この玉軸受では、ポケット隙間が案内隙間よりも大きい。このため、玉軸受は、外輪によって保持器を適切に案内しつつ保持器のポケットと玉の表面との距離を十分に保つことができ、ポケットによる潤滑剤のかき取りを抑制できる。これにより、この玉軸受では、潤滑不足を抑制できる。
【0010】
本発明の玉軸受では、玉の直径をDwとしたときに、ポケット隙間は0.08Dw以下であり、案内隙間は0.01Dw以上0.06Dw以下であってもよい。これにより、この玉軸受では、ポケットの直径が大きくなり過ぎることによって保持器の大きさが大きくなる又はポケットの底部(開口部に対して反対側)の肉厚が薄くなることを抑制しつつ、潤滑不足を抑制できる。
【0011】
本発明の玉軸受では、保持器の径方向において、保持器の外周面の位置は玉の中心位置よりも外側に位置し、保持器の内周面の位置は玉の中心位置よりも内側に位置していてもよい。これによれば、保持器の径方向において保持器の外周面と内周面との間の位置が、ポケットの内面と玉とが最も接近する位置となる。すなわち、この構成とすることで、ポケットにおける保持器の外周側と玉の表面との距離をより離間させることができる。同様に、ポケットにおける保持器の内周側と玉の表面との距離をより離間させることができる。よって、この玉軸受では、ポケットによる潤滑剤のかき取りをより一層抑制でき、潤滑不足を更に抑制できる。
【0012】
本発明の玉軸受では、保持器における軸方向の一方の側の端部において、互いに隣接するポケットの端部開口部間には、保持器の径方向に沿って延在するスリットが設けられていてもよい。この場合、ポケットの端部開口部を介してポケット内に玉を挿入する際に、端部開口部が押し広げられたときの保持器の端部の変形をスリットによって吸収することができる。これにより、この玉軸受によれば、端部開口部を介してポケット内に玉を容易に挿入することができる。
【0013】
本発明の玉軸受において、外輪の軌道面及び内輪の軌道面はそれぞれ溝状を呈し、外輪の軌道面の溝深さ及び内輪の軌道面の溝深さは、玉の直径の0.15倍以上であってもよい。これによれば、例えば玉軸受に対してアキシアル荷重が加わった際に、玉が溝状の軌道面を乗り上げることを抑制できる。すなわち、この玉軸受によれば、アキシアル荷重を適切に負担することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、潤滑不足を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、第1実施形態に係る玉軸受の一部分の断面図である。
【
図5】
図5は、比較例における玉軸受の断面図である。
【
図6】
図6は、
図5に示される玉軸受の保持器の位置が下方にずれた状態を示す断面図である。
【
図7】
図7は、玉軸受の加減速試験の結果を示すグラフである。
【
図8】
図8は、第2実施形態に係る玉軸受の一部分の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、各図において、同一又は相当する要素同士には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0017】
(第1実施形態)
まず、第1実施形態に係る玉軸受について説明する。
図1及び
図2に示される第1実施形態に係る玉軸受1は、例えば回転軸を回転可能に支持する。一例として、玉軸受1は、クリーナー用として使用される。例えば、玉軸受1は、5万~7万[rpm]程度の高速で回転する回転軸を支持する。
【0018】
玉軸受1は、外輪2、内輪3、複数の玉4、保持器5、及び一対のシール6を備えている。外輪2は、環状の部材である。外輪2の内周面20には、外輪軌道面(外輪2の軌道面)20a、及び一対のシール溝20bが設けられている。外輪軌道面20aは、内周面20の周方向に沿って延在する溝状を呈している。軸方向Lにおける外輪軌道面20aの溝形状は、玉4の表面の形状に沿うように円弧状となっている。なお、軸方向Lとは、玉軸受1の回転中心軸に沿った方向である。また、外輪軌道面20aの溝深さH1(溝の淵の高さ位置から溝の最も深い位置までの長さ)は、玉4の直径の0.15倍以上となっている(
図1参照)。
【0019】
一対のシール溝20bは、それぞれ内周面20の周方向に沿って延在している。一対のシール溝20bは、外輪2の内周面20において軸方向Lの両端部にそれぞれ設けられている。すなわち、外輪軌道面20aは、軸方向L方向において、一対のシール溝20b間に位置している。
【0020】
内輪3は、外輪2の内側に配置された環状の部材である。内輪3の外周面30には、内輪軌道面30a、一対のシール溝30b、及び案内面(内輪の案内面)30cが設けられている。内輪軌道面30aは、外周面30の周方向に沿って延在する溝状を呈している。軸方向Lにおける内輪軌道面30aの溝形状は、玉4の表面の形状に沿うように円弧状となっている。また、内輪軌道面30aの溝深さH2(溝の淵の高さ位置から溝の最も深い位置までの長さ)は、玉4の直径の0.15倍以上となっている(
図1参照)。
【0021】
一対のシール溝30bは、それぞれ外周面30の周方向に沿って延在している。一対のシール溝30bは、内輪3の外周面30における軸方向Lの両端部にそれぞれ設けられている。すなわち、内輪軌道面30aは、軸方向L方向において、一対のシール溝30b間に位置している。
【0022】
案内面30cは、外周面30において内輪軌道面30a及びシール溝30bが設けられていない部分に設けられている。案内面30cは、内輪軌道面30aに隣接している。案内面30cは、外周面30の周方向に沿って延在している。
【0023】
外輪2及び内輪3の材料としては、高温及び高速回転に対応するためにSHX材(NSK technical journal No.673(2002) pp12-14)が用いられる。但し、外輪2及び内輪3の材料はSHX材に限定されず、SUJ2等の他の軸受鋼等が用いられてもよい。
【0024】
玉4は、外輪2の外輪軌道面20aと内輪3の内輪軌道面30aとの間に配置されている。複数の玉4は、外輪2及び内輪3の周方向に沿って、所定の間隔で1列に並べられている。玉4の材料としては、高速回転に対応するためにセラミックが用いられる。但し、玉4の材料はセラミックに限定されず、外輪2及び内輪3と同様にSUJ2等の他の軸受鋼等が用いられてもよい。
【0025】
一対のシール6は、設置される向きが互いに異なるだけで同じ構成である。但し、一対のシール6は、互いに違う構成でもよい。シール6は、芯金61、及び弾性体62を備えている。芯金61は、鋼板等の金属板により断面略L字形に形成された円環状の部材である。弾性体62は、ゴム等の弾性材料からなる円環状の部材であり、芯金61に固着されている。また、弾性体62の外周側端部62aは、芯金61の外周縁よりも径方向の外側に張り出している。弾性体62の内周側端部62bは、芯金61の内周縁よりも径方向の内側に張り出している。
【0026】
一対のシール6は、各外周側端部62aが外輪2に設けられた一対のシール溝20bにそれぞれ嵌め込まれることによって、外輪2に取り付けられる。これにより、例えば外輪2が高速に回転させられたときに、玉軸受1内に充填された潤滑剤が遠心力によって径方向の外側に移動しても、玉軸受1の外部に潤滑剤が漏れ出ることを抑制できる。
【0027】
一対のシール6の内周側端部62bは、内輪3に設けられた一対のシール溝30b内にそれぞれ差し込まれている。内周側端部62bとシール溝30bの壁面とは、互いに離間している。これにより、玉軸受1の内部(外輪2と内輪3との間の空間)から内周側端部62bとシール溝30bとの隙間を通って玉軸受1の外部へ至る経路が、矩形状のシール溝30bの壁部に沿って屈曲した経路となる。すなわち、この経路は、ラビリンス状の形状となる。これにより、玉軸受1内の潤滑剤が、ラビリンス状の経路を通って外部に漏れ出ることを抑制できる。
【0028】
また、内周側端部62bとシール溝30bとが離間しているため、内周側端部62bがシール溝30bに接触している場合に比べて、外輪2と内輪3とを高速で相対回転させることができる。よって、玉軸受1は、シール6が設けられていても、回転抵抗を小さくすることができる。
【0029】
図1~
図4に示されるように、保持器5は、内輪3の外側且つ外輪2の内側に配置された環状の部材である。すなわち、保持器5は、外輪2の内側において、内輪3を囲むように配置されている。保持器5は、複数の玉4を周方向に予め定められた間隔で保持する冠形保持器である。保持器5の内側には、内輪3が通されている。保持器5は、内輪3の案内面30cによって案内される内輪案内方式の保持器である。
【0030】
保持器5には、複数の玉4をそれぞれ転動自在に保持する複数のポケット51が設けられている。複数のポケット51は、保持器5に対して周方向に沿って並べて設けられている。ポケット51は、保持器5における軸方向Lの一方の側の端面に端部開口部51bを介して開口している。さらに、ポケット51は、保持器5の内周面5b及び外周面5aにそれぞれ開口している。ポケット51の内面であるポケット内面51aは、保持器5の径方向に沿って延在する円柱状の玉保持空間R(
図2及び
図4参照)の外周面に沿った形状を呈している。すなわち、ポケット内面51aは、保持器5の径方向に沿った方向を軸として延在する円筒状を呈している。ポケット内面51aは、端部開口部51bが設けられていることによって、軸方向Lの一方の側の部分において途切れている。端部開口部51bの開口幅W(
図3、
図4参照)は、玉4の直径よりも小さい。
【0031】
保持器5における軸方向Lの一方の側の端部において、互いに隣接するポケット51の端部開口部51b間には、保持器5の径方向に沿って延在するスリット52が設けられている。ここで、保持器5において、
図3及び
図4に示されるように、隣接するポケット51間の部位を柱部53と称する。すなわち、スリット52は、柱部53における軸方向Lの一方の側の端部に設けられている。これにより、柱部53の端部には、スリット52を挟んで対向する一対の爪部53aが形成される。ポケット51の端部開口部51bは、隣接する柱部53にそれぞれ設けられた一対の爪部53aの先端部によって形成される。
【0032】
保持器5は、例えば、樹脂材料を射出成形することによって形成されている。保持器5を構成する樹脂材料の種類は、保持器5に必要な強度,耐熱性等の特性を有しているならば特に限定されない。一例として、保持器5の樹脂材料として、例えば高速回転に対応するために、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)が用いられてもよい。また、例えば、保持器5の樹脂材料としては、ナイロン46、ナイロン66、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリ四弗化エチレン(PTFE)、等が用いられてもよい。高温下での靱性及び機械的強度を向上させるため、これらの樹脂中には、ガラス繊維(GF)、炭素繊維(CF)等の補強材が含有されていてもよい。
【0033】
図1に示されるように、保持器5の径方向において、保持器5の外周面5aの位置は玉4の中心位置Tよりも外側(外輪2側)に位置している。保持器5の径方向において、保持器5の内周面5bの位置は、玉4の中心位置Tよりも内側(内輪3側)に位置している。これらにより、保持器5の径方向において、玉4の表面とポケット内面51aとが最も接近する位置は、ポケット51における保持器5の外周側のエッジ部(ポケット内面51aと外周面5aとのエッジ部)と、ポケット51における保持器5の内周側のエッジ部(ポケット内面51aと内周面5bとのエッジ部)と、の間の位置となる。
【0034】
ここで、保持器5の径方向に沿って見たときのポケット内面51aの直径と玉4の直径との差の半分の値を、ポケット隙間Pとする。ポケット内面51aの直径とは、円筒状を呈するポケット内面51aの円筒の直径である。換言すると、ポケット内面51aの直径とは、円柱状の玉保持空間Rの円柱の直径である。また、環状の保持器5の内径と内輪3における案内面30cでの外径との差の半分の値を、案内隙間Gとする。
【0035】
また、玉4の直径をDwとする。この場合、玉軸受1は、次の(1)~(3)を満たしている。
(1)ポケット隙間Pは、案内隙間Gよりも大きい。
(2)ポケット隙間Pは、0.08Dw以下である。
(3)案内隙間Gは0.01Dw以上0.06Dw以下である。
【0036】
玉軸受1の外輪2と内輪3との間において、一対のシール6間には、図示しない潤滑剤が充填されている。この潤滑剤によって、玉軸受1の各部の潤滑が行われる。玉軸受1に用いられる潤滑剤としては、高速回転に対応するために、ウレア系の潤滑グリースが用いられてもよい。また、玉軸受1に用いられる潤滑剤としては、高温に対応するために、ウレアとフッ素が混合されたグリース、又はフッ素系のグリースが用いられてもよい。
【0037】
次に、偏心等によって保持器5の位置が内輪3に対して偏った場合について説明する。ここでは、一例として、保持器5が内輪3に対して下方側に位置がずれた場合について説明する。
図2に示されるように環状の内輪3と環状の保持器5との中心位置同士が一致している状態から、保持器5が内輪3に対して下方側(
図2中において下側)にずれる場合、保持器5は案内隙間Gだけ下方側に移動する。上述したとおり、ポケット隙間Pは、案内隙間Gより大きい。このため、保持器5の位置が下方にずれたとしても、ポケット内面51aは玉4に当接しない。具体的には、保持器5の位置が下方にずれたとしても、例えば、複数の玉4のうち内輪3の右側及び左側に位置する玉4Aに対してポケット内面51aが当接せず、他の玉4にもポケット内面51aが当接しない。これにより、玉4Aとポケット内面51aとの間に潤滑剤が充填された状態を維持することができる。
【0038】
ここで、比較のため、ポケット隙間Pよりも案内隙間Gが大きい玉軸受1Xについて、
図5を用いて説明する。
図5に示されるように、玉軸受1Xは、玉軸受1の保持器5に代えて保持器5Xを備えている。保持器5Xは、玉軸受1の保持器5よりも円環状の径が大きい。このため、玉軸受1Xにおいて、案内隙間Gはポケット隙間Pよりも大きい。この玉軸受1Xにおいて、保持器5Xが外輪2に対して下方側に位置がずれた場合について説明する。
図5に示されるように環状の内輪3と環状の保持器5Xとの中心位置同士が一致している状態から、保持器5Xは案内隙間Gだけ下方側に移動しようとする。上述したように、案内隙間Gはポケット隙間Pよりも大きい。このため、
図6に示されるように、保持器5Xの位置が下方にずれた場合、複数の玉4のうち内輪3の右側及び左側に位置する玉4Aに対してそれぞれポケット内面51aが当接する。これにより、玉4Aとポケット内面51aとの間の潤滑剤が押し出され、玉4Aとポケット内面51aとが当接する部分Xにおいて潤滑剤が不足する状態が発生し得る。
【0039】
次に、玉軸受1の焼付寿命の試験結果について、
図7を用いて説明する。ここでは、実施例の玉軸受1の構成として、玉軸受1の内径を8[mm]、外径を22[mm]、ピッチ円直径(P.C.D.)を15[mm]とした。実施例の玉軸受1の他の構成については、上述した実施形態における玉軸受1の構成とした。この実施例の玉軸受1に対して、次の条件の下で加減速試験を行った。ここでは、アキシアル荷重を100[N]~150[N]の間で繰り返し変動させ、ラジアル荷重を0[N]~50[N]の間で繰り返し変化させ、回転速度を0[rpm]~80000[rpm]の間で繰り返し変化させた。また、潤滑剤としてグリースを用いた。120[℃]の高温環境下において加減速試験を行った。
【0040】
比較例として、保持器に設けられるポケットが球状の玉軸受を用いて、上記と同様に加減速試験を行った。この比較例における玉軸受の保持器は、玉によって案内される玉案内式の保持器である。比較例の玉軸受は、実施例の玉軸受1とは保持器の構成のみが異なっている。
【0041】
図7は、実施例の玉軸受1と、比較例の玉軸受とを上記条件で加減速試験を行ったときに焼き付きが生じるまでの時間を示している。グラフAは、実施例の玉軸受1が焼き付くまでの時間(焼付寿命)を示している。グラフBは、比較例の玉軸受が焼き付くまでの時間(焼付寿命)を示している。
図7に示されるように、実施例の玉軸受1(グラフA)が焼き付くまでの時間は、比較例の玉軸受(グラフB)が焼き付くまでの時間に比べて6倍以上長くなった。すなわち、保持器5のポケット内面51aの形状を円筒状とすることにより、ポケットの形状が球状である場合に比べて玉軸受の焼き付き寿命が大幅に改善された。
【0042】
以上のように玉軸受1では、ポケット隙間Pが案内隙間Gよりも大きい。このため、玉軸受1は、内輪3によって保持器5を適切に案内しつつ保持器5のポケット51のエッジ部(ポケット内面51aの縁部分)と玉4の表面との距離を十分に保つことができ、エッジ部による潤滑剤のかき取りを抑制できる。これにより、この玉軸受1では、潤滑不足を抑制できる。
【0043】
玉軸受1では、ポケット隙間Pが0.08Dw以下であり、案内隙間Gが0.01Dw以上0.06Dw以下となっている。これにより、玉軸受1では、ポケット51の直径(ポケット内面51aの直径)が大きくなり過ぎることによって保持器5の大きさが大きくなる又はポケット51の底部(端部開口部51bに対して反対側)の肉厚が薄くなることを抑制しつつ、潤滑不足を抑制できる。
【0044】
玉軸受1では、保持器5の径方向において、保持器5の外周面5aの位置が玉4の中心位置Tよりも外側に位置し、保持器5の内周面5bの位置が玉4の中心位置Tよりも内側に位置している。これによれば、保持器5の径方向において保持器5の外周面5aと内周面5bとの間の位置が、ポケット内面51aと玉4とが最も接近する位置となる。すなわち、この構成とすることで、ポケット51における保持器5の外周面5aのエッジ部と玉4の表面との距離をより離間させることができる。同様に、ポケット51における保持器5の内周面5b側のエッジ部と玉4の表面との距離をより離間させることができる。よって、この玉軸受1では、ポケット51のエッジ部による潤滑剤のかき取りをより一層抑制でき、潤滑不足を更に抑制できる。
【0045】
玉軸受1では、保持器5における軸方向の一方の側の端部において、互いに隣接するポケット51の端部開口部51b間には、スリット52スリットが設けられている。この場合、ポケット51の端部開口部51bを介してポケット51内に玉4を挿入する際に、端部開口部51bが押し広げられたときの保持器5の端部の変形をスリット52によって吸収することができる。これにより、この玉軸受1によれば、端部開口部51bを介してポケット51内に玉4を容易に挿入することができる。
【0046】
同様に、この玉軸受1では、スリット52が設けられていることによって、保持器5を射出成形によって形成する際にポケット51(玉保持空間R)を形成する型を端部開口部51bを介して軸方向Lの一方の側に容易に引き抜くことができる。また、保持器5では、複数のポケット51をそれぞれ形成する型を軸方向Lの一方の側に複数まとめて引き抜くことができ、保持器5を容易に形成することができる。
【0047】
外輪軌道面20aの溝深さH1及び内輪軌道面30aの溝深さH2は、玉4の直径の0.15倍以上となっている。これによれば、例えば玉軸受1に対してアキシアル荷重が加わった際に、玉4が溝状の外輪軌道面20a及び内輪軌道面30aを乗り上げることを抑制できる。すなわち、この玉軸受1によれば、アキシアル荷重を適切に負担することができる。
【0048】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態に係る玉軸受について説明する。
図8及び
図9に示される第2実施形態に係る玉軸受1Aは、第1実施形態に係る玉軸受1と異なり、保持器5Aが外輪2によって案内される外輪案内方式となっている。以下では、本実施形態に係る玉軸受1Aの説明として、第1実施形態に係る玉軸受1と異なる点を中心に説明し、同様の構成要素については図面において同じ符号を付して詳細な説明を省略する。
【0049】
本実施形態に係る玉軸受1Aは、第1実施形態に係る玉軸受1の保持器5に代えて、保持器5Aを備えている。外輪2の内周面20には、案内面(外輪の案内面)20cが更に設けられている。案内面20cは、内周面20において外輪軌道面20a及びシール溝20bが設けられていない部分に設けられている。案内面20cは、外輪軌道面20aに隣接している。案内面20cは、内周面20の周方向に沿って延在している。
【0050】
保持器5Aは、外輪2の案内面20cによって案内される外輪案内方式の保持器である。なお、保持器5Aは、外輪案内方式であること以外、第1実施形態に係る保持器5と同じ構成となっている。詳細な説明は省略するが、保持器5Aは、
図3及び
図4に示されるように保持器5と同様の形状を有している。
【0051】
例えば、
図8に示されるように、保持器5Aの径方向において、保持器5の外周面5aの位置は玉4の中心位置Tよりも外側(外輪2側)に位置している。保持器5の径方向において、保持器5Aの内周面5bの位置は、玉4の中心位置Tよりも内側(内輪3側)に位置している。これらにより、保持器5Aの径方向において、玉4の表面とポケット内面51aとが最も接近する位置は、ポケット51における保持器5の外周側のエッジ部(ポケット内面51aと外周面5aとのエッジ部)と、ポケット51における保持器5の内周側のエッジ部(ポケット内面51aと内周面5bとのエッジ部)と、の間の位置となる。
【0052】
ここで、保持器5Aの径方向に沿って見たときのポケット内面51aの直径と玉4の直径との差の半分の値を、ポケット隙間Pとする。ポケット内面51aの直径とは、円筒状を呈するポケット内面51aの円筒の直径である。換言すると、ポケット内面51aの直径とは、円柱状の玉保持空間Rの円柱の直径である。また、環状の保持器5Aの外径と外輪2における案内面20cでの内径との差の半分の値を、案内隙間G1とする。
【0053】
また、玉4の直径をDwとする。この場合、玉軸受1Aは、次の(4)~(6)を満たしている。
(4)ポケット隙間Pは、案内隙間G1よりも大きい。
(5)ポケット隙間Pは、0.08Dw以下である。
(6)案内隙間G1は0.01Dw以上0.06Dw以下である。
【0054】
以上のように玉軸受1Aでは、ポケット隙間Pが案内隙間G1よりも大きい。このため、玉軸受1Aは、外輪2によって保持器5Aを適切に案内しつつ保持器5Aのポケット51のエッジ部(ポケット内面51aの縁部分)と玉4の表面との距離を十分に保つことができ、エッジ部による潤滑剤のかき取りを抑制できる。これにより、この玉軸受1Aでは、潤滑不足を抑制できる。
【0055】
その他、玉軸受1Aは、第1実施形態に係る玉軸受1と同様の構成を有することにより、玉軸受1と同様の作用効果を奏することができる。
【0056】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。例えば、上述した玉軸受1,1Aが満たす条件のうち、「(2),(4)ポケット隙間Pは、0.08Dw以下である。」及び「(3),(6)案内隙間Gは0.01Dw以上0.06Dw以下である。」の少なくとも一方が満たされていなくてもよい。
【0057】
玉軸受1,1Aは、保持器5,5Aの径方向において、保持器5,5Aの外周面5aの位置が玉4の中心位置Tよりも外側に位置する構成でなくてもよい。同様に、玉軸受1,1Aは、保持器5,5Aの径方向において、保持器5,5Aの内周面5bの位置が玉4の中心位置Tよりも内側に位置する構成でなくてもよい。
【0058】
保持器5,5Aには、スリット52が設けられていなくてもよい。外輪軌道面20aの溝深さH1及び内輪軌道面30aの溝深さH2は、上述した構成に限定されない。外輪軌道面20a及び内輪軌道面30aは、玉4の表面の形状に沿った円弧状でなくてもよい。
【0059】
また、玉軸受1,1Aは、クリーナーに適用されることに限定されず、高速で回転する各種の装置に適用可能である。
【符号の説明】
【0060】
1,1A…玉軸受、2…外輪、3…内輪、4…玉、5,5A…保持器、5a…外周面、5b…内周面、20…内周面、20a…外輪軌道面(外輪の軌道面)、20c…案内面(外輪の案内面)30…外周面、30a…内輪軌道面(内輪の軌道面)、30c…案内面(内輪の案内面)、51‥‥ポケット、51a…ポケット内面(ポケットの内面)、51b…端部開口部、52…スリット、G,G1…案内隙間、L…軸方向、P…ポケット隙間。