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特開2023-135893免震装置およびこれを備えた免震構造物
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  • 特開-免震装置およびこれを備えた免震構造物 図1
  • 特開-免震装置およびこれを備えた免震構造物 図2
  • 特開-免震装置およびこれを備えた免震構造物 図3
  • 特開-免震装置およびこれを備えた免震構造物 図4
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023135893
(43)【公開日】2023-09-29
(54)【発明の名称】免震装置およびこれを備えた免震構造物
(51)【国際特許分類】
   F16F 15/02 20060101AFI20230922BHJP
   F16F 15/04 20060101ALI20230922BHJP
   E04H 9/02 20060101ALI20230922BHJP
【FI】
F16F15/02 L
F16F15/04 E
E04H9/02 331A
E04H9/02 331E
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022041209
(22)【出願日】2022-03-16
(71)【出願人】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】杉本 浩一
(72)【発明者】
【氏名】濱 智貴
【テーマコード(参考)】
2E139
3J048
【Fターム(参考)】
2E139AA01
2E139AC19
2E139CA02
2E139CA21
3J048AA03
3J048AC01
3J048BA08
3J048BB03
3J048BE12
3J048BG04
3J048CB21
3J048DA01
3J048EA38
(57)【要約】
【課題】運搬の制限を受けず、上部構造物を支持しながら大変形に対応することができる免震装置およびこれを備えた免震構造物を提供する。
【解決手段】上部構造物12と下部構造物14との間の免震層16に設けられ、上部構造物12を支持する滑り支承18と、この滑り支承18から水平方向に離れた位置に設けられる積層ゴム支承20とを備える免震装置10であって、前記滑り支承18は、下部構造物14の上面に設けられた滑り部22と、上部構造物12の下面に設けられて前記滑り部22の表面を相対的に滑動可能な摩擦部26とを有し、前記滑り部22は、前記滑り部22の延びる方向に繋ぎ合わされた複数のチップ22Aからなるようにする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
上部構造物と下部構造物との間の免震層に設けられ、上部構造物を支持する滑り支承と、この滑り支承から水平方向に離れた位置に設けられる積層ゴム支承とを備える免震装置であって、
前記滑り支承は、下部構造物の上面に設けられた滑り部と、上部構造物の下面に設けられて前記滑り部の表面を相対的に滑動可能な摩擦部とを有し、前記滑り部は、前記滑り部の延びる方向に繋ぎ合わされた複数のチップからなることを特徴とする免震装置。
【請求項2】
前記滑り部は、異なる摩擦係数のチップを繋ぎ合わせて構成されることを特徴とする請求項1に記載の免震装置。
【請求項3】
前記摩擦部の直下およびその周辺における前記滑り部の領域は、摩擦係数が低い低摩擦領域に設定され、この低摩擦領域の外周側における前記滑り部の領域は、摩擦係数が高い高摩擦領域に設定されていることを特徴とする請求項1または2に記載の免震装置。
【請求項4】
請求項1または2に記載の免震装置を備えることを特徴とする免震構造物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免震装置およびこれを備えた免震構造物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、免震層を備えた免震建物が知られている(例えば、特許文献1を参照)。近年、設計で考慮すべき地震動が大きくなる傾向があり、免震建物は従来通りの設計では擁壁に衝突するおそれが出てきている。擁壁へ直接衝突を避けるために、衝突緩衝材を設けるなどのフェールセーフ技術の開発が多くされている。一方で、免震クリアランスを拡げる設計を行い、免震層の大変形を許容するという考え方もある。
【0003】
免震層の大変形を許容するためには、大変形に対応可能な支承材が必要となる。市販されている免震用の積層ゴムとしてゴム厚320mmの製品があり、400%の変形を考慮すればこの製品で1280mmまでの変形を許容することができる。滑り支承の場合、支承の可動範囲に滑り板を設置する必要がある。滑り板は工場で製作して建設現場に運搬することが一般的であり、その滑り板のサイズは運搬の制限から2400mm以下でなければならない。このため、支承の上の柱の断面寸法を600mmとすれば、最大滑り変位は900mmとなり、これを超える大変形には対応できない。
【0004】
一方、上記以外の従来の免震装置として、直動転がり支承(CLB)や特許文献2に示すような傾斜滑り支承が知られている。特許文献2の傾斜滑り支承は、水平1方向に滑るレールを平面視で十字に重ねることで、水平面内で互いに直交する水平2方向の変形に対応することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9-242382号公報
【特許文献2】特開2020-172988号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記の特許文献2の傾斜滑り支承の場合、各レールを長く設定すれば免震層の大変形に対応できるため、運搬の制限はかからない。しかし、この傾斜滑り支承は1台当たりの鉛直支持荷重が最大でも100tf未満を想定しており、建物を支持できるほどの耐力がない。また、直動転がり支承の既製品では、最大で900mmの変形までしか対応できず、これを超える大変形には対応できない。このため、運搬の制限を受けず、建物などの上部構造物を支持しながら大変形に対応することができる免震装置が求められていた。
【0007】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、運搬の制限を受けず、上部構造物を支持しながら大変形に対応することができる免震装置およびこれを備えた免震構造物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る免震装置は、上部構造物と下部構造物との間の免震層に設けられ、上部構造物を支持する滑り支承と、この滑り支承から水平方向に離れた位置に設けられる積層ゴム支承とを備える免震装置であって、前記滑り支承は、下部構造物の上面に設けられた滑り部と、上部構造物の下面に設けられて前記滑り部の表面を相対的に滑動可能な摩擦部とを有し、前記滑り部は、前記滑り部の延びる方向に繋ぎ合わされた複数のチップからなることを特徴とする。
【0009】
また、本発明に係る他の免震装置は、上述した発明において、前記滑り部は、異なる摩擦係数のチップを繋ぎ合わせて構成されることを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係る他の免震装置は、上述した発明において、前記摩擦部の直下およびその周辺における前記滑り部の領域は、摩擦係数が低い低摩擦領域に設定され、この低摩擦領域の外周側における前記滑り部の領域は、摩擦係数が高い高摩擦領域に設定されていることを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係る免震構造物は、上述した免震装置を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る免震装置によれば、上部構造物と下部構造物との間の免震層に設けられ、上部構造物を支持する滑り支承と、この滑り支承から水平方向に離れた位置に設けられる積層ゴム支承とを備える免震装置であって、前記滑り支承は、下部構造物の上面に設けられた滑り部と、上部構造物の下面に設けられて前記滑り部の表面を相対的に滑動可能な摩擦部とを有し、前記滑り部は、前記滑り部の延びる方向に繋ぎ合わされた複数のチップからなるので、運搬の制限を受けず、上部構造物を支持しながら大変形に対応することができるという効果を奏する。
【0013】
また、本発明に係る他の免震装置によれば、前記滑り部は、異なる摩擦係数のチップを繋ぎ合わせて構成されるので、滑り部の各チップ位置における摩擦係数を任意に設定することができるという効果を奏する。
【0014】
また、本発明に係る他の免震装置によれば、前記摩擦部の直下およびその周辺における前記滑り部の領域は、摩擦係数が低い低摩擦領域に設定され、この低摩擦領域の外周側における前記滑り部の領域は、摩擦係数が高い高摩擦領域に設定されているので、上部構造物の大変形を抑制することができるという効果を奏する。
【0015】
また、本発明に係る免震構造物によれば、上述した免震装置を備えるので、大変形に対応することができる免震構造物を提供することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、本発明に係る免震装置およびこれを備えた免震構造物の実施の形態を示す側断面図である。
図2図2は、支承部の下面に設置する摩擦材を示す写真図である。
図3図3は、滑り板チップの繋ぎ合わせ例を示す平面図である。
図4図4は、低摩擦領域と高摩擦領域の配置例を示す平断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明に係る免震装置およびこれを備えた免震構造物の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0018】
図1に示すように、本発明の実施の形態に係る免震装置10は、上部構造物12と下部構造物14との間の免震層16に対して設けられた滑り支承18と、積層ゴム支承20とを備える。上部構造物10の鉛直荷重を滑り支承18が支持し、復元のための剛性(復元力)を積層ゴム支承20が担う。本実施の形態に係る免震構造物100は、上部構造物12と下部構造物14と免震装置10を備えた構造物である。
【0019】
滑り支承18は、上部構造物12を支持するものであり、下部構造物14の上面に固定された滑り板22(滑り部)と、上部構造物12から下方に延びる円柱状の剛体である支承部24と、支承部24の下面に設けられて滑り板22の表面を相対的に滑動可能な摩擦材26(摩擦部)とを有する。図2に、支承部24の下面に取り付けた摩擦材26を示す。摩擦材26は、図2のように板状物(摩擦板)で構成することができる。
【0020】
滑り板22は、図3に示すように、滑り板22の延びる方向に繋ぎ合わされた複数の滑り板チップ22Aからなる。滑り板チップ22Aは、例えば縦横の長さが100mm程度の矩形の小片であり、サイズが小さく運搬が容易である。滑り板22は、現場に搬入した滑り板チップ22Aを現場で繋ぎ合わせることで製作することができる。これにより、滑り板22全体が長大となり運搬できないという問題を解決することができる。
【0021】
滑り板チップ22Aは、チップ毎に表面処理を変えたり、材質を変えることで摩擦係数を変更することができる。異なる摩擦係数の滑り板チップ22Aを繋ぎ合わせることで、滑り部22の各チップ位置における摩擦係数を任意に設定可能である。滑り板22として適切な摩擦係数に設定することが好ましい。これにより、任意の滑り摩擦係数の滑り支承18を実現することができる。
【0022】
なお、図3の例では、同じ大きさの矩形の滑り板チップ22Aを前後左右方向に繋ぎ合わせて、矩形の滑り板22を形成した場合を示したが、本発明はこれに限るものではない。滑り板チップ22Aは、複数繋ぎ合わせることで滑り板22を形成可能なものであれば任意の形状、大きさでよく、形や大きさが異なるものを繋ぎ合わせてもよい。また、滑り板22の平面形状は円形などの他の形状に設定してもよい。
【0023】
また、図4に示すように、滑り板22は、支承部24の直下およびその周辺を低摩擦領域R1(摩擦係数が低い領域)に設定し、低摩擦領域R1の外周側を高摩擦領域R2(摩擦係数が高い領域)に設定してもよい。こうすることで、上部構造物12の大変形を抑制することが可能となる。このように、滑り板22における所望の位置に、所望の摩擦係数の領域を作り出すことができれば、設計の自由度が高まる。なお、図4の例では、支承部24と同心円状に配置した円形の滑り板22において、半径方向内側に円形状の低摩擦領域R1を設定し、外周側に円環状の高摩擦領域R2を設定した場合を示したが、本発明はこれに限るものではなく、滑り板22の平面形状は他の形状でもよいし、各摩擦領域についても他の配置でもよい。また、低摩擦領域R1と高摩擦領域R2の間に摩擦係数が中程度の摩擦領域を段階的に設けてもよい。
【0024】
積層ゴム支承20は、滑り支承18から水平方向に一定距離だけ離れた位置に配置される。この積層ゴム支承20は、積層ゴム28を上下2段に積層した支承である。積層ゴム28は、ゴム層30と鋼板32とを上下方向に複数積層した円柱状のものである。積層ゴム28の上下端面にはプレート34、36が配置される。上側の積層ゴム28Aの上端のプレート34は、上部構造物12の下面に固定される。下側の積層ゴム28Bの下端のプレート36は、下部構造物14の上面に固定される。
【0025】
上側の積層ゴム28Aの下端のプレート36と、下側の積層ゴム28Bの上端のプレート34は、連結プレート38を介して連結している。具体的には、プレート36と、連結プレート38と、プレート34とに開けられた図示しないボルト孔に通されたボルトおよびボルトに螺合した締結ナットにより連結している。
【0026】
2段に積層ゴム28を積むと、大変形時に鉛直荷重により座屈することが懸念されるが、上部構造物12からの鉛直力を滑り支承18で負担するため、大変形時においても積層ゴム支承20は高さが変わらず、積層ゴム28が座屈するおそれはない。
【0027】
本実施の形態によれば、上部構造物12の鉛直荷重を滑り支承18が負担し、復元力を積層ゴム支承20が担うことで、積層ゴム28が大変形時に座屈する可能性を限りなく低くすることが可能となる。また、滑り支承18の滑り板22を、複数の滑り板チップ22Aで構成することにより、運搬によるサイズの制限を受ける必要がない。したがって、運搬の制限を受けず、上部構造物12を支持しながら大変形に対応することができる。
【0028】
また、滑り板チップ22Aを多様な表面処理や、材質を変えることで任意の摩擦係数とすることができる。これにより、支承部24の周囲を低摩擦領域R1、その外周部を高摩擦領域R2に設定することもでき、変形量に応じた抑制機構を実現することが可能となる。
【0029】
なお、上記の実施の形態においては、積層ゴム支承20が積層ゴム28を上下2段に積層した支承である場合を例にとり説明したが、本発明の積層ゴム支承はこれに限るものではなく、積層ゴムを上下方向に3段以上に積層した支承であってもよい。
【0030】
以上説明したように、本発明に係る免震装置によれば、上部構造物と下部構造物との間の免震層に設けられ、上部構造物を支持する滑り支承と、この滑り支承から水平方向に離れた位置に設けられる積層ゴム支承とを備える免震装置であって、前記滑り支承は、下部構造物の上面に設けられた滑り部と、上部構造物の下面に設けられて前記滑り部の表面を相対的に滑動可能な摩擦部とを有し、前記滑り部は、前記滑り部の延びる方向に繋ぎ合わされた複数のチップからなるので、運搬の制限を受けず、上部構造物を支持しながら大変形に対応することができる。
【0031】
また、本発明に係る他の免震装置によれば、前記滑り部は、異なる摩擦係数のチップを繋ぎ合わせて構成されるので、滑り部の各チップ位置における摩擦係数を任意に設定することができる。
【0032】
また、本発明に係る他の免震装置によれば、前記摩擦部の直下およびその周辺における前記滑り部の領域は、摩擦係数が低い低摩擦領域に設定され、この低摩擦領域の外周側における前記滑り部の領域は、摩擦係数が高い高摩擦領域に設定されているので、上部構造物の大変形を抑制することができる。
【0033】
また、本発明に係る免震構造物によれば、上述した免震装置を備えるので、大変形に対応することができる免震構造物を提供することができる。
【産業上の利用可能性】
【0034】
以上のように、本発明に係る免震装置およびこれを備えた免震構造物は、免震層を備えた免震構造に有用であり、特に、運搬の制限を受けず、上部構造物を支持しながら大変形に対応するのに適している。
【符号の説明】
【0035】
10 免震装置
12 上部構造物
14 下部構造物
16 免震層
18 滑り支承
20 積層ゴム支承
22 滑り板(滑り部)
22A 滑り板チップ(チップ)
24 支承部
26 摩擦材(摩擦部)
28,28A,28B 積層ゴム
30 ゴム層
32 鋼板
34,36 プレート
38 連結プレート
100 免震構造物
R1 低摩擦領域
R2 高摩擦領域
図1
図2
図3
図4