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  • 特開-ゴム手袋 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023135924
(43)【公開日】2023-09-29
(54)【発明の名称】ゴム手袋
(51)【国際特許分類】
   A41D 13/08 20060101AFI20230922BHJP
   C08L 11/00 20060101ALI20230922BHJP
   C08L 23/16 20060101ALI20230922BHJP
   C08L 9/00 20060101ALI20230922BHJP
   C08L 71/02 20060101ALI20230922BHJP
   A41D 19/00 20060101ALI20230922BHJP
【FI】
A41D13/08 101
C08L11/00
C08L23/16
C08L9/00
C08L71/02
A41D19/00 P
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022041262
(22)【出願日】2022-03-16
(71)【出願人】
【識別番号】000241463
【氏名又は名称】豊田合成株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】河村 有毅
(72)【発明者】
【氏名】武田 重郎
(72)【発明者】
【氏名】竹内 宏充
(72)【発明者】
【氏名】大貫 俊
【テーマコード(参考)】
3B011
3B033
4J002
【Fターム(参考)】
3B011AA07
3B011AA10
3B011AB02
3B011AB05
3B011AB06
3B011AB09
3B011AC17
3B033AA10
3B033AB08
3B033AC03
4J002AC032
4J002AC061
4J002AC062
4J002AC071
4J002AC081
4J002AC091
4J002BB032
4J002BB112
4J002BB151
4J002BE022
4J002BE042
4J002BL002
4J002BL012
4J002BL022
4J002CF192
4J002CH022
4J002CH052
4J002CP032
4J002EA037
4J002ED017
4J002EJ017
4J002EP007
4J002FD142
4J002FD147
4J002GB01
4J002GC00
(57)【要約】
【課題】合成ゴムを用いた低アレルギー性のゴム手袋の機械的特性を向上させる。
【解決手段】ゴム手袋は、合成ゴムにより構成される鎖状構造10と、鎖状構造10内又は鎖状構造10間を架橋する架橋構造20とを有するゴム材料を主成分として含有する。架橋構造20は、直鎖状分子21と、直鎖状分子21を串刺し状に包接する環状分子22と、直鎖状分子21の両末端に配置された封鎖基23とを有するポリロタキサンであり、鎖状構造10は、ポリロタキサンの環状分子22に結合している。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
手指に密着させた状態で使用する用途に適用されるゴム手袋であって、
合成ゴムにより構成される鎖状構造と、前記鎖状構造内又は前記鎖状構造間を架橋する架橋構造とを有するゴム材料を主成分として含有し、
前記架橋構造は、第1分子と、前記第1分子に対して移動可能に組み合わされた第2分子とを有する構造の分子集合体であり、
前記鎖状構造は、前記第2分子に結合していることを特徴とするゴム手袋。
【請求項2】
前記架橋構造は、直鎖状の前記第1分子と、前記第1分子を串刺し状に包接する環状の前記第2分子と、前記第1分子の両末端に配置された封鎖基とを有するポリロタキサンである請求項1に記載のゴム手袋。
【請求項3】
前記鎖状構造を構成する前記合成ゴムは、クロロプレンゴム、イソプレンゴム、アクリロニトリル-ブタジエンゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、スチレン-ブタジエンゴムから選ばれる少なくとも一種である請求項1又は請求項2に記載のゴム手袋。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム手袋に関する。
【背景技術】
【0002】
天然ゴム製のゴム手袋は、締め付け感が小さく、指先の動きに対する応答性が優れる機械的特性を有しているため、医療用手袋などの手指に密着させた状態で使用される手袋として有用である。しかしながら、天然ゴム製のゴム手袋には、天然ゴム中に含まれる蛋白質に起因するアレルギー症状を引き起こすという問題がある。この問題を解決する方法として、脱蛋白処理を施した天然ゴムラテックスを用いる方法が知られている。例えば、特許文献1の天然ゴム製品は、脱蛋白処理を施した天然ゴムラテックスにケトン類を配合した材料を用いることによって、天然ゴムの機械的特性を損なうことなく、低アレルギー性を実現している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000-198881号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
脱蛋白処理を施した天然ゴムラテックスを用いた場合であっても、蛋白質を完全に除去することは難しいため、蛋白質に起因するアレルギー症状が生じる可能性は残る。また、天然ゴム製のゴム手袋に代えて、合成ゴム製のゴム手袋とした場合には、締め付け感が大きく、指先の動きに対する応答性が優れる機械的特性が大きく損なわれてしまう。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するゴム手袋は、手指に密着させた状態で使用する用途に適用されるゴム手袋であって、合成ゴムにより構成される鎖状構造と、前記鎖状構造内又は前記鎖状構造間を架橋する架橋構造とを有するゴム材料を主成分として含有し、前記架橋構造は、第1分子と、前記第1分子に対して移動可能に組み合わされた第2分子とを有する構造の分子集合体であり、前記鎖状構造は、前記第2分子に結合している。
【0006】
上記構成によれば、人工的に合成されたゴム材料を用いているため、天然ゴム中に含まれる蛋白質に起因するアレルギーの問題はない。
加えて、上記ゴム材料は、合成ゴムにより構成される鎖状構造と架橋構造との架橋点である第2分子が、架橋構造の第1分子に対して可動する。そのため、ゴム手袋に対して引っ張る力又は圧縮する力が作用した場合に、上記架橋点に作用する応力を弱める方向に架橋点である第2分子が移動する。これにより、局所的な応力の集中が抑制され、その結果、低モジュラス且つヒステリシスロスの少ない機械的特性が得られる。
【0007】
低モジュラス且つヒステリシスロスの少ない機械的特性は、ゴム手袋の伸び性及び耐久性を向上させるとともに、ゴム手袋を装着した際の締め付け感の緩和効果、及び指先の動きに対するゴム手袋の追従性の向上効果をもたらす。したがって、上記構成のゴム手袋は、着用感がよく、作業性に優れている。
【0008】
前記架橋構造は、例えば、直鎖状の前記第1分子と、前記第1分子を串刺し状に包接する環状の前記第2分子と、前記第1分子の両末端に配置された封鎖基とを有するポリロタキサンである。
【0009】
前記鎖状構造を構成する前記合成ゴムは、例えば、クロロプレンゴム、イソプレンゴム、アクリロニトリル-ブタジエンゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、スチレン-ブタジエンゴムから選ばれる少なくとも一種である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、合成ゴムを用いた低アレルギー性のゴム手袋の機械的特性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】ゴム手袋を構成するゴム材料の分子構造の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態を説明する。
<ゴム手袋>
本実施形態のゴム手袋は、例えば、医療用手袋、実験用手袋、労働作業用手袋などの手指に密着させた状態で使用する用途に適用される手袋である。
【0013】
本実施形態のゴム手袋は、人工的に合成された合成ゴム製であり、主成分として、特定のゴム材料を含有する。ゴム手袋における特定のゴム材料の含有割合は、例えば、50質量%以上であり、好ましくは、80質量%以上であり、より好ましくは95質量%以上である。ゴム手袋は、必要に応じて、特定のゴム材料以外のその他成分を含有してもよい。
【0014】
図1に示すように、上記特定のゴム材料は、鎖状構造10と、鎖状構造10内又は鎖状構造10間を架橋する架橋構造20とを有する分子構造である。鎖状構造10は、合成ゴムにより構成される。架橋構造20は、ポリロタキサンにより構成される。なお、鎖状構造10内を架橋するとは、同一の鎖状構造10における複数の点を架橋することを意味する。鎖状構造10間を架橋するとは、複数の鎖状構造10の間を架橋することを意味する。
【0015】
(鎖状構造)
鎖状構造10を構成する合成ゴムとしては、例えば、クロロプレンゴム、イソプレンゴム、アクリロニトリル-ブタジエンゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、スチレン-ブタジエンゴム、及びそれらの組み合わせが挙げられる。
【0016】
(架橋構造)
図1に示すように、架橋構造20としてのポリロタキサンは、直鎖状分子21と、直鎖状分子21を串刺し状に包接する、即ち、空孔の中に取り込んでいる環状分子22と、直鎖状分子21の両末端に配置された封鎖基23とを有する構造の分子集合体である。各環状分子22は、直鎖状分子21に対してスライド可能である。なお、本実施形態において、特許請求の範囲に記載する分子集合体の第1分子は、直鎖状分子21であり、第2分子は、環状分子22である。
【0017】
直鎖状分子21としては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリ乳酸、ポリイソプレン、ポリイソブチレン、ポリブタジエン、ポリプロピレングリコール、ポリテトラヒドロフラン、ポリジメチルシロキサン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリビニルアルコール、ポリビニルメチルエーテル、及びそれらの組み合わせが挙げられる。
【0018】
環状分子22としては、例えば、シクロデキストリン、クラウンエーテル、シクロファン、カリックスアレーン、ククルビットウリル、環状アミド、及びそれらの組み合わせが挙げられる。シクロデキストリンとしては、例えば、α-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン、γ-シクロデキストリンが挙げられる。シクロデキストリンは、その水酸基の一部を他の基で置換したものでもよいし、種々の有機溶媒に溶化できるようにグラフト鎖を有する置換基で置換したものでもよい。上記その他の基としては、例えば、「-SH」、「-NH」、「-COOH」、「-SOH」、「-POH」が挙げられる。上記グラフト鎖としては、例えば、ラクトンモノマーを開環重合させてなるグラフト鎖が挙げられる。環状分子22の具体例としては、鎖数20以上のグラフト鎖としてのポリカプロラクトンを有するシクロデキストリンが挙げられる。また、一つの直鎖状分子21に包接する環状分子22の数は、単数であってもよいし、複数であってもよい。
【0019】
ポリロタキサンの封鎖基としては、例えば、ジニトロフェニル基類、シクロデキストリン類、アダマンタン基類、トリチル基類、フルオレセイン類、ピレン類、置換ベンゼン類、置換されていてもよい多核芳香族類、ステロイド類、及びそれらの組み合わせが挙げられる。置換ベンゼン類及び多核芳香族類に含まれる置換基としては、例えば、アルキル基、アルキルオキシ基、ヒドロキシ基、ハロゲン基、シアノ基、スルホニル基、カルボキシル基、アミノ基、フェニル基が挙げられる。上記置換基は、単数であってもよいし、複数であってもよい。
【0020】
ポリロタキサンの一例として、直鎖状分子21がポリエチレングリコールであり、環状分子22がシクロデキストリンであり、封鎖基23がアダマンタン基であるポリロタキサンが挙げられる。
【0021】
架橋構造20としてのポリロタキサンは、環状分子22の部分が鎖状構造10に対して化学的に結合している。環状分子22と鎖状構造10との結合構造としては、例えば、炭素-炭素結合、炭素-ケイ素結合が挙げられる。
【0022】
(その他成分)
その他成分としては、例えば、可塑剤、無機充填材、老化防止剤、界面活性剤、防腐剤、消泡剤、分散剤、レベリング剤、凍結安定剤、着色剤、などの公知のゴム手袋に含有される成分が挙げられる。
【0023】
<ゴム手袋の製造例>
次に、本実施形態のゴム手袋の製造方法の一例について記載する。
まず、公知の手法によりポリロタキサンを合成する。このとき、環状分子22として、鎖状構造10に結合可能な官能基を有する環状分子を用いる。結合可能な官能基としては、例えば、ヒドロシリル基、フェノール性水酸基が挙げられる。なお、ポリロタキサンの合成方法としては、例えば、特許第4821005号に開示される方法が挙げられる。
【0024】
ポリロタキサン、合成ゴムのポリマーラテックス、乳化剤、水系溶媒を混合することによりラテックス配合液を調製する。乳化剤としては、例えば、陰イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤が挙げられる。水系溶媒としては、例えば、水、水と有機溶媒との混合溶媒が挙げられる。ラテックス配合液におけるポリロタキサンの配合量は、例えば、合成ゴムのポリマーラテックスの固形分100質量部に対して、0.5~10質量部である。ラテックス配合液の固形分割合は、例えば、5~70質量%である。ラテックス配合液中において、乳化剤はミセルを形成するとともに、合成ゴムのポリマー及びポリロタキサンは、ミセル内に包含されている。
【0025】
次に、表面にカルシウム系凝固液を付着させた手袋用の鋳型を、ラテックス配合液に浸漬させることにより、鋳型の表面にラテックス配合液を均一に付着させた後、付着したラテックス配合液を乾燥させる。その後、水洗処理による水溶性分の除去、及び加熱処理による架橋構造20の形成を順に行う。加熱処理の温度は、例えば、60~150℃であり、加熱処理の時間は、例えば、30~120分である。加熱処理の後、鋳型から脱型することにより目的のゴム手袋が得られる。
【0026】
次に、本実施形態の作用及び効果について説明する。
(1)ゴム手袋は、合成ゴムにより構成される鎖状構造10と、鎖状構造10内又は鎖状構造10間を架橋する架橋構造20とを有する分子構造のゴム材料を主成分として含有する。架橋構造20は、直鎖状分子21と、直鎖状分子21に対してスライド可能である環状分子22とを有するポリロタキサンである。鎖状構造10は、ポリロタキサンの環状分子22に結合している。
【0027】
上記構成のゴム手袋を構成するゴム材料は、人工的に合成されたゴムであるため、天然ゴム中に含まれる蛋白質に起因するアレルギーの問題はない。
加えて、上記ゴム材料は、合成ゴムにより構成される鎖状構造10と架橋構造20との架橋点である環状分子22が、架橋構造20の直鎖状分子21に対して可動する。そのため、ゴム手袋に対して引っ張る力又は圧縮する力が作用した場合に、上記架橋点に作用する応力を弱める方向に架橋点である環状分子22が移動する。これにより、局所的な応力の集中が抑制され、その結果、低モジュラス且つヒステリシスロスの少ない機械的特性が得られる。
【0028】
低モジュラス且つヒステリシスロスの少ない機械的特性は、ゴム手袋の伸び性及び耐久性を向上させるとともに、ゴム手袋を装着した際の締め付け感の緩和効果、及び指先の動きに対するゴム手袋の追従性の向上効果をもたらす。したがって、上記構成のゴム手袋は、着用感がよく、作業性に優れている。
【0029】
なお、本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
・架橋構造20は、ポリロタキサンに限定されるものではなく、第1分子と、第1分子に対して移動可能に組み合わされた第2分子とを有する構造の分子集合体であればよい。
【0030】
次に、上記実施形態及び変更例から把握できる技術的思想を以下に記載する。
(イ)医療用手袋、実験用手袋、労働作業用手袋として適用される前記ゴム手袋。
(ロ)直鎖状の前記第1分子は、ポリエチレングリコールであり、環状の前記第2分子は、シクロデキストリンである前記ゴム手袋。
【符号の説明】
【0031】
10…鎖状構造
20…架橋構造
21…直鎖状分子
22…環状分子
23…封鎖基
図1