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特開2023-135938微小振動体、微小振動体の製造方法、微小振動体の加工装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023135938
(43)【公開日】2023-09-29
(54)【発明の名称】微小振動体、微小振動体の製造方法、微小振動体の加工装置
(51)【国際特許分類】
   G01C 19/5691 20120101AFI20230922BHJP
   B23K 26/38 20140101ALI20230922BHJP
   B23K 26/08 20140101ALI20230922BHJP
   H01L 29/84 20060101ALI20230922BHJP
【FI】
G01C19/5691
B23K26/38 Z
B23K26/08 D
H01L29/84 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022041287
(22)【出願日】2022-03-16
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】520124752
【氏名又は名称】株式会社ミライズテクノロジーズ
(74)【代理人】
【識別番号】110001128
【氏名又は名称】弁理士法人ゆうあい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】稲垣 優輝
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 祐二
(72)【発明者】
【氏名】市橋 祐樹
【テーマコード(参考)】
2F105
4E168
4M112
【Fターム(参考)】
2F105AA02
2F105BB02
2F105BB15
2F105CC04
2F105CD03
2F105CD05
4E168AD07
4E168CB03
4E168CB07
4E168DA02
4E168DA23
4E168DA47
4E168HA01
4E168JA12
4E168JA14
4E168JA15
4M112AA02
4M112BA07
4M112CA03
4M112CA04
4M112DA03
4M112DA04
4M112DA09
4M112DA16
4M112EA02
4M112EA11
4M112EA13
4M112FA01
(57)【要約】
【課題】三次元曲面形状を有する曲面部を有し、曲面部のうちリムに平坦部を有しない微小振動体を簡便に形成する。
【解決手段】平坦部位203と、平坦部位に囲まれた内周部位であって、平坦部位の一面203aから突出する半球形状を含む三次元曲面形状とされた曲面部位201と、を有する基材20を用意する。この基材20を吸着保持した状態で回転させつつ、曲面部位201のうち外側面201aにレーザ光を照射し、曲面部位201を平坦部位203から分離する。
【選択図】図6H
【特許請求の範囲】
【請求項1】
平坦部位(203)と、三次元曲面形状とされ、前記平坦部位に囲まれた部位であって、前記平坦部位の一面(203a)から突出する曲面部位(201)と、を有する基材(20)を用意することと、
前記曲面部位のうち外側面(201a)にレーザ光を照射し、前記曲面部位を前記平坦部位から分離することと、を含む、微小振動体の製造方法。
【請求項2】
前記曲面部位に前記レーザ光を照射することにおいては、
前記一面に対する法線方向から見たときの前記曲面部位の中心点(P1)を通り、かつ前記法線方向に沿った軸を中心軸(A)として、前記基材のうち前記平坦部位を吸着することで、前記基材を保持しつつ、前記中心軸を回転軸として前記基材を回転させ、回転中の前記基材に前記レーザ光を照射する、請求項1に記載の微小振動体の製造方法。
【請求項3】
前記基材のうち前記平坦部位を吸着することにおいては、真空吸着により行う請求項2に記載の微小振動体の製造方法。
【請求項4】
前記基材を回転させることにおいては、プッシュ治具(63)により回転状態の前記基材のうち前記外側面を押圧し、前記基材を回転させる回転機構(62)の回転軸(A)に向かって前記基材を吸着させたまま移動させ、回転状態の前記基材の前記中心軸と前記回転機構の前記回転軸とを一致させる、請求項3に記載の微小振動体の製造方法。
【請求項5】
前記基材のうち前記平坦部位を吸着することにおいては、前記平坦部位の吸着により前記基材にかかる摩擦力を前記基材の回転により前記基材にかかる遠心力以上とする、請求項4に記載の微小振動体の製造方法。
【請求項6】
前記プッシュ治具により前記外側面を押圧することにおいては、前記平坦部位の吸着により前記基材にかかる摩擦力よりも大きい力で前記外側面を押圧する、請求項4または5に記載の微小振動体の製造方法。
【請求項7】
前記プッシュ治具により前記外側面を押圧することにおいては、前記基材の強度を越えない力で前記外側面を押圧する、請求項6に記載の微小振動体の製造方法。
【請求項8】
前記曲面部位に前記レーザ光を照射することにおいては、
前記一面に対する法線方向から見たときの前記曲面部位の中心点(P1)を通り、かつ前記法線方向に沿った軸を中心軸として、前記基材を固定し、レーザ光照射部(65)を移動させて、前記中心軸に対する周方向に沿って前記曲面部位に前記レーザ光を照射する、請求項1に記載の微小振動体の製造方法。
【請求項9】
微小振動体であって、
環状曲面形状の環状部を含む曲面部(21)と、
前記曲面部のうち前記環状部を一部とする仮想半球の頂点に位置する部位から前記仮想半球の中心に向かって延設され、他の部材との接続部位である接続部(22)と、を備え、
前記曲面部のうち前記接続部とは反対側の端部をリム(211)とし、前記リムのうち前記曲面部の外側面である表面(2a)と内側面である裏面(2b)とを繋ぐ面を下面(211a)として、前記リムは、円筒形状であって、前記下面が周期的な凹凸形状を有する、微小振動体。
【請求項10】
前記接続部は、前記リムよりも突出している、請求項9に記載の微小振動体。
【請求項11】
平坦部位(203)と、前記平坦部位に囲まれた内周部位であって、前記平坦部位の一面(203a)から突出する半球形状を含む三次元曲面形状とされた曲面部位(201)と、を有する基材(20)の前記平坦部位を吸着する吸着治具(61)と、
前記吸着治具により吸着された前記基材を回転させる回転機構(62)と、
前記回転機構により回転状態の前記基材のうち前記曲面部位の外側面(201a)に接触するヘッド(631)を有し、前記基材の回転軸を調整するプッシュ治具(63)と、
前記曲面部位にレーザ光を照射し、前記基材を切断するレーザ光照射部(65)と、を備える、微小振動体の加工装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、三次元曲面形状を有する微小振動体およびその製造方法並びにその加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車両の自動運転のシステム開発が進められており、この種のシステムでは、高精度の自己位置の推定技術が必要である。例えば、いわゆるレベル3の自動運転向けに、GNSS(Global Navigation Satellite Systemの略)とIMU(Inertial Measurement Unitの略)とを備える自己位置推定システムの開発が進められている。IMUは、例えば、3軸のジャイロセンサと3軸の加速度センサから構成される6軸の慣性力センサである。将来的に、いわゆるレベル4以上の自動運転を実現するためには、現状よりもさらに高感度のIMUが求められる。
【0003】
このような高感度のIMUを実現するためのジャイロセンサとしては、BRG(Bird-bath Resonator Gyroscopeの略)が有力視されており、ワイングラスモードで振動する略半球形状の三次元曲面を有する微小振動体が実装基板に搭載されてなる。この微小振動体は、振動の状態を表すQ値が10以上に達するため、従来よりも高感度が見込まれる。
【0004】
この種の微小振動体の製造方法としては、例えば特許文献1に記載のものが挙げられる。特許文献1に記載の微小振動体の製造方法は、ガラス基板を型に取り付けて加熱しつつ、減圧して略半球形状の三次元曲面形状を複数形成する。その後、冷却して複数の三次元曲面形状の曲面部位が複数形成されたガラス基板を別の型に取り付け、隣接する曲面部位の間に位置する平坦部分をレーザ加工により切断して分離し、個片化することで微小振動体が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】中国特許出願公開第110749315号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の方法で製造された微小振動体は、略椀状の曲面部のうちレーザ加工による分離部分側の端部に平坦部が残った形状、すなわちリムの先端部分にフランジを有する形状となる。曲面部のリムに残ったフランジは、曲面部の振動の妨げとなることに起因するQ値の低下原因や、外側面および内側面を覆う表面電極を形成する際における成膜の妨げとなる。
【0007】
また、他の微小振動体の製造方法としては、上記と同様の方法で三次元曲面形状の曲面部をガラス基板に形成した後、当該ガラス基板を治具に取り付けて樹脂封止を行い、治具および樹脂ごとガラス基板のうち曲面部の外周部分の平坦部を研削除去する手法もある。しかし、この場合、曲面部のリムにフランジを有しない微小振動体を製造できるものの、工程数が多くなる上、樹脂封止工程やその後の研削工程においてガラス基板が破損しやすく、歩留まりが低下してしまう。
【0008】
本発明は、上記の点に鑑み、三次元曲面形状を有する曲面部のリムに平坦部を持たずとも簡便に形成可能な微小振動体およびその製造方法並びにその加工装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の微小振動体の製造方法は、平坦部位(203)と、三次元曲面形状とされ、平坦部位に囲まれた部位であって、平坦部位の一面(203a)から突出する曲面部位(201)と、を有する基材(20)を用意することと、曲面部位のうち外側面(201a)にレーザ光を照射し、曲面部位を平坦部位から分離することと、を含む。
【0010】
この製造方法では、三次元曲面を有する基材を用意した後、曲面部位の外側面にレーザ光を照射し、平坦部位と三次元曲面部位とを切断分離して微小振動体が得られる。そのため、三次元曲面部位にフランジ形状が残らない構造の微小振動体が得られると共に、樹脂封止やその後の研削・研磨工程が不要となり、歩留まりが向上する。
【0011】
請求項9に記載の微小振動体は、環状曲面形状の環状部を含む曲面部(21)と、曲面部のうち環状部を一部とする仮想半球の頂点に位置する部位から仮想半球の中心に向かって延設され、他の部材との接続部位である接続部(22)と、を備え、曲面部のうち接続部とは反対側の端部をリム(211)とし、リムのうち曲面部の外側面である表面(2a)と内側面である裏面(2b)とを繋ぐ面を下面(211a)として、リムは、円筒形状であって、下面が周期的な凹凸形状を有する。
【0012】
この微小振動体は、三次元曲面形状の曲面部と、曲面部から三次元曲面のなす仮想半球の中心に向かって延設される接続部とを備え、曲面部のうち接続部とは反対側の端部であるリムが円筒形状とされ、フランジを有しない。また、リムのうち曲面部の表面と裏面とを繋ぐ下面は、周期的な凹凸形状を有する。これにより、フランジを有する形状であることに起因する、振動のQ値の低下抑制および表面電極を形成する際における成膜の妨げ抑制が両立した構造の微小振動体となる。
【0013】
請求項11に記載の微小振動体の加工装置は、平坦部位(203)と、平坦部位に囲まれた内周部位であって、平坦部位の一面(203a)から突出する半球形状を含む三次元曲面形状とされた曲面部位(201)と、を有する基材(20)の平坦部位を吸着する吸着治具(61)と、吸着治具により吸着された基材を回転させる回転機構(62)と、回転機構により回転状態の基材のうち曲面部位の外側面(201a)に接触するヘッド(631)を有し、基材の回転軸を調整するプッシュ治具(63)と、曲面部位にレーザ光を照射し、基材を切断するレーザ光照射部(65)と、を備える。
【0014】
この加工装置は、三次元曲面部位と平坦部位とを有する基材を回転機構により吸着保持・回転させつつ、プッシュ治具により基材の回転軸を調整し、レーザ光を曲面部位に照射して、基材を切断することで微小振動体の加工を行う。これにより、三次元曲面形状とされつつ、フリンジを有しない構造の微小振動体を得つつ、従来の樹脂封止や研削・研磨工程が不要となるため、歩留まりが向上する。
【0015】
なお、各構成要素等に付された括弧付きの参照符号は、その構成要素等と後述する実施形態に記載の具体的な構成要素等との対応関係の一例を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施形態に係る微小振動体を備える慣性センサの一例を示す斜視断面図である。
図2】実施形態に係る微小振動体の一例を示す断面図である。
図3図1のIII-III間の断面構成を示す断面図である。
図4A】微小振動体の三次元曲面形状の形成工程のうち部材の用意工程を示す図である。
図4B図4Aに続く工程を示す図である。
図5】微小振動体の加工装置を示す斜視図である。
図6A図4Bに続く微小振動体の製造工程を示す図である。
図6B図6AのVIB-VIB間の断面を示す断面図である。
図6C図6Bに続く微小振動体の製造工程において基材にかかる摩擦力および遠心力を説明するための説明図である。
図6D図6Bに続く微小振動体の製造工程において基材の中心軸と回転機構の回転軸とがずれている場合の一例を示す図である。
図6E図6Dの工程を別の角度から見た様子を示す図である。
図6F図6Eに相当する図であって、図6Eに続く微小振動体の製造工程を示す図である。
図6G図6Eに相当する図であって、図6Fに続く微小振動体の製造工程を示す図である。
図6H図6Gに続く微小振動体の製造工程を示す図である。
図7図6Gの工程により形成された微小振動体のリム下面のSEM(Scanning Electron Microscopeの略)観察結果を示す図である。
図8】微小振動体の変形例を示す図であって、図2に相当する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、同一符号を付して説明を行う。
【0018】
(実施形態)
実施形態に係る微小振動体2を備える慣性センサ1について、図面を参照して説明する。
【0019】
図1では、慣性センサ1の構成を分かり易くするため、慣性センサ1のうち後述する下部基板4、上部基板5および微小振動体2の一部を省略しつつ、微小振動体2の断面構成を部分的に示している。図3では、慣性センサ1の構成を分かり易くするため、別断面に位置する後述の電極部53および電極膜531の外郭を破線で示している。
【0020】
以下、説明の便宜上、図1に示すように、実装基板3のなす平面方向の一方向を「x方向」と、同平面上においてx方向に直交する方向を「y方向」と、xy平面に対する法線方向を「z方向」と、それぞれ称する。図2以降の図中のx、y、z方向は、図1のx、y、z方向にそれぞれ対応するものである。また、本明細書における「上」とは、図中のz方向に沿った方向であって、矢印側を意味し、「下」とは上の反対側を意味する。さらに、本明細書では、z方向上側から慣性センサ1、微小振動体2あるいは実装基板3を見た状態を「上面視」と称することがある。
【0021】
実施形態に係る微小振動体2は、例えば図1に示すように、実装基板3に搭載され、BRGのようにジャイロセンサ等の慣性センサを構成するのに用いられると好適であるが、クロックデバイス等の他の用途にも採用されうる。本明細書では、BRGの構成部材とされる場合を代表例として説明するが、この用途に限定されるものではない。
【0022】
〔慣性センサ〕
まず、微小振動体2を有する慣性センサ1の一例について説明する。慣性センサ1は、例えば図1に示すように、微小振動体2と、実装基板3とを備え、微小振動体2の一部が実装基板3に接合されてなる。慣性センサ1は、ワイングラスモードで振動することが可能な薄肉の微小振動体2の曲面部21と実装基板3のうち複数の電極部53との間における静電容量の変化に基づいて、慣性センサ1に印加された角速度を検出する構成となっている。
【0023】
微小振動体2は、例えば図2に示すように、略半球形状の三次元曲面の外形を含む曲面部21と、曲面部21のなす仮想半球の頂点側から当該半球の中心側に向かうように延設された接続部22とを備える。接続部22は、実装基板3等の他の部材と接続される接続部位であり、例えば、有底筒状の凹部となっているが、これに限定されず、略柱状であってもよい。微小振動体2は、例えば、曲面部21が椀状の三次元曲面を有し、その振動のQ値が10以上となっている。
【0024】
曲面部21のうち接続部22とは反対側の端部をリム211として、リム211は、例えば、略円筒形状とされる。なお、ここでいう略円筒形状とは、リム211の外側面および内側面の上端から下端までの径が同一の円筒形状だけでなく、当該上端から下端までの径が変動する筒形状も含む。言い換えると、曲面部21は、環状曲面形状の環状部とされたリム211を有する構成となっている。微小振動体2は、実装基板3に搭載された際に、リム211が、表面2a側が実装基板3のうち複数の電極部53と向き合うと共に、複数の電極部53の間隔が等間隔となるように搭載される。微小振動体2は、実装基板3への実装時において、リム211を含む曲面部21が他の部材とは接触しない中空状態になる部位である。微小振動体2は、実装基板3に搭載されたとき、中空状態のリム211がワイングラスモードで振動可能な構造となっている。リム211は、微小振動体2を構成する基材の三次元曲面部位をレーザ光照射により切断加工することで形成されており、フランジを有しない形状となっている。この微小振動体2の製造方法については後述する。微小振動体2は、略半球形状あるいは略椀形状とされ、かつリム211にフランジを有しない曲面部21と、曲面部21のうち上面視にて中心に位置する箇所から内側面に向かって延設された有底筒状もしくは略柱状の接続部22を有する構成である。
【0025】
微小振動体2は、例えば、図2図3に示すように、外径が大きいほうの面を表面2aとし、その反対面を裏面2bとして、この両面の一部または全部を覆う表面電極23を有する。微小振動体2は、接続部22のうち裏面2b側の面が実装基板3と向き合う実装面22bとなっている。微小振動体2は、例えば、接続部22の底面のうち実装面22bとは反対の面が微小振動体2の吸着搬送に用いられる吸着面22aとなっている。
【0026】
表面電極23は、例えば、限定するものではないが、下地側からCr(クロム)あるいはTi(チタン)と、Au(金)やPt(白金)等の任意の導電性材料との積層膜で構成される。表面電極23は、例えば、スパッタリングや蒸着等の真空成膜法により微小振動体2の表面2aおよび裏面2bに成膜される。表面電極23は、例えば、少なくとも実装面22bおよびリム211の表面2aに成膜され、これらの部位が電気的に接続される構成となっている。表面電極23は、微小振動体2の表裏面の全域を覆うベタ形状であってもよいし、前述の構成となるようにパターニングされ、表裏面の一部を覆うパターン形状であってもよい。微小振動体2は、例えば、表面電極23のうち接続部22の実装面22bを覆う部分が、AuSn(金錫)などの導電性材料によりなる接合部材52を介して実装基板3に接続される。
【0027】
微小振動体2は、例えば、石英、ホウケイ酸ガラスなどの添加物含有のガラス、金属ガラス、シリコンやセラミック等の材料であって、レーザ加工可能な材料で構成される。なお、微小振動体2は、三次元曲面形状とされた曲面部21および接続部22を形成でき、ワイングラスモードでの振動が可能なものであればよく、前述の材料例に限定されない。微小振動体2は、例えば、後述する形成工程により、上記した材料で構成された薄肉基材を加工して形成されることで、曲面部21および接続部22の厚みが10μm~100μmといった具合のマイクロメートルオーダーの薄肉部材となっている。微小振動体2は、例えば、実装基板3の厚み方向に沿った方向を高さ方向として、高さ方向の寸法が2.5mm、リム211の表面2a側の外径が5mmといったミリサイズの形状となっている。
【0028】
実装基板3は、例えば図1に示すように、下部基板4と、上部基板5とを備え、これらが接合された構成となっている。例えば、実装基板3は、絶縁材料のホウケイ酸ガラスにより構成された下部基板4にエッチング加工および配線成膜を施した後、半導体材料のSi(シリコン)により構成された上部基板5を下部基板4に陽極接合し、パターニングを行うことで得られる。実装基板3は、例えば、上部基板5の側に、複数の内枠部51と、内枠部51を囲むように互いに離れて配置された複数の電極部53と、複数の電極部53から離れてこれらを囲む外枠部54とを備える。また、実装基板3は、下部基板4側に、例えば、内枠部51と複数の電極部53とを隔てつつ、複数の内枠部51を囲む円環形状のエッチング溝41と、エッチング溝41の内側と外側とを跨ぐ複数のブリッジ配線42とを備える。
【0029】
エッチング溝41は、例えば、図3に示すように、内枠部51と複数の電極部53との間に設けられる溝であり、ウェットエッチングにより形成される。エッチング溝41は、微小振動体2のリム211の外径に対応する寸法とされ、微小振動体2を実装基板3に実装したときに、リム211を実装基板3に接触させないために設けられる。
【0030】
ブリッジ配線42は、例えばAl(アルミニウム)等の導電性材料により構成されると共に、複数の電極部53の間を通過する配置とされ、複数の電極部53とは電気的に独立している。ブリッジ配線42は、例えば、複数設けられると共に、下部基板4においてエッチング溝41を跨ぎつつ、一端側が内枠部51に、他端が外枠部54にそれぞれ接続されており、これらを電気的に接続している。これにより、実装基板3は、外枠部54、ブリッジ配線42および内枠部51を介して、微小振動体2の表面電極23に電圧印加が可能となっている。
【0031】
内枠部51は、例えば、下部基板4に陽極接合された上部基板5にDRIE(Deep Reactive Ion Etchingの略)などのドライエッチングを行うことで、複数の電極部53、外枠部54と共に形成される。内枠部51は、例えば、上面視にて円環形状とされ、その囲まれた領域内に微小振動体2の接続部22を挿入、あるいは嵌合が可能な構成とされる。例えば、実装基板3のうち内枠部51に囲まれた領域に接合部材52を配置した後、接合部材52上に微小振動体2の接続部22をマウントして、加熱・固化することで、実装基板3に微小振動体2が搭載される。
【0032】
複数の電極部53は、互いに離れて配置されると共に、例えば図3に示すように、それぞれ上面に電極膜531が形成されている。複数の電極部53は、例えば、電極膜531に図示しないワイヤが接続され、図示しない外部の回路基板等と電気的に接続されることで、その電位の制御が可能となっている。複数の電極部53は、いずれも、微小振動体2が搭載されたとき、微小振動体2のリム211と所定の距離を隔てた状態となり、それぞれが微小振動体2とキャパシタを形成する。つまり、実装基板3は、複数の電極部53を介して、微小振動体2との間の静電容量を検出したり、微小振動体2との間に静電引力を生じさせ、微小振動体2をワイングラスモードで振動させたりすることが可能となっている。
【0033】
外枠部54は、例えば、上面視にて、内枠部51およびこの周囲に配置された複数の電極部53を囲む1つの枠体形状とされる。外枠部54は、例えば、上面にAl等によりなる電極膜541を少なくとも1つ備え、電極膜541に図示しないワイヤが接続される。
【0034】
以上が、微小振動体2を備える慣性センサ1の基本的な構成である。上記の慣性センサ1は、あくまで一例であり、微小振動体2が搭載される実装基板3については、ブリッジ配線42、内枠部51、電極部53および外枠部54の数、形状、寸法や配置等が適宜変更されてもよい。
【0035】
〔微小振動体の製造方法〕
次に、微小振動体2の製造方法について説明するが、まず、微小振動体2のうち三次元曲面の加工工程について説明する。
【0036】
例えば図4Aに示すように、リフロー材料で構成された基材として石英板20、三次元曲面形状を形成するための型Mおよび型Mを冷却するための冷却体Cを用意する。なお、基材を構成するリフロー材料は、石英に限定されるものではない。型Mは、例えば、石英板20に三次元曲面形状を形成する際のスペースとなる凹部M1と、凹部M1の中心において、凹部M1の深さ方向に沿って延設され、加工時に石英板20の一部を支える支柱部M2とを備える。型Mは、凹部M1の底面に減圧用の貫通孔M11が形成されている。冷却体Cは、型Mが嵌め込まれる嵌め込み部C1と、嵌め込み部C1の底面に排気用の排気口C11とを備え、石英板20を加工する際に型Mを冷却する役割を果たす。石英板20は、型Mの凹部M1の全域を覆うように配置される。
【0037】
続けて、例えば図4Bに示すように、石英板20に向けてトーチTから火炎Fを吹きかけ、石英板20を溶融させる。このとき、型Mの凹部M1は、図示しない真空機構により冷却体Cの排気口C11を通じて真空引きされている。これにより、石英板20のうち溶融した部分は、凹部M1の底面に向かって引き延ばされると共に、その中心周辺領域が支柱部M2により支えられた状態となる。その後、石英板20の加熱をやめて冷却することで、石英板20は、略半球形の三次元曲面形状とされた曲面部位201と、支柱部M2で支えられることで曲面部位201の中心近傍で凹む形状となった凹部位202とが形成される。また、石英板20は、凹部M1の外側に位置する部分が、曲面部位201の外周端に位置し、平坦形状とされた平坦部位203であり、平坦部位203に囲まれた内周部位が曲面部位201である構成である。なお、石英板20の加熱方式については、上記の例に限定されるものではなく、放射、輻射、伝熱、対流や誘導加熱などの任意の方式が採用されうる。
【0038】
次いで、型Mの凹部M1を常圧に戻して加工後の石英板20を型Mから取り外し、加工後の石英板20を例えば図5に示す加工装置6に取り付ける。
【0039】
ここで、加工装置6並びに加工装置6を用いた石英板20の加工工程について、図5ないし図6Hを参照して説明する。
【0040】
図6A図6Hでは、見易くするため、後述する吸着治具61が取り付けられる回転機構62およびその他の機構を省略している。図6E図6Gでは、見易くするため、石英板20についてはその曲面部位201の外郭およびその中心軸Aのみを示すと共に、これを吸着保持する吸着治具61を省略している。図6E図6Fでは、回転状態における石英板20の曲面部位201の外郭を破線で示すと共に、回転機構62の回転軸Aに対して公転回転をする曲面部位201の最外郭の軌道を二点鎖線で示している。図6C図6F図6Gでは、後述する力F1、F2、F3の作用する向きを白抜き矢印で示している。
【0041】
加工装置6は、例えば、図5に示すように、石英板20を吸着保持するための吸着治具61と、回転機構62と、プッシュ治具63と、プッシュ治具63の台座64と、レーザ光照射部65とを備える。加工装置6は、吸着治具61で石英板20を保持しつつ、回転機構62により石英板20を回転させることが可能となっている。加工装置6は、例えば、台座64が高さ調整ネジ641、プッシュ量調整ネジ642および水平調整ネジ643により、その高さ位置、プッシュ量および水平の度合いがそれぞれ調整可能である。これにより、加工装置6は、吸着治具61に対するプッシュ治具63の相対位置を調整して、プッシュ治具63で回転中の石英板20を押すことで、吸着治具61における石英板20の位置調整ができる。このプッシュ治具63による石英板20の位置調整についての詳細は後述する。加工装置6は、回転機構62の回転軸に対する石英板20の位置を調整した後に、レーザ光照射部65により回転中の石英板20の曲面部位201にレーザ光を照射し、切断加工を行うことができる構成である。
【0042】
なお、台座64の「高さ位置」とは、例えば図5に示すように、台座64のうちプッシュ治具63が取り付けられた取り付け面64aに対する法線方向に沿った方向を高さ方向D1として、高さ方向D1における台座64の位置を指す。台座64の「プッシュ量」とは、取り付け面64aのなす平面における一方向であって、台座64から回転機構62の回転軸に向かう方向を押し出し方向D2として、プッシュ量調整ネジ642による調整前後の台座64の押し出し方向D2での移動量を指す。台座64の「水平の度合い」とは、取り付け面64aの水平度合いを意味する。
【0043】
吸着治具61は、例えば図6A図6Bに示すように、用意した基材(石英板20)を保持するための吸着孔611を備える。吸着治具61は、例えば、吸着孔611が図示しない真空機構に接続され、吸着孔611により石英板20のうち平坦部位203を真空吸着により保持可能な構成となっている。また、吸着治具61は、ネジ止め等の任意の方法で回転機構62に取り付けられており、石英板20を真空吸着したまま回転機構62により回転可能となっている。
【0044】
このとき、吸着治具61は、例えば図6Cに示すように、吸着により石英板20と吸着治具61との間に生じる摩擦力をF1とし、回転により石英板20にかかる遠心力をF2として、F1≧F2となるように石英板20を吸着する。なお、F1、F2は、以下の式で表される。
【0045】
F1=m(r2πn)2/r・・・(1)
F2=μN・・・(2)
(1)式におけるπ、m、r、nは、それぞれ、円周率、石英板20の質量(単位:kg)、石英板20の回転半径(単位:m)、石英板20の回転数(単位:s-1)である。(2)式におけるμ、Nは、それぞれ、石英板20と吸着治具61との静摩擦係数、石英板20にかかる垂直抗力(単位:N)である。
【0046】
回転機構62は、例えば、モータであり、吸着治具61を回転させる。回転機構62による石英板20の回転数rについては、F1≧F2となるように適宜調整される。
【0047】
プッシュ治具63は、回転状態の石英板20のうち曲面部位201の外側面201aに当接するヘッド631を有し、回転機構62の回転軸Aに対する石英板20の位置調整に用いられる治具である。
【0048】
具体的には、吸着治具61の吸着面61aに対する法線方向から見たときの回転機構62の回転軸Aと石英板20の曲面部位201の中心軸Aとが、例えば図6Dに示すように、ずれているとする。なお、ここでいう曲面部位201の中心軸Aとは、曲面部位201が形成された石英板20を平坦部位203の一面203aに対する法線方向から見て、当該法線方向に沿った軸であって、曲面部位201の中心に位置する中心点P1を通るものをいう。
【0049】
回転機構62の回転軸Aと石英板20の曲面部位201の中心軸Aとがずれた状態で、石英板20を回転させると、例えば図6Eに示すように、石英板20は、中心軸Aが回転軸Aに対して公転回転することとなる。この状態では、石英板20にかかる遠心力が大きい上、後述するレーザ光照射による曲面部位201と平坦部位203との分離工程においてレーザ光照射の焦点距離が変動し、支障が生じてしまう。そこで、プッシュ治具63により回転状態の石英板20を押すことで、吸着治具61における吸着位置を変え、石英板20の中心軸Aを回転機構62の回転軸Aと一致させる処理を行う。
【0050】
以下、本明細書では、例えば図6Dから図6Gまでに示す一連の工程であって、石英板20のうち曲面部位201の中心軸Aを回転機構62の回転軸Aと一致させる処理工程を便宜上「芯出し工程」と称する。
【0051】
より具体的には、芯出し工程では、例えば、プッシュ量調整ネジ642によりプッシュ治具63を移動させ、図6Fに示すように、樹脂材料などの任意の材料で構成されたヘッド631の一面で回転中の石英板20の外側面201aを回転軸A側に向かって押す。このとき、ヘッド631により石英板20の曲面部位201を押すときの力をF3として、F3は、摩擦力F2より大きく、かつ曲面部位201の強度を超えない範囲内とされる。これにより、石英板20は、吸着治具61に保持されたまま、曲面部位201の中心軸Aが回転機構62の回転軸Aに近づくように吸着面61aで徐々に移動する。そして、ヘッド631で石英板20を回転軸Aに向かってさらに押すことで、最終的には、例えば図6Gに示すように、曲面部位201の中心軸Aと回転機構62の回転軸Aとが一致した状態となる。その結果、石英板20は、曲面部位201の中心軸Aを回転軸として回転した状態となり、曲面部位201にかかる遠心力が低減され、回転状態が安定する。
【0052】
なお、芯出し工程は、例えば、図示しないカメラ等の撮像装置によって石英板20の回転状態を確認しながら、中心軸Aと回転軸Aとが略一致するまでプッシュ治具63の位置を調整することで行われうる。これにより、回転軸Aに対する石英板20の位置調整後に、次のレーザ光照射部65によるレーザ加工にスムーズに移行することができ、加工時間を短縮することができる。
【0053】
レーザ光照射部65は、所定の波長のレーザ光を所定のスポット径で断続的に照射可能なレーザ装置であり、例えば、COレーザなどのように赤外線領域(例えば波長1μm~1mm)のレーザ光を照射するものとされうる。レーザ光照射部65は、例えば、フェムト秒レーザなどのように紫外線から近赤外線の領域(例えば波長0.3μm~1μm)のレーザ光を照射するものであってもよく、微小振動体2を構成するリフロー材料に応じて適宜変更されうる。
【0054】
レーザ光照射部65は、例えば図6Hに示すように、芯出し工程後、回転状態の石英板20のうち曲面部位201にレーザ光を断続的に照射する。この工程を繰り返すことで、石英板20は、回転軸Aを軸とする周方向に沿って曲面部位201が切断され、平坦部位203と曲面部位201とが分離されることとなる。このレーザ光照射による切断加工によって石英板20から分離した部分が実施形態に係る微小振動体2となる。微小振動体2は、リム211が上記のレーザ光による切断工程により形成されるため、リム211の外側面に、中心軸Aを軸とする径方向あるいは外側面に対して交差する方向に突き出すフランジが存在しない形状である。
【0055】
まとめると、微小振動体2のうち曲面部21の三次元曲面形状および接続部22については、図4A、4Bに示すように、リフロー材料で構成された基材を型Mにセットし、加熱軟化させ、減圧処理を行うことで形成される。そして、曲面部位201、凹部位202および平坦部位203が形成された当該基材を、図6D図6Hに示すように吸着固定して回転させ、回転軸に対する位置調整をした後に、レーザ加工を行うことで、曲面部21のリム211がフランジを有しない構成となる。その後、スパッタリング等により表面および裏面に表面電極23を形成することで、微小振動体2を製造することができる。
【0056】
これにより、フランジ部分を除去するための従来の樹脂封止および研削工程が不要となり、簡便に、リム211にフランジを有しない曲面部21を形成することができ、微小振動体2の製造における歩留まりが向上する効果が得られる。また、リム211がフランジを有しないため、微小振動体2に表面電極23を形成する際にフランジによる成膜の阻害が生じず、表面電極23の成膜が安定する効果も得られる。
【0057】
なお、微小振動体2のうちレーザ光照射により形成される切断面、すなわちリム211のうち表面2aと裏面2bとを繋ぐ面である下面211aは、例えば図7に示すように、周期的な凹凸形状を有する波打ち形状となっている。この凹凸形状は、例えば、凸部と凹部との高低差がナノメートルもしくはマイクロメートルオーダー、凸部または凹部の幅が数μm~数十μmとされ、凸部と凹部とが繰り返し配列された構成となっている。この凹凸形状は、レーザ光照射による切断を断続的に繰り返し行ったことに起因する。
【0058】
リム211の下面211aの凹凸形状における凸部と凹部との高低差、および凸部もしくは凹部の幅については、例えば、レーザ光の1回の照射時間、1秒間当たりの照射数、波長やエネルギー密度などの照射条件を変更することで調整可能である。微小振動体2は、リム211の下面211aにおける上記の高低差および幅を調整することで、振動子としての共振周波数を所定の値に維持しつつ、振動のQ値を所望の値に設計可能な構成となっている。また、微小振動体2を搭載する実装基板3のうちリム211と対向する複数の電極部53を、下部基板4のうちリム211の下面211aと対向する部分に配置した構成とした場合、電極部とリム211との対向面積ひいては静電容量を増加させることができる。
【0059】
実施形態によれば、三次元曲面を有する基材を吸着保持した状態で回転させ、基材のうち曲面部位201の中心軸Aを回転機構62の回転軸Aに一致させた後、曲面部位201へのレーザ加工により平坦部位203と切断分離して微小振動体2が得られる。そのため、三次元曲面部位にフランジ形状が残らない構造の微小振動体2が得られると共に、樹脂封止やその後の研削・研磨工程が不要となる上、表面電極23の成膜が安定するため、歩留まりが向上する。また、リム211の下面211aが周期的な凹凸形状であるため、この凹凸の高低差や幅の調整によって共振周波数を変えずに、所望のQ値に設計可能な微小振動体2となる。
【0060】
(変形例)
微小振動体2は、例えば図8に示すように、リム211の下面211aが接続部22の実装面22bよりもz方向の上側に位置する構成とされうる。言い換えると、微小振動体2は、接続部22がリム211よりも突出した構成となっている。この微小振動体2は、三次元曲面を形成した後に樹脂封止・研削加工を行う従来の方法では製造することができないが、上記実施形態の製造方法において、図6Hに示すレーザ光照射部65によるレーザ照射位置を変更することにより容易に製造される。
【0061】
本変形例によっても、上記実施形態と同様の効果が得られる微小振動体2となる。また、リム211よりも接続部22が突出した構成とされることで、リム211の長さが相対的に短くなり、意図しない不要な振動が生じる共振周波数を上げることで、外乱振動に強い構造となる効果が得られる。さらに、リム211の下面211aのz方向における位置が接続部22の実装面22bよりも上であるため、実装基板3にエッチング溝41を形成する必要がなくなり、実装基板3の設計の自由度が高くなる効果も得られる。
【0062】
(他の実施形態)
本開示は、実施例に準拠して記述されたが、本開示は当該実施例や構造に限定されるものではないと理解される。本開示は、様々な変形例や均等範囲内の変形をも包含する。加えて、様々な組み合わせや形態、さらには、それらの一要素のみ、それ以上、あるいはそれ以下、を含む他の組み合わせや形態をも、本開示の範疇や思想範囲に入るものである。
【0063】
(1)例えば、上記実施形態では、加工装置6としてプッシュ治具63のヘッド631が略四角形板状である例について説明したが、これに限定されるものではない。ヘッド631は、芯出し工程が可能な形状であればよく、基材(例えば石英板20)の曲面部位201に当接する面が曲面部位201の外径に対応する曲面形状であってもよい。また、ヘッド631は、曲面部位201に当接する部分が他の部位より突出した突起部とされた構成であってもよく、この場合、曲面部位201に過剰な力F3がかからないように、突起部が所定以上の力が加わった場合に基部に引っ込む構成であってもよい。このように、ヘッド631の形状や構成については、基材のうち曲面部位201の外径や強度等に応じて、適宜変更されてもよい。
【0064】
(2)図5では、加工装置6の台座64の高さ、プッシュ量および水平度合い(以下、これらを総称して単に「高さ等」という)が各ネジ641~643により手動で調整可能な構成である例について示しているが、これに限定されるものではない。例えば、加工装置6は、任意の機械的な機構により自動で台座64あるいはプッシュ治具63の高さ等が調整可能な構成であってもよい。
【0065】
(3)上記実施形態では、レーザ光照射部65を固定し、基材(例えば石英板20)を回転させることで曲面部位201および凹部位202と他の部位とを切断分離する例について説明したが、これに限定されるものではない。例えば、基材を固定した状態で、レーザ光照射部65を移動させ、基材の中心軸ACに対する周方向に沿って曲面部位201にレーザ光を照射することにより、曲面部位201および凹部位202と他の部位とを切断分離してもよい。この場合、加工装置6は、例えば、レーザ光照射部65を基材の曲面部位の周囲を周方向に沿って移動させる図示しない移動機構を有した構成とされる。
【0066】
(4)なお、上記各実施形態において、実施形態を構成する要素は、特に必須であると明示した場合および原理的に明らかに必須であると考えられる場合等を除き、必ずしも必須のものではないことは言うまでもない。また、上記各実施形態において、実施形態の構成要素の個数、数値、量、範囲等の数値が言及されている場合、特に必須であると明示した場合および原理的に明らかに特定の数に限定される場合等を除き、その特定の数に限定されるものではない。また、上記各実施形態において、構成要素等の形状、位置関係等に言及するときは、特に明示した場合および原理的に特定の形状、位置関係等に限定される場合等を除き、その形状、位置関係等に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0067】
2a・・・(微小振動体の)表面、2b・・・(微小振動体の)裏面、20・・・基材、
201・・・曲面部位、201a・・・外側面、203・・・平坦部位、
203a・・・一面、21・・・曲面部、211・・・リム、201a・・・下面
22・・・接続部、61・・・吸着治具、62・・・回転機構、63・・・プッシュ治具、
631・・・ヘッド、65・・・レーザ光照射部、A・・・曲面部位の中心軸、
・・・回転機構の回転軸
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5
図6A
図6B
図6C
図6D
図6E
図6F
図6G
図6H
図7
図8