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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023135977
(43)【公開日】2023-09-29
(54)【発明の名称】積層体および包装材料
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/32 20060101AFI20230922BHJP
   B32B 7/12 20060101ALI20230922BHJP
   C09D 201/00 20060101ALI20230922BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20230922BHJP
   C08J 7/04 20200101ALI20230922BHJP
   C08J 7/00 20060101ALI20230922BHJP
   B65D 65/40 20060101ALI20230922BHJP
【FI】
B32B27/32 E
B32B7/12
C09D201/00
C09D7/63
C08J7/04 Z CES
C08J7/00 303
B65D65/40 D BRH
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022041352
(22)【出願日】2022-03-16
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(72)【発明者】
【氏名】塩川 俊一
(72)【発明者】
【氏名】江島 優希
(72)【発明者】
【氏名】松久 健司
【テーマコード(参考)】
3E086
4F006
4F073
4F100
4J038
【Fターム(参考)】
3E086AB01
3E086AC07
3E086AD01
3E086BA04
3E086BA13
3E086BA15
3E086BB02
3E086BB05
3E086BB22
3E086BB41
3E086BB51
4F006AA12
4F006AB20
4F006AB37
4F006AB39
4F006AB64
4F006BA04
4F006CA07
4F006DA04
4F006EA05
4F073AA01
4F073AA17
4F073AA28
4F073BA07
4F073BB01
4F073CA21
4F073GA09
4F100AA01
4F100AA01E
4F100AA20
4F100AA20E
4F100AB01
4F100AB01E
4F100AK01
4F100AK01E
4F100AK04
4F100AK04A
4F100AK04D
4F100AK51
4F100AK51B
4F100AR00C
4F100AR00E
4F100AT00A
4F100BA05
4F100BA07
4F100CB00
4F100CB00B
4F100CB00D
4F100CB03
4F100CB03D
4F100EH46
4F100EH46E
4F100EJ55
4F100EJ55E
4F100EJ86
4F100EJ86E
4F100GB15
4F100HB31
4F100HB31E
4F100JB09
4F100JB09E
4F100JB13
4F100JB13E
4F100JD02
4F100JD02E
4F100JK01
4F100JL11
4F100JL11B
4F100JL11D
4J038CE021
4J038JC40
4J038MA08
4J038MA10
4J038NA01
4J038NA09
4J038PA18
4J038PB04
4J038PC02
4J038PC08
(57)【要約】
【課題】リサイクル適性に優れ、且つ、ヒートシール性に優れた積層体を提供すること。
【解決手段】少なくとも、基材層と第一の接着剤層と中間層と第二の接着層とシーラント層とがこの順に積層された積層体において、
前記基材層の最外面側に保護層が設けられ、
前記保護層は、熱硬化型樹脂からなり、
前記基材層と中間層とシーラント層がポリエチレン樹脂からなり、
前記基材層および中間層は、探針降下温度が180℃以上であることを特徴とする積層体であり、前記積層体に占めるポリエチレンの割合が90質量%以上である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、基材層と第一の接着剤層と中間層と第二の接着層とシーラント層とがこの順に積層された積層体において、
前記基材層の最外面側に保護層が設けられ、
前記保護層は、熱硬化型樹脂からなり、
前記基材層と中間層とシーラント層がポリエチレン樹脂からなり、
前記基材層および中間層は、探針降下温度が180℃以上であり、
積層体に占めるポリエチレンの割合は90質量%以上であることを特徴とする積層体。
【請求項2】
前記保護層は、金属アルコキシド、金属アルコキシドの加水分解物、及び、金属アルコキシド或いは金属アルコキシドの加水分解物の反応生成物の少なくとも1つと、水溶性高分子とを含む請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
前記中間層の少なくとも一方の面上に、ガスバリア層を備えることを特徴とする、請求項1または2に記載の積層体。
【請求項4】
前記ガスバリア層は、無機化合物を備えることを特徴とする請求項3に記載の積層体。
【請求項5】
前記無機化合物層上に被覆層を備えることを特徴とする請求項4に記載の積層体。
【請求項6】
前記被覆層は、金属アルコキシド、金属アルコキシドの加水分解物、及び、金属アルコキシド或いは金属アルコキシドの加水分解物の反応生成物の少なくとも1つと、水溶性高分子とを含む請求項5に記載の積層体。
【請求項7】
請求項1~6の何れか1項に記載の積層体から構成される包装材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層体及びそれを用いた包装材料に関する。より詳しくは、本発明は、材料のリサイクル適性に優れる環境負荷の小さな積層体及びそれを用いた包装材料に関する。
【背景技術】
【0002】
包装袋は、包装する内容物の性質、内容物の量、内容物の変質を防ぐための後処理、包装袋を運搬する形態、包装袋を開封する方法、廃棄する方法などによって、さまざまな素材が組み合わせて用いられている。
【0003】
たとえば、積層したフィルムを用いるフレキシブルパッケージの包装袋においては、包装袋の機械的強度を得るためにポリプロピレンやポリエステルなどの二軸延伸フィルムを用い、包装袋として内容物を封止するためにポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン酢酸ビニル共重合体などをヒートシール材料とするなどの組み合わせにより用いられている。また、内容物の劣化を抑制するために、アルミ箔や、エチレンビニルアルコール共重合体を積層するなども行われている。
【0004】
上記の機能分離した各種素材を用いた積層体は、内容物の包装から、輸送、保管、開封などの各過程での適性に重点をおいて設計されたものである。しかしながら、近年の環境問題への意識の高まりから、各種製品の省資源、リサイクル適性などの機能に重点がおかれるようになり、包装袋に用いられる積層体にも同様の機能が求められてきている。一般に、包装材料に含まれる主要な樹脂の割合が90質量%以上であるとリサイクル性が高いと考えられているが、従来の包装材料の多くは複数の樹脂材料や場合により紙、金属材料を含んで構成されており、かつこの基準を満たしていないため、リサイクルされていないのが現状である。
【0005】
そこで、特許文献1には、基材と、接着層と、ヒートシール層とを備えた積層体において、基材及びヒートシール層をポリエチレンから構成することが記載されている。基材及びヒートシール層を同一材料で構成することにより、上記リサイクル性の基準をクリアしやすくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2020-55157号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の積層体を包装袋に適用した際に、包装袋を形成する製袋工程では、積層体のヒートシール層(シーラント層)同士を向かい合わせ、積層体の基材層外面側から高温治具により圧力をかけて挟み込むことで熱溶着(ヒートシール)させる工程がある。ヒートシール機の治具は高温になっており、直接治具に接触する基材層外面側は高温に曝されるため、従来の積層体では基材層が熱に冒されて治具に付着したり、ヒートシール部にシワが発生したりするなどの不具合が生じる場合があり、ヒートシール性が十分ではなかった。そのため、製袋温度の適正条件が狭く、生産性が悪いこと、また、包装袋の強度が十分でない場合があることなどが課題となっていた。
【0008】
そこで、本発明は、リサイクル適性に優れ、且つ、ヒートシール性に優れた積層体及びそれを用いた包装材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するための手段として、本発明の第1の態様は、
少なくとも、基材層と第一の接着剤層と中間層と第二の接着層とシーラント層とがこの順に積層された積層体において、前記基材層の最外面側に保護層が設けられ、前記保護層は、熱硬化型樹脂からなり、前記基材層と中間層とシーラント層がポリエチレン樹脂からなり、前記基材層および中間層は、探針降下温度が180℃以上であり、積層体に占めるポリエチレンの割合は90質量%以上であることを特徴とする積層体である。
【0010】
本発明に係る積層体は、基材層の最外面側に保護層となる熱硬化型樹脂膜を形成することで、積層体の表面でのヒートシール時の熱ダメージが軽減緩和される。また、探針降下温度が180℃以上の範囲にあるポリエチレンからなる樹脂基材層と中間層は、透明性が良い特性を持つことから、図柄や文字等の印刷層を基材の内面側に配置した包装材の場合も高い視認性を有する。また、十分な突刺し強度を有する。なお、印刷層は基材層のいずれかの面に適宜設けることができるが、基材内面側に配置した包装材の場合、より一層本効果を得られやすい。
【0011】
また、本発明の第2の態様は、前記保護層は、金属アルコキシド、金属アルコキシドの加水分解物、及び、金属アルコキシド或いは金属アルコキシドの加水分解物の反応生成物の少なくとも1つと、水溶性高分子とを含む請求項1に記載の積層体である。
【0012】
また、本発明の第3の態様は、前記中間層の少なくとも一方の面上に、ガスバリア層を備えることを特徴とする、請求項1または2に記載の積層体である。
【0013】
また本発明の第4の態様は、前記ガスバリア層は、無機化合物を備えることを特徴とする請求項3に記載の積層体である。
【0014】
また本発明の第5の態様は、前記無機化合物層上に被覆層を備えることを特徴とする請求項4に記載の積層体である。
【0015】
また本発明の第6の態様は、前記被覆層は、金属アルコキシド、金属アルコキシドの加水分解物、及び、金属アルコキシド或いは金属アルコキシドの加水分解物の反応生成物の少なくとも1つと、水溶性高分子とを含む請求項5に記載の積層体である。
【0016】
また本発明の第7の態様は、請求項1~6の何れか1項に記載の積層体から構成される包装材料である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、リサイクル適性に優れ、且つ、ヒートシール性に優れた積層体及びそれを用いた包装材料を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、本発明に係る積層体の一実施態様を示した模式断面図である。
図2図2は、実施例1の積層体の模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図面を参照しながら、本発明に係る積層体について、詳細に説明する。図1は、本発明に係る積層体の一実施態様を示した模式断面図であり、図2は、印刷層を含む実施例1の
積層体の模式断面図である。
【0020】
本発明に係る積層体10は、図1に示すように、基材層1と第一の接着剤層4と中間層2と第二の接着層6とシーラント層3とがこの順に積層され、基材層1の最外面側に保護層7が積層された積層体10である。また、図2に示した実施例1の積層体11においては、基材層1の裏面側に印刷層8が設けられている。主要な構成物である基材層1と、中間層2と、シーラント層3はいずれもポリエチレン樹脂からなる。
【0021】
<探針降下温度の測定方法>
加熱機構を有するカンチレバーから構成されたナノサーマル顕微鏡を備える原子間力顕微鏡を用い、試料台に固定した個体状態の樹脂基材表面にカンチレバーを接触させて、コンタクトモードにてカンチレバーに一定の力(触圧)を加え、電圧を印加することにより加熱していくと、試料表面が熱膨張し、カンチレバーは上昇する。さらにカンチレバーを加熱すると、試料表面は軟化し大きな硬度の変化がみられ、カンチレバーは下降し、試料表面に入り込む。このときの急激な変位の変化を検知する。この変位の変化点が軟化点であり、電圧を温度に変換することで、軟化温度すなわち探針降下温度となる。
【0022】
探針降下温度とは、局所的に熱分析することによって探針の上昇・降下挙動を測定することによって得られる温度である。探針降下温度を評価するためには、加熱機構を有するカンチレバー(探針)から構成されたナノサーマル顕微鏡を備える原子間力顕微鏡を用いる。試料台に固定した固体状態の試料表面にカンチレバーを接触させて、コンタクトモードにてカンチレバー(探針)を一定の力(触圧)を加え、電圧を印加することにより加熱していくと、試料表面が熱膨張し、カンチレバー(探針)は上昇する。さらにカンチレバー(探針)を加熱すると、試料表面は軟化し大きな硬度の変化がみられ、カンチレバー(探針)は下降し、試料表面に入り込む。このときの急激な変位の変化を検知する。この電圧の変化点が探針降下開始点であり、電圧を温度に変換することで、探針降下温度となる。このような測定を行うことで、ナノスケール領域の局所的、且つ表面近傍の探針降下温度を知ることができる。
【0023】
原子間力顕微鏡(AFM)はオックスフォード・インストゥルメンツ株式会社製のMPF-3D-SA(商品名)、Zthermシステム(商品名)を用いる。特にこの装置に限定されることはなく、ブルカー・ジャパン社のNano Thermal Analysis(商品名)シリーズやnanoIR(商品名)シリーズでも可能である。さらに、他のメーカーAFMに付属として、Nano Thermal Analysis(商品名)を取り付けて、測定することも可能である。
【0024】
カンチレバー(探針)はアナシス・インスツルメンツ社製のAN2-200(商品名)を用いる。特にこのカンチレバーに限定されることはなく、レーザー光を十分に反射することができ、電圧を印加することができれば、他のカンチレバー(探針)を使用してもよい。
【0025】
カンチレバー(探針)に印加する電圧範囲は測定対象の樹脂等にもよるが、1Vから10Vまでが好ましく、試料の損傷を少なく、より空間分解能を高く測定するためには、3Vから8Vまでがより好ましい。
【0026】
測定可能な探針降下温度範囲は測定対象の樹脂等にもよるが、一般的に測定開始温度は常温の25℃程度から測定終了温度は400℃程度まで測定することができる。探針降下温度を算出する温度範囲については、25℃以上300℃以下であることが好ましい。
【0027】
探針降下温度の測定においては、カンチレバー(探針)に触圧を一定にして熱をかける
が、触圧は試料に接する必要があるが、表面を破壊しない力とする必要がある。カンチレバー(探針)のばね定数は0.1~3.5N/mが好ましく、タッピングモードとコンタクトモードの両モードでの測定を行うためには、0.5~3.5N/mのばね定数のカンチレバー(探針)を用いるのが好ましい。触圧は0.1~3.0Vが好ましい。
【0028】
カンチレバー(探針)の昇温速度については、カンチレバー(探針)が備える加熱機構等にもよるが、一般的に0.1V/秒以上10V/秒以下の昇温速度で加熱することが好ましい。より好ましくは0.2V/秒以上5V/秒以下の昇温速度で加熱することが好ましい。試料表面が軟化すると、カンチレバーが試料に侵入するようになり、針は下降する。カンチレバー(探針)の侵入量は軟化曲線のピークトップが認識できる深さが必要であるため、3~500nmが好ましい、侵入量が大きいと、カンチレバー(探針)が破損することがあるため、より好ましくは5~100nmである。
【0029】
特にこれらに限定されるわけではないが、膨張の曲線と軟化の曲線を必要に応じた関数によってそれぞれ近似し、これらの交点を算出することで、探針降下開始点や探針降下温度とする方法でもよい。または、変位のピークトップを探針降下開始点や探針降下温度とする解析方法でもよい。膨張もしくは軟化において、定常状態からのある一定値までの変位としてもよい。
【0030】
試料の正確な温度を計測するため、試料測定後に校正曲線の作成を行った。校正用サンプルとしては、ポリカプロラクトン(融点:55℃)、低密度ポリエチレン(LDPE、融点:110℃)、ポリプロピレン(PP、融点:164℃)、ポリエチレンテレフタレート(PET、融点:235℃)の4種を用いた。それぞれ測定位置を変えて2回測定し、その平均値を探針降下温度として検量線を作成して、校正曲線を作成した。この校正曲線を使用して、電圧を探針降下開始点とし、温度に換算し探針降下温度とした。
【0031】
<基材層、中間層>
発明者らは、種々のポリエチレン樹脂についてこの探針降下温度を測定した結果、探針降下温度が180℃以上であると、基材3のヘイズが小さく透明性が発現し、視認性が十分確保でき、200℃以上になると透明性が更に良くなることが分かった。印刷層4を基材3の内面側に配置することが可能となる。これにより本発明の効果が一層得られ易いことを見出した。なお、印刷層4の位置は、必ずしも基材3の裏面側でなくても良い。
【0032】
中間層2は、探針降下温度が180℃以上であると、突き刺し強度が良好であることが分かり、本発明の完成に至った。
【0033】
基材層1および中間層2は、表面処理されていることが好ましい。この処理によると、基材層1および中間層2に隣接する層との密着性を向上させることができる。表面処理の方法は特に限定されない。表面処理としては、例えば、コロナ放電処理、オゾン処理、酸素ガス及び/又は窒素ガスなどを用いた低温プラズマ処理、グロー放電処理などの物理的処理、並びに化学薬品を用いた酸化処理などの化学的処理が挙げられる。
【0034】
<ガスバリア層>
図1に示した層構成においては、中間層2のシーラント層3に対向する側の面に無機化合物層または無機化合物層と被覆層からなるガスバリア層5を備えていることが望ましい。ガスバリア層5は、酸素や水蒸気の透過を抑制するバリア層として機能する。
【0035】
無機化合物層に含有される無機化合物としては、例えば、酸化アルミニウム、酸化珪素、酸化マグネシウム、酸化錫等の金属酸化物からなる蒸着層が挙げられる。透明性及びバリア性の観点から、金属酸化物としては、酸化アルミニウム、酸化珪素、及び酸化マグネシウムからなる群より選択されてよい。さらに、コストを考慮すると、酸化アルミニウム、酸化珪素から選択される。無機化合物層を金属酸化物としてバリア膜とすることにより、積層体10のリサイクル性に影響を与えない範囲のごく薄い層で、高いバリア性を得ることができる。
【0036】
無機化合物層は、例えば真空成膜で形成することができる。真空成膜では、物理気相成長法あるいは化学気相成長法を用いることができる。物理気相成長法としては、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。化学気相成長法としては、熱CVD法、プラズマCVD法、光CVD法等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0037】
酸化アルミニウムからなる無機化合物層の膜厚は、5nm以上30nm以下であることが好ましい。膜厚が5nm以上であると、十分なガスバリア性を得ることができる。また、膜厚が30nm以下であると、薄膜の内部応力による変形によりクラックが発生することを抑制し、ガスバリア性の低下を抑制することができる。なお、膜厚が30nmを超えると、材料使用量の増加、及び膜形成時間の長時間化等に起因してコストが増加し易いため、経済的観点からも好ましくない。上記と同様の観点から、無機化合物層の膜厚は、7nm以上15nm以下であることがより好ましい。
【0038】
酸化珪素からなる無機化合物層の膜厚は、10nm以上50nm以下であることが好ましい。膜厚が10nm以上であると、十分なガスバリア性を得ることができる。また、膜厚が50nm以下であると、薄膜の内部応力による変形によりクラックが発生することを抑制し、ガスバリア性の低下を抑制することができる。なお、膜厚が50nmを超えると、材料使用量の増加、及び膜形成時間の長時間化等に起因してコストが増加し易いため、経済的観点からも好ましくない。上記と同様の観点から、無機化合物層の膜厚は、20nm以上40nm以下であることがより好ましい。
【0039】
中間層2の無機化合物層が形成される側の面に公知のアンカーコート剤を用いて、アンカーコート層を形成してもよい。これにより、金属酸化物からなる無機化合物層の密着性を向上させることができる。アンカーコート剤としては、ポリエステル系ポリウレタン樹脂、ポリエーテル系ポリウレタン樹脂等を例示できる。耐熱性及び層間接着強度の観点からは、ポリエステル系ポリウレタン樹脂が好ましい。
【0040】
被覆層は、無機化合物層を保護するとともに、無機化合物層とは独立してバリア性を発揮する。被覆層は、水酸基含有高分子化合物、金属アルコキシド、シランカップリング剤、及び、それらの加水分解物からなる群より選択される少なくとも1種を含む水溶液を用いて形成できる。
【0041】
被覆層の厚さは、50~1000nmであることが好ましく、100~500nmであることがより好ましい。ガスバリア性被覆層の厚さが50nm以上であると、より十分なガスバリア性を得ることができる傾向があり、1000nm以下であると、十分な柔軟性を保持できる傾向がある。
【0042】
<保護層>
保護層7の一方の主面は積層体10の最表面を構成している。保護層7は、熱硬化型樹脂を含み、耐熱性に優れている。熱硬化型樹脂としては、例えば、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、アクリル樹脂、及びエポキシ樹脂及び水酸基含有高分子、有機ケイ素化合物等が挙げられる。保護層7は、上記熱硬化型樹脂を1種含むものであってもよいし、2種以上を含むものであってもよい。保護層7の膜厚が薄くなると、高い耐熱性を達成しにくくなる傾向にある。ヒートシール時の熱ダ
メージが軽減緩和されるためには、保護層7の膜厚は、0.3μm以上であることが好ましい。また、保護層7の膜厚が厚くなると、積層体10の製造過程において樹脂塗膜を十分に乾燥させることが困難となる傾向にある。生産性の観点からは、保護層7の膜厚は、3μm以下であることが好ましい。
【0043】
基材層1として耐熱性の乏しいポリエチレンを用いた場合であっても、最外面に熱硬化型樹脂からなる保護層7を設けたことにより、積層体の表面でのヒートシール時の熱ダメージが軽減緩和され、製袋速度を遅くするなどの対策が不要になり生産性が低下しなくなった。なお基材層1としては、無延伸フィルムであってもよく、一軸延伸フィルムであってもよく、二軸延伸フィルムであってもよい。
【0044】
<印刷層>
基材層1の裏面側には、印刷層8を設けることができる。印刷層8は、例えば、ウレタン系、アクリル系、ニトロセルロース系、ゴム系、及び塩化ビニル系等の従来から用いられているインキバインダ樹脂に各種顔料、体質顔料、可塑剤、乾燥剤、及び安定剤等の添加剤が添加されているインキにより構成される層であって、文字及び絵柄等のパターンを表示している。インキとしては、バイオマス由来のインキを用いることが好ましい。
印刷層8の形成方法としては、例えば、オフセット印刷法、グラビア印刷法、フレキソ印刷法及びシルクスクリーン印刷法等の周知の印刷方式や、ロールコート、ナイフエッジコート、及びグラビアコート等の周知の塗布方式を用いることができる。特に、水性フレキソ印刷は、基材層への印刷負荷が小さく、また、環境問題の点からも好ましい。
【0045】
<第一の接着剤層、第二の接着剤層>
第一の接着剤層4および第二の接着剤層6は、少なくとも1種類の接着剤を含む。接着剤は、1液硬化型接着剤であってもよく、2液硬化型接着剤であってもよく、非硬化型接着剤であってもよい。また、接着剤は、無溶剤型接着剤であってもよく、溶剤型接着剤であってもよい。
【0046】
第一の接着剤層4および第二の接着剤層6としては、ポリエーテル系接着剤、ポリエステル系接着剤、シリコーン系接着剤、ポリアミン系接着剤等のエポキシ系接着剤、ウレタン系接着剤、ゴム系接着剤、ビニル系接着剤、シリコーン系接着剤、エポキシ系接着剤、フェノール系接着剤及びオレフィン系接着剤などが挙げられる。
【0047】
第二の接着剤層6としては、ポリエステルポリオールとイソシアネート化合物とリン酸変性化合物を含む樹脂組成物の硬化物であってもよい。このような接着剤は、積層体10の酸素バリア性及び水蒸気バリア性を更に改善することができる。
【0048】
第一の接着剤層4および第二の接着剤層6の厚さは、0.1μm乃至20μmの範囲内にあることが好ましく、0.5μm乃至10μmの範囲内にあることがより好ましく、1乃至5μmの範囲内にあることが更に好ましい。
【0049】
第一の接着剤層4および第二の接着剤層6は、例えば、ダイレクトグラビアロールコート法、グラビアロールコート法、キスコート法、リバースロールコート法、フォンテン法およびトランスファーロールコート法など従来公知の方法により、シーラント層3の上に塗布及び乾燥することにより形成することができる。
【0050】
<ヒートシール層>
前述のようにして得られたバリア性を有する積層体に、さらにヒートシール層3を設け、包装材料とすることができる。ヒートシール層3は、ポリエチレンにより構成されており、積層体を用いて包装袋等の包装材料を形成する際に熱融着(ヒートシール)により接合される。ヒートシール層を構成するポリエチレンは、ヒートシール性という観点からは、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)および超低密度ポリエチレン(VLDPE)が好ましい。
【0051】
低密度ポリエチレンとしては、密度が0.900g/cm以上0.925g/cm未満のポリエチレンを使用することができる。直鎖状低密度ポリエチレンとしては、密度が0.900g/cm以上0.925g/cm未満のポリエチレンを使用することができる。ヒートシール層は単層でもよいし、多層構造を有してもよい。多層構成とすることにより、ヒートシール性を維持しつつ、製袋適性および強度をより向上することができる。環境負荷の観点から、バイオマス由来のポリエチレン又はリサイクルされたポリエチレンであることが好ましい。
ヒートシール層3の厚さは、製造する包装袋の形状や、収容される内容物の質量等を考慮して適宜設定できるが、例えば30~150μmとすることができる。
【実施例0052】
以下に、本発明に関連して行った試験について記載する。
(アンカーコート剤の調製)
アクリルポリオールとトリレンジイソシアネートとを、アクリルポリオールのOH基の数に対してトリレンジイソシアネートのNCO基の数が等量となるように混合し、全固形分(アクリルポリオール及びトリレンジイソシアネートの合計量)が5質量%になるよう酢酸エチルで希釈した。希釈後の混合液に、さらにβ-(3,4エポキシシクロヘキシル)トリメトキシシランを、アクリルポリオール及びトリレンジイソシアネートの合計量100質量部に対して5質量部となるように添加し、これらを混合することでアンカーコート剤を調製した。
(保護層及び被覆層形成のための塗布液の調製)
下記のA液、B液及びC液を、それぞれ70/20/10の質量比で混合することで、保護層及び被覆層形成用塗布液(以下、「塗布液」という。)を調製した。
A液:テトラエトキシシラン(Si(OC)17.9gとメタノール10gに0.1N塩酸72.1gを加えて30分間攪拌して加水分解させた固形分5質量%(SiO換算)の加水分解溶液。
B液:ポリビニルアルコールの5質量%水/メタノール溶液(水:メタノールの質量比は95:5)。C液:1,3,5-トリス(3-トリアルコキシシリルプロピル)イソシアヌレートを水/イソプロピルアルコールの混合液(水:イソプロピルアルコールの質量比は1:1)で固形分5質量%に希釈した加水分解溶液。
【0053】
<実施例1>
先ず、基材層1及び中間層2として、基材として探針降下温度が211℃のポリエチレンフィルム(東京インキ社製SMUQ、厚さ25μm)の表面側にコロナ処理を行った後、上述した塗布液をグラビアコート法により塗布して乾燥し、厚さ0.5μmの保護層1を形成した。
次に基材層1の反対側の表面にコロナ処理を行い、水性フレキソインキを用いてパターンを印刷し印刷層8を形成した。
【0054】
次に、中間層2の一方の表面にコロナ処理を行った後、グラビアコート法により上述したアンカーコート剤を塗布し、厚さ0.1μm(乾燥状態)のアンカーコート層を形成した。次いで、電子ビーム加熱方式の真空蒸着装置を用いてガスバリア層5として酸化ケイ素(SiOx)蒸着膜で構成された厚さ40nmの無機化合物層を形成し、さらに、上述した塗布液を塗布し、厚さ300nm(乾燥状態)の被覆層を形成した。
【0055】
次に、シーラント層3を準備した。中間層2の被覆層の上にウレタン系接着剤を塗布し
て第2の接着剤層6を形成し、第2の接着剤層6を介して、シーラント層3と中間層2とが対向するように貼り合わせた。シーラント層3の材料としては、直鎖状低密度ポリエチレン樹脂(LLDPE)フィルム(三井東セロ社製 TUX、厚さ60μm)を使用した。
【0056】
次に、基材層1の印刷面にウレタン系接着剤を塗布して、第1の接着剤層4を形成し、先に中間層2とシーラント層3を貼り合わせた積層体の中間層2の片面側と貼り合わせた。このようにして、実施例1に係る積層体を製造した。
【0057】
<実施例2>
基材層1及び中間層2として、商品名「SMUQ」で市販されているフィルムの代わりに、商品名「HD200」で市販されているフィルム(JINDAL Films製 探針降下温度が203℃)を使用したこと以外は、例1に係る積層体と同様の方法により、例2に係る積層体を製造した。片面コロナ処理が施されている。
上記積層体10の基材層1の内面側のコロナ処理面に、水性フレキソインキを用いてパターンを印刷し、印刷層8を形成した積層体11を作成した。図2に実施例1の積層体11の模式断面図を示す。
【0058】
<比較例1>
保護層7を設けなかったこと、及び、中間層2として、商品名「HD200」で市販されているフィルムの代わりに、商品名「GAP」で市販されているフィルム(Charter Next Generation,Inc.製)を使用したこと以外は実施例2に係る積層体と同様の方法により、比較例1に係る積層体を作成し、同様に評価した。商品名「GAP」で市販されているフィルムは、ポリエチレンからなり、上述した方法によって測定した探針降下温度が160℃であり、片面コロナ処理されている。
【0059】
<比較例2>
保護層7を設けなかったこと、及び、基材層1として、「HD200」で市販されているフィルムの代わりに、商品名「GAP」で市販されているフィルム(Charter Next Generation,Inc.製)に変更した以外は、比較例1と同様にして積層体を作成し、同様に評価した。
【0060】
(シール性、印刷視認性、突刺し強度およびリサイクル性の評価)
積層体試料の小片をシーラント層面が内側になるように2つ折りにしてヒートシールした。シール面のシール性、印刷視認性、突刺し強度およびリサイクル性の評価を行った。
・シール性
〇:表面にしわが無く、シールバーに付着しない
×:表面にしわが有り、シールバーに付着する
・印刷視認性
○:印刷柄が鮮明に見える
×:印刷柄がぼやける、薄く見える
・リサイクル性
○:ポリエチレンの割合 90質量%以上
×:ポリエチレンの割合 90質量%未満
・突刺し強度
各積層体フィルムを、先端が半径0.5mm半球状の針で基材側から50mm/分の速度で押し当て、突き破られた際の強度を測定した。
【0061】
以上の結果を表1にまとめた。
【0062】
【表1】
【0063】
表1に示されるように、実施例および比較例のすべてが高いリサイクル性を有していたが、保護層が無い比較例1、2の積層体ではシール性が不良であり、本発明に係る実施例1、2の積層体は、シール性、印刷視認性、突刺し強度の全てに優れており、包装材料としての存在価値が高いことがわかる。
【符号の説明】
【0064】
1・・・基材層
2・・・中間層
3・・・シーラント層
4・・・第一接着剤層
5・・・ガスバリア層
6・・・第二接着剤層
7・・・保護層
8・・・印刷層
10、11・・・積層体
図1
図2