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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023135983
(43)【公開日】2023-09-29
(54)【発明の名称】電極の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/04 20060101AFI20230922BHJP
【FI】
H01M4/04 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022041359
(22)【出願日】2022-03-16
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000179328
【氏名又は名称】リックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】上薗 知之
(72)【発明者】
【氏名】小田 桃香
(72)【発明者】
【氏名】阿部 勇太
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA19
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB02
5H050CB08
5H050CB11
5H050GA22
5H050HA12
5H050HA20
(57)【要約】
【課題】塗膜の面内における目付量のばらつきを低減すること。
【解決手段】(a)基材に正電圧が印加される。(b)スクリーンに負電圧が印加されることにより、基材とスクリーンとの間に電界が形成される。(c)スクリーンを通して、粉体塗料が電界に導入される。(d)粉体塗料が基材に付着することにより、塗膜が形成される。粉体塗料は、スクリーンと接触することにより、負電荷を付与される。電界中、静電気力によって粉体塗料が飛行することにより、粉体塗料が基材に到達する。粉体塗料の飛行方向は、鉛直上向きであるか、または鉛直下向きと交差する。成膜時間は、飽和時間以上となるように決定される。飽和時間は、正電圧の下で、塗膜が目付飽和量に到達する時間を示す。目付飽和量は、基材に付与された正電圧の関数である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)基材に正電圧を印加すること、
(b)スクリーンに負電圧を印加することにより、前記基材と前記スクリーンとの間に電界を形成すること、
(c)前記スクリーンを通して、粉体塗料を前記電界に導入すること、および
(d)前記粉体塗料を前記基材に付着させることにより、塗膜を形成すること、
を含み、
前記粉体塗料は活物質を含み、
前記粉体塗料は、前記スクリーンと接触することにより、負電荷を付与され、
前記電界中、静電気力によって前記粉体塗料が飛行することにより、前記粉体塗料が前記基材に到達し、
前記粉体塗料の飛行方向は、鉛直上向きであるか、または鉛直下向きと交差し、
前記(d)の実行時間は、飽和時間以上となるように決定され、
前記飽和時間は、前記正電圧の下で、前記塗膜が目付飽和量に到達する時間を示し、
前記目付飽和量は、前記基材に付与された前記正電圧の関数である、
電極の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電極の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2018-192380号公報(特許文献1)は、静電粉体塗装装置を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018-192380号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
静電塗装技術により電極を製造することが提案されている。例えば、電界が形成される。電界の一端は、ワーク(基材)である。電界中に粉体塗料が噴霧される。粉体塗料は活物質を含む。粉体塗料に静電気力が作用する。静電気力により、粉体塗料が基材に付着する。以下、単位面積あたりの粉体塗料の付着量(塗膜の質量)が「目付量」とも記される。
【0005】
現状、静電塗装技術により製造された電極においては、塗膜の面内における目付量のばらつきが大きい傾向がある。特に大面積の電極において、目付量のばらつきが顕著である。
【0006】
本開示の目的は、塗膜の面内における目付量のばらつきを低減することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以下、本開示の技術的構成および作用効果が説明される。ただし本明細書の作用メカニズムは推定を含む。作用メカニズムは本開示の技術的範囲を限定しない。
【0008】
電極の製造方法は、下記(a)~(d)を含む。
(a)基材に正電圧を印加する。
(b)スクリーンに負電圧を印加することにより、基材とスクリーンとの間に電界を形成する。
(c)スクリーンを通して、粉体塗料を電界に導入する。
(d)粉体塗料を基材に付着させることにより、塗膜を形成する。
粉体塗料は活物質を含む。粉体塗料は、スクリーンと接触することにより、負電荷を付与される。電界中、静電気力によって粉体塗料が飛行することにより、粉体塗料が基材に到達する。粉体塗料の飛行方向は、鉛直上向きであるか、または鉛直下向きと交差する。
上記(d)の実行時間は、飽和時間以上となるように決定される。飽和時間は、所定の正電圧の下で、塗膜が目付飽和量に到達する時間を示す。目付飽和量は、基材に付与された正電圧の関数である。
【0009】
電界中を飛行する粉体塗料において、面内の流速は一様になり難いと考えられる。さらに電界を形成する電極の形状によって、面内の電界強度にばらつきが生じることもある。その結果、塗膜の面内において、静電気力(付着力)にばらつきが生じると考えられる。面内の付着力のばらつきが、目付量のばらつきを生じさせると考えられる。
【0010】
本開示の製造方法においては、粉体塗料の飛行方向が鉛直上向きであるか、または鉛直下向き交差する。そのため重力(mg)が、粉体塗料を基材から引き離す方向に作用する。「m」は粉体塗料の質量を示し、「g」は重力加速度を示す。粉体塗料に作用する静電気力(付着力)は、下記式(1)により表される。
【0011】
F=k×q12/r2 (1)
「F」は静電気力を示す。
「k」は比例定数を示す。
「q1」は、粉体塗料に付与された電気量を示す。
「q2」は、基材に付与された電気量を示す。
「r」は、基材と粉体塗料との距離を示す。
【0012】
成膜の初期段階においては、静電気力(F)が重力(mg)に比して大きい。よって粉体塗料は基材に付着し得る。
【0013】
塗膜が厚くなるにつれて、塗膜の表面と基材との距離(r)が長くなる。すなわち、塗膜の表面の粉体塗料に作用する静電気力(F)が徐々に小さくなる。やがて、塗膜の表面において、静電気力(F)と重力(mg)とが釣り合う。この時、塗膜は「目付飽和量」に到達すると考えられる。目付飽和量を超えて成膜を続けても、重力が静電気力に比して大きいため、粉体塗料が塗膜に付着し難く、脱落し得る。
【0014】
目付飽和量に到達した時点では、塗膜の面内の各点において、塗膜の表面と基材との距離(r)が略一定になり得ると考えられる。すなわち塗膜の厚さ(粉体塗料の付着量)が一様になり得ると考えられる。したがって、塗膜が目付飽和量に到達するように成膜が実施されることにより、目付量のばらつきが低減され得ると考えられる。
【0015】
ここで、目付飽和量は、基材に付与される正電圧によって決まる。正電圧が、上記式(1)の電気量(q2)を決めるためと考えられる。正電圧の大きさが調整されることにより、目付飽和量が所望の値に調整され得る。
【0016】
さらに、例えば予備実験等により、目付飽和量に到達するまでに要する時間(飽和時間)が特定され得る。成膜時間が飽和時間以上であることにより、目付量のばらつきが小さい電極が効率的に製造され得る。
【0017】
以下、本開示の実施形態(以下「本実施形態」と略記され得る。)、および本開示の実施例(以下「本実施例」と略記され得る。)が説明される。ただし、本実施形態および本実施例は、本開示の技術的範囲を限定しない。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、本実施形態における電極の製造方法の概略フローチャートである。
図2図2は、本実施形態における電極の製造方法を示す概念図である。
図3図3は、参考形態における電極の製造方法を示す概念図である。
図4図4は、目付飽和量と、基材の電圧と関係の一例を示すグラフである。
図5図5は、目付量と成膜時間との関係の一例を示すグラフである。
図6図6は、本実施例における成膜装置を示す概略断面図である。
図7図7は、本実施例における目付飽和量と、基材の電圧との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
<用語の定義>
本明細書において、「備える」、「含む」、「有する」、および、これらの変形(例えば「から構成される」等)の記載は、オープンエンド形式である。オープンエンド形式は必須要素に加えて、追加要素をさらに含んでいてもよいし、含んでいなくてもよい。「からなる」との記載はクローズド形式である。ただしクローズド形式であっても、通常において付随する不純物であったり、本開示技術に無関係であったりする付加的な要素は排除されない。「実質的に…からなる」との記載はセミクローズド形式である。セミクローズド形式においては、本開示技術の基本的かつ新規な特性に実質的に影響しない要素の付加が許容される。
【0020】
本明細書において、各種方法に含まれる複数のステップ、動作および操作等は、特に断りのない限り、その実行順序が記載順序に限定されない。例えば、複数のステップが同時進行してもよい。例えば複数のステップが相前後してもよい。
【0021】
本明細書において、「してもよい」、「し得る」等の表現は、義務的な意味「しなければならないという意味」ではなく、許容的な意味「する可能性を有するという意味」で使用されている。
【0022】
本明細書において、単数形で表現される要素は、特に断りの無い限り、複数形も含む。例えば「粒子」は「1つの粒子」のみならず、「粒子の集合体(粉体、粉末、粒子群)」も意味し得る。
【0023】
本明細書において、例えば「m~n%」等の数値範囲は、特に断りのない限り、上限値および下限値を含む。すなわち「m~n%」は、「m%以上n%以下」の数値範囲を示す。また「m%以上n%以下」は「m%超n%未満」を含む。さらに数値範囲内から任意に選択された数値が、新たな上限値または下限値とされてもよい。例えば、数値範囲内の数値と、本明細書中の別の部分、表中、図中等に記載された数値とが任意に組み合わされることにより、新たな数値範囲が設定されてもよい。
【0024】
本明細書における幾何学的な用語(例えば「平行」、「垂直」、「直交」等)は、厳密な意味に解されるべきではない。例えば「平行」は、厳密な意味での「平行」から多少ずれていてもよい。本明細書における幾何学的な用語は、例えば、設計上、作業上、製造上等の公差、誤差等を含み得る。各図中の寸法関係は、実際の寸法関係と一致しない場合がある。本開示技術の理解を助けるために、各図中の寸法関係(長さ、幅、厚さ等)が変更されている場合がある。さらに一部の構成が省略されている場合もある。
【0025】
本明細書において、化合物が化学量論的組成式(例えば「LiCoO2」等)によって表現されている場合、該化学量論的組成式は該化合物の代表例に過ぎない。化合物は、非化学量論的組成を有していてもよい。例えば、コバルト酸リチウムが「LiCoO2」と表現されている時、特に断りのない限り、コバルト酸リチウムは「Li/Co/O=1/1/2」の組成比に限定されず、任意の組成比でLi、CoおよびOを含み得る。さらに、微量元素によるドープ、置換等も許容され得る。
【0026】
本明細書の「D50」は、体積基準の粒度分布において、粒子径が小さい方からの頻度の累積が50%に達する粒子径と定義される。D50は、レーザ回折式粒度分布測定装置により測定され得る。
【0027】
本明細書の「融点」は、DSC(Differential Scanning Calorimetry)曲線における融解ピーク(吸熱ピーク)のピークトップ温度を示す。DSC曲線は、「JIS K 7121」に準拠して測定され得る。「融点付近」は、例えば融点±20℃の範囲を示し得る。
【0028】
本明細書の「電極」は正極および負極の総称である。電極は正極であってもよいし、負極であってもよい。電極は、例えばリチウムイオン電池用であってもよい。リチウムイオン電池は、例えば液系電池であってもよいし、全固体電池であってもよい。ただし電極は、任意の電池系に適用され得る。本実施形態においては、一例としてリチウムイオン電池への適用例が説明される。
【0029】
本明細書の「エアロゾル」は、固体および液体の少なくとも一方が、ガス中に分散した分散系を示す。エアロゾルは、例えば、煙霧等とも称され得る。エアロゾルの外観は、例えばクラウド状、噴煙状等と形容され得る。エアロゾルは「クラウド粉体」とも称され得る。
【0030】
<電極の製造方法>
図1は、本実施形態における電極の製造方法の概略フローチャートである。以下「本実施形態における電極の製造方法」が「本製造方法」と略記され得る。本製造方法は、「(a)基材の電圧設定」、「(b)スクリーンの電圧設定」、「(c)帯電」、「(d)成膜」を含む。本製造方法は、例えば「(e)定着」等をさらに含んでいてもよい。
【0031】
《(a)基材の電圧設定》
図2は、本実施形態における電極の製造方法を示す概念図である。本製造方法は、基材11に正電圧を印加することを含む。基材11は、例えばシート状であってもよい。基材11は集電体であってもよい。基材11は、例えば金属箔を含んでいてもよい。基材11は、例えば、アルミニウム(Al)、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、クロム(Cr)、チタン(Ti)および鉄(Fe)からなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。基材11は、例えばAl箔、Al合金箔、Cu箔等を含んでいてもよい。基材11は、例えば、5~50μmの厚さを有していてもよい。
【0032】
《(b)スクリーンの電圧設定》
本製造方法は、スクリーン122に負電圧を印加することにより、基材11とスクリーン122との間に電界を形成することを含む。スクリーン122は多孔質である。スクリーン122は、例えば導電性のメッシュであってもよい。スクリーン122の目開きは、粉体塗料が通過し、かつ粉体塗料とスクリーン122との接触頻度が適度となるように設定され得る。スクリーン122の目開きは、例えば30~300μmであってもよい。
【0033】
基材11と、スクリーン122とが、直流電源133に接続される。第1高圧電源131が基材11に接続される。第1高圧電源131が基材11に正電圧(VB)を印加する。図2では、一例として+1000Vの電圧が印加されている。第2高圧電源132がスクリーン122に接続される。第2高圧電源132がスクリーン122に負電圧(VS)を印加する。図2では、一例として-3000Vの電圧が印加されている。例えば、基材11とスクリーン122との距離(ギャップ)が8mmである時、電界強度は500V/mmである。
【0034】
正電圧(VB)は、例えば、+500~+1500Vであってもよい。負電圧(VS)は、例えば、-3500~-2500Vであってもよい。電界強度は、例えば100~2000V/mmであってもよい。
【0035】
《(c)帯電》
本製造方法は、スクリーン122を通して、粉体塗料(粒子5)を電界に導入することを含む。鉛直方向(Z軸方向)において、スクリーン122は、基材11よりも下方に配置される。スクリーン122は、基材11の直下に配置されてもよい。粉体塗料は後述される。
【0036】
例えば、エアにより、粒子5がスクリーン122に輸送されてもよい。粉体塗料は、例えば、エアロゾルを形成していてもよい。粒子5はスクリーン122に接触することにより、負電荷を付与される。スクリーン122を通過した粒子5は、電界に導入される。電界に導入された粒子5には、静電気力が作用する。粒子5は、静電気力により飛行する。粒子5の飛行方向は、鉛直上向きであるか、鉛直下向きと交差する。すなわち静電気力は、重力(mg)に逆らう方向の成分を含む。
【0037】
粒子5が基材11に接近すると、粒子5に鏡像力が働く。鏡像力は、上記式(1)において「q1=q2」の関係を満たす。基材11に正電圧が印加されていることにより、基材11の電気量が増大する。すなわち、基材11には、「α×q1」の電気量が付与される。「α」は1より大きい値である。よって、粒子5に「F=k×αq12/r2」の静電気力が作用することになる。これにより、粉体塗料の付着力が向上することが期待される。付着力の向上により、目付飽和量(上限値)の上昇が期待される。また、粉体塗料の基材11への付着頻度が向上することも期待される。付着頻度の向上により、成膜速度の上昇が期待される。
【0038】
図3は、参考形態における電極の製造方法を示す概念図である。図3においては、基材11に高圧電源が接続されていない。すなわち基材11に正電圧が印加されていない。基材11は、グランド(GND、0V)である。スクリーン122に-4000Vの負電圧が印加されている。参考形態においても、基材11とスクリーン122とのギャップが8mmである時、電界強度は500V/mmである。しかし参考形態においては、粒子5に作用する静電気力が「F=k×q12/r2」である。参考形態の静電気力は、本製造方法の静電気力の「1/α」である。すなわち参考形態の静電気力は、本製造方法の静電気力より小さい。そのため参考形態においては、目付飽和量(上限値)が、本製造方法に比して少ない可能性がある。参考形態においては、成膜速度が、本製造方法に比して低い可能性がある。
【0039】
《(d)成膜》
本製造方法は、粉体塗料を基材11に付着させることにより、塗膜を形成することを含む。本技術の成膜は、電子写真技術の「現像」に類似する。塗膜は、例えば「活物質層」、「合材層」等と称されることもある。
【0040】
成膜の実行時間(成膜時間)は、飽和時間以上となるように設定される。成膜時間は飽和時間と等しくてもよい。飽和時間は、例えば予備実験により決定されてもよい。飽和時間は、所定の正電圧の下で、塗膜が目付飽和量に到達する時間を示す。目付飽和量は、基材11に付与された正電圧の関数である。
【0041】
図4は、目付飽和量と、基材の電圧と関係の一例を示すグラフである。図4のグラフは検量線と称されてもよい。検量線は、例えば、回帰分析により求められてもよい。検量線は、例えば、一次関数であってもよいし、二次以上の関数であってもよい。目付量の目標値と、検量線とから、基材11に印加すべき正電圧の大きさが決定され得る。
【0042】
図5は、目付量と成膜時間との関係の一例を示すグラフである。例えば、目付量は、目付飽和量に到達するまで単調増加してもよい。目付飽和量に到達すると、目付量は略一定となる。例えば、100秒以上にわたって、目付量の変化量が±3%以内である時、目付量が略一定であるとみなされ得る。目付量が略一定となるまでの所要時間が、飽和時間である。成膜時間が飽和時間以上であることにより、目付量のばらつきが低減され得る。
【0043】
なお塗膜は、基材11の片面のみに形成されてもよいし、基材11の表裏両面に形成されてもよい。
【0044】
《(e)定着》
本製造方法は、圧力および熱の少なくとも一方を塗膜に付与することにより、塗膜を基材11に定着させることを含んでいてもよい。塗膜の定着により、塗膜の剥離強さが向上することが期待される。
【0045】
圧力および熱は、別々に付与されてもよい。圧力および熱は、実質的に同時に付与されてもよい。例えば、ヒートロール、ヒートプレート等により、塗膜が圧縮されてもよい。塗膜の加熱温度は、例えば、バインダの融点付近の温度であってもよい。加熱温度は、例えば80~200℃であってもよい。圧力は、例えば、塗膜の目標厚さ、目標密度等に応じて調整され得る。例えば、50~200MPaの圧力が塗膜に加えられてもよい。
【0046】
塗膜(定着後)は、例えば、10μm~1mmの厚さを有していてもよい。塗膜は、例えば、1~5g/cm3の密度を有していてもよい。
【0047】
《粉体塗料》
粉体塗料は、活物質を含む。粉体塗料は、活物質に加えて、導電材、固体電解質、バインダ等をさらに含んでいてもよい。活物質は粒子状である。活物質は、例えば1~30μmのD50を有していてもよい。活物質は、正極活物質または負極活物質を含む。正極活物質は、例えば、Li(NiCoMn)O2、Li(NiCoAl)O2、およびLiFePO4からなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。負極活物質は、例えば、黒鉛、珪素および酸化珪素からなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。バインダの配合量は、100質量部の活物質に対して、例えば0.1~10質量部であってもよい。バインダは、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)等を含んでいてもよい。導電材の配合量は、100質量部の活物質に対して、例えば0.1~10質量部であってもよい。導電材は、例えば、導電性炭素等を含んでいてもよい。固体電解質の配合量は、100体積部の活物質に対して、例えば1~100体積部であってもよい。固体電解質は、例えば、Li2S-P25等を含んでいてもよい。
【0048】
粉体塗料は、例えば複合粉体を含んでいてもよい。「複合粉体」は、複合粒子の集合体である。例えば、強いせん断力が加わる条件下で、活物質と、その他の固体材料とが混合されることにより、複合粒子が形成され得る。複合粒子においては、活物質(コア粒子)の表面に、例えばバインダおよび導電材が固着されていてもよい。予め活物質とその他の固体材料とが結合していることにより、塗膜組成の均質化が期待される。
【0049】
《電極》
一般に電池用電極の形状は、例えば帯状と枚葉状とに大別され得る。帯状電極は、例えば巻回型電池に使用され得る。枚葉状電極は、例えば積層型電池に使用され得る。例えば、大面積の積層型電池のニーズもある。大面積の積層型電池は、大面積の枚葉状電極を含む。本製造方法は、例えば、大面積の枚葉状電極の製造に適していると考えられる。大面積の枚葉状電極は、例えばバッチプロセスにより製造されてもよい。
【実施例0050】
《検量線の作成》
1.粉体塗料の準備
下記材料が準備された。
活物質:Li(NiCoMn)O2
導電材:アセチレンブラック
バインダ:PVdF
【0051】
日本コークス工業社製の混合装置「マルチパーパスミキサ」が準備された。同装置は、球形タンク(混合槽)を含む。球形タンクの対流促進効果により、強いせん断力が発生し、固体材料が複合化され得る。
【0052】
球形タンクに、活物質、導電材およびバインダが投入された。材料の配合比は「活物質/導電材/バインダ=90/5/5(質量比)」であった。攪拌羽根の回転数が10000rpmに設定された。10分間にわたって材料が混合された。これにより複合粉体が形成された。複合粉体は複合粒子を含む。複合粒子の各々は、実質的に一粒の活物質を含むと考えられる。活物質の表面には、バインダおよび導電材が固着していると考えられる。
【0053】
金属製のトレーが準備された。複合粉体がトレーに薄く広げられた。トレーがオーブン内で保管されることにより、複合粉体に熱処理が施された。オーブンの設定温度は160℃であった。保管時間は30分間であった。熱処理により、バインダおよび導電材が活物質の表面に定着したと考えられる。
【0054】
2.成膜
図6は、本実施例における成膜装置を示す概略断面図である。成膜装置100は、導入部110と、現像部120と、電界形成部130とを含む。
【0055】
導入部110は、攪拌羽根111と、多孔板112と、ファン113とを含む。多孔板112は、アルミナ多孔板(目開き 10μm、平面サイズ 75mm×75mm)である。
【0056】
現像部120は、現像電極121と、スクリーン122とを含む。スクリーン122は、SUS製メッシュ(目開き 100μm)である。現像電極121と、スクリーン122とのギャップは8mmである。
【0057】
電界形成部130は、第1高圧電源131と、第2高圧電源132と、直流電源133とを含む。第1高圧電源131は、現像電極121に正電圧を印加する。第2高圧電源132は、スクリーン122に負電圧を印加する。
【0058】
現像電極121の表面に基材11が配置された。基材11は、Al箔(厚さ 12μm)であった。基材11は、現像電極121と等電位を有する。複合粉体が、多孔板112上に供給された。ファン113が複合粉体にエアを供給することにより、複合粉体が舞い上げられた。エアの流量は25L/minであった。攪拌羽根111が複合粉体とエアとを混合することにより、エアロゾル7が形成された。攪拌羽根111の回転数は、120rpmであった。エアロゾル7がスクリーン122を通過した。帯電したエアロゾル7が電界に導入された。エアロゾル7が基材11の表面に接触することにより、複合粉体が基材11に付着した。これにより塗膜12が形成された。塗膜12が目付飽和量に到達するまで、成膜が実施された。塗膜12の平面サイズは、60mm×200mmであった。
【0059】
成膜後、2枚のヒートプレート(平板)に電極10が挟み込まれた。ヒートプレートの温度は160℃であった。ヒートプレートにより、15tfの荷重が塗膜12に付与された。これにより塗膜12が基材11に定着した。
【0060】
下記表1に示されるように、基材の正電圧(現像電極121の正電圧)と、スクリーン122の負電圧とが変更されることにより、各条件における目付飽和量がそれぞれ測定された。
【0061】
【表1】
【0062】
図7は、本実施例における目付飽和量と、基材の電圧との関係を示すグラフである。目付飽和量は、基材11の正電圧の一次関数に近似され得る。
【0063】
《実施例》
目標の目付量が104mg/cm2に設定された。上記表1および図7に基づいて、基材(現像電極121)の正電圧は+1000Vに設定された。スクリーン122の負電圧は-3000Vに設定された。電界強度は500V/mmである。目付飽和量に到達する時間(飽和時間)が測定された。飽和時間は120秒であった。
【0064】
成膜時間が120秒に設定された。すなわち成膜時間は飽和時間以上である。成膜後、塗膜が定着された。定着後、塗膜の面内の150点において、それぞれ目付量が測定された。目付量は卓上密度計(ヒューテック社製)により測定された。各点の目付量に基づいて、目付量の平均値(平均目付量)と目付量の標準偏差とが求められた。
【0065】
《比較例》
目標の目付量が104mg/cm2に設定された。基材の正電圧が+1500Vに設定された。スクリーン122の負電圧が-2500Vに設定された。電界強度は500V/mmである。飽和時間は110秒であった。
【0066】
成膜時間が93秒に設定された。すなわち成膜時間は飽和時間未満である。成膜後、実施例と同様に、平均目付量と標準偏差とが測定された。
【0067】
【表2】
【0068】
<評価結果>
実施例においては、良質な塗膜が形成されていた。目視確認において、塗膜に成膜欠点はみられなかった。
【0069】
実施例は、比較例に比して、目付量の標準偏差が小さい(上記表2参照)。すなわち実施例は、比較例に比して、目付量のばらつきが小さい。実施例においては成膜時間が飽和時間以上であり、かつ比較例においては成膜時間が飽和時間未満であるためと考えられる。
【0070】
本実施形態および本実施例は、全ての点で例示である。本実施形態および本実施例は、制限的ではない。本開示の技術的範囲は、特許請求の範囲の記載と均等の意味および範囲内における全ての変更を包含する。例えば、本実施形態および本実施例から、任意の構成が抽出され、それらが任意に組み合わされることも当初から予定されている。
【符号の説明】
【0071】
5 粒子、7 エアロゾル、10 電極、11 基材、12 塗膜、100 成膜装置、110 導入部、111 攪拌羽根、112 多孔板、113 ファン、120 現像部、121 現像電極、122 スクリーン、130 電界形成部、131 第1高圧電源、132 第2高圧電源、133 直流電源。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7