(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023136002
(43)【公開日】2023-09-29
(54)【発明の名称】ボールペンチップ、ボールペン、並びにボールペンチップの設計方法
(51)【国際特許分類】
B43K 1/08 20060101AFI20230922BHJP
B43K 7/00 20060101ALI20230922BHJP
B43K 8/22 20060101ALI20230922BHJP
G06F 3/03 20060101ALI20230922BHJP
【FI】
B43K1/08
B43K1/08 100
B43K1/08 110
B43K7/00
B43K8/22
G06F3/03 400F
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022041393
(22)【出願日】2022-03-16
(71)【出願人】
【識別番号】000108328
【氏名又は名称】ゼブラ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000626
【氏名又は名称】弁理士法人英知国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 義明
【テーマコード(参考)】
2C350
【Fターム(参考)】
2C350GA03
2C350GA13
2C350HA08
2C350HA09
2C350HA10
2C350NE01
(57)【要約】
【課題】 特定の被筆記面に対してのみ筆記を可能にする。
【解決手段】 略筒状のチップ本体21aと、チップ本体21aの前端側に回転可能に抱持されるとともに一部分がチップ本体21aから前方に露出した転写ボール21bとを備え、転写ボール21bを被筆記面に転動させて、チップ本体21a内に供給されるインクが転写ボール21bから被筆記面に転写されるようにしたボールペンチップであって、転写ボール21bを、第一の被筆記面S1で転動し、第一の被筆記面S1とは物性の異なる第二の被筆記面S2では転動しないように設けている。
【選択図】
図11
【特許請求の範囲】
【請求項1】
略筒状のチップ本体と、前記チップ本体の前端側に回転可能に抱持されるとともに一部分が前記チップ本体から前方に露出した転写ボールとを備え、前記転写ボールを被筆記面に転動させて、前記チップ本体内に供給されるインクが前記転写ボールから被筆記面に転写されるようにしたボールペンチップであって、
前記転写ボールを、第一の被筆記面で転動し、前記第一の被筆記面とは物性の異なる第二の被筆記面では転動しないように設けていることを特徴とするボールペンチップ。
【請求項2】
前記第二の被筆記面の粗さが、前記第一の被筆記面の粗さよりも小さいことを特徴とする請求項1記載のボールペンチップ。
【請求項3】
前記第二の被筆記面は、最大谷深さSvが14μm未満であることを特徴とする請求項1又は2記載のボールペンチップ。
【請求項4】
前記第二の被筆記面は、前記第一の被筆記面よりも動摩擦係数の値が小さく、
前記動摩擦係数が、筆記速度25mm/s、筆記角度70度、筆記荷重200gの条件において、φ0.7の実験用ボールを回転不能に保持した実験用ボールペンチップを用いて筆記動作をした場合の動摩擦係数であることを特徴とする請求項1~3何れか1項記載のボールペンチップ。
【請求項5】
前記第二の被筆記面の前記動摩擦係数が0.45未満であることを特徴とする請求項4記載のボールペンチップ。
【請求項6】
前記転写ボールの外周面の表面粗さをRa3nm以上に設定したことを特徴とする請求項1~5何れか1項記載のボールペンチップ。
【請求項7】
前記転写ボールは、前記チップ本体の軸方向へ0.025mm以下の範囲内で移動するように、前記チップ本体の前端側に抱持されていることを特徴とする請求項1~6何れか1項記載のボールペンチップ。
【請求項8】
前記チップ本体の内部には、前記転写ボールを後方側から受ける受け面が設けられ、前記転写ボールと前記受け面の接触面積が、0.2mm2以下であることを特徴とする請求項1~7何れか1項記載のボールペンチップ。
【請求項9】
前記転写ボールを導電性材料から形成したことを特徴とする請求項1~8何れか1項記載のボールペンチップ。
【請求項10】
前記転写ボールと前記チップ本体を導電性材料から形成し導通したことを特徴とする請求項1~9何れか1項記載のボールペンチップ。
【請求項11】
請求項1~10何れか1項記載のボールペンチップを軸筒の端部側に設けて、入力ペンを構成していることを特徴とするボールペン。
【請求項12】
略筒状のチップ本体と、前記チップ本体の前端側に回転可能に抱持されるとともに一部分が前記チップ本体から前方に露出した転写ボールとを備え、前記転写ボールを被筆記面に転動させて、前記チップ本体内に供給されるインクが前記転写ボールから被筆記面に転写されるようにしたボールペンチップの設計方法であって、
前記転写ボールを、第一の被筆記面で転動し、前記第一の被筆記面とは物性の異なる第二の被筆記面では転動しないように設けることを特徴とするボールペンチップの設計方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、前端側に回転可能に転写ボールを抱持したボールペンチップ、及びこのボールペンチップを備えたボールペン、並びにボールペンチップの設計方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の発明には、例えば特許文献1に記載されるように、一本の軸筒の前端側にパネル接触部を設けてタッチペンを構成し、同軸筒の後端側に筆記チップを設けるとともにインクを内在してボールペンを構成した筆記具がある。
この従来技術によれば、前端側のパネル接触部をタッチパネルに接触させて入力操作している途中で、前後が逆になるように軸筒を持ち替えれば、同軸筒の後端側の筆記チップにより紙面への筆記が可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-2097号公報(
図7参照)
【特許文献2】特許第6801147号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記従来技術によれば、前後を間違えて筆記チップをタッチパネルディスプレイに接触させてしまうと、タッチパネルディスプレイをインクで汚してしまうおそれがある。なお、タッチパネルディスプレイは、特許文献2に示す書き味向上シートにより覆われる場合があるが、このような場合は、この書き味向上シートをインクで汚してしまうおそれがある。
また、後端側の筆記チップにより紙面への筆記を行っている最中に、勢い余って転写ボールが紙面の外まで転動してしまうと、紙面の下側の机面にインクが転写されてしまうおそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
このような課題に鑑みて、本発明は、以下の構成を具備するものである。
略筒状のチップ本体と、前記チップ本体の前端側に回転可能に抱持されるとともに一部分が前記チップ本体から前方に露出した転写ボールとを備え、前記転写ボールを被筆記面に転動させて、前記チップ本体内に供給されるインクが前記転写ボールから被筆記面に転写されるようにしたボールペンチップであって、前記転写ボールを、第一の被筆記面で転動し、前記第一の被筆記面とは物性の異なる第二の被筆記面では転動しないように設けていることを特徴とするボールペンチップ。
【発明の効果】
【0006】
本発明は、以上説明したように構成されているので、特定の被筆記面に対してのみ筆記を可能にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本発明に係るボールペンチップを具備したボールペンの一例を示す全断面図である。
【
図2】同ボールペンを分解した状態の全断面図である。
【
図3】本発明に係るボールペンチップの一例を示す全断面図である。
【
図4】同ボールペンチップを被筆記面に略垂直に当接した状態を示す要部拡大縦断面図である。
【
図5】同ボールペンチップのチップ本体を示し、
図4における(V)-(V)線に沿う横断面図である。
【
図6】同ボールペンチップの要部縦断面図であり、(a)は被筆記面上で転写ボールを転動させている状態、(b)は、比較的動摩擦係数の小さい被筆記面上で転写ボールを転動させずに滑らせている状態を示す。
【
図7】本発明に係るボールペンチップを具備したボールペンの他例を示す全断面図である。
【
図8】同ボールペンを分解した状態の全断面図である。
【
図9】本発明に係るボールペンチップの他例を示す全断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本実施の形態では、以下の特徴を開示している。
第1の特徴は、略筒状のチップ本体と、前記チップ本体の前端側に回転可能に抱持されるとともに一部分が前記チップ本体から前方に露出した転写ボールとを備え、前記転写ボールを被筆記面に転動させて、前記チップ本体内に供給されるインクが前記転写ボールから被筆記面に転写されるようにしたボールペンチップであって、前記転写ボールを、第一の被筆記面で転動し、前記第一の被筆記面とは物性の異なる第二の被筆記面では転動しないように設けている。
【0009】
第2の特徴として、前記第二の被筆記面の粗さが、前記第一の被筆記面の粗さよりも小さい。
ここで、前記「粗さ」は、好ましくは面粗さとするが、線粗さとすることも可能である。
【0010】
第3の特徴として、前記第二の被筆記面は、最大谷深さSvが14μm未満である。
【0011】
第4の特徴として、前記第二の被筆記面は、前記第一の被筆記面よりも動摩擦係数の値が小さく、前記動摩擦係数が、筆記速度25mm/s、筆記角度70度、筆記荷重200gの条件において、φ0.7の実験用ボールを回転不能に保持した実験用ボールペンチップを用いて筆記動作をした場合の動摩擦係数である。
【0012】
第5の特徴として、前記第二の被筆記面の前記動摩擦係数が0.45未満である。
【0013】
第6の特徴として、前記転写ボールの外周面の表面粗さをRa3nm以上に設定した。
【0014】
第7の特徴として、前記転写ボールは、前記チップ本体の軸方向へ0.025mm以下の範囲内で移動するように、前記チップ本体の前端側に抱持されている。
【0015】
第8の特徴として、前記チップ本体の内部には、前記転写ボールを後方側から受ける受け面が設けられ、前記転写ボールと前記受け面の接触面積が、0.2mm2以下である。
【0016】
第9の特徴として、前記転写ボールを導電性材料から形成した。
【0017】
第10の特徴として、前記転写ボールと前記チップ本体を導電性材料から形成し導通した。
【0018】
第11の特徴は、ボールペンであって、上記ボールペンチップを軸筒の端部側に設けて、入力ペンを構成している。
【0019】
第12の特徴は、ボールペンチップの設計方法であって、略筒状のチップ本体と、前記チップ本体の前端側に回転可能に抱持されるとともに一部分が前記チップ本体から前方に露出した転写ボールとを備え、前記転写ボールを被筆記面に転動させて、前記チップ本体内に供給されるインクが前記転写ボールから被筆記面に転写されるようにしたボールペンチップの設計方法であって、前記転写ボールを、第一の被筆記面で転動し、前記第一の被筆記面とは物性の異なる第二の被筆記面では転動しないように設ける。
【0020】
<第1の実施態様>
次に、上記特徴を有する具体的な実施態様について、図面に基づいて詳細に説明する。
本明細書中、軸筒軸方向とは軸筒の中心線の延びる方向を意味し、軸筒周方向とは軸筒中心線の周囲を回る方向を意味する。また、「前」とは、軸筒軸方向の一方側であってボールペンチップの前端部が突出する方向を意味し、「後」とは、前記一方側に対する逆方向側を意味する。
また、本明細書中、軸筒径方向とは軸筒の中心線に直交する軸筒の直径方向を意味する。そして、軸筒径方向外側とは軸筒径方向に沿って軸筒中心から離れる方向を意味し、軸筒径方向内側とは軸筒径方向に沿って軸筒中心に向かう方向を意味する。
【0021】
図1~
図6は、本発明に係るボールペンチップを備えたボールペンの一例を示す。
ボールペン1は、軸筒10と、軸筒10内に収容されたボールペンリフィール20とを備え、ボールペンリフィール20前端のボールペンチップ21を軸筒10の前端部から突出させている。
【0022】
軸筒10は、前軸11と、この前軸11の後端に着脱可能に接続されて後方へ延設された後軸12とを具備し、一体略筒状に構成される。
なお、この軸筒10の他例としては、前軸11と後軸12を一体化した態様や、3以上の部材から筒状に構成した態様等とすることも可能である。
【0023】
前軸11は、前端側に先細状の先口部11aを有する長尺な略円筒状の部材である。先口部11aの前端側の開口11a1は、略円筒状に形成され、後述するチップ本体21aの外周面に接触又は近接している。
図中、符号11bは、ボールペンリフィール20の前方への移動を規制する段部、符号11cは、前軸11を後軸12に螺合接続する雄ネジ部である。
【0024】
後軸12は、後端を底部12aとした有底筒状の部材である。
この後軸12には、ボールペンリフィール20の後部側が挿入される。ボールペンリフィール20は、底部12aに接することで後方への移動が規制されている。
図中、符号12bは、前軸11の雄ネジ部11cに螺合される雌ネジ部である。
【0025】
ボールペンリフィール20は、先口部11a前端の開口11a1に挿通されたボールペンチップ21と、このボールペンチップ21の後端側に接続部材22を介して接続されたインクタンク23とを具備し、ボールペンチップ21からインクタンク23にわたる所定範囲にインクMを充填し、さらにインクMの後側にフォロワFを充填している。
【0026】
ボールペンチップ21は、略筒状のチップ本体21aと、チップ本体21aの前端側に回転可能に抱持されるとともに前側の一部分がチップ本体21aから前方に露出した転写ボール21bとを備え、転写ボール21b被筆記面に転動させて、チップ本体21a内に供給されるインクMが転写ボール21bから被筆記面に転写されるようにしている(
図3~
図6参照)。
特に本願発明の一例であるボールペンチップ21は、各部の構成を適宜に調整することで、転写ボール21bを、第一の被筆記面S1で転動し、第一の被筆記面S1とは物性の異なる第二の被筆記面S2では転動しないように設けている。
【0027】
第一の被筆記面S1は、後述する第一の被筆記面よりも大きい面粗さを有する面であり、この第一の被筆記面S1には、一般的な各種の筆記用紙の表面を含む。
【0028】
第二の被筆記面S2は、最大谷深さSvが14μm未満、最大断面高さSzが22μm未満、二乗平均平方根高さSqが1.0μm未満、かつ、算術平均粗さSaが0.5μm未満の面である。
ここで、Sv、Sz、Sq及びSaは、ISO25178で規定される面粗さのパラメータである。
この第二の被筆記面S2には、一般的なタッチパネルの表面や、タッチパネルに被せられてタッチパネルを保護する透明保護シートの表面、タッチパネルに被せられたりタッチパネルの最表部を構成したりする書き味向上用のシート(例えば、特許文献2参照)の表面等を含む。なお、前記書き味向上用のシートは、ペーパーライクフィルム等と呼称される場合もある。
第二の被筆記面S2の材質は、例えば、PET(ポリエチレンテレフタレート)やガラス等である。
【0029】
上記Sv、Sz、Sq及びSaの閾値は、本願発明者等が試行錯誤の実験に基づき設定したものである。
すなわち、本願発明者等は、メーカ及び仕様等が異なる19種類の試料(シート又は紙)の被筆記面について以下の条件で測定実験を行い、その結果として
図10の表中に示す面粗さのデータを取得し、これらデータに基づき上記閾値を設定した。
<条件>
測定機:日立製VS1800(白色干渉)
試験片:約2cm×2cm
倍率:×10
測定範囲:約1.113mm×1.113mm
【0030】
また、第二の被筆記面S2は、第一の被筆記面S1よりも、以下の測定方法による動摩擦係数の値が小さく、0.45未満である。
この動摩擦係数の測定方法は、筆記速度25mm/s、筆記角度70度、筆記荷重200gの条件において、φ0.7の実験用ボールを回転不能に保持した実験用ボールペンチップを用いて、前記19種類の試料の被筆記面に対し筆記動作をした場合に動摩擦係数を測定する。そして、測定開始後、0.3秒~5.3秒の5秒間における動摩擦係数の平均値を求める。
ここで、前記実験用ボールペンチップは、具体的に説明すれば、本実施態様のボールペンチップ21について転写ボール21bを接着剤により回転不能に固定したものである。前記筆記角度は、被筆記面と前記実験用ボールペンチップの軸心との角度である。前記筆記荷重は、被筆記面に略垂直に加わる荷重である。
前記測定方法により測定した動摩擦係数は、
図10の表に示すとおりである。
本願発明者等は、この表に示す動摩擦係数の測定値に基づき、第二の被筆記面S2の動摩擦係数について上記閾値を設定した。
【0031】
また、チップ本体21aは、前端側を先細にした長尺略円筒状の部材である。
このチップ本体21aの内周面の前端側には、転写ボール21bの前半部側の外周面に接触又は近接する内向き先端縁21a1、チップ本体21aよりも後側で転写ボール21b外周面との間にインクMを流通可能な隙間を確保した筒状内面21a2、筒状内面21a2よりも後側で後退した際の転写ボール21bを受ける略環状の受け面21a3、周方向に間隔を置いて設けられた複数のインク誘導溝21a4、転写ボール21bの後方側で中心線上に位置する円筒状のインク誘導孔21a5等を備え、転写ボール21bを回転可能に抱持するボールハウスを構成している。
【0032】
内向き先端縁21a1は、チップ本体21aの前端側を径内方向へカシメ加工することで形成された環状部位であり、その内周面を、前方へ行くにしたがって径内方向へ傾けている。
【0033】
受け面21a3は、前方へ向かった徐々に拡径する円錐台状の面に、転写ボール21bを圧接することで形成された環状の圧痕である。
【0034】
インク誘導溝21a4は、インク誘導孔21a5内の空間と、筒状内面21a2内側の隙間とを連通するようにして形成され、受け面21a3の周方向に間隔を置いて複数設けられる。
【0035】
転写ボール21bは、硬質金属材料により球状に形成される。
この転写ボール21bの外径は、当該ボールペン1に要求される機能に応じて、適宜寸法に設定される。
【0036】
上記構成のボールペンチップ21は、一般的なボールペンのペン先に適用可能なのは勿論のこと、電源非搭載の静電容量式スタイラスペン、電源搭載の静電容量式スタイラスペン、電磁誘導式スタイラスペン、感圧式入力ペン等の各種入力ペンのペン先としても適用可能である。
【0037】
例えば、当該ボールペン1を、電源搭載の静電容量式スタイラスペンとして構成する場合には、ボールペンチップ21の外径を、φ0.1~2.0mmの範囲内とする。
また、当該ボールペン1を電源非搭載の静電容量式スタイラスペンとして構成する場合には、タッチパネル等の被筆記面との接触面積を大きく確保する必要があるため、ボールペンチップ21の外径を、φ1.5mm以上とする。
【0038】
特に、本実施の形態の好ましい一例では、転写ボール21bの外径を、φ0.3~0.7mmとし、転写ボール21bの外周面の表面粗さを、Ra3nm(0.003μm)以上に設定している。
【0039】
また、転写ボール21bは、チップ本体21aの内向き先端縁21a1と受け面21a3の間で、チップ本体21aの軸方向へ0.025mm以下、特に好ましくは0.015mmの範囲内で移動するように、チップ本体21aの前端側に抱持されている。
前記軸方向の移動範囲によれば、転写ボール21bを転動させずに被筆記面に押し当てることで、転写ボール21bと内向き先端縁21a1の間に隙間が生じた場合でも、インクMの流出を防ぐことができる。
【0040】
また、チップ本体21aの内部で転写ボール21bを後方側から受ける受け面21a3は、転写ボール21bに対し接触する総面積(
図5の二点鎖線の部分)が、0.2mm
2以下、特に好ましくは0.12mm
2である。
【0041】
また、接続部材22は、前半部が後半部よりも縮径された略段付き筒状の部材であり、前端側をボールペンチップ21の後端側に環状に嵌合するとともに、後端側をインクタンク23の前端側に圧入している。
なお、図示例以外の他例としては、この接続部材22を省き、ボールペンチップ21をインクタンク23に対し直接接続することも可能である。
【0042】
インクタンク23は、合成樹脂や金属材料等から長尺円筒状に形成され、
図1の一例によれば、前軸11と後軸12に跨って設けられる。
【0043】
インクMは、ボールペンチップ21内からインクタンク23にわたる範囲に充填される。このインクMの後方側には、インクMの流出を防止するグリス状のフォロワFが設けられる。
【0044】
インクMは、一般的な油性インクや、水性インク、剪断減粘性インク等を用いることが可能である。
インクMの種類や粘度は、後述する当該ボールペン1特有の作用効果を、効果的に発揮するように、適宜に設定される。
【0045】
次に、上記構成のボールペン1について、その特徴的な作用効果を詳細に説明する。
通常、筆記者がボールペンを把持して通常の筆記動作を行う場合、ボールペンの軸心と被筆記面との間の角度α(以降、筆記角度と称する)は、45度~90度の範囲である。また、ボールペンを被筆記面に押し付ける荷重(以降、筆記荷重と称する)は、10~400gの範囲内である。
筆記者が当該ボールペン1を把持し、前記筆記角度α及び前記筆記荷重で、第一の被筆記面S1に対し筆記を行った場合、転写ボール21bが第一の被筆記面S1上を転動し、チップ本体21a内のインクMが、転写ボール21bの外周面に付着してチップ本体21a外へ移動し、転写ボール21bの外周面から第一の被筆記面S1に転写される。
また、筆記者が当該ボールペン1を把持し、前記筆記角度及び前記筆記荷重で、動摩擦係数の比較的小さい第二の被筆記面S2に対し筆記を行った場合には、転写ボール21bが第二の被筆記面S2上を滑り転動しないため、チップ本体21a内のインクMがチップ本体21a外へ移動せず、前記のような転写が行われない。
【0046】
図10中の筆記線の列の各画像は、各試料に対し、ボールペン1によって通常の筆記動作を行った場合の筆記線の画像を示す。
これらの画像より、試料No.1~14の場合は、被筆記面にほとんどインクが転写されないのを確認することができる。すなわち、試料No.1~14の場合は、転写ボール21bが転動していないものと考えられる。
【0047】
また、試料No.15~19の場合は、被筆記面にインクが転写され筆記線が描かれているのを確認することができる。すなわち、試料No.15~19の場合は、転写ボール21bが転動しているものと考えられる。
【0048】
よって、例えば、紙等の第一の被筆記面S1上で筆記を行っている最中に、勢い余って転写ボール21bが、第一の被筆記面S1からはみ出て、机面等の比較的動摩擦係数の小さい第二の被筆記面S2上を移動したとしても、第二の被筆記面S2をインクMによって汚すようなことを防ぐことができる。
【0049】
また、当該ボールペン1を、タッチパネルディスプレイへの入力操作が可能な入力ペン(スタイラスペンと呼称される場合もある)として構成した場合には、紙面等の第一の被筆記面S1に対してはインクMによる筆記が可能であり、一方、タッチパネルディスプレイ等の比較的動摩擦係数の小さい第二の被筆記面S2に対してはインクMによる筆記が行われない。したがって、タッチパネルディスプレイをインクMによって汚すようなことを防ぐことができる。
【0050】
なお、当該ボールペン1を入力ペンとして構成する場合、その方式等に応じて、ボールペンリフィール20及び軸筒10等の一部または全部を導電性材料から形成する。
例えば、チップ本体21a及び転写ボール21bを導電性材料から形成するとともに部材間を電気的に接続すれば、ボールペンチップ21全体を、入力ペンの部品として有用な導電性部材とし扱うことができる。
また、ボールペンチップ21、接続部材22及びインクタンク23等を導電性材料から形成するとともに各部材間を電気的に接続すれば、ボールペンリフィール20全体を、入力ペンの部品として有用な導電性部材として扱うことができる。
【0051】
具体的な一例として、当該ボールペン1を電源非搭載の静電容量式スタイラスペンとして構成する場合には、軸筒10の把持部位(例えば、前軸11)を導電性材料から形成し、チップ本体21a及び転写ボール21bも導電性材料から形成して、前記把持部位と転写ボール21bとを電気的に接続する。
【0052】
<第2の実施態様>
次に、本発明に係る他の実施態様について説明する。
なお、以下に説明する実施態様は、上記ボールペン1の一部を変更したものであるため、主にその変更部分について詳述し、共通する部分は同一の符号を用いて重複する説明を省略する。
【0053】
図7~
図8に示すボールペン2は、上記ボールペン1において、ボールペンリフィール20をボールペンリフィール20’に置換するとともに、軸筒10内に電気回路部30を設けて、入力ペンを構成したものである。
【0054】
ボールペンリフィール20’は、上記ボールペンリフィール20のインクタンク23を前軸11の全長程度に短くしたものである。
このボールペンリフィール20’は、前軸11に対し着脱可能である。
【0055】
電気回路部30は、当該ボールペン1を入力ペンとして機能させるための電子回路であり、図示しない電池と共に、軸筒10内においてボールペンリフィール20’よりも後側(図示例によれば、後軸12内)に収容される。
この電気回路部30は、例えば、当該ボールペン2(入力ペン)を電源搭載の静電容量式スタイラスペンとする場合、電界を発生させるための電気信号を生成するように構成される。
このボールペン2において、ボールペンチップ21は、電気回路部30と電気的に接続されて、電界を放出する部材として機能する。
【0056】
なお、電気回路部30による電気信号は、軸筒10を導電性材料から形成してこの軸筒10により伝送されるようにしてもよいし、軸筒10を合成樹脂材料から形成するとともにこの軸筒10の内周面側又は外周面側に導線を設け、この導線により伝送されるようにしてもよい。
【0057】
図7~
図8に示すボールペン2によれば、紙等の第一の被筆記面S1上で筆記動作した際は、転写ボール21bから第一の被筆記面S1へインクMを転写することができ、タッチパネルディスプレイ等の第二の被筆記面S2上で筆記動作した際は、入力ペンとして機能するのは勿論のこと、転写ボール21bが転動不能になり、インクMの吐出が止まるため、タッチパネルディスプレイ等がインクMで汚れるようなことを防ぐことができる。
【0058】
<その他の変形例>
上記実施態様において、ボールペンチップ21は、
図9に示すボールペンチップ21’に置換することが可能である。
ボールペンチップ21’は、上記構成のボールペンチップ21内に、転写ボール21bを後方側から押圧する付勢部材21cを設けたものである。
【0059】
付勢部材21cは、圧縮バネ部21c1の前端部に、転写ボール21bを押圧する棒状部21c2を一体に具備したコイルスプリングである。この付勢部材21cの後端部は、カシメ加工等によってチップ本体21aの内面に設けられた凸状の係止部21a6によって後退不能に係止される。
【0060】
このボールペンチップ21’を用いたボールペンによれば、不使用時にボールペンチップ21’先端からインクが流出するようなことを防ぐことができる。
また、転写ボール21b、付勢部材21c、及びチップ本体21aを導電性材料により形成して各部材間を電気的に接続すれば、このボールペンチップ21’全体を、入力ペン等の部品として有用な導電性部材として扱うことができる。
【0061】
本発明は上述した実施態様に限定されず、本発明の要旨を変更しない範囲で適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0062】
1,2:ボールペン
10:軸筒
11:前軸
12:後軸
20,20’:ボールペンリフィール
21,21’:ボールペンチップ
21a:チップ本体
21b:転写ボール
22:接続部材
23:インクタンク
S1:第一の被筆記面
S2:第二の被筆記面
M:インク