(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023136006
(43)【公開日】2023-09-29
(54)【発明の名称】手袋用金型、及びこの金型を用いた手袋の製造方法
(51)【国際特許分類】
A41D 19/04 20060101AFI20230922BHJP
A41D 19/00 20060101ALI20230922BHJP
【FI】
A41D19/04 A
A41D19/00 N
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022041399
(22)【出願日】2022-03-16
(71)【出願人】
【識別番号】000102544
【氏名又は名称】エステー株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】390025036
【氏名又は名称】株式会社ホワイトマックス
(71)【出願人】
【識別番号】398005168
【氏名又は名称】コイケ金型株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100179062
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 正
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100199565
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100162570
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 早苗
(72)【発明者】
【氏名】砂田 潔
(72)【発明者】
【氏名】常見 好亮
(72)【発明者】
【氏名】増本 剛
(72)【発明者】
【氏名】小池 昌義
【テーマコード(参考)】
3B033
【Fターム(参考)】
3B033AA27
3B033AB01
3B033AC01
3B033BA00
(57)【要約】
【課題】品質の高い手袋を製造することができる手袋用金型、及びこの金型を用いた手袋の製造方法を提供する。
【解決手段】手袋用金型は、2枚重ねたフィルムを手形に切断するとともにその周縁部を溶着して手袋を製造するための手袋用金型であって、手を入れるための挿入口を除く手袋の周縁部に対向する当該周縁部に沿って連続した切断・溶着刃を有し、切断・溶着刃の周縁部に沿った方向と直交する面による断面は、手袋の周縁部に接触する刃先から手袋の内側に向けて手袋から離れる方向に第1の角度で傾斜した第1の線と、この第1の線の刃先と反対側の端部から第1の角度より大きい第2の角度で手袋からさらに離れる方向に傾斜した第2の線と、をその外周に有する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
2枚重ねたフィルムを手形に切断するとともにその周縁部を溶着して手袋を製造するための手袋用金型であって、
手を入れるための挿入口を除く前記手袋の前記周縁部に対向する当該周縁部に沿って連続した切断・溶着刃を有し、
前記切断・溶着刃の前記周縁部に沿った方向と直交する面による断面は、前記手袋の前記周縁部に接触する刃先から前記手袋の内側に向けて前記手袋から離れる方向に第1の角度で傾斜した第1の線と、この第1の線の前記刃先と反対側の端部から前記第1の角度より大きい第2の角度で前記手袋からさらに離れる方向に傾斜した第2の線と、をその外周に有する、
手袋用金型。
【請求項2】
前記切断・溶着刃の前記断面は、前記刃先から前記手袋用金型の移動方向に延びた第3の線をその外周に有し、
前記第1の線と前記第3の線の間の前記刃先の角度と前記第1の線と前記第2の線の間の角度の和は180°より大きい、
請求項1に記載の手袋用金型。
【請求項3】
前記刃先の角度は鋭角である、
請求項2に記載の手袋用金型。
【請求項4】
前記第1の線を前記周縁部に沿って移動して形成される前記切断・溶着刃の第1の傾斜面に接触して、前記刃先を前記周縁部に沿って移動して形成される手形状の稜線を含む平面より前記第1の傾斜面側に配置された補助金型をさらに有する、
請求項1-3のいずれか1項に記載の手袋用金型。
【請求項5】
前記補助金型は、前記第1の傾斜面に接触する第1の接触面、及び前記第2の線を前記周縁部に沿って移動して形成される前記切断・溶着刃の第2の傾斜面に接触する第2の接触面を有する、
請求項4に記載の手袋用金型。
【請求項6】
請求項1の手袋用金型の前記切断・溶着刃の前記刃先を前記フィルムの溶融温度まで加熱して、
加熱した前記刃先を前記2枚重ねたフィルムに押し付けて、前記手袋の前記周縁部に沿って切断し、
前記第1の線を前記周縁部に沿って移動して形成される前記切断・溶着刃の第1の傾斜面を介して前記2枚重ねたフィルムに輻射熱を与えて、前記2枚重ねたフィルムを前記周縁部の内側で溶着する、
手袋の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、2枚重ねたフィルムを手の形に切断するとともに周縁部を溶着するための手袋用金型、およびこの金型を用いた手袋の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリエチレンなどの合成樹脂フィルムにより形成した手袋が知られている。フィルム製の手袋は、例えば、特許文献1に示すように、薄い2枚のポリエチレンフィルムを重ねて手の形の金型を押し付けて手袋の周縁部で切断するとともに溶着することにより製造することができる。このような手袋は、例えば、使い捨て用途として幅広く利用可能である。
【0003】
近年、この種の使い捨て手袋として、土壌で分解されるとともに海洋分解性を備えた、石油由来ではないカーボンニュートラルな素材の手袋など、さまざまな機能性フィルム素材を用いた手袋の開発が進んでいる。しかし、機能性フィルム素材の中にはポリエチレンのような合成樹脂に比べ分子量の制御が困難なものが多く、分子量分布の幅が広い樹脂も存在する。分子量分布の幅が広い樹脂では、分子量分布の狭いポリエチレンフィルムと比較してフィルム同士をしっかり溶着させることが難しい。分子量分布の幅が広い樹脂では、フィルムを熱溶着する際に分子量の大きな分子が溶け残り、当該部分に溶着不良が生じやすくなる。フィルム同士の溶着が不十分になると、手袋の周縁部に穴が開いてしまう場合があり、品質が低下してしまう。このため、機能性フィルムを用いた場合、フィルムのシール部分の溶着不良をなくす工夫が必要である。
【0004】
このようなフィルムの溶着性を高める手袋の製造装置としては、例えば特許文献2に示すように、手袋の輪郭形状にフィルムを融着させる金型シール部と、金型シール部の外周縁よりも外方に、外周縁に沿ってカッター刃を配した製造装置を用いることが考えられる。しかし、特許文献2に記載の金型シール部においては、シール面と内側内壁とのなす角、シール面と外側外壁とのなす角がともに直角であり、この角がフィルムに強く接触し、この部位でフィルムが溶けて孔が開いてしまうことがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実公昭46-4998号公報
【特許文献2】特開2016-3428号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記の点に鑑みてなされたもので、品質の高い手袋を製造することができる手袋用金型、及びこの金型を用いた手袋の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の手袋用金型の一態様は、2枚重ねたフィルムを手形に切断するとともにその周縁部を溶着して手袋を製造するための手袋用金型であって、手を入れるための挿入口を除く手袋の周縁部に対向する当該周縁部に沿って連続した切断・溶着刃を有し、切断・溶着刃の周縁部に沿った方向と直交する面による断面は、手袋の周縁部に接触する刃先から手袋の内側に向けて手袋から離れる方向に第1の角度で傾斜した第1の線と、この第1の線の刃先と反対側の端部から第1の角度より大きい第2の角度で手袋からさらに離れる方向に傾斜した第2の線と、をその外周に有する。
【0008】
本発明の手袋の製造方法によると、上記手袋用金型の切断・溶着刃の刃先をフィルムの溶融温度まで加熱して、加熱した刃先を2枚重ねたフィルムに押し付けて、手袋の周縁部に沿って切断し、第1の線を周縁部に沿って移動して形成される切断・溶着刃の第1の傾斜面を介して2枚重ねたフィルムに輻射熱を与えて、2枚重ねたフィルムを周縁部の内側で溶着する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一態様によれば、品質の高い手袋を製造することができる手袋用金型、及びこの金型を用いた手袋の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態に係る手袋用金型を備えた手袋の製造装置を示す概略図である。
【
図2】
図2は、
図1の手袋用金型をフィルム側から見た平面図である。
【
図3】
図3は、
図2の手袋用金型をF3-F3で切断した断面図である。
【
図4】
図4は、
図2の手袋用金型をF4-F4で切断した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
図1に示すように、手袋1の製造装置100は、フィルムロールF1、F2、搬送ローラ2、4、コンベヤ6、カッター8、及び金型10(手袋用金型)を備える。
【0012】
フィルムロールF1、F2は、長尺な生分解性フィルムf1、f2(以下、単にフィルムf1、f2と称する)をそれぞれ回転軸R1、R2に巻回したものである。フィルムf1、f2は、特に限定されるものではなく、通常のポリエチレンフィルムなど合成樹脂製のフィルムが挙げられるが、例えば、ポリヒドロシキアルカノエート等の微生物生産系脂肪族ポリエステル、ポリ乳酸やポリカプロラクトン等の化学合成系脂肪族ポリエステル、澱粉又は酢酸セルロース等の天然高分子などを長尺な薄いシート状に成形したものに好適に用いられる。
【0013】
フィルムロールF1、F2は、その回転軸R1、R2が上下に離間して平行且つ水平に配置される姿勢で、製造装置100の図示しないフレームに対して回動可能に取り付けられている。上方に配置したフィルムロールF1は、
図1で反時計回り方向に回転してフィルムf1を図示右方へ送り出す。下方に配置したフィルムロールF2は、
図1で時計回り方向に回転してフィルムf2を図示右方へ送り出す。フィルムロールF1から送り出されたフィルムf1は、フィルムロールF2から送り出されたフィルムf2の上に重なる。
【0014】
搬送ローラ2、4は、フィルムf1、f2をフィルムロールF1、F2から引き出す方向(図示矢印T方向;以下、この方向を搬送方向Tと称する場合もある)に沿って互いに離間して配置されている。搬送ローラ2、4は、フィルムf1、f2を外周面に巻回せしめて回転することによりフィルムf1、f2を搬送方向Tに一定速度で送る。搬送ローラ2、4は、2枚のフィルムf1、f2を上下から挟んで回転するタイプのものであってもよい。いずれにしても、各フィルムロールF1、F2から引き出されたフィルムf1、f2は、上下に重ねられた状態で、搬送ローラ2、4によって矢印T方向に搬送される。
【0015】
コンベヤ6は、搬送ローラ2、4の間でフィルムf1、f2の搬送経路の下方に配置されており、その上面6aが2枚のフィルムf1、f2のうち下側のフィルムf2の下面に接触して矢印T方向に走行する。つまり、コンベヤ6は、搬送方向Tと直交し且つ水平方向に延びた複数のローラに無端状のベルトを巻回した構造を有し、ベルトの上面6aが水平面に沿って移動可能なように所定位置に張設されている。コンベヤ6のベルトは、例えば耐熱性を有するとともに弾性を有するゴムなどにより形成されている。以下の説明では、コンベヤ6のベルトの上面6aが配置された面を搬送面と称する場合もある。
【0016】
カッター8は、搬送方向Tに沿ってコンベヤ6の下流側(図示右側)に配置されている。カッター8は、フィルムf1、f2の搬送経路、すなわち搬送面を間に挟んで上下に配置した2つの切断刃を備えている。2つの切断刃は、それぞれ、搬送方向Tと直交する水平方向に延設されている。カッター8は、コンベヤ6の上面6aに載置されて矢印T方向に搬送されたフィルムf1、f2を、重ねた状態のまま所定位置(手袋1の手首部分)で切断する。
【0017】
金型10は、フィルムf1、f2の搬送経路を間に挟んでコンベヤ6の上面6aに対向する位置に配置されている。金型10は、矩形板状のベースプレート11の平らな一面11a(搬送面側の面)に図示しないネジにより締結固定されている。金型10とベースプレート11は、例えば、熱を伝えやすい金属により形成されている。
【0018】
ベースプレート11の金型10と反対側の面には、ヒーター12が取り付けられている。ヒーター12は、ベースプレート11に熱を与えて金型10の後述する切断・溶着刃20の刃先21を所定温度まで加熱する。金型10及びヒーター12を取り付けたベースプレート11は、金型10を取り付けた一面11aが水平に配置される姿勢で図示しない溶着機に取り付けられ、矢印P方向(
図1で上下方向)に移動可能に設けられている。金型10の後述する切断・溶着刃20は、金型10が矢印P方向の最下点に移動した際に、2枚重なったフィルムf1、f2を間に挟んで、コンベヤ6のベルトの上面6aに押し付けられる。コンベヤ6のベルトは、金型10を押し付けることによりわずかに弾性変形することができる。
【0019】
上記構造の製造装置100は、以下のように動作する。
製造装置100は、まず、ヒーター12に通電して金型10の刃先21をフィルムf1、f2の溶融温度まで加熱する。そして、搬送ローラ2、4を所定方向に回転させて、2つのフィルムロールF1、F2から送り出されたフィルムf1、f2を上下に重ねた状態で搬送方向Tに送る。2枚重ねたフィルムf1、f2は、水平に配置されたコンベヤ6のベルトの上面6aに載置された状態で搬送される。このとき、2枚重ねたフィルムf1、f2のうち下側のフィルムf2は、コンベヤ6のベルトの上面6aに接触する。コンベヤ6のベルトは、フィルムf1、f2と同じ速度で搬送方向Tに走行する。
【0020】
この状態で、製造装置100は、所定のタイミングで溶着機の金型10を図示矢印P方向に上下動させる。金型10が最下点まで下降されると、金型10の後述する切断・溶着刃20(
図2)が2枚重ねたフィルムf1、f2のうち上側のフィルムf1に接触し、2枚重ねたフィルムf1、f2がコンベヤ6のベルトの上面6aに0.1~1秒程度の短い時間だけ押し付けられる。この時間は、金型10がベルトの上面6aに触れて離れるまでのベルトの停止時間に概ね相当する。これにより、2枚重ねたフィルムf1、f2が金型10の刃先21の形状に沿って溶融されて切断され、切断された2枚のフィルムの周縁部同士が溶着される。
【0021】
この後、製造装置100は、所定のタイミングでカッター8を動作させて、2枚重ねた状態のフィルムf1、f2を手袋1の手首部分で切断して、製品(手袋1)とそれ以外のフィルム部分f’(バリ)に分離する。そして、製品としての手袋1は箱詰めされて出荷され、フィルム部分f’は廃棄処分又は再利用に供される。
【0022】
図2は、金型10をフィルムf1、f2側から見た平面図である。金型10は、製品としての手袋1の周縁部の形状と略同じ形状(手形状)の切断・溶着刃20を備える。
図3は、切断・溶着刃20を手袋1の周縁部に沿った方向(すなわち、切断・溶着刃20の延設方向)と直交する面により切断した断面を示す。切断・溶着刃20の断面は、手袋1の周縁部に沿った全ての位置で略同じ形状を有する。
【0023】
切断・溶着刃20は、手袋1の周縁部に押し付ける手形状の刃先21(稜部)をその先端に有する。刃先21は、金型10を図示しない溶着機に取り付けた
図1の状態で、架空の平らな水平面(
図2の紙面と平行な面)に配置される手形状の曲線である。刃先21は、このような幅を持たない曲線に限らず、所定の幅でフィルムf1に接触するように、わずかに角を丸めた形状であってもよい。以下の説明では、金型10の刃先21を配置した架空の水平面を刃先面と称する場合もある。
【0024】
切断・溶着刃20は、刃先21から手袋1の内側に向けて手袋1から離れる方向に傾斜した第1の傾斜面22、第1の傾斜面22の刃先21と反対側の縁部22aに連続して手袋1からさらに離れる方向に傾斜した第2の傾斜面23、及び刃先21から金型10の移動方向Pに沿って延設された切断面24を、その表面に有する。切断・溶着刃20の刃先21は、手袋1の周縁部に沿って連続した線である。第1の傾斜面22、第2の傾斜面23、及び切断面24は、それぞれ、手袋1の周縁部に沿って連続した面である。切断面24は、金型10の外周面となる。
【0025】
見方を変えると、
図3に示すように、切断・溶着刃20の断面は、手袋1の周縁部に接触する刃先21から手袋1の内側に向けて手袋1から離れる方向に傾斜した第1の線L1と、この第1の線L1の刃先21と反対側の端部(縁部22a)に連続して手袋1からさらに離れる方向に傾斜した第2の線L2と、刃先21から金型10の移動方向Pに延びた第3の線L3と、をその外周に有する。
【0026】
第2の線L2の上述した架空の水平面(刃先面)に対する傾斜角度(第2の角度)は、第1の線L1の刃先面に対する傾斜角度(第1の角度)より大きい。第1の線L1と第3の線L3の間の刃先21の角度αと第1の線L1と第2の線L2の間の角度βの和は、180°より大きい。言い換えると、第3の線L3に対し、第2の線L2は、手袋1から離れる方向に拡開する方向に傾斜している。また、刃先21の角度αは、鋭角であることが望ましい。
【0027】
なお、切断・溶着刃20の第1の傾斜面22は、
図3の断面における第1の線L1を金型10の周縁部に沿って移動して形成される面である。第2の傾斜面23は、第2の線L2を金型10の周縁部に沿って移動して形成される面である。切断面24は、第3の線L3を金型10の周縁部に沿って移動して形成される面である。第1の線L1、第2の線L2、第3の線L3は、直線であってもよく、わずかに湾曲した線であってもよい。つまり、第1の傾斜面22、第2の傾斜面23、及び切断面24は、平らな面に限らず、わずかに湾曲した面であってもよい。
【0028】
本実施形態では、切断・溶着刃20の切断面24を刃先21を配置した刃先面と直交する方向に延設し、刃先21の角度αを65°~85°の範囲に設定し、角度βを125°~145°の範囲に設定した。つまり、本実施形態では、架空の水平面に対する第1の傾斜面22の傾斜角度(第1の角度)を5°~25°の範囲内に設定し、架空の水平面に対する第2の傾斜面23の傾斜角度(第2の角度)を60°に設定した。
【0029】
フィルム製の手袋1は、指の間の股部、及び利用者の手を入れる挿入口に近い裾部におけるフィルムf1、f2のシール幅を他の部位より大きくして補強することが望ましい。手袋1を手に装着する際、裾部を広げて挿入口に手を入れるため、裾部には比較的強い引張力が作用する。また、手袋1を手に装着して使用する際には、指の間の股部に比較的強い力が作用しやすい。このため、本実施形態の金型10は、手袋1の指の間の股部及び裾部のシール部分を補強するための構造を備えている。
【0030】
図4は、指の間の股部及び裾部における金型10の断面を示す。金型10の指の間の股部及び裾部には、フィルムf1、f2のシール幅を他の部位より広くするための補助金型30がそれぞれ取り付けられている。各補助金型30は、それぞれ、複数本のネジ40を用いて金型10の所定位置に締結固定される。各補助金型30は、金型10の周縁部に沿って湾曲した形状を有し、指の間の股部に取り付ける補助金型30と裾部に取り付ける補助金型30は取付位置に応じて互いに異なる形状を有する。しかし、全ての補助金型30は、金型10の周縁部に沿った方向と直交する面による断面形状が、その全長にわたって略同じ形状を有する。本実施形態では、
図2に示すように、指の間の股部に4つの補助金型30を取り付け、裾部に2つの補助金型30を取り付けた。
【0031】
以下、補助金型30の構造について、
図4に示す断面図を用いて説明する。
補助金型30は、金型10に締結固定される固定部分32、及び金型10の切断・溶着刃20の表面に接触して配置される接触部分34を一体に有する。金型10の指の間の股部に取り付ける補助金型30は、金型10の周縁部に沿って離間した固定部分32の2箇所でネジ40によって金型10に締結固定される。金型10の裾部に取り付ける補助金型30は、金型10の周縁部に沿って離間した固定部分32の3箇所でネジ40によって金型10に締結固定される。ネジ40による補助金型30の締結方向(すなわちネジ40の軸方向)は、金型10の移動方向Pと平行であり、補助金型30の接触部分34を金型10の切断・溶着刃20の表面に押し付ける方向となっている。
【0032】
接触部分34は、金型10の切断・溶着刃20の第1の傾斜面22に接触する第1の接触面36、及び切断・溶着刃20の第2の傾斜面23に接触する第2の接触面37を、その表面に有する。また、接触部分34は、手袋1に対向する先端面38、及び第3の傾斜面39を、その表面に有する。先端面38は、第1の接触面36の第2の接触面37と反対の端縁に連続した面であり、先端面38と第1の接触面36の間の角部は、金型10の切断・溶着刃20の刃先21より金型10の内側に配置されている。
【0033】
接触部分34は、金型10の切断・溶着刃20の刃先面より第1の傾斜面22及び第2の傾斜面23側に配置される。言い換えると、接触部分34は、刃先面と第1及び第2の傾斜面22、23の間に配置される。つまり、補助金型30の接触部分34の先端面38は、刃先面より金型10側に位置しており、両者の間にはわずかな段差dが設けられている。なお、先端面38は、刃先面と平行であってもよく、切断・溶着刃20の第1の傾斜面22と同じ方向にわずかに傾斜した面であってもよい。
【0034】
第3の傾斜面39は、先端面38の刃先21から離間した側の端縁に連続した面であり、刃先面に対して金型10の内側に向けて手袋1から離れる方向に傾斜している。第3の傾斜面39の刃先21から離間した側の端縁は、金型10の切断・溶着刃20の第1の傾斜面22と第2の傾斜面23の間の縁部22aを超えて金型10の内側に延びている。また、第3の傾斜面39は、刃先面より金型10側に配置され、金型10の切断・溶着刃20の縁部22aより刃先面側に配置されている。
【0035】
なお、補助金型30の固定部分32と金型10の切断・溶着刃20との間には、図示のような隙間Sや空間Kを設けることが望ましい。このように隙間Sや空間Kを設けることにより、補助金型30を金型10に締結固定した状態で、補助金型30の第1の接触面36を金型10の第1の傾斜面22に良好に接触させることができ、補助金型30の第2の接触面37を金型10の第2の傾斜面23に良好に接触させることができる。これにより、金型10の熱を補助金型30の接触部分34に効率よく伝えることができる。
【0036】
次に、上述した複数の補助金型30を備えた金型10を用いて手袋1を製造した場合の作用・効果について説明する。
補助金型30を取り付けていない部位で、金型10の切断・溶着刃20(
図3)を、2枚重ねた状態のフィルムf1、f2に押し付けると、コンベヤ6のベルトの弾性変形を伴って、切断・溶着刃20の刃先21がフィルムf1、f2を間に挟んだ状態でコンベヤ6のベルトの上面6aにわずかに食い込む。このとき、切断・溶着刃20の第1の傾斜面22が刃先21から金型10の内側に向けてフィルムf1、f2から離れる方向に傾斜しているため、刃先21に最も大きな接触圧が作用し、フィルムf1が第1の傾斜面22に対して弱く接触、或いは非接触な状態となる。この状態で、切断・溶着刃20の熱がフィルムf1、f2に伝えられる。
【0037】
これにより、最も強く押し付けられている切断・溶着刃20の刃先21によってフィルムf1、f2が溶融されて切断され、切断・溶着刃20の第1の傾斜面22が対向或いは弱く接触しているフィルムf1、f2の部分が、切断・溶着刃20から放出される輻射熱によって溶着される。切断・溶着刃20の第1の傾斜面22が、刃先21から手袋1の内側に向けて徐々に手袋1から離れる方向に傾斜しているため、第1の傾斜面22を介してフィルムf1、f2に与えられる熱量は、刃先21をピークとして手袋1の内側に向けて徐々に少なくなる。
【0038】
つまり、刃先21につながる第1の傾斜面22を介してフィルムf1、f2に輻射熱を与えると、手袋1の周縁部の内側のシール部分の幅方向の連続性をよくすることができ、シール部分に孔が開く不具合を抑制することができる。よって、本実施形態の金型10を用いた場合、手袋1の周縁部のシール部分の溶着不良を防止することができ、品質の高い手袋1を製造することができる。
【0039】
また、本実施形態のように、切断・溶着刃20の切断面24を刃先面と直交する方向に設けて、第1の傾斜面22を切断面24の一端にある刃先21から手袋1の内側に向けてフィルムf1、f2から離れる方向に傾斜させると、刃先21の角度αを鋭角にすることができる。このように、切断・溶着刃20の刃先21を鋭角にすることにより、フィルムf1、f2を手袋1の周縁部に沿って確実に切断することができ、フィルムf1、f2の切断不良を抑制することができる。
【0040】
しかしながら、刃先21の角度αは、本実施形態のように必ずしも鋭角にする必要はなく、少なくとも第1の傾斜面22を架空の水平面に対して傾斜させればよい。刃先21の角度αを90°以上にする場合には、切断・溶着刃20の切断面24を刃先21から手袋1の外側に向けてフィルムf1、f2から離れる方向に傾斜させればよい。
【0041】
なお、手袋1の周縁部におけるシール部分の幅は、上述した切断・溶着刃20の第1の傾斜面22の傾斜角度を変えることによって調節することができる。例えば、刃先面に対する第1の傾斜面22の傾斜角度を大きくすると、刃先21を尖らせることができ、フィルムf1、f2を確実に切断することができる。反面、第1の傾斜面22の傾斜角度を大きくすると、第1の傾斜面22とフィルムf1、f2との間の距離が離れてしまい、フィルムf1、f2に輻射熱が十分に与えられずに、フィルムf1、f2の溶着が不十分となる可能性が考えられる。具体的には、フィルムf1、f2に接触している刃先21を介してフィルムf1、f2を溶融可能な熱を与えることができても、第1の傾斜面22を介してフィルムf1、f2を溶着可能な輻射熱を与えることができる領域の幅が狭くなってしまい、フィルムf1、f2同士のシール幅が小さくなってしまう。
【0042】
これに対し、刃先面に対する第1の傾斜面22の傾斜角度を小さくすると、その分、刃先21の角度αが大きくなり、フィルムf1、f2の切断不良を生じる可能性が高くなる。反面、第1の傾斜面22の傾斜角度を小さくすると、その分、第1の傾斜面22をフィルムf1、f2に近付けて配置することができ、フィルムf1、f2同士を溶着するのに十分な輻射熱をフィルムf1、f2に与えることができる領域の幅を広げることができ、フィルムf1、f2のシール幅を大きくすることができる。
【0043】
よって、第1の傾斜面22の刃先面に対する傾斜角度は、フィルムf1、f2を確実に切断することができるとともに溶着部分のシール幅を所望の幅にすることができる最適値に調整することが望ましい。本実施形態では、手袋1の周縁部を良好に切断することができ、且つフィルムf1、f2の溶着不良を防止することができるように、刃先面に対する切断・溶着刃20の第1の傾斜面22の傾斜角度を5°~25°の範囲に設定した。
【0044】
また、手袋1の周縁部におけるフィルムf1、f2のシール幅は、金型10の切断・溶着刃20の第1の傾斜面22の幅を変えることによっても調節することができる。つまり、刃先面に対する第1の傾斜面22の傾斜角度を十分に小さくすることで、第1の傾斜面22の幅と略同じシール幅でフィルムf1、f2を溶着することができる。
【0045】
本実施形態では、フィルムf1、f2のシール幅を所望する幅に確実に調節するため、切断・溶着刃20の第1の傾斜面22の内側に連続して、第1の傾斜面22よりさらに手袋1から離れる方向に傾斜した第2の傾斜面23を設けた。つまり、第2の傾斜面23の刃先面に対する傾斜角度を第1の傾斜面22の傾斜角度より十分に大きくすることにより、フィルムf1、f2を溶着したくない部分から切断・溶着刃20を遠ざけることができ、フィルムf1、f2のシール幅を第1の傾斜面22の幅と略同じ幅にすることができる。
【0046】
本実施形態の製造装置100によって製造する手袋1は、指を入れる部分を幅の狭い袋状にするように周縁部をシールする必要がある。このため、指を入れる部分の周縁部におけるシール幅を所望する幅に調節することが重要である。つまり、指部分のシール幅をあまり大きくしてしまうと、指を入れる空間が狭くなって使い難くなってしまう。このため、特に、指を入れる部分におけるシール部分は、孔が開いてしまうことがない最小のシール幅に制御することが重要である。この点において、本実施形態の金型10は、切断・溶着刃20が第1の傾斜面22及び第2の傾斜面23を備えることで、このような課題を解決している。
【0047】
単に、フィルムf1、f2のシール幅を所望する幅に調節するだけであれば、第2の傾斜面23を設けずに、第1の傾斜面22の刃先21と反対側の縁部22aに連続して、切断面24と略平行な面を設ければよい。しかし、切断・溶着刃20の縁部22aから金型10の移動方向Pと平行な面を設けた場合、切断・溶着刃20の幅が狭くなってしまい、切断・溶着刃20の熱容量が小さくなるとともに、切断・溶着刃20の機械強度が低下してしまう。
【0048】
このため、本実施形態では、第1の傾斜面22の縁部22aに連続して金型10の内側に向けて傾斜した第2の傾斜面23を設けて、切断・溶着刃20の幅を十分に大きくするようにした。つまり、本実施形態では、第2の傾斜面23を設けることで、フィルムf1、f1の溶着部分のシール幅を所望する幅に調節できることに加え、切断・溶着刃20の熱容量を最大にして、切断・溶着刃20の機械強度を十分に高くすることができる。
【0049】
また、切断・溶着刃20の第2の傾斜面23は、フィルムf1、f2の溶着不良を防止して手袋1の品質を高くする目的で設けられている。仮に、第2の傾斜面23を設ける代わりに、切断面24と平行な面を第1の傾斜面22の縁部22aに連続して設けた場合、この面と第1の傾斜面22の間の縁部22aにおける角度が、第2の傾斜面23を設けた場合と比較して小さくなる。この場合、切断・溶着刃20の刃先21をフィルムf1、f2に押し付けて、刃先21がコンベヤ6のベルトに食い込むと、縁部22aの角がフィルムf1、f2に強く接触し、この部位でフィルムf1、f2が溶けて孔が開いてしまう可能性が考えられる。よって、本実施形態では、第1の傾斜面22に縁部22aで連続する第2の傾斜面23を設けて、第1の傾斜面22と第2の傾斜面23との間の縁部22aにおける角度βを比較的大きくして、この部分でフィルムf1、f2に不所望な孔が開いてしまう不具合を防止するようにした。
【0050】
また、本実施形態では、切断・溶着刃20の幅をできるだけ大きくするため、刃先21の角度αと第1の傾斜面22と第2の傾斜面23の間の角度βの和を180°以上にした。これにより、切断・溶着刃20の切断面24に対して、第2の傾斜面23が手袋1から離れる方向に拡開する方向に傾斜し、切断・溶着刃20の機械強度を高めることができ、切断・溶着刃20の熱容量を十分に大きくすることができ、切断・溶着刃20の刃先21を効果的に加熱することができる。
【0051】
また、切断・溶着刃20の第1の傾斜面22及び第2の傾斜面23は、補助金型30を金型10に熱的に密着させるための伝熱面として機能する。
図4に示すように、補助金型30をネジ40を用いて金型10に締結固定すると、補助金型30の第1の接触面36が金型10の切断・溶着刃20の第1の傾斜面22に面で接触するとともに、補助金型30の第2の接触面37が切断・溶着刃20の第2の傾斜面23に面で接触する。ネジ40による補助金型30の金型10に対する固定方向は、金型10の移動方向Pと平行な方向であるため、ネジ40を締めることによって、補助金型30の第1の接触面36が金型10の第1の傾斜面22に押し付けられるとともに、補助金型30の第2の接触面37が金型10の第2の傾斜面23に押し付けられ、補助金型30の接触部分34が金型10の切断・溶着刃20に対して密着する。
【0052】
これにより、金型10の切断・溶着刃20の熱を補助金型30の接触部分34に良好に伝熱することができ、補助金型30の接触部分34を所望する温度まで効果的に加熱することができる。
【0053】
補助金型30を取り付けた金型10の部分をフィルムf1、f2に押し付けると、刃先面に配置した金型10の刃先21がフィルムf1、f2に押し付けられて、フィルムf1、f2が手袋1の形状に切断される。このとき、補助金型30の接触部分34によって覆われずに露出した第1の傾斜面22の部分、補助金型30の接触部分34の先端面38、及び第3の傾斜面39が、刃先面よりわずかに手袋1から離れた位置に配置され、第1の傾斜面22、先端面38、及び第3の傾斜面39からフィルムf1、f2に輻射熱が与えられる。
【0054】
上述したように、補助金型30の第3の傾斜面39の内側の縁部が、金型10の切断・溶着刃20の第1の傾斜面22の内側の縁部22aよりさらに内側まで延びており、第3の傾斜面39の内側の縁部が第1の傾斜面22の内側の縁部22aより刃先面に近い位置に配置されているため、補助金型30を設けた部分のフィルムf1、f2のシール幅を設けていない部分のシール幅より広くすることができる。なお、補助金型30を設けた部分のフィルムf1、f2のシール幅は、補助金型30の先端面38及び/或いは第3の傾斜面39の幅及び/或いは傾斜角度を変えることによって、所望する幅に調節することができる。
【0055】
以上、実施形態に基づいて本発明を説明したが、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内で種々の変形や応用が可能なことは勿論である。
【0056】
例えば、上述した実施形態では、生分解性フィルムf1、f2により手袋1を製造した場合について説明したが、生分解性ではない他の合成樹脂フィルムにより手袋を製造するための金型に本発明を適用することもできる。
【0057】
また、金型10の刃先21の角度αは鋭角に限らず、フィルムf1、f2を良好に切断可能な角度であればいかなる角度であってもよい。また、補助金型30は、金型10に対して別体として取り付ける必要はなく、金型10と一体に形成してもよい。
【符号の説明】
【0058】
6…コンベヤ、 6a…上面、 10…金型、 12…ヒーター、 20…切断・溶着刃、 21…刃先、 22…第1の傾斜面、 22a…縁部、 23…第2の傾斜面、 30…補助金型、 34…接触部分、 36…第1の接触面、 37…第2の接触面、 38…先端面、 39…第3の傾斜面、 40…ネジ、 100…製造装置、 f1、f2…生分解性フィルム、 F1、F2…フィルムロール、 L1…第1の線、 L2…第2の線。