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特開2023-136033半導体装置の制御方法、および半導体装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023136033
(43)【公開日】2023-09-29
(54)【発明の名称】半導体装置の制御方法、および半導体装置
(51)【国際特許分類】
   H02M 1/08 20060101AFI20230922BHJP
   H03K 17/16 20060101ALI20230922BHJP
   H03K 17/687 20060101ALI20230922BHJP
   H02M 1/00 20070101ALI20230922BHJP
【FI】
H02M1/08 A
H03K17/16 H
H03K17/687 A
H02M1/00 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022041434
(22)【出願日】2022-03-16
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】317011920
【氏名又は名称】東芝デバイス&ストレージ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004026
【氏名又は名称】弁理士法人iX
(72)【発明者】
【氏名】安住 壮紀
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 光平
(72)【発明者】
【氏名】田中 二大
(72)【発明者】
【氏名】川井 秀介
【テーマコード(参考)】
5H740
5J055
【Fターム(参考)】
5H740BA12
5H740BB10
5H740BC01
5H740BC02
5H740JA01
5H740JB01
5H740MM01
5H740PP02
5J055AX25
5J055AX56
5J055BX16
5J055CX13
5J055DX13
5J055DX22
5J055EY02
5J055EY21
5J055EY29
5J055GX01
5J055GX05
5J055GX07
(57)【要約】
【課題】スイッチング損失と、ノイズの低減とのトレードオフをさらに改善すること。
【解決手段】ドリフト層にN層とP層とが縦溝構造に並んで配置され、ドレイン‐ソース間に電圧が印加されると前記N層および前記P層間で空乏層が横方向に広がった後、前記縦溝構造の溝の深さの空乏層が形成される半導体装置の制御方法は、ターンオフ時、前記半導体装置のドレイン‐ソース間の電圧値を検出し、前記検出される電圧値が大きく変化する前から第1期間、ゲートにディスチャージするゲートディスチャージ電流の電流値を小さくする。
【選択図】図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドリフト層にN層とP層とが縦溝構造に並んで配置され、ドレイン‐ソース間に電圧が印加されると前記N層および前記P層間で空乏層が横方向に広がった後、前記縦溝構造の溝の深さの空乏層が形成される半導体装置の制御方法であって、
ターンオフ時、前記半導体装置のドレイン‐ソース間の電圧値を検出し、
前記検出される電圧値が大きく変化する前から第1期間、ゲートにディスチャージするゲートディスチャージ電流の電流値を小さくする、
半導体装置の制御方法。
【請求項2】
前記ゲートのゲート抵抗値を増加させ、前記ゲートディスチャージ電流の電流値を小さくする、
請求項1に記載の半導体装置の制御方法。
【請求項3】
前記第1期間は、前記溝の深さの空乏層が形成される第2期間を含む、
請求項1または2に記載の半導体装置の制御方法。
【請求項4】
さらに、前記電圧値を検出する前に、
前記第1期間の開始時に検出された第1電圧値を記憶し、
前記ゲートディスチャージ電流の電流値は、前記第1電圧値が検出されたときから小さくする、
請求項1~3のいずれか1つに記載の半導体装置の制御方法。
【請求項5】
さらに、前記電圧値を検出する前に、
前記第1期間の終了時に検出された第2電圧値を記憶し、
前記第2電圧値を検出した場合、前記第1期間を終了する、
請求項1から4のいずれか1つに記載の半導体装置の制御方法。
【請求項6】
1回目の前記ターンオフ時、前記電圧値を検出した検出結果に基づいて、前記第1期間の開始時に検出された第1電圧値を取得し、
2回目以降の前記ターンオフ時、前記第1電圧値を検出したときから前記第1期間、前記ゲートチャージ電流の電流値を小さくする、
請求項1に記載の半導体装置の制御方法。
【請求項7】
前記ターンオフ時に加え、さらに、ターンオン時に、前記検出される前記電圧値が大きく変化する前から第3期間、前記ゲートにチャージする前記ゲートチャージ電流の電流値を小さくする、
請求項1から6のいずれか1つに記載の半導体装置の制御方法。
【請求項8】
ドリフト層と、
前記ドリフト層に縦溝構造に並んで配置されるP層およびN層であって、ターンオフ時、ドレイン‐ソース間に電圧が印加されると前記N層および前記P層間で空乏層が横方向に広がった後、前記縦溝構造の溝の深さの空乏層が形成されるP層およびN層と、
ターンオフ時、ドレイン‐ソース間の電圧値を検出し、前記検出される電圧値が大きく変化する前から第1期間、ゲートにディスチャージするゲートディスチャージ電流の電流値を小さくする制御部と、
を備える半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、半導体装置の制御方法、および半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
パワーモジュールのスイッチング動作時に発生するスイッチング損失と、ノイズの低減と、のトレードオフを改善する方法として、スルーレート技術が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-167748号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の実施形態は、スイッチング損失と、ノイズの低減と、のトレードオフをさらに改善することができる半導体装置の制御方法、および半導体装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
実施形態によれば、ドリフト層にN層とP層とが縦溝構造に並んで配置され、ドレイン‐ソース間に電圧が印加されると前記N層および前記P層間で空乏層が横方向に広がった後、前記縦溝構造の溝の深さの空乏層が形成される半導体装置の制御方法は、ターンオフ時、前記半導体装置のドレイン‐ソース間の電圧値を検出し、前記検出される電圧値が大きく変化する前から第1期間、ゲートにディスチャージするゲートディスチャージ電流の電流値を小さくする。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】第1実施形態に係る半導体装置の構成の一例を示す図。
図2】第1実施形態に係る半導体の構造の一例を示す断面の模式図。
図3】第1実施形態に係る空乏層の状態の一例を示す模式図。
図4】第1実施形態に係る空乏層の状態の一例を示す模式図。
図5】電圧値、電流値、およびコンデンサの容量の変化の一例を示す図。
図6】第1実施形態に係る測定装置の一例を示す図。
図7】第1実施形態に係る第1期間を記憶する処理の一例を示すフローチャート。
図8】第1実施形態に係るスイッチング動作を遅くする処理の一例を示すフローチャート。
図9】第1実施形態に係るターンオフ時のシミュレーション結果の一例を示す図。
図10】第1実施形態に係るターンオン時のシミュレーション結果の一例を示す図。
図11】第2実施形態に係るスイッチング動作を遅くする処理の一例を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下に、本発明の実施形態について図面を参照しつつ説明する。
図面は模式的または概念的なものであり、各部分の厚さと幅との関係、部分間の大きさの比率などは、必ずしも現実のものと同一とは限らない。同じ部分を表す場合であっても、図面により互いの寸法や比率が異なって表される場合もある。
本願明細書と各図において、既出の図に関して前述したものと同様の要素には同一の符号を付して詳細な説明は適宜省略する。
【0008】
(第1実施形態)
図1は、半導体装置1の構成の一例を示す図である。
半導体装置1は、半導体10、ドライバ11、ダイオード12、インダクタ13、電源14、およびゲート抵抗Rを含む。
【0009】
半導体10は、本実施形態においては、SJ-MOSFET(Super Junction - metal-oxide-semiconductor field-effect transistor)である。図1に示すように、半導体10のドレインDと、電源14のプラス側と、は、ダイオード12、およびインダクタ13を挟んで接続される。ダイオード12,およびインダクタ13は、並列に接続される。半導体10のソースSは、電源14のマイナス側と、ドライバ11と、の間に接続される。半導体10のゲートGは、ゲート抵抗Rを介してドライバ11と接続される。
【0010】
半導体10は、スイッチング部SWを含む。スイッチング部SWの周辺、具体的には、ドレイン‐ソース間、ドレイン‐ゲート間、およびゲート‐ソース間には、それぞれ寄生コンデンサが形成される。以下、ドレイン‐ソース間に形成される寄生コンデンサをコンデンサCds、ドレイン‐ゲート間に形成される寄生コンデンサをコンデンサCdg、およびゲート‐ソース間に形成される寄生コンデンサをコンデンサCgsとする。また、ドレイン‐ソース間の電圧を電圧Vds、ゲート‐ソース間の電圧を電圧Vgsとする。さらに、コンデンサCdsを流れる電流を電流Icdsとする。
【0011】
ドライバ11は、半導体10のゲート‐ソース間に所定間隔で電圧を印加することによりゲート抵抗Rを介してゲートGに電流を流し、半導体10にスイッチング動作をさせる。本実施形態では、ドライバ11は、ゲート抵抗Rの抵抗値を変化させることが可能になっている。例えば、ゲート抵抗Rを並列に接続される複数の抵抗を含み、その複数の抵抗それぞれを、スイッチを介して接続/非接続可能に構成する。そして、ドライバ11が、各スイッチのON/OFFを制御することにより、ゲート抵抗Rの抵抗値の大きさを変化させる。スイッチの接続数を多くすれば、ゲート抵抗Rの抵抗値が小さくなり、スイッチの接続数を少なくすれば、ゲート抵抗Rの抵抗値が大きくなる。これにより、ドライバ11は、ゲートGに流れるゲートチャージ電流の大きさを変化させることが可能になる。なお、本実施形態においては、ゲート抵抗Rの抵抗値を複数の抵抗を並列に接続する構成により変化させる場合を一例として挙げて説明するが、ゲート抵抗Rの抵抗値を変化させる構成は、これに限るものではない。
【0012】
図2は、半導体10の構造の一例を示す断面の模式図である。また、図3図4は、半導体10の空乏層の状態の一例を示す模式図である。
【0013】
図2に示すように、半導体10は、ドリフト層110を有し、このドリフト層110にN層120と、P層130と、が縦溝構造に並んで配置されている。P層130には、ゲートGが接続されている。図示の上端側がソースSであり、下端側がドレインDになっている。
【0014】
この半導体10において、ドレイン‐ソース間に電圧が印加されると、図3に示すように、N層120、P層130間で空乏層140が図示の矢印の方向(横方向)に広がる。このようにN層120、P層130間で横方向に空乏層140が広がっていくと、やがて、図4に示すように、P層130の深さ(縦溝構造の深さ)の空乏層140が形成される。この空乏層140が形成される過程において、コンデンサCdsの容量が急峻に変化する。
【0015】
次に、空乏層140が形成される場合の影響について説明する。
図5は、電圧値、電流値、およびコンデンサの容量の変化の一例を示す図である。より詳細には、図5(a)は、電圧Vgs、および電圧Vdsの電圧値の変化の一例を示し、図5(b)は、電流Icdsの電流値の時間的な変化を示し、図5(c)はコンデンサCgd、およびコンデンサCdsの容量の時間的な変化を示している。第2期間である期間tは、既述の空乏層140が形成される期間を示している。
以下では、ターンオフ時から期間tの近傍付近について詳細に説明する。
【0016】
ゲートGのディスチャージが開始された後、時間が経過するにしたがって、図5(a)に示すように、電圧Vdsが少しずつ上昇していく。そして、期間tにおいて、既述の空乏層140の形成に応じて、電圧Vdsの電圧値が急峻な上昇を開始する。期間tの経過後、電圧Vdsは、一定の割合で上昇していく。また、電圧Vgsの電圧値は、所定の電圧値から少しずつ下降していく。そして、期間tにおいて、電圧Vgsの電圧値が急峻に下降する。期間tの経過後、電圧Vgsは、一定の割合で下降していく。
【0017】
図5(b)に示すように、ドレイン‐ソース間を流れる電流である電流Icdsの電流値は、所定値から緩やかに上昇していくが、期間tにおいて、急峻に下降し、その後、一定の割合で下降していく。
【0018】
また、図5(c)に示すように、時間が経過するにしたがって、コンデンサCds,Cgdの容量がともに少しずつ小さくなっていく。そして、期間tにおいては、コンデンサCds,Cgdの容量がともに急峻に低下する。そして、期間tが過ぎると、コンデンサCgdの容量は一定になる。また、コンデンサCdsの容量は一定の割合で低下していく。
【0019】
このように半導体装置1においては、既述の空乏層140が形成されるタイミングで電圧Vds、電圧Vgsの電圧値の急峻な変化、コンデンサCds、コンデンサCgsの容量の急峻な変化、および電流Icdsの電流値の急峻な変化が生じる。
【0020】
以上のように期間tにおける急峻な電圧値、容量、電流値の変化によって、半導体装置1内でノイズが発生する。これを防止するために、本実施形態の半導体装置1は、第1期間である期間Tにおいて、ゲートディスチャージ電流を小さくすることにより、スイッチング部SWのスイッチング動作を遅くする処理を実行する。本実施形態において、期間Tは、一定期間であり、期間tを含む。より詳細には、期間Tは、期間tの開始より少し前に開始され、期間tの終了より少し後に終了されることとする。
【0021】
次に、ターンオフ時に、期間tを含む期間Tにおいて、スイッチング部SWのスイッチング動作を遅くする処理について説明する。
【0022】
まず、スイッチング動作を遅くする処理を行うための期間Tをドライバ11に記憶する処理について説明する。ここで、期間Tは、本実施形態においては、ターンオフ時に、ドレイン‐ソース間の電圧Vdsが第1電圧値になったときから第2電圧値になった期間である。
図7は、この第1期間を記憶する処理の一例を示すフローチャートである。この処理のうち電圧Vdsを測定する処理は、例えば、図6に示すように、半導体装置1の所定の測定装置100を用いて実行される。測定装置100は、半導体装置1のドレイン‐ソース間の電圧Vdsを測定することが可能な装置であればよい。
【0023】
図7に示すように、まず、測定装置100は、ターンオフ時の電圧Vdsを測定する(ST101)。この測定は、例えば、半導体装置1の出荷前に、半導体装置1を実際に動作させ、測定装置100により電圧Vdsを実測することにより行われる。
【0024】
次に、測定装置100は、第1電圧値、および第2電圧値を取得する(ST102)。測定装置100により測定した電圧Vdsの実測値から電圧値が急峻に変化している期間tを取得し、その期間tを含むように、期間Tが設定される。期間Tの開始時のドレイン‐ソース間の電圧Vdsの電圧値を第1電圧値とする。期間Tの終了は、設定された期間Tの終了時の電圧Vdsの電圧値である。この期間Tの終了時の電圧値を第2電圧値(>第1電圧値)とする。
【0025】
次に、測定装置100により測定された第1電圧値、および第2電圧値が半導体装置1のドライバ11の所定のメモリに、例えば、ドライバ11の製造時に記憶される(ST103)。これにより、ドライバ11は、スイッチング部SWのスイッチング動作を遅くする期間Tを取得できる。なお、予め半導体装置1の期間Tが取得されている場合は、既述のステップST101,ST102の処理は行わず、所定の装置により、半導体装置1のドライバ11に第1電圧値、および第2電圧値を記憶すればよい。
【0026】
なお、期間Tは、電圧Vdsの電圧値でなく、時間により設定してもよい。すなわち、期間Tが設定された場合に、ターンオフ時から期間Tの開始までの第1時刻、期間Tが終了する第2時刻を設定し、この第1時刻を検出したタイミングから第2時刻を検出するタイミングまでの時間を期間Tとして、スイッチング部SWのスイッチング動作を遅くするようにしてもよい。
【0027】
図8は、ターンオフ時において、既述の期間Tにおいて、半導体装置1のスイッチング動作を遅くする処理の一例を示すフローチャートである。
【0028】
図8に示すように、ドライバ11は、電圧値Vdsを検出する(ST201)。
次に、ドライバ11は、検出する電圧値Vdsが第1電圧値か否かを判定する(ST202)。第1電圧値でないと判定された場合(ST202:NO)、処理は、ステップST201へ戻る。つまり、電圧値Vdsを検出する処理が継続される。
【0029】
また、検出する電圧値Vdsの電圧値が第1電圧値であると判定した場合(ST202:YES)、ドライバ11は、ゲートディスチャージ電流を小さくする(ST203)。本実施形態においては、ドライバ11は、例えば、既述の複数のスイッチを動作させ、接続するスイッチの数を減らしてゲート抵抗Rの抵抗を大きくする。これにより、ゲートGに流れ込むゲートディスチャージ電流の電流値が小さくなり、スイッチング部SWのスイッチング動作が遅くなる。
【0030】
次に、ドライバ11は、検出する電圧Vdsの電圧値が第2電圧値か否かを判定する(ST204)。第2電圧値でないと判定された場合(ST204:NO)、処理は、ステップST204に戻る。これにより、第2電圧値が検出されるまで、言い換えれば、期間Tが終了するまで、ゲートディスチャージ電流が小さくなっている状態が継続される。つまり、スイッチング部SWのスイッチング動作が遅くなる状態が継続される。
【0031】
第2電圧値であると判定された場合(ST204:YES)、ドライバ11は、ゲートディスチャージ電流を元に戻す(ST205)。ドライバ11は、例えば、既述の複数のスイッチを動作させ、接続するスイッチの数を元の状態になるように増加させ、ゲート抵抗Rの抵抗を小さくする。これにより、ゲートGに流れ込むゲートディスチャージ電流の電流値が元の大きさになり、スイッチング部SWのスイッチング動作が速くなり、元のスイッチング動作に戻る。
【0032】
このように、半導体装置1は、ターンオフ時に、ドレイン‐ソース間の電圧Vdsの電圧値が急峻に変化して空乏層140が形成される期間tの開始の少し前から、この期間tを含む期間Tの間、スイッチング部SWのスイッチング動作を遅くする処理を実行する。
【0033】
次に、シミュレーション結果について、説明する。
図9は、シミュレーション結果の一例を示す図である。より詳細には、ターンオフ時において、図9(a)は、ゲート‐ソース間電圧である電圧Vgsの電圧値の変化を示している。図9(b)は、ドレイン‐ソース間電圧である電圧Vdsの電圧値の変化を示している。図9(c)は、ドレイン‐ソース間容量であるコンデンサCdsの容量の変化を示している。図9(d)は、コンデンサCdsの充電電流である電流Icdsの電流値の変化を示している。
図9において、破線が本実施形態で説明するスイッチング動作を実行していない場合のシミュレーション結果であり、実線が、本実施形態で説明するスイッチング動作を実行した場合のシミュレーション結果である。
【0034】
まず、本実施形態で説明したスイッチング動作を実行していない場合のシミュレーション結果の一例(破線)について説明する。
【0035】
ターンオフ時に、ドレイン‐ソース間の電圧Vdsは、時間の経過とともに緩やかに大きくなっていく。しかし、期間Tにおいて、電圧Vdsの電圧値は、急峻に大きくなる。これは、既述のように、半導体10の空乏層140が形成されるためである。この影響を受けて、ゲート‐ソース間の電圧Vgsは、期間T1の後、P21が示す範囲において、電圧値の大きさに振動が発生する。この振動がノイズの原因になる。
【0036】
また、ドレイン‐ソース間のコンデンサCdsの容量は、期間Tでの電圧Vdsの急峻な変化に応じて、急峻に小さくなる。このため、上昇していたコンデンサCdsの電流Icdsが急峻に小さくなる。これに伴い、電流の時間変化dI/dtが急峻に小さくなる。このため、dI/dt×Ls(Ls:回路中の寄生インダクタンス)で定義される電圧振動が発生する。
【0037】
このように、半導体10がSJ-MOSFETであるため、図2図4を参照して説明したように構造上の理由により、ターンオフ時に、コンデンサCdsの容量が大きく変化するタイミングで、ノイズが発生する。
【0038】
次に、本実施形態で説明するスイッチング動作を実行した場合のシミュレーション結果の一例(実線)について説明する。また、本実施形態においては、第1電圧値が20V、第2電圧値が30Vとし、この期間Tにおいて、スイッチング部SWのスイッチング動作を遅くする処理を実行している。
【0039】
ターンオフ時に、ドレイン‐ソース間の電圧Vdsは、時間の経過とともに緩やかに大きくなっていくのは、同様である。しかし、P22に示す電圧Vdsが20V~30Vで設定される期間Tにて、電圧値Vdsは、破線の場合と比較すると、その急峻さが抑制されている。このとき、ゲート‐ソース間の電圧Vgsは、P21が示す範囲において、破線の場合と比較すると、振動の大きさが抑制されている。つまり、本実施形態のスイッチング動作を行うことにより、ノイズの原因となる電圧値の振動が抑制される。
【0040】
また、ドレイン‐ソース間のコンデンサCdsの容量は、期間Tでの電圧Vdsの急峻な変化に応じて、小さくなるものの、破線の場合と比較すると、その急峻さが抑制されている。このため、上昇していたコンデンサCdsの電流Icdsの電流値が小さくなるが、破線の場合と比較すると、電流Icdsの電流値の変化は急峻さが抑制されている。つまり、P23に示すように、電流Icdsの電流値の時間変化dI/dtも穏やかになる。このため、dI/dt×Lsで定義される電圧振動の変化も小さくなる。
【0041】
以上のように、半導体装置1によると、期間T、例えば、ドレイン‐ソース間の電圧Vdsの検出値が第1電圧値~第2電圧値の間において、電流値によらず、半導体10のスイッチング動作を遅くすることができる。これにより、ターンオフ時に、半導体装置1が構造上の理由によりドレイン‐ソース間の電圧Vdsの電圧値が大きく変化する場合に、ノイズの発生を抑制することができると共に、スイッチング損失も抑制することができる。したがって、半導体装置1は、スイッチング損失と、ノイズのトレードオフを改善することができる。
【0042】
なお、上記実施形態においては、ターンオフ時の処理について説明したが、ターンオン時も同様な処理を行うことが可能である。図10は、ターンオン時のシミュレーション結果の一例を示す図である。図10(a)は、ゲート‐ソース間電圧である電圧Vgsの電圧値の変化を示している。図10(b)は、ドレイン‐ソース間電圧である電圧Vdsの電圧値の変化を示している。図10(c)は、ドレイン‐ソース間容量であるコンデンサCdsの容量の変化を示している。図10(d)は、コンデンサCdsの充電電流である電流Icdsの電流値の変化を示している。
【0043】
図10において、破線が本実施形態で説明するスイッチング動作を実行していない場合のシミュレーション結果であり、実線が、本実施形態で説明するスイッチング動作を実行した場合のシミュレーション結果であるのは、図9のシミュレーション結果と同様である。
【0044】
図10に示すように、本実施形態のスイッチング動作を実行していない場合、期間tを含む期間T(第3期間)において、P32に示すように、ドレイン‐ソース間の電圧Vdsの急峻な変化が生じ、これに伴い、コンデンサCdsの容量も急峻に変化する。これにより、P33に示すように、電流Icdsも急峻に変化する。この結果、P31に示すように、電圧Vgsの電圧振動の変化が大きくなり、ノイズが発生する。
【0045】
一方、本実施形態のスイッチング動作を実行する場合、期間Tにおいて、P32に示すように、スイッチング動作を行わない場合と比較すると、ドレイン‐ソース間の電圧Vdsの変化、及びコンデンサCdsの容量の変化が抑制される。これにより、P33に示すように、電流Icdsも急峻の変化が抑制される。この結果、P31に示すように、電圧Vgsの電圧振動の変化が抑制され、ノイズの発生が抑制される。
【0046】
以上のように、ターンオフ時に加え、ターンオン時においても、期間Tにおいて、スイッチング動作を遅くする処理を実行することにより、半導体装置1は、ターンオフ時と同様な効果を奏することができる。
【0047】
(第2実施形態)
第2実施形態は、1回目のスイッチング動作によって第1電圧値、および第2電圧値を取得し、その取得した第1電圧値、および第2電圧値に基づいて、2回目以降のスイッチング動作を実行する点が上記第1実施形態と異なっている。このため、以下では、当該スイッチング動作を実行する処理について詳細に説明する。なお、上記第1実施形態と同一の構成には同一の符号を付し、これらについての詳細な説明は省略する。
【0048】
図11は、ターンオフ時において、既述の一定期間、半導体装置1のスイッチング動作を遅くする処理の一例を示すフローチャートである。
【0049】
図11に示すように、ドライバ11は、スイッチング動作が1回目か否かを判定する(ST301)。1回目のスイッチング動作であると判定した場合(ST301:YES)、ドライバ11は、ステップST302~ST304の処理を実行する。ステップST302~ST304の処理は、1回目のスイッチング動作で第1電圧値、および第2電圧値を取得する処理である。なお、ステップST302~ST304の処理は、既述のような測定装置100が実行するのではなく、ドライバ11が実行する点を除いてステップST101~ST103と同一の処理である。
【0050】
ドライバ11は、ドレイン‐ソース間の電圧Vdsの電圧値を測定し(ST302)、第1電圧値、および第2電圧値を取得し(ST303)、第1電圧値、および第2電圧値を記憶する(ST304)。これにより、ドライバ11内の所定のメモリに第1電圧値、および第2電圧値が記憶される。
【0051】
一方、1回目のスイッチング動作でないと判定した場合(ST301:NO)、ドライバ11は、ステップST305~ST309の処理を実行する。ステップST305~ST309の処理は、1回目のスイッチング動作で記憶された第1電圧値、および第2電圧値を利用して、期間Tの間、スイッチング動作を遅くする処理である。なお、ステップST305~ST309の処理は、既述のステップST201~ST205の処理と同一の処理である。
【0052】
ドライバ11は、ドレイン‐ソース間の電圧Vdsの電圧値を検出し(ST305)、当該電圧値が第1電圧であると判定した場合(ST306:YES)、ゲートディスチャージ電流値を小さくする(ST307)。これにより、電圧Vdsが大きく変化する少し前から一定期間、すなわち、期間Tの間、スイッチング部SWのスイッチング動作が遅くなる。そして、ドライバ11は、第2電圧値であると判定した場合(STST308:YES)、ゲートディスチャージ電流値を元に戻して(ST309)、この処理を終了する。
【0053】
この実施形態の半導体装置1によると、第1実施形態の半導体装置1と同様な効果を奏することができる。さらに、既述の測定装置100を利用せず、半導体装置1によりドレイン‐ソース間の電圧Vdsの電圧値が大きく変化する前から一定期間、すなわち期間Tにおいて、スイッチング部SWのスイッチング動作を遅くする処理を実行することが可能になる。
【0054】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明およびその等価物の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0055】
1…半導体装置、10…半導体、11…ドライバ、12…ダイオード、13…インダクタ、14…電源、100…測定装置、110…ドリフト層、120…N層、130…P層、140…空乏層、R…ゲート抵抗、Vds、Vgs…電圧、Cds、Cgs…コンデンサ、Icds…電流
図1
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図9
図10
図11