(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023136043
(43)【公開日】2023-09-29
(54)【発明の名称】シクロドデカン骨格を有するビスカテコール化合物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C07C 39/15 20060101AFI20230922BHJP
C07C 37/20 20060101ALI20230922BHJP
【FI】
C07C39/15 CSP
C07C37/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022041446
(22)【出願日】2022-03-16
(71)【出願人】
【識別番号】000216243
【氏名又は名称】田岡化学工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】岩本 祐佳
(72)【発明者】
【氏名】松原 正晃
【テーマコード(参考)】
4H006
【Fターム(参考)】
4H006AA01
4H006AA02
4H006AC25
4H006FC22
4H006FC52
4H006FE13
(57)【要約】 (修正有)
【課題】樹脂に対し優れた耐熱性や透明性を付与し得るシクロドデカン骨格を有する新規な化合物、及び該化合物の製造方法の提供。
【解決手段】酸存在下、カテコール誘導体とシクロドデカノンとを反応させることにより、下記一般式(1)で表される化合物を得る。当該化合物はシクロドデカン骨格を有しており、樹脂に対し優れた耐熱性や透明性を付与し得る。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1):
【化1】
(式中、R
1及びR
2はそれぞれ独立して炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のアルコキシ基又はハロゲン原子を示す。k1及びk2はそれぞれ独立して0~3の整数を示す。k1が2以上である場合、複数あるR
1は互いに同一であっても異なっていてもよく、k2が2以上である場合、複数あるR
2は互いに同一であっても異なっていてもよい。)
で表される化合物。
【請求項2】
酸存在化、下記一般式(2):
【化2】
(式中、R
3は炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のアルコキシ基又はハロゲン原子を示す。k3は0~3の整数を示す。k3が2以上である場合、複数あるR
3は互いに同一であっても異なっていてもよい。)
で表される化合物と、シクロドデカノンとを反応させる、請求項1に記載の一般式(1)で表される化合物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シクロドデカン骨格を有する新規なビスカテコール化合物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、エネルギーやIT分野において樹脂素材は必須の素材として広く用いられ、それに対する高性能・高機能化の要請がますます強くなってきている。特に耐熱性や透明性など基礎物性の向上は、その素材が適用されるシステムの耐久性、信頼性ひいては安全性に大きく寄与するため活発に研究開発が行われている。
【0003】
このような状況下、シクロドデシリデンビスフェノール残基を有する樹脂が、耐熱性や透明性に優れることが知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで本発明者らは、シクロドデシリデンビスフェノールの特徴的構造であるシクロドデカン骨格に着目し、樹脂に対し優れた耐熱性や透明性を付与し得る、シクロドデカン骨格を有する新規な化合物の探索に着手した。
【0006】
本発明の目的は、シクロドデカン骨格を有する新規な化合物及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記の課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、酸存在下、下記一般式(2)で表される化合物とシクロドデカノンとを反応させることにより、下記一般式(1)で表される化合物(シクロドデカン骨格を有するビスカテコール化合物)が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。本発明は、具体的には以下の発明を含む。
【0008】
〔1〕
下記一般式(1):
【0009】
【化1】
(式中、R
1及びR
2はそれぞれ独立して炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のアルコキシ基又はハロゲン原子を示す。k1及びk2はそれぞれ独立して0~3の整数を示す。k1が2以上である場合、複数あるR
1は互いに同一であっても異なっていてもよく、k2が2以上である場合、複数あるR
2は互いに同一であっても異なっていてもよい。)
で表される化合物。
【0010】
〔2〕
酸存在化、下記一般式(2):
【0011】
【化2】
(式中、R
3は炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のアルコキシ基又はハロゲン原子を示す。k3は0~3の整数を示す。k3が2以上である場合、複数あるR
3は互いに同一であっても異なっていてもよい。)
で表される化合物と、シクロドデカノンとを反応させる、〔1〕に記載の一般式(1)で表される化合物の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、上記一般式(1)で表される、シクロドデカン骨格を有する新規な化合物、及びその製造方法を提供することが可能となる。
【0013】
また、本発明の上記一般式(1)で表される化合物は、シクロドデカン骨格を有することから耐熱性や透明性に優れ、さらには、反応性基であるヒドロキシ基を4つ有しており架橋構造を形成することが可能であるため、上記したシクロドデシリデンビスフェノール由来の樹脂に比し、より耐熱性に優れた樹脂を提供し得ることから、例えば、耐熱性や透明性が求められる樹脂の原料として好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施例1で得られた、下記式(1-1)で表される化合物の
1H-NMRチャートである。
【
図2】実施例1で得られた、下記式(1-1)で表される化合物の
13C-NMRチャートである。
【
図3】実施例1で得られた、下記式(1-1)で表される化合物の質量分析(LC-MS)チャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本明細書において、数値範囲を「A~B」で示す場合、A以上B以下を意味する。
【0016】
<上記一般式(1)で表される化合物>
上記一般式(1)中、置換基R1及びR2における炭素数1~4のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、iso-プロピル基、n-ブチル基、iso-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基等の分岐を有してもよいアルキル基が挙げられる。炭素数1~4のアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、iso-プロポキシ基、n-ブトキシ基、iso-ブトキシ基、sec-ブトキシ基、tert-ブトキシ基等の分岐を有してもよいアルコキシ基が挙げられる。ハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。これらの置換基の中でも、原料である上記一般式(2)で表される化合物の入手性の観点から、メチル基、tert-ブチル基、メトキシ基、塩素原子、臭素原子が好ましい。また、R1とR2は同一であることが好ましい。
【0017】
置換基(R1及びR2)数を表すk1及びk2は、それぞれ同一又は異なって0~3の整数を示し、原料である上記一般式(2)で表される化合物の入手性の観点から、0又は1であることが好ましく、また、k1及びk2は同一であることが好ましい。
【0018】
k1が2以上である場合、複数あるR1は互いに同一であっても異なっていてもよいが、同一であることが好ましく、k2が2以上である場合、複数あるR2は互いに同一であっても異なっていてもよいが、同一であることが好ましい。
【0019】
また、上記一般式(1)においてシクロドデシリデン基の結合位置は、どちらか一方のヒドロキシ基に対してパラ位であることが好ましく、具体的には下記一般式(1-A):
【0020】
【化3】
(式中、R
1、R
2、k1、k2は上述の通り。k1が2以上である場合、複数あるR
1は互いに同一であっても異なっていてもよく、k2が2以上である場合、複数あるR
2は互いに同一であっても異なっていてもよい。)
で表される構造を有することが好ましい。
【0021】
また、上記一般式(1)で表される化合物は、非対称の構造を有することもできるが、対称の構造を有することが好ましい。
【0022】
<上記一般式(1)で表される化合物の製造方法>
上記一般式(1)で表される化合物は、例えば、酸存在下、上記一般式(2)で表される化合物とシクロドデカンとを反応させることにより製造することができる。
【0023】
上記一般式(2)中、置換基R3における炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のアルコキシ基、ハロゲン原子としては、上記した置換基R1及びR2と同じものが例示でき、また、好ましい態様についても同じである。また、置換基(R3)数k3についても、上記した置換基数k1及びk2と同じであり、好ましい態様についても同じである。
【0024】
上記一般式(2)で表される化合物の使用量は、例えば、シクロドデカノン1モルに対し2~5モルであり、より経済的に上記一般式(1)で表される化合物を製造する観点から、好ましくは2~3モルである。上記一般式(2)で表される化合物は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。2種以上併用して使用することにより、非対称の構造を有する上記一般式(1)で表される化合物が製造可能となる。
【0025】
ビスカテコール化反応の際に使用される酸としては、無機酸、有機酸等各種の酸が使用可能である。無機酸としては、例えば、硫酸、塩化水素、塩酸、リン酸、ヘテロポリ酸、ゼオライト、粘土鉱物等が挙げられる。有機酸としては、例えば、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸、イオン交換樹脂等が挙げられる。これら酸の中でも、無機酸が好ましく、硫酸、塩酸、ヘテロポリ酸がより好ましく、塩酸が特に好ましい。これら酸は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0026】
また、酸の使用量は、シクロドデカノン1モルに対し、例えば0.1~5.0モル、好ましくは0.5~1.0モルである。
【0027】
ビスカテコール化反応を実施する際、反応速度向上の観点から含硫黄化合物を共存させることが好ましい。使用可能な含硫黄化合物としては、例えば、メルカプトカルボン酸類、アルキルメルカプタン類、アラルキルメルカプタン類及びこれらの塩等が挙げられる。メルカプトカルボン酸類としては、例えば、チオ酢酸、β-メルカプトプロピオン酸、α-メルカプトプロピオン酸、チオグリコール酸、チオシュウ酸、メルカプトコハク酸、メルカプト安息香酸等が挙げられる。アルキルメルカプタン類としては、例えば、n-ブチルメルカプタン、ドデシルメルカプタン等のC1-16アルキルメルカプタン等が挙げられる。アラルキルメルカプタンとしては、例えば、ベンジルメルカプタン等が挙げられる。これら含硫黄化合物の中でも、工業的な取扱性の良さから、ドデシルメルカプタンが好ましい。これら含硫黄化合物は1種、あるいは必要に応じ2種以上混合して使用してもよい。
【0028】
また、含硫黄化合物を使用する場合、その使用量は、シクロドデカノン1重量部に対し、例えば、0.01~1.0重量部、好ましくは0.05~0.50重量部である。
【0029】
ビスカテコール化反応は、溶媒の存在下もしくは非存在下のいずれでも実施することができるが、溶媒の非存在化に実施することが好ましい。なお、ここでいう「溶媒」には、シクロドデカノン、上記一般式(2)で表される化合物、酸、含硫黄化合物は含まれない。
【0030】
溶媒存在下に反応を行う場合、使用可能な溶媒としては、例えば、有機溶媒等が挙げられる。有機溶媒としては、例えば、脂肪族炭化水素類、芳香族炭化水素類、エーテル類、脂肪族ハロゲン化炭化水素類、芳香族ハロゲン化炭化水素類などが挙げられる。脂肪族炭化水素類としては、例えば、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカンなどのアルカン類が挙げられる。芳香族炭化水素類としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等が挙げられる。エーテル類としては、例えば、ジエチルエーテルなどのジアルキルエーテル類、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどの環状エーテル類が挙げられる。脂肪族ハロゲン化炭化水素類としては、例えば、塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素等が挙げられる。芳香族ハロゲン化炭化水素類としては、例えば、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン等が挙げられる。これら溶媒を使用する場合の使用量は、シクロドデカノン1重量部に対し、例えば、0.1~10重量部である。これら溶媒は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0031】
ビスカテコール化反応は、例えば、50~200℃、好ましくは60~140℃で実施される。また、特に酸として塩酸を使用する場合、60~110℃が好ましい。また、必要に応じて、常圧あるいは減圧還流下、脱水しながら反応を実施してもよい。
【0032】
ビスカテコール化反応後、得られた反応混合物に対し、必要に応じて中和、水洗等を行った後、濃縮、晶析、濾過等により上記一般式(1)で表される化合物を取り出すことができる。得られた上記一般式(1)で表されるビスフェノール類は、再結晶、蒸留、吸着、カラムクロマトグラフィー等により精製することも可能である。
【実施例0033】
以下、実施例等を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。なお、実施例等における各種測定は下記の方法にて実施した。また、実施例等に記載した「純度」は下記条件で測定したHPLCの面積百分率値である。
【0034】
〔1〕HPLC測定
・装置:島津社製 LC-20AD、
・カラム:化学物質評価研究機構 L-Column2(3μm、4.6mmφ×150mm)、
・カラム温度:40℃、
・検出波長:UV 280nm、
・移動相:A液=50%アセトニトリル/超純水、B液=アセトニトリル。なお、B液濃度に付、下記の通り濃度を変化させ分析を行った。
B液濃度:20%(5min hold)→20min→100%(15min hold)→20%(10min)
・移動相流量:1.0ml/min、
【0035】
〔2〕NMR測定
1H-NMR及び13C-NMRは、内部標準としてテトラメチルシランを用い、溶媒としてメタノール-d4(CD3OD)を用いて、JEOL-ESC400分光計によって記録した。
【0036】
〔3〕LC-MS測定
・装置:Waters社製、Xevo G2 Q-Tof
・カラム:L-Column2 ODS(2μm、2.1mmφ×100mm)、
・カラム温度:40℃、
・検出波長:UV 200-500nm、
・移動相:A液=10mM酢酸アンモニウムメタノール水、B液=メタノール。なお、B液濃度に付、下記の通り濃度を変化させ分析を行った。
B液濃度:60%(1min hold)→7min→90%(2min hold )
・移動相流量:0.35ml/min、
・検出法:Q-Tof、
・イオン化法:ESI(+)法、
・Ion Source:電圧(+)2.0kV、温度120℃、
・Sampling Cone :電圧 10V、ガスフロー50L/h、
・Desolvation Gas:温度400℃、ガスフロー1000L/h。
【0037】
<実施例1>
攪拌器、加熱冷却器、及び温度計を備えたガラス製反応器に、シクロドデカノン40g(0.219モル)、カテコール50.9g(0.462モル)、35%塩酸11.1g(0.110モル(HCl分))、ドデシルメルカプタン2.58g(0.0127モル)を仕込んだ後、撹拌を開始し、80℃まで昇温して、同温度で10時間、次いで、ドデシルメルカプタン2.30g(0.110モル)を追加して同温度で7時間、更に、35%塩酸11.1g(0.110モル(HCl分))を追加して同温度で1時間、撹拌を行った。
【0038】
得られた反応混合物に酢酸エチル400g、イオン交換水240gを添加し、40℃まで冷却し、充分に撹拌を行った後、水層を除去した。残った有機層について、イオン交換水80gで3回、5%重曹水80gで2回、さらにイオン交換水80gで2回洗浄し、還流下に脱水を行った後、4℃まで冷却して結晶を析出させた。析出した結晶を濾過し、トルエン40gで2回洗浄した後、減圧下に乾燥させて下記式(1-1)で表される化合物の結晶29.8g(収率:35.3%、HPLC純度:95.9%)を得た。
【0039】
なお、下記式(1-1)で表される化合物が得られたことは、
1H-NMR、
13C-NMR及びLC-MSにより確認した。
1H-NMR、
13C-NMR、及びLC-MSの各スペクトル値を下記するとともに、
図1~3にそれぞれの測定チャートを示す。
【0040】
【0041】
[1H-NMR(CD3OD)]
δ(ppm)=0.90(4H、s)、1.25-1.50(14H、m)、1.94(4H、s)、6.50-6.56(4H、m)、6.63(2H、d)。
【0042】
[13C-NMR(CD3OD)]
δ(ppm)=21.20、23.19、23.36、27.38、27.71、34.53、48.13、115.31、116.41、119.71、143.34、143.64、145.47。
【0043】
[LC-MS]
質量分析値([M+NH4]+):402.2614
(上記式(1-1)で表される化合物の計算上の分子量(ESI+;[C24H32O4+NH4]+):402.2644)。