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2023-136067ベーカリー食品用生地、及びこれを用いたベーカリー食品の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023136067
(43)【公開日】2023-09-29
(54)【発明の名称】ベーカリー食品用生地、及びこれを用いたベーカリー食品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A21D 2/08 20060101AFI20230922BHJP
   A21D 2/36 20060101ALI20230922BHJP
   A21D 13/41 20170101ALI20230922BHJP
   A21D 13/00 20170101ALI20230922BHJP
   A21D 2/16 20060101ALI20230922BHJP
【FI】
A21D2/08
A21D2/36
A21D13/41
A21D13/00
A21D2/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022041486
(22)【出願日】2022-03-16
(71)【出願人】
【識別番号】301049777
【氏名又は名称】日清製粉株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】貴島 聡
(72)【発明者】
【氏名】山下 敦子
(72)【発明者】
【氏名】木本 匡昭
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 亜紀
(72)【発明者】
【氏名】▲塚▼本 一民
(72)【発明者】
【氏名】茂木 大介
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 俊之
(72)【発明者】
【氏名】村上 浩二
【テーマコード(参考)】
4B032
【Fターム(参考)】
4B032DB01
4B032DB32
4B032DG02
4B032DK03
4B032DK09
4B032DK12
4B032DK18
4B032DK22
4B032DK54
4B032DL20
4B032DP08
4B032DP23
4B032DP40
(57)【要約】
【課題】生地の二次加工性に優れ、かつ良好な食感を有するベーカリー食品の提供。
【解決手段】AOAC2011.25法で分析される食物繊維量が20質量%以上の高食物繊維小麦粉を、穀粉中に40~100質量%含有し、かつ、プロピレングリコール脂肪酸エステルを、穀粉類100質量部あたり0.05~3質量部含有する、ベーカリー食品用生地。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
AOAC2011.25法で分析される食物繊維量が20質量%以上の高食物繊維小麦粉を、穀粉中に40~100質量%含有し、かつ、プロピレングリコール脂肪酸エステルを、穀粉類100質量部あたり0.05~3質量部含有する、ベーカリー食品用生地。
【請求項2】
前記高食物繊維小麦粉における、コンカナバリンA法で分析された総澱粉中のアミロース含有量が30質量%以上である、請求項1記載のベーカリー食品用生地。
【請求項3】
前記高食物繊維小麦粉がSBEIIaの活性が低い改変小麦由来の小麦粉である、請求項1又は2記載のベーカリー食品用生地。
【請求項4】
AOAC2011.25法で分析される食物繊維量が20質量%以上の高食物繊維小麦粉を、穀粉中に40~100質量%含有し、かつ、プロピレングリコール脂肪酸エステルを、穀粉類100質量部あたり0.05~3質量部含有する生地を調製することを含む、ベーカリー食品用生地の製造方法。
【請求項5】
前記高食物繊維小麦粉における、コンカナバリンA法で分析された総澱粉中のアミロース含有量が30質量%以上である、請求項4記載の方法。
【請求項6】
前記高食物繊維小麦粉がSBEIIaの活性が低い改変小麦由来の小麦粉である、請求項4又は5記載の方法。
【請求項7】
請求項1~3のいずれか1項記載のベーカリー食品用生地を加熱することを含む、ベーカリー食品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベーカリー食品用生地、及びこれを用いたベーカリー食品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、低糖質食品に対する需要が拡大しており、穀粉の代わりに全粒粉や難消化性澱粉などの食物繊維素材を配合した生地から製造される低糖質なベーカリー食品や麺類が提供されている。しかし、従来の食物繊維を多く含む生地は、作業性が低く、また該生地から得られた食品は食感が低下しがちである。
【0003】
穀物に含まれる澱粉にはアミロースとアミロペクチンが含まれる。アミロースは、消化酵素による消化性が悪く、そのため、ヒトの消化酵素で消化されない難消化性成分、すなわち食物繊維として機能し得、難消化性澱粉に分類される。高アミロース澱粉としては、高アミロース型トウモロコシ由来の高アミロースコーンスターチがよく知られている。また近年、澱粉合成に関連する酵素に変異を有することでアミロース含量を増加させた高アミロース小麦が開発されている(非特許文献1、2)。特許文献1~4には、澱粉分枝酵素SBEIIaの遺伝子の点変異を有し、SBEIIaの活性が低下しており、穀粒に含まれる澱粉のアミロース含有量が高い高アミロース小麦が開示されている。しかし一方で、アミロースは食品がパサついたり硬くなったりする原因でもある。例えば、前述の非特許文献2には、高アミロース小麦から製造したパンが、通常の小麦を使用したものと比べて膨らみが悪く品質に劣っていたこと、麺類のアミロース含量が多くなると硬くなり粘りがなくなることが記載されている。そのため、ベーカリーや麺類では、食品の食感をソフトで口当たりのよいものにしたい場合、アミロース含量の低い澱粉が利用されることがある。
【0004】
特許文献5には、食物繊維素材、グルテン、地下系澱粉、小麦粉を含有する低糖質小麦粉ミックスに乳化剤を添加することで小麦粉食品の口溶け感やぼそついた食感を改善できることが記載されている。特許文献6には、粉体原料と食物繊維を含む食物繊維含有加工食品の粉っぽさを改善するために、当該食品に食用油脂及び乳化剤を含む油脂組成物を配合することが記載されている。特許文献7には、穀粉類、糖類、卵類、及び液状油脂を含有するクレープ用生地に、プロピレングリコール脂肪酸エステル及び/又は融点55℃未満のモノグリセリドを添加することで、焼き色が細かな網目状模様を呈し、表面に凹凸が少なく、もち感が向上したクレープ皮が得られることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2007-504803号公報
【特許文献2】特表2008-526690号公報
【特許文献3】特表2015-504301号公報
【特許文献4】特表2019-527054号公報
【特許文献5】国際公開公報第2020/130062号
【特許文献6】特開2021-159077号公報
【特許文献7】国際公開公報第2020/230654号
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】J Jpn Assoc Dietary Fiber Res, 2003, 7(1):20-25
【非特許文献2】Trends in Food Science and Technology, 2006, 17:448-456
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、食物繊維を豊富に含有しているにもかかわらず生地の二次加工性に優れ、かつ良好な食感を有するベーカリー食品を提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、AOAC2011.25法で分析される食物繊維量が20質量%以上の高食物繊維小麦粉を、穀粉中に40~100質量%含有し、かつ、プロピレングリコール脂肪酸エステルを、穀粉類100質量部あたり0.05~3質量部含有する、ベーカリー食品用生地を提供する。
また本発明は、AOAC2011.25法で分析される食物繊維量が20質量%以上の高食物繊維小麦粉を、穀粉中に40~100質量%含有し、かつ、プロピレングリコール脂肪酸エステルを、穀粉類100質量部あたり0.05~3質量部含有する生地を調製することを含む、ベーカリー食品用生地の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明のベーカリー食品用生地は、食物繊維を豊富に含有しているにもかかわらず二次加工性に優れており、また当該ベーカリー食品用生地から製造したベーカリー食品は、食物繊維を豊富に含有しているにもかかわらず、良好な食感を有することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書において、「ベーカリー食品」(又は単に「ベーカリー」と称することもある。)とは、一般に、穀粉と副材料を含む生地を、必要に応じて発酵させた後、加熱(例えば、焼成、蒸し、揚げ等)することで製造される食品である。前記ベーカリー食品としては、特に制限はなく、適宜選択することができ、例えば、食パン(角型食パン、イギリスパン等)、ロールパン、菓子パン(あんパン、クリームパン等)、総菜パン(カレーパン等)、ハード系のパン(フランスパン、ドイツパン等)、クロワッサン、デニッシュ、イタリアパン、ナン、ピタパン等のパン類;ピザ;中華まん及び蒸しパン;パネトーネ、クグロフ、シュトーレン、ワッフル、マフィン、マドレーヌ、フィナンシェ、クッキー、クラッカー、ビスケット等の焼き菓子類、ドーナツ等の揚げ菓子類などが挙げられる。これらの中でも、二次加工性やその食感において効果が奏されやすい点で、発酵させた生地から製造される発酵ベーカリー食品が好ましい。前記発酵ベーカリー食品としては、特に制限はなく、適宜選択することができ、例えば、パン類;パネトーネ、クグロフ、シュトーレン、ワッフル、イーストドーナツ等の発酵菓子類などが挙げられる。
【0011】
本発明は、ベーカリー食品用生地、及びそれを用いるベーカリー食品の製造方法を提供する。本発明で製造されるベーカリー食品用生地は、その原料穀粉中に、AOAC2011.25法で分析される食物繊維量が20質量%以上である高食物繊維小麦粉を含有することを特徴とする。従前、食品成分表又は食品表示基準における食物繊維の分析方法としては、プロスキー法(AOAC985.29法)、プロスキー変法(AOAC991.43法)、AOAC2001.03法などが採用されていた。しかし、これらの方法で分析される食物繊維には、コーデックス食品委員会が定義した食物繊維(ALINORM 09/32/26)のうち、一部の難消化性澱粉、イヌリン、大豆オリゴ糖などの低分子量水溶性食物繊維が含まれていなかった。これに対し、AOAC2011.25法は、一部の難消化性澱粉、イヌリン、大豆オリゴ糖などの低分子量水溶性食物繊維も分析可能な方法である。好ましくは、本発明で使用される高食物繊維小麦粉における、AOAC2011.25法で分析される食物繊維量は、20~50質量%であり、より好ましくは25~48質量%である。
【0012】
本発明で使用される高食物繊維小麦粉は、含有する澱粉自体が難消化性であるために食物繊維含有量が高い小麦粉である。本発明で使用される高食物繊維小麦粉の例としては、高アミロース小麦由来の小麦粉が挙げられる。好ましくは、本発明で使用される高食物繊維小麦粉は、アミロース含量が30質量%以上の高アミロース小麦粉である。より好ましくは、アミロース含量が35質量%以上、さらに好ましくは40質量%以上、さらに好ましくは43質量%以上の高アミロース小麦粉が使用される。本発明で使用される高食物繊維小麦粉は、澱粉自体の難消化性に起因せずに難消化性を示す小麦粉、例えばふすま由来の食物繊維(セルロース等)の存在により難消化性を示す小麦粉(ふすま粉、上記の高アミロース小麦に由来しない全粒粉など)とは区別される。
【0013】
小麦粉のアミロース含有量とは、該小麦粉に含まれる総澱粉中のアミロース含有量をいう。本明細書における小麦粉のアミロース含有量は、コンカナバリンA(ConA)法により分析された値として定義され、例えば、該小麦粉をMegazyme社のアミロース/アミロペクチン分析キット(AMYLOSE/AMYLOPECTIN ASSAY KIT)で分析することで測定することができる。従来一般的なアミロース含有量の分析方法としては、(1) アミロースのヨウ素に対する結合能の高さを利用した方法(ヨウ素親和力測定法;例えば電流滴定法、比色定量法、AACC61-03法など)、(2) アミロペクチンとConAが特異的に結合することを利用した方法(ConA法)が知られている。しかし(1)を利用した方法ではアミロース量がより高く算出される傾向がある。例えば、非特許文献1や非特許文献2に記載されるSGP-1遺伝子の機能欠失型変異(null変異)を有する高アミロース小麦粉のアミロース含有量は、ヨウ素親和力測定法では37質量%程度であるが、ConA法では31質量%程度である。なお、従来一般的な小麦粉のアミロース含有量は、ヨウ素法では32質量%未満、ConA法では28質量%未満である。
【0014】
本発明において高食物繊維小麦粉として使用され得る高アミロース小麦粉の例としては、澱粉分枝酵素SBEIIaの活性が低い改変小麦由来の小麦粉が挙げられる。そのような改変小麦由来の小麦粉の例としては、特許文献1~4に記載される、SBEIIaの遺伝子の変異を有し、SBEIIaの活性が低下している高アミロース小麦由来の小麦粉が挙げられる。より具体的な例としては、穀粒中のSBEIIaタンパク質の量又は活性が野生型小麦穀粒中の量又は活性の2%よりも低い高アミロース小麦由来の小麦粉、1つ以上、例えば1つ又は2つのSBEIIa遺伝子のnull変異を有する高アミロース小麦由来の小麦粉、などが挙げられる。
【0015】
例えば、本発明で使用される高食物繊維小麦粉は、前述した高アミロース小麦の穀粒を通常の手順で製粉することによって製造することができる。例えば、本発明で使用される高食物繊維小麦粉は、該高アミロース小麦の穀粒の胚乳画分のみを実質的に含む小麦粉であってもよく、又は、該高アミロース小麦の穀粒の胚乳画分に加えてさらに胚芽やふすま画分を含む小麦粉(例えば全粒粉)であってもよい。
【0016】
本発明で使用される高食物繊維小麦粉は、灰分が、好ましくは1.0質量%以下、より好ましくは0.2~0.8質量%である。本明細書における小麦粉の灰分は、直接灰化法(ISS Standard Methods No.104/1)に従って測定した値をいう。
【0017】
本発明においては、該高食物繊維小麦粉を含有する原料粉からベーカリー食品用生地が調製され、該生地を用いてベーカリー食品が製造される。本発明のベーカリー食品用生地は、該高食物繊維小麦粉を、該生地に含まれる穀粉類の全質量中、好ましくは40~100質量%、より好ましくは50~100質量%、さらに好ましくは70~100質量%含有し得る。
【0018】
本発明のベーカリー食品用生地の原料粉は、前述した高食物繊維小麦粉以外の他の穀粉類を含有していてもよい。当該他の穀粉類の例としては、前述した高食物繊維小麦粉以外の小麦粉(典型的にはアミロース含有量が28質量%未満の小麦粉)、ライ麦粉、大麦粉、モチ大麦粉、オーツ麦粉、コーンフラワー、米粉、そば粉、大豆粉、ふすま粉などが挙げられ、これらのいずれか1種又は2種以上を使用することができる。好ましくは、該他の穀粉類は該高食物繊維小麦粉以外の小麦粉であり、その例としては、強力粉、準強力粉、中力粉、薄力粉、デュラム粉、全粒粉などから選択される1種又は2種以上が挙げられ、このうち、通常ベーカリー製造に使用される小麦粉、例えば強力粉、準強力粉、及びそれらの混合粉が好ましい。
【0019】
本発明のベーカリー食品用生地は、その原料粉中に、前記高食物繊維小麦粉を含む穀粉類以外に、他の材料を含有することができる。当該他の材料としては、ベーカリー食品の製造に通常使用され得るもの、例えば、澱粉類(未加工又は加工澱粉)、糖類;イーストや発酵種;イーストフード;重曹、ベーキングパウダー等の膨張剤;全卵粉、卵黄粉、卵白粉等の卵製品;グルテン、大豆粉等の蛋白質類;乳製品;油脂類;乳化剤、増粘剤、甘味料、香料、着色料、アスコルビン酸等の添加剤;食塩等の無機塩類;酵素類、などが挙げられ、これらのいずれか1種又は2種以上を使用することができる。
【0020】
前記原料粉中における、穀粉類の総量、ならびに他の材料の配合量は、製造するベーカリー食品の種類や所望される性質に応じて適宜変更することができる。好ましくは、該粉成分における穀粉類(前記高アミロース小麦粉及び他の穀粉を含む)の総量は、好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上である。
【0021】
本発明においては、前記高食物繊維小麦粉を含む原料粉からベーカリー食品用生地を調製する際に、プロピレングリコール脂肪酸エステルを生地に添加する。本発明のベーカリー食品用生地は、前記高食物繊維小麦粉を含む原料粉に、プロピレングリコール脂肪酸エステル、及び必要に応じて糖類、食塩、油脂、卵、乳、イースト、水分などから選択されるベーカリー食品用生地の製造に通常用いられる材料を添加し、混合することにより調製することができる。
【0022】
本発明のベーカリー食品用生地に使用されるプロピレングリコール脂肪酸エステル(以下「PGエステル」ともいう)としては、プロピレングリコールと脂肪酸のモノエステル、ジエステルが挙げられる。該脂肪酸は、炭素数8~22のものが好ましく、例えば、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、パルミトレイン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸が挙げられる。ジエステルの場合は、上記の脂肪酸からなる群より選ばれるいずれか1種又は2種を含むことができる。本発明のベーカリー食品用生地には、該PGエステルを含有する乳化油脂を添加することができる。該乳化油脂には、該PGエステル以外の乳化剤、例えばグリセリン脂肪酸エステル、レシチンなどが含まれていてもよい。PGエステル、及びそれを含有する乳化油脂は市販されている(例えば、フレンジーF(S);理研ビタミン株式会社)。
【0023】
本発明のベーカリー食品用生地におけるPGエステルの含有量は、該生地に含まれる穀粉類100質量部あたり、好ましくは0.05~3質量部、より好ましくは0.1~2質量部、さらに好ましくは0.2~1.5質量部、さらに好ましくは0.3~1.2質量部である。PGエステルを含む乳化油脂を使用する場合は、該乳化油脂に含まれるPGエステルの添加量が前述の範囲となるように、本発明のベーカリー食品用生地に対する該乳化油脂の添加量を調整すればよい。該乳化油脂がPGエステル以外の乳化剤を添加する場合、該乳化油脂に含まれる乳化剤(PGエステル及びその他の乳化剤を含む)の総量中におけるPGエステルの量が50質量%以上であることが好ましい。
【0024】
本発明で提供されるベーカリー食品は、前述した高食物繊維小麦粉を含む原料粉及びPGエステルを含む材料を用いて、通常の手順に従って製造することができる。具体的には、該高食物繊維小麦粉を含む原料粉、PGエステルなどの材料を混合することにより、本発明のベーカリー食品用生地を調製することができる。該生地は、必要に応じて発酵、成形、二次発酵されていてもよい。次いで、得られた生地を加熱(例えば、焼成、蒸し、揚げ等)することにより、本発明のベーカリー食品を製造することができる。本発明のベーカリー食品は、前述した高食物繊維小麦粉を含む原料粉及びPGエステルを生地に配合する以外は、該ベーカリー食品の種類に応じた通常のレシピに従って製造することができる。好ましくは、本発明のベーカリー食品は発酵ベーカリー食品である。好ましくは、本発明の発酵ベーカリー食品は、一次発酵したベーカリー食品用生地を、成形、及び二次発酵させ、次いで焼成することで製造される。本発明による発酵ベーカリー食品の製造は、ストレート法、中種法、速成法、液種法、冷凍生地法等の各種常法に従って行うことができる。必要に応じて、ベーカリー食品用生地は、そのまま、又は発酵もしくは成形した状態で冷蔵又は冷凍保存してもよい。該冷蔵又は冷凍した生地を、必要に応じて解凍した後、加熱して本発明のベーカリー食品を製造してもよい。本発明のベーカリー食品用生地は、食物繊維を豊富に含有しているにもかかわらず伸展性や機械耐性がよく二次加工性に優れているので、成形等の作業が比較的容易であり、得られるベーカリー食品の外観、食感も良好である。
【実施例0025】
以下、実施例を挙げて、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例にのみ限定されるものではない。
【0026】
材料
・高アミロース小麦由来小麦粉(HAW):SBEIIa変異遺伝子を有する、SBEIIaの発現量の低い小麦穀粒から得られた高食物繊維小麦粉。食物繊維量:28.9質量%、アミロース含有量47.4質量%(総澱粉中)、灰分0.57質量%。
・強力粉:1CW(No.1 Canada Wheat)由来小麦粉。食物繊維量:3.4質量%、アミロース含有量25.1質量%(総澱粉中)、灰分0.43質量%。
・ハイアミロースコーンスターチ:アミロース含有量86.5質量%(総澱粉中)。
・グルテン製剤:O-グル H-10、小川製粉株式会社
・乳化剤
乳化油脂(PGエステル含有):フレンジーF(S)(理研ビタミン株式会社;食用油脂71質量%、プロピレングリコール脂肪酸エステル15質量%、グリセリン脂肪酸エステル12質量%、レシチン2質量%)。
乳化油脂(グリセリド含有):ソフィカルスーパー(理研ビタミン株式会社;食用油脂72質量%、グリセリン脂肪酸エステル26質量%、レシチン2質量%)。
PGエステル製剤:カオーホモテックスPS-200V、花王株式会社、プロピレングリコール脂肪酸エステル約85%含有。
グリセリド製剤、エマルジーMM-100、理研ビタミン株式会社、グリセリン脂肪酸エステル約80%含有。
食物繊維量はAOAC2011.25法により測定した。アミロース含量はアミロース/アミロペクチン分析キット(Megazyme社)により測定した。
【0027】
試験例1 食パンの製造(ストレート法)
ストレート法により食パンを製造した。パン生地の配合、及び製造工程は下記のとおりとした。
〔生地配合:質量部〕
原料粉 表1
乳化剤 表1
生地改良剤 0.1
(オリエンタルC;オリエンタル酵母工業(株))
パン酵母 3
(レギュラーイースト;オリエンタル酵母工業(株))
食塩 2
上白糖 8
脱脂粉乳 2
油脂(ショートニング) 2
油脂(マーガリン) 4
水 80~97
〔工程〕
ミキシング (乳化油脂+油脂添加)低速5分
→低速7分→中低速7分→中高速2~3分
捏上温度 27.5℃
フロアタイム 60分
分割重量 210g
ベンチタイム 20分
成形 手成形、210g×4個
2斤型(3300cc)に型詰め
ホイロ(38℃・85%) 50分
焼成(230℃/230℃) 35分
【0028】
パン製造中の生地の二次加工性、焼成後90分間室温に放置したパン(「焼成後」)及びその後ビニール袋に包装して、72時間保管したパン(「保管後」)の食感、ならびに焼成後のパンの外観を評価した。二次加工性及びパンの食感は、訓練されたパネラー10名により下記基準で評価し、10名の評価の平均点を求めた。パンの外観については、高速レーザー体積計AR-01(株式会社ケイ・アクシス)を用いて体積を測定し、ボリュームの大きさを評価した。結果を表1に示す。
<評価基準>
二次加工性(生地の伸展性、縮みにくさ、機械耐性)
5点:対照よりも非常に優れる
4点:対照よりも優れる
3点:対照よりもやや優れる
2点:対照と同等である
1点:対照よりも劣る
食感(しっとりさ)
5点:対照よりも非常に優れる
4点:対照よりも優れる
3点:対照よりもやや優れる
2点:対照と同等である
1点:対照よりも劣る
食感(ざらつき)
5点:対照よりも非常に優れる
4点:対照よりも優れる
3点:対照よりもやや優れる
2点:対照と同等である
1点:対照よりも劣る
食感(口溶け)
5点:対照よりも非常に優れる
4点:対照よりも優れる
3点:対照よりもやや優れる
2点:対照と同等である
1点:対照よりも劣る
外観(ボリューム)
3点:対照よりもボリュームが大きい
2点:対照と同等のボリュームである
1点:対照よりもボリュームが小さい
【0029】
【表1】
【0030】
試験例2 ロールパンの製造(中種法)
中種法により生地を調製し、ロールパンを製造した。パン生地の配合、及び製造工程は下記のとおりとした。
〔生地配合:質量部〕
中種 本捏
原料粉 表2 表2
乳化剤 - 表2
生地改良剤 0.1 -
(オリエンタルC;オリエンタル酵母工業(株))
パン酵母 3 -
(レギュラーイースト;オリエンタル酵母工業(株))
食塩 - 1.5
ブドウ糖 2 -
上白糖 - 15
脱脂粉乳 - 3
油脂(ショートニング) - 5
油脂(マーガリン) - 5
全卵 - 5
水 55 28
〔工程〕
(中種)
ミキシング 低速5分中低速1分
捏上温度 25℃
発酵時間(27℃・75%) 2時間
(本捏)
ミキシング (乳化油脂、及び油脂半量添加)低速5分
→(油脂半量添加)低速7分
→中低速5分→中高速1~3分
捏上温度 27~28℃
フロアタイム 30分
分割重量 80g
ベンチタイム 15分
成形 モルダー使用(3.6-0.5mm)
18cmに伸ばす→ロール成形
ホイロ(38℃・85%) 65~70分
焼成(220℃・190℃:) 9~10分
【0031】
パン製造中の生地の二次加工性、焼成後及び保管後のパンの食感、及び焼成後のパンの外観を、試験例1と同様の手順で評価した。結果を表2に示す。
【0032】
【表2】
【0033】
試験例3 ピザの製造
下記のとおりの生地の配合、及び製造工程によりピザを製造した。ピザは具材を載せずに生地のみで焼成した。
〔生地配合:質量部〕
原料 表3
乳化油脂 表3
パン酵母 1.3
(レギュラーイースト;オリエンタル酵母工業(株))
モルトシロップ 0.5
(モルトエース20;オリエンタル酵母工業(株))
食塩 2.5
油脂(オリーブオイル) 4
水 80
〔工程〕
ミキシング (乳化油脂及び油脂添加)低速10分
→中低速8分→中高速2~4分
捏上温度 24℃
発酵(室温) 10分
分割 200g
発酵 オーバーナイト冷蔵発酵(4℃・18時間程度)
復温 60分程度、室温に静置
成形 生地を延ばす(直径28cm程度)
焼成 400℃、1分30秒程度
【0034】
製造中の生地の二次加工性、焼成後のピザの食感を、試験例1と同様の手順で評価した。結果を表3に示す。
【0035】
【表3】