(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023136075
(43)【公開日】2023-09-29
(54)【発明の名称】レンズ装置の調整機構
(51)【国際特許分類】
G02B 7/04 20210101AFI20230922BHJP
【FI】
G02B7/04 D
G02B7/04 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022041501
(22)【出願日】2022-03-16
(71)【出願人】
【識別番号】391044915
【氏名又は名称】株式会社コシナ
(74)【代理人】
【識別番号】100088579
【弁理士】
【氏名又は名称】下田 茂
(72)【発明者】
【氏名】坂本 桂一
【テーマコード(参考)】
2H044
【Fターム(参考)】
2H044BD08
2H044BD16
2H044BE02
(57)【要約】
【課題】 レンズLf1…を周方向Ffに回動変位させることなく光軸方向Fcへのみ変位させることにより、調整機構1のガタツキ防止を実現しつつ、レンズ装置Mの製造工程における工数低減及び製造コスト低減を図る。
【解決手段】 操作リング2を周面により回動自在に支持するアウタ固定筒3と、このアウタ固定筒3の径方向Fd内方に配し、かつ周面に傾斜溝カム4s…を形成した回動カム筒4と、操作リング2の回動変位を回動カム筒4に伝達する伝達部5と、この回動カム筒4の径方向Fd内方に配して位置が固定され、かつ周面に光軸方向Fcの縦溝6s…を形成したインナ固定筒6と、このインナ固定筒6の径方向Fd内方に配し、かつ周面に縦溝6s…及び傾斜溝カム4s…の双方に係合するフォロア7r…を固定した少なくとも一つのレンズLf1…を支持するレンズ枠7とを備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
操作リングの回動操作によりレンズを光軸方向へ変位させてレンズ位置の調整を行うレンズ装置の調整機構において、前記操作リングを周面により回動自在に支持するアウタ固定筒と、このアウタ固定筒の径方向内方に配し、かつ周面に傾斜溝カムを形成した回動カム筒と、前記操作リングの回動変位を前記回動カム筒に伝達する伝達部と、この回動カム筒の径方向内方に配して位置が固定され、かつ周面に光軸方向の縦溝を形成したインナ固定筒と、このインナ固定筒の径方向内方に配し、かつ周面に前記縦溝及び前記傾斜溝カムの双方に係合するフォロアを固定した少なくとも一つのレンズを支持するレンズ枠とを備えてなることを特徴とするレンズ装置の調整機構。
【請求項2】
前記操作リングは、電動又は手動により回動操作可能なフォーカス調整操作リングであることを特徴とする請求項1記載のレンズ装置の調整機構。
【請求項3】
前記伝達部は、前記アウタ固定筒の周面に形成し、かつ周方向に沿った第一ガイドスリットと、前記第一ガイドスリットに係合し、かつ前記操作リングと前記回動カム筒を連結するリンク軸とを備えることを特徴とする請求項1記載のレンズ装置の調整機構。
【請求項4】
前記回動カム筒は、前記リンク軸の内端を固定し、かつ径方向外方に配したアウタカム筒部,及びこのアウタカム筒部の径方向内方に配し、かつ前記アウタカム筒部の周方向への変位に追従するとともに、傾斜溝カムを形成したインナカム筒部の組合わせにより構成することを特徴とする請求項3記載のレンズ装置の調整機構。
【請求項5】
前記インナカム筒部は、前記インナ固定筒の周面に固定したフォロアが係合し、かつ周方向に沿って形成した第二ガイドスリットを有することを特徴とする請求項4記載のレンズ装置の調整機構。
【請求項6】
前記傾斜溝カムは、全部又は一部に、直線溝及び/又は曲線溝を含むことを特徴とする請求項1又は4記載のレンズ装置の調整機構。
【請求項7】
前記レンズ装置は、光学機器のズームレンズに適用することを特徴とする請求項1記載のレンズ装置の調整機構。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、操作リングの回動操作によりレンズを光軸方向へ変位させてレンズ位置の調整を行うレンズ装置の調整機構に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、レンズ装置の調整機構としては、既に本出願人が提案した特許文献1に記載される鏡筒装置に備える調整機構が知られている。
【0003】
同文献1で開示される鏡筒装置は、良好な回動操作性を確保しつつ固定筒部とカム筒部の径方向における十分なガタツキ防止を図ることにより相反する問題の解消を目的としたものであり、具体的には、固定筒部に対して回動自在に組付けたカム筒部を有するレンズ鏡筒部を備える鏡筒装置を構成するに際し、固定筒部又はカム筒部の一方の周部に、他方の周面に当接するローラ及びこのローラの中心を回動自在に支持する光軸方向に軸心を有する軸部を備えた少なくとも一つのローラ当接機構部を配設したカム筒保持機構を設けて構成したものであり、フォーカシングの調整機構として、固定筒部の前側に位置する外周面に、周方向に沿った所定範囲のガイドスリットを貫通形成し、カム筒部の外周面に螺着した係合コマ部を、当該ガイドスリットを通して、固定筒部の外周面に回動自在に装着した調整リング(フォーカシング調整リング)の孔部に係止させた構成を備えている。これにより、調整リングを自動又は手動により回動操作すれば、カム筒部を一体に回動変位させることができるとともに、カムスリットに係合するレンズ枠(レンズ)を光軸方向の変位に変換することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上述した特許文献1に記載される鏡筒装置に備えるレンズ装置の調整機構は、次のような解決すべき課題も存在した。
【0006】
即ち、同文献1記載の調整機構は、固定筒部の径方向内方に配したカム筒部を調整リングにより回動変位させ、固定筒部に形成した傾斜したカムスリット及びカム筒部に形成した縦溝に係合した、レンズを保持するレンズ枠の係合コマ部を、光軸方向に変位させる構成を備える。
【0007】
このため、調整リングを周方向へ回動操作した際には、レンズは周方向に回動変位しつつ光軸方向へ変位するとともに、固定筒部とカム筒部間にはある程度のクリアランスを確保する必要があることから、ガタツキが問題になる。同文献1では、複数のローラ当接機構部により固定筒部の周面を保持することにより、ガタツキを防止する手段を採用したものであるが、各ローラ当接機構部の位置調整が容易でないとともに、この位置調整が製作工程の初期に行う必要があるため、最終工程に近い段階で調整が必要になった場合には、再組立や再調整が必要になり、無視できない工数増加を招く。しかも人為的な調整作業が必要になるため、ガタツキを十分に除去する観点からは限界があるなど、更なる改善すべき課題も残されていた。
【0008】
本発明は、このような背景技術に存在する課題を解決したレンズ装置の調整機構の提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るレンズ装置の調整機構1は、上述した課題を解決するため、操作リング2の回動操作によりレンズLf1…を光軸方向Fcへ変位させてレンズ位置の調整を行う調整機構構成するに際して、操作リング2を周面により回動自在に支持するアウタ固定筒3と、このアウタ固定筒3の径方向Fd内方に配し、かつ周面に傾斜溝カム4s…を形成した回動カム筒4と、操作リング2の回動変位を回動カム筒4に伝達する伝達部5と、この回動カム筒4の径方向Fd内方に配して位置が固定され、かつ周面に光軸方向Fcの縦溝6s…を形成したインナ固定筒6と、このインナ固定筒6の径方向Fd内方に配し、かつ周面に縦溝6s…及び傾斜溝カム4s…の双方に係合するフォロア7r…を固定した少なくとも一つのレンズLf1…を支持するレンズ枠7とを備えてなることを特徴とする。
【0010】
この場合、発明の好適な態様により、操作リング2には、電動又は手動により回動操作可能なフォーカス調整操作リング2fを適用することが望ましい。また、伝達部5を構成するに際しては、アウタ固定筒3の周面に形成し、かつ周方向Ffに沿った第一ガイドスリット3sと、第一ガイドスリット3sに係合し、かつ操作リング2と回動カム筒4を連結するリンク軸11とを備えて構成できる。なお、回動カム筒4は、リンク軸11の内端を固定し、かつ径方向Fd外方に配したアウタカム筒部12,及びこのアウタカム筒部12の径方向Fd内方に配し、かつアウタカム筒部12の周方向Ffへの変位に追従するとともに、傾斜溝カム4s…を形成したインナカム筒部13の組合わせにより構成することが望ましい。さらに、インナカム筒部13には、インナ固定筒6の周面に固定したフォロア14が係合し、かつ周方向Ffに沿って形成した第二ガイドスリット15を設けることが望ましい。一方、傾斜溝カム4s…は、全部又は一部に、直線溝及び/又は曲線溝4se…を含ませることができる。他方、レンズ装置Mは、光学機器のズームレンズに適用することが望ましい。
【発明の効果】
【0011】
このような構成を有する本発明に係るレンズ装置の調整機構1によれば、次のような顕著な効果を奏する。
【0012】
(1) 操作リング2により回動操作される傾斜溝カム4s…を有する回動カム筒4を備えるとともに、この回動カム筒4の径方向Fd内方に配して位置が固定され、かつ周面に光軸方向Fcの縦溝6s…を形成したインナ固定筒6と、このインナ固定筒6の径方向Fd内方に配し、かつ周面に縦溝6s…及び傾斜溝カム4s…の双方に係合するフォロア7r…を固定した少なくとも一つのレンズLf1…を支持するレンズ枠7とを備えるため、光軸方向Fcにおけるレンズ位置を調整するに際し、レンズLf1…を周方向Ffへ回動変位させることなく光軸方向Fcへのみ変位させて調整することができる。これにより、調整機構1のガタツキ防止を実現しつつ製造工程における工数低減及び製造コスト低減を図ることができる。
【0013】
(2) 好適な態様により、操作リング2に、電動又は手動により回動操作可能なフォーカス調整操作リング2fを適用すれば、特に、フォーカス調整機構における本発明の効果、即ち、ガタツキ防止の実現,更には製造工程の工数低減及び製造コスト低減に寄与できる。加えて、電動の場合には円滑な動作を確保できるとともに、手動の場合には操作性を高めることが可能になるなど、電動又は手動のいずれの場合でも各操作方式に対応するメリットを享受することができる。
【0014】
(3) 好適な態様により、伝達部5を構成するに際し、アウタ固定筒3の周面に形成し、かつ周方向Ffに沿った第一ガイドスリット3sと、第一ガイドスリット3sに係合し、かつ操作リング2と回動カム筒4を連結するリンク軸11とを備えて構成すれば、操作リング2の変位を、シンプルな機構により回動カム筒4に伝達可能になるため、調整機能1の小型化及び低コスト化に寄与することができる。
【0015】
(4) 好適な態様により、回動カム筒4に、リンク軸11の内端を固定し、かつ径方向Fd外方に配したアウタカム筒部12,及びこのアウタカム筒部12の径方向Fd内方に配し、かつアウタカム筒部12の周方向Ffへの変位に追従するとともに、傾斜溝カム4s…を形成したインナカム筒部13の組合わせにより構成すれば、例えば、アウタカム筒部12に、縦溝を形成し、インナカム筒部13にこの縦溝に係合するフォロアを設けることが可能になるなど、回動カム筒4の本来の調整機能を損なうことなく他の調整機能(例えば、ズーミング調整機構等)を付加することが可能になるため、多機能性及び発展性を高めることができる。
【0016】
(5) 好適な態様により、インナカム筒部13に、インナ固定筒6の周面に固定したフォロア14が係合し、かつ周方向Ffに沿って形成した第二ガイドスリット15を設ければ、インナカム筒部13を周方向Ffへ変位させるに際して、光軸方向Fcにおける無用なガタツキを防止できるとともに、正確にガイドすることができる。
【0017】
(6) 好適な態様により、傾斜溝カム4s…の全部又は一部に、直線溝及び/又は曲線溝4se…を含ませれば、レンズLf1…に対する光軸方向Fcにおける変位調整量の変化をリニア特性に限定することなく、非リニア特性の変化にも容易に対応させることができる。即ち、傾斜溝カム4s…の形状(変化パターン)を任意の形状に形成できるため、正確な調整及び調整できる光学特性を、高い精度でトレース可能になるなど、より高度な調整を行うことができるとともに、調整機構1の多様性及び発展性をより高めることができる。
【0018】
(7) 好適な態様により、レンズ装置Mを、光学機器のズームレンズに適用すれば、例えば、プロジェクタ等の光学機器に使用するズームレンズにおける調整機構1のガタツキ防止を実現しつつ、製造工程における工数低減及び製造コスト低減を図れるため、プロジェクタ等の光学機器における最適な調整機構1として利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の好適実施形態に係る調整機構を備えるレンズ装置の前部における断面側面図、
【
図2】同レンズ装置における調整機構の
図1中一点鎖線円B部の抽出拡大図、
【
図4】同調整機構の要部を抽出して示す原理的断面構成図、
【
図6】同4に示す像面補正機構における調整リングの断面側面図、
【
図9】同調整機構の作用を説明するためのフローチャート、
【
図10】同調整機構の変更例を示すインナカム筒部の一部の外周面展開図、
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に、本発明に係る好適実施形態を挙げ、図面に基づき詳細に説明する。
【0021】
まず、本実施形態に係る調整機構1を備えるレンズ装置Mの構成について、
図1~
図8を参照して説明する。
【0022】
図1に、レンズ装置Mの特に前側(後側を含む他の部位は省略)における断面側面構成を示す。例示のレンズ装置Mは光学機器となるプロジェクタにおけるズームレンズ(投射光学系)を想定したものである。このように、レンズ装置Mを、プロジェクタ等の光学機器のズームレンズに適用すれば、この種のズームレンズにおける調整機構1のガタツキ防止を実現しつつ、製造工程における工数低減及び製造コスト低減を図れるため、プロジェクタ等の光学機器における最適な調整機構1として利用することができる。
【0023】
一方、レンズ装置Mにおいて、アウタ固定筒(レンズ鏡筒)3の外周面3fには、操作リング2、即ち、フォーカス調整機構1fを構成するフォーカス調整操作リング2fを回動自在に装着する。フォーカス調整操作リング2fは、
図4に示すように、外周における周方向の全周又は必要な所定角度にわたって形成した被動ギア2gを有し、この被動ギア2gに、外周面3fの他の位置に固定したフォーカス調整用駆動モータ21の出力軸に取付けた駆動ギア21gを噛合させる。なお、例示のフォーカス調整操作リング2fは駆動モータ21により回動操作される電動方式であるが、フォーカス調整操作リング2fを手で回動操作する手動方式により構成することも可能である。
【0024】
このように、操作リング2に、電動又は手動により回動操作可能なフォーカス調整操作リング2fを適用すれば、特に、フォーカス調整機構における本発明の効果、即ち、ガタツキ防止の実現,更には製造工程の工数低減及び製造コスト低減に寄与できる。加えて、電動の場合には円滑な動作を確保できるとともに、手動の場合には操作性を高めることが可能になるなど、電動又は手動のいずれの場合でも各操作方式に対応するメリットを享受することができる。
【0025】
レンズ装置Mは、
図1に示すように、拡大側(前端側)から、第一レンズ群G1の調整を行う像面補正機構1iと、第二レンズ群G2と、第三レンズ群G3の調整を行うフォーカス調整機構1fとを順次備え、第一レンズ群G1には、レンズLi1が、また、第二レンズ群G2には、拡大側からレンズLs1,Ls2が、さらに、第三レンズ群G3には、拡大側からレンズLf1,Lf2がそれぞれ含まれる。各レンズ群G1,G2,G3は、それぞれレンズ枠22,23,7により支持される。なお、各レンズLi1,Ls1…,Lf1…は、それぞれ単レンズ又は接合レンズにより構成される
【0026】
次に、本発明の要部を構成するフォーカス調整機構1f(調整機構1)について、各図を参照して説明する。
【0027】
フォーカス調整機構1fは、
図1及び
図2に示すように、フォーカス調整操作リング2fを外周面により回動自在に支持するアウタ固定筒3と、このアウタ固定筒3の径方向Fd内方に配し、かつ周面に傾斜溝カム4s…を形成した回動カム筒4と、操作リング2の回動変位を回動カム筒4に伝達する伝達部5を備える。
【0028】
伝達部5は、
図1に示すように、アウタ固定筒3の周面に形成し、かつ周方向Ffに沿った第一ガイドスリット3sと、第一ガイドスリット3sに係合し、かつ操作リング2と回動カム筒4を連結するリンク軸11とを備えて構成すれば、操作リング2の変位を、シンプルな機構により回動カム筒4に伝達可能になるため、調整機能1の小型化及び低コスト化に寄与することができる。
【0029】
また、回動カム筒4は、
図2に示すように、リンク軸11の内端を固定し、かつ径方向Fd外方に配したアウタカム筒部12,及びこのアウタカム筒部12の径方向Fd内方に配し、かつアウタカム筒部12の周方向Ffへの変位に追従するとともに、傾斜溝カム4s…を形成したインナカム筒部13の組合わせにより構成する。実施形態の場合、アウタカム筒部12に、縦溝12sを形成し、インナカム筒部13に、この縦溝12sに係合するフォロア13sを設けて構成した。これにより、ズーミング調整時には、このフォロア13sを縦溝12sに沿って変位させることができる。
【0030】
このように、回動カム筒4を構成するに際し、アウタカム筒部12とインナカム筒部13の組合わせにより構成すれば、インナカム筒部13に、この縦溝12sに係合するフォロア13sを設けることが可能になるなど、回動カム筒4の本来の調整機能を損なうことなく他の調整機能(ズーミング調整機構等)を付加することが可能になるため、多機能性及び発展性を高めることができる。
【0031】
さらに、
図2に示すように、インナカム筒部13には、後述するインナ固定筒6の周面に固定したフォロア14が係合し、かつ周方向Ffに沿って形成した第二ガイドスリット15を設ける。
図5に、インナカム筒部13の断面側面図を示すとともに、
図7に、インナカム筒部13の外周面展開図を示す。このように、インナカム筒部13に、フォロア14が係合し、かつ周方向Ffに沿った第二ガイドスリット15を設ければ、インナカム筒部13を周方向Ffへ変位させるに際して、光軸方向Fcにおける無用なガタツキを防止できるとともに、正確にガイドすることができる。
【0032】
一方、回動カム筒4の径方向Fd内方、即ち、インナカム筒部13の径方向Fd内方には、位置が固定され、かつ周面に光軸方向Fcの縦溝6sを形成したインナ固定筒6を設ける。そして、このインナ固定筒6の径方向Fd内方に、少なくとも一つのレンズLf1…(実施形態は、二つのレンズLf1,Lf2)を支持するとともに、周面に縦溝6s及び傾斜溝カム4sの双方に係合するフォロア7rを固定したレンズ枠7を配設する。
【0033】
この場合、フォロア7rは、
図2に示すように、円筒状のローラ7rmを支軸7rsにより回動自在に支持する構成を有し、支軸7rsの先端はレンズ枠7の外周面に螺着する。なお、7rcは、支軸7rsとローラ7rm間に介在させたカラーを示す。傾斜溝カム4sの形状は、
図5及び
図7に示すようになり、インナカム筒部13を、正面(
図5の左側)から見て時計方向に回動変位させた際には、フォロア7rを軸方向Fc前方へ変位させることができる。
【0034】
また、
図3(
図5及び
図7)に示すように、傾斜溝カム4s…,縦溝6s…及びフォロア7r…を含む構成、更には縦溝12s…及びフォロア13s…を含む構成、加えて、第二ガイドスリット15…及びフォロア14…を含む構成は、それぞれ周方向Ffにおける三個所の位置に等間隔によりそれぞれ三組配設される。なお、
図3におけるフォロア14…の周方向の位置は正確な位置を示すものではない。以上により、フォーカス調整機構1fが構成される。
【0035】
次に、フォーカス調整機構1f(調整機構1)以外の構成について、各図を参照して説明する。
【0036】
図1に示すように、上述したフォーカス調整機構1fの前方であって、レンズ装置Mの前端部には、像面補正機構1iを配設するとともに、この像面補正機構1iとフォーカス調整機構1f間には、第二レンズ群G2を配設する。この場合、第二レンズ群G2は、アウタ固定筒3に固定されたレンズ枠23を備え、このレンズ枠23によりレンズLs1,Ls2が支持される。
【0037】
一方、像面補正機構1iは、
図1及び
図4に示すように、アウタ固定筒3の前端に固定し、かつ周面に光軸方向Fcに沿った縦溝25sを形成したフロント固定筒25と、このフロント固定筒25の外周面に回動可能に支持され、かつ周面に像面補正用傾斜溝カム26sを形成するとともに、光軸方向Fcへの変位が規制された像面調整操作リング26と、この像面調整操作リング26を覆い、フロント固定筒25に固定したフロントカバー27と、フロント固定筒25の径方向Fd内方に配したレンズ枠22と、このレンズ枠22の外周面に固定し、かつ縦溝25s及び像面補正用傾斜溝カム26sの双方に係合させたフォロア28を備えて構成する。前述した第一レンズ群G1を構成するレンズLi1は、このレンズ枠22により支持される。
【0038】
図6及び
図8に、像面調整操作リング26の断面側面図及び外周面展開図をそれぞれ示す。なお、フォロア28は、上述したフォロア7rと同様に構成することができる。また、縦溝25s…,像面補正用傾斜溝カム26s…及びフォロア28…を含む構成は、周方向Ffにおける三個所の位置にそれぞれ等間隔に配設される。
【0039】
この場合、像面調整操作リング26は、フロントカバー27に形成した図に現われない操作用開口窓を通して回動操作可能となる。像面調整操作リング26は、電動方式又は手動方式のいずれによっても操作可能であり、電動方式の場合には、不図示の駆動モータにより回動操作されるとともに、手動方式の場合には、像面調整操作リング26を手で回動操作することができる。以上により、像面補正機構1iが構成される。
【0040】
これにより、像面補正機構1iは、
図4において、像面調整操作リング26を回動操作すれば、フォロア28…は光軸方向Fcへ変位する。即ち、フォロア28…は、フロント固定筒25に形成された縦溝25sにより周方向への変位が規制されているため、像面補正用傾斜溝カム26sの周方向Ffの変位量に対応して光軸方向Fcへ変位する。この結果、フォロア28…を固定したレンズ枠22が光軸方向Fcへ変位するとともに、レンズ枠22に支持された第一レンズ群(レンズLi1)もレンズ枠22と一体に変位することにより像面調整が行われる。なお、
図4中、Z2は、実線で示したフォロア28と仮想線で示したフォロア28の変位方向(光軸方向Fc)における変位範囲の一例を示す。
【0041】
次に、本実施形態に係るレンズ装置Mの調整機構1(フォーカス調整機構1f)の動作(機能)について、
図1~
図8、特に、
図4を参照しつつ
図9に示すフローチャートに従って説明する。
【0042】
今、フォーカス調整用駆動モータ21に制御信号(駆動信号)が付与されれば、駆動ギア21gが回転するとともに、被動ギア2gが回転してフォーカス調整操作リング2fが電動方式により回動操作される(ステップS1)。これにより、フォーカス調整操作リング2fに固定した伝達部5の伝達リンク11…がアウタ固定筒3に形成した第一ガイドスリット3sに沿って周方向Ffに旋回変位する(ステップS2)。また、伝達リンク11…の変位により、回動カム筒4のアウタカム筒部12が追従して回動変位する(ステップS3)とともに、インナカム筒部13が追従して回動変位する(ステップS4)。この場合、インナカム筒部13は、インナ固定筒6に固定したフォロア14に、第二ガイドスリット15が係合するため、インナカム筒部13は第二ガイドスリット15に沿って周方向へ変位する。
【0043】
一方、インナカム筒部13の周面には、傾斜溝カム4s…が形成されているため、インナカム筒部13の回動変位により傾斜溝カム4s…も一体に回動変位する(ステップS5)。これにより、傾斜溝カム4s…が周方向へ回動変位すれば、この傾斜溝カム4s…に係合するフォロア7r…は、インナ固定筒6に形成した縦溝6s…にも係合しているため、フォロア7r…はインナ固定筒6に形成した縦溝6s…に沿って光軸方向Fcへ変位する(ステップS6)。
【0044】
この結果、フォロア7r…に固定したレンズ枠7は、縦溝6s…に沿って光軸方向Fcへ変位するとともに、縦溝6s…により周方向への変位が規制される(ステップS7)。即ち、レンズ枠7に支持される第三レンズ群G3(レンズLf1,Lf2)は、周方向Ffへ回動することなく光軸方向Fcへ変位し、第三レンズ群G3のレンズ位置調整が行われる(ステップS8)。なお、
図4中、Z1は、実線で示したフォロア7rと仮想線で示したフォロア7rの変位方向(光軸方向Fc)における変位範囲の一例を示す。
【0045】
よって、このような本実施形態に係るレンズ装置Mの調整機構1によれば、基本的な構成として、操作リング2を周面により回動自在に支持するアウタ固定筒3と、このアウタ固定筒3の径方向Fd内方に配し、かつ周面に傾斜溝カム4s…を形成した回動カム筒4と、操作リング2の回動変位を回動カム筒4に伝達する伝達部5と、この回動カム筒4の径方向Fd内方に配して位置が固定され、かつ周面に光軸方向Fcの縦溝6s…を形成したインナ固定筒6と、このインナ固定筒6の径方向Fd内方に配し、かつ周面に縦溝6s…及び傾斜溝カム4s…の双方に係合するフォロア7r…を固定した少なくとも一つのレンズLf1…を支持するレンズ枠7とを備えるため、光軸方向Fcにおけるレンズ位置を調整するに際し、レンズLf1…を周方向Ffへ回動変位させることなく光軸方向Fcへのみ変位させて調整することができる。これにより、調整機構1のガタツキ防止を実現しつつ製造工程における工数低減及び製造コスト低減を図ることができる。
【0046】
なお、
図10は、本実施形態に係るレンズ装置Mにおける傾斜溝カム4s…及び第二ガイドスリット15…の変更例を示す。
【0047】
前述した
図7に示したインナカム筒部13は、傾斜溝カム4s…を形成するに際し、第三レンズ群G3の変位調整量の変化がリニア特性になるように形成した場合を示したが、
図10に示す変更例は、インナカム筒部13を形成するに際し、傾斜溝カム4s…の一部に、曲線溝4se…を含ませて形成することができる例を示す。即ち、傾斜溝カム4s…の中間部位及びこの一端側を実線で示す直線溝として形成し、この直線溝の他端側を仮想線で示す曲線溝4se…として形成可能になることを意味する。
【0048】
このように、傾斜溝カム4s…を形成するに際し、傾斜溝カム4s…の全部又は一部に、直線溝及び/又は曲線溝4se…を含ませれば、レンズLf1…に対する光軸方向Fcにおける変位調整量の変化をリニア特性に限定されることなく、非リニア特性の変化にも容易に対応させることができる。即ち、傾斜溝カム4s…の形状(変化パターン)を任意の形状に形成できるため、正確な調整及び調整できる光学特性を、高い精度でトレース可能になるなど、より高度な調整を行うことができるとともに、調整機構1(フォーカス調整機構1f)の多様性及び発展性をより高めることが可能である。
【0049】
また、変更例に係るインナカム筒部13は、第二ガイドスリット15…にも同様の曲線溝15e…含ませことができる例を示す。第二ガイドスリット15…の場合にも、必要により曲線溝15e…を含ませることが可能であり、例えば、スペースの関係等により、傾斜溝カム4s…の曲線溝4se…が制限されるような場合には、仮想線で示す曲線溝15e…により、制限される部分を付加するなどの利用が可能である。
【0050】
以上、変更例を含む好適実施形態について詳細に説明したが、本発明は、このような実施形態に限定されるものではなく、細部の構成,形状,素材,数量等において、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、任意に変更,追加,削除することができる。
【0051】
例えば、レンズ装置Mは、プロジュクタ等の光学機器に対して交換式であってもよいし非交換式であってもよい。また、調整機構1を適用するレンズ群として第三レンズ群G3を調整する場合を例示したが、他のレンズ群を含む二つ以上のレンズ群を調整する構成であってもよい。一方、回動カム筒4は、リンク軸11の内端を固定し、かつ径方向Fd外方に配したアウタカム筒部12,及びこのアウタカム筒部12の径方向Fd内方に配し、かつアウタカム筒部12の周方向Ffへの変位に追従するとともに、傾斜溝カム4s…を形成したインナカム筒部13の組合わせにより構成した場合を例示したが、インナカム筒部13のみで構成する場合を排除するものではない。この場合には、アウタカム筒部12を除去し、伝達部5のリンク軸11の変位をインナカム筒部13に直接伝達すればよい。また、インナカム筒部13に、インナ固定筒6の周面に固定したフォロア14が係合し、かつ周方向Ffに沿って形成した第二ガイドスリット15を設けた構成を例示したが、同一の機能を有する他の構成により置換可能である。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明に係るレンズ装置Mの調整機構1は、プロジェクタをはじめ、スチルカメラやビデオカメラ等を含む各種の光学機器に利用することができるとともに、フォーカス調整機構以外の他の調整機構であっても同様に利用することができる。
【符号の説明】
【0053】
1:調整機構,2:操作リング,2f:フォーカス調整操作リング,3:アウタ固定筒,3s:第一ガイドスリット,4:回動カム筒,4s…:傾斜溝カム,4se…:曲線溝,5:伝達部,6:インナ固定筒,6s…:縦溝,7:レンズ枠,7r…:フォロア,11:リンク軸,12:アウタカム筒部,13:インナカム筒部,15:第二ガイドスリット,14:フォロア,M:レンズ装置,Lf1:レンズ,Lf2:レンズ,Fc:光軸方向,Ff:周方向,Fd:径方向