(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023136084
(43)【公開日】2023-09-29
(54)【発明の名称】除電ブラシ
(51)【国際特許分類】
H05F 3/04 20060101AFI20230922BHJP
A46B 15/00 20060101ALI20230922BHJP
【FI】
H05F3/04 H
A46B15/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022041510
(22)【出願日】2022-03-16
(71)【出願人】
【識別番号】000000077
【氏名又は名称】アキレス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】沖野 真也
(72)【発明者】
【氏名】舛屋 諒介
(72)【発明者】
【氏名】中村 龍二
【テーマコード(参考)】
3B202
5G067
【Fターム(参考)】
3B202AA30
3B202AB03
5G067AA23
5G067AA27
5G067DA01
5G067DA15
(57)【要約】
【課題】除電性能を十分に発揮するとともに、異常放電が引き起こされにくい除電ブラシを提供することを目的とする。
【解決手段】繊維状電極が保持部材によって挟持固定されてなる除電ブラシにおいて、繊維状電極の表面抵抗値が1.0×10
1~1.0×10
4Ω/cmであり、保持部材の表面抵抗値が1.0×10
2~1.0×10
7Ω/cmである。保持部材の表面抵抗値は、繊維状電極の表面抵抗値よりも大きく、かつ両者の表面抵抗値の差が1.0×10
2~1.0×10
4Ω/cmであることが好ましい。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維状電極が保持部材によって挟持固定されてなる除電ブラシにおいて、
繊維状電極の表面抵抗値が1.0×101~1.0×104Ω/cmであり、保持部材の表面抵抗値が1.0×102~1.0×107Ω/cmであることを特徴とする除電ブラシ。
【請求項2】
保持部材の表面抵抗値は、繊維状電極の表面抵抗値よりも大きく、かつ両者の表面抵抗値の差が1.0×102~1.0×104Ω/cmであることを特徴とする請求項1に記載の除電ブラシ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電気除去のために使用される除電ブラシに関するものである。
【0002】
プリンタ、複写機、ファクシミリ等のOA機器等では、出力媒体として紙や合成樹脂フィルム等の帯電を除去するために、自己放電式の除電ブラシが設けられている。この除電ブラシの多くは、アルミニウム板等の金属からなる保持部材と、当該保持部材の間に繊維状の金属電極が植設された構造である(特許文献1、2)。
ところで、自己放電式の除電ブラシの性能を十分に発揮するには、繊維状の金属電極を筐体の金属等の導電性部位にアースする必要がある。しかしながら、長年使用していると、アース線が断線したり、アース線を固定するビスが外れたりすることがあり、そうした場合、金属の保持部材を使用した除電ブラシにおいては静電気を溜め込んで異常放電を起こし、OA機器に不具合が発生したり発火事故が発生したりする要因となっていた。
また、近年は、再資源化の流れに伴い、分別が容易であることが求められ、金属を使用しない除電ブラシが要望されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011-143168号公報
【特許文献2】特開2005-10474号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、除電性能を十分に発揮するとともに、異常放電が引き起こされにくい除電ブラシを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討し、本除電ブラシを発明した。
【0006】
本発明は以下を要旨とする。
(1)繊維状電極が保持部材によって挟持固定されてなる除電ブラシにおいて、繊維状電極の表面抵抗値が1.0×101~1.0×104Ω/cmであり、保持部材の表面抵抗値が1.0×102~1.0×107Ω/cmであることを特徴とする除電ブラシ。
(2)保持部材の表面抵抗値は、繊維状電極の表面抵抗値よりも大きく、かつ両者の表面抵抗値の差が1.0×102~1.0×104Ω/cmであることを特徴とする(1)に記載の除電ブラシ。
【発明の効果】
【0007】
本発明の除電ブラシは、除電性能が十分に発揮されるにも関わらず、異常放電を起こしにくいものである。
また、本発明によれば、すべての部材を合成樹脂で構成することが可能であるため、使用後の分別がしやすく、リサイクル性に優れるものである。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の除電ブラシの一実施形態にかかる概略斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の除電ブラシは、繊維状電極を保持部材で挟んで固定するものであって、繊維状電極の先端は保持部材から突出してなるものである。
【0010】
本明細書中において、抵抗値とは表面抵抗値であり、IEC 61340に準ずる測定器を用いて2端子プローブ(電極間距離=6mm)によって測定されるものである。
【0011】
<保持部材>
保持部材は繊維状電極を保持するための部材であり、その形状は問わないが、一対の板状物あるいは一枚の板状物を二つに折り曲げたものが好ましく用いられる。
また、保持部材をインジェクション成形する際に、繊維状電極をインサートし、保持部材と繊維状電極とを一体化させてもよい。
保持部材は導電性を有する合成樹脂からなるものであり、その表面抵抗値は1.0×102~1.0×107Ω/cmである。表面抵抗値がこの範囲であれば、十分に除電性能が発揮され、アースがない場合であっても異常放電を防ぐことができる。
合成樹脂に導電性を付与する方法としては、合成樹脂に導電剤を練りこむ方法と、成形後に導電剤を含む加工液によって成形品表面を被覆する方法とがある。
合成樹脂としては、ポリカーボネート樹脂、ポリプロピレン樹脂やポリエチレン樹脂などのポリオレフィン系樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエーテルエーテルケトン等が挙げられるが、これらの中でもポリプロピレン樹脂が、成形性、強度等に優れている点で好ましく採用される。
導電剤としては、カーボンブラック、グラファイトカーボン、グラファイト、炭素繊維、金属粉末、金属繊維、金属酸化物の粉末、金属コートした無機質微粉末、有機質微粉末などが使用できるが、コストや合成樹脂への相溶性、加工性の観点から、好ましくは、カーボンブラックである。
導電剤の含有量は、保持部材を形成する合成樹脂100質量部に対して、15~30質量部であることが好ましい。上記の範囲内であれば、保持部材の抵抗値を1.0×102~1.0×107Ω/cmにしやすい。
なお、保持部材は、上記表面抵抗値の範囲であれば、別用途で製造された製品の端材や、別用途で使用されたリユース品を用いてもよい。
【0012】
<繊維状電極>
繊維状電極は、表面抵抗値が1.0×101~1.0×104Ω/cmの導電性繊維を集束した集束体を複数本配置してなるものである。
導電性繊維としては炭素繊維や、レーヨン繊維、キュプラ繊維等の再生繊維に導電性を付与した繊維、ナイロン繊維、アクリル繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエステル繊維等の合成繊維に導電性を付与した繊維等が挙げられる。
再生繊維、合成繊維等といった導電性を有していない繊維に導電性を付与する方法としては、原糸段階において導電剤を練り込む方法と、紡糸後に導電剤を含む加工液によって繊維表面を被覆する方法とがある。このような導電剤としては、銀、銅、ニッケル等の金属、酸化亜鉛、酸化錫等の金属化合物、炭素等の微粒子、導電性高分子等が挙げられる。
そのなかでも、剛性、耐久性、導電性の点から、炭素繊維が好ましい。
【0013】
集束体は、フィラメント数1000~12000、緯度67~800texであることが好ましい。
集束体は、保持部材に一定間隔で配置されるものであり、集束体間の距離(ピッチ)は0.5~5.0mmであることが好ましい。
【0014】
繊維状電極は、保持部材から突出するものであるが、その突出長さは2~50mmであることが好ましい。
突出長さが上記範囲内であることによって、除電性能を十分に発揮することができる。
【0015】
本発明の除電ブラシは、保持部材の表面抵抗値が1.0×102~1.0×107Ω/cmであり、繊維状電極の表面抵抗値が1.0×101~1.0×104Ω/cmであるが、保持部材の表面抵抗値のほうが繊維状電極の表面抵抗値よりも高いほうが好ましく、さらには、両者の抵抗値の差は1.0×102~1.0×104Ω/cmであることが好ましい。このように、保持部材の表面抵抗値が繊維状電極の表面抵抗値よりも有意に高いと、漏電(アース)を緩やかにする効果がある。
【0016】
繊維状電極を保持部材に取り付ける方法としては、導電性の接着剤あるいは接着テープ(以下、まとめて「接着剤」という)を介して貼着させる方法が好ましい。このとき、接着剤が導電性を有していないと、繊維状電極と保持部材の導通が図れない可能性あり、除電性能が発現しにくくなる。
接着剤を構成する樹脂としては、アクリル系樹脂、シリコーン系樹脂、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂などが挙げられ、銀、銅、ニッケル等の金属、酸化亜鉛、酸化錫等の金属化合物、炭素等の微粒子、導電性高分子などの導電剤が添加されてなるものが挙げられる。リサイクル性の観点から、接着剤は導電性高分子が好ましい。
接着剤の表面抵抗値は1.0×104~1.0×108Ω/cmであることが好ましい。1.0×104Ω/cm未満であると、異常放電が生じる危険性がある。一方で、1.0×108Ω/cmを超えると、繊維状電極と保持部材の導通が図れない可能性がある。
【0017】
上記構成からなる本発明の除電ブラシは、除電ブラシ全体の表面抵抗値が1.0×104~1.0×108Ω/cmとなる。そのため、アースしなくても除電性能を発揮し、異常放電が引き起こされにくい。
なお、ここで、除電ブラシ全体の表面抵抗値は、2端子プローブの一方を保持部材に、他方を繊維状電極に接続することで測定される。
【0018】
本発明の除電ブラシは、アースをしなくても空中放電により除電が可能であるが、速やかに確実に除電するためにはアースをすることが好適である。
アース具の取付方法は限定されないが、保持部材の構成片である一対の板状物あるいは一枚の板状物を二つに折り曲げたものの間にアース具を挟み込んで固定する方法が好ましい。
【実施例0019】
以下に本発明を実施例に基づいて、詳細に説明する。本発明は、これら実施例に限定されるものではなく、本発明の技術思想を逸脱しない範囲内で種々の応用が可能である。
【0020】
<実施例1>
保持部材(ポリプロピレン樹脂100質量部、カーボンブラック25質量部からなる厚さ1mmのポリプロピレンシート)を2枚用意した。2枚の保持部材の間に、繊維状電極(フィラメント数3000、繊度200texの炭素繊維)を1.6mmピッチで配し、接着剤(ポリピロール粒子を含有する導電性粘着剤を用いた、表面抵抗値1.0×106Ω/cmの導電性両面接着テープ)で接着一体化し、除電ブラシを得た。
【0021】
<実施例2>
繊維状電極のフィラメント数、繊度を変更した以外は、実施例1と同様にして除電ブラシを得た。
【0022】
<実施例3>
繊維状電極のフィラメント数、繊度を変更した以外は、実施例1と同様にして除電ブラシを得た。
【0023】
<実施例4>
繊維状電極のピッチを0.8mmに変更した以外は、実施例1と同様にして除電ブラシを得た。
【0024】
<実施例5>
繊維状電極のピッチを3mmに変更した以外は、実施例1と同様にして除電ブラシを得た。
【0025】
<実施例6>
保持部材をポリプロピレン樹脂100質量部、カーボンブラック15質量部からなる厚さ1mmのポリプロピレンシートに変更した以外は、実施例1と同様にして除電ブラシを得た。
【0026】
<実施例7>
繊維状電極を金属被覆繊維(サンダーロンES、日本蚕毛染色株式会社製)に変更した以外は、実施例1と同様にして除電ブラシを得た。
【0027】
<比較例1>
保持部材を厚さ2mmのアルミ板に変更した以外は、実施例1と同様にして除電ブラシを得た。
【0028】
<比較例2>
繊維状電極をステンレス糸(ナスロン100F、日本精線株式会社製)に変更した以外は、実施例1と同様にして除電ブラシを得た。
【0029】
<比較例3>
保持部材を厚さ2mmのアルミ板に、繊維状電極をステンレス糸(ナスロン100F、日本精線株式会社製)にそれぞれ変更した以外は、実施例1と同様にして除電ブラシを得た。
【0030】
各実施例、比較例の保持部材、繊維状電極、除電ブラシの表面抵抗値は、IEC 61340に準ずる測定器(Prostat社製 PRS-801)を用いて、2端子プローブ(電極間距離=6mm)によって測定した。
なお、除電ブラシの表面抵抗値については、2端子プローブの一方を保持部材に、他方を繊維状電極に接続することで測定した。
測定値は、表1、2に示すとおりである。
【0031】
各実施例、比較例で得られた除電ブラシについて、以下の評価を行った。
【0032】
<除電性能(残留帯電圧)>
帯電プレートモニター(ヒューグルエレクトロニクス社製、品番:700A)に除電ブラシを載置して+5000Vにチャージし、60秒後の残留帯電圧を測定した。
結果は表1、2に示すとおりである。
なお、ブランク(除電ブラシの載置なし)の60秒後の残留帯電圧は4840Vであり、除電ブラシのない状況下ではほとんど放電されていないことが確認された。
【0033】
<異常放電>
帯電プレートモニター(ヒューグルエレクトロニクス社製、品番700A)を除電ブラシと導線で繋ぎ帯電プレートモニターを通じて除電ブラシを1000Vに帯電させた後、除電ブラシの端面にアースされた金属板を10mmの距離まで接近させたときの電圧の減少を観察した。帯電電圧に急激な減少(1秒後に10V以下)の場合、「異常放電あり」とみなした。
結果は表1、2に示すとおりである。
【0034】
【0035】