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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023136103
(43)【公開日】2023-09-29
(54)【発明の名称】塗料及び塗料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 175/04 20060101AFI20230922BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20230922BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20230922BHJP
   C09D 7/65 20180101ALI20230922BHJP
【FI】
C09D175/04
C09D7/63
C09D7/61
C09D7/65
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022041546
(22)【出願日】2022-03-16
(71)【出願人】
【識別番号】000002820
【氏名又は名称】大日精化工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098707
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 利英子
(74)【代理人】
【識別番号】100135987
【弁理士】
【氏名又は名称】菅野 重慶
(74)【代理人】
【識別番号】100168033
【弁理士】
【氏名又は名称】竹山 圭太
(74)【代理人】
【識別番号】100161377
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 薫
(72)【発明者】
【氏名】中山 徹
【テーマコード(参考)】
4J038
【Fターム(参考)】
4J038DG002
4J038DG121
4J038HA446
4J038JB18
4J038JB27
4J038JC33
4J038KA03
4J038KA12
4J038KA20
4J038MA08
4J038NA25
4J038PB04
4J038PB05
4J038PB06
4J038PB07
(57)【要約】
【課題】ポリウレタン系樹脂の水分散体を用いた塗料について、塗料適性が良好であり、かつ、良好な抗菌性を有する塗膜を形成することが可能な塗料を提供する。
【解決手段】ポリウレタン系樹脂の水分散体、及び抗菌剤を含有し、前記ポリウレタン系樹脂は、シラノール基を有するポリウレタン系樹脂(A)を含み、前記抗菌剤は、第4級アンモニウム塩構造及びシラノール基を有するシラン化合物(B)を含む、塗料を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリウレタン系樹脂の水分散体、及び抗菌剤を含有し、
前記ポリウレタン系樹脂は、シラノール基を有するポリウレタン系樹脂(A)を含み、
前記抗菌剤は、第4級アンモニウム塩構造及びシラノール基を有するシラン化合物(B)を含む、塗料。
【請求項2】
前記シラン化合物(B)は、前記ポリウレタン系樹脂(A)に化学的に非結合の状態で含有されている請求項1に記載の塗料。
【請求項3】
前記シラン化合物(B)は、前記シラン化合物(B)が有するシラノール基と、前記ポリウレタン系樹脂(A)が有するシラノール基との縮合反応物として、前記ポリウレタン系樹脂(A)に化学的に結合した状態で含有されている請求項1に記載の塗料。
【請求項4】
前記ポリウレタン系樹脂(A)は、イソシアネート基を有するウレタン系プレポリマーと、アミン化合物との反応物であり、
前記ウレタン系プレポリマーは、水酸基以外のアニオン性親水性基、及び前記アニオン性親水性基以外の活性水素含有基を有する化合物(a)と、ポリオール及びポリアミンからなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物(b)と、ポリイソシアネート(e)とを含む反応成分の反応物であり、
前記アミン化合物は、アミノ基及びアルコキシシリル基を有する化合物(f)を含む請求項1~3のいずれか1項に記載の塗料。
【請求項5】
前記ウレタン系プレポリマーは、前記化合物(a)と、ポリカーボネートポリオール(b1)と、鎖伸長剤(c)と、活性水素含有基を有するポリシロキサン(d)と、前記ポリイソシアネート(e)との反応物である請求項4に記載の塗料。
【請求項6】
前記化合物(f)は、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、及び3-アミノプロピルトリエトキシシランからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む請求項4又は5に記載の塗料。
【請求項7】
さらに架橋剤を含有し、
前記架橋剤は、イソシアネート系架橋剤、カルボジイミド系架橋剤、オキサゾリン系架橋剤、エポキシ系架橋剤、及び金属錯体系架橋剤からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む請求項1~6のいずれか1項に記載の塗料。
【請求項8】
さらに、ポリウレタンゲル粒子及びシリカ粒子からなる群より選ばれる少なくとも1種の艶消し剤を含有する請求項1~7のいずれか1項に記載の塗料。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載の塗料の製造方法であって、
前記ポリウレタン系樹脂(A)の前駆体に、アミノ基及びアルコキシシリル基を有する化合物(f)を含むアミン化合物を鎖伸長反応させて、前記シラノール基を有するポリウレタン系樹脂(A)を得ること;並びに
前記ポリウレタン系樹脂(A)の水分散体に、前記シラン化合物(B)を添加すること;を含む塗料の製造方法。
【請求項10】
前記ポリウレタン系樹脂(A)の水分散体に前記シラン化合物(B)を添加して、前記ポリウレタン系樹脂(A)と前記シラン化合物(B)とを、それらが有するシラノール基で縮合反応させ、化学的に結合させることを含む請求項9に記載の塗料の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗料及び塗料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、美観性向上や保護などを目的として、例えば、建材、車輌用内装材、家具材、及び包装材などに対して、塗料により塗装が施されている。そして近年は、環境問題や安全性の見地から、有機溶剤の使用を極力抑えた水性塗料が求められている。また、水性塗料のバインダーとして、塗膜の耐摩耗性及び耐屈曲性などの諸物性に優れる観点や、風合い及び高級感などの外観の観点から、ポリウレタン系樹脂が広く使用されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、合成擬革(人工皮革と合成皮革の総称)の表皮層用塗料として、シロキサン変性ウレタン系樹脂と、ポリウレタンゲル粒子と、架橋剤とを含有する塗料が開示されている。また、特許文献2には、高分子ポリオール、分子内に1個以上の活性水素を有しかつ親水性基を有する化合物、2価アルコール、ポリイソシアネート、及び、2個の1級アミノ基と1個以上の2級アミノ基を有するポリアミンの反応生成物であるポリウレタンウレア水分散体を含有する艶消し塗料が開示されている。さらに、特許文献3には、高分子ポリオール、分子内に1個以上の活性水素を有しかつ親水性基を有する化合物、2価アルコール、及び3価以上のアルコールを含むポリオール成分と、ポリイソシアネートと、2個の1級アミノ基と1個以上の2級アミノ基を有するポリアミンとの反応生成物であり、固形分換算の酸価が1~16mgKOH/gであるポリウレタンウレア水分散体を含有する艶消し塗料が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009-001713号公報
【特許文献2】特開2019-011408号公報
【特許文献3】特開2020-097707号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方、生活環境における衛生志向の向上に加え、新型コロナウイルスの世界的な流行も大きな要因となり、例えば、壁紙、ドアノブ、ハンドル、インストルメントパネル、テーブル、及びソファーなどの生活環境を取り巻く様々な物品について抗菌化する要望が急速に高まっている。
【0006】
塗膜に抗菌性を付与するためには、塗料に抗菌剤が配合されうる。しかし、本発明者の検討の結果、抗菌剤として広く用いられている銀系無機抗菌剤を、ポリウレタン系樹脂の水分散体を用いた塗料に配合すると、銀系無機抗菌剤が沈降しやすいなどの塗料適性が低下することがわかった。抗菌剤が沈降しやすく、分散性が低い塗料の場合、塗膜において抗菌性にムラが生じるおそれもある。
【0007】
そこで本発明は、ポリウレタン系樹脂の水分散体を用いた塗料について、塗料適性が良好であり、かつ、良好な抗菌性を有する塗膜を形成することが可能な塗料を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、ポリウレタン系樹脂の水分散体、及び抗菌剤を含有し、前記ポリウレタン系樹脂は、シラノール基を有するポリウレタン系樹脂(A)を含み、前記抗菌剤は、第4級アンモニウム塩構造及びシラノール基を有するシラン化合物(B)を含む、塗料が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ポリウレタン系樹脂の水分散体を用いた塗料について、塗料適性が良好であり、かつ、良好な抗菌性を有する塗膜を形成することが可能な塗料を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではない。
【0011】
<塗料>
本発明の一実施形態の塗料(以下、単に「塗料」又は「本実施形態の塗料」と記載することがある。)は、ポリウレタン系樹脂の水分散体、及び抗菌剤を含有する。上記ポリウレタン系樹脂は、シラノール基を有するポリウレタン系樹脂(A)(以下、単に「ポリウレタン系樹脂(A)」又は「シラノール基含有ポリウレタン系樹脂(A)」と記載することがある。)を含む。また、上記抗菌剤は、第4級アンモニウム塩構造及びシラノール基を有するシラン化合物(B)(以下、単に「シラン化合物(B)」又は「第4級アンモニウム塩含有シラン化合物(B)」と記載することがある。)を含む。本明細書において、「シラノール基」には、加水分解によりシラノール基を生じる基も含まれることとする。
【0012】
本実施形態の塗料は、シラノール基含有ポリウレタン系樹脂(A)の水分散体、及び抗菌剤である第4級アンモニウム塩含有シラン化合物(B)を含有するため、塗料適性が良好であり、かつ、良好な抗菌性を有する塗膜を形成することが可能である。具体的には、分散性が良好でポリウレタン系樹脂(A)や抗菌剤(シラン化合物(B))が沈降し難いなどの良好な塗料適性を示しつつ、良好な抗菌性を有する塗膜を形成することが可能である。
【0013】
本実施形態の塗料では、その一態様において、上記シラン化合物(B)を、上記ポリウレタン系樹脂(A)とは別体で、すなわち、化学的に非結合の状態で含有させることが可能である。この場合、上記ポリウレタン系樹脂(A)及び上記シラン化合物(B)は、いずれもシラノール基を有するため、それらを別体として含有させた塗料の塗膜形成時において、ポリウレタン系樹脂(A)とシラン化合物(B)とを縮合反応させることが可能である。また、本実施形態の塗料では、その一態様において、上記ポリウレタン系樹脂(A)及び上記シラン化合物(B)がそれぞれ有するシラノール基による縮合反応物として、上記シラン化合物(B)を、上記ポリウレタン系樹脂(A)に一体、すなわち、化学的に結合した状態で含有させることも可能である。上記のいずれの態様でも、塗料から形成される塗膜において、抗菌剤である第4級アンモニウム塩含有シラン化合物(B)がポリウレタン系樹脂(A)に固定化されうるため、抗菌剤を含有しない場合と遜色ないレベルの耐摩耗性を期待でき、それにより、持続性のある抗菌性も期待できる。
【0014】
以下、本実施形態の塗料の各成分について、目的とする塗料が得られやすい観点からの好ましい構成などを含めて詳細に説明する。
【0015】
[ポリウレタン系樹脂(A)の水分散体]
本実施形態の塗料は、ポリウレタン系樹脂の水分散体として、シラノール基を有するポリウレタン系樹脂(A)(シラノール基含有ポリウレタン系樹脂(A))の水分散体を含有する。本実施形態の塗料は、その目的を損なわない範囲において、ポリウレタン系樹脂(A)の水分散体以外の他のポリウレタン系樹脂の水分散体を含有してもよい。本明細書において、「ポリウレタン系樹脂」とは、ポリウレタン樹脂、ポリウレア樹脂、及びポリウレタン-ウレア樹脂の総称である。
【0016】
シラノール基含有ポリウレタン系樹脂(A)は、好ましくは、イソシアネート基(以下、「NCO基」と記載することがある。)を有するウレタン系プレポリマーと、アミノ基及びアルコキシシリル基を有する化合物(f)を含むアミン化合物とを反応せることで得ることができる。すなわち、当該反応による反応物(生成物)を、シラノール基含有ポリウレタン系樹脂(A)として用いることができる。また、上記のNCO基を有するウレタン系プレポリマーは、好ましくは、水酸基以外のアニオン性親水性基、及びそのアニオン性親水性基以外の活性水素含有基を有する化合物(a)と、ポリオール及びポリアミンからなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物(b)と、ポリイソシアネート(e)とを含む反応成分を反応させることで得ることができる。すなわち、当該反応成分の反応物(生成物)を、上記のNCO基を有するウレタン系プレポリマーとして用いることができる。
【0017】
上記のNCO基を有するウレタン系プレポリマーは、上記の化合物(a)、化合物(b)、及びポリイソシアネート(e)に加えて、さらに鎖伸長剤(c)や、活性水素含有基を有するポリシロキサン(d)を用いて得られたものであることが好ましい。すなわち、上記のNCO基を有するウレタン系プレポリマーは、化合物(a)と、化合物(b)と、鎖伸長剤(c)と、活性水素含有基を有するポリシロキサン(d)と、ポリイソシアネート(e)との反応物であることが好ましい。この場合、化合物(b)として、少なくともポリカーボネートポリオール(b1)が用いられることがより好ましく、鎖伸長剤(c)として、少なくとも2価アルコールが用いられることがより好ましい。
【0018】
本明細書において、「アニオン性親水性基以外の活性水素含有基」とは、イソシアネート基との反応性を有する、活性水素を持った官能基であって、アニオン性親水性基を除いたものを意味する。このような「活性水素含有基」の具体例としては、水酸基、メルカプト基、及びアミノ基などを挙げることができる。
【0019】
(化合物(a))
水酸基以外のアニオン性親水性基、及びそのアニオン性親水性基以外の活性水素含有基を有する化合物(a)(以下、単に「化合物(a)」と記載することがある。)は、ポリウレタン系樹脂(A)に水分散性を付与する成分として好適に使用される。ポリウレタン系樹脂(A)の原料として化合物(a)を用いることによって、アニオン性親水性基が導入されたポリウレタン系樹脂(A)を得ることができる。これにより、ポリウレタン系樹脂(A)は、乳化剤(界面活性剤)を用いなくても、水中に安定して分散することが可能であり、本実施形態の塗料を水性塗料として調製することが可能である。
【0020】
化合物(a)において、活性水素とは、ポリイソシアネートのイソシアネート基と反応する水素原子であり、水酸基、メルカプト基、及びアミノ基などの水素原子が挙げられる。これらのなかでも、水酸基の水素原子が好ましい。また、化合物(a)において、アニオン性親水性基とは、水との間に親和性を示すアニオン性基をいい、水中で電離してアニオンを生じうる基をいう。水酸基以外のアニオン性親水性基としては、例えば、カルボキシ基、スルホ基、及びリン酸基などが挙げられる。これらのなかでも、カルボキシ基が好ましい。アニオン性親水性基は、その全部又は一部が中和されていてもよい。
【0021】
化合物(a)としては、例えば、2,2-ビス(ヒドロキシメチル)プロピオン酸(別名:ジメチロールプロピオン酸)、2,2-ビス(ヒドロキシメチル)酪酸(別名:ジメチロールブタン酸)、乳酸、及びグリシンなどのカルボン酸系化合物;並びに2-アミノエタンスルホン酸(別名:タウリン)、及びスルホイソフタル酸系ポリエステルジオール等のスルホン酸系化合物;などを挙げることができる。これらの1種又は2種以上を用いることができる。これらのなかでも、入手の容易さ、酸価の調整のし易さなどの観点から、2価アルコールのカルボン酸系化合物が好ましく、ジメチロールプロピオン酸、及びジメチロールブタン酸などのジメチロールアルカン酸がより好ましい。
【0022】
アニオン性親水性基は、その全部又は一部が中和剤により中和されていてもよい。化合物(a)においてアニオン性親水性基が中和され、その中和されたアニオン性親水性基を有する塩型の化合物(a)が用いられてもよいし、ポリウレタン系樹脂(A)に導入されたアニオン性親水性基が中和されて、塩型のポリウレタン系樹脂(A)を用いてもよい。中和剤としては、例えば、エチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリイソプロピルアミン、及びトリブチルアミンなどのアルキルアミン;トリエタノールアミン、N-メチルジエタノールアミン、N-フェニルジエタノールアミン、モノエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン、及び2-アミノ-2-エチル-1-プロパノールなどのアルカノールアミン;水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属の水酸化物;などを挙げることができる。これらのなかでも、トリエチルアミンなどの3級アルキルアミン、ジメチルアミノエタノールなどの3級アルカノールアミン、水酸化ナトリウムが好ましい。
【0023】
反応成分中の化合物(a)の含有量(使用量)は、得られるポリウレタン系樹脂(A)の水分散性と耐水性の両立の観点から設定されうる。具体的には、反応成分中の化合物(a)の含有量(使用量)は、得られるポリウレタン系樹脂(A)の酸価が2~200mgKOH/gとなる量とすることが好ましく、5~100mgKOH/gとなる量とすることがさらに好ましい。
【0024】
(化合物(b))
ポリオール及びポリアミンからなる群より選択される少なくとも1種の化合物(b)(以下、単に「化合物(b)」と記載することがある。)は、ポリウレタン系樹脂(A)の主骨格を構成しうる成分である。化合物(b)には、ポリオール及び/又はポリアミンが使用されることから、以下、「ポリオール(b)」、「ポリアミン(b)」、並びに「ポリオール及び/又はポリアミン(b)」と記載することがある。化合物(b)のなかでも、少なくともポリオール(b)が用いられることが好ましい。
【0025】
ポリオール(b)は、1分子中に水酸基を2つ以上有する化合物である。ポリオール(b)としては、ウレタン合成に用いられている従来公知のポリオールの1種又は2種以上を用いることができる。ポリオール(b)としては、数平均分子量(Mn;末端官能基定量による)が500以上のポリオール、並びに後述する鎖伸長剤(c)として好適な短鎖ジオール及び3価以上の多価アルコールなどを挙げることができる。
【0026】
ポリオール(b)のなかでも、末端官能基定量によるMnが500以上のポリオールが好ましく、その具体例としては、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオール、及びその他のポリオールなどを挙げることができる。これらのなかでも、ポリカーボネートポリオール(本明細書において、「ポリカーボネートポリオール(b1)」と記載することがある。)がより好ましい。
【0027】
ポリエステルポリオールとしては、脂肪族系ジカルボン酸(例えば、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、グルタル酸、アゼライン酸など)及び/又は芳香族系ジカルボン酸(例えば、イソフタル酸、テレフタル酸など)と、低分子量グリコール(例えば、エチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,3-プロピレングリコール、1,4-ブチレングリコール、1,6-ヘキサメチレングリコール、ネオペンチルグリコール,1,4-ビスヒドロキシメチルシクロヘキサンなど)と、を縮重合したものが挙げられる。
【0028】
このようなポリエステルポリオールの具体例としては、ポリエチレンアジペートジオール、ポリブチレンアジペートジオール、ポリヘキサメチレンアジペートジオール、ポリネオペンチルアジペートジオール、ポリエチレン/ブチレンアジペートジオール、ポリネオペンチル/ヘキシルアジペートジオール、ポリ-3-メチルペンタンアジペートジオール、ポリブチレンイソフタレートジオール、ポリカプロラクトンジオール、及びポリ-3-メチルバレロラクトンジオールなどを挙げることができる。
【0029】
ポリエーテルポリオールの具体例としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、及びこれらのランダム/ブロック共重合体などを挙げることができる。
【0030】
ポリカーボネートポリオールの具体例としては、ポリテトラメチレンカーボネートジオール、ポリペンタメチレンカーボネートジオール、ポリネオペンチルカーボネートジオール、ポリヘキサメチレンカーボネートジオール、ポリ(1,4-シクロヘキサンジメチレンカーボネート)ジオール、及びこれらのランダム/ブロック共重合体などのポリカーボネートジオールを挙げることができる。
【0031】
その他のポリオールの具体例としては、ダイマージオール、ポリブタジエンポリオール及びその水素添加物、ポリイソプレンポリオール及びその水素添加物、ポリラクトンポリオール、アクリルポリオール、エポキシポリオール、ポリエーテルエステルポリオール、シロキサン変性ポリオール、α,ω-ポリメチルメタクリレートジオール、α,ω-ポリブチルメタクリレートジオールなどを挙げることができる。
【0032】
ポリオール(b)の数平均分子量(Mn;末端官能基定量による)は、特に限定されないが、500~3,000であることが好ましい。ポリオール(b)のMnが3,000以下であることにより、ウレタン結合の凝集力が発現しやすくなって機械特性が高まる傾向にある。また、Mnが3,000以下の結晶性ポリオールは、皮膜化した際に白化現象を生じ難い。
【0033】
ポリアミン(b)は、1分子中にアミノ基を2つ以上有する化合物である。ポリアミン(b)は、単独で、又は上記のポリオール(b)と併用することで、ポリウレタン系樹脂(A)の主骨格を構成しうる成分である。ポリアミン(b)としては、数平均分子量(Mn;末端官能基定量による)が500以上のポリアミン、及び後述する鎖伸長剤(c)として好適な短鎖ジアミンなどを挙げることができる。ポリアミン(b)の1種又は2種以上を用いることができる。なかでも、Mnが500以上のポリアミン(b)が好ましく、その具体例としては、長鎖アルキレンジアミン、ポリオキシアルキレンジアミン、末端アミンポリアミド、及びシロキサン変性ポリアミン類などを挙げることができる。
【0034】
(鎖伸長剤(c))
NCO基を有するウレタン系プレポリマーの合成に用いうる鎖伸長剤(c)としては、短鎖ジオール(2価アルコール)、3価以上の多価アルコール、及び短鎖ジアミンなどを挙げることができる。鎖伸長剤(c)の1種又は2種以上を用いることができる。鎖伸長剤(c)のなかでも、少なくとも短鎖ジオールを用いることが好ましい。
【0035】
鎖伸長剤(c)として用いうる短鎖ジオールは、数平均分子量(Mn)が500未満のジオール化合物である。短鎖ジオールの数平均分子量とは、式量から算出される分子量の相加平均値である。短鎖ジオールとしては、例えば、エチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,3-プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、1,4-ブチレングリコール、1,6-ヘキサメチレングリコール、及びネオペンチルグリコールなどの脂肪族グリコール類、並びにそのアルキレンオキサイド低モル付加物(Mn500未満);1,4-ビスヒドロキシメチルシクロヘキサン、及び2-メチル-1,1-シクロヘキサンジメタノールなどの脂環式系グリコール類、並びにそのアルキレンオキサイド低モル付加物(Mn500未満);キシリレングリコールなどの芳香族グリコール類及びそのアルキレンオキサイド低モル付加物(Mn500未満);ビスフェノールA、チオビスフェノール、及びスルホンビスフェノールなどのビスフェノール類、並びにそのアルキレンオキサイド低モル付加物(Mn500未満);並びに炭素原子数1~18のアルキル基を有するアルキルジエタノールアミンなどのアルキルジアルカノールアミン類などの化合物を挙げることができる。短鎖ジオールの1種又は2種以上を用いることができる。
【0036】
また、3価以上の多価アルコールとしては、例えば、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリトリトール、及びトリス-(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレートなどを挙げることができる。3価以上の多価アルコールの1種又は2種以上を用いることができる。
【0037】
鎖伸長剤(c)として用いうる短鎖ジアミンは、数平均分子量(Mn)が500未満のジアミン化合物である。短鎖ジアミンの数平均分子量とは、式量から算出される分子量の相加平均値である。短鎖ジアミンとしては、例えば、エチレンジアミン、トリメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、及びオクタメチレンジアミンなどの脂肪族ジアミン化合物;フェニレンジアミン、3,3’-ジクロロ-4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-メチレンビス(フェニルアミン)、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、及び4,4’-ジアミノジフェニルスルホンなどの芳香族ジアミン化合物;シクロペンタンジアミン、シクロヘキシルジアミン、4,4-ジアミノジシクロヘキシルメタン、1,4-ジアミノシクロヘキサン、及びイソホロンジアミンなどの脂環式ジアミン化合物;ヒドラジン、カルボジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、及びフタル酸ジヒドラジドなどのヒドラジン類;などを挙げることができる。短鎖ジアミンの1種又は2種以上を用いることができる。
【0038】
(活性水素含有基を有するポリシロキサン(d))
NCO基を有するウレタン系プレポリマーの合成には、1分子中に少なくとも1個の活性水素含有基を有するポリシロキサン(d)を用いてもよい。活性水素含有基を有するポリシロキサン(d)は、ポリウレタン系樹脂(A)をポリシロキサン変性する場合に用いうるものである。ポリウレタン系樹脂(A)の合成にポリシロキサン(d)を用いることで、ポリウレタン系樹脂(A)中にポリシロキサンセグメントを含有させうる。このポリシロキサンセグメントは、ポリウレタン系樹脂(A)の主鎖中に、又は分岐した状態で含有される。ポリウレタン系樹脂(A)をポリシロキサン変性することで塗膜の耐スクラッチ性及び耐汚染性などの向上が期待できる。
【0039】
活性水素含有基を有するポリシロキサン(d)としては、例えば、アミノ変性ポリシロキサン、エポキシ変性ポリシロキサン、アルコール変性ポリシロキサン、及びメルカプト変性ポリシロキサンなどを挙げることができる。これらの1種又は2種以上を用いることができる。なお、エポキシ変性ポリシロキサンは、活性水素含有基を利用してエポキシ変性されたポリシロキサンであるが、ポリイソシアネートのイソシアネート基と反応してポリウレタン系樹脂(A)の骨格を構成しうることから、少なくとも1個の活性水素含有基を有するポリシロキサンに含めることとする。
【0040】
アミノ変性ポリシロキサンとしては、例えば、下記一般式(1)~(6)のそれぞれで表される化合物を挙げることができる。
【0041】
【0042】
【0043】
【0044】
【0045】
【0046】
【0047】
エポキシ変性ポリシロキサンとしては、例えば、下記一般式(7)~(12)のそれぞれで表される化合物を挙げることができる。なお、下記一般式(7)~(12)のそれぞれで表されるエポキシ化合物は、ポリオール、ポリアミド、又はポリカルボン酸などと反応させ、末端に活性水素含有基を有するようにして使用することもできる。
【0048】
【0049】
【0050】
【0051】
【0052】
【0053】
【0054】
アルコール変性ポリシロキサンとしては、例えば、下記一般式(13)~(19)のそれぞれで表される化合物を挙げることができる。
【0055】
【0056】
【0057】
【0058】
【0059】
【0060】
【0061】
【0062】
メルカプト変性ポリシロキサンとしては、例えば、下記一般式(20)~(23)のそれぞれで表される化合物を挙げることができる。
【0063】
【0064】
【0065】
【0066】
【0067】
上記に挙げた少なくとも1個の活性水素含有基を有するポリシロキサン(d)は、ポリウレタン系樹脂(A)の原料として使用されることが好ましい化合物であるが、上記に挙げた具体例に限定されない。したがって、少なくとも1個の活性水素含有基を有するポリシロキサン(d)としては、上記に挙げた具体例のみならず、その他の現在市販されている化合物や、市場から容易に入手しうる化合物を用いることも可能である。少なくとも1個の活性水素含有基を有するポリシロキサン(d)のなかでも、アルコール変性ポリシロキサンが好ましく、2個の水酸基を有するアルコール変性ポリシロキサンがより好ましい。
【0068】
(ポリイソシアネート(e))
ポリイソシアネート(e)は、1分子中にイソシアネート基を2つ以上有する化合物である。ポリイソシアネート(e)としては、従来公知のポリウレタンの製造に使用されているものをいずれも使用することができ、特に限定されず、1種又は2種以上を用いることができる。
【0069】
ポリイソシアネート(e)の具体例としては、トリレンジイソシアネート(TDI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、4-メトキシ-1,3-フェニレンジイソシアネート、4-イソプロピル-1,3-フェニレンジイソシアネート、4-クロル-1,3-フェニレンジイソシアネート、4-ブトキシ-1,3-フェニレンジイソシアネート、2,4-ジイソシアネートジフェニルエーテル、1,5-ナフタレンジイソシアネート、ベンジジンジイソシアネート、o-ニトロベンジジンジイソシアネート、及び4,4’-ジイソシアネートジベンジルなどの芳香族ジイソシアネート;メチレンジイソシアネート、1,4-テトラメチレンジイソシアネート、1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、及び1,10-デカメチレンジイソシアネートなどの脂肪族ジイソシアネート;1,4-シクロヘキシレンジイソシアネート、4,4’-メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、1,5-テトラヒドロナフタレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、水素添加MDI、及び水素添加XDIなどの脂環式ジイソシアネート;各種ジイソシアネートのアダクト体、各種ジイソシアネートのイソシアヌレート体、HDIのビウレット体、及びHDIのアロファネート体等のイソシアネートプレポリマー;並びに各種ジイソシアネートと、低分子量のポリオール及び/又はポリアミンとを、末端がイソシアネートとなるように反応させて得られる、末端にイソシアネート基を有するプレポリマーなどを挙げることができる。
【0070】
(化合物(f))
上述した化合物(a)、化合物(b)、及びポリイソシアネート(e)、並びに必要に応じて、鎖伸長剤(c)及びポリシロキサン(d)を含む反応成分を反応させることでNCO基を有するウレタン系プレポリマーを得ることができる。このNCO基を有するウレタン系プレポリマーと、アミノ基及びアルコキシシリル基を有する化合物(f)(本明細書において、単に「化合物(f)」又は「アミノ基含有シラン化合物(f)」と記載することがある。)を含むアミン化合物とを反応せることでポリウレタン系樹脂(A)を得ることができる。この際に用いるアミン化合物は、NCO基を有するウレタン系プレポリマーに対して鎖伸長剤(第2の鎖伸長剤)として反応する。そのアミン化合物として、少なくとも化合物(f)を用いることによって、加水分解によりシラノール基を生じる基であるアルコキシシリル基がポリウレタン系樹脂(A)に導入される。なお、アミン化合物として、アミノ基含有シラン化合物(f)とともに、それ以外のアミン化合物(例えば上述の短鎖ジアミンなど)が併用されてもよい。
【0071】
化合物(f)としては、例えば、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、及び3-アミノプロピルトリエトキシシランなどを挙げることができる。これらのうちの少なくとも1種を用いることが好ましい。これらのなかでも、1分子中に1個の1級アミノ基と1個の2級アミノ基を有する化合物(f)がより好ましい。なかでも、抗菌剤として使用する第4級アンモニウム塩含有シラン化合物(B)がもつ反応基との相性を考慮すると、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、及びN-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシランがさらに好ましい。
【0072】
NCO基を有するウレタン系プレポリマーを合成するに当たり、化合物(b)に対する化合物(a)のモル比(a/b)は、0.05~2.0であることが好ましい。
【0073】
また、NCO基を有するウレタン系プレポリマーを合成するに当たり、化合物(a)及び化合物(b)、並びに必要に応じて用いられる鎖伸長剤(c)及びポリシロキサン(d)の合計の活性水素含有基に対する、ポリイソシアネート(e)のイソシアネート基の当量比(NCO/活性水素)は、1.1~5.0が好ましく、1.1~3.0がより好ましく、1.2~1.8がさらに好ましい。上記当量比(NCO/活性水素)を1.1以上とすることにより、得られるウレタン系プレポリマーの分子末端をNCO基とすることが可能になる。また、上記当量比(NCO/活性水素)を5.0以下とすることにより、未反応のポリイソシアネート(e)を反応系中に必要以上に残存させることを防止できる。なお、好ましい態様において、上記当量比(NCO/活性水素)は、化合物(a)~(d)の合計の水酸基に対する、ポリイソシアネート(e)のイソシアネート基の当量比(NCO/OH)を表す。
【0074】
ポリウレタン系樹脂(A)を合成するに当たり、NCO基を有するウレタン系プレポリマーのNCO基に対する、アミノ基含有シラン化合物(f)を含むアミン化合物が有するアミノ基(1級アミノ基及び2級アミノ基の合計)の当量比(アミノ基/NCO)は、0.001~1.0が好ましく、0.01~0.6がより好ましい。また、アミノ基含有シラン化合物(f)は、NCO基を有するウレタン系プレポリマーの実測NCO%の5~15%となるように用いられることがさらに好ましい。
【0075】
[ポリウレタン系樹脂(A)の水分散体の製造方法]
ポリウレタン系樹脂(A)の水分散体は、公知のポリウレタン系樹脂の製造方法に倣って製造することができる。例えば、まず、分子内に活性水素を含まない有機溶剤の存在下、又は有機溶剤の不存在下で、化合物(a)、化合物(b)、及びポリイソシアネート(e)、並びに必要に応じて鎖伸長剤(c)及びポリシロキサン(d)を含む反応成分を、ワンショット法又は多段法により、20~150℃、好ましくは60~110℃で、反応生成物が例えば理論NCO%となるまで反応させて、NCO基を有するウレタン系プレポリマーを得る。上記反応成分の配合比率は、末端にNCO基を有するウレタン系プレポリマーが形成される組成とすればよい。一態様において、反応成分の合計固形分の質量に対して、固形分として、化合物(a)を好ましくは0.1~30質量%、より好ましくは5~20質量%、化合物(b)を好ましくは20~90質量%、より好ましくは50~85質量%、ポリシロキサン(d)を好ましくは0.01~50質量%、より好ましくは1~20質量%とすることができる。
【0076】
次いで、得られたNCO基を有するウレタン系プレポリマーを水と中和剤で乳化した後、アミノ基含有シラン化合物(f)及び必要に応じてその他のアミン化合物を加えて、NCO基を有するウレタン系プレポリマーを鎖伸長反応させ、ウレア結合を生成させる。その後、必要に応じて脱溶剤をした後、ポリウレタン系樹脂(A)の水分散体を得ることができる。また、後述するが、上記のウレア結合を生成させる鎖伸長反応後に、さらに抗菌剤である第4級アンモニウム塩含有シラン化合物(B)を添加し、加水分解及び縮合反応を行ってもよい。
【0077】
上述のようにして得られるポリウレタン系樹脂(A)の重量平均分子量(Mw)は、1,000~500,000であることが、柔軟性、接着性、及び耐摩耗性などの特性がより有効に発揮されやすくなるために好ましい。
【0078】
また、上記のようなポリウレタン系樹脂(A)の合成においては、必要に応じて触媒を使用できる。触媒としては、例えば、ジブチルチンラウレート、ジオクチルチンラウレート、スタナスオクトエート、オクチル酸亜鉛、テトラn-ブチルチタネートなどの金属と有機及び無機酸の塩、及び有機金属誘導体、トリエチルアミンなどの有機アミン、ジアザビシクロウンデセン系触媒などが挙げられる。
【0079】
さらに、前述したように、ポリウレタン系樹脂(A)は無溶剤で合成しても、必要であれば有機溶剤を用いて合成してもよい。好適な有機溶剤としては、イソシアネート基に不活性であるか、又は反応成分よりも低活性なものが挙げられる。例えば、ケトン系溶媒(アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなど)、芳香族系炭化水素溶剤(トルエン、キシレン、スワゾール(コスモ石油株式会社製の芳香族系炭化水素溶剤)、ソルベッソ(エクソン化学株式会社製の芳香族系炭化水素溶剤)など)、脂肪族系炭化水素溶剤(n-ヘキサンなど)、アルコール系溶剤(メタノール、エタノール、イソプロパノールなど)、エーテル系溶剤(ジオキサン、テトラヒドロフランなど)、エステル系溶剤(酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソブチルなど)、グリコールエーテルエステル系溶剤(エチレングリコールエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート、3-メチル-3-メトキシブチルアセテート、エチル-3-エトキシプロピオネートなど)、アミド系溶剤(ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなど)、ラクタム系溶剤(n-メチル-2-ピロリドンなど)が挙げられる。これらのなかでも、溶媒回収、ウレタン合成時の溶解性、反応性、沸点、水への乳化分散性を考慮すると、メチルエチルケトン、酢酸エチル、アセトン、及びテトラヒドロフランなどが好ましい。
【0080】
[抗菌剤]
本実施形態の塗料は、抗菌剤として、第4級アンモニウム塩構造及びシラノール基を有するシラン化合物(B)を含有する。本発明の目的を損なわない範囲において、塗料は、第4級アンモニウム塩含有シラン化合物(B)以外の抗菌剤を含有してもよい。
【0081】
一態様の塗料において、第4級アンモニウム塩含有シラン化合物(B)を、前述のポリウレタン系樹脂(A)とは化学的に非結合の状態(未反応状態)で含有させることができる。この場合、ポリウレタン系樹脂(A)及び第4級アンモニウム塩含有シラン化合物(B)は、いずれもシラノール基を有するため、それらを別体として含有させた塗料の塗膜形成時(例えば塗料の塗布から乾燥の間)に、それらを縮合反応させることが可能である。また一態様の塗料において、第4級アンモニウム塩含有シラン化合物(B)と、ポリウレタン系樹脂(A)とを、それらが有するシラノール基による縮合反応物として、化学的に結合した状態で含有させることができる。このように、予め又は塗膜形成時に、ポリウレタン系樹脂(A)と第4級アンモニウム塩含有シラン化合物(B)とを縮合させうるため、塗膜において、抗菌剤である第4級アンモニウム塩含有シラン化合物(B)をポリウレタン系樹脂(A)に固定化することができる。それにより、塗膜において、抗菌剤を含有しない場合と遜色ないレベルの耐摩耗性を期待でき、それにより、持続性のある抗菌性も期待できる。なお、塗膜形成時にポリウレタン系樹脂(A)と化合物(B)とを縮合させた態様の方が、それらを予め化学的に結合した状態で含有させる態様よりも、製造の容易性、貯蔵安定性(艶消し塗料として調製する場合の艶消し剤の分散性維持)などの観点から好ましい。
【0082】
本実施形態の塗料は、前述のポリウレタン系樹脂(A)の水分散体を含有することから、本明細書において、第4級アンモニウム塩含有シラン化合物(B)が有するシラノール基は、加水分解によりシラノール基を生じる基も含まれることとする。仮にシラノール基(-SiOH)と、加水分解によりシラノール基(-SiOH)を生じる基とを区別して表現すると、第4級アンモニウム塩含有シラン化合物(B)は、シラノール基、及び加水分解によりシラノール基を生じる基のうちの少なくとも1つを有していればよい。
【0083】
加水分解によりシラノール基を生じる基としては、ケイ素原子に結合した基であって、例えば、アルコキシ基、アシルオキシ基、アルケニルオキシ基、及びアルコキシ置換アルコキシ基などを挙げることができる。これらのなかでも、ケイ素原子に結合したアルコキシ基(ケイ素原子を含めてアルコキシシリル基)が好ましい。アルコキシ基の炭素原子数は1~4であることが好ましく、1~3であることがより好ましい。好ましいアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、イソプロポキシ基などを挙げることができる。
【0084】
第4級アンモニウム塩含有シラン化合物(B)における第4級アンモニウム塩構造としては、第4級アンモニウムカチオンに3又は4個の炭化水素基(アルキル基及びアルキレン基等)が結合している構造が好ましい。第4級アンモニウムカチオンに結合している炭化水素基の炭素原子数の総数は1~30であることがより好ましい。
【0085】
第4級アンモニウム塩含有シラン化合物(B)は、シラノール基(-SiOH)におけるケイ素原子を含むシロキサン結合(-Si-O-Si-)を有することが好ましい。第4級アンモニウム塩含有シラン化合物(B)の1分子中の第4級アンモニウム塩構造の数は1又は2であることが好ましい。また、第4級アンモニウム塩含有シラン化合物(B)の1分子中のシラノール基の数は1~4であることが好ましく、2~4であることがより好ましく、3又は4であることがさらに好ましい。
【0086】
第4級アンモニウム塩含有シラン化合物(B)としては、入手の容易さから、市販品を用いることができる。例えば、1分子中に、シロキサン結合を有するとともに、2つの第4級アンモニウム塩構造(第4級アンモニウムカチオン)と4つのシラノール基を有する第4級アンモニウム塩含有シラン化合物(B)の市販品としては、商品名「X-12―1126」及び「X-12-1139」(いずれも信越化学工業株式会社製)を挙げることができる。また、例えば、1分子中に、1つの第4級アンモニウム塩構造(第4級アンモニウムカチオン)と、3つのアルコキシ基(加水分解によりシラノール基を生じる基)を有する第4級アンモニウム塩含有シラン化合物(B)の市販品としては、商品名「KBM-9418-40」(信越化学工業株式会社製)、商品名「ニッカノンRB-40」(日華化学株式会社製)、商品名「SANITIZED T99-19」(SANITIZED AG製)などを挙げることができる。
【0087】
第4級アンモニウム塩含有シラン化合物(B)の含有量は、ポリウレタン系樹脂(A)100質量部に対して、0.1~20質量部であることが好ましく、0.5~15質量部であることがより好ましく、1~10質量部であることがさらに好ましい。
【0088】
[架橋剤]
本実施形態の塗料は、さらに架橋剤を含有することが好ましい。架橋剤は、イソシアネート系架橋剤(ブロック型のイソシアネート系架橋剤も含む。)、カルボジイミド系架橋剤、オキサゾリン系架橋剤、エポキシ系架橋剤、及び金属錯体系架橋剤からなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことがより好ましい。なかでも、ポリウレタン系樹脂(A)の分子中に存在するカルボキシ基及び/又はシラノール基や、抗菌剤に存在するシラノール基及び/又は第4級アンモニウムカチオンなどと反応しうる架橋剤が好ましく、例えば、カルボジイミド系架橋剤がさらに好ましい。
【0089】
架橋剤としては、入手の容易さから、市販品を用いることが好ましい。イソシアネート系架橋剤の市販品としては、例えば、商品名「デュラネート」シリーズ(旭化成株式会社製)及び商品名「アクアネート」シリーズ(東ソー株式会社製)などが挙げられる。エポキシ系架橋剤の市販品としては、例えば、商品名「jERキュア」シリーズ(三菱ケミカル株式会社製)などが挙げられる。カルボジイミド系架橋剤の市販品としては、例えば、商品名「カルボジライト」シリーズ(日清紡ケミカル株式会社製)などが挙げられる。オキサゾリン系架橋剤の市販品としては、例えば、商品名「エポクロス」シリーズ(株式会社日本触媒製)などが挙げられる。金属錯体系架橋剤の市販品としては、例えば、有機チタンキレート化合物である商品名「オルガチックスTC」シリーズ、有機ジルコニウムキレート化合物である商品名「オルガチックスZC」シリーズ、及び有機アルミニウムキレート化合物である商品名「オルガチックスAl」シリーズ(以上、マツモトファインケミカル株式会社製)、並びにアルミニウム、クロム、コバルト、銅、鉄、ニッケル、バナジウム、及び亜鉛などの金属のアセチルアセトン金属錯体である商品名「ナーセム」シリーズ(日本化学産業株式会社製)などが挙げられる。
【0090】
架橋剤を適量用いることにより、塗膜の耐久性、耐熱性、及び耐光性などの向上において有効である。この観点から、塗料中の架橋剤の含有量は、ポリウレタン系樹脂(A)100質量部に対して、固形分換算で40質量部以下であることが好ましく、0.5~30質量部であることがより好ましく、0.5~20質量部であることがさらに好ましい。
【0091】
[艶消し剤]
本実施形態の塗料はさらに艶消し剤を含有してもよい。艶消し剤を含有することで艶消し塗料を調製することが可能である。艶消し剤としては、有機粒子及び無機粒子のいずれも用いることができる。艶消し剤の具体例としては、シリカ粒子、シリコーン樹脂粒子、フッ素系樹脂粒子、アクリル系樹脂粒子、ポリウレタンゲル粒子、シリコーン変性ポリウレタンゲル粒子、ポリエチレン粒子、及び反応性シロキサンなどが挙げられる。これらの1種又は2種以上を用いることができる。また、艶消し剤を使用する場合、艶消し剤を分散させるための分散剤を併用してもよい。
【0092】
本実施形態の塗料は、ポリウレタンゲル粒子及びシリカ粒子からなる群より選ばれる少なくとも1種の艶消し剤を含有することが好ましく、その艶消し剤として、ポリウレタンゲル粒子及びシリカ粒子の両方を含有することがより好ましい。この特定の艶消し剤と、前述の特定の抗菌剤とを併用することにより、水性艶消し塗料に必要とされる特性(例えば分散性、沈降防止性、艶消し性(60°グロス値)、基材への密着性、真空成形性、耐汚染性、耐摩耗性、耐屈曲性、耐光性、耐熱性など)を兼ね備えた艶消し塗料が得られやすくなる。
【0093】
(ポリウレタンゲル粒子)
ポリウレタンゲル粒子は、乳化重合法などにより容易に得ることができ、また、市販品を用いることもできる。ポリウレタンゲル粒子の市販品としては、例えば、商品名「アートパール」(根上工業株式会社製)などを挙げることができる。ポリウレタンゲル粒子は、体積平均粒子径が0.1~30.0μm程度の球状のものが好ましい。本明細書における体積平均粒子径は、動的光散乱式粒度分布測定装置(商品名「マイクロトラックUPA」、日機装株式会社製)を用いて測定した50%累積平均値により求めることができる。
【0094】
ポリウレタンゲル粒子の含有量は、ポリウレタン系樹脂(A)100質量部に対して、3~100質量部であることが好ましく、10~90質量部であることがより好ましく、20~80質量部であることがさらに好ましい。
【0095】
(シリカ粒子)
シリカ粒子は、天産物及び合成物のいずれも用いることができる。合成物のシリカ粒子であれば、例えば、沈降法シリカ、ゲル法シリカ、及び乾式シリカなどが挙げられる。なかでも、沈降法シリカ、及び乾式シリカが好ましい。シリカ粒子の体積平均粒子径が0.5~15.0μm程度であれば、不定形、又は表面に凹凸を有する多孔質粒子などを用いることができる。このようなシリカ粒子を用いることにより、前述のポリウレタン系樹脂(A)の分子中に存在するシラノール基と反応しやすいので、耐久性がさらに向上した塗膜を形成することが可能である。
【0096】
シリカ粒子の含有量は、ポリウレタン系樹脂(A)100質量部に対して、0.5~20質量部であることが好ましく、1~15質量部であることがより好ましく、2~10質量部であることがさらに好ましい。
【0097】
[液状媒体]
本実施形態の塗料は、前述のポリウレタン系樹脂の水分散体を含有することから水を含有し、そのため、水性塗料として調製されうる。水としては、イオン交換水を用いることが好ましい。また、塗料は必要に応じて、水以外の液状媒体を含有することができる。液状媒体としては、水溶性有機溶剤が好ましい。水溶性有機溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、イソプロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、及びジエチレングリコールジエチルエーテルなどを挙げることができる。水溶性有機溶剤の1種又は2種以上を用いることができる。
【0098】
塗料中の水及び水溶性有機溶剤を含む液状媒体の含有量は、塗料の全質量に対して、5~99質量%であることが好ましく、より好ましくは30~90質量%、さらに好ましくは40~90質量%である。一方、塗料の固形分濃度は、塗料の全質量に対して、1~95質量%であることが好ましく、より好ましくは10~70質量%、さらに好ましくは10~60質量%である。
【0099】
[その他の添加剤]
塗料には、本発明の目的を妨げない範囲で、従来公知の樹脂や各種の添加剤を含有させてもよい。添加剤としては、酸化防止剤(ヒンダードフェノール系、ホスファイト系、チオエーテル系など)、光安定剤(ヒンダードアミン系など)、紫外線吸収剤(ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系など)、ガス変色安定剤(ヒドラジン系など)、加水分解防止剤(カルボジイミドなど)、金属不活性剤(ヒドラジン系など)、防黴剤、防腐剤、難燃剤、滑剤、スリップ剤、レベリング剤、増粘剤、消泡剤、分散剤、乳化剤、界面活性剤、顔料、及び着色剤などを挙げることができる。添加剤の1種又は2種以上を用いることができる。
【0100】
<塗料の製造方法>
本実施形態の塗料は、ポリウレタン系樹脂(A)の水分散体、第4級アンモニウム塩含有シラン化合物(B)、及び架橋剤、並びに必要に応じて前述の艶消し剤、液状媒体、及びその他の添加剤などを水中で混合することで、製造することが可能である。ポリウレタン系樹脂(A)の含有量は、塗料の固形分の質量に対して、5~60質量%であることが好ましく、10~50質量%であることがより好ましく、20~40質量%であることがさらに好ましい。第4級アンモニウム塩含有シラン化合物(B)の含有量は、塗料の固形分の質量に対して、0.5~20質量%であることが好ましく、0.5~15質量%であることがより好ましく、1~10質量%であることがさらに好ましい。架橋剤の含有量は、塗料の固形分の質量に対して、0.1~40質量%であることが好ましく、0.5~30質量%であることがより好ましく、1~20質量%であることがさらに好ましい。
【0101】
ポリウレタン系樹脂(A)の水分散体の製造から塗料の製造まで一連して行う場合、まず、上記の「ポリウレタン系樹脂(A)の水分散体の製造方法」で説明した通り、ポリウレタン系樹脂(A)の前駆体であるNCO基を有するウレタン系プレポリマーを製造する。そして、そのポリウレタン系樹脂(A)の前駆体(NCO基を有するウレタン系プレポリマー)に、アミノ基及びアルコキシシリル基を有する化合物(f)を含むアミン化合物を鎖伸長反応させて、シラノール基を有するポリウレタン系樹脂(A)を得る。次いで、そのポリウレタン系樹脂(A)の水分散体に、第4級アンモニウム塩構造及びシラノール基を有するシラン化合物(B)を添加すること;及びポリウレタン系樹脂(A)の水分散体に、架橋剤を添加すること;により、塗料を製造することができる。
【0102】
さらに一態様において、ポリウレタン系樹脂(A)の水分散体に、第4級アンモニウム塩含有シラン化合物(B)を添加して、ポリウレタン系樹脂(A)とシラン化合物(B)とを、それらが有するシラノール基で縮合反応させ、化学的に結合させることも好ましい。具体的には、ポリウレタン系樹脂(A)の水分散体に第4級アンモニウム塩含有シラン化合物(B)を添加して、pH7~11の領域内で50~70℃、0.5~2時間ほど加水分解と脱水縮合反応を行えばよい。
【0103】
<塗料の使用例>
本実施形態の塗料が塗布される対象物の材質としては、特に限定されず、例えば、プラスチック、コンクリート、金属、紙類、織布及び不織布などの布類などが挙げられる。これらのなかでもプラスチックが好ましい。
【0104】
塗料が塗布される対象物のプラスチックとしては、例えば、オレフィン系樹脂(ポリエチレン、ポリプロピレン系など)、エチレンプロピレンジエン系樹脂、スチレンアクリロニトリル系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、アクリル系樹脂、シリコーン系樹脂、フッ素系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ノルボルネン系樹脂、セルロース系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリビニルホルマール系樹脂、ポリビニルブチラール系樹脂、ポリビニルピロリドン系樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂、ポリビニルアセタール系樹脂、ポリ塩化ビニル、エンジニアリングプラスチック、生分解性プラスチック、オレフィン系熱可塑性エラストマー(TPO)、スチレン系熱可塑性エラストマー(TPS)、ポリエステル系熱可塑性エラストマー(TPEE)などを挙げることができる。プラスチック製の対象物は、各種製品形状に対応した形状を有するプラスチック成形品でもよいし、プラスチックフィルムやプラスチックシートでもよい。
【0105】
上記のようなプラスチックに、塗料を例えば乾燥後の膜厚が5~25μmとなるように塗布した後、100~120℃で20分間熱処理、又は150~180℃で5~10分間熱処理することによって、塗膜を形成することができる。例えば、車輌用の内装材(インストルメントパネル、ドアトリム、コンソールボックスなど)を製造する際には、TPO製の基材シート上に、2液型水系ウレタン系樹脂などを塗工し、さらにその上に本発明の一実施形態の塗料をスプレー塗装やグラビア塗装により塗工して塗膜を形成した後に、真空成形する方法などが用いられる。
【0106】
また、プラスチック成形品に本実施形態の塗料を直接塗工する方法や、金型上に本実施形態の塗料をスプレー塗装後に、ポリプロピレンやウレタン樹脂などを金型に入れるモールド成形法などにも有用である。なお、接着性が劣るプラスチック成形品に本実施形態の塗料を塗布する場合には、予めプラスチック成形品の表面をプライマー処理することが好ましい。
【0107】
以上詳述した通り、本発明の一実施形態の塗料及びその製造方法は、次の構成を採ることが可能である。
[1]ポリウレタン系樹脂の水分散体、及び抗菌剤を含有し、
前記ポリウレタン系樹脂は、シラノール基を有するポリウレタン系樹脂(A)を含み、
前記抗菌剤は、第4級アンモニウム塩構造及びシラノール基を有するシラン化合物(B)を含む、塗料。
[2]前記シラン化合物(B)は、前記ポリウレタン系樹脂(A)に化学的に非結合の状態で含有されている上記[1]に記載の塗料。
[3]前記シラン化合物(B)は、前記シラン化合物(B)が有するシラノール基と、前記ポリウレタン系樹脂(A)が有するシラノール基との縮合反応物として、前記ポリウレタン系樹脂(A)に化学的に結合した状態で含有されている上記[1]に記載の塗料。
[4]前記ポリウレタン系樹脂(A)は、イソシアネート基を有するウレタン系プレポリマーと、アミン化合物との反応物であり、
前記ウレタン系プレポリマーは、水酸基以外のアニオン性親水性基、及び前記アニオン性親水性基以外の活性水素含有基を有する化合物(a)と、ポリオール及びポリアミンからなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物(b)と、ポリイソシアネート(e)とを含む反応成分の反応物であり、
前記アミン化合物は、アミノ基及びアルコキシシリル基を有する化合物(f)を含む上記[1]~[3]のいずれかに記載の塗料。
[5]前記ウレタン系プレポリマーは、前記化合物(a)と、ポリカーボネートポリオール(b1)と、鎖伸長剤(c)と、活性水素含有基を有するポリシロキサン(d)と、前記ポリイソシアネート(e)との反応物である上記[4]に記載の塗料。
[6]前記化合物(f)は、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、及び3-アミノプロピルトリエトキシシランからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む上記[4]又は[5]に記載の塗料。
[7]さらに架橋剤を含有し、前記架橋剤は、イソシアネート系架橋剤、カルボジイミド系架橋剤、オキサゾリン系架橋剤、エポキシ系架橋剤、及び金属錯体系架橋剤からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む上記[1]~[6]のいずれかに記載の塗料。
[8]さらに、ポリウレタンゲル粒子及びシリカ粒子からなる群より選ばれる少なくとも1種の艶消し剤を含有する上記[1]~[7]のいずれかに記載の塗料。
[9]上記[1]~[8]のいずれかに記載の塗料の製造方法であって、
前記ポリウレタン系樹脂(A)の前駆体に、アミノ基及びアルコキシシリル基を有する化合物(f)を含むアミン化合物を鎖伸長反応させて、前記シラノール基を有するポリウレタン系樹脂(A)を得ること;並びに
前記ポリウレタン系樹脂(A)の水分散体に、前記シラン化合物(B)を添加すること;を含む塗料の製造方法。
[10]前記ポリウレタン系樹脂(A)の水分散体に前記シラン化合物(B)を添加して、前記ポリウレタン系樹脂(A)と前記シラン化合物(B)とを、それらが有するシラノール基で縮合反応させ、化学的に結合させることを含む上記[9]に記載の塗料の製造方法。
【実施例0108】
以下、本発明の一実施形態の塗料について、実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。また、以下の文中の「部」は質量部、「%」は質量%を示す。
【0109】
<ポリウレタン系樹脂の水分散体の製造>
(製造例1:PUD-1)
撹拌機、還流冷却管、温度計、窒素吹き込み管、及びマンホールを備えた反応容器を窒素ガスで置換した後、化合物(a)としてジメチロールプロピオン酸10.0部、化合物(b)としてポリカーボネートジオール(ポリヘキサメチレンカーボネートジオール;数平均分子量2,000;商品名「プラクセルCD220」、株式会社ダイセル製)100.0部、鎖伸長剤(c)として1,3-ブタンジオール2.0部、ポリシロキサン(d)として下記式(15-1)で表されるアルコール変性ポリシロキサン(数平均分子量1,900)10.0部、及びアセトン120.0部を加え、均一に溶解させた。
続いて、ポリイソシアネート(e)としてヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)51.0部(上記の(a)~(d)の合計の水酸基に対する、ポリイソシアネート(e)のNCO基の当量比(NCO/OH)が2.0となる量)加え、80℃で反応を行い、NCOが活性水素基に対して100%となるまで反応を行い、NCO基を有するウレタン系プレポリマーを得た。
その後、50℃に冷却し、イオン交換水440.0部と、中和剤としてのトリエチルアミン7.5部(アニオン性親水性基(-COOH)と等量となる量)加え、系内を均一に乳化させた。次いで、アミン化合物としてエチレンジアミン15.2部(実測NCO%と等量となる量)を添加し、上記NCO基を有するウレタン系プレポリマーに対して鎖伸長反応を行った。最後に、系内のアセトンを真空脱気して回収した。
このようにして、不揮発分(固形分)濃度が30%のポリウレタン系樹脂の水分散体PUD-1を得た。
【0110】
【0111】
(製造例2:PUD-2)
撹拌機、還流冷却管、温度計、窒素吹き込み管、及びマンホールを備えた反応容器を窒素ガスで置換した後、化合物(a)としてジメチロールプロピオン酸10.0部、化合物(b)としてポリヘキサメチレンカーボネートジオール(数平均分子量2,000;商品名「プラクセルCD220」、株式会社ダイセル製)100.0部、鎖伸長剤(c)として1,3-ブタンジオール2.0部、ポリシロキサン(d)として上記式(15-1)で表されるアルコール変性ポリシロキサン(数平均分子量1,900)10.0部、及びアセトン120.0部を加え、均一に溶解させた。
続いて、ポリイソシアネート(e)としてヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)51.0部(上記の(a)~(d)の合計の水酸基に対する、ポリイソシアネート(e)のNCO基の当量比(NCO/OH)が2.0となる量)加え、80℃で反応を行い、NCOが活性水素基に対して100%となるまで反応を行い、NCO基を有するウレタン系プレポリマーを得た。
その後、50℃に冷却し、イオン交換水450.0部と、中和剤としてのトリエチルアミン7.5部(アニオン性親水性基(-COOH)と等量となる量)加え、系内を均一に乳化させた。次いで、アミン化合物としてエチレンジアミン13.7部(実測NCO%の90%となる量)及び化合物(f)としてN-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン5.6部(実測NCO%の10%となる量)を添加し、鎖伸長反応を行った。最後に、系内のアセトンを真空脱気して回収した。
このようにして、不揮発分(固形分)濃度が30%のポリウレタン系樹脂(A)の水分散体PUD-2を得た。
【0112】
(製造例3:PUD-3)
撹拌機、還流冷却管、温度計、窒素吹き込み管、及びマンホールを備えた反応容器を窒素ガスで置換した後、化合物(a)としてジメチロールプロピオン酸10.0部、化合物(b)としてポリヘキサメチレンカーボネートジオール(数平均分子量2,000;商品名「プラクセルCD220」、株式会社ダイセル製)100.0部、鎖伸長剤(c)として1,3-ブタンジオール2.0部、ポリシロキサン(d)として上記式(15-1)で表されるアルコール変性ポリシロキサン(数平均分子量1,900)10.0部、及びアセトン120.0部を加え、均一に溶解させた。
続いて、ポリイソシアネート(e)としてヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)51.0部(上記の(a)~(d)の合計の水酸基に対する、ポリイソシアネート(e)のNCO基の当量比(NCO/OH)が2.0となる量)加え、80℃で反応を行い、NCOが活性水素基に対して100%となるまで反応を行い、NCO基を有するウレタン系プレポリマーを得た。
その後、50℃に冷却し、イオン交換水480.0部と、中和剤としてのトリエチルアミン7.5部を(アニオン性親水性基(-COOH)と等量となる量)加え、系内を均一に乳化させた。次いで、アミン化合物としてエチレンジアミン13.7部(実測NCO%の90%となる量)及び化合物(f)としてN-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン5.6部(実測NCO%の10%となる量)を添加し、鎖伸長反応を行った。その後、抗菌剤1として、第4級アンモニウム塩含有シラン化合物(B1)(商品名「X-12-1139」、信越化学工業株式会社製)を所定量(固形分に対して5%量)加えて、pH7~11、60℃、及び1時間の条件下、加水分解と脱水縮合反応を行った。最後に、系内のアセトンを真空脱気して回収した。
このようにして、ポリウレタン系樹脂(A)と第4級アンモニウム塩含有シラン化合物(B1)とを化学的に結合させた状態で含有する、不揮発分(固形分)濃度が30%のポリウレタン系樹脂(A)の水分散体PUD-3を得た。
【0113】
以上の製造例1~3のポリウレタン系樹脂の水分散体PUD1~3の製造条件の概要を表1に示す。
【0114】
【0115】
<塗料の製造>
(実施例1~6、比較例1~3)
表2(表2-1及び表2-2)の上段に示す各成分(単位:部)を混合し、艶消し塗料として、各実施例及び比較例の塗料を調製した。なお、表2に示す抗菌剤1~4の量は有効成分(固形分)換算の量を表す。また、表2に示す抗菌剤1~4、艶消し剤1及び2、並びに架橋剤は、以下の通りである。
【0116】
・抗菌剤1:第4級アンモニウム塩含有シラン化合物(B1)(商品名「X-12-1139」、信越化学工業株式会社製;有効成分(2つのジメチルオクタデシルアンモニウムクロリド構造を有するシラン化合物)濃度30%の液体)
・抗菌剤2:第4級アンモニウム塩含有シラン化合物(B2)(商品名「ニッカノン RB-40」、日華化学株式会社製;有効成分(第4級アンモニウム塩を付加したトリメトキシシラン化合物)濃度40%の液体)
・抗菌剤3:第4級アンモニウム塩含有シラン化合物(B3)(商品名「Sanitized T99-19」、SANITIZED AG製;有効成分(テトラデシル[3-(トリメトキシシリル)プロピル]ジメチルアミニウム・クロリド)濃度40%の液体)
・抗菌剤4:銀系無機抗菌剤(商品名「ミリオンガードPG711」、興亜硝子株式会社製;有効成分(銀含有リン酸塩ガラスパウダー)濃度97%以上の粉末)
・艶消し剤1:ポリウレタンゲル粒子(商品名「アートパールC-800透明」、根上工業株式会社製;体積平均粒子径6μm、Tg-13℃の白色粉末)
・艶消し剤2:シリカ粒子(商品名「ACEMATT TS-100」、EVONIK製;体積平均粒子径9.5μmの乾式シリカ)
・架橋剤:カルボジイミド系架橋剤(商品名「カルボジライトV-04」、日清紡ケミカル株式会社製;有効成分(不揮発分:ポリカルボジイミド樹脂に親水性セグメントを付与させた水性架橋剤)濃度40%の水性液体)
【0117】
<塗料の評価>
[塗料適性]
各実施例及び比較例で製造した塗料について、以下に述べる通り、分散性、沈降性、保存安定性、及び塗布性を評価した。
【0118】
(分散性)
調製した直後の塗料を目視にて観察し、ポリウレタン系樹脂及び艶消し剤の分散性(凝集度合い)を以下の評価基準にしたがって評価した。
A:問題なく、ほぼ均一に分散している。
B:僅かに粗粒が確認される。
C:粗粒が確認される。
【0119】
(沈降性)
調製してから6時間後の塗料を目視にて観察し、ポリウレタン系樹脂及び艶消し剤の沈降性を以下の評価基準にしたがって評価した。
A:問題なく、沈降物がほとんど確認されない。
B:僅かに沈降物が確認される。
C:沈降物が確認される。
【0120】
(保存安定性)
調製した塗料を3か月室温(23℃)で静置後に目視にて観察し、ポリウレタン系樹脂及び艶消し剤の凝集度合いや沈降度合いを以下の評価基準にしたがって評価した。
A:沈殿が生成していないもの、又は容易に沈殿を細分させることが可能なもの。
B:一部が底に固化し再分散させることが困難なもの。
C:沈殿の全体が固化し再分散しないもの。
【0121】
(塗布性)
調製した塗料を隠蔽率測定紙(商品名「LENETA N2C-2」、Leneta Company,Inc.製)にバーコーターを用いて塗布し、以下の評価基準にしたがって評価した。
A:問題なく塗布されている。
B:僅かに表面ムラが確認される。
C:表面ムラが確認される。
【0122】
<塗膜の作製及び評価>
各実施例及び比較例で製造した塗料を、以下に述べる評価に用いる各基材シートにバーコーターを用いて塗布し、100℃で2分乾燥させた後、50℃で24時間エージングし、厚さ約9μmの塗膜を形成した。その塗膜について、以下に述べる試験及び評価を行った。各評価結果を表2の下段に示す。
【0123】
[抗菌性]
基材シートとしてのPETフィルム(商品名「ルミラーS10」、東レ株式会社製)に塗膜を設けた試験片(塗装試験片)を用いて、試験片の塗膜について、JIS Z2801:2010(ISO 22196:2007)の規定に準じて、抗菌性試験を行った。具体的には、以下の手順に沿って試験を行った。
(1)5cm角の試験片の塗膜側に0.4mLの菌液を滴下し、4cm角のフィルムで被覆した。ブランク試験片として、塗膜を設けていない基材(PETフィルム)のみの試験片(非塗装試験片)についても同様の手順を行った。菌液には、大腸菌と黄色ブドウ球菌を用いた。
(2)試験片を温度35±1℃、相対湿度90%以上で24時間培養した。
(3)静置後、試験片上の試験菌を洗い出して回収した後、1cm当たりの生菌数を測定した。
(4)次式により、抗菌活性値Rを算出した。抗菌活性値Rが大きいほど、抗菌性が高いことを示す。
R=U-A
:ブランク試験片の24時間後の1cm当たりの生菌数の対数値の平均値
:試験片(塗装試験片)の24時間後の1cm当たりの生菌数の対数値の平均値
【0124】
[艶消し性]
以下に示す基材シートに設けた塗膜について、直読ヘーズコンピューターHGM-2DP(スガ試験機株式会社製)を用いて、グロス値(60°入射光/60°反射光)を測定した。
・TPO(オレフィン系熱可塑性エラストマー)
・PVC黒(黒色ポリ塩化ビニル)
・PVC淡色(淡色ポリ塩化ビニル)
・PU合皮(ポリウレタン合皮)
【0125】
[耐摩耗性]
基材シートとしての上記「PU合皮」に設けた塗膜を、学振型摩耗試験機を用いて、6号帆布、荷重1kgの条件で摩耗し、摩耗回数100回ごとに塗膜表面を目視にて観察することにより、外観変化するまでの摩耗回数を測定した。試験片ごとに2回の測定を行い、その平均値をとった。
【0126】
[耐屈曲性]
基材シートとしての上記「PVC黒」に塗膜を設けた試験片について、以下の条件で耐寒屈曲性試験を行い、塗膜表面の状態を目視で観察することにより評価した。
・装置 :低温槽付デマッチャ屈曲試験機(株式会社安田精機製作所製)
・試験片の大きさ:150mm×50mm
・評価範囲 :100mm×50mm
・試験条件 :-10℃条件下/72~108%屈曲/3万回
・評価基準:
○:亀裂なし。
×:亀裂発生。
【0127】
[耐光性]
基材シートとしての上記「TPO」、「PVC黒」、及び「PU合皮」に設けた各塗膜について、キセノンランプ式耐光試験機を用いて、塗膜の外観変化を確認し、以下の評価基準にしたがって、塗膜の耐光性を評価した。基材シートがTPO及びPU合皮の場合は照射量300Mjの条件とし、基材シートがPVC黒の場合は照射量200Mjの条件とした。
○:変化なし。
×:白化した。
【0128】
[耐汚染性]
基材シートとしての上記「PVC淡色」に設けた塗膜に、コーヒー液(インスタントコーヒー粉末(商品名「ネスカフェ」、ネスレ日本株式会社製)1gを水100mL中に溶かした液)を1g、又はマスタード(商品名「French’s masterd」、HEINZ社製)を1g滴下して、24時間後にイオン交換水で拭き取り、塗膜の外観変化を観察することにより、以下の評価基準にしたがって、塗膜の耐汚染性を評価した。
○:変化なし。
×:汚れあり。
【0129】
【0130】
【0131】
実施例1~6の塗料は、比較例1の塗料(抗菌剤を含有しない塗料)と同等程度に良好な塗料適性を示しつつ、良好な抗菌性を有する塗膜を形成することが可能であることが認められた。一方、比較例2の塗料(銀系無機抗菌剤を含有する塗料)は、抗菌性を有するものの、分散性及び沈降性に劣るものであった。
【0132】
また、比較例3の塗料は、抗菌性を示さなかった。これは、比較例3の塗料に用いたPUD-1におけるポリウレタン系樹脂がシラノール基を有していないためと考えられる。すなわち、比較例3の塗料は、塗料においても塗膜形成時においても、ポリウレタン系樹脂と抗菌剤(第4級アンモニウム塩含有シラン化合物(B1))とが縮合反応せず、当該抗菌剤がポリウレタン系樹脂に固定化されていないためと考えられる。これに対し、実施例1~5の塗料に用いたPUD-2におけるポリウレタン系樹脂(A)は、シラノール基を有するため、塗膜形成時において、ポリウレタン系樹脂(A)と抗菌剤(第4級アンモニウム塩含有シラン化合物(B1)、(B2)、(B3))とが縮合反応したと考えられる。これにより、当該抗菌剤がポリウレタン系樹脂(A)に固定化されたために、良好な抗菌性を有する塗膜が形成されたと考えられる。また、実施例6の塗料には、PUD-3におけるポリウレタン系樹脂(A)及び抗菌剤(第4級アンモニウム塩含有シラン化合物(B1))を、それらがそれぞれ有するシラノール基による縮合反応物として、化学的に結合した状態で含有させたため、良好な抗菌性を有する塗膜が形成されたと考えられる。
【0133】
なお、基材シートとしての「TPO」に塗膜を設けた試験片について、所定の密着性試験(120℃/10kg/1分間ラミネートの条件の試験)を行った。その結果、抗菌剤1(第4級アンモニウム塩含有シラン化合物(B1))を用いた実施例1、2及び6の塗料は、抗菌剤を含有しない比較例1の塗料と遜色ないレベルに良好な密着性を有する塗膜を形成可能であることが認められた。
【0134】
また、基材シートとしての「PVC淡色」に塗膜を設けた試験片について、所定の耐熱性試験(120℃/400時間の条件の試験)を行った。その結果、抗菌剤1(第4級アンモニウム塩含有シラン化合物(B1))を用いた実施例1~3及び6の塗料は、抗菌剤を含有しない比較例1の塗料と遜色ないレベルに良好な耐熱性を有する塗膜を形成可能であることが認められた。
【0135】
さらに、基材シートとしての「TPO」に塗膜を設けた試験片について、所定の真空成形性試験(表面温度160~170℃の条件の試験)を行った。その結果、抗菌剤2(第4級アンモニウム塩含有シラン化合物(B2))を用いた実施例4の塗膜、及び抗菌剤3(第4級アンモニウム塩含有シラン化合物(B3))を用いた実施例5の塗膜は、抗菌剤を含有しない比較例1の塗膜に比べて優れた成形性を示すことが認められた。