(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023136104
(43)【公開日】2023-09-29
(54)【発明の名称】フェライト薄膜およびコイル部品
(51)【国際特許分類】
H01F 17/04 20060101AFI20230922BHJP
H01F 17/00 20060101ALI20230922BHJP
H01F 1/34 20060101ALI20230922BHJP
C04B 35/26 20060101ALI20230922BHJP
【FI】
H01F17/04 F
H01F17/04 A
H01F17/00 C
H01F1/34 140
C04B35/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022041547
(22)【出願日】2022-03-16
(71)【出願人】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 翔太
(72)【発明者】
【氏名】中野 拓真
(72)【発明者】
【氏名】松谷 淳生
【テーマコード(参考)】
5E041
5E070
【Fターム(参考)】
5E041AB14
5E070AA01
5E070AB04
5E070BA07
5E070CB13
(57)【要約】
【課題】透磁率が高く、かつ、磁気損失が低いフェライト薄膜、および、当該フェライト薄膜を含むコイル部品を提供すること。
【解決手段】組成式Co
xNi
yZn
zFe
(3-(x+y+z))O
4で表されるフェライト組成物を含むフェライト薄膜である、組成式は、0.1≦x≦0.5、0.0≦y≦0.4、0.0≦z≦0.4、および、(x+y+z)≦1を満たし、フェライト組成物は、スピネル型の結晶構造を有する。そして、フェライト薄膜の面直方向における(111)面の配向度を表すロッキングカーブの半値幅が、10°以上35°以下である。
【選択図】
図2B
【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成式CoxNiyZnzFe(3-(x+y+z))O4で表されるフェライト組成物を含むフェライト薄膜であり、
前記組成式が、0.1≦x≦0.5、0.0≦y≦0.4、0.0≦z≦0.4、および、(x+y+z)≦1を満たし、
前記フェライト組成物が、スピネル型の結晶構造を有し、
前記フェライト薄膜の面直方向における(111)面の配向度を表すロッキングカーブの半値幅が、10°以上35°以下であるフェライト薄膜。
【請求項2】
請求項1に記載のフェライト薄膜を含むコイル部品であり、
前記コイル部品が、非磁性体を含む素体と、前記素体の内部に配置してあり前記非磁性体で覆われたコイル部と、を有し、
前記フェライト薄膜を含む挿入体が、前記コイル部の導体で囲まれたコイル内側領域に配置してあるコイル部品。
【請求項3】
前記挿入体が、前記フェライト薄膜からなる2以上の磁性層と、前記磁性層の間に介在する非磁性層と、を有し、
前記磁性層および前記非磁性層が、前記コイル部のコイル軸と直交する方向に沿って積層してある請求項2に記載のコイル部品。
【請求項4】
前記フェライト薄膜の厚みが、5μm以下である請求項2または3に記載のコイル部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、フェライト薄膜、および、当該フェライト薄膜を含むコイル部品に関する。
【背景技術】
【0002】
高周波回路で利用可能なコイル部品の一例として、非磁性体で構成される素体と、螺旋状のコイル導体と、を含むインダクタやフィルタなどが知られている。このようなコイル部品において、非磁性体の素体の内部に磁性材料を挿入すると、インダクタンスやQ値(品質係数:Quality Factor)の向上が期待できる。ただし、動作周波数が高周波化した場合には、磁性材料の透磁率が極端に低下し、インダクタンスやQ値の向上を図ることが困難となる。
【0003】
特に、携帯電話機や無線LAN機器などの各種通信機器に含まれる高周波回路では、近年、動作周波数がギガヘルツ帯にまで及んでおり、このような動作周波数では、非磁性体の素体に磁性材料を挿入しても、インダクタンスやQ値の向上が困難である。そのため、上記のコイル部品に適用可能な磁性材料として、高周波帯域においても高い透磁率と低い磁気損失とを示す磁性材料の開発が求められている。
【0004】
高周波帯域で使用する磁性材料の候補としては、電気抵抗が高く、渦電流損失の低減に有利なフェライトが挙げられ、たとえば、特許文献1は、メガヘルツ帯の高周波帯域で使用可能なフェライト薄膜を開示している。ただし、フェライトは、磁気共鳴現象によって、特定の周波数付近で透磁率が極端に低下してしまう。特許文献1においても、900MHzまでの特性(透磁率および磁気損失)しか立証しておらず、ギガヘルツ帯では透磁率が低下し磁気損失が増大してしまう。そのため、メガヘルツ帯のみならずギガヘルツ帯の動作周波数にも適用可能な磁性材料の開発が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本開示は、このような実情を鑑みてなされ、その目的は、高周波帯域において透磁率が高く、かつ、磁気損失が低いフェライト薄膜、および、当該フェライト薄膜を含むコイル部品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、本開示に係るフェライト薄膜は、
組成式CoxNiyZnzFe(3-(x+y+z))O4で表されるフェライト組成物を含み、
前記組成式が、0.1≦x≦0.5、0.0≦y≦0.4、0.0≦z≦0.4、および、(x+y+z)≦1を満たし、
前記フェライト組成物が、スピネル型の結晶構造を有し、
前記フェライト薄膜の面直方向における(111)面の配向度を表すロッキングカーブの半値幅が、10°以上35°以下である。
【0008】
本開示に係るフェライト薄膜は、上記の特徴を有することで、100MHz以上(特に1GHz以上5GHz以下)の高周波帯域において、高い透磁率と低い磁気損失とを両立して実現することができる。
【0009】
上記フェライト薄膜を含む本開示に係るコイル部品は、
非磁性体を含む素体と、前記素体の内部に配置してあり前記非磁性体で覆われたコイル部と、を有し、
前記フェライト薄膜を含む挿入体が、前記コイル部の導体で囲まれたコイル内側領域に配置してある。
【0010】
本開示に係るコイル部品は、上記の特徴を有することで、100MHz以上(特に1GHz以上5GHz以下)の高周波帯域において、高いインダクタンスと高いQ値とを両立して実現することができる。
【0011】
好ましくは、前記挿入体が、前記フェライト薄膜からなる2以上の磁性層と、前記磁性層の間に介在する非磁性層と、を有し、
前記磁性層および前記非磁性層が、前記コイル部のコイル軸と直交する方向に沿って積層してある。
【0012】
好ましくは、前記フェライト薄膜の厚みが、5μm以下である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、一実施形態に係るフェライト薄膜の面直方向に沿う断面を示すSEM画像の一例である。
【
図2A】
図2Aは、EBSDにより得られる(111)面に関する極点図の一例である。
【
図3】
図3は、フェライト薄膜の製造に用いる成膜装置を示す概念図である。
【
図4】
図4は、成膜時における結晶の成長過程を示す概念図である。
【
図5】
図5は、一実施形態に係るコイル部品を示す内部透視斜視図である。
【
図7】
図7は、他の実施形態に係るコイル部品を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を、図面に示す実施形態に基づき詳細に説明する。
【0015】
第1実施形態
本開示の第1実施形態に係るフェライト薄膜1は、スピネル型の結晶構造を有するフェライト組成物を主成分として含む。主成分とは、フェライト薄膜1において95wt%以上を占める成分である。なお、フェライト薄膜1には、Si、Al、Ca、Cl、Naなどの不可避不純物が含まれていてもよい。フェライト薄膜1における主成分以外の他の成分の含有率は、2wt%以下であることが好ましい。
【0016】
フェライト薄膜1に含まれるフェライト組成物は、組成式CoxNiyZnzFe(3-(x+y+z))O4で表される。スピネルフェライトの一般式はAB2O4であり、上記組成式で示すフェライト組成物は、AサイトまたはBサイトを占めるFeの一部が、Co、Ni、またはZnで置換されることを示している。
【0017】
上記組成式において、Coの原子数比を示すxは、0.1以上0.5以下であり、Coは、本実施形態におけるフェライト組成物の必須元素である。Niの原子数比を示すyは、0.0以上0.4以下であり、Znの原子数比を示すzは、0.0以上0.4以下である。つまり、NiおよびZnは、本実施形態におけるフェライト組成物の任意元素である。フェライト組成物にNiが含まれる場合、磁気損失がより低減される傾向となる。一方、フェライト組成物にZnが含まれる場合、透磁率がより向上する傾向となる。また、上記組成式において、(x+y+z)は、1.0以下であり、0.1以上0.9以下であることが好ましい。
【0018】
上記スピネルフェライトの一般式(および組成式)において、O(酸素)の原子数比は4と表記しているが、酸素欠陥または酸素過剰を許容する。上記一般式で表される基本組成は化学量論組成及び非化学量論組成のいずれも包含するものであるが、酸素過剰量又は酸素欠損量を分析及び高精度に定量できない実情に照らして、慣習上AB2O4と表記している。酸素欠損または酸素過剰については、Oの原子数比が「4±0.5」の範囲であれば特性上問題は無い。
【0019】
なお、スピネルフェライトとしては、MnやCuを含むフェライトが知られているが、本実施形態のフェライト薄膜1では、フェライト組成物にMnやCuが実質的に含まれないことが好ましい。「実質的に含まれない」とは、フェライト薄膜1におけるMnの含有率またはCuの含有率が、5wt%以下であることを意味する。
【0020】
フェライト薄膜1の主成分組成は、誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP)、蛍光X線分析(XRF)、エネルギー分散型X線分析(EDX)、波長分散型X線分析(WDS)などを用いて分析することができる。
【0021】
図1は、フェライト薄膜1の面直方向に沿った断面を撮影したSEM画像の一例である。なお、面直方向とは、膜面と垂直な膜厚方向を意味し、面内方向とは、面直方向と垂直で膜面と略平行な方向を意味する。
図1において、フェライト薄膜1の上面側にコントラストの明るい領域が確認できるが、当該領域は、断面観察用の試料を作製する際に形成した保護層である。フェライト薄膜1の平均厚みt1は、5μm以下であることが好ましく、0.5μm以上5μm以下であることがより好ましく、1μm以上5μm以下であることがさらに好ましい。なお、平均厚みt1を算出する際には、フェライト薄膜1の厚みを少なくとも10箇所以上測定することが好ましい。
【0022】
また、
図1に示すように、本実施形態のフェライト薄膜1は、面直方向に沿う柱状の結晶(スピネル型の主相結晶粒子)を有する。面直方向から結晶を観察した場合、フェライト薄膜1の結晶のD50は、300nm以下であることが好ましく、100nm以上200nm以下であることがより好ましい。ここで、D50とは、主相結晶粒子の粒度分布において、面積基準の累積頻度が50%となる粒径(メディアン径)を意味し、各主相結晶粒子の粒径は円相当径で表す。
【0023】
たとえば、フェライト薄膜1の表面、または、面内方向に沿う断面を、後方散乱電子回折(EBSD)により解析することで、D50を測定することができる。具体的に、EBSDにより、結晶方位マップ(IPFマップなど)を得て、当該結晶方位マップに含まれる各結晶粒の面積を計測する。そして、各結晶粒の面積から各結晶粒の円相当径を算出し、当該データに基づいて結晶のD50を算出すればよい。結晶のD50を算出する際には、少なくとも100個の結晶の円相当径を測定することが好ましい。
【0024】
本実施形態のフェライト薄膜1では、面内方向においては、結晶方位が等方的であるが、面直方向においてはスピネル型結晶の(111)面が配向している。そして、面直方向における(111)面の配向度が、所定の要件を満たすように制御してある。なお、スピネル型の結晶構造を有するフェライト組成物では、(111)面の結晶方位が磁化容易軸に相当する。フェライト薄膜1における結晶方位は、EBSDにより解析することができる。
【0025】
具体的に、フェライト薄膜1の表面、または、面内方向に沿う断面を、走査型電子顕微鏡(SEM)により観察し、観察断面をEBSDで解析する。その際、視野内に含まれる結晶の数が少なくとも100以上となるように、観察倍率を設定することが好ましい。たとえば、視野の面積を4μm×4μmに相当する範囲に設定する。そして、EBSDにより、
図2Aに示すような極点図を得る。
【0026】
図2Aの極点図は、フェライト組成物の(111)面と、フェライト薄膜1の座標系との関係性を示している。より具体的に、
図2Aの極点図では、フェライト薄膜1の面直方向を0°とし、フェライト薄膜1の面内方向を90°と設定している。極点図において、円の中心を貫く方向が面直方向(0°)であり、A1やA2などの極点図の円周側に向く方向が面内方向(90°)である。極点図におけるプロットが、解析視野内に含まれる各結晶の(111)面の方位を示している。つまり、
図2Aの極点図は、フェライト薄膜1における(111)面の方位の分布を表している。
図2Aでは、プロットが円の中心付近に集中しており、面直方向において(111)面が配向していることが確認できる。
【0027】
また、
図2Aに示すような極点図に基づいて、
図2Bに示すようなロッキングカーブを得る。具体的に、極点図の中心を通る任意の断面(たとえば
図2Aに示すIIB-IIB線に沿う断面)をスムージングして、ロッキングカーブを得る。
図2Bに示すグラフの縦軸は、最大値で規格化した(111)面の回折強度であり、グラフの横軸は、面直方向を0°とした場合の電子線の入射角である。ロッキングカーブにおいても、0°を中心として最も大きいピークが存在しており、面直方向でフェライト組成物の(111)面が配向していることが確認できる。
【0028】
面直方向における(111)面の配向度は、
図2Bに示すロッキングカーブの半値幅(半値全幅FWHM)で表すことができる。半値幅が狭いほど、(111)面が面直方向で強く配向していることを意味する。フェライト薄膜1では、
図2Bに示すようなロッキングカーブの半値幅が、10°以上35°以下であり、10°以上25°以下であることがより好ましく、10°以上20°以下であることがさらに好ましい。つまり、本実施形態のフェライト薄膜1において、面直方向における(111)面の配向度は、高ければよいわけではなく、上記の半値幅(10°≦FWHM≦35°)を満たす程度に、弱めてある。
【0029】
所定の組成を有するフェライト薄膜1において、面直方向における(111)面の配向度を、10°≦FWHM≦35°を満たす程度に弱めることで、高周波帯域における透磁率を向上させることができ、かつ、磁気損失を低減することができる。
【0030】
次に、本実施形態に係るフェライト薄膜1の製造方法の一例について説明する。フェライト薄膜1は、スピンスプレー法による間欠的な成膜により製造することができる。
【0031】
製造方法の詳細な説明に入る前に、フェライトの製造方法と結晶配向性との関係について説明しておく。フェライトの最も一般的な製法としては、酸化物の原料粉末を焼結して焼結体を得る方法が知られている。この焼結法でスピネルフェライトの焼結体を製造した場合、当該焼結体では、いずれの座標軸においても、結晶方位が等方的となり、結晶配向性を制御することが困難である。また、当該焼結体に対して、X線回折法(XRD)による2θ/θ測定を実施した場合、(311)面の回折強度が最も強くなり、(111)面の配向は得られない。
【0032】
また、フェライトの薄膜を得る製法としては、後述する本実施形態のスピンスプレー法以外に、ゾル-ゲル法、スパッタ法、PVD法の一種であるPLD法(Pulsed laser Deposition)、スクリーン印刷法、電着法(電着塗装)、および、エアロゾルデポジション法などが知られている。これら、スピンスプレー法を除く各成膜法でスピネルフェライトの薄膜を製造する場合、各成膜法で得られた薄膜は、焼結体と同様に、いずれも等方性の膜となり、結晶配向性を制御することが困難である。また、当該薄膜においても、焼結体と同様に、(311)面の回折強度が最も強くなる。
【0033】
一方で、スピンスプレー法でスピネル型のフェライト薄膜を製造すると、面直方向で(111)面を配向させることができる。
【0034】
具体的に、スピンスプレー法では、
図3に示す成膜装置50を用いて、フェライトの薄膜を製造する。成膜装置50は、成膜室51と、成膜室51の外部に設置された2つのタンク52a,52bとを有する。成膜室51の内部には、ヒータ付きの回転台53と、当該回転台53の上方に位置する2つのスプレーノズル56a,56bとが設置してある。成膜装置50では、回転台53の上に複数の成膜用の基材40を設置することができ、各基材40の表面に、それぞれ、フェライト薄膜1を形成することができる。
【0035】
一方のタンク52aには、反応液61が含まれている。反応液61は、イオン交換水中に、スピネル型結晶のAサイトを構成する元素の原料、および、Bサイトを構成する元素の原料を、溶解した溶液である。上記原料としては、塩化物や、塩化物の水和物などが挙げられ、たとえば、CoCl2・6H2O(塩化コバルト六水和物)、NiCl2・6H2O(塩化ニッケル六水和物)、ZnCl2(塩化亜鉛)、および、FeCl2・4H2O(塩化鉄四水和物)をイオン交換水に溶解させることで、反応液61が得られる。フェライト組成物の組成は、当該反応液61の成分を調整することで制御すればよい。成膜装置50では、N2やArなどの加圧ガスを、ガス管54を介して、タンク52aの内部に導入することで、タンク52aが加圧される機構となっている。タンク52aを加圧することで、反応液61が、液送管55aを介して、スプレーノズル56aに供給され、反応液61が、スプレーノズル56aから基材40に向かって噴射される。
【0036】
他方のタンク52bには、酸化液62が含まれている。酸化液62は、反応液61に含まれる原料を酸化させるための溶液であり、酸化液62としては、たとえば、イオン交換水中にCH3COONa・3H2O(酢酸ナトリウム三水和物)およびKNO2(亜硝酸カリウム)を溶解させた溶液を用いることができる。酸化液62についても、反応液61と同様の機構で成膜室51内に導入される。つまり、タンク52b内を加圧することで、酸化液62が、液送管55bを介して、スプレーノズル56bに供給される。そして、酸化液62が、スプレーノズル56bから基材40に向かって噴射される。
【0037】
成膜時には、成膜室51のガス導入口57から、N2ガスなどを導入し、成膜室51の内部を脱酸素雰囲気とする。また、回転台53のヒータにより、基材40を60℃~90℃程度に加熱する。スピンスプレー法では、上記のように成膜雰囲気および基材温度を制御したうえで、以下に示すステップを実施する。
【0038】
たとえば、酸化液62を、スプレーノズル56bから、基材40の表面に塗布する(ステップ1)。そして、ヒータで加熱した回転台53を回転させ、余剰の酸化液62を遠心力により除去する(ステップ2)。さらに、反応液61を、スプレーノズル56aから、基材40の表面に塗布する(ステップ3)。そして、再度、回転台53を回転させ、余剰の反応液61を遠心力により除去する(ステップ4)。ステップ2およびステップ4で除去された余剰の溶液は、成膜室51の排水口58から外部に排出される。
【0039】
なお、上記では、酸化液62を塗布してから反応液61を塗布したが、反応液61および酸化液62を塗布する順序は、上記の逆であってもよい。また、反応液61および酸化液62を塗布する基材40の表面は、親水性を有していればよい。たとえば、親水処理を施した基材40自体の表面に対して、直に反応液61または酸化液62を塗布してもよい。もしくは、基材40の表面にポリイミド膜やフォトレジスト膜などの他の膜を形成し、当該他の膜の表面に対して反応液61または酸化液62を塗布してもよい。また、ステップ2およびステップ4における回転速度は、特に限定されないが、たとえば、100rpm~200rpmとすることが好ましい。
【0040】
スピンスプレー法では、上記のステップ1~4を複数回繰り返すことで、フェライトの薄膜を形成する。
図4は、基材40の表面でフェライトの結晶が成長していく過程を示す模式図である。スピンスプレー法では、反応液61および酸化液62を交互に塗布するため、
図4に示すように、反応液61由来の金属イオン(Feイオン、Coイオン、Niイオン、Znイオン等)と、酸化液62由来のヒドロキシ基(OH基)とが、基材40の上に交互に積層され、スピネル型結晶が成長していく。なお、
図4に示すM
n+は、Coイオン、Niイオン、またはZnイオンを意味する。また、反応液を塗布した後に、酸化液を塗布すると、Fe
2+の一部が酸化して、Fe
3+となる。スピンスプレー法では、
図4に示すような結晶成長が起こるため、面直方向でスピネル型結晶の(111)面が配向する。
【0041】
従来のスピンスプレー法では、ステップ1~4を、所望の膜厚に達するまで、連続して繰り返す。このような従来の成膜作業を、「連続的な成膜」と称することとする。「連続的な成膜」の場合、面直方向において、(111)面が強く配向し、ロッキングカーブの半値幅(FWHM)が、10°未満となる。
【0042】
一方、本実施形態におけるスピンスプレー法では、「間欠的な成膜」によりフェライト薄膜1を製造する。具体的に、成膜中の薄膜がある程度の厚みになるまでステップ1~4を繰り返した後、成膜装置50を一時的に停止させ、成膜中の基材40を冷却する。つまり、成膜の途中で、一時的に結晶の成長を停止させる。上記のように成膜を一時停止させるまでの過程を、単位作業とすると、本実施形態における「間欠的な成膜」では、上記の単位作業を、2回以上繰り返すことで、所望の厚み(t1)のフェライト薄膜1を得る。換言すると、フェライト薄膜1が所望の厚みt1に達するまでの間に、1回以上、成膜を一時停止させる時間を設ける。単位作業の回数は、所望の厚み(t1)によって適宜調整すればよいが、たとえば、2回以上10回以下であることが好ましい(成膜を一時停止する回数は1回以上9回以下であることが好ましい)。
【0043】
すなわち、1回の単位作業で形成する膜厚tUは、最終的に得られるフェライト薄膜1の平均厚みt1に対して、1/10~1/2(1/10≦(tU/t1)≦1/2)であることが好ましい。ただし、膜厚tUが少なくとも150nm以上となるように、1回の単位作業におけるステップ1~4の繰り返し回数を制御することが好ましい。なお、フェライト薄膜1の平均厚みt1を1μm以上とする場合は、膜厚tUが300nm以上500nm以下であることがより好ましい。
【0044】
上記のような間欠的な成膜により、面直方向における(111)面の配向度を所定の範囲に弱めることができる。つまり、ロッキングカーブの半値幅(FWHM)を、間欠的な成膜における一時停止の回数や、1回の単位作業で形成する膜厚tUなどによって制御することができる。なお、間欠的な成膜によって得られたフェライト薄膜1の断面では、原則として、成膜の一時停止に由来する明瞭な境界がほとんど確認されないが、柱状結晶の途切れ(すなわち結晶粒界)が、面内方向に沿って連続して存在することが確認できる場合がある。
【0045】
本実施形態に係るフェライト薄膜1は、インダクタ、トランス、チョークコイル、フィルタ、アンテナなどの各種磁性部品に適用することができる。特に、フェライト薄膜1は、インダクタ、インダクタ要素を含むアンテナやフィルタなどの各種コイル部品に適用することが好ましく、高周波回路に搭載するコイル部品に適用することがより好ましい。
【0046】
(第1実施形態のまとめ)
本実施形態に係るフェライト薄膜1は、組成式CoxNiyZnzFe(3-(x+y+z))O4で表され、スピネル型の結晶構造を有するフェライト組成物を含む。上記組成式は、0.1≦x≦0.5、0.0≦y≦0.4、0.0≦z≦0.4、および、(x+y+z)≦1を満たす。そして、フェライト薄膜1の面直方向における(111)面の配向度を表すロッキングカーブの半値幅が、10°以上35°以下である。
【0047】
フェライト薄膜1が上記の特徴を有することで、100MHz以上の高周波帯域において、高い透磁率を確保しつつ、磁気損失を低減させることができる。つまり、メガヘルツ帯のみならずギガヘルツ帯(特に好ましくは、1GHz以上5GHz以下)においても、高透磁率と低磁気損失とを両立して実現できる。当該効果が得られる理由は、必ずしも明らかではないが、面直方向における(111)面(磁化容易軸)の配向度を所定の範囲で弱めることで、面内方向における異方性磁界と面直方向における異方性磁界との差を大きくすることができると考えられる。その結果、フェライト薄膜1の強磁性共鳴周波数(FMR周波数:fFMR)を高くすることができ、ギガヘルツ帯においても透磁率の低下が抑制でき、かつ、磁気損失の増大を抑制できると考えられる。
【0048】
第2実施形態
第2実施形態では、
図5、
図6Aおよび
図6Bに基づいて、フェライト薄膜1を含むコイル部品の一例について説明する。
【0049】
図5に示すように、第2実施形態に係るコイル部品2aは、略直方体形状(略六面体)からなる素体4と、当該素体4の外面に形成してある一対の外部端子6と、を有する。そして、素体4の内部には、コイル部8と、挿入体10aとが、埋設してある。
【0050】
素体4は、X軸に略垂直な一対の端面4aと、Z軸に略垂直な一対の主面4bと、Y軸に略垂直な一対の側面4cと、を有する。第2実施形態では、一対の主面4bのうち、Z軸上方側を上面4b1と称し、Z軸下方側を底面4b2と称する。コイル部品2aを回路基板等に面実装する場合には、素体4の底面4b2が基板の実装面に対向して配置される。また、素体4の寸法は、特に限定されず、用途に応じて適当な寸法とすればよいが、小型であることが好ましい。たとえば、素体4のX軸方向の幅を0.05mm~2.0mm、Y軸方向の幅を0.05mm~2.0mm、Z軸方向の高さを0.01mm~2.0mmとすることができる。
【0051】
なお、第2実施形態において、Y軸は、コイル部8のコイル軸(螺旋構造の中心軸)と略平行であり、Z軸は、基板実装時の高さ方向と略平行であって、X軸、Y軸、Z軸は、相互に垂直である。
【0052】
素体4は、絶縁性の非磁性材料で構成してある。絶縁性の非磁性材料としては、たとえば、酸化ケイ素(SiO2)やアルミナ(Al2O3)などの酸化物、ガラス、AlNなどの窒化物、ポリイミドなどの樹脂、PTFEなどのフッ素樹脂、または、硬化処理したフォトレジストなどを用いることができ、上記の化合物が複数種含まれていてもよい。なお、素体4の非磁性材料には、副成分、不可避不純物、および、空隙などが含まれていてもよい。
【0053】
コイル部8は、ソレノイド型のコイルであって、コイル導体8aが三次元的かつ螺旋状に巻回してある構造を有する。
図5に示すコイル部8では、螺旋構造のターン数(周数)が、5回となっているが、コイル部8のターン数は、これに限定されず、コイル部品2aの用途や仕様に応じて適宜決定すればよい。たとえば、コイル部8の周数を増やすと、インダクタンスが増加する傾向となる。コイル部8の形状も、特に限定されず、コイル部品2aでは、
図6Aに示すようなコイル軸と直交する断面において、コイル部8の外縁形状が略矩形となっている。また、コイル部8の寸法についても、特に限定されず、所望の特性に応じて適当な寸法とすればよい。たとえば、
図6Aに示すコイル部8の断面積を大きくすると、インダクタンスが増加する傾向となる。
【0054】
コイル導体8aの両側の端部8bは、それぞれ、素体4の底面4b2に向かって引き出されており、底面4b2に露出して外部端子6と電気的に接続してある。コイル部品2aでは、外部端子6を介してコイル部8に電流を流すと、コイル部8に磁界が発生する。特に、コイル導体8aで囲まれたコイル部8の内側領域(以下、コイル内側領域20と称する)では、コイル軸(Y軸)と平行な磁束が発生する。
【0055】
コイル部8を構成しているコイル導体8aは、導電性材料であればよく、その材質は特に限定されない。たとえば、コイル導体8aは、Cu,Ni,Al,Cr,Au,Ag,Ptなどの純金属、もしくは、上記の金属元素を少なくとも1種含む合金などで構成することができる。また、導電性材料以外に、ガラスフリットなどの無機成分や樹脂成分などが含まれていてもよい。
【0056】
コイル部8の端部8bと接続している一対の外部端子6も、コイル導体8aと同様の導電性材料で構成することができる。外部端子6における導電性材料の組成は、コイル導体8aと同一であってもよく、異なっていてもよい。また、外部端子6では、導電性材料以外に、ガラスフリットなどの無機成分や樹脂成分などが含まれていてもよい。本実施形態において、一対の外部端子6は、それぞれ、底面4b2のX軸方向の端部に形成してあり、互いに絶縁してある。
【0057】
なお、外部端子6の形状や形成位置は、
図5に示す様態に限定されず、たとえば、外部端子6は、底面4b2の一部から端面4aの一部にかけて連続して形成してあるL字型の端子であってもよい。ただし、外部端子6は、コイル軸と平行なY軸方向からの側面視において、コイル内側領域20と重複しないように形成してあることが好ましい。特に、
図5に示すコイル部品2aでは、側面4cには外部端子6が存在しないことがより好ましい。
【0058】
外部端子が側面4cの一部を覆っている場合、コイル軸と平行な磁束線と外部端子6bとが交差するため、外部端子6bにより、コイル部8の磁束が乱れ、浮遊容量が発生すると考えられる。一方、
図5に示すような底面4b2の一部に形成してある外部端子6の場合、コイル軸と略平行な磁束線が生じている箇所には外部端子6が存在しないため、コイル部8により発生する磁束に乱れが生じ難く、浮遊容量の発生を抑制することができると考えられる。
【0059】
コイル部品2aでは、非磁性体の素体4が、外装領域4αと、内部領域4βと、を有する。外装領域4αは、素体4の外面(4a~4c)を規定しており、コイル部8の螺旋構造を完全に覆っている。つまり、コイル部8は、素体4の外面を規定する非磁性材料で覆われている。また、内部領域4βは、後述する挿入体10aとコイル部8の内周面との間の領域である。つまり、コイル導体8aで囲まれたコイル内側領域20には、挿入体10aと素体4の内部領域4βとが含まれ、挿入体10aとコイル部8の内周面との間には、素体4の非磁性材料が充填してある。このようにコイル部8の外周側および内周側に素体4の非磁性材料を充填することで、高周波帯域において磁気共鳴が発生することを抑制できる。なお、コイル部8の螺旋構造におけるコイルターン間の隙間(コイル導体8aの隙間)にも、素体4の非磁性材料が充填してある。つまり、素体4の非磁性材料により、コイルターン間の短絡が防止してある。
【0060】
上記のとおり、コイル部品2aは、基本的に、コイルと非磁性材料とで構成してあるが、磁性材料を含む挿入体10aが、コイル内側領域20に挿入してある。第2実施形態では、この挿入体10aが第1実施形態のフェライト薄膜1からなる。フェライト薄膜1からなる挿入体10aを、コイル内側領域20に挿入することで、高周波帯域におけるコイル部品2aのインダクタンスおよびQ値を向上させることができる。
【0061】
コイル部品2aのコイル内側領域20における挿入体10aの寸法および配置は、以下に示す要件を満たすように制御してあることが好ましい。
【0062】
まず、フェライト薄膜1の面直方向が、コイル部8のコイル軸と交差するように、挿入体10aを配置することが好ましい。より具体的に、フェライト薄膜1の面直方向とコイル軸とがなす交差角度は、90°±45°であることが好ましく、略直交(すなわち約90°)であることがより好ましい。
図6Aは、コイル軸を垂直で、かつ、挿入体10aを通る断面であるが、
図6Aに示すコイル部品2aでは、フェライト薄膜1の面直方向がZ軸方向であり、コイル軸がY軸方向である。つまり、
図6Aでは、フェライト薄膜1の面直方向とコイル軸とが直交(交差角度が90°)である。
【0063】
第1実施形態で述べたように、フェライト薄膜1における(111)面の結晶方位が、磁化容易軸であり、フェライト薄膜1では、(111)面が面直方向に配向している。つまり、フェライト薄膜1の面直方向がコイル軸と交差するように挿入体10aを配置することで、フェライト薄膜1の磁化容易軸がコイル軸と交差することとなる。この場合、FMR周波数をより高くすることができ、コイル部品2aのインダクタンスとQ値とをより向上させることができる。特に、フェライト薄膜1の磁化容易軸とコイル軸との交差角度が90°に近づくほど、高周波帯域でのインダクタンスおよびQ値がさらに向上する傾向となる。
【0064】
また、挿入体10aは、コイル導体8aと直に接しないように配置してあることが好ましい。具体的に、
図6Aに示す断面において、D2/D1(単位なし)が、0.05以上であることが好ましく、0.1以上であることがより好ましく、0.15以上であることがさらに好ましい。ここで、D1は、
図6Aに示す断面におけるコイル内側領域20のZ軸方向の高さであり、Z軸方向におけるコイル部8の内径と同義である。また、D2は、コイル部8の内周面から挿入体10aまでのZ軸方向における最短距離である。たとえば、
図6Aに示す断面の場合、Z軸上方のコイル導体8aから挿入体10aの上面までの垂線距離d2aと、Z軸下方のコイル導体8aから挿入体10aの下面までの垂線距離d2bのうち、Z軸上方の垂線距離d2aを最短距離D2として採用する。
【0065】
D2/D1が上述した条件を満たすことで、浮遊容量の発生を効果的に抑制することができると考えられ、高周波帯域におけるQ値をより向上させることができる。特に、挿入体10aは、コイル内側領域20におけるZ軸方向の中央に配置してあることがより好ましい(すなわち、d2a=d2b=D2であることがより好ましい)。
【0066】
また、
図6Aに示すように、挿入体10aは、X軸方向においても、コイル導体8aと直に接しないことが好ましく、コイル内側領域20のX軸方向における中央に位置することがより好ましい。つまり、
図6Aに示す断面において、挿入体10aの中心点と、コイル内側領域20の中心点とが、凡そ一致していることがより好ましい。
【0067】
また、コイル内側領域20のX軸方向の幅をW1とし、挿入体10aのX軸方向の幅をW
INとすると、W
IN/W1(単位なし)が、0.97未満であることが好ましく、0.90以下であることがより好ましく、0.80以下であることがさらに好ましい。もしくは、X軸方向において、挿入体10aの端縁と、当該端縁と対向するコイル導体8aと、の間隔をW2とすると(
図6A参照)、W2/W1(単位なし)は、0.05以上であることが好ましく、0.1以上であることがより好ましい。上記のように、挿入体10aのX軸方向における寸法を調整することで、浮遊容量の発生をより効果的に抑制できると考えられる。
【0068】
なお、第2実施形態では、挿入体10aがフェライト薄膜1のみで構成してあるため、Z軸方向における挿入体10aの高さDINが、フェライト薄膜1の平均厚みt1に相当する。コイル部2aにおけるフェライト薄膜1の平均厚みt1は、5μm以下であることが好ましく、0.5μm以上5μm以下であることがより好ましく、1μm以上5μm以下であることがさらに好ましい。t1を5μm以下とすることで、形状磁気異方性により、高周波帯域におけるフェライト薄膜1の透磁率をより向上させることができ、かつ、磁気損失をより低減することができる。その結果、コイル部品2aのインダクタンスおよびQ値をより向上させることができる。
【0069】
図6Bに示すX軸と垂直な断面(コイル軸(Y軸)と平行な断面)において、挿入体10aのY軸方向の長さL
INは、コイル部8のY軸方向の長さL1と比べて、長くすることもできるし、短くすることもできる。ただし、挿入体10aは、コイル内側領域20に完全に収まっていることが好ましく、コイル部8の開口面から突出していないことが好ましい。具体的に、L
IN<L1であることが好ましく、L
IN/L1(単位なし)が、0.10~0.90であることがより好ましく、0.30~0.80であることがさらに好ましい。コイル部8に電流を流した際、コイル部8のY軸方向の端縁近傍では、コイル軸と交差する乱れた磁束が生じ易い。挿入体10aの長さL
INが上記の条件を満たす場合、コイル部8により発生する磁束は、コイル軸(Y軸)と平行な状態で挿入体10aに導入されやすくなり、Q値のさらなる向上が図れると考えられる。
【0070】
次に、
図5~
図6Bに示すコイル部品2aの製造方法について、一例を挙げて説明する。コイル部品2aは、たとえば、フォトリソグラフィ法を応用して製造することができ、この場合、
図5~
図6Bに示すコイル部品2aのZ軸上方側からZ軸下方側に向かって、素体4とコイル部8とを形成していく。
【0071】
具体的に、所定の基材の上に、素体4を構成する複数の絶縁層や、コイル部8を構成する導体パターンを、各種成膜法により積層する。基材の材質は、特に限定されず、たとえば、シリコン基板、酸化アルミニウム基板、Ni箔、ガラス基板、非磁性フェライト基板、ガラスエポキシ樹脂などの樹脂基板などを用いることができる。また、各絶縁層の成膜方法も特に限定されず、素体4を構成する材質に応じて、公知の成膜法を採用すればよい。たとえば、硬化したフォトレジストで素体4を構成する場合は、フォトレジスト剤を基材の上に塗布した後、その基材に対して、紫外線を照射するなどの硬化処理を施すことで、各絶縁層を形成できる。
【0072】
コイル部8については、たとえば、メッキ法やスパッタ法などの成膜法により形成することができる。具体的に、X軸方向に沿うコイル導体8aのパターンは、所定の絶縁層の上に、メッキ法やスパッタ法で電極膜を形成し、当該電極膜を、フォトエッチング法、もしくは、リフトオフ法によりパターニングすることで形成できる。また、Z軸方向に沿うコイル導体8aのパターンは、積層した絶縁層に複数のビアホールを形成し、メッキ法により各ビアホールの内部を埋めることで形成できる。
【0073】
なお、素体4を硬化したフォトレジストで構成する場合は、フォトレジスト剤を塗布した後、露光や現像を行う過程でビアホールを形成すればよい。一方、素体4をアルミナなどの酸化物やガラスで構成する場合は、フォトエッチング法もしくはリフトオフ法により絶縁層をパターニングすることで、ビアホールを形成すればよい。
【0074】
フェライト薄膜1である挿入体10aについては、上述した絶縁層やコイル部8の導体パターンを積層していく過程で、所定の位置に形成する。つまり、フェライト薄膜1を、コイル内側領域20の一部を構成する所定の絶縁層の上に形成する。フェライト薄膜1は、第1実施形態で述べたスピンスプレー法による間欠的な成膜により形成する。スピンスプレー法で形成したフェライト薄膜1については、フォトエッチング法などにより、所定の寸法(WIN、LIN)となるようにパターニングすればよい。なお、パターニング加工によりフェライト薄膜1の一部を除去した領域には、素体4を構成する絶縁層を積層すればよい。
【0075】
挿入体10aを形成した後、挿入体10aの上には、さらに絶縁層やコイル部8の導体パターンを積層する。このような工程により、コイル部8および挿入体10aを含む素体4が得られる。当該素体4の底面4b1側の表面には、メッキ法やスパッタ法により外部端子6を形成すればよい。そして、製造時に使用した基材を機械研磨などにより除去(バックグラインド工程)することで、
図5~
図6Bに示すようなコイル部品2aが得られる。
【0076】
コイル部品2aは、様々な回路に組み込まれるインダクタ、フィルタ、トランス、チョークコイルなどとして利用することができ、特に、RF回路などの動作周波数が高い分野(100MHz以上、好ましくは1GHz以上5GHz以下)で好適に用いることができる。
【0077】
(第2実施形態のまとめ)
第2実施形態のコイル部品2aは、非磁性体を含む素体4と、素体4の内部に配置してあり素体4の非磁性体で覆われたコイル部8と、を有する。そして、第1実施形態で述べたフェライト薄膜1を含む挿入体10aが、コイル部8の導体で囲まれたコイル内側領域20に配置してある。
【0078】
フェライト薄膜1をコイル内側領域20に挿入することで、従来のスピンスプレー法や他の成膜法で成膜したフェライト薄膜を挿入する場合と比較して、高周波帯域におけるコイル部品2aのインダクタンスおよびQ値を高くすることができる。特に、コイル部品2aでは、コイル部8の仕様(ターン数や断面積)を変更せずとも、インダクタンスおよびQ値の向上効果が得られる。つまり、高周波帯域において、インダクタンスおよびQ値の向上と、コイル部品2aの小型化と、を両立して実現することができる。
【0079】
また、挿入するフェライト薄膜1の平均厚みt1を5μm以下とすることで、形状磁気異方性が大きくなり、高周波帯域におけるコイル部品2aのインダクタンスおよびQ値をさらに向上させることができる。
【0080】
第3実施形態
以下、
図7に基づいて、第3実施形態に係るコイル部品2bについて説明する。なお、第3実施形態のコイル部品2bにおいて、第2実施形態と共通の構成に関しては、説明を省略し、同様の符号を使用する。
【0081】
図7に示すように、コイル部品2bのコイル内側領域20には、挿入体10bが挿入してある。第2実施形態における挿入体10aは、1層のフェライト薄膜1のみで構成してあったが、第3実施形態の挿入体10bは、積層構造を有する。具体的に、挿入体10bは、第1実施形態で述べたフェライト薄膜1からなる磁性層12と、非磁性層14とを、有しており、2以上の磁性層12が非磁性層14を介してコイル軸と直交するZ軸方向に沿って積層してある。
【0082】
非磁性層14を介してフェライト薄膜1を複数積層することで、高い形状磁気異方性を維持したまま、コイル内側領域20に占める磁性体の比率を高くすることができる。その結果、コイル部品2bでは、1層のフェライト薄膜1を挿入したコイル部品2aよりも、インダクタンスおよびQ値をさらに向上させることができる。
【0083】
図7に示す磁性層12の1層当たりの平均厚みt
Mは、フェライト薄膜1の平均厚みt1に相当する(すなわちt
M=t1)。挿入体10bにおいても、フェライト薄膜1の平均厚みt1は、5μm以下であることが好ましく、0.5μm以上5μm以下であることがより好ましく、1μm以上5μm以下であることがさらに好ましい。また、磁性層12の積層数は、コイル部品2bの寸法(すなわちコイル内側領域20の寸法)に応じて適宜調整することができるが、たとえば、2~100とすることができ、10~80であることが好ましく、10~25であることがより好ましい。
【0084】
また、磁性層12の平均厚みtMに対する挿入体10bのX軸方向の幅WINの比:WIN/tMが、4.0以上であることが好ましく、4.0以上200以下であることがより好ましく、10以上100以下であることがさらに好ましい。このWIN/tMは、コイル軸と直交する断面における磁性層12のアスペクト比(短辺に対する長辺の比)に相当する。WIN/tMを上記の好適範囲に設定することで、形状磁気異方性を大きくすることができ、高周波帯域におけるインダクタンスをより向上させることができる。
【0085】
非磁性層14は、磁性層12と直に接して積層してある。この非磁性層14は、強磁性を示さない非磁性材料で構成してある。非磁性材料としては、ポリイミドやPTFE(polytetrafluoroethylene)などの各種樹脂材料、AlNなどの窒化物、SiO2,Al2O3,Fe2O3,ZnFe2O4などの酸化物非磁性材料、ガラス、AlやCuなどの金属非磁性材料、硬化処理したフォトレジストなどを用いることができる。非磁性層14は、上記の非磁性材料のなかでも、Fe2O3またはZnFe2O4などの非磁性のフェライト層であることが好ましく、ZnFe2O4からなる非磁性のフェライト層であることがより好ましい。非磁性層14を非磁性のフェライトで構成することで、磁性層12と非磁性層14との密着性が向上し、高周波帯域におけるインダクタンスをさらに向上させることができる。
【0086】
なお、非磁性層14は、素体4を構成する非磁性材料と同じ材質で構成してあってもよい。非磁性層14と素体4とが同じ材質である場合、Z軸方向における挿入体10bの範囲は、Z軸方向の最下層に位置する磁性層14の下面から、Z軸方向の最上層に位置する磁性層14の上面までの範囲である。一方、非磁性層14が素体4とは異なる非磁性材料で構成してある場合、挿入体10bの最下層または/および最上層には、非磁性層14が積層してあってもよい。つまり、挿入体10bには、最下層または/および最上層の非磁性層14が含まれ、当該非磁性層14の厚みを含めて、挿入体10bの高さDINを算出する。
【0087】
非磁性層14の1層当たりの平均厚みtNは、1μm以下であることが好ましく、5nm以上1μm以下であることがより好ましい。また、非磁性層14の平均厚みtNは、磁性層12の平均厚みtMよりも薄いことが好ましい。つまり、tNに対するtMの比:tM/tNは、1よりも大きい(1<tM/tN)ことが好ましい。tNは、薄ければ薄い方が好ましいため、tM/tNの上限値は、特に限定されない。非磁性層14よりも磁性層12を厚くすることで、インダクタンスがより向上する傾向となる。
【0088】
なお、磁性層12と非磁性層14とは、SEMなどの電子顕微鏡による断面観察において、コントラストの違いにより識別できる。各層の材質によっては磁性層12と非磁性層14との境界が明瞭でない場合もあるが、この場合でも、EDX等によるマッピング分析により、磁性層12と非磁性層14とを識別することができる。tMやtNについては、上記の方法で磁性層12と非磁性層14とを識別したうえで、少なくとも10箇所以上で各層の厚みを計測することで、算出すればよい。
【0089】
積層構造を有する挿入体10bでは、DIN/D1(単位なし)が、0.40以上0.90以下であることが好ましく、0.45以上0.85以下であることがより好ましく、0.50以上0.80以下であることがさらに好ましい。DIN/D1を上記の範囲とすることで、コイル導体8aに発生する電界が挿入体10bを通過することを抑制でき、浮遊容量をより好適に低減できると考えられる。
【0090】
なお、挿入体10bのX軸方向の幅W
IN、および、Y軸方向の長さL
INについては、第2実施形態の挿入体10aと同様の範囲に設定すればよく、W
IN/W1およびL
IN/L1が第2実施形態で述べた範囲に制御してあることが好ましい。また、挿入体10bの配置についても、第2実施形態における挿入体10aの配置と同様とすればよく、D2/D1およびW2/W1が第2実施形態で述べた範囲に制御してあることが好ましい。挿入体10bについても、
図7に示す断面において、コイル内側領域20の中央に配置してあることが好ましく、挿入体10bの中心点と、コイル内側領域20の中心点とが、凡そ一致していることがより好ましい。
【0091】
図7に示す断面において、W1×D1で表されるコイル内側領域20の断面積をA1とし、W
IN×D
INで表される挿入体10bの断面積をA
INとすると、A
IN/A1(単位なし)が、0.81未満であることが好ましく、0.72以下であることがより好ましく、0.64以下であることがさらに好ましい。A
IN/A1が上記の条件を満たすことで、浮遊容量の発生をより効果的に抑制することができると考えられる。また、コイル部8により発生する磁束が、コイル軸(Y軸)と平行な状態で挿入体10bに導入されやすくなると考えられる。その結果、高周波帯域におけるインダクタンスおよびQ値をより向上させることができる。
【0092】
なお、AIN/A1が大きくなるほど、インダクタンスはさらに向上する傾向となる。そのため、AIN/A1は、0.15以上であることが好ましく、0.30以上であることがより好ましい。
【0093】
また、
図7に示す断面において、磁性層12の総面積をA
Mとし、非磁性層14の総面積A
Nとする。A
Mは、式「A
M=t
M×W
IN×磁性層12の積層数」で表すことができ、A
Nは、式「A
N=t
N×W
IN×非磁性層14の積層数」で表すことができ、A
MとA
Nの和が挿入体10bの断面積A
INに該当する。挿入体10bにおいて磁性層12が占める面積比率:A
M/A
IN(%)は、50%以上であることが好ましく、60%以上であることがより好ましく、70%以上であることがさらに好ましい。A
M/A
INが上記の範囲内であることで、高周波帯域におけるインダクタンスをより向上させることができる。なお、A
M/A
IN(%)の上限は、特に限定されず、前記t
N、t
Mの範囲を満たす限り、高いほど好ましい。
【0094】
なお、挿入体10bにおいて、各磁性層12の厚みは、かならずしも一律でなくてもよい。たとえば、積層構造の挿入体10bには、他の磁性層12よりも厚い磁性層12が含まれていてもよく、他の磁性層12よりも薄い磁性層12が含まれていてもよい。同様に、各非磁性層14の厚みは、かならずしも一律でなくてもよい。たとえば、積層構造の挿入体10bには、他の非磁性層14よりも厚い非磁性層14や、他の非磁性層14よりも薄い非磁性層14が含まれていてもよい。
【0095】
図9に示すコイル部品2bは、第2実施形態のコイル部品2aと同様の方法で製造することができる。つまり、スピンスプレー法による間欠的な成膜でフェライト薄膜1(磁性層12)を形成し、当該フェライト薄膜1の上に、公知の成膜法で非磁性層14を形成する。このフェライト薄膜1の成膜と、非磁性層14の成膜とを、複数回繰り返すことで、挿入体10bを形成すればよい。
【0096】
以上、本開示の実施形態について説明してきたが、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内で種々に改変することができる。
【実施例0097】
以下、本発明の具体的実施例を挙げ、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されない。
【0098】
実験1
(実施例A1~A3)
実験1では、スピンスプレー法の成膜装置(
図3)を用いて、間欠的な成膜により、実施例A1~A3に係るフェライト薄膜を製造した。まず、製造後のフェライト薄膜の組成がCo
0.1Fe
2.9O
4となるように、フェライト原料をイオン交換水中に所定の比率で溶解し、反応液と、酸化液とを得た。この際、反応液に添加したFe原料は、FeCl
2・4H
2Oとし、Co原料はCoCl
2・6H
2Oとした。また、酸化液には、CH
3COONa・3H
2OとKNO
2とを添加した。そして、当該反応液および酸化液を用いてスピンスプレー法による成膜を実施した。基材として、ガラス基板を用い、成膜時における基材の加熱温度は、90℃に設定した。また、成膜室内にはN
2ガスを導入し脱酸素雰囲気とした。
【0099】
実施例A1~A3では、それぞれ、ロッキングカーブの半値幅が所定の値となるように、成膜作業の回数(すなわち一時停止の回数)と、1回あたりの成膜厚みtUとを制御した。1回あたりの成膜厚みtUは、実施例A1~A3のうち、実施例A1が最も薄く、実施例A3が最も厚かった。
【0100】
上記で得られた各実施例のフェライト薄膜の断面(面直方向に沿う断面)をSEMで観察し、フェライト薄膜の組成と平均厚みt1とを測定した。また、フェライト薄膜の表面を面直方向から観察(SEM観察)し、その際に、EBSDを用いた結晶方位分析を実施した。その結果、各実施例におけるフェライト薄膜では、狙い通り、表1に示す組成が得られ、スピネル型の結晶構造を有することがわかった。また、各実施例における平均厚みt1は、表1に示す値であった。さらに、各実施例では、いずれも、面直方向において(111)面が配向していることが確認でき、(111)面に関するロッキングカーブの半値幅は、表1に示す値であった。
【0101】
(比較例A1)
比較例A1では、成膜方法としてスピンスプレー法を採用したが、成膜作業を一時停止することなく、連続的な成膜によりフェライト薄膜を製造した。反応液および酸化液については、実施例A1~A3と同じ溶液を用い、連続的な成膜を行ったこと以外の成膜条件は、実施例A1~A3と同様とした。
【0102】
比較例A1のフェライト薄膜についても、上記実施例と同様に、SEMによる断面観察、および、EBSDを用いた結晶方位分析を実施した。表1に示すように、比較例A1におけるフェライト薄膜の組成は、実施例A1~A3と同じ組成であった。ただし、比較例A1のフェライト薄膜では、スピネル型結晶の(111)面が、面直方向において、実施例A1~A3よりも強く配向しており、ロッキングカーブの半値幅が10°未満となった。
【0103】
(比較例A2)
比較例A2では、実施例A1~A3と同様に、スピンスプレー法の成膜装置を用いて、間欠的な成膜を実施した。ただし、比較例A2では、1回あたりの成膜厚みtUが実施例A1よりも薄くなるように、1回あたりの成膜時間を実施例A1よりも短く設定した。単位作業当たりの成膜厚みが異なること以外は、実施例A1と同じ条件とし、比較例A2に係るフェライト薄膜を得た。
【0104】
比較例A2のフェライト薄膜についても、上記実施例と同様に、SEMによる断面観察、および、EBSDを用いた結晶方位分析を実施した。表1に示すように、比較例A2におけるフェライト薄膜の組成は、実施例A1~A3と同じ組成であった。ただし、比較例A2のフェライト薄膜では、面直方向における(111)面の配向度が、実施例A1~A3よりもさらに弱く、ロッキングカーブの半値幅が35°超過であった。
【0105】
(薄膜の特性評価)
実験1の各実施例および各比較例の磁気特性を測定した。具体的に、短絡マイクロストリップ線路を用いた透磁率測定装置により、測定周波数2GHzにおける透磁率μ′(単位なし)および磁気損失tanδ(単位なし)を測定した。なお、「透磁率μ′」は、複素透磁率の実部であり、複素透磁率の虚部を、「透磁率μ"」で表す。また、tanδは、複素透磁率の実部に対する虚部の比であり、μ"/μ′で表される。本実験では、透磁率μ′が1.5以上で、かつ、磁気損失tanδが1.0未満である試料を、「良好」と判断した。実験1における磁気特性の評価結果を表1に示す。
【0106】
【0107】
表1に示すように、ロッキングカーブの半値幅が10°未満である比較例A1では、磁気損失が大きく、実験1における磁気損失の評価基準を満たすことができなかった。また、半値幅が35°超過である比較例A2では、磁気損失の評価基準を満たすことができなかっただけでなく、透磁率の評価基準も満たすことができなかった。一方、半値幅が10°以上35°以下の範囲内にある実施例A1~A3では、透磁率および磁気損失が、比較例A1~A2よりも向上し、1GHz以上の高周波帯域における磁気特性の評価結果が良好であった。
【0108】
実験1の結果から、面直方向における(111)面の配向度を、10°≦FWHM≦35°を満たす程度に弱めることで、高周波帯域における透磁率を高くすることができ、かつ、磁気損失を低減できることがわかった。
【0109】
実験2
実験2では、表2に示す膜組成を有する実施例A3~A24のフェライト薄膜を製造した。なお、実施例A3は、実験1と同じ試料である。各実施例A3~A24では、表2に示す組成を満たすように、反応液の成分比を調整した。Fe原料およびCo原料は、実験1と同様のFeCl2・4H2OおよびCoCl2・6H2Oとした。また、Niまたは/およびZnを添加する場合は、Ni原料として、NiCl2・6H2Oを用い、Zn原料としてZnCl2を用いた。酸化液については、実験1と同じ溶液を用いた。
【0110】
実験2においても、実験1の各実施例と同様に、スピンスプレー法の成膜装置を用いた間欠的な成膜により、各実施例A3~A24のフェライト薄膜を得た。具体的に、各実施例A3~A24では、成膜作業を3回~5回実施し、最終的に得られるフェライト薄膜の平均厚みt1が20μm±0.5μmとなるように、1回あたりの成膜厚みtUを制御した。なお、上記以外の成膜条件は、実験1と同様とした。
【0111】
実験2の各実施例に対して、SEMによる断面観察、および、EBSDを用いた結晶方位分析を実施した結果を、表2に示す。
【0112】
(比較例A3~A8)
比較例A3~A8のフェライト薄膜は、実験A3~A24と同様に、スピンスプレー法の成膜装置を用いた間欠的な成膜により製造した。ただし、比較例A3およびA4では、反応液中にCo原料を添加しなかった。具体的に、比較例A3における膜組成は、Fe3O4とし、Co、NiおよびZnを添加しなかった。比較例A4の膜組成は、Ni0.2Zn0.2Fe2.6O4とし、Coを添加しない代わりにNiおよびZnを添加した。
【0113】
比較例A5では、各実施例A3~A24よりもNiの添加量を増やし、Niの原子数比yを0.5とした。比較例A6では、各実施例A3~A24よりもZnの添加量を増やし、Znの原子数比zを0.5とした。比較例A7では、各実施例A3~A24よりもCo、NiおよびZnの合計添加量を増やし、x+y+zを1.1とした。また、比較例A8では、各実施例A3~A24よりもCoの添加量を増やし、Coの原子数比xを0.6とした。
【0114】
上記のように比較例A3~A8では、実施例A3~A24とは異なる膜組成に設定したが、膜組成以外の成膜条件は、実施例A3~A24と同様とした。実験2の各比較例に対して、SEMによる断面観察、および、EBSDを用いた結晶方位分析を実施した結果を、表2に示す。
【0115】
また、実験2においても、実験1と同じ方法で、各実施例および各比較例の磁気特性を測定した。実験2の磁気特性の評価基準は、実験1と同じであり、透磁率μ′が1.5以上で、かつ、磁気損失tanδが1.0未満である試料を、「良好」と判断した。実験2における磁気特性の評価結果を表2に示す。
【0116】
【0117】
表2に示すように、比較例A3~A8では、ロッキングカーブの半値幅が10°~35°の範囲内ではあるものの、磁気特性の評価基準を満足することができなかった。一方、膜組成が、0.1≦x≦0.5、0.0≦y≦0.4、0.0≦z≦0.4、および、(x+y+z)≦1を満たす実施例A3~A24では、透磁率および磁気損失が良好であった。
【0118】
実験1および実験2の結果から、膜組成が0.1≦x≦0.5、0.0≦y≦0.4、0.0≦z≦0.4、および、(x+y+z)≦1を満たし、かつ、10°≦FWHM≦35°を満たす場合に、1GHz以上の高周波帯域において、高い透磁率と低い磁気損失とを両立して達成できることがわかった。
【0119】
また、実験2の結果から、0.1≦x≦0.5を満たす範囲で、Coの含有率を増やすと、透磁率が低下するものの、磁気損失をより低減できることがわかった。Niについては、必ずしも添加せずともよく、y≦0.4を満たす範囲でNiを添加した場合には、透磁率が微減するものの、磁気損失をより低減できることがわかった。Znについては、必ずしも添加せずともよく、z≦0.4を満たす範囲でZnを添加した場合には、磁気損失が微増するものの、透磁率をより向上できることがわかった。
【0120】
実験3
実験3では、単一のフェライト薄膜をコイル内側領域に配置した実施例B1~B9に係るコイル部品を製造した。各実施例B1~B9のコイル部品は、
図5~
図6Bに示すコイル部品2aと同様の構造を有するように、フォトリソグラフィ法を応用して製造した。各実施例における素体の材質は、ポリイミドとし、ソレノイド型のコイル部はメッキ法により形成した。コイル部における導体の巻回数は、5ターンであり、コイル内側領域20の高さD1は137μm、幅W1は200μm、長さL1は、105μmとした。
【0121】
また、各実施例では、Co0.1Fe2.9O4からなるフェライト薄膜を、スピンスプレー法の成膜装置を用いて間欠的な成膜により形成し、コイル内側領域の中心に配置した。各実施例のフェライト薄膜の幅WINは、いずれも148μmとし、長さLINは、いずれも100μmとした。また、各実施例において、コイル内側領域に存在するフェライト薄膜の平均厚みt1、および、半値幅(FWHM)を計測したところ、表3に示す結果であった。実験3で形成したフェライト薄膜は、いずれも、面直方向に(111)面が配向した膜であり、(111)面の配向度が所定の範囲で弱まっていることが確認できた。具体的に、各実施例B1~B9のフェライト薄膜において、(111)面に関するロッキングカーブの半値幅は、表3に示すように10°~13°の範囲内であった。ただし、実施例B1~B9では、フェライト薄膜の平均厚みt1が、それぞれ、異なっていた。
【0122】
(比較例B1~B9)
比較例B1~B9では、(111)面の配向が強いフェライト薄膜を、コイル内側領域の中心に配置した。つまり、比較例B1~B9では、フェライト薄膜の平均厚みt1が表3に示す膜厚に達するまで、連続的してスピンスプレー法による成膜を実施し、フェライト薄膜を形成した。各比較例B1~B9で形成したフェライト薄膜の半値幅は、いずれも、10°未満であった。上記以外の実験条件は、実施例B1~B9と同様とした。
【0123】
(コイル部品の特性評価)
実験3では、ネットワークアナライザにより各実施例および各比較例のインダクタンスおよびQ値を測定した。この際、測定周波数は2GHzに設定した。実験3では、インダクタンスが4.7nH以上で、かつ、Q値が6.4以上である試料を「良好」と判断し、インダクタンスが4.7nH以上で、かつQ値が7.0以上である試料を、「特に良好」と判断した。実験3におけるコイル部品の評価結果を表3に示す。
【0124】
【0125】
表3に示すように、実施例B1~B9では、2GHzにおけるインダクタンスおよびQ値が、比較例B1~B9よりも向上していた。この結果から、(111)面の配向度を弱めたフェライト薄膜をコイル内側領域に配置することで、高周波帯域におけるインダクタンスおよびQ値が向上することがわかった。特に、実施例B2~B8のQ値が7以上と高く、フェライト薄膜の平均厚みt1は0.5以上5.0以下であることが好ましいことがわかった。
【0126】
実験4
実験4では、
図7に示すような構造を有する実施例C1~C9に係るコイル部品を製造した。具体的に、各実施例C1~C9では、Co
0.1Fe
2.9O
4からなるフェライト薄膜(磁性層)と、ZnFe
2O
4からなる非磁性層とを、有する挿入体を、コイル内側領域の中心に配置した。各実施例C1~C9における挿入体では、フェライト薄膜と非磁性層とを、コイル軸と直交するZ軸方向に沿って、交互に積層した。また、挿入体の寸法は、各実施例C1~C9で一律とし、いずれも、高さD
INが120μm、幅W
INが148μm、長さL
INが100μmであった。
【0127】
ただし、フェライト薄膜の平均厚みt1(すなわち磁性層の平均厚みtM)、および、フェライト薄膜の積層数は、実施例C1~C9で異なっており、各実施例におけるt1および積層数は、表4に示す値に設定した。一方、非磁性層の平均厚みtNについては、各実施例で一律とし、tNは、いずれも1μmであった。
【0128】
なお、実験4の各実施例に含まれるフェライト薄膜は、いずれも、スピンスプレー法の成膜装置を用いた間欠的な成膜により形成した。そのため、実験4で形成したフェライト薄膜は、いずれも、面直方向に(111)面が配向した膜であり、(111)面の配向度が所定の範囲で弱まっていることが確認できた。具体的に、各実施例C1~C9における半値幅は、表4に示す値であった。
【0129】
上記以外の製造条件は、実験3と同様であり、実験4における素体の材質やコイル内側領域の寸法は、実験3の各実施例で製造したコイル部品と同じである。実験4の各実施例について、2GHzにおけるインダクタンスおよびQ値を測定した結果を、表4に示す。
【0130】
【0131】
表3と表4とを比較すると、実験4における実施例C1~C9のインダクタンスが、実験3よりも高かった。この結果から、単層の挿入体(10a)よりも積層構造の挿入体(10b)のほうが、高周波帯域でより高いインダクタンスが得られることがわかった。
【0132】
また、表3と表4とを比較すると、実施例C2~C8において、インダクタンスおよびQ値が特に向上していた。この結果から、非磁性層を介して積層するフェライト薄膜の平均厚みt1は、0.5~5.0μmであることが好ましいことがわかった。
【0133】
実験5
実験5においても、実験4と同様に、
図7に示すような構造を有する実施例D1~D3に係るコイル部品を製造した。実験5では、フェライト薄膜の1層当たりの平均厚みt1を、各実施例D1~D3で、一律の5.0μmとし、フェライト薄膜(磁性層)の積層数を、各実施例D1~D3で異なる値に設定した。上記以外の製造条件は、実験4の実施例C8と同様とした。実験5の評価結果を表4に示す。
【0134】
【0135】
表5に示すように、フェライト薄膜の積層数が多いほど、高周波帯域におけるインダクタンスおよびQ値がより向上する結果となった。つまり、フェライト薄膜の平均厚みt1を最適な範囲(0.5μm以上5.0μm以下)に設定したうえで、フェライト薄膜の積層数を増やすことで、高周波帯域でより高いインダクタンスおよびQ値が得られることがわかった。
【0136】
実験6
実験6では、積層構造の挿入体をコイル内側領域に形成する場合において、フェライト薄膜の平均厚みt1と積層数とを最適化したうえで、膜組成や半値幅を変更する実験を行った。具体的に、実験6の各実施例および各比較例において、t1は、一律に5.0μmとし、フェライト薄膜の積層数は、一律に20とした。そして、各実施例および各比較例における膜組成および半値幅を、表6に示す値に設定した。上記以外の製造条件は、実験4および5と同様とした。
【0137】
実験6の各試料(実施例E1~E24、および、比較例E1~E8)では、いずれも、実験2~実験5の結果に基づいて、平均厚みt1と積層数とを最適化な値に設定した。そのため、実験6におけるインダクタンスおよびQ値の評価は、実験3~5よりも厳しい評価基準に基づいて実施した。すなわち、実験6では、インダクタンスが5.1以上nHで、かつ、Q値が8.4以上である試料を「良好」と判断した。実験6の評価結果を表6に示す。
【0138】
【0139】
比較例E1~E8では、t1および積層数を最適化し、コイル内側領域に最適な量の磁性材料を導入しているにもかかわらず、2GHzにおけるQ値が小さく、実験6の評価基準を満足できなかった。一方、実施例E1~E24では、比較例E1~E8よりも高いQ値が得られ、実験6の評価基準を満たすことができた。以上の結果から、膜組成と配向度を表6の実施例(E1~E24)に示す範囲に制御することで、1GHz以上の高周波帯域において、高いインダクタンスと高いQ値とを両立して実現できることがわかった。