(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023136141
(43)【公開日】2023-09-29
(54)【発明の名称】画像形成装置、画像形成方法及び画像形成プログラム
(51)【国際特許分類】
H04N 1/60 20060101AFI20230922BHJP
B41J 2/525 20060101ALI20230922BHJP
G03G 15/01 20060101ALI20230922BHJP
【FI】
H04N1/60
B41J2/525
G03G15/01 S
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022041602
(22)【出願日】2022-03-16
(71)【出願人】
【識別番号】000006150
【氏名又は名称】京セラドキュメントソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115831
【弁理士】
【氏名又は名称】藤岡 隆浩
(72)【発明者】
【氏名】萬田 悦子
【テーマコード(参考)】
2C262
2H300
5C079
【Fターム(参考)】
2C262AA02
2C262AA23
2C262AB17
2C262AC02
2C262BA02
2C262BA20
2C262BB03
2C262BC01
2C262BC17
2C262EA08
2C262EA10
2C262EA11
2H300GG02
2H300GG12
2H300SS12
2H300TT03
2H300TT04
5C079HB06
5C079LA02
5C079LB01
5C079MA04
5C079NA03
5C079PA03
(57)【要約】
【課題】グレーバランスの変動に起因する視覚的な違和感を抑制する技術を提供する。
【解決手段】画像形成装置は、入力画像を表す入力画像データを取得する画像データ取得部と、入力画像内の人間の肌の色を表す肌色領域を検出し、入力画像の各画素の彩度を計算する画像解析部と、入力画像内において肌色領域以外の領域であって、彩度が閾値よりも小さな所定の低彩度領域を特定し、低彩度領域におけるグレーバランスの変動に起因する所定の色相角の色の発生を抑制するためのグレーバランス補正がされた出力画像を表す出力画像データを生成する画像処理部と、出力画像データに基づいて画像形成媒体上に画像を形成する画像形成部とを備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力画像を表す入力画像データを取得する画像データ取得部と、
前記入力画像内の人間の肌の色を表す肌色領域を検出し、前記入力画像の各画素の彩度を計算する画像解析部と、
前記入力画像内において前記肌色領域以外の領域であって、前記彩度が閾値よりも小さな所定の低彩度領域を特定し、前記低彩度領域におけるグレーバランスの変動に起因する所定の色相角の色の発生を抑制するためのグレーバランス補正がされた出力画像を表す出力画像データを生成する画像処理部と、
前記出力画像データに基づいて画像形成媒体上に画像を形成する画像形成部と、
を備える画像形成装置。
【請求項2】
請求項1記載の画像形成装置であって、
前記画像処理部は、色材量の変動が彩度と色相に与える影響ベクトルに基づいて前記グレーバランス補正における各色材の補正量を設定する、画像形成装置。
【請求項3】
請求項1又は2記載の画像形成装置であって、
前記画像処理部は、前記グレーバランス補正として前記所定の色相角に近づく補正を実行する、画像形成装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の画像形成装置であって、
前記画像処理部は、前記画像形成媒体の白色点の色に起因して発生する色の発生を抑制するように前記グレーバランス補正を実行する、画像形成装置。
【請求項5】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の画像形成装置であって、
前記所定の色相角は、青色の補色の方向の角度である、画像形成装置。
【請求項6】
入力画像を表す入力画像データを取得する画像データ取得工程と、
前記入力画像内の人間の肌の色を表す肌色領域を検出し、前記入力画像の各画素の彩度を計算する画像解析工程と、
前記入力画像内において前記肌色領域以外の領域であって、前記彩度が閾値よりも小さな所定の低彩度領域を特定し、前記低彩度領域におけるグレーバランスの変動に起因する所定の色相角の色の発生を抑制するためのグレーバランス補正がされた出力画像を表す出力画像データを生成する画像処理工程と、
前記出力画像データに基づいて画像形成媒体上に画像を形成する画像形成工程と、
を備える画像形成方法。
【請求項7】
入力画像を表す入力画像データを取得する画像データ取得部、
前記入力画像内の人間の肌の色を表す肌色領域を検出し、前記入力画像の各画素の彩度を計算する画像解析部、
前記入力画像内において前記肌色領域以外の領域であって、前記彩度が閾値よりも小さな所定の低彩度領域を特定し、前記低彩度領域におけるグレーバランスの変動に起因する所定の色相角の色の発生を抑制するためのグレーバランス補正がされた出力画像を表す出力画像データを生成する画像処理部、及び
前記出力画像データに基づいて画像形成媒体上に画像を形成する画像形成部として画像形成装置を機能させる画像形成プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像データに基づいて画像形成媒体上に画像を形成する画像形成技術に関する。
【背景技術】
【0002】
画像形成装置は、一般にシアン、マゼンタ、イエロー及びブラックのプロセスカラーの色材の減法混色によって各色を再現することによってカラー画像を再現する。このような色再現方法では、完全な無彩色を再現することは困難であり、たとえばプリントエンジンの特性変動等の画像形成誤差の要因によってグレースケールの色調変化として顕在化することがある。
【0003】
このような問題に対して、たとえば特許文献1は、複数の濃度レベルのグレーを表す入力色値のすべてについて、各入力色値に基づく測色用画像を画像形成装置に形成させて測色し、その測色値のCIEL*a*b*色空間におけるa*値及びb*値の少なくとも一方が、0よりも小さい所定の色相維持上限値を上回っている場合には、その入力色値に基づく測色用画像の測色値のa*値及びb*値が共に色相維持上限値以下となるように、各入力色値に対応するデバイスプロファイルの出力色値を補正する方法を提案している。特許文献1は、これにより、経年変化等によって画像を形成する色材の量が変動することで生じるグレーバランスの崩れを抑制し、キャリブレーション処理を頻繁に実行することなくグレーの色味の安定性を高めることができるとしている。
【0004】
一方、たとえば特許文献2は、各画素の特性(例えば、モノトーン画素もしくはカラー画素)に対応して、画素毎に適宜使用する色変換テーブルを変更する技術を提案している。特許文献2は、これにより、モノトーンデータを形成する画素に対する高精度の色コントロールを実現可能とするとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011-206217号公報
【特許文献2】特開2004-112313号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、本願発明者は、グレーバランスの問題に対し、敢えて従来とは全く異なる点に着目し、人間の視覚及び感覚の観点から本問題の解決に成功した。
【0007】
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであり、グレーバランスの変動に起因する視覚的な違和感を抑制する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の画像形成装置は、入力画像を表す入力画像データを取得する画像データ取得部と、前記入力画像内の人間の肌の色を表す肌色領域を検出し、前記入力画像の各画素の彩度を計算する画像解析部と、前記入力画像内において前記肌色領域以外の領域であって、前記彩度が閾値よりも小さな所定の低彩度領域を特定し、前記低彩度領域におけるグレーバランスの変動に起因する所定の色相角の色の発生を抑制するためのグレーバランス補正がされた出力画像を表す出力画像データを生成する画像処理部と、前記出力画像データに基づいて画像形成媒体上に画像を形成する画像形成部とを備える。
【0009】
本発明の画像形成方法は、入力画像を表す入力画像データを取得する画像データ取得工程と、前記入力画像内の人間の肌の色を表す肌色領域を検出し、前記入力画像の各画素の彩度を計算する画像解析工程と、前記入力画像内において前記肌色領域以外の領域であって、前記彩度が閾値よりも小さな所定の低彩度領域を特定し、前記低彩度領域におけるグレーバランスの変動に起因する所定の色相角の色の発生を抑制するためのグレーバランス補正がされた出力画像を表す出力画像データを生成する画像処理工程と、前記出力画像データに基づいて画像形成媒体上に画像を形成する画像形成工程とを備える。
【0010】
本発明の画像形成プログラムは、入力画像を表す入力画像データを取得する画像データ取得部、前記入力画像内の人間の肌の色を表す肌色領域を検出し、前記入力画像の各画素の彩度を計算する画像解析部、前記入力画像内において前記肌色領域以外の領域であって、前記彩度が閾値よりも小さな所定の低彩度領域を特定し、前記低彩度領域におけるグレーバランスの変動に起因する所定の色相角の色の発生を抑制するためのグレーバランス補正がされた出力画像を表す出力画像データを生成する画像処理部、及び前記出力画像データに基づいて画像形成媒体上に画像を形成する画像形成部として前記画像形成装置を機能させる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、グレーバランスの変動に起因する視覚的な違和感を抑制する技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施形態に係る画像形成システム10の機能構成を示すブロックダイアグラムである。
【
図2】一実施形態に係る画像形成処理の内容を示すフローチャートである。
【
図3】一実施形態に係る色変換処理及び補正処理の内容を示す説明図である。
【
図4】一実施形態に係る色変換処理及び補正処理の内容を示す説明図である。
【
図5】一実施形態に係るグレーバランス補正処理の内容を示すフローチャートである。
【
図6】一実施形態に係る補正処理の内容を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「実施形態」という)を、図面を参照して説明する。
【0014】
図1は、本発明の一実施形態に係る画像形成システム10の機能構成を示すブロックダイアグラムである。画像形成システム10は、画像形成装置100と、パーソナルコンピュータ(PC)200とを備えている。画像形成装置100は、制御部110と、画像読取部120と、画像形成部130と、記憶部140と、通信インターフェース部150(通信I/F部とも呼ばれる。)とを備えている。
【0015】
制御部110は、校正処理部111と、画像解析部112と、画像処理部113とを備えている。画像形成部130は、色変換処理部131と、ハーフトーン処理部132とを備えている。画像形成部130は、CMYKのプロセスカラーを使用して画像を形成可能である。パーソナルコンピュータ200は、通信インターフェース部150を使用して画像形成装置100に接続されている。
【0016】
制御部110は、RAMやROM等の主記憶手段(メモリ)、及びMPU(Micro Processing Unit)やCPU(Central Processing Unit)等の制御手段を備えている。また、制御部110は、各種I/O、USB(ユニバーサル・シリアル・バス)、バス、その他ハードウェア等のインターフェースに関連するコントローラ機能を備え、画像形成装置100全体を制御する。
【0017】
記憶部140は、非一時的な記録媒体であるハードディスクドライブやフラッシュメモリー等からなる記憶装置で、制御部110が実行する処理の制御プログラム(画像形成プログラムを含む。)やデータを記憶する。記憶部140は、さらに、第1補正LUT(ルックアップテーブル)141と、第2補正LUT(ルックアップテーブル)142と、非補正LUT(ルックアップテーブル)143と、印刷対象データベース144とを記憶している。
【0018】
図2は、一実施形態に係る画像形成処理の内容を示すフローチャートである。
図3は、一実施形態に係る色変換処理及び補正処理の内容を示す説明図である。本実施形態に係る画像形成処理では、画像形成システム10は、ユーザーの嗜好等に応じてグレーバランスの変動に起因する視覚的な違和感を抑制することができる。具体的には、たとえばユーザーがグレー(無彩色)の色再現に違和感を有するときに、たとえば「グレーバランス補正モード」として本発明の技術を利用することができる。
【0019】
ステップS100では、ユーザーは、画像処理モード設定処理を実行する。画像処理モード設定処理では、ユーザーは、パーソナルコンピュータ200の操作表示画面(図示略)を使用して処理モードとして「グレーバランス補正モード」を選択する。これにより、ユーザーは、本発明の技術を利用することができる。
【0020】
本実施形態では、画像処理モード設定処理では、ユーザーは、さらに画像形成媒体の種類として「光沢なし」と「光沢あり」のいずれかを選択できるものとする。パーソナルコンピュータ200は、ユーザーからの印刷実行の指示に応じて、各種の印刷設定情報を含む印刷ジョブ(画像形成ジョブとも呼ばれる。)を画像形成装置100に送信する。画像形成装置100は、画像データ取得部として機能する通信インターフェース部150を介して印刷ジョブを受信する。印刷ジョブには、RGBの入力画像であるRGB入力画像を表す入力画像データが含まれている。画像データ取得部は、複写時には画像読取部120が相当する。
【0021】
ステップS200では、画像形成装置100の制御部110は、非補正LUT143をメモリにロードする。本実施形態では、グレーバランスの補正は、印刷画像の全領域ではなく、特定の基準を満たす領域である補正対象領域においてのみ実行される。よって、画像形成部130の色変換処理部131は、補正対象領域以外の領域では、非補正LUT143を使用して色変換を実行する。
【0022】
図3は、一実施形態に係る色変換処理の内容を示す説明図である。
図3(a)は、色変換テーブルである非補正LUT143の内容を示している。非補正LUT143は、グレーバランス補正モード以外でも使用される色変換テーブルである。非補正LUT143は、加法混色のRGB画像の画像データ(各色256階調)であるRGB画像データを、減法混色のCMYK画像の画像データであるCMYK画像データ(各色256階調)に変換するためのルックアップテーブルである。
【0023】
ステップS300では、制御部110は、印刷ジョブを解析してグレーバランス補正モードが選択されているか否かを判断する。グレーバランス補正モードが選択されていない場合には、制御部110は、処理をステップS800に進めてグレーバランス補正モード処理を実行することなく画像形成処理を実行する。一方、グレーバランス補正モードが選択されている場合には、制御部110は、処理をステップS400に進める。
【0024】
図3(b)は、色材量としてのインク吐出量の変化が再現色の彩度と色相に与える影響をベクトル(影響ベクトルとも呼ばれる。)として表す説明図である。
図3(b)は、HSV色空間の色相環においてインク量の変動が再現色に与える影響を示している。
図3(b)は、低濃度領域の色相環CHにおけるグレーバランス補正処理と、高濃度領域の色相環CSにおけるグレーバランス補正処理とを示している。インク量の変動のグレーバランスへの影響は、
図3(b)において色相環CSや色相環CHにおいて彩度を表す中心点Оからの距離の変動として表される。
【0025】
低濃度領域の色相環CHにおいては、インク量の変動の方向と中心点Оへの色の変化の方向がほぼ一致しているので、インク量の変動がそのまま彩度の変動に影響を与えることが分かる。この例では、補正対象の色は、マゼンタのインク量を減少させる一方、シアンのインク量を増加させる補正を行うことによって目標値としての色相角Tを有する色となっている。一方、高濃度領域の色相環CSにおいては、インク量の変動の方向と中心点Оへの色の変化の方向とが角度を有しているので、インク量の変動は、その両者の内積として小さくなった値が彩度の変動に影響を与えることが分かる。なお、説明を分かりやすくするために、イエローのインクを捨象した状態で説明してる。
【0026】
図3(c)は、グレーバランス補正処理におけるCMYの重みづけの内容を示している。
図3(c)は、最大インク量を100%としてインク量の比率を示している。
図3(c)から分かるように、CMYの各インク量の比率が小さい低濃度領域では、比率が「1」に近い値に設定される一方、CMYの各インク量の比率が大きい高濃度領域では、比率が「1」から離れた値に設定されている。このように、CMYの重みづけは、影響ベクトルの方向と中心点Оへの色の変化の方向の内積に基づいて設定されている。
【0027】
図3(c)は、さらに、シアンのインク量を増やす一方、イエローやマゼンタのインク量を減らしている。本実施形態のグレーバランス補正処理は、ユーザーは、一般に赤方向や黄方向の目立つ色への彩度のシフトに対して、青方向へのシフトに対する違和感が小さい点に着目して設定されている。グレーバランス補正処理は、青方向への小さなシフトを許容しつつ赤方向や黄方向へのシフトを厳しく制限するという特徴を有している。本実施形態のグレーバランス補正処理は、さらに、目標値として色相角T(
図3(b)参照)を採用しているので、たとえば濃度階調の変動で画像を表すモノクロ画像(グレースケール画像)において色相を一定とすることができる。この結果、モノクロ画像における色相の変化に起因する画質劣化を抑制することができる。
【0028】
図4は、一実施形態に係る色変換処理及び補正処理の内容を示す説明図である。
図4(a)は、ブラックインク(K)のインク量(色材量)とCMYの重みづけ(色材の補正量)の関係を示している。
図4(a)によれば、ブラックインクのインク量が多いほど重みづけが小さくなっている。本願発明者の解析と実験によれば、ブラックインクのインク量が多いほどプリントエンジンの特性変動等の画像形成誤差に起因する彩度の影響が小さいことが分かったからである。本補正比率は、
図3(c)の補正比率(CMYの重みづけ)に乗算して使用される。
【0029】
ステップS400では、制御部110は、印刷ジョブを解析して印刷媒体として非光沢紙と光沢紙のいずれが選択されているか判断する。本実施形態では、
図4(b)に示されるように、用紙1(非光沢紙)と用紙2(光沢紙)とで白色点の色が相違している。具体的には、用紙1(非光沢紙)は、白色点が赤側にシフトしている一方、用紙2(光沢紙))は、白色点が青側にシフトしている。
【0030】
このような観点から、白色点が赤側にシフトしている非光沢紙では、CMYの各補正値が(1.05,0.97,1)となっており(
図4(b)参照)、大きく青側に補正する内容となっている。一方、白色点が青側にシフトしている非光沢紙では、CMYの各補正値が(1.002,0.97,1)となっており(
図4(b)参照)、青側に小さく補正する内容となっている。
【0031】
制御部110は、非光沢紙が選択されている場合には、処理をステップS500に進めて第1補正LUT141を選択してメモリにロードする。制御部110は、光沢紙が選択されている場合には、処理をステップS600に進めて第2補正LUT142を選択してメモリにロードする。第1補正LUT141は、白色点が赤側にシフトしている非光沢紙を想定して設定されている色変換テーブルである。第2補正LUT142は、白色点が青側にシフトしている非光沢紙を想定して設定されている色変換テーブルである。
【0032】
本実施形態では、色変換テーブルとしての非補正LUT143(
図3(a)参照)に補正を反映して新たに補正LUT(第1補正LUT141又は第2補正LUT142)を生成しているが、補正LUTを生成することなく代わりに補正データ(たとえば重みづけのための関係テーブル)を生成し、色変換後に補正データを用いて補正するようにしてもよい。補正LUT(第1補正LUT141又は第2補正LUT142)又は補正データの生成は、校正時において校正処理の一部として校正処理部111によって行うことができる。
【0033】
図5は、一実施形態に係るグレーバランス補正処理(ステップS700)の内容を示すフローチャートである。グレーバランス補正処理は、目標値として色相角T(
図3(b)参照)を採用し、青方向への小さなシフトを許容しつつ赤方向や黄方向へのシフトを厳しく制限するとともに、印刷媒体の白色点のシフトを相殺するように補正する。
【0034】
図6は、一実施形態に係る補正処理の内容を示す説明図である。
図6(a)は、第1のRGB入力画像Pn1と、第2のRGB入力画像Pn2とを示している。第1のRGB入力画像Pn1は、彩度の高い赤色の太陽画像S1と、彩度の低いグレー色の雲画像PC1とを表している。第2のRGB入力画像Pn2は、彩度の低いグレー色の雲画像PC2と、2人の人間の顔画像Hnとを表している。
【0035】
図6(b)は、ユーザーがグレーバランス補正モードを選択しなかった場合(ステップS100)の第1の印刷画像Ps1と、第2の印刷画像Ps2とを示している。第1の印刷画像Ps1及び第2の印刷画像Ps2は、グレーバランス補正が実行されておらず、太陽画像S1s、2つの雲画像PC1s,PC2s及び2つの顔画像Hsは、画像形成誤差によって、いずれも赤側に色がシフトしている。
【0036】
ただし、太陽画像S1sは、彩度が高いので赤側に色がシフトしても人間の視覚では認識できない。2つの顔画像Hsは、一般に赤味が入っても違和感がなく、むしろ青味が付けることが好まれない。これに対して、2つの雲画像PC1s,PC2sは、赤味が入って違和感のある画像として再現されている。
【0037】
ステップS710では、制御部110の画像解析部112は、肌色領域検出処理を実行する。肌色領域検出処理では、画像解析部112は、RGB入力画像を表す入力画像データを解析して肌色領域を検出する。肌色領域は、人間の肌の色を表している領域である。肌色領域の検出は、たとえばAI(人工知能)を使用して人物を抽出し、肌が露出している領域として検出することができる。画像解析部112は、肌色領域のRGB値である肌色RGB値を保存する。
【0038】
ステップS720では、画像解析部112は、着目画素選択処理を実行する。着目画素選択処理では、画像解析部112は、入力画像データの処理対象としての着目画素を順に選択する。ステップS730では、画像解析部112は、彩度計算処理を実行する。彩度計算処理では、画像解析部112は、入力画像データのRGB値をHSV色空間のHSV値に処理して彩度値としてS値を取得する。
【0039】
ステップS740では、画像解析部112は、彩度値(S値)が予め設定されている閾値Th未満(
図4(c)参照)であるか否かを判断する。彩度値が閾値Th未満である場合には、制御部110は、処理をステップS750に進め、彩度値が閾値Th未満でない場合には、制御部110は、処理をステップS770に進める。閾値Thは、彩度が低くグレーバランスのシフトが画質に顕著な影響、すなわち視覚的に違和感を与えるほどの影響を与えるか否かを判断するために設定されている。
【0040】
ステップS770では、制御部110は、グレーバランスのシフトが画質に顕著な影響を与えないとして、着目画素の色変換処理のためのルックアップテーブルとして非補正LUTを選択する。一方、彩度値が閾値Th未満である場合には、制御部110は、グレーバランスのシフトが画質に顕著な影響を与える可能性がある低彩度領域であるとして、処理をステップS750に進める。
【0041】
ステップS750では、画像解析部112は、着目画素が肌色領域に属しているか否かを判断する。具体的には、画像解析部112は、着目画素のRGB値が肌色領域検出処理(ステップS710)で保存されたRGB値に一致するか否かを判断する。本判断は、グレーバランス補正の対象から肌色領域を排除するためのものである。肌色は、一般に赤味が入っても違和感がなく、むしろ青味が付けることが好まれないからである。
【0042】
着目画素が肌色領域に属していると判断された場合には、制御部110は、グレーバランス補正の対象から肌色領域を排除するために、着目画素の色変換処理のためのルックアップテーブルとして非補正LUTを選択する(ステップS770)。一方、着目画素が肌色領域に属していると判断されなかった場合には、制御部110は、グレーバランス補正の対象とするために処理をステップS760に進める。
【0043】
ステップS760では、画像処理部113は、着目画素の色変換処理のためのルックアップテーブルとして補正LUT(第1補正LUT141又は第2補正LUT142)を選択する。第1補正LUT141又は第2補正LUT142の選択は、印刷媒体として非光沢紙と光沢紙のいずれが選択されているかに基づいて、予めステップS400(
図2参照)で決定されている。
【0044】
ステップS780では、画像形成部130の色変換処理部131は、着目画素毎に選択されたルックアップテーブルを使用して色変換処理を実行してCMYK画像データを出力画像データとして生成する。このような処理(ステップS720乃至ステップS780)は、入力画像データの全画素に対して実行される(ステップS790)。
【0045】
ステップS800(
図2参照)では、画像形成部130のハーフトーン処理部132は、出力画像データ(CMYK画像データ)に対してハーフトーン処理を実行してハーフトーンデータを出力する。画像形成部130は、ハーフトーンデータに基づいて画像出力処理(印刷媒体への画像形成)を実行する。
【0046】
図6(c)は、光沢なしの印刷用紙を選択した場合(ステップS400)の出力画像として第1の印刷画像Pc1と、第2の印刷画像Pc2とを示している。第1の印刷画像Pc1及び第2の印刷画像Pc2は、グレーバランス補正が実行され、2つの雲画像PC1,PC2(入力画像)に対してのみ画像形成誤差に起因する赤味が減殺され、青方向に色がシフトしている2つの雲画像PC1c,PC2c(印刷画像)となっている。
【0047】
図6(d)は、光沢ありの印刷用紙を選択した場合の出力画像として第1の印刷画像Pc1aと、第2の印刷画像Pc2aとを示している。第1の印刷画像Pc1a及び第2の印刷画像Pc2aは、グレーバランス補正が実行され、2つの雲画像PC1,PC2に対してのみ画像形成誤差に起因する赤味が減殺され、青方向に色がシフトしている2つの雲画像PC1ca,PC2caとなっている。
【0048】
光沢ありの印刷用紙を選択した場合の2つの雲画像PC1ca,PC2caは、光沢なしの印刷用紙を選択した場合の2つの雲画像PC1c,PC2cと印刷用紙の白色点の色の違いを相殺するように色再現されているので、両者は、グレーバランス補正によって白色点の色の違いに拘わらず相互に近い色再現を実現している。
【0049】
このように、一実施形態に係る画像形成システム10によれば、画像形成誤差に起因するグレーバランスの変動による視覚的な違和感を適切に抑制することができる。
【0050】
本発明は、上記各実施形態だけでなく、以下のような変形例でも実施することができる。
【0051】
変形例1:上記実施形態では、画像処理部は、目標値として色相角を採用し、所定の色相角に近づくように補正しているが、このような補正方法に限られない。本発明は、画像形成誤差に起因して違和感を生じさせるとして予め設定されている色相角の方向への色の発生を抑制するものであればよい。
【0052】
変形例2:上記実施形態では、予め設定されている色相角の方向として青色の補色方向とされているが、他の色の方向としてもよく、ユーザーの嗜好に基づいて設定できるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0053】
10 画像形成システム
100 画像形成装置
200 パーソナルコンピュータ
110 制御部
111 校正処理部
112 画像解析部
113 画像処理部
120 画像読取部
130 画像形成部
131 色変換処理部
132 ハーフトーン処理部
140 記憶部
141 第1補正LUT(補正LUT)
142 第2補正LUT(補正LUT)
143 非補正LUT
144 印刷対象データベース
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