(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023136165
(43)【公開日】2023-09-29
(54)【発明の名称】形状保持材料及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08J 5/18 20060101AFI20230922BHJP
C08L 23/00 20060101ALI20230922BHJP
【FI】
C08J5/18 CES
C08L23/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022041639
(22)【出願日】2022-03-16
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.サランラップ
(71)【出願人】
【識別番号】000198802
【氏名又は名称】積水成型工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100077012
【弁理士】
【氏名又は名称】岩谷 龍
(72)【発明者】
【氏名】菱田 智之
(72)【発明者】
【氏名】吉田 隆充
【テーマコード(参考)】
4F071
4J002
【Fターム(参考)】
4F071AA14
4F071AA15
4F071AF14
4F071AF15
4F071AF21
4F071AF54
4F071AH05
4F071AH19
4F071BB06
4F071BB08
4F071BC01
4F071BC10
4J002BB001
4J002BB021
4J002BB031
4J002BB051
4J002BB111
4J002BB121
4J002BB151
4J002BB161
4J002BB171
4J002GC00
(57)【要約】
【課題】本発明は、バイオマス由来のポリオレフィン系樹脂を含むオレフィン系樹脂組成物よりなり、機械的強度、特に剛性(引張弾性率)が大きく、形状保持性の優れた形状保持材料を提供する。
【解決手段】バイオマス由来のオレフィン系樹脂を含むオレフィン系樹脂組成物よりなる延伸成形体であって、形状保持性を有することを特徴とする形状保持材料及びバイオマス由来のオレフィン系樹脂を含むオレフィン系樹脂組成物よりなる成形体を圧延延伸した後、総延伸倍率10~40倍に一軸延伸することを特徴とする形状保持材料の製造方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイオマス由来のオレフィン系樹脂を含むオレフィン系樹脂組成物よりなる延伸成形体であって、形状保持性を有することを特徴とする形状保持材料。
【請求項2】
オレフィン系樹脂組成物が、バイオマス由来のオレフィン系樹脂5~100重量%と石油由来のオレフィン系樹脂95~0重量%よりなることを特徴とする請求項1記載の形状保持材料。
【請求項3】
バイオマス由来のオレフィン系樹脂が、バイオマス由来の高密度ポリエチレン系樹脂であることを特徴とする請求項1又は2記載の形状保持材料。
【請求項4】
石油由来のオレフィン系樹脂が、石油由来の高密度ポリエチレン系樹脂であることを特徴とする請求項2又は3記載の形状保持材料。
【請求項5】
形状保持性が、延伸方向(MD方向)に対し直角方向(TD方向)に180度に折曲げて1分間保持した後解放し、解放後5分経過した時の曲げ戻り角が25度以下であることを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の形状保持材料。
【請求項6】
形状保持性が、延伸方向(MD方向)に対し直角方向(TD方向)に90度に折曲げて1分間保持した後解放し、解放後5分経過した時の曲げ戻り角が15度以下であることを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載の形状保持材料。
【請求項7】
延伸成形体が、線状、帯状又はシート状であることを特徴とする請求項1~6のいずれか1項に記載の形状保持材料。
【請求項8】
バイオマス由来のオレフィン系樹脂を含むオレフィン系樹脂組成物よりなる成形体を圧延延伸倍率5倍以上に圧延延伸することを特徴とする請求項1~7のいずれか1項に記載の形状保持材料の製造方法。
【請求項9】
バイオマス由来のオレフィン系樹脂を含むオレフィン系樹脂組成物よりなる成形体を延伸倍率5倍以上に一軸延伸することを特徴とする請求項1~7のいずれか1項に記載の形状保持材料の製造方法。
【請求項10】
バイオマス由来のオレフィン系樹脂を含むオレフィン系樹脂組成物よりなる成形体を圧延延伸した後、総延伸倍率10~40倍に一軸延伸することを特徴とする請求項1~7のいずれか1項に記載の形状保持材料の製造方法。
【請求項11】
圧延延伸倍率が5倍以上であることを特徴とする請求項10記載の形状保持材料の製造方法。
【請求項12】
一軸延伸倍率が1.1倍以上であることを特徴とする請求項10又は11記載の形状保持材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環境に優しいバイオマス由来のポリオレフィン系樹脂を含むポリオレフィン系樹脂よりなる形状保持材料及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、熱可塑性樹脂シートを延伸することにより得られた形状保持材料は、材料を折り曲げると元の形状に復帰することなく、折り曲げられた形状を保持することができるので、金属線に代わる結束シート、帽子のつばの芯材、マスク、エプロン、袋等の形状保持材料として使用されている。
【0003】
上記形状保持材料としては、例えば、「極限粘度が3.5dl/g未満の汎用ポリエチレンを溶融し、原糸又は原帯状に押し出して、前記ポリエチレン溶融固化物からなる最大厚み部の厚さが1mm以上の原糸又は原帯に成形し、これを60℃以上ポリエチレンの融点未満の温度で、延伸物を180度折曲げてから10分経過後の戻り角度が20度以下であり、且つ90度折曲げてから10分経過後の戻り角度が15度以下になるまで延伸することを特徴とする糸状又は帯状塑性変形性ポリエチレン材料の製造方法。」(例えば、特許文献1参照。)、「密度が950kg/m3以上、重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)が5~15、炭素数3~6のα-オレフィン含量が2重量%未満であるエチレン単独重合体又はエチレン-α-オレフィン共重合体からなる延伸倍率7~20倍の延伸物であり、繊維状又は帯状の成形体であって、90度曲げによる戻り角度が12度以下であることを特徴とする形状保持材料。」(例えば、特許文献2参照。)等が提案され、「ポリエチレン樹脂又はエチレン-α―オレフィン共重合体を使用した形状保持材料」が例示されている。
【0004】
しかしながら、近年、循環型社会の構築を求める声の高まりと共に、化石燃料から製造されるポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂等のオレフィン系樹脂、即ち、石油由来のオレフィン系樹脂の使用が忌避されるようになってきた。
【0005】
又、「少なくとも1種の生分解性を有するポリエステル樹脂からなる脆弱樹脂グループ100重量部に対して、少なくとも1種の生分解性を有するポリエステル樹脂からなる柔軟樹脂グループを5~300重量部混合したものであって、該脆弱樹脂グループの樹脂の引張特性における伸度が1~30%であり、該柔軟樹脂グループの樹脂の引張特性における伸度が50~1000%である樹脂混合物を、押出成形し、常温に冷却後、30~150℃で熱処理することを特徴とするプラスチック材の変形保持性改良方法。」(例えば、特許文献3参照。)等が提案され、「ポリ乳酸使用した形状保持材料」が例示されている。
【0006】
上記ポリ乳酸等の生分解性を有するポリエステル樹脂はオレフィン系樹脂等と異なり生分解性を有するので地球環境を守るためには好ましい材料である。しかしながら、ポリ乳酸等の生分解性を有するポリエステル樹脂は成形しにくく、成形できても機械的強度が小さく形状保持性を付与しにくいので、形状保持材料の材料としては不適当であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第5862055号公報
【特許文献2】特許第6764754号公報
【特許文献3】特開2006-117749号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、上記問題点に鑑み、バイオマス由来のポリオレフィン系樹脂を含むオレフィン系樹脂組成物よりなり、機械的強度、特に剛性(引張弾性率)が大きく、形状保持性の優れた形状保持材料及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
即ち、本発明は、
[1]バイオマス由来のオレフィン系樹脂を含むオレフィン系樹脂組成物よりなる延伸成形体であって、形状保持性を有することを特徴とする形状保持材料、
[2]オレフィン系樹脂組成物が、バイオマス由来のオレフィン系樹脂5~100重量%と石油由来のオレフィン系樹脂95~0重量%よりなることを特徴とする上記[1]記載の形状保持材料、
[3]バイオマス由来のオレフィン系樹脂が、バイオマス由来の高密度ポリエチレン系樹脂であることを特徴とする上記[1]又は[2]記載の形状保持材料、
[4]石油由来のオレフィン系樹脂が、石油由来の高密度ポリエチレン系樹脂であることを特徴とする上記[2]又は[3]記載の形状保持材料、
[5]形状保持性が、延伸方向(MD方向)に対し直角方向(TD方向)に180度に折曲げて1分間保持した後解放し、解放後5分経過した時の曲げ戻り角が25度以下であることを特徴とする上記[1]~[4]のいずれか1項に記載の形状保持材料、
[6]形状保持性が、延伸方向(MD方向)に対し直角方向(TD方向)に90度に折曲げて1分間保持した後解放し、解放後5分経過した時の曲げ戻り角が15度以下であることを特徴とする上記[1]~[5]のいずれか1項に記載の形状保持材料、
[7]延伸成形体が、線状、帯状又はシート状であることを特徴とする上記[1]~[6]のいずれか1項に記載の形状保持材料、
[8]バイオマス由来のオレフィン系樹脂を含むオレフィン系樹脂組成物よりなる成形体を圧延延伸倍率5倍以上に圧延延伸することを特徴とする上記[1]~[7]のいずれか1項に記載の形状保持材料の製造方法、
[9]バイオマス由来のオレフィン系樹脂を含むオレフィン系樹脂組成物よりなる成形体を延伸倍率5倍以上に一軸延伸することを特徴とする上記[1]~[7]のいずれか1項に記載の形状保持材料の製造方法、
[10]バイオマス由来のオレフィン系樹脂を含むオレフィン系樹脂組成物よりなる成形体を圧延延伸した後、総延伸倍率10~40倍に一軸延伸することを特徴とする上記[1]~[7]のいずれか1項に記載の形状保持材料の製造方法、
[11]圧延延伸倍率が5倍以上であることを特徴とする上記[10]記載の形状保持材料の製造方法、及び、
[12]一軸延伸倍率が1.1倍以上であることを特徴とする上記[10]又は[11]記載の形状保持材料の製造方法
に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の形状保持材料及びその製造方法の構成は上述の通りであり、バイオマス由来のポリオレフィン系樹脂を含むオレフィン系樹脂組成物よりなり、機械的強度、特に剛性(引張弾性率)が大きく、形状保持性の優れた形状保持材料を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】(A)は本発明の形状保持材料の一例を示す平面図であり、(B)及び(C)は曲げ戻り角(TD方向曲げ)の測定方法を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の形状保持材料は、バイオマス由来のオレフィン系樹脂を含むオレフィン系樹脂組成物よりなる延伸成形体であって、形状保持性を有することを特徴とする。
【0013】
上記オレフィン系樹脂組成物は、バイオマス由来のオレフィン系樹脂を含むオレフィン系樹脂組成物である。即ち、バイオマス由来のポリオレフィン系樹脂よりなるオレフィン系樹脂組成物又はバイオマス由来のポリオレフィン系樹脂と石油由来のポリオレフィン系樹脂よりなるオレフィン系樹脂組成物である。
【0014】
上記オレフィン系樹脂組成物は、バイオマス由来のポリオレフィン系樹脂の添加量が多くなると、成形性が低下したり、脆くなり成形体の機械的強度が低下することがあるので、これらの性能が必要な成形体の場合はバイオマス由来のポリオレフィン系樹脂の添加量を少なくするのが好ましい。従って、オレフィン系樹脂組成物におけるバイオマス由来のポリオレフィン系樹脂の比率は5~100重量%が好ましく、石油由来のオレフィン系樹脂の比率は95~0重量%が好ましい。
【0015】
上記オレフィン系樹脂組成物のバイオマス由来のポリオレフィン系樹脂の比率が小さくなると、石油由来のオレフィン系樹脂の比率が高くなり、循環型社会の構築への寄与効果が低下するので、オレフィン系樹脂組成物のバイオマス度は高いほうが好ましく、10%以上が好ましく、より好ましくは30%以上である。
【0016】
上記バイオマス由来のポリオレフィン系樹脂は、再生可能な天然原料(例えば、トウモロコシ、サトウキビ、ビート、マニオク等)から製造されたエタノールを原料とし、化学的に反応精製したオレフィンを重合したポリマーである。
【0017】
上記バイオマス由来のポリオレフィン系樹脂としては、例えば、高密度ポリエチレン樹脂、中密度ポリエチレン樹脂、低密度ポリエチレン樹脂等のポリエチレン単独重合体、エチレンを主体とし、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ペンテン、1-ヘプテン等のα-オレフィンとの共重合体、ホモポリプロピレン樹脂、ランダムポリプロピレン樹脂等のポリプロピレン単独重合体、プロピレンを主体とし、エチレン、1-ブテン、1-ヘキセン、1-ペンテン、1-ヘプテン等のα-オレフィンとの共重合体、1-ブテン、1-ヘキセン、1-ペンテン、1-ヘプテン等のα-オレフィンの単独重合体及びその共重合体等が挙げられ、高密度ポリエチレン樹脂、低密度ポリエチレン樹脂及び線状低密度ポリエチレン樹脂が好ましい。尚、これらのポリオレフィン系樹脂は単独で使用されてもよいし、2種類以上のポリオレフィン系樹脂が併用されてもよい。
【0018】
上記バイオマス由来のポリオレフィン系樹脂のバイオマス度は低くなると、バイオマス由来のポリオレフィン系樹脂中のバイオマスオレフィンモノマーの比率が小さくなり、石油由来のオレフィンモノマーの比率が高くなり、循環型社会の構築への寄与効果が低下するので、オレフィン系樹脂のバイオマス度は高いほうが好ましく、50%以上が好ましく、より好ましくは90%以上であり、更に好ましくは95%である。
【0019】
上記石油由来のポリオレフィン系樹脂は、従来から使用されている石油から精製されたオレフィンモノマーを主原料として重合されたポリマーであり、例えば、高密度ポリエチレン樹脂、中密度ポリエチレン樹脂、低密度ポリエチレン樹脂等のポリエチレン単独重合体、エチレンを主体とし、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ペンテン、1-ヘプテン等のα-オレフィンとの共重合体、ホモポリプロピレン樹脂、ランダムポリプロピレン樹脂等のポリプロピレン単独重合体、プロピレンを主体とし、エチレン、1-ブテン、1-ヘキセン、1-ペンテン、1-ヘプテン等のα-オレフィンとの共重合体、1-ブテン、1-ヘキセン、1-ペンテン、1-ヘプテン等のα-オレフィンの単独重合体及びその共重合体等が挙げられ、高密度ポリエチレン樹脂、低密度ポリエチレン樹脂及び線状低密度ポリエチレン樹脂が好ましい。尚、これらのポリオレフィン系樹脂は単独で使用されてもよいし、2種類以上のポリオレフィン系樹脂が併用されてもよい。
【0020】
上記バイオマス由来のポリオレフィン系樹脂及び石油由来のポリオレフィン系樹脂としては、特に、共に、高密度ポリエチレン系樹脂が好ましい。
【0021】
上記高密度ポリエチレン系樹脂は、中低圧法で重合され、密度が0.945~0.960g/cm3のポリエチレン系樹脂であり、微量のプロピレン、ブテン-1、ペンテン-1、ヘキセン-1、オクテン-1等のα-オレフィンが共重合されていてもよい。
【0022】
上記高密度ポリエチレン系樹脂の重量平均分子量は、重量平均分子量が10万未満の場合には、脆くなり、延伸性が低下し、十分な機械的強度又は耐クリープ性を有する延伸成形体が得られにくくなり、逆に、50万を超えると、溶融粘度が高くなり、熱溶融成形加工性が低下し、均一な延伸成形体が得られにくくなるので10万~50万が好ましい。尚、本発明において、重量平均分子量はゲルパーミェーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定された値である。
【0023】
又、上記高密度ポリエチレン系樹脂のメルトマスフローレイト(以下、「MFR」)はフィルム成形性が優れている0.1~20g/10分が好ましく、より好ましくは0.20~0.60g/10分であり、更に好ましくは0.30~0.45g/10分である。尚、MFRとは、JIS K 7210に規定されている熱可塑性樹脂の溶融粘度を表す指標である。
【0024】
上記高密度ポリエチレン系樹脂の密度は、小さくなると延伸しても機械的強度の向上が小さく、形状保持性も小さくなり、大きくなると溶融成形や延伸成形が困難になるので、0.945~0.960g/cm3が好ましく、より好ましくは0.950~0.960g/cm3である。
【0025】
又、上記ポリオレフィン系樹脂組成物には、要求に応じ、形状保持性を有する範囲内で、従来からポリオレフィン系樹脂の成形の際に一般に使用されている、例えば、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化チタン、水酸化マグネシウム、タルク、マイカ、クレー等の無機充填剤、熱安定剤、耐熱向上剤、光安定剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、衝撃改良剤、防曇剤、帯電防止剤、難燃剤、着色剤、顔料等の添加剤が、必要に応じて、添加されてもよい。
【0026】
上記延伸成形体は、上記バイオマス由来のオレフィン系樹脂を含むオレフィン系樹脂組成物よりなる成形体を延伸した形状保持性を有する成型体である。成形体の形状は、特に限定されないが、形状保持材料であるから、繊維状、帯状、シート状等が好ましい。
【0027】
延伸前の繊維状、帯状、シート状等の成形体の製造方法は、特に限定されず、従来公知の任意の製造方法が採用されてよく、例えば、押出法、インフレーション法、キャスティング法、Tダイ法、カレンダー法等が挙げられる。
【0028】
繊維状、帯状、シート状等の延伸成形体は、繊維状、帯状、シート状等の上記成形体が延伸されており、延伸することにより形状保持性が付与されている。延伸成形体の延伸倍率は特に限定されず、延伸成形体に形状保持性が付与されていればよく、一般に5倍以上であり、好ましくは10~40倍である。
【0029】
上記形状保持材料は、形状保持性を有するが、形状保持性とは形状保持材料を変形した形状をそのままで保持しようとする性能であり、本発明においては、形状保持材料を延伸方向(MD方向)に対し直角方向(TD方向)に180度に折曲げて1分間保持した後解放し、解放後5分経過した時の曲げ戻り角(以下、「180度曲げ戻り角」)及び延伸方向(MD方向)に対し直角方向(TD方向)に90度に折曲げて1分間保持した後解放し、解放後5分経過した時の曲げ戻り角(以下、「90度曲げ戻り角」)で評価した。
【0030】
形状保持性は、変形した形状をそのままの形状に保持する性質であるから、曲げ戻り角が小さいほど形状保持性が優れており、「180度曲げ戻り角」は、25度以下が好ましく、より好ましくは22度以下である。又、「90度曲げ戻り角」は、15度以下が好ましく、より好ましくは、12度以下である。
【0031】
次に、「180度曲げ戻り角」の測定方法を、図面を参照して説明する。
図1(A)は本発明の形状保持材料の一例を示す平面図であり、(B)及び(C)は曲げ戻り角の測定方法を示す側面図である。図中1は形状保持材料であり、矢印X方向に延伸されている。即ち、X方向が延伸方向であり、MD方向である。矢印Y方向は延伸方向(MD方向)に対し直角方向(TD方向)である。
【0032】
「180度曲げ戻り角」の測定は、まず、
図1(A)に示した平らな形状保持材料1を点線11に沿って、即ち、延伸方向(MD方向)に対し直角方向(TD方向)に二つ折して、
図1(B)に示したように、2層にして重ね合わせる(180度に折曲げ)。重ね合わせて、その形状を1分間保持した後解放すると、
図1(C)に示したように、重ね合わされた形状保持材料は元の形状に復帰するように作用するので、解放後5分経過した時に2層の形成する角度θ(180度折曲げられた成形体が元の形状に戻った角度)を測定する。この角度θが「180度曲げ戻り角」である。
【0033】
「90度曲げ戻り角」の測定方法は、折り曲げる角度が90度であること以外は「180度戻り角の測定方法」と同一である。即ち、「90度曲げ戻り角」の測定方法は、平らな形状保持材料を延伸方向(MD方向)に対し直角方向(TD方向)に90度に折曲げ、その形状を1分間保持した後解放すると、形状保持材料は元の形状に復帰するように作用するので、解放後5分経過した時に折曲げられた形状保持材料の形成する角度を測定する。測定された角度から90度を減じた角度(90度に折曲げられた形状保持材料が元の形状に戻った角度)が「90度曲げ戻り角」である。
【0034】
線状、帯状又はシート状の延伸成形体は、線状、帯状又はシート状の上記成形体を延伸することにより製造される。延伸方法は従来公知の任意の延伸方法が採用されれば良く、例えば、圧延延伸、一軸延伸、圧延延伸と一軸延伸を併用する方法等が挙げられる。
【0035】
即ち、本発明の形状保持材料の製造方法は、バイオマス由来のオレフィン系樹脂を含むオレフィン系樹脂組成物よりなる線状、帯状、シート状等の成形体を圧延倍率5倍以上に圧延延伸することを特徴とする。
【0036】
上記圧延延伸前の線状、帯状、シート状等の成形体の太さ又は厚みは特に限定されるものではないが、太すぎたり厚過ぎると、成形体を圧延ロールで押しつぶすのに大きな加圧力や引取力が必要となり、圧延ロールの撓みなどにより幅方向に均一な圧延が困難となることがある、逆に、薄過ぎると、圧延延伸後の成形体の太さが細くなり過ぎたり厚みが薄くなり過ぎ、均一な圧延延伸が困難となるだけでなく、圧延ロール同士が接触して圧延ロールの寿命が短くなることがあるので、0.2~15.0mmが好ましい。
【0037】
圧延温度は、低くなると均一に圧延延伸できず、高くなると溶融切断するようになるので、圧延延伸する際のロール温度は、圧延延伸する成形体のオレフィン系樹脂の「融点-40℃」~融点の範囲が好ましく、より好ましくは、オレフィン系樹脂の「融点-30℃」~「融点-5℃」である。尚、本発明において、融点とは示差走査型熱量測定機(DSC)で熱分析を行った際に認められる、結晶の融解に伴う吸熱ピークの最大点をいう。
【0038】
圧延ロールにより成形体に負荷される加圧力(線圧)が小さ過ぎると所定の圧延倍率を得ることが出来なくなることがあり、逆に大き過ぎると圧延ロールの撓みが生じるだけでなく、圧延ロールと成形体との間ですべりが生じ易くなり、均一な圧延延伸が困難となることがあるので加圧力は、100MPa~3000MPaが好ましく、より好ましくは、300MPa~1000MPaである。
【0039】
上記圧延延伸倍率は、圧延延伸倍率が5倍未満の場合には、充分な形状保持性を付与できないので5倍以上であり、好ましくは7倍以上であり、より好ましくは9倍以上である。圧延延伸倍率の上限はないが、圧延延伸倍率が高いほど圧延設備に負荷がかかるので40倍以下が好ましい。尚、圧延延伸倍率は(圧延前の成形体の断面積)/(圧延後の成形体の断面積)で定義されるが、圧延の前後において成形体の幅は殆ど変化しないので、(圧延延伸前の成形体の厚み)/(圧延延伸後の成形体の厚み)であってもよい。
【0040】
異なる本発明の形状保持材料の製造方法は、バイオマス由来のオレフィン系樹脂を含むオレフィン系樹脂組成物よりなる線状、帯状、シート状等の成形体を延伸倍率5倍以上に一軸延伸することを特徴とする。
【0041】
上記一軸延伸方法は、従来公知の任意の方法が採用されればよく、例えば、ロール一軸延伸法、ゾーン一軸延伸法等の一軸延伸法により、ヒータや熱風により加熱しながら延伸する方法が挙げられる。高度に延伸する場合は、一軸延伸を複数回繰り返す多段一軸延伸する方法が好ましい。多段一軸延伸を行う場合の延伸回数は2~20回が好ましく、より好ましくは3~15回、更に好ましくは4~10回である。
【0042】
又、ロール一軸延伸法により多段延伸を行う場合には、繰出ピンチロール、引取ピンチロール及びこれらのロール間に一定速度で回転する少なくとも1つの、好ましくは複数の接触ロールを設置することが望ましい。このような接触ロールを設置することにより、均一延伸性が高められ、安定な延伸成形を行うことができる。
【0043】
上記接触ロールは、ピンチされることなく、成形体に摩擦力を与えることにより一軸延伸を行う。又、接触ロールは繰出ロール及び/又は引取ロールに対し、ギア、チェーン、プーリー、ベルト若しくはこれらの組み合わせからなる連結部材により連結されていてもよい。
【0044】
一軸延伸温度は、低くなると均一に延伸できず、高くなると成型体が溶融切断するので、延伸する成形体のポリオレフィン樹脂の「融点-60℃」~融点の範囲が好ましく、より好ましくは、ポリオレフィン系樹脂の「融点-50℃」~「融点-5℃」である。
【0045】
上記延伸前の線状、帯状、シート状の成形体の太さ又は厚みは特に限定されるものではないが、太過ぎる又は厚過ぎると、延伸が困難になるし、逆に、細すぎる又は薄過ぎると、延伸後の成形体の太さが細すぎたり厚みが薄くなり過ぎ、形状保持性が低下するので、0.2~15.0mmが望ましい。
【0046】
上記延伸倍率は、延伸倍率が5倍未満の場合には、充分な形状保持性を付与できないことがあるので5倍以上であり、好ましくは7倍以上であり、より好ましくは9倍以上である。延伸倍率の上限はないが、延伸倍率が高くなると製造効率が低下するので40倍以下が好ましい。尚、延伸倍率は(延伸前の成形体の断面積)/(延伸後の成形体の断面積)で定義される。
【0047】
更に異なる本発明の形状保持材料の製造方法は、バイオマス由来のオレフィン系樹脂を含むオレフィン系樹脂組成物よりなる線状、帯状、シート状等の成形体を圧延延伸した後、総延伸倍率10~40倍に一軸延伸することを特徴とする。
【0048】
上記圧延前延伸の線状、帯状、シート状等の成形体の太さ又は厚みは特に限定されるものではないが、太過ぎる又は厚過ぎると、圧延延伸及び一軸延伸が困難になるし、逆に、細すぎる又は薄過ぎると、圧延延伸及び一軸延伸後の成形体の太さが細すぎたり、厚みが薄くなり過ぎ、形状保持性が低下するので、0.2~15.0mmが望ましい。
【0049】
上記形状保持材料の製造方法においては、線状、帯状、シート状等の成形体を圧延延伸した後、総延伸倍率10~40倍に一軸延伸するのであって、圧延延伸方法及び一軸延伸方法は前述の通りである。
【0050】
上記圧延倍率は、圧延倍率が5倍未満の場合には、後で行われる一軸延伸時のネッキングを抑制する効果が得られなかったり、高倍率一軸延伸を行うことができなかったり、一軸延伸工程に負担がかかることになるので、5倍以上が好ましく、より好ましくは7倍以上である。圧延倍率の上限はないが、圧延倍率が高いほど圧延設備に負荷がかかるので11倍以下が好ましい。
【0051】
上記一軸延伸の延伸倍率は、総延伸倍率が10~40倍であるから、圧延倍率を考慮し、総延伸倍率がこの範囲にはいるように決定すればよいが、一軸延伸が少ないと機械的強度が向上しないので、1.1倍以上が好ましく、より好ましくは1.3倍以上である。又、上限は特に限定されるものではないが、4倍以下が好ましく、より好ましくは3.0倍以下である。尚、総延伸倍率は圧延倍率と一軸延伸倍率を乗じた数値である。
【0052】
上記の製造方法で得られた形状保持材料の寸法安定性を向上させるために、ポリオレフィン系樹脂の「融点-60℃」~融点の温度でアニールしてもよい。アニール温度は、低くなると寸法安定性が向上せず、長時間使用するとそりが発生し、高くなるとポリオレフィン系樹脂が溶解して配向が消滅し引張弾性率、引張強度等が低下するので、ポリオレフィン系樹脂の「融点-60℃」~融点の温度でアニールするのが好ましい。
【0053】
アニールとは生産ライン中で熱処理を行うことであり、アニールする際に、形状保持材料に大きな張力がかかっていると延伸され、張力がかかっていないか、非常に小さい状態では収縮するので、形状保持材料の延伸方向の長さが実質的に変化しないようにした状態で行うことが好ましく、形状保持材料に圧力もかかっていないのが好ましい。即ち、アニールされた形状保持材料の長さが、アニール前の形状保持材料の長さの1.0以下になるようにアニールするのが好ましい。
【0054】
従って、形状保持材料をピンチロール等のロールで加熱室内を移動しながら連続的にアニールする場合は、入口側と出口側の形状保持材料の送り速度比を1.0以下になるように設定してアニールするのが好ましい。
【0055】
アニールする際の加熱方法は、特に限定されるものではなく、例えば、熱風、ヒータ、加熱板、温水等で加熱する方法があげられる。アニールする時間は、特に限定されず、延伸された形状保持材料の太さ、厚さやアニール温度により異なるが、一般に10秒以上が好ましく、より好ましくは30秒~60分であり、更に好ましくは1~20分である。
【0056】
アニールした形状保持材料を、更に、40℃~ポリオレフィン系樹脂の融点の温度範囲でエージングしてもよい。エージングすることによりアニールされた形状保持材料の寸法安定性はより優れたものとなる。
【0057】
エージングとは、生産ライン中連続で処理するものではなく、形状保持材料を一度加工した、枚葉物、巻物等の熱処理を、比較的長い時間(分、時間単位)じっくり寝かせて熱処理することを意味する。エージング温度は、低くなると常温で放置するのと同様になり、高くなると熱変形するので40℃~ポリオレフィン系樹脂の融点の温度範囲であり、エージング時間は短時間では効果がなく、長時間しすぎても効果が増大することはないので12時間~7日が好ましい。
【0058】
形状保持材料の太さ及び厚みは、特に限定されるものではないが、細くなったり薄くなると形状保持性が低下するので0.04~2mmが好ましい。
【実施例0059】
次に、本発明を説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0060】
使用したオレフィン系樹脂は、以下の通りである。
(1)バイオマス由来のポリエチレン系樹脂
・Bio-HDPE 高密度ポリエチレン樹脂(Braskem社製、MFR(190℃/2.16Kg)0.33g/10min、融点 約140℃、密度0.952g/cm3、バイオマス度96%)
・Bio-LLDPE 線状低密度ポリエチレン樹脂(Braskem社製、MFR(190℃/2.16Kg)1.0g/10min、融点 約130℃、密度0.916g/cm3、バイオマス度84%)
【0061】
(2)石油由来のポリエチレン系樹脂
・p-HDPE 高密度ポリエチレン樹脂(日本ポリエチレン社製、MFR(190℃/
2.16Kg)0.4g/10min、融点 133℃、密度0.956g/cm3)
・p-LDPE 低密度ポリエチレン樹脂(住友化学社製、MFR(190℃/2.16
Kg)0.3g/10min、融点 108℃、密度0.922g/cm3)
【0062】
(実施例1、比較例1)
表1及び表2に示した所定量のBio-HDPE及びp-HDPEよりなるオレフィン系樹脂組成物をスクリュ径70mmの一軸押出機に供給し、200℃で溶融混錬した後、溶融混錬物をロール温度110℃に制御したカレンダー成型機にてシート成形し、シート状の成形体を得た。尚、オレフィン系樹脂組成物のバイオマス度を測定し、表1及び表2に併記した。
【0063】
得られた成形体を125℃に加熱した圧延成形機(積水工機製作所製)を用いて表1及び2に示した圧延倍率に圧延延伸し、延伸成形体を得た。得られた延伸成形体をピンチロールが設置され、125℃に設定されているライン長19.25mの熱風加熱槽に、入口速度2.75m/minで供給し、出口速度2.75m/minに設定して7分間1次アニールを行い、続いて同様にして2次アニールを行って、アニールされた延伸成形体を得、その後60℃の恒温槽に供給し、24時間エージングして、形状保持材料を得た。
【0064】
得られた形状保持材料を幅10mm、長さ15cmに切断し、テンシロン万能試験機(オリエンテック社製「RTC-1250A型」)に供給し、延伸方向(MD方向)及び延伸方向と直交する方向(TD方向)に100mm/分の速度で破断するまで引張試験して、引張弾性率、最大引張強度及び破断伸び率を測定し、結果を表1及び2に示した。
【0065】
又、得られた形状保持材料を幅10mm、長さ15cmに切断し、延伸方向と直交する方向(TD方向)に90度及び180度に折曲げて1分間保持した後解放し、解放後5分経過時の曲げ戻り角(「90度曲げ戻り角」及び「180度曲げ戻り角」)を測定し、結果を表1及び2に示した。
【0066】
(実施例2~7、比較例2,3)
表1及び表2に示した所定量のBio-HDPE、Bio-LLDPE、p-HDPE及びp-LDPEよりなるオレフィン系樹脂組成物をスクリュ径70mmの一軸押出機に供給し、200℃で溶融混錬した後、溶融混錬物をロール温度110℃に制御したカレンダー背景気にてシート成形し、シート状の成形体を得た。尚、オレフィン系樹脂組成物のバイオマス度を測定し、表1及び表2に併記した。
【0067】
得られた成形体を125℃に加熱した圧延成形機(積水工機製作所製)を用いて表1及び2に示した圧延倍率に圧延し、延伸成形体を得た。得られた延伸成形体を110℃に加熱された熱風加熱式の多段延伸装置(協和エンジニアリング製)にて表1及び2に示した延伸倍率に一軸多段延伸を行い、表1及び2に示した総延伸倍率の延伸成形体を得た。
【0068】
得られた延伸成形体をピンチロールが設置され、125℃に設定されているライン長19.25mの熱風加熱槽に、入口速度2.75m/minで供給し、出口速度2.75m/minに設定して7分間1次アニールを行い、続いて同様にして2次アニールを行って、アニールされた延伸成形体を得、その後60℃の恒温槽に供給し、24時間エージングして、形状保持材料を得た。
【0069】
得られた形状保持材料を幅10mm、長さ15cmに切断し、テンシロン万能試験機(オリエンテック社製「RTC-1250A型」)に供給し、延伸方向(MD方向)及び延伸方向と直交する方向(TD方向)に100mm/分の速度で破断するまで引張試験して、引張弾性率、最大引張強度及び破断伸び率を測定し、結果を表1及び2に示した。
【0070】
又、得られた形状保持材料を幅10mm、長さ15cmに切断し、延伸方向と直交する方向(TD方向)に90度及び180度に折曲げて1分間保持した後解放し、解放後5分経過時の曲げ戻り角(「90度曲げ戻り角」及び「180度曲げ戻り角」)を測定し、結果を表1及び2に示した。
【0071】
【0072】
本発明の形状保持材料は上記の通りであり、バイオマス由来のポリオレフィン系樹脂を含むオレフィン系樹脂組成物よりなり、地球環境に優しく、引張弾性率、引張強度等の機械的強度が優れ、形状保持性が優れているので、金属線に代わる結束材料、帽子のつばの芯材、マスク、エプロン、袋等の形状保持用芯材、カップラーメン等の容器の蓋材、サランラップ用切断刃として好適に使用できる。又、紙、合成樹脂フィルム等と積層した積層シートや成形体と積層した複合体として好適に使用できる。