(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023136199
(43)【公開日】2023-09-29
(54)【発明の名称】永久磁石同期モータのトルク算出方法、トルク算出装置、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
H02P 21/20 20160101AFI20230922BHJP
【FI】
H02P21/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022041691
(22)【出願日】2022-03-16
(71)【出願人】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】北村 英樹
【テーマコード(参考)】
5H505
【Fターム(参考)】
5H505DD08
5H505HB01
5H505JJ03
5H505JJ17
5H505KK06
(57)【要約】
【課題】従来よりも計算の精度を向上させた、永久磁石同期モータのトルクの算出方法を提供する。
【解決手段】永久磁石同期モータのトルクを算出するトルク算出方法であって、前記永久磁石同期モータにおける磁束および磁気エネルギーを、FP(Frozen Permeability)法により算出する第1の算出工程と、前記算出された磁束および磁気エネルギーと、エネルギー保存則に基づいてマグネットトルク、コギングトルク、およびリラクタンストルクそれぞれを定式化した式とを用いて、前記永久磁石同期モータのトルクを算出する第2の算出工程と、を有する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
永久磁石同期モータのトルクを算出するトルク算出方法であって、
前記永久磁石同期モータにおける磁束および磁気エネルギーを、FP(Frozen Permeability)法により算出する第1の算出工程と、
前記算出された磁束および磁気エネルギーと、エネルギー保存則に基づいてマグネットトルク、コギングトルク、およびリラクタンストルクそれぞれを定式化した式とを用いて、前記永久磁石同期モータのトルクを算出する第2の算出工程と、
を有するトルク算出方法。
【請求項2】
前記第1の算出工程において、FP法による以下の式が用いられる、請求項1に記載のトルク算出方法。
ψ=λFEM[0,ψ]
φ=λFEM[i,0]
Wmp=WFEM[0,ψ]
Wmc=WFEM[i,0]
Wmm=WFEM[i,ψ]-WFEM[0,ψ]-WFEM[i,0]
【請求項3】
WFEM[i,ψ]は、非線形磁界解析の解析結果に基づいて算出される磁気エネルギーである、請求項2に記載のトルク算出方法。
【請求項4】
前記第2の算出工程において、以下の式が用いられる、請求項2または3に記載のトルク算出方法。
【数1】
【請求項5】
前記第2の算出工程において、以下の式が用いられる、請求項2または3に記載のトルク算出方法。
【数2】
【請求項6】
永久磁石同期モータのトルクを算出するトルク算出装置であって、
前記永久磁石同期モータにおける磁束および磁気エネルギーを、FP(Frozen Permeability)法により算出する第1の算出手段と、
前記算出された磁束および磁気エネルギーと、エネルギー保存則に基づいてマグネットトルク、コギングトルク、およびリラクタンストルクそれぞれを定式化した式とを用いて、前記永久磁石同期モータのトルクを算出する第2の算出手段と、
を有するトルク算出装置。
【請求項7】
コンピュータに、
永久磁石同期モータにおける磁束および磁気エネルギーを、FP(Frozen Permeability)法により算出する第1の算出工程と、
前記算出された磁束および磁気エネルギーと、エネルギー保存則に基づいてマグネットトルク、コギングトルク、およびリラクタンストルクそれぞれを定式化した式とを用いて、前記永久磁石同期モータのトルクを算出する第2の算出工程と、
を実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、永久磁石同期モータのトルク算出方法、トルク算出装置、およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、様々な機器においてモータが利用されている。モータには様々な種類のものがあり、例えば、永久磁石同期電動機(PM(Permanent Magnet)モータ)が挙げられる。PMモータは小型/高効率なモータであることから、電動アクチュエータの動力源として使用されている。電動アクチュエータのスムーズな動きを損なう原因の一つにモータ起因のトルク脈動がある。トルク脈動の抑制手段の一つとして、モータの電流に重畳させた高調波を制御してトルク脈動を抑制するトルク脈動抑制制御がある。
図7に、トルク脈動抑制制御が可能な、PMモータの制御装置700の概略構成を示す。制御装置700では、高調波電流変換部702にてトルク脈動を抑制するための電流高調波の指令値を作成する。ここでは、高調波電流変換部702は、トルク指令値とロータ回転角を入力として、電流とトルクの関係式に基づいて高調波電流の振幅と位相を算出する。高調波電流の振幅と位相を算出するための関係式の計算精度はトルク脈動の抑制効果に直結することから、高精度なトルク算出方法が必要になる。
【0003】
例えば、特許文献1では、モータのトルクの算出方法として、エネルギー保存則に基づいて定式化したトルク式に、磁界解析または実測で取得した磁束、インダクタンス、コギングトルクを用いてトルクを算出する方法が開示されている。また、特許文献2では、モータの制御性を向上させるために、トルクをマグネットトルクとリラクタンストルクに分けて計算する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010-57217号公報
【特許文献2】特開2015-29375号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の方法では、本来、非線形特性であるコア磁気特性を線形近似して定式化して用いているため、磁束や磁気エネルギーの電流依存性が考慮されてない。また、特許文献2の方法では、マグネットトルクとリラクタンストルクは電流と磁束の外積項のみしか考慮されておらず、また、コギングトルクも考慮されていない。以上より、各特許文献の方法はトルクの計算精度について改良の余地がある。
【0006】
上記課題を鑑み、本発明は、従来よりも精度を向上させた、永久磁石同期モータのトルクの算出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために本発明は以下の構成を有する。すなわち、永久磁石同期モータのトルクを算出するトルク算出方法であって、
前記永久磁石同期モータにおける磁束および磁気エネルギーを、FP(Frozen Permeability)法により算出する第1の算出工程と、
前記算出された磁束および磁気エネルギーと、エネルギー保存則に基づいてマグネットトルク、コギングトルク、およびリラクタンストルクそれぞれを定式化した式とを用いて、前記永久磁石同期モータのトルクを算出する第2の算出工程と、
を有する。
【0008】
また、本発明の別の形態は以下の構成を有する。すなわち、永久磁石同期モータのトルクを算出するトルク算出装置であって、
前記永久磁石同期モータにおける磁束および磁気エネルギーを、FP(Frozen Permeability)法により算出する第1の算出手段と、
前記算出された磁束および磁気エネルギーと、エネルギー保存則に基づいてマグネットトルク、コギングトルク、およびリラクタンストルクそれぞれを定式化した式とを用いて、前記永久磁石同期モータのトルクを算出する第2の算出手段と、
を有する。
【0009】
また、本発明の別の形態は以下の構成を有する。すなわち、コンピュータに、
永久磁石同期モータにおける磁束および磁気エネルギーを、FP(Frozen Permeability)法により算出する第1の算出工程と、
前記算出された磁束および磁気エネルギーと、エネルギー保存則に基づいてマグネットトルク、コギングトルク、およびリラクタンストルクそれぞれを定式化した式とを用いて、前記永久磁石同期モータのトルクを算出する第2の算出工程と、
を実行させるためのプログラムを提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、従来よりも精度を向上させた、永久磁石同期モータのトルクの算出方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施形態に係るトルク算出方法を実行可能な装置構成の例を示す概略図。
【
図2】本発明の一実施形態に係るトルク算出方法を用いた処理のフローチャート。
【
図3A】本発明の一実施形態に係るトルク算出方法を適用可能な永久磁石同期モータの概略構成を示す図。
【
図3B】本発明の一実施形態に係るトルク算出方法を適用可能な永久磁石同期モータの概略構成を示す図。
【
図4A】本発明の一実施形態に係るモータAのトルク成分を説明するためのグラフ図。
【
図4B】本発明の一実施形態に係るモータAのトルク成分を説明するためのグラフ図。
【
図4C】本発明の一実施形態に係るモータBのトルク成分を説明するためのグラフ図。
【
図5A】本発明の一実施形態に係る各モータのマグネットトルクを説明するためのグラフ図。
【
図5B】本発明の一実施形態に係る各モータのリラクタンストルクを説明するためのグラフ図。
【
図5C】本発明の一実施形態に係る各モータのコギングトルクを説明するためのグラフ図。
【
図6A】モータAによる、本発明の一実施形態に係る方法と従来方法との比較結果を説明するためのグラフ図。
【
図6B】モータAによる、本発明の一実施形態に係る方法と従来方法との比較結果を説明するためのグラフ図。
【
図6C】モータBによる、本発明の一実施形態に係る方法と従来方法との比較結果を説明するためのグラフ図。
【
図7】PMモータの制御装置の構成例を示すブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態について図面などを参照して説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明を説明するための一実施形態であり、本発明を限定して解釈されることを意図するものではなく、また、各実施形態で説明されている全ての構成が本発明の課題を解決するために必須の構成であるとは限らない。また、各図面において、同じ構成要素については、同じ参照番号を付すことにより対応関係を示す。
【0013】
<第1の実施形態>
以下、本発明の第1の実施形態について説明を行う。本発明に係る永久磁石同期モータ(以下、単に「モータ」とも称する)のトルク算出方法は、例えば、モータの制御に用いることが可能であり、モータの制御の際に電流とトルクの関係性から電流指令値の生成に使用してもよい。
【0014】
[装置構成]
図1は、本実施形態に係る算出方法を実行可能な情報処理装置の全体構成の一例を示す概略構成図である。本実施形態に係る情報処理装置1は、例えば、PC(Personal Computer)などが用いられてよく、その構成は特に限定するものではない。また、情報処理装置1は、本実施形態に係るモータの制御を行う制御装置と一体になった構成であってもよい。
【0015】
情報処理装置1は、CPU(Central Processing Unit)10、ROM(Read Only Memory)11、RAM(Random Access Memory)12、HDD(Hard Disk Drive)13、入力装置14、表示装置15、および通信装置16を含んで構成される。CPU10は、情報処理装置1全体の制御を司る部位であり、例えば、HDD13に格納されたプログラムを読み出して実行することで各種機能を実現してよい。ROM11は、不揮発性の記憶領域である。RAM12は、揮発性の記憶領域であり、一時的なデータの保存場所として用いられる。HDD13は、不揮発性の記憶領域であり、各種プログラムやデータが記憶、管理される。入力装置14は、外部からの入力を受け付ける部位であり、例えば、マウスやキーボードなどから構成される。表示装置15は、各種情報を表示するための部位であり、例えば、液晶ディスプレイなどが該当する。なお、入力装置14と表示装置15が一体となったタッチパネルディスプレイが用いられてもよい。通信装置16は、外部装置(不図示)とネットワーク(不図示)を介して通信するための部位である。ここでの通信は、有線/無線は問わず、また、通信規格なども特に限定するものではない。
【0016】
情報処理装置1は、後述する本実施形態に係る算出方法を実行するためのプログラムの他、電磁界解析を行うための汎用の電磁界解析ソフトウェアを実行可能な構成であってよい。なお、各ソフトウェアやプログラムは、必ずしも後述するトルク算出方法を実行する装置と同じ装置で実行される必要はない。例えば、上記のようなプログラムが別個の装置で実行された後、その処理結果が本実施形態に係るトルク算出方法が実行される装置に入力されるような構成であってもよい。
【0017】
本実施形態のモータ算出方法が適用可能なモータの例については、例えば、電動アクチュエータやステアリング装置、電動ブレーキブースタ、産機モータなどに搭載された永久磁石同期モータに適用可能である。そのほか、電動機全般に用いられている永久磁石同期モータを対象としてもよい。
【0018】
[処理フロー]
図2は、本実施形態に係るモータのトルクを算出するためのトルク算出処理のフローチャートである。本処理は、情報処理装置1により実行され、例えば、情報処理装置1が備えるCPU10が本実施形態に係る処理を実現するためのプログラムをHDD13から読み出して実行することにより実現される。
【0019】
S201にて、情報処理装置1は、計測対象のモータに対して非線形磁界解析を適用することにより、後段の工程にて用いられるパラメータである、磁束、磁気エネルギーを取得する。本工程は、汎用の解析ソフトウェアを用いて実行されてよく、本例では、FEM(Finite Element Method)による解析を行うものとして説明する。また、ここで取得される各パラメータの詳細は後述する。
【0020】
S202にて、情報処理装置1は、FP(Frozen Permeability)法に基づく、以下の式(1)~(5)を用いて、磁束ψ、φ、および磁気エネルギーWの算出を行う。なお、FP法の詳細については、公知であるため、本明細書での説明は省略するが、算出時の条件については後述する。
【0021】
ψ=λFEM[0,ψ] ・・・(1)
φ=λFEM[i,0] ・・・(2)
Wmp=WFEM[0,ψ] ・・・(3)
Wmc=WFEM[i,0] ・・・(4)
Wmm=WFEM[i,ψ]-WFEM[0,ψ]-WFEM[i,0] ・・・(5)
ψ:コイルに鎖交する永久磁石磁束
φ:コイルに鎖交するコイル磁束
Wmp:永久磁束起因の磁気エネルギー
Wmc:コイル磁束起因の磁気エネルギー
Wmm:永久磁石磁束とコイル電流の相互作用起因の磁気エネルギー
λFEM:FEMで算出される鎖交磁束
WFEM:FEMで算出される磁気エネルギー
【0022】
ここで、上記の式において、括弧[]は、FP法の起磁力源の条件を示す。[0,ψ]は、コイル起磁力をゼロ(0)とし、永久磁石磁化のみを考慮した場合の値を示す。同様に、[i,0]は、永久磁石磁化をゼロ(0)とし、コイル起磁力のみを考慮した場合の値を示す。また、[i,ψ]は、永久磁石磁化とコイル起磁力を同時に考慮した場合の値を示す。
【0023】
S202にて、情報処理装置1は、以下の式(6)~(8)を用いて、各トルク成分の算出を行う。
【0024】
【0025】
【0026】
【0027】
τM:マグネットトルク
τC:コギングトルク
τR:リラクタンストルク
p:モータの極対数
ω:電気角周波数
d/dt:時間微分
ψd、ψq:dq軸座標系のd軸、q軸それぞれのコイルに鎖交する永久磁石磁束
φd、φq:dq軸座標系のd軸、q軸それぞれのコイルに鎖交するコイル磁束
id、iq:dq軸座標系のd軸、q軸それぞれのコイル電流
【0028】
なお、モータにおけるd軸とq軸は、dq軸座標系における軸である。d軸は、モータが備える回転子の磁束の方向を示す。また、q軸は、d軸に直交した方向を示す。
【0029】
S204にて、情報処理装置1は、S203にて算出した各トルク成分と、以下の式(9)を用いて、モータのトータルトルクを算出する。
τ=τM+τC+τR ・・・(9)
τ:永久磁石同期モータのトータルトルク
【0030】
S205にて、情報処理装置1は、S204にて算出したモータのトータルトルクを出力する。ここでの出力方法は特に限定するものではなく、例えば、算出結果として画面上に出力してもよいし、電流とトルクの関係性からモータ制御に係る電流指令値生成のための信号として出力してもよい。そして、本処理フローを終了する。
【0031】
[モータ概略]
図3Aおよび
図3Bは、モータの概略構成を示す図である。本実施形態に係るトルク算出方法を適用可能な永久磁石同期電動機(PMモータ)の概略構成を示す。ここでは説明を省略するが、モータには、モータの動作を制御する制御装置(不図示)や、モータにより出力されるトルクを伝達するための伝達部(不図示)などが接続されてよい。また、PMモータを動作させるためのインバータ(不図示)や、モータの回転子の位置を検出するための位置センサ(不図示)などが備えられてよい。
【0032】
図3Aは、一例としてのモータ300の断面の概略構成を示す。モータ300は、永久磁石301、ロータコア302(回転子)、コイル303、および、ステータコア304(固定子)を含んで構成される。ロータコア302の円周に沿って、複数の永久磁石301が設けられる。モータ300は、ロータコア302の表面に永久磁石301を張り合わせたSPM(Surface Permanent Magnet)モータの構成を有し、ここでは8極の磁極数となっている。コイル303は、モータ300の駆動に係る電磁力を発生させる巻き線等により構成され、ここでは巻き線の種類が集中巻きで、かつ、スロット数が12の例を示している。便宜上、モータ300をモータAとも称する。
【0033】
図3Bは、一例としてのモータ310の断面の概略構成を示す。モータ310は、永久磁石311、ロータコア312(回転子)、コイル313、および、ステータコア314(固定子)を含んで構成される。ロータコア312の円周側の内部に、複数の永久磁石311が設けられる。モータ310は、ロータコア302の円周側内部に永久磁石311が埋め込まれたIPM(Interior Permanent Magnet:磁石埋め込み式)モータの構成を有し、ここでは8極の磁極数となっている。コイル313は、モータ310の駆動に係る電磁力を発生させる巻き線等により構成され、ここでは巻き線の種類が分布巻きで、かつ、スロット数が24の例を示している。便宜上、モータ310をモータBとも称する。
【0034】
本実施形態では、
図3Aおよび
図3Bに示すモータ300、310を適用例として用いて、
図2にて示した処理フローにおけるトルク算出方法を用いて算出した例について説明する。
【0035】
図4A~
図4Cは、モータ300およびモータ310におけるトルクの算出例を示す。
図4A~
図4Cにおいて縦軸はトルク[p.u.(任意単位)]を示し、横軸は電気角[deg.]を示す。また、以下の結果ではトルクを最大値で正規化して示している。
【0036】
図4Aは、モータ300において、電流の基本成分波のみを通電した際の算出例を示す。ここでは、出力トルクとしてマグネットトルクを活用するために電流進角βを0[deg.]とし、電流振幅を50[A]とした例である。
【0037】
図4Bは、モータ300において、電流の基本成分波のみを通電した際の算出例を示す。ここでは、出力トルクとしてマグネットトルクを活用するために電流進角βを0[deg.]とし、電流振幅をコア磁気飽和の影響を受ける100[A]とした例である。
【0038】
図4Cは、モータ310において、電流の基本成分波のみを通電した際の算出例を示す。ここでは、出力トルクとしてマグネットトルクとリラクタンストルクを併用するために電流進角βを15[deg.]とし、電流振幅を50[A]とした例である。
【0039】
図4A~
図4Cにおいて、三角にて示した値は、FEMによる非線形磁界解析から公知の手法である節点力法で算出した値の例を示している。この値と、本実施形態に係るトルク算出方法で算出されたトータルトルクの値を比較すると、いずれのモータの結果においても一致する。そのため、上記の処理フローにて用いた各式が矛盾なく定義されていることが分かる。
【0040】
図5A~
図5Cは、モータ300およびモータ310に対するトルクの算出した例をトルク成分ごとに比較した結果を示す。
図5A~
図5Cにおいて縦軸はトルク[p.u.(任意単位)]を示し、横軸は電気角[deg.]を示す。
【0041】
図5Aは、
図4Bの条件下におけるモータ300のマグネットトルクに係る、磁束と電流の外積項、磁束の時間微分項、磁気エネルギーの時間微分項を示している。
図5Aのトータルマグネットトルクの値は、
図4Bのマグネットトルクの値に一致している。
【0042】
図5Bは、
図4Cの条件下におけるモータ310のリラクタンストルクに係る、磁束と電流の外積項、磁束の時間微分項、磁気エネルギーの時間微分項を示している。
図5Bのトータルリラクタンストルクの値は、
図4Cのリラクタンストルクの値に一致する。
【0043】
図5Cは、モータ300の電流振幅ごとのコギングトルクの電流依存性を示している。また、
図5Cでは、コギングトルクを無負荷時の最大値で正規化して示している。電流振幅が0A、50A、100Aの場合をそれぞれ示しており、電流進角βは0[deg.]とする。
【0044】
図5Aおよび
図5Bを参照すると、トルクの直流成分は磁束と電流の外積項のみで決まり、トルクの脈動成分は上記の全項にて決まることが分かる。このことを踏まえると、例えば、特許文献2の外積項のみのトルク算出方法では、磁束や磁気エネルギーの時間微分項を考慮していないため、トルク脈動の計算に関して十分な精度を得ることができないと考えられる。また、
図5Aや
図5Bを参照すると、マグネットトルクの磁気エネルギーの時間微分項によるトルク脈動の寄与度が大きいことから、マグネットトルクの計算では、永久磁石磁束とコイル電流の相互作用起因の磁気エネルギーを考慮する必要があると考えられる。また、
図5Cにより、コギングトルクの振幅と位相は電流の大きさで変化している。
【0045】
[従来方法との比較]
以下、本実施形態と、従来方法による比較結果について説明する。ここでは、従来方法として特許文献2として挙げた手法を用いる。
図7は、比較に用いられる制御装置700の概略構成を示す。制御装置700は、基本波電流変換部701、高調波電流変換部702、インバータ703を含んで構成される。基本波電流変換部701は、入力されたトルク指令値を電流指令値に変換する。高調波電流変換部702は、入力されたトルク指令値とロータ(不図示)の回転角に基づき、トルク脈動を抑制するための電流高調波の指令値を導出する。このとき、高調波電流変換部702は、電流とトルクの関係式に基づいて高調波電流の振幅と位相を算出する。インバータ703は、基本波電流変換部701からの電流指令値と、高調波電流変換部702からの電流指令値とが加算された電流指令値に基づいて、電源(不図示)から電力を変換してモータへ供給する。インバータ703には、電流制御装置が含まれてよい。制御装置700にて示した構成の一部が、
図1の情報処理装置1の一部により構成されてよい。
【0046】
本実施形態では、モータA(モータ300)と、モータB(モータ310)を用いた比較結果を示す。また、特許文献2に開示されているように、従来方法では、以下の式(10)を用いて、高調波電流変換部702の処理が行われるものとする。
【0047】
【0048】
Ld、Lq:dq軸座標系のd軸、q軸それぞれのインダクタンス
【0049】
図6A~
図6Cは、モータ300およびモータ310におけるトータルトルクの算出結果の例を示す。
図6A~
図6Cにおいて縦軸はトルク[p.u.(任意単位)]を示し、横軸は電気角[deg.]を示す。
図6A~
図6Cに示す本実施形態に係る手法の結果は、
図4A~
図4Cにそれぞれ対応している。
【0050】
図6Aは、モータ300において、電流の基本成分波のみを通電した際の、本実施形態に係る方法、従来方法、および節点力法による算出結果の例を示す。ここでは、
図4Aと同様、出力トルクとしてマグネットトルクを活用するために電流進角βを0[deg.]とし、電流振幅を50[A]とした例である。
【0051】
図6Bは、モータ300において、電流の基本成分波のみを通電した際の、本実施形態に係る方法、従来方法、および節点力法による算出結果の例を示す。ここでは、
図4Bと同様、出力トルクとしてマグネットトルクを活用するために電流進角βを0[deg.]とし、電流振幅をコア磁気飽和の影響を受ける100[A]とした例である。
【0052】
図6Cは、モータ310において、電流の基本成分波のみを通電した際の、本実施形態に係る方法、従来方法、および節点力法による算出結果の例を示す。ここでは、
図4Cと同様、出力トルクとしてマグネットトルクとリラクタンストルクを併用するために電流進角βを15[deg.]とし、電流振幅を50[A]とした例である。
【0053】
接点力法では、コア磁気特性の非線形性、マグネットトルク、リラクタンストルク、コギングトルクの全てを考慮できるため、これを再現できることが望ましい。
図6A~
図6Cを参照すると、従来方法である特許文献2の手法では、時間平均トルク(直流成分)については、ほぼ再現できているが、トルク脈動については再現できていない。これは、式(10)にて示したトルク式において、磁束の時間微分項、磁気エネルギーの時間微分項、コギングトルクが考慮されていないためである。一方、
図4A~
図4C、
図5A~
図5C、
図6A~
図6Cを参照すると、本実施形態に係る方法では、従来方法では再現できていなかったトルク脈動を再現でき、節点力法と同等の結果を得ることができている。つまり、本実施形態に係る手法により、従来よりも精度良く永久磁石同期モータのトルクを算出することができると言える。
【0054】
以上を踏まえ、本実施形態では、先行技術文献のような方法では算出精度が不十分であったトルク成分を考慮した算出式を用いている。そのため、従来の手法よりもより精度のよいトルク算出が可能となる。特に、磁束や磁気エネルギーの電流依存性を、これらの時間微分項により反映させた算出式により、これらを考慮して精度のよい算出結果を得ることができる。
【0055】
<第2の実施形態>
以下、本発明の第2の実施形態について説明する。なお、第1の実施形態と重複する構成等については説明を省略し、差分に着目して説明する。
【0056】
第1の実施形態では、dq座標系の2相座標系を例に挙げて説明した。本実施形態では、3相座標系の値に基づいてトルク算出を行う形態について説明する。3相座標系として、u軸、v軸、w軸から構成されるuvw軸座標系を用いる。なお、2相座標系と3相座標系とは、不図示のモータ制御装置が備える変換部により座標変換が行われてよい。
【0057】
3相座標系の値を用いる場合、各トルク成分の値を算出する処理(
図2のS202)の算出式が、式(6)、(8)に代えて、以下の式(11)、(12)が用いられる。
【0058】
【0059】
【0060】
ψu、ψv、ψw:uvw軸座標系のu軸、v軸、w軸それぞれのコイルに鎖交する永久磁石磁束
φu、φv、φw:uvw軸座標系のu軸、v軸、w軸それぞれのコイルに鎖交するコイル磁束
iu、iv、iw:uvw軸座標系のu軸、v軸、w軸それぞれのコイル電流
【0061】
そのほかの算出の流れは第1の実施形態と同様である。このような構成により、第1の実施形態と同等の算出精度を実現することが可能となる。
【0062】
<その他の実施形態>
また、上記の実施形態にて示した式(5)に含まれるWFEM[i,ψ]の値は、非線形磁界解析にて計算可能な磁気エネルギーに置き換えてもよい。
【0063】
また、本発明において、上述した1以上の実施形態の機能を実現するためのプログラムやアプリケーションを、ネットワーク又は記憶媒体等を用いてシステム又は装置に供給し、そのシステム又は装置のコンピュータにおける1つ以上のプロセッサがプログラムを読出し実行する処理でも実現可能である。
【0064】
また、1以上の機能を実現する回路(例えば、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)やFPGA(Field Programmable Gate Array))によって実現してもよい。
【0065】
このように、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、実施形態の各構成を相互に組み合わせることや、明細書の記載、並びに周知の技術に基づいて、当業者が変更、応用することも本発明の予定するところであり、保護を求める範囲に含まれる。
【0066】
以上の通り、本明細書には次の事項が開示されている。
(1) 永久磁石同期モータのトルクを算出するトルク算出方法であって、
前記永久磁石同期モータにおける磁束および磁気エネルギーを、FP(Frozen Permeability)法により算出する第1の算出工程と、
前記算出された磁束および磁気エネルギーと、エネルギー保存則に基づいてマグネットトルク、コギングトルク、およびリラクタンストルクそれぞれを定式化した式とを用いて、前記永久磁石同期モータのトルクを算出する第2の算出工程と、
を有するトルク算出方法。
この構成によれば、従来よりも精度を向上させた、永久磁石同期モータのトルクの算出方法を提供することが可能となる。
【0067】
(2) 前記第1の算出工程において、FP法による以下の式が用いられる、(1)に記載のトルク算出方法。
ψ=λFEM[0,ψ]
φ=λFEM[i,0]
Wmp=WFEM[0,ψ]
Wmc=WFEM[i,0]
Wmm=WFEM[i,ψ]-WFEM[0,ψ]-WFEM[i,0]
この構成によれば、FP法による算出式を用いて、精度良く永久磁石同期モータのトルクを算出することが可能となる。
【0068】
(3) WFEM[i,ψ]は、非線形磁界解析の解析結果に基づいて算出される磁気エネルギーである、(2)に記載のトルク算出方法。
この構成によれば、非線形磁界解析の解析結果に基づいて算出される磁気エネルギーを用いてWFEM[i,ψ]を導出することが可能である。
【0069】
(4) 前記第2の算出工程において、以下の式が用いられる、(2)または(3)に記載のトルク算出方法。
【0070】
【0071】
この構成によれば、エネルギー保存則に基づいてマグネットトルク、コギングトルク、およびリラクタンストルクそれぞれを定式化した式を用いて、精度良く永久磁石同期モータのトルクを算出することが可能となる。
【0072】
(5) 前記第2の算出工程において、以下の式が用いられる、(2)または(3)に記載のトルク算出方法。
【0073】
【0074】
この構成によれば、エネルギー保存則に基づいてマグネットトルク、コギングトルク、およびリラクタンストルクそれぞれを定式化した式を用いて、精度良く永久磁石同期モータのトルクを算出することが可能となる。
【0075】
(6) 永久磁石同期モータのトルクを算出するトルク算出装置であって、
前記永久磁石同期モータにおける磁束および磁気エネルギーを、FP(Frozen Permeability)法により算出する第1の算出手段と、
前記算出された磁束および磁気エネルギーと、エネルギー保存則に基づいてマグネットトルク、コギングトルク、およびリラクタンストルクそれぞれを定式化した式とを用いて、前記永久磁石同期モータのトルクを算出する第2の算出手段と、
を有するトルク算出装置。
この構成によれば、従来よりも精度を向上させた、永久磁石同期モータのトルクの算出方法を提供することが可能となる。
【0076】
(7) コンピュータに、
永久磁石同期モータにおける磁束および磁気エネルギーを、FP(Frozen Permeability)法により算出する第1の算出工程と、
前記算出された磁束および磁気エネルギーと、エネルギー保存則に基づいてマグネットトルク、コギングトルク、およびリラクタンストルクそれぞれを定式化した式とを用いて、前記永久磁石同期モータのトルクを算出する第2の算出工程と、
を実行させるためのプログラム。
この構成によれば、従来よりも精度を向上させた、永久磁石同期モータのトルクの算出方法を提供することが可能となる。
【符号の説明】
【0077】
1…情報処理装置
10…CPU(Central Processing Unit)
11…ROM(Read Only Memory)
12…RAM(Random Access Memory)
13…HDD(Hard Disk Drive)
14…入力装置
15…表示装置
16…通信装置
300、310…モータ
301、311…永久磁石
302、312…ロータコア
303、313…コイル
304、314…ステータコア
700…制御装置
701…基本波電流変換部
702…高調波電流変換部
703…インバータ