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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023136209
(43)【公開日】2023-09-29
(54)【発明の名称】溶融紡糸用樹脂組成物および繊維
(51)【国際特許分類】
   C08L 27/24 20060101AFI20230922BHJP
   C08K 5/098 20060101ALI20230922BHJP
   C08K 5/57 20060101ALI20230922BHJP
   D01F 6/48 20060101ALI20230922BHJP
   D01F 6/10 20060101ALI20230922BHJP
【FI】
C08L27/24
C08K5/098
C08K5/57
D01F6/48 B
D01F6/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022041706
(22)【出願日】2022-03-16
(71)【出願人】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】石井 理子
(72)【発明者】
【氏名】田中 克幸
(72)【発明者】
【氏名】吉田 直人
【テーマコード(参考)】
4J002
4L035
【Fターム(参考)】
4J002BD032
4J002BD181
4J002CD163
4J002CF033
4J002CF103
4J002EB026
4J002EG037
4J002EG047
4J002EH096
4J002EH146
4J002EW046
4J002EZ047
4J002EZ067
4J002FD023
4J002FD026
4J002FD067
4J002GK01
4L035AA05
4L035BB31
4L035EE14
4L035JJ14
4L035JJ15
4L035JJ27
4L035KK05
(57)【要約】
【課題】耐熱性および難燃性に優れる繊維を溶融紡糸するために利用可能な樹脂組成物を実現する。
【解決手段】本発明の一実施形態に係る溶融紡糸用樹脂組成物は、(a)塩素含有量が58~70重量%である塩素化ポリ塩化ビニル系樹脂100重量部と、(b)ポリ塩化ビニル系樹脂0~90重量部と、(c)可塑剤0.1~15重量部と、(d)安定剤0.1~15重量部とを含有し、(b)成分および(c)成分の量が特定の式を満たす。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)塩素含有量が58~70重量%である塩素化ポリ塩化ビニル系樹脂100重量部と、(b)ポリ塩化ビニル系樹脂0~90重量部と、(c)可塑剤0.1~15重量部と、(d)安定剤0.1~15重量部とを含有し、下記式(I)を満たす、溶融紡糸用樹脂組成物:
B+C×8≦120 (I)
式中、Bは(a)成分100重量部に対する(b)成分の量[重量部]を表し、Cは(a)成分100重量部に対する(c)成分の量[重量部]を表す。
【請求項2】
全樹脂成分中の前記(a)成分の量が、50重量%超である、請求項1に記載の溶融紡糸用樹脂組成物。
【請求項3】
前記(c)成分が、フタル酸系可塑剤、脂肪族二塩基酸系可塑剤、トリメリット酸系可塑剤、ピロメリット酸系可塑剤、ポリエステル系可塑剤、エポキシ系可塑剤、エーテル系可塑剤、リン酸系可塑剤および塩素系可塑剤からなる群より選択される1種以上である、請求項1または2に記載の溶融紡糸用樹脂組成物。
【請求項4】
前記(d)成分が、有機錫系化合物および金属石鹸からなる群より選択される1種以上である、請求項1~3のいずれか1項に記載の溶融紡糸用樹脂組成物。
【請求項5】
前記有機錫系化合物が、ジアルキル錫メルカプト系化合物およびジアルキル錫カルボン酸塩からなる群より選択される1種以上である、請求項4に記載の溶融紡糸用樹脂組成物。
【請求項6】
前記金属石鹸が、高級脂肪酸およびその誘導体の亜鉛塩、カルシウム塩およびそれらの混合物からなる群より選択される1種以上である、請求項4または5に記載の溶融紡糸用樹脂組成物。
【請求項7】
JIS K7206に準拠し、5kgf/cm荷重で測定したビカット軟化温度が90℃以上である、請求項1~6のいずれか1項に記載の溶融紡糸用樹脂組成物。
【請求項8】
JIS L1091に準拠して測定した限界酸素指数が40%以上である、請求項1~7のいずれか1項に記載の溶融紡糸用樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載の溶融紡糸用樹脂組成物からなる繊維。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融紡糸用樹脂組成物および繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリ塩化ビニル系樹脂は、自己消火性および耐薬品性等に優れ、繊維等に利用されている。また、繊維の耐熱性を向上するため、ポリ塩化ビニル系樹脂と塩素化ポリ塩化ビニル系樹脂とを併用する技術も知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、50~95重量%の塩化ビニル系樹脂と5~50重量%の塩素化ポリ塩化ビニル樹脂の混合物100重量部に対し、エチレン・酢ビ/塩ビグラフト重合樹脂を5~40重量部配合した樹脂組成物からなることを特徴とするポリ塩化ビニル系繊維が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、(A)塩化ビニル系樹脂と塩素化ポリ塩化ビニル系樹脂とからなる混合物に対し、(B)架橋塩化ビニル系樹脂と、(C)エチレン単位、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単位、一酸化炭素単位、およびこれらと共重合可能なビニル系単量体単位を用いてなる共重合体とを、特定の量にて配合した組成物からなることを特徴とするポリ塩化ビニル系繊維用樹脂組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10-102317号公報
【特許文献2】特開2000-154293号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述のような従来技術は、耐熱性および難燃性の観点から、さらなる改善の余地があった。本発明の一態様は、耐熱性および難燃性に優れる繊維を溶融紡糸するために利用可能な樹脂組成物を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る溶融紡糸用樹脂組成物は、(a)塩素含有量が58~70重量%である塩素化ポリ塩化ビニル系樹脂100重量部と、(b)ポリ塩化ビニル系樹脂0~90重量部と、(c)可塑剤0.1~15重量部と、(d)安定剤0.1~15重量部とを含有し、下記式(I)を満たす:
B+C×8≦120 (I)
式中、Bは(a)成分100重量部に対する(b)成分の量[重量部]を表し、Cは(a)成分100重量部に対する(c)成分の量[重量部]を表す。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一態様によれば、耐熱性および難燃性に優れる繊維を溶融紡糸するために利用可能な樹脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の一実施形態について以下に説明する。本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上(Aを含みかつAより大きい)B以下(Bを含みかつBより小さい)」を意味する。
【0010】
〔1.溶融紡糸用樹脂組成物〕
本発明の一実施形態に係る溶融紡糸用樹脂組成物は、(a)塩素含有量が58~70重量%である塩素化ポリ塩化ビニル系樹脂100重量部と、(b)ポリ塩化ビニル系樹脂0~90重量部と、(c)可塑剤0.1~15重量部と、(d)安定剤0.1~15重量部とを含有し、下記式(I)を満たす:
B+C×8≦120 (I)
式中、Bは(a)成分100重量部に対する(b)成分の量[重量部]を表し、Cは(a)成分100重量部に対する(c)成分の量[重量部]を表す。
【0011】
以下では、溶融紡糸用樹脂組成物を単に「樹脂組成物」、ポリ塩化ビニル系樹脂を「PVC」、塩素化ポリ塩化ビニル系樹脂を「CPVC」とも称する。
【0012】
上述のように、PVCを用いた繊維の耐熱性を向上させるために、CPVCを添加剤として配合する技術が報告されている(例えば特許文献1および2)。しかし、このような繊維でも、依然として耐熱性および難燃性が十分といえず、改善の余地があった。
【0013】
CPVCは耐熱性および難燃性に優れる。そこで本発明者らは、繊維の耐熱性および難燃性を向上させるために、CPVCの含有量を増加させた繊維の開発を検討した。その際、樹脂成分としてCPVC単独を用いた樹脂組成物は溶融紡糸が難しいことが分かった。
【0014】
本発明者らがCPVCを含む樹脂組成物の各成分量と各種特性との関係について種々検討した結果、可塑剤の量の影響がPVCの量の8倍であることが明らかになった。前記式(I)はこの発見に基づく計算式である。本発明者らは、CPVCの含有量が高い樹脂組成物において、式(I)を満たすように可塑剤を配合することによって加工性を向上することができ、その結果、樹脂組成物の溶融紡糸が可能になることを見出した。本発明者らは、このようにして耐熱性および難燃性に優れた繊維を得られることを見出した。
【0015】
耐熱性は、ビカット軟化温度により評価することができる。例えば前記樹脂組成物は、JIS K7206に準拠し、5kgf/cm荷重で測定したビカット軟化温度が90℃以上であることが好ましい。難燃性は、限界酸素指数により評価することができる。例えば、前記樹脂組成物は、JIS L1091に準拠して測定した限界酸素指数が40%以上であることが好ましく、45%以上であることがより好ましく、50%以上であることがさらに好ましい。
【0016】
<1-1.塩素化ポリ塩化ビニル系樹脂>
前記樹脂組成物は、(a)塩素含有量が58~70重量%である塩素化ポリ塩化ビニル系樹脂を含む。本明細書において、塩素含有量が58~70重量%である塩素化ポリ塩化ビニル系樹脂を(a)成分とも称する。塩素化ポリ塩化ビニル系樹脂とは、後塩素化により塩素含有量が向上したポリ塩化ビニル系樹脂を意味する。加熱溶融加工時の熱安定性および加工性の点から(a)成分の塩素含有量は58~70重量%であり、63~68重量%であることが好ましい。(a)成分における塩素含有量は、塩素化度とも称される。
【0017】
前記樹脂組成物の全樹脂成分中の(a)成分の量は、50重量%超であることが好ましく、55重量%以上であることがより好ましく、60重量%以上であることがさらに好ましく、70重量%以上であることが特に好ましく、80重量%以上であることが最も好ましい。本明細書において「全樹脂成分」とは、後述の(c)成分、(d)成分およびその他の添加剤を除いた樹脂成分の合計であり、例えば(a)成分および(b)成分の合計であってもよい。前記(a)成分の量が50重量%超であれば、耐熱性および難燃性をより向上することができる。前記(a)成分の量の上限値は100重量%であってもよい。
【0018】
(a)成分の平均重合度は、加工性の点で400~1000であることが好ましい。本明細書において、(a)成分および後述の(b)成分の平均重合度は、粘度平均重合度を指す。粘度平均重合度は、樹脂200mgをニトロベンゼン50mLに溶解させて得られたポリマー溶液を30℃恒温槽中に配置し、ウベローデ型粘度計を用いて比粘度を測定し、JIS K6721に従って算出することができる。
【0019】
(a)成分を得るための塩素化の方法は気相および液相のいずれでもよい。塩素化する塩化ビニル系樹脂は、塊状重合、懸濁重合、或いはその他の特に塩素化に有利な方法により重合されたものであり得る。
【0020】
<1-2.ポリ塩化ビニル系樹脂>
前記樹脂組成物は、(b)ポリ塩化ビニル系樹脂を含んでいてもよい。本明細書において、(b)ポリ塩化ビニル系樹脂を(b)成分とも称する。(b)成分の塩素含有量は、56.7重量%未満であり得る。
【0021】
(b)成分は、塩化ビニルの単独重合体(ポリ塩化ビニル)であってもよく、塩化ビニルとその他の単量体との共重合体であってもよく、これらの混合物であってもよい。共重合体の構成単位100重量%中、その他の単量体由来の構成単位の割合は50重量%未満であることが好ましく、20重量%未満であることがより好ましい。
【0022】
塩化ビニルと共重合させる単量体としては、エチレン、プロピレン、アルキルビニルエーテル、塩化ビニリデン、酢酸ビニル、ピロピオン酸ビニル、アクリル酸エステル、マレイン酸エステル、アクリロニトリル等が挙げられる。これらの中でも、加熱溶融加工時の熱安定性の点で、エチレン、プロピレン、または酢酸ビニルが好ましい。
【0023】
(b)成分の平均重合度は、400~1800であることが好ましく、500~1500であることがより好ましく、700~1300であることがさらに好ましい。平均重合度が400以上であれば、十分な強度および耐熱性を有する繊維が得られやすい。平均重合度が1800以下であれば、溶融粘度が抑えられ、加工しやすい。
【0024】
(a)成分100重量部に対する(b)成分の量は、0~90重量部であり、0~70重量部であることが好ましく、0~50重量部であることがより好ましい。また、前記樹脂組成物の全樹脂成分中の(b)成分の量は、50重量%未満であることが好ましく、40重量%以下であることがより好ましく、30重量%以下であることがさらに好ましい。(b)成分の量が前記範囲であれば、(a)成分により耐熱性および難燃性を向上する効果が得られやすい。全樹脂成分中の(b)成分の量の下限値は、0重量%であってもよい。すなわち、前記樹脂組成物は、(b)成分を含まなくてもよい。
【0025】
(b)成分を得るための方法としては、乳化重合、塊状重合および懸濁重合等が挙げられる。繊維の初期着色性等の観点からは、懸濁重合が好ましい。
【0026】
<1-3.可塑剤>
前記樹脂組成物は、(c)可塑剤を含む。本明細書において、(c)可塑剤を(c)成分とも称する。(c)成分の分子量は、8000以下であってもよく、6000以下であってもよく、4000以下であってもよく、2000以下であってもよい。
【0027】
前記(c)成分は、フタル酸系可塑剤、脂肪族二塩基酸系可塑剤、トリメリット酸系可塑剤、ピロメリット酸系可塑剤、ポリエステル系可塑剤、エポキシ系可塑剤、エーテル系可塑剤、リン酸系可塑剤および塩素系可塑剤からなる群より選択される1種以上であることが好ましい。フタル酸系可塑剤としては、ジブチルフタレート、ジ-2-エチルヘキシルフタレート、ジイソノニルフタレート等が挙げられる。脂肪族二塩基酸系可塑剤としては、ジ2-エチルヘキシルアジペート(DOA)等が挙げられる。トリメリット酸系可塑剤としては、トリ2-エチルヘキシルトチメリテート(TOTM)等が挙げられる。ピロメリット酸系可塑剤としては、オクチルピロメリテート等が挙げられる。ポリエステル系可塑剤としては、アジピン酸ポリエステル等が挙げられる。エポキシ系可塑剤としては、エポキシ化大豆油等が挙げられる。エーテル系可塑剤としては、トリエチレングリコール2-エチルブチレート等が挙げられる。リン酸系可塑剤としては、トリクレジルホスフェート(TCP)等が挙げられる。塩素系可塑剤としては、塩素化パラフィン等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0028】
(a)成分100重量部に対する(c)成分の量は、0.1~15重量部であり、1~10重量部であることが好ましい。(c)成分の量が0.1重量部以上であれば、樹脂組成物の粘度を抑え、紡糸機のノズル圧を下げる効果および糸切れ改善の効果が得られやすい。(c)成分の量が15重量部以下であれば、(a)成分により耐熱性および難燃性を向上する効果が得られやすい。
【0029】
<1-4.安定剤>
前記樹脂組成物は、(d)安定剤を含む。本明細書において、(d)安定剤を(d)成分とも称する。(d)成分は、有機錫系化合物および金属石鹸からなる群より選択される1種以上であることが好ましい。
【0030】
前記有機錫系化合物は、ジアルキル錫メルカプト系化合物およびジアルキル錫カルボン酸塩からなる群より選択される1種以上であることが好ましい。ジアルキル錫メルカプト系化合物としては、ジメチル錫メルカプト系化合物、ジブチル錫メルカプト系化合物、ジオクチル錫メルカプト系化合物等が挙げられる。ジアルキル錫カルボン酸塩としては、ジメチル錫カルボン酸塩、ジブチル錫カルボン酸塩、ジオクチル錫カルボン酸塩等が挙げられる。ジメチル錫カルボン酸塩としては、ジメチル錫マレエート、ジメチル錫ジラウレート、ジメチル錫ラウレートマレエート等が挙げられる。ジブチル錫カルボン酸塩としては、ジブチル錫マレエート、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫ラウレートマレエート等が挙げられる。ジオクチル錫カルボン酸塩としては、ジオクチル錫マレエート、ジオクチル錫ジラウレート、ジオクチル錫マレエートラウレート等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0031】
前記金属石鹸は、高級脂肪酸およびその誘導体の亜鉛塩、カルシウム塩およびそれらの混合物からなる群より選択される1種以上であることが好ましい。高級脂肪酸としては、ステアリン酸、ラウリン酸、パルミチン酸、オレイン酸等が挙げられる。その誘導体としては、12-ヒドロキシステアリン酸等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0032】
(a)成分100重量部に対する(d)成分の量は、0.1~15重量部であり、1~10重量部であることが好ましく、1~5重量部であることがより好ましい。(d)成分の量が0.1重量部以上であれば、熱安定性向上の効果が得られやすい。(d)成分の量が15重量部以下であれば、(a)成分により耐熱性および難燃性を向上する効果が得られやすい。
【0033】
<1-5.樹脂組成物の製造方法>
前記樹脂組成物は、上記の(a)成分~(d)成分および必要に応じてその他の成分を混合して得ることができる。その他の成分としては、特に限定されないが、滑剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、着色剤、充填剤等が挙げられる。混合には、リボンブレンダー、ヘンシェルミキサー等の混合機を用いてもよい。また、混合は、常温で行ってもよく、加熱しながら行ってもよい。前記樹脂組成物は、粉末またはペレットの形態であってもよい。
【0034】
〔2.繊維〕
本発明の一実施形態に係る繊維は、上述の溶融紡糸用樹脂組成物からなる。それゆえ当該繊維は、耐熱性および難燃性に優れる。前記繊維は、例えば人口毛髪、防虫網、ブラシ、カーペット、産業資材等に利用することができる。繊維の繊度は特に限定されないが、例えば100dtex以下であってもよく、90dtex以下であってもよく、80dtex以下であってもよい。
【0035】
前記繊維は、上述の溶融紡糸用樹脂組成物を溶融紡糸することにより製造することができる。例えば上述の樹脂組成物を押出機に充填し、シリンダー温度およびノズル温度135~200℃の範囲として紡糸性の良い条件で押出す。ノズル直下に設けた加熱紡糸筒内(200~350℃雰囲気で紡糸性の良い条件)で約0.5~3秒熱処理し、引き取りロールを通した後、ボビンに巻き取る。この巻き取った繊維状物を110~140℃で予熱して約3~5倍延伸し、次いで約10~25%緩和処理して、マルチフィラメントを巻き取ることで前記繊維を得ることができる。
【0036】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【0037】
本発明の一実施形態は、以下のような構成であってもよい。
<1>(a)塩素含有量が58~70重量%である塩素化ポリ塩化ビニル系樹脂100重量部と、(b)ポリ塩化ビニル系樹脂0~90重量部と、(c)可塑剤0.1~15重量部と、(d)安定剤0.1~15重量部とを含有し、下記式(I)を満たす、溶融紡糸用樹脂組成物:
B+C×8≦120 (I)
式中、Bは(a)成分100重量部に対する(b)成分の量[重量部]を表し、Cは(a)成分100重量部に対する(c)成分の量[重量部]を表す。
<2>全樹脂成分中の前記(a)成分の量が、50重量%超である、<1>に記載の溶融紡糸用樹脂組成物。
<3>前記(c)成分が、フタル酸系可塑剤、脂肪族二塩基酸系可塑剤、トリメリット酸系可塑剤、ピロメリット酸系可塑剤、ポリエステル系可塑剤、エポキシ系可塑剤、エーテル系可塑剤、リン酸系可塑剤および塩素系可塑剤からなる群より選択される1種以上である、<1>または<2>に記載の溶融紡糸用樹脂組成物。
<4>前記(d)成分が、有機錫系化合物および金属石鹸からなる群より選択される1種以上である、<1>~<3>のいずれか1つに記載の溶融紡糸用樹脂組成物。
<5>前記有機錫系化合物が、ジアルキル錫メルカプト系化合物およびジアルキル錫カルボン酸塩からなる群より選択される1種以上である、<4>に記載の溶融紡糸用樹脂組成物。
<6>前記金属石鹸が、高級脂肪酸およびその誘導体の亜鉛塩、カルシウム塩およびそれらの混合物からなる群より選択される1種以上である、<4>または<5>に記載の溶融紡糸用樹脂組成物。
<7>JIS K7206に準拠し、5kgf/cm荷重で測定したビカット軟化温度が90℃以上である、<1>~<6>のいずれか1つに記載の溶融紡糸用樹脂組成物。
<8>JIS L1091に準拠して測定した限界酸素指数が40%以上である、<1>~<7>のいずれか1つに記載の溶融紡糸用樹脂組成物。
<9><1>~<8>のいずれか1つに記載の溶融紡糸用樹脂組成物からなる繊維。
【実施例0038】
本発明の一実施例について以下に説明する。
【0039】
〔評価方法〕
<耐熱性(ビカット軟化温度)>
実施例または比較例で得られた樹脂組成物をロール練り混練機にて190~195℃で5分間、混練した。混練した樹脂組成物からロールシートを作製した。このロールシートを重ねて190~200℃で10分間プレスすることにより、厚み4mmのプレス板を作製した。このプレス板を用いてJIS K7206に準拠してビカット軟化温度を測定した。測定には安田精機製作所社製HEAT DISTORTION TESTERを用いた。荷重は5kgf/cmとした。
【0040】
<難燃性(限界酸素指数)>
実施例または比較例で得られた樹脂組成物を用いて、JIS L1091に準拠して限界酸素指数(LOI)を測定した。
【0041】
<熱安定性(GO褐化時間)>
JIS K7212 オーブン法に準拠して褐化時間を測定した。具体的には、耐熱性評価と同様に作製したロールシートをカットし、200℃に調整されたギアオーブン(GO)に入れた。10分毎にロールシートを順次ギアオーブンから取り出し、褐化に至る迄の時間を評価した。褐化時間は、ロールシートの黄変が進行して褐色に達した時間とした。
【0042】
<熱収縮性(乾熱収縮率)>
実施例または比較例で得られた長さ30cmの繊維120本をサンプルとして用いた。これらのサンプルを90℃のギアオーブン中に吊り下げ、30分後の各サンプルの収縮率[%]を測定した。1つの実施例または比較例につき繊維120本分の測定を反復数N=2~4で行い、得られた値を平均して乾熱収縮率を求めた。
【0043】
〔材料〕
<(a)塩素化ポリ塩化ビニル系樹脂>
・塩素化度67.6重量%、平均重合度約600の塩素化ポリ塩化ビニル樹脂(カネカ社製H716S)
<(b)ポリ塩化ビニル系樹脂>
・平均重合度約1000のポリ塩化ビニル樹脂(カネカ社製S1001)
<(c)可塑剤>
・エポキシ化大豆油(ADEKA社製O-130P、実施例1~5、9)
・ジ2-エチルヘキシルアジペート(実施例6)
・トリ2-エチルヘキシルトチメリテート(実施例7)
・トリクレジルホスフェート(実施例8)
<(d)安定剤>
・錫系(Sn)安定剤(ADEKA社製アデカスタブ1292)
・12-ヒドロキシステアリン酸カルシウム(堺化学社製SC12-OH)
・12-ヒドロキシステアリン酸亜鉛(堺化学社製SZ12-OH)
・ステアリン酸亜鉛とステアリン酸カルシウムとの混合物(サンエース社製)
〔実施例1~9および比較例1~5〕
実施例1~9および比較例1~3では、塩素化ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、可塑剤および安定剤を表1に記載の重量比にて20リットル・ヘンシェルミキサーに投入し、撹拌混合し、樹脂組成物を得た。その後、孔面積0.2mm、孔数120のノズルを取り付けた40mmΦ押出機に前記樹脂組成物を充填し、シリンダーおよびノズルの温度を135~200℃の範囲として紡糸性の良い条件で押出した。押出された樹脂組成物を、ノズル直下に設けた加熱紡糸筒内(200℃~350℃雰囲気で紡糸性の良い条件)で約0.5~3秒熱処理し、引き取りロールを通した後、ボビンに巻き取った。この巻き取った繊維状物を110~140℃で予熱して約3~5倍延伸し、25%緩和処理して繊維を得た。
【0044】
比較例4、5では、塩素化ポリ塩化ビニル系樹脂を用いず、ポリ塩化ビニル系樹脂、可塑剤および安定剤を表1に記載の重量比にて用いたこと以外は前記と同様にして繊維を得た。
【0045】
〔評価結果〕
評価結果を下記表1に示す。
【0046】
【表1】
【0047】
表1中、実施例1~9および比較例1~3ではCPVC100重量部に対する成分(b)~(d)の添加量を表し、比較例4、5ではPVC100重量部に対する成分(c)、(d)の添加量を表している。
【0048】
表1から分かるように、CPVCを用い且つ式(I)を満たす実施例1~5は、式(I)を満たさない比較例1~3およびCPVCを用いていない比較例4、5に比べてビカット軟化温度およびLOIが高い。すなわち、実施例1~5は比較例1~5に比べて耐熱性および難燃性に優れる。
【0049】
CPVCを用い且つ溶融紡糸可能とするためにはPVCおよび/または可塑剤が必要だが、比較例1~3のようにPVCおよび/または可塑剤の添加量が多いと耐熱性および難燃性は低下する。
【0050】
また、比較例5に比べて実施例2は熱収縮性が小さかった。さらに、比較例5に比べて実施例1~9はGO褐化時間が長く、熱安定性に優れることが分かる。
【0051】
実施例6~9のように可塑剤または安定剤の種類を変更した場合も、式(I)を満たすように配合することにより、優れた耐熱性および難燃性が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明の一態様は、例えば繊維の製造に利用することができる。