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特開2023-136236シールド工法における地山崩落検知システム及び地山崩落検知方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023136236
(43)【公開日】2023-09-29
(54)【発明の名称】シールド工法における地山崩落検知システム及び地山崩落検知方法
(51)【国際特許分類】
   E21D 9/093 20060101AFI20230922BHJP
【FI】
E21D9/093 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022041747
(22)【出願日】2022-03-16
(71)【出願人】
【識別番号】000201478
【氏名又は名称】前田建設工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】592069296
【氏名又は名称】ソイルアンドロックエンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】野本 康介
(72)【発明者】
【氏名】前田 幸輝
(72)【発明者】
【氏名】中牟田 慎一朗
(72)【発明者】
【氏名】谷口 龍
【テーマコード(参考)】
2D054
【Fターム(参考)】
2D054AC04
2D054BA03
2D054GA15
2D054GA69
2D054GA70
2D054GA89
(57)【要約】
【課題】シールド機を用いてトンネルの構築を行うシールド工法において、従来よりも精度良く地山の崩落を検知するための技術を提供する。
【解決手段】地山崩落検知システムは、シールド機に設けられた地山含水比測定器と、シールド機が所定区間を掘進する掘進過程で地山に崩落が無いと仮定した場合に掘削される地山状態土重量と、当該掘進過程でシールド機内から実際に排出された、ほぐされた状態にある排出土重量を取得し、地山状態土重量と排出土重量との間に有意差がある場合に地山に崩落が起こっていると判定する土量管理装置を備える。土量管理装置は、掘進過程で地山に崩落が無いと仮定した場合に掘削される、地山状態にある地山掘削土量と、当該掘進過程で地山含水比測定器によって測定された地山の含水比に基づいて算出した地山の飽和単位体積重量とに基づいて地山状態土重量を算出する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シールド工法において地山を掘進するシールド機に設けられ、地山に向かって中性子線を射出することによって地山の含水比を測定する地山含水比測定器と、
前記シールド機が所定区間を掘進する掘進過程で地山に崩落が無いと仮定した場合に掘削される、地山状態にある土の重量である地山状態土重量と、当該掘進過程で前記シールド機内から実際に排出された、ほぐされた状態にある土の重量である排出土重量と、を取得し、前記地山状態土重量と前記排出土重量との間に有意差がある場合に地山に崩落が起こっていると判定する土量管理装置と、
を備え、
前記土量管理装置は、前記掘進過程で地山に崩落が無いと仮定した場合に掘削される、地山状態にある土の体積である地山掘削土量と、当該掘進過程で前記地山含水比測定器によって測定された地山の含水比に基づいて算出した地山の飽和単位体積重量と、に基づいて前記地山状態土重量を算出する、
地山崩落検知システム。
【請求項2】
前記土量管理装置は、以下の式(1)に従って前記地山状態土重量を算出する、請求項1に記載の地山崩落検知システム。
Mb=Vb×γsat ・・・(1)
γsatは、前記所定区間に対応する地山の飽和単位体積重量である。
Vbは、前記シールド機が前記所定区間を掘進する掘進過程で地山に崩落が無いと仮定した場合に掘削される、地山状態にある土の体積である地山掘削土量である。
【請求項3】
前記土量管理装置は、以下の式(2)に従って前記地山掘削土量(Vb)を算出する、請求項2に記載の地山崩落検知システム。
Vb=πr×Li ・・・(2)
πは円周率である。rは、前記シールド機が地山を掘削する際の掘削半径である。Liは、前記所定区間の長さである。
【請求項4】
前記土量管理装置は、以下の式(3)に従って前記飽和単位体積重量(γsat)を算出する、請求項2又は3に記載の地山崩落検知システム。
γsat=(1+w/100)/(1/γs+w/100/γw) ・・・(3)
wは、前記シールド機が前記所定区間を掘進する掘進過程で前記地山含水比測定器によって測定された地山の含水比である。γwは、水の単位体積重量である。γsは、土粒子の単位体積重量である。
【請求項5】
請求項1から4の何れか一項に記載された地山崩落検知システムの土量管理装置が実行する地山崩落検知方法であって、
前記土量管理装置は、
シールド機が所定区間を掘進する掘進過程で地山に崩落が無いと仮定した場合に掘削される、地山状態にある土の体積である地山掘削土量と、当該掘進過程で前記地山含水比測定器によって測定された含水比に基づいて算出した地山の飽和単位体積重量と、に基づいて地山状態にある土の重量である地山状態土重量を算出し、
前記地山状態土重量と、前記掘進過程で前記シールド機内から実際に排出された、ほぐされた状態にある土の重量である排出土重量との間に有意差がある場合に地山に崩落が起こっていると判定する、
地山崩落検知方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シールド工法における地山崩落検知システム及び地山崩落検知方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シールド機を用いてトンネルの構築を行うシールド工法において、シールド機が掘進する際に掘削面が崩落すると、シールド機のスキンプレートと地山の間に空隙を生じることがあり、この空隙によって地盤の沈下や陥没といった事態を引き起こす虞がある。そこで、シールド工法においては、地山の崩落を検知した場合には、シールド機内から地山へグラウト剤を注入する等といった対処を即座に行い、地盤の沈下や陥没を抑制することが重要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第6405198号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
地山の崩落が起こると、シールド機のカッターヘッドによって掘削した実際の掘削土量よりも多い過剰な量の掘削土が排出される。したがって、シールド機によって実際に掘削した掘削土量(地山土量)に比べて、シールド機から排出された排出土量の方が有意に多い場合、地山の崩落に起因する崩落土がシールド機に取り込まれたと判断することができる。
【0005】
しかしながら、地山を構成する土は一般的に間隙が水で飽和しているのに対して、シールド機から排出される土は掘削によってほぐされており、間隙に多くの空気を含む。そのため、シールド機によって実際に掘削した掘削土量(地山土量)を精度良く推定するためには掘削された後ではなく、地山を構成している土の密度を正確に把握する必要がある。
【0006】
地山を構成する土の密度は、事前のボーリングデータ等から推定する方法があるが、一般にシールドトンネルは全長が長い。また、ボーリング調査は労力とコストを要するため、通常、数百メートルピッチに1か所程度しか行われないことが多く、そのようなボーリングデータに基づいた場合、地山を構成する土の密度を精度良く把握することが難しいのが実情であった。
【0007】
本発明は、上記のような問題点に鑑みてなされたものであって、その目的は、シールド機を用いてトンネルの構築を行うシールド工法において、従来よりも精度良く地山の崩落を検知するための技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するために以下の手段を採用する。すなわち、本発明に係る地山崩落検知システムは、シールド工法において地山を掘進するシールド機に設けられ、地山に向かって中性子線を射出することによって地山の含水比を測定する地山含水比測定器と、前記シールド機が所定区間を掘進する掘進過程で地山に崩落が無いと仮定した場合に掘削される、地山状態にある土の重量である地山状態土重量と、当該掘進過程で前記シールド機内から実際に排出された、ほぐされた状態にある土の重量である排出土重量と、を取得し、前記地山状態土重量と前記排出土重量との間に有意差がある場合に地山に崩落
が起こっていると判定する土量管理装置と、を備え、前記土量管理装置は、前記掘進過程で地山に崩落が無いと仮定した場合に掘削される、地山状態にある土の体積である地山掘削土量と、当該掘進過程で前記地山含水比測定器によって測定された含水比に基づいて算出した地山の飽和単位体積重量と、に基づいて前記地山状態土重量を算出する。
【0009】
ここで、前記土量管理装置は、以下の式(1)に従って前記地山状態土重量を算出してもよい。
Mb=Vb×γsat ・・・(1)
γsatは、前記所定区間に対応する地山の飽和単位体積重量である。
Vbは、前記シールド機が前記所定区間を掘進する掘進過程で地山に崩落が無いと仮定した場合に掘削される、地山状態にある土の体積である地山掘削土量である。
【0010】
また、前記土量管理装置は、以下の式(2)に従って前記地山掘削土量(Vb)を算出してもよい。
Vb=πr×Li ・・・(2)
πは円周率である。rは、前記シールド機が地山を掘削する際の掘削半径である。Liは、前記所定区間の長さである。
【0011】
また、前記土量管理装置は、以下の式(3)に従って前記飽和単位体積重量(γsat)を算出してもよい。
γsat=(1+w/100)/(1/γs+w/100/γw) ・・・(3)
wは、前記シールド機が前記所定区間を掘進する掘進過程で前記地山含水比測定器によって測定された地山の含水比である。γwは、水の単位体積重量である。γsは、土粒子の単位体積重量である。
【0012】
また、本発明は上述した地山崩落検知システムの土量管理装置が実行する地山崩落検知方法であってもよい。すなわち、本発明に係る地山崩落検知方法において、前記土量管理装置は、シールド機が所定区間を掘進する掘進過程で地山に崩落が無いと仮定した場合に掘削される、地山状態にある土の体積である地山掘削土量と、当該掘進過程で前記地山含水比測定器によって測定された含水比に基づいて算出した地山の飽和単位体積重量と、に基づいて地山状態にある土の重量である地山状態土重量を算出し、前記地山状態土重量と、前記掘進過程で前記シールド機内から実際に排出された、ほぐされた状態にある土の重量である排出土重量との間に有意差がある場合に地山に崩落が起こっていると判定してもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、シールド機を用いてトンネルの構築を行うシールド工法において、従来よりも精度良く地山の崩落を検知するための技術を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、実施形態に係るシールド機を説明する図である。
図2図2は、実施形態に係るシールド機の掘削土排出装置、地山含水比測定器を説明する図である。
図3図3は、実施形態に係る地山崩落検知システムの概略構成を示す図である。
図4図4は、実施形態に係る地山含水比測定器の設置態様を示す図である。
図5図5は、実施形態に係る土量管理装置の構成例を示すブロック図である。
図6図6は、実施形態に係る地山崩落検知処理のフローを示す図である。
図7図7は、実施形態の変形例に係る地山含水比測定器の設置態様を説明する図である。
図8図8は、実施形態の他の変形例に係る地山含水比測定器の設置態様を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0016】
<実施形態>
図1は、実施形態に係るシールド機1を説明する図である。シールド機1は、機体2の前面に設けられたディスク状のカッターヘッド3を回転させて切羽(図示せず)を掘削しながら前方に掘進する。符号4は、機体2を構成するスキンプレートである。機体2内には、セグメントを組み立てるエレクタ(図示せず)や、機体2を推進させるためのシールドジャッキ(図示せず)等が設置されている。シールド工法に用いるシールド機のエレクタやシールドジャッキについては公知のため、ここでの詳細な説明は省略する。
【0017】
図2は、実施形態に係るシールド機1に設置された掘削土排出装置10、地山含水比測定器20等を説明する図である。ここで、符号6は、機体2の前部において、カッターヘッド3との間にチャンバー5が形成されるように、チャンバー5の背面を仕切る隔壁である。掘削土排出装置10は、チャンバー5内に取り込まれた掘削土を排出するためのスクリューコンベア11、ベルトコンベア12等を含む。
【0018】
符号30は地山である。シールド機1は、掘進時に回転するカッターヘッド3によって地山30を切削しながら前進する。カッターヘッド3には、掘削土(土砂、礫、岩石片などを含む)をチャンバー5内へ導入するための開口(図示せず)が形成されている。スクリューコンベア11は、隔壁6の下部からチャンバー5内に前端部を突出させた状態で設置されている。スクリューコンベア11は、外部(カッターヘッド3の前方側)からチャンバー5内へ取り込まれた掘削土を、チャンバー5の底部から運搬し、当該掘削土をベルトコンベア12上に排出する。ベルトコンベア12は、セグメント7が組み立てられることによって構築されたシールドトンネルT内をトンネル軸方向に沿って敷設されており、スクリューコンベア11から受け取った掘削土(図2中、符号Sにて図示)を搬送する。図2に示す符号8は、シールド機1が発進する発進基地の立坑である。符号9は、掘削土Sを収容するための土砂ピット(「土捨場」とも呼ばれる場合がある)である。シールド機1から排出される掘削土は、ベルトコンベア12を通じて土砂ピット9に搬出される。勿論、ベルトコンベア12に代えて、圧送ポンプ等によって掘削土を土砂ピット9に搬出してもよい。なお、シールドトンネルTは、セグメント7を周方向に組み立てることでリング状のトンネル壁面を構築する。
【0019】
次に、実施形態に係る地山崩落検知システム100について説明する。図3は、実施形態に係る地山崩落検知システム100の概略構成を示す図である。地山崩落検知システム100は、地山含水比測定器20及び土量管理装置40を含んで構成され、シールド機1で掘削する地山30の崩落を検知するためのシステムである。
【0020】
地山含水比測定器20は、図2に示すように、例えば、機体2の前部、且つ、上部に設置されている。図4は、実施形態に係る地山含水比測定器20の設置態様を示す図である。地山含水比測定器20は、例えば散乱型のRI(ラジオアイソトープ)計測器であり、主として、地山30に向かって中性子線を発信(射出)する線源21と、地山30中に入射して散乱した中性子線を検出する検出器22を有している。この種のRI計測器自体は公知であるため詳しい説明は省略するが、線源21から地山30中に入射した中性子線が地山30中の水素原子に衝突して熱中性子線になって散乱したものを検出器22でカウントすることによって、地山30の含水比を測定することができる。なお、一例として、地山含水比測定器20の線源21としてはカリフォルニウム252(252Cf)を使用することができる。また、検出器22としては、例えばヘリウム3(He)中性子計数管
を使用することができる。
【0021】
地山含水比測定器20が配置される機体2の前部とは、例えば、チャンバー5の直ぐ後方であってもよい。また、機体2の上部とは、岩盤中をシールド機1が掘進する際の姿勢を基準にして、地上G側に位置する方の部位を指す。例えば、線源21が地山30に向かって中性子線を発信する際、当該中性子線がほぼ鉛直上方に向かって発せられるように地山含水比測定器20が機体2の上部に配置されていてもよい。また、地山崩落検知システム100は、複数の地山含水比測定器20を備えてもよい。その場合、機体2の周方向に間隔をおいて複数の地山含水比測定器20を配置してもよい。例えば、中性子線がほぼ鉛直上方に向かって射出される位置と、当該位置を中心に機体2の周方向へ左右30°程度離れた位置にそれぞれ線源21を配置してもよい。但し、機体2において、地山含水比測定器20を設置する位置は特に限定されず、上記の配置位置は一例である。すなわち、地山含水比測定器20は機体2の前部に設けられていなくてもよいし、上部に設けられていなくてもよい。
【0022】
図4に示す符号31は、地山30とスキンプレート4の外周面との間に形成された隙間部(クリアランス)である。隙間部31は、カッターヘッド3によって地山30の余堀りを実施することによって形成される。図4に示す例では、地山含水比測定器20がスキンプレート4における薄肉部4Aの内側に配置されている。薄肉部4Aは、スキンプレート4の部材厚さを他の部位に比べて薄く形成された部位である。本実施形態においては、スキンプレート4及び隙間部31を隔てて地山30の含水比を測定するため、薄肉部4Aの内側に地山含水比測定器20を配置することによって含水比の測定精度が低下することを抑制している。図4に示す例では、スキンプレート4の内面側を他の部位に比べて掘りこむことによって薄肉部4Aを形成している。また、図4に示す例では、地山含水比測定器20の線源21及び検出器22を、スキンプレート4(薄肉部4A)の内面に密着させた構成としている。なお、上記のようにスキンプレート4における薄肉部4Aの内側に地山含水比測定器20を設置する態様は一例であり、スキンプレート4に薄肉部4Aを設けない態様で当該スキンプレート4の内側に地山含水比測定器20を設置してもよい。
【0023】
次に、土量管理装置40について説明する。土量管理装置40は、例えば汎用のコンピュータによって構成することができる。図5は、実施形態に係る土量管理装置40の構成例を示すブロック図である。土量管理装置40は、通信I/F41、記憶装置42、表示装置43、プロセッサ44、入出力装置45、通信バス46等を備えている。
【0024】
通信I/F41は、例えば有線又は無線のネットワークカード等であり、ネットワークを介し他のコンピュータとの間で情報を送受信する。具体的には、地山含水比測定器20から地山30の含水比に関する測定情報を受信する。
【0025】
記憶装置42は、RAMやROM等の主記憶装置及びHDDやSSD、フラッシュメモリ等の補助記憶装置である。主記憶装置は、プロセッサが読み出したプログラムやデータをキャッシュしたり、プロセッサの作業領域を確保したりする。補助記憶装置は、プロセッサが実行するプログラムその他のデータを記憶する。
【0026】
表示装置43は、例えば液晶モニタ等であり、所定の映像信号の入力を受け画像を表示する。
【0027】
プロセッサ44は、CPU等の演算処理装置であり、プログラムを実行することにより本実施の形態に係る各処理を行う。具体的には、プロセッサ44は、地山状態土重量取得部47、排出土重量取得部48、判定部49として機能し、後述する地山崩落検知処理を行う。詳細は後述するが、地山崩落検知処理において、地山状態土重量取得部47は、シ
ールド機1がある地点から所定区間を掘進する掘進過程における排出土重量Mdを取得する。排出土重量取得部48は、上記掘進過程における排出土重量Mdを取得する。判定部49は、地山状態土重量Mb及び排出土重量Mdを対比し、その結果に基づいて地山30に崩落が起こっているかどうかを判定する。
【0028】
入出力装置45は、例えばキーボード、マウス、タッチパネル等の入力装置や、プリンタ等の出力装置である。
【0029】
以上のような構成要素が、通信バス46を介して接続されている。なお、土量管理装置40は、上述した要素の一部を備えていてもよいし、上述以外の他の要素を備えていてもよい。
【0030】
<地山崩落検知処理>
土量管理装置40は、以下に説明する地山崩落検知処理を行う。地山崩落検知処理は、例えば、プロセッサ44が記憶装置42に記憶されたプログラムを実行することによって実現される処理である。図6は、実施形態に係る地山崩落検知処理のフローを示す図である。
【0031】
地山崩落検知処理において、土量管理装置40の地山状態土重量取得部41は、シールド機1がある地点から所定区間(以下、「検査区間」という)を掘進する掘進過程で地山30に崩落が無いと仮定した場合に掘削される、地山状態にある土の重量である地山状態土重量Mbを取得する(ステップS01)。ここで、検査区間の長さ(以下、「検査区間長さ」という)Liは、シールド機1の掘進方向に沿った予め定められた長さであり、例えば、セグメント7を周方向に組み立てることでリング状に構築されるトンネル壁面の1リング分に相当する長さ(例えば、2m程度)であってもよい。
【0032】
地山状態土重量取得部47は、シールド機1が、ある地点から検査区間長さLiを掘進する毎に、言い換えるとセグメント7を1リング構築する毎に、その検査区間長さLiに対応する地山状態土重量Mbを取得する。地山状態土重量Mbは、シールド機1がある地点から検査区間を掘進する掘進過程で地山30に崩落が無いと仮定した場合に掘削される、地山状態にある土の重量の理論値であり、次の式(1)によって算出される。
【0033】
Mb=Vb×γsat ・・・(1)
ここで、γsatは、検査区間に対応する地山30の飽和単位体積重量である。地山30の飽和単位体積重量は、土粒子同士の間隙がすべて水で満たされた状態、すなわち飽和度が100%の状態における地山30の単位体積重量である。ここで、Vbは、シールド機1が検査区間を掘進する掘進過程で地山30に崩落が無いと仮定した場合に掘削される、地山状態にある土の体積(以下、「地山掘削土量」という)である。
【0034】
地山掘削土量Vbは、一例として次の式(2)によって算出される。
Vb=πr×Li ・・・(2)
ここで、πは円周率である。rは、シールド機1が地山30を掘削する際の掘削半径である。掘削半径rの値に、シールド機1のカッターヘッド3の半径を用いてもよい。Liは、上述した検査区間長さ(所定区間の長さ)である。
【0035】
次に、地山30の飽和単位体積重量γsatの算出方法について説明する。飽和単位体積重量γsatは、次の式(3)によって算出される。
【0036】
γsat=(1+w/100)/(1/γs+w/100/γw) ・・・(3)
ここで、wは、地山30の含水比(以下、「地山含水比」という)である。より詳しく
は、地山含水比wは、シールド機1が検査区間を掘進する掘進過程で地山含水比測定器20によって測定された地山30の含水比である。γwは、水の単位体積重量である。水の単位体積重量γwは、既知かつ不変の値として代入することができる。γsは、土粒子の単位体積重量である。土粒子の単位体積重量γsは、事前に行ったボーリング調査による土質試験結果に基づいて得ることができる。
【0037】
土量管理装置40は、式(1)~(3)で用いる各パラメータである掘削半径(カッターヘッド3の半径)r、検査区間長さLi、水の単位体積重量γw、土粒子の単位体積重量γs、地山含水比w等が記憶装置42に記憶する。そして、地山状態土重量取得部47は、これらの値を式(1)~(3)に代入し、地山状態土重量Mbを算出する。なお、掘削半径r、検査区間長さLi、水の単位体積重量γwは、予め記憶装置42に記憶しておいた値を用いてもよいし、作業員による入出力装置45の入力操作を受け付けた場合は、作業員によって入力された値を用いてもよい。また、記憶装置42には、事前に実施した複数のボーリング位置での調査結果に基づいて取得した土粒子の単位体積重量γsが記憶されており、シールド機1の現位置に最も近いボーリング位置の調査結果に基づく値を自動的に選択し、その値を上記演算に用いてもよい。
【0038】
地山状態土重量Mbは、シールド機1が検査区間を掘進する掘進過程で新たに取得した地山含水比wを用いて算出される。シールド機1が検査区間を掘進する掘進過程で地山含水比測定器20を用いて取得する地山含水比wのデータ数は特に限定されないが、一の検査区間において地山含水比測定器20を用いて複数回に亘って取得したデータの平均値を地山含水比wとして用いるようにしてもよい。なお、地山含水比測定器20による測定データは、通信I/F41を介して土量管理装置40に受け渡され、記憶装置42に記憶することができる。
【0039】
次に、土量管理装置40の排出土重量取得部48は、シールド機1が検査区間を掘進する掘進過程でシールド機1内から実際に排出された、ほぐされた状態にある土の重量である排出土重量Mdを取得する(ステップS02)。上記のように、シールド機1は、掘削土をカッターヘッド3の開口からチャンバー5内へ取り込みつつ掘進する。そして、スクリューコンベア11やベルトコンベア12等といった搬送機構を用いて、掘削土をシールド機1の後部から排出(搬出)する。本ステップでは、シールド機1が検査区間を掘進する掘進過程でカッターヘッド3の開口からチャンバー5内に実際に取り込まれ、ほぐされた状態で機体2から排出される、検査区間に対応付けられた掘削土の重量を排出土重量Mdとして取得する。なお、本ステップにおいて、排出土重量Mdは、土粒子間隙水を含む重量として取得される。
【0040】
排出土重量Mdの取得に際して、シールド機1が検査区間を掘進する掘進過程でチャンバー5内に取り込まれた掘削土の総重量を測定することができれば、具体的な測定装置、手法は特に限定されない。例えば、計量機能を有するベルトコンベア12を使用し、ベルトコンベア12で掘削土を搬出しながら検査区間に対応する掘削土の重量を測定してもよい。また、ベルトコンベア12を通じて土砂ピット9に搬出された後の掘削土の重量を、別の測定装置によって測定してもよい。
【0041】
また、上記のようにシールド機1から実際に排出された掘削土の重量を直接的に測定する代わりに、当該掘削土の体積を測定し、その測定結果と掘削土の単位体積重量に基づいて重量に換算し、排出土重量Mdを取得してもよい。また、例えば、ラインレーザー光とデジタルカメラを使用した断面形状測定技術を利用して、ベルトコンベア12で搬送される掘削土の体積を非接触で連続的に測定してもよい。また、掘削土の単位体積重量は、掘削土から採取した試料に対して土質試験を実施することで求めるようにしてもよい。取得された排出土重量Mdは、土量管理装置40の記憶装置42に記憶される。
【0042】
土量管理装置40は、上記のように検査区間に対応する地山状態土重量Mb及び排出土重量Mdを取得した後、判定部49が地山状態土重量Mb及び排出土重量Mdを対比し、その結果に基づいて地山30に崩落が起こっているかどうかを判定する(ステップS03)。なお、本実施形態において、上述したステップS01とステップS02の順序は特に限定されない。
【0043】
具体的には、土量管理装置40の判定部49は、記憶装置42から地山状態土重量Mb及び排出土重量Mdを読み出し、それぞれを対比する。ここで、シールド機1が検査区間を掘進する掘進過程で地山30に崩落が起こらなかった場合には、カッターヘッド3によって地山30が切削されたことで形成された掘削土の重量と、カッターヘッド3の開口からチャンバー5内(機体内)に取り込まれる掘削土の重量(シールド機1からベルトコンベア12で排出される排出土の重量)との間には有意差は起こらないはずである。地山状態にあったときに比べてほぐされた後の土は体積が増加するが、土がほぐされる前後において重量については基本的に変化しないからである
【0044】
一方、シールド機1が検査区間を掘進する掘進過程で地山30に崩落が起こった場合、シールド機1が実際にカッターヘッド3で地山30を切削した量よりも多くの土がチャンバー5内(機体内)に取り込まれる。つまり、地山30の崩落が起こると、それに起因して本来予定するよりも過剰な量の土がシールド機1に取り込まれ、排出されることになる。その結果、地山状態土重量Mbに対して、排出土重量Mdの方が有意に大きくなる。
【0045】
そこで、土量管理装置40の判定部49は、地山状態土重量Mbに比べて排出土重量Mdの方が有意に大きい場合には、地山30に崩落が起こっていると判定する。具体的な判定手法としては、例えば排出土重量Mdから地山状態土重量Mbを減じた値(Md-Mb)が閾値Tv1よりも大きい場合に、上記検査区間において地山30の崩落が起こっていると判定してもよい。或いは、排出土重量Mdを地山状態土重量Mbによって除した値(Md/Mb)が閾値Tv2よりも大きい場合に、上記検査区間において地山30の崩落が起こっていると判定してもよい。また、これらの判定手法を併用して地山30の崩落が起こっているかどうかを判定してもよい。
【0046】
また、土量管理装置40の判定部49は、地山30に崩落が起こっているかどうかの判定結果を表示装置43に表示させる(ステップS04)。作業員は、表示装置43に表示された判定結果に基づいて、地山30の崩落が起こっているかどうかを把握することができる。そして、地山30の崩落が検知された場合には、シールド機1内から地山30へグラウト剤を注入する等といった処置が即座に行われることになる。
【0047】
また、本実施形態においては、上述した地山崩落検知処理を、シールド機1が検査区間長さLiを掘進する毎(例えば、セグメント7を1リング分構築する毎)に繰り返し行うことによって、地山30に崩落が起こっているかどうかをトンネルの施工区間に亘って検知することができる。
【0048】
以上のように、本実施形態の地山崩落検知システム100によれば、シールド機1が掘進する際に、地山30に崩落が無いと仮定した場合に掘削されるべき理論上の地山状態土重量Mbと、実際にシールド機1から排出される、ほぐされた状態の排出土重量Mdとの間に有意差があるかどうかに基づいて、簡単に地山30の崩落の有無を検知できる。
【0049】
特に、本実施形態においては、検査区間毎に地山含水比測定器20によって地山含水比wを測定し、測定した地山含水比wに基づいて算出した地山30の飽和単位体積重量γsatと、地山30に崩落が無いと仮定した場合に掘削されるべき理論上の地山掘削土量V
bに基づいて地山状態土重量Mbを算出するようにした。ここで、地山30の崩落に起因する過剰な土の取り込みを考慮しなければ、地山掘削土量Vb(体積)は、掘削半径(カッターヘッド3の半径)と検査区間長さLiから定まるため、算出誤差は生じにくい。これに対して、地山30の飽和単位体積重量γsatは、シールド機1の掘進方向において変動し易い因子と言えるが、本実施形態においては上記の通り地山含水比測定器20を用いて検査区間毎に地山含水比wを計測するため、検査区間毎の含水状態を反映した地山30の飽和単位体積重量γsatを精度良く求めることができる。その結果、地山30の崩落を精度良く検知することが可能となる。また、地山崩落検知システム100によれば、地山状態土重量Mbと排出土重量Mdとの対比によって直接的に地山30の崩落の有無を検知する方式のため、シールド機1に地山含水比測定器20を少なくとも1箇所設置するだけで地山30の崩落の有無を検知することが可能であり、必ずしも機体2の周方向に間隔をおいて複数の地山含水比測定器20を配置する必要が無い。
【0050】
次に、上述した実施形態の変形例について説明する。
【0051】
<変形例1>
ここでは、地山状態土重量Mbの算出方法に関する変形例を説明する。本変形例では、上述した式(1)に代えて、次の式(1´)によって地山状態土重量Mbを算出してもよい。
【0052】
Mb=Vb×γsat+Ma ・・・(1´)
Maは、シールド機1が検査区間を掘進する掘進過程で地山に添加される添加材の重量(以下、「添加材重量」という)である。
【0053】
シールド工法において、機体2内から地山30(切羽)側に添加材を注入しながら掘進する場合がある。このような添加材は種々のものが存在するが、例えば、鉱物系、高分子系、気泡系の添加材が一例として挙げられる。シールド機1の掘進時に地山30(切羽)側に添加材を注入する場合、その添加材は掘削土と共にチャンバー5内へ取り込まれた後、最終的に掘削土と共にベルトコンベア12によって搬出される。そこで、そのような場合には、添加材重量Maを考慮して地山状態土重量Mbを算出することが好ましい。これにより、添加材重量Maを考慮して排出土重量Mdと地山状態土重量Mbを対比することが可能となり、地山30の崩落をより一層精度良く検知することが可能となる。
【0054】
<変形例2>
次に、シールド機1に設置される地山含水比測定器20の態様について変形例を説明する。図7は、実施形態の変形例に係る地山含水比測定器20の設置態様を説明する図である。図7の上段には地山含水比測定器20を薄肉部4Aの内側に設置した状態を示し、下段には地山含水比測定器20を撤去した状態を示す。
【0055】
図7に示す符号23は、地山含水比測定器20の周囲を囲繞するスリーブ管である。上記のように、地山含水比測定器20をスキンプレート4における薄肉部4Aの内側に配置する態様では、地山含水比wの測定精度を向上させる観点から有効であるが、ときにはスキンプレート4の外面が地山30と接触しながらシールド機1が掘進する場合もあり、これに起因してスキンプレート4の厚さが徐々に薄くなってしまうこともあり得る。
【0056】
そこで、本変形例においては、適時、スキンプレート4における薄肉部4Aの厚さを、例えば超音波式厚さ計測器によって計測する。そして、薄肉部4Aの厚さが所定の厚さ以下になった場合、図7の下段に示すように、薄肉部4Aの内側に設置していた地山含水比測定器20を撤去すると共に、スリーブ管23に止水バルブ24及び蓋部材26を取り付ける。これにより、万が一、薄肉部4Aに孔が開いたとしても、機体2内に地下水などが
浸水することを抑制できる。なお、本変形例においては、機体2の複数箇所に予め地山含水比測定器20を設置しておき、上記のように地山含水比測定器20を撤去する際には、以降、別の地山含水比測定器20を用いて地山含水比wを測定してもよい。また、機体2に単一の地山含水比測定器20を設置する場合、撤去した地山含水比測定器20を他の位置に設置しなおしてもよい。この場合、スキンプレート4の複数箇所に予め薄肉部4A及びスリーブ管23を設けておくことで、地山含水比測定器20の移設が容易となる。
【0057】
<変形例3>
図8は、実施形態の他の変形例に係る地山含水比測定器20の設置態様を説明する図である。図8に示す態様においては、スキンプレート4のうち、地山含水比測定器20の設置する部位に開口4Bが設けられており、当該開口4Bを封止するように有底スリーブ管25が設置されている。有底スリーブ管25は、開口4Bを塞ぐ板状の底部25A及び当該底部25Aから立設する筒状の側部25Bを含む。地山含水比測定器20は、有底スリーブ管25の内側に固定されており、線源21及び検出器22を、底部25Aの内面に密着させた構成としている。
【0058】
有底スリーブ管25は、スキンプレート4に対して、図中矢印で示す挿抜方向に沿って所定の範囲で挿抜動が可能である。図8の上段には、シールド機1の掘進時における状態を示す。図8の下段には、地山含水比測定器20による地山含水比wの測定時における状態を示す。図8の上段に示すように、シールド機1の掘進時には、スキンプレート4の外面から有底スリーブ管25が突出しないように有底スリーブ管25が維持される(このときの有底スリーブ管25の位置を「退避位置」ともいう)。これにより、シールド機1の掘進時に有底スリーブ管25が地山30に接触することを抑制できる。
【0059】
一方、地山含水比測定器20による地山含水比wの測定時には、図8の下段に示すように、スキンプレート4に対して有底スリーブ管25をスライドさせ、有底スリーブ管25をスキンプレート4の外面よりも突出させる(このときの有底スリーブ管25の位置を「突出位置」ともいう)。例えば、有底スリーブ管25を退避位置から突出位置に切り替える際には、底部25Aが地山30に接触するように有底スリーブ管25を外方に向けて押し出してもよい。このように、有底スリーブ管25を退避位置から突出位置に切り替え、底部25Aを地山30に当接させた状態で地山含水比wを測定することにより、その測定精度を向上させることができる。なお、本変形例において、地山含水比測定器20による地山含水比wの測定は、シールド機1が停止した状態で行われる。例えば、セグメント1リング分の掘進が完了した後、エレクタによるセグメント組み立て時や内胴の盛り替えを行っているタイミングで地山含水比wの測定を行うようにしてもよい。
【0060】
また、本変形例において、有底スリーブ管25のスライド動作は、油圧ジャッキの駆動源を用いて行うことができるが、その駆動源は特に限定されない。また、有底スリーブ管25のうち、スキンプレート4における開口4Bの縁部に対して摺動する部位、例えば、底部25Aの側面及び側部25Bの外周面には、外部からの地下水などの浸水を抑制するための封止部材(パッキン等)が設けられていてもよい。
【0061】
以上、本発明の実施形態を説明したが、実施形態に開示された態様及び変形例に係る態様は可能な限り組み合わせることができる。
【符号の説明】
【0062】
1・・・シールド機
2・・・機体
3・・・カッターヘッド
4・・・スキンプレート
5・・・チャンバー
10・・・掘削土排出装置
20・・・地山含水比測定器
21・・・線源
22・・・検出器
30・・・地山
40・・・土量管理装置
100・・・地山崩落検知システム
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8