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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023136241
(43)【公開日】2023-09-29
(54)【発明の名称】清酒
(51)【国際特許分類】
   C12G 3/06 20060101AFI20230922BHJP
   C12G 3/022 20190101ALI20230922BHJP
【FI】
C12G3/06
C12G3/022 119
C12G3/022 119J
C12G3/022 119H
C12G3/022 119Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022041758
(22)【出願日】2022-03-16
(71)【出願人】
【識別番号】302026508
【氏名又は名称】宝酒造株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100480
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100135839
【弁理士】
【氏名又は名称】大南 匡史
(72)【発明者】
【氏名】栗山 謙一
(72)【発明者】
【氏名】今西 悠香
(72)【発明者】
【氏名】井上 隆之
【テーマコード(参考)】
4B115
【Fターム(参考)】
4B115CN50
4B115CN53
4B115MA03
(57)【要約】
【課題】清酒に本来ある特徴的香味や吟醸香を損なうことなく、多様化する嗜好と酒質の高級化に応えられる新しい清酒を提供する。
【解決手段】γ-デカラクトンを0.5μg/L以上14.5μg/L以下含有する清酒が提供される。さらに、酢酸β-フェネチルを100μg/L以上8000μg/L以下含有することが好ましい。アルコール濃度が4v/v%以上20v/v%以下であることが好ましい。アルコール濃度が4v/v%以上10v/v%以下であり、かつ発泡性を有するものであってもよい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
γ-デカラクトンを0.5μg/L以上14.5μg/L以下含有する清酒。
【請求項2】
さらに、酢酸β-フェネチルを100μg/L以上8000μg/L以下含有する請求項1に記載の清酒。
【請求項3】
アルコール濃度が4v/v%以上20v/v%以下である請求項1又は2に記載の清酒。
【請求項4】
アルコール濃度が4v/v%以上10v/v%以下であり、かつ発泡性を有する請求項1~3のいずれかに記載の清酒。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は清酒に関する。
【背景技術】
【0002】
清酒は日本酒とも呼ばれ、我が国固有の酒類のひとつである。清酒は、米、米こうじ、水を原料として発酵させたのち濾したもので、発酵中にはこうじ菌、酵母、乳酸菌などの微生物が関与する。清酒中には約100種類の成分が同定されており、これらが調和することで清酒を特徴づける香味は形づくられている。なかでも香味の主要な成分は、アルコール発酵に関与する酵母により生産される、アルコールやエステル、有機酸である。
【0003】
一方、清酒の多様化、高品質化のために、原料米では種々の酒造好適米から選択することや、その精米歩合を下げることが行われている。しかし、これらの取り組みでは米にもとから備わる性質を大きく変えることはできないため、従来にない品質の清酒を得ることには限界がある。
【0004】
また高品質の清酒製造として、吟醸造りによる固有の香気成分の生成を促すことが行われてきた。吟醸造りにより製造された清酒は吟醸酒と呼ばれ、リンゴやバナナ様のフルーティな好ましい香りと洗練された味わいを特徴とする。ただし、吟醸造りは技術的な困難さを伴うため、ときによりオフフレーバーの問題が発生することが指摘されている(非特許文献1)。この技術的困難さを克服するために、吟醸造りにより生成する吟醸香成分である酢酸イソアミル、カプロン酸エチルの生成を担う酵母の育種が1990年以降、積極的に行われてきた(非特許文献2)。
【0005】
しかし、吟醸香成分の酢酸イソアミル、カプロン酸エチルに着目した清酒の多様化、高品質化においても、これらの吟醸香成分の濃度における官能的に許容できる限度があることから、その濃度に基づく高品質化には限界が予想される。なかでも酢酸イソアミルの増強をはかる酵母の育種においては、酵母の代謝の性質上、目的としないイソアミルアルコールが酢酸イソアミルの増加と同時に増加してしまうことが避けられず、イソアミルアルコールによる溶媒臭が付与されてしまうという望まない問題も生じていた。
【0006】
吟醸香以外の香気成分では、ココナッツ様の香りを有するラクトン類(特許文献1)や、マスカットワイン様の香りを有するモノテルペンアルコール(特許文献2)を一定量以上含有させ、その成分の特徴を付与した清酒が提供されている。しかし、これらの技術では、清酒にごく微量であるか、本来含有されない香気を強調していることから、調和のとれた清酒本来の香気が損なわれるおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第6838850号公報
【特許文献2】特開2002-238572号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Kei Takahashi et al., "Different Polar Metabolites and Protein Profiles between High- and Low-Quality Japanese Ginjo Sake", PLOS ONE, March 3, 2016, DOI:10.1371/journal.pone.0150524
【非特許文献2】清酒酵母・麹研究会編、「清酒酵母の研究-90年代の研究-」財団法人日本醸造協会、平成15年2月5日、p.195
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記のように、新しい清酒の開発において、原料米における上記取り組みでは、米に備わる性質を大きく変えることは難しい。吟醸香成分を増強する方策では、その濃度の許容量から高品質化、多様化には限界がある。酵母の育種によって酢酸イソアミルを増強させる方策では、目的としていない成分であるイソアミルアルコールが増加し、それに起因する問題が生じる。特定のごく微量な成分、または本来含有されない香気の濃度を高める方策では、清酒の全体的な香気・味のバランスを崩してしまうおそれがある。そこで本発明は、清酒に本来ある特徴的香味や吟醸香を損なうことなく、多様化する嗜好と酒質の高級化に応えられる新しい清酒を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、清酒に含まれる香気成分について鋭意研究を行った。その結果、香気成分としてγ-デカラクトンと酢酸β-フェネチルに着目し、清酒中におけるこれらの成分の濃度(含量)を一定の範囲とすることで、清酒に本来ある特徴的香味や吟醸香を損なうことなく、吟醸香や芳香とも調和するフルーツ様の香りとすっきりとした甘味、およびクリーミーでコクのある味を有する従来にない高品質の清酒を得ることに成功した。
【0011】
本発明の1つの様相は、γ-デカラクトンを0.5μg/L以上14.5μg/L以下含有する清酒である。
【0012】
好ましくは、さらに、酢酸β-フェネチルを100μg/L以上8000μg/L以下含有する。
【0013】
好ましくは、アルコール濃度が4v/v%以上20v/v%以下である。
【0014】
アルコール濃度が4v/v%以上10v/v%以下であり、かつ発泡性を有するものであってもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、清酒に本来ある特徴的香味や吟醸香を損なうことなく、吟醸香や芳香とも調和するフルーツ様の香りとすっきりとした甘味、およびクリーミーでコクのある味を有する従来にない高品質の清酒を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための形態について具体的に説明する。なお、本明細書においては、特に断らない限り、「アルコール」とはエチルアルコール(エタノール)を指すものとする。
【0017】
本発明における「清酒」とは、酒税法でいう醸造酒類の中の清酒のことであり、米、米こうじ、水及び清酒かすその他政令で定める物品を原料とし、酵母を加え発酵させたもろみを濾したもので、アルコール分が22v/v%未満のものである。
本発明の清酒のアルコール濃度は、例えば、4v/v%以上20v/v%以下(4~20v/v%)である。
【0018】
一般に、清酒の製造は、原料処理、仕込、糖化・発酵、上槽、精製の各工程よりなり、さらに清酒の精製は、活性炭処理・ろ過、火入れ、貯蔵、おり下げ・ろ過、調合・割水、火入れ等の工程よりなる。清酒醸造の原料の一般的処理は、精白、洗浄、浸漬、水切り、蒸きょう(蒸煮)、放冷の工程があるが、前記した原料処理は、掛原料の液化及び/又は糖化並びに麹原料の処理、製麹工程も含んでいる。本発明の清酒も、これらの工程を含む方法によって製造することができる。
【0019】
本発明の清酒の製造に用いる酵母としては、清酒製造に使用できるものであれば特に限定はない。例えば、公益財団法人 日本醸造協会から頒布されている各種の酵母を用いることができる。その他、それらの酵母を育種あるいは改良して使用してもよい。
【0020】
本発明の清酒は、γ-デカラクトンを0.5μg/L以上14.5μg/L以下(0.5~14.5μg/L)含有する。γ-デカラクトン含量が14.5μg/L超の高値、例えば15.0μg/L以上であると、桃様であるが油っぽい香りが強くなり、清酒が本来持っている良好な香味を損なうおそれがある。一方、γ-デカラクトン含量が0.5μg/L未満の低値であると、γ-デカラクトンが奏する所望の香りを得られないおそれがある。
【0021】
好ましい実施形態では、本発明の清酒は、さらに酢酸β-フェネチルを100μg/L以上8000μg/L以下(100~8000μg/L)含有する。好ましくは100~4000μg/L、より好ましくは100~2000μg/L、さらに好ましくは100~200μg/L含有する。酢酸β-フェネチル含量が8000μg/L超の高値、例えば9000μg/L以上であると、酢酸β-フェネチルの香りに支配されてしまい、味においても強い苦みを感じるようになるおそれがある。一方、酢酸β-フェネチル含量が100μg/L未満の低値であると、酢酸β-フェネチルが奏する所望の香りを得られないおそれがある。
【0022】
所望のγ-デカラクトン含量、酢酸β-フェネチル含量を実現するための方法については特に限定されない。例えば、製造工程のいずれかの段階でこれらの成分を添加してもよいし、発酵工程でこれらの成分を生成させてもよいし、これらの成分を含有する清酒を調合してもよい。
【0023】
γ-デカラクトンを発酵工程で生成させる方法としては、乳酸菌を用いた酒母(山卸廃止もと、生もと)を用いる方法、醪に乳酸菌を添加する方法、醪にリパーゼを添加する方法、セルラーゼとプロテアーゼで処理した清酒かすを原料として使用する方法(特許文献1に記載)、醪の上部空間もしくは醪中に通気する方法(特開2012-239391号公報に記載)、等が挙げられる。
【0024】
醪に乳酸菌を添加する方法を採用する場合、使用する乳酸菌の属種は特に限定されないが、醪中の不飽和脂肪酸をヒドロキシル化する能力が高い株が望ましい。例えば、特開平07-274986号公報に記載されているリノール酸を含有する培地による評価で、所望の乳酸菌を選択することが可能である。
【0025】
醪にリパーゼを添加する方法を採用する場合、使用するリパーゼは特に限定されない。例えば、天野エンザイム株式会社製のリパーゼAY「アマノ」30SD、リパーゼGS「アマノ」250G、リパーゼDF「アマノ」15、リパーゼMER「アマノ」、リパーゼMHA「アマノ」10SD、リパーゼA「アマノ」6、リパーゼR「アマノ」、及びニューラーゼF3Gや、武蔵野化学研究所製のサケメイト、等を使用することができる。
【0026】
酢酸β-フェネチルを発酵工程で生成させる場合、使用可能な酵母から酢酸β-フェネチルを高生成する酵母を選択してもよい。例えば、「秋田ら、日本醸造協会誌、85(7)、p.501~505、1990」に記載されているp-フルオロフェニルアラニン耐性株を育種し、そこから所望の酵母を選択することができる。
【0027】
本発明の清酒は発泡性を有するものであってもよい。例えば、アルコール濃度を4v/v%以上10v/v%以下(4~10v/v%)とした低アルコール性の発泡性清酒とすることができる。発泡性の付与は、例えば炭酸ガスを注入して溶解させることにより行うことができる。
【実施例0028】
<試験方法>
以下の実施例におけるγ-デカラクトンと酢酸β-フェネチルの濃度測定は、標準添加法で行った。詳細には、サンプルをヘッドスペースバイアルに詰め、SPMEファイバーに抽出した。さらに、抽出した香気成分を注入口にて熱脱着させ、DB-WAX(長さ60m、内径0.25mm、膜厚0.25μm)をインストールしたガスクロマトグラフ Agilent 6890N〔アジレント・テクノロジー株式会社製〕に導入した。常法により分離後、質量選択型検出器 Agilent5973〔アジレント・テクノロジー株式会社製〕で検出し、クロマトグラムを得て、定量計算を行った。
【0029】
以下の実施例における清酒のアルコール分、比重(日本酒度)、及び総酸(遊離酸)の測定は、国税庁所定分析法(訓令)の「3清酒」に記載の方法で行った。
【0030】
〔実施例1〕
本実施例ではγ-デカラクトン濃度を変化させて官能評価を行った。
【0031】
市販の清酒(宝酒造株式会社製 上撰 松竹梅、アルコール分15.3%、日本酒度2.5、総酸1.1)を準備した(実験例1-1)。実験例1-1の清酒に、市販の試薬(東京化成製)を精製して得られたγ-デカラクトンを添加して、表1に示す実験例1-2から実験例1-5の試料を作成した。これらの試料について、官能評価を行った。官能評価は11名のパネリストによる5点評価法(1:良い、5:悪い)で行った。各試料のγ-デカラクトン含量、及び官能評価の結果を表1に示す。
【0032】
【表1】
【0033】
実験例1-1と比較して、実験例1-2から実験例1-4の試料は、清酒に本来ある特徴的香味や吟醸香を損なうことなく、吟醸香や芳香とも調和するフルーツ様の香りとすっきりとした甘味およびクリーミーでコクのある味を有していた(平均評点1.1~1.3)。一方、実験例1-5の試料は、桃様だが油っぽい香りを示した(平均評点4.5)。
【0034】
〔実施例2〕
本実施例では酢酸β-フェネチル濃度を100μg/Lに固定し、γ-デカラクトン濃度を変化させて官能評価を行った。
【0035】
実験例1-1と同じ清酒を準備した(実験例2-1)。実験例2-1の清酒に、市販の試薬(東京化成製)を精製して得られたγ-デカラクトンと酢酸β-フェネチルを添加して、表2に示す実験例2-2から実験例2-5の試料を作成した。これらの試料について、官能評価を行った。官能評価は11名のパネリストによる5点評価法(1:良い、5:悪い)で行った。各試料のγ-デカラクトン含量と酢酸β-フェネチル含量、及び官能評価の結果を表2に示す。
【0036】
【表2】
【0037】
実験例2-1と比較して、実験例2-2から実験例2-4の試料は、清酒に本来ある特徴的香味や吟醸香を損なうことなく、吟醸香や芳香とも調和するフルーツ様の香りとすっきりとした甘味およびクリーミーでコクのある味を有していた(平均評点1.0~1.2)。一方、実験例2-5の試料は、桃様だが油っぽい香りを示した(平均評点4.5)。
【0038】
〔実施例3〕
本実施例では酢酸β-フェネチル濃度を200μg/Lに固定し、γ-デカラクトン濃度を変化させて官能評価を行った。
【0039】
実験例1-1と同じ清酒を準備した(実験例3-1)。実施例2と同様にして、実験例3-1の清酒にγ-デカラクトンと酢酸β-フェネチルを添加して、表3に示す実験例3-2から実験例3-5の試料を作成した。これらの試料について、実施例1と同様の官能評価を行った。各試料のγ-デカラクトン含量と酢酸β-フェネチル含量、及び官能評価の結果を表3に示す。
【0040】
【表3】
【0041】
実験例3-1と比較して、実験例3-2から実験例3-4の試料は、清酒に本来ある特徴的香味や吟醸香を損なうことなく、吟醸香や芳香とも調和するフルーツ様の香りとすっきりとした甘味およびクリーミーでコクのある味を有していた(平均評点1.0~1.2)。一方、実験例3-5の試料は、桃様だが油っぽい香りを示した(平均評点4.5)。
【0042】
〔実施例4〕
本実施例では酢酸β-フェネチル濃度を2000μg/Lに固定し、γ-デカラクトン濃度を変化させて官能評価を行った。
【0043】
実験例1-1と同じ清酒を準備した(実験例4-1)。実施例1と同様にして、実験例4-1の清酒にγ-デカラクトンと酢酸β-フェネチルを添加して、表4に示す実験例4-2から実験例4-5の試料を作成した。これらの試料について、実施例1と同様の官能評価を行った。各試料のγ-デカラクトン含量と酢酸β-フェネチル含量、及び官能評価の結果を表4に示す。
【0044】
【表4】
【0045】
実験例4-1と比較して、実験例4-2から実験例4-4の試料は、清酒に本来ある特徴的香味や吟醸香を損なうことなく、吟醸香や芳香とも調和するフルーツ様の香りとすっきりとした甘味およびクリーミーでコクのある味を有していた(平均評点1.3~1.4)。一方、実験例4-5の試料は、桃様だが油っぽい香りを示した(平均評点4.5)。
【0046】
〔実施例5〕
本実施例では酢酸β-フェネチル濃度を4000μg/Lに固定し、γ-デカラクトン濃度を変化させて官能評価を行った。
【0047】
実験例1-1と同じ清酒を準備した(実験例5-1)。実施例1と同様にして、実験例5-1の清酒にγ-デカラクトンと酢酸β-フェネチルを添加して、表5に示す実験例5-2から実験例5-5の試料を作成した。これらの試料について、実施例1と同様の官能評価を行った。各試料のγ-デカラクトン含量と酢酸β-フェネチル含量、及び官能評価の結果を表5に示す。
【0048】
【表5】
【0049】
実験例5-1と比較して、実験例5-2から実験例5-4の試料は、清酒に本来ある特徴的香味や吟醸香を損なうことなく、吟醸香や芳香とも調和するフルーツ様の香りとすっきりとした甘味およびクリーミーでコクのある味を有していた(平均評点1.3~1.5)。一方、実験例5-5の試料は、桃様だが油っぽい香りを示した(平均評点4.5)。
【0050】
〔実施例6〕
本実施例では酢酸β-フェネチル濃度を8000μg/Lに固定し、γ-デカラクトン濃度を変化させて官能評価を行った。
【0051】
実験例1-1と同じ清酒を準備した(実験例6-1)。実施例1と同様にして、実験例6-1の清酒にγ-デカラクトンと酢酸β-フェネチルを添加して、表6に示す実験例6-2から実験例6-5の試料を作成した。これらの試料について、実施例1と同様の官能評価を行った。各試料のγ-デカラクトン含量と酢酸β-フェネチル含量、及び官能評価の結果を表6に示す。
【0052】
【表6】
【0053】
実験例6-1と比較して、実験例6-2から実験例6-4の試料は、清酒に本来ある特徴的香味や吟醸香を損なうことなく、吟醸香や芳香とも調和するフルーツ様の香りとすっきりとした甘味およびクリーミーでコクのある味を有していた(平均評点1.4~1.6)。一方、実験例6-5の試料は、桃様だが油っぽい香りを示した(平均評点4.5)。
【0054】
〔実施例7〕
本実施例では酢酸β-フェネチル濃度を9000μg/Lに固定し、γ-デカラクトン濃度を変化させて官能評価を行った。
【0055】
実験例1-1と同じ清酒を準備した(実験例7-1)。実施例1と同様にして、実験例7-1の清酒にγ-デカラクトンと酢酸β-フェネチルを添加して、表7に示す実験例7-2から実験例7-5の試料を作成した。これらの試料について、実施例1と同様の官能評価を行った。各試料のγ-デカラクトン含量と酢酸β-フェネチル含量、及び官能評価の結果を表7に示す。
【0056】
【表7】
【0057】
実験例7-1と比較して、実験例7-2から実験例7-4の試料は苦味が強く、清酒として好ましくない酒質であった(平均評点4.9)。また、実験例7-5の試料は、桃様だが油っぽい香りとともに苦味を呈するものであった(平均評点5.0)。
【0058】
〔実施例8〕
掛米として精米歩合75%(w/w)の白米を用い、常法に従って洗米、浸漬、蒸きょうして蒸米を得た。こうじ米として精米歩合75%(w/w)の白米を用い、これを蒸米とし、清酒に通常用いられる清酒用こうじ菌(種もやし)を接種して46時間製麹し、こうじを製造した。これらの原料を用い、酵母として協会酵母701号を使用し、表8に示す仕込配合にて水こうじ後、添、仲、留の三段仕込を実施した。醪品温は15℃一定とし、留後15日目に上槽した。仕込水にはNBRC3533ラクトバチルス パラカゼイ培養液とリパーゼ(ニューラーゼF3G 天野エンザイム株式会社製)を添加し、醪において作用させた。
【0059】
【表8】
【0060】
得られた清酒(以下、清酒Aと称する)は、アルコール分15.5%、日本酒度2.3、総酸3.1であり、γ-デカラクトンを143μg/L、酢酸β-フェネチルを256μg/L含有していた。
【0061】
実験例1-1と同じ清酒を準備した(実験例8-1)。実験例8-1の清酒90mLに清酒Aを10mL添加して混和し、実験例8-2の試料を作製した。これらの試料について、実施例1と同様の官能評価を行った。各試料のγ-デカラクトン含量と酢酸β-フェネチル含量、及び官能評価の結果を表9に示す。
【0062】
【表9】
【0063】
実験例8-2の試料は、清酒に本来ある特徴的香味や吟醸香を損なうことなく、吟醸香や芳香とも調和するフルーツ様の香りとすっきりとした甘味およびクリーミーでコクのある味を有していた(平均評点1.0)。
【0064】
〔実施例9〕
掛米として精米歩合75%(w/w)の白米を用い、常法に従って洗米、浸漬、蒸きょうして蒸米を得た。こうじ米として精米歩合75%(w/w)の白米を用い、これを蒸米とし、清酒に通常用いられる清酒用こうじ菌(種もやし)を接種して46時間製麹し、こうじを製造した。これらの原料を用い、酵母として協会酵母901号を使用し、表10に示す仕込配合にて水こうじ後、添、仲、留の三段仕込を実施した。醪品温は15℃一定とし、留後19日目に上槽した。
【0065】
【表10】
【0066】
得られた清酒(以下、清酒Bと称する)は、アルコール分18.7%、日本酒度7.9、総酸2.5であり、γ-デカラクトンを0.3μg/L未満、酢酸β-フェネチルを4500μg/L含有していた。
【0067】
実験例1-1と同じ清酒を準備した(実験例9-1)。実験例9-1の清酒98mLに清酒Bを2mL添加して混和し、実験例9-2の試料を作製した。実験例9-1の清酒90mLに清酒Aを10mL添加して混和し、実験例9-3の試料を作製した。実験例9-1の清酒88mLに清酒Aを10mL、清酒Bを2mL添加して混和し、実験例9-4の試料を作製した。これらの試料について、実施例1と同様の官能評価を行った。各試料のγ-デカラクトン含量と酢酸β-フェネチル含量、及び官能評価の結果を表11に示す。
【0068】
【表11】
【0069】
実験例9-2の試料では酢酸β-フェネチルの特徴的な花のような香りが付け加わるだけであった(平均評点2.0)が、実験例9-3、実験例9-4の試料は、清酒に本来ある特徴的香味や吟醸香を損なうことなく、吟醸香や芳香とも調和するフルーツ様の香りとすっきりとした甘味およびクリーミーでコクのある味を有していた(平均評点1.0)。
【0070】
〔実施例10〕
実験例1-1の清酒に清酒Aと清酒Bを調合し、水を加えてアルコール分6.2%とし、炭酸ガスによるガス付けを行い、2種類の発泡性清酒を作製した(実験例10-1、10-2)。これらの発泡性清酒について、実施例1と同様の官能評価を行った。各発泡性清酒のγ-デカラクトン含量と酢酸β-フェネチル含量、及び官能評価の結果を表12に示す。
【0071】
【表12】
【0072】
γ-デカラクトン含量が低い(0.3μg/L未満)実験例10-1の発泡性清酒と比較して、実験例10-2の発泡性清酒は、清酒に本来ある特徴的香味や吟醸香を損なうことなく、吟醸香や芳香とも調和するフルーツ様の香りとすっきりとした甘味およびクリーミーでコクのある味を有していた(平均評点1.0)。