IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東洋濾紙株式会社の特許一覧

特開2023-136263水道水用pH試験紙、水道水用pH試験紙の製造方法、および水道水のpH判定方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023136263
(43)【公開日】2023-09-29
(54)【発明の名称】水道水用pH試験紙、水道水用pH試験紙の製造方法、および水道水のpH判定方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 31/22 20060101AFI20230922BHJP
【FI】
G01N31/22 121F
G01N31/22 123
G01N31/22 121P
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022041787
(22)【出願日】2022-03-16
(71)【出願人】
【識別番号】000223045
【氏名又は名称】東洋濾紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001612
【氏名又は名称】弁理士法人きさらぎ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山田 佳林
(72)【発明者】
【氏名】大内 一敏
【テーマコード(参考)】
2G042
【Fターム(参考)】
2G042AA03
2G042BB03
2G042CA02
2G042DA08
2G042FA02
2G042FA12
2G042FB07
2G042FC01
(57)【要約】
【課題】従来のノンブリーディング試験紙と同等レベル、かつ短時間で水道水のpHを判定できる水道水用pH試験紙、その製造方法、水道水のpH判定方法、および採水地域の異なる複数の水道水のpHを、1ランク以内の呈色差で判定するpH判定方法を提供する。
【解決手段】本発明の水道水用pH試験紙は、基材と、前記基材に含浸された発色成分とを備える水道水用pH試験紙であって、前記発色成分は、pH5.8~8.6の範囲内に変色域を有する指示薬と、炭酸塩または炭酸水素塩からなり、前記指示薬の変色域を調整する変色域調整剤とを含むことを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、前記基材に含浸された発色成分とを備える水道水用pH試験紙であって、
前記発色成分は、
pH5.8~8.6の範囲内に変色域を有する指示薬と、
炭酸塩または炭酸水素塩からなり、前記指示薬の変色域を調整する変色域調整剤と
を含むことを特徴とする水道水用pH試験紙。
【請求項2】
前記指示薬は、ブロモチモールブルーおよびフェノールレッドから選択される請求項1記載の水道水用pH試験紙。
【請求項3】
前記ブロモチモールブルーの含浸量は、0.07~0.63mmol/m2である請求項2項記載の水道水用pH試験紙。
【請求項4】
前記フェノールレッドの含浸量は、0.18~0.41mmol/m2である請求項2記載の水道水用pH試験紙。
【請求項5】
前記変色域調整剤は、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸リチウム、および炭酸アンモニウムからなる群から選択される請求項1~4のいずれか1項記載の水道水用pH試験紙。
【請求項6】
前記炭酸ナトリウムの含浸量は、0.03~0.61mmol/m2である請求項5項記載の水道水用pH試験紙。
【請求項7】
前記炭酸水素ナトリウムの含浸量は、0.10~0.44mmol/m2である請求項5記載の水道水用pH試験紙。
【請求項8】
前記炭酸カリウムまたは前記炭酸リチウムの含浸量は、0.12~0.22mmol/m2である請求項5記載の水道水用pH試験紙。
【請求項9】
前記炭酸アンモニウムの含浸量は、0.05~0.61mmol/m2である請求項5記載の水道水用pH試験紙。
【請求項10】
前記変色域調整剤の含浸量は、前記指示薬の含浸量の0.4~4.6倍である請求項1~9のいずれか1項記載の水道水用pH試験紙。
【請求項11】
前記基材の材質は、セルロースである請求項1~10のいずれか1項記載の水道水用pH試験紙。
【請求項12】
前記基材は、厚さが0.36~1.00mmである請求項11記載の水道水用pH試験紙。
【請求項13】
請求項1記載の水道水用pH試験紙の製造方法であって、
水、アルコール、0.2~0.7mMの指示薬、および0.1~1.8mMの変色域調整剤を含有する染色液を調製する工程と、
前記染色液を基材に含浸させる工程と、
前記染色液が含浸した基材を、50~70℃で20~40分間乾燥させる工程と
を備える製造方法。
【請求項14】
請求項1記載の水道水用pH試験紙を、水道水に10±5秒間浸漬する工程、および
前記水道水用pH試験紙を水道水から取り出し、20±18秒後の呈色を比色表と比較する工程
を備える水道水のpH判定方法。
【請求項15】
採水地域の異なる複数の水道水のpHを、1ランク以内の呈色差で判定するpH判定方法であって、
請求項1記載の水道水用pH試験紙を、水道水に10±5秒間浸漬する工程、および
前記水道水用pH試験紙を水道水から取り出し、20±18秒後の呈色を比色表と比較する工程
を備える水道水のpH判定方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水道水用pH試験紙、水道水用pH試験紙の製造方法、および水道水のpH判定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水道水の水質基準は、pH5.8~8.6と定められており、水道水のpHを簡易に測定するために、pH5.8~8.6付近を測定可能な試験紙が求められる。
しかしながら、従来のpH試験紙に水道水を浸漬した場合、短時間では色変化が乏しく、pHを正確に測定することができない。水道水のpH緩衝性が乏しく、従来のpH試験紙に含浸されているpH指示薬の緩衝性のほうが強いためである。なお、Mアルカリ度が低いとき、pH緩衝性も低い。
【0003】
また、検液としての水道水を、試験紙に長時間接触させることで、色変化を生じさせることも考えられる。pH7近傍を測定可能な指示薬は、検液に長時間接触させた場合、試験紙から溶出してしまい、検液のpHを正確に測定することができない。
pH緩衝性が乏しい液体向けとして、指示薬が試験紙から溶出しないノンブリーディング試験紙が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公昭49-39718号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来のノンブリーディング試験紙では、pHを判定するのに5~10分を要する。また、複数の試験紙の色変化での判定が必要で操作が煩雑であるのに加え、価格が高いという問題がある。さらに、従来のpH試験紙では、実際のpHから乖離した呈色をし、かつその度合いが採水地域によって異なるという問題点があった。こうした理由から、水道水などのpH緩衝性が乏しい液体のpH測定にはpHメーターが使用されているのが実情である。
特殊な合成試薬や煩雑な工程を必要とせず、一般流通している試薬、一般的な試験紙と同様の工程で製造することができ、従来のノンブリーディング試験紙と同等レベル、かつ短時間で水道水の採水地域に関わらずpHを判定可能な試験紙が求められている。
【0006】
そこで本発明は、従来のノンブリーディング試験紙と同等レベル、かつ短時間で水道水のpHを判定できる水道水用pH試験紙、その製造方法、水道水のpH判定方法、および採水地域の異なる複数の水道水のpHを、1ランク以内の呈色差で判定するpH判定方法を提供することを目的とする。
なお、1ランク以内の呈色差とは、pH5.8、pH6.8、pH7.6、pH8.6の4ランクで判定したときに隣のランクにずれないことを指す。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以上の目的を達成するため、本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、炭酸塩および炭酸水素塩から選択される変色域調整剤を指示薬とともに基材に含浸させることで、従来のノンブリーディング試験紙と同等レベル、かつ短時間で水道水のpHを判定できる水道水用pH試験紙が得られること、さらに、こうした水道水用pH試験紙を用いることによって、採水地域の異なる複数の水道水のpHを、1ランク以内の呈色差で判定可能となることを見出した。
【0008】
すなわち、本発明は、基材と、前記基材に含浸された発色成分とを備える水道水用pH試験紙であって、前記発色成分は、pH5.8~8.6の範囲内に変色域を有する指示薬と、炭酸塩または炭酸水素塩からなり、前記指示薬の変色域を調整する変色域調整剤とを含むことを特徴とする水道水用pH試験紙である。
【0009】
また、本発明は、前述の水道水用pH試験紙の製造方法であって、水、アルコール、0.2~0.7mMの指示薬、および0.1~1.8mMの変色域調整剤を含有する染色液を調製する工程と、前記染色液を基材に含浸させる工程と、前記染色液が含浸した基材を、50~70℃で20~40分間乾燥させる工程とを備える製造方法である。
【0010】
さらに、本発明は、前述の水道水用pH試験紙を、水道水に10±5秒間浸漬する工程、および、前記水道水用pH試験紙を水道水から取り出し、20±18秒後の呈色を比色表と比較する工程を備える水道水のpH判定方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、従来のノンブリーディング試験紙と同等レベル、かつ短時間で水道水のpHを判定できる水道水用pH試験紙、その製造方法、水道水のpH判定方法、および採水地域の異なる複数の水道水のpHを、1ランク以内の呈色差で判定するpH判定方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の水道水用pH試験紙、水道水用pH試験紙の製造方法、および水道水のpH判定方法について詳細に説明する。
【0013】
水道水は、pH緩衝性が乏しく、Mアルカリ度も低い。Mアルカリ度は、炭酸イオンの総量の指標であり、例えば、JIS K0101 13.「酸消費量」に準拠して測定することができる。本発明者らは、水道水のMアルカリ度は、採取場所によって異なる場合があること、Mアルカリ度の違いがpHの測定結果に影響を及ぼすため、Mアルカリ度の異なる水道水のpH測定の際には補正が必要となることを見出した。
【0014】
本発明の水道水用pH試験紙は、pH緩衝性が乏しい水道水のpHを短時間で測定可能な試験紙であり、適切な処方の染色液を用いて作製した場合には、Mアルカリ度の異なる複数の水道水のpHを、Mアルカリ度による補正なしに測定可能となる試験紙である。
【0015】
本発明の水道水用pH試験紙は、基材と、基材に含浸された発色成分とを備える。基材の材質としては、例えば、セルロース、セルロースレーヨン等が挙げられる。呈色のムラを抑制できることから、基材はセルロースのみからなることが好ましい。基材の厚さは、0.36~1.00mmが好ましく、0.53~1.00mmがより好ましい。基材の大きさは特に限定されず、適宜選択できるが、取り扱い等を考慮すると、310mm×400mm程度とすることが好ましい。
【0016】
基材に含浸される発色成分は、pH5.8~8.6の範囲内に変色域を有する指示薬と、この指示薬の変色域を調整する変色域調整剤とを含む。指示薬は、ブロモチモールブルー(BTB)およびフェノールレッド(PR)から選択される。変色域調整剤は、炭酸塩または炭酸水素塩からなる。
【0017】
変色域調整剤の例としては、例えば、炭酸水素ナトリウム(NaHCO3)、炭酸ナトリウム(Na2CO3)、炭酸カリウム(K2CO3)、炭酸リチウム(Li2CO3)、および炭酸アンモニウム((NH4)2CO3)が挙げられる。こうした化合物はアルカリ性であるので、試験紙の変色域をシフトさせるという作用を有する。しかも、炭酸イオン、重炭酸イオンを含有しているので、試験紙に付着した水道水のMアルカリ度を高めるという作用も有している。
【0018】
本発明の水道水用pH試験紙における指示薬の含浸量は、指示薬に応じて選択される。BTBの場合には、0.07~0.63mmol/m2程度が好ましく、0.07~0.25mmol/m2程度がより好ましく、0.17~0.25mmol/m2程度がさらに好ましい。PRの場合には、0.18~0.41mmol/m2程度が好ましく、0.18~0.22mmol/m2程度がより好ましい。指示薬が少なすぎる場合には、呈色が乏しいためにpHの判定が困難となる。一方、指示薬が多すぎる場合には、水道水の緩衝能よりも指示薬の緩衝能の方が高くなって指示薬の色変化が小さくなるため、水道水のMアルカリ度によって呈色が異なってしまう。
なお、水道水用pH試験紙における指示薬の含浸量は、次式により求めることができる。
染色に使用した染色液の量:a(L)
染色液中の指示薬の濃度:b1(mmol/L)
染色した濾紙の面積:c(m2
含浸量:d(mmol/m2)=a(L)×b1(mmol/L)/c(m2
【0019】
水道水用pH試験紙における変色域調整剤の含浸量は、変色域調整剤に応じて選択される。Na2CO3の場合には、0.03~0.61mmol/m2程度が好ましく、0.07~0.61mmol/m2程度がより好ましく、0.18~0.26mmol/m2程度がさらに好ましい。変色域調整剤が少なすぎる場合には、変色域がpH5.8~8.6の範囲外となってしまうのに加え、Mアルカリ度を高める効果が不十分となる。変色域調整剤が多すぎる場合も同様に、変色域がpH5.8~8.6の範囲外となってしまう。
また、NaHCO3の場合は、0.10~0.44mmol/m2程度が好ましく、0.27~0.44mmol/m2程度がより好ましく、0.27~0.37mmol/m2程度がさらに好ましい。K2CO3またはLi2CO3の場合は、0.12~0.22mmol/m2程度が好ましく、0.17mmol/m2程度がより好ましい。(NH4)2CO3の場合は、0.05~0.61mmol/m2程度が好ましく、0.17mmol/m2程度がより好ましい。
水道水用pH試験紙における変色域調整剤の含浸量は、次式により求めることができる。
染色に使用した染色液の量:a(L)
染色液中の変色域調整剤の濃度:b2(mmol/L)
染色した濾紙の面積:c(m2
含浸量:d(mmol/m2)=a(L)×b2(mmol/L)/c(m2
【0020】
(指示薬/変色域調整剤)の含浸量の比は、0.4~4.6程度が好ましく、0.6~1.4程度がより好ましく、1.0程度がさらに好ましい。水道水用pH試験紙における指示薬および変色域調整剤の含浸量、これらの比は、製造時に用いる染色液の濃度を調節することにより制御することができる。染色液については、追って詳細に説明する。
【0021】
指示薬と変色域調整剤とは、任意に組み合わせて用いることができるが、指示薬としてのBTBと、変色域調整剤としてのNa2CO3との組み合わせが特に好ましい。
【0022】
本発明の水道水用pH試験紙は、指示薬および変色域調整剤を含有する染色液を、基材に含浸させ、乾燥させることにより製造することができる。染色液は、例えば、純水2%、指示薬、変色域調整剤のメタノール溶液を混合して、調製することができる。染色液における各成分の濃度は、基材に応じて適宜選択することが望まれる。
【0023】
例えば、指示薬としてBTB、変色域調整剤としてNa2CO3を用い、基材として、質量113~122g/m2程度、厚さ0.53~0.59mm程度、密度0.19~0.23g/cm3程度のセルロースレーヨン製の濾紙を用いる場合には、BTBの濃度は0.35~0.75mM、Na2CO3の濃度は0.4~0.82mMとし、BTB:Na2CO3は1:0.7~1.8とすることが好ましい。
同様の基材および変色域調整剤を用い、指示薬をPRに変更した場合には、PRの濃度は0.6~1.2mM、Na2CO3の濃度は0.9~1.8mMとし、PR:Na2CO3は1:1.5とすることが好ましい。
【0024】
また、基材として、質量240~296g/m2程度、厚さ0.86~1.00mm程度、密度0.24~0.34g/cm3程度のセルロース製の濾紙を用いる場合には、BTBの濃度は0.2~0.24mM、Na2CO3の濃度は0.2~0.25mMとし、BTB:Na2CO3は1:1~1:1.2とすることが好ましい。
同様の基材および変色域調整剤を用い、指示薬をPRに変更した場合には、PRの濃度は0.2~0.24mM、Na2CO3の濃度は0.2~0.25mMとし、PR:Na2CO3は1:0.8~1:1.2とすることが好ましい。
【0025】
基材に染色液を含浸させ、送風低温乾燥器等により、50~70℃、好ましくは50~60℃で20~40分乾燥させることによって、本発明の水道水用pH試験紙が得られる。
【0026】
本発明の水道水用pH試験紙は、Mアルカリ度の異なる水道水のpH判定に有効に用いられる。pH判定にあたっては、まず、水道水を容器に採水し、採水した検液中に試験紙を浸し10±5秒間、例えば10秒間前後に振る。規定時間浸漬後、直ちに容器から取り出し、取り出してから20±18秒後、例えば20秒後の呈色を比色表と比較し判定する。
例えば、浸漬時間10秒、呈色による判定までの待ち時間20秒、比色表と呈色を見比べるのに10秒程度を要したとしても、合計約40秒で対象のpHを判定することができる。また、判定中における指示薬の溶出は少なく、問題ない程度である。
【0027】
本発明の水道水用pH試験紙を用いて、Mアルカリ度の異なる水道水のpHを判定した場合、呈色の差は1ランク以内とすることができる。
【実施例0028】
以下に実施例を挙げて、本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲は、以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきではない。
【0029】
<試験紙の作製>
まず、指示薬と変色域調整剤とを種々の処方で組み合わせた発色成分を用い、50~200mLのメタノールと2%の超純水とを配合して染色液を調製する。指示薬は、ブロモチモールブルー(BTB)およびフェノールレッド(PR)から選択した。変色域調整剤は、Na2CO3、(NH4)2CO3、NaHCO3、K2CO3、およびLiCO3から選択した。染色液を基材に含浸させ、60℃で20分以上乾燥させて種々の試験紙を作製した。
【0030】
基材としては、下記表に示す濾紙を用いる。
【0031】
【表1】
【0032】
*1 濾水時間:JIS P3801[ろ紙(化学分析用)]により、ヘルツベルヒろ過速度試験器を使用し、10cm2の濾紙面において、20℃、100mLの蒸留水を0.98kPaの圧力により濾過する時間。
*2 吸水度:細長い濾紙を20℃の水中に立て、10分間に上昇する水の高さ。
*3 湿潤破裂強さ:試料を水に浸漬後、JIS P8112[紙-破裂強さ試験方法]に準じ、測定した圧力。
*4 保持粒子径:JIS Z8901で規定された7種粉体分散水を自然濾過した時、90%以上を保持できる粒子径。
【0033】
検液としては、Mアルカリ度の異なる2種類の水道水を用意した。試験にあたっては、容器に採取された各検液に試験紙を浸漬し、10秒間前後に振った後、直ちに取り出した。取り出してから20秒後の試験紙の呈色を、比色表と比較して各検液のpHを判定し、呈色の差により、以下の基準で評価した。
A:1/4ランク以内
B:3/4ランク以内
C:1ランク以内
D:1ランクを超える
E:呈色が薄く判定困難
呈色の差が1ランク以内であれば、Mアルカリ度の補正なしにpHを判定可能であるとする。
【0034】
濾紙Aを用いて作製した試験紙の呈色結果を、指示薬(BTB)および変色域調整剤(Na2CO3)の濃度とともに、下記表にまとめる。
【0035】
【表2】
【0036】
従来のノンブリーディング試験紙(メルク社製)を用いた場合には、pH5.8~8.6の測定には、5~10分浸漬する必要があるのに対し、上記表に示されるように、BTB濃度0.35~1.4mM、Na2CO3濃度0.1~1.0mMであって、(BTB濃度/Na2CO3濃度)が0.9~3.5の染色液を用いた場合、1分以内でpHを判定することができる。
こうした染色液を含浸して作製された試験紙においては、BTB濃度は0.12~0.47mmol/m2、Na2CO3濃度は0.03~0.34mmol/m2、(BTB濃度/Na2CO3濃度)は0.7~3.5と算出される。
【0037】
特に、BTB濃度0.35~0.9mM、Na2CO3濃度0.3~0.82mMであって、(BTB濃度/Na2CO3濃度)が0.7~1.8の染色液を用いた場合、2つの検液での呈色の差が小さい。したがって、Mアルカリ度の補正なしに、Mアルカリ度の異なる水道水のpHを判定することができる。
こうした染色液を含浸して作製された試験紙においては、BTB濃度は0.12~0.30mmol/m2、Na2CO3濃度は0.10~0.28mmol/m2、(BTB濃度/Na2CO3濃度)は0.7~1.8と算出される。
【0038】
濾紙Cを用いて作製した試験紙の呈色結果を、指示薬(BTB)および変色域調整剤(Na2CO3)の濃度とともに、下記表にまとめる。
【0039】
【表3】
【0040】
上記表に示されるように、BTB濃度0.2~0.7mM、Na2CO3濃度0.1~0.5mMであって、(BTB濃度/Na2CO3濃度)が0.5~2.8の染色液を用いた場合、短時間でpHを判定することができる。
こうした染色液を含浸して作製された試験紙においては、BTB濃度は0.18~0.63mmol/m2、Na2CO3濃度は0.09~0.45mmol/m2、(BTB濃度/Na2CO3濃度)は0.5~2.8と算出される。
【0041】
特に、BTB濃度0.2~0.5mM、Na2CO3濃度0.225~0.5mMであって、(BTB濃度/Na2CO3濃度)が0.5~2.0の染色液を用いた場合、2つの検液での呈色の差が小さい。したがって、Mアルカリ度の補正なしに、Mアルカリ度の異なる水道水のpHを判定することができる。
こうした染色液を含浸して作製された試験紙においては、BTB濃度は0.18~0.45mmol/m2、Na2CO3濃度は0.20~0.41mmol/m2、(BTB濃度/Na2CO3濃度)は0.5~2.0と算出される。
【0042】
濾紙Bを用いて作製した試験紙の呈色結果を、指示薬(BTB)および変色域調整剤(Na2CO3)の濃度とともに、下記表にまとめる。
【0043】
【表4】
【0044】
上記表に示されるように、BTB濃度0.2~0.7mM、Na2CO3濃度0.2~1.13mMであって、(BTB濃度/Na2CO3濃度)が0.6~1.0の染色液を用いた場合、短時間でpHを判定することができる。しかも、呈色の差が小さく、Mアルカリ度の補正なしに、Mアルカリ度の異なる水道水のpHを判定することができる。
こうした染色液を含浸して作製された試験紙においては、BTB濃度は0.07~0.24mmol/m2、Na2CO3濃度は0.07~0.38mmol/m2、(BTB濃度/Na2CO3濃度)は0.6~1.0と算出される。
【0045】
濾紙Dを用いて作製した試験紙の呈色結果を、指示薬(BTB)および変色域調整剤(Na2CO3)の濃度とともに、下記表にまとめる。
【0046】
【表5】
【0047】
濾紙Dの場合、BTB濃度0.75~0.9mM、Na2CO3濃度0.7~0.82mMであって、(BTB濃度/Na2CO3濃度)が0.9~1.2の染色液を用いた場合、短時間でpHを判定することはできた。しかしながら、Mアルカリ度の異なる2つの水道水での呈色の差が大きく、Mアルカリ度による補正が必要であった。濾紙Dは、厚さが0.26mmと薄いことが原因であると推測される。
【0048】
濾紙Aを用いて作製した試験紙の呈色結果を、指示薬(PR)および変色域調整剤(Na2CO3)の濃度とともに、下記表にまとめる。
【0049】
【表6】
【0050】
上記表に示されるように、PR濃度0.6~1.2mM、Na2CO3濃度0.9~1.8mMであって、(PR濃度/Na2CO3濃度)が0.7の染色液を用いた場合、短時間でpHを判定することができる。しかも、呈色の差が小さく、Mアルカリ度の補正なしに、Mアルカリ度の異なる水道水のpHを判定することができる。
こうした染色液を含浸して作製された試験紙においては、PR濃度は0.20~0.41mmol/m2、Na2CO3濃度は0.30~0.61mmol/m2、(PR濃度/Na2CO3濃度)は0.7と算出される。
【0051】
濾紙Cを用いて作製した試験紙の呈色結果を、指示薬(PR)および変色域調整剤(Na2CO3)の濃度とともに、下記表にまとめる。
【0052】
【表7】
【0053】
上記表に示されるように、PR濃度0.2~0.4mM、Na2CO3濃度0.2~0.4mMであって、(PR濃度/Na2CO3濃度)が0.6~1.6の染色液を用いた場合、短時間でpHを判定することができる。
こうした染色液を含浸して作製された試験紙においては、PR濃度は0.18~0.36mmol/m2、Na2CO3濃度は0.18~0.36mmol/m2、(PR濃度/Na2CO3濃度)は0.6~1.6と算出される。
【0054】
特に、PR濃度0.2~0.24mM、Na2CO3濃度0.2~0.25mMであって、(PR濃度/Na2CO3濃度)が0.8~1.2の染色液を用いた場合、呈色の差が小さい。したがって、Mアルカリ度の補正なしに、Mアルカリ度の異なる水道水のpHを判定することができる。
なお、こうした染色液を含浸して作製された試験紙においては、PR濃度は0.18~0.22mmol/m2、Na2CO3濃度は0.18~0.23mmol/m2、(PR濃度/Na2CO3濃度)は0.8~1.2と算出される。
【0055】
基材として濾紙A、指示薬としてBTBを用い、変色域調整剤を変更して試験紙を作製し、上述と同様に2種の検液の呈色の差を調べた。
変色域調整剤として(NH4)2CO3を用いて作製した試験紙の呈色結果を、指示薬(BTB)および変色域調整剤((NH4)2CO3)の濃度とともに、下記表にまとめる。
【0056】
【表8】
【0057】
BTB濃度0.5~0.8mM、(NH4)2CO3濃度0.153~1.8mMであって、(BTB濃度/(NH4)2CO3濃度)が0.4~4.6の染色液を用いた場合、短時間でpHを判定することができる。しかも、呈色の差が小さく、Mアルカリ度の補正なしに、Mアルカリ度の異なる水道水のpHを判定することができる。
なお、こうした染色液を含浸して作製された試験紙においては、BTB濃度は0.17~0.27mmol/m2、(NH4)2CO3濃度は0.05~0.61mmol/m2、(BTB濃度/(NH4)2CO3濃度)は0.4~4.6と算出される。
【0058】
変色域調整剤としてNaHCO3を用いて作製した試験紙の呈色結果を、指示薬(BTB)および変色域調整剤(NaHCO3)の濃度とともに、下記表にまとめる。
【0059】
【表9】
【0060】
上記表に示されるように、BTB濃度0.6~0.8mM、NaHCO3濃度0.3~1.3mMであって、(BTB濃度/NaHCO3濃度)が0.5~2.3の染色液を用いた場合、短時間でpHを判定することができる。
こうした染色液を含浸して作製された試験紙においては、BTB濃度は0.20~0.27mmol/m2、NaHCO3濃度は0.10~0.44mmol/m2、(BTB濃度/NaHCO3濃度)は0.5~2.3と算出される。
【0061】
特に、BTB濃度0.6~0.8mM、NaHCO3濃度0.8~1.3mMであって、(BTB濃度/NaHCO3濃度)が0.5~1.0の染色液を用いた場合、呈色の差が小さい。したがって、Mアルカリ度の補正なしに、Mアルカリ度の異なる水道水のpHを判定することができる。
こうした染色液を含浸して作製された試験紙においては、BTB濃度は0.20~0.27mmol/m2、NaHCO3濃度は0.27~0.44mmol/m2、(BTB濃度/NaHCO3濃度)は0.5~1.0と算出される。
【0062】
変色域調整剤としてK2CO3を用いて作製した試験紙の呈色結果を、指示薬(BTB)および変色域調整剤(K2CO3)の濃度とともに、下記表にまとめる。
【0063】
【表10】
【0064】
上記表に示されるように、BTB濃度0.6~0.7mM、K2CO3濃度0.509Mであって、(BTB濃度/K2CO3濃度)が1.2~1.4の染色液を用いた場合、短時間でpHを判定することができる。しかも、呈色の差が小さく、Mアルカリ度の補正なしに、Mアルカリ度の異なる水道水のpHを判定することができる。
こうした染色液を含浸して作製された試験紙においては、BTB濃度は0.20~0.24mmol/m2、K2CO3濃度は0.17mmol/m2、(BTB濃度/K2CO3濃度)は1.2~1.4と算出される。
【0065】
変色域調整剤としてLiCO3を用いて作製した試験紙の呈色結果を、指示薬(BTB)および変色域調整剤(LiCO3)の濃度とともに、下記表にまとめる。
【0066】
【表11】
【0067】
上記表に示されるように、BTB濃度0.5~0.8mM、LiCO3濃度0.509Mであって、(BTB濃度/LiCO3濃度)が1.0~1.6の染色液を用いた場合、短時間でpHを判定することができる。しかも、呈色の差が小さく、Mアルカリ度の補正なしに、Mアルカリ度の異なる水道水のpHを判定することができる。
こうした染色液を含浸して作製された試験紙においては、BTB濃度は0.17~0.27mmol/m2、LiCO3濃度は0.17mmol/m2、(BTB濃度/LiCO3濃度)は1.0~1.6と算出される。
【0068】
自然水のMアルカリ度の主成分である炭酸塩と炭酸水素塩をアルカリに用いることで、試験紙内で水道水のMアルカリ度を調整し、補正なしでpH判定が可能となった。炭酸塩、炭酸水素塩は、変則域調整剤とMアルカリ度の調整剤の2つの役割を果たしていると推測される。
【0069】
比較のために、下記処方の染色液を用いて試験紙を作製した。
メタノール 50mL
BTB 0.0216g(0.7mM)
1/2ON NaOH 1mL(1.0mM)
得られた試験紙を用いて、上述と同様に2種の検液のpHを判定し、呈色の差を調べた。その結果を、下記表に示す。
【0070】
【表12】
【0071】
炭酸塩または炭酸水素塩が含有されない染色液を用いて作製された試験紙の場合には、Mアルカリ度の異なる水道水での呈色の差が、1ランクを超えてしまう。したがって、Mアルカリ度の補正が必要であることが確認された。