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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023136265
(43)【公開日】2023-09-29
(54)【発明の名称】液体フィルタ用濾材
(51)【国際特許分類】
   B01D 39/18 20060101AFI20230922BHJP
   B01D 39/16 20060101ALI20230922BHJP
【FI】
B01D39/18
B01D39/16 A
B01D39/16 C
B01D39/16 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022041789
(22)【出願日】2022-03-16
(71)【出願人】
【識別番号】000005980
【氏名又は名称】三菱製紙株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】311010475
【氏名又は名称】KJ特殊紙株式会社
(72)【発明者】
【氏名】加藤 大地
(72)【発明者】
【氏名】吉田 光男
(72)【発明者】
【氏名】江角 真一
【テーマコード(参考)】
4D019
【Fターム(参考)】
4D019AA03
4D019BA12
4D019BA13
4D019BB05
4D019BB08
4D019BB10
4D019BD01
4D019CA02
4D019DA03
4D019DA06
4D019DA10
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、プリーツ加工適性が優れており、微細粒子の濾過効率が高く、且つ、濾過時間が短い液体フィルタ用濾材を提供することにある。
【解決手段】フィブリル化リヨセル繊維、繊維径1~20μmの非フィブリル化主体繊維及び繊維径3~20μmである非フィブリル化バインダー繊維を含む密層と、繊維径が5~30μmの非フィブリル化主体繊維及び繊維径3~20μmである非フィブリル化バインダー繊維を含む支持体層とからなる2層構造の不織布、並びに該不織布の密層表面に設けられた多孔性樹脂膜を含むことを特徴とする液体フィルタ用濾材。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィブリル化リヨセル繊維、繊維径1~20μmの非フィブリル化主体繊維及び繊維径3~20μmである非フィブリル化バインダー繊維を含む密層と、繊維径が5~30μmの非フィブリル化主体繊維及び繊維径3~20μmである非フィブリル化バインダー繊維を含む支持体層とからなる2層構造の不織布、並びに該不織布の密層表面に設けられた多孔性樹脂膜を含むことを特徴とする液体フィルタ用濾材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は液体フィルタ用濾材に関するものである。以下、「液体フィルタ用濾材」を「濾材」と略す場合がある。
【背景技術】
【0002】
液体フィルタ用濾材の構造には大きく分けて2つある。一つは、濾材の内部で固体粒子を捕捉する「内部濾過」構造である。もう一つは、濾材の表面で固体粒子を捕捉する「表面濾過」構造である(例えば、特許文献1参照)。また、これら濾材に、濾材の表面積を増大させるために、プリーツ(ひだ折り)加工が施されてから、所定の形状に成形されて液体フィルタが作製され、液体フィルタと他の部品と組み合わせて濾過機にセットして使用される。
【0003】
従来、放電加工機やIC生産工程の切削加工機で使用されている液体フィルタ用濾材や自動車用エンジンオイル、燃料等各種液体用の液体フィルタ用濾材には、天然パルプと有機繊維の混抄シートにフェノール樹脂等を含浸処理したシート、ポリエステルのスパンボンド不織布等が使用されているが、濾過効率が低く、寿命が短い等の欠点があった。また、高性能の濾材としてフッ素樹脂等の多孔質シートがあるが、高価なため特殊用途に限定され、多量の液体を処理する濾材としては、通気抵抗が高く、通水量が少なくなるために、不適当であった。
【0004】
これらの問題を解決する濾材の一つとして、1μm以下にフィブリル化された有機繊維5~40質量%と、繊維径1~5μmの極細有機繊維5~60質量%及び繊維径5μm以上の有機繊維20~70質量%からなり、且つ該繊維径5μm以上の有機繊維の一部または全部が繊維状有機バインダーであり、濾過密度が0.25~0.8g/cmの表面濾過構造を有する液体濾過用の濾材が提案されている(特許文献2参照)。この濾材は、フィブリル化された有機繊維が固体粒子の捕集効率を発現し、その他の有機繊維の含有量を限定することによって、圧力損失を抑え、多量の液体を効率良く短時間に処理することができるようにしている。
【0005】
しかし、特許文献2の濾材は、厚みが非常に薄く、堅くないために、プリーツ加工ができない問題があったことから、強度や腰(堅さ)を向上させるために、薄くて表面濾過性能に優れた、特許文献2の濾材を濾材層とし、液体の透過性が良く、高強度で、プリーツ加工適性の良い支持体層をこの濾材層と抄き合わせて一体化した液体フィルタ用濾材が提案されており、現在でも有用に産業界で活用されている(特許文献3参照)。
【0006】
ところで、切削加工機や放電加工機等の高精度化に伴い、切削屑等の固体粒子の粒子径はさらに小さくなり、サブミクロンオーダーになっているのが現状である。また、環境に配慮して加工液のクローズド化も進んでおり、加工液を循環して使用するために、濾過後の液は必然的に綺麗にすることが重要になっている。そのため、従来よりも微細な固体粒子(以下、「微細な固体粒子」を「微細粒子」と略す場合がある)の捕集効率を高めることが求められている。
【0007】
このような状況下で、「内部濾過」構造の濾材では、粉体を濾材内部に含有させることによって、捕集効率を上げる試みがなされている。例えば、セルロース繊維をベースとする液体用濾紙に粉末有機物質(粉体)を充填することによって、高い吸着及び吸収能と高い多孔度を特徴とした濾材が提案されている(例えば、特許文献4参照)。
【0008】
また、ポリオレフィン系フィブリル化合成繊維、熱接着性合成複合繊維、平均繊維径2μm以下のガラス繊維及び平均粒子径10μm以下の無機粉体をスラリーに分散混合して湿式抄紙法で抄造した液体濾過用濾紙が提案されている(例えば、特許文献5参照)。このような粉体で捕集効率を上げた「内部濾過」構造の濾材は初期濾過性能が低く、使用初期には微細粒子が流れてしまい、その後、微細粒子が捕集されてくると、圧力損失が高くなってくるという問題があった。また、粉体は濾材から落下し易く、特に、特許文献5のように、無機粉体を湿式抄紙法で抄造した場合、無機粉体が抄紙ワイヤーから脱落するという問題があった。
【0009】
無機粉体が抄紙ワイヤーから脱落するという問題を解決するために、通気性を有する基材の片表面に粒子(無機粉体)と有機重合物を含有してなる塗被層を設けてなる液体濾過用塗被濾材が提案されている(例えば、特許文献6参照)。しかし、粒子を固定するための有機重合物が被膜化するために、捕集効率は高くなるが、圧力損失が高く、濾過時間が長いという問題があった。
【0010】
粉体を濾材内部に含有させること無く、捕集効率を上げる試みとして、多孔質膜を含む濾材が提案されている。例えば、平均繊維径0.01~10μmの非フィブリル状繊維を含有する多孔質基材、およびポリマーからなる孔径0.01~10μmの貫通孔を有する網状構造体(多孔質膜)からなり、該多孔質基材の表面および内部に該網状構造体が存在し、該平均繊維径0.01~10μmの非フィブリル状繊維と該網状構造体とが絡合してなる多孔質シートが開示されている(例えば、特許文献7参照)。この多孔質シートの活用例としては、電気化学素子用セパレータ、限外濾過膜やエアフィルター、オイルフィルター、血液フィルターなどが好適であることが開示されている。しかし、多孔質シートの厚みとしては、5~100μmが好ましいことが開示されているが、実施例によると、最大で37μmと非常に薄いため、液体フィルタ用濾材として用いる場合、堅さが足りず、プリーツ加工ができないという問題があった。また、多孔質基材が、平均繊維径0.01~10μmの非フィブリル状繊維以外の繊維を含有していても良いことが記載されていて、具体的には、パルプ状繊維、フィブリル状繊維、フィブリッド等が開示されている。そして、実施例では、ポリ(パラ-フェニレンテレフタルアミド)からなるフィブリル状繊維(カナディアンスタンダードフリーネス150ml)、フィブリル状セルロース繊維(質量平均繊維長0.39mm、カナディアンスタンダードフリーネス0ml)が使用されている。また、比較例では、マニラ麻パルプ(カナディアンスタンダードフリーネス520ml)、溶剤紡糸セルロース繊維(リヨセル繊維)の叩解物(カナディアンスタンダードフリーネス70ml)が使用されている。溶剤紡糸セルロース繊維の叩解物を使用した多孔質シートは、溶剤紡糸セルロース繊維の叩解物とマニラ麻パルプとからなり、セルロースのみで構成されているため、電解液含浸状態での突き刺し強度が著しく弱かったことから、液体フィルタ用濾材に使用した場合にも、液に浸漬した際にセルロースの水素結合が低下し、濾材強度を維持できなくなるという問題が発生することが推測される。
【0011】
有機物発生量の低いフィルタ濾材を得るために、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)多孔膜(多孔質膜)の少なくとも片面に通気性支持材料(支持体)を備えたフィルタ濾材が開示されている(例えば、特許文献8及び9参照)。しかし、PTFE膜は通気性支持体との接着性が悪く、剥離しやすいという問題があった。
【0012】
高捕集効率と低い圧力損失を得るために、多孔質不織布繊維質支持体材料に平均気孔径の異なる2層の微孔質膜を設けた微孔質濾過膜も開示されている(例えば、特許文献10参照)。また、支持体材料には、径約20~25μmの繊維を使用し、平均気孔寸法約50~100μmを付与するのがよいことが開示されている。しかし、捕集効率は高いが、通液性が低いために濾過時間が長くなり、放電加工機やIC生産工程で使用されている液体フィルタ用濾材や自動車用エンジンオイル、燃料等各種液体用の液体フィルタ用濾材の用途には不適であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特許第4120737号公報
【特許文献2】特許第2633355号公報
【特許文献3】特許第3305372号公報
【特許文献4】特開平10-237798号公報
【特許文献5】特開平7-256021号公報
【特許文献6】特開2010-125410号公報
【特許文献7】国際公開第2008/153117号パンフレット
【特許文献8】国際公開第98/006477号パンフレット
【特許文献9】特開2005-253711号公報
【特許文献10】特開平07-148425号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の課題は、プリーツ加工適性が優れており、微細粒子の濾過効率が高く、且つ、濾過時間が短い液体フィルタ用濾材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題は、フィブリル化リヨセル繊維、繊維径1~20μmの非フィブリル化主体繊維及び繊維径3~20μmである非フィブリル化バインダー繊維を含む密層と、繊維径が5~30μmの非フィブリル化主体繊維及び繊維径3~20μmである非フィブリル化バインダー繊維を含む支持体層とからなる2層構造の不織布、並びに該不織布の密層表面に設けられた多孔性樹脂膜を含むことを特徴とする液体フィルタ用濾材、によって解決できる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の液体フィルタ用濾材は、フィブリル化リヨセル繊維、繊維径1~20μmの非フィブリル化主体繊維及び繊維径3~20μmである非フィブリル化バインダー繊維を含む密層と、繊維径が5~30μmの非フィブリル化主体繊維及び繊維径3~20μmである非フィブリル化バインダー繊維を含む支持体層とからなる2層構造の不織布、並びに該不織布の密層表面に設けられた多孔性樹脂膜を含むことを特徴としている。密層が、繊維径1~20μmの非フィブリル化主体繊維及び繊維径3~20μmである非フィブリル化バインダー繊維を含み、支持体層が、繊維径が5~30μmの非フィブリル化主体繊維及び繊維径3~20μmである非フィブリル化バインダー繊維を含むことによって、優れたプリーツ加工適性を達成することができる。また、不織布の密層表面の多孔性樹脂膜が、不織布の密層に含まれるフィブリル化リヨセル繊維間の空隙、フィブリル化リヨセル繊維と非フィブリル化主体繊維又は非フィブリル化バインダー繊維との間の空隙、及び、非フィブリル化主体繊維又は非フィブリル化バインダー繊維間の空隙に、微細な孔を形成することによって、濾過助剤の役割を果たし、使用初期から表面濾過を可能とし、微細粒子の濾過効率を高くすることができ、且つ、濾過時間を短くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】密層と支持体層とからなる2層構造の不織布並びに該不織布の密層表面に設けられた多孔性樹脂膜を含む液体フィルタ用濾材の断面の模式図である。
図2】本発明の液体フィルタ用濾材における多孔性樹脂膜の表面の電子顕微鏡写真である。
図3】密層と支持体層とからなる2層構造の不織布における密層の表面の電子顕微鏡写真である。
図4】本発明の液体フィルタ用濾材における支持体層の表面の電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の液体フィルタ用濾材について詳説する。本発明の液体フィルタ用濾材は、フィブリル化リヨセル繊維、繊維径1~20μmの非フィブリル化主体繊維及び繊維径3~20μmである非フィブリル化バインダー繊維を含む密層と、繊維径が5~30μmの非フィブリル化主体繊維及び繊維径3~20μmである非フィブリル化バインダー繊維を含む支持体層とからなる2層構造の不織布、並びに該不織布の密層表面に設けられた多孔性樹脂膜を含むことを特徴としている。
【0019】
本発明において、密層は、フィブリル化リヨセル繊維、繊維径1~20μmの非フィブリル化主体繊維及び繊維径3~20μmである非フィブリル化バインダー繊維を含む。フィブリル化リヨセル繊維とは、主に繊維軸と平行な方向に非常に細かく分割された部分を有し、少なくとも一部の繊維径が1μm以下であるリヨセル繊維である。
【0020】
リヨセル繊維は、有機溶剤紡糸法によって得られるセルロース繊維であり、再生セルロース繊維の一種である。有機溶剤とは,有機化合物と水との混合溶液をいい、溶剤紡糸法とは、誘導体を経ずにセルロースを直接溶解させて紡糸する方法をいう(JIS L0204-2:2020「繊維用語(原料部門)-第2部:化学繊維」)。
【0021】
フィブリル化方法としては、例えば、適度な濃度で水などに分散させた短繊維を、リファイナー、ビーター、ミル、摩砕装置、高速の回転刃により剪断力を与える回転刃式ホモジナイザー、高速で回転する円筒形の内刃と固定された外刃との間で剪断力を生じる二重円筒式の高速ホモジナイザー、超音波による衝撃で微細化する超音波破砕器、高圧ホモジナイザーなどのフィブリル化装置に通す方法が挙げられる。刃の形状、流量、処理回数、処理速度、処理濃度などの条件を調節してフィブリル化の程度を調整することができる。
【0022】
JIS P8121:2012のカナダ標準濾水度を測定する場合、フィブリル化が進むに従って、リヨセル繊維はふるい板の穴をすり抜けてしまい、正確なカナダ標準濾水度が計測できないという状況が発生する。そこで、本発明では、フィブリル化リヨセル繊維の正確な濾水度を測定するために、ふるい板として線径0.14mm、目開き0.18mmの80メッシュ金網を用い、試料濃度0.1%にした以外はJIS P8121:2012に準拠して測定する変法濾水度を用いた。
【0023】
本発明における変法濾水度での測定値が250mLの場合、JIS P8121:2012に準拠したカナダ標準濾水度での値は50mLに相当し、変法濾水度での測定値が70mLの場合、カナダ標準濾水度での値は0mLに相当する。さらに変法濾水度での測定値が0mLに近づくと、フィブリル化したリヨセル繊維がふるい板を通り抜けてしまうために、カナダ標準濾水度での値は0mLから上昇し、正確なカナダ標準濾水度の測定はできなくなる。なお、フィブリル化が進むと、変法濾水度は下がり続ける。そして、変法濾水度が0mlに達した後も、さらにフィブリル化すると、繊維がメッシュを通りすぎるようになり、変法濾水度が逆に上昇し始める。本発明では、このように、変法濾水度が逆上昇し始めた状態を「変法濾水度が0ml未満」と称している。
【0024】
フィブリル化リヨセル繊維の変法濾水度は、好ましくは0~250mLであり、より好ましくは0~160mLである。該変法濾水度が250mLを超えると、濾材の捕集効率が低下する場合がある。一方、該変法濾水度が0ml未満の場合、フィブリル化リヨセル繊維のファイン分が増えて、密層から脱落する割合が増え、歩留まりが低下する場合がある。また、フィブリル化処理に時間が掛かり、非常に高価なものになる。
【0025】
フィブリル化リヨセル繊維の含有率は、密層に含まれる全繊維に対して、好ましくは5~50質量%であり、より好ましくは10~40質量%であり、さらに好ましくは15~30質量%である。フィブリル化リヨセル繊維の含有率が5質量%未満の場合、不織布を構成する繊維間空隙が大きくなり、均一な多孔性樹脂膜を形成しにくくなる場合がある。また、フィブリル化リヨセル繊維の含有率が50質量%超の場合、不織布の密層の空隙が不足し、液体フィルタ用濾材の寿命が低下する場合がある。
【0026】
非フィブリル化主体繊維は、密層の骨格を形成する繊維であり、非フィブリル化バインダー繊維は軟化又は溶融する温度でも軟化又は溶融し難く、断面形状が変化することはあるものの、繊維としての形状は損なわれない繊維である。そして、密層における非フィブリル化主体繊維は、フィブリル化リヨセル繊維と一緒に密層中で適度な空隙を構成する役割を果たす。また、非フィブリル化バインダー繊維は、密層製造時の加熱処理(例えば、乾燥処理、熱カレンダー処理等)によって、軟化又は溶融する性質を持つ繊維であり、不織布の引張強度やプリーツ加工適性を高める役割を果たす。
【0027】
密層において、非フィブリル化主体繊維の繊維径は、1~20μmであり、より好ましくは2~15μmである。繊維径が1μm未満の場合、不織布に十分な空隙が確保できず、多孔性樹脂膜を形成後の濾過抵抗が高くなり過ぎる。一方、繊維径が20μm超の場合、繊維間の空隙が大き過ぎて、多孔性樹脂膜が形成され難くなる。非フィブリル化主体繊維の繊維長は、好ましくは1~12mmであり、より好ましくは3~10mmである。繊維長が1mm未満の非フィブリル化主体繊維は、抄造工程で湿紙(ウェブ)より脱落し、繊維長が12mmを超えると、水分散性が損なわれ、地合が不均一となり、不織布の空隙が不均一になる。
【0028】
非フィブリル化主体繊維の密層に対する含有率は、10~60質量%であることが好ましく、15~55質量%であることがより好ましく、20~50質量%であることが更に好ましい。非フィブリル化主体繊維の含有率が10質量%未満では、濾過抵抗が高くなり、実用上問題が発生するおそれがあり、一方、60質量%を超えると、フィブリル化リヨセル繊維又は非フィブリル化バインダー繊維の含有率が相対的に低くなり、均一な多孔性樹脂膜を形成し難くなる場合又は強度が不十分となる場合がある。
【0029】
密層の非フィブリル化主体繊維としては、ポリエステル系、ポリオレフィン系、ポリアミド系、ポリアクリル系、ビニロン系、ビニリデン系、ポリ塩化ビニル系、ベンゾエート系、ポリクラール(polychlal)系、フェノール系などの繊維が挙げられる。
【0030】
密層において、非フィブリル化バインダー繊維としては、芯鞘繊維(コアシェルタイプ)、並列繊維(サイドバイサイドタイプ)、放射状分割繊維などの複合繊維が挙げられる。複合繊維は、皮膜を形成しにくいので、密層の空間を保持したまま、強度を向上させることができる。例えば、ポリプロピレン繊維、ポリプロピレン(芯)とポリエチレン(鞘)の組み合わせ、ポリプロピレン(芯)とエチレンビニルアルコール(鞘)の組み合わせ、ポリプロピレン(芯)と酢酸ビニルアルコール(鞘)の組み合わせ、ポリエステル(芯)とポリエチレン(鞘)の組み合わせ、高融点ポリエステル(芯)と低融点ポリエステル(鞘)の組み合わせ等が挙げられるが、不織布の強度を高めるという点から、特に、芯鞘型ポリエステル系バインダー繊維を使用することが好ましい。また、ポリエチレン等の低融点樹脂のみで構成される単繊維(全融タイプ)や、熱水可溶性ポリビニルアルコール系繊維のような熱水可溶性バインダー繊維は、加熱工程で皮膜を形成しやすいが、特性を阻害しない範囲で使用することができる。
【0031】
密層において、非フィブリル化バインダー繊維の繊維長は、好ましくは1~12mmであり、より好ましくは3~10mmである。繊維長が1mm未満の場合、抄造工程でウェブより脱落し易くなり、フィブリル化リヨセル繊維や非フィブリル化主体繊維との接着点が減少し、強度が低下する場合がある。また、繊維長が12mm超の場合、水分散性が損なわれ、地合が不均一となり、不織布の強度が低下する場合がある。非フィブリル化バインダー繊維の繊維径は3~20μmであり、より好ましくは5~18μmである。繊維径が3μm未満では、繊維間の接着が不十分となり、強度が低下する。一方、繊維径が20μmを超えると、地合を損ねる。
【0032】
非フィブリル化バインダー繊維の密層中の含有率は、密層に対して、好ましくは20~70質量%であり、より好ましくは25~65質量%であり、さらに好ましくは30~60質量%である。非フィブリル化バインダー繊維の含有率が20質量%未満の場合、繊維間の接着が不十分となり易く、強度が不十分となる場合がある。また、非フィブリル化バインダー繊維の含有率が70質量%超の場合、濾過抵抗が高くなり、実用上問題が発生する場合がある。
【0033】
密層の坪量は、好ましくは5~40g/mであり、より好ましくは10~35g/mである。密層の坪量が5g/m未満では、密層が不均一になる場合がある。一方、密層の坪量が40g/m超の場合、濾過抵抗が高まり、液体フィルタ用濾材の寿命が短くなる場合がある。
【0034】
支持体層は、液体フィルタ用濾材のプリーツ加工適性を高めるために設けるものである。濾過性能の向上を目的としないため、支持体層における非フィブリル化主体繊維は、その繊維径が密層のものよりも大きい方が好ましく、剛直性を向上させる繊維であることが好ましい。プリーツ加工適性を低下させない範囲であれば、フィブリル化繊維が支持体層に含まれていても良い。
【0035】
支持体層において、非フィブリル化主体繊維は、濾材のプリーツ加工適性を付与するために、支持体層の骨格を形成する機能を果たす繊維であり、非フィブリル化バインダー繊維が軟化又は溶融する温度でも軟化又は溶融し難く、断面形状が変化することはあるものの、繊維としての形状は損なわれない繊維である。非フィブリル化バインダー繊維は、支持体層製造時の加熱処理(例えば、乾燥処理、熱カレンダー処理等)によって、軟化又は溶融する性質を持つ繊維であり、不織布の引張強度やプリーツ加工適性を高める役割も果たす。
【0036】
支持体層の非フィブリル化主体繊維としては、ポリエステル系、ポリオレフィン系、ポリアミド系、ポリアクリル系、ビニロン系、ビニリデン系、ポリ塩化ビニル系、ベンゾエート系、ポリクラール(polychlal)系、フェノール系などの繊維が挙げられる。
【0037】
支持体層において、非フィブリル化主体繊維の繊維径は、5~30μmであり、好ましくは7~27μm、より好ましくは8~25μmである。繊維径が5μm未満の場合、不織布に十分な空隙が確保できず、多孔性樹脂膜を形成後の濾過抵抗が高くなり、濾過時間が長くなり、プリーツ加工適性が得にくい。一方、繊維径が30μm超の場合、剛直性が高過ぎて、プリーツ加工適性が低下し、また、繊維の毛羽立ちや離脱の問題が起こる。また、非フィブリル化主体繊維の繊維長は、好ましくは1~12mmであり、より好ましくは3~10mmである。繊維長が1mm未満の非フィブリル化主体繊維は、抄造工程で湿紙(ウェブ)より脱落し易くなり、繊維長が12mmを超えると、水分散性が損なわれ、地合が不均一となり、不織布の空隙が不均一になる場合がある。
【0038】
非フィブリル化主体繊維の支持体層に対する含有率は、20~70質量%であることが好ましく、25~65質量%であることがより好ましく、30~60質量%であることが更に好ましい。非フィブリル化主体繊維の含有率が20質量%未満では、濾過抵抗が高くなり、実用上問題が発生するおそれがあり、一方、70質量%を超えると、非フィブリル化バインダー繊維の含有率が相対的に低くなり、非フィブリル化主体繊維の毛羽立ちや離脱の問題が起こる場合がある。
【0039】
支持体層において、非フィブリル化バインダー繊維としては、芯鞘繊維(コアシェルタイプ)、並列繊維(サイドバイサイドタイプ)、放射状分割繊維などの複合繊維が挙げられる。複合繊維は、皮膜を形成しにくいので、支持体層の空間を保持したまま、強度を向上させることができる。例えば、ポリプロピレン繊維、ポリプロピレン(芯)とポリエチレン(鞘)の組み合わせ、ポリプロピレン(芯)とエチレンビニルアルコール(鞘)の組み合わせ、ポリプロピレン(芯)と酢酸ビニルアルコール(鞘)の組み合わせ、ポリエステル(芯)とポリエチレン(鞘)の組み合わせ、高融点ポリエステル(芯)と低融点ポリエステル(鞘)の組み合わせ等が挙げられるが、不織布の強度を高めるという点から、特に、芯鞘型ポリエステル系バインダー繊維を使用することが好ましい。
【0040】
支持体層中の非フィブリル化バインダー繊維の繊維長は、好ましくは1~12mmであり、より好ましくは3~10mmである。繊維長が1mm未満の場合、抄造工程でウェブより脱落し易くなり、非フィブリル化主体繊維との接着点が減少し、強度が低下する場合がある。また、繊維長が12mm超の場合、水分散性が損なわれ、地合が不均一となり、不織布の強度が低下する場合がある。
【0041】
支持体層中の非フィブリル化バインダー繊維の繊維径は3~20μmであり、5~18μmであることがより好ましい。繊維径が3μm未満では、繊維間の接着が不十分となり、強度が低下する。一方、繊維径が20μmを超えると、地合を損ねる。
【0042】
非フィブリル化バインダー繊維の支持体層中の含有率は、支持体層に対して、好ましくは30~80質量%であり、より好ましくは35~75質量%であり、さらに好ましくは40~70質量%である。非フィブリル化バインダー繊維の含有率が30質量%未満の場合、繊維間の接着が不十分となり易く、プリーツ加工適性が不十分となる場合がある。また、非フィブリル化バインダー繊維の含有率が80質量%超の場合、濾過抵抗が高くなり、実用上問題が発生する場合がある。
【0043】
支持体層の坪量は、好ましくは30~100g/mであり、より好ましくは35~90g/mであり、さらに好ましくは40~80g/mである。支持体層の坪量が30g/m未満では、プリーツ加工適性が得られない場合がある。一方、支持体層の坪量が100g/m超の場合、厚みが過剰となり、フィルタユニット内に所望の濾材面積を組み込めない場合がある。
【0044】
支持体層は、湿式抄紙機で製造することができるが、用途に応じて、ポリエステル、ポリアミド系、ポリオレフィン系、セルロース系等の素材からなる静電紡糸法、スパンボンド、メルトブローン、ニードルパンチ、スパンレース等の方法で製造されたシートを用いることができる。
【0045】
本発明において、「繊維径」とは、繊維の断面形状が真円の場合はその直径の値であり、繊維の断面形状が楕円形や異型断面の場合は、断面積が等しい真円の直径に換算した値である。
【0046】
本発明において、液体フィルタ用濾材が密層と支持体層とからなる2層構造の不織布であることによって、濾材のプリーツ加工適性を高めることが可能となり、フィルタユニットを形成した際に折り加工した濾材間に均一な空隙を形成し、構造圧損を軽減することができる。
【0047】
本発明において、密層の密度は、好ましくは0.1~0.8g/cmであり、より好ましくは0.15~0.7g/cmである。密層の密度が0.1g/cm未満の場合、密層中に粒子が詰まり易くなり、寿命が短くなる場合がある。逆に、密層の密度が0.8g/cm超の場合、濾過速度が遅くなり過ぎる場合がある。
【0048】
支持体層の密度は、密層の密度よりも小さく、好ましくは0.05~0.5g/cmであり、より好ましくは0.1~0.4g/cmである。支持体層の密度が0.05g/cm未満の場合、不織布の引張強度が不十分になる場合や、プリーツ加工適性が損なわれる場合がある。逆に、支持体層の密度が0.5g/cm超の場合、濾過速度が遅くなり過ぎる場合がある。
【0049】
本発明において、不織布全体の密度は、好ましくは0.1~0.6g/cmであり、より好ましくは0.15~0.5g/cmである。不織布全体の密度が0.1g/cm未満の場合、ピンホール等により濾過性能の点で問題がある。また、不織布全体の密度が0.6g/cm超の場合、濾過速度が遅くなり過ぎる場合がある。
【0050】
本発明において、不織布全体の厚さは、好ましくは200~400μmであり、より好ましくは230~370μmである。不織布全体の厚さが200μm未満の場合、プリーツ加工後に変形が起こり、構造圧損が高まったり、濾材が密着する問題が起こる場合がある。また、不織布全体の厚さが400μm超の場合、フィルタユニットに所望の面積の濾材を組み込めない問題が起こる場合がある。
【0051】
また、本発明の液体フィルタ用濾材は、不織布の密層表面に設けられた多孔性樹脂膜を含む。多孔性樹脂膜を設ける前段で、不織布に熱可塑性樹脂を含有させると、不織布の剛直性が向上して好ましい。熱可塑性樹脂としては、例えば、アクリル系、酢酸ビニル系、エポキシ系、合成ゴム系、ウレタン系、ポリエステル系、塩化ビニリデン系、ポリビニルアルコール系、澱粉、フェノール樹脂などの熱可塑性樹脂から選ばれる1種以上の樹脂が挙げられる。
【0052】
熱可塑性樹脂の含有率は、不織布に対して、好ましくは0.01~10質量%であり、より好ましくは0.1~5質量%である。熱可塑性樹脂の含有率が10質量%超の場合、不織布の圧力損失が大きくなり過ぎ、濾過速度が遅くなる場合がある。また、熱可塑性樹脂の含有率が0.01質量%未満の場合、熱可塑性樹脂を含有しない不織布と比較して、剛直性が変わらない場合がある。
【0053】
熱可塑性樹脂を不織布に含有させる方法としては、特に限定はしないが、サイズプレス方式、タブサイズプレス方式、スプレー方式、内添方式、グラビア塗工方式などの方法が挙げられる。熱可塑性樹脂を含有する溶液又は分散液を上記方法によって不織布に付与し、乾燥させることによって、熱可塑性樹脂を不織布に含有させることができる。
【0054】
本発明の不織布には、必要に応じて、濾材の特性を阻害しない範囲で、架橋剤、撥水剤、分散剤、歩留り向上剤、紙力剤、染料などの添加剤を適宜配合させることができる。
【0055】
本発明の不織布は、長網、円網、傾斜ワイヤー等の抄紙網が単独で設置されている抄紙機、またはこれらの抄紙網の同種または異種の2機以上がオンラインで設置されているコンビネーション抄紙機などにより製造することができる。抄紙網で製造された湿紙(ウェブ)は、エアドライヤー、シリンダードライヤー、サクションドラム式ドライヤー、赤外方式ドライヤー等のドライヤーで乾燥させる。乾燥させた後、場合によって、熱可塑性樹脂を含有させ、エアドライヤー、シリンダードライヤー、サクションドラム式ドライヤー、赤外方式ドライヤー等のドライヤーで乾燥させる。また、乾式法で製造した密層を用いる場合は、抄紙機で製造した支持体層と密層とを抄紙機で積層しても良いし、別途カレンダー装置、熱カレンダー装置、貼り合わせ装置等の加工機を用いて積層しても良い。
【0056】
多孔性樹脂膜を構成する樹脂材料としては、セルロース誘導体[セルロースエステル(セルロースアセテート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートフタレートなどの有機酸エステル、硝酸セルロース、硫酸セルロース、リン酸セルロースなどの無機酸エステル、硝酸酢酸セルロースなどの混酸エステルなど)、セルロースエーテル(メチルセルロース、エチルセルロース、イソプロピルセルロース、ブチルセルロース、ベンジルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシエチルセルロース、シアノエチルセルロースなど)]、ポリオレフィン類(ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ1-ブテン、ポリイソブテン、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリアレンなど)、ポリアクリロニトリル類(ポリアクリロニトリル、ポリメタアクリロニトリル、アクリロニトリル-ビニルピロリドン共重合体、アクリロニトリル-酢酸ビニル共重合体、アクリロニトリル-メチルアクリレート共重合体、アクリロニトリル-アクリル酸共重合体など)、ポリスルホン系高分子(ポリスルホン、ポリエーテルスルホンなど)、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリ(メタ)アクリル酸、ポリ(メタ)アクリレート類(ポリメチル(メタ)アクリレート、ポリエチル(メタ)アクリレート、ポリブチル(メタ)アクリレートなど)、ポリビニルアルコール、ポリアリルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ポリアセタール類(ポリビニルフォルマール、ポリビニルアセタール、ポリビニルブチラールなど)、ポリビニルケトン類(ポリビニルメチルケトン、ポリメチルイソプロペニルケトンなど)、ポリビニルハライド類(ポリビニルクロライド、ポリビニリデンクロライド、ポリビニルブロマイド、ポリビニルフロライド、ポリビニリデンフロライドなど)、ポリスチレン類(ポリスチレン、ポリα-メチルスチレン、ポリ4-クロロスチレンなど)、ポリオキシド類(ポリオキシメチレン、ポリオキシエチレン、ポリオキシプロピレンなど)、ポリアミド、ポリエステルアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエステル類(ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなど)、ポリカーボネート、ポリエーテルエステルなどが挙げられる。これらの樹脂材料は、単独で使用しても良いし、2種以上を混合して使用することもできる。好ましい樹脂材料としては、セルロース誘導体、アクリロニトリル系高分子、ポリアルキル(メタ)アクリレート、ポリスルホン系高分子、ポリアセタール類が挙げられる。
【0057】
本発明における多孔性樹脂膜の製造方法としては、乾燥誘起相分離法、貧溶媒誘起相分離法、熱誘起相分離法、反応誘起相分離法等が挙げられる。乾燥誘起相分離法は、2種以上の樹脂材料と1種以上の媒体を含む溶液の溶媒を蒸発させることによって、相分離が起こり、多孔性樹脂膜が製造できる。貧溶媒誘起相分離法では、良溶媒に溶解させた樹脂溶液に貧溶媒を加えることによって、相分離が起こり、多孔性樹脂膜が製造できる。具体的には、貧溶媒浴に樹脂溶液を浸漬する方法、貧溶媒が水の場合には、高湿度下で樹脂溶液を乾燥させる方法、樹脂溶液と貧溶媒とを混合してエマルジョンを調製した後に乾燥させる方法等が挙げられる。熱誘起相分離法では、均一な高温の樹脂溶液を冷却することによって相分離が起こり、多孔性樹脂膜が製造できる。反応誘起相分離法では、反応性モノマーが重合することによって相分離が起こり、多孔性樹脂膜が製造できる。
【0058】
上記多孔性樹脂膜の製造方法において、工業的には、貧溶媒誘起相分離法が良く使用される。密層表面に良溶媒に溶解させた樹脂溶液を塗工した不織布を貧溶媒に接触させるか、または、貧溶媒浴中に浸漬して、多孔性樹脂膜を析出させることができる。また、密層表面に良溶媒に溶解させた樹脂溶液を塗工した不織布を高湿下で乾燥させることによって、多孔性樹脂膜を析出させることができる。また、良溶媒に溶解させた樹脂溶液と貧溶媒とを混合してエマルジョンを調製した後に、該エマルジョンを密層表面に塗工した不織布を乾燥させることによって、多孔性樹脂膜を析出させることができる。エマルジョンを調製する際に、界面活性剤を使用することができる。析出した多孔性樹脂膜に、洗浄、乾燥等の処理を施しても良い。
【0059】
良溶媒としては、使用する樹脂材料が溶解可能な媒体を選択し、貧溶媒としては、使用する樹脂材料が不溶な媒体を選択する。媒体としては、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、アミンオキサイド、テトラヒドロフラン、キシレン、トルエン、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、エチルメチルエーテル、メチルエチルケトン、酢酸エチル、メタノール、エタノール、ブタノール、2-プロパノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、水などが挙げられる。これらは1種で使用しても良いし、2種以上で使用しても良い。水はイオン交換水や蒸留水が好ましい。
【0060】
貧溶媒浴に樹脂溶液を浸漬する方法について説明する。有機溶媒を主媒体とする良溶媒を使用し、水を主媒体とする貧溶媒を使用することが一般的である。良溶媒における有機溶媒の含有率は、全媒体の51質量%以上であることが好ましい。樹脂溶液における樹脂材料の濃度は、好ましくは1~20質量%であり、より好ましくは3~10質量%である。樹脂濃度が1質量%未満の場合、多孔性樹脂膜の形成が不十分になる場合があり、20質量%超の場合、樹脂溶液の粘度が高くなり過ぎて、密層表面への含浸性や塗工性に支障を来たす場合や、必要以上の樹脂が付着して多孔性樹脂膜が形成され難くなる場合がある。
【0061】
貧溶媒は、水のみでも良いし、メタノール、エタノール、ブタノール、2-プロパノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコールなどのアルコール類、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、アミンオキサイドなどの有機溶媒を混合しても良い。貧溶媒における水の含有率は、好ましくは30質量%以上であり、より好ましくは51質量%以上である。水はイオン交換水や蒸留水を使うことが好ましい。
【0062】
樹脂溶液中には、本発明の特性を損なわない範囲で公知の添加剤、例えば、界面活性剤、消泡剤、塗布性改良剤、増粘剤、熱安定剤、滑剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、アンチブロッキング剤などを添加してもよい。
【0063】
塗工方法としては、例えば、ダイコーター、ロールコーター、エアナイフコーター、ブレードコーター、ロッドコーター、コンマコーター(登録商標)、グラビアコーターなどを用いた塗工方法が挙げられる。
【0064】
樹脂溶液を塗工した不織布を貧溶媒浴に接触させる方法としては、不織布を水浴に通す方法が挙げられる。このとき複数の水浴を使っても良い。不織布を連続して水浴に通す場合は、間欠的又は連続的に排水と新水供給とを実施することが好ましい。多孔性樹脂膜が析出した不織布の乾燥方法としては、熱風ドライヤー、シリンダードライヤー、ヤンキードライヤーなどを用いて行えば良い。シリンダードライヤーとヤンキードライヤーの場合は、熱風ドライヤーよりも低温で効率良く乾燥できる傾向がある。
【0065】
多孔性樹脂膜の乾燥塗工量は、特に限定しないが、好ましくは0.5~20g/mであり、より好ましくは1~20g/mである。乾燥塗工量が0.5g/m未満の場合、均一な多孔性樹脂膜が得られない場合があり、20g/m超の場合、濾過時間が長くなり、液体フィルタ用濾材の寿命が短くなることがある。
【0066】
本発明の液体フィルタ用濾材は、プリーツ加工適性が得られ、放電加工機用、エンジンオイル用、燃料用、油水分離用、油圧機器用等の液体フィルタ用濾材に好適である。この場合、多孔性樹脂膜面を上流側として使用することにより、表面濾過機構を発現でき好ましい。
【実施例0067】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明は本実施例に限定されるものではない。なお、実施例中における部や百分率は断りのない限り、すべて質量によるものである。
【0068】
<フィブリル化リヨセル繊維>
非フィブリル化リヨセル単繊維(1.7dtex×4mm、コートルズ社製)をダブルディスクリファイナー装置で60回繰り返し処理して得たフィブリル化リヨセル繊維(変法濾水度:110mL)をフィブリル化リヨセル繊維とした。
【0069】
非フィブリル化主体繊維1:繊維径1μm、繊維長3mmのポリエステル繊維
非フィブリル化主体繊維2:繊維径3μm、繊維長3mmのポリエステル繊維
非フィブリル化主体繊維3:繊維径5μm、繊維長3mmのポリエステル繊維
非フィブリル化主体繊維4:繊維径13μm、繊維長6mmのポリエステル繊維
非フィブリル化主体繊維5:繊維径20μm、繊維長10mmのポリエステル繊維
非フィブリル化主体繊維6:繊維径30μm、繊維長10mmのポリエステル繊維
非フィブリル化主体繊維7:繊維径40μm、繊維長10mmのポリエステル繊維
非フィブリル化バインダー繊維:繊維径14μm、繊維長5mmの、芯成分がポリエステル(融点253℃)、鞘部がポリエチレンテレフタレート-イソフタレート共重合体(軟化点75℃)からなる芯鞘型熱融着繊維
【0070】
以下、「非フィブリル化主体繊維」を「主体繊維」と略す場合があり、「非フィブリル化バインダー繊維」を「バインダー繊維」と略す場合がある。
【0071】
<不織布の作製>
(不織布1)
主体繊維4:バインダー繊維を、50:50の配合率で固形分5kgの繊維を2mのパルパー(分散容器)に1mの分散水と共に投入し、5分間分散してスラリーを調成した。スラリーから傾斜抄紙機で湿紙を形成した後、表面温度140℃のヤンキードライヤーにて熱圧乾燥し、目標坪量50g/mの支持体層を得た。
【0072】
非フィブリル化リヨセル単繊維(1.7dtex×4mm、コートルズ社製)をダブルディスクリファイナー装置で60回繰り返し処理して得たフィブリル化リヨセル繊維(変法濾水度:110mL):主体繊維2:バインダー繊維を、20:50:30の配合率で固形分2kgの繊維を2mのパルパーに1mの分散水と共に投入し、5分間分散してスラリーを調成した。スラリーから円網抄紙機で目標坪量20g/mの密層としての湿紙を形成し、巻取状の支持体層とヤンキードライヤー入口にて重ねあわせ、表面温度140℃のヤンキードライヤーにて熱圧乾燥し、密層と支持体層の2層構造で、トータル坪量70g/mの不織布1を作製した。
【0073】
(不織布2~9)
表1に示す繊維配合及び繊維配合率に変更した以外は、不織布1と同様の方法で、坪量50g/mの支持体層と坪量20g/mの密層の2層構造で、トータル坪量70g/mの不織布2~9を作製した。
【0074】
【表1】
【0075】
<樹脂溶液の作製>
ポリアミドイミド(東洋紡社製、商品名:バイロマックス(登録商標)HR16NN)をN-メチル-2-ピロリドンに、樹脂濃度10質量%になるよう溶解し、多孔性樹脂膜形成用塗布液である樹脂溶液を調製した。
【0076】
(実施例1~5)
巻取状の不織布1の密層表面にダイコーターを用いて樹脂溶液を塗布した後、20℃のイオン交換水浴中を1.2m/分で通過させて、更にイオン交換水で洗浄し、130℃のヤンキードライヤーに接触させて乾燥して多孔性樹脂膜を形成してロール状に巻き取り、表2に記載された乾燥塗工量の多孔性樹脂膜を含む液体フィルタ用濾材を得た。
【0077】
(比較例1)
不織布1に樹脂溶液を塗布せずに、比較例1の液体フィルタ用濾材とした。
【0078】
<無機粒子と有機重合物の混合液の作製>
ミルを用いて平均粒子径1.5μmに粉砕した重質炭酸カルシウム70質量%、アクリル系重合体ラテックス(商品名:Nipol(登録商標)LX852、日本ゼオン社製)30質量%を分散タンクに投入し、分散水に混合して10分間撹拌し、固形分濃度15質量%の無機粒子と有機重合物の混合液を作製した。
【0079】
(比較例2)
巻取状の不織布1の密層表面にエアナイフコーターを用いて無機粒子と有機重合物の混合液を塗工し、乾燥させて、乾燥塗工量が20g/mの液体フィルタ用濾材を得た。
【0080】
実施例1~5並びに比較例1及び2で得られた液体フィルタ用濾材に対して、坪量、厚さ及び密度の測定並びに濾過効率(清澄度)及び濾過時間の評価を行い、結果を表2に示した。
【0081】
(実施例6~9、比較例3~6)
巻取状の不織布2~9の密層表面にダイコーターを用いて樹脂溶液を塗布した後、20℃のイオン交換水浴中を1.2m/分で通過させて、更にイオン交換水で洗浄し、130℃のヤンキードライヤーに接触させて乾燥して多孔性樹脂膜を形成してロール状に巻き取り、多孔性樹脂膜の乾燥塗工量1g/mの液体フィルタ用濾材を得た。
【0082】
実施例2、6~9及び比較例3~6で得られた液体フィルタ用濾材に対して、坪量、厚さ及び密度の測定並びに濾過効率(清澄度)、濾過時間及びプリーツ加工適性の評価を行い、結果を表3に示した。
【0083】
(坪量)
JIS P8124:2011に準拠して、坪量を測定した。
【0084】
(厚さ)
厚さは、JIS P8118:2014に規定された方法に基づき測定した。
【0085】
(密度)
密度は、JIS P8118:2014に規定された方法に基づき測定した。
【0086】
(濾過効率及び濾過時間)
液体フィルタ用濾材を水で湿潤した後、JIS第8種粉体と微細粒子を含むJIS第11種粉を1:2の比率で混合し、1.0質量%濃度になるように純水に希釈した試験用液体100mlを、液体フィルタ用濾材の多孔性樹脂膜面を上流側にセットして、濾過面積14cm、差圧△P=200mmHgでの条件で吸引濾過して、濾過試験を行った。
比較例1の液体フィルタ用濾材は、不織布1の密層表面を上流側にセットした。また、比較例2の液体フィルタ用濾材は、無機粒子と有機重合物の混合液を塗布した面を上流側にセットした。
濾過試験で得られた濾過後の液体(濾液)の濁りの度合いを目視で観察し、以下の基準で濾過効率の評価を行った。
【0087】
◎:濁りが全くなく、清澄度が高く非常に良好。
○:清澄度が高く良好。
△:やや濁っているが、使用可能レベル。
×:濁っており、使用不可レベル。
【0088】
濾過試験で試験用液体の濾過が完了するまでの時間(秒)を計測し、以下の基準で濾過時間の評価を行った。
【0089】
◎:濾過時間が600秒以下であり、良好なレベル。
○:濾過時間が601~750秒以下であり、良好なレベル。
△:濾過時間が751~900秒であり、使用可能レベル。
×:濾過時間が901秒以上であり、使用不可レベル。
【0090】
(プリーツ加工適性)
実施例2、実施例6~9、比較例3~6の液体フィルタ用濾材をマシンの流れ方向(MD)30cm、横方向(CD)20cmに裁断し、流れ方向を横切るように5cm毎に山折、谷折を繰り返し、畳んだ濾材の上に、直径5cm、長さ30cm、重さ3kgの円柱状金属ロールをゆっくり転がして折り目をつけ蛇腹状とする。折り目の明確さ、折り目の変形度合、折り目の広がりを観察し、以下の基準でプリーツ加工適性の評価を行った。
【0091】
○:折り目が明確で歪みがなく、折り目を押しても変形がなく良好。
△:若干折り目が変形、または、若干折り目が広がるが、使用上問題ないレベル。
×:折り目の変形、または、折り目の大きく広がり、使用上問題があり不可。
【0092】
【表2】
【0093】
【表3】
【0094】
図1は、本発明の液体フィルタ用濾材の断面の模式図である。表2に示すとおり、実施例1~5の液体フィルタ用濾材は、フィブリル化リヨセル繊維、繊維径1~20μmの非フィブリル化主体繊維及び繊維径3~20μmである非フィブリル化バインダー繊維を含む密層1と、繊維径が5~30μmの非フィブリル化主体繊維及び繊維径3~20μmである非フィブリル化バインダー繊維を含む支持体層2とからなる2層構造の不織布、並びに該不織布の密層1表面に設けられた多孔性樹脂膜3を含む液体フィルタ用濾材であることから、比較例1と比較して濾過効率が良好であることが分かる。多孔性樹脂膜の乾燥塗工量が0.4g/mの実施例1と1g/mの実施例2を比較すると、実施例2の方が濾過効率は良かったが、実施例1でも十分に使用可能レベルであった。多孔性樹脂膜の乾燥塗工量が1~20g/mの実施例2~4の液体フィルタ用濾材は、濾過効率と濾過時間がいずれも良好であった。多孔性樹脂膜の乾燥塗工量が22g/mの実施例5の液体フィルタ用濾材は、濾液の清澄度は良好であったが、濾過時間が使用可能レベルであった。比較例2の液体フィルタ用濾材は、不織布1の密層表面に無機粒子と有機重合物を20g/m塗布しているため、濾過効率は良好であったが、無機粒子と有機重合物が密に充填しているため、試験用液体が通過する経路が少なく、濾過時間が非常に長く、使用不可レベルであった。
【0095】
図3は、多孔性樹脂膜を含まない比較例1の液体フィルタ用濾材の不織布における密層表面の電子顕微鏡写真である。フィブリル化リヨセル繊維と非フィブリル化主体繊維と非フィブリル化バインダー繊維とが適度な空隙を形成していることが分かる。図2は、実施例2の液体フィルタ用濾材の多孔性樹脂膜の表面の電子顕微鏡写真である。フィブリル化リヨセル繊維と非フィブリル化主体繊維と非フィブリル化バインダー繊維とが形成した空隙を多孔性樹脂膜で更に細分化することにより、比較例1では達成できなかった微細粒子の濾過効率の改善が図れた。図4は、実施例2の液体フィルタ用濾材における支持体層の表面の電子顕微鏡写真である。密層表面に設けた多孔性樹脂膜は支持体層の表面には全く確認できないことが分かる。
【0096】
表3に示すとおり、実施例2と実施例6~9、比較例3~6を比較すると、密層の非フィブリル化主体繊維の繊維径が3μmである実施例2の液体フィルタ用濾材よりも、非フィブリル化主体繊維の繊維径が1μmの実施例6の液体フィルタ用濾材は、濾過効率が高くなり、濾過時間は長くなったが、使用可能なレベルであった。密層の非フィブリル化主体繊維の繊維径が20μmである実施例7の液体フィルタ用濾材よりも、実施例2の液体フィルタ用濾材は、濾過効率が高かった。支持体層の非フィブリル化主体繊維の繊維径が5μmである実施例8の液体フィルタ用濾材よりも、支持体層の非フィブリル化主体繊維の繊維径が13μmである実施例2の液体フィルタ用濾材は、剛直性が高く、プリーツ加工適性が優れていた。支持体層の非フィブリル化主体繊維の繊維径が30μmである実施例9の液体フィルタ用濾材と実施例2の液体フィルタ用濾材は、プリーツ加工適性は同等レベルであった。密層の非フィブリル化主体繊維の繊維径が30μmである比較例3の液体フィルタ用濾材は、密層の空隙が大き過ぎるため、濾過効率が非常に劣り、使用不可レベルであった。支持体層の非フィブリル化主体繊維の繊維径が3μmである比較例4の液体フィルタ用濾材は、剛直性が不足し、プリーツ加工適性評価にて若干折り目に変形が見られた。また、濾過時間が非常に長く、使用不可レベルであった。支持体層の非フィブリル化主体繊維の繊維径が40μmである比較例5の液体フィルタ用濾材は、剛直性が高過ぎ、プリーツ加工適性評価にて折り目が広がり、使用不可レベルであった。密層にフィブリル化リヨセル繊維を含まない比較例6の液体フィルタ用濾材は、密層の空隙が過大となり、多孔性樹脂膜が均一に形成されず、濾過効率が劣り、使用不可レベルであった。
【産業上の利用可能性】
【0097】
本発明の液体フィルタ用濾材は、金属の型彫、切断加工などに使用されている放電加工機の加工液中に含まれる加工屑や、IC生産における基板のウエハの切断、研磨、エッチングなどの工程で使用される超純水中に含まれる加工屑を効率良く除去し清浄な液体を得るための液体フィルタ用濾材、自動車用エンジンオイル、燃料等各種液体フィルタ用濾材等に好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0098】
1 密層
2 支持体層
3 多孔性樹脂膜
図1
図2
図3
図4