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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023136274
(43)【公開日】2023-09-29
(54)【発明の名称】沸騰水型原子炉の異常時の運転方法
(51)【国際特許分類】
   G21C 9/004 20060101AFI20230922BHJP
   G21C 15/18 20060101ALI20230922BHJP
   G21D 3/04 20060101ALI20230922BHJP
   G21C 17/00 20060101ALI20230922BHJP
【FI】
G21C9/004 400
G21C15/18 A
G21D3/04 B
G21C17/00 040
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022041798
(22)【出願日】2022-03-16
(71)【出願人】
【識別番号】000211307
【氏名又は名称】中国電力株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】村上 博之
(72)【発明者】
【氏名】星野 正樹
【テーマコード(参考)】
2G002
2G075
【Fターム(参考)】
2G002CA01
2G002CA08
2G002DA01
2G002DA03
2G002EA04
2G075AA03
2G075BA12
2G075CA10
2G075CA42
2G075DA07
(57)【要約】
【課題】より確実に沸騰水型原子炉の異常時の格納容器の破損を抑制する沸騰水型原子炉の異常時の運転方法を提供すること。
【解決手段】沸騰水型原子炉の異常時の運転方法は、原子炉格納容器10内の酸素濃度を測定する測定ステップSB10と、測定ステップSB10で測定した酸素濃度に基づいて原子炉格納容器10内にスプレイされる冷却水へのヒドラジン水和物の注入を実行するか否かを決定する注入実行決定ステップSB11と、注入実行決定ステップSB11で冷却水へのヒドラジン水和物の注入の実行が決定された場合に、冷却水に脱酸素剤を注入する注入ステップSB13と、を含む。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
沸騰水型原子炉の異常時の運転方法であって、
原子炉格納容器の内部の酸素濃度を測定する測定ステップと、
前記測定ステップで測定した前記酸素濃度に基づいて前記原子炉格納容器の内部にスプレイされる冷却水への脱酸素剤の注入を実行するか否かを決定する注入実行決定ステップと、
前記注入実行決定ステップで前記冷却水への前記脱酸素剤の注入の実行が決定された場合に、前記冷却水に前記脱酸素剤を注入する注入ステップと、を含む、沸騰水型原子炉の異常時の運転方法。
【請求項2】
前記冷却水は、
前記原子炉格納容器の内部に設けられたスプレイ部によりスプレイされ、
前記原子炉格納容器の下部に溜まる水を前記スプレイ部に供給するためのスプレイ用水路、および前記スプレイ部に外部から水を補給するための補給用水路のうち少なくとも一方の水路を流通する、請求項1に記載の沸騰水型原子炉の異常時の運転方法。
【請求項3】
前記注入ステップでは、車両に搭載またはフロアに対して固定され、前記脱酸素剤が内部に貯蔵されたタンクから、前記タンクに設けられ前記スプレイ用水路および前記補給用水路のうち少なくとも一方の一部に接続され内部に流体を流通可能な中空部材を介して、前記スプレイ用水路および前記補給用水路のうち少なくとも一方に前記脱酸素剤を注入する、請求項2に記載の沸騰水型原子炉の異常時の運転方法。
【請求項4】
前記注入実行決定ステップで前記冷却水への前記脱酸素剤の注入の実行を決定した場合に、前記測定ステップで測定した前記酸素濃度に基づいて前記脱酸素剤の注入量を決定する注入量決定ステップを含む、請求項1から3の何れかに記載の沸騰水型原子炉の異常時の運転方法。
【請求項5】
前記脱酸素剤は、ヒドラジン水和物である、請求項1から4の何れかに記載の沸騰水型原子炉の異常時の運転方法。
【請求項6】
前記注入ステップでは、前記原子炉格納容器内の下部に溜まる水にも前記脱酸素剤を注入する、請求項1から5の何れかに記載の沸騰水型原子炉の異常時の運転方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、沸騰水型原子炉の異常時の運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、原子力発電所において想定される異常の1つに複合的な要因例えば、全交流電源喪失、非常用炉心冷却系起動不能、一次系配管破断による原子炉水位低下に伴う原子燃料被覆管のジルコニウムと水反応による水素の発生や、原子炉水の放射線分解に伴う水素・酸素の発生等により、主蒸気逃がし安全弁から原子炉圧力容器から原子炉格納容器へ放出される蒸気とともに水素および酸素が原子炉格納容器内に放出されることにより、大量発生した水素と酸素により内部の圧力が過大となり、原子炉格納容器が破損するリスクが想定される。また、水素と酸素が可燃限界に到達すると原子炉格納容器内で燃焼および爆轟を生じるリスクが想定される。そのため、原子炉格納容器に混合ガスを戻す側の端部を有する一巡配管と、一巡配管に設けられて混合ガス中の水素を酸化処理反応によって低減する処理剤を有する水素処理装置と、を有する水素処理システムが知られている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-9099号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、原子力発電所では、異常が発生した場合に備えて多重の対策が求められる。多重の対策を行うという観点では、特許文献1の技術だけでは十分とは言えず、更なる原子炉格納容器の破損を抑制する方法が求められる。
【0005】
本発明は、より確実に沸騰水型原子炉の異常時の格納容器の破損を抑制する沸騰水型原子炉の異常時の運転方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)本発明の一実施形態に係る沸騰水型原子炉の異常時の運転方法は、沸騰水型原子炉の異常時の運転方法であって、原子炉格納容器の内部の酸素濃度を測定する測定ステップと、前記測定ステップで測定した前記酸素濃度に基づいて前記原子炉格納容器の内部にスプレイされる冷却水への脱酸素剤の注入を実行するか否かを決定する注入実行決定ステップと、前記注入実行決定ステップで前記冷却水への前記脱酸素剤の注入の実行が決定された場合に、前記冷却水に前記脱酸素剤を注入する注入ステップと、を含む。
【0007】
(1)の沸騰水型原子炉の異常時の運転方法では、格納容器内にスプレイされる冷却水に脱酸素剤が注入されるため、格納容器内の気相中の酸素および液相中の溶存酸素を減らすことができるため、より確実に沸騰水型原子炉の異常時の格納容器の破損を抑制できる。
【0008】
(2)本発明の一実施形態に係る沸騰水型原子炉の異常時の運転方法では、前記冷却水は、前記原子炉格納容器の内部に設けられたスプレイ部によりスプレイされ、前記原子炉格納容器のサプレッションチェンバ下部に貯留されているサプレッションプール水を前記スプレイ部に供給するためのスプレイ用水路、および前記スプレイ部に外部から水を補給するための補給用水路のうち少なくとも一方の水路を流通することが好ましい。
【0009】
(2)の沸騰水型原子炉の異常時の運転方法では、複数の水路から格納容器内にスプレイされる水に脱酸素剤をより確実に注入して沸騰水型原子炉の異常時の格納容器の破損を抑制することができる。
【0010】
(3-1)本発明の一実施形態に係る沸騰水型原子炉の異常時の運転方法では、前記注入ステップでは、車両に搭載され、前記脱酸素剤が内部に貯蔵されたタンクから、前記タンクに設けられ前記スプレイ用水路および前記補給用水路のうち少なくとも一方の一部に接続され内部に水を流通可能なホースを介して、前記スプレイ用水路および前記補給用水路のうち少なくとも一方に前記脱酸素剤を注入することが好ましい。
【0011】
(3-2)本発明の一実施形態にかかわる沸騰水型原子炉の異常時の運転方法では、前記注入ステップでは、フロアに対して固定され、密閉容器に前記脱酸素剤が内部に貯蔵されたタンクから、前記タンクに設けられ前記格納容器スプレイ用水路および前記補給用水路のうち少なくとも一方の一部に接続され内部に水を流通可能な配管を介して、前記スプレイ用水路および前記補給用水路のうち少なくとも一方に前記脱酸素剤を注入することが好ましい。
【0012】
(3-1)の沸騰水型原子炉の異常時の運転方法では、第一形態として、ヒドラジン水和物タンクとしての脱酸素剤注入装置は移動して原子炉格納容器にスプレイ可能な水路に接続してヒドラジン水和物としての脱酸素剤を注入するといった柔軟な対応を行うことができ沸騰水型原子炉の異常時の格納容器の破損をより確実に抑制することができる。
【0013】
(3-2)の沸騰水型原子炉の異常時の運転方法では、第二形態として、ヒドラジ水和物タンクとしての脱酸素剤注入装置は固定の場所に設置されており、別途、原子炉格納容器pH調整用の水酸化ナトリウム注入配管と注入ラインと共用し、別途ヒドラジン水和物を貯蔵した密閉容器の上部に窒素ガスボンベからの窒素を注入し、ヒドラジン水和物を圧送・注入することにより、沸騰水型原子炉の異常時の格納容器の破損をより確実に抑制することができる。
【0014】
(4)本発明の一実施形態に係る沸騰水型原子炉の異常時の運転方法は、前記注入実行決定ステップで前記冷却水への前記脱酸素剤の注入の実行を決定した場合に、前記測定ステップで測定した前記酸素濃度に基づいて前記脱酸素剤の注入量を決定する注入量決定ステップを含むことが好ましい。
【0015】
(4)の沸騰水型原子炉の異常時の運転方法では、適切な量の脱酸素剤の注入することができ、また圧力容器内の酸素濃度をより適切な濃度へと制御でき、沸騰水型原子炉の異常時の格納容器の破損をより確実に抑制することができる。
【0016】
(5)本発明の一実施形態に係る沸騰水型原子炉の異常時の運転方法では、前記脱酸素剤は、ヒドラジン水和物であることが好ましい。
【0017】
(5)の沸騰水型原子炉の異常時の運転方法では、脱酸素作用の大きいヒドラジン水和物を用いることでより効率的に格納容器内の酸素濃度を下げることができる。
【0018】
(6)本発明の一実施形態に係る沸騰水型原子炉の異常時の運転方法では、前記注入ステップでは、前記格納容器内のサプレッションチェンバ下部に貯留されているサプレッションプール水にも前記脱酸素剤を注入することが好ましい。本運転方法では、直接的にヒドラジン水和物をサプレッションプールに直接注入する方法であるが、サプレッションチェンバ気相部にスプレイすることで、間接的にサプレッションプールにも落下することで、代替することでもよい。
【0019】
(6)の沸騰水型原子炉の異常時の運転方法は、格納容器内のサプレッションチェンバ下部に貯留されているサプレッションプール水に溶存する酸素をより確実に減らすことができ、沸騰水型原子炉の異常時の格納容器の破損を抑制することができる。
【0020】
前記脱酸素剤としてのヒドラジン水和物は、原子炉格納容器スプレイやサプレッションプール水を利用した原子炉圧力容器への注水の際に間接的に添加される場合、以下の利点を有している。
【0021】
ヒドラジン水和物は、加圧水型原子力発電所の原子炉圧力容器の炉心で水の放射線分解で水素と酸素が発生するが、酸素分を除去するために、プラント起動時の酸素除去剤としてヒドラジン水和物を添加させることが考えられる。このため、実績例が豊富にあることが利点である。ヒドラジン水和物は酸素と反応すると水と窒素に分解することから、悪影響がなく都合がよい。なお、ヒドラジン水和物は、熱分解で一部アンモニアや放射線分解により水素に分解される場合もあるが、原子炉の異常時運転の対応において問題とはならない。
【0022】
ヒドラジン水和物は、強度のガンマ線環境下においては、水の放射線分解で生じた酸素や生成された過酸化水素との反応が促進されることが考えられる。その要因としては、放射線によりヒドラジン水和物が放射線分解され、そのヒドラジンのラジカルと酸素との反応が継続する現象が見出されている。
【0023】
ヒドラジン水和物は、気相への注入において、ヒドラジン水和物を含む廃液を空気および酸素を向流または対流させることにより、処理することが考えられる。これにより気相中の酸素分とヒドラジン水和物をスプレイ状に噴射することにより、気相中の酸素と反応を促進させる。
【0024】
ヒドラジン水和物は、液相中への注入において、常温では溶存酸素との反応が鈍いことが知られている。そのため、注入する水の温度がある程度高温度でないと溶存酸素との反応が悪いことが知られている。これらを解消するため、ヒドラジン水和物と溶存酸素との反応を活性化させる触媒用の添加剤を混入してもよい。例えば銅イオンもしくは活性炭が触媒として最適である。原子力発電所では活性炭のような可燃物を格納容器に保管することは好ましくないため、添加剤は、例えば硫酸銅を極少量(例えば1ppm程度)添加するものでもよい。これは液相に限らず、気相に注入する場合も同様である。加えて銅は放射化されても短半減期であるため、都合がよい。
【0025】
ヒドラジン水和物は、液相中への注入において、外部注水で格納容器スプレイに海水を使用した場合、海水に含まれる塩類による脱酸素の影響は受けないことが知られている。そのため、淡水、海水に関わらず使用することが可能であり、加えて脱気処理されていない外部注水を使用しても、ヒドラジン水和物による脱酸素を図ることができ、注水の性状を改善することが可能となる。
【0026】
ヒドラジン水和物は、気相・液相中の注入において、放射性無機ヨウ素の除去効果もある。これは、原子炉が冷却水を失う過酷事故となった場合、崩壊熱および炉水と燃料集合体被覆管に用いられているジルコニウムとの反応による発熱酸化反応により、炉心が溶融し、核分裂生成物としてヨウ化セシウムが放出される。ヨウ化セシウムは水に可溶性である。また溶媒のpHは7以上であることが好ましいことが知られている。ヒドラジン水和物を添加することにより、不可逆的に水中に無機ヨウ素を保持する効果を有しており、ヨウ素除去剤として用いられており、過酷事故時には最適である。放射性ヨウ素が問題になるのは、原子炉格納容器が破損し、環境中に放射性ヨウ素が気体プルームで拡散された場合、広範囲で公衆への放射線による被曝が生じるおそれがあるからである。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、より確実に沸騰水型原子炉の異常時の格納容器の破損を抑制する沸騰水型原子炉の異常時の運転方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明の一実施形態に係る沸騰水型原子炉の原子炉格納容器周りの格納容器スプレイ系の一例を示す第一形態の模式図である。なお、本来であれば原子炉注水ラインも設置されているが、本図では格納容器スプレイおよび冷却ラインの説明が主となるため、本図では省略されている。
図2】本発明の一実施形態に係る脱酸素剤注入装置を示す模式図である。
図3】本発明の一実施形態に係る沸騰水型原子炉の原子炉格納容器周りの格納容器スプレイ系およびドライウェルサプレッションプール水pH制御系とヒドラジン水和物注入装置を構成する一例を示す第二形態の模式図である。
図4】本発明の一実施形態に係る沸騰水型原子炉の格納容器スプレイ系に係るハードウェア構成の一例を示すブロック図である。
図5】本発明の一実施形態に係る沸騰水型原子炉の異常時の運転制御の流れを示すフローチャートである。
図6】本発明の一実施形態に係る沸騰水型原子炉の異常時の運転制御のうちの脱酸素剤注入制御の流れの一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
<格納容器スプレイ系S>
以下、本発明の一実施形態に係る沸騰水型原子炉の異常時の運転方法が適用される沸騰水型原子炉の原子炉格納容器10周りの格納容器スプレイ系について、図1~4を用いて説明する。なお、本実施形態の沸騰水型原子炉の異常時の運転方法には、第一形態の可搬式の脱酸素剤注入装置40a~40fと第二形態の固定式の脱酸素剤注入装置41とが含まれ、これらを以下に説明する。また、図1、3において、一部配管を示す線を省略して記載している。また、省略した配管を示す線の端部に記号A~Hを表示しており、同じ表示が付された線の端部が接続されていることを示す。
【0030】
本実施形態に係る原子炉格納容器10周りの格納容器スプレイ系Sは、異常時に後述するサプレッションプール11a内の水を用いて、格納容器にスプレイを行い冷却させるための構成である。また、本実施形態に係る原子炉格納容器10周りの格納容器スプレイ系Sは、ヒドラジン水和物を代表とした脱酸素剤を添加し、より確実に沸騰水型原子炉の異常時の格納容器の破損を抑制するための構成である。
【0031】
格納容器スプレイ系Sは、図1、2に示す原子炉格納容器10と、格納容器にスプレイを行うためのスプレイライン20と、外部補給系31と、代替注水系32と、供給消火用水系33と、復水を冷却水として供給するための復水移送系34と、後述するサプレッションプール11a内の水を冷却する残留熱除去系35と、第一形態としての脱酸素剤注入装置40a~40fと、水素処理装置60と、図3に示す原子炉格納容器pH調整装置70と、格納容器雰囲気放射線モニタ80と、サプレッションプール浄化系ろ過脱塩装置90と、第二形態としての脱酸素剤注入装置41と、図4に示す制御装置50と、で構成される。
【0032】
スプレイライン20は、サプレッションプール11a内の水を用いて格納容器にスプレイするための構成である。外部補給系31は、スプレイライン20がサプレッションプール11aからの水を使用できない場合のバックアップ用の水を外部から補給するための構成である。
【0033】
代替注水系32は、スプレイライン20がサプレッションプール11aからの水が使用できない場合のバックアップの水源として用いられる。供給消火用水系33は、火災が発生した場合の消火用水を供給するための構成であり、非常時にスプレイライン20に接続してスプレイライン20がサプレッションプール11aからの水が使用できない場合のバックアップの水源として用いられる。復水移送系34は、復水として貯蔵している水をスプレイライン20がサプレッションプール11aからの水が使用できない場合のバックアップの水源として用いられる。
【0034】
残留熱除去系35は、サプレッションプール11a内の水を冷却させながら循環させる原子炉補機冷却水系35Aの水を冷却水とした残留熱除去系熱交換器35aと、スプレイライン20Aの配管に接続してスプレイライン20A内を循環する冷却水を冷却する原子炉補機冷却水系35Bの水を冷却水とした残留熱除去系熱交換器35aと、スプレイライン20Bの配管に接続してスプレイライン20Aを循環する冷却水を冷却する原子炉補機冷却水系35Cの水を冷却水とした残留熱除去系熱交換器35aと、を有する。なお、外部補給系31や代替注水系32、供給消火用水系33、復水移送系34の水源は、バックアップとしての用途以外にも用いることができる。詳細は、後述する。
【0035】
原子炉格納容器10は、原子炉圧力容器100を格納するための容器である。原子炉圧力容器100は、発電機と連結された蒸気タービンに送るための蒸気を発生させる容器である。原子炉圧力容器100は、内部に水を保持し、不図示の炉心燃料集合体の核分裂反応で発生する熱により水が沸騰して、高圧の蒸気が発生する。原子炉格納容器10は、原子炉圧力容器100を囲むようにドライウェル12と、サプレッションチェンバ11と、サプレッションプール11aと、によって構成される。
【0036】
原子炉格納容器10は、内部に少なくとも図3、4に示す酸素濃度計10aと、水素濃度計10bと、を有する後述する格納容器雰囲気放射線モニタ80が設けられ、原子炉格納容器10内部の酸素濃度および水素濃度等の格納容器雰囲気が確認可能となっている。酸素濃度計10aにより測定された酸素濃度は、後述する脱酸素剤注入装置40a~40f、41の注入動作の制御に用いられる。また、水素濃度計10bにより測定された水素濃度は、後述する水素処理装置60の水素処理動作の制御に用いられる。
【0037】
ドライウェル12は、原子炉格納容器10の内部のうちのサプレッションチェンバ11以外の部分である。
【0038】
サプレッションチェンバ11は、原子炉格納容器10の内部のうちのドライウェル12以外の部分である。サプレッションチェンバ11は、原子炉圧力容器100内が蒸気により圧力が高まった場合の圧力を抑制するために冷却する役割等がある。そのため、サプレッションチェンバ11の下部には、蒸気を冷却するためのサプレッションプール11aが形成される。
【0039】
サプレッションプール11aは、格納容器スプレイ系Sにおけるスプレイのための水源としても利用される。また、サプレッションプール11aは、内部に図3、4に示すようにpH計10cと、サプレッションプール水位計10dと、サプレッションプール温度計10eと、溶存酸素計10fが設けられる。pH計10cは、サプレッションプール11a内に溜められる水のpHを測定可能である。サプレッションプール水位計10dは、サプレッションプール11a内に溜められる水の水位を測定可能である。また、サプレッションプール温度計10eは、サプレッションプール内に溜められる水の水位を計測可能である。溶存酸素計10fは、サプレッションプール11a内の水に溶存する酸素濃度を測定可能である。
【0040】
スプレイライン20は、上述のように格納容器スプレイ系Sにおける格納容器へのスプレイを行うための構成である。具体的には、スプレイライン20は、サプレッションプール11a内の水を後述の配管35c、配管20c等を介してドライウェル12内、サプレッションチェンバ11内にスプレイする。
【0041】
図1において右側のサプレッションプール11a内に開口部から取水される冷却水をスプレイするための2つのスプレイライン20が示される。スプレイライン20は、スプレイ部20aと、残留熱除去ポンプ20bと、スプレイ用水路としての配管20cと、を有する。
【0042】
スプレイ部20aは、複数の格納容器スプレイヘッダ20a1と、複数のサプレッションチェンバスプレイヘッダ20a2と、を有する。格納容器スプレイヘッダ20a1は、ドライウェル12の上部の側面に設けられ、後述する配管20cから送水された水をドライウェル12の上部に散布する。サプレッションチェンバスプレイヘッダ20a2は、サプレッションチェンバ11の上部の側面に設けられ、後述する配管20cから送水された水をサプレッションチェンバ11の上部に散布する。
【0043】
残留熱除去ポンプ20bは、後述する配管35cにおいてサプレッションプール11aと残留熱除去系熱交換器35aとの間に配置され、サプレッションプール11a内の水をスプレイ部20aまたはサプレッションプール11aへ送水する。
【0044】
配管20cは、一端部が後述する配管35cと接続し、他端部がスプレイ部20aの格納容器スプレイヘッダ20a1もしくはサプレッションチェンバスプレイヘッダ20a2に連通する。ここで、配管35cは、残留熱除去系35に含まれる。配管35cは、図1に示すように複数の弁と残留熱除去ポンプ20bを介してサプレッションプール11a内の水を循環させるための構成である。配管35cは、一端部にサプレッションプール11aの下部に開口する排出口35c2が設けられる。配管20cは、配管20c内を流通する水の量を調整する弁を複数有する。
【0045】
外部補給系31は、原子炉設備の外部から格納容器スプレイ系Sへの水の補給を行うための構成である。外部補給系31は、大量送水車31aと、海水取水部31bと、淡水貯水槽31cと、地上式淡水タンク31dと、ホース31eと、外部接続口31fと、配管31gと、を有する。
【0046】
大量送水車31aは、ホース31a1を有し、後述の海水取水部31b、淡水貯水槽31c、地上式淡水タンク31dからホース31a1により水を吸引し、ホース31eを介して外部接続口31fへ送水を行うための構成である。大量送水車31aは、ホース31eに接続可能なポンプを有するトラックである。
【0047】
海水取水部31bは、海水を取水可能な設備であり、前述のホース31a1を接続可能である。淡水貯水槽31cは、雨水を貯水する水槽であり、前述のホース31a1と接続可能である。地上式淡水タンク31dは、淡水を貯水する水槽であり、例えば淡水貯水槽31cから移送された水や消火系からの水を貯水する。また、地上式淡水タンク31dは、前述のホース31a1と接続可能である。
【0048】
ホース31eは、上述のように格納容器スプレイ系Sへ補給する水をするための構成である。ホース31eは、図1における点線部分である。ホース31eは、常設されておらず、格納容器スプレイ系Sへのバックアップ使用時に、海水取水部31bおよび淡水貯水槽31cおよび地上式淡水タンク31dの少なくとも1つと接続された大量送水車31aと外部接続口31fとの間に接続される。
【0049】
外部接続口31fは、ホース31eと後述の配管31gとを接続するための構成である。配管31gは、海水取水部31b、淡水貯水槽31c、地上式淡水タンク31dから格納容器スプレイ系Sへ補給される水が流通する。配管31gは、一端部が外部接続口31fと接続され、他方がスプレイライン20のうちの残留熱除去系35との接続部分とスプレイ部20aとの間の部分に接続される。
【0050】
代替注水系32は、格納容器スプレイ系Sに異常があった場合のバックアップとして注水を行うための構成である。代替注水系32は、代替注水槽32aと、残留熱代替除去ポンプ32bと、配管32cと、を有する。
【0051】
代替注水槽32aは、外部に設けられた水槽である。残留熱代替除去ポンプ32bは、後述する配管20cの一部に設けられ、代替注水槽32aに接続され代替注水槽32a内の水を、配管32cを介してスプレイ部20aに送水する。
【0052】
配管32cは、代替注水槽32a内の水をスプレイ部20aに流通するための構成である。配管32cは、一端部が代替注水槽32aに連通し、他端部が、複数の格納容器スプレイヘッダ20a1と、複数のサプレッションチェンバスプレイヘッダ20a2またはサプレッションチェンバ11の側面に開口する排出口20c2またはドライウェル12の下部に開口する排出口20c3とに接続される。
【0053】
供給消火用水系33は、火災発生時の消火用水を保持するための構成である。また、プラントが過酷事故となった場合に、原子炉へ冷却水を供給する機能も有する。供給消火用水系33は、消火用水タンク33aと、消火ポンプ33bと、配管33cと、を有する。消火用水タンク33aは、消火用水を溜めるためのタンクである。消火ポンプ33bは、配管33cの途中に設けられる。消火用水タンク33a内の消火用水を、配管33cを介して消火用ホース等に送水する。配管33cは、一端部が消火用水タンク33aと連通し、他端部には消火用ホース等と接続可能な接続部が形成されている。なお、配管33cは、図1が示すように配管32cに電動弁を介して接続され、格納容器スプレイヘッダ20a1と、複数のサプレッションチェンバスプレイヘッダ20a2またはサプレッションチェンバ11の側面に開口する排出口20c2またはドライウェル12の下部に開口する排出口20c3とに接続される。
【0054】
復水移送系34は、貯蔵している復水用の水を供給するための構成である。復水移送系34は、復水貯蔵タンク34aと、復水移送ポンプ34bと、配管34cと、を有する。復水貯蔵タンク34aは、復水を貯蔵するタンクである。復水移送ポンプ34bは、復水貯蔵タンク34a内の復水用水を、配管34cを介してスプレイライン20のスプレイ部20aに送水する。配管34cは、一端部が復水貯蔵タンク34aと連通し、他端部が配管35bに電動弁を介して排出口20c2に接続され、または配管32cに電動弁、または配管31gに手動弁を介して接続され、格納容器スプレイヘッダ20a1と、複数のサプレッションチェンバスプレイヘッダ20a2またはサプレッションチェンバ11の側面に開口する排出口20c2またはドライウェル12の下部に開口する排出口20c3とに接続される。
【0055】
残留熱除去系35は、発電所の電源喪失時等に別途非常用ディーゼル発電機(図示なし)や非常用高圧母線電源(図示なし)により稼働し、サプレッションプール11a内の水の冷却および格納容器スプレイのための構成である。
【0056】
後述する原子炉補機冷却水系35Aは、発電所の電源喪失時等に別途非常用ディーゼル発電機(図示なし)や非常用高圧母線電源(図示なし)により再稼働され、残留熱除去系35の残留熱除去系熱交換器35aの冷却水として供給される。後述する原子炉補機冷却水系35B、35Cも同様である。
【0057】
残留熱除去系35は、原子炉補機冷却水系35Aと、残留熱除去系熱交換器35aと、配管35bと、配管35cと、残留熱除去ポンプ35dと、を有する。残留熱除去系熱交換器35aは、サプレッションプール11a内の水を冷却する装置である。残留熱除去系熱交換器35aは、後述する配管35bの途中の部分に設けられる。
【0058】
また、配管35bは、両端部が後述の配管35cの途中の部分と接続され、配管35bの途中の部分に残留熱除去系熱交換器35aが設けられている。また、配管35bは、両端部と残留熱除去系熱交換器35aとの間に弁が設けられ、電源喪失時等の異常時に別途非常用ディーゼル発電機(図示なし)やその他非常用高圧母線電源装置(図示なし)から電源を供給され、弁が開くように制御することができる。
【0059】
また、配管35cは、一端部に設けられた開口部35c1と他端部に設けられた排出口35c2とがサプレッションプール11a内に連通する。配管35cは、配管35bとの接続部分と開口部35c1との間に残留熱除去ポンプ35dが設けられている。残留熱除去ポンプ35dは、開口部35c1からサプレッションプール11a内の水を吸引して配管35c内に流通させるための装置である。
【0060】
残留熱除去系35は、原子炉補機冷却水系35B、35Cと、配管35cと、原子炉補機冷却水系35Aと同様に残留熱除去系熱交換器35aと、配管35bと、を有する。原子炉補機冷却水系35B、35Cの配管35bは、両端部がスプレイライン20の配管20cと接続された配管35cの途中の部分と接続され、スプレイライン20を流通する冷却水を冷却するように配置される。
【0061】
水素処理装置60は、例えば可燃性ガス制御系による再結合反応を利用した水素低減装置である。この場合の水素処理装置60は、原子炉格納容器10内の水素等の可燃性ガスを吸引する不図示のブロワと、吸引した可燃性ガスを加熱する不図示の電気加熱器と、加熱した可燃性ガス中の水素と酸素を再結合させる不図示の再結合器を有し、吸引した水素と酸素を結合して原子炉格納容器10内に戻す。
【0062】
なお、他には上述した気相部の窒素・酸素・水素・水蒸気の混合ガス中から水素を酸化処理反応によって低減する処理剤を有する水素処理装置と、を有する水素処理システムでもよい。その他、上述した例で示したが、水素処理の方法はこれに限らない。また、原子力発電所の事故の進展に従って、水素処理の手段を選択し、用いてもよい。例えば、可燃性ガス制御系による方法は、再結合器の性能を発揮するため暖機運転に時間がかかるため、より即応性のある他の適切な水素処理装置を用いてもよい。水素処理装置60は、図1において一端部がドライウェル12の上部の壁面に開口し、他端部がサプレッションチェンバ11の上部の壁面に開口する配管の途中の部分に設けられる。
【0063】
<第一形態の脱酸素剤注入装置>
本実施形態に係る格納容器スプレイ系Sには、車両に搭載され、脱酸素剤が内部に貯蔵されたタンクを有する第一形態としての可搬式の脱酸素剤注入装置40a~40fと、が含まれる。脱酸素剤注入装置40a~40fが配置される。本実施形態に係る格納容器スプレイ系Sでは、バックアップ用として使用されるスプレイライン20以外の系統にも脱酸素剤を注入できるように脱酸素剤注入装置40b~40fが配置されている。以下、脱酸素剤注入装置40a~40fは、特に区別する必要がない場合、脱酸素剤注入装置として説明する。
【0064】
脱酸素剤注入装置40aは、スプレイライン20B、20Cと接続する残留熱除去系35の配管35cの途中の部分に接続可能であり、スプレイライン20B、20Cと接続する残留熱除去系35の配管35c内に脱酸素剤としてのヒドラジン水和物を注入可能である。なお、脱酸素剤は、ヒドラジン水和物に限らない。
【0065】
脱酸素剤注入装置40bは、外部補給系31のホース31eの途中の部分に接続可能であり、外部補給系31のホース31e内に脱酸素剤を注入可能である。
【0066】
脱酸素剤注入装置40cは、代替注水系32の配管32cの途中の部分に接続可能であり、代替注水系32の配管32c内に脱酸素剤を注入可能である。
【0067】
脱酸素剤注入装置40dは、供給消火用水系33の配管33cの途中の部分に接続可能であり、供給消火用水系33の配管33c内に脱酸素剤を注入可能である。
【0068】
脱酸素剤注入装置40eは、復水移送系34の配管34cの途中の部分に接続可能であり、復水移送系34の配管34c内に脱酸素剤を注入可能である。
【0069】
脱酸素剤注入装置40fは、残留熱除去系35の配管35cの途中の部分に接続可能であり、残留熱除去系35の配管35c内に脱酸素剤を注入可能である。
【0070】
次に、第一形態としての可搬式の脱酸素剤注入装置の詳細について、図2に示される脱酸素剤注入装置40aの例を用いて説明する。図2は、本発明の一実施形態に係る脱酸素剤注入装置40aを示す模式図である。脱酸素剤注入装置40aは、可搬台車400と、ヒドラジン水溶液タンク410と、窒素ボンベ420と、を有する。
【0071】
可搬台車400は、本体404に根元が接続された取手部401と、ヒドラジン水溶液タンク410の外周をガイド可能に本体404の側面に設けられた複数のガイド部402と、本体404に回転可能に支持された複数の車輪403と、本体404と、を有する。
【0072】
また、ヒドラジン水溶液タンク410は、ベント管411と、ヒドラジン水溶液投入口412と、液位計413と、が設けられている。
【0073】
ベント管411は、ヒドラジン水溶液タンク410の内部の空気を排出するために使用される。ベント管411は、一端部に開口する開口部を開閉可能なベント管蓋411aが回動可能に支持されている。ヒドラジン水溶液投入口412は、ヒドラジン水溶液を補充するために設けられ、ヒドラジン水溶液タンク410の上部に形成された大きな開口部である。なお、ヒドラジン水和物は、劇物であるため、容器にヒドラジン水溶液を充填する場合にベント管411とベント管蓋411aからヒドラジン水和物由来のガスが外部に放出されるため、その場合には別途安全に処理できる装置(例えば水置換装置等)とベント管411とベント管蓋411aを接続することが好ましい。
【0074】
液位計413は、ヒドラジン水溶液タンク410内のヒドラジン水溶液の液位の計測器である。また、窒素ボンベ420は、ヒドラジン水溶液タンク410内に酸素が侵入しないようにヒドラジン水溶液タンク410内に充填するための窒素を保管する。
【0075】
また、脱酸素剤注入装置40aには、ヒドラジン水溶液タンク410内のヒドラジン水和物を格納容器スプレイ系Sに注入するための流量計430と、電動止め弁431aと、電動止め弁431aと直列に配置される調節弁431bと、中空部材としての注入ホース432と、が設けられる。
【0076】
調節弁431bと電動止め弁431aを直列に接続し、誤注入防止のため、注入開始時に別途遠隔で電動止め弁431aを開放し、調節弁431bにより注入流量を制御する。
【0077】
なお、電動止め弁431aと調節弁431bとを併用した注入弁としても良い。この場合、注入弁は、後述するように制御装置50からのヒドラジン水和物の注入流量を調節する弁として、制御信号を受信して調節する調節弁タイプとしてもよい。ただし、この場合は、調節弁はその構造上完全閉止ができず、リークパス等の弁がすくことがあるため、電動止め弁431aと調節弁431bとを直列に配置することが好ましい。
【0078】
また、調節弁431bと手動止め弁(図示なし)を直列に接続し、誤注入防止のため、注入開始時に別途人力で手動止め弁を開放し、調節弁431bにより注入流量を制御することでもよい。
【0079】
また、格納容器スプレイ系Sの配管35cには、図2の例では、注入ホース432を差し込むためのエダクタ440が設けられる。また、エダクタ440は、脱酸素剤注入装置40a~40fのいずれの注入ホース432も接続可能であることが好ましい。
【0080】
<第二形態の脱酸素剤注入装置>
以下、第二形態の脱酸素剤注入装置について、図3を用いて第二形態を説明する。
【0081】
本実施形態に係る格納容器スプレイ系Sの脱酸素剤注入装置の第二形態は、サプレッションプール内のpH調整を行う系統に、ヒドラジン水和物用のタンクを設け、窒素ガスで圧送し、サプレッションプール11aへ注入するものである。図3に示すように、原子炉格納容器10周りには、原子炉格納容器10内への薬注ラインとしての原子炉格納容器pH調整装置70が設けられ、原子炉格納容器pH調整装置70は、後述する配管70hと電動弁等を介してスプレイライン20Aおよび20Bに連通している。
【0082】
本実施形態に係る原子炉格納容器pH調整装置70は、図3に示すように、pH調整用薬液タンク70aと、圧送用窒素ボンベ70bと、一端部が圧送用窒素ボンベ70bに連通し、他端部がpH調整用薬液タンク70aに連通する配管70cと、配管70cの中間部分に設けられた窒素ガス供給弁70dと、pH調整薬液の流通量を調整する薬液タンク出口弁70eと、一端部がpH調整用薬液タンク70aに連通し、他端部が薬液タンク出口弁70eと連通する配管70fと、後述する配管70hの中間に配置され、複数の弁からなる薬剤注入弁部70gと、一端部が薬液タンク出口弁70eに連通し、他端側がスプレイライン20Aおよびスプレイライン20Bに連通する配管70hと、を有する。
【0083】
第二形態としての脱酸素剤注入装置41は、ヒドラジン水和物タンク41aと、圧送用窒素ボンベ41bと、一端部が圧送用窒素ボンベ41bに連通し、他端部がヒドラジン水和物タンク41aに連通する配管41cと、配管41cの中間部分に設けられた窒素ガス供給弁41dと、ヒドラジン水和物の流通量を調整する薬液タンク出口弁41eと、一端部がヒドラジン水和物タンク41aに連通し、他端部が薬液タンク出口弁41eと連通する配管41fと、一端部が薬液タンク出口弁41eと連通し、他端部が原子炉格納容器pH調整装置70の配管70hに連通された配管41gと、を有する。このように第二形態の脱酸素剤注入装置41は、原子炉格納容器pH調整装置70へ付加する形で設けられる。
【0084】
計装空気供給部110は、制御弁の駆動や流量計等の計装機器に使用される圧縮空気である計装空気を供給するための構成である。計装空気供給部110は、計装用空気ボンベ110aと、計装用空気ボンベ110a内の流通量を調整する空気供給電磁弁110bと、一端部が計装用空気ボンベ110aに連通し、他端部が空気供給電磁弁110bに連通する配管110cと、窒素ガス供給弁70d、41d等の制御弁に連通する配管110dと、を有する。
【0085】
次に、格納容器雰囲気放射線モニタ80は、図3に示すように、ドライウェル12およびサプレッションチェンバ11の内部の空気を流通させ、計測を行う。格納容器雰囲気放射線モニタ80は、図4に示すように内部に酸素濃度計10aと、水素濃度計10bと、を有し、流通された空気の酸素濃度および水素濃度を測定可能である。
【0086】
サプレッションプール浄化系ろ過脱塩装置90は、図3に示すようにサプレッションプール11a内の水質を維持や不純物等の除去を行う装置である。サプレッションプール浄化系ろ過脱塩装置90は、フィルタ等を有する装置本体90aと、一端部はサプレッションプール11a内に形成された吸引口90b1に連通し、他端部はサプレッションプール11a内に形成された排出口90b2に連通する配管90bと、配管90bのうち吸引口90b1と装置本体90aとの間の配管90bと接続される吸引ポンプ90cと、を有する。
【0087】
次に、本発明の一実施形態に係る格納容器スプレイ系Sの制御装置50の一例について、図4を用いて説明する。制御装置50は、格納容器雰囲気放射線モニタ80の酸素濃度計10aおよび水素濃度計10bと、脱酸素剤注入装置40aの流量計430および液位計413および注入弁としての電動止め弁431aと調節弁431bと、水素処理装置60と、サプレッションプール11a内のpH計10cおよびサプレッションプール水位計10dおよびサプレッションプール温度計10eおよび溶存酸素計10fと、原子炉格納容器pH調整装置70と、サプレッションプール浄化系ろ過脱塩装置90と通信可能に接続されている。また、制御装置50は、脱酸素剤注入装置40a~40fおよび41や水素処理装置60の動作を制御する。また、原子炉格納容器pH調整装置70と、サプレッションプール浄化系ろ過脱塩装置90は、運転員により手動起動および制御される。制御装置50は、制御部51と、入力部52と、出力部53と、記憶部54と、電源部55と、有する。
【0088】
次に、制御部51は、プロセッサ等を有し、プロセッサが演算処理を実行することにより各種の動作の制御が実現される。なお、制御部の構成は、これに限らない。
【0089】
入力部52および出力部53は、有線または無線により電気的に不図示の入出力インターフェースに接続されるユーザインターフェースである。入力部52は例えば制御装置50の操作ボタンやキーボード等によって構成され、出力部53は、制御装置50の操作のための画像を表示するモニタ53aや警告音等の音声を拡声するブザー53b等によって構成される。なお、入力部52および出力部53は、タッチパネルのように表示機能と入力機能が一体的な構成であってもよい。
【0090】
また、記憶部54は、例えば、不揮発性メモリであるROMや、揮発性メモリであるRAM等によって構成される主記憶装置と、磁気ディスク、光ディスク、光磁気ディスク、或いは半導体メモリ等で構成される補助記憶装置と、によって構成される。本実施形態に係る記憶部54には、酸素量制御のための閾値情報やドライウェル12やサプレッションプール11aの容積情報等、水温に対する溶存酸素量の関係図情報等が記憶されている。
【0091】
電源部55は、不図示の電源回路を介して、制御装置50に電力を供給可能である。
<沸騰水型原子炉の異常時の運転制御>
【0092】
次に、沸騰水型原子炉の異常時の運転方法が適用された沸騰水型原子炉の異常時の運転制御について、図5を用いて説明する。沸騰水型原子炉の異常とは、例えば沸騰水型原子炉における全電源が喪失する状況を示す。
【0093】
制御装置50の制御部51は、水素処理装置60を起動可能な状態で、原子炉格納容器10の水素濃度計10bにより水素濃度が上昇した場合に、沸騰水型原子炉の異常時の運転制御を開始する。なお、同じタイミングで常設代替電源復帰後、スプレイライン20による原子炉格納容器10へのスプレイを実施する。
【0094】
なお、起動のタイミングは原子炉格納容器スプレイ起動および水素処理装置60を起動してから、脱酸素剤注入装置を起動することが望ましい。理由は、水素処理装置60に酸化金属を利用した水素の酸化反応を利用した水素処理装置の場合、先に脱酸素剤注入装置を起動すると、脱酸素剤であるヒドラジン水和物が水素処理装置に混入し装置の酸化金属を還元してしまい、水素の処理能力低下となるおそれが生じるためである。
【0095】
ちなみに、水素処理装置で可燃性ガス制御系を使用可能な場合は、脱酸素剤注入装置の起動はしなくてもよい。理由は、可燃性ガス濃度制御系は、原子炉格納容器10内の水素・酸素を再結合させる方式であり、装置による酸素低減が不必要であるからである。
【0096】
まず、制御部51は、原子炉格納容器10内の水素量制御を行う(ステップSA10)。水素量制御は、原子炉格納容器10内の水素濃度計10bの検知結果に基づいた水素処理装置60の動作の起動と停止の制御である。制御部51は、原子炉格納容器10内の水素濃度が設定される可燃領域に達しないように水素量制御により水素量を低減させる。設定される制御値としての可燃領域は、例えば4%以上が好ましい。
【0097】
次に、制御部51は、原子炉格納容器10内の酸素量制御を行う(ステップSA11)。酸素量制御は、原子炉格納容器10内の酸素濃度計10aの検知結果に基づいた脱酸素剤注入装置の注入動作の起動と停止の制御である。制御部51は、原子炉格納容器10内の酸素濃度が設定される閾値内となるように脱酸素剤の注入量を制御する。閾値の上限値は、水素の燃焼防止のために設定され、例えば4%が好ましい。また、閾値の下限値は、有機ヨウ素発生低減のために設定され、例えば2%が好ましい。
【0098】
ここでいう有機ヨウ素は、例えば核分裂により生じた放射性ヨウ素と、サプレッションプール11aの塗料であるエポキシ樹脂が放射線を浴びて生じたメチル基等の有機ラジカルと、が結合して生じた放射性のヨードメタンである。有機ヨウ素は、水に溶けにくいため気相中にとどまり易く格納容器フィルタベント等を行った際には微量ながら外部に放出される可能性があるため、その発生を低減する必要がある。このような有機ラジカルは、酸素と反応するため、本実施形態では、気相中の酸素濃度の閾値下限値が設けられ、一定程度の酸素を気相中に残し有機ヨウ素の発生を抑えるようにしている。
【0099】
酸素量制御は、沸騰水型原子炉の異常時の運転制御のサブルーチンであり、沸騰水型原子炉の異常時の運転制御において呼び出されて実行される。酸素量制御の詳細については、後述する。
<酸素量制御>
【0100】
次に、図5のステップSA11における酸素量制御について、図6を用いて説明する。また、酸素量制御は、上述のように沸騰水型原子炉の異常時の運転制御の一部の処理であり、図5のステップSA11のタイミングにおいて処理が開始される。
【0101】
まず、制御部51は、原子炉格納容器10内の酸素濃度計10aから酸素濃度情報を取得する(ステップSB10)。次に、制御部51は、取得した酸素濃度情報から酸素濃度が2%超かつ4%未満であるか否かを確認することによりヒドラジン水和物を注入するか否かを決定する(ステップSB11)。本実施形態では、酸素濃度が4%超の場合にヒドラジン水和物を注入することを決定する設定としている。
【0102】
注入条件インターロックとして、格納容器にスプレイを行うためのスプレイライン20にスプレイ水を流通させる、外部補給系31と、代替注水系32と、供給消火用水系33と、復水を冷却水として供給するための復水移送系34のいずれかが運転され、格納容器スプレイヘッダ20a1と、複数のサプレッションチェンバスプレイヘッダ20a2が開放されていること、またはサプレッションチェンバ11の側面に開口する排出口20c2が開放されていることを起動条件にすることでもよい。
【0103】
酸素濃度が4%超である場合(ステップSB11:NO)、制御部51は、取得した酸素濃度情報に応じてヒドラジン水和物の注入量を決定する(ステップSB12)。ステップSB12においてヒドラジン水和物の注入量を決定する具体的な手順の例を、以下に述べる。
【0104】
具体的には、ヒドラジンと酸素は以下の式(1)により反応するため、取得した酸素濃度情報に応じて、低減させる酸素濃度xmol/Lを求める。次に、注入するヒドラジン水和物がxmol/Lとなるように、原子炉格納容器10のドライウェル12とサプレッションチェンバ11容積を合わせた合計気相部の酸素量およびサプレッションプール液相部の酸素量との合計から、投入するヒドラジン水和物の量を決定する。
【0105】
次に、気相部のヒドラジン注入量の演算について説明する。ドライウェル12およびサプレッションチェンバ11は密閉容器のため、あらかじめ容積量が決定されている。そのため、酸素濃度計10aから単位体積当たりの百分率で示される酸素濃度とドライウェル12およびサプレッションチェンバ11の容積を積することにより、酸素体積が決定される。酸素体積は、ドライウェル12およびサプレッションチェンバ11の容積のうち酸素が占める体積である。酸素体積を1モル単位体積当たりのモル量に変換することにより、酸素量が決定される。
一般的な化学式は以下のとおりである。
【化1】
注入量の決定は、以上の化学式から酸素1mol/Lに対して、ヒドラジン水和物1mol/Lでの反応であるが、ヒドラジン水和物の注入量は実用上2倍程度が望ましい。そのため実注入量は、演算値の2倍として出力する。これは、気相部および液相部も同様である。
【0106】
次に、液相部のヒドラジン注入部の演算について説明する。
【0107】
サプレッションプール容積については、サプレッションプール水位計10dから、水体積を導くものとする。演算された水容積と、サプレッションプール温度計10eから水温度を演算し、水温度と溶存酸素量の関係図およびサプレッションプール水体積から水中の溶存酸素のモル量を演算する。水体積と当該温度の単位体積当たりの溶存酸素濃度を積し、溶存酸素量を決定する。
【0108】
一般的に水の温度は上昇すると、水中に溶存された気体は気相部へ移行するため、温度を関数とした溶存酸素量を演算し、ヒドラジン水和物注入量に加算演算する。
【0109】
以上、気相部と液相部の必要ヒドラジン水和物量を合計演算し、必要注入量として演算する。
【0110】
次に、注入流量であるが、ヒドラジン水和物の注入は起動開始から目安として初期目標量を注入し、酸素濃度が4%以上にならないように制御し注入するが、過酷事故の進展により、酸素の発生量やヒドラジン水和物との反応速度が変化し、それに伴い必要とされるヒドラジン水和物の注入量は変化する可能性がある。
【0111】
また、原子炉圧力容器100からの蒸気がサプレッションプール水に放出されると水温が上昇し、水中に存在する溶存酸素量が変化することや、外部水源からの脱気処理されていない冷却水が格納容器内にスプレイされた場合の酸素濃度の上昇も考慮されるため、初期で演算されたヒドラジン量に対して過不足が生じる可能性がある。そのため、酸素濃度4%超過時に単位時間当たりの4%超過分の酸素モル偏差分に対しての、ヒドラジン水和物の注入モル量を演算し、注入を行うものとする。
【0112】
なお、酸素とヒドラジン水和物の反応に伴い、酸素量が低減するため、演算回路に酸素濃度計10aの信号と、サプレッションプール水位計10dの信号と、サプレッションプール温度計10eの信号を制御部51にフィードバックし、目標範囲に近づけるように適宜比例積分動作によりヒドラジン水和物の注入量を制御するものとする。制御目標を酸素4%としているが、4%を切ったら注入は停止し、待機とする。これは、注入後の反応に要する時定数や制御遅れの影響を考慮し、4%から2%の間で維持できるように調整できれば可とするためである。
【0113】
ヒドラジン水和物の保有量については、これらの制御を遂行する上でも余裕がある容量とする。
【0114】
次に、脱酸素剤注入装置40aの電動止め弁431aと調節弁431bに指令して決定した注入量のヒドラジン水和物を配管35cへ注入をさせる(ステップSB13)。
【0115】
即ち、ステップSB13では、可搬台車400に搭載され、ヒドラジン水和物が内部に貯蔵されたヒドラジン水溶液タンク410から、スプレイライン20およびスプレイライン20以外の補給用の水路のうち少なくとも一方に接続可能な注入ホース432を介して、ヒドラジン水和物を注入する。補給用水路は、例えば冷却水補給系30と、外部補給系31と、代替注水系32と、供給消火用水系33と、復水移送系34と、残留熱除去系35である。また、残留熱除去系35は、ステップSB13では、原子炉格納容器10内のドライウェル12の下部であるサプレッションプール11aに溜まる水にもヒドラジン水和物を注入する。
【0116】
次に、制御部51は、原子炉格納容器10内の酸素濃度計10aから酸素濃度情報を取得し(ステップSB14)、処理をステップSB10に移行させる。これを酸素濃度が規定範囲内に入るまで継続する。
【0117】
一方、ステップSB11において、酸素濃度が4%超または2%未満ではない場合(ステップSB11:YES)、処理をメインルーチンの沸騰水型原子炉の異常時の運転制御のステップSA12に移行させ、サブルーチンの酸素量制御が終了する。
【0118】
なお、本実施形態では、上述のように水素処理装置60が可燃性ガス制御系による水素処理を行う構成であるため、ステップSA10において水素処理装置60が使用できた場合は、制御部51は、本制御を行わなくても良い。
【0119】
次に、原子炉格納容器pH調整制御について述べる。サプレッションプール水のpHは7以上であれば、放射性無機ヨウ素の水中保持に好都合であり、これらを保つように制御すればよい。サプレッションプールpH計10cの測定結果に基づき、適正なpHとなるように原子炉格納容器pH調整装置70の運転員による手動起動および制御が行われる(ステップSA12、ステップSA13)。原子炉格納容器pH調整剤は、例えば水酸化ナトリウムの注入によって行われる。ドライウェル12やサプレッションプール11aへのpH調整剤の注入は、図3に示される薬注ラインとしての原子炉格納容器pH調整装置70から行われる。ヒドラジンは弱アルカリ性であるため、サプレッションプール水のpHをアルカリ側に作用する。
【0120】
過酷事故において格納容器内における酸性物質は、酸性の核分裂生成物としてよう素水素、水中の溶存窒素由来の硝酸、電気ケーブル被覆材の分解による塩酸等があり、塩基性物質としては、塩基性の核分裂生成物としての水酸化セシウムがある。また、電気ケーブル被覆材として用いられるクロロブレンゴムがあり、放射線分解もしくは熱分解すると大量の塩酸が発生する。
【0121】
以上から過酷事故に伴う各種物質がサプレッションプールに溶け込むことで、pHは酸性側に推移する可能性がある。ヒドラジン水和物の注入による効果だけではアルカリ性が保てない場合は、運転員がpH計10cを確認し、pHを7以上に保つよう水酸化ナトリウムを注入することで手動制御する。
【0122】
なお、脱酸素注入装置起動後、事故事象進展によりその他の要因により格納容器フィルタベント装置の起動が不可避である場合、運転員による手動操作により、2時間以内に原子炉格納容器pH調整装置70で残り全量の水酸化ナトリウムを注入する。制御装置50のpH計10cを確認し、サプレッションプール11a内の水のpHが適正になったタイミングで、運転員による操作により本制御が終了する。
【0123】
なお、格納容器フィルタベントに伴うpH調整は水酸化ナトリウムを全量注入すると8.5~11程度になる容量である。pH制御は、前記した放射性無機ヨウ素の水中への捕捉、格納容器フィルタベント装置(図示なし)起動時による格納容器フィルタベント装置フィルタへの放射性ヨウ素の過度な移行防止、事故後の構造物の腐食防止を目的とする。
【0124】
事故終息後、サプレッションプール水の水質調整および放射性物質の除去に伴う原子炉格納容器10内の水の浄化を行うサプレッションプール水質制御を行う場合は、サプレッションプール浄化系ろ過脱塩装置90を手動起動および制御し、サプレッションプール11aの水質調整および放射性物質等の不純物の除去をすることでもよい(ステップSA14、ステップSA15)。
【0125】
なお、事故後のpHは水酸化ナトリウムの影響により、アルカリ性が保たれていると考えられるが、別途水質の調整および放射性物質等の不純物の除去が必要な場合は通水することでもよい。その場合、サプレッションプール浄化系ろ過脱塩装置90の脱塩能力に負荷がかかるため、別途仮設の塩類除去装置(図示なし)、イオン交換樹脂塔(図示なし)、キレート樹脂塔(図示なし)、前記組み合わせを直列または並列にサプレッションプール浄化系ろ過脱塩装置90に追設し、手動起動および制御することでもよい。
【0126】
ここで、原子力発電所において、全電源喪失や異常な過渡変化を発端とした異常事象が発生し、原子炉水位が異常に低下する等の過酷事故へ進展した場合、崩壊熱およびジルコニウム水反応による発熱により炉心が損傷する可能性がある。具体的には溶融炉心が下部プレナムへ落下し、原子炉圧力容器が破壊され、下部ドライウェルに溶融炉心が落下する可能性がある。その際、金属-水反応、MCCI(Molten Core Concrete Interaction)と呼ばれる溶融炉心のコンクリート相互作用により、水素や二酸化炭素の発生および水の放射線分解に伴う水素・酸素が発生する。
【0127】
また、大量に発生した水素により原子炉格納容器が加圧破損するリスクがある。また、原子炉棟へ原子炉格納容器の水素が漏洩する可能性がある。
【0128】
可燃領域4%以上の水素と可燃領域5%以上の酸素が発生すると爆轟し、原子炉格納容器が過圧破損するリスクがある。そのため、従来では、水素・酸素ガスが発生した場合は、可燃性ガス制御系による再結合反応を利用した処理や、窒素ガスを原子炉格納容器内に封入し、不活性化および希釈することによって、水素燃焼を防ぐものとしていた。
【0129】
しかし、本発明の一実施形態に係る沸騰水型原子炉の異常時の運転方法は、沸騰水型原子炉の異常時の運転方法であって、原子炉圧力容器100内の酸素濃度を測定する測定ステップSB10と、前記測定ステップで測定した前記酸素濃度に基づいて前記圧力容器内にスプレイされる冷却水への脱酸素剤の注入を実行するか否かを決定する注入実行決定ステップSB11と、前記注入実行決定ステップで前記冷却水への前記脱酸素剤の注入の実行が決定された場合に、前記冷却水に前記脱酸素剤を注入する注入ステップSB13と、を含む。これにより、より確実に水素と酸素による爆発を抑制することができる。
【0130】
[変形例]
なお、本発明は、上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
【0131】
また、本実施形態に係る格納容器スプレイ系Sにおける脱酸素剤注入装置は、ポンプ吸込み側に配置されているが、これに限らず、ポンプ吐出側に配置しても良い。
【0132】
本実施形態は、沸騰水型原子炉の異常時の運転方法による脱酸素注入装置とその制御方法について述べたが、沸騰水型原子炉の通常時の運転中に、サプレッションプール水に脱酸素剤を注入することによって、あらかじめ原子炉格納容器内の酸素濃度低減を図ることでもよい。
【0133】
通常運転中の沸騰水型原子炉の格納容器には水素燃焼を防止する観点から不活性ガスである窒素ガスが封入されており、酸素濃度は1~2%程度の濃度に保たれている。そのため、サプレッションプール水にあらかじめ脱酸素剤を注入することにより、水中の酸素濃度を未飽和状態とすることによって、液相から気相への酸素移行の防止と、酸素の気液界面から溶け込みを期待して、気相部の酸素濃度の上昇の抑制を図ってもよい。これは、沸騰水型原子炉の保安規定にも格納容器内の酸素濃度の運転上の制限が設けられており、これを遵守するための一方策としても利用ができる。
【0134】
酸素と反応するとヒドラジン水和物は分解消費されるため、別途、サプレッションプール水中の残存ヒドラジン量を測定するため、サプレッションプール水pH計による管理または手動もしくは自動のサンプリング装置によるヒドラジンの定量を観測することにより、注入量を決定してもよい。
【0135】
同様に、沸騰水型原子炉のプラント起動時における窒素ガス封入による格納容器内ガス置換作業において、前記した酸素ガス濃度を限りなく低くするため、換気時間および窒素ガス封入量を多くした場合、プラント起動時間がそれだけ長くなる可能性もあることから、脱酸素剤注入装置を併用し、置換時間を短くすることをしてもよい。
【符号の説明】
【0136】
10 原子炉格納容器
SB10 測定ステップ
SB11 注入実行決定ステップ
SB13 注入ステップ
図1
図2
図3
図4
図5
図6