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特開2023-136299テレマティクス保険として自動車毎に保険料を設定するプログラム、装置及び方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023136299
(43)【公開日】2023-09-29
(54)【発明の名称】テレマティクス保険として自動車毎に保険料を設定するプログラム、装置及び方法
(51)【国際特許分類】
   G06Q 40/08 20120101AFI20230922BHJP
【FI】
G06Q40/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022041828
(22)【出願日】2022-03-16
(71)【出願人】
【識別番号】000208891
【氏名又は名称】KDDI株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】515303481
【氏名又は名称】金子 拓也
(74)【代理人】
【識別番号】100135068
【弁理士】
【氏名又は名称】早原 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】金子 拓也
(72)【発明者】
【氏名】美嶋 勇太朗
(72)【発明者】
【氏名】和田 真弥
(72)【発明者】
【氏名】相良 俊介
(72)【発明者】
【氏名】池上 照子
(72)【発明者】
【氏名】安富祖 瞬
【テーマコード(参考)】
5L055
【Fターム(参考)】
5L055BB61
(57)【要約】      (修正有)
【課題】危険運転の傾向が高いドライバが多く走行する道路区間を走行するほど保険料を高額に設定するテレマティクス保険として自動車毎に保険料を設定するプログラムを提供する。
【解決手段】テレマティクス保険として自動車毎に保険料を設定するプログラムを実行する管理装置において、危険走行区間特定部11は、自動車毎に、走行区間履歴及び運転操作履歴を記録した走行履歴データベースを用いて、走行区間毎に、当該走行区間を走行した複数の自動車の運転操作項目の操作値から、危険走行区間を特定する。保険料設定部12は、保険対象の自動車における走行区間履歴に危険走行区間を含む割合が高いほど、保険料が基本料金よりも高くなるように設定する。保険料提示部13は、保険対象の自動車のユーザに対して、設定した保険料を提示すると共に、自らの走行区間履歴に含まれる危険走行区間を提示する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車毎に保険料を設定するようにコンピュータを機能させるテレマティクス保険用のプログラムであって、
自動車毎に、走行区間履歴及び運転操作履歴を記録した走行履歴データベースを用いて、
走行区間毎に、当該走行区間を走行した複数の自動車の運転操作項目の操作値から、危険走行区間を特定する危険走行区間特定手段と、
保険対象の自動車における走行区間履歴に危険走行区間を含む割合に応じて、保険料を設定する保険料設定手段と
してコンピュータを機能させることを特徴とするプログラム。
【請求項2】
保険料設定手段は、保険対象の自動車における走行区間履歴に危険走行区間を含む割合が高いほど、保険料が基本料金よりも高くなるように設定する
ようにコンピュータを機能させることを特徴とする請求項1に記載のプログラム。
【請求項3】
保険対象の自動車のユーザに対して、設定した保険料を提示すると共に、自らの走行区間履歴に含まれる危険走行区間を提示する保険料提示手段と
してコンピュータを機能させることを特徴とする請求項2又は3に記載のプログラム。
【請求項4】
危険走行区間特定手段は、走行区間毎に、
当該走行区間を走行した複数の自動車における過去の運転操作履歴を用いて、運転操作項目の操作値を降順に並べ、
上位複数個の操作値の平均値が所定閾値以上となる走行区間を、危険走行区間と特定する
ようにコンピュータを機能させることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のプログラム。
【請求項5】
走行区間履歴は、当該自動車が過去に走行した位置が含まれる道路区間又は地域範囲を、走行区間として記録したものであり、
運転操作履歴は、当該走行区間を走行した当該自動車から収集されたCAN(Controller Area Network)に基づく車両情報である
ようにコンピュータを機能させることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載のプログラム。
【請求項6】
走行区間毎に、以下のように各自動車iの各運転操作項目の基準化値を算出し、基準化値に基づく正規分布を生成し、
基準化値=(d(i)-AVE(D))/STD(D)
d(i):自動車iの運転操作項目の操作値
AVE(D):複数の自動車Dの運転操作項目の操作値の平均値
STD(D):複数の自動車Dの運転操作項目の操作値の標準偏差
保険対象の自動車iが走行した複数の走行区間の中で、当該正規分布の±3σを超える走行区間が含まれているか否かを判定する危険運転判定手段を更に有し、
保険料設定手段は、危険運転判定手段によって真と判定された場合、保険対象の自動車iにおける保険料が基本料金よりも更に高くなるように設定する
【請求項7】
保険対象の自動車iについて、危険運転判定手段によって真と判定された場合、当該自動車iのユーザへ、アラームを通知する危険走行アラーム手段と
してコンピュータを機能させることを特徴とする請求項5に記載のプログラム。
【請求項8】
自動車毎に保険料を設定するテレマティクス保険用の管理装置であって、
自動車毎に、走行区間履歴及び運転操作履歴を記録した走行履歴データベースを用いて、
走行区間毎に、当該走行区間を走行した複数の自動車の運転操作項目の操作値から、危険走行区間を特定する危険走行区間特定手段と、
保険対象の自動車における走行区間履歴に危険走行区間を含む割合に応じて、保険料を設定する保険料設定手段と
を有することを特徴とする管理装置。
【請求項9】
自動車毎に保険料を設定するテレマティクス保険用の管理装置の保険料設定方法であって、
管理装置は、
自動車毎に、走行区間履歴及び運転操作履歴を記録した走行履歴データベースを用いて、
走行区間毎に、当該走行区間を走行した複数の自動車の運転操作項目の操作値から、危険走行区間を特定する第1のステップと、
保険対象の自動車における走行区間履歴に危険走行区間を含む割合に応じて、保険料を設定する第2のステップと
を実行することを特徴とする保険料設定方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テレマティクス保険として自動車毎に保険料を設定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
損害保険会社の最も重要なサービスの一つとして、自動車保険があり、そのリスク管理について考える。自動車保険の損害保険会社は、契約者から保険料を徴収し、その中から事故の際の様々な損害額を支払い、且つ、社員への給料などを含む経費を支払い、その残りが企業として利益となる。また、その利益から法人税を支払い、その残りを内部留保と配当金に分けている。企業の経営陣は、株主から常に、コストを抑え且つ配当金を多く支払うことが求められている。
自動車の保険料は、契約者(ドライバ)の事故の起こしやすさ(事故の発生度合い)と、事故の際の損害額とに応じて、適切に設定されなければならない。仮に、保険料を安くし過ぎた場合には、契約者から得た保険料の総額が、事故の際の損害額や社員への給料の支払いに十分ではなくなり、最終的には配当金の支払いに困難を来たし、経営問題にも発展し得る。
【0003】
一般に、自動車の保険料は、「車種」「地域」「運転歴(等級)」によってプライシング(値決め)されている。例えば、優良ドライバであっても、過去事故歴の多い車種を所有すると、その保険料は高額になる。また、比較的事故が多い地域で登録した自動車も、その保険料は高額になる。これは、グレシャムの法則と称され、悪化が良貨を駆逐することを意味する。結果的に、優良ドライバは、危険運転の傾向にあるドライバの事故リスクをカバーするべく、保険料が高額となっていることになる。一方で、危険運転の傾向にあるドライバであっても、事故を起こさない限り優良ドライバと見做され、その運転歴から、保険料も低額となる。保険会社に限らず、自動車メーカーにおける自車ブランドの維持のためにも、危険運転の傾向にあるドライバをできる限り減少させたいと考えている。
【0004】
これに対し、近年、自動車に設置したテレマティクスサービスの端末機から、走行距離、運転速度、急発進・急ブレーキなどの走行履歴データを取得し、その実績に応じた保険料を算定するサービスがある(例えば非特許文献1参照)。
また、保険毎に予め学習した予測モデルを用いて、自動車に搭載された複数のセンサから取得した挙動観測データを入力し、各保険を比較することができる技術もある(例えば特許文献1参照)。
【0005】
他の事例として、危険運転に限らず、高齢ドライバのアクセルやブレーキの踏み間違いの事故も多い。これは、高齢ドライバ=アクセルとブレーキとを踏み間違えやすい、と結びつけてしまうかもしれないが、高齢者ドライバが必ずしも、踏み間違いをするドライバではない。交通不便な地域では、高齢者も自動車の運転が必須であり、安易に、運転免許証に年齢の上限を設けることも難しい。
これに対し、テレマティックス保険であれば、踏み間違いする傾向が高いドライバほど、その保険料を高額にすることもできる。
【0006】
即ち、自動車保険の損額保険会社は、契約者(ドライバ)の運転傾向によって、経営状態が変化することとなる。これまでは、契約者の契約期間が満了してみてはじめて、保険料が足りたのかどうかが判明する仕組みとなっていた。つまり、ドライバの運転傾向に関する情報が、保険会社の期中の経営に活用されていない。言い換えると、契約者(ドライバ)の多くが危険運転をしたり、危険な道路区間を走行するほど、事故が増える潜在性が高まり、保険料の支払いに困難を来たす。経営陣としては、その可能性に備える必要があり、事故率以外、ドライバの運転の質に対して適性な保険料が算出される必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】再表2018/116862
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】「テレマティクス」、[online]、[令和3年2月26日検索]、インターネット<URL:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%86%E3%83%AC%E3%83%9E%E3%83%86%E3%82%A3%E3%82%AF%E3%82%B9>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
保険会社にとって、契約者の自動車から取得された挙動観測データに応じて、事故の危険度を増減し、リスク管理に役立てることは、保険支払いを十分に行うための準備として有益である。加えて、保険会社のリスク管理の観点から、危険運転をするドライバが多く走行する道路では保険料の支払いが多額となる、という潜在性が高いことも考慮することも有益である。
【0010】
前述したテレマティックス保険のように、保険対象の自動車から取得された挙動観測データに応じて、そのユーザの保険料を算出することは、日常的な危険運転を未然に防ぐためにも有益である
しかしながら、そのユーザ自身が危険運転をしていなくても、危険運転の傾向が高い他のドライバによって事故に巻き込まれる場合もある。
【0011】
これに対し、本願の発明者らは、保険会社としても、危険運転の傾向が高いドライバが比較的多いと想定される道路区間は、できる限り避けて走行してほしいであろう、と考えた。また、そのような危険走行区間を特定することができれば、自動車保険のプライシングに反映することはできないか、と考えた。
即ち、日常的に、危険運転の傾向が高いドライバが比較的多い道路区間を走行しているユーザには、高い保険料を設定し、一方で、比較的安全な道路区間のみを走行しているユーザには、低い保険料を設定することができないか、と考えた。勿論、保険会社と契約しているユーザには、そのような危険走行区間を事前に情報提供することもできる。また、その保険会社と契約しているユーザ自ら、危険運転をしている場合には、更に保険料を高額に設定することもできる。
【0012】
そこで、本発明は、危険運転の傾向が高いドライバが多く走行する道路区間を走行するほど、保険料が高額となるように設定するテレマティクス保険用のプログラム、管理装置及び方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明によれば、自動車毎に保険料を設定するようにコンピュータを機能させるテレマティクス保険用のプログラムであって、
自動車毎に、走行区間履歴及び運転操作履歴を記録した走行履歴データベースを用いて、
走行区間毎に、当該走行区間を走行した複数の自動車の運転操作項目の操作値から、危険走行区間を特定する危険走行区間特定手段と、
保険対象の自動車における走行区間履歴に危険走行区間を含む割合に応じて、保険料を設定する保険料設定手段と
してコンピュータを機能させることを特徴とする。
【0014】
本発明のプログラムにおける他の実施形態によれば、
保険料設定手段は、保険対象の自動車における走行区間履歴に危険走行区間を含む割合が高いほど、保険料が基本料金よりも高くなるように設定する
ようにコンピュータを機能させることも好ましい。
【0015】
本発明のプログラムにおける他の実施形態によれば、
保険対象の自動車のユーザに対して、設定した保険料を提示すると共に、自らの走行区間履歴に含まれる危険走行区間を提示する保険料提示手段と
してコンピュータを機能させることも好ましい。
【0016】
本発明のプログラムにおける他の実施形態によれば、
危険走行区間特定手段は、走行区間毎に、
当該走行区間を走行した複数の自動車における過去の運転操作履歴を用いて、運転操作項目の操作値を降順に並べ、
上位複数個の操作値の平均値が所定閾値以上となる走行区間を、危険走行区間と特定する
ようにコンピュータを機能させることも好ましい。
【0017】
本発明のプログラムにおける他の実施形態によれば、
走行区間履歴は、当該自動車が過去に走行した位置が含まれる道路区間又は地域範囲を、走行区間として記録したものであり、
運転操作履歴は、当該走行区間を走行した当該自動車から収集されたCAN(Controller Area Network)に基づく車両情報である
ようにコンピュータを機能させることも好ましい。
【0018】
本発明のプログラムにおける他の実施形態によれば、
走行区間毎に、以下のように各自動車iの各運転操作項目の基準化値を算出し、基準化値に基づく正規分布を生成し、
基準化値=(d(i)-AVE(D))/STD(D)
d(i):自動車iの運転操作項目の操作値
AVE(D):複数の自動車Dの運転操作項目の操作値の平均値
STD(D):複数の自動車Dの運転操作項目の操作値の標準偏差
保険対象の自動車iが走行した複数の走行区間の中で、当該正規分布の±3σを超える走行区間が含まれているか否かを判定する危険運転判定手段を更に有し、
保険料設定手段は、危険運転判定手段によって真と判定された場合、保険対象の自動車iにおける保険料が基本料金よりも更に高くなるように設定する
ようにコンピュータを機能させることも好ましい。
【0019】
本発明のプログラムにおける他の実施形態によれば、
保険対象の自動車iについて、危険運転判定手段によって真と判定された場合、当該自動車iのユーザへ、アラームを通知する危険走行アラーム手段と
してコンピュータを機能させることも好ましい。
【0020】
本発明によれば、自動車毎に保険料を設定するテレマティクス保険用の管理装置であって、
自動車毎に、走行区間履歴及び運転操作履歴を記録した走行履歴データベースを用いて、
走行区間毎に、当該走行区間を走行した複数の自動車の運転操作項目の操作値から、危険走行区間を特定する危険走行区間特定手段と、
保険対象の自動車における走行区間履歴に危険走行区間を含む割合に応じて、保険料を設定する保険料設定手段と
を有することを特徴とする。
【0021】
本発明によれば、自動車毎に保険料を設定するテレマティクス保険用の管理装置の保険料設定方法であって、
管理装置は、
自動車毎に、走行区間履歴及び運転操作履歴を記録した走行履歴データベースを用いて、
走行区間毎に、当該走行区間を走行した複数の自動車の運転操作項目の操作値から、危険走行区間を特定する第1のステップと、
保険対象の自動車における走行区間履歴に危険走行区間を含む割合に応じて、保険料を設定する第2のステップと
を実行することを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明の管理装置、プログラム及び方法によれば、危険運転の傾向が高いドライバが多く走行する道路区間を走行するほど、保険料が高額となるように設定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明におけるシステム構成図である。
図2】本発明における管理装置の機能構成図である。
図3】走行履歴データベースの説明図である。
図4】危険走行区間特定部の説明図である。
図5】保険対象の自動車における日常の走行区間を表す第1の経路図である。
図6】危険運転の走行区間を表す第2の経路図である。
図7】保険対象の自動車における危険運転区間の走行を表す第3の経路図である。
図8】保険対象の自動車における危険運転区間を回避した走行を表す第4の経路図である。
図9図7及び図8における保険料の設定を表す説明図である。
図10】危険運転判定部の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて詳細に説明する。
【0025】
図1は、本発明におけるシステム構成図である。
【0026】
図1によれば、自動車には、車両情報を時系列に蓄積する車両情報データベースが搭載されている。車両情報データベースのデータは、通信装置によって広域無線通信網を介して、管理装置1へ送信される。一般に、インターネットネットに常時接続された自動車は、ICT(Information and Communication Technology)機能を有する「コネクテッドカー」と称される。
車両情報としては、例えば以下のような情報が、自動車IDに紐付けて、管理装置1へ送信される。
・走行区間履歴
日時刻->走行区間
・運転操作履歴
日時刻->速度、アクセル操作情報、ハンドル操作情報、ブレーキ操作情報
【0027】
走行区間とは、GPS(Global Positioning System)によって測位した緯度経度情報から導出された「道路区間」であってもよい。勿論、緯度経度によって指定された「地域範囲」(四方メッシュ)であってよい。
【0028】
図2は、本発明における管理装置の機能構成図である。
【0029】
図2によれば、管理装置1は少なくとも、走行履歴データベース10と、危険走行区間特定部11と、保険料設定部12と、保険料提示部13とを有する。また、管理装置1は、危険運転判定部14と、危険走行アラーム部15とを更に有するものであってもよい。これら機能構成部は、管理装置に搭載されたコンピュータを機能させるプログラムを実行することによって実現される。また、これら機能構成部の処理の流れは、保険料設定方法としても理解できる。
【0030】
[走行履歴データベース10]
走行履歴データベース10は、自動車毎に、走行区間履歴及び運転操作履歴を記録したものである。これら情報は、多数の自動車から車両情報として受信したものである。
【0031】
図3は、走行履歴データベースの説明図である。
【0032】
図3によれば、走行履歴データベース10は、自動車ID(IDentifier、識別子)毎に、例えば以下の情報が対応付けられている。
・走行区間ID
・速度
・アクセル操作情報
・ハンドル操作情報
・ブレーキ操作情報
・・・・・・・・・
【0033】
[危険走行区間特定部11]
危険走行区間特定部11は、走行区間毎に、当該走行区間を走行した複数の自動車の運転操作項目の操作値から、「危険走行区間」を特定する。
運転操作項目の操作値としては、自動車のドライバ自らの操作と直接的に対応する値である。例えば速度や加速度も、操作値となる。また、アクセル操作、ハンドル操作、ブレーキ操作も、操作値に影響する。
【0034】
ここで、「危険運転」とは、急発進、急ブレーキ、急ハンドルのような「急」な運転操作であるとする。このような運転操作は、車両情報の操作値における「微分値」であって、単位時間あたりの変化量を意味する。単位時間あたりの変化量が大きい操作値は、「急」な運転操作であると判断される。このような、「急」な運転操作は当然、暴走行為に限らず、高齢者の運転にも見られる。「急」な運転操作を検知して、所定期間における累積件数から、道路区間の特性や、自動車のドライバの特性として特徴付けることができる。
【0035】
例えばハインリッヒの法則によれば、1件の重大事故には、29件の軽微な事故があり、これにはまた、300件のヒヤリ・ハットがあると言われる。1件の重大事故の発生は、その前兆として、29件の軽微な事故や300件のヒヤリ・ハットの情報が存在している。一方で、従来、それらの情報は活かされておらず、1件の重大事故しか注目されていない。そのような危険運転の傾向から、道路区間における「危険走行区間」を特定する。
【0036】
危険走行区間としては、以下の2つのパターンを想定できる。
(想定パターン1)その走行区間について、道路の形状や見通しが悪い
(想定パターン2)その走行区間について、危険運転の傾向が高いドライバが多い
【0037】
想定パターン1の場合、運転操作としては急であったとしても、多くのドライバが急な運転操作をせざるを得ない。例えば高速道路の料金所出口では、ある程度急なアクセル操作が必要となる。また、高速道路のジャンクションでも、急なカーブがあって急ハンドルが必要である。このように、場所に応じて必要な急な運転操作は、危険運転ではない。そのために、走行区間(道路区間又は地域範囲)毎に、危険運転を判定する必要がある。勿論、走行区間毎から更に、道路の方向も別々に区分して、危険運転を判定するものであってもよい。
想定パターン1は、道路の問題であって、運転操作の問題ではない。この場合、多数のドライバの運転操作を、平均値や標準偏差を用いて基準化することによって、普通の運転操作と判定することができる。
【0038】
一方で、想定パターン2の場合、道路の問題ではない。このような走行区間では、危険運転のドライバの自動車から、安全運転のドライバの自動車が事故に巻き込まれる可能性も高くなる。
【0039】
図4は、危険走行区間特定部の説明図である。
【0040】
危険走行区間特定部11は、走行区間毎に、以下の2つのステップで、「危険走行区間」を特定する。
(S1)当該走行区間を走行した複数の自動車における過去の運転操作履歴を用いて、運転操作項目の操作値を降順に並べる。図4によれば、例えば走行区間0023680について、複数の自動車におけるアクセル操作情報の操作値を「降順」に並べている。
(S2)そして、「上位複数m個の操作値の平均値が所定閾値E以上となる走行区間」を、「危険走行区間」と特定する。図4によれば、アクセス操作情報における上位複数m個の操作値から、平均値を算出する。その平均値が所定閾値Eよりも大きい場合、危険走行区間として特定する。勿論、平均値でなく、上位複数m個の操作値の総和が、所定閾値より大きいことを判定するものであってもよい。
このように、上位複数m個の操作値の平均値又は総和が、所定閾値よりも大きいということは、その走行区間には、特に激しい危険運転をするドライバが比較的多く存在することを意味する。
【0041】
他の実施形態として、複数の運転操作について、全ての運転操作を同じ危険度と考えることなく、アクセル操作50%、ハンドル操作25%、ブレーキ操作25%として、重み付けするものであってもよい。
【0042】
尚、危険走行区間特定部11によって特定された危険走行区間の情報は、様々な用途に利用することもできる。児童の安全な通学のために、例えば学校の通学路について、危険走行区間を調査することもできる。通学路が危険走行区間と特定された場合、早急に、ガードレールの設置など安全策を早くとることができる。
また、危険走行区間を通行するユーザに対して、そのスマートフォンへ、危険走行区間であるとする通知をすることもできる。
このように、保険料の設定に限らず、危険走行区間の情報は、様々なサービス用途に利用可能となる。
【0043】
[保険料設定部12]
保険料設定部12は、保険対象の自動車における走行区間履歴に危険走行区間を含む割合に応じて、保険料を設定する。
【0044】
保険料設定部12は、保険対象の自動車における走行区間履歴に危険走行区間を含む割合が高いほど、保険料が基本料金よりも高くなるように設定する。走行区間履歴に危険走行区間を例えば10%以上含む場合、基本料金よりも10%高額に設定することもできる。
【0045】
走行区間毎に、事故が発生する潜在性は、例えば以下の2つのパターンを想定できる。
(潜在パターン1)自らが危険運転をする傾向が高い
(潜在パターン2)危険走行区間を走行する傾向が高い
本発明によれば、潜在パターン2について、危険走行区間を日常的に走行しない保険対象の自動車に対して、その保険料を比較的低額に抑えることができる。
【0046】
また、保険料設定部12は、保険対象の自動車について、後述する危険運転判定部14によって真と判定された場合、保険料が基本料金よりも更に高くなるように設定する。
これは、テレマティクス保険としては当然の料金設定となる。過去に事故を起こしていないが、危険運転をするドライバには、できる限り高額の保険料を負担してもらう必要がある。
【0047】
[保険料提示部13]
保険料提示部13は、保険対象の自動車のユーザに対して、設定した保険料を提示すると共に、自らの走行区間履歴に含まれる危険走行区間を提示する
【0048】
[危険走行アラーム部15]
危険走行アラーム部15は、後述する危険運転判定部14によって真と判定された自動車のユーザに対して、アラームを通知する。
【0049】
図5は、保険対象の自動車における日常の走行区間を表す第1の経路図である。
図5によれば、保険対象の自動車100が、日常的に以下の走行区間を走行しているとする。
0023683->0023680->0023681->0023685
【0050】
図6は、危険運転の走行区間を表す第2の経路図である。
図6によれば、自動車101が、走行区間0023680で危険運転をしたとする。また、走行区間0023680では、複数の自動車によって危険運転がなされ、「危険走行区間」と判定されたとする。
【0051】
図7は、保険対象の自動車における危険運転区間の走行を表す第3の経路図である。
図7によれば、保険対象の自動車100は、日常的に危険走行区間0023680を走行している。その場合、その保険対象の自動車100の保険料が、基本料金よりも高くなるように設定される。
【0052】
図8は、保険対象の自動車における危険運転区間を回避した走行を表す第4の経路図である。
図8によれば、保険対象の自動車100は、日常的に危険走行区間0023680を避けて走行するように迂回したとする。
0023683->0023679->0023678->0023685
その場合、その保険対象の自動車100の保険料は、基本料金となるように設定される。
【0053】
図9は、図7及び図8における保険料の設定を表す説明図である。
【0054】
図9(a)によれば、自動車001は、走行区間履歴に、危険走行区間0023680を含む。そのために、基本料金よりも+αだけ加算して、高額となるように設定されている。
図9(b)によれば、自動車001は、走行区間履歴に、危険走行区間を含まない。そのために、基本料金のみとして設定されている。
【0055】
<自動車個別の危険運転を判定する他の実施形態>
前述したように、本発明によれば、複数の自動車の運転操作項目の操作値から、「危険走行区間」が特定されている。
ここで、自動車個別に、危険運転か否かを判定することも好ましい。一般的なテレマティクス保険のように、保険対象の自動車が危険運転をしている場合には、その保険料を高額に設定することができる。
【0056】
[危険運転判定部14]
危険運転判定部14は、走行区間毎に、以下のように各自動車iの各運転操作項目の「基準化値」を算出し、基準化値に基づく正規分布を生成する。
基準化値=(d(i)-AVE(D))/STD(D)
d(i):自動車iの運転操作項目の操作値
AVE(D):複数の自動車Dの運転操作項目の操作値の平均値
STD(D):複数の自動車Dの運転操作項目の操作値の標準偏差
尚、運転操作項目の基準化値としては、アクセル操作に基づく基準化値A(i)であってもよいし、ブレーキ操作の基準化値B(i)、又は、ハンドル操作の基準化値S(i)であってもよい。
【0057】
走行区間毎に、多数の自動車の運転操作に基づく基準化値を算出することによって、少なくとも所定%以上又は以下で、危険運転か否かを判定することができる。正規分布にすることによって、例えば±3σを超える分布に含まれる運転操作は、「危険運転」といえる。+3σ(+3σ~+∞)を超える分布に含まれる運転操作は、例えば煽り運転のような急激な運転操作を意味する。一方で、-3σを超える分布(-∞~-3σ)に含まれる運転操作は、異常にのろい運転操作を意味する。これは、自動車のドライバが、痴ほう症の恐れもあり、危険運転の一種と判断する。
【0058】
図10は、危険運転判定部の説明図である。
【0059】
図10によれば、走行区間0023680を走行した自動車001及び101の運転操作を表す。運転操作項目毎の正規分布は、多数の自動車の基準化値を分布させたものである。その中で、±3σを超える分布に、当該自動車001及び101の運転操作の基準化値が含まれる場合、自動車個別の「危険運転」と判定される。図10によれば、走行区間0023680で、自動車101について、アクセル操作とブレーキ操作とに、危険運転有りと判定されている。
【0060】
また、自動車i毎に、走行履歴の過去の走行区間における全ての運転操作項目における基準化値を算出することもできる。その場合、運転操作項目毎に、それら基準化値を降順に並べて、上位複数n個の平均値又は総和を、当該自動車iの「特徴的運転操作」と判定することもできる。上位複数n個の基準化値は、その自動車iについて非常に危険な運転操作として抽出することができる。
【0061】
勿論、特徴的運転操作の基準化値が高い自動車iほど、特定の道路区間に拘わらず、日常的に、複数の異なる道路区間で危険運転をしていることを意味する。即ち、高速道路やカーブの多い特徴的な道路区間に限らず、様々な道路区間で、必要な運転操作を逸脱した異常な運転操作をしていることを意味する。
【0062】
尚、危険運転の自動車を特定できた場合、走行区間毎に、危険運転の自動車における単位時間あたりの走行回数や走行割合に応じて、前述した危険走行区間を特定することもできる。
【0063】
<自動車に搭載された加速度センサの計測値を用いた危険運転の判定>
他の実施形態として、自動車に搭載された加速度センサの加速度を用いて、危険運転を判定する方法について説明する。
【0064】
加速度を用いた場合、一般的に、所定閾値を超えた際に異常であると判定することができる。一方で、加速度は正常の範囲内であっても、異常な場合もある。例えば逆走行がある。逆走行は、例えば地磁気センサを用いた方角(緯度経度も含めて)によって判定することもできる。つまり、東の方角に向かうある車線上では、全ての自動車は東向きに走行している場合、東向きに基準化する。このとき、ある自動車だけ西向きに走行すれば、西向きに走行する自動車は、下限閾値を超えることによって異常を検出することができる。
【0065】
例えばある走行区間の道路で、以下のように走行しているとする。
自動車010は、東向きに毎秒11メートル(時速約40Km)で走行している
自動車011は、東向きに毎秒12メートル(時速約43Km)で走行している
自動車012は、東向きに毎秒13メートル(時速約46Km)で走行している
自動車013は、西向きに毎秒10メートル(時速約36Km)で走行している
ここで、基準化すると、以下のようになる。
自動車010のデータを基準化する際の平均値は東向きに時速約18Km、標準偏差は約38となり、基準化後の値は約0.6となる。
自動車011のデータを基準化する際の平均値は東向きに時速約17Km、標準偏差は約37となり、基準化後の値は約0.7となる。
自動車012のデータを基準化する際の平均値は東向きに時速約16Km、標準偏差は約37となり、基準化後の値は約0.8となる。
自動車013のデータを基準化する際の平均値は東向きに時速約43Km、標準偏差は約2.4となり、基準化後の値は約-32となる。
ここで、各基準化後の数値が、閾値の±1.96や±2.56の範囲内であるかどうかを確認すると、自動車013のみが範囲外で異常であると検知される。尚、異常であると認定された自動車の情報は、基準化の際には除外して用いないようにすることが好ましい。
【0066】
<損害保険会社における経営について>
保険料を決定するための1つの基準として、事故の発生率を考慮して、危険運転のドライバが多い危険走行区間を特定することを、本発明として提案している。テレマティクス保険の技術によって、経営陣も、危険走行区間と保険料とを関係付けることによって、保険会社の今現在の経営状況の1つの要因を、認識することができる。
特に、道路区間における危険度を測ることで、事故の発生確率や保険金支払い額との関係性を、回帰分析などで推定することもできる。これによって、若者の車離れによって保険契約者の高齢化が想定される中であっても、将来時点の保険金支払いを推定するための1つの要因を提供することができる。
【0067】
自動車保険料として、保険料支払いの期待値と、保険会社の諸経費(従業員の給与を含む)と、企業としての利益の総和とを考える。このとき、保険料支払いの期待値が誤った予測となると、企業としての利益が圧迫されることとなる。一方で、一律に保険料を増加させると、優良なドライバ(契約者)は他社に流れてしまい、不良なドライバだけが残ることとなる。即ち、納得感のある保険料率の設定が必須であり、そのためには、テレマティクス保険におけるドライバの運転の質のみならず、走行区間の環境(ドライバが選択する道路の状況、人の往来度合い)などを加味することが望ましい。
事故の発生割合及び保険金支払い額との間には、ドライバの危険運転のみならず、走行区間の危険性にも、強い正の相関関係があると考えて自然である。これに対し、過去データから、走行区間における危険運転指数を考慮することによって、保険料の決定と、保険金支払額の期待値と、ストレス化(テイルイベント)での保険金支払い額とを予測することも可能となる。
【0068】
以上、詳細に説明したように、本発明のテレマティクス用のプログラム、管理装置及び方法によれば、危険運転の傾向が高いドライバが多く走行する道路区間を走行するほど、保険料が高額となるように設定することができる。
【0069】
尚、これにより、例えば「ユーザに対する自動車の保険料によって、危険運転走行区間を避けて走行するように促すことができる」ことから、国連が主導する持続可能な開発目標3(SDGs)の「あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確保し、福祉を推進する」に貢献することが可能となる。
【0070】
前述した本発明の種々の実施形態について、本発明の技術思想及び見地の範囲の種々の変更、修正及び省略は、当業者によれば容易に行うことができる。前述の説明はあくまで例であって、何ら制約しようとするものではない。本発明は、特許請求の範囲及びその均等物として限定するものにのみ制約される。
【符号の説明】
【0071】
1 管理装置
10 走行履歴データベース
11 危険走行区間特定部
12 保険料設定部
13 保険料提示部
14 危険運転判定部
15 危険走行アラーム部
2 携帯端末
図1
図2
図3
図4
図5
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図8
図9
図10