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特開2023-136301データ取得装置、データ補正装置、データ補正方法、プログラム及び記録媒体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023136301
(43)【公開日】2023-09-29
(54)【発明の名称】データ取得装置、データ補正装置、データ補正方法、プログラム及び記録媒体
(51)【国際特許分類】
   G01N 23/20 20180101AFI20230922BHJP
   G01N 23/20058 20180101ALI20230922BHJP
【FI】
G01N23/20
G01N23/20058
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022041838
(22)【出願日】2022-03-16
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り ・ウェブサイトのアドレス https://www.jst.go.jp/crds/report/CRDS-FY2020-WR-11.html 掲載日 令和3年4月23日 ・刊行物名 「令和3年度文部科学省ナノテクノロジープラットフォーム事業 JAEA&QST微細構造解析プラットフォーム合同地域セミナー ‐最新の電子状態・表面反応・結晶構造解析‐ 講演予稿集(19~22頁)」 発行日 令和3年12月16日
(71)【出願人】
【識別番号】301032942
【氏名又は名称】国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 拓生
(72)【発明者】
【氏名】高橋 正光
【テーマコード(参考)】
2G001
【Fターム(参考)】
2G001AA01
2G001AA03
2G001BA14
2G001BA18
2G001CA01
2G001CA03
2G001GA03
2G001KA08
2G001LA02
(57)【要約】
【課題】結晶の表面の変化だけでなく、内部の変化の情報も秒単位で取得する技術を提供する。
【解決手段】データ取得装置(30)は、X線結晶トランケーションロッド散乱測定装置により得られる経時的測定データである第1の測定データと、反射高速電子線回折装置により得られる経時的測定データである第2の測定データとを並行して取得する取得部(31)と、第2の測定データを用いて第1の測定データを時間補正する補正部(32)と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線結晶トランケーションロッド散乱測定装置により得られる経時的測定データである第1の測定データと、反射高速電子線回折装置により得られる経時的測定データである第2の測定データとを並行して取得する取得部と、
前記第2の測定データを用いて前記第1の測定データを時間補正する補正部と、
を備えるデータ取得装置。
【請求項2】
前記補正部は、前記第2の測定データの特定ポイントの時間位置を検出し、前記特定ポイントの時間位置を基準にして前記第1の測定データを時間補正する、請求項1に記載のデータ取得装置。
【請求項3】
前記特定ポイントは、前記第2の測定データの初期ポイント、谷ポイント及び山ポイントのうちの少なくともいずれかを含む、請求項2に記載のデータ取得装置。
【請求項4】
前記取得部は、所定の測定角度ごとに、測定対象の表面に複数の原子層が積層されるまで前記第1の測定データと前記第2の測定データとを並行して連続的に取得する、請求項1から3のいずれか1項に記載のデータ取得装置。
【請求項5】
前記X線結晶トランケーションロッド散乱測定装置及び前記反射高速電子線回折装置を制御する装置制御部を更に備える、請求項1から4のいずれか1項に記載のデータ取得装置。
【請求項6】
X線結晶トランケーションロッド散乱測定装置により得られる経時的測定データである第1の測定データを取得する第1取得ステップと、
前記第1の測定データと並行して取得されたデータであって、反射高速電子線回折装置により得られる経時的測定データである第2の測定データを取得する第2取得ステップと、
前記第2の測定データを用いて、前記第1の測定データを時間補正する補正ステップと、
を含むデータ補正方法。
【請求項7】
前記補正ステップは、前記第2の測定データの特定ポイントの時間位置を検出し、前記特定ポイントの時間位置を基準にして前記第1の測定データを時間補正するステップである、請求項6に記載のデータ補正方法。
【請求項8】
前記特定ポイントは、前記第2の測定データの初期ポイント、谷ポイント及び山ポイントのうちの少なくともいずれかを含む、請求項7に記載のデータ補正方法。
【請求項9】
前記第1取得ステップと前記第2取得ステップは、所定の測定角度ごとに、測定対象の表面に複数の原子層が積層されるまで前記第1の測定データと前記第2の測定データとを並行して連続的に取得するステップである、請求項6から8のいずれか1項に記載のデータ補正方法。
【請求項10】
X線結晶トランケーションロッド散乱測定装置により得られる経時的測定データである第1の測定データと、第1の測定データと並行して取得されたデータであって、反射高速電子線回折装置により得られる経時的測定データである第2の測定データと、を取得するデータ取得部と、
前記第2の測定データを用いて、前記第1の測定データを時間補正するデータ補正部と、を備えるデータ補正装置。
【請求項11】
コンピュータを、
X線結晶トランケーションロッド散乱測定装置により得られる経時的測定データである第1の測定データと、反射高速電子線回折装置により得られる経時的測定データである第2の測定データとを並行して取得する取得部と、
前記第2の測定データを用いて前記第1の測定データを時間補正する補正部と、
として機能させるためのプログラム。
【請求項12】
請求項11に記載のプログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な非一時的記録媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、データ取得装置、データ補正装置、データ補正方法、プログラム及び記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体薄膜等の結晶成長の様子を調べることは、薄膜成長にかかわるメカニズムの解明に役立つだけでなく、薄膜の品質を精密に制御するためにも欠かすことのできない技術である。結晶成長の様子を調べる方法として、例えば、非特許文献1などに記載された放射光結晶トランケーションロッド散乱(放射光crystal truncation rod scattering)、非特許文献2などに記載された反射高速電子線回折(Reflection High Energy Election Diffraction)等が従来技術として知られている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Mechanisms determining the structure of gold-catalyzed GaAs nanowires studied by in situ X-ray diffraction, M. Takahasi et al., Cryst. Growth Des 15, 4979 (2015)
【非特許文献2】In situ investigation of growth modes during plasma-assisted molecular beam epitaxy of (0001)GaN, Appl. Phys. Lett. 91, 161904 (2007)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
結晶トランケーションロッド散乱を用いる方法は、薄膜成長表面の情報を原子スケールで得られるだけでなく、薄膜成長表面内部の原子位置等の情報も同時に得られる特長がある。しかし、測定に10分以上の時間を要するため、時々刻々と変化する薄膜成長表面をその場(in situ)観察することが困難である。一方、反射高速電子線回折を用いる方法は、薄膜成長表面の変化を秒単位の時間スケールで高速に測定できるが、得られる情報が成長表面の凹凸など、表面近傍に限定される。
【0005】
本発明の一態様は、結晶の表面の変化だけでなく、内部の変化の情報も秒単位で取得する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係るデータ取得装置は、X線結晶トランケーションロッド散乱測定装置により得られる経時的測定データである第1の測定データと、反射高速電子線回折装置により得られる経時的測定データである第2の測定データとを並行して取得する取得部と、前記第2の測定データを用いて前記第1の測定データを時間補正する補正部と、を備える。
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係るデータ補正方法は、X線結晶トランケーションロッド散乱測定装置により得られる経時的測定データである第1の測定データを取得する第1取得ステップと、前記第1の測定データと並行して取得されたデータであって、反射高速電子線回折装置により得られる経時的測定データである第2の測定データを取得する第2取得ステップと、前記第2の測定データを用いて、前記第1の測定データを時間補正する補正ステップと、を含む。
【0008】
本発明の一態様に係るデータ補正装置は、X線結晶トランケーションロッド散乱測定装置により得られる経時的測定データである第1の測定データと、第1の測定データと並行して取得されたデータであって、反射高速電子線回折装置により得られる経時的測定データである第2の測定データと、を取得するデータ取得部と、前記第2の測定データを用いて、前記第1の測定データを時間補正するデータ補正部と、を備える。
【0009】
本発明の一態様に係るデータ取得装置は、コンピュータによって実現してもよく、この場合には、コンピュータを前記データ取得装置が備える各部(ソフトウエア要素)として動作させることにより前記データ取得装置をコンピュータにて実現させるデータ取得装置の制御プログラム、およびそれを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体も、本発明の範疇に入る。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一態様によれば、結晶の表面の変化だけでなく、内部の変化の情報も秒単位で取得する技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施形態1に係る、表面状態測定システムの構成を示すブロック図である。
図2】実施形態1に係る、測定対象の表面状態を測定する方法の概念図である。
図3】実施形態1に係る、データ取得方法M1の流れを示すフローチャートである。
図4】実施形態1に係る、データ補正方法M2の流れを示すフローチャートである。
図5】実施形態1に係る、CTRデータとRHEEDデータをグラフ化した図である。
図6】実施形態1に係る、時間補正したCTRデータを、面指数Lを横軸として記載したグラフである。
図7】実施例に係る、Ga原料の照射中及び照射停止後のCTR散乱の強度とRHEED回折の強度の時間変化を示すグラフである。
図8】実施例に係る、Ga原料照射中の放射光CTR散乱のL依存性を示すグラフである。
図9】実施例に係る、GaNの(0001)表面に形成された秩序構造の経時変化を示す模式図である。
図10】実施例に係る、GaN(000-1)表面に形成された秩序構造の経時変化を示す模式図である。
図11】実施例に係る、液体Gaが作る秩序構造の基板温度依存性を示すグラフである。
図12】実施形態1に係るデータ補正装置の構成を示すブロック図である。
図13】従来技術の放射光結晶トランケーションロッド散乱の面指数L依存性を示すグラフの一例である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
〔実施形態1〕
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照して詳細に説明するが、その前に従来技術の課題について詳細に説明する。図13は、放射光結晶トランケーションロッド散乱(以下、単に「CTR」とも称する。)の面指数L依存性を示すグラフの一例である。グラフの縦軸は散乱の強度(単位は任意)であり、横軸は面指数Lを示す。図中の丸印は測定値であり、実線は測定値をX線散乱理論によりフィッティングした線である。
【0013】
ここで、本明細書で用いる面指数Lについて説明する。面指数は、放射光(X線)の入射角度(結晶の断面方向)を示す指数であり、立方晶等では通常(HKL)の3つの指数を用いて表される。本明細書においては、面指数が(00L)で表される断面を面指数Lとも記載する。Lが大きくなるにしたがって、結晶面の間隔が狭くなる。これはLが大きいほど微小な領域の原子配列が調べられることを意味する。言い換えれば、面指数Lは、結晶の厚み方向の指数を示し、L1は、結晶の基本単位、L2は、L1を結晶の厚み方向に2分割したもの、Lnは、L1を結晶の厚み方向にn分割したものに相当する。なお、六方晶では(HKIL)のように4つの指数を用いて表されることもあるが、本明細書では、六方晶でも(HKL)と記載する。
【0014】
図13のグラフは、基板に原料照射をしながら面指数Lを変えてCTRを測定したデータを示す。面指数Lは、0.5から3まで変えている。CTRデータを取得するには、1つの面指数Lに対して少なくとも1秒程度の測定時間が必要であるため、面指数Lを0.1刻みで0.5から3まで変えて測定する場合、面指数を変えるために測定装置の放射光入射角度を変える時間も含めて10分程度の時間を要する。図13では、4つの測定データ群が示されているが、これらは下から順に、0~10分の間の平均的な表面状態を示すデータ、10~20分の間の平均的な表面状態を示すデータ、20~30分の間の平均的な表面状態を示すデータ、30~40分の間の平均的な表面状態を示すデータである。このように、CTRでは、表面に近い内部の状態を含む表面状態のデータは、数分から十数分程度の間の平均的なデータとして取得されるのみであり、秒単位で進行する結晶成長の様子を調べることができなかった。
【0015】
(表面状態測定システム1)
以下に、上述の課題を解決する、実施形態1に係る表面状態測定システム1、データ取得方法M1、データ補正方法M2について説明する。図1は、本実施形態に係る表面状態測定システム1の構成を示すブロック図である。図1に示すように、表面状態測定システム1は、放射光結晶トランケーションロッド散乱測定装置(以下、「CTR測定装置」と称する。)10、反射高速電子線回折測定装置(以下、「RHEED測定装置」と称する。)20、及びデータ取得装置30を備えている。CTR測定装置10は、放射光などの比較的高エネルギー(数十KeV程度)で高強度(1012photons/s程度)のX線を測定対象の結晶に照射してその散乱光(散乱像)を測定する装置である。なお、CTR測定装置は、比較的高エネルギー(数十KeV程度)で高強度(1012photons/s程度)のX線を用いることが好ましい。そのため、以下の実施形態では放射光CTR測定装置を用いる例を説明するが、X線CTR測定装置を用いてもよい。RHEED測定装置20は、電子線を測定対象の結晶に照射してその回折線(回折像)を測定する装置である。
【0016】
データ取得装置30は、取得部31、補正部32、装置制御部33、プロセッサ34、及びメモリ35を備えている。取得部31は、CTR測定装置10から経時的測定データを取得する。具体的には、取得部31は、CTR測定装置10から測定データを連続した所定の時間だけ取得する。また、取得部31は、RHEED測定装置20から経時的測定データを取得する。具体的には、取得部31は、RHEED測定装置20から測定データを連続した所定の時間だけ取得する。取得部31は、CTR測定装置10からの測定データとRHEED測定装置20からの測定データを、時間的に並行して取得する。なお、CTR測定装置10からの測定データを「第1の測定データ」とも称し、RHEED測定装置20からの測定データを「第2の測定データ」とも称する。
【0017】
補正部32は、第2の測定データを用いて第1の測定データを時間補正する。具体的には、補正部32は、第2の測定データの特定ポイントの時間位置を検出し、当該特定ポイントの時間位置を基準にして第1の測定データを時間補正する。時間補正とは、異なる測定角度で測定した複数のデータを共通の時間軸で配列するための補正である。補正部32が実行する時間補正の具体的な方法については、特定ポイントの詳細も含めて後述する。
【0018】
装置制御部33は、放射光結晶トランケーションロッド散乱測定装置(CTR測定装置)10及び反射高速電子線回折装置(RHEED測定装置)20を制御する。具体的には、装置制御部33は、測定対象の位置(向き)を変更するか、又はCTR測定装置10の放射光入射角度を変更し、散乱光検出器の位置を変更するように制御する。また、装置制御部33は、測定対象の位置(向き)を変更するか、又はRHEED測定装置20の電子線入射角度を変更するように制御する。なお、必要に応じ、回折像検出器の位置を変更してもよい。また、装置制御部33は、後述する原料照射装置53から原料を照射するように制御する。
【0019】
メモリ35は、各種の揮発性又は不揮発性のROM(Read Only Memory)又はRAM(Random Access Memory)等から構成される。ROMには、各種のプログラムが記憶されている。各種のプログラムとは、例えば、データ取得プログラム、補正プログラム、CTR測定装置10の制御プログラム、及びRHEED測定装置20の制御プログラム等である。
【0020】
プロセッサ34は、メモリ35のROMに記憶した各種プログラムをRAMに展開して実行することにより、取得部31、補正部32、及び装置制御部33としての機能を実現する。プロセッサ34は、MPU(Micro Processing Unit)、CPU(Central Processing Unit)等の汎用プロセッサを用いて構成することができる。また、プロセッサ34は、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field Programmable Gate Array)又はPLD(Programmable Logic Device)等の専用プロセッサを含んでいてもよい。
【0021】
なお、データ取得装置30は、補正したデータを外部に出力する出力部(図示せず)を備えていてもよい。その場合、出力部は、出力インターフェースを介してディスプレイ又はパーソナルコンピュータ等に補正したデータを出力する。
【0022】
図2は、CTR測定装置10及びRHEED測定装置20を用いて測定対象の表面状態を測定する方法の概念図である。以下、図2を参照して、本実施形態に係るデータを取得する方法について説明する。
【0023】
図2に示すように、測定対象51は、一例として、表面に(0001)面を露出させた窒化ガリウム(GaN)である。この測定対象51に向けて、相対した位置関係にある原料照射装置53から原料であるガリウム(Ga)を気体状態にして照射する。なお、図2では、測定対象51と原料照射装置53とが上下方向に相対して配置されているが、両者の配置関係はこれに限定されない。例えば、測定対象51と原料照射装置53とが横方向に相対して配置されていてもよい。測定対象51は、数百度の高温に加熱されており、高真空チャンバ内に載置されている。このような環境で測定対象51にガリウムを照射すると、気体状態で照射されたガリウムが測定対象51の表面に窒化ガリウムの結晶又は液体ガリウムとして堆積して成長層(堆積層)52が形成される。本実施形態の場合、CTR測定装置10とRHEED測定装置20とを用いて取得されるデータは、この成長層52の測定データである。そのデータの取得方法は以下のとおりである。
【0024】
この成長層52に向けて、CTR測定装置10から高エネルギーのX線56(放射光など)を照射し、その散乱光57を検出器にて所定の時間ごとに測定することを繰り返す。つまり、例えば1秒間の散乱光57の測定値を蓄積して1枚の散乱像データを得て、次の1秒間の散乱光57の測定値を蓄積して次の1枚の散乱像データを得る。これを所望の時間だけ継続する。
【0025】
所望の時間とは、測定対象の表面の原料の堆積量が所望の量に達するまでの時間である。つまり、どの程度の堆積量まで分析するかによって、所望の時間を適宜設定することができる。例えば、所望の時間とは、測定対象51の表面に複数の原料の原子層が堆積するまでの時間であってもよい。つまり、取得部31は、所定の測定角度ごとに、測定対象51の表面に複数の原子層が積層されるまで第1の測定データと第2の測定データとを並行して連続的に取得する。
【0026】
このCTRデータ取得に並行して、RHEED測定装置20から電子線54を照射して、その回折線55を検出器にて所定の時間ごとに測定することを繰り返す。つまり、例えば1秒間の回折線55の測定値を蓄積して1枚の回折像データを得て、次の1秒間の回折線55の測定値を蓄積して次の1枚の回折像データを得る。これを所望の時間継続する。この場合の所定の時間(例えば1秒間)は、CTRデータ取得で用いた所定の時間(例えば1秒間)と合わせることが好ましい。
【0027】
なお、所定の時間は1秒間である必要はない。所定の時間は、一例として、0.1秒から数秒程度の範囲で選択することができる。この時間が短いと、その間に取得される情報の精度が低下するが、その短い時間分解能で原料の堆積状況を調べることができる。所定の時間を長くすると、その間に取得される情報の精度が向上するが、平均データとなるため、時間分解能が悪くなる。時間あたりの情報取得量を増加させることにより、十分な情報量を得るための所定の時間をより短くすることができ、より短い(高い)時間分解能でデータを取得することができる。
【0028】
以上の測定を所望の時間継続して、1つの面指数L(入射角)に対する測定が終了する。次に、面指数Lを変えて同様の測定を繰り返す。所望の面指数Lをすべて測定することにより、CTRデータ(第1の測定データ)とRHEEDデータ(第2の測定データ)を得ることができる。CTRデータとRHEEDデータを得た後、CTRデータを、RHEEDデータを用いて時間補正する。
【0029】
(データ取得方法M1)
以上のデータ取得方法について、図3を参照して説明する。図3は、本実施形態に係るデータ取得装置30が、測定データを取得して時間補正を行うデータ取得方法M1の流れを示すフローチャートである。図3に示すように、データ取得方法M1は、ステップS11~ステップS15を含む。
【0030】
ステップS11において、装置制御部33は、測定対象の測定角度を設定する。測定角度は、前述の面指数Lに関連付けられる。測定角度を設定する方法は、測定対象の向きを変えてもよく、測定対象に対するCTR測定装置10のX線放射角度とRHEED測定装置20の電子線放射角度を変えてもよい。なお、必要に応じ、回折像検出器の位置を変更してもよい。
【0031】
次に、ステップS12において、装置制御部33は、測定対象に原料を照射しながらRHEED回折線を連続して測定する測定ステップとCTR散乱光を連続して測定する測定ステップとを、時間的に並行して行う。つまり、放射光結晶トランケーションロッド散乱測定装置により得られる経時的測定データである第1の測定データを取得する第1測定ステップを行う。また、第1の測定データと並行して取得されたデータであって、反射高速電子線回折装置により得られる経時的測定データである第2の測定データを取得する第2測定ステップを行う。測定されたデータは、取得部31が取得してメモリ35に記録する。RHEED回折線とCTR散乱光の測定は、装置制御部33がCTR測定装置10とRHEED測定装置20を制御して実行する。
【0032】
次に、ステップS13において、データ取得装置30は、所定の測定角度をすべて測定したか否かを判定する。ステップS13において、所定の測定角度をすべて測定したと判定された場合(ステップS13:YES)は、フローはステップS14に移行する。
【0033】
ステップS14において、補正部32は、RHEED回折線測定データ(第2の測定データ)を用いて、CTR散乱光測定データ(第1の測定データ)を時間補正する。補正部32は補正したデータをメモリ35に記録する。ステップS14の詳細な内容とその必要性については後述する。
【0034】
一方、ステップS13において、所定の測定角度をすべて測定していないと判定された場合(ステップS13:NO)は、ステップS15に移行する。ステップS15において、原料照射を停止して基板(測定対象)の表面が原料照射前の状態に戻るまで待ち、ステップS11に戻る。
【0035】
原料照射の停止は、装置制御部33が原料照射装置53を制御して実行する。原料照射を停止することにより、高温高真空下に配置された基板に堆積した原料は、基板から気化(脱離)するため、基板の表面は原料照射前の状態に戻る。
【0036】
(データ補正方法M2)
上記のステップS14は、CTRデータを時間補正するステップである。なぜこのような補正が必要になるかを説明する。上述のデータ取得方法M1では、1つの測定角度ごとに原料を基板に堆積させながらCTRデータを取得する。それぞれの測定角度において、原料を最初に何も堆積していない状態の基板に照射して堆積させる。そのため、それぞれの測定角度においてそのような測定を行って、すべての測定結果を総合すれば、表面と内部の堆積状況の時間的な変化がわかるのではないかとも考えられる。しかし、原料照射条件を一定にしても、基板に到達する原料の流れが必ずしも一定ではないため、堆積状況もそれぞれ異なってくる。そのため、異なる測定角度のデータを同じ時間軸で配列することはできない。そこで、それぞれの測定角度のデータを原料の堆積状況に応じて時間を補正して共通の時間軸に配列できるようにする必要がある。
【0037】
以下に、時間補正したデータを取得するステップS14について詳細に説明する。図4は、補正部32が実行する、データを時間補正するデータ補正方法M2の流れを示すフローチャートである。図4に示すように、データ補正方法M2はステップS21~ステップS23を含む。
【0038】
まず、ステップS21において、補正部32は、放射光結晶トランケーションロッド散乱測定装置により得られた経時的測定データであるCTRデータ(第1の測定データ)を、メモリ35から取得する(第1取得ステップ)。また、補正部32は、第1の測定データと並行して取得されたデータであって、反射高速電子線回折装置により得られた経時的測定データであるRHEEDデータ(第2の測定データ)を、メモリ35から取得する(第2取得ステップ)。なお、第1取得ステップと第2取得ステップの前後関係は特になく、どちらを先に行ってもよく、並行して行ってもよい。次に、補正部32は、第2の測定データを用いて、前記第1の測定データを時間補正する(補正ステップ)。この時間補正は、具体的には、次のステップS22とステップS23により実行される。
【0039】
ステップS22において、補正部32は、RHEEDデータの特定ポイントの時間位置を検出する。具体的には、補正部32は、測定角度ごとに、RHEEDデータの特定ポイントの時間位置を検出する。
【0040】
ステップS23において、補正部32は、RHEEDデータを用いて、CTRデータを時間補正する。具体的には、補正部32は、特定ポイントの時間位置を基準にして、CTRデータを時間補正する。より具体的には、補正部32は、特定ポイントの時間位置を基準にして、測定角度ごとにCTRデータを時間補正する。以上でデータ補正方法M2は終了し、データ取得方法M1も終了する。以上のデータ補正処理により、異なる測定角度の複数のデータを共通の時間軸で配列することが可能となる。
【0041】
ここで、RHEEDデータの特定ポイントについて説明する。図5は、CTRデータとRHEEDデータをグラフ化した図である。図5の501は、面指数Lが0.7の場合のCTRデータとRHEEDデータのグラフであり、図5の502は、面指数Lが1.3の場合のCTRデータとRHEEDデータのグラフである。それぞれ、上側にCTRデータを、下側にRHEEDデータを同じ時間軸(横軸t)に合わせて配置している。縦軸はいずれも強度(単位は任意)を示す。
【0042】
RHEEDデータのグラフに示すように、回折の強度は、原料照射開始(t=0)から減少し、ある時点で反転して谷(tで示す時間位置)を形成して上昇し始める。このtで示す時間位置を谷ポイントと称する。その後、また反転して山(tで示す時間位置)を形成して減少する。このtで示す時間位置を山ポイントと称する。この特徴は、面指数Lが0.7の場合も面指数Lが1.3の場合も共通して現れる。図5では、面指数Lが0.7の場合の谷の時間位置をt(0.7)、面指数Lが1.3の場合の谷の時間位置をt(1.3)で示している。山の時間位置も同様に示している。
【0043】
このようなポイントは、基板表面に堆積した原料物質の堆積状況の変化により生じるものと考えられており、面指数Lが異なっても各ポイント時点における基板表面の原料の堆積状況は同じであると考えられる。そこで、各ポイントの時点(時間位置)を特定ポイントとし、特定ポイントを基準として時間補正を行うことができる。特定ポイントとしては、上述の谷ポイント、山ポイント、又は初期ポイント(原料照射開始時点、つまりt=0の時点)のうちの少なくともいずれかを用いることができる。
【0044】
図5のCTRデータには、時間補正する前のデータを黒丸(●)とし、特定ポイントtとtを用いて時間補正した後のデータを白抜き三角(△)として併せて表示している。図5のCTRデータは、下式に示す補正式を用いて補正したデータである。
【0045】
時間補正は、例えば以下の補正式を用いることができる。
【数1】

【0046】
上記の補正式において、符号の意味は下記のとおりである。
Corrected(L):あるLにおける補正後のCTRデータの時間。
Raw(L):あるLにおける補正前のCTRデータの時間。
(L):あるLにおけるRHEEDデータの谷ポイントの時間。
(L):あるLにおけるRHEEDデータの山ポイントの時間。
(0.5):L=0.5におけるRHEEDデータの谷ポイントの時間。
(0.5):L=0.5におけるRHEEDデータの山ポイントの時間。
なお、CTRデータを補正する方法は上式に限られず、複数の測定角度で測定したデータを時間的に補正して共通の時間軸で配列することができる方法であればよい。
【0047】
図6は、時間補正したCTRデータを、面指数Lを横軸として記載したグラフである。縦軸は測定強度(単位は任意)である。グラフの最も左側に点線で囲んだ縦列のデータ群は、面指数L=0.5に設定した1回の測定で得られたデータ群である。図6は、面指数Lを変えて取得されたこのようなデータ群を1つのグラフにまとめたものである。
【0048】
グラフの右側に記載した数値は、測定時間(原料照射時間)を示す。つまり、「0s」とある最下段のデータ群は、原料照射開始時(原料が未堆積の状態)におけるCTRデータである。その上の「1.6s」と記載されたデータ群は、原料照射開始から1.6秒後までの累積測定データである。さらにその上の「3.2s」と記載されたデータ群は、原料照射開始から3.2秒後までの累積測定データであり、以下同様である。面指数Lが異なるデータは、前述の時間補正をしているので、このように1つのグラフとしてまとめることができる。
【0049】
なお、データ補正方法M2は、前述の表面状態測定システム1のデータ取得装置30の補正部32が実行する例を説明した。しかし、このデータ補正方法M2は、以下に説明するデータ補正装置2を用いて実行してもよい。
【0050】
図12は、本実施形態に係るデータ補正装置2の構成を示すブロック図である。データ補正装置2は、データ取得部21、データ補正部22、プロセッサ23、メモリ24、及び入出力インターフェース25を備えている。データ補正装置2は、インターネット等の情報通信ネットワークNを介して、データベース50と情報通信可能に接続されている。
【0051】
データベース50には、放射光結晶トランケーションロッド散乱測定装置により得られる経時的測定データである第1の測定データと、第1の測定データと並行して取得されたデータであって、反射高速電子線回折装置により得られる経時的測定データである第2の測定データがセットとして記録されている。
【0052】
データ取得部21は、情報通信ネットワークNを介して、データベース50から第1の測定データと第2の測定データを取得する。データ補正部22は、第2の測定データを用いて、第1の測定データを時間補正する。
【0053】
メモリ24は、各種の揮発性又は不揮発性のROM(Read Only Memory)又はRAM(Random Access Memory)等から構成される。ROMには、各種のプログラムが記憶されている。各種のプログラムとは、例えば、データ取得プログラム、データ補正プログラム等である。
【0054】
プロセッサ23は、メモリ24のROMに記憶した各種プログラムをRAMに展開して実行することにより、データ取得部21及びデータ補正部22としての機能を実現する。プロセッサ23は、データ取得装置30のプロセッサ34と同様の構成を有する。
【0055】
データ補正装置2は、入出力インターフェース25を介して、補正したデータを表示装置26又は図示しないパーソナルコンピュータ等に出力してもよい。
【0056】
上述のデータ補正装置2を用いることにより、解析者が自ら第1の測定データと第2の測定データを実験により取得する必要はない。解析者は、データ補正装置2を用いて、データベース50に記録された、様々な基板に様々な元素を堆積させた際の第1の測定データと第2の測定データを取得し、それを補正して補正データを得て、さらに補正データを解析することにより、基板上に形成された結晶の表面の変化だけでなく、内部の変化の情報も秒単位で取得することができる。
【0057】
以上の実施形態1に係るデータ取得装置によれば、取得部が放射光結晶トランケーションロッド散乱測定装置により得られるCTRデータと、反射高速電子線回折装置により得られるRHEEDデータとを並行して取得し、さらに補正部がRHEEDデータを用いてCTRデータを時間補正する。このようにして取得したデータを組み合わせて解析することにより、結晶の表面の変化だけでなく、内部の変化の情報も秒単位で取得することができる。
【0058】
また、実施形態1に係るデータ取得方法によれば、放射光結晶トランケーションロッド散乱測定装置により得られるCTRデータを取得するステップと、反射高速電子線回折装置により得られるRHEEDデータとを並行して取得するステップと、RHEEDデータを用いてCTRデータを時間補正するステップと、を含む。このようにして補正したデータを組み合わせて解析することにより、結晶の表面の変化だけでなく、内部の変化の情報も秒単位で取得することができる。
【実施例0059】
次に、本発明の一実施例について説明する。本実施例は、図2に示す装置構成で行い、(0001)面を露出させた窒化ガリウム(GaN)を測定対象の基板として用いた。図7は、Ga原料の照射中及び照射停止後の放射光を用いたCTR散乱の強度とRHEED回折の強度の時間変化を示すグラフである。CTR散乱の強度の時間変化は、測定データを取得するソフトウエア(Certified Scientific Software社製、spec)を用いて取得した。RHEED回折の強度の時間変化は、測定データを取得するソフトウエア(k-space社製)を用いて取得した。図7では一例として、面指数L=1.0の場合の結果を701に、L=2.2の場合の結果を702に、L=3.0の場合の結果を703に示したが、L=0.5から3.0(または4.0)まで0.1刻みで同様の測定を繰り返した。
【0060】
図示するように、GaN表面へのGa原料の照射によってRHEED強度は減少するが、照射を一旦停止すると、堆積していたGa原子が表面から脱離することでGaN表面が現れ、RHEED強度が回復する。一方のCTR散乱強度は面指数Lに対して大きく依存することが分かる。各面指数Lでの並行計測において、原料照射速度の違いを補正するため、前述の方法によりCTR散乱の測定時間の補正を行った。
【0061】
図8は、Ga原料照射中の放射光CTR散乱のL依存性を示すグラフである。図8に示すように各Lにおいて同じ照射時間のCTR散乱強度を1秒以下の時間分解能で集積することができた。図の801は対称00反射の場合で、Ga原料照射によってGaN表面で形成される液体Gaの表面垂直方向の構造を反映する。図の802は非対称01反射の場合で、液体Gaの面内方向の構造を反映している。このように、Ga照射中のCTR散乱強度のL依存性を対称反射と非対称反射でそれぞれ取得し、X線散乱理論によるデータフィッティングを行うことで、液体GaがGaN表面で形成する3次元的な秩序構造を原子スケールで可視化することができた。
【0062】
図9は、放射光CTR散乱のL依存性のデータを解析することで得られた、液体Gaが作る秩序構造の形成過程を示す模式図である。図9は、基板であるGaNの(0001)表面に形成された秩序構造の経時変化を示す模式図である。図中のN LayerとLayer 0は、GaNの窒素原子の層とGa原子の層を示す。図9に示す場合は、Ga照射によって徐々に基板表面にGaが層を形成していき、結果的に2原子層(バイレイヤー)の秩序構造が形成される様子が観察された。具体的には、図9の901(Ga照射前)から902(中間状態)に示すように、Gaを照射していくとGaの第1層(Layer 1)が形成され、次いでGaの第2層(Layer 2)が形成されていく。しかし、図9の903(Ga照射後)に示すように、2原子層以上のGaを照射しても、Gaは層を形成せずに、2量体のGaが無秩序の液滴として表面に堆積することがわかった。なお、図中の太矢印は、原子の移動の方向とその動き易さを示す。最終的な被覆率は、第1層が~0、9ML(モノレイヤ)、第2層が~0.9MLであった。これらの実験結果は過去に第一原理計算で予測されていたGaのバイレイヤーの構造とよく一致している(J. Northrup et al., Phys. Rev. B 61, 9932 (2000))。
【0063】
図10は、基板であるGaNの(000-1)表面に形成された秩序構造の経時変化を示す模式図である(「-1」は1バーを示す)。図10の1001(Ga照射前)のN LayerとLayer 0は、GaNの窒素原子の層とGa原子の層を示す。図10の1002(中間状態)から1003(Ga照射後)に示すように、GaN(000-1)表面にGa照射を行った場合、GaN(0001)表面でみられていた秩序性の高い構造は形成されずに、空孔の多い不完全な構造を示すことが分かった。図中、空孔は点線の円で示されている。また、第1層(Layer 1)の原子の動き易さを示す太矢印が長いのは、原子が動き易くなっていることを示している。このように、本技術を用いることで、GaNの面方位がGaの秩序構造の形成過程の違いに影響することが初めて明らかになった。
【0064】
図11は、液体Gaが作る秩序構造の基板温度依存性を示すグラフである。グラフ(a)は、縦軸が格子間隔(単位はオングストローム)、横軸は基板温度(℃)である。グラフ(b)は、縦軸が被覆率(単位はML(Monolayer):原子層数)、横軸は基板温度(℃)である。グラフ(c)は、縦軸が全被覆率の増加率(%)、横軸は基板温度(℃)である。
【0065】
GaN(0001)表面の場合、(a)に示すようにGa照射後のバイレイヤーの格子間隔(Layer 0とLayer 1との距離、及びLayer 1とLayer 2との距離)は基板温度に対して変化しないことがわかった。一方で、(b)に示すようにGa原子の被覆率は基板温度が低くなるにつれて低下し、基板温度が高い方が秩序構造の完全性が高いことがわかった。さらに、(c)に示すように、GaN(000-1)表面の場合は基板温度に関係なく、GaN(0001)表面に比べて、液体Gaは表面で秩序構造を形成しにくいことがわかった。
【0066】
一般的に、GaN(0001)表面の場合は基板温度が高い条件でGaN薄膜を成長する方が、GaN薄膜の表面平坦性が良好であることが知られている。さらに、GaN(000-1)表面はGaN(0001)表面に比べて表面平坦性が悪化することが知られている。以上のことから、本技術によって、液体Gaが表面で作る秩序構造とGaN薄膜の表面平坦性や品質に相関がある可能性を示すことができた。これらの結果は、工業的に重要なGaN系半導体デバイスの高性能化に資する知見として期待できる。
【0067】
〔ソフトウエアによる実現例〕
データ取得装置30(以下、「装置」と呼ぶ)の機能は、当該装置としてコンピュータを機能させるためのプログラムであって、当該装置の各制御ブロック(特にデータ取得装置30に含まれる各部)としてコンピュータを機能させるためのプログラムにより実現することができる。
【0068】
この場合、上記装置は、上記プログラムを実行するためのハードウェアとして、少なくとも1つの制御装置(例えばプロセッサ)と少なくとも1つの記憶装置(例えばメモリ)を有するコンピュータを備えている。この制御装置と記憶装置により上記プログラムを実行することにより、上記各実施形態で説明した各機能が実現される。
【0069】
上記プログラムは、一時的ではなく、コンピュータ読み取り可能な、1または複数の記録媒体に記録されていてもよい。この記録媒体は、上記装置が備えていてもよいし、備えていなくてもよい。後者の場合、上記プログラムは、有線または無線の任意の伝送媒体を介して上記装置に供給されてもよい。
【0070】
また、上記各制御ブロックの機能の一部または全部は、論理回路により実現することも可能である。例えば、上記各制御ブロックとして機能する論理回路が形成された集積回路も本発明の範疇に含まれる。この他にも、例えば量子コンピュータにより上記各制御ブロックの機能を実現することも可能である。
【0071】
〔まとめ〕
本発明の一態様に係るデータ取得装置は、X線結晶トランケーションロッド散乱測定装置により得られる経時的測定データである第1の測定データと、反射高速電子線回折装置により得られる経時的測定データである第2の測定データとを並行して取得する取得部と、前記第2の測定データを用いて前記第1の測定データを時間補正する補正部と、を備える。
【0072】
上記の態様によれば、結晶の表面の変化だけでなく、内部の変化の情報も秒単位で取得することができる。
【0073】
本発明の一態様に係るデータ取得装置において、前記補正部は、前記第2の測定データの特定ポイントの時間位置を検出し、前記特定ポイントの時間位置を基準にして前記第1の測定データを時間補正する。
【0074】
上記の態様によれば、特定ポイントを用いて第1の測定データと第2の測定データの時間的なずれを補正することができる。
【0075】
本発明の一態様に係るデータ取得装置において、前記特定ポイントは、前記第2の測定データの初期ポイント、谷ポイント及び山ポイントのうちの少なくともいずれかを含む。
【0076】
上記の態様によれば、第1の測定データと第2の測定データの時間的なずれを、測定データをもとに補正することができる。
【0077】
本発明の一態様に係るデータ取得装置において、前記取得部は、所定の測定角度ごとに、測定対象の表面に複数の原子層が積層されるまで前記第1の測定データと前記第2の測定データとを並行して連続的に取得する。
【0078】
上記の態様によれば、原子の堆積状態を複数の原子層が積層されるまで測定することができる。
【0079】
本発明の一態様に係るデータ取得装置は、前記X線結晶トランケーションロッド散乱測定装置及び前記反射高速電子線回折装置を制御する装置制御部を更に備える。
【0080】
上記の態様によれば、X線結晶トランケーションロッド散乱測定装置及び反射高速電子線回折装置をプログラムによって制御し、データを取得することができる。
【0081】
本発明の一態様に係るデータ補正方法は、X線結晶トランケーションロッド散乱測定装置により得られる経時的測定データである第1の測定データを取得する第1取得ステップと、前記第1の測定データと並行して取得されたデータであって、反射高速電子線回折装置により得られる経時的測定データである第2の測定データを取得する第2取得ステップと、前記第2の測定データを用いて、前記第1の測定データを時間補正する補正ステップと、を含む。
【0082】
上記の態様によれば、結晶の表面の変化だけでなく、内部の変化の情報も秒単位で取得することができる。
【0083】
本発明の一態様に係るデータ補正方法において、前記補正ステップは、前記第2の測定データの特定ポイントの時間位置を検出し、前記特定ポイントの時間位置を基準にして前記第1の測定データを時間補正するステップである。
【0084】
上記の態様によれば、特定ポイントを用いて第1の測定データと第2の測定データの時間的なずれを補正することができる。
【0085】
本発明の一態様に係るデータ補正方法において、前記特定ポイントは、前記第2の測定データの初期ポイント、谷ポイント及び山ポイントのうちの少なくともいずれかを含む。
【0086】
上記の態様によれば、第1の測定データと第2の測定データの時間的なずれを、測定データをもとに補正することができる。
【0087】
本発明の一態様に係るデータ補正方法において、前記第1取得ステップと前記第2取得ステップは、所定の測定角度ごとに、測定対象の表面に複数の原子層が積層されるまで前記第1の測定データと前記第2の測定データとを並行して連続的に取得するステップである。
【0088】
上記の態様によれば、原子の堆積状態を複数の原子層が積層されるまで測定することができる。
【0089】
本発明の一態様に係るデータ補正装置は、X線結晶トランケーションロッド散乱測定装置により得られる経時的測定データである第1の測定データと、第1の測定データと並行して取得されたデータであって、反射高速電子線回折装置により得られる経時的測定データである第2の測定データと、を取得するデータ取得部と、前記第2の測定データを用いて、前記第1の測定データを時間補正するデータ補正部と、を備える。
【0090】
本発明の一態様に係るプログラムは、コンピュータを、X線結晶トランケーションロッド散乱測定装置により得られる経時的測定データである第1の測定データと、反射高速電子線回折装置により得られる経時的測定データである第2の測定データとを並行して取得する取得部と、前記第2の測定データを用いて前記第1の測定データを時間補正する補正部と、として機能させるためのプログラムである。
【0091】
本発明の一態様に係る記録媒体は、上記のプログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な非一時的記録媒体である。
【0092】
〔付記事項〕
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0093】
1…表面状態測定システム
10…CTR測定装置
20…RHEED測定装置
30…データ取得装置
31…取得部
32…補正部
33…装置制御部
34…プロセッサ
35…メモリ

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13