(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023013631
(43)【公開日】2023-01-26
(54)【発明の名称】銅/セラミックス接合体、絶縁回路基板、および、銅/セラミックス接合体の製造方法、絶縁回路基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
H05K 3/38 20060101AFI20230119BHJP
C04B 37/02 20060101ALI20230119BHJP
H01L 23/13 20060101ALI20230119BHJP
H01L 23/12 20060101ALI20230119BHJP
【FI】
H05K3/38
C04B37/02 B
H01L23/12 C
H01L23/12 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021117953
(22)【出願日】2021-07-16
(71)【出願人】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】寺▲崎▼ 伸幸
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 晶
【テーマコード(参考)】
4G026
5E343
【Fターム(参考)】
4G026BA03
4G026BA16
4G026BA17
4G026BB22
4G026BF16
4G026BF44
4G026BG02
4G026BH07
5E343AA02
5E343AA23
5E343BB24
5E343BB25
5E343BB33
5E343BB35
5E343BB47
5E343BB52
5E343BB67
5E343DD54
5E343ER36
5E343ER39
5E343GG16
(57)【要約】
【課題】厳しい冷熱サイクルを負荷した場合であっても、セラミックス部材における割れの発生を抑制でき、冷熱サイクル信頼性に優れた銅/セラミックス接合体を提供する。
【解決手段】銅又は銅合金からなる銅部材12,13と、セラミックス部材11とが接合されてなる銅/セラミックス接合体10であって、セラミックス部材11と銅部材12,13との接合界面において、セラミックス部材11側には活性金属化合物層21が形成されており、活性金属化合物層21から銅部材12,13側へ10μmまでの領域における活性金属炭化物の面積率が8%以下とされていることを特徴とする。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅又は銅合金からなる銅部材と、セラミックス部材とが接合されてなる銅/セラミックス接合体であって、
前記セラミックス部材と前記銅部材との接合界面において、前記セラミックス部材側には活性金属化合物層が形成されており、
前記活性金属化合物層から前記銅部材側へ10μmまでの領域における活性金属炭化物の面積率が8%以下とされていることを特徴とする銅/セラミックス接合体。
【請求項2】
前記活性金属化合物層の厚さt1が0.05μm以上1.2μm以下の範囲内とされていることを特徴とする請求項1に記載の銅/セラミックス接合体。
【請求項3】
前記セラミックス部材と前記銅部材との接合界面において、前記銅部材側にはAg-Cu合金層が形成されており、
前記Ag-Cu合金層の厚さt2が1μm以上30μm以下の範囲内とされていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の銅/セラミックス接合体。
【請求項4】
セラミックス基板の表面に、銅又は銅合金からなる銅板が接合されてなる絶縁回路基板であって、
前記セラミックス基板と前記銅板との接合界面において、前記セラミックス基板側には活性金属化合物層が形成されており、
前記活性金属化合物層から前記銅板側へ10μmまでの領域における活性金属炭化物の面積率が8%以下とされていることを特徴とする絶縁回路基板。
【請求項5】
前記活性金属化合物層の厚さt1が0.05μm以上1.2μm以下の範囲内とされていることを特徴とすることを特徴とする請求項4に記載の絶縁回路基板。
【請求項6】
前記セラミックス基板と前記銅板との接合界面において、前記銅板側にはAg-Cu合金層が形成されており、
前記Ag-Cu合金層の厚さt2が1μm以上30μm以下の範囲内とされていることを特徴とする請求項4または請求項5に記載の絶縁回路基板。
【請求項7】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の銅/セラミックス接合体を製造する銅/セラミックス接合体の製造方法であって、
前記銅部材と前記セラミックス部材との間に、AgとTi,Zr,Nb,Hfから選択される1種以上の活性金属を含む接合材を配設する接合材配設工程と、
前記銅部材と前記セラミックス部材とを、前記接合材を介して積層する積層工程と、
前記銅部材と前記セラミックス部材との積層体を加熱炉に装入し、炉内に不活性ガスを導入するとともに炉内のガスを排出しながら、炉内の圧力を150Pa以上700Pa以上の範囲内に維持するとともに加熱し、前記銅部材と前記セラミックス部材との間のカーボン成分を排出するカーボン成分排出工程と、
前記接合材を介して積層された前記銅部材と前記セラミックス部材とを積層方向に加圧した状態で加熱処理し、前記銅部材と前記セラミックス部材の界面に液相を生じさせ、その後、冷却することで前記液相を凝固させて、前記銅部材と前記セラミックス部材とを接合する本接合工程と、
を備えていることを特徴とする銅/セラミックス接合体の製造方法。
【請求項8】
前記接合材配設工程において、前記銅部材と前記セラミックス部材との間におけるカーボン量を200μg/cm2以下とすることを特徴とする請求項7に記載の銅/セラミックス接合体の製造方法。
【請求項9】
請求項4から請求項6のいずれか一項に記載の絶縁回路基板を製造する絶縁回路基板の製造方法であって、
前記銅板と前記セラミックス基板との間に、AgとTi,Zr,Nb,Hfから選択される1種以上の活性金属を含む接合材を配設する接合材配設工程と、
前記銅板と前記セラミックス基板とを、前記接合材を介して積層する積層工程と、
前記銅板と前記セラミックス基板との積層体を加熱炉に装入し、炉内に不活性ガスを導入するとともに炉内のガスを排出しながら、炉内の圧力を150Pa以上700Pa以上の範囲内に維持するとともに加熱し、前記銅板と前記セラミックス基板との間のカーボン成分を排出するカーボン成分排出工程と、
前記接合材を介して積層された前記銅板と前記セラミックス基板とを積層方向に加圧した状態で加熱処理し、前記銅板と前記セラミックス基板の界面に液相を生じさせ、その後、冷却することで前記液相を凝固させて、前記銅板と前記セラミックス基板とを接合する本接合工程と、
を備えていることを特徴とする絶縁回路基板の製造方法。
【請求項10】
前記接合材配設工程において、前記銅板と前記セラミックス基板との間におけるカーボン量を200μg/cm2以下とすることを特徴とする請求項9に記載の絶縁回路基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、銅又は銅合金からなる銅部材と、セラミックス部材とが接合されてなる銅/セラミックス接合体、セラミックス基板の表面に、銅又は銅合金からなる銅板が接合されてなる絶縁回路基板、および、銅/セラミックス接合体の製造方法、絶縁回路基板の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
パワーモジュール、LEDモジュールおよび熱電モジュールにおいては、絶縁層の一方の面に導電材料からなる回路層を形成した絶縁回路基板に、パワー半導体素子、LED素子および熱電素子が接合された構造とされている。
例えば、風力発電、電気自動車、ハイブリッド自動車等を制御するために用いられる大電力制御用のパワー半導体素子は、動作時の発熱量が多いことから、これを搭載する基板としては、セラミックス基板と、このセラミックス基板の一方の面に導電性の優れた金属板を接合して形成した回路層と、セラミックス基板の他方の面に金属板を接合して形成した放熱用の金属層と、を備えた絶縁回路基板が、従来から広く用いられている。
【0003】
例えば、特許文献1には、セラミックス基板の一方の面および他方の面に、銅板を接合することにより回路層および金属層を形成した絶縁回路基板が提案されている。この特許文献1においては、セラミックス基板の一方の面および他方の面に、Ag-Cu-Ti系ろう材を介在させて銅板を配置し、加熱処理を行うことにより銅板が接合されている(いわゆる活性金属ろう付け法)。
【0004】
また、特許文献2においては、銅又は銅合金からなる銅板と、AlN又はAl2O3からなるセラミックス基板とが、AgおよびTiを含む接合材を用いて接合されたパワーモジュール用基板が提案されている。
さらに、特許文献3には、銅又は銅合金からなる銅板と、窒化ケイ素からなるセラミックス基板とが、AgおよびTiを含む接合材を用いて接合されたパワーモジュール用基板が提案されている。
前述のように、Tiを含む接合材を用いて銅板とセラミックス基板とを接合した場合には、活性金属であるTiがセラミックス基板と反応することにより、接合材の濡れ性が向上し、銅板とセラミックス基板との接合強度が向上することになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3211856号公報
【特許文献2】特許第5757359号公報
【特許文献3】特開2018-008869号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、最近では、絶縁回路基板に搭載される半導体素子の発熱温度が高くなる傾向にあり、絶縁回路基板には、従来にも増して、厳しい冷熱サイクルに耐えることができる冷熱サイクル信頼性が求められている。
ここで、前述のように、Tiを含む接合材を用いて銅板とセラミックス基板とを接合した場合には、接合界面近傍が硬くなり、冷熱サイクル負荷時にセラミックス部材に割れが生じ、冷熱サイクル信頼性が低下するおそれがあった。
【0007】
この発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、厳しい冷熱サイクルを負荷した場合であっても、セラミックス部材における割れの発生を抑制でき、冷熱サイクル信頼性に優れた銅/セラミックス接合体、この銅/セラミックス接合体からなる絶縁回路基板、および、銅/セラミックス接合体の製造方法、絶縁回路基板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前述の課題を解決するために、本発明者らが鋭意検討した結果、セラミックス部材と銅部材とを、活性金属を含む接合材を用いて接合した際に、接合界面にカーボンが存在すると、活性金属とカーボンとが反応して活性金属炭化物が形成され、この活性金属炭化物による硬化によって接合界面が硬くなることが分かった。このため、活性金属炭化物の存在量を適正化することで、冷熱サイクル負荷時のセラミックス部材の割れの発生を抑制可能となるとの知見を得た。
【0009】
本発明は、前述の知見を基になされたものであって、本発明の銅/セラミックス接合体は、銅又は銅合金からなる銅部材と、セラミックス部材とが接合されてなる銅/セラミックス接合体であって、前記セラミックス部材と前記銅部材との接合界面において、前記セラミックス部材側には活性金属化合物層が形成されており、前記活性金属化合物層から前記銅部材側へ10μmまでの領域における活性金属炭化物の面積率が8%以下とされていることを特徴としている。
【0010】
本発明の銅/セラミックス接合体によれば、前記セラミックス部材と前記銅部材との接合界面において、前記セラミックス部材側には活性金属化合物層が形成されており、前記活性金属化合物層から前記銅部材側へ10μmまでの領域における活性金属炭化物の面積率が8%以下とされているので、接合界面が硬くなることを抑制でき、冷熱サイクル負荷時のセラミックス部材の割れの発生を抑制することができる。
【0011】
ここで、本発明の銅/セラミックス接合体においては、前記活性金属化合物層の厚さt1が0.05μm以上1.2μm以下の範囲内とされていることが好ましい。
この場合、前記活性金属化合物層の厚さt1が0.05μm以上1.2μm以下の範囲内とされているので、活性金属によってセラミックス部材と銅部材とが確実に強固に接合されているとともに、接合界面が硬くなることがさらに抑制される。
【0012】
また、本発明の銅/セラミックス接合体においては、前記セラミックス部材と前記銅部材との接合界面において、前記銅部材側にはAg-Cu合金層が形成されており、前記Ag-Cu合金層の厚さt2が1μm以上30μm以下の範囲内とされていることが好ましい。
この場合、接合材のAgが銅部材と十分に反応してセラミックス部材と銅部材とが確実に強固に接合されているとともに、接合界面が硬くなることがさらに抑制される。
【0013】
本発明の絶縁回路基板は、セラミックス基板の表面に、銅又は銅合金からなる銅板が接合されてなる絶縁回路基板であって、前記セラミックス基板と前記銅板との接合界面において、前記セラミックス基板側には活性金属化合物層が形成されており、前記活性金属化合物層から前記銅板側へ10μmまでの領域における活性金属炭化物の面積率が8%以下とされていることを特徴としている。
【0014】
本発明の絶縁回路基板によれば、前記セラミックス基板と前記銅板との接合界面において、前記セラミックス基板側には活性金属化合物層が形成されており、前記活性金属化合物層から前記銅板側へ10μmまでの領域における活性金属炭化物の面積率が8%以下とされているので、接合界面が硬くなることを抑制でき、冷熱サイクル負荷時のセラミックス基板の割れの発生を抑制することができる。
【0015】
ここで、本発明の絶縁回路基板においては、前記活性金属化合物層の厚さt1が0.05μm以上1.2μm以下の範囲内とされていることが好ましい。
この場合、前記活性金属化合物層の厚さt1が0.05μm以上1.2μm以下の範囲内とされているので、活性金属によってセラミックス基板と銅板とが確実に強固に接合されているとともに、接合界面が硬くなることがさらに抑制される。
【0016】
また、本発明の絶縁回路基板においては、前記セラミックス基板と前記銅板との接合界面において、前記銅板側にはAg-Cu合金層が形成されており、前記Ag-Cu合金層の厚さt2が1μm以上30μm以下の範囲内とされていることが好ましい。
この場合、接合材のAgが銅板と十分に反応してセラミックス基板と銅板とが確実に強固に接合されているとともに、接合界面が硬くなることがさらに抑制される。
【0017】
本発明の銅/セラミックス接合体の製造方法は、上述の銅/セラミックス接合体を製造する銅/セラミックス接合体の製造方法であって、前記銅部材と前記セラミックス部材との間に、AgとTi,Zr,Nb,Hfから選択される1種以上の活性金属を含む接合材を配設する接合材配設工程と、前記銅部材と前記セラミックス部材とを、前記接合材を介して積層する積層工程と、前記銅部材と前記セラミックス部材との積層体を加熱炉に装入し、炉内に不活性ガスを導入するとともに炉内のガスを排出しながら、炉内の圧力を150Pa以上700Pa以上の範囲内に維持するとともに加熱し、前記銅部材と前記セラミックス部材との間のカーボン成分を排出するカーボン成分排出工程と、前記接合材を介して積層された前記銅部材と前記セラミックス部材とを積層方向に加圧した状態で加熱処理し、前記銅部材と前記セラミックス部材の界面に液相を生じさせ、その後、冷却することで前記液相を凝固させて、前記銅部材と前記セラミックス部材とを接合する本接合工程と、を備えていることを特徴としている。
【0018】
本発明の銅/セラミックス接合体の製造方法によれば、前記銅部材と前記セラミックス部材との積層体を加熱炉に装入し、炉内に不活性ガスを導入するとともに炉内のガスを排出しながら、炉内の圧力を150Pa以上700Pa以上の範囲内に維持するとともに加熱し、前記銅部材と前記セラミックス部材との間のカーボン成分を排出するカーボン成分排出工程を備えているので、接合時における活性金属炭化物の生成を抑制することができる。よって、接合界面が硬くなることを抑制でき、冷熱サイクル負荷時のセラミックス部材の割れの発生を抑制することが可能となる。
【0019】
ここで、本発明の銅/セラミックス接合体の製造方法においては、前記接合材配設工程において、前記銅部材と前記セラミックス部材との間におけるカーボン量を200μg/cm2以下とすることが好ましい。
この場合、前記接合材配設工程において、前記銅部材と前記セラミックス部材との間におけるカーボン量を200μg/cm2以下に制限しているので、接合時における活性金属炭化物の生成をさらに抑制することができる。
【0020】
本発明の絶縁回路基板の製造方法は、上述の絶縁回路基板を製造する絶縁回路基板の製造方法であって、前記銅板と前記セラミックス基板との間に、AgとTi,Zr,Nb,Hfから選択される1種以上の活性金属を含む接合材を配設する接合材配設工程と、前記銅板と前記セラミックス基板とを、前記接合材を介して積層する積層工程と、前記銅板と前記セラミックス基板との積層体を加熱炉に装入し、炉内に不活性ガスを導入するとともに炉内のガスを排出しながら、炉内の圧力を150Pa以上700Pa以上の範囲内に維持するとともに加熱し、前記銅板と前記セラミックス基板との間のカーボン成分を排出するカーボン成分排出工程と、前記接合材を介して積層された前記銅板と前記セラミックス基板とを積層方向に加圧した状態で加熱処理し、前記銅板と前記セラミックス基板の界面に液相を生じさせ、その後、冷却することで前記液相を凝固させて、前記銅板と前記セラミックス基板とを接合する本接合工程と、を備えていることを特徴としている。
【0021】
本発明の絶縁回路基板の製造方法によれば、前記銅板と前記セラミックス基板との積層体を加熱炉に装入し、炉内に不活性ガスを導入するとともに炉内のガスを排出しながら、炉内の圧力を150Pa以上700Pa以上の範囲内に維持するとともに加熱し、前記銅板と前記セラミックス基板との間のカーボン成分を排出するカーボン成分排出工程を備えているので、接合時における活性金属炭化物の生成を抑制することができる。よって、接合界面が硬くなることを抑制でき、冷熱サイクル負荷時のセラミックス基板の割れの発生を抑制することが可能となる。
【0022】
ここで、本発明の絶縁回路基板の製造方法においては、前記接合材配設工程において、前記銅板と前記セラミックス基板との間におけるカーボン量を200μg/cm2以下とすることが好ましい。
この場合、前記接合材配設工程において、前記銅板と前記セラミックス基板との間におけるカーボン量を200μg/cm2以下に制限しているので、接合時における活性金属炭化物の生成をさらに抑制することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、厳しい冷熱サイクルを負荷した場合であっても、セラミックス部材における割れの発生を抑制でき、冷熱サイクル信頼性に優れた銅/セラミックス接合体、この銅/セラミックス接合体からなる絶縁回路基板、および、銅/セラミックス接合体の製造方法、絶縁回路基板の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明の実施形態に係る絶縁回路基板を用いたパワーモジュールの概略説明図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る絶縁回路基板の回路層および金属層とセラミックス基板との接合界面の拡大説明図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る絶縁回路基板の製造方法のフロー図である。
【
図4】本発明の実施形態に係る絶縁回路基板の製造方法の概略説明図である。
【
図5】本発明の実施例において、活性金属炭化物の面積率の算出方法を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下に、本発明の実施形態について添付した図面を参照して説明する。
本実施形態に係る銅/セラミックス接合体は、セラミックスからなるセラミックス部材としてのセラミックス基板11と、銅又は銅合金からなる銅部材としての銅板42(回路層12)および銅板43(金属層13)とが接合されてなる絶縁回路基板10である。
図1に、本実施形態である絶縁回路基板10を備えたパワーモジュール1を示す。
【0026】
このパワーモジュール1は、回路層12および金属層13が配設された絶縁回路基板10と、回路層12の一方の面(
図1において上面)に接合層2を介して接合された半導体素子3と、金属層13の他方側(
図1において下側)に配置されたヒートシンク5と、を備えている。
【0027】
半導体素子3は、Si等の半導体材料で構成されている。この半導体素子3と回路層12は、接合層2を介して接合されている。
接合層2は、例えばSn-Ag系、Sn-In系、若しくはSn-Ag-Cu系のはんだ材で構成されている。
【0028】
ヒートシンク5は、前述の絶縁回路基板10からの熱を放散するためのものである。このヒートシンク5は、銅又は銅合金で構成されており、本実施形態ではりん脱酸銅で構成されている。このヒートシンク5には、冷却用の流体が流れるための流路が設けられている。
なお、本実施形態においては、ヒートシンク5と金属層13とが、はんだ材からなるはんだ層7によって接合されている。このはんだ層7は、例えばSn-Ag系、Sn-In系、若しくはSn-Ag-Cu系のはんだ材で構成されている。
【0029】
そして、本実施形態である絶縁回路基板10は、
図1に示すように、セラミックス基板11と、このセラミックス基板11の一方の面(
図1において上面)に配設された回路層12と、セラミックス基板11の他方の面(
図1において下面)に配設された金属層13と、を備えている。
【0030】
セラミックス基板11は、絶縁性および放熱性に優れた窒化ケイ素(Si3N4)、窒化アルミニウム(AlN)、アルミナ(Al2O3)等のセラミックスで構成されている。本実施形態では、セラミックス基板11は、特に放熱性の優れた窒化アルミニウム(AlN)で構成されている。また、セラミックス基板11の厚さは、例えば、0.2mm以上1.5mm以下の範囲内に設定されており、本実施形態では、0.635mmに設定されている。
【0031】
回路層12は、
図4に示すように、セラミックス基板11の一方の面(
図4において上面)に、銅又は銅合金からなる銅板42が接合されることにより形成されている。
本実施形態においては、回路層12は、無酸素銅の圧延板がセラミックス基板11に接合されることで形成されている。
なお、回路層12となる銅板42の厚さは0.1mm以上2.0mm以下の範囲内に設定されており、本実施形態では、0.6mmに設定されている。
【0032】
金属層13は、
図4に示すように、セラミックス基板11の他方の面(
図4において下面)に、銅又は銅合金からなる銅板43が接合されることにより形成されている。
本実施形態においては、金属層13は、無酸素銅の圧延板がセラミックス基板11に接合されることで形成されている。
なお、金属層13となる銅板43の厚さは0.1mm以上2.0mm以下の範囲内に設定されており、本実施形態では、0.6mmに設定されている。
【0033】
ここで、セラミックス基板11と回路層12および金属層13との接合界面においては、
図2に示すように、セラミックス基板11側から順に、活性金属化合物層21、Ag-Cu合金層22が形成されている。なお、活性金属化合物層21を構成する活性金属化合物に活性金属炭化物は含まない。
ここで、活性金属化合物層21は接合材45で用いる活性金属(Ti,Zr,Nb,Hf)の化合物からなる層である。より具体的には、セラミックス基板が窒化ケイ素(Si
3N
4)、又は、窒化アルミニウム(AlN)からなる場合には、これらの活性金属の窒化物からなる層となり、セラミックス基板がアルミナ(Al
2O
3)である場合には、これらの活性金属の酸化物からなる層となる。
活性金属化合物層21は活性金属化合物の粒子が集合して形成されている。この粒子の平均粒径は10nm以上100nm以下である。
なお、本実施形態では、接合材45が活性金属としてTiを含有し、セラミックス基板11が窒化アルミニウムで構成されているため、活性金属化合物層21は、窒化チタン(TiN)で構成される。すなわち、平均粒径が10nm以上100nm以下の窒化チタン(TiN)の粒子が集合して形成されている。
【0034】
そして、本実施形態である絶縁回路基板10においては、
図2に示すように、セラミックス基板11と回路層12および金属層13との接合界面には、活性金属炭化物24が存在している。
ここで、セラミックス基板11と回路層12および金属層13との積層方向に沿った断面において、活性金属化合物層21の表面から回路層12および金属層13側へ10μmまでの視野における活性金属炭化物24の面積率が8%以下とされている。
【0035】
さらに、本実施形態においては、回路層12および金属層13との接合界面に形成された活性金属化合物層21の厚さt1が、0.05μm以上1.2μm以下の範囲内とされていることが好ましい。
また、本実施形態においては、回路層12および金属層13との接合界面に形成されたAg-Cu合金層22の厚さt2が、1μm以上30μm以下とされていることが好ましい。
【0036】
以下に、本実施形態に係る絶縁回路基板10の製造方法について、
図3および
図4を参照して説明する。
【0037】
(接合材配設工程S01)
回路層12となる銅板42と、金属層13となる銅板43とを準備する。
そして、回路層12となる銅板42および金属層13となる銅板43の接合面に、接合材45を塗布し、乾燥させる。ペースト状の接合材45の塗布厚さは、乾燥後で10μm以上50μm以下の範囲内とすることが好ましい。
本実施形態では、スクリーン印刷によってペースト状の接合材45を塗布する。
【0038】
接合材45は、Agと活性金属(Ti,Zr,Nb,Hf)を含有するものとされている。本実施形態では、接合材45として、Ag-Ti系ろう材(Ag-Cu-Ti系ろう材)を用いている。なお、Ag-Ti系ろう材(Ag-Cu-Ti系ろう材)としては、例えば、Cuを0質量%以上45質量%以下の範囲内、活性金属であるTiを0.5質量%以上20質量%以下の範囲で含み、残部がAgおよび不可避不純物とされた組成のものを用いることが好ましい。
【0039】
接合材45に含まれるAg粉の比表面積は、0.15m2/g以上とすることが好ましく、0.25m2/g以上とすることがさらに好ましく、0.40m2/g以上とすることがより好ましい。一方、接合材45に含まれるAg粉の比表面積は、1.40m2/g以下とすることが好ましく、1.00m2/g以下とすることがさらに好ましく、0.75m2/g以下とすることがより好ましい。
【0040】
ここで、本実施形態においては、銅板42,43とセラミックス基板11との間におけるカーボン量を5μg/cm2以上200μg/cm2以下の範囲内とすることが好ましい。ここでのカーボン量は以下の方法により求めたカーボン量である。まず、接合材45の有機成分(Ag粉と活性金属粉を除く成分)については、Arフロー雰囲気で室温から 500 ℃ まで 10℃/minで昇温した時の残渣量(%)をTG-DTAにより測定し、塗布量当たりに換算した有機成分のカーボン量を求めた。次に、接合材に含まれるAg粉および活性金属粉のカーボン量(粉末のカーボン量)は、ガス分析(赤外線吸収法)によって測定した。これらの、有機成分のカーボン量と粉末のカーボン量との合計がカーボン量である。
このカーボン量は、接合材45に含まれる有機成分(溶媒、分散剤等)、Ag粉および活性金属粉に含まれるカーボン量により調整することができる。
【0041】
ここで、カーボン量が200μg/cm2を超える場合、後述するカーボン成分排出工程S03でのカーボンの排出が不十分となり、活性金属炭化物粒子の析出密度の上昇により、 界面近傍が硬化し、冷熱サイクル信頼性が低下するおそれがある。また、接合材45、特にAg粉と活性金属粉には、不可避不純物として熱により分解しにくいカーボンが一定量含まれることからカーボン量を5μg/cm2未満とすることは困難である。
【0042】
(積層工程S02)
次に、セラミックス基板11の一方の面(
図4において上面)に、接合材45を介して回路層12となる銅板42を積層するとともに、セラミックス基板11の他方の面(
図4において下面)に、接合材45を介して金属層13となる銅板43を積層する。
【0043】
(カーボン成分排出工程S03)
次に、銅板42とセラミックス基板11と銅板43との積層体を加熱炉内に装入し、炉内に不活性ガス(He,Ar等)を導入するとともに炉内ガスを排出しながら加熱し、銅板42,43とセラミックス基板11の間のカーボン成分(有機成分(溶媒、分散剤等)、Ag粉および活性金属粉に含まれるカーボン)を排出する。
カーボン成分排出工程S03においては、不活性ガスを導入する前に、加熱炉の炉内圧力を10-6Pa以上10-3以下の範囲内とする。そして、炉内への不活性ガスの導入および炉内ガスの排出を行い、炉内圧力が150Pa以上700Pa以下の範囲内となるように、不活性ガスの導入量および炉内ガスの排出量を調整する。
【0044】
ここで、炉内圧力が150Pa未満の場合、カーボン成分の排出が不十分となり、活性金属炭化物粒子の析出密度の上昇により、界面近傍が硬化し、冷熱サイクル信頼性が低下する。炉内圧力が700Paを超えると、カーボン成分の排出が阻害され、活性金属炭化物粒子の析出密度の上昇により、界面近傍が硬化し、冷熱サイクル信頼性が低下する。
また、カーボン成分排出工程S03において、300℃以上650℃以下の範囲内における温度積分値を250℃・h以上1000℃・h以下の範囲内となるように、温度と時間を調整することが好ましい。
【0045】
(本接合工程S04)
次に、銅板42とセラミックス基板11と銅板43とを加圧した状態で、真空雰囲気の加熱炉内で加熱し、接合材45を溶融する。その後、冷却を行うことにより、溶融した接合材45を凝固させて、回路層12となる銅板42とセラミックス基板11、セラミックス基板11と金属層13となる銅板43とを接合する。
【0046】
ここで、本接合工程S04における加熱温度は、800℃以上850℃以下の範囲内とすることが好ましい。780℃から加熱温度までの昇温工程および加熱温度での保持工程における温度積分値の合計は、7℃・h以上120℃・h以下の範囲内とすることが好ましい。
また、本接合工程S04における加圧荷重は、0.029MPa以上2.94MPa以下の範囲内とすることが好ましい。なお、荷重はカーボン成分排出工程S03から付与されていても構わない。
さらに、本接合工程S04における真空度は、1×10-6Pa以上5×10-2Pa以下の範囲内とすることが好ましい。
また、冷却時における冷却速度は、2℃/min以上20℃/min以下の範囲内とすることが好ましい。なお、ここでの冷却速度は加熱温度からAg-Cu共晶温度である780℃までの冷却速度である。
【0047】
以上のように、接合材配設工程S01、積層工程S02、カーボン成分排出工程S03、本接合工程S04によって、本実施形態である絶縁回路基板10が製造されることになる。
【0048】
(ヒートシンク接合工程S05)
次に、絶縁回路基板10の金属層13の他方の面側にヒートシンク5を接合する。
絶縁回路基板10とヒートシンク5とを、はんだ材を介して積層して加熱炉に装入し、はんだ層7を介して絶縁回路基板10とヒートシンク5とをはんだ接合する。
【0049】
(半導体素子接合工程S06)
次に、絶縁回路基板10の回路層12の一方の面に、半導体素子3をはんだ付けにより接合する。
前述の工程により、
図1に示すパワーモジュール1が製出される。
【0050】
以上のような構成とされた本実施形態の絶縁回路基板10(銅/セラミックス接合体)によれば、セラミックス基板11と回路層12および金属層13との接合界面において、セラミックス基板11側には活性金属化合物層21が形成されており、活性金属化合物層21から回路層12および金属層13側へ10μmまでの領域における活性金属炭化物24の面積率が8%以下とされているので、接合界面が硬くなることを抑制でき、冷熱サイクル負荷時のセラミックス基板11の割れの発生を抑制することができる。
【0051】
また、本実施形態の絶縁回路基板10において、活性金属化合物層21の厚さt1が0.05μm以上1.2μm以下の範囲内とされている場合には、活性金属によってセラミックス基板11と回路層12および金属層13とが確実に強固に接合されているとともに、接合界面が硬くなることがさらに抑制される。
【0052】
さらに、本実施形態の絶縁回路基板10において、セラミックス基板11と回路層12および金属層13と接合界面にAg-Cu合金層22が形成されており、このAg-Cu合金層22の厚さt2が1μm以上30μm以下の範囲内とされている場合には、接合材45に含まれるAgが、回路層12となる銅板42および金属層13となる銅板43と十分に反応してセラミックス基板11と回路層12および金属層13とが確実に強固に接合されているとともに、接合界面が硬くなることがさらに抑制される。
【0053】
本実施形態の絶縁回路基板10の製造方法によれば、回路層12となる銅板42および金属層13となる銅板43とセラミックス基板11との間のカーボン成分を排出しながら、炉内の圧力を150Pa以上700Pa以上の範囲内に維持するとともに加熱し、銅板42,43とセラミックス基板11との間のカーボン成分を排出するカーボン成分排出工程S03を備えているので、接合時における活性金属炭化物24の生成を抑制することができる。よって、接合界面が硬くなることを抑制でき、冷熱サイクル負荷時のセラミックス基板11の割れの発生を抑制することが可能となる。
【0054】
さらに、本実施形態の絶縁回路基板10の製造方法において、接合材配設工程S02で、回路層12となる銅板42および金属層13となる銅板43とセラミックス基板11との間におけるカーボン量を200μg/cm2以下とした場合には、接合時における活性金属炭化物24の生成をさらに抑制することができる。
【0055】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、本実施形態では、絶縁回路基板に半導体素子を搭載してパワーモジュールを構成するものとして説明したが、これに限定されることはない。例えば、絶縁回路基板の回路層にLED素子を搭載してLEDモジュールを構成してもよいし、絶縁回路基板の回路層に熱電素子を搭載して熱電モジュールを構成してもよい。
【0056】
また、本実施形態の絶縁回路基板では、セラミックス基板として、窒化アルミニウム(AlN)で構成されたものを例に挙げて説明したが、これに限定されることはなく、アルミナ(Al2O3)、窒化ケイ素(Si3N4)等の他のセラミックス基板を用いたものであってもよい。
【0057】
さらに、本実施形態では、接合材に含まれる活性金属としてTiを例に挙げて説明したが、これに限定されることはなく、Ti,Zr,Hf,Nbから選択される1種又は2種以上の活性金属を含んでいればよい。なお、これらの活性金属は、水素化物として含まれていてもよい。
【0058】
さらに、本実施形態においては、回路層を、無酸素銅の圧延板をセラミックス基板に接合することにより形成するものとして説明したが、これに限定されることはなく、銅板を打ち抜いた銅片を回路パターン状に配置された状態でセラミックス基板に接合されることによって回路層を形成してもよい。この場合、それぞれの銅片において、上述のようなセラミックス基板との界面構造を有していればよい。
また、本実施形態では、銅板の接合面に接合材を配設するものとして説明したが、これに限定されることはなく、セラミックス基板と銅板の間に接合材が配設されていればよく、セラミックス基板の接合面に接合材を配設してもよい。
【実施例0059】
以下に、本発明の効果を確認すべく行った確認実験の結果について説明する。
【0060】
まず、表1記載のセラミックス基板(40mm×40mm)を準備した。なお、厚さは、AlNおよびAl2O3は0.635mm、Si3N4は0.32mmとした。
また、回路層および金属層となる銅板として、無酸素銅からなり、表1に示す厚さの37mm×37mmの銅板を準備した。
【0061】
回路層および金属層となる銅板に、表1に示すAg粉および活性金属粉を含む接合材を、乾燥後の目標厚さが表1に示す値となるよう塗布した。
なお、接合材はペースト材を用い、Ag,Cu,活性金属の量は表1の通りとした。
また、Ag粉のBET値(比表面積)はQUANTACHRROME社製AUTOSORB-1を用い、前処理として150℃で30分加熱の真空脱気を行い、N2吸着、液体窒素77K、BET多点法で測定した。
【0062】
ここで、接合材のカーボン量を以下のように測定した。
まず、接合材の有機成分については、Arフロー雰囲気で室温から500℃まで10℃/minで昇温した時の残渣量(%)をTG-DTAにより測定し、塗布量当たりに換算した有機成分のカーボン量を求めた。次に、接合材に含まれるAg粉および活性金属粉のカーボン量(粉末のカーボン量)は、ガス分析(赤外線吸収法)によって測定した。これらの、有機成分のカーボン量と粉末のカーボン量との合計がカーボン量であり、これを表に記載した。
【0063】
次に、セラミックス基板の一方の面に、回路層となる銅板を積層した。また、セラミックス基板の他方の面に、金属層となる銅板を積層した。
【0064】
この積層体を、加熱炉に装入した。そして、カーボン排出工程として、加熱炉内の圧力を3×10-3Paとした後、不活性ガス(Arガス)を導入するとともに炉内ガスを排出し、炉内圧力を表2記載の値となるように調整した。さらに、300℃以上650℃以下の範囲内における温度積分値を表2に記載となるように、温度、時間を設定した。
【0065】
次に、積層体を、積層方向に加圧した状態で加熱し、Ag-Cu液相を発生させた。このとき、加圧荷重を0.294MPaとし、780℃以上850℃以下の範囲内における温度積分値を表2の通りとした。
そして、加熱した積層体を冷却することにより、回路層となる銅板とセラミックス基板と金属層となる金属板を接合し、絶縁回路基板(銅/セラミックス接合体)を得た。
【0066】
得られた絶縁回路基板(銅/セラミックス接合体)について、活性金属炭化物の面積率、活性金属化合物層の厚さt1、Ag-Cu合金層の厚さt2、冷熱サイクル信頼性を、以下のようにして評価した。
【0067】
(活性金属炭化物の面積率)
回路層および金属層とセラミックス基板との接合界面の断面を観察し、SEM-EDSにより活性金属化合物層からから回路層表面および金属層表面側に向けて、
図5に示すように、面積S1=幅100μm×厚み方向10μmの領域におけるAg,Cu,活性金属およびセラミックス成分の元素マップをそれぞれ5視野取得する。なお、セラミックス成分は、AlNの場合はAl,N、Al
2O
3の場合はAl,O、Si
3N
4の場合はSi,Nとなる。
活性金属のマップにおいて、 活性金属と他成分の重複部を除外した領域を「活性金属炭化物」とし、 その面積S2を算出する。
活性金属炭化物の面積率=100×S2/S1と定義し、それぞれ5視野、計10視野の平均値を表2に記載した。なお、活性金属化合物層にうねりが生じている場合には、うねりに沿って領域を設定する。
【0068】
(活性金属化合物層)
回路層とセラミックス基板との接合界面、および、セラミックス基板と金属層との接合界面の断面を、走査型電子顕微鏡(カールツァイスNTS社製ULTRA55、加速電圧1.8kV)を用いて倍率30000倍で測定し、エネルギー分散型X線分析法により、N、O及び活性金属元素の元素マッピングをそれぞれ5視野取得した。活性金属元素とNまたはOが同一領域に存在する場合に活性金属化合物層が有ると判断した。
それぞれ5視野、計10視野で観察を行い、活性金属元素とNまたはOが同一領域に存在する範囲の面積を測定した幅で割ったものの平均値を「活性金属化合物層の厚さ」として表2に記載した。
【0069】
(Ag-Cu合金層)
回路層とセラミックス基板との接合界面、および、セラミックス基板と金属層との接合界面の断面を、EPMA装置を用いて、Ag,Cu,活性金属の各元素マッピングを取得した。それぞれ5視野で各元素マッピングを取得した。
それぞれ5視野、計10視野で観察を行い、Ag+Cu+活性金属=100質量%としたとき、Ag濃度が15質量%以上である領域をAg-Cu合金層とし、その面積を求めて、測定領域の幅で割った値(面積/測定領域の幅)を求めた。その値の平均をAg-Cu合金層の厚さとして表2に記載した。
【0070】
(冷熱サイクル信頼性)
上述の絶縁回路基板を、セラミックス基板の材質に応じて、下記の冷熱サイクルを負荷し、SAT検査によりセラミックス割れの有無を判定した。評価結果を表2に示す。
AlN,Al2O3の場合:-40℃×10min←→150℃×10minを500サイクルまで50サイクル毎にSAT検査。
Si3N4の場合:-40℃×5min←→150℃×10minを2000サイクルまで200サイクル毎にSAT検査。
【0071】
【0072】
【0073】
まず、セラミックス基板としてAlNを用いた本発明例1-3と比較例1,2とを比較する。
比較例1においては、カーボン成分排出工程における炉内圧力が50Paとされており、活性金属化合物層から銅板側へ10μmまでの領域における活性金属炭化物の面積率が13.2%となった。そして、冷熱サイクル試験において割れ発生回数が50回となり、冷熱サイクル信頼性が不十分であった。
比較例2においては、カーボン成分排出工程における炉内圧力が1200Paとされており、活性金属化合物層から銅板側へ10μmまでの領域における活性金属炭化物の面積率が11.3%となった。そして、冷熱サイクル試験において割れ発生回数が50回となり、冷熱サイクル信頼性が不十分であった。
【0074】
これに対して、本発明例1-3においては、カーボン成分排出工程における炉内圧力が150Pa,250Pa,600Paとされており、活性金属化合物層から銅板側へ10μmまでの領域における活性金属炭化物の面積率が7.9%,2.7%,6.6%となった。そして、冷熱サイクル試験において割れ発生回数が300回,500回,400回となり、冷熱サイクル信頼性に優れていた。
【0075】
次に、セラミックス基板としてSi3N4を用いた本発明例4-6と比較例3,4とを比較する。
比較例3においては、カーボン成分排出工程における炉内圧力が80Paとされており、活性金属化合物層から銅板側へ10μmまでの領域における活性金属炭化物の面積率が10.8%となった。そして、冷熱サイクル試験において割れ発生回数が1200回となり、冷熱サイクル信頼性が不十分であった。
比較例4においては、カーボン成分排出工程における炉内圧力が1500Paとされており、活性金属化合物層から銅板側へ10μmまでの領域における活性金属炭化物の面積率が9.3%となった。そして、冷熱サイクル試験において割れ発生回数が1400回となり、冷熱サイクル信頼性が不十分であった。
【0076】
これに対して、本発明例4-6においては、カーボン成分排出工程における炉内圧力が600Pa,400Pa,300Paとされており、活性金属化合物層から銅板側へ10μmまでの領域における活性金属炭化物の面積率が5.9%,0.6%,2.1%となった。そして、冷熱サイクル試験において割れ発生回数が1800回,2000回超え,2000回超えとなり、冷熱サイクル信頼性に優れていた。
【0077】
次に、セラミックス基板としてAl2O3を用いた本発明例7,8と比較例5とを比較する。
比較例5においては、カーボン成分排出工程における炉内圧力が80Paとされており、活性金属化合物層から銅板側へ10μmまでの領域における活性金属炭化物の面積率が11.2%となった。そして、冷熱サイクル試験において割れ発生回数が100回となり、冷熱サイクル信頼性が不十分であった。
比較例6においては、カーボン成分排出工程における炉内圧力が1200Paとされており、活性金属化合物層から銅板側へ10μmまでの領域における活性金属炭化物の面積率が10.7%となった。そして、冷熱サイクル試験において割れ発生回数が150回となり、冷熱サイクル信頼性が不十分であった。
【0078】
これに対して、本発明例7,8においては、カーボン成分排出工程における炉内圧力が500Pa,700Paとされており、活性金属化合物層から銅板側へ10μmまでの領域における活性金属炭化物の面積率が3.6%,6.8%となった。そして、冷熱サイクル試験において割れ発生回数が450回,500回となり、冷熱サイクル信頼性に優れていた。
【0079】
以上の確認実験の結果から、本発明例によれば、厳しい冷熱サイクルを負荷した場合であっても、セラミックス部材における割れの発生を抑制でき、冷熱サイクル信頼性に優れた絶縁回路基板(銅/セラミックス接合体)、および、絶縁回路基板の製造方法(銅/セラミックス接合体の製造方法)を提供可能であることが確認された。