(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023136318
(43)【公開日】2023-09-29
(54)【発明の名称】ポリマーの製造方法
(51)【国際特許分類】
C08G 63/78 20060101AFI20230922BHJP
C08G 63/06 20060101ALI20230922BHJP
【FI】
C08G63/78
C08G63/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022041860
(22)【出願日】2022-03-16
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】ルー ジャオ
(72)【発明者】
【氏名】門脇 功治
(72)【発明者】
【氏名】中村 正孝
【テーマコード(参考)】
4J029
【Fターム(参考)】
4J029AA02
4J029AB04
4J029AD01
4J029AE06
4J029EA02
4J029EA03
4J029EA05
4J029EG02
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4J029FC16
4J029FC17
4J029JA061
4J029JB171
4J029JC143
4J029JC231
4J029JC233
4J029JC371
4J029JF371
4J029KB13
4J029KC01
4J029KC06
4J029KD02
4J029KE03
4J029KE09
4J029KH04
4J029KH05
(57)【要約】
【課題】金属残留物量が低減された安全性の高いポリマーを、簡便かつ効率的に製造する方法を提供すること。
【解決手段】以下の工程1、および工程2を有する、ポリマーの製造方法。
工程1:溶液中で縮合反応により粗ポリマーを得る工程
工程2:前記工程1で得られた粗ポリマー含有溶液にα-ヒドロキシカルボン酸を添加する工程
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程1、および工程2を有する、ポリマーの製造方法。
工程1:溶液中で縮合反応により粗ポリマーを得る工程
工程2:前記工程1で得られた粗ポリマー含有溶液にα-ヒドロキシカルボン酸を添加する工程
【請求項2】
前記工程1において、前記縮合反応が、縮合剤と補助試剤とを用いて行われる、請求項1に記載のポリマーの製造方法。
【請求項3】
前記縮合剤がカルボジイミドから選択され、前記補助試剤が有機塩基、有機酸、およびこれらの複合体から選択される、請求項2に記載のポリマーの製造方法。
【請求項4】
前記工程2において、前記縮合剤と前記補助試剤が前記粗ポリマー含有溶液中に存在している、請求項2に記載のポリマーの製造方法。
【請求項5】
前記ポリマーが生体吸収性ポリマーおよび生分解性ポリマーから選択される、請求項1~4のいずれか1項に記載のポリマーの製造方法。
【請求項6】
前記ポリマーが、ポリエステル、およびエステル結合で連結されたポリエステル以外の種類のポリマーから選択される、請求項1~5のいずれか1項に記載のポリマーの製造方法。
【請求項7】
前記ポリエステルが、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、ポリα-アセトラクトン、ポリβ-プロピオラクトン、ポリγ-ブチロラクトン、ポリδ-バレロラクトン、ポリε-カプロラクトン、ポリヒドロキシブチレート、およびこれらの共重合体から選択される、請求項6に記載のポリマーの製造方法。
【請求項8】
前記エステル結合で連結されたポリエステル以外の種類のポリマーが、ポリカーボネート、ポリエーテル、ポリホスホエステル、ポリアミド、ポリウレタン、およびポリアミンからなる群から選ばれる1種以上のポリマーがエステル結合で連結されたコポリマーである、請求項6に記載のポリマーの製造方法。
【請求項9】
前記α-ヒドロキシカルボン酸が水溶性である、請求項1~8のいずれか1項に記載のポリマーの製造方法。
【請求項10】
前記α-ヒドロキシカルボン酸が、乳酸、およびグリコール酸から選択される、請求項1~9のいずれか1項に記載のポリマーの製造方法。
【請求項11】
前記工程2において、前記粗ポリマーの全質量に対して10質量%以上の前記α-ヒドロキシカルボン酸を添加する、請求項1~10のいずれか1項に記載のポリマーの製造方法。
【請求項12】
前記工程2において、前記α-ヒドロキシカルボン酸を前記粗ポリマー含有溶液中で30分間以上攪拌する、請求項1~11のいずれか1項に記載のポリマーの製造方法。
【請求項13】
前記工程2の次に、以下の工程3をさらに含む、請求項1~12のいずれか1項に記載のポリマーの製造方法。
工程3:前記工程2で得られた粗ポリマー溶液を水洗浄する工程
【請求項14】
前記工程3の次に、以下の工程4をさらに含む、請求項13に記載のポリマーの製造方法。
工程4:貧溶媒で再沈殿して精製ポリマーを得る工程
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマーの製造方法に関し、特に、金属残留物量が低減されたポリマーの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
機械的特性が制御された合成ポリマーは、生物医学的用途において近年注目が高まっている。しかしながら、ポリマーの合成には金属系の触媒が多用されるため、合成されたポリマー中には金属が残留することになる。かかる過剰の金属残留物は、生体内において周囲組織に中毒、刺激または炎症を引き起こす可能性があるため、外科用インプラントの分野においては、ポリマーの適用を制限する可能性がある。スズは比較的無害な金属であり、食品包装産業において一般的に使用されているが、それにもかかわらず、活性医薬成分と一緒に使用される場合、薬物分解を促進するなどの望ましくない副作用を有しうるか、または制御されないポリマー分解を介して医薬製剤からの薬物放出プロファイルを変化させ得る。さらに、金属残留物は、溶融プロセス中にポリマー分解を引き起こすことが報告されている。
【0003】
金属残留物を減少させるための精製方法が既に報告されている。例えば、特許文献1では、ラクチドおよびカプロラクトンの開環重合において、極めて低濃度のSn(Oct)2を使用することによって、スズ残留量が低減できる方法が記載されている。
【0004】
また、特許文献2では、洗浄したポリマーに活性炭と乳酸等の添加剤とを添加することで、スズ含有再吸収性ポリマー中の残留スズ含有量を1ppm未満に低減する精製方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000-191753号公報
【特許文献2】特表2020-532621号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載された方法では、金属触媒量が少ない分、これを補うために10~40日間の長い重合時間を要する。このような長い重合時間は工業的製造にとって経済的ではない。また、分解やエステル交換によりポリマー分子量の制御不能を誘発する可能性があった。
【0007】
また、特許文献2に記載された精製方法では、精製後のポリマー溶液から活性炭を除去することが別途必要となる。さらに、ポリマーが高分子量であるほどポリマー溶液の粘性が高まり、活性炭の除去が非常に困難となる。例えば、活性炭粒子を濾過法によって除去する場合、ポリマー分子量は315k以下程度に限定されてしまう。
【0008】
本発明は、金属残留物量が低減された安全性の高いポリマーを、簡便かつ効率的に製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意研究を行った結果、縮合反応直後の粗ポリマー溶液に特定の有機酸を添加することで、ポリマーから金属残留物を効率的に除去できることを見出した。
本発明は、下記のポリマー製造方法に関する。
〔1〕以下の工程1、および工程2を有する、ポリマーの製造方法。
工程1:溶液中で縮合反応により粗ポリマーを得る工程
工程2:前記工程1で得られた粗ポリマー含有溶液にα-ヒドロキシカルボン酸を添加する工程
〔2〕前記工程1において、前記縮合反応が、縮合剤と補助試剤とを用いて行われる、〔1〕に記載のポリマーの製造方法。
〔3〕前記縮合剤がカルボジイミドから選択され、前記補助試剤が有機塩基、有機酸、およびこれらの複合体から選択される、〔2〕に記載のポリマーの製造方法。
〔4〕前記工程2において、前記縮合剤と前記補助試剤が前記粗ポリマー含有溶液中に存在している、〔2〕に記載のポリマーの製造方法。
〔5〕前記ポリマーが生体吸収性ポリマーおよび生分解性ポリマーから選択される、〔1〕~〔4〕のいずれかに記載のポリマーの製造方法。
〔6〕前記ポリマーが、ポリエステル、およびエステル結合で連結されたポリエステル以外の種類のポリマーから選択される、〔1〕~〔5〕のいずれかに記載のポリマーの製造方法。
〔7〕前記ポリエステルが、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、ポリα-アセトラクトン、ポリβ-プロピオラクトン、ポリγ-ブチロラクトン、ポリδ-バレロラクトン、ポリε-カプロラクトン、ポリヒドロキシブチレート、およびこれらの共重合体から選択される、〔6〕に記載のポリマーの製造方法。
〔8〕前記エステル結合で連結されたポリエステル以外の種類のポリマーが、ポリカーボネート、ポリエーテル、ポリホスホエステル、ポリアミド、ポリウレタン、およびポリアミンからなる群から選ばれる1種以上のポリマーがエステル結合で連結されたコポリマーである、〔6〕に記載のポリマーの製造方法。
〔9〕前記α-ヒドロキシカルボン酸が水溶性である、〔1〕~〔8〕のいずれかに記載のポリマーの製造方法。
〔10〕前記α-ヒドロキシカルボン酸が、乳酸、およびグリコール酸から選択される、〔1〕~〔9〕のいずれかに記載のポリマーの製造方法。
〔11〕前記工程2において、前記粗ポリマーの全質量に対して10質量%以上の前記α-ヒドロキシカルボン酸を添加する、〔1〕~〔10〕のいずれかに記載のポリマーの製造方法。
〔12〕前記工程2において、前記α-ヒドロキシカルボン酸を前記粗ポリマー含有溶液中で30分間以上攪拌する、〔1〕~〔11〕のいずれかに記載のポリマーの製造方法。
〔13〕前記工程2の次に、以下の工程3をさらに含む、〔1〕~〔12〕のいずれかに記載のポリマーの製造方法。
工程3:前記工程2で得られた粗ポリマー溶液を水洗浄する工程
〔14〕前記工程3の次に、以下の工程4をさらに含む、〔13〕に記載のポリマーの製造方法。
工程4:貧溶媒で再沈殿して精製ポリマーを得る工程
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、金属残留物量が低減された安全性の高いポリマーを、簡便かつ効率的に製造することができる。特に、本発明の製造方法は、ポリマー分子量を減少させるリスクが少なく、迅速かつ容易に実施される。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書において、「生体吸収性ポリマー」とは、生体内で分解性であり、生体内で代謝吸収されるポリマーである。
また、「生分解性ポリマー」とは、生物によって腐食して可溶性の化学種になるポリマーである。好ましくは、生分解性ポリマーは、生理学的条件下で、それ自体が生物に対して非毒性であり、生物によって代謝、排出、または排泄されることができるより小さな単位または化学種に分解するポリマーである。
【0012】
<ポリマーの製造方法>
本発明の製造方法は、以下の工程1、および工程2を有する。
工程1:溶液中で縮合反応により粗ポリマーを得る工程
工程2:前記工程1で得られた粗ポリマー含有溶液にα-ヒドロキシカルボン酸を添加する工程
上記製造方法によりスズ等の金属残留物量が低減されたポリマーが得られる。
【0013】
<マクロモノマー>
本発明の製造方法では、工程1の縮合反応に際し、モノマー同士を反応させてもよく、モノマーを予め重合させた低分子量のマクロモノマー同士を反応させてもよい。高分子量のポリマーが得られる観点からは、マクロモノマー同士を反応させることが好ましい。
【0014】
マクロモノマーとしては、ポリエステル、ポリエステルとポリエステル以外のポリマーとの共重合体、およびポリエステル以外のポリマーがエステル結合で連結された共重合体から選択されることが好ましい。かかる種類のマクロモノマーから得られるポリマーは、生体吸収性ポリマーまたは生分解性ポリマーとして有用である。
【0015】
ポリエステルとしては、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、ポリα-アセトラクトン、ポリβ-プロピオラクトン、ポリγ-ブチロラクトン、ポリδ-バレロラクトン、ポリε-カプロラクトン、ポリヒドロキシブチレート、およびこれらの共重合体から選択されることが好ましい。
【0016】
ポリエステル以外のポリマーとしては、ポリカーボネート、ポリエーテル、ポリホスホエステル、ポリアミド、ポリウレタン、およびポリアミンから選択されることが好ましい。
【0017】
マクロモノマーの合成は、金属触媒の存在下で行うことができる。
金属触媒としては、縮合重合や開環重合に通常用いられる触媒が好適であり、開環重合に用いられる触媒がより好適であり、環状ラクトンの開環重合に用いられる触媒がさらに好適である。触媒としてはスズ触媒、亜鉛触媒、アルミ触媒、カルシウム触媒、リチウム触媒、鉄触媒等が挙げられ、反応効率と残存後の安全性の観点から、スズ触媒が好ましい。スズ触媒としては、2-エチルヘキサン酸スズ(II)、酢酸スズ(II)、酢酸スズ(IV)、ジブチルスズジアセタート、二酢酸ジオクチルスズ(IV)、トリフルオロメタンスルホン酸スズ(II)、塩化スズ(II)等が挙げられる。
【0018】
マクロモノマーの合成は、必要に応じて開始剤を用いてもよい。
開始剤は、マクロモノマーの種類に応じて選択でき、水酸基およびカルボン酸基をそれぞれ1以上有する化合物が好ましい。例えば、ポリ乳酸の場合は、開始剤が乳酸であることが好ましい。
【0019】
マクロモノマーにおけるモノマー比率は、目的とするポリマーの用途等に応じて適宜設定できる。
たとえば、ラクチドとカプロラクトンの共重合体の場合、ラクチド:カプロラクトン比(モル比)は100:0~0:100の範囲で設定でき、好ましくは100:0~25:75、より好ましくは100:0~50:50である。
【0020】
マクロモノマーの重合反応は、トルエン、キシレン等の溶媒を用いて行ってもよく、溶媒を用いずに行ってもよい。
【0021】
添加する金属触媒の量は、分子量制御の観点から、モノマーに対し好ましくは0.001~0.004モル%、より好ましくは0.002~0.003モル%である。
【0022】
マクロモノマーの重合反応温度は、好ましくは110℃~145℃、より好ましくは120℃~135℃である。
マクロモノマーの重合反応時間は、好ましくは5時間~24時間、より好ましくは6時間~9時間である。
【0023】
重合反応後、得られたマクロモノマーはクロロホルム、ジクロロメタン等から選ばれる良溶媒に溶解し、次いでヘキサン、シクロヘキサン、メタノールおよびエタノール等から選ばれる貧溶媒中で沈殿させ、回収される。
【0024】
得られるマクロモノマーの重量平均分子量(Mw)は、好ましくは10k~200k、特に好ましくは40k~100kである。マクロモノマーの分子量が上記範囲であれば、精製時の取扱い易さの点で好ましい。また、マクロモノマーの分子量を上記範囲とするためには、開始剤量、触媒量、反応温度、反応時間で制御すること等が挙げられる。
なお、重量平均分子量はゲル浸透クロマトグラフィーにより特定される。
【0025】
<工程1:縮合反応>
縮合反応は、溶液中において行われる。縮合反応に供するモノマーとしては、高分子量のポリマーを一回の縮合反応で容易に製造できる点から、上記した低分子量のマクロモノマーを用いることが好ましい。
すなわち、本発明の製造方法は、好ましくは工程1の前に下記工程Aを含み、上記工程1は下記工程1-1であることが好ましい。
工程A:モノマーを金属触媒存在下で重合させてマクロモノマーを得る工程
工程1-1:溶液中における前記マクロモノマーの縮合反応により粗ポリマーを得る工程
【0026】
縮合反応で用いる溶媒としては、モノマーまたはマクロモノマーを溶解できる溶媒であれば限定されず、ジクロロメタン、クロロホルム等が好ましく、単独で用いてもまたは2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0027】
縮合反応においては、縮合剤と補助試剤とを用いることが好ましい。これらを併用することによりポリマー分子量を制御しうる。
縮合剤は、カルボン酸を活性化する機能を有し、縮合剤としては、好ましくはカルボジイミドから選択され、具体的にはN,N’-ジイソプロピルカルボジイミド(DIC)、N,N’-ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)、および1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDCI)等が挙げられ、単独で用いてもまたは2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0028】
補助試剤は、プロトン移動を補助する機能を有し、好ましくは塩基または酸から選ばれる。補助試剤としては、有機塩基、有機酸、およびこれらの複合体から選択されることが好ましく、具体的には、4-(ジメチルアミノ)ピリジニウム4-トルエンスルホン酸塩(DPTS)、4-ジメチルアミノピリジン(DMAP)等が挙げられ、単独で用いてもまたは2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0029】
縮合反応は室温で行うことができる。
また反応時間は、好ましくは24時間~72時間、より好ましくは24時間~48時間である。
【0030】
工程1により、粗ポリマーが得られる。
【0031】
<工程2:α-ヒドロキシカルボン酸の添加>
次に、上記工程1で得られた粗ポリマーを含む溶液に、α-ヒドロキシカルボン酸を添加する。これにより粗ポリマー中に残留した触媒由来の金属はα-ヒドロキシカルボン酸とキレートを形成し、水洗浄により容易に除去できる。
ここで粗ポリマーとは、縮合反応直後、水等による洗浄前のポリマーを意味し、粗ポリマー含有溶液中には、縮合反応に用いたポリマー以外の成分も依然として存在する。工程1において縮合剤と補助試剤を用いた場合、粗ポリマー溶液にはこれらの試薬も残存しており、ここにα-ヒドロキシカルボン酸を添加することで、残存する各試薬が金属とα-ヒドロキシカルボン酸とのキレート形成を促進するものと推測される。したがって、粗ポリマー溶液には、縮合剤と補助試剤が存在していることが好ましい。
【0032】
α-ヒドロキシカルボン酸とは、α炭素上にカルボン酸基および水酸基の両方を有する有機酸の一種である。
α-ヒドロキシカルボン酸は、水洗浄で除去しやすい観点から水溶性であることが好ましい。
【0033】
α-ヒドロキシカルボン酸としては、乳酸、グリコール酸、グリセリン酸、酒石酸、リンゴ酸等が挙げられ、単独で用いてもまたは2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0034】
α-ヒドロキシカルボン酸の添加量は、粗ポリマーの質量に対し、好ましくは10~40質量%、より好ましくは20~30質量%である。α-ヒドロキシカルボン酸は酸性物質であるため、金属とキレートを形成して捕捉する役割を担う一方で、高濃度で添加するとポリマーが分解され分子量の低下が懸念される。本発明の製造方法では、α-ヒドロキシカルボン酸が金属残留物と効率的にキレートを形成できるため、上記低濃度でも十分に金属残留物を低減でき、ポリマー分子量低下のおそれもない。
【0035】
粗ポリマー溶液は、ポリマー分子量に応じて5~20質量%の範囲でジクロロメタン等の有機溶媒で希釈してもよい。これによりα-ヒドロキシカルボン酸添加後の攪拌性を高めることができる。
【0036】
α-ヒドロキシカルボン酸の添加後は、室温で攪拌する。
攪拌時間は、好ましくは30分~24時間、より好ましくは30分~4時間、特に好ましくは2時間~4時間である。本発明の製造方法では、α-ヒドロキシカルボン酸が金属残留物と効率的にキレートを形成できるため、上記短時間の攪拌時間で十分に金属残留物を低減でき、ポリマー分子量低下のおそれもない。
【0037】
上記工程2により、粗ポリマー中の金属残留物量が低減できる。
【0038】
また、上記工程2により得られる粗ポリマーの重量平均分子量は、好ましくは100k~1000k、特に好ましくは150k~600kである。粗ポリマーの分子量が上記範囲であれば、ポリマーの取扱いや機械的特性の点で好ましい。また、粗ポリマーの分子量を上記範囲とするためには、縮合剤や補助試剤の添加量で制御すること等が挙げられる。
なお、重量平均分子量はゲル浸透クロマトグラフィーで特定される。
【0039】
<工程3:水洗浄>
上記工程2の次に、下記工程3を行うことが好ましい。
工程3:前記工程2で得られた粗ポリマー溶液を水洗浄する工程
これにより、α-ヒドロキシカルボン酸は除去される。また金属残留物はα-ヒドロキシカルボン酸とキレートを形成した状態で水層に移行するため、α-ヒドロキシカルボン酸と共に除去される。ポリマーは有機層に残るため、金属残留物とポリマーとを分離できる。なお、縮合反応時の各試薬も、α-ヒドロキシカルボン酸と同様に水層に移行し除去される。
【0040】
水洗浄の具体的な方法としては、粗ポリマー溶液を等量以上の水と一定時間攪拌することで完全に混合し、次いで水層を除去することが好ましい。
洗浄に用いる水の量は、粗ポリマー溶液に対し好ましくは1.0~1.5当量とし、攪拌時間は好ましくは10分間~20分間、より好ましくは15分間~20分間とする。
水洗浄は必要に応じて複数回行ってもよく、好ましくは3回以上、より好ましくは4~5回繰り返す。
【0041】
上記工程3により、精製ポリマーが得られる。
【0042】
<工程4:貧溶媒による再沈殿>
上記工程3の次に、下記工程4を行うことが好ましい。
工程4:貧溶媒で再沈殿して精製ポリマーを得る工程
これにより、ポリマー溶液から固体ポリマーを回収でき、ポリマー中の不純物量を低減できる。
貧溶媒としては、ヘキサン、メタノールおよびエタノール等が挙げられ、単独で用いてもまたは2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0043】
以上の方法により製造されたポリマーは、金属残留物量が好ましくは4質量ppm~20質量ppmまで低減されている。
なお、金属残留物量は、Quant EZ分析ソフトウェアを備えたエネルギー分散型X線蛍光元素分析装置によって定量化できる。単一点分析法を使用して、溶媒蒸発法によって調製されるポリマーフィルムの形態の金属残留物量を決定する。
【0044】
本発明によれば、金属残留物量が低減された安全性の高いポリマーを、簡便かつ効率的に製造することができる。金属残留物量は、わずか1回の短い攪拌工程を経るだけで20質量ppm以下に減少させることができる。また、本発明の製造方法は、ポリマー分子量を減少させるリスクが少なく、迅速かつ容易に実施される。
【実施例0045】
本発明を、以下の実施例によって更に詳述するが、本発明の内容はこれに限定されない。
【0046】
[測定方法1:ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によるポリマー分子量測定]
ポリマーをクロロホルムに2mg/mLで溶解し、続いて0.45μmフィルター(ADVANTEC社製DISMIC-13HP)を通して濾過した。分子量[重量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn)]はポリスチレン標準に対して決定される。
機器名:Prominence(株式会社島津製作所製)
移動相:クロロホルム(HPLC用)(和光純薬工業株式会社製)
流速:1mL/min
カラム:TSKgel GMHHR-M(φ7.8mm×300mm;東ソー株式会社製)
検出器:UV(254nm)、RI
カラム、検出器温度:35℃
標準物質:ポリスチレン
【0047】
[測定方法2:エネルギー分散型蛍光X線(EDXFR)によるスズ残留量測定]
Quant EZ分析ソフトウェアを備えたエネルギー分散型蛍光X線元素分析装置を用い、単一点分析法を使用して、ポリマーフィルム中のSn残留量を決定した。
ポリマーフィルムは、溶媒蒸発法によって調製され、予め測定された面積サイズおよび重量を有する特定の寸法に切断した後、測定に直接使用した。具体的には、ポリマー(1g)を溶媒ジクロロメタンまたは、クロロホルムに溶解して得られたポリマー溶液10mLを、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)板上に滴下し、自然乾燥により溶媒を蒸発させた。得られたフィルムを、3.0mm×3.0mmの寸法に切断した。
【0048】
<実施例1>
[低分子量マクロモノマー ポリ(ラクチド-コ-カプロラクトン)の合成]
モノマーであるL(-)-ラクチド(100.0g、1.0モル当量、Purac(登録商標))およびε-カプロラクトン(79.2g、1.0モル当量、Wako)と、開始剤であるヒドロキシピバリン酸(820mg、0.01モル当量、TCI)とを、N2下でセパラブルフラスコに秤量した。
触媒であるSn(Oct)2(562mg、0.002モル当量、Wako)を少量の無水トルエン(0.5mL、Wako)に溶解し、次いで、N2下で同じフラスコに添加した。
この反応物を145℃まで9.0時間加熱し、次いで室温まで冷却した。粗ポリマーを360mLのクロロホルムに溶解することにより精製し、次いで2.5Lのヘキサン中で沈殿させた。それを50℃の真空オーブン内で一晩乾燥させて、157gのマクロモノマー生成物を得た。
1H-NMRによって決定されたモノマー比は、L(-)-ラクチド:ε-カプロラクトン=51:49であった。GPCにより分子量を測定したところ、Mn(21974)、Mw(52739)、およびMw/Mn(2.4)であった。
【0049】
[高分子量ポリマー ポリ(ラクチド-コ-カプロラクトン)の合成]
上記で合成したマクロモノマーPLA-r-PCL(15.0g、1.0モル当量)と、DPTS(403mg、2.0モル当量、Macromolecules,Vol.23,No.I,1990を参照して実験室で合成)、およびDMAP(352mg、2.0モル当量、富士フィルム和光純薬(株)製)を窒素下で三つ口丸底フラスコに秤量した。100mLの無水ジクロロメタン中に完全に溶解させた後、DIC(283μL、4.0モル当量、東京化成工業(株)製)を添加し、反応物を48時間撹拌した。少量の粗ポリマー溶液を取り出し、ヘキサン中で沈殿させ、GPC分析のために真空オーブン内で乾燥させた。
残りの粗ポリマー溶液を50mLのジクロロメタンでさらに希釈し、乳酸(ポリマーに対し10質量%)と共に4.0時間攪拌した。次いで、ポリマー溶液を、激しく撹拌しながら等量の水で15分間洗浄し、上部の水層を廃棄した。このプロセスを4回繰り返した。1Lのメタノール中で沈殿させることによってポリマーを回収し、50℃の真空オーブン内で一晩乾燥させて、高分子量ポリマーを得た。
【0050】
<実施例2>
実施例1と同様に、ポリ(ラクチド-コ-カプロラクトン)の低分子量マクロモノマーを合成した。
マクロモノマー:DIC:DPTS:DMAPのモル比を1:3:2:2としたこと、20質量%の乳酸を使用したこと、および攪拌時間を3.0時間としたこと以外は、実施例1と同様に、ポリ(ラクチド-コ-カプロラクトン)の高分子量ポリマーを合成した。
【0051】
<実施例3>
実施例1と同様に、ポリ(ラクチド-コ-カプロラクトン)の低分子量マクロモノマーを合成した。
マクロモノマー:DIC:DPTS:DMAPのモル比を1:3:2:2としたこと、30質量%の乳酸を使用したこと、および攪拌時間を3.5時間としたこと以外は、実施例1と同様に、ポリ(ラクチド-コ-カプロラクトン)の高分子量ポリマーを合成した。
【0052】
<実施例4>
実施例1と同様に、ポリ(ラクチド-コ-カプロラクトン)の低分子量マクロモノマーを合成した。
20質量%の乳酸を使用したこと、および攪拌時間を0.5時間としたこと以外は、実施例1と同様に、ポリ(ラクチド-コ-カプロラクトン)の高分子量ポリマーを合成した。
【0053】
<実施例5>
実施例1と同様に、ポリ(ラクチド-コ-カプロラクトン)の低分子量マクロモノマーを合成した。
30質量%の乳酸を使用したこと、および攪拌時間を0.5時間としたこと以外は、実施例1と同様に、ポリ(ラクチド-コ-カプロラクトン)の高分子量ポリマーを合成した。
【0054】
<実施例6>
実施例1と同様に、ポリ(ラクチド-コ-カプロラクトン)の低分子量マクロモノマーを合成した。
乳酸の代わりに20重量%のグリコール酸を使用したこと以外は、実施例2と同様として、ポリ(ラクチド-コ-カプロラクトン)の高分子量ポリマーを合成した。グリコール酸は固体であり、有機溶媒に溶解しないので、これをまず10mLの水に溶解し、次いで粗ポリマー溶液に添加した。
【0055】
<実施例7>
実施例1と同様に、ポリ(ラクチド-コ-カプロラクトン)の低分子量マクロモノマーを合成した。
40重量%のグリコール酸を使用したこと、および攪拌時間を4.0時間としたこと以外は、実施例6と同様として、ポリ(ラクチド-コ-カプロラクトン)の高分子量ポリマーを合成した。
【0056】
<比較例1>
実施例1と同様に、ポリ(ラクチド-コ-カプロラクトン)の低分子量マクロモノマーを合成した。
【0057】
[高分子量ポリマー ポリ(ラクチド-コ-カプロラクトン)の合成]
上記で合成したマクロモノマーPLA-r-PCL(15.0g、1.0モル当量)、DPTS(403mg、2.0モル当量、実験室で合成)、およびDMAP(352mg、2.0モル当量、富士フィルム和光純薬(株)製)を窒素下で同じ三つ口丸底フラスコに秤量した。100mLの無水ジクロロメタンに完全に溶解させた後、DIC(283μL、4.0モル当量、東京化成工業(株)製)を添加し、反応物を48時間撹拌したままにした。粗ポリマー溶液を50mLのジクロロメタンでさらに希釈して、最終ポリマー濃度を100mg/mLに調整した。次いで、粗ポリマー溶液を激しく撹拌しながら等量の水で15分間洗浄し、上部の水層を廃棄した。このプロセスを4回繰り返した。1Lのメタノール中で沈殿させることによってポリマーを回収し、50℃の真空オーブン内で一晩乾燥させて、13.4gの高分子量ポリマーを得た。
【0058】
<比較例2>
実施例1と同様に、ポリ(ラクチド-コ-カプロラクトン)の低分子量マクロモノマーを合成した。
比較例1と同様に、ポリ(ラクチド-コ-カプロラクトン)の高分子量ポリマーを合成した。
【0059】
[ポリ(ラクチド-コ-カプロラクトン)の高分子量ポリマーと乳酸とのインキュベーション]
上記により合成したポリ(ラクチド-コ-カプロラクトン)の高分子量ポリマーをクロロホルム中に100mg/mLの濃度で溶解し、次いで乳酸(ポリマーに対し20質量%)をポリマー溶液に添加し、4.0時間攪拌した。次いで、ポリマー溶液を激しく撹拌しながら等量の水で15分間洗浄し、上部の水層を廃棄した。このプロセスを4回繰り返した。クロロホルムに対して6倍量のメタノール中で沈殿させることによってポリマーを回収し、50℃の真空オーブン内で一晩乾燥させた。
【0060】
<比較例3>
実施例1と同様に、ポリ(ラクチド-コ-カプロラクトン)の低分子量マクロモノマーを合成した。
比較例1と同様に、ポリ(ラクチド-コ-カプロラクトン)の高分子量ポリマーを合成した。
30重量%の乳酸を使用したこと以外は比較例2と同様に、ポリ(ラクチド-コ-カプロラクトン)の高分子量ポリマーと乳酸との攪拌を行った。
【0061】
<比較例4>
実施例1と同様に、ポリ(ラクチド-コ-カプロラクトン)の低分子量マクロモノマーを合成した。
比較例1と同様に、ポリ(ラクチド-コ-カプロラクトン)の高分子量ポリマーを合成した。
40重量%の乳酸を使用したこと以外は比較例2と同様に、ポリ(ラクチド-コ-カプロラクトン)の高分子量ポリマーと乳酸との攪拌を行った。
【0062】
<比較例5>
実施例1と同様に、ポリ(ラクチド-コ-カプロラクトン)の低分子量マクロモノマーを合成した。
比較例1と同様に、ポリ(ラクチド-コ-カプロラクトン)の高分子量ポリマーを合成した。
50重量%の乳酸を使用したこと以外は比較例2と同様に、ポリ(ラクチド-コ-カプロラクトン)の高分子量ポリマーと乳酸との攪拌を行った。
【0063】
<比較例6>
実施例1と同様に、ポリ(ラクチド-コ-カプロラクトン)の低分子量マクロモノマーを合成した。
比較例1と同様に、ポリ(ラクチド-コ-カプロラクトン)の高分子量ポリマーを合成した。
60重量%の乳酸を使用したこと以外は比較例2と同様に、ポリ(ラクチド-コ-カプロラクトン)の高分子量ポリマーと乳酸との攪拌を行った。
【0064】
<比較例7>
実施例1と同様に、ポリ(ラクチド-コ-カプロラクトン)の低分子量マクロモノマーを合成した。
乳酸の代わりに10重量%のEDTAを使用したこと以外は、実施例2と同様として、ポリ(ラクチド-コ-カプロラクトン)の高分子量ポリマーを合成した。EDTAは固体であり、有機溶媒に溶解しないので、これをまず10mLの水に溶解し、次いで粗ポリマー溶液に添加した。3.0時間撹拌した後、ポリマー溶液をさらに水で4回洗浄した後、メタノール中で沈殿させた。
【0065】
<比較例8>
実施例1と同様に、ポリ(ラクチド-コ-カプロラクトン)の低分子量マクロモノマーを合成した。
乳酸の代わりに20重量%のアラニンを使用したこと、および3.0時間攪拌したこと以外は、実施例2と同様として、ポリ(ラクチド-コ-カプロラクトン)の高分子量ポリマーを合成した。アラニンは固体であり、有機溶媒に溶解しないので、これをまず10mLの水に溶解し、次いで粗ポリマー溶液に添加した。3.0時間撹拌した後、ポリマー溶液をさらに水で4回洗浄した後、メタノール中で沈殿させた。
【0066】
<比較例9>
実施例1と同様に、ポリ(ラクチド-コ-カプロラクトン)の低分子量マクロモノマーを合成した。
乳酸の代わりに20重量%の酢酸を使用したこと、および攪拌時間を4.0時間としたこと以外は、実施例1と同様として、ポリ(ラクチド-コ-カプロラクトン)の高分子量ポリマーを合成した。
【0067】
<比較例10>
実施例1と同様に、ポリ(ラクチド-コ-カプロラクトン)の低分子量マクロモノマーを合成した。
乳酸の代わりにHClを使用したこと以外は、実施例2と同様として、ポリ(ラクチド-コ-カプロラクトン)の高分子量ポリマーを合成した。詳細には、粗ポリマー溶液を等量のHCl(0.5M)で0.5時間撹拌しながら洗浄した。次いで、水性酸層を除去し、ポリマー溶液をさらに水で4回洗浄した後、メタノール中で沈殿させた。
【0068】
上記各実施例および比較例から得られたポリマーの分子量とスズ含有量を下記表に示す。
【0069】
【0070】
【0071】
【0072】
上記結果より、乳酸またはグリコール酸を粗ポリマー溶液に添加した実施例1~6の製造方法では、残存スズ含有量が20質量ppm以下まで低減された。また、乳酸またはグリコール酸添加前後においてポリマー分子量の低下はほとんどなかった。
酸を添加しない比較例1の製造方法、および乳酸を、粗ポリマー溶液ではなく水洗浄後のポリマー溶液に添加した比較例2~6の製造方法では、高濃度の残存スズ含有量が確認された。また、酸の添加前後でポリマー分子量が低下した。
α-ヒドロキシカルボン酸以外の酸を添加した比較例7~10の製造方法も、比較例2と同様に、高濃度の残存スズ含有量が確認された。
本発明によれば、金属残留物量が低減された安全性の高い高分子量ポリマーを、簡便かつ効率的に製造することができる。金属残留物量が低いポリマーは、生体再吸収性ポリマーや生分解性ポリマー等として様々な生物医学的用途に適している。組織工学において、該ポリマーはしばしば、細胞再生および分化のための3D足場を構築するためにヒドロゲルと一緒に使用される。該ポリマーは、医療用インプラントデバイスやDDSに適した材料である。生物医学的用途以外に、生分解性ポリマーはまた、農業、獣医学、食品加工および包装において種々の用途を見出す。