(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023013632
(43)【公開日】2023-01-26
(54)【発明の名称】配膳車内の食品の複合加熱方法
(51)【国際特許分類】
A47B 31/02 20060101AFI20230119BHJP
H05B 6/64 20060101ALI20230119BHJP
A47B 31/00 20060101ALI20230119BHJP
A61G 12/00 20060101ALI20230119BHJP
A23L 5/10 20160101ALN20230119BHJP
【FI】
A47B31/02 A
H05B6/64
A47B31/00 H
A61G12/00 C
A23L5/10 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021117955
(22)【出願日】2021-07-16
(71)【出願人】
【識別番号】504288627
【氏名又は名称】株式会社井上製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100121418
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 修
(72)【発明者】
【氏名】井上 茂
【テーマコード(参考)】
3K090
4B035
4C341
【Fターム(参考)】
3K090AA01
3K090AB01
3K090BA09
3K090BB14
3K090EA02
4B035LC12
4B035LE20
4B035LP01
4B035LP16
4B035LT01
4C341LL01
(57)【要約】
【課題】 配膳車内での食品や食材の加熱において、食品等を多時間で加熱することができ、且つ食品等の外側部分よりも内部が加熱され易いというマイクロ波の特性を活かしつつ、種々のマイクロ波加熱の短所を相殺して有用な給食提供を実現する。
【解決手段】 配膳車1内に多段に収容された各トレイT上の食器内食品の加熱方法であって、食器内の食品に対して、マイクロ波による加熱と、過熱蒸気による加熱とを複合的に行い、且つ該複合的加熱を、前記食品の中心部温度が1分間以上、75℃以上で保たれるように行う。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配膳車内に多段に収容された各トレイ上の食器内食品の加熱方法であって、食器内の食品に対して、マイクロ波による加熱と、過熱蒸気による加熱とを複合的に行い、且つ該複合的加熱を、前記食品の中心部温度が1分間以上、75℃以上で保たれるように行うことを特徴とする、配膳車内の食品の複合加熱方法。
【請求項2】
食器内の食品に対して、マイクロ波の照射による加熱と過熱蒸気による加熱を所定時間、同時に行うことを特徴とする、請求項1記載の配膳車内の食品の複合加熱方法。
【請求項3】
マイクロ波の照射による加熱と過熱蒸気による加熱による加熱を同時に、3~7分間、行うことを特徴とする請求項2記載の配膳車内の食品の複合加熱方法。
【請求項4】
食器内の食品に対して、先ずマイクロ波の照射による第一加熱を行った後、前記マイクロ波の照射を停止して、過熱蒸気を送入して第二加熱を行うことを特徴とする請求項1記載の配膳車内の食品の複合加熱方法。
【請求項5】
食器内の食品に対して、先ず30秒~10分間のマイクロ波の照射による第一加熱を行い、次に10分~25分間の過熱蒸気による第二加熱を行うことを特徴とする、請求項4記載の配膳車内の食品の複合加熱方法。
【請求項6】
過熱蒸気の温度が、100~130℃である、請求項1~請求項5のうちのいずれか一項記載の配膳車内の食品の複合加熱方法。
【請求項7】
トレイメイクされた各トレイに対するマイクロ波照射のワット数が200W~400Wである、請求項1~請求項6のうちのいずれか一項記載の配膳車内の食品の複合加熱方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として、病院や介護施設等において、患者や入所者に対して給食を提供する際に用いられる配膳車における食品の複合加熱方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロ波による食品の加熱は、電子レンジにおいて、広く行われている。また、配膳車についても後述するようなものが知られている。
【0003】
すなわち、飲食物を収容可能なカートと、該カート二台を左右に並べて収容可能なステーションとで構成される配膳車であって、前記ステーションの後壁に、後述する加熱手段としてのマイクロ波発生装置が設けられていた。
【0004】
すなわち、前記加熱手段は、前記ステーションの後壁部の内部にマイクロ波発生装置を上下方向に間隔をあけて取付けるとともに、該マイクロ波発生装置の前側にマイクロ波を伝導させる中空箱型状の導波体を設け、ステーションの内部に前記カートを収容させた状態で、該カートの各棚の下部に前記導波体が位置する構成としていた。そして、該導波体は、上面にマイクロ波照射開口を備え、該開口からカートの各棚に向けてマイクロ波が照射されるようになされていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
マイクロ波による食品の加熱は、短時間で行えるという利点がある。しかしながら、マイクロ波による加熱は、所謂エッジランナウェイ(縁暴走現象)によって、加熱対象物の端部から先に加熱されるという特性を有し、そのため加熱ムラが発生し易く、また消費電力が大きいといった短所を有する。
【0007】
また、前述した従来の配膳車のように、給食にあたって、カート内に多段に収容されたトレイ上の各種食器に盛られた御飯や主菜、副菜等をマイクロ波で再加熱した場合、前記各食品がパサつき易く、食味、食感が損なわれ易いという短所も有する。
【0008】
本発明の目的は、配膳車内での食品や食材の加熱において、食品等を短時間で加熱することができ、且つ食品等の外側部分よりも内部が加熱され易いというマイクロ波の特性を活かしつつ、前述した種々のマイクロ波加熱の短所を相殺して有用な給食提供を実現することができる複合加熱方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1記載の本発明は、配膳車内に多段に収容された各トレイ上の食器内食品の加熱方法であって、食器内の食品に対して、マイクロ波による加熱と、過熱蒸気による加熱とを複合的に行い、且つ該複合的加熱を、前記食品の中心部温度が1分間以上、75℃以上に保たれるように行うことを特徴とする配膳車内の食品の複合加熱方法である。なお、本発明において、「過熱蒸気」とは過熱水蒸気を意味する。
【0010】
請求項2記載の本発明は、前記請求項1記載の配膳車内の食品の複合加熱方法について、食器内の食品に対して、マイクロ波の照射による加熱と過熱蒸気による加熱を所定、同時に行うことを特徴とする。
【0011】
請求項3記載の本発明は、前記請求項2記載の配膳車内の食品の複合加熱方法について、 マイクロ波の照射による加熱と過熱蒸気による加熱を同時に、3~7分間、行うことを特徴とするものである。
【0012】
前述した通り、マイクロ波の照射による加熱と過熱蒸気による加熱を同時に行う場合、3分間以上であれば、請求項1記載の食品温度に達することができ、7分を超える加熱では、消費電力の増加傾向が大きくなると認められる。
【0013】
請求項4記載の本発明は、請求項1記載の配膳車内の食品の複合加熱方法について、食器内の食品に対して、先ずマイクロ波の照射による第一加熱を行った後、前記マイクロ波の照射を停止して、過熱蒸気による第二加熱を行うことを特徴とする。
【0014】
請求項5記載の本発明は、請求項4記載の配膳車内の食品の複合加熱方法について、食器内の食品に対して、先ず30秒~10分間のマイクロ波の照射による第一加熱を行い、次に10分~25分間の過熱蒸気による第二加熱を行うことを特徴とする。
【0015】
マイクロ波の照射を30秒~10分間行うのは、30秒未満ではマイクロ波による食品の内部加熱が不十分となり易く、またマイクロ波による短時間での効率的な加熱の効果が十分に得られず、もう一つの加熱である過熱蒸気による食品加熱の時間が長くなり過ぎるという傾向があり、その結果、全体として加熱効率が低い長時間の加熱となり易い。一方、マイクロ波による食品加熱が10分を超えると、配膳車の消費電力の顕著な増加を招くと共に、汁物等の水分が多い食品の突沸を招くおそれがあり、またマイクロ波による食器の過加熱によって、食器が変形する傾向が顕著となるからである。
【0016】
過熱蒸気での加熱を10~25分間行うのは、10分未満では、過熱蒸気による食品の外部からの蒸らし加熱が不十分となり、加熱後の食品の味や食感が低下する一方、25分を超える加熱では、食品の水分過多を招き易く、過熱蒸気による食品加熱の利点が損なわれる上、加熱時間が全体として長くなってしまい、配膳時刻に合わせたスピーディな食品加熱(再加熱)が行えないという問題を生ずるからである。
【0017】
請求項6記載の本発明は、請求項1~請求項5のうちのいずれか一項記載の配膳車内の食品の複合加熱方法について、過熱蒸気の温度が、100~130℃とするものである。また、更に好ましい過熱蒸気温度範囲は、100~130℃である。
【0018】
すなわち、100℃未満の蒸気加熱では、食品表面における水滴発生のおそれがある一方、130℃を超える過熱蒸気の使用は不必要な温度上昇となる傾向があるからである。
【0019】
請求項7記載の本発明は、前記請求項1~請求項6のうちのいずれか一項記載の配膳車内の食品の複合加熱方法について、トレイメイクされた各トレイに対するマイクロ波照射のワット数を200W~400Wの範囲内とするものである。すなわち、マイクロ波照射のワット数が200W未満では、マイクロ波による加熱時間の短縮化の効果が顕著に得られず、また400Wを超える場合には、消費電力の増加傾向が表れるからである。
【発明の効果】
【0020】
本発明は、配膳車内に多段に収容された各トレイ上の食器内食品の加熱方法であって、食器内の食品に対して、マイクロ波による加熱と、過熱蒸気による加熱とを複合的に行い、且つ該複合的加熱を、前記食品の中心部温度が1分間以上、75℃以上に保たれるように行うことを特徴とするものである。
【0021】
前述した本発明によれば、マイクロ波の照射によって、トレイ上の食器に盛られた食品が短時間で急速に加熱され、また食品の外側部分よりも内部が有効に加熱される。また、過熱蒸気の送入によって、前記トレイ上の食器に盛られた食品がその外側部分から蒸らし加熱され得る。そして、この場合、過熱蒸気による食品の加熱は、前記マイクロ波による加熱ムラの欠点を補うという利点を有する。
【0022】
以上要するに、本発明に係る、トレイ上の食器内食品の複合加熱方法によれば、マイクロ波による短時間での食品内部からの加熱と過熱蒸気による食品の外側部分からの加熱が相乗的に行われ、そして、このようなマイクロ波による加熱特性と過熱蒸気による加熱特性との有機一体性によって、トレイ上の食器内食品の全体を隈なく、且つ短時間で効率的に温めることができ、しかも前述した過熱蒸気による蒸らし加熱によって、食味および食感にも優れた食品加熱が行えるという格別の実用的利点が得られる。
【0023】
また、本発明に係る配膳車内の食品の複合加熱方法には、トレイ上の食器に料理済みの食品を入れて再加熱する場合だけでなく、前記各食器に食材を入れて配膳車内で加熱調理を行って給食を提供する場合にも適用され得る。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明に係る複合加熱方法を使用する配膳車の概要を示す正面図である。
【
図2】加熱対象である御飯入り茶碗の断面図である。
【
図3】本発明の実施形態1におけるマイクロ波加熱と過熱蒸気加熱による冷や御飯 の内外温度上昇を示すグラフである。
【
図4】実施形態2における加熱対象であるトレイメイクされたトレイの斜視図である。
【
図5】実施形態2におけるマイクロ波加熱と過熱蒸気加熱による各食品の内外部における平均温度上昇を示すグラフである。
【
図6】同実施形態におけるトレイ上の各食品の仕上がり状態を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
次に、本発明を配膳車内に収容された冷蔵食品の加熱に適用した場合の実施形態について説明するが、本発明はかかる実施形態に限定されるものではない。
【0026】
先ず、本発明に係る複合加熱方法を実行する配膳車の概要について図面で説明すると、
図1に示す配膳車1は、本発明に係る冷蔵食品の加熱方法が使用されるものの一例であって、中央壁2aによって前後二室2b・2cに分けられた配膳車本体2と、配膳車本体2の下側に取り付けられた自在輪3並びに駆動輪4と、配膳車本体2の前後外面2f・2gにそれぞれ取り付けられた左右方向に伸びる略棒状のハンドル9を備えている。
【0027】
配膳車本体2は、前述した通り、前後二室2b・2cに分けられ、これらの部屋2b・2cの中央には仕切り壁部材5が上下方向に列設されて仕切壁が構成され、上下に隣り合う仕切り壁部材5間にはトレイ通路6が形成されており、また各トレイ通路6と同じ高さ位置には、中央壁2aと両側壁2dに、互いに対向するトレイ受け7が取り付けられ、トレイ通路6から差し込まれたトレイTの両側縁または一側縁がそれぞれトレイ受け7によって支持される。
【0028】
前述した配膳車1の前後二室2b・2cには当該配膳車1に設けられた冷却装置(図示せず)によって冷気が供給され、該冷気によって前記各トレイT上の食品が配膳前の所定時間まで冷蔵され、そして、前記中央壁2aの両側の庫内2eには、当該配膳車1の本体2に内蔵された過熱蒸気供給設備やマイクロ波を照射するマグネトロンおよび導波管(いずれも図示せず)によって、マイクロ波と過熱蒸気が供給される。そして、これらの加熱手段は、いずれもシーケンス制御部11によって、それらの出力量および出力時間が後述するように制御される。
【0029】
次に、前記配膳車1の本体2内に、多段に収容されたトレイT上に載置した食器内食品に対するマイクロ波と過熱蒸気による複合加熱の実施形態について説明する。
(実施形態1)
【0030】
先ず、
図2に示すように、茶碗12内に炊飯された冷や御飯Rを盛った状態において、第一加熱として、325Wのマイクロ波を照射した場合、
図3に示すように、マイクロ波の特性によって、加熱開始から約5分では、御飯Rの外部温度OTが70℃程度しか上昇していないものの、御飯Rの内部温度ITは既に80℃付近まで温められ、当初の冷や御飯Rの内部は十分に加熱されている。そして、このような状態で、前記マイクロ波の照射を停止して、第二加熱として、120℃の過熱蒸気による御飯Rの加熱を10分間、行えば、過熱蒸気による御飯Rの外側からの蒸らし加熱によって、御飯Rの外部温度OTが前記70℃程度から100℃付近まで先行して上昇し、また御飯Rの内部温度ITも追随して100℃まで上昇する結果、御飯R全体として均一な100℃まで加熱される。なお、その後は、加熱を停止した。
【0031】
そして、このような内外部均一な温度の御飯Rは、前記第二加熱である過熱蒸気による蒸らし加熱によって、適度の水分を含む食味・食感の良いものとなる。そのため、前述した複合加熱によって、冷や御飯が効率的に温められると共に、味わいが良く、又ふんわりした食感の御飯が得られ、またこのような優れた二段の加熱仕上がり特性は、給食で提供される主菜や副菜等の他の食品についても同様に得られた。
(実施形態2)
【0032】
次に、
図4に示すように、前記トレイT上に、例えば御飯を食べるための茶碗51と味噌汁を飲むための汁椀52と野菜類を食べるための皿53と肉類を食べるための小皿54が載置され、前記茶碗51には御飯Rが入れられ、前記汁椀52には味噌汁BEと具材TBが入れられ、前記皿53にはブロッコリーBRやジャガイモP等の調理済み野菜が盛られ、前記小皿54には成形されたハンバーグHBが載せられている。
【0033】
そして、前記トレイTを前記配膳車1の本体2内に多段に収容した後に、250Wのマイクロ波による加熱と120℃の過熱蒸気による加熱を同時並行して行った。
【0034】
その結果、
図5および
図6に示すように、前述した各食品R・BE・TB・ BR・P・HBにおいて、マイクロ波による内部温度ITが外部温度OTよりも先に上昇し、加熱開始から7分程度で各食品R・BE・TB・ BR・P・HBの内外温度IT・OTが100℃程度に達し、給食提供ができる程度に加熱(再加熱)された。
【0035】
なお、前記各実施形態におけるマイクロ波のワット数は、1トレイTあたりのものである。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明によれば、マイクロ波による加熱と過熱蒸気による加熱の相乗効果によって、食品等の内外部全体の効率的な加熱が実現でき、しかも両加熱後の食品の食味や食感にも優れているため、幅広い利用が期待できる。
【符号の説明】
【0037】
1 配膳車
2 配膳車本体
T トレイ