(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023136322
(43)【公開日】2023-09-29
(54)【発明の名称】プラズマ処理装置、粉末材料
(51)【国際特許分類】
B22F 9/14 20060101AFI20230922BHJP
B22F 10/28 20210101ALI20230922BHJP
B33Y 30/00 20150101ALI20230922BHJP
B33Y 70/10 20200101ALI20230922BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20230922BHJP
C22C 29/02 20060101ALI20230922BHJP
C22C 29/14 20060101ALI20230922BHJP
C04B 35/58 20060101ALN20230922BHJP
【FI】
B22F9/14 Z
B22F10/28
B33Y30/00
B33Y70/10
B22F1/00 Q
C22C29/02
C22C29/14
C04B35/58 050
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022041869
(22)【出願日】2022-03-16
(71)【出願人】
【識別番号】522106732
【氏名又は名称】株式会社ニイミセラミックス
(71)【出願人】
【識別番号】513099603
【氏名又は名称】兵庫県公立大学法人
(74)【代理人】
【識別番号】110000969
【氏名又は名称】弁理士法人中部国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】新美 良夫
(72)【発明者】
【氏名】井上 好明
(72)【発明者】
【氏名】堀江 晃央
(72)【発明者】
【氏名】新美 律
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 徹
(72)【発明者】
【氏名】柳谷 彰▲彦▼
【テーマコード(参考)】
4K017
4K018
【Fターム(参考)】
4K017AA06
4K017BA06
4K017BB13
4K017CA07
4K017EF02
4K018AA33
4K018AB04
4K018BA17
(57)【要約】
【課題】 金属セラミックス複合粒子を含む粉末材料の改良を図ること、その金属セラミックス複合粒子を含む粉末材料を製造可能なプラズマ処理装置を得ることである。
【解決手段】本プラズマ処理装置は、プラズマ発生部の下流側に冷却装置が設けられる。本プラズマ処理装置においては、プラズマ加熱により金属材料が溶融した状態にある凝集体が冷却装置によって速やかに冷却される。その結果、金属が凝固する際に、偏析が生じ難く、樹枝状組織が形成され難くすることができ、樹枝状組織を有しない金属セラミックス複合粒子を得ることができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉末積層造形または粉末冶金法に用いられる粉末材料であって、金属材料とセラミックス材料とを含む凝集体をプラズマ処理することにより、前記金属材料を溶融、凝固させて、前記金属材料のマトリックスに前記セラミックス材料の粒子が分散した金属セラミックス複合粒子を含む前記粉末材料を製造する場合に用いられるプラズマ処理装置であって、
プラズマを発生させるプラズマ発生部と、
前記プラズマ発生部より下流側に設けられた冷却装置と
を含むプラズマ処理装置。
【請求項2】
当該プラズマ処理装置が、
前記プラズマ発生部により発生した前記プラズマを拡散させる拡散器と、
前記プラズマ処理される原料である前記凝集体を、前記拡散器の下流側に供給する原料供給部と
を含む請求項1に記載のプラズマ処理装置。
【請求項3】
当該プラズマ処理装置が、前記プラズマ発生部の中央部に上流側から下流側に向かって延び、下流側端部において前記拡散器に接続された拡散ガス供給管を含み、
前記原料供給部が、前記拡散ガス供給管の内周側に隙間を隔てて、上流側から下流側に向かって延びた状態で設けられた原料供給管を含み、
前記原料供給管の下端の開口が、前記拡散器より下流側に突出した位置にある請求項2に記載のプラズマ処理装置。
【請求項4】
前記冷却装置が、概して中空環状を成す冷却装置本体と、前記冷却装置本体の内周部に設けられた複数の開口と、前記冷却装置本体の内部に冷媒を供給する冷媒供給部とを含む請求項1ないし3のいずれか1つに記載のプラズマ処理装置。
【請求項5】
当該プラズマ処理装置が、前記プラズマ発生部が設けられたプラズマ発生部本体と、前記プラズマ発生部本体の下流側部に設けられ、前記プラズマ発生部本体より小径の小径部とを含み、
前記冷却装置が、前記小径部の下流側部または前記小径部より下流側に設けられた請求項1ないし4のいずれか1つに記載のプラズマ処理装置。
【請求項6】
粉末積層造形または粉末冶金法に用いられる粉末材料であって、金属材料のマトリックスにセラミックス材料の粒子が分散した金属セラミックス複合粒子を含む粉末材料であって、
前記金属セラミックス複合粒子が、樹枝状組織を有しないものである粉末材料。
【請求項7】
前記セラミックス材料の平均粒径が0.1μm以上10μm以下である請求項6に記載の粉末材料。
【請求項8】
前記セラミックス材料がホウ化物を含む請求項6又は7に記載の粉末材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は金属セラミックス複合粒子を含む粉末材料の製造に用いるプラズマ処理装置、その金属セラミックス複合粒子を含む粉末材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、WとCとを含むとともに、Fe,Ni,Co,Crのうちの少なくとも1つを含む樹枝状組織を有する超硬合金組成の粉末材料、4族遷移金属、5族遷移金属、Wを除く6族遷移金属、Al,Siのうちの少なくとも1つと、Fe,Ni,Co,Crの少なくとも1つとを含む樹枝状組織を有するサーメット組成の粉末材料が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、金属セラミックス複合粒子を含む粉末材料の改良を図ること、その金属セラミックス複合粒子を含む粉末材料を製造可能なプラズマ処理装置を得ることである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係るプラズマ処理装置は、プラズマ発生部の下流側に設けられた冷却装置を含むものであり、本発明に係る粉末材料に含まれる金属セラミックス複合粒子は、金属材料が溶融、凝固して得られたマトリックスにセラミックス粒子が分散したものであり、樹枝状組織を実質的に有しないものである。
【0006】
特許文献1に記載の粉末材料に含まれる金属セラミックス複合粒子は、樹枝状組織を有するものである。プラズマ処理装置において、金属材料とセラミックス材料との凝集体がプラズマにより加熱(以下、プラズマ加熱と称する)されることにより金属材料が溶融し、その後、凝固する。しかし、溶融した金属材料は、プラズマ加熱された凝集体の温度とその周りの温度との差で決まる速度でゆっくり冷やされるため、凝固するのに長時間を要する。そのため、金属材料が凝固する際に、結晶が偏析して、樹枝状組織が形成されると考えられる。
【0007】
それに対して、本発明に係るプラズマ処理装置においては、プラズマ加熱により金属材料が溶融した状態にある凝集体が冷却装置によって速やかに冷却される。その結果、金属が凝固する際に、偏析が生じ難く、樹枝状組織が形成され難くなり、良好に、均一な結晶組織(等軸晶凝固組織)または微細結晶組織(非結晶組織)が形成されると考えられる。
このことは、「粉末冶金の科学」 発行所:株式会社内田老鶴圃 2020年7月31日第1版3刷発行 138頁-141頁に記載されている。
【発明の効果】
【0008】
このように、本発明に係るプラズマ処理装置によれば、均一な結晶組織または非結晶組織を有する金属材料のマトリックスにセラミックス粒子が分散した金属セラミックス複合粒子を含む粉末材料を得ることができる。換言すると、実質的に樹枝状組織を有しない金属セラミックス複合粒子を含む粉末材料を得ることができるのである。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の一実施例であるプラズマ処理装置の内部を概念的に示す図である。
【
図2】本発明の一実施例であるサンプル1,2、比較例であるサンプル3,4を製造する際に用いる金属材料、セラミックス材料等の配合比を示す図である。
【
図3】上記サンプル1,2の凝集体の外観を表す電子顕微鏡写真(以下、SEM像と略称する)である。
【
図4】上記サンプル1-4の金属セラミックス複合粒子の外観を表すSEM像である。
【
図5】上記サンプル1,2、サンプル3の金属セラミックス複合粒子の断面を表すSEM像である。
【
図6】本発明の一実施例であるサンプル5、比較例であるサンプル6を製造する際に用いる金属材料、セラミックス材料を示す図である。
【
図7】上記サンプル5,6の金属セラミックス複合粒子の断面を表すSEM像である。
【
図8】上記サンプル1,3、比較例の粉末材料を用いて3D積層造形法により造形体を製造した場合に、その造形体の特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本実施形態に係る粉末材料は、金属材料が溶融して凝固したマトリックスにセラミックス材料の粒子が分散した金属セラミックス複合粒子を含むものであり、本実施形態に係るプラズマ処理装置は、プラズマにより加熱されて金属材料が溶融した凝集体を冷却する冷却装置を含むものである。
【実施例0011】
上記金属セラミックス複合粒子は、造粒工程とプラズマ処理工程とによって得られる。
造粒工程においては、凝集体Cが製造される。造粒工程は、例えば、(i)スラリ調整工程、(ii)噴霧乾燥工程、(iii)仮焼、脱バインダ工程を含むものとすることができる。
【0012】
(i)のスラリ調整工程において、例えば、金属材料の粒子と、セラミックス材料の粒子とを配合し、媒体としての純水と、バインダとしてのポリビニルアルコールとを添加しつつ、ボールミルによって分散混合してスラリを調整する。
(ii)の噴霧乾燥工程において、例えば、スラリ調整工程において調整されたスラリを株式会社大川原化工機株式会社のスプレードライヤ(0C-16)にて噴霧乾燥する。それにより、平均粒径約35μmの凝集体(金属粒子とセラミックス粒子とが凝集または結合したもの)が得られる。
(iii)の仮焼、脱バインダ工程において、例えば、噴霧乾燥工程において得られた凝集体をAr雰囲気中において600℃で12時間保持することで、仮焼し、脱バインダを行う。
本実施例において、(ii)の噴霧乾燥工程で得られた凝集体、(iii)の仮焼、脱バインダ工程で得られた凝集体を区別することなく、凝集体Cと称する。
【0013】
プラズマ処理工程において、凝集体Cに対してプラズマ処理が行われる。プラズマ処理工程には、凝集体Cをプラズマにより加熱(以下、プラズマ加熱と称する)するプラズマ加熱処理工程と、プラズマ加熱された凝集体C(金属材料が溶融した状態にある)を冷却する冷却処理工程とが含まれる。換言すると、プラズマ処理には、プラズマ加熱処理と、冷却処理とが含まれるのである。
【0014】
[プラズマ処理装置]
以下、プラズマ処理を行う本実施例に係るプラズマ処理装置の一例を
図1に基づいて説明する。
プラズマ処理装置8は、プラズマ発生部12が設けられたプラズマ発生部本体である本体10と、本体10の上流側に設けられたヘッド11と、本体10の下流側に設けられた反応槽14とを含む。また、本実施例において、プラズマ発生部12が設けられた本体10、ヘッド11の本体16、反応槽14の本体14h等によりプラズマ処理装置8の本体が構成される。
【0015】
プラズマ発生部12が設けられた本体10である石英筒10は絶縁材料で製造されたものである。石英筒10の外周部にはプラズマ発生部12としての高周波誘導コイル12が巻かれており、高周波誘導コイル12に高周波電圧が印加されることにより、石英筒10の内部にプラズマ(プラズマフレームと称する場合もある)Pが発生させられる。
【0016】
また、石英筒10は、本実施例においては、図示しない内筒と外筒とから成る二重構造をなしており、これら内筒と外筒との間にジャケット24を介して冷媒(例えば、水とすることができる)が供給されて循環させられる。それにより、石英筒10が冷却される。
【0017】
石英筒10の下流側部には、石英筒10より小径の小径部26が接続される。小径部26は、本実施例においては、石英筒10より下流側に突出して、反応槽14に延び出して設けられる。小径部26は、絶縁材料で製造されたものであり、小径部26の内周側においては、プラズマPの温度が保持される。このことから、小径部26は保温部、または、保温筒と称することができる。
【0018】
石英筒10には、ヘッド11の本体16が取り付けられる。ヘッド11の本体16には、石英筒10の内周側に隙間を隔てて第1ガス供給筒30が保持され、第1ガス供給筒30の内周側には第2ガス供給筒32が保持される。第1ガス供給筒30、第2ガス供給筒32は、それぞれ、概して中空筒状を成すものである。第1ガス供給筒30には図示しない第1ガス源に接続された第1ガス配管40が接続され、第2ガス供給筒32には図示しない第2ガス源に接続された第2ガス配管42が接続される。また、石英筒10と第1ガス供給筒30との間の隙間には、図示しない第3ガス源に接続された第3ガス配管44が接続される。
【0019】
第1ガス配管40、第2ガス配管42、第3ガス配管44から供給される第1ガス、第2ガス、第3ガスは、石英筒10の内部に供給される。第1ガス供給筒30、第2ガス供給筒32は、互いに、内径が異なるものであり、第1ガス配管40、第2ガス配管42、第3ガス配管44は、本体16の互いに異なる径の部分に接続される。そのため、石英筒10の内周側の全体に良好にガスを供給することができる。
【0020】
また、第1ガス、第2ガス、第3ガスは、それぞれ、目的に応じて適宜決まる種類のガスとすることができる。本実施例においては、第1ガス、第2ガス、第3ガスは、それぞれ、水素、アルゴン等の不活性ガスとされる。
【0021】
また、ヘッド11の本体16の中央部には、第1ガス供給筒30、第2ガス供給筒32、石英筒10を通って、拡散ガス供給管50が保持され、拡散ガス供給管50の内周側には隙間を隔てて原料供給管52が保持される。拡散ガス供給管50、原料供給管52の各々は、それぞれ、石英筒10の中央部(プラズマ発生部の中央部でもある)において、上流側から下流側に向かって延び、それぞれの下流側端部は、石英筒10の中間部ないし下流側部に達する。また、原料供給管52は、拡散ガス供給管50より下流側に突出して延び出している。
【0022】
拡散ガス供給管50には図示しない拡散ガス源に接続された拡散ガス配管54が接続される。拡散ガス供給管50と原料供給管52との間の環状の隙間が拡散ガス通路50rとされるが、拡散ガス配管54は拡散ガス通路50rに連通している。
【0023】
拡散ガス供給管50の下流側端部には拡散器60が設けられる。拡散器60は、概して円錐台形状を成し、上面60fの外径は拡散ガス供給管50の外径より大きい。そのため、上面60fは段面(肩面)と称することができる。また、拡散器60の側面には、全周に渡って複数の開口60hが設けられる。
【0024】
拡散ガス供給管50に拡散ガスが供給されると、拡散器60の開口60hから概して石英筒10の半径方向に放射状に放出される。また、高周波誘導コイル12に高周波電圧が印加されることにより石英筒10の内部にプラズマPが発生させられると、そのプラズマPは拡散ガスにより拡散されるとともに、段面60fに当たって拡散される。その結果、プラズマPの温度が低下するとともに、プラズマPの加熱領域(低温加熱領域)が広くなる。
【0025】
原料供給管52の下流側端の開口52hは、拡散器60より下流側に位置し、原料としての凝集体Cは、原料供給管52の開口52hから供給される。換言すると、凝集体Cは、温度が低下したプラズマPの内部に供給されるのである。
【0026】
また、小径部26より下流側、すなわち、石英筒10のプラズマ発生部12が設けられた部分(高周波誘導コイル12が巻かれた部分)より下流側には、冷却装置66が設けられる。冷却装置66は、概して中空環状を成す冷却装置本体である本体68と、冷媒供給部70とを含む。
冷却装置66の本体68は、反応槽14の本体14a(プラズマ処理装置8の本体の一部である)に図示しない支持部材を介して保持される。本体68の内周側部には、全周に渡って複数の開口68hが設けられる。
冷媒供給部70は、ジャケット24と本体68とを接続する冷媒通路72と、冷媒通路72に接続された図示しない冷媒源とを含む。冷媒は不活性ガスとしたり、水としたりすること等ができる。
【0027】
冷却装置66において、冷媒供給部70により本体68の内部に冷媒が供給されると、冷媒は、開口68hから噴出する。それにより、本体68の内周側の部分が冷やされる。
【0028】
以上のように構成されたプラズマ処理装置8において、石英筒10の内部に、第1ガス、第2ガス、第3ガスが供給された状態で、高周波誘導コイル12に高周波電圧(例えば、10~30kw本実施例においては、30kw)が印加されると、
図1に示すように石英筒10の内部にプラズマPが発生する。
【0029】
本発明のプラズマ処理装置8では、拡散器60によりプラズマPが拡散され、プラズマPの温度が低下する。
【0030】
この状態で、図示しないホッパに収容された原料である凝集体Cが、原料供給管52からキャリアガスとともに供給され、開口52hからプラズマPの内部の拡散器60より下方の部分に供給される。
凝集体Cはプラズマ加熱され、凝集体Cの金属材料は溶融するが、プラズマPの温度が低下しているため、セラミックス材料は溶融し難い。そして、金属材料が溶融した凝集体C(プラズマ加熱された凝集体C)は、冷却装置66により急冷される。その結果、金属材料が速やかに結晶化する。すなわち、金属材料が結晶化する際に、偏析が生じ難く、樹枝状組成が生成され難くなり、ほぼ均一な結晶組織(等軸晶凝固組織)または微細結晶組織(非結晶組織)が形成される。
【0031】
また、プラズマ処理装置8によってプラズマ処理されることにより得られた金属セラミックス複合粒子は、溶融して凝固した金属材料のマトリックスにセラミックス粒子が均一に分散した状態にある。また、金属材料が溶融して凝固することにより、凝集体Cが球状化され、球状の金属セラミックス複合粒子が得られる。
このように、本プラズマ処理装置8によれば、樹枝状組織を有することなく、セラミックス粒子が金属材料のマトリックスに良好に分散した金属セラミックス複合粒子を製造することができるのである。
【0032】
本実施例において、金属材料としては、例えば、4属遷移金属{チタン(Ti),ジルコニウム(Zr),ハウニウム(Hf),ラザホージウム(Rf)}、5属遷移金属{バナジウム(V),ニオブ(Nb),タンタル(Ta),ドブニウム(Db)}、6属遷移金属{クロム(Cr),モリブテン(Mo),タングステン(W),シーボーギウム(Sg)}、その他アルミニウム(Al)、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、銅(Cu)、これらの合金等が該当する。これらのうちのいずれか1種を単独で用いても良いし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0033】
セラミックス材料としては、例えば、酸化物からなるセラミックス(酸化物系セラミックス)材料や、炭化物、ホウ化物、窒化物、アパタイト等の非酸化物からなるセラミックス(非酸化物系セラミックス)材料であってよい。
酸化物系セラミックスとしては、特に限定されることなく各種の金属の酸化物とすることができる。
【0034】
また、非酸化物系セラミックスとしては、例えば、(a)炭化タングステン,炭化クロム,炭化バナジウム,炭化ニオブ,炭化モリブデン,炭化タンタル,炭化チタン,炭化ジルコニウム,炭化ハフニウム,炭化ケイ素,炭化ホウ素等の炭化物、(b)ホウ化モリブデン,ホウ化クロム,ホウ化ハフニウム,ホウ化ジルコニウム,ホウ化タンタル,ホウ化チタンなどのホウ化物、(c)窒化チタン,窒化ケイ素,窒化アルミニウム等の窒化物、(d)コーディエライト,ムライト,チタン酸バリウム,チタン酸鉛,チタン酸ジルコン酸鉛,Mn-Znフェライト等の複合化物等が該当する。これらのうちのいずれか1種を単独で用いても良いし,2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0035】
金属材料の平均粒径は、30μm以下とすることが望ましく、20μm以下、10μm以下、8μm以下、5μm以下とすること等が望ましい。
【0036】
セラミックス材料の平均粒径は、0.1μm以上20μm以下とすることが望ましい。例えば、15μm,12μm,10μm、8.0μm,5.0μm,3.0μm以下,2.0μm以下のものとすることが望ましく、0.3μm以上,0.5μm以上のものとすることが望ましい。セラミックス材料の平均粒径は、金属材料の平均粒径より小さい場合が多いが、それに限らない。
【0037】
このように、金属材料とセラミックス材料との少なくとも一方の平均粒径を小さくすることにより、金属材料とセラミックス材料とを良好に凝集または結合させることができ、セラミックス材料が良好に分散した金属セラミックス複合粒子を製造することができる。
【0038】
本実施例において、平均粒径は、ISO13320:2020およびISO13322-2(JISZ8827-2)に従って測定された値である。具体的には、Microtrac社製のレーザ回析/散乱式粒度測定器を用いて測定した値である。
【0039】
セラミックス材料は、全体(金属材料、セラミックス材料等を含む)の体積に対して10vol%以上80vol%以下とすることが望ましい。また、15vol%,20vol%,30vol%,40vol%以上とすることが望ましく、70vol%,60vol%,50vol%、40vol%以下とすることが望ましい。セラミックス材料を10vol%以上80vol%以下とすることにより、セラミックス材料を金属材料のマトリックスに良好に分散させることができる。
【0040】
[粉末材料]
次に、
図2に示すように、サンプル1,2として、金属材料としてステンレス、セラミックス材料としてホウ化チタン(TiB2)、バインダの固形分、水を、
図2に示す比率(重量比率)で配合して、金属セラミックス複合粒子を製造する場合について説明する。
【0041】
ステンレスは、エプソンアトミックス株式会社製のステンレス粉PF-3F(平均粒径3μm)であり、ホウ化チタンは、日本新金属株式会社製のTiB2-NF(平均粒径1.9μm)であり、バインダは、デンカ株式会社製のポリビニルアルコールK-05である。
【0042】
なお、ホウ化チタンの20vol%は、12wt%(
図2のサンプル1)に対応し、ホウ化チタンの40vol%は、22wt%(
図2のサンプル2)にほぼ対応する。
【0043】
サンプル3,4は、それぞれ、サンプル1,2と同じ材料で、同じ比率で配合されたものであるが、サンプル1,2については、本プラズマ処理装置8における処理{すなわち、プラズマ加熱処理、冷却処理(冷却装置66を用いた処理)}を行い、サンプル3,4については、冷却処理(冷却装置66を用いた処理)を行うことなくプラズマ加熱処理のみを行った。
【0044】
そして、ステンレス、ホウ化チタン等を配合したものについて、上述のように、造粒工程の実施(スラリを調整し、噴霧,乾燥、仮焼,脱バインダを行うこと)により、凝集体Cを得た。サンプル1,2の凝集体C1,C2の外観の走査型電子顕微鏡(以下、SEMと略称する場合がある)写真(以下、SEM像と略称する場合がある)を
図3(a),(b)に示す。なお、サンプル3,4の凝集体は、サンプル1,2の凝集体C1,C2と同様の形状を成すため、図示を省略する。
【0045】
図3(a),(b)に示すように、凝集体C1,C2の各々において、白く見える部分がステンレス粉Mpであり、黒く見える部分がホウ化チタンの粒子Spである。また、凝集体C1,C2において、ステンレス粉Mpとホウ化チタンの粒子Spとが良好に凝集して結合した状態にあることが明らかである。
【0046】
次に、サンプル1,2の凝集体C1,C2については、プラズマ加熱処理、冷却処理を行い、サンプル3,4の凝集体については、プラズマ加熱処理のみを行うことにより、金属セラミックス複合粒子を得た。
図4(a),(b)には、それぞれ、サンプル1,2の金属セラミックス複合粒子Sm1、Sm2の外観のSEM像を示し、
図4(c),(d)には、それぞれ、サンプル3,4の金属セラミックス複合粒子Sm3,Sm4の外観のSEM像を示す。
図4(a)-(d)と
図3(a),(b)とを比較すると明らかなように、プラズマ加熱処理により、球状化が図られ、真球度が高い金属セラミックス複合粒子Sm1-Sm4を得ることができる。
なお、
図4(a),(b)に示すサンプル1,2の金属セラミックス複合粒子Sm1,Sm2において、Mは金属材料が溶融して、凝固したマトリックスを示す。
【0047】
また、
図5(a),
図5(b)には、サンプル1,2の金属セラミックス複合粒子Sm1、Sm2の断面のSEM像を示し、
図5(c)には、サンプル3の金属セラミックス複合粒子Sm3の断面のSEM像を示す。金属セラミックス複合粒子Smをエポキシ樹脂に埋め込みダイヤモンドシートにて研磨を行い、その後SEMにて断面の観察を行ったのである。
【0048】
図5(a),(b)に示すように、金属セラミックス複合粒子Sm1、Sm2において、金属材料のマトリックスMにセラミックス粒子Spが均一に分散していることが明らかである。
【0049】
また、
図5(a),(b)と
図5(c)とを比較すると、サンプル1,2の金属セラミックス複合粒子Sm1,Sm2の断面には樹枝状組織は見られないが、サンプル3の金属セラミックス複合粒子Sm3の断面には、樹枝状組織が見られることが明らかである。このように、冷却装置66により、金属材料が溶融した凝集体C1,C2を急冷(速やかに冷却)することにより、金属が結晶化する場合に偏析が生じ難く、樹枝状組織が得られ難くなり、均一の結晶組織または非結晶組織を有する金属セラミックス複合粒子が得られることが明らかである。
以上のように、サンプル1,2の金属セラミックス複合粒子を含む粉末材料が、本発明に係る粉末材料に対応する。
また、本実施例においては、平均粒径が10μm-150μmの金属セラミックス複合粒子を含む粉末材料を得ることができる。
【0050】
[粉末積層造形]
本実施例において、サンプル1,3の金属セラミックス複合粒子を含む粉末材料について、それぞれ、EOS社製3D積層造形装置(EOS-M280)にて、粉末積層造形を行った。3D積層造形装置は、レーザとしてYbファイバーレーザを用いるものであり、最大レーザ出力が400W、レーザ径が約100μmのものである。また、比較例として市販の3D印刷用粉末PowderRange316L(カーペンターアディティブ社製)についても同様に粉末積層造形を行った。比較例は、セラミックス材料を含まず、ステンレス材料から成るものであり、通常のガスアトマイズ製法により得られた粉末である。
【0051】
そして、サンプル1,3、比較例の各々について、それぞれ、3D積層造形装置を用いて、レーザ出力250W、積層ピッチ30μmで造形を行った。それにより得られた造形体の各々について、硬さ(ビッカーズ硬度)、引張強度を測定した。ビッカーズ硬度は、JIS Z 2244-1に準拠する方法により測定し、引張強度は、ASTM E8に準拠する方法により、試験片サイズとして平行部の直径を3mmとし、標点間長さを7mmとして、室温で測定した。その結果を、
図8に示す。
【0052】
図8に示すように、引張強度については、サンプル1を使用して3D積層造形を行って得られた造形体(以下、サンプル1使用造形体と称する。サンプル3,市販3D印刷用粉末についても同様とする)についての値は、サンプル3使用造形体についての値より大きいが、市販3D印刷用粉末使用造形体についての値より小さいことが明らかである。しかし、これらの値の差は小さいため、サンプル1使用造形体、サンプル3使用造形体、市販3D印刷用粉末使用造形体の各々について、引張強度は、ほぼ同程度であると考えることができる。
【0053】
ビッカーズ硬度については、サンプル1使用造形体についての値がサンプル3使用造形体についての値より大きく、市販3D印刷用粉末使用造形体についての値より2倍以上大きいことが明らかである。このことから、サンプル1使用造形体についてのビッカーズ硬度は、サンプル3使用造形体、市販3D印刷用粉末使用造形体より大きいことが明らかである。
【0054】
以上のように、樹枝状組織を有しない粉末材料を用いて得られたサンプル1使用造形体については、樹枝状組織を有する粉末を用いて得られたサンプル3使用造形体と比較して、剛性をほぼ同じ程度に保持しつつ、硬度を大きくできることが明らかである。また、サンプル使用造形体については、市販3D印刷用粉末使用造形体と比較しても、同様に、剛性をほぼ同じ程度に保持しつつ、硬度を良好に大きくできることが明らかである。
このように、サンプル1は、3D積層造形法に用いるのに適した粉末材料である。
【0055】
[粉末材料]
次に、
図6に示すように、サンプル5,6として、市販の材料(プラズマ処理が行われる前のものであり、凝集体に対応するものである)を用いて、金属セラミックス複合粒子を製造した場合について説明する。
サンプル5,6は、金属材料としてコバルト、セラミックス材料として炭化タングステンを含むものである。また、サンプル5に対してはプラズマ加熱処理、冷却処理を行い、サンプル6に対しては冷却処理を行うことなくプラズマ加熱処理のみを行った。
【0056】
それにより得られた金属セラミックス複合粒子Sm5,Sm6の断面のSEM像を
図7(a),(b)に示した。
【0057】
図7(b)に示すように、サンプル6の金属セラミックス複合粒子Sm6には、樹枝状組織が見られるのに対して、
図7(a)に示すように、サンプル5の金属セラミックス複合粒子Sm5には、樹枝状組織が見られない。このように、
図7(a),(b)からも、冷却装置66を用いることにより、樹枝状組織が形成され難くすることができることが明らかである。
【0058】
[その他]
なお、プラズマ処理装置8の構造は上記実施例のそれに限らない。例えば、3つのガス供給部を設けることは不可欠ではなく、ガス供給部は1つまたは2つでもよい。
【0059】
また、冷却装置66は、小径部26に設けることもできる。冷却装置66は、金属材料が溶融状態にある凝集体Cを良好に冷却可能な位置に設ければよい。
【0060】
さらに、造粒工程の実施方法は、上記実施例におけるそれに限らない。例えば、(iii)の仮焼,脱バインダ工程は不可欠ではない。また、バインダは、ポリビニルアルコールに限らない等、その他、本発明は、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した種々の態様で実施することができる。
10:石英筒 14:反応槽 12:高周波誘導コイル 26:小径部 50:拡散ガス供給管 52:原料供給管 52h:開口 60:拡散器 60f:段面 60h:開口 66:冷却装置 68h:開口
(1)粉末積層造形または粉末冶金法に用いられる粉末材料であって、金属材料とセラミックス材料とを含む凝集体をプラズマ処理することにより、前記金属材料を溶融、凝固させて、前記金属材料のマトリックスに前記セラミックス材料の粒子が分散した金属セラミックス複合粒子を含む前記粉末材料を製造する場合に用いられるプラズマ処理装置であって、
プラズマを発生させるプラズマ発生部と、
前記プラズマ発生部より下流側に設けられた冷却装置と
を含むプラズマ処理装置。
(2)粉末積層造形または粉末冶金法に用いられる粉末材料であって、金属材料とセラミックス材料とを含む凝集体をプラズマ処理することにより、前記金属材料を溶融、凝固させて、前記金属材料のマトリックスに前記セラミックス材料の粒子が分散した金属セラミックス複合粒子を含む前記粉末材料を製造する場合に用いられるプラズマ処理装置であって、
プラズマを発生させるプラズマ発生部と、
前記金属材料が溶融した前記凝集体を冷却する冷却装置と
を含むプラズマ処理装置。
プラズマ発生部においてプラズマが発生させられる。凝集体は、プラズマの内部に供給されて、金属材料が溶融する。また、金属材料が溶融した凝集体は冷却装置によって冷却される。それにより、金属材料が速やかに冷却され、結晶化する。結晶の偏析が抑制され、均一の結晶組織が得られる。
プラズマ処理装置において、プラズマが拡散されることにより、プラズマの温度を下げることができる。それにより、プラズマ処理の対象(原料)である凝集体の金属材料が溶融し過ぎることを回避し、過度の劣化を抑制することができる。また、セラミックス材料が溶融し難くすることができる。
(6)前記冷却装置が、概して中空環状を成す冷却装置本体と、前記冷却装置本体の内周部に設けられた複数の開口と、前記冷却装置本体の内部に冷媒を供給する冷媒供給部とを含む(1)項ないし(5)項のいずれか1つに記載のプラズマ処理装置。
(7)当該プラズマ処理装置が、前記プラズマ発生部が設けられたプラズマ発生部本体と、前記プラズマ発生部本体の下流側部に設けられ、前記プラズマ発生部本体より小径の小径部とを含む(1)項ないし(6)項のいずれか1つに記載のプラズマ処理装置。
プラズマ発生部本体は、概して絶縁性材料によって形成されたものであり、前記プラズマ発生部本体の外周部に、プラズマ発生部としてのコイルが巻かれている。コイルに電圧を印加することにより、プラズマ発生部本体の内部にプラズマが発生させられる。
また、前記プラズマ発生部本体の下流側部の小径部の内部において、プラズマの温度が低下し難くなる。そのため、凝集体に対して良好にプラズマ加熱することができる。小径部は、プラズマ発生部本体より下流側に延び出したものとすることができる。
(9)当該プラズマ処理装置が、前記プラズマ発生部が設けられたプラズマ発生部本体の内周側にガスを供給可能なガス供給部を含む(1)項ないし(8)項のいずれか1つに記載のプラズマ処理装置。
(10)粉末積層造形または粉末冶金法に用いられる粉末材料であって、金属材料のマトリックスに、平均粒子径が、0.1μm以上10μm以下であるセラミックス材料の粒子が分散した金属セラミックス複合粒子を含む粉末材料。
(11)粉末積層造形または粉末冶金法に用いられる粉末材料であって、金属材料のマトリックスにセラミックス材料の粒子が分散した金属セラミックス複合粒子を含む粉末材料であって、
前記金属セラミックス複合粒子が、樹枝状組織を有しないものである粉末材料。
「樹枝状組織を有しない」とは、「樹枝状組織を実質的に有しない」、「樹枝状組織が少ない」の意味であり、換言すると、「少しは樹枝状組織を含む場合がある」の意味である。
(14)粉末積層造形または粉末冶金法に用いられ、金属材料のマトリックスに、セラミックス材料の粒子が分散した金属セラミックス複合粒子を含む粉末材料を製造する粉末材料製造方法であって、
前記金属材料と前記セラミックス材料とを噴霧、乾燥させて、前記金属材料と前記セラミックス材料とが凝集または結合した凝集体を造粒する造粒工程と、
前記造粒工程において得られた前記凝集体をプラズマ処理することにより、前記金属材料を溶融し、そのプラズマ加熱した凝集体を冷却することにより前記溶融した金属材料を凝固させるプラズマ処理工程と
を含む粉末材料製造方法。
プラズマ処理工程は、プラズマ加熱処理工程と、冷却処理工程とを含む。プラズマ加熱処理工程において、金属材料が溶融し、冷却処理工程において、金属材料が溶融した状態の凝集体が冷却される。このプラズマ処理は、(1)項ないし(9)項のいずれかに記載のプラズマ処理装置を用いることにより実施することができる。