(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023136324
(43)【公開日】2023-09-29
(54)【発明の名称】射出成形用ポリフェニレンエーテル樹脂組成物ペレット、及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08J 3/20 20060101AFI20230922BHJP
B29B 9/12 20060101ALI20230922BHJP
B29C 45/00 20060101ALI20230922BHJP
C08K 3/013 20180101ALI20230922BHJP
C08L 71/12 20060101ALI20230922BHJP
C08K 7/06 20060101ALI20230922BHJP
【FI】
C08J3/20 B CEZ
B29B9/12
B29C45/00
C08K3/013
C08L71/12
C08K7/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022041875
(22)【出願日】2022-03-16
(71)【出願人】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(72)【発明者】
【氏名】中切 信彦
(72)【発明者】
【氏名】中川 知英
【テーマコード(参考)】
4F070
4F201
4F206
4J002
【Fターム(参考)】
4F070AA52
4F070AC04
4F070AC28
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4F070AD04
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4F201AA32
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4F206JA07
4J002CH071
4J002DA016
4J002DL006
4J002FA046
4J002FD077
4J002GM00
4J002GN00
4J002GQ00
(57)【要約】
【課題】 高温時においても高い弾性率を保持する射出成形品を得るためのポリフェニレンエーテル樹脂組成物ペレットを提供する。
【解決手段】 熱可塑性樹脂(A)10~95質量%、無機フィラー(B)5~90質量%、及び酸化防止剤(C)0~3質量%を含有し、前記熱可塑性樹脂(A)の80質量%以上がポリフェニレンエーテル樹脂である射出成形用ポリフェニレンエーテル樹脂組成物ペレットである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂(A)10~95質量%、無機フィラー(B)5~90質量%、及び酸化防止剤(C)0~3質量%を含有し、前記熱可塑性樹脂(A)の80質量%以上がポリフェニレンエーテル樹脂であることを特徴とする射出成形用ポリフェニレンエーテル樹脂組成物ペレット。
【請求項2】
該ポリフェニレンエーテル樹脂組成物ペレットを射出成形して得られた成形品の、150℃における曲げ弾性率が7GPa以上であることを特徴とする、請求項1に記載のポリフェニレンエーテル樹脂組成物ペレット。
【請求項3】
前記無機フィラーが炭素繊維であることを特徴とする、請求項1又は2に記載のポリフェニレンエーテル樹脂組成物ペレット。
【請求項4】
請求項1~3のいずれかに記載のポリフェニレンエーテル樹脂組成物ペレットの製造方法であって、熱可塑性樹脂(A)を供給する供給口より下流側において開口部が設けられたバレルを有し、該開口部の上部に窒素注入ラインとガス抜き部とを有するベントポートが設けられ、かつ、ベント内が仕切り板で窒素注入ラインとガス抜き部が区切られている二軸押出機を用いて溶融混練することを特徴とする、ポリフェニレンエーテル樹脂組成物ペレットの製造方法。
【請求項5】
溶融混錬を担うバレルの設定温度が250~350℃の範囲内であり、熱可塑性樹脂(A)を供給する供給口の上部に設けられた集合ホッパー内の酸素濃度を3vol%以下とする、請求項4に記載のポリフェニレンエーテル樹脂組成物ペレットの製造方法。
【請求項6】
請求項1~3のいずれかに記載のポリフェニレンエーテル樹脂組成物ペレットからなる射出成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高温時においても高い弾性率を保持する射出成形用ポリフェニレンエーテル樹脂組成物ペレット、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリフェニレンエーテル系樹脂は、機械的性質、電気的性質および耐熱性が優れており、しかも寸法安定性が優れるため広い範囲で用いられている。しかしながら、ポリフェニレンエーテル系樹脂単独では、成形加工性が劣っている。成形加工性を改良するために、ポリフェニレンエーテル系樹脂にポリスチレン系樹脂、ポリアミド系樹脂等を配合する技術が提案されている。そして、ポリフェニレンエーテル系樹脂は、それ以降も様々な改良が加えられ、現在では非常に多くの用途に用いられる材料となっている。
【0003】
近年、特に電子電機部材における製品の薄肉化や、車両用部品の小サイズ化からより軽く、より強いものへの要求が高まっており、強度/比重で示される比強度のより高い熱可塑性樹脂組成物が求められている。
【0004】
前述したように、ポリフェニレンエーテル樹脂は溶融粘度が高いために成形加工性が劣っており、ポリフェニレンエーテル樹脂に他の流動性が良好な樹脂をアロイ化することで、成形加工性を克服してきた。特許文献1には、ポリフェニレンエーテル樹脂にスチレン系樹脂をポリマーアロイする技術が開示されている。
【0005】
しかしながら、スチレン系樹脂の割合を増やすと流動性が向上する半面、燃焼性(耐熱性)が低下する。逆にスチレン系樹脂の割合を減らすと燃焼性(耐熱性)が向上するが、流動性が低下する。燃焼性(耐熱性)と流動性はトレードオフの関係であり、流動性の観点から、ポリフェニレンエーテル樹脂単体で取り扱うのは困難である。
【0006】
さらに、特許文献2では、ポリフェニレンエーテル樹脂にポリアミド系樹脂をアロイ化する技術で添加する難燃剤の検討をしているが、耐熱性、耐薬品性、加工性の観点から好ましいポリフェニレンエーテル樹脂とポリアミド樹脂の割合について記載されており、ポリフェニレンエーテル樹脂単体を想定していない。
【0007】
特許文献3では、ポリフェニレンエーテル樹脂単体を使用した押出方法に関する特許であるが、ポリフェニレンエーテル樹脂に無水マレイン酸を想定したビニールモノマーを添加して、変性ポリフェニレンエーテルを製造する技術であり、ポリフェニレンエーテル単体に無機フィラー等を混錬させることを想定していない。
【0008】
薄肉化や小サイズ化した部品は、射出成形により得ることができるが、従来の技術では、ポリフェニレンエーテル単体に無機フィラー等を混錬させた樹脂組成物の射出成形用のペレットは得られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2005-302146号公報
【特許文献2】特開2010-260995号公報
【特許文献3】特許第3782186号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記従来課題の現状に鑑み創案されたものであり、その目的は、高温時においても高い弾性率を保持する射出成形品を得るためのポリフェニレンエーテル樹脂組成物ペレットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、かかる目的を達成するために鋭意検討した結果、高いガラス転移点を持つポリフェニレンエーテル樹脂と、無機フィラーを一定範囲量添加して特定の製造条件でコンパウンドすることで、高温時においても高い弾性率(特に、150℃における曲げ弾性率が7GPa以上)を示す射出成形品に成形できるポリフェニレンエーテル樹脂組成物ペレットが得られることを見出した。
【0012】
すなわち、本発明は、以下の通りである。
【0013】
(1) 熱可塑性樹脂(A)10~95質量%、無機フィラー(B)5~90質量%、及び酸化防止剤(C)0~3質量%を含有し、前記熱可塑性樹脂(A)の80質量%以上がポリフェニレンエーテル樹脂であることを特徴とする射出成形用ポリフェニレンエーテル樹脂組成物ペレット。
(2) 該ポリフェニレンエーテル樹脂組成物ペレットを射出成形して得られた成形品の、150℃における曲げ弾性率が7GPa以上であることを特徴とする、(1)に記載のポリフェニレンエーテル樹脂組成物ペレット。
(3) 前記無機フィラーが炭素繊維であることを特徴とする、(1)又は(2)に記載のポリフェニレンエーテル樹脂組成物ペレット。
(4) (1)~(3)のいずれかに記載のポリフェニレンエーテル樹脂組成物ペレットの製造方法であって、熱可塑性樹脂(A)を供給する供給口より下流側において開口部が設けられたバレルを有し、該開口部の上部に窒素注入ラインとガス抜き部とを有するベントポートが設けられ、かつ、ベント内が仕切り板で窒素注入ラインとガス抜き部が区切られている二軸押出機を用いて溶融混練することを特徴とする、ポリフェニレンエーテル樹脂組成物ペレットの製造方法。
(5) 溶融混錬を担うバレルの設定温度が250~350℃の範囲内であり、熱可塑性樹脂(A)を供給する供給口の上部に設けられた集合ホッパー内の酸素濃度を3vol%以下とする、(4)に記載のポリフェニレンエーテル樹脂組成物ペレットの製造方法。
(6) (1)~(3)のいずれかに記載のポリフェニレンエーテル樹脂組成物ペレットからなる射出成形品。
【発明の効果】
【0014】
本発明のポリフェニレンエーテル樹脂組成物ペレットは、ポリフェニレンエーテル樹脂と無機フィラーの種類、さらに二軸押出機にてコンパウンドを行う際の操業条件を細かく規定することによって、今までにない高温時においても高い弾性率を保持する射出成形品を得ることができる。無機フィラーの選択によっては、150℃という高い温度条件下においても7GPa以上の弾性率を有し、かつポリフェニレンエーテル樹脂の特性上、高い寸法安定性と低吸水性であるため、電気電子機器の筐体や自動車内装および外装用の部品、レジャー用具、遊具の部品として極めて有用である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の射出成形用ポリフェニレンエーテル樹脂組成物ペレットは、熱可塑性樹脂(A)と、無機フィラー(B)を含み、前記熱可塑性樹脂(A)の80質量%以上がポリフェニレンエーテル樹脂であるものである。
【0016】
本発明で使用する熱可塑性樹脂(A)の80質量%以上を占めるポリフェニレンエーテル樹脂について説明する。ポリフェニレンエーテル樹脂としては、例えば、ポリ(2,6-ジメチルフェニレンエーテル)、ポリ(2-メチル-6-エチルフェニレンエーテル)、ポリ(2-メチル-6-フェニルフェニレンエーテル)、ポリ(2,6-ジクロロフェニレンエーテル)、および2、6-ジメチルフェノールと他のフェノール類との共重合体(例えば、特公昭52-17880号公報に記載されているような2,3,6-トリメチルフェノールとの共重合体や2-メチル-6-ブチルフェノールとの共重合体)といったポリフェニレンエーテル共重合体が挙げられる。
【0017】
これらの中でも、より好ましくは、ポリ(2,6-ジメチルフェニレンエーテル)、および2,6-ジメチルフェノールと2,3,6-トリメチルフェノールとの共重合体、ならびにこれらの混合物である。
【0018】
これらのポリフェニレンエーテル樹脂は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせてもよい。
【0019】
上記した2,6-ジメチルフェノールと2,3,6-トリメチルフェノールとの共重合体を使用する場合、2,3,6-トリメチルフェノールの量として、2,6-ジメチルフェノールと2,3,6-トリメチルフェノールの合計に対して、好ましくは15~40モル%の範囲内である。
【0020】
本実施の形態に用いるポリフェニレンエーテル樹脂の製造方法は、公知の方法であれば特に制限されることはない。例えば、米国特許第3306874号明細書、米国特許第3306875号明細書、米国特許第3257357号明細書、米国特許第3257358号明細書、特開昭50-51197号公報、特公昭52-17880号公報、および特開昭63-152628号公報などに記載の製造方法が挙げられる。
【0021】
本実施の形態に用いるポリフェニレンエーテル樹脂の還元粘度(0.5g/dLクロロホルム溶液、30℃、ウベローデ型粘度管で測定)は、0.20~0.70dL/gの範囲であることが好ましい。
【0022】
本実施の形態に用いるポリフェニレンエーテル樹脂は、2種以上の還元粘度の異なるポリフェニレンエーテル樹脂をブレンドしたものであってもよい。
【0023】
本実施の形態に用いるポリフェニレンエーテル樹脂は、全部または一部が変性されたポリフェニレンエーテル樹脂であってもよい。変性されたポリフェニレンエーテル樹脂とは、1種以上の変性化合物により変性されたポリフェニレンエーテル樹脂を指す。ここで変性化合物とは、分子構造内に一以上の炭素同士の二重結合および/または三重結合、ならびにカルボン酸基、酸無水物基、アミノ基、水酸基およびグリシル基からなる群より選択される一以上の基を有する化合物のことをいう。
【0024】
当該変性されたポリフェニレンエーテル樹脂の製造方法としては、特に制限されないが、たとえば以下の(1)~(3)のような方法が挙げられる。
(1)ラジカル開始剤の存在下または不存在下、100℃以上、ポリフェニレンエーテル樹脂のガラス転移温度未満の範囲の温度で、ポリフェニレンエーテル樹脂を溶融させることなく変性化合物と反応させる方法。
(2)ラジカル開始剤の存在下または不存在下、ポリフェニレンエーテル樹脂のガラス転移温度以上360℃以下の範囲の温度で、ポリフェニレンエーテル樹脂と変性化合物とを溶融混錬し反応させる方法。
(3)ラジカル開始剤の存在下または不存在下、ポリフェニレンエーテルのガラス転移温度未満の温度で、ポリフェニレンエーテル樹脂と変性化合物とを溶液中で反応させる方法。
【0025】
中でも好ましくは、上記(1)または(2)の方法である。
【0026】
分子構造内に一定以上の炭素同士の二重結合および/または三重結合、ならびにカルボン酸基、酸無水物基、アミノ基、水酸基およびグリシジル基からなる群より選択される一以上の基を有する、1種以上の変性化合物が、上記の方法において好適に使用できる。これらの変性化合物について、以下具体的に説明する。
【0027】
分子構造内に炭素同士の二重結合と、カルボン酸または酸無水物基とを同時に有する変性化合物としては、特に制限されないが、例えば、マレイン酸、クエン酸、イタコン酸、フマル酸、クロロマレイン酸、およびシス-4-シクロヘキセン-1、2-ジカルボン酸、イタコン酸、無水マレイン酸およびフマル酸であり、より好ましくはクエン酸、イタコン酸および無水マレイン酸である。また、上記変性化合物として、これら不飽和ジカルボン酸における2個のカルボキシル基のうちの1個または2個がエステルになっているものでもよい。
【0028】
分子構造内に炭素同士の二重結合およびグリシジル基を同時に有する変性化合物としては、特に制限されないが、例えば、アリルグリシジルエーテル、グリシジルアクリレート、グリシジルメタアクリレート、およびエポキシ化天然油脂が挙げられる。中でも、グリシジルアクリレートおよびグリシジルメタアクリレートが好ましい。
【0029】
分子構造内に炭素同士の二重結合および水酸基を同時に有する変性化合物としては、特に制限されないが、例えば、アリルアルコール、4-ペンテン-1-オール、1、4-ペンタジエン-3-オール等の一般式CnH2n-3OH、CnH2n-5OH、およびCnH2n-7OH(いずれもnは正の整数)で表される不飽和アルコールが挙げられる。
【0030】
上述した変性化合物は、それぞれ1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0031】
変性されたポリフェニレンエーテル樹脂を製造する際の変性化合物の添加量は、ポリフェニレンエーテル樹脂100質量部に対して0.1~10質量部が好ましく、より好ましくは0.3~5質量部である。
【0032】
ラジカル開始剤を用いて変性されたポリフェニレンエーテル樹脂を製造する際の好ましいラジカル開始剤の量は、ポリフェニレンエーテル樹脂100質量部に対して0.001~1質量部である。
【0033】
また、変性されたポリフェニレンエーテル樹脂への変性化合物の付加率は、0.01~5質量%が好ましい。より好ましくは0.10~3質量%である。
【0034】
当該変性されたポリフェニレンエーテル中には、未反応の変性化合物および/または変性化合物の重合体が1質量%未満の量であれば残存してもよい。
【0035】
本発明において、熱可塑性樹脂(A)の80質量%以上がポリフェニレンエーテル樹脂である。熱可塑性樹脂(A)中のポリフェニレンエーテル樹脂の割合は、90質量%以上が好ましく、95質量%以上がより好ましく、100質量%であっても良い。ポリフェニレンエーテル樹脂以外で熱可塑性樹脂(A)として使用できるものとして、ポリスチレン系樹脂、ABS系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、飽和ポリエステル系樹脂、ポリフェニレンサルファイド系樹脂等が挙げられる。
【0036】
本発明で使用する無機フィラー(B)について説明する。無機フィラー(B)としては、強化繊維が好ましい。
【0037】
強化繊維は特に限定されないが、代表例としては、炭素繊維、炭化ケイ素繊維、ガラス繊維などの無機繊維、ボロン繊維などの金属繊維、アラミド繊維などの有機繊維が挙げられる。コスト、ならびに得られる成形品の弾性率および機械的強度の観点から、ガラス繊維、炭素繊維などの無機繊維が好ましく、特に、150℃という高い温度条件下においても7GPa以上の弾性率を達成する観点から炭素繊維が好ましい。
【0038】
ポリフェニレンエーテル樹脂に配合する無機フィラー(B)の量を増減させることで所望の力学物性特性を引き出すことが可能である。配合(含有)割合としては、ポリフェニレンエーテル樹脂組成物ペレット中、熱可塑性樹脂(A)10~95質量%、無機フィラー(B)5~90質量%であることが重要であり、熱可塑性樹脂(A)50~90質量%、無機フィラー(B)10~50質量%が好ましく、熱可塑性樹脂(A)60~85質量%、無機フィラー(B)15~40質量%がより好ましい。無機フィラー(B)の配合量が5質量%より少ない場合、期待する補強効果が得られない可能性があり、無機フィラー(B)の配合量が90質量%より多い場合、ポリフェニレンエーテル樹脂中に無機フィラー(B)が均一に分散できない。
【0039】
本実施の形態にかかるポリフェニレンエーテル樹脂組成物は、さらに酸化防止剤(C)を含んでもよい。
【0040】
上記酸化防止剤(C)は、ラジカル連鎖禁止剤として働く一次酸化防止剤と、過酸化物を分解する効果のある二次酸化防止剤のどちらも使用可能である。すなわち、酸化防止剤を用いることにより、ポリフェニレンエーテル樹脂が長時間高温にさらされた際に、末端メチル基または側鎖メチル基において生じ得るラジカルを捕捉することができ(一次酸化防止剤)、または当該ラジカルにより末端メチル基または側鎖メチル基に生じた過酸化物を分解することができ(二次酸化防止剤)、それ故に、ポリフェニレンエーテル樹脂の酸化架橋を防止することができる。
【0041】
一次酸化防止剤としては、主にヒンダードフェノール系酸化防止剤が使用可能であり、具体例は、2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール、ペンタエリスリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、n-オクタデシル-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-t-ブチルフェノール)、2-t-ブチル-6-(3-t-ブチル-2-ヒドロキシ-5-メチルベンジル)-4-メチルフェニルアクリレート、2-[1-(2-ヒドロキシ-3,5-ジ-t-ペンチルフェニル)エチル]-4,6-ジ-t-ペンチルフェニルアクリレート、4,4’-ブチリデンビス(3-メチル-6-t-ブチルフェノール)、アルキレイテッドビスフェノール、テトラキス[メチレン-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、3,9-ビス[2-〔3-(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)-プロピオニロキシ〕-1,1-ジメチルエチル]-2,4,8,10-テトラオキシスピロ[5,5]ウンデカン等である。
【0042】
二次酸化防止剤としては、主にリン系酸化防止剤を使用できる。リン系酸化防止剤の具体例は、トリスノニルフェニルホスファイト、トリフェニルホスファイト、トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイト、ビス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ペンタエリスリトール-ジ-ホスファイト、ビス(2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトール-ジ-ホスファイト、3,9-ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノキシ)-2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジホスファスピロ[5,5]ウンデカン等である。
【0043】
また、他の酸化防止剤として、酸化亜鉛、酸化マグネシウム等の金属酸化物、硫化亜鉛等の金属硫化物を上記酸化防止剤と併用して用いることも可能である。
【0044】
これらのうち、成形品の靭性や長期高温暴露後の機械物性を改良させるためには、二次酸化防止剤であるリン系酸化防止剤が好ましく、ホスファイト系酸化防止剤がより好ましい。
【0045】
酸化防止剤(C)の含有量は、ポリフェニレンエーテル樹脂組成物ペレット100質量%に対して、0~3質量%であることが好ましい。射出成形加工時の樹脂の酸化劣化抑制の観点から、0.0001質量%以上が好ましく、成形品表面外観保持の観点から、3質量%以下の含有が好ましい。
【0046】
本発明のポリフェニレンエーテル樹脂組成物ペレットには、その他に、本発明の効果を損なわない範囲で、公知の添加剤を配合しても良い。公知の添加剤としては、例えば顔料等の着色剤、耐熱安定剤、紫外線吸収剤、光安定剤、可塑剤、変性剤、帯電防止剤、難燃剤、染料等が挙げられる。ポリフェニレンエーテル樹脂組成物ペレット中に、これらの添加剤は合計で、10質量%以下の範囲で含有することが好ましく、5質量%以下の範囲で含有することがより好ましい。
【0047】
本発明のポリフェニレンエーテル樹脂組成物ペレットを射出成形して得られた成形品の、150℃における曲げ弾性率は7GPa以上であることが好ましい。特別高い弾性率が求められない場合は、該曲げ弾性率は5GPa以上であれば、高温で高い弾性率を有すると言える。
【0048】
本発明のポリフェニレンエーテル樹脂組成物ペレットの製造方法について説明する。ポリフェニレンエーテル樹脂組成物ペレットは、二軸押出機を用いて、各原料を溶融混練後、吐出されたストランドを水中にて冷却し、ストランドカッターによりカットしてペレット化して製造することが好ましい態様である。
なお、下記で説明する製造条件を採用することで、ポリフェニレンエーテル樹脂組成物ペレットに形成することができる。
【0049】
使用する二軸押出機は、熱可塑性樹脂(A)を供給する供給口(第一供給口)より下流側において開口部が設けられたバレルを有し、開口部の上部に窒素注入ラインとガス抜き部とを設けたベントポートが設けられていることが重要である。通常、押出時には原材料成分中の残留揮発成分除去のために、真空ベントで減圧脱揮することが本来は望ましいが、その際、真空ベントとその周辺のバレル内部で、各バレルのつなぎ目のわずかな隙間から外気が吸引されて、溶融樹脂の酸化架橋による樹脂の劣化が促進されることで増粘される場合がある。その場合、真空ベントであえて減圧脱揮せずに押出す方が好ましい場合もある。真空ベントを外してそのバレル上部に栓をすると、押出時に溶融樹脂から発生するガスによってバレル内圧が上昇して、ダイノズルからの溶融樹脂の排出が不安定となり押出時にストランド引き取りが困難となることがあるため、バレル上部の開口部に窒素注入ラインとガス抜き部とを設けたベントポートを設置して、ベントポート内部に窒素注入ラインから窒素を注入してベント開口部の溶融樹脂に吹き付けて、溶融樹脂から発生したガス成分と窒素ガスとをガス抜き部から排出しながら押し出すことが好ましい。また、溶融樹脂から発生したガス成分を確実に排出することを目的として、ベント内が仕切り板にて窒素注入ラインとガス抜き部が区切られている構造が望ましい。ベント内に仕切り板を設けることで、発生したガスを窒素注入圧力も利用することでベントより排出効率が向上し、溶融樹脂が酸素に触れることを避ける効果が更に期待できる。なお、熱可塑性樹脂(A)を供給する供給口(第一供給口)は、二軸押出機の最上流投入口であることが好ましい。
【0050】
ベントポート内部に注入する窒素ガスの流量は1~50L/minの範囲内が好ましく、より好ましくは5~30L/minの範囲内であり、更に好ましくは10~25L/minの範囲内である。樹脂と窒素ガスとの十分な接触の観点から1L/min以上であることが好ましく、周囲の環境への配慮の観点から50L/min以下であることが好ましい。
【0051】
二軸押出機における樹脂混錬、溶融、搬送を担うバレルの設定温度は、250~350℃の範囲内であることが好ましく、より好ましくは280~330℃の範囲内である。生産安定性の観点から250℃以上が好ましく、ポリフェニレンエーテル樹脂の熱劣化抑制の観点から350℃以下が好ましい。
【0052】
二軸押出機における樹脂組成物排出部(ダイヘッド)の設定温度は250~350℃の範囲内であることが好ましい。好ましくは280~330℃の範囲内である。生産安定性の観点から250℃以上が好ましく、ポリフェニレンエーテル樹脂の熱劣化抑制の観点から350℃以下が好ましい。
【0053】
本実施の形態に用いる樹脂組成物ペレットを、二軸押出機を用いて製造する際に注意すべきは、樹脂組成物ペレット中に、前記(A)成分であるポリフェニレンエーテル樹脂からの酸化劣化によって生じるゲルや炭化物が混入することで、成形品の表面外観や靭性等の物性を低下させる原因となる点である。
そこで、前記(A)成分を第一供給口から投入して、その第一供給口の上部に設けられた集合ホッパー内部の酸素濃度を3vol%以下に設定しておくことが好ましい。集合ホッパー内部の酸素濃度は、より好ましくは2vol%以下であり、更に好ましくは1vol%以下であり、特に好ましくは0.5vol%以下である。集合ホッパー内部の酸素濃度の下限は特に限定されないが、0.1vol%以上であることが一般的である。
【0054】
酸素濃度の調節は、原料貯蔵ホッパー内を十分に窒素置換して、原料貯蔵ホッパーから二軸押出機の第一供給口までの、フィード配管ライン中での空気の出入りがないように密閉した上で、窒素フィード量の調整、ガス抜き口の開度を調整することで可能である。
【0055】
なお、本実施の樹脂組成物ペレットの製造において、原材料は、全て第一供給口から供給されることが、最上流投入口である第一供給口における集合ホッパー内部の酸素濃度の十分な提言の観点から好ましく、前記(A)成分の酸化劣化抑制と本願発明の用途で求められる効果の十分な発現の観点からも好ましい。
【0056】
なお、集合ホッパー内部の酸素濃度の測定は、酸素濃度計を用いて行われ、酸素濃度計のセンサー部分が、集合ホッパー内部の中央部に位置するように設置することで、押出中、常時測定することが可能である。
【0057】
また、二軸押出機のダイノズルから押し出された溶融樹脂(組成物)が空気に接触することで、ノズルの縁に付着した溶融樹脂(組成物)が酸化架橋による劣化が進行して、メヤニ発生、成長の一因となる場合がある。長時間にわたる生産の進行に従ってノズルの縁に成長していき、やがて樹脂組成物に混入して外観不良や物性低下の原因となる場合もあるため、ダイノズルから出た直後の樹脂組成物に窒素ガスを吹き付けることも望ましい。
【0058】
ダイノズルへの窒素ガスの吹付量は、1~50L/minの範囲内が好ましく、より好ましくは5~30L/minの範囲内であり、更に好ましくは10~25L/minの範囲内である。樹脂組成物と窒素ガスとの十分な接触の観点から1L/min以上であることが好ましく、周囲の環境への配慮の観点から50L/min以下であることが好ましい。
【0059】
本実施の形態の樹脂組成物ペレットの製造において、二軸押出機のスクリュー回転数は100~800rpmが好ましい。より好ましくは、200~600rpmの範囲内である。樹脂組成物の十分な溶融混錬の観点から100rpm以上であることが好ましく、樹脂組成物のせん断発熱による熱劣化の抑制の観点から800rpm以下であることが好ましい。
【0060】
本発明のポリフェニレンエーテル樹脂組成物ペレットの形状、サイズは、特に限定されない。ペレットの形状としては、円柱状であることが一般的であるがこれに限定されるものではない。円柱状の場合、そのサイズは、長さが2~5mmが好ましく、断面は円形であることが好ましく、その直径は1.5~4.0mmであることが好ましい。
【0061】
本実施の形態の、ポリフェニレンエーテル樹脂系組成物ペレットからなる成形品は、上述の製造方法によって得られた樹脂組成物を成形することにより得ることができる。
前記樹脂組成物の成形方法としては、以下に制限されないが、例えば、射出成形、押出成形、真空成形および圧空成形が好適に挙げられ、特に成形外観の観点から、射出成形がより好適に用いられる。
【0062】
前記樹脂組成物ペレットの成形時の成形温度は、バレル設定最高温度250~350℃の範囲内で行うことが好ましく、より好ましい範囲は280~330℃である。十分な加工性の観点から、成形温度は、250℃以上が好ましく、樹脂の熱劣化抑制、物性保持の観点から350℃以下が好ましい。
【0063】
前記樹脂組成物ペレットの成形時の金型温度は、50~150℃の範囲内で行うことが好ましく、より好ましくは80~130℃である。十分な成形品外観保持の観点から、金型温度は、50℃以上が好ましく、成形安定性の観点から150℃以下であることが好ましい。
【0064】
本実施の形態における好適な成形品として、高温時においても高い弾性率を保持する特性を活かした、各種電子電機部品、自動車用途、各種工業製品等への展開が挙げられる。
【実施例0065】
以下、本実施の形態を実施例および比較例によって、さらに具体的に説明するが、本実施の形態はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0066】
使用原料としては下記のものを使用した。
【0067】
[ポリフェニレンエーテル樹脂]
(A-1)ポリフェニレンエーテル樹脂(略称:PPE、sabic社製、銘柄名:PPO640、ポリ(2,6-ジメチルフェニレンエーテル)、還元粘度0.4dL/g)
以降、比較例としてポリフェニレンエーテル樹脂以外の熱可塑性樹脂を実施したが、便宜上、(A-2)~(A-5)の番号を割り振っている。
(A-2)ポリアミド6樹脂(略称:PA6、Zig Sheng Industrial社製、銘柄名:ZISAMIDE(登録商標) TP4208)
(A-3)ポリアミド66樹脂(略称:PA66、BASF社製、銘柄名:Ultramid A24E)
(A-4)ポリブチレンテレフタレート樹脂(略称:PBT、CHANG CHUN PLASTICS社製、銘柄名:1200-211M)
(A-5)ポリエチレンテレフタレート樹脂(略称:PET、Hengli社製、銘柄名:S-Bright)
【0068】
[無機フィラー(B)]
(B-1)炭素繊維(繊維径5μm、日本ポリマー産業社製、銘柄名:UW-MC-HS C-6)
(B-2)炭素繊維(繊維径7μm、日本ポリマー産業社製、銘柄名:UW-MC C-6)
(B-3)ガラス繊維(繊維径11μm、日本電気硝子社製、銘柄名:ECS 03 T-127H)
【0069】
[酸化防止剤(C)]
今回の実施例、比較例では、使用しなかった。
【0070】
[実施例1~4]
表1に示す組成で、ポリフェニレンエーテル樹脂と炭素繊維を、表中に示す諸条件に設定した二軸押出機(Continent Mashinery 社製 CM-MTE31)の第一供給口に供給、バレル内で溶融混錬後、ダイから吐出されたストランドを水中にて冷却、ストランドカッターにより長さ3.0mm長にカットしてペレット化を実施し、ポリフェニレンエーテル樹脂組成物ペレットを得た。なお、二軸押出機の第一供給口の上部には集合ホッパーが設けられ、集合ホッパー内に窒素を導入し、第一供給口より下流側のバレルに開口部があり、その開口部の上部に、仕切り板で窒素注入ラインとガス抜き部が区切られたベントポートが設けられていた。
【0071】
[実施例5]
実施例1~4に示す組成から、無機フィラーをガラス繊維に変更した水準である。それ以外の混練条件は変更せずに実施した。なお、ガラス繊維の割合は30質量%とした。
【0072】
[比較例1~6]
表1に示す組成で、二軸押出機による混錬条件は、実施例1~4と同様で行った。
【0073】
[比較例7]
実施例2において、溶融混練の装置を二軸押出機から単軸押出機に変更した水準である。ポリフェニレンエーテルの溶融粘度が高すぎ、単軸押出機ではトルクオーバーとなり、樹脂組成物ペレットを得ることができなかった。なお、樹脂を投入する集合ホッパー内には、二軸押出機を使用した際と同様に、窒素を導入して製造を行った。
【0074】
[比較例8]
実施例2において、使用するベントを窒素注入ラインとガス抜き部とを有するベントポートではなく、真空ベントに変更した水準である。その結果、ポリフェニレンエーテルのシリンダー内における変質に伴う増粘が著しく、装置のトルクオーバーにより、樹脂組成物ペレットを得ることができなかった。
【0075】
こうして得られた各種樹脂組成物ペレットを80℃で一昼夜真空乾燥し、射出成形機を使用してダンベル片試験片を成形し、曲げ試験に供した。射出成形は、表1に示す成形条件で行った。なお、各種樹脂組成物ペレットについては、DSC(示差走査熱量測定)にてガラス転移点を併せて測定した(ISO11357に準拠、昇温速度は20K/minを採用)。
【0076】
曲げ弾性率は、ISO178に従い、150℃における曲げ弾性率を評価した。
【0077】
【0078】
実施例1~4においては、いずれの水準においても150℃曲げ試験結果より、高い弾性率(7GPa以上)を有している。なお、含有する炭素繊維量が増えるに従い、弾性率の向上傾向がみられ、さらに、繊維径が7μmから5μmと細くなるに従って、弾性率が高くなる傾向である。
【0079】
実施例5においては、無機フィラーを炭素繊維とした水準(実施例1~4)に比較して、150℃曲げ試験は低い傾向を示し、弾性率7GPaを下回った。なお、後述する比較例1~4の弾性率よりは高い値を示している。
【0080】
比較例1~4においては、4水準ともに150℃における曲げ弾性率は5.0GPaより大幅に小さく、目標である7GPaを満足しなかった。使用した樹脂はいずれも、ガラス転移点が100℃より低いこともあり、150℃における弾性率は期待できない。
【0081】
比較例5~6においては無機フィラーが炭素繊維であるが、2水準ともに150℃における弾性率は5.0GPaより小さく、目標である7GPaを満足しなかった。
本発明のポリフェニレンエーテル樹脂組成物は、高温時においても高い弾性率を保持する樹脂組成物であり、150℃という高い温度条件下においても、5GPa以上、もしくは7GPa以上の弾性率を有する。そのため、機械的特性に加え、高い寸法安定性と低吸水性が必要な電気電子機器の筐体や自動車内装および外装用の部品、レジャー用具、遊具の各種用途に好適に用いることができる。