(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023136363
(43)【公開日】2023-09-29
(54)【発明の名称】画像投影装置、および画像投影方法
(51)【国際特許分類】
G02B 27/01 20060101AFI20230922BHJP
B60K 35/00 20060101ALI20230922BHJP
B60R 11/02 20060101ALI20230922BHJP
H04N 5/64 20060101ALI20230922BHJP
【FI】
G02B27/01
B60K35/00 Z
B60R11/02 C
H04N5/64 521Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022041947
(22)【出願日】2022-03-16
(71)【出願人】
【識別番号】000001133
【氏名又は名称】株式会社小糸製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001667
【氏名又は名称】弁理士法人プロウィン
(72)【発明者】
【氏名】寺島 里美
(72)【発明者】
【氏名】津田 俊明
(72)【発明者】
【氏名】菅原 和弘
(72)【発明者】
【氏名】大橋 陽介
(72)【発明者】
【氏名】籾山 大輔
【テーマコード(参考)】
2H199
3D020
3D344
【Fターム(参考)】
2H199DA03
2H199DA14
2H199DA15
2H199DA18
2H199DA32
2H199DA33
2H199DA46
3D020BA04
3D020BB01
3D020BC03
3D020BE03
3D344AA19
3D344AB01
3D344AC25
(57)【要約】
【課題】坂道において前方表示画像を視認する際の違和感が抑制された画像投影装置、および画像投影方法を提供する。
【解決手段】虚像(17、18)を表示するためのウィンドシールド(16)に対して投影画像を照射する画像投影装置(10)であって、投影画像を照射する画像照射部(11)と、ウィンドシールド(16)を介して投影画像を画像光として視点(52)方向に照射する光学部(12、13、14、15)と、走路の傾き角度を検出する検出部(31)と、ウィンドシールド(16)に対する投影画像の投影位置を調整する投影位置調整部と、傾き角度に基づいて投影位置を制御する制御部(30)と、を備えることを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
虚像を表示するための表示部に対して投影画像を照射する画像投影装置であって、
前記投影画像を照射する画像照射部と、
前記表示部を介して前記投影画像を画像光として視点方向に照射する光学部と、
走路の傾き角度を検出する検出部と、
前記表示部に対する前記投影画像の投影位置を調整する投影位置調整部と、
前記傾き角度に基づいて前記投影位置を制御する制御部と、を備えることを特徴とする画像投影装置。
【請求項2】
請求項1に記載の画像投影装置であって、
前記制御部は、前記傾き角度と前記虚像の表示位置との予め定められた関係に基づいて前記投影位置を制御することを特徴とする画像投影装置。
【請求項3】
請求項2に記載の画像投影装置であって、
先行車を検知する検知部をさらに備え、
前記制御手段は前記先行車を検出した場合に、前記虚像が前記先行車と重ならないように前記予め定められた関係を変更することを特徴とする画像投影装置。
【請求項4】
請求項1から3の何れか一つに記載の画像投影装置であって、
前記制御部は前記走路が上り坂の場合に前記虚像の表示位置を下げるように前記投影位置を制御し、下り坂の場合に前記虚像の表示位置を上げるように前記投影位置を制御することを特徴とする画像投影装置。
【請求項5】
請求項1から4の何れか一つに記載の画像投影装置であって、
前記投影位置調整部は、前記画像照射部に含まれる、前記投影画像の表示位置を調整する表示位置調整手段であることを特徴とする画像投影装置。
【請求項6】
請求項1から4の何れか一つに記載の画像投影装置であって、
前記投影位置調整部は、前記光学部に含まれる、前記投影画像に対する角度が調整可能とされた反射手段であることを特徴とする画像投影装置。
【請求項7】
虚像を表示するための表示部に対して投影画像を照射する画像投影装置であって、前記投影画像を照射する画像照射部、前記表示部を介して前記投影画像を画像光として視点方向に照射する光学部、走路の傾き角度を検出する検出部、および前記表示部に対する前記投影画像の投影位置を調整する投影位置調整部を備えた画像投影装置を用いた画像投影方法であって、
前記傾き角度に基づいて前記投影位置を制御することを特徴とする画像投影方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像投影装置、および画像投影方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、車両内に各種情報を表示する装置として、アイコンを点灯表示する計器盤が用いられている。また、表示する情報量の増加とともに、計器盤に画像表示装置を埋め込むことや、計器盤全体を画像表示装置で構成することも提案されている。
【0003】
しかし、計器盤は車両のフロントガラス(ウィンドシールド)より下方に位置しているため、計器盤に表示された情報を運転者が視認するには、運転中に視線を下方に移動させる必要があるため好ましくない。そこで、フロントガラスに画像を投影して、運転者が車両の前方を視認したときに情報を読み取れるようにするヘッドアップディスプレイ(以下HUD:Head Up Display)も提案されている(例えば、特許文献1、2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-119248号公報
【特許文献2】特開2019-119262号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
HUDにおいて運転者は、車両の前方に表示された虚像としての画像(以下、「前方表示画像」)を視認する。前方表示画像の上下方向の表示位置は、通常車両に傾きのない状態を想定して設定されている。そのため、例えば走路が上り坂になった場合、車両の荷重が後部に掛かかって車両が若干後方に傾き、運転者は前方表示画像の上方へのずれを体感する場合がある。走路が下り坂になった場合、これとは逆に運転者は前方表示画像の下方へのずれを体感する場合がある。このような体感は平地から上り坂、あるいは下り坂に差し掛かった直後に違和感として顕著に感じられると考えられる。安全性の観点からもこのような違和感は極力排除することが好ましい。
【0006】
そこで本発明は、上記従来の問題点に鑑みなされたものであり、坂道において前方表示画像を視認する際の違和感が抑制された画像投影装置、および画像投影方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の画像投影装置は、虚像を表示するための表示部に対して投影画像を照射する画像投影装置であって、前記投影画像を照射する画像照射部と、前記表示部を介して前記投影画像を画像光として視点方向に照射する光学部と、走路の傾き角度を検出する検出部と、前記表示部に対する前記投影画像の投影位置を調整する投影位置調整部と、前記傾き角度に基づいて前記投影位置を制御する制御部と、を備えることを特徴とする。
【0008】
このような本発明の画像投影装置では、投影画像を照射する画像照射部、虚像を表示するための表示部を介して投影画像を画像光として視点方向に照射する光学部、走路の傾き角度を検出する検出部、および表示部に対する投影画像の投影位置を調整する投影位置調整部を備え、制御部が傾き角度に基づいて投影位置を制御する。その結果坂道において、虚像の表示位置が調整される。このことにより、坂道において前方表示画像を視認する際の違和感を抑制することができる。
【0009】
また、本発明の一態様では、前記制御部は、前記傾き角度と前記虚像の表示位置との予め定められた関係に基づいて前記投影位置を制御することを特徴とする。
【0010】
また、本発明の一態様では、先行車を検知する検知部をさらに備え、前記制御手段は前記先行車を検出した場合に、前記虚像が前記先行車と重ならないように前記予め定められた関係を変更することを特徴とする。
【0011】
また、本発明の一態様では、前記制御部は前記走路が上り坂の場合に前記虚像の表示位置を下げるように前記投影位置を制御し、下り坂の場合に前記虚像の表示位置を上げるように前記投影位置を制御することを特徴とする。
【0012】
また、本発明の一態様では、前記投影位置調整部は、前記画像照射部に含まれる、前記投影画像の表示位置を調整する表示位置調整手段であることを特徴とする。
【0013】
また、本発明の一態様では、前記投影位置調整部は、前記光学部に含まれる、前記投影画像に対する角度が調整可能とされた反射手段であることを特徴とする。
【0014】
上記課題を解決するために、本発明の画像投影方法は、虚像を表示するための表示部に対して投影画像を照射する画像投影装置であって、前記投影画像を照射する画像照射部、前記表示部を介して前記投影画像を画像光として視点方向に照射する光学部、走路の傾き角度を検出する検出部、および前記表示部に対する前記投影画像の投影位置を調整する投影位置調整部を備えた画像投影装置を用いた画像投影方法であって、前記傾き角度に基づいて前記投影位置を制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明では、坂道において前方表示画像を視認する際の違和感が抑制された画像投影装置、および画像投影方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】第1実施形態に係る画像投影装置の構成の一例を示すブロック図である。
【
図2】第1実施形態に係る画像照射部の表示領域の構成の一例を示す模式図である。
【
図3】第1実施形態に係る画像投影装置が実行する表示位置調整プログラムの処理の流れを示すフローチャートである。
【
図4】第1実施形態に係る画像投影装置において俯角補正値を求めるための、路面傾斜角と俯角補正値との関係を示す補正テーブルの模式図である。
【
図5】第1実施形態に係る画像投影装置の、(a)は上り坂における作用を示す模式図、(b)は下り坂における作用を示す模式図である。
【
図6】(a)から(c)は、第2実施形態に係る画像投影装置の作用を示す模式図である。
【
図7】第2実施形態に係る画像投影装置が実行する表示位置調整プログラムの処理の流れを示すフローチャートである。
【
図8】第2実施形態に係る画像投影装置における回避俯角の算出方法を示す模式図である。
【
図9】第3実施形態に係る画像投影装置の構成の一例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理には同一の符号を付すものとし、適宜重複した説明は省略する。以下の説明では、本発明における画像投影装置を、車両等に搭載されたHUDに適用した形態を例示して説明する。
【0018】
(第1実施形態)
図1から
図5を参照して、本実施形態に係る画像投影装置、および画像投影方法について説明する。
図1は本実施形態に係る画像投影装置10の構成の一例を示すブロック図である。画像投影装置10の本体は、車両の例えばダッシュボードの下部に配置される。画像投影装置10は、一画面で二つの前方表示画像を投影することが可能な画像投影方式を採用した場合の画像投影装置を例示している。すなわち、画像投影装置10は、車両前方の相対的に遠方に虚像として結像される遠方画像と、車両前方の相対的に近方に虚像として結像される近方画像と、を表示することが可能となっている。ただし、これに限らず、一画面で三つ以上の前方表示画像を投影する画像投影装置に適用してもよいし、一画面で一つの前方表示画像を投影する画像投影装置や、複数画面で複数の前方表示画像を投影する画像投影装置に適用してもよい。
【0019】
図1に示すように本実施形態に係る画像投影装置10は、画像照射部11、反射鏡12、自由曲面ミラー13、光分岐部14、自由曲面ミラー15、制御部30、および検出部31を含んでいる。
図1には画像投影装置10からの投影画像が照射されるウィンドシールド16も併せて図示している。なお、「ウィンドシールド16」は本発明に係る「表示部」の一例である。また、「反射鏡12」、「自由曲面ミラー13」、「光分岐部14」、および「自由曲面ミラー15」は本発明に係る「光学部」の一例である。
【0020】
画像照射部11は、車両前方に虚像としての遠方画像、あるいは近方画像を形成するための画像を照射する。画像照射部11は一例として液晶パネル、有機ELパネル等で構成されている。画像照射部11は、遠方画像を形成するための画像を表示する遠方表示領域と、近方画像を形成するための画像を表示する近方表示領域に分けられている。
図1では遠方表示領域から照射された遠方画像光の光路が破線で、近方表示領域から照射された近方画像光の光路が一点鎖線で示されている。
【0021】
画像投影装置10では車両前方に表示する遠方画像(虚像18)が上下方向(鉛直方向)に移動可能なように構成されている。そのため、画像照射部11の遠方表示領域に表示させる画像の位置が変えられるように構成されている。遠方表示領域に表示させる画像を移動させることによって画像照射部11からの遠方画像光のウィンドシールド16への投影位置が調整され、その結果遠方画像の上下方向が調整される。
【0022】
図2を参照して、遠方表示領域における表示画像の移動についてより詳細に説明する。
図2は画像照射部11で画像が表示される表示領域40を示す模式図である。表示領域40は、ディスプレイとして画像を表示することが可能な全領域である。表示領域40には、遠方に結像される遠方画像を表示する遠方表示領域41と、近方に結像される近方画像を表示する近方表示領域43が設けられている。画像投影装置10では、遠方表示領域41に表示された遠方画像を照射する遠方画像光が光分岐部14等を介して遠方に虚像18として結像される。また、近方表示領域43に表示された近方画像を照射する近方画像光が反射鏡12等を介して近方に虚像17として結像される。
【0023】
遠方表示領域41の周囲にはマージン領域42が設けられており、遠方表示領域41に表示される画像はマージン領域42内において、
図2に矢印で示す方向D1、D2に移動可能となっている。このことにより、遠方画像光のウィンドシールド16への照射位置が調整され、その結果遠方画像の上下位置が調整される。
【0024】
図1に示すように、画像照射部11は制御部30に接続されており、制御部30によって遠方表示領域に表示させる画像の位置の移動、すなわち遠方画像の上下方向の移動が制御される。なお本実施形態では、表示する画像の位置が変更可能な「遠方表示領域41」が本発明に係る「投影位置調整部」、すなわち「表示位置調整手段」の一例である。
【0025】
なお、本実施形態では遠方表示領域に表示される画像によって遠方画像の上下方向の移動を可能なように構成しているが、近方画像の違和感が問題となる場合は、近方表示領域に表示される画像の移動によって近方画像の上下方向の移動が可能なように構成してもよい。あるいは、遠方画像、近方画像の両方の上下方向の移動が可能なように構成してもよい。
【0026】
図1に示すように、光分岐部14は遠方表示領域から照射された遠方画像光を分岐する部材であり、一例としてプリズムで構成されている。
図1に示すように遠方画像光は、光分岐部14を透過した後、自由曲面ミラー15、自由曲面ミラー13、およびウィンドシールド16で反射し、運転者の視点52に到達する。このことにより、車両の前方で相対的に遠方に虚像18(遠方画像)が結像される。遠方画像の表示位置は一例として車両前方15m程度の位置である。
図1では遠方画像のコンテンツの一例として、運転支援表示を例示している。
【0027】
一方近方画像光は
図1に示すように、近方表示領域から照射された後反射鏡12、自由曲面ミラー13、およびウィンドシールド16で反射されて運転者の視点52に到達する。このことにより、車両の前方で相対的に近方に虚像17(近方画像)が結像される。近方画像の表示位置は一例として車両前方3m程度の位置である。
図1では近方画像のコンテンツの一例として、車速表示等を例示している。
【0028】
以上の構成により、画像投影装置10では、水平方向から数度下方の遠方に虚像18が投影され、運転者が運転支援情報を視認するための視線移動を小さくすることができる。また、さらに下方の近方に虚像17が投影され、視線を移動することで車速表示等を良好に視認することができる。
【0029】
制御部30は、画像投影装置10の全体を統括制御し、また後述する表示位置調整プログラムを実行する。制御部30は、図示を省略するCPU、ROM、RAM等を含んで構成されている。なお、制御部30は、画像投影装置10を搭載する車両のECU(Engine Control Unit)であってもよい。
【0030】
検出部31は画像投影装置10を搭載した車両が走行する走路の路面の傾斜角(以下、「路面傾斜角」)を検出する。検出部31は、車両に搭載された図示を省略する加速度センサ、あるいはジャイロセンサ等で構成されている。加速度センサ、あるいはジャイロセンサ等で車両の傾きを検出し、この傾きから路面傾斜角を算出する。
【0031】
画像投影装置10はその他に測距部20を備えているが、測距部20は本実施形態では用いず、以下で説明する第2実施形態で用いる。
【0032】
ここで、上述したように、走路が上り坂、あるいは下り坂になった場合に運転者が遠方画像の視認において違和感をもつ場合がある。そこで本実施形態では、走路の路面傾斜角に応じて遠方画像の上下方向の位置を変えるように構成している。すなわち、制御部30は常時、あるいは定期的、または間欠的に検出部31から路面傾斜角を取得している。そして、所定の路面傾斜角以上の上り坂、あるいは所定の路面傾斜角以下の下り坂を検出した場合は、制御部30は画像照射部11を制御して遠方画像の上下位置を調整する。遠方画像の上下位置の調整は、標準的な位置における遠方画像の俯角(以下、「標準俯角」)に対し、俯角の調整量を決める補正値(以下、「俯角補正値」)を求めることによって行う。俯角補正値によって調整された俯角を「調整俯角」という。なお、本実施形態は前方表示画像としての遠方画像の位置を調整する形態なので、以下「遠方画像」を「前方表示画像」に統一して説明する。
【0033】
図3を参照して、画像投影装置10における前方表示画像の表示位置調整の方法について説明する。
図3は画像投影装置10において実行される表示位置調整プログラムの処理の流れを示すフローチャートである。本表示位置調整プログラムは図示を省略するROM等の記憶手段に記憶されており、CPUによって読み出され、RAM等に展開して実行される。
【0034】
ステップS10で、制御部30は検出部31から路面傾斜角θを取得する。
【0035】
ステップS11で、ステップS10で取得した路面傾斜角θが、最大路面傾斜角θmaxより大きいか判定する。最大路面傾斜角θmaxは、上り坂を検出するための閾値である。当該判定が肯定判定となった場合は上り坂が検出されたので、ステップS13に移行する。一方否定判定となった場合はステップS12に移行する。
【0036】
ステップS12で、路面傾斜角θが最小路面傾斜角θminより小さいか判定する。最小路面傾斜角θminは、下り坂を検出するための閾値である。当該判定が肯定判定となった場合は下り坂が検出されたのでステップS13に移行する。一方否定判定となった場合はステップS16に移行する。上り坂も下り坂も検出されなかったからである。なお、下り坂の場合の路面傾斜角θ、および最小路面傾斜角θminは負の値である。以上の内容を換言すると、路面傾斜角θがθmin≦θ≦θmaxの範囲は坂道とみなさず、制御部30は前方表示画像の表示位置を調整しない。
【0037】
ステップS13で、俯角補正値Δφを取得する。本実施形態では俯角補正値Δφを、路面傾斜角θと俯角補正値Δφとの関係を示す補正テーブルに基づいて取得する。
【0038】
図4は当該補正テーブルの一例を示している。
図4に示すように、補正テーブルは走路状態(上り坂、下り坂)に応じた路面傾斜角θと俯角補正値Δφとの関係を示している。すなわち、上り坂の場合、θu1からθuMのM個の路面傾斜角θの各々に対して、Δφu1からΔφuMのM個の俯角補正値Δφが対応付けられている。また、下り坂の場合、θd1からθdNのN個の路面傾斜角θの各々に対して、Δφd1からΔφdNのN個の俯角補正値Δφが対応付けられている。ここで、俯角補正値Δφd1からΔφdNの各々の値は正の値である。
【0039】
なお補正テーブルにおける俯角補正値Δφは、例えば路面傾斜角θに一定の係数(一例として0.1)を乗ずることによって算出してもよい。また補正テーブルは、予め実験やシミュレーション等によって路面傾斜角θと俯角補正値Δφとの関係を求め、作成しておいてもよい。さらに予め路面傾斜角θ等を変数として俯角補正値Δφを算出する数式を設定しておき、当該数式から俯角補正値Δφを算出してもよい。
【0040】
再び
図3を参照して、ステップS14で調整俯角φt’を算出する。すなわち、標準的な表示位置における前方表示画像の俯角を標準俯角φtとすると、調整後の前方表示画像の俯角である調整俯角φt’を以下に示す(式1)または(式2)により算出する。
φt’=φt+Δφu ・・・ (式1) (上り坂の場合)
φt’=φt-Δφd ・・・ (式2) (下り坂の場合)
なお、本実施形態では俯角補正値Δφによって標準俯角φtを補正して俯角を調整する形態を例示して説明したが、これに限らず、路面傾斜角θに対する前方表示画像の俯角自体をテーブル化し、当該テーブルを参照して俯角を調整してもよい。
【0041】
ステップS15で、投影位置調整部、すなわち本実施形態では画像照射部11を調整する。より具体的には、調整俯角φt’に基づいて表示領域40の遠方表示領域41に表示された画像を移動させ、画像照射部11から照射される遠方画像光のウィンドシールド16への投影位置を調整することにより遠方画像の照射位置を調整する。
【0042】
図5は標準俯角φtから調整俯角φt’への移行を示した図である。
図5(a)は上り坂、
図5(b)は下り坂の場合を示している。上り坂の場合は
図5(a)に示すように、最初平坦な走路50を車両51が走行している。符号hは運転者の視点52から前方に延伸する水平線を示している。水平線hから測った標準俯角φtの位置に虚像53が形成されている。次に路面傾斜角θがθ>θmaxとなり車両が上り坂に入ると前方表示画像の表示位置の俯角の調整が行われ、調整俯角φt’が算出される。その結果、虚像53の調整俯角がφt’=φt+Δφuに調整される。
【0043】
一方下り坂の場合は
図5(b)に示すように、最初平坦な走路50を車両51が走行しており、標準俯角φtの位置に虚像53が形成されている。次に路面傾斜角θがθ<θminとなり車両が下り坂に入ると前方表示画像の表示位置の俯角の調整が行われ、調整俯角φt’が求められる。その結果、虚像53の調整俯角がφt’=φt-Δφdに調整される。
【0044】
再び
図3を参照して、ステップS16で、終了指示があったか否か判定する。当該判定が否定判定となった場合はステップS10に移行し路面傾斜角θの取得を継続する。すなわち本実施形態では常時路面傾斜角θの検出を継続しているので、坂道の傾斜度合いに応じて前方表示画像の表示位置が連続的、かつ滑らかに調整される。一方肯定判定となった場合は、本表示位置調整プログラムを終了する。終了の指示は例えば画像投影装置10の電源オフ等である。
【0045】
以上詳述したように、本実施形態に係る画像投影装置、および画像投影方法によれば、坂道において前方表示画像を視認する際の違和感が抑制された画像投影装置、および画像投影方法を提供することが可能となる。
【0046】
(第2実施形態)
図6から
図8を参照して本実施形態に係る画像投影装置、および画像投影方法について説明する。本実施形態は上記実施形態に係る画像投影装置10において、自車両に対する先行車を考慮した形態である。従って、画像投影装置は
図1と同様の構成であるが、本実施形態では測距部20を用いる。測距部20は自車両周辺に存在する対象物と自車両との距離を測定する部位であり、例えばLiDAR(Light Detection and Ranging)やレーダー等によって構成されている。測距部20は車載カメラ等であってもよい。測距部20は制御部30に接続され、測距部20で測定された距離情報は制御部30に送られる。
【0047】
ここで、上記実施形態では先行車の存在を考慮していなかったが、実際の走路においては自車両前方に先行車が存在することが一般的である。先行車が存在する場合、当該先行車と前方表示画像とが重なり、前方表示画像の視認において運転者が違和感を覚える場合がある。そこで本実施形態では、坂道における表示位置調整処理において先行車が存在する場合を考慮することとした。
【0048】
図6を参照して、上記違和感とその回避方法について説明する。
図6(a)は走路50を走行する自車両の前方表示画像(虚像18)の俯角が標準俯角φtの状態にあり、前方に先行車54が存在する場合を図示している。
図6(a)の状態では前方表示画像(虚像18)が先行車54の下部に位置し、運転者において特に視認のしにくさは発生していない。これに対し
図6(b)は、先行車54が自車両にさらに接近し、前方表示画像(虚像18)が先行車54に重なった状態を示している。
図6(b)に示す状態では運転者において前方表示画像(虚像18)が視認しにくくなり、違和感を覚えることが想定される。以上の現象は坂道においても同様である。そこで本実施形態では、坂道の走行において
図6(b)のような状態になった場合は、
図6(c)に示すように、予め定められた手順によって前方表示画像(虚像18)をさらに先行車54の下部まで下げるように構成した。
【0049】
図7を参照して、本実施形態に係る表示位置調整処理について説明する。
図7は、本実施形態に係る画像投影装置の制御部30が実行する表示位置調整プログラムの処理の流れを示すフローチャートである。ステップS10からS14までは
図3に示す画像投影装置10のフローと同様なので説明を省略する。ここではステップS14において調整俯角φt’がすでに算出されているものとする。
【0050】
ステップS15で先行車があるか判定する。当該判定が肯定判定となった場合はステップS16に移行し、否定判定となった場合はステップS18に移行する。すなわち、先行車が存在しなければステップS14で算出した調整俯角φt’を用いて投影位置調整部の調整を行う。
【0051】
ステップS16で、調整俯角φt’が回避俯角φaより小さいか判定する。当該判定が否定判定の場合は、ステップS18に移行し、ステップS14で算出した調整俯角φt’を用いて投影位置調整部の調整を行う。一方肯定判定となった場合はステップS17に移行する。
【0052】
ここで
図8を参照して、本実施形態で用いる回避俯角φaについて説明する。回避俯角φaは先行車が存在する場合に、当該先行車と前方表示画像との重なりを回避するようにさらに調整された俯角である。
【0053】
図8では走路50を走行する自車両としての車両51と、車両51に先行する先行車54とが示されている。符号hは視点52から延伸された水平線を示している。前方表示画像の表示位置の俯角が標準俯角φtの状態において、前方表示画像の上端がリアナンバープレート55の下端に重なった時の水平線hから測った俯角を回避俯角φaと定義する。この際の測距部20で測った車両51と先行車54との距離、すなわち車間距離をLa、走路50の路面から測った水平線hまでの距離をHとし、路面から測ったリアナンバープレートの下端までの距離をdとすると、回避俯角φaは以下に示す(式3)によって算出される。
φa=arctan((H-d)/La) ・・・ (式3)
【0054】
本実施形態に係る画像投影装置では、前方表示画像が先行車54と重なった場合に前方表示画像を移動させる位置としてリアナンバープレート55の下端より下側の位置を想定している。つまり、この位置であれば前方表示画像は先行車54によって邪魔されることなく運転者が視認できると想定している。むろん回避俯角φaは以上のような考え方に限らず、先行車54の他の場所を想定して設定してもよいし、平均的な車高に基づいて算出してもよい。路面から水平線hまでの距離Hは、視点52の位置として標準的な値を採用すれば、予め設定しておくことができる。しかしながらこれに限らず、運転者ごとに設定してもよい。一方路面からナンバープレートまでの距離dも、標準的な値を採用すれば、予め設定しておくことができる。しかしながらこれに限らず、車両ごとに設定してもよい。本実施形態ではH、dを予め設定し、(H-d)を定数として取り扱う。この場合、(式3)が示す通り回避俯角φaは車間距離Laの関数であり、回避俯角φaは車間距離Laに応じて一意に定まる。
【0055】
再び
図7を参照して、ステップS16では上記の回避俯角φaと調整俯角φt’とを比較し、回避俯角φaが調整俯角φt’より大きければ、前方表示画像が先行車54と重なる蓋然性が高いと判断する。その場合はステップS17に移行する。
【0056】
ステップS17で、調整俯角φt’に回避俯角φaを代入する、すなわち、調整俯角φt’として回避俯角φaを用いる。ステップS18では、前方表示画像の俯角が回避俯角φaとなるように投影位置調整手段を調整する。ステップS19における処理は、
図3に示すステップS16における処理と同様なので説明を省略する。
【0057】
以上詳述したように、本実施形態に係る画像投影装置、および画像投影方法によっても、坂道において前方表示画像を視認する際の違和感が抑制された画像投影装置、および画像投影方法を提供することが可能となる。本実施形態に係る画像投影装置、および画像投影方法によれば、先行車が存在する場合においても前方表示画像を視認する際の違和感が抑制されるという効果がある。
【0058】
(第3実施形態)
図9を参照して、本実施形態に係る画像投影装置、および画像投影方法について説明する。本実施形態に係る画像投影装置10Aは、上記実施形態に係る画像投影装置10において、投影位置調整部を変えた形態である。従って、
図1と同様の構成には同じ符号を付し、詳細な説明を省略する。
【0059】
図9に示すように画像投影装置10Aでは、画像照射部11の代わりに自由曲面ミラー13が制御部30に接続されている。自由曲面ミラー13には図示を省略するチルト角を調整する機構が設けられており、このチルト角の調整によって画像照射部11からの遠方画像光のウィンドシールド16への投影位置が調整され、その結果遠方画像の上下方向が調整される。前方表示画像の表示位置調整の具体的方法、手順は、
図3から
図5に示すとおりである。なお、自由曲面ミラー13は本発明に係る「投影位置調整部」、すなわち「反射手段」の一例である。
【0060】
なお、
図9に示す画像投影装置10Aの場合は、自由曲面ミラー13のチルト角を調整すると近方画像も同時に動く。しかしながら、近方画像の表示位置は遠方画像の表示位置に比べてチルト角の変化に対する感度が低いので、多くの場合問題とならない。しかしながら、遠方画像のみを動かしたい場合には光分岐部14、または自由曲面ミラー15を動かすようにすればよい。あるいは、遠方画像光、近方画像光の各々に対して別の自由曲面ミラー13を設けてもよい。
【0061】
以上のように、本実施形態に係る画像投影装置、および画像投影方法によっても、坂道において前方表示画像を視認する際の違和感が抑制された画像投影装置、および画像投影方法を提供することが可能となる。特に本実施形態に係る画像投影装置、および画像投影方法によれば、第1実施形態と比較して、前方表示画像の上下方向の移動範囲を大きくすることができ、また画像照射部11の表示領域40を大きくする必要がないという効果がある。
【0062】
なお、本発明における、車両前方に表示された前方表示画像の上下方向の調整は、車両のヘッドランプのオートレベリングシステムと共用化することもできる。ヘッドランプのオートレベリングシステムとは、車両の前後傾斜に応じて、自動でヘッドライトの照射範囲(上下方向)を調整するシステムである。車両の乗員の増減や荷物の有無、走行時の加減速により、車両の前後傾斜が変化した際のヘッドランプによる周囲への眩惑防止、および必要な照射範囲の確保を図ったものである。すなわち、前方照射対象の上下移動という点で共通するので、オートレベリングシステムで用いる車両の傾きの検出部、信号等を用いて本発明に係る前方表示画像の調整を行ってもよい。こうすることでシステムの共用化が図られるので、コスト低減に寄与する。
【0063】
また、上記各実施形態では加速度センサ、あるいはジャイロセンサ等を用いて路面傾斜角を求める形態を例示して説明したが、これに限らず路面傾斜角の検出は他の様々な手段を適宜用いることができる。例えば、車室前方に設けられた、車両前方を撮像する車載カメラ、先行車との距離を測定する測距装置(レーダー、LiDAR等)等を用いてもよい。すなわち、測距装置で測定した先行車との距離、坂道において撮像された車載カメラによる先行車の画像の上下方向の位置関係から自車両の傾き角を求め、これから路面傾斜角を取得してもよい。
【0064】
また、上記各実施形態では各形態に係る画像投影装置、および画像投影方法を個別に説明したが、複数の実施形態を組み合わせてもよい。例えば、第1実施形態と第3実施形態とを組み合わせ、画像照射部11による前方表示画像の移動と、自由曲面ミラー13による前方表示画像の移動との両方が可能なように構成してもよい。その際、画像照射部11による前方表示画像の移動と、自由曲面ミラー13による前方表示画像の移動との間に優先順位を設けてもよい。例えば画像照射部11による前方表示画像の移動を優先し、その能力を越える範囲に自由曲面ミラー13による前方表示画像の移動を適用するように構成してもよい。
【0065】
また、上記各実施形態では、
図3、7に示す表示位置調整プログラムにおいて路面傾斜角θを常時取得する形態を例示して説明したがこれに限らず、定期的あるいは間欠的に取得する形態としてもよい。定期的に取得する場合は、例えばステップS10の前にタイマーによる計時動作を設ければよい。また、間欠的に取得する場合は、制御部30が必要な場合に
図3、7に示す表示位置調整プログラムを実行するようにすればよい。
【符号の説明】
【0066】
10、10A…画像投影装置
11…画像照射部
12…反射鏡
13…自由曲面ミラー
14…光分岐部
15…自由曲面ミラー
16…ウィンドシールド
17、18…虚像
20…測距部
30…制御部
31…検出部
40…表示領域
41…遠方表示領域
42…マージン領域
43…近方表示領域
50…走路
51…車両
52…視点
53…虚像
54…先行車
d、H…距離
h…水平線
La…車間距離
θ…路面傾斜角
θmin…最小路面傾斜角
θmax…最大路面傾斜角
φt…標準俯角
φt’…調整俯角
Δφ…俯角補正値
φa…回避俯角