(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023136371
(43)【公開日】2023-09-29
(54)【発明の名称】緩衝器
(51)【国際特許分類】
F16F 7/06 20060101AFI20230922BHJP
F16F 15/02 20060101ALI20230922BHJP
【FI】
F16F7/06
F16F15/02 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022041958
(22)【出願日】2022-03-17
(71)【出願人】
【識別番号】000000929
【氏名又は名称】KYB株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100122323
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 憲
(72)【発明者】
【氏名】室田 桃果
(72)【発明者】
【氏名】稲満 和隆
(72)【発明者】
【氏名】中村 輔
【テーマコード(参考)】
3J048
3J066
【Fターム(参考)】
3J048AA06
3J048AC01
3J048BE13
3J048CB21
3J048EA16
3J066AA07
3J066AA26
3J066CA03
3J066CB05
(57)【要約】
【課題】車体の振動状況に応じて摩擦力を変化させて車両における乗心地を向上できる緩衝器を提供する。
【解決手段】本発明における緩衝器Dは、周方向に回転可能なシャフト1と、シャフト1に固定された第1摩擦ディスク2と、第1摩擦ディスク2との間でシャフト1の回転を抑制する摩擦力を発生する第2摩擦ディスク3と、第1摩擦ディスク2との間でシャフト1の回転を抑制する摩擦力を発生する第3摩擦ディスク4と、周方向への回転が不能であって軸方向で第2摩擦ディスク3の反第1摩擦ディスク側に配置される第1対向部材5と、周方向への回転が不能であって軸方向で第3摩擦ディスク4の反第1摩擦ディスク側に配置される第2対向部材6と、第1対向部材5と第2摩擦ディスク3とに連結される第1弾性体7と、第2対向部材6と第3摩擦ディスク4とに連結される第2弾性体8とを備えている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
周方向に回転可能なシャフトと、
前記シャフトに固定されて前記シャフトとともに周方向に回転可能な第1摩擦ディスクと、
周方向への回転が不能であって前記第1摩擦ディスクに当接すると前記第1摩擦ディスクとの間で前記シャフトの回転を抑制する摩擦力を発生する第2摩擦ディスクと、
周方向への回転が不能であって前記第1摩擦ディスクの反第2摩擦ディスク側面に当接すると前記第1摩擦ディスクとの間で前記シャフトの回転を抑制する摩擦力を発生する第3摩擦ディスクと、
周方向への回転が不能であって軸方向で前記第2摩擦ディスクの反第1摩擦ディスク側に配置される第1対向部材と、
周方向への回転が不能であって軸方向で前記第3摩擦ディスクの反第1摩擦ディスク側に配置される第2対向部材と、
一端が前記第2摩擦ディスクに連結されるとともに他端が前記第1対向部材との間に配置される第1弾性体と、
一端が前記第3摩擦ディスクに連結されるとともに他端が前記第2対向部材との間に配置される第2弾性体とを備え、
前記第1対向部材と前記第2対向部材は、前記シャフトが一方へ回転すると共に軸方向で一方に移動し、前記シャフトが他方へ回転すると共に軸方向の他方に移動する
ことを特徴とする緩衝器。
【請求項2】
前記シャフトが中立位置から一方へ回転する際に発生する減衰力の特性と、前記シャフトが中立位置から他方へ回転する際に発生する減衰力の特性とが異なっている
ことを特徴とする請求項1に記載の緩衝器。
【請求項3】
前記シャフトは、外周に螺子部を有し、
前記第1対向部材と前記第2対向部材は、環状であって前記螺子部の外周に螺合する
ことを特徴とする請求項1または2に記載の緩衝器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、緩衝器に関する。
【背景技術】
【0002】
振動エネルギを吸収して制振対象の振動を減衰させる緩衝器としては、作動油の粘性抵抗を利用する油圧緩衝器の他、慣性質量を抵抗として利用するものや、摩擦力を抵抗として利用するものがある。
【0003】
一般的に、車両のサスペンションには油圧緩衝器が多く利用されるが、作動油の圧縮性による応答性の問題から応答性に優れる摩擦力を利用した緩衝器をサスペンションに利用する試みが見られる。
【0004】
このような緩衝器は、たとえば、シリンダと、シリンダ内に摺動自在に挿入されるロッド状のピストンと、シリンダ内に軸方向への移動が規制されて挿入されてピストンの側面に摺接する摩擦パッドと、摩擦パッドをピストンの側面に向けて付勢する弾性体とを備えており、ピストンがシリンダに対して軸方向へ移動する際にピストンと摩擦パッドとの間に生じる摩擦力によってピストンの移動を妨げる減衰力を発生する(たとえば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、サスペンションに利用される油圧緩衝器は、伸縮速度の増加とともに減衰力を増加させる減衰力特性を備えており、車体の振動状況に応じて車体の振動を抑制して車両における乗心地を良好に維持する。
【0007】
ところが、従来の摩擦力を利用した緩衝器は、油圧緩衝器に比較して応答性よく減衰力を発生できる点で優れるものの、摩擦パッドとピストンとの間の摩擦力が不変であるため、車輪に対する車体が上下方向に変位するストロークに対して常に一定の減衰力しか出力できない。
【0008】
よって、従来の摩擦力を利用した緩衝器の減衰力を、小振幅でストローク(小ストローク)する際の車体振動に適するように小さな値に設定する場合、当該緩衝器は、大振幅でストローク(大ストローク)する際に要求される減衰力を発生できず、車体振動を十分に抑制できない。
【0009】
そうかと言って、従来の摩擦力を利用した緩衝器の減衰力を大ストローク時の車体振動に適するように大きな値に設定する場合、小ストローク時に当該緩衝器が発生する減衰力が過剰となるため、車両における乗心地を損なってしまう。
【0010】
このように、従来の摩擦力を利用した緩衝器は、車体の振動の状況に応じた減衰力の発生ができないので、車両における乗心地を損なってしまうという問題を抱えている。
【0011】
そこで、本発明は、車体の振動状況に応じて減衰力を変化させて車両における乗心地を向上可能な緩衝器の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記した課題を解決するために、本発明の緩衝器は、周方向に回転可能なシャフトと、シャフトに固定されてシャフトとともに周方向に回転可能な第1摩擦ディスクと、周方向への回転が不能であって第1摩擦ディスクに当接すると第1摩擦ディスクとの間でシャフトの回転を抑制する摩擦力を発生する第2摩擦ディスクと、周方向への回転が不能であって第1摩擦ディスクの反第2摩擦ディスク側面に当接すると第1摩擦ディスクとの間でシャフトの回転を抑制する摩擦力を発生する第3摩擦ディスクと、周方向への回転が不能であって軸方向で第2摩擦ディスクの反第1摩擦ディスク側に配置される第1対向部材と、周方向への回転が不能であって軸方向で第3摩擦ディスクの反第1摩擦ディスク側に配置される第2対向部材と、第2摩擦ディスクと第1対向部材との間に配置される第1弾性体と、第3摩擦ディスクと第2対向部材との間に配置される第2弾性体とを備え、第1対向部材と第2対向部材は、シャフトが一方へ回転すると共に軸方向で一方に移動し、シャフトが他方へ回転すると共に軸方向の他方に移動するように構成されている。
【0013】
このように構成された緩衝器は、シャフトが一方に回転すると第1対向部材と第2対向部材とが軸方向で一方に移動し、シャフトが他方に回転すると第1対向部材と第2対向部材とが軸方向で他方に移動するので、シャフトの中立位置からの回転量が小さい場合には、第1弾性体と第2弾性体の一方の荷重を増加させるが第1弾性体と第2弾性体の他方の荷重を減少させて、減衰力を低くできる。
【0014】
また、このように構成された緩衝器は、シャフトの中立位置からの回転量が小さい場合には、第1弾性体と第2弾性体の一方の荷重を増加させつつ第1弾性体と第2弾性体の他方の荷重を減少させるか、或いは、第2摩擦ディスクおよび第3摩擦ディスクの双方が第1摩擦ディスクから離間した状態にでき、減衰力を低くできる。また、このように構成された緩衝器は、シャフトの中立位置からの回転量が大きくなると、第1弾性体或いは第2弾性体の一方が荷重を増加させるので、減衰力を高くできる。
【0015】
さらに、シャフトが中立位置から一方へ回転する際に発生する減衰力の特性と、シャフトが中立位置から他方へ回転する際に発生する減衰力の特性とが異なっていてもよい。このように構成された緩衝器によれば、車体と車輪とが離間する際に発生する伸長側の減衰力の特性と、車体と車輪とが接近する際に発生する収縮側の減衰力の特性とを、それぞれ最適化して、車両における乗心地を効果的に向上できる。
【0016】
また、緩衝器は、シャフトが外周に螺子部を備え、第1対向部材と前記第2対向部材が環状であって螺子部の外周に螺合していてもよい。このように構成された緩衝器によれば、簡単な螺子機構を利用してシャフトの回転を第1対向部材と第2対向部材の軸方向への移動に容易に変換できる。
【発明の効果】
【0017】
以上より、本発明の緩衝器によれば、車体の振動状況に応じて減衰力を変化させて車両における乗心地を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】一実施の形態における緩衝器の断面図である。
【
図2】車体に設置した状態の一実施の形態における緩衝器を示した図である。
【
図3】車体に設置した状態の一実施の形態における緩衝器の側面図である。
【
図5】一実施の形態の緩衝器の減衰力特性を示した図である。
【
図6】緩衝器の減衰力特性の第1変形例を示した図である。
【
図7】緩衝器の減衰力特性の第2変形例を示した図である。
【
図8】緩衝器の減衰力特性の第3変形例を示した図である。
【
図9】緩衝器の減衰力特性の第4変形例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図に示した実施の形態に基づき、本発明を説明する。なお、本明細書中で、単に軸方向と言う場合、緩衝器Dにおけるシャフト1の軸方向に沿う方向を指す。
【0020】
図1から
図3に示すように、一実施の形態における緩衝器Dは、筒状のケース9内に周方向に回転可能に挿入されたシャフト1と、シャフト1に固定されてシャフト1とともに周方向に回転可能な第1摩擦ディスク2と、第1摩擦ディスク2に当接すると第1摩擦ディスク2との間でシャフト1の回転を抑制する摩擦力を発生する第2摩擦ディスク3と、第1摩擦ディスク2に当接すると第1摩擦ディスク2との間でシャフト1の回転を抑制する摩擦力を発生する第3摩擦ディスク4と、周方向への回転が不能であって軸方向で第2摩擦ディスク3の反第1摩擦ディスク側に配置される第1対向部材5と、周方向への回転が不能であって軸方向で第3摩擦ディスク4の反第1摩擦ディスク側に配置される第2対向部材6と、第1対向部材5と第2摩擦ディスク3との間に配置される第1弾性体7と、第2対向部材6と第3摩擦ディスク4との間に配置される第2弾性体8とを備えている。そして、この緩衝器Dは、たとえば、ケース9が車両における車体Bに取り付けられるとともに、シャフト1がシャフト1の両端に取り付けられたアーム10a,10bを介して車両における車輪Wを支持する軸Aに連結されて、車体Bと車輪Wとの間に介装されている。そして、緩衝器Dは、車体Bと車輪Wとが上下方向で接近或いは離間するとシャフト1を回転させて、第1摩擦ディスク2と第2摩擦ディスク3との間、および第1摩擦ディスク2と第3摩擦ディスク4との間でシャフト1の回転を抑制する摩擦力を発生して、車体Bと車輪Wとの相対変位を抑制する減衰力を発揮する。
【0021】
以下、緩衝器Dの各部について詳細に説明する。
図1から
図4に示すように、ケース9は、筒状であって、内周に軸方向に沿って形成された8条のキー溝9aが設けられている。ケース9の
図1中左右端には、それぞれ環状のキャップ11,12が装着されている。
【0022】
シャフト1は、両端がキャップ11,12の内周を通じてケース9外へ突出しており、キャップ11,12の内周に設けられたベアリング13,14によって周方向への回転が許容された状態で支持されている。また、シャフト1の中央の外周には、環状の第1摩擦ディスク2が固定的に装着されている他、シャフト1の外周であって第1摩擦ディスク2を挟む両側には螺子溝を備えた螺子部1a,1bが設けられている。
【0023】
第1摩擦ディスク2は、環状であって、シャフト1の軸方向において両側に摩擦抵抗が大きな摩擦面2a,2bを備えている。第1摩擦ディスク2は、外径がケース9の内径よりも小径であって、ケース9に対してシャフト1とともに周方向に回転可能となっている。
【0024】
第2摩擦ディスク3は、環状であって、軸方向で第1摩擦ディスク2の
図1中右側の摩擦面2aに対向するように配置され、環状のホルダ15に保持されて、周方向への回転が規制される一方、軸方向へ移動が許容されており、第1摩擦ディスク2に対して軸方向で遠近可能となっている。そして、第2摩擦ディスク3は、第1摩擦ディスク2の第2摩擦ディスク側面である摩擦面2aに当接すると第1摩擦ディスク2との間でシャフト1の回転を抑制する摩擦力を発生する。
【0025】
ホルダ15は、環状であって、
図1中左端に第2摩擦ディスク3が装着されている他、外周に等間隔に設けられてケース9のキー溝9a内に挿入される8個のキー15aと、反第2摩擦ディスク側端となる
図1中右端から軸方向へ突出する環状の突条15bとを備えている。
【0026】
第2摩擦ディスク3およびホルダ15の内径は、シャフト1の外径よりも大径であって、第2摩擦ディスク3およびホルダ15の内周には、シャフト1が挿通されている。ホルダ15は、ケース9内に収容されると、キー15aがキー溝9a内に摺動可能に挿入されるため、ケース9に対して周方向への回転が不能ではあるが、軸方向への移動が許容される。よって、第2摩擦ディスク3は、ケース9に対して周方向へ回転が規制されるものの軸方向への移動が可能となっており、また、シャフト1は、第2摩擦ディスク3の内周とホルダ15の内周に干渉せずにケース9内で周方向に回転できる。なお、本実施の形態では、第2摩擦ディスク3をホルダ15に保持させて、キー15aとキー溝9aとで第2摩擦ディスク3のケース9に対する回転を規制しているが、第2摩擦ディスク3の周方向への回転を他の手段によって規制してもよく、また、第2摩擦ディスク3の周方向への回転を抑制できればホルダ15を省略してもよい。さらに、キー15aとキー溝9aの設置数は、第2摩擦ディスク3の軸方向の移動を許容しつつ周方向の回転を阻止できる限りにおいて、任意に変更可能である。
【0027】
第3摩擦ディスク4は、環状であって、軸方向で第1摩擦ディスク2の
図1中左側の摩擦面2bに対向するように配置され、環状のホルダ16に保持されて、周方向への回転が規制される一方、軸方向へ移動が許容されており、第1摩擦ディスク2に対して軸方向で遠近可能となっている。そして、第3摩擦ディスク4は、第1摩擦ディスク2の第3摩擦ディスク側面である摩擦面2bに当接すると第1摩擦ディスク2との間でシャフト1の回転を抑制する摩擦力を発生する。
【0028】
ホルダ16は、環状であって、
図1中右端に第3摩擦ディスク4が装着されている他、外周に等間隔に設けられてケース9のキー溝9a内に挿入される8個のキー16aと、反第3摩擦ディスク側端となる
図1中左端から軸方向へ突出する環状の突条16bとを備えている。
【0029】
第3摩擦ディスク4およびホルダ16の内径は、シャフト1の外径よりも大径であって、第3摩擦ディスク4およびホルダ16の内周には、シャフト1が挿通されている。ホルダ16は、ケース9内に収容されると、キー16aがキー溝9a内に摺動可能に挿入されるため、ケース9に対して周方向への回転が不能ではあるが、軸方向への移動が許容される。よって、第3摩擦ディスク4は、ケース9に対して周方向へ回転が規制されるものの軸方向への移動が可能となっており、また、シャフト1は、第3摩擦ディスク4の内周とホルダ16の内周に干渉せずにケース9内で周方向に回転できる。なお、本実施の形態では、第3摩擦ディスク4をホルダ16に保持させて、キー16aとキー溝9aとで第3摩擦ディスク4のケース9に対する回転を規制しているが、第3摩擦ディスク4の周方向への回転を他の手段によって規制してもよく、また、第3摩擦ディスク4の周方向への回転を抑制できればホルダ16を省略してもよい。さらに、キー16aとキー溝9aの設置数は、第3摩擦ディスク4の軸方向の移動を許容しつつ周方向の回転を阻止できる限りにおいて、任意に変更可能である。
【0030】
第1対向部材5は、軸方向で第2摩擦ディスク3から離間した位置に配置されていて、第2摩擦ディスク3の反第1摩擦ディスク側面となる
図1中右側面に対向している。また、第1対向部材5は、環状であって、内周に設けられた螺子部5aと、第2摩擦ディスク側端から突出する環状の突条5bとを備えており、シャフト1の螺子部1aの外周に螺合している。
【0031】
また、第1対向部材5の外周には、ケース9のキー溝9a内に挿入される8個のキー5cが設けられている。第1対向部材5は、ケース9内に収容されると、キー5cがキー溝9a内に摺動可能に挿入されるため、ケース9に対して周方向への回転が不能ではあるが、軸方向への移動が許容される。よって、第1対向部材5は、シャフト1が
図1中左方から見て時計回りに回転すると、シャフト1およびケース9に対して軸方向で
図1中左方となる第1摩擦ディスク側へ移動する。また、第1対向部材5は、反対に、シャフト1が
図1中左方から見て反時計回りに回転すると、シャフト1およびケース9に対して軸方向で
図1中右方となる反第1摩擦ディスク側へ移動する。このように、第1対向部材5は、シャフト1が周方向の一方へ回転すると、シャフト1上を軸方向の一方へ移動して、シャフト1が周方向の他方へ回転すると、シャフト1上を軸方向の他方へ移動する。
【0032】
つづいて、第1弾性体7は、本実施の形態の緩衝器Dでは、コイルばねとされており、一端となる
図1中左端が第2摩擦ディスク3を保持したホルダ15に設けた突条15bの内周に嵌合されることで第2摩擦ディスク3に連結されるとともに、他端となる
図1中右端が第1対向部材5の突条5bの内周に嵌合されることで第1対向部材5に連結されて、第1対向部材5と第2摩擦ディスク3との間に配置されている。このように、第1弾性体7は、第2摩擦ディスク3と第1対向部材5とに連結されつつ両者の間に介装されている。なお、第1弾性体7は、第1対向部材5或いはホルダ15の少なくとも一方から脱落しないような態様で、第1対向部材5と第2摩擦ディスク3との間に配置されていればよい。
【0033】
第1弾性体7は、第2摩擦ディスク3が第1摩擦ディスク2に当接した状態で、かつ、第2摩擦ディスク3と第1対向部材5との間の軸方向の距離が第1弾性体7の自然長よりも短くなると圧縮されて弾発力を発揮して、第2摩擦ディスク3を第1摩擦ディスク2へ押し付ける。他方、第1弾性体7は、第2摩擦ディスク3が第1摩擦ディスク2から離間した状態では、伸び切って自然長となる。この場合、第1弾性体7は、自然長となっており、第2摩擦ディスク3も第1摩擦ディスク2から離間しているので、第2摩擦ディスク3と第1摩擦ディスク2に荷重を与えることはない。
【0034】
なお、第1弾性体7の一端は、ホルダ15の突条15bにより径方向に位置決めされ、第1弾性体7の他端は、第1対向部材5の突条5bにより径方向に位置決めされるので、圧縮時における第1弾性体7が第1摩擦ディスク2と第2摩擦ディスク3とに負荷する荷重の両者の軸心に対する偏心が抑制される。よって、第1弾性体7は、圧縮時に安定した荷重を第1摩擦ディスク2と第2摩擦ディスク3とに負荷できる。なお、ホルダ15の突条15bを第1弾性体7の端部の内周に嵌合させ、第1対向部材5の突条5bを第1弾性体7の端部の内周に嵌合させて、第1弾性体7の径方向の位置決めを図ってもよい。なお、第1弾性体7を第2摩擦ディスク3および第1対向部材5へ連結する構造は、前述の突条15b,5bを利用する構造以外の構造を採用してもよい。
【0035】
第2対向部材6は、軸方向で第3摩擦ディスク4から離間した位置に配置されていて、第3摩擦ディスク4の反第1摩擦ディスク側面となる
図1中左側面に対向している。また、第2対向部材6は、環状であって、内周に設けられた螺子部6aと、第3摩擦ディスク側端から突出する環状の突条6bとを備えており、シャフト1の螺子部1bの外周に螺合している。
【0036】
また、第2対向部材6の外周には、ケース9のキー溝9a内に挿入される8個のキー6cが設けられている。第2対向部材6は、ケース9内に収容されると、キー6cがキー溝9a内に摺動可能に挿入されるため、ケース9に対して周方向への回転が不能ではあるが、軸方向への移動が許容される。よって、第2対向部材6は、シャフト1が
図1中左方から見て時計回りに回転すると、シャフト1およびケース9に対して軸方向で
図1中左方へ移動して、第3摩擦ディスク4から軸方向で離間するように変位する。第2対向部材6は、反対に、シャフト1が
図1中左方から見て反時計回りに回転すると、シャフト1およびケース9に対して軸方向で
図1中右方へ移動して、第3摩擦ディスク4に軸方向で接近する。このように、第2対向部材6は、シャフト1が周方向の一方へ回転すると、シャフト1上を第1対向部材5と同じ方向となる軸方向の一方へ移動して、シャフト1が周方向の他方へ回転すると、シャフト1上を第1対向部材5と同じ方向となる軸方向の他方へ移動する。
【0037】
つづいて、第2弾性体8は、本実施の形態の緩衝器Dでは、コイルばねとされており、一端となる
図1中右端が第3摩擦ディスク4を保持するホルダ16に設けた突条16bの内周に嵌合されることで第3摩擦ディスク4に連結されるとともに、他端となる
図1中左端が第2対向部材6の突条6bの内周に嵌合されることで第2対向部材6に連結されて、第2対向部材6と第3摩擦ディスク4との間に配置されている。このように、第2弾性体8は、第3摩擦ディスク4と第2対向部材6とに連結されつつ両者の間に介装されている。なお、第2弾性体8は、第2対向部材6或いはホルダ16の少なくとも一方から脱落しないような態様で、第2対向部材6と第3摩擦ディスク4との間に配置されていればよい。
【0038】
第2弾性体8は、第3摩擦ディスク4が第1摩擦ディスク2に当接した状態で、かつ、第3摩擦ディスク4と第2対向部材6との間の軸方向の距離が第2弾性体8の自然長よりも短くなると圧縮されて弾発力を発揮して、第3摩擦ディスク4を第1摩擦ディスク2へ押し付ける。他方、第2弾性体8は、第3摩擦ディスク4が第1摩擦ディスク2から離間した状態では、伸び切って自然長となる。この場合、第2弾性体8は、自然長となっており、第3摩擦ディスク4も第1摩擦ディスク2から離間しているので、第3摩擦ディスク4と第1摩擦ディスク2に荷重を与えることはない。
【0039】
なお、第2弾性体8の一端は、ホルダ16の突条16bにより径方向に位置決めされ、第2弾性体8の他端は、第2対向部材6の突条6bにより径方向に位置決めされるので、圧縮時における第2弾性体8が第1摩擦ディスク2と第3摩擦ディスク4とに負荷する荷重の両者の軸心に対する偏心が抑制される。よって、第2弾性体8は、圧縮時に安定した荷重を第1摩擦ディスク2と第3摩擦ディスク4とに負荷できる。なお、ホルダ16の突条16bを第2弾性体8の端部の内周に嵌合させ、第2対向部材6の突条6bを第2弾性体8の端部の内周に嵌合させて、第2弾性体8の径方向の位置決めを図ってもよい。なお、第2弾性体8を第3摩擦ディスク4および第2対向部材6へ連結する構造は、前述の突条16b,6bを利用する構造以外の構造を採用してもよい。
【0040】
また、本実施の形態の緩衝器Dでは、第2摩擦ディスク3と第3摩擦ディスク4の厚み(軸方向長さ)は、ともに等しく、第1弾性体7と第2弾性体8は、自然長およびばね定数が同じコイルばねとなっており、シャフト1の螺子部1a,1bは、ともに、巻方向とピッチが同じになっている。さらに、本実施の形態の緩衝器Dでは、第1摩擦ディスク2と第2摩擦ディスク3との間の摩擦係数と、第1摩擦ディスク2と第3摩擦ディスク4との間の摩擦係数とを等しくしている。シャフト1の回転量は、車体Bと車輪Wとの相対的なストロークに比例するので、直動型の緩衝器におけるストローク量と看做せる。本実施の形態の緩衝器Dでは、シャフト1がケース9に対して許容される周方向への回転可能な範囲をストローク範囲とし、シャフト1の回転位置が当該ストローク範囲の中央に当たる位置をシャフト1の中立位置としている。
【0041】
さらに、このシャフト1が中立位置にある状態では、軸方向で第1対向部材5から第1摩擦ディスク2までの距離は、第2摩擦ディスク3の厚み(軸方向の長さ)に第1弾性体7の自然長を加算した長さよりも短く、第1弾性体7が圧縮されて弾発力を発揮して第1摩擦ディスク2と第2摩擦ディスク3とに荷重を負荷する。また、シャフト1が中立位置にある状態では、軸方向で第2対向部材6から第1摩擦ディスク2までの距離は、第3摩擦ディスク4の厚み(軸方向の長さ)に第2弾性体8の自然長を加算した長さよりも短く、第2弾性体8が圧縮されて弾発力を発揮して第1摩擦ディスク2と第3摩擦ディスク4とに荷重を負荷する。さらに、シャフト1が中立位置にある状態では、軸方向において、第1対向部材5から第1摩擦ディスク2までの距離と第2対向部材6から第1摩擦ディスク2までの距離とは共に等しい。
【0042】
よって、シャフト1が中立位置にある状態では、第1摩擦ディスク2と第2摩擦ディスク3とが当接して第1弾性体7が圧縮された状態となって、第1摩擦ディスク2と第2摩擦ディスク3に対して第1弾性体7からの荷重が作用し、第1摩擦ディスク2と第3摩擦ディスク4とが当接して第2弾性体8が圧縮された状態となって、第1摩擦ディスク2と第3摩擦ディスク4に対して第2弾性体8からの荷重が作用する。そのため、緩衝器Dは、シャフト1が中立状態にある場合、シャフト1が
図1中左方から見て時計回りおよび反時計回りのいずれに回転しようとしても、第1摩擦ディスク2と第2摩擦ディスク3との間、および、第1摩擦ディスク2と第3摩擦ディスク4との間で生じる摩擦力によって、シャフト1の回転を抑制する減衰力を発生する。
【0043】
緩衝器Dは、以上のように構成されており、以下に緩衝器Dの作動について説明する。緩衝器Dは、ケース9が車体Bに取り付けられ、シャフト1が両端に取り付けられたアーム10a,10bを介して車輪Wを支持する軸Aに連結されて、車体Bと車輪Wとの間に懸架ばねSと並列に介装される。なお、ケース9は、前述したように、シャフト1を支持するキャップ11,12の保持と、第2摩擦ディスク3、第3摩擦ディスク4、第1対向部材5および第2対向部材6の周方向への回転の規制に利用されているが、ケース9以外を利用して第2摩擦ディスク3、第3摩擦ディスク4、第1対向部材5および第2対向部材6の周方向への回転を規制してもよい。なお、ケース9が筒状であることによってケース9内に収容される緩衝器Dを構成する各部が保護されるが、ケース9の代わりに連結棒等によってキャップ11,12を連結してもよく、当該連結棒を第2摩擦ディスク3、第3摩擦ディスク4、第1対向部材5および第2対向部材6の周方向への回転の規制に利用してもよい。また、アーム10a,10bとシャフト1との間に減速機を設けてもよい。
【0044】
懸架ばねSは、車体Bの重量を受けて圧縮されて車体Bを支える弾発力を発生して、車体Bを弾性支持しており、車体Bが振動しない状態では車高を所定の高さに維持する。本実施の形態の緩衝器Dは、懸架ばねSによって車高が所定の高さに維持された状態で、シャフト1が前述の中立位置に位置するように、車両に設置してある。
【0045】
そして、緩衝器Dは、車両が走行する際に車輪Wが路面の凹凸を走行することによって車体Bと車輪Wとが上下方向で相対変位する際に、シャフト1が中立位置にある状態からケース9に対して回転する際に、第1摩擦ディスク2と第2摩擦ディスク3との間の摩擦力と、第1摩擦ディスク2と第3摩擦ディスク4との間の摩擦力との総和でシャフト1の回転を抑制することで、車体Bと車輪Wの上下方向の振動を抑制する減衰力を発生する。
【0046】
具体的には、車両が走行する際に、車輪Wが路面の凹凸を走行することによって、車体Bと車輪Wとが上下方向で離間すると、シャフト1が中立位置にある状態からケース9に対して
図1中左方から見て時計回りに回転する。シャフト1の中立位置からの時計回りの回転によって、第1対向部材5は、軸方向でシャフト1の中央に設けた第1摩擦ディスク2に接近する方向へ移動し、第2対向部材6は、軸方向でシャフト1の中央に設けた第1摩擦ディスク2から離間する方向へ移動する。前述した通り、螺子部1a,1bの巻方向とピッチとが同じになっているため、シャフト1が時計回りに回転すると、第1対向部材5と第2対向部材6とが軸方向で
図1中左側へ等しい距離だけ変位する。
【0047】
ここで、シャフト1が中立位置にある状態から
図1中左方から見て時計回りに回転した際の第1対向部材5と第2対向部材6とが軸方向において移動した距離を移動距離と称し、シャフト1が中立位置にある状態における第1弾性体7と第2弾性体8の圧縮量を初期圧縮量と称する。前記移動距離が前記初期圧縮量以下の場合、第1対向部材5が第1摩擦ディスク2に接近するため第1摩擦ディスク2と第2摩擦ディスク3とが当接したまま第1弾性体7が圧縮され、第2対向部材6が第1摩擦ディスク2から前記移動距離だけ離間しても第2弾性体8が自然長以下にしか伸長しないから第1摩擦ディスク2と第3摩擦ディスク4とは当接したままとなる。
【0048】
この場合、第2摩擦ディスク3と第1対向部材5との間の第1弾性体7が前記移動距離に等しいだけ縮んで第1弾性体7が第1摩擦ディスク2と第2摩擦ディスク3へ負荷する荷重が増加する一方、第3摩擦ディスク4と第2対向部材6との間の第2弾性体8が前記移動距離だけ伸びるので、第2弾性体8が第1摩擦ディスク2と第3摩擦ディスク4へ負荷する荷重が減少する。
【0049】
前述したように、本実施の形態の緩衝器Dでは、第1弾性体7と第2弾性体8の自然長とばね定数はともに同じであるから、シャフト1の中立位置からの回転によって第1対向部材5と第2対向部材6とが移動した前記移動距離が前記初期圧縮量以下の場合、第1弾性体7が負荷する荷重の増加分と、第2弾性体8が負荷する荷重の減少分とがバランスする。緩衝器Dは、前述した通り、第1摩擦ディスク2と第2摩擦ディスク3との間の摩擦力と、第1摩擦ディスク2と第3摩擦ディスク4との間の摩擦力との総和でシャフト1の回転を抑制することで、車体Bと車輪Wの上下方向の振動を抑制する減衰力を発生する。
【0050】
そして、本実施の形態の緩衝器Dでは、第1摩擦ディスク2と第2摩擦ディスク3との間の摩擦係数と、第1摩擦ディスク2と第3摩擦ディスク4との間の摩擦係数とが等しく、第1弾性体7の荷重増加分と第2弾性体8の荷重減少分とが等しいので、前記移動距離が前記初期圧縮量以下でシャフト1が回転する場合、第1摩擦ディスク2と第2摩擦ディスク3との間の摩擦力と、第1摩擦ディスク2と第3摩擦ディスク4との間の摩擦力との総和は、シャフト1が中立位置にある状態から回転し始める際の前記各摩擦力の総和から変化しない。
【0051】
よって、車体Bと車輪Wとが上下方向に互いに離間するように変位しても、シャフト1の回転量が小さく、前記移動距離が、前記初期圧縮量以下である場合、緩衝器Dが発生する減衰力は、
図5中の実線でに示すように、変化せず一定で、かつ、最低となる。なお、
図5に示したところでは、横軸は、車体Bの車輪Wに対するストロークを示しており、シャフト1が中立位置にある状態を0としている。また、
図5中で縦軸より右側の範囲はシャフト1の回転位置が中立位置よりも時計回り側にある場合における緩衝器Dが発揮する減衰力を示しており、
図5中で縦軸より左側の範囲はシャフト1の回転位置が中立位置よりも反時計回り側に有る場合における緩衝器Dが発揮する減衰力を示している。
【0052】
また、反対に車体Bと車輪Wとが上下方向に互いに接近するように変位して、シャフト1が
図1中左方から見て反時計回りに回転する場合、シャフト1の中立位置からの反時計回りの回転によって、第1対向部材5は、軸方向でシャフト1の中央に設けた第1摩擦ディスク2から離間する方向へ移動し、第2対向部材6は、軸方向でシャフト1の中央に設けた第1摩擦ディスク2へ接近する方向へ移動する。前述した通り、螺子部1a,1bの巻方向とピッチとが同じになっているため、シャフト1が反時計回りに回転すると、第1対向部材5と第2対向部材6とが軸方向で
図1中右側へ等しい距離だけ変位する。
【0053】
シャフト1が中立位置にある状態から反時計回りに回転した際の前記移動距離が前記初期圧縮量以下の場合、シャフト1が中立位置から時計回りに回転した場合と同様に、第1弾性体7が負荷する荷重の減少分と、第2弾性体8が負荷する荷重の増加分とがバランスする。
【0054】
よって、車体Bと車輪Wとが上下方向に互いに接近するように変位しても、シャフト1の回転量が小さく、シャフト1が中立位置にある状態から回転した際の前記移動距離が前記初期圧縮量以下である場合、緩衝器Dが発生する減衰力は、
図5に示すように、変化せず一定で、かつ、最低となる。
【0055】
対して、シャフト1の中立位置から時計回りに回転した際のシャフト1の回転量が大きく、前記移動距離が前記初期圧縮量を超える場合、第1対向部材5の第1摩擦ディスク2への接近により第1弾性体7の圧縮量が増加する一方、第2対向部材6の第1摩擦ディスク2からの離間によって第2弾性体8が伸び切って第3摩擦ディスク4が第1摩擦ディスク2から離間するようになる。
【0056】
このような状況になると、第3摩擦ディスク4が第1摩擦ディスク2から離間しているため、シャフト1の時計回りの回転に応じて第1弾性体7の圧縮量が増加して第1摩擦ディスク2と第2摩擦ディスク3との間で生じる摩擦力が増加するだけとなる。よって、シャフト1の中立位置から時計回りに回転した際のシャフト1の回転量が大きく、前記移動距離が前記初期圧縮量を超える場合、緩衝器Dが発生する減衰力は、シャフト1の時計回りへの回転に応じて増加する。
【0057】
また、シャフト1が時計回りに回転して前記移動距離が前記初期圧縮量を超えた後、シャフト1が中立位置側へ向けて反時計回りに回転すると、前記移動距離が前記初期圧縮量に等しくなるまでは、緩衝器Dが発生する減衰力は、シャフト1の反時計回りへの回転に応じて減少する。
【0058】
さらに、シャフト1の中立位置から反時計回りに回転した際のシャフト1の回転量が大きく、前記移動距離が前記初期圧縮量を超える場合、第2対向部材6の第1摩擦ディスク2への接近により第2弾性体8の圧縮量が増加する一方、第1対向部材5の第1摩擦ディスク2からの離間によって第1弾性体7が伸び切って第2摩擦ディスク3が第1摩擦ディスク2から離間するようになる。
【0059】
このような状況になると、第2摩擦ディスク3が第1摩擦ディスク2から離間しているため、シャフト1の反時計回りの回転に応じて第2弾性体8の圧縮量が増加して第1摩擦ディスク2と第3摩擦ディスク4との間で生じる摩擦力が増加するだけとなる。よって、シャフト1の中立位置から反時計回りに回転した際のシャフト1の回転量が大きく、前記移動距離が前記初期圧縮量を超える場合、緩衝器Dが発生する減衰力は、シャフト1の反時計回りへの回転に応じて増加する。
【0060】
また、シャフト1が反時計回りに回転して前記移動距離が前記初期圧縮量を超えた後、シャフト1が中立位置側へ向けて時計回りに回転すると、前記移動距離が前記初期圧縮量に等しくなるまでは、緩衝器Dが発生する減衰力は、シャフト1の時計回りへの回転に応じて減少する。
【0061】
よって、シャフト1が中立位置から回転し、前記移動距離が前記初期圧縮量を超える範囲にある場合、
図5に示すように、緩衝器Dの減衰力は、シャフト1の中立位置からの回転量に比例して増減する。
【0062】
前述したところから理解できるように、緩衝器Dは、シャフト1が中立位置にある状態から時計回り或いは反時計回りに回転して第1対向部材5および第2対向部材6が移動した移動距離が第1弾性体7および第2弾性体8の初期圧縮量を超えるまでは、一定であって最低の減衰力を発生し、前記移動距離が前記初期圧縮量を超えるとシャフト1の回転量に比例して減衰力を増減させる。第1弾性体7および第2弾性体8の初期圧縮量は、シャフト1が中立位置にある状態における第1対向部材5と第1摩擦ディスク2との間の距離および第2対向部材6と第1摩擦ディスク2との間の距離の設定によって大小調整できる。よって、第1弾性体7と第2弾性体8の初期圧縮量を小さくすれば、
図5中破線で示すように、緩衝器Dが発揮する減衰力が最低で一定するストローク範囲(シャフト1の中立位置からの回転量)を小さくできるし、第1弾性体7と第2弾性体8の初期圧縮量を大きくすれば、
図5中一点鎖線で示すように、緩衝器Dが発揮する減衰力が最低で一定するストローク範囲(シャフト1の中立位置からの回転量)を大きくできる。さらに、シャフト1が中立位置にある状態で第1摩擦ディスク2と第2摩擦ディスク3とが丁度接するとともに、第1摩擦ディスク2と第3摩擦ディスク4とが丁度接するようにし、第1弾性体7と第2弾性体8の初期圧縮量を0にすれば、
図5中二点鎖線で示すように、シャフト1が中立位置から回転すると、緩衝器Dの減衰力が0からシャフト1の回転量に比例して大きくなる。
【0063】
また、シャフト1が中立位置にある状態において、第1摩擦ディスク2に対して第2摩擦ディスク3と第3摩擦ディスク4とが離間するようにしておけば、シャフト1が中立位置から回転して第1摩擦ディスク2が第2摩擦ディスク3或いは第3摩擦ディスク4に当接するまでは、シャフト1は摩擦力による制限を受けずに自由に回転できる。よって、この場合、
図6に示すように、緩衝器Dは、シャフト1が中立位置からの回転量が小さいと減衰力を発揮せず、シャフト1の中立位置からの回転量が大きくなり、第1摩擦ディスク2が第2摩擦ディスク3或いは第3摩擦ディスク4に当接するようになると、第1弾性体7或いは第2弾性体8が縮んで第2摩擦ディスク3或いは第3摩擦ディスク4と第1摩擦ディスク2との間で摩擦力が発生するので、シャフト1の回転量に応じて減衰力を発揮するようになる。
【0064】
シャフト1が中立位置にある状態で、第1対向部材5と第1摩擦ディスク2との間の軸方向の距離を、第2対向部材6と第1摩擦ディスク2との間の軸方向の距離よりも小さくすれば、
図7中の破線で示した両距離を同じにした場合の減衰力の特性に対して、緩衝器Dの減衰力が最低で一定する範囲を
図7中実線で示すように左側へオフセットできる。なお、シャフト1が中立位置にある状態で、第1対向部材5と第1摩擦ディスク2との間の軸方向の距離を、第2対向部材6と第1摩擦ディスク2との間の軸方向の距離よりも大きくすれば、両距離を同じにした場合の減衰力の特性に対して、緩衝器Dの減衰力が最低で一定する範囲を右側へオフセットできる。なお、第1弾性体7の自然長より第2弾性体8の自然長を長くして、シャフト1が中立位置にある状態で、第1対向部材5と第1摩擦ディスク2との間の軸方向の距離を、第2対向部材6と第1摩擦ディスク2との間の軸方向の距離と同じにすれば、第1弾性体7の自然長と第2弾性体8の自然長とを同じにした場合の減衰力の特性に対して、緩衝器Dの減衰力が最低で一定する範囲を
図7中で左側へオフセットできる。逆に、第2弾性体8の自然長を第1弾性体7の自然長より長くすれば、緩衝器Dの減衰力が最低で一定する範囲を
図7中で右側へオフセットできる。このように、第1対向部材5および第2対向部材6の初期配置、第1弾性体7の自然長と第2弾性体8の自然長は、緩衝器Dの減衰力の特性を設定するためのチューニング要素である。
【0065】
なお、前述した緩衝器Dの構成のうち、第1弾性体7のばね定数と第2弾性体8のばね定数とを違える場合、前記移動距離が前記初期圧縮量以下の範囲で減衰力の特性線に傾きを持たせ、前記移動距離が前記初期圧縮量を超える範囲でシャフト1の回転方向によりシャフト1の回転量に対する減衰力の増加割合が異なるように設定できる。なお、第1弾性体7のばね定数を第2弾性体8のばね定数より大きくすれば、
図8の線Aで示すように、前記移動距離が前記初期圧縮量以下の範囲における減衰力の特性線が右肩上がりになり、前記移動距離が前記初期圧縮量を超える範囲では、シャフト1の回転位置が中立位置よりも時計回り側にある場合におけるシャフト1の回転量に対する緩衝器Dの減衰力の増加割合が、シャフト1の回転位置が中立位置よりも反時計回り側にある場合におけるシャフト1の回転量に対する緩衝器Dの減衰力の増加割合よりも大きくなる。第1弾性体7のばね定数を第2弾性体8のばね定数より小さくすれば、緩衝器Dの減衰力の特性は、前述とは反対に、
図8の線Bで示すように、前記移動距離が前記初期圧縮量以下の範囲における減衰力の特性線が左肩上がりになり、前記移動距離が前記初期圧縮量を超える範囲では、シャフト1の回転位置が中立位置よりも時計回り側にある場合におけるシャフト1の回転量に対する緩衝器Dの減衰力の増加割合が、シャフト1の回転位置が中立位置よりも反時計回り側にある場合におけるシャフト1の回転量に対する緩衝器Dの減衰力の増加割合よりも小さくなる。このように、第1弾性体7のばね定数と第2弾性体8のばね定数は、緩衝器Dの減衰力の特性を設定するためのチューニング要素である。
【0066】
また、前述した緩衝器Dの構成のうち、螺子部1aのピッチと螺子部1bのピッチとを違える場合、シャフト1の1回転当たりの第1対向部材5および第2対向部材6の移動距離に差を生じさせ得る。螺子部1aのピッチを螺子部1bのピッチより大きくすれば、
図8の線Aで示すように、緩衝器Dの減衰力の特性線は、
図5の実線で示した特性を右側にオフセットして反時計回りに回転させたような軌跡を描く。この場合、前記移動距離が前記初期圧縮量を超える範囲では、シャフト1の回転位置が中立位置よりも時計回り側にある場合におけるシャフト1の回転量に対する緩衝器Dの減衰力の増加割合が、シャフト1の回転位置が中立位置よりも反時計回り側にある場合におけるシャフト1の回転量に対する緩衝器Dの減衰力の増加割合よりも大きくなる。
【0067】
螺子部1aのピッチを螺子部1bのピッチより小さくすれば、緩衝器Dの減衰力の特性は、前述とは反対に、
図8の線Bで示すように、緩衝器Dの減衰力の特性線は、
図5の実線で示した特性を左側にオフセットして時計回りに回転させたような軌跡を描く。この場合、前記移動距離が前記初期圧縮量を超える範囲では、シャフト1の回転位置が中立位置よりも時計回り側にある場合におけるシャフト1の回転量に対する緩衝器Dの減衰力の増加割合が、シャフト1の回転位置が中立位置よりも反時計回り側にある場合におけるシャフト1の回転量に対する緩衝器Dの減衰力の増加割合よりも小さくなる。このように、螺子部1a,1bのピッチは、緩衝器Dの減衰力の特性を設定するためのチューニング要素である。
【0068】
さらに、前述した緩衝器Dの構成のうち、第1摩擦ディスク2と第2摩擦ディスク3との間の摩擦係数と第1摩擦ディスク2と第3摩擦ディスク4との間の摩擦係数とを違える場合、前記移動距離が前記初期圧縮量以下の範囲で減衰力の特性線に傾きを持たせ、前記移動距離が前記初期圧縮量を超える範囲でシャフト1の回転方向によりシャフト1の回転量に対する減衰力の増加割合が異なるように設定できる。なお、第1摩擦ディスク2と第2摩擦ディスク3との間の摩擦係数を第1摩擦ディスク2と第3摩擦ディスク4より大きくすれば、
図9の線Cで示すように、前記移動距離が前記初期圧縮量以下の範囲における減衰力の特性線が右肩上がりになり、前記移動距離が前記初期圧縮量を超える範囲では、シャフト1の回転位置が中立位置よりも時計回り側にある場合におけるシャフト1の回転量に対する緩衝器Dの減衰力の増加割合が、シャフト1の回転位置が中立位置よりも反時計回り側にある場合におけるシャフト1の回転量に対する緩衝器Dの減衰力の増加割合よりも大きくなる。
【0069】
第1摩擦ディスク2と第2摩擦ディスク3との間の摩擦係数を第1摩擦ディスク2と第3摩擦ディスク4との間の摩擦係数より小さくすれば、緩衝器Dの減衰力の特性は、前述とは反対に、
図9の線Dで示すように、前記移動距離が前記初期圧縮量以下の範囲における減衰力の特性線が左肩上がりになり、前記移動距離が前記初期圧縮量を超える範囲では、シャフト1の回転位置が中立位置よりも時計回り側にある場合におけるシャフト1の回転量に対する緩衝器Dの減衰力の増加割合が、シャフト1の回転位置が中立位置よりも反時計回り側にある場合におけるシャフト1の回転量に対する緩衝器Dの減衰力の増加割合よりも小さくなる。このように、第1摩擦ディスク2と第2摩擦ディスク3との間の摩擦係数と第1摩擦ディスク2と第3摩擦ディスク4との間の摩擦係数は、緩衝器Dの減衰力の特性を設定するためのチューニング要素である。
【0070】
前述のように、本実施の形態の緩衝器Dの減衰力の特性のチューニング要素は多いが、第1弾性体7と第2弾性体8のばね定数を同じにしておくと、減衰力の特性のチューニングが容易となる。何故ならば、第1弾性体7と第2弾性体8のばね定数を同じにすることで、シャフト1が中立位置にある状態における第1弾性体7と第2弾性体8の軸方向の位置によって、減衰力の特性を容易に調整できるからである。
【0071】
なお、本実施の形態の緩衝器Dの場合、シャフト1がケース9に対して許容される周方向への回転可能な範囲をストローク範囲とし、シャフト1の回転位置が当該ストローク範囲の中央に当たる位置をシャフト1の中立位置としているが、中立位置は任意に変更可能であり、中立位置は、車体Bが静止して懸架ばねSによって一定の車高に維持された状態においてシャフト1がケース9に対して周方向で位置決めされる位置とされてもよい。
【0072】
以上のように、本実施の形態の緩衝器Dは、周方向に回転可能なシャフト1と、シャフト1に固定されてシャフト1とともに周方向に回転可能な第1摩擦ディスク2と、周方向への回転が不能であって第1摩擦ディスク2に当接すると第1摩擦ディスク2との間でシャフト1の回転を抑制する摩擦力を発生する第2摩擦ディスク3と、周方向への回転が不能であって第1摩擦ディスク2の反第2摩擦ディスク側面に当接すると第1摩擦ディスク2との間でシャフト1の回転を抑制する摩擦力を発生する第3摩擦ディスク4と、周方向への回転が不能であって軸方向で第2摩擦ディスク3の反第1摩擦ディスク側に配置される第1対向部材5と、周方向への回転が不能であって軸方向で第3摩擦ディスク4の反第1摩擦ディスク側に配置される第2対向部材6と、一端が第2摩擦ディスク3に連結されるとともに他端が第1対向部材5に連結される第1弾性体7と、一端が第3摩擦ディスク4に連結されるとともに他端が第2対向部材6に連結される第2弾性体8とを備え、第1対向部材5と第2対向部材6は、シャフト1が一方へ回転すると共に軸方向で一方に移動し、シャフト1が他方へ回転すると共に軸方向の他方に移動するように構成されている。
【0073】
このように構成された緩衝器Dは、シャフト1が一方(時計回り)に回転すると第1対向部材5と第2対向部材6とが軸方向で一方に移動し、シャフト1が他方(反時計回り)に回転すると第1対向部材5と第2対向部材6とが軸方向で他方に移動する。よって、緩衝器Dは、シャフト1の中立位置からの回転量が小さい場合には、第1弾性体7と第2弾性体8の一方の荷重を増加させつつ第1弾性体7と第2弾性体8の他方の荷重を減少させるか、或いは、第2摩擦ディスク3および第3摩擦ディスク4の双方が第1摩擦ディスク2から離間した状態にでき、減衰力を低くできる。また、このように構成された緩衝器Dは、シャフト1の中立位置からの回転量が大きくなると、第1弾性体7或いは第2弾性体8の一方が荷重を増加させるので、減衰力を高くできる。
【0074】
よって、このように構成された緩衝器Dは、車体Bが前記車高を中心として車輪Wに対して上下方向へ変位した場合、変位量が小さい場合には、シャフト1の中立位置からの回転量が小さいので、当該車体Bの変位を抑制するのに十分な減衰力を発生する一方、車体Bが車輪Wに対して大きく振動する場合には、シャフト1の中立位置からの回転量が大きくなり、車体Bのストロークに応じて高い減衰力を発揮するようになる。
【0075】
よって、本実施の形態の緩衝器Dは、車体Bが小さなストロークで振動する場合に車体Bの振動の抑制に適する低い減衰力の発揮のみならず、車体Bが大きなストロークで振動する際に要求される高い減衰力をも発生でき、車体Bの振動状況に応じて適切な減衰力を発生できる。このように、本実施の形態の緩衝器Dは、車体Bの振動状況に応じて減衰力を変化させて車両における乗心地を向上できる。
【0076】
また、本実施の形態の緩衝器Dでは、第1弾性体7と第2弾性体8のばね定数が同一となっている。このように構成された緩衝器Dによれば、第1弾性体7と第2弾性体8のばね定数を同じにすることで、シャフト1が中立位置にある状態における第1弾性体7と第2弾性体8の軸方向の位置によって、減衰力の特性を容易に調整できる。
【0077】
なお、シャフト1が中立位置から一方へ回転する際に発生する減衰力の特性と、シャフト1が中立位置から他方へ回転する際に発生する減衰力の特性とが異なっている場合には、緩衝器Dが車体Bと車輪Wとが離間する際に発生する伸長側の減衰力の特性と、車体Bと車輪Wとが接近する際に発生する収縮側の減衰力の特性とを、それぞれ最適化して、車両における乗心地を効果的に向上できる。
【0078】
また、本実施の形態の緩衝器Dでは、シャフト1が外周に螺子部1a,1bを備え、第1対向部材5と前記第2対向部材6が環状であって螺子部1a,1bの外周に螺合している。このように構成された緩衝器Dによれば、簡単な螺子機構を利用してシャフト1の回転を第1対向部材5と第2対向部材6の軸方向への移動に容易に変換できる。なお、第1対向部材5と第2対向部材6が内周にボールナットを備える場合、シャフト1の回転運動を円滑に第1対向部材5と第2対向部材6の軸方向への直線運動に変換可能となり、緩衝器Dが第1摩擦ディスク2と第2摩擦ディスク3との間の摩擦力と第1摩擦ディスク2と第3摩擦ディスク4との間の摩擦力に起因しない減衰力を発揮するのを抑制できるようになり、緩衝器Dの減衰力の特性の設定が容易になる。
【0079】
なお、本実施の形態の緩衝器Dでは、第1弾性体7および第2弾性体8は、コイルばねとされているが、コイルばね以外にも皿ばね、スプリングワッシャ、気体ばね、ゴム、合成樹脂等といった弾性体の利用も可能である。
【0080】
また、第1弾性体7および第2弾性体8は、途中でピッチが変わるコイルばねとされてもよい。このように構成された緩衝器Dでは、第1弾性体7および第2弾性体8の圧縮によってピッチが狭い部分が密着長となるとばね定数が変化するので、緩衝器Dの減衰係数が途中で変化するように設定できる。
【0081】
なお、本実施の形態の緩衝器Dでは、第1摩擦ディスク2の軸方向の一方に第2摩擦ディスク3、第1弾性体7および第1対向部材5でなる第1の摩擦力発生ユニットを備えるとともに、第1摩擦ディスク2の軸方向の他方に第3摩擦ディスク4、第2弾性体8および第2対向部材6でなる第2の摩擦力発生ユニットを備えているが、第1摩擦ディスク2および第1摩擦力発生ユニットの組をシャフト1の軸方向に複数設けてもよいし、第1摩擦ディスク2、第1摩擦力発生ユニットおよび第2摩擦力発生ユニットの組をシャフト1の軸方向に複数設けてもよい。
【0082】
なお、本実施の形態の説明では、緩衝器Dを車両の車体Bと車輪Wとの間に介装して車体Bの制振に利用する例にしているが、緩衝器Dは、車両の制振用途以外にも土木における構造物、建築物、各種機械や機器の制振にも使用可能である。
【0083】
以上、本発明の好ましい実施の形態を詳細に説明したが、特許請求の範囲から逸脱しない限り、改造、変形、および変更が可能である。
【符号の説明】
【0084】
1・・・シャフト、1a,1b・・・螺子部、2・・・第1摩擦ディスク、3・・・第2摩擦ディスク、4・・・第3摩擦ディスク、5・・・第1対向部材、6・・・第2対向部材、7・・・第1弾性体、8・・・第2弾性体、D・・・緩衝器