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特開2023-136390超音波探傷システム及び超音波探傷方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023136390
(43)【公開日】2023-09-29
(54)【発明の名称】超音波探傷システム及び超音波探傷方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 29/265 20060101AFI20230922BHJP
【FI】
G01N29/265
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022042044
(22)【出願日】2022-03-17
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001380
【氏名又は名称】弁理士法人東京国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中島 弘達
(72)【発明者】
【氏名】菱沼 朋美
(72)【発明者】
【氏名】千星 淳
(72)【発明者】
【氏名】尾崎 健司
(72)【発明者】
【氏名】星 岳志
【テーマコード(参考)】
2G047
【Fターム(参考)】
2G047AA05
2G047BC02
2G047BC03
2G047BC07
2G047CA01
2G047GA21
2G047GB27
2G047GB28
2G047GE01
2G047GG09
2G047GG10
2G047GG12
2G047GG47
2G047GH06
(57)【要約】
【課題】プローブを用いた超音波探傷の検査結果とプローブの設置位置情報とを、事前準備なしに同時に取得することができること。
【解決手段】検査対象1に設置された状態で検査対象1に対して超音波信号を送信し受信するプローブ21と、このプローブ21の周囲の周辺環境を撮影する撮像部22と、プローブ21及び撮像部22の位置関係を固定する把持部23と、を備えてなるプローブ装置11と、撮像部22が撮影した画像データに基づいて、プローブ21の設置位置を測定するプローブ位置測定手段12と、を有して構成されたものである。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
検査対象に設置された状態で前記検査対象に対して超音波信号を送信し受信するプローブと、このプローブの周囲の周辺環境を撮影する撮像部と、前記プローブ及び前記撮像部の位置関係を固定する固定部と、を備えてなるプローブ装置と、
前記撮像部が撮影した画像データに基づいて、前記プローブの設置位置を測定するプローブ位置測定手段と、を有して構成されたことを特徴とする超音波探傷システム。
【請求項2】
前記プローブ装置に超音波探傷装置が接続されて構成され、
この超音波探傷装置は、前記プローブからの超音波信号を離散化してデジタルの超音波データに変換するA/D変換部と、このA/D変換部からの前記超音波データを解析処理及び画像化処理する信号処理部と、前記A/D変換部及び前記信号処理部の少なくとも1つの条件を設定するユーザインタフェース部と、前記信号処理部で処理された超音波波形を含むデータを表示する表示部と、を備えて構成されたことを特徴とする請求項1に記載の超音波探傷システム。
【請求項3】
前記撮像部、前記プローブ位置測定手段、前記A/D変換部、前記信号処理部、前記ユーザインタフェース部、及び前記表示部の少なくとも1つが、ネットワークに接続可能で且つアプリケーションソフトを利用可能なスマートデバイスに代替して構成されたことを特徴とする請求項2に記載の超音波探傷システム。
【請求項4】
前記プローブ装置を用いて超音波探傷を行う検査員の位置情報を取得する検査員位置取得手段を、更に有して構成されたことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の超音波探傷システム。
【請求項5】
前記プローブ位置測定手段により得られたプローブの設置位置情報を基づいて、検査位置、検査範囲、A/D変換部から取得した超音波波形、超音波エコー高さ、超音波伝搬時間、超音波伝搬距離、及び信号処理部から取得した映像化処理結果の少なくとも1つを、拡張現実の手法を用いて表示する拡張現実表示部を、更に有して構成されたことを特徴とする請求項2乃至4のいずれか1項に記載の超音波探傷システム。
【請求項6】
前記プローブ位置測定手段により得られたプローブの設置位置情報に基づいて、検査位置、検査範囲、A/D変換部から取得した超音波波形、超音波エコー高さ、超音波伝搬時間、超音波伝搬距離、及び信号処理部から取得した映像化処理結果の少なくとも1つを、仮想現実の手法を用いて表示すると共に、検査対象をモデル化して表示する仮想現実表示部を、更に有して構成されたことを特徴とする請求項2乃至5のいずれか1項に記載の超音波探傷システム。
【請求項7】
前記超音波探傷装置は、超音波探傷の検査結果を解析する解析装置を含む外部サーバとネットワークを介して通信可能な通信機器に接続されて構成されたことを特徴とする請求項2乃至6のいずれか1項に記載の超音波探傷システム。
【請求項8】
前記超音波探傷装置は、通信機器を用いて、外部サーバとデータの送信及び受信の少なくとも一方を行うよう構成されたことを特徴とする請求項7に記載の超音波探傷システム。
【請求項9】
検査対象に設置された状態で前記検査対象に対して超音波信号を送信し受信するプローブと、このプローブの周囲の周辺環境を撮影する撮像部と、前記プローブ及び前記撮像部の位置関係を固定する固定部と、を備えてなるプローブ装置を準備し、
前記撮像部が撮影した画像データに基づいて、前記プローブの設置位置を測定することを特徴とする超音波探傷方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、超音波探傷システム及び超音波探傷方法に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波探傷(Ultrasonic Testing)は、非破壊で構造材の表面及び内部の健全性を確認できる技術であり、様々な分野で欠かせない検査技術となっている。超音波探傷により非破壊で構造材の健全性を評価するためには、検査結果だけでなく、用いている装置や検査員の情報、プローブ設置位置、検査位置等の周辺情報が必要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-112547号公報
【特許文献2】特開2021-001774号公報
【特許文献3】国際公開第2020/175687号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来用いられてきた超音波探傷装置では、検査結果のみがデータ化され、非破壊評価に必要な周辺情報をデータとして同時に取得することはなかった。特に、プローブ設置位置をデータ化する場合、スキャナやロボットアーム等による機械的スキャンが必要であった(特許文献1)。機械的スキャンが適用できない場合には、検査結果データを取得する毎に、定規等を用いて検査位置を手動にて計測する必要があった。
【0005】
また、機械的スキャンを用いずにプローブ設置位置を計測する手法として、カメラ等による撮像の活用が考えられる。これまで、撮像と超音波探傷を組み合わせた技術が数多く提案されてきた(例えば特許文献2、3)。ところが、その多くは特許文献2のように、欠陥検出を目的とした外形形状の計測のために撮像が用いられてきた。
【0006】
一方、特許文献3では、プローブ位置計測のために撮像が利用されている。しかし、この特許文献3では、検査対象上の位置を示す2次元模様がプリントされたシートを検査対象に張り付け、そのシート上から超音波探触子により探傷を行う必要がある。即ち、カメラ以外の事前準備なしでプローブ設置位置を計測する手法はなかった。
【0007】
本発明の実施形態は、上述の事情を考慮してなされたものであり、プローブを用いた超音波探傷の検査結果とプローブの設置位置情報とを、事前準備なしに同時に取得することができる超音波探傷システム及び超音波探傷方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の実施形態における超音波探傷システムは、検査対象に設置された状態で前記検査対象に対して超音波信号を送信し受信するプローブと、このプローブの周囲の周辺環境を撮影する撮像部と、前記プローブ及び前記撮像部の位置関係を固定する固定部と、を備えてなるプローブ装置と、前記撮像部が撮影した画像データに基づいて、前記プローブの設置位置を測定するプローブ位置測定手段と、を有して構成されたことを特徴とするものである。
【0009】
本発明の実施形態における超音波探傷方法は、検査対象に設置された状態で前記検査対象に対して超音波信号を送信し受信するプローブと、このプローブの周囲の周辺環境を撮影する撮像部と、前記プローブ及び前記撮像部の位置関係を固定する固定部と、を備えてなるプローブ装置を準備し、前記撮像部が撮影した画像データに基づいて、前記プローブの設置位置を測定することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の実施形態によれば、プローブを用いた超音波探傷の検査結果とプローブの設置位置情報とを、事前準備なしに同時に取得することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】第1実施形態に係る超音波探傷システムの構成を示すブロック図。
図2図1のプローブ位置測定手段における第1の具体例を示す構成図。
図3図1のプローブ位置測定手段における第2の具体例を示す構成図。
図4】第2実施形態に係る超音波探傷システムの構成を示すブロック図。
図5図4の超音波探傷システムの他の構成を示すブロック図。
図6】第3実施形態に係る超音波探傷システムの構成を示すブロック図。
図7図6の超音波探傷システムにおけるデータ通信の状況に関する説明図。
図8図6の超音波探傷システムにおける遠隔サポートの状況に関する説明図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態を、図面に基づき説明する。
[A]第1実施形態(図1図3)
図1は、第1実施形態に係る超音波探傷システムの構成を示すブロックである。この図1に示す超音波探傷システム10は、超音波探傷の検査結果とプローブ設置位置とを事前の準備なしに同時に取得し、プローブ設置位置毎に検査結果等を表示するシステムであり、プローブ装置11、プローブ位置測定手段12、超音波探傷装置13、検査員位置取得手段14、AR(拡張現実)表示部15及びVR(仮想現実)表示部16を有して構成される。
【0013】
プローブ装置11は、プローブ21、撮像部22、及び固定部としての把持部23を備えて構成される。
【0014】
プローブ21は、検査対象1に設置された状態で検査対象1に対して超音波信号を送信し受信するものであり、一般的に超音波探触子と称される。このプローブ21は、セラミクス、複合材料もしくはそれら以外の材料で圧電効果により超音波を発生可能な圧電素子、高分子フィルムによる圧電素子、またはそれら以外の超音波を発生可能な機構を有する。プローブ21は、更に、超音波をダンピングするダンピング材(不図示)と、超音波の発振面に取り付けられた前面板(不図示)とが必要に応じて組み合わされて構成される。本第1実施形態のプローブ21は、単一のプローブにより超音波を送受信する探傷法で説明するが、2つ以上のプローブを用いて超音波の送信及び受信を分けてもよい。また、超音波アレイプローブと呼ばれる、複数の圧電素子が1次元もしくは2次元的に配列されたプローブを用いてもよい。
【0015】
プローブ21の設置に際しては、指向性の高い超音波を検査対象1へ入射するために、楔(不図示)を利用することがある。この楔は、超音波が伝搬可能で且つ音響インピーダンスが把握できている等方材のアクリル、ポリイミド、ゲル、その他高分子などがある。この楔は、前面板に対して音響インピーダンスが近いもしくは同じ材質を用いることができるし、検査対象1に対して音響インピーダンスが近いもしくは同じ材質を用いることもできる。また、楔は、段階的もしくは漸次的に音響インピーダンスを変化させる複合材料であってもよい。もちろん楔は、上述の例以外であっても適用可能である。また、楔は、楔内の多重反射波が探傷結果に影響を与えないように楔内外にダンピング材を配置したり、山型の波消し形状を設けたり、多重反射低減機構を有する場合もある。第1~第3の各実施形態においては、プローブ21から検査対象1へ超音波を入射させる際に楔の記載を省略している。
【0016】
プローブ21を用いて行う超音波探傷法は、単プローブ、単プローブに楔を組み合わせて探傷屈折角をもたせたプローブ、もしくは振動子と楔とが一体になったプローブを用いた探傷法、または、送信と受信を別々のプローブを用いて行う2探触子法等を用いた、一般的に超音波探傷試験と呼称される手法であってもよい。
【0017】
また、プローブ21を用いた超音波探傷法は、一般的にフェーズドアレイ超音波探傷試験(PAUT)と呼ばれるもので、一定方向に超音波ビームを形成しながら駆動させる超音波素子を電子走査させていくリニアスキャン法、駆動させる超音波素子を固定もしくは電子操作しながら超音波ビームを形成する角度を扇状に変化させるセクタスキャン法、任意の座標領域に網羅的に焦点を設けてビームを集束させるTFM(Total Focusing Method)やいわゆる開口合成法等のように超音波を用いた映像化方法等をベースとしたものであってもよい。更に、プローブ21を用いた超音波探傷法は、TOFD(Time of Flight Diffraction))、検査対象1の減肉を板厚計等で測定する方法などであってもよい。
【0018】
このプローブ21で得られる超音波信号は、受信回路部28を経てA/D変換部24へ出力される。この超音波信号は、後述する信号処理部25によって超音波の波形データ、PAUTやTFM画像を形成するボクセル強度データ、または画像化後の画像データに変換されてもよく、これが検査データとして用いられてもよい。
【0019】
プローブ21を用いた超音波探傷法においては、検査対象1の内部に超音波を入射するために、プローブ21と検査対象1との間に音響接触媒質を塗布する必要がある。ここで、音響接触媒質は、例えば水やグリセリン、マシン油、ひまし油、アクリル、ポリスチレン、ゲル等のように超音波を伝搬できる媒質とし、もちろん上述の例以外でも適用可能である。
【0020】
撮像部22は、プローブ21の周囲の周辺環境31(図2)を撮影するものである。この撮像部22は、例えばトラッキングカメラであり、実際に撮影した映像(画像)内の特定の被写体や領域の動きから、その映像を撮影したカメラの位置(動き)が検出可能に構成される。この撮像部22は、通常のビデオカメラ、赤外線カメラ、携帯型端末や超音波探傷装置に内蔵されたカメラ、ウェアラブルカメラ等のように、撮像部22の位置情報が得られる形態であればよい。
【0021】
撮像部22の撮像対象は、プローブ21を含まない、プローブ21の周囲の周辺環境31(図2)である。周辺環境31の中に検査対象1が含まれていてもよい。なお、プローブ21は撮像対象に含まれてもよいが、撮像対象に含まれない方が好ましい。これは、周辺環境31の画像に基づいて、プローブ位置測定手段12が撮像部22の位置情報を取得することから、相対的な位置関係を固定したプローブ21が常に画像に映り込むと、撮像部22の正確な位置情報を算出できなくなるためである。撮像対象にプローブ21が含まれる場合には、プローブ位置測定手段12がプローブ21を測定範囲外にすること等で対応可能である。
【0022】
なお、撮影形式が動画の場合、動画を実現するための1フレームの画像を1枚として扱ってもよい。また、撮像部22の設置位置は、プローブ21による超音波探傷の検査時における設置位置であればよい。
【0023】
把持部23は、プローブ21に対する撮像部22の相対位置を固定するものである。つまり、把持部23は、プローブ21と撮像部22をそれぞれ把持することで、プローブ21及び撮像部22の位置関係を固定する。
【0024】
プローブ位置測定手段12は、撮像部22が撮影した画像データに基づいて、プローブ21における超音波探傷検査時の設置位置を測定する。このプローブ位置測定手段12を図2に示す。プローブ位置測定手段12は、撮像部22から得た周辺環境31の撮像を基に環境地図32を作成する。ここで環境地図32とは、物の配置や壁の所在等の周辺環境31の情報を記述した地図のことを指す。プローブ位置測定手段12は、環境地図32の作成と同時に、この環境地図32と、撮像部22が現在撮影している周辺環境31の撮像とを照合する。これにより、プローブ位置測定手段12は、撮像部22の撮像部位置33を推定して、環境地図32内に撮像部位置33を表示させる。一方、プローブ21及び撮像部22は、把持部23により位置関係が固定されている。従って、プローブ位置測定手段12は、撮像部22の位置情報(撮像部位置33)からプローブ21の設置位置をデジタルデータ形式で測定する。
【0025】
なお、プローブ位置測定手段12として位置を測定する機能を有する装置は何でもよく、例えば撮像部22にプローブ位置測定手段12の機能を有する構成とする場合(図2)のほか、外部のプローブ位置解析用PC34と撮像部22とを接続し、プローブ位置解析用PC34がプローブ21の位置を測定する構成とする場合(図3)等が考えられる。
【0026】
図1に示すように、超音波探傷装置13は、プローブ装置11のプローブ21と接続され、プローブ21に電気信号を送信し、プローブ21が得た超音波信号を受信し、電気信号に変換し、電気信号を波形として表示する機能を有する。この超音波探傷装置13は電圧印加部20、A/D変換部24、信号処理部25、ユーザインタフェース部26、表示部27を備えて構成される。
【0027】
電圧印加部20は、任意波形の電圧を印加させる機能を有する。この電圧印加部20による印加電圧の波形はサイン波、のこぎり波、矩形波、スパイクパルス等が考えられ、正負両極の値をもつ所謂バイポーラでもよいし、正負どちらか片振りのユニポーラでもよい。また、印加電圧の波形は、正負どちらかにオフセットを付加してもよい。更に、印加電圧の波形は単パルス、バーストもしくは連続波などのように、印加時間、繰り返し波数及び中心周波数を増減させることもできる。電圧印加部20は、プローブ21がアレイプローブである場合には、そのチャンネルごとに、電圧印加の有無や遅延時間に応じてタイミングを切り替える切替機構を備えてもよい。
【0028】
A/D変換部24は、受信回路部28を経てプローブ21からのアナログの超音波信号を入力し、この超音波信号を離散化してデジタルの超音波データに変換する機能を有する。つまり、A/D変換部24は、時間的に連続した超音波信号の大きさをデジタルの超音波データに変換する。
【0029】
信号処理部25は、A/D変換部24からの超音波データを解析処理及び画像化処理する機能を有する。例えば解析処理では、フーリエ変換やウェーブレット変換のような周波数解析処理、相関処理、平均化処理またはフィルタリング処理全般などが考えられる。また画像化処理では、PAUTやTFM画像を形成するボクセル強度データ化が考えられる。更に、信号処理部25は、上述のように処理した超音波探傷の検査結果と、プローブ位置測定手段12から取得したプローブ設置位置情報とを入力して関連付け処理する。この信号処理部25は、PCや制御盤などの複数の装置の集合体から構成されてもよい。
【0030】
ユーザインタフェース部26は電圧印加部20、A/D変換部24、信号処理部25の少なくとも1つの条件、例えば印加電圧値、A/D変換の設定値、信号処理の設定値などを設定する機能を有する。このユーザインタフェース部26は、条件を入力、削除及び変更できるものであればよく、所謂PCのキーボード、マウス、テンキー、入力用ボタン、タチパネル等が考えられる。
【0031】
表示部27は、信号処理部25にて処理された超音波波形を含むデータを表示する。即ち、表示部27は、超音波探傷の検査結果、及びこの検査結果に関連付けられたプローブ21の設置位置情報を表示する。この表示部27は、デジタルデータを表示できるものであればよく、所謂PCモニタ、テレビ、プロジェクタ、スマートデバイス、ヘッドマウントディスプレイ、3次元映像ディスプレイ等が考えられる。この表示部27は、ブラウン管のように一度アナログ信号化してから表示させるものや、オシロスコープ等の計測器画面そのものとの組み合わせでもよい。また、表示部27には、設定した条件に応じて音や発光によりアラームを生じさせてもよく、更にタッチパネルとしてユーザインタフェース部26の機能を有してもよい。
【0032】
検査員位置取得手段14は、超音波探傷システム10を用いて超音波探傷を行う検査員の位置情報を取得するものである。検査員位置の取得方法として、例えばGPS(Global Positioning System:全地球測位システム)が挙げられる。ここでGPSとは、人工衛星を利用した地球上での現在位置を測定するためのシステムのことである。なお、GPSは発信機があれば何でもよく、その発信機は、例えばスマートデバイス、プローブ装置11、プローブ位置測定手段12、超音波探傷装置13に内蔵される発信機、または外付けの小型発信機等が考えられる。
【0033】
また、検査員位置取得手段14は、例えば、SLAM(Simulated Localization and Mapping)を有するものが挙げられる。ここでSLAMとは、プローブ位置測定手段12と同様に、周囲環境の撮像データから環境地図を作成し、同時に環境地図と撮像データとを統合することで、位置情報を特定する手法である。
【0034】
AR表示部15は、プローブ位置測定手段12にて得られたプローブ21の設置位置情報に基づいて、検査に関する情報を、AR(Augmented Reality:拡張現実)の手法で2次元または3次元に表示する。ここでARとは、現実の環境から視覚や聴覚、触覚などの知覚に与えられる情報を、コンピュータによる処理で追加、削減あるいは変化させる技術の総称である。AR表示部15により表示する検査に関する情報は、検査位置、検査範囲、A/D変換部24から取得した超音波波形、超音波エコー高さ、超音波伝搬時間及び超音波伝搬距離、並びに信号処理部25から取得した映像化処理結果の少なくとも1つである。
【0035】
VR表示部16は、検査対象1をモデル化して表示すると共に、プローブ位置測定手段12にて得られたプローブ21の設置位置情報を基に、検査に関する情報をVR(Virtual Reality:仮想現実)の手法で2次元または3次元に表示する。ここでVRとは、人間の感覚器官に働きかけ、現実ではないが実質的に現実のように感じられる環境を人工的に作り出す技術である。モデル化する検査対象1は、検査位置が含まれていれば何でもよく、例えば検査対象1の単体のモデル、検査対象1を含めた周辺のモデル、または撮像部22により作成された環境地図32から生成したバーチャル空間モデル等が考えられる。また、VR表示部16により表示する検査に関する情報は、過去の検査記録、欠陥位置、欠陥サイズ、検査位置、検査範囲、A/D変換部24から取得した超音波波形、超音波エコー高さ、超音波伝搬時間及び超音波伝搬距離、並びに信号処理部25から取得した映像化処理結果の少なくとも1つである。
【0036】
上述のように構成された超音波探傷システム10では、プローブ21を用いた超音波探傷の検査結果に、プローブ位置測定手段12により測定されたプローブ21の設置位置情報、及び検査周辺情報(例えば、撮像部22により撮影された周辺環境31、検査員位置取得手段14により取得された検査員の位置情報、AR表示部15またはVR表示部16に表示される検査に関する情報)が、関連付けて取得される。
【0037】
以上のように構成されたことから、本第1実施形態によれば、次の(1)~(5)を奏する。
(1)超音波探傷用のプローブ21と撮像部22との位置関係が把持部23により固定され、撮像部22は、撮影画像内の特定の被写体や領域の動きから撮像部22の位置(動き)が特定可能に構成されている。従って、プローブ位置測定手段12は、超音波探傷の際に設置されたプローブ21の設置位置を、撮像部22の撮影画像に基づいて測定することが可能になる。この結果、超音波探傷システム10は、プローブ21を用いた超音波探傷の検査結果とプローブ21の設置位置情報とを、事前準備なしに同時に取得することができるという利点がある。
【0038】
この利点を活用することで、様々な検査対象1、例えば表面状態が悪いことから罫書等の事前準備が不可能な検査対象1、またはプローブ21を狭隘部に設置するために定規等によるプローブ21の位置計測が困難な検査対象1に対しても、プローブ21の設置位置情報及び超音波探傷の検査データを取得することができる。
【0039】
(2)従来は手動の超音波探傷において、超音波探傷データとプローブの位置情報とを関連付けるのに人手が必要だった。これに対して、超音波探傷システム10では、超音波探傷装置13による超音波探傷検査データ、プローブ位置測定手段12により得られるプローブ21の設置位置情報、及びその他の周辺情報を自動で統合できるという利点がある。この利点の活用例として次の3つが考えられる。
【0040】
例えば、プローブ21による超音波探傷の検査結果(単プローブによる減肉検査結果など)を、プローブ21の設置位置毎に例えば色分け表示して、2次元または3次元の映像情報として表示することができる。また、検査済みのプローブ21の設置位置を表示部27に表示することで、現地で超音波探傷検査する際に、検査範囲における検査の漏れ及び重複を解消することができる。更に、検査結果及び検査位置に関する報告書の作成を、デジタルベースで自動化することができる。
【0041】
(3)検査員位置取得手段14のGPSにより、例えば太陽光発電所や橋梁等のように、広域な検査範囲における検査員位置を検査中に取得できる。また、GPSから取得した検査員位置は、検査結果や検査周辺情報と関連付けることもできる。例えば、GPSによる検査員位置と検査結果と設計図面との情報を関連付けることで、現在の検査位置における検査結果のモニタリング、及び設計図面への検査結果の追記の更新が可能となる。
【0042】
(4)超音波探傷の検査に関する情報をAR表示部15で表示することで、検査員へのサポートを実現することができる。例えば、既に実施した検査位置や検査範囲をAR表示部15により検査中に表示することで、現地で検査する際に、未だ検査していない範囲の把握が容易になる。また例えば、過去の検査記録をAR表示部15に表示することで、過去の検査手法や検査条件を参考にした検査が可能となる。特に、未熟練な検査員に対しては視覚的に分かりやすいサポートが可能となり、熟練検査員によるサポートの負担を低減することができる。
【0043】
(5)VR表示部16により、検査対象1における超音波探傷の検査結果が3次元で明瞭に表示可能になるため、超音波探傷結果の共有を容易化できる。特に、検査依頼者のように、超音波探傷について知識の乏しい者に対する検査結果の説明性を向上することができる。また3次元モデルを作成するために、従来の超音波探傷で実施されてきた検査結果のスケッチを省略でき、検査結果の報告に必要な説明の負担を低減することができる。
【0044】
[B]第2実施形態(図4図5)
図4は、第2実施形態に係る超音波探傷システムの構成を示すブロック図であり、図5は、図4の超音波探傷システムの他の構成を示すブロック図である。この第2実施形態において第1実施形態と同様な部分については、第1実施形態と同一の符号を付すことによって説明を簡略化し、または省略する。
【0045】
本第2実施形態の超音波探傷システム40が第1実施形態と異なる点は、撮像部22、プローブ位置測定手段12、A/D変換部24、信号処理部25、ユーザインタフェース部26及び表示部27の少なくとも1つが、スマートデバイス42で代替して構成された点である。図4に示す構成例では、プローブ装置41における撮像部22及びプローブ位置測定手段12がスマートデバイス42で代替された例である。また、図5に示す構成例では、超音波探傷装置43における信号処理部25、ユーザインタフェース部26及び表示部27がスマートデバイス44で代替された例である。
【0046】
ここで、スマートデバイスとは、明確な定義はなく、一般的にはネットワークに接続可能で且つ多種のアプリケーションソフトを利用可能な携帯型多機能端末の総称を指す。具体的にはスマートフォン、タブレット端末、スマートウォッチ、スティックPC、スマートグラス、スマートリング、スマートスピーカ等が挙げられる。図4及び図5に示す構成例は、スマートデバイス42、44としてタブレット端末が適用された例である。
【0047】
以上のように構成されたことから、本第2実施形態に依れば、第1実施形態の効果(1)~(5)と同様な効果を奏するほか、次の効果(6)を奏する。
【0048】
(6)スマートデバイス42、44を利用することで、デバイスストレージ、メモリ、ディスプレイ、GPS、ネットワーク接続、カメラ及びアプリケーションソフト等のように、スマートデバイス42、44が既に有する機能を少ない機器で超音波探傷システム40に組み込むことができる。これにより、超音波探傷システム40の小型化やウェアラブル化を実現できる利点がある。特に、超音波探傷システム40のウェアラブル化は、橋梁やトンネル、太陽光発電所等のような広域な検査範囲を有する検査対象1に対して、検査員が現地に向かって直接検査する場合に有利である。
【0049】
[C]第3実施形態(図6図8)
図6は、第3実施形態に係る超音波探傷システムの構成を示すブロック図である。この第3実施形態において第1及び第2実施形態と同様な部分については、第1及び第2実施形態と同一の符号を付すことによって説明を簡略化し、または省略する。
【0050】
本第3実施形態に係る超音波探傷システム50が第1及び第2実施形態と異なる点は、プローブ装置11、プローブ位置測定手段12及び超音波探傷装置13を有すると共に、超音波探傷装置13が、外部サーバ51とネットワークを介して外部通信可能な通信機器52に接続されて構成された点である。上記外部サーバ51は、例えばクラウドストレージ53、解析装置としての解析用PC54、表示装置としての表示用PC55の少なくとも1つである。なお、超音波探傷システム50は、第1実施形態と同様に、検査員位置取得手段14、AR表示部15及びVR表示部16を有してもよい。
【0051】
通信機器52は、ネットワークに接続できる機器であれば何でもよく、プローブ装置11、プローブ位置測定手段12、超音波探傷装置13もしくはスマートデバイス42にそれぞれ内蔵された通信機器、または外付けのアクセスポイントに、無線もしくは有線で接続される形態が考えられる。
【0052】
超音波探傷装置13は、通信機器52により外部サーバ51に外部通信可能に接続されたことで、通信機器52を用いて外部サーバ51とデータの送信及び受信の少なくとも一方を実装する機能と、外部サーバ51により遠隔サポートされる機能とを備える。
【0053】
データの送信及び受信の機能を図7に示す。データの通信先は、外部サーバ51としてのクラウドストレージ53や解析用PC54、表示用PC55等であるが、接続により通信可能なものであれば何でもよい。超音波探傷装置13は、クラウドストレージ53と接続することで、過去に作製した環境地図32等の検査データの取得、超音波探傷検査結果及びプローブ21の設置位置情報の保存が可能である。
【0054】
一方、遠隔サポートされる場合を図8に示す。ここで遠隔サポートとは、解析用PC54を用いて、検査対象1から離れた位置にいる検査員(第2の検査員)が指示、解析またはその両方を実施することを指す。指示内容は、次の検査位置、条件設定値、プローブ21の設置位置等のように、実際に検査を行う検査員(第1の検査員)への指示であれば何でもよい。一方、解析するデータは、プローブ装置11、プローブ位置測定手段12、超音波探傷装置13または検査員位置取得手段14によって取得可能なデータであれば何でもよい。この解析するデータは、例えば超音波の波形データ、PAUTやTFM画像を形成するボクセル強度データ、画像化後の画像データ、撮像データや撮像を基に測定されたプローブ21の設置位置、条件設定値、またはGPSによって得られた検査員位置等が考えられる。
【0055】
以上のように構成されたことから、本第3実施形態によれば、第1及び第2実施形態の効果(1)~(6)と同様な効果を奏するほか、次の効果(7)及び(8)を奏する。
【0056】
(7)超音波探傷装置13がクラウドストレージ53と通信可能に接続されることで、超音波探傷システム50の保存容量を低減することができる。また、超音波探傷装置13による超音波探傷検査データ、及びプローブ位置測定手段12が取得したプローブ21の設置位置情報を解析用PC54に送信することで、検査結果の解析処理を解析用PC54に実行させることができる。特に、TFMのように複雑な解析処理が必要な超音波探傷に対して、解析処理に必要なメモリを解析用PC54に搭載することで、現場に持ち込む超音波探傷システム50の小型化を実現することができる。更に、外部サーバ51が表示用PC55を具備することで、超音波探傷検査結果を例えば第2の検査員と即座に共有することができる。
【0057】
(8)プローブ装置11が、外部サーバ51の解析用PC54により遠隔サポートされることで、第2の検査員が解析用PC54を用いて指示するために必要なデータを、プローブ装置11及び超音波探傷装置13を現場に持ち込んでいる第1の検査員と即座に共有することができる。更に、第2の検査員は、現場に向かわずに第1の検査員が取得したデータを集約することができる。これにより、第2の検査員は、解析用PC54を用いて第1の検査員への指示を好適に実施できると共に、プローブ装置11による超音波探傷検査結果の解析作業に集中することができる。
【0058】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これらの実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更、組み合わせを行うことができ、また、それらの置き換えや変更、組み合わせは、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0059】
1…検査対象、10…超音波探傷システム、11…プローブ装置、12…プローブ位置測定手段、13…超音波探傷装置、14…検査員位置取得手段、15…AR表示部、16…VR表示部、20…電圧印加部、21…プローブ、22…撮像部、23…把持部(固定部)、24…A/D変換部、25…信号処理部、26…ユーザインタフェース部、27…表示部、31…周辺環境、40…超音波探傷システム、42、44…スマートデバイス、50…超音波探傷システム、51…外部サーバ、52…通信機器
図1
図2
図3
図4
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図6
図7
図8