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  • 特開-炉底出銑方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023136410
(43)【公開日】2023-09-29
(54)【発明の名称】炉底出銑方法
(51)【国際特許分類】
   C21B 7/12 20060101AFI20230922BHJP
【FI】
C21B7/12 301
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022042066
(22)【出願日】2022-03-17
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087398
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 勝文
(74)【代理人】
【識別番号】100128783
【弁理士】
【氏名又は名称】井出 真
(74)【代理人】
【識別番号】100128473
【弁理士】
【氏名又は名称】須澤 洋
(72)【発明者】
【氏名】砂原 公平
(57)【要約】
【課題】掘削作業の際に、出銑に至るか否かを早期に見極め、炉底出銑作業を効率化する。
【解決手段】高炉の炉底を開孔機によって掘削することにより出銑を行う炉底出銑方法であって、前記開孔機は、開孔ビットに温度センサを備えており、掘削距離が第1の掘削距離に達するまでは、検出温度にかかわらず掘削を継続する第1ステップと、掘削距離が第1の掘削距離に達した後、検出温度が上昇している限り掘削を継続する第2ステップと、掘削距離が第1の掘削距離に達した後、検出温度が上昇しない場合には掘削を停止する第3ステップと、前記第2ステップの実施後に、温度上昇が停滞する停滞域が発生した場合には、当該停滞域の長短に基づき、掘削継続の可否を決定する第4ステップと、を有することを特徴とする炉底出銑方法。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高炉の炉底を開孔機によって掘削することにより出銑を行う炉底出銑方法であって、
前記開孔機は、開孔ビットに温度センサを備えており、
掘削距離が第1の掘削距離に達するまでは、検出温度にかかわらず掘削を継続する第1ステップと、
掘削距離が第1の掘削距離に達した後、検出温度が上昇している限り掘削を継続する第2ステップと、
掘削距離が第1の掘削距離に達した後、検出温度が上昇しない場合には掘削を停止する第3ステップと、
前記第2ステップの実施後に、温度上昇が停滞する停滞域が発生した場合には、当該停滞域の長短に基づき、掘削継続の可否を決定する第4ステップと、
を有することを特徴とする炉底出銑方法。
【請求項2】
前記第4ステップにおいて、検出温度の最高値である最高温度が更新されることなく、当該最高温度に対応した掘削位置を始点とする掘削距離が第2の掘削距離以上に達した場合には、掘削を停止することを特徴とする請求項1に記載の炉底出銑方法。
【請求項3】
前記第1の掘削距離は、前記開孔ビットの掘削方向における炉底煉瓦側壁の厚み設計値であることを特徴とする請求項1又は2に記載の炉底出銑方法。
【請求項4】
前記第2の掘削距離が0.3mであることを特徴とする請求項1乃至3のうちいずれか一つに記載の炉底出銑方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炉底出銑方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高炉においては、長期の操業に伴い内張耐火物、炉体冷却設備等が劣化するため、定期的にこれらを補修、交換する作業が行われる。この高炉改修に際して特に問題になるのは、吹き卸し操業後に炉内に残留した溶銑が炉底部で凝固し残留塊として多量に残留することである。この残留塊の除去作業は非常に困難を伴うため、改修工期が長期化し、改修費用の増大などの問題を招く。この対策として、出銑口下方に残留溶銑を出銑するための残銑抜用出銑口を設け、この残銑抜用出銑口から溶銑を炉外に排出する炉底出銑が行われることがある。
【0003】
吹き卸しまでの炉代末期操業期間においては、炉底耐火物保護の面から、通常操業時より出銑比を下げるのに起因して炉底部の温度が低下するため、炉底において溶銑の凝固付着物が成長する問題がある。この対策として、特許文献1には、高炉改修を行う際に、少なくとも吹き卸し前4か月から操業条件を制御して、出銑比を高位レベルに維持して生産量の低下を抑えながら、炉底部での凝固付着物の成長を抑制した後、残留した溶銑を吹き卸し時において炉底出銑して炉底部での凝固付着物量を低減する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006-137985号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
凝固付着物の大きさ、形状などは掘削位置によって異なるため、例えば凝固付着物の厚い領域を掘削した場合には、出銑に至らないことがある。この場合、開孔ビットを一旦炉外に退避させ、開孔ビットの進入角度を変えるなど改めて掘削作業をやり直す必要がある。そのため、作業負荷が大きく、作業時間の長期化及びコストの増大を招く場合があった。特許文献1では、この課題について何ら考慮されていない。
【0006】
本発明は、掘削作業の際に、出銑に至るか否かを早期に見極め、炉底出銑作業を効率化することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)上記課題を解決するために、本発明に係る炉底出銑方法は、(1)高炉の炉底を開孔機によって掘削することにより出銑を行う炉底出銑方法であって、前記開孔機は、開孔ビットに温度センサを備えており、掘削距離が第1の掘削距離に達するまでは、検出温度にかかわらず掘削を継続する第1ステップと、掘削距離が第1の掘削距離に達した後、検出温度が上昇している限り掘削を継続する第2ステップと、掘削距離が第1の掘削距離に達した後、検出温度が上昇しない場合には掘削を停止する第3ステップと、前記第2ステップの実施後に、温度上昇が停滞する停滞域が発生した場合には、当該停滞域の長短に基づき、掘削継続の可否を決定する第4ステップと、を有することを特徴とする。
【0008】
(2)前記第4ステップにおいて、検出温度の最高値である最高温度が更新されることなく、当該最高温度に対応した掘削位置を始点とする掘削距離が第2の掘削距離以上に達した場合には、掘削を停止することを特徴とする上記(1)に記載の炉底出銑方法。
【0009】
(3)前記第1の掘削距離は、前記開孔ビットの掘削方向における炉底煉瓦側壁の厚み設計値であることを特徴とする上記(1)又は(2)に記載の炉底出銑方法。
【0010】
(4)前記第2の掘削距離が0.3mであることを特徴とする上記(1)乃至(3)のうちいずれか一つに記載の炉底出銑方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、掘削作業の際に、出銑に至るか否かを早期に見極めることができる。これにより、炉底出銑作業を効率的に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】開口機の機能ブロック図である。
図2】パターンA~パターンDの説明図である。
図3】掘削方向における温度分布である(実施例)。
図4図3の一部における拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1は、本実施形態の炉底出銑方法を実施するための開孔機の機能ブロック図であり、点線で示す矢印は信号の流れる方向を示している。
開孔機1は、開孔ビット(不図示)、温度センサ11、ビット駆動モータ12、モータ制御部13、通信部14を含む。開孔機1は、油圧式であってもよい。温度センサ11は、開孔ビットに内蔵されている。開孔ビットが、ビット駆動モータ12から伝達される動力によって回転動作することによって、炉底の側壁煉瓦が掘削される。ここで、開孔ビットは、掘削時に振動、衝撃を受け、また、掘削が進むと炉内溶銑の輻射熱を受熱する。したがって、開孔ビットには、これらの振動、衝撃及び輻射熱から温度センサ11を保護するための保護構造(例えば、特開平8-21768号公報参照)を実装することが望ましい。
【0014】
温度センサ11には、例えば、ゼーベック効果を利用して温度を算出する熱電対を用いることができる。開孔ビットが炉底側壁煉瓦内に位置する場合には、当該煉瓦の温度が温度センサ11によって検出される。開孔ビットが進行して、炉内の凝固付着物内に到達した場合には、当該凝固付着物の温度が温度センサ11によって検出される。開孔ビットが更に進行して、炉内残銑滓に到達した場合には、当該炉内残銑滓の温度が温度センサ11によって検出される。
【0015】
モータ制御部13は、オペレータルーム2からの指示情報に基づきビット駆動モータ12の駆動を制御するとともに、ビット駆動モータ12の回転数等に基づき、開孔ビットの移動距離(言い換えると、掘削距離)を算出する。
【0016】
温度センサ11によって検出された温度は、通信部13を介して、オペレータルーム2に送信することができる。モータ制御部13により算出された掘削距離は、通信部13を介して、オペレータルーム2に送信することができる。これらの温度及び掘削距離は、例えば、オペレータルーム2に設置されたモニター画面に表示させることができる。オペレータは、モニター画面に表示された温度及び掘削距離から、これらの関係を把握することができる。ただし、これらの温度及び掘削距離を、開孔機1に設けられたディスプレイに表示させてもよい。なお、通信部13による通信手段は、有線であってもよいし、無線であってもよい。
【0017】
本発明者は、上記開孔機1による炉底出銑作業を行い、掘削距離と検出温度との関係について調査した。その結果、これらの関係が、以下に説明するパターンA~パターンDに整理できることを発見した。
【0018】
図2は、パターンA~パターンDを説明するための説明図(「掘削可否判別情報」ともいう)であり、横軸及び縦軸はそれぞれ掘削距離及び検出温度である。同図を参照して、全てのパターンにおいて、温度上昇が緩慢な期間1が存在することがわかった。
パターンAでは、期間1の直後に温度が急激に上昇し、その後温度上昇が緩やかになる期間はあったものの、出銑に至るまで温度上昇が継続した。
パターンBでは、期間1の後、殆ど温度上昇が認められず、出銑に至らなかった。
パターンCでは、期間1の直後に急激に温度上昇した後、温度上昇が停滞する停滞域Cが発生し、その後再び温度上昇して、出銑に至った。なお、停滞域Cは、1200℃程度の温度域で発生していることから、溶銑の固液混合層と推察される。
パターンDでは、パターンCの停滞域Cに対応する停滞域Dが長く継続し、出銑に至らなかった。
【0019】
以上の調査結果に基づき、本発明者は、以下のステップ1~ステップ4からなる効率的な炉底出銑方法を知見した。
【0020】
ステップ1:掘削距離が第1の掘削距離に達するまでは、検出温度にかかわらず掘削を継続する。第1の掘削距離は、開孔ビットの掘削方向における炉底煉瓦側壁の厚み設計値であってもよい。つまり、厚み設計値は、開孔ビットの先端が炉底側壁煉瓦を掘削する掘削距離(言い換えると、貫通距離)に対応しており、図2の期間1に相当する。
したがって、炉底側壁煉瓦の外面に対して垂直に開孔ビットを進入させた場合には、当該垂直方向における炉底側壁煉瓦内での掘削距離が第1の掘削距離に相当し、当該垂直方向に対して傾斜する傾斜方向に開孔ビットを移動させた場合には、当該傾斜方向における炉底側壁煉瓦内での掘削距離が第1の掘削距離に相当する。掘削開始位置が同一であっても、掘削方向によって第1の掘削距離は変わり得る。
オペレータは、オペレータルーム2のモニター画面に表示された掘削距離と設計情報に基づく厚み設計値とを比較し、これらが一致したときに掘削距離が第1の掘削距離に達したことを把握できる。
【0021】
本実施形態では、第1の掘削距離を炉底側壁煉瓦の厚み設計値から判別したが、本発明はこれに限るものではない。例えば、炉底側壁煉瓦の貫通前後で変動するビット駆動モータ12のトルク値を監視することによって、掘削距離が第1の掘削距離に達したか否かを判別してもよい。
【0022】
ステップ2:掘削距離が第1の掘削距離に達した後、検出温度が上昇している限り掘削を継続する。この場合、パターンA又はパターンCによる出銑が期待できるため、掘削を継続する。
【0023】
ステップ3:掘削距離が第1の掘削距離に達した後、検出温度が上昇しないと判別した場合には掘削を停止する。この場合、パターンBに分類され、出銑が期待できないため、掘削を中止する。ここで、ステップ3の判別タイミングは、第1の掘削距離よりも掘削が進んだ所定の位置で行うことが望ましい。出銑に至るケースでも、第1の掘削距離に到達した直後に必ずしも温度上昇の局面に推移するわけではなく、多少遅延することもあるからである。前記の所定の位置は、好ましくは、第1の掘削距離よりも0.75m以上掘削が進んだ位置である。
掘削を停止した後、開孔ビットを一旦炉外に退避させ、新たに掘削作業(以下、再開孔作業ともいう)を行う。再開孔作業は、開孔ビットの進入角度を変えたり、開孔位置を変更することによって行うことができる。
掘削を途中で中止することによって、早期に再開孔作業に移行できるため、炉底出銑作業の作業効率を向上することができる。
【0024】
ステップ4:ステップ2の実施後に、温度上昇が停滞する停滞域が発生した場合には、当該停滞域の大小に基づき、掘削継続の可否を決定する。図2を参照して、約1200℃の温度域で温度上昇が停滞する停滞域が発生した場合、出銑を期待できるパターンC及び出銑を期待できないパターンDのうちいずれかのパターンに推移する。パターンC及びパターンDの相違点は、停滞域の長さである。したがって、停滞域が短い場合には、出銑を期待できないパターンDに推移するものとして、掘削を停止する。
【0025】
停滞域の長短は、例えば、温度センサ11により検出された検出温度の最高温度が更新されることなく、最高温度を記録した掘削位置からの掘削距離(以下、非更新掘削距離ともいう)が第2の掘削距離以上に達したか否かによって判別できる。非更新掘削距離が第2の掘削距離以上に達した場合には、掘削を中止する。第2の掘削距離は、これ以上掘削を進めても出銑を期待できない距離のことであり、経験則に基づき適宜設定することができる。第2の掘削距離は、例えば0.3mに設定することができる。
【0026】
上述の実施形態では、停滞域の長短を最高温度が更新されない非更新掘削距離に基づき判別したが、本発明はこれに限るものではない。例えば、停滞域に推移した直後の検出温度である第1検出温度と、第2の掘削距離を超えた位置の検出温度である第2検出温度とを比較し、第2検出温度が第1検出温度よりも低い場合に、停滞域が長いと判別し、掘削を中止してもよい。
【0027】
本実施形態によれば、掘削中に出銑が期待できるか否かを早期に判別でき、出銑が期待できない場合には掘削処理を途中で中止することができる。これにより、早期に再開孔作業に移行できるため、炉底出銑作業の作業効率を高めることができる。
【0028】
(実施例)
実施例を示して、本発明について具体的に説明する。2903mの高炉(炉床径:9.6m、煉瓦厚:1m)の吹き卸し後、実施形態に記載の開孔機により、炉底出銑を行い、掘削方向における温度分布を測定した。第1の掘削距離は炉底側壁煉瓦の設計厚とした。例1~例3では、炉底側壁煉瓦の厚み方向に掘削したため第1の掘削距離は煉瓦厚(つまり、1m)であった。例4では、炉底側壁煉瓦の厚み方向に対して傾斜する傾斜方向に掘削したため第1の掘削距離は1.5mであった。図3は測定結果であり、横軸及び縦軸はそれぞれ掘削距離及び検出温度である。図4は、図3のグラフの一部(点線で示す矩形の領域)を拡大した拡大図である。
【0029】
例1では、掘削距離が第1の掘削距離(1m)に達し、そこからさらに0.8m掘り進めても温度上昇がほとんど見られず、出銑は望めないため2m以内で掘削を中止した。
【0030】
例2では、掘削距離が第1の掘削距離(1m)に達した後、2.2mで1200℃付近まで温度上昇したが、この時点での出銑は確認されなかった。その後、約2.3mで最高温度Tmax(例2)に到達したが、2.75mまで掘り進めても最高温度Tmax(例2)は更新されなかった。つまり、最高温度Tmax(例2)が更新されない停滞域は、少なくとも0.45m(450mm)であった。このケースでは、凝固付着物又は半溶融状態の銑滓がこの掘削位置に多く存在しているものと推察される。
【0031】
例3では、掘削距離が第1の掘削距離(1m)に達した後、2mを超過した地点で1200℃付近まで温度上昇したが、この時点での出銑は確認されなかった。その後、約2.2mで最高温度Tmax(例3)に到達し、約2.3mを超えた地点で最高温度Tmax(例3)が更新された。つまり、最高温度Tmax(例3)が更新されない停滞域が0.1m(100mm)程度であった。さらに、掘削を継続したところ、2.7m地点で開孔し、1350℃程度の高粘度の溶銑滓の出銑が開始された。その後は、ほぼ予定通りに炉内残銑滓を排出することができた。
例2及び例3を比較して、最高温度Tmaxが更新されない停滞域の長短によって出銑の可否を判別できることがわかった。これらの例から、第2の掘削距離は、0.3mと決定できる。
【0032】
例4では、掘削距離が第1の掘削距離(1.5m)に達した後、一貫して温度上昇が継続し、掘削距離2.4m付近で、溶銑温度1400℃の出銑があった。同時に熱電対は破損したが、順調に炉内残銑滓を排出できた。これは、炉底出銑作業における理想的な例である。
【0033】
例1~例4の結果を表1に纏めた。
【表1】
【符号の説明】
【0034】
1 開孔機
2 オペレータルーム
11 温度センサ
12 ピット駆動モータ
13 モータ制御部
14 通信部

図1
図2
図3
図4