(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023136437
(43)【公開日】2023-09-29
(54)【発明の名称】減速制御装置、当該装置を備えた産業車両、減速制御方法および減速制御プログラム
(51)【国際特許分類】
B60L 7/10 20060101AFI20230922BHJP
B60L 15/00 20060101ALI20230922BHJP
B66F 9/24 20060101ALI20230922BHJP
【FI】
B60L7/10
B60L15/00 M
B66F9/24 W
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022042100
(22)【出願日】2022-03-17
(71)【出願人】
【識別番号】000232807
【氏名又は名称】三菱ロジスネクスト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000475
【氏名又は名称】弁理士法人みのり特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】仲田 真基
【テーマコード(参考)】
3F333
5H125
【Fターム(参考)】
3F333AA02
3F333AB13
3F333AE02
3F333BD02
3F333FA20
5H125AA13
5H125BA00
5H125CA01
5H125CB02
5H125DD18
5H125EE42
5H125EE44
5H125EE52
5H125EE53
(57)【要約】
【課題】登坂中の減速操作によってオペレーターがもつ違和感を軽減する。
【解決手段】減速制御装置3は、産業車両用であって、所定のトルク閾値を記憶している記憶部30と、速度算出部31と、トルク算出部32と、差分算出部33と、減速度修正部34とを備えている。減速操作がなされると、速度算出部31が目標速度を算出し、トルク算出部32がトルク指令値を算出する。算出されたトルク指令値がトルク閾値を上回っていると、差分算出部33がトルク指令値とトルク閾値との差分を算出し、減速度修正部34が算出された差分に基づいて、算出されるトルク指令値がトルク閾値以下になるように減速度を修正する。トルク算出部32は、トルク指令値を修正し、モータ18は、修正されたトルク指令値に基づいて作動し、それによって登坂中の車両を重力による減速度以上の減速度で減速させる。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動輪を駆動させるとともに入力されたトルク指令値に基づいて力行動作および回生動作を切り替えられるモータと、アクセルを含む減速操作部と、走行速度を検出する速度検出部とを備えた産業車両用の減速制御装置であって、
前記減速操作部の操作量(以下、単に「減速操作量」という)に対応する所定の減速度(以下、単に「所定の減速度」という)、および所定のトルク閾値を記憶している記憶部と、
減速操作がなされると、前記所定の減速度に基づいて、目標速度を算出する速度算出部と、
検出された前記走行速度と算出された前記目標速度との偏差がなくなるように、前記トルク指令値を算出するトルク算出部と、
算出された前記トルク指令値が前記トルク閾値を上回っている場合、前記トルク指令値と前記トルク閾値との差分を算出する差分算出部と、
算出された前記差分に基づいて、算出される前記トルク指令値が前記トルク閾値以下になるように前記所定の減速度を修正する減速度修正部と、を備え、
前記速度算出部は、修正された減速度に基づいて、前記目標速度を修正し、
前記トルク算出部は、検出された前記走行速度と、修正された前記目標速度との偏差がなくなるように前記トルク指令値を算出し、
前記モータは、修正された前記トルク指令値に基づいて作動し、それによって登坂中の前記産業車両を重力による減速度以上の減速度で減速させる
ことを特徴とする減速制御装置。
【請求項2】
前記減速操作部は、さらに、方向レバーを含み、
前記所定の減速度には、スイッチバック操作に対応する所定の減速度が含まれる
ことを特徴とする請求項1に記載の減速制御装置。
【請求項3】
前記所定のトルク閾値は、前記スイッチバック操作に対応する所定のトルク閾値をさらに有する
ことを特徴とする請求項2に記載の減速制御装置。
【請求項4】
前記減速操作部は、さらに、ブレーキペダルを含み、
前記所定の減速度には、前記ブレーキペダルの踏込量に対応する所定の減速度が含まれる
ことを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の減速制御装置。
【請求項5】
前記所定のトルク閾値は、前記ブレーキペダルの踏込量に対応する所定のトルク閾値をさらに有する
ことを特徴とする請求項4に記載の減速制御装置。
【請求項6】
前記産業車両は、荷役車である
ことを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載の減速制御装置。
【請求項7】
上記請求項1~6のいずれか1項に記載の減速制御装置を備える
ことを特徴とする産業車両。
【請求項8】
駆動輪を駆動させるとともに入力されたトルク指令値に基づいて力行動作および回生動作を切り替えられるモータと、アクセルを含む複数の減速操作部と、走行速度を検出する速度検出部とを備えた産業車両用の減速制御方法であって、
予め、所定のトルク閾値を設定しておくことと、
減速操作がなされると、減速操作量に対応する所定の減速度に基づいて目標速度を算出することと、
検出された前記走行速度と、算出された前記目標速度とに基づいて、前記トルク指令値を算出することと、
算出された前記トルク指令値が前記所定のトルク閾値を上回っているとき、前記トルク指令値と、前記トルク閾値との差分を算出することと、
算出された前記差分に基づいて、算出される前記トルク指令値が前記トルク閾値以下になるように減速度を修正することと、
修正された前記減速度に基づいて、前記目標速度を修正することと、
検出された前記走行速度と、修正された前記目標速度とに基づいて、前記トルク指令値を修正することと、
前記モータを修正された前記トルク指令値に基づいて作動させ、それによって登坂中の前記産業車両を重力による減速度以上の減速度で減速させることと、を含む
ことを特徴とする減速制御方法。
【請求項9】
前記産業車両に利用される減速制御プログラムであって、
コンピュータを請求項1~6のいずれか1項に記載の減速制御装置として機能させる
ことを特徴とする減速制御プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、産業車両用の減速制御装置、当該装置を備えた産業車両、減速制御方法および減速制御プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
産業車両の走行制御装置として、例えば、特許文献1に記載の走行制御装置が知られている。この走行制御装置は、アクセルレバーを備えた電動フォークリフトの走行制御装置であって、アクセルレバーの操作量(倒し角)から、目標走行速度を算出し、算出された目標走行速度でフォークリフトを走行させる。そのために、この走行装置は、算出された目標走行速度と、現在の走行速度との偏差がゼロになるようPI制御をすることによりトルク指令値を算出し、当該トルク指令値をモータに出力する。このフォークリフトは、平坦路では加速制限したり、登坂路ではトルクアップしたりすることにより、走行抵抗、登坂などに影響されることなく加速度を一定に保つ。
【0003】
また、従来の走行装置では、
図6Aに示すように、対応する所定の減速度に基づいて、所定サイクル毎(例えば2msec毎)に目標速度が算出され、その目標速度になるようにPI制御といったトルク制御がなされることにより減速していく。例えば、従来のバッテリ式フォークリフト100の場合、平坦路においてアクセルOFFによる減速操作がなされると、所定の減速度に応じた目標速度になるよう負のトルク指令値が算出され、それによってモータが力行動作から回生動作に切り替えられ、
図6Bおよび
図7Aに示すように、回生ブレーキによる減速がなされる。また、ブレーキペダル踏み込み、スイッチバック(進行方向と逆の方向に切り替える操作)といった減速操作がなされても同様に、各減速操作に応じた所定の減速度に基づいて、所定サイクル毎に目標速度が算出され、その目標速度になるようにトルク制御がなされることにより減速していく。なお、回生ブレーキによる制動力が指令された制動力より劣る場合、例えば、特許文献2に記載のように、回生ブレーキに加えて摩擦式ブレーキによる制動がなされる。
【0004】
ところで、
図7Bに示すように登坂中の減速の場合、登坂路の勾配によっては、
図6Cに示すように、重力による減速度が所定の減速度を上回ることがある。この場合、フォークリフトは、所定の減速度になるようにトルク指令値が算出された結果、
図6Bに示すように、他の走行路と異なり、アクセルOFFによってもモータが回生動作に切り替わらず、
図7Bに示すように力行しながら減速されていくことになる。すると、オペレーターは、減速操作を行っているにも関わらず坂道を登っているような感覚となり、操作に対する違和感をもつ。特に荷役車は、通常の乗用車と異なり、運搬する荷の重量によってこの力行トルクが大きくなることがあり、オペレーターは、より大きな違和感をもつことになる。操作に対する違和感は、安全性や操作性の観点から少ない方が好ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012-90463号公報
【特許文献2】特開2019-13116号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、登坂中の減速操作によってオペレーターがもつ違和感を軽減することができる減速制御装置、当該装置を備えた産業車両、減速制御方法および減速制御プログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明に係る減速制御装置は、
駆動輪を駆動させるとともに入力されたトルク指令値に基づいて力行動作および回生動作を切り替えられるモータと、アクセルを含む減速操作部と、走行速度を検出する速度検出部とを備えた産業車両用の減速制御装置であって、
減速操作部の操作量(以下、単に「減速操作量」という)に対応する所定の減速度(以下、単に「所定の減速度」という)、および所定のトルク閾値を記憶している記憶部と、
減速操作がなされると、所定の減速度に基づいて、目標速度を算出する速度算出部と、
検出された走行速度と算出された目標速度との偏差がなくなるように、トルク指令値を算出するトルク算出部と、
算出されたトルク指令値がトルク閾値を上回っている場合、トルク指令値とトルク閾値との差分を算出する差分算出部と、
算出された差分に基づいて、算出されるトルク指令値がトルク閾値以下になるように所定の減速度を修正する減速度修正部と、を備え、
速度算出部は、修正された減速度に基づいて、目標速度を修正し、
トルク算出部は、検出された走行速度と、修正された目標速度との偏差がなくなるようにトルク指令値を算出し、
モータは、修正されたトルク指令値に基づいて作動し、それによって登坂中の産業車両を重力による減速度以上の減速度で減速させる、ことを特徴とする。
【0008】
上記減速制御装置は、好ましくは、
減速操作部が、さらに、方向レバーを含み、
所定の減速度には、スイッチバック操作に対応する所定の減速度が含まれる。
【0009】
上記減速制御装置は、好ましくは、
所定のトルク閾値は、スイッチバック操作に対応する所定のトルク閾値をさらに有する
ことを特徴とする減速制御装置。
【0010】
上記減速制御装置は、好ましくは、
減速操作部が、さらに、ブレーキペダルを含み、
所定の減速度には、ブレーキペダルの踏込量に対応する所定の減速度が含まれる。
【0011】
上記減速制御装置は、好ましくは、
所定のトルク閾値は、ブレーキペダルの踏込量に対応する所定のトルク閾値をさらに有する。
【0012】
上記減速制御装置は、例えば、
産業車両が、荷役車である。
【0013】
上記課題を解決するために、本発明に係る産業車両は、
上記減速制御装置を備える、ことを特徴とする。
【0014】
上記課題を解決するために、本発明に係る減速制御方法は、
駆動輪を駆動させるとともに入力されたトルク指令値に基づいて力行動作および回生動作を切り替えられるモータと、アクセルを含む複数の減速操作部と、走行速度を検出する速度検出部とを備えた産業車両用の減速制御方法であって、
予め、所定のトルク閾値を設定しておくことと、
減速操作がなされると、減速操作量に対応する所定の減速度に基づいて目標速度を算出することと、
検出された走行速度と、算出された目標速度とに基づいて、トルク指令値を算出することと、
算出されたトルク指令値が所定のトルク閾値を上回っているとき、トルク指令値と、トルク閾値との差分を算出することと、
算出された差分に基づいて、算出されるトルク指令値がトルク閾値以下になるように減速度を修正することと、
修正された減速度に基づいて、目標速度を修正することと、
検出された走行速度と、修正された目標速度とに基づいて、トルク指令値を修正することと、
モータを修正されたトルク指令値に基づいて作動させ、それによって登坂中の産業車両を重力による減速度以上の減速度で減速させることと、を含む、ことを特徴とする。
【0015】
上記課題を解決するために、本発明に係る減速制御プログラムは、
産業車両に利用される減速制御プログラムであって、
コンピュータを上記減速制御装置として機能させる、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る減速制御装置、当該装置を備えた産業車両、減速制御方法および減速制御プログラムは、登坂中の減速操作によってオペレーターがもつ違和感を軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の一実施形態に係る産業車両を示す側面図である。
【
図2】
図1に示された産業車両の機能ブロック図である。
【
図3】
図1に示された産業車両のアクセルOFF前後のトルクを示す図である。
【
図4】走行中におけるそれぞれの減速度を示す図である。
【
図5】本発明の減速制御装置のフローを示す図である。
【
図6】従来の減速制御を示す図であって、AはアクセルOFFによる所定の減速度を示し、Bは各路面走行中のアクセルOFF前後のトルクを示し、Cは所定の減速度と重力による減速度の違いを示している。
【
図7】従来のフォークリフトの減速制御方法を示す図であって、Aは平坦路における減速制御方法を示し、Bは登坂路における減速制御方法を示している。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、添付図面を参照しつつ本発明の一実施形態に係る減速制御装置、当該装置を備えた産業車両、減速制御方法およびプログラムについて説明する。本実施形態では、産業車両は、バッテリ式カウンタバランスフォークリフト(本発明の「荷役車」に相当)であるが、単なる一例であって、本発明に係る産業車両は、フォークリフトに限定されるものではない。
【0019】
図1は、フォークリフト1の側面図である。
図1に示すように、フォークリフト1は、前後の車輪10、11と、車体12と、左右一対のマスト13と、油圧シリンダ14と、左右一対のフォーク15と、運転席16と、バッテリ17と、モータ18(
図2参照)と、を備えている。
【0020】
車体12は、前後の車輪10、11の上に配置され、左右一対のマスト13は、上下に延びるとともに車体12の前方に配置されている。左右一対のフォーク15は、油圧シリンダ14の伸縮によりマスト13に沿って昇降するよう構成されている。運転席16は、車体12の上面に配置されている。オペレーターOは、運転席16に着座してハンドルなどを操作し、フォーク15によってパレットPをすくい上げ荷役作業を行う。
【0021】
バッテリ17は、車体12の略中央に配置されている。本実施形態では、前輪10が駆動輪であって、左右の前輪10およびモータ18に駆動軸が連結されている。モータ18は、バッテリ電力によって駆動し、その駆動トルクによって駆動軸を介して前輪10を駆動させる。また、モータ18は、入力されたトルク指令値に基づいて力行動作と回生動作とを切り替えられる。
【0022】
図2に示すように、フォークリフト1は、さらに、コンピュータ(減速制御装置3)と、速度検出部19と、減速操作部20と、を備えている。
【0023】
コンピュータは、車体12内に配置されており、不図示の記憶手段、メモリーおよび演算手段を有する。記憶手段には、OS(operating system)と、減速制御プログラムとが記憶されている。減速制御プログラムは、コンピュータを減速制御装置3として機能させる。減速制御装置3は、記憶部30と、速度算出部31と、トルク算出部32と、差分算出部33と、減速度修正部34と、を備えている。
【0024】
速度検出部19は、フォークリフト1の走行速度Vnを検出するよう構成されている。速度検出部19は、例えば、駆動軸に設けられ駆動軸の回転数を検出することにより走行速度Vnを検出してもよい。検出された走行速度Vnは、速度算出部31に出力される。なお、速度検出部19は、例えば、モータ18の回転数などを検出することにより走行速度Vnを検出してもよく、走行速度Vnの検出方法を特に限定されない。
【0025】
減速操作部20は、
図1に示すように、アクセルペダル、方向レバーおよびブレーキペダルを有する。ただし、これは単なる一例であって、本発明に係る減速操作部20は、これに限定されない。例えば、減速操作部20は、アクセルペダルの代わりにアクセルレバーを有していてもよい。この場合、アクセルレバーは、方向レバーとしての機能をさらに有してもよい。なお、本発明における「アクセル」とは、アクセルペダルおよびアクセルレバーを含む「加速器」としての概念である。アクセルペダルおよびブレーキペダルは、以下で、「操作部」ということがある。
【0026】
アクセルペダルおよびブレーキペダルは、オペレーターOによってそれぞれ踏み込まれ、その踏込量は、速度算出部31にそれぞれ出力される。なお、アクセルペダルおよびブレーキペダルの踏込量には、アクセルペダル、ブレーキペダルから足が離れた状態、すなわち、踏込量が0のとき(以下、「アクセルOFF」という)を含む。
【0027】
方向レバーは、フォークリフト1の前進/後進を切り替えるレバーである。フォークリフト1は、バッテリ式カウンタバランスフォークリフト1であるので、スイッチバック操作後もアクセルペダルが踏み込まれることにより、その踏込量に応じたトルクを駆動輪に出力するよう構成されている。方向レバーの操作量は、速度算出部31に出力される。
【0028】
記憶部30は、減速操作部20の各操作量に対応する複数の所定の減速度NA1(以下、単に「所定の減速度NA1」という)、およびトルク閾値TLを記憶している。所定の減速度NA1には、例えば、アクセルOFFのときに対応する予め定められた減速度NA1が含まれている。さらに、所定の減速度NA1には、スイッチバック操作に対応する所定の減速度NA1およびブレーキペダルの踏込量に対応する所定の減速度NA1が含まれている。さらに記憶部30には、後で説明する関数fも記憶されている。
【0029】
トルク閾値TLとは、後で説明するように、所定の減速度NA1を修正する際に使用される予め定められた閾値のことである。トルク閾値TLは、各操作部ごとに設定されていてもよいし、各操作部共通で設定されていてもよい。各操作部ごとに設定されている場合、アクセルOFFに対応するトルク閾値TLは0に設定され、スイッチバックに対応するトルク閾値TLは負のトルクに設定され、ブレーキペダルに対応するトルク閾値TLはさらに小さい負のトルクに設定されていてもよい。本実施形態では、トルク閾値TLは、各操作部共通の値に設定されている。
【0030】
速度算出部31は、減速操作部20によって減速操作がなされると、減速操作量に対応する所定の減速度NA1に基づいて、目標速度Vo1を算出する。本実施形態では、次の式(1)で示すように、先の目標速度Vo0から所定の減速度NA1に対応する第1減速速度Vd1を減算し、目標速度Vo1を算出する。ただし、これは単なる一例であって、例えば、検出された走行速度Vnから第1減速速度Vd1を減算して目標速度Vo1を算出してもよい。
式(1)・・・目標速度Vo1=先に算出された目標速度Vo0-第1減速速度Vd1
なお、算出された目標速度Vo1が0を下回る場合、目標速度Vo1は、0に設定される。
【0031】
トルク算出部32は、速度検出部19によって検出された走行速度Vnと、速度算出部31によって算出された目標速度Vo1との偏差がなくなるようにトルク指令値T1を算出する。トルク算出部32によって算出されたトルク指令値T1は、トルク閾値TL以下の場合、モータ18に出力される。モータ18は、入力されたトルク指令値T1に基づいて作動する。
【0032】
差分算出部33は、
図3に示すように、算出されたトルク指令値T1がトルク閾値TLを上回っている場合、例えば、次の式(2)によって、トルク指令値T1と、トルク閾値TLとの差分△Tを算出する。算出された差分△Tは、減速度修正部34に出力される。
式(2)・・・差分△T=算出されたトルク指令値T1-トルク閾値TL
【0033】
減速度修正部34は、入力された差分△Tに基づいて、トルク算出部32によって改めて算出されるトルク指令値T2がトルク閾値TL以下になるように、所定の減速度NA1を修正する。修正された減速度NA2に対応する第2減速速度Vd2は、次の式(3)によって算出されてもよい。算出された第2減速速度Vd2は、速度算出部31に出力される。
式(3)・・・第2減速速度Vd2=第1減速速度Vd1+f(差分△T)
【0034】
式(3)における関数fは、トルク指令値T1がトルク閾値TLを超える場合、トルク指令値T1とトルク閾値TLとの差分△Tの大きさに応じて登坂時における減速度を大きくさせるための関数である。言い換えると、関数fは、差分△Tから目標速度Vo1をどの程度修正するかを加減するための関数である。関数fの例として、式(3)を、次のようにしてもよい。
第2減速速度Vd2=第1減速速度Vd1+(差分△T×ゲインG1+ゲインG2)
また、本実施形態では、関数fは、アクセルペダル操作、方向レバー操作およびブレーキペダル操作ごとにそれぞれ記憶および設定されている。
【0035】
速度算出部31は、修正された減速度NA2に基づいて、例えば、次の式(4)によって、目標速度Vo1を修正する。修正された目標速度Vo2は、トルク算出部32に出力される。ただし、これは単なる一例であって、例えば、検出された走行速度Vnから第2減速速度Vd2を減算して修正目標速度Vo2を算出してもよい。
式(4)・・・修正目標速度Vo2=先に算出された目標速度Vo0-第2減速速度Vd2
【0036】
トルク算出部32は、改めて、検出された走行速度Vnと、修正された目標速度Vo2との偏差がなくなるようにトルク指令値T2を算出する。算出されたトルク指令値T2は、
図3に示すように、トルク閾値TLよりも小さく算出される。そして、モータ18は、算出されたトルク指令値T2に基づいて回生動作し、それによって
図4に示すように、登坂中のフォークリフト1を重力による減速度以上の減速度NA2で減速させる。
【0037】
上記、減速制御装置3のフローについて
図5を参照して説明する。なお、このフローは、本実施形態では、2msec周期で繰り返されている。当該周期は、例えば、1msec~5msecに設定されていてもよい。
【0038】
(1)まず、オペレーターOによって減速操作がなされると(S1)、速度算出部31は、先の目標速度Vo0から第1減速速度Vd1を減算して、目標速度Vo1を算出する(S2)。
【0039】
(2)次いで、トルク算出部32は、走行速度Vnと目標速度Vo1との偏差がなくなるようにトルク指令値T1を算出する(S3)
【0040】
(3)次いで、算出されたトルク指令値T1がトルク閾値TLを上回っていた場合(S4のYes)、差分算出部33が差分△Tを算出し、減速度修正部34が差分△Tと関数fとから減速度NA1を修正し、速度算出部31が先の目標速度Vo1から減速度NA2に対応する第2減速速度Vd2を減算することにより、目標速度Vo2を算出する(S5)。算出されたトルク指令値T1がトルク閾値TLを下回っている場合(S4のNo)、S6に移行する。
【0041】
(4)次いで、算出された目標速度Vo2(またはVo1)が0を下回る場合(S6のYes)、目標速度Vo2は0に設定される(Vo1は、Vo2=0になる)(S7)。
【0042】
(5)次いで、トルク算出部32は、検出された走行速度Vnと目標速度Vo2との偏差が0になるように、改めてトルク指令値T2を算出する(S8)。
【0043】
(6)次いで、モータ18は、算出されたトルク指令値T2(T1)に従って回生ブレーキとして機能し、フォークリフト1は、重力および回生ブレーキによる制動によって減速する(S9)。なお、トルク指令値T2(T1)が0の場合には、フォークリフト1は、重力によって減速する。また、
図5のS7において、目標速度Vo1が0に設定された場合、フォークリフト1は、
図5のS9において停止することになる。
【0044】
上記、減速制御装置3による減速制御方法によって、オペレーターOは、登坂中に減速操作をすると、重力による減速度以上の減速度でフォークリフト1を減速させることができる。これにより、オペレーターOの登坂路走行における減速操作時の違和感を軽減させることができる。しかも、減速制御装置3は、平地、降坂、緩い登坂の場合は、これまでどおり、それぞれの減速操作に応じた所定の減速度NA1で減速させることができるので、登坂中の減速制御によって、他の走行路における操作感を妨げることがない。また、記憶部30に記憶させるトルク閾値TLを変更するだけで、登坂中における減速度を調整することができる。
【0045】
重力による減速度が所定の減速度NA1を上回る勾配の場合に、力行のみを防止しモータ18に回生動作をさせず重力による減速度で減速させたいのであれば、トルク閾値TLを0とし、かつ、関数fを調整すれば、トルク算出部32によって算出されるトルク指令値T1を0にさせて減速させる。さらに、オペレーターが減速操作をする限り、重力による減速度を超える減速度で減速させた方がオペレーターがもつ違和感を減少させると考えるのであれば、トルク閾値TLを0未満とすることにより、重力による減速度を超える減速度でフォークリフト1を減速させることができ、その場合の減速度の加減は、関数fを調整することにより調整することができる。
【0046】
さらに、減速制御装置3は、勾配の程度を検出することなく、登坂中の減速度を調整することができる。したがって、フォークリフト1は、勾配の程度を検出する検出手段を別途備える必要がない。
【0047】
以上、本発明に係る産業車両用の減速制御装置、当該装置を備えた産業車両、減速制御方法および減速制御プログラムについて説明してきたが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。例えば、本発明は、下記変形例などによって実施されてもよい。
【0048】
フォークリフト1は、従来技術と同様に、回生ブレーキによる最大トルクがトルク指令値T1よりも下回る場合には、回生ブレーキに加えて摩擦式ブレーキによるトルクによって減速されてもよい。なお、この摩擦式ブレーキとしては、電磁式ブレーキであって、非励磁状態のときモータ18を機械的に制動させ、励磁状態のとき制動を解除するよう構成されていてもよい。また、摩擦式ブレーキは、油圧式の直接駆動輪を機械的に制動するドラムブレーキまたはディスクブレーキをさらに有してもよく、特に限定されない。
【符号の説明】
【0049】
1 フォークリフト
10 前輪
11 後輪
12 車体
13 マスト
14 油圧シリンダ
15 フォーク
16 運転席
17 バッテリ
18 モータ
19 速度検出部
20 減速操作部
3 減速制御装置
30 記憶部
31 速度算出部
32 トルク算出部
33 差分算出部
34 減速度修正部
NA1 所定の減速度
NA2 修正された減速度
Vo0 先の目標速度
Vo1 目標速度
Vo2 修正された目標速度
Vn 走行速度
T1 トルク指令値
T2 修正されたトルク指令値
P パレット
O オペレーター