(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023136470
(43)【公開日】2023-09-29
(54)【発明の名称】車両用制御装置
(51)【国際特許分類】
B60R 21/013 20060101AFI20230922BHJP
B60R 21/0136 20060101ALI20230922BHJP
B60R 21/0134 20060101ALI20230922BHJP
B60R 21/203 20060101ALI20230922BHJP
B60R 21/205 20110101ALI20230922BHJP
B60R 21/207 20060101ALI20230922BHJP
【FI】
B60R21/013 310
B60R21/0136 310
B60R21/0134 311
B60R21/203
B60R21/205
B60R21/207
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022042155
(22)【出願日】2022-03-17
(71)【出願人】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105980
【弁理士】
【氏名又は名称】梁瀬 右司
(74)【代理人】
【識別番号】100121027
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 公一
(74)【代理人】
【識別番号】100178995
【弁理士】
【氏名又は名称】丸山 陽介
(72)【発明者】
【氏名】古川 哲也
(72)【発明者】
【氏名】富永 祐司
【テーマコード(参考)】
3D054
【Fターム(参考)】
3D054AA02
3D054AA03
3D054AA07
3D054AA13
3D054AA14
3D054AA21
3D054BB01
3D054BB08
3D054EE14
3D054EE15
3D054EE31
3D054EE44
3D054FF16
(57)【要約】
【課題】路面の起伏に起因するエアバッグの誤展開を防止する。
【解決手段】車両用制御装置では、ステレオカメラ4の画像データに基づいて車両1の前方に起伏があるか否かを判定し、起伏がない場合は、車両1に配設された加速度センサ3a~3cからの出力値が所定の閾値A1~A3を超えた場合に、エアバッグの展開制御を行う。一方、車両1の前方に起伏がある場合は、エアバッグの展開にかかる加速度センサ3a~3cの閾値を起伏がない場合の閾値A1~A3よりも高い閾値B1~B3に変更する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に設置された加速度センサからの出力値に基づいて、エアバッグの展開制御を行う車両用制御装置において、
路面の起伏を検出可能な路面起伏検知手段と、
前記加速度センサからの出力値に基づいて、前記エアバッグを展開させるか否かを決定する決定手段と、
を備え、
前記決定手段は、
前記路面起伏検知手段が路面の起伏を検知していない場合は、前記加速度センサの出力値が所定の第1閾値を超えたときに、前記エアバッグを展開させると決定し、
前記路面起伏検知手段が路面の起伏を検知した場合は、前記エアバッグを展開させると決定する閾値を前記第1閾値よりも高い第2閾値に上げる
ことを特徴とする車両用制御装置。
【請求項2】
前記決定手段は、前記路面起伏検知手段が検知した起伏に到達するタイミングで前記エアバッグを展開させる閾値を前記第1閾値から前記第2閾値に上げ、当該起伏を通過するタイミングで前記第2閾値から前記第1閾値に戻すことを特徴とする請求項1に記載の車両用制御装置。
【請求項3】
前記加速度センサは、複数あり、
前記複数の加速度センサは、車両の異なる箇所に配置され、
前記決定手段は、前記路面起伏検知手段が路面の起伏を検知した場合は、特定の前記加速度センサに対しては、前記エアバッグを展開させると決定する閾値を前記第2閾値に上げるが、他の前記加速度センサに対しては、前記エアバッグを展開させると決定する閾値を前記第1閾値のまま維持することを特徴とする請求項1または2に記載の車両用制御装置。
【請求項4】
前記決定手段は、前記路面起伏検知手段が路面の起伏を検知した場合は、前記エアバッグを展開させると決定する閾値を前記第1閾値から前記第2閾値に滑らかに変化させることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の車両用制御装置。
【請求項5】
前記第2閾値は、車両が物標に衝突したときの前記加速度センサからの出力値よりも低い値に設定されていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の車両用制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エアバッグの作動を制御する車両用制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両に加わる衝撃を検出し、該衝撃が所定の閾値を超えるとエアバッグの展開制御を行って、衝撃から乗員を保護する車両用制御装置がある。例えば、特許文献1に記載の車両用制御装置では、車両に設置された加速度センサの検出信号から車両に加わる衝撃を検出し、当該検出信号の値が所定の閾値を超えた場合にエアバッグを展開させる。
【0003】
また、エアバッグの展開が想定される衝撃として、車両が他車両などの物標に衝突する際の衝撃が考えられるが、物標への衝突形態によって、加速度センサに発生する加速度の大きさが異なる。そこで引用文献1では、複数の加速度センサを設置して衝突形態を判別した上で、衝突形態ごとにエアバッグの展開にかかる加速度センサの検出値に閾値を設定し、エアバッグを展開させるか否かを判定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1のような車両用制御装置では、加速度センサの値が閾値を超えるとエアバッグの展開制御が行われるため、例えば、ポットホールなどの穴を通過する際や、大きさ段差等の起伏がある箇所を通過する際にエアバッグが誤って展開するなど、想定していない状況でエアバッグが展開してしまうおそれがある。
【0006】
本発明は、上記した課題を鑑みてなされたものであり、路面の起伏に起因するエアバッグの誤展開を防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記の目的を達成するため、本発明にかかる車両用制御装置は、車両に設置された加速度センサからの出力値に基づいて、エアバッグの展開制御を行う車両用制御装置において、路面の起伏を検出可能な路面起伏検知手段と、前記加速度センサからの出力値に基づいて、前記エアバッグを展開させるか否かを決定する決定手段とを備え、前記決定手段は、前記路面起伏検知手段が路面の起伏を検知していない場合は、前記加速度センサの出力値が所定の第1閾値を超えたときに、前記エアバッグを展開させると決定し、前記路面起伏検知手段が路面の起伏を検知した場合は、前記エアバッグを展開させると決定する閾値を前記第1閾値よりも高い第2閾値に上げることを特徴としている(請求項1)。
【0008】
また、前記決定手段は、前記路面起伏検知手段が検知した起伏に到達するタイミングで前記エアバッグを展開させる閾値を前記第1閾値から前記第2閾値に上げ、当該起伏を通過するタイミングで前記第2閾値から前記第1閾値に戻すようにしてもよい(請求項2)。
【0009】
また、前記加速度センサは、複数あり、前記複数の加速度センサは、車両の異なる箇所に配置され、前記決定手段は、前記路面起伏検知手段が路面の起伏を検知した場合は、特定の前記加速度センサに対しては、前記エアバッグを展開させると決定する閾値を前記第2閾値に上げるが、他の前記加速度センサに対しては、前記エアバッグを展開させると決定する閾値を前記第1閾値のまま維持するようにしてもよい(請求項3)。
【0010】
また、前記決定手段は、前記路面起伏検知手段が路面の起伏を検知した場合は、前記エアバッグを展開させると決定する閾値を前記第1閾値から前記第2閾値に滑らかに変化させるようにしてもよい(請求項4)。
【0011】
また、前記第2閾値は、車両が物標に衝突したときの前記加速度センサからの出力値よりも低い値に設定されていてもよい(請求項5)。
【発明の効果】
【0012】
請求項1の発明によれば、路面起伏検知手段が路面の起伏を検知した場合は、エアバッグが展開すると決定されるときの閾値が、起伏を検知しない場合よりも上がるため、路面の起伏を通過するときに加速度センサの値が上昇しただけであるにも関わらずエアバッグが誤って展開するのを防止できる。また、エアバッグの誤展開により、ユーザにエアバッグの不要な交換費用を負担させるのを防止できる。
【0013】
請求項2の発明によれば、車両が起伏に到達してから通過する間に限り、エアバッグの展開にかかる閾値が第2閾値に上げられるため、車両が起伏を通過していない状況でエアバッグの展開にかかる閾値が上げられて、必要なときにエアバッグが展開しにくくなるのを防止できる。
【0014】
請求項3の発明によれば、路面起伏検知手段が路面の起伏を検知した場合は、起伏の影響が大きい特定の加速度センサに対してのみエアバッグの展開にかかる閾値が上げられるため、起伏を通過時にエアバッグが誤展開するのを防止しつつ、起伏の影響が少ない他の加速度センサの閾値が不必要に上げられて、衝突時にエアバッグの展開が遅れるのを防止できる。
【0015】
請求項4の発明によれば、路面起伏検知手段が路面の起伏を検知した場合は、エアバッグを展開させると決定する閾値が第1閾値から第2閾値に滑らかに変化するため、起伏がない通常状態の閾値(エアバッグの展開にかかる加速度センサの出力値の閾値)に近い値を、起伏を通過するギリギリまで維持することができる。
【0016】
請求項5の発明によれば、第2閾値は、車両が物標に衝突したときの加速度センサの出力値よりも低い値に設定されるため、例えば起伏を通過時にスリップ等が発生して他車と衝突した場合など、衝突発生時には適切にエアバッグを展開させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の一実施形態に係る車両用制御装置の概略構成図である。
【
図3】起伏確認時のエアバッグ展開処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の一実施形態にかかる車両用制御装置について、
図1~
図3を参照して説明する。なお、
図1は本発明の一実施形態に係る車両用制御装置の概略構成図、
図2はエアバッグの配置を示す図、
図3は起伏確認時のエアバッグ展開処理の一例を示すフローチャートである。
【0019】
(車両の電気的構成)
本発明の一実施形態にかかる車両用制御装置は、車両1に配設された加速度センサの値に基づいてエアバッグ装置5の展開制御を行うもので、中央加速度センサ3aと、右側面加速度センサ3bと、左側面加速度センサ3cと、前方認識手段としてのステレオカメラ4と、他車両や障害物などの物標と車両1が衝突したときに乗員を保護するエアバッグを備えるエアバッグ装置5と、車両1の速度を検出する車速センサ6と、ステアリングホイールの操舵角を検出する舵角センサ7と、車両1のヨーレートを検出するヨーレートセンサ8とを備える。
【0020】
車両1は、エンジンを駆動源とする自動車である。エンジンの動力は、変速機を介して、左右の駆動輪に伝達される。変速機は、無段変速機であってもよいし、有段式の自動変速機であってもよいし、手動変速機であってもよい。また、電気モータを駆動源とする電気自動車やハイブリッド車であってもよい。
【0021】
エアバッグ装置5は、エアバッグ本体とインフレータとを有する。インフレータはエアバッグ本体にガスを発生させる装置であり、インフレータの点火装置に通電が行われることにより、点火装置内のフィラメントが加熱し、これにより着火剤に着火する。その後、伝火剤、ガス発生剤へと極めて短時間で火炎が伝播し、ガス発生剤から多量の窒素ガスが発生する。この窒素ガスはフィルタを通過することで、燃えかすが除去されるとともに冷却されエアバッグ本体内に供給される。これによりエアバッグ本体が展開する。各エアバッグの展開/非展開は、エアバッグECU2により制御される。
【0022】
この実施形態では、乗員を保護するエアバッグ装置5として、前方エアバッグとサイドエアバッグとが設けられている。ここで、前方エアバッグは、ステアリングホイール(ハンドル)の中心付近と、助手席前方のダッシュボードの内部とに2箇所配設されている。サイドエアバッグは、運転席側と助手席側のドアそれぞれの内部に配設されている。
【0023】
中央加速度センサ3aは、車両1に作用する加速度を検出するものであり、例えば、車室内のフロアトンネルの前方に配設される(
図2参照)。当該センサ3aの検出信号は、エアバッグECU2に出力される。なお、この実施形態において中央加速度センサ3aは、車両1の前後方向と左右方向の2軸の加速度を検出可能に構成されているが、車両1の前後方向、左右方向、上下方向の3軸の加速度を検出可能に構成されていてもよい。
【0024】
右側面加速度センサ3bは、車両1の右側面に作用する加速度を検出するものであり、例えば、右側のBピラーに配設される(
図2参照)。当該センサ3bの検出信号は、エアバッグECU2に出力される。なお、この実施形態において右側面加速度センサ3bは、車両1の左右方向の1軸の加速度を検出可能に構成されているが、車両1の前後方向、左右方向の2軸を検出可能に構成されていてもよいし、車両1の前後方向、左右方向、上下方向の3軸を検出可能に構成されていてもよい。
【0025】
左側面加速度センサ3cは、車両1の左側面に作用する加速度を検出するものであり、例えば、左側のBピラーに配設される(
図2参照)。当該センサ3cの検出信号は、エアバッグECU2に出力される。なお、左側面加速度センサ3cは、車両1の左右方向の1軸の加速度を検出可能に構成されているが、車両1の前後方向、左右方向の2軸を検出可能に構成されていてもよいし、車両1の前後方向、左右方向、上下方向の3軸を検出可能に構成されていてもよい。
【0026】
前方認識手段4(本発明の「路面起伏検知手段」に相当)は、車両1の前方に他車両や路面にあるポットホールや段差などの起伏の有り無しなど、車両1の前方の状況を認識するものであり、この実施形態ではステレオカメラで構成されている。なお、前方認識手段4は、ステレオカメラに限らず、前方を認識可能な手段であれば採用可能である。例えば、ステレオカメラに代えてあるいはステレオカメラとともに、ソナー、測距センサ、ミリ波レーダなどを用いてもよい。以下、前方認識手段4をステレオカメラ4という場合もある。
【0027】
車速センサ6は、車両1の速度を検出するものであり、車輪の回転に同期したパルス信号を生成し、エアバッグECU2に出力する。エアバッグECU2は、車速センサ6から出力されるパルス信号(車速信号)の周波数に基づいて、車両1の車速を算出する。なお、車速の算出については、他のECUが行い、当該車速に関する情報を通信バスを介してエアバッグECU2が取得するようにしてもよい。
【0028】
舵角センサ7は、ステアリングホイールの角度を検出するものであり、当該センサの検出信号がエアバッグECU2に入力される。
【0029】
ヨーレートセンサ8は、車両1の走行時に車体の上下軸まわりの回転運動(ヨーイング)が変化する速度を検出するものであり、当該センサの検出信号がエアバッグECU2に出力される。
【0030】
エアバッグECU2(本発明の「決定手段」に相当)は、ステレオカメラ4から取得した車両1の前方の画像データ(路面状態に関する画像データ)、各加速度センサ3a~3cから出力される加速度の値、車速センサ6から取得した車両1の車速信号、舵角センサ7から取得した操舵角に関する情報、ヨーレートセンサ8から取得したヨーレートに関する情報などに基づいて、エアバッグ装置5のエアバッグの展開制御などを行うものである。エアバッグECU2は、マイコンを含む構成であり、各種プログラムを実行するCPUと、制御プログラムや必要なデータを記憶するメモリなどが内蔵されている。
【0031】
エアバッグECU2、および、車両1の動作に必要な各種制御を司る他のECU(図示省略)は、それぞれ通信バスに接続されて互いにCAN(Controller Area Network)通信プロトコルによる双方向通信が可能に接続されている。
【0032】
また、エアバッグECU2は、ステレオカメラ4から送信される車両1の前方の画像データを取得し、車両1の前方の路面状況を認識する。
【0033】
路面状況の認識は、一般的な画像解析手法を用いることができる。例えば、ステレオカメラ4の3次元画像データを用いて画像解析を行うことで、車両1の前方の路面の凹凸の深さや形状、道路の傾斜を認識することができる。また、撮像データの輝度を解析することで前方の路面の凹凸や溝を認識することができる。また、エアバッグECU2のメモリに予め凹凸、溝、段差、うねりなどの路面の起伏形状を記憶しておき、ステレオカメラ4の画像データとのマッチングにより車両1の前方の路面状況を認識してもよい。路面状況の解析は、所定の周期(例えば、30ms)で行われる。
【0034】
また、エアバッグECU2は、路面の起伏を認識した場合、車両1の前方の画像データに基づいて、例えば三角測量法により車両1と当該起伏との距離を算出する。
【0035】
また、エアバッグECU2は、車両1の未来位置を推定し、画像解析により得られた起伏の位置や範囲と、推定した未来位置とに基づいて、車両1が起伏を通過するか否かを判定する。すなわち、車両2が認識した起伏を回避するか否かを判定する。
【0036】
車両1の未来位置は、車速センサ6から取得した車速に関する情報、舵角センサ7から取得した車両1の舵角に関する情報、ヨーレートセンサ8から取得した車両1のヨーレートに関する情報などに基づいて推定可能である。未来位置は所定周期(例えば30ms)ごとに算出され、予め定められた所定時間先まで推定される。
【0037】
ところで、エアバッグは一旦展開されると展開前の状態に戻すのにコストがかかるため、車両1が他車両や障害物などの物標に衝突するような乗員の保護が必要な状況では適切に展開されるが、それ以外の状況では誤展開が起こりにくくするのが好ましい。そこで、この実施形態では、ステレオカメラ4で車両1の前方の路面にポットホールや段差などの起伏があるか否かなどの路面状況を認識した上で、エアバッグの展開制御が行われる。
【0038】
(起伏が認識されない場合または起伏を通過しない場合)
エアバッグECU2は、車両1の前方に起伏がないと判定した場合、あるいは、車両1の前方に起伏があるが、車両1の未来位置の予想軌跡が当該起伏を通過しないと判定した場合、中央加速度センサ3aから出力された加速度の値が、所定の閾値A1を超えた場合に、前方エアバッグ(運転席側および助手席側のエアバッグの両方)の展開制御を行う。このとき、中央加速度センサ3aから出力された加速度の値とは、例えば、車両1の前後方向の加速度の値を用い、エアバッグECU2は、当該値が閾値A1を超えた場合に、前方エアバッグの展開制御を行う。
【0039】
また、エアバッグECU2は、車両1の前方に起伏がないと判定した場合、あるいは、車両1の前方に起伏があるが、車両1の未来位置の予想軌跡が当該起伏を通過しないと判定した場合、右側面加速度センサ3bから出力された加速度の値が、所定の閾値A2を超えた場合に、右側のサイドエアバッグの展開制御を行う。
【0040】
また、エアバッグECU2は、車両1の前方に起伏がないと判定した場合、あるいは、車両1の前方に起伏があるが、車両1の未来位置の予想軌跡が当該起伏を通過しないと判定した場合、左側面加速度センサ3cから出力された加速度の値が、所定の閾値A3を超えた場合に、左側のサイドエアバッグの展開制御を行う。
【0041】
なお、前方エアバッグの展開にかかる所定の閾値A1は、前方からの衝突実験において加速度センサ(中央加速度センサ3a)で検出される加速度の値S1に基づいて予め定められている。例えば、閾値A1は、前方からの衝突実験時に検出された加速度の値S1よりも所定量小さい値に設定される。
【0042】
また、右側のサイドエアバッグの展開にかかる閾値A2は、右側面の衝突実験において加速度センサ(右側面加速度センサ3b)で検出される加速度の値S2に基づいて予め定められている。例えば、閾値A2は、右側面への衝突実験時に検出された加速度の値S2よりも所定量小さい値に設定される。
【0043】
また、左側のサイドエアバッグの展開にかかる閾値A3は、左側面の衝突実験において加速度センサ(左側面加速度センサ3c)で検出される加速度の値S3に基づいて予め定められている。例えば、閾値A3は、左側面への衝突実験時に検出された加速度の値S3よりも所定量小さい値に設定される。
【0044】
(起伏を通過する場合)
エアバッグECU2は、車両1の前方に起伏があり、かつ、車両1の未来位置の予想軌跡が当該起伏を通過する判定した場合、中央加速度センサ3aから出力された加速度の値が、特定の閾値B1を超えた場合に、前方エアバッグ(運転席側および助手席側のエアバッグの両方)の展開制御を行う。このとき、中央加速度センサ3aから出力された加速度の値とは、例えば、車両1の前後方向の加速度の値を用い、エアバッグECU2は、当該値が特定の閾値B1を超えた場合に、前方エアバッグの展開制御を行う。
【0045】
ここで、特定の閾値B1は、車両1の前方に起伏がないと判定した場合、あるいは、車両1の前方に起伏があるが、車両1の未来位置の予想軌跡が当該起伏を通過しないと判定した場合に用いられる閾値(所定の閾値A1)よりも高い値に設定される。ただし、閾値B1は、前方衝突時に中央加速度センサ3aから出力される加速度の値S1よりも小さい値に設定される。
【0046】
エアバッグECU2は、車両1の前方に起伏があり、かつ、車両1の未来位置の予想軌跡が当該起伏を通過する判定した場合、右側面加速度センサ3bから出力された加速度の値が、特定の閾値B2を超えた場合に、右側のサイドエアバッグの展開制御を行う。
【0047】
ここで、特定の閾値B2は、車両1の前方に起伏がないと判定した場合、あるいは、車両1の前方に起伏があるが、車両1の未来位置の予想軌跡が当該起伏を通過しないと判定した場合に用いられる閾値(閾値A2)よりも高い値に設定される。ただし、閾値B2は、右側面の衝突時に右側面加速度センサ3bから出力される加速度の値S2よりも小さい値に設定される。
【0048】
エアバッグECU2は、車両1の前方に起伏があり、かつ、車両1の未来位置の予想軌跡が当該起伏を通過する判定した場合、左側面加速度センサ3cから出力された加速度の値が、特定の閾値B3を超えた場合に、左側のサイドエアバッグの展開制御を行う。
【0049】
ここで、特定の閾値B3は、車両1の前方に起伏がないと判定した場合、あるいは、車両1の前方に起伏があるが、車両1の未来位置の予想軌跡が当該起伏を通過しないと判定した場合に用いられる閾値(所定の閾値A3)よりも高い値に設定される。ただし、閾値B3は、左側面の衝突時に左側面加速度センサ3cから出力される加速度の値S3よりも小さい値に設定される。
【0050】
なお、この実施形態では、車両1が起伏を通過する場合は、全ての前方エアバッグ、右側のサイドエアバッグ、左側のサイドエアバッグの全てで、展開にかかる閾値(B1、B2、B3)を、起伏を認識しない場合の閾値(A1、A2、A3)よりも高い値に変更したが、特定のエアバッグの展開にかかる閾値だけ、起伏を認識しない場合の閾値よりも高い値に設定するようにしてもよい。
【0051】
例えば、起伏の形状などから車両1の左右方向に衝撃が加わると予想できる場合は、右側面加速度センサ3bおよび左側面加速度センサ3cの展開にかかる閾値を高い値(B2、B3)に設定し、残りの中央加速度センサ3aの展開にかかる閾値は起伏を認識しない場合の閾値A1を維持するようにしてもよい。
【0052】
また、起伏の形状などから車両1の左側か右側の一方に衝撃が加わると予想できる場合は、対象となる側面加速度センサ3b,3cの展開にかかる閾値を高い値(B2またはB3)に設定し、その他の加速度センサ(中央加速度センサ3a、右側面加速度センサ3bまたは左側面加速度センサ3c)の展開にかかる閾値は起伏を認識しない場合の閾値(A1、A2またはA3)を維持するようにしてもよい。
【0053】
また、この実施形態では、ステレオカメラ4で車両1の前方の起伏を認識し、当該起伏を回避できないと判定された場合は、そのタイミングでエアバッグの展開にかかる閾値が起伏がない場合よりも高い値に変更されるようにしたが、変更タイミングは適宜設定可能である。
【0054】
例えば、エアバッグECU2は、算出した車両1と起伏との距離と、車両1の車速とに基づいて、車両1が起伏に到達するタイミングや、起伏を通過するタイミングを算出した上で、車両1が起伏に到達するタイミングでエアバッグの展開にかかる閾値を、起伏を認識しない場合の閾値(A1~A3)よりも高い閾値(B1~B3)に変更し、車両1が起伏を通過したタイミングでエアバッグの展開にかかる閾値をもとの閾値(A1~A3)に戻すようにしてもよい。
【0055】
また、起伏に到達するよりも所定時間前のタイミングで、エアバッグの展開にかかる閾値を、起伏を認識しない場合の閾値(A1~A3)よりも高い閾値(B1~B3)に変更し、車両1が起伏を通過したタイミングでエアバッグの展開にかかる閾値をもとの閾値(A1~A3)に戻すようにしてもよい。
【0056】
また、起伏に到達するよりも所定時間前から到達するまでの間で、エアバッグの展開にかかる閾値を、閾値(A1~A3)から閾値(B1~B3)まで滑らかに変化させ、車両1が起伏を通過したタイミングでエアバッグの展開にかかる閾値をもとの閾値(A1~A3)に戻すようにしてもよい。ここで、「閾値(A1~A3)から高い閾値(B1~B3)まで滑らかに変化させ」とは、通常の閾値(A1~A3)から高い閾値(B1~B3)に一気に上げずに所定時間をかけて徐々に上げることを意味する。
【0057】
(起伏確認時エアバッグ展開処理)
次に、エアバッグECU2により実行される起伏確認時エアバッグ展開処理について、
図3に示すフローチャートを参照して説明する。
【0058】
まず、エアバッグECU2は、ステレオカメラ4からの画像データを取得し、当該画像データを画像処理して、車両1の前方の路面状況を監視する(ステップS1)。
【0059】
続いて、エアバッグECU2は、画像処理により得られた車両1の前方の路面状況から、路面にポットホールや段差などの起伏があるか否かを判定し(ステップS2)、起伏がないと判定した場合は、起伏があると判定するまでステップS1からステップS2の処理を繰り返す。なお、エアバッグECU2は、当該判定を所定の周期(例えば、30md)ごとに行う。
【0060】
エアバッグECU2は、ステップS1で前方に起伏があると判定した場合(ステップS2でYES)、車両1が起伏を通るか否かを判定し(ステップS3)、起伏を通らないと判定した場合(ステップS3でYES)は、ステップS1~ステップS3の処理を繰り返す。車両1が起伏を通るか否かの判定は、起伏の位置と車両1の未来位置とに基づいて判定する。未来位置は、上記したように車速センサ6から取得した車速に関する情報、舵角センサ7から取得した車両1の舵角に関する情報、ヨーレートセンサ8から取得した車両1のヨーレートに関する情報などに基づいて推定可能である。
【0061】
ステップS3において、車両1が起伏を通ると判定した場合、エアバッグECU2は、前方エアバッグの展開にかかる閾値(中央加速度センサ3aの閾値)を閾値A1よりも高い閾値B1(A1→B1)に変更し、右側のサイドエアバッグの展開にかかる閾値(右側面加速度センサ3bの閾値)を閾値A2よりも高い閾値B2(A2→B2)に変更し、左側のサイドエアバッグの展開にかかる閾値(左側面加速度センサ3cの閾値)を閾値A3よりも高い閾値B3(A3→B3)に変更する(ステップS4)。
【0062】
続いて、エアバッグECU2は、中央加速度センサ3aからの出力値が前方エアバッグの展開にかかる閾値B1を超えているか否かを判定し、右側面加速度センサ3bからの出力値が右側のサイドエアバッグの展開にかかる閾値B2を超えているか否かを判定し、左側面加速度センサ3cからの出力値が左側のサイドエアバッグの展開にかかる閾値B3を超えているか否かを判定する(ステップS5)。
【0063】
中央加速度センサ3aからの出力値が前方エアバッグの展開にかかる閾値B1を超えている場合(ステップS5でYES)、エアバッグECU2は、前方エアバッグの展開制御を行って処理(前方エアバッグに関する展開処理)を終了する(ステップS8)。また、右側面加速度センサ3bからの出力値が右側のサイドエアバッグの展開にかかる閾値B2を超えている場合(ステップS5でYES)、エアバッグECU2は、右側のサイドエアバッグの展開制御を行って処理(右側のサイドエアバッグに関する展開処理)を終了する(ステップS8)。また、左側面加速度センサ3cからの出力値が左側のサイドエアバッグの展開にかかる閾値B3を超えている場合(ステップS5でYES)、エアバッグECU2は、左側のサイドエアバッグの展開制御を行って処理(左側のサイドエアバッグに関する展開処理)を終了する(ステップS8)。ここで、展開制御とは、前方エアバッグ、左右のサイドエアバッグそれぞれのエアバッグ装置5のうち、対象となるエアバッグ装置5のインフレータのフィラメントに通電を行う制御である。
【0064】
中央加速度センサ3aからの出力値が前方エアバッグの展開にかかる閾値B1を超えていない場合(ステップS5でNO)、エアバッグECU2は、車両1が起伏を通過したか否かを判定し(ステップS6)、起伏を通過したと判定した場合は(ステップS6でYES)、前方エアバッグの展開にかかる閾値を、起伏がないときの閾値A1に戻して処理を終了する(ステップS7)。一方、エアバッグECU2は、起伏を通過していないと判定した場合(ステップS6でNO)は、起伏を通過するまでステップS5およびステップS6の処理を繰り返す。起伏を通過したか否かは、車速センサ6から取得した車両1の速度や、ステレオカメラ4の画像データを画像処理することにより算出された車両1と起伏との距離などに基づいて判定可能である。
【0065】
右側面加速度センサ3bからの出力値が右側のサイドエアバッグの展開にかかる閾値B2を超えていない場合(ステップS5でNO)、エアバッグECU2は、車両1が起伏を通過したか否かを判定し(ステップS6)、起伏を通過したと判定した場合は(ステップS6でYES)、右側のサイドエアバッグの展開にかかる閾値を、起伏がないときの閾値A2に戻して処理を終了する(ステップS7)。一方、エアバッグECU2は、起伏を通過していないと判定した場合(ステップS6でNO)は、起伏を通過するまでステップS5およびステップS6の処理を繰り返す。
【0066】
左側面加速度センサ3cからの出力値が左側のサイドエアバッグの展開にかかる閾値B3を超えていない場合(ステップS5でNO)、エアバッグECU2は、車両1が起伏を通過したか否かを判定し(ステップS6)、起伏を通過したと判定した場合は(ステップS6でYES)、左側のサイドエアバッグの展開にかかる閾値を、起伏がないときの閾値A3に戻して処理を終了する(ステップS7)。一方、エアバッグECU2は、起伏を通過していないと判定した場合(ステップS6でNO)は、起伏を通過するまでステップS5およびステップS6の処理を繰り返す。
【0067】
したがって、上記した実施形態によれば、ステレオカメラ4により前方に起伏が検知され、車両1が当該起伏を通過すると判定された場合は、エアバッグが展開すると決定される加速度センサ(中央加速度センサ3a、右側面加速度センサ3b、左側面加速度センサ3c)の値(閾値)が、起伏が検知されていない場合よりも上げられる。このようにすると、車両1が路面の起伏を通過するときに加速度センサ(中央加速度センサ3a、右側面加速度センサ3b、左側面加速度センサ3c)の値が上昇しただけであるにも関わらず、エアバッグが誤って展開するのを防止できる。また、エアバッグの誤展開により、ユーザに対してエアバッグの不要な交換費用を負担させるのを防止できる。
【0068】
また、車両1が起伏に到達してから通過するまでの間に限り、エアバッグの展開にかかる閾値が、起伏がない場合の閾値(A1~A3)よりも高い値に変更した場合は、車両1が起伏を通過していない状況でエアバッグの展開にかかる閾値が上げられて、必要なときにエアバッグが展開しにくくなるのを防止できる。
【0069】
また、起伏が検知された場合は、起伏の影響が大きい特定の加速度センサ3a~3cに対してのみエアバッグの展開にかかる閾値を上げるようにした場合は、車両1が起伏を通過するときにエアバッグが誤展開するのを防止しつつ、起伏の影響が少ない他の加速度センサ3a~3cの閾値が不必要に上げられて、衝突時にエアバッグの展開が遅れるのを防止できる。
【0070】
また、起伏が検知されたときに閾値を上げる際、車両1が起伏に到達する所定時間前から起伏に到達するまでの間で徐々に閾値を上げるように構成した場合は、起伏を検知しない通常状態の閾値(A1~A3)に近い値を起伏に到達するギリギリまで維持することができる。
【0071】
また、起伏が検知されたときに上げられる閾値(B1~B3)は、車両1が他車両などの障害物に衝突したときの加速度センサ3a~3cの出力値(S1~S3)よりも低い値に設定される。この場合、例えば起伏を通過時にスリップ等が発生して他車両と衝突した場合など、衝突発生時には適切にエアバッグを展開させることができ、乗員の保護性能を確保できる。
【0072】
なお、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能であり、例えば、上記した実施形態では、車両1の前方に起伏があるか否か、車両1と起伏との距離、車両1が起伏を通るか否かなどをエアバッグECU2が行ったが、これらを他のECUが担当し、これらの判定結果や算出結果を通信バスを介してエアバッグECU2が取得するようにしてもよい。
【0073】
また、本発明は、前方エアバッグ、サイドエアバッグに限らず、例えば、サイドウィンドウの上部に配設されたカーテンエアバッグや、運転席や助手席の膝前にある内装カバーの内側に配設されたニーエアバッグなど、種々のエアバッグの展開制御に採用することができる。
【符号の説明】
【0074】
2:エアバッグECU(決定手段)
3a:中央加速度センサ
3b:右側面加速度センサ
3c:左側面加速度センサ