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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023136491
(43)【公開日】2023-09-29
(54)【発明の名称】平面線路・導波管変換器
(51)【国際特許分類】
   H01P 5/107 20060101AFI20230922BHJP
【FI】
H01P5/107 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022042202
(22)【出願日】2022-03-17
(71)【出願人】
【識別番号】000000572
【氏名又は名称】アンリツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003694
【氏名又は名称】弁理士法人有我国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤田 卓
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 靖雄
(57)【要約】
【課題】回路部の基板幅とプローブ部分の基板幅を同一にしつつ、基板内に不要な伝搬モードを発生させない平面線路・導波管変換器を提供する。
【解決手段】基板10の表面から裏面に貫通し、表面接地導体12と裏面接地導体13を電気的に接続する少なくとも1つの導通ビアホール14と、側壁53に設けられた基板挿入穴54に基板10が挿入され、基板挿入穴54の縁部55が裏面接地導体13に電気的に接続される導波管50と、基板10の表面に設けられ、線路導体11と一体形成され、導波管50の内部に延伸するプローブ30と、MMIC40と、を備え、基板10の裏面におけるプローブ30の真下を含む領域には、裏面接地導体13が設けられておらず、導通ビアホール14は、線路導体11の少なくとも横方向片側に配置される。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板(10)と、
前記基板の表面に設けられた線路導体(11)と、
前記基板の表面に設けられた少なくとも1つの表面接地導体(12)と、
前記基板の裏面に設けられた裏面接地導体(13)と、
前記基板の表面から裏面に貫通し、前記表面接地導体と前記裏面接地導体を電気的に接続する少なくとも1つの導通ビアホール(14)と、
側壁(53)に設けられた基板挿入穴(54)に前記基板が挿入され、前記基板挿入穴の縁部(55)が前記裏面接地導体に電気的に接続される導波管(50)と、
前記基板の表面に設けられ、前記線路導体と一体形成され、前記導波管の内部に延伸するプローブ(30)と、
前記基板の表面側に設けられ、前記線路導体と電気的に接続される信号電極(41)と、前記裏面接地導体と電気的に接続される接地電極(42)とを有するMMIC(40)と、を備え、
前記基板の裏面における前記プローブの真下を含む領域には、前記裏面接地導体が設けられておらず、
前記導通ビアホールは、前記線路導体の少なくとも横方向片側に配置されることを特徴とする平面線路・導波管変換器。
【請求項2】
前記基板の裏面に設けられた少なくとも1つの裏面導体(16)と、
前記基板の表面における前記裏面導体の真上を含む領域に設けられた少なくとも1つの表面導体(17)と、
前記基板の表面から裏面に貫通し、前記表面導体と前記裏面導体を電気的に接続する少なくとも1つの貫通ビアホール(15)と、を更に備え、
前記貫通ビアホールは、前記プローブの少なくとも横方向片側に配置されることを特徴とする請求項1に記載の平面線路・導波管変換器。
【請求項3】
少なくとも1つの前記表面接地導体と少なくとも1つの前記表面導体が一体化されているとともに、前記裏面接地導体と少なくとも1つの前記裏面導体が一体化されていることを特徴とする請求項2に記載の平面線路・導波管変換器。
【請求項4】
基板(10)と、
前記基板の表面に設けられた線路導体(11)と、
前記基板の表面に設けられた少なくとも1つの表面接地導体(12)と、
前記基板の裏面に設けられた裏面接地導体(13)と、
前記基板の表面から裏面に貫通する貫通穴(19)と、
側壁(53)に設けられた基板挿入穴(54)に前記基板が挿入され、前記基板挿入穴の縁部(55)が前記裏面接地導体に電気的に接続される導波管(50)と、
前記基板の表面に設けられ、前記線路導体と一体形成され、前記導波管の内部に延伸するプローブ(30)と、
前記基板の表面側に設けられ、前記線路導体と電気的に接続される信号電極(41)と、前記裏面接地導体と電気的に接続される接地電極(42)とを有するMMIC(40)と、を備え、
前記基板の裏面における前記プローブの真下を含む領域には、前記裏面接地導体が設けられておらず、
前記貫通穴は、前記線路導体及び前記プローブの少なくとも横方向片側に配置されることを特徴とする平面線路・導波管変換器。
【請求項5】
前記導波管が方形導波管であることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の平面線路・導波管変換器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、平面線路・導波管変換器に関し、特に、マイクロストリップ線路やコプレーナ線路等からなる平面線路と導波管とを接続する平面線路・導波管変換器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、誘電体基板に形成されたマイクロストリップ線路やコプレーナ線路などの平面線路で伝送される電気信号を、導波管で伝送される電磁波に変換する手段、又はその逆方向の変換を行う手段として、平面線路・導波管変換器が用いられている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に開示された基板用平面線路・導波管変換器61は、図13に示すように、誘電体基板62と、この誘電体基板62に設けられたコプレーナ線路63と、誘電体基板62の裏面に設けられた裏面接地導体64と、誘電体基板62に立設され且つ誘電体基板62側の端部開口部の縁部が裏面接地導体64に接続された導波管65と、中心導体66の端部を導波管65の内部へ延ばすことにより形成された導波管励振用アンテナ67とを備えて構成されている。さらに、この基板用平面線路・導波管変換器61は、誘電体基板62の厚み寸法を、誘電体内における波長のほぼ1/4程度に設定するように構成したものである。
【0004】
さらに、特許文献1には、誘電体基板62の左端部側にモノリシックマイクロ波集積回路(Microwave Monolithic Integrated Circuit:MMIC)等が接続されることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11-261312号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
1つの基板上にMMIC内と平面線路と導波管変換部を構成しようとする場合、導波管の電磁界を誘起するプローブ部分(導波管励振用アンテナ67)の基板幅をMMICや平面線路などの回路部の基板幅に対して狭くしないと、プローブ部分の基板内に不要な伝搬モードが発生して、プローブから導波管に伝搬させることができる高周波信号の周波数帯域が狭くなる。これを防ぐためには、特許文献1に開示されているように、プローブ部分の基板幅を狭くして凸状に形成すればよい。しかしながら、MMICの幅は1mm程度の小さなサイズであるため、プローブ部分の基板幅を0.3mm~0.5mmくらいまで狭くすることになる。このような異形加工は、部品加工費を増加させるとともに、クラックを発生させて信頼性劣化の原因となるという課題があった。
【0007】
本発明は、このような従来の課題を解決するためになされたものであって、回路部の基板幅とプローブ部分の基板幅を同一にしつつ、基板内に不要な伝搬モードを発生させない平面線路・導波管変換器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明に係る平面線路・導波管変換器は、基板と、前記基板の表面に設けられた線路導体と、前記基板の表面に設けられた少なくとも1つの表面接地導体と、前記基板の裏面に設けられた裏面接地導体と、前記基板の表面から裏面に貫通し、前記表面接地導体と前記裏面接地導体を電気的に接続する少なくとも1つの導通ビアホールと、側壁に設けられた基板挿入穴に前記基板が挿入され、前記基板挿入穴の縁部が前記裏面接地導体に電気的に接続される導波管と、前記基板の表面に設けられ、前記線路導体と一体形成され、前記導波管の内部に延伸するプローブと、前記基板の表面側に設けられ、前記線路導体と電気的に接続される信号電極と、前記裏面接地導体と電気的に接続される接地電極とを有するMMICと、を備え、前記基板の裏面における前記プローブの真下を含む領域には、前記裏面接地導体が設けられておらず、前記導通ビアホールは、前記線路導体の少なくとも横方向片側に配置される構成である。
【0009】
この構成により、本発明に係る平面線路・導波管変換器は、基板の表面から裏面に貫通する導通ビアホールが線路導体の少なくとも横方向片側に配置されることによって、プローブが形成された箇所の基板の幅をあたかも狭くしたかのような状態を作り出すことができる。これにより、本発明に係る平面線路・導波管変換器は、回路部とプローブを同一の基板に形成する場合であっても、回路部の基板の幅とプローブ部分の基板の幅を同一にしつつ、基板内での不要な伝搬モードの発生を抑制することができる。
【0010】
すなわち、本発明に係る平面線路・導波管変換器は、プローブから導波管に伝搬させることができる高周波信号の周波数帯域を広く保つとともに、長方形のMMICと同一の基板加工とすることで部品加工費の増加や信頼性劣化を生じさせない。
【0011】
また、本発明に係る平面線路・導波管変換器は、前記基板の裏面に設けられた少なくとも1つの裏面導体と、前記基板の表面における前記裏面導体の真上を含む領域に設けられた少なくとも1つの表面導体と、前記基板の表面から裏面に貫通し、前記表面導体と前記裏面導体を電気的に接続する少なくとも1つの貫通ビアホールと、を更に備え、前記貫通ビアホールは、前記プローブの少なくとも横方向片側に配置される構成であってもよい。
【0012】
この構成により、本発明に係る平面線路・導波管変換器は、基板の表面から裏面に貫通する貫通ビアホールがプローブの少なくとも横方向片側に配置されることによって、プローブが形成された箇所の基板の幅をあたかも狭くしたかのような状態を作り出すことができる。これにより、本発明に係る平面線路・導波管変換器は、プローブの放射パターンを所望の形状に変更することができる。
【0013】
また、本発明に係る平面線路・導波管変換器は、少なくとも1つの前記表面接地導体と少なくとも1つの前記表面導体が一体化されているとともに、前記裏面接地導体と少なくとも1つの前記裏面導体が一体化されている構成であってもよい。
【0014】
この構成により、本発明に係る平面線路・導波管変換器は、ビアホール間を電磁波が通過することを妨げて、プローブからの電磁波の放射方向を所望の方向に向けることができる。
【0015】
また、本発明に係る平面線路・導波管変換器は、基板と、前記基板の表面に設けられた線路導体と、前記基板の表面に設けられた少なくとも1つの表面接地導体と、前記基板の裏面に設けられた裏面接地導体と、前記基板の表面から裏面に貫通する貫通穴と、側壁に設けられた基板挿入穴に前記基板が挿入され、前記基板挿入穴の縁部が前記裏面接地導体に電気的に接続される導波管と、前記基板の表面に設けられ、前記線路導体と一体形成され、前記導波管の内部に延伸するプローブと、前記基板の表面側に設けられ、前記線路導体と電気的に接続される信号電極と、前記裏面接地導体と電気的に接続される接地電極とを有するMMICと、を備え、前記基板の裏面における前記プローブの真下を含む領域には、前記裏面接地導体が設けられておらず、前記貫通穴は、前記線路導体及び前記プローブの少なくとも横方向片側に配置される構成であってもよい。
【0016】
この構成により、本発明に係る平面線路・導波管変換器は、基板の表面から裏面に貫通する貫通穴が線路導体及びプローブの少なくとも横方向片側に配置されることによって、プローブが形成された箇所の基板の幅をあたかも狭くしたかのような状態を作り出すことができる。これにより、本発明に係る平面線路・導波管変換器は、回路部とプローブを同一の基板に形成する場合であっても、回路部の基板の幅とプローブ部分の基板の幅を同一にしつつ、基板内での不要な伝搬モードの発生を抑制することができる。
【0017】
すなわち、本発明に係る平面線路・導波管変換器は、プローブから導波管に伝搬させることができる高周波信号の周波数帯域を広く保つとともに、長方形のMMICと同一の基板加工とすることで部品加工費の増加や信頼性劣化を生じさせない。
【0018】
また、本発明に係る平面線路・導波管変換器においては、前記導波管が方形導波管であってもよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明は、回路部の基板幅とプローブ部分の基板幅を同一にしつつ、基板内に不要な伝搬モードを発生させない平面線路・導波管変換器を提供するものである。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の第1の実施形態に係る平面線路・導波管変換器の構造を示す分解斜視図である。
図2】本発明の第1の実施形態に係る平面線路・導波管変換器の組立後の構造を示す斜視図である。
図3】本発明の第1の実施形態に係る平面線路・導波管変換器の組立後の概略断面図と、基板の裏面側の構成を示す下面図である。
図4】本発明の第1の実施形態に係る平面線路・導波管変換器における基板の表面側の構成を示す上面図である。
図5】(a)は基板に導通ビアホールが形成されていない場合の平面線路・導波管変換器の通過損失S21のシミュレーション結果を示すグラフであり、(b)は基板に導通ビアホールが形成されている場合の平面線路・導波管変換器の通過損失S21のシミュレーション結果を示すグラフである。
図6】本発明の第1の実施形態に係る平面線路・導波管変換器の変形例1の概略断面図と、基板の裏面側の構成を示す下面図である。
図7】本発明の第1の実施形態に係る平面線路・導波管変換器の変形例2の概略断面図と、基板の裏面側の構成を示す下面図である。
図8】本発明の第1の実施形態に係る平面線路・導波管変換器の変形例3の概略断面図と、基板の裏面側の構成を示す下面図である。
図9】本発明の第1の実施形態に係る平面線路・導波管変換器の変形例4の概略断面図と、基板の裏面側の構成を示す下面図である。
図10】本発明の第1の実施形態に係る平面線路・導波管変換器の変形例5の概略断面図と、基板の裏面側の構成を示す下面図である。
図11】本発明の第2の実施形態に係る平面線路・導波管変換器の概略断面図である。
図12】本発明の他の実施形態に係る平面線路・導波管変換器の概略断面図である。
図13】従来の基板用平面線路・導波管変換器の構成を示す分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明に係る平面線路・導波管変換器の実施形態について、図面を用いて説明する。本発明の平面線路・導波管変換器は、例えば100GHzを超えるような高周波信号をミリ波帯の電磁波に変換したり、あるいは逆に、ミリ波帯の電磁波を高周波信号に変換したりするためのものである。
【0022】
(第1の実施形態)
まず、本発明の第1の実施形態に係る平面線路・導波管変換器の構成について、図1図4を参照しながら説明する。図1は、本実施形態の平面線路・導波管変換器の分解斜視図である。図2は、本実施形態の平面線路・導波管変換器の組立後の斜視図である。図3は、本実施形態の平面線路・導波管変換器の組立後の概略断面図と、基板の下面図である。図4は、本実施形態の平面線路・導波管変換器における基板の上面図である。
【0023】
図1図4に示すように、平面線路・導波管変換器1は、基板10と、平面線路20と、プローブ30と、MMIC40と、導波管50と、を備える。平面線路20、プローブ30、及びMMIC40は、1つの基板10上に形成される。平面線路20とMMIC40は回路部を構成する。
【0024】
平面線路20は、基板10と、基板10の表面に設けられた線路導体11と、基板10の表面に設けられた少なくとも1つの表面接地導体12と、基板10の裏面に設けられた裏面接地導体13と、表面接地導体12と裏面接地導体13を電気的に接続する少なくとも1つの導通ビアホール14と、を含んでなる。なお、以降では、導通ビアホール14と後述する貫通ビアホール15とをまとめて、単にビアホール18とも記載する。
【0025】
基板10は、例えばGaAs(ガリウム・砒素)などからなる半導体基板、アルミナ基板、樹脂製の基板、又は石英ガラス基板などの基板である。基板10の厚さは、例えば0.05mm~0.1mm程度である。
【0026】
導通ビアホール14は、基板10の表面から裏面に貫通するように、基板10をドリルやレーザ等で穴開けすることによって形成される。導通ビアホール14の穴の断面形状は、円、楕円、正方形、又は長方形などの任意の形状であってよい。導通ビアホール14は、その内壁面に金や銅などの導電性材料が蒸着されるか、あるいは、導電性材料が埋め込まれることにより、表面接地導体12と裏面接地導体13を導通させるようになっている。
【0027】
線路導体11、表面接地導体12、裏面接地導体13、及びプローブ30は、導通ビアホール14用の穴が形成された基板10にマスクパターンを形成し、スパッタリングにより金又は銅などの高周波信号伝送用として適した金属の薄膜を基板10に蒸着することで形成される。このとき同時に導通ビアホール14用の穴の内壁にも金属の薄膜が蒸着されるとよい。また、表面接地導体12及び裏面接地導体13は、少なくとも高周波グランド(RFグランド)であればよく、バイアス電圧が印加される構成となっていてもよい。
【0028】
基板10に導通ビアホール14を設けることで、導通ビアホール14の金属部分による電磁波の遮蔽効果により、プローブ30が形成された箇所の基板10の幅をあたかも狭くしたかのような状態を作り出すことができる。
【0029】
図1図3に示すように、表面接地導体12は、例えば導通ビアホール14のランド部として基板10上に設けられる。この場合、平面線路20は、マイクロストリップ線路構造を成す。あるいは、図4に示すように、表面接地導体12は、線路導体11の横方向両側に所定の距離を隔てて形成されたグランドパターンとして基板10上に設けられていてもよい。この場合、平面線路20は、いわゆるグランデッドコプレーナ線路構造を成す。なお、平面線路20は、マイクロストリップ線路やグランデッドコプレーナ線路に限定されず、他の構成の線路であってもよい。
【0030】
導波管50は、開口部51の形状が方形であり、開口部51と反対側が反射壁52により閉じられた方形導波管である。例えば、導波管50は、断面寸法が2.032mm×1.016mmであり、WR-8帯域(90GHz~140GHz)を通過帯域とするWR-8方形導波管であってもよい。
【0031】
基板10は、導波管50の側壁53に設けられた基板挿入穴54に挿入されて装着されるようになっている。この状態で、導波管50は、基板挿入穴54の縁部55を介して、裏面接地導体13に電気的に接続される。縁部55と裏面接地導体13との電気的な接続は、例えば、裏面接地導体13の端部が、導電性の接着剤により縁部55に貼り付けられることによって実現できる。なお、線路導体11及びプローブ30と導波管50とが電気的に接続されないように、基板挿入穴54と基板10の表面との間には、基板10の基板厚程度の隙間が設けられている。例えば、基板挿入穴54は、導波管50の側壁53の中央付近の高さの位置に形成される。
【0032】
MMIC40は、電解効果トランジスタ(FET:Field effect transistor)などの半導体部品を含む集積回路であり、例えば増幅器、周波数変換器として機能する。MMIC40の幅は、例えば1mm~1.5mm程度である。
【0033】
例えば、図3に示すように、MMIC40は、基板10の表面側に設けられ、線路導体11と電気的に接続される信号電極41と、裏面接地導体13と電気的に接続される接地電極42と、を有する。MMIC40の信号電極41は、例えばボンディングワイヤによって、線路導体11に電気的に接続される。また、MMIC40の接地電極42は、例えばボンディングワイヤやビアホールなどを介した層間接続によって、表面接地導体12及び裏面接地導体13に電気的に接続される。
【0034】
プローブ30は、基板10の表面に設けられ、線路導体11と一体形成され、導波管50の内部に延伸するストリップ導体である。プローブ30は、導波管50を励振するアンテナとして機能する。このため、図3の下段に示すように、基板10の裏面のプローブ30の真下を含む領域には、裏面接地導体13が設けられていない。
【0035】
図2及び図3に示すように、基板10が導波管50の基板挿入穴54に装着された状態で、プローブ30が導波管50内、平面線路20が基板挿入穴54の縁部55上と導波管50外、MMIC40が導波管50外に配置されるようになっている。
【0036】
プローブ30の長さLは、平面線路・導波管変換器1で使用する周波数帯域の基板10上での波長λsの1/4程度である。ここで、基板10上での波長とは、基板10の誘電性による波長短縮効果を考慮に入れた実効的な波長を意味している。なお、プローブ30の先端から基板10の端までの距離は、可能な限り小さくすることが望ましい。また、プローブ30の幅は、平面線路20とインピーダンス整合を取れる幅であることが望ましい。
【0037】
また、プローブ30の幅方向の中心位置から導波管50の反射壁52までの距離BS(バックショート長)は、基板10の誘電性による波長短縮効果を考慮に入れた実効的な管内波長λgの1/4程度であればよい。
【0038】
上記の構成により、MMIC40から送信された高周波信号は、平面線路20を伝送され、導波管50内のプローブ30から放射されて、導波管50の中を伝搬していく。逆に、導波管50の開口部51に入力された電磁波は、導波管50の中を伝搬して、プローブ30で受け取られ、平面線路20を伝送され、MMIC40で受信される。
【0039】
図5(a)は、基板10に導通ビアホール14が形成されていない(導通ビアホールなしの)平面線路・導波管変換器の通過損失S21のシミュレーション結果を示すグラフである。一方、図5(b)は、基板10に導通ビアホール14が形成されている(導通ビアホールありの)本実施形態の平面線路・導波管変換器1の通過損失S21のシミュレーション結果を示すグラフである。
【0040】
シミュレーション条件は以下のとおりである。
・基板の比誘電率:8.5
・基板のサイズ:幅1mm、長さ0.835mm、厚さ0.1mm
・線路導体及びプローブの幅:0.06mm
・線路導体及びプローブの金属種類:金
・線路導体及びプローブの厚さ:0.003mm
・導通ビアホールの個数:2(導通ビアホールありの場合)
・ビアホールの直径:0.1mm(導通ビアホールありの場合)
・導通ビアホールの中心位置:基板端から幅方向、長さ方向ともに0.15mm内側(導通ビアホールありの場合)
・導通ビアホールの中心位置から線路導体までの距離:0.35mm(導通ビアホールありの場合)
【0041】
図5(a)に示すように、導通ビアホールなしの構成では、通過損失S21は、115GHzまで1dB以下であった。これに対して、図5(b)に示すように、本実施形態における導通ビアホールありの構成では、通過損失S21は、135GHzまで1dB以下の低損失を実現できる。これは、基板10に導通ビアホール14を設けたことで、基板10内で不要な伝搬モードが発生することを防ぐことができたためと考えられる。
【0042】
なお、図3には、線路導体11の横方向両側に導通ビアホール14を1つずつ配置した構成例を示したが、図6に示すように線路導体11の横方向片側に導通ビアホール14を1つ配置した構成とすることで、基板10内で不要な伝搬モードが発生することを防ぐようにしてもよい。
【0043】
また、図7に示すように、本実施形態の平面線路・導波管変換器1は、表面接地導体12及び裏面接地導体13と接続されていない少なくとも1つの貫通ビアホール15が、基板10の表面から裏面に貫通する構成であってもよい。貫通ビアホール15は、基板10の裏面における裏面接地導体13が形成されていない領域に設けられた少なくとも1つの裏面導体16と、基板10の表面における裏面導体16の真上を含む領域に設けられた少なくとも1つの表面導体17と、を電気的に接続するようになっている。
【0044】
貫通ビアホール15は、既に述べた導通ビアホール14と同様の方法で形成することができる。基板10に貫通ビアホール15を設けることで、貫通ビアホール15の金属部分による電磁波の遮蔽効果により、プローブ30が形成された箇所の基板10の幅をあたかも狭くしたかのような状態を作り出すことができる。
【0045】
また、図8に示すように、貫通ビアホール15をプローブ30の横方向片側の反射壁52側に配置することで、プローブ30の放射パターンを導波管50の開口部51に向かって広がるように変更し、導波管50を励振する際の損失を減らすことができる。さらに、貫通ビアホール15をプローブ30の横方向片側の反射壁52側に配置することで、導波管50の開口部51と反射壁52までの距離が組み立てによってずれても、プローブ30の感度への影響を少なくすることができる。
【0046】
また、図9に示すように、プローブ30の横方向片側又は横方向両側において、少なくとも1つの表面接地導体12と少なくとも1つの表面導体17が一体化されていてもよい。さらに、少なくとも1つの裏面接地導体13と少なくとも1つの裏面導体16が一体化されていてもよい。このような構成により、ビアホール18間を電磁波が通過することを妨げて、プローブ30からの電磁波の放射方向を所望の方向に向けることができる。
【0047】
また、図10に示すように、互いに電気的に接続された導通ビアホール14及び貫通ビアホール15と、導通ビアホール14と電気的に接続されない貫通ビアホール15とが混在していてもよい。
【0048】
隣り合うビアホール18の間隔は、穴加工の精度や基板10の強度などによる製造上の限界から、例えばビアホール18の直径の2倍程度に設定される。また、ビアホール18と線路導体11又はプローブ30までの距離は、例えばビアホール18の直径の2倍程度に設定してもよい。また、ビアホール18の直径は、例えば基板10の基板厚と同一に設定してもよい。なお、ビアホール18の個数は任意である。
【0049】
以上説明したように、本実施形態に係る平面線路・導波管変換器1は、基板10の表面から裏面に貫通する導通ビアホール14が線路導体11の少なくとも横方向片側に配置されることによって、プローブ30が形成された箇所の基板10の幅をあたかも狭くしたかのような状態を作り出すことができる。これにより、平面線路・導波管変換器1は、回路部とプローブ30を同一の基板10に形成する場合であっても、回路部の基板10の幅とプローブ部分の基板10の幅を同一にしつつ、基板10内での不要な伝搬モードの発生を抑制することができる。
【0050】
すなわち、本実施形態に係る平面線路・導波管変換器1は、プローブ30から導波管50に伝搬させることができる高周波信号の周波数帯域を広く保つとともに、長方形のMMIC40と同一の基板加工とすることで部品加工費の増加や信頼性劣化を生じさせない。
【0051】
また、本実施形態に係る平面線路・導波管変換器1は、基板10の表面から裏面に貫通する貫通ビアホール15がプローブ30の少なくとも横方向片側に配置されることによって、プローブ30が形成された箇所の基板10の幅をあたかも狭くしたかのような状態を作り出すことができる。これにより、平面線路・導波管変換器1は、プローブ30の放射パターンを所望の形状に変更することができる。
【0052】
また、本実施形態に係る平面線路・導波管変換器1は、少なくとも1つの表面接地導体12と少なくとも1つの表面導体17が一体化されるとともに、裏面接地導体13と少なくとも1つの裏面導体16が一体化されることによって、ビアホール18間を電磁波が通過することを妨げて、プローブ30からの電磁波の放射方向を所望の方向に向けることができる。
【0053】
(第2の実施形態)
続いて、本発明の第2の実施形態に係る平面線路・導波管変換器2について、図面を参照しながら説明する。なお、第1の実施形態と同様の構成及び動作については適宜説明を省略する。
【0054】
第1の実施形態の平面線路・導波管変換器1は、基板10にビアホール18を設けた構成であったが、本実施形態の平面線路・導波管変換器2は、ビアホールの代わりに、基板10の表面から裏面に貫通する貫通穴19を設けた構成である。
【0055】
なお、基板10、線路導体11、表面接地導体12、裏面接地導体13、プローブ30、MMIC40、及び導波管50の構成については、第1の実施形態の構成と同様である。
【0056】
図11に示すように、貫通穴19は、例えば、線路導体11及びプローブ30の横方向両側又は横方向片側に形成される。貫通穴19は、基板10を貫通するように基板10をドリルやレーザ等で穴開けすることによって形成される。貫通穴19の断面形状は、円、楕円、正方形、又は長方形などの任意の形状であってよい。第1の実施形態におけるビアホール18とは異なり、貫通穴19は導電性を有していない。
【0057】
基板10に貫通穴19を設けることで、基板10の比誘電率ε(例えば10程度)よりも比誘電率εの低い空気層(εがほぼ1)が基板10内の線路導体11及びプローブ30の横方向に形成される。このように基板10内の誘電率に差を設けることにより、プローブ30の横方向には電磁波が広がりにくくなって、プローブ30が形成された箇所の基板10の幅をあたかも狭くしたかのような状態を作り出すことができる。これにより、不要な伝搬モードによる不要な方向への電磁波の広がりを抑えることができる。
【0058】
貫通穴19の直径は、例えば基板10の基板厚と同一に設定することができる。隣り合う貫通穴19の間隔は、平面線路・導波管変換器2で使用する周波数帯域の基板10上での波長λsの1/4以下が好ましく、例えば1/8としてもよい。あるいは、隣り合う貫通穴19の間隔は、穴加工の精度や基板10の強度などによる製造上の限界から、例えば貫通穴19の直径の2倍程度としてもよい。また、貫通穴19と線路導体11又はプローブ30までの距離は、例えば貫通穴19の直径の2倍程度に設定してもよい。
【0059】
図11には、線路導体11及びプローブ30の横方向両側に2列ずつ貫通穴19が配置された例を示したが、線路導体11及びプローブ30と貫通穴19の間隔を近くすることで、線路導体11及びプローブ30の横方向両側に3列以上の貫通穴19が配置された構成としてもよい。
【0060】
また、上記の説明では貫通穴19の大きさを基板10の基板厚と同一としたが、貫通穴19の大きさを基板10の基板厚よりも大きくすることで、基板10内に誘電率の低いエリアをより広く設けて、不要な伝搬モードの広がりを更に防ぐように構成してもよい。
【0061】
以上説明したように、本実施形態に係る平面線路・導波管変換器2は、基板10の表面から裏面に貫通する貫通穴19が線路導体11及びプローブ30の少なくとも横方向片側に配置されることによって、プローブ30が形成された箇所の基板10の幅をあたかも狭くしたかのような状態を作り出すことができる。これにより、平面線路・導波管変換器2は、回路部とプローブ30を同一の基板10に形成する場合であっても、回路部の基板10の幅とプローブ部分の基板10の幅を同一にしつつ、基板10内での不要な伝搬モードの発生を抑制することができる。
【0062】
すなわち、本実施形態に係る平面線路・導波管変換器2は、プローブ30から導波管50に伝搬させることができる高周波信号の周波数帯域を広く保つとともに、長方形のMMIC40と同一の基板加工とすることで部品加工費の増加や信頼性劣化を生じさせない。
【0063】
(他の実施形態)
第1の実施形態及び第2の実施形態の説明では、MMIC40、平面線路20、及びプローブ30が1つの基板10上に形成されるとしたが、図12に示すように、平面線路・導波管変換器1,2は、平面線路20とプローブ30が形成された基板10に、MMIC40のチップを後から実装した構成であってもよい。
【符号の説明】
【0064】
1,2 平面線路・導波管変換器
10 基板
11 線路導体
12 表面接地導体
13 裏面接地導体
14 導通ビアホール
15 貫通ビアホール
16 裏面導体
17 表面導体
18 ビアホール
19 貫通穴
20 平面線路
30 プローブ
40 MMIC
41 信号電極
42 接地電極
50 導波管
51 開口部
52 反射壁
53 側壁
54 基板挿入穴
55 縁部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13