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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023136520
(43)【公開日】2023-09-29
(54)【発明の名称】冶金用コークスの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C10B 57/04 20060101AFI20230922BHJP
【FI】
C10B57/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022042244
(22)【出願日】2022-03-17
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100184859
【弁理士】
【氏名又は名称】磯村 哲朗
(74)【代理人】
【識別番号】100123386
【弁理士】
【氏名又は名称】熊坂 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100196667
【弁理士】
【氏名又は名称】坂井 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100130834
【弁理士】
【氏名又は名称】森 和弘
(72)【発明者】
【氏名】土肥 勇介
(72)【発明者】
【氏名】松井 貴
(72)【発明者】
【氏名】南里 功美
【テーマコード(参考)】
4H012
【Fターム(参考)】
4H012MA01
4H012MA02
(57)【要約】
【課題】非微粘結炭の使用量を増大した場合であっても、クリアランスを確保して押詰まりを回避でき、安定的に冶金用コークスを製造できる方法を提供する。
【解決手段】原料炭の一部を成型して製造される成型炭3と、原料炭のうちの粉状の粉炭から成る粉炭部2とを有する配合炭を乾留して冶金用コークスを製造する冶金用コークスの製造方法であって、成型炭3におけるビトリニットの反射率の第1標準偏差σRo1が、粉炭部2におけるビトリニットの反射率の第2標準偏差σRo2よりも大きくなるように、成型炭3に用いられる原料炭の配合と、粉炭部2に用いられる原料炭の配合とのうち、少なくともいずれか一方を調整する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料炭の一部を成型して製造される成型炭と、原料炭のうちの粉状の粉炭から成る粉炭部とを有する配合炭を乾留して冶金用コークスを製造する冶金用コークスの製造方法であって、
前記成型炭におけるビトリニットの反射率の第1標準偏差が、前記粉炭部におけるビトリニットの反射率の第2標準偏差よりも大きくなるように、前記成型炭に用いられる原料炭の配合と、前記粉炭部に用いられる原料炭の配合とのうち、少なくともいずれか一方を調整する
冶金用コークスの製造方法。
【請求項2】
前記第1標準偏差と、前記第2標準偏差と、前記配合炭の全体におけるビトリニットの反射率の第3標準偏差とのそれぞれが、下記式(1)を満たすように、前記成型炭に用いられる原料炭の配合と、前記粉炭部に用いられる原料炭の配合とのうち、少なくともいずれか一方を調整する
請求項1に記載の冶金用コークスの製造方法。
第2標準偏差<第3標準偏差<第1標準偏差 ・・・(1)
【請求項3】
前記第1標準偏差と前記第2標準偏差との差が0.130%以上となるように、前記成型炭に用いられる原料炭の配合と、前記粉炭部に用いられる原料炭の配合とのうち、少なくともいずれか一方を調整する
請求項1または2に記載の冶金用コークスの製造方法。
【請求項4】
前記第2標準偏差が0.230%以下でありかつ前記配合炭の全体におけるビトリニットの反射率の第3標準偏差が0.245%を超えるように、前記成型炭に用いられる原料炭の配合と、前記粉炭部に用いられる原料炭の配合とのうち、少なくともいずれか一方を調整する
請求項1に記載の冶金用コークスの製造方法。
【請求項5】
前記第2標準偏差が0.230%以下でありかつ前記第3標準偏差が0.245%を超えるように、前記成型炭に用いられる原料炭の配合と、前記粉炭部に用いられる原料炭の配合とのうち、少なくともいずれか一方を調整する
請求項2に記載の冶金用コークスの製造方法。
【請求項6】
前記第2標準偏差が0.230%以下でありかつ前記第3標準偏差が0.245%を超えるように、前記成型炭に用いられる原料炭の配合と、前記粉炭部に用いられる原料炭の配合とのうち、少なくともいずれか一方を調整する
請求項2を引用する請求項3に記載の冶金用コークスの製造方法。
【請求項7】
前記原料炭は、非微粘結炭を含み、
前記第1標準偏差が前記第2標準偏差よりも大きくなるように、前記成型炭に前記非微粘結炭を配合する
請求項1に記載の冶金用コークスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冶金用コークスの製造方法に関し、特に、冶金用コークスの原料となる石炭の一部を機械的に圧縮して成型した成型炭を、成型していない粉状の粉炭と共に乾留して冶金用コークスを製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、世界的な鉄鋼需要の高まりにつれて、石炭需給がひっ迫し、石炭価格が高騰している。一般的に、粘結性(石炭が乾留される際に溶けて固まる性質)が高い良質な石炭は、粘結性が低い石炭(非微粘結炭と称される。)に比べて、高炉使用に好適な高強度のコークスを製造するのに有効である一方で、価格が高い傾向にある。これに加えて、良質な石炭資源の埋蔵量も限られており、将来的に枯渇する懸念もあるとされている。したがって、原料コストを抑え、かつ、使用可能な石炭資源の範囲を拡大して安定的に石炭資源を確保するためには、コークス強度を維持しつつ、コークス用原料として非微粘結炭を積極的に使用する技術を開発することが、切望されている。
【0003】
非微粘結炭の使用量を拡大する方法として、コークス炉に装入する際の非微粘結炭の嵩密度を高める技術がある。嵩密度を高めることで、原料となる石炭つまり非微粘結炭同士の粒子間距離を短縮でき、粘結性が乏しくとも、非微粘結炭同士の接着が促進され、コークス強度が向上する。そのため、コークス強度を維持しつつ、非微粘結炭の使用量を増やすことができる。従来から、種々の嵩密度を高める技術が開発され、実用化されている。その中の一つに、原料となる石炭の一部に、バインダーを配合して混錬した後に、機械的に圧縮し、成型炭にする方法がある。この成型炭を、成型していない粉炭と混合して配合炭とし、これをコークス炉に装入して乾留を行う方法は、成型炭配合法と呼ばれている(成型炭一部装入法と呼ばれる場合がある。)。成型炭配合法には、粉炭と成型炭とに配合する石炭を同一のものとする同一配合法と、成型炭と粉炭とで石炭の種類や配合率を変える、集中配合法とがある。集中配合法は、同一配合法よりも、非微粘結炭の使用量を増大できる特徴があるとされており(例えば、非特許文献1)、そのために、原料コストの削減に有効である、とされている。
【0004】
一方で、コークスの安定製造のためには、乾留によって生成したコークスケーキをコークス炉の炭化室からスムーズに排出する必要がある。そのためには、炭化室の炉壁と、これに対向するコークスケーキの外面との間に生じるクリアランスを十分に確保することが求められる。コークスケーキは、コークス炉の炭化室内に装入された配合炭が、炭化室に隣接する燃焼室から伝達される熱によって加熱されて炉壁側から順に乾留されて形成される。そして乾留後、専用の押出機によって炭化室から押し出される。しかしながら、上述したクリアランスが不十分な場合には、炉外にコークスケーキを排出できなくなる、押詰りと称されるトラブルが発生する可能性がある。押詰りが発生すると、その解消のために、コークスの生産スケジュールの変更を余儀なくされたり、コークス生産量の減少を招いたり、さらには、炉体の損傷を招くことで炉寿命を縮めたりするため、極めて深刻なトラブルと認識されている。したがって、コークス炉の操業において、上述したクリアランスを管理し、また必要十分に確保することは、コークス強度の管理と同等に重要である。
【0005】
クリアランスは、炭化室に装入された石炭(配合炭)が乾留される過程で、一旦軟化溶融して塊状のセミコークスとなった後、塊が熱により収縮することで発生する。また、クリアランスは、原料となる石炭の石炭化度や、石炭の流動性、石炭化度の分布の標準偏差等の品位の影響、粒度、嵩密度等の事前処理の影響、乾留条件の影響などを受けることが明らかにされている。これらのクリアランスに影響を与える要因のうち、嵩密度については、嵩密度が高いほど、クリアランスが小さくなることが確認されている。また、石炭化度の分布が大きい配合炭ほど、クリアランスが小さくなること(特許文献1)や、コークスケーキ中にマクロ亀裂(コークスケーキを分断し、コークス塊寸法を規定するような、数cm以上数十cm以下程度の亀裂)を多く生成し、炭化室からのコークスケーキの押し出し性が悪化することが知られている(特許文献2)。この理由としては、石炭化度の分布が大きい配合炭ほど、その構成炭同士の軟化溶融温度域(概ね400℃以上500℃以下の範囲)にズレが生じるため、融着が不良となり、亀裂が進展しやすくなるためである、と考えられる。これに加えて、再固化後(約500℃以下)におけるセミコークスの収縮量較差が増大するため、融着粒子間に発生する熱応力が大きくなることも、亀裂生成を促進する方向に働くと考えられている。なお、上記の構成炭とは、コークスを製造するための原料となる配合炭に用いられる複数種類の石炭、つまり、原料炭を意味している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4899326号公報
【特許文献2】特許第5011839号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】阿部利雄、他2名、「成型炭配合法によるコークス製造―劣性炭集中配合法―」、コークス・サーキュラー、1981年、第30巻、第1号、p.36-40
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
非微粘結炭の有効利用のためには、成型炭配合法は有効な手段であると考えられている。しかしながら、成型炭配合法は石炭の嵩密度を高める操作であるため、一般的な粉炭のみのコークス製造に比べて加熱時の収縮が小さく、クリアランスが小さくなってしまう。これに加えて、配合炭に配合する非微粘結炭の量を増大するほど、石炭化度の分布が広がるため、クリアランスが低下する可能性がある。
【0009】
このような背景から、押し出し性を確保するためのクリアランスを確保しつつ、石炭化度の分布の大きな配合炭を使用して非微粘結炭の使用量を増大させる技術の確立が望まれている。
【0010】
非特許文献1では、クリアランスの問題が議論されておらず、実用的に十分とはいえない。一方、特許文献1,2では、非微粘結炭の使用が考慮されていない点で不十分である。
【0011】
すなわち、成型炭の技術を用いて石炭化度の分布の広い配合炭を構成し、その配合炭を用いて非微粘結炭の使用量を増やしつつ、コークスの押し出し性を良好にできるクリアランスを確保するためには、未だ改良の余地があった。
【0012】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、本発明は、非微粘結炭の使用量を増大した場合であっても、上述したクリアランスを確保して押詰まりを回避でき、安定的に冶金用コークスを製造できる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、上記の目的を達成するために、
[1]原料炭の一部を成型して製造される成型炭と、原料炭のうちの粉状の粉炭から成る粉炭部とを有する配合炭を乾留して冶金用コークスを製造する冶金用コークスの製造方法であって、前記成型炭におけるビトリニットの反射率の第1標準偏差が、前記粉炭部におけるビトリニットの反射率の第2標準偏差よりも大きくなるように、前記成型炭に用いられる原料炭の配合と、前記粉炭部に用いられる原料炭の配合とのうち、少なくともいずれか一方を調整する冶金用コークスの製造方法である。
[2]前記第1標準偏差と、前記第2標準偏差と、前記配合炭の全体におけるビトリニットの反射率の第3標準偏差とのそれぞれが、下記式(1)を満たすように、前記成型炭に用いられる原料炭の配合と、前記粉炭部に用いられる原料炭の配合とのうち、少なくともいずれか一方を調整する上記の[1]に記載の冶金用コークスの製造方法である。
第2標準偏差<第3標準偏差<第1標準偏差 ・・・(1)
[3]前記第1標準偏差と前記第2標準偏差との差が0.130%以上となるように、前記成型炭に用いられる原料炭の配合と、前記粉炭部に用いられる原料炭の配合とのうち、少なくともいずれか一方を調整する上記の[1]または[2]に記載の冶金用コークスの製造方法である。
[4]前記第2標準偏差が0.230%以下でありかつ前記配合炭の全体におけるビトリニットの反射率の第3標準偏差が0.245%を超えるように、前記成型炭に用いられる原料炭の配合と、前記粉炭部に用いられる原料炭の配合とのうち、少なくともいずれか一方を調整する上記の[1]に記載の冶金用コークスの製造方法である。
[5]前記第2標準偏差が0.230%以下でありかつ前記第3標準偏差が0.245%を超えるように、前記成型炭に用いられる原料炭の配合と、前記粉炭部に用いられる原料炭の配合とのうち、少なくともいずれか一方を調整する上記の[2]に記載の冶金用コークスの製造方法である。
[6]前記第2標準偏差が0.230%以下でありかつ前記第3標準偏差が0.245%を超えるように、前記成型炭に用いられる原料炭の配合と、前記粉炭部に用いられる原料炭の配合とのうち、少なくともいずれか一方を調整する上記の[2]を引用する[3]に記載の冶金用コークスの製造方法である。
[7]前記原料炭は、非微粘結炭を含み、
前記第1標準偏差が前記第2標準偏差よりも大きくなるように、前記成型炭に前記非微粘結炭を配合する上記の[1]に記載の冶金用コークスの製造方法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、粘結炭と比較して安価な非微粘結炭の使用量を増やして配合炭の石炭化度の分布が広くなった場合であっても、成型炭配合法によりコークスを製造する際に問題となる、クリアランスの低下を、特別な追加のコストを必要とせずに、抑止可能となる。したがって、成型炭配合法において、従来よりも非微粘結炭の使用量を増大させても、押詰りの問題を回避しつつ、安定的なコークス製造が可能となるという効果を発揮する。なお、非微粘結炭とは、粘結炭と比較して流動性が低く、石炭化度が一般的な原料炭の範囲の両端付近、あるいは、その範囲外の石炭を意味している。石炭化度が一般的な原料炭の範囲とは、ビトリニットの平均最大反射が概ね0.6%以上1.7%以下の範囲であることを意味している。従って、代表的な非微粘結炭の性状は、ビトリニットの平均最大反射率が0.9%以下または1.5%以上であり、かつ、ギーセラー最高流動度が300ddpm以下である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】配合炭を乾留するレトルトの一例を示す図であって、図1の(A)はレトルト内に充填された配合炭を乾留している状態を示す図であり、図1の(B)は配合炭の乾留によって得られたコークスケーキとレトルトの炉壁との間に生じるクリアランスを示す図である。
図2】粉炭80wt%と成型炭20wt%とで構成される配合炭全体のビトリニットの反射率の標準偏差とクリアランスとの関係を示す散布図である。
図3】粉炭80wt%と成型炭20wt%とで構成される配合炭における、粉炭のビトリニットの反射率の標準偏差とクリアランスとの関係を示す散布図である。
図4】粉炭80wt%と成型炭20wt%とで構成される配合炭における、成型炭のビトリニットの反射率の標準偏差とクリアランスとの関係を示す散布図である。
図5】粉炭80wt%と成型炭20wt%とで構成される配合炭における、成型炭のビトリニットの反射率の標準偏差と粉炭のビトリニットの反射率の標準偏差との差と、クリアランスとの関係を示す散布図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明者らは、上記の目的を達成するため、成型炭配合法において、配合炭のうち、成型炭からなる部分(以下、単に成型炭と記す。)の石炭化度の分布と、配合炭のうち、粉状の粉炭から成る粉炭部分(以下、単に粉炭部と記す。)の石炭化度の分布とが、配合炭の乾留後の炉壁とコークスケーキとの間に生じるクリアランスに及ぼす影響について、鋭意調査を行った。その結果、粉炭部の石炭化度の分布は、クリアランスに対して大きく影響を与える主たる支配因子であり、これに対して、成型炭の石炭化度の分布は、クリアランスに対して影響を与えにくく、ほとんど無視できることを見出した。本発明は、本知見に基づいてなされたものであって、成型炭における複数の石炭の配合と、粉炭部における複数の石炭の配合とを、それぞれどのように調整すればよいかを以下に具体的に述べる。
【0017】
なお、配合炭は複数種類の石炭(原料炭と称する場合がある。)から成り、当該石炭のそれぞれは、単独銘柄の石炭や、複数銘柄の石炭を混合してほぼ一定品質の石炭として管理される石炭群を意味している。すなわち、上記の配合炭は銘柄や品質の互いに異なる石炭の混合物であって、配合される石炭の銘柄や品質、石炭の配合率などを変更することによって成型炭の品質や、粉炭部の品質、あるいは、配合炭全体の品質を変更できる。
【0018】
(粉炭、成型炭の原料炭の配合条件)
本発明で最も重要なポイントである。本発明に係る冶金用コークスの製造方法は、成型炭配合法のうち、集中配合法の一形態であり、粉炭部における原料炭の配合と成型炭における原料炭の配合とのうち、少なくともいずれか一方を調整するようになっている。こうすることによって、成型炭におけるビトリニットの反射率(Ro)の分布の標準偏差(以下、第1標準偏差と記す。)σRo1と、粉炭部におけるビトリニットの反射率(Ro)の標準偏差(以下、第2標準偏差と記す。)σRo2とをそれぞれ独立に制御する。各標準偏差σRo1,σRo2は石炭化度の分布を表す指標であり、上述した特許文献1や特許文献2においても用いられている指標である。各標準偏差σRo1,σRo2の求め方ついて、以下に説明する。
【0019】
先ず、配合炭(石炭の混合物)に含まれる個々の石炭のビトリニットの反射率の分布を求める。ビトリニットは石炭の組織の一種であり、その反射率(Ro)は、JIS M8816「石炭の微細組織成分及び反射率測定方法」に記載の方法で求めることができる。石炭は不均質な物質であるので、同じ石炭中のビトリニットであっても測定箇所が異なると、その反射率は互いに異なり、つまり一定ではなく、分布を持つ。そこで、測定の対象とする石炭試料において、ビトリニットの異なる点のそれぞれで反射率を測定する。そして、それらの測定された反射率に基づいて、反射率の異なる成分の存在割合の分布を反射率分布として求める。配合炭に含まれる各銘柄の石炭の反射率分布と、その銘柄の含有率つまり配合炭における各銘柄の石炭の配合割合とに基づいて、石炭混合物すなわち配合炭の全体におけるビトリニットの反射率分布を求める。そして、その分布の標準偏差、すなわち、配合炭の全体におけるビトリニットの反射率(Ro)の標準偏差(以下、第3標準偏差と記す。)σRo3を求める。
【0020】
これと同様にして、成型炭の第1標準偏差σRo1と、粉炭部の第2標準偏差σRo2とをそれぞれ算出する。また、本発明の実施形態では、第1標準偏差σRo1と第2標準偏差σRo2とのそれぞれを以下に説明する特定の条件(数値範囲)にすることで、成型炭配合法において、上述したクリアランスを従来よりも拡大することが可能となる。
【0021】
通常、前述の通り、配合炭全体の第3標準偏差σRo3の増加とともに、クリアランスは低下する。しかしながら、成型炭配合法においては、粉炭部の第2標準偏差σRo2がクリアランスに影響を及ぼす主要な支配因子であり、粉炭部の第2標準偏差σRo2の増加とともにクリアランスが小さくなる。一方で、成型炭の第1標準偏差σRo1は、粉炭部の第2標準偏差σRo2と比較してクリアランスにそれほど影響を与えないことを発明者らは見出した。したがって、配合炭全体の第3標準偏差σRo3を一定とした場合に、クリアランスを拡大するためには、粉炭部の第2標準偏差σRo2を低下させ、これとは逆に、成型炭の第1標準偏差σRo1を増大させることが望ましい。具体的には、成型炭の第1標準偏差σRo1を粉炭部の第2標準偏差σRo2よりも大きい値(σRo1>σRo2)となるように、もしくは、成型炭の第1標準偏差σRo1から粉炭部の第2標準偏差σRo2を減じた値が「0(零)」よりも大きい値(σRo1―σRo2>0)となるように、成型炭および粉炭部を構成する複数の石炭の配合を行う。これにより、成型炭と粉炭部とのそれぞれを同一の配合とする場合と比較して、クリアランスを拡大できる。
【0022】
さらに、成型炭と粉炭部とを合わせた、配合炭の原料となる全ての石炭の標準偏差つまり配合炭全体の第3標準偏差σRo3をクリアランスの設定条件に含めることもできる。その場合には、配合炭全体の第3標準偏差σRo3を粉炭部の第2標準偏差σRo2よりも大きい値とし、かつ、配合炭全体の第3標準偏差σRo3を成型炭の第1標準偏差σRo1よりも小さい値(σRo2<σRo3<σRo1)とすることが好ましい。
【0023】
具体的な石炭の配合の操作としては、配合炭を構成している複数の石炭のうち、石炭化度が一般的な原料炭の範囲の両端付近、あるいは、前記範囲外に存在するような石炭を、粉炭部に配合するのではなく、成型炭に極力配合する。すなわち、成型炭の第1標準偏差σRo1を増大させ、それに伴って配合炭全体の第3標準偏差σRo3は増大するが、粉炭部の第2標準偏差σRo2はほぼ一定となる原料炭の配合を行う。なお、石炭化度が一般的な原料炭の範囲とは、ビトリニットの平均最大反射率が概ね0.6以上1.7以下の範囲であることを意味している。また、この配合操作の際に、一般的に管理されているコークス強度の目標値を達成するために、配合炭の平均品位(平均反射率:Ro、最高流動度:logMF、全イナート量:TIなど。)を、必要な目標範囲に調整することも同時に行ってよい。
【0024】
さらに、後述の実施例でも示す通り、成型炭の第1標準偏差σRo1と粉炭部の第2標準偏差σRo2の差ΔσRoは、0.130%以上の場合に、クリアランスの拡大効果が顕著に得られるため、特に好ましい。また、上記の差ΔσRoが増大することに伴ってクリアランスが拡大するため、この関係を利用すれば、配合炭全体の第3標準偏差σRo3を一定としてクリアランスを拡大することとは反対に、クリアランスを一定に維持しながら配合炭全体の第3標準偏差σRo3を従来よりも増大することが可能となる。すなわち、差ΔσRoを0.130%以上に維持しながら、成型炭の第1標準偏差σRo1および粉炭部の第2標準偏差σRo2を増大させる原料炭の配合を行う。これにより、石炭化度が一般的な原料炭の範囲の両端付近、あるいは、範囲外に存在するような石炭すなわち、いわゆる粘結炭と比較して安価な非微粘結炭の使用量を増大することが可能となる。なお、代表的な非微粘結炭の性状は、ビトリニットの平均最大反射率が0.9%以下または1.5%以上であり、かつギーセラー最高流動度が300ddpm以下である。
【0025】
そして、一般には、成型炭と粉炭部とを含む配合炭全体の第3標準偏差σRo3が0.245%を超えると、クリアランスが好適な値を超え、つまりクリアランスが小さくなってしまい、押詰りの可能性が高まる傾向にある。しかしながら、そのような場合であっても、粉炭部の第2標準偏差σRo2を0.230%以下となるように、粉炭部を構成する複数の石炭の配合を調整することで、クリアランスを拡大して押し出し性が良好になるクリアランスを十分に確保できる。そのため、コークスの安定製造が可能となる。
【0026】
ここで、成型炭の第1標準偏差σRo1は、粉炭部の第2標準偏差σRo2と比較してクリアランスに影響を与えない、あるいは、クリアランスに与える影響が小さい理由について説明する。成型炭は、それ自体の充填嵩密度が粉炭に比べて高い。そのため、成型炭を構成している石炭粒子間の距離が、粉炭同士の間の距離よりも近接しており、第1標準偏差σRo1が第2標準偏差σRo2よりも大きいとしても、軟化溶融温度域における融着が十分に進行する。そのため、その部分つまり成型炭において融着が進行した部分の強度が高くなる。その結果、成型炭では、粉炭部に比べてセミコークスが収縮する際の亀裂の進展が起こりにくく、亀裂発生によるクリアランスの減少が抑止できると考えられる。
【0027】
(全原料(配合炭)に占める成型炭の配合割合)
本発明の実施形態では、成型炭は粉炭と混合されてコークス炉の炭化室に装入される。ここで、粉炭は通常の操作で原料炭を粉砕して製造されたものである。具体的には、前記粉炭部のうち、粒径3mm以下の石炭粒子(粉炭)の含有率は70質量%以上90質量%以下程度であり、そのような粒度分布となるように、原料炭の粉砕が行われる。なお、原料炭の粉砕は、通常の操作として従来知られた操作や方法であってよい。
【0028】
全配合炭に対する成型炭の配合率(配合割合)には、特に制約は無いが、好適な範囲が存在し、5質量%以上50質量%以下の範囲が望ましい。成型炭の配合率が少な過ぎると、すなわち、5質量%よりも少ないと、成型炭配合法によるコークス強度の向上や非微粘結炭の使用割合の増加のメリットを効果的に享受できない可能性がある。そのため、配合炭に、少なくとも5質量%以上の成型炭を配合することが好ましい。一方で、成型炭の配合率が多すぎると、すなわち、50質量%を超えると、全体として嵩高くなり、嵩密度が小さくなる。そのため、コークス強度の向上効果を効果的に得られない可能性がある。したがって、成型炭の配合割合は、5質量%以上50質量%以下とすることが好ましく、10質量%以上35質量%以下がより好ましい。
【0029】
(成型炭の形状)
成型炭の形状には、特に制約は無いが、例えば、球形、ピロー型、タマゴ型、マセック型、レンズ型などであってよい。
【0030】
(成型炭のサイズ)
1個当たりの成型炭の大きさには、特に制約は無いが、例えば、成型炭1個当たりの容積で6cm以上120cm以下が好ましい。生産量、成型炭の強度を考慮すると、25cm以上80cm以下の範囲が特に好ましい。
【0031】
(成型炭の嵩密度)
成型炭配合法の効果を得るためには、すなわち、上述したコークス強度の向上や非微粘結炭の使用割合の増加などの効果を得るためには、成型炭の嵩密度がある程度以上高いことが望ましい。具体的には、乾燥石炭基準の充填嵩密度で0.90g/cm以上であり、より望ましくは1.1g/cm以上である。なお、粉炭の嵩密度は、石炭の粒度、水分、装炭方法等によって変わるが、一般的な室炉式コークス炉によるコークス製造プロセスの場合、乾燥状態で概ね0.70g/cm以上0.80g/cm以下である。
【0032】
(成型炭の製造方法)
成型炭の製造方法には、特に制約は無いが、例えば、ダブルロール法、打ち抜き法、押し出し法、ペレタイジング法など、従来知られた製造方法であってよい。
【0033】
(配合炭の乾留方法)
配合炭の乾留方法には、特に制約は無く、一般的な室炉式コークス炉によって石炭(配合炭)の温度が900℃以上1300℃以下程度になる条件で乾留すればよい。
【0034】
(配合炭および粉炭の配合に使用する原料炭)
粉炭、成型炭のいずれも、その配合に使用する原料炭については特に制約は無い。コークスの製造に一般的に使用される原料炭に加え、粘結性の無い、あるいは、粘結性の乏しい無煙炭、半無煙炭、瀝青炭、亜瀝青炭、褐炭等を含めて使用できる。また、成型炭は、成型性を高めるために原料炭にバインダーを添加して成型してよい。バインダーには、水、石炭系バインダー、石油系バインダー、有機バインダー等を使用できる。石炭系バインダーとしては、例えば、コールタールピッチ、溶剤精製炭、溶剤抽出炭、タール、タール滓等を使用でき、石油系バインダーとしては、例えば、アスファルト、アスファルトピッチ、プロパン脱瀝アスファルト等を使用でき、有機バインダーとしては、例えば、でんぷん、糖蜜、樹脂等を使用できる。また、粉コークス、オイルコークス、プラスチック、粘結材(ピッチ類、溶剤精製炭等)等をバインダーの一部として使用してもよい。
【0035】
(原料炭の調製方法、条件)
コークスの製造で一般的な調製方法、条件を適用できる。調製プロセスとしては、粉砕、分級、混合、混錬、乾燥、加水、予熱工程等の一部または全部を含んでよい。これらプロセスにより、任意の石炭粒度、水分、温度、混合状態を有する原料炭が調製される。
【実施例0036】
以下に、本発明の実施例を示す。粉炭、成型炭の配合に用いた原料炭は、ビトリニット平均最大反射率(Ro)が0.6%以上1.7%以下、ギーセラー最高流動度MFが0ddpm以上15000ddpm以下の複数の原料炭から、6銘柄以上12銘柄以下の原料炭を選定して使用した。
【0037】
成型炭および粉炭に配合する原料炭の銘柄、配合率を種々変更してビトリニットの反射率の標準偏差が互いに異なる複数の成型炭および粉炭を準備し、上述したクリアランスに及ぼす影響を調査した。その調査に使用した成型炭、粉炭、および、成型炭と粉炭とから成る配合炭全体のビトリニットの反射率の標準偏差を表1にまとめて示してある。
【0038】
【表1】
【0039】
表1に示すように、配合炭全体の第3標準偏差σRo3を0.210%以上0.271%位以下の範囲で変化させつつ、粉炭部の第2標準偏差σRo2を0.167%以上0.250%以下の範囲で変化させ、成型炭の第1標準偏差σRo1を0.210%以上0.422%以下の範囲で変化させた。成型炭、粉炭部の構成炭すなわち原料炭の質量配合割合を重みとして加重平均した平均品位は、成型炭、粉炭部のいずれにおいても、各石炭のビトリニットの平均最大反射率の加重平均値で1.01%以上1.03%以下、ギーセラー最高流動度logMF(ddpm/log)は2.5以上2.6以下、全イナートTI(vol%)は29%以上32%以下に調整した。ここで、石炭のビトリニットの平均最大反射率はJIS M8816に記載の方法に従って測定したビトリニットの平均最大反射率であり、原料炭の全イナート量(TI)はJIS M8816に記載の方法およびその解説に記載のParrの式に基づいて、全イナート量(体積%)=フジニット(体積%)+ミクリニット(体積%)+(2/3)×セミフジニット(体積%)+鉱物質(体積%)として算出される全イナート量である。いずれの条件でも乾留後のコークスのドラム強度はI型ドラム強度で82.5以上83.1以下の範囲となり、同程度となることを確認している。
【0040】
配合炭のうち、粉炭部は、気乾した原料炭(100質量%)のそれぞれを粒径3mm以下となるように粒度調製後、所定の配合割合となるように配合して作製した。成型炭は、以下の通り製造した。原料炭(100質量%)のそれぞれを粒径3mm以下となるように粒度調製後、所定の配合割合となるように配合し、そこにバインダーを添加した。具体的には、乾燥状態の原料炭100質量部に対して、コールタール中ピッチを4質量部、軟ピッチを6質量部、バインダーとして添加した。その後、混錬機で約80℃に加熱しながら十分に混錬した。さらにその後、ロールのカップ形状が44mm角のマセック型であるダブルロール成型機で成型し、成型炭を作製した。
【0041】
クリアランスは、以下の手順に従って測定した。図1の(A)および(B)に示すクリアランス測定用の小型模擬レトルト(以下、単にレトルトと記す。)1に、全体の嵩密度が805(kg/m)になるように、かつ、粉炭部2と成型炭3との配合割合が、質量比で粉炭部2が「8」に対して成型炭3が「2」(粉炭部:成型炭=8:2)となるように充填した。そのレトルト1を図示しない電気炉内に配置し、乾留温度(レトルト1の炉壁温度で)1050(℃)で4時間20分乾留した。その後、電気炉からレトルト1を取り出すと共に窒素冷却してコークスケーキ4を得た。レトルト1の幅方向(図1に、符号「W」で示す方向。)で、レトルト1の両炉壁のうちの一方の炉壁5と、一方の炉壁5に対向するコークスケーキ4の外面との間隔Dを、複数個所でレーザー距離計によって測定し、その算術平均値を算出した。これと同様に、幅方向で、レトルト1の両炉壁のうちの他方の炉壁6と、他方の炉壁6に対向するコークスケーキ4の外面との間隔Dを、複数個所でレーザー距離計によって測定し、その算術平均値を算出した。そして、一方の炉壁5側の間隔Dの算術平均値と、他方の炉壁6側の間隔Dの算術平均値との合算値を、上述したクリアランスと定義した。
【0042】
なお、図1の(A)および(B)に示すレトルト1は、レンガによって形成された底板7と、底板7に立設されたカーボン板製の上述した一対の炉壁5,6と、一対の炉壁5,6上に配設されたレンガによって形成された天板8とを備えている。図1の(A)に示すように、レトルト1の空間内に配合炭が充填されて乾留される。また、図1の(B)に示すように、乾留によって得られたコークスケーキ4と一対の炉壁5,6との間隔Dがレーザー距離計を用いて測定される。本実施形態では、レトルト内に充填された配合炭は、長さL:114mm×幅W:190(mm)×高さH:120(mm)の寸法を有している。
【0043】
表1にクリアランスの測定結果を示してある。また、図2に、クリアランスの調査に用いた全ての配合炭の第3標準偏差σRo3とクリアランスとの関係を示してある。図2に示すように、各配合炭の第3標準偏差σRo3とクリアランスとの間の相関は低いが、第3標準偏差σRo3が大きいと、クリアランスが減少するという弱い相関関係が見られた。図2に白色の四角で示すシンボルのそれぞれは、比較例1ないし3を示しており、それらの比較例1ないし3では、粉炭と成型炭とで原料炭の配合は同一となっている。つまり、比較例1ないし3のそれぞれでは、成型炭におけるビトリニットの反射率の第1標準偏差σRo1と、粉炭部におけるビトリニットの反射率の第2標準偏差σRo2とは等しい。また、各比較例1ないし3のそれぞれにおいて、原料炭全体のビトリニットの反射率の第3標準偏差σRo3は互いに異なっている。図2に示す比較例1ないし3の各シンボルから、全体のビトリニットの反射率の第3標準偏差σRo3が大きくなると、クリアランスが低下するという相関関係が見られた。しかしながら、成型炭と粉炭とのそれぞれで、原料炭の配合割合を変えた場合には、つまり実施例1ないし9では、各クリアランスが大きくばらついており、原料炭全体の第3標準偏差σRo3だけでは、クリアランスを制御できないことがわかる。
【0044】
一方で、図3に示す通り、各実施例1ないし9において、粉炭部の第2標準偏差σRo2とクリアランスとの間には、明瞭な負の相関関係が見られた。図3で認められた相関は、特許文献1等に開示されている成型炭を含まない配合炭を原料とする方法で報告されている傾向と同様である。ここで、図3に白色の四角で示すシンボルは、粉炭と成型炭とのそれぞれで原料炭の配合を同一とした比較例1ないし3を示している。そのため、比較例1ないし3のそれぞれでは、成型炭におけるビトリニットの反射率の第1標準偏差σRo1と、粉炭部におけるビトリニットの反射率の第2標準偏差σRo2とは等しくなっている。成型炭における原料炭の配合と粉炭における原料炭の配合とを同じとした場合すなわち各比較例1ないし3と、成型炭における原料炭の配合と粉炭における原料炭の配合とを互いに異ならせた場合すなわち各実施例1ないし9とで、上述した負の相関関係となる傾向に大きな違いはなく、どちらの場合であっても、粉炭部の第2標準偏差σRo2がクリアランスに大きな影響を及ぼすことが明らかとなった。
【0045】
他方、成型炭の第1標準偏差σRo1とクリアランスの関係は図4に示す傾向となる。図4の結果によれば、成型炭の第1標準偏差σRo1が大きくなってもクリアランスは特には小さくならない。かえって成型炭の第1標準偏差σRo1が大きい場合には、クリアランスが大きくなる傾向となっている。しかしながら、この実験では、成型炭の第1標準偏差σRo1が大きい例では、粉炭の第2標準偏差σRo2が小さくなる条件となっている。そのため、粉炭の第2標準偏差σRo2が小さくなったことによりクリアランスが増大していると考えられる。この結果により、成型炭配合法においては、成型炭の第1標準偏差σRo1のクリアランスに対する影響は小さいことがわかる。
【0046】
したがって、成型炭配合法においては、成型炭の第1標準偏差σRo1が増大したとしても、粉炭の第2標準偏差σRo2を低下せることがクリアランスの拡大に有効であることが分かる。すなわち、成型炭における原料炭の配合と粉炭部における原料炭の配合とを互いに異ならせ、配合炭全体の第3標準偏差σRo3を増大させる原因となる原料炭つまり非微粘結炭を、成型炭に配合することによって、クリアランスの減少を抑止することができる。その結果、成型炭配合法においては、従来よりも、非微粘結炭の使用量を増大させたとしても、押詰りの問題を回避しつつ、安定的なコークス製造が可能となるという効果を得ることができる。
【0047】
表1に示す例では、実施例1ないし9のいずれにおいても、成型炭の第1標準偏差σRo1は粉炭の第2標準偏差σRo2よりも大きい値となっている(σRo1>σRo2)。また、成型炭の第1標準偏差σRo1は配合炭全体の第3標準偏差σRo3よりも大きい値となっており、さらに、配合炭全体の第3標準偏差σRo3は粉炭の第2標準偏差σRo2よりも大きい値となっている(σRo1>σRo3>σRo2)。したがって、このような条件となるように、配合炭を構成する複数の原料炭の配合割合を調整することが好ましい。
【0048】
非微粘結炭の使用量を増大させることができ、かつ、クリアランスを増大させることができるより好ましい原料炭の配合条件を明確にするために、成型炭の第1標準偏差σRo1と粉炭の第2標準偏差σRo2との差ΔσRoを算出して指標とし、当該差ΔσRoとクリアランスとの相関関係を整理した。その結果を図5に示してある。また、配合炭全体の第3標準偏差σRo3が0.245%以下の場合(σRo3≦0.245%)と、第3標準偏差σRo3が0.245%よりも大きい場合(σRo3>0.245%)とに層別した。図5には、配合炭全体の第3標準偏差σRo3が0.245%以下の場合における差ΔσRoを、白色の菱形のシンボルで示してあり、第3標準偏差σRo3が0.245%よりも大きい場合における差ΔσRoを、黒色の四角形のシンボルで示してある。なお、上記の層別の基準とする値(以下、閾値αと記す。0.245%)は、図2において、第3標準偏差σRo3が0.245%を超えると、第3標準偏差σRo3が0.245%以下の場合に比べてクリアランスが12mm前後と小さくなり、コークスの押し出し性に問題が発生しやすくなる例が顕著に増大することに基づいて層別の基準とした。
【0049】
図5に示すように、成型炭の第1標準偏差σRo1と粉炭の第2標準偏差σRo2とがほぼ同程度であると、つまり、差ΔσRoがほぼ「0」であると、第3標準偏差σRo3が閾値αよりも大きい場合のクリアランスは、第3標準偏差σRo3が閾値α以下の場合のクリアランスよりも小さくなった。さらに、差ΔσRoがどの値であっても第3標準偏差σRo3が大きい場合にはクリアランスが小さくなる傾向も認められた。また、差ΔσRoが増大することに伴ってクリアランスが拡大することが認められ、特に差ΔσRoが「0.130%」以上の場合に、そうでない場合に比べてクリアランスの拡大効果が大きくなることが認められた。
【0050】
なお、コークスケーキの押し出し性は、コークス炉における炭化室の状態の影響も受ける。例えば、コークス炉が老朽化して、炭化室の炉壁の凹凸が大きくなっている場合や、炭化室内の温度分布が乱れている場合には、同じ配合炭であっても押し出し性が変わる。また、コークス炉の稼働率によっても押し出し性は変化する。したがって、上述したようなコークス炉の操業においては、当該コークス炉の状態を勘案して押し出し性に問題が発生しない、あるいは、発生しにくい、クリアランスを適宜設定することが好ましい。しかしながら、コークス炉の状態を特には勘案することのない通常のコークス炉の操業においては、図5を参照して、差ΔσRoが0.130%以上となるように配合炭の配合を調整することが好ましい。これは上述したように、差ΔσRoが0.130%以上であれば、そうでない場合に比べてクリアランスの拡大効果が顕著となるためである。
【0051】
コークス原料として用いることが可能な原料炭のうち、いわゆる粘結炭と比較して粘結性の劣る非微粘結炭のビトリニットの平均最大反射率は、一般的な原料炭の範囲の両端、あるいは、範囲外に多く存在する。一般的な原料炭の範囲とは、概ねビトリニットの平均最大反射率が0.6%以上1.7%以下の範囲である。したがって、配合炭全体に占める非微粘結炭の使用量(配合量)を増加させようとすると、すなわち、成型炭と粉炭部とのいずれにおいても非微粘結炭の使用量を増加させようとすると、配合炭全体の第3標準偏差σRo3が大きくなってしまう。またこれにより、配合炭全体の第3標準偏差σRo3が0.245%を超える場合には、クリアランスが低位となり、押し出し性の悪化が懸念される。
【0052】
しかしながら、本発明の方法によれば、例えば、配合炭全体の第3標準偏差σRo3が0.245%を超える場合であっても、差ΔσRoを拡大し、粉炭部の第2標準偏差σRo2を低減させることで、クリアランスを増大させることができる。具体的には、石炭化度が一般的な原料炭の範囲の両端、あるいは、範囲外に存在するような石炭すなわち、粘結炭と比較して安価な非微粘結炭の使用量を従来以上に増大させつつ、クリアランスを維持できる。そのため、押し出し性を良好に保つことでコークスの安定生産に寄与することができる。より具体的には、図3および表1に示すとおり、粉炭部の第2標準偏差σRo2を0.230%以下に設定すれば、クリアランスが12.3mm以上となることが期待でき、押し出し性の改善が期待できる。そのため、配合炭全体の第3標準偏差σRo3が0.245%を超える場合に、粉炭部の第2標準偏差σRo2が0.230%以下となるように、配合炭を構成する各原料炭の配合割合を調製することが特に好ましい。
【0053】
なお、上述した試験では、配合炭における粉炭と成型炭との配合割合は、質量比で粉炭が「8」に対して成型炭が「2」(粉炭:成型炭=8:2)となる条件で実施しているが、成型炭の配合比率を変えた場合であっても、クリアランスに対する各標準偏差σRo1,σRo2,σRo3の影響は同様であり、クリアランスに対しては粉炭部の第2標準偏差σRo2の影響が特に大きい。配合炭における成型炭の配合率が増えると、配合炭全体の嵩密度が増加してクリアランスが小さくなる傾向となるが、クリアランスに大きく影響を及ぼす粉炭の配合率が減るため、両者の効果が相殺することとなり、全体としてクリアランスは大きくは変わらないためと考えられる。例えば、詳細は図示しないが、表1の実施例1の配合において、質量比で粉炭が「7」に対して成型炭が「3」(粉炭:成型炭=7:3)となるように、配合炭に粉炭と成型炭とを配合した例では、上述した試験と同様の試験を行うと、クリアランスは12.8mmとなった。このように、配合炭に占める成型炭の配合率を変更した場合であっても、クリアランスはほとんど変わらなかった。
【符号の説明】
【0054】
1 レトルト
2 粉炭部
3 成型炭
4 コークスケーキ
5 一方の炉壁
6 他方の炉壁
7 底板
8 天板
図1
図2
図3
図4
図5