(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023136588
(43)【公開日】2023-09-29
(54)【発明の名称】セメント組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
B28C 7/04 20060101AFI20230922BHJP
【FI】
B28C7/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022042341
(22)【出願日】2022-03-17
(71)【出願人】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100162145
【弁理士】
【氏名又は名称】村地 俊弥
(74)【代理人】
【識別番号】100103539
【弁理士】
【氏名又は名称】衡田 直行
(74)【代理人】
【識別番号】100111202
【弁理士】
【氏名又は名称】北村 周彦
(72)【発明者】
【氏名】阿武 稔也
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 幸一
(72)【発明者】
【氏名】早川 隆之
【テーマコード(参考)】
4G056
【Fターム(参考)】
4G056AA06
4G056AA21
4G056CB31
(57)【要約】
【課題】装置内の閉塞がなく、かつ、二酸化炭素の固定化量を多くすることができ、用途の限定がされにくいセメント組成物を得ることができる製造方法を提供する。
【解決手段】セメント、骨材、セメント分散剤、及び水を含み、かつ、二酸化炭素を固定させてなるセメント組成物を製造するための方法であって、セメントの一部と、水の一部又は全部と、セメント分散剤を混合して、水セメント比が30~100%であるセメント含有混練物を得るセメント含有混練物調製工程と、セメント含有混練物の中に、固定の対象である二酸化炭素の気体の状態である炭酸ガスを供給して、炭酸化混練物を得る炭酸化混練物調製工程と、炭酸化混練物と、セメントの残部と、水の残部と、骨材を混練して、又は、炭酸化混練物と、セメントの残部と、骨材を混練して、セメント組成物を得るセメント組成物調製工程、を含むセメント組成物の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメント、骨材、セメント分散剤、及び水を含み、かつ、二酸化炭素を固定させてなるセメント組成物を製造するための方法であって、
上記セメントの一部と、上記水の一部又は全部と、上記セメント分散剤を混合して、水セメント比が30~100%であるセメント含有混練物を得るセメント含有混練物調製工程と、
上記セメント含有混練物の中に、固定の対象である上記二酸化炭素の気体の状態である炭酸ガスを供給して、炭酸化混練物を得る炭酸化混練物調製工程と、
上記炭酸化混練物と、上記セメントの残部と、上記水の残部と、上記骨材を混練して、又は、上記炭酸化混練物と、上記セメントの残部と、上記骨材を混練して、上記セメント組成物を得るセメント組成物調製工程、
を含むことを特徴とするセメント組成物の製造方法。
【請求項2】
上記セメント組成物の水セメント比が、30~65%である請求項1に記載のセメント組成物の製造方法。
【請求項3】
上記セメント含有混練物調製工程において、上記セメント全量中の上記セメントの一部の量の割合が1~80質量%である請求項1又は2に記載のセメント組成物の製造方法。
【請求項4】
上記セメント含有混練物調製工程において、上記セメントの一部と、上記水の一部を混合し、かつ、上記水全量中の上記水の一部の量の割合が30~99質量%である請求項1~3のいずれか1項に記載のセメント組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメント組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化の抑制のため、二酸化炭素の排出量の低減が重要な課題になっている。
これに関連して、セメント製造工場で発生する排ガス等から回収された二酸化炭素を、コンクリート等に固定化する技術が検討されている。
排ガス等の二酸化炭素含有ガスを、カルシウム含有粉末を含むスラリーに吹き込むことで、二酸化炭素をカルシウム含有粉末に固定化する工程を含む方法として、例えば、特許文献1には、セメントクリンカー粉末、石膏粉末、及び、炭酸化したカルシウム含有粉末を含むセメント粉末組成物を製造するための方法であって、炭酸化前の上記カルシウム含有粉末及び水を含むスラリーの中に、二酸化炭素含有ガスを供給して、炭酸化処理されたスラリーを得る炭酸化工程と、セメント製造用の仕上げミルの中に、セメントクリンカー、石膏、及び、上記炭酸化処理されたスラリーを供給して粉砕し、上記セメント粉末組成物を得る粉砕工程、を含むことを特徴とするセメント粉末組成物の製造方法が記載されている。
また、特許文献2には、セメント混合材の製造方法であって、生コンクリートスラッジまたは廃コンクリート微粉を加熱処理した後に、水と混合してスラリーとするスラリー化工程、前記スラリーに対して炭酸ガスを通過させて炭酸化する炭酸化工程を含むセメント混合材の製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-152631号公報
【特許文献2】特開2021-138574号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
セメントを含むスラリー等に二酸化炭素含有ガスを吹き込むことで、セメントに二酸化炭素を固定化する(以下、「炭酸化処理」ともいう。)場合、二酸化炭素含有ガスの吹き出し口、炭酸化処理を行うための槽内、及び配管内等において、炭酸カルシウムが析出、付着して、二酸化炭素含有ガスの吹き込みができなくなったり、装置が閉塞する場合があるという問題がある。
上記問題を防ぐために、セメントを含むスラリーの水の量を多くして、炭酸化処理を行う方法が考えられる。しかし、スラリーの水の量を多くした場合、炭酸化処理後のセメントを用いたセメント組成物(例えば、コンクリート)の水セメント比が大きくなるため、セメント組成物の用途が限定されるという問題がある。
本発明の目的は、二酸化炭素含有ガスが吹き込まれるセメント含有混練物の水の量を少なくしても、装置内の閉塞がなく、かつ、二酸化炭素の固定化量を多くすることができ、得られるセメント組成物の水セメント比が過度に大きくならないため、用途の限定がされにくいセメント組成物を得ることができるセメント組成物の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、セメントの一部と水の一部又は全部とセメント分散剤を混合して、水セメント比が30~100%である混練物を得る工程と、混練物の中に炭酸ガスを供給して炭酸化混練物を得る工程と、炭酸化混練物とセメントの残部と水の残部と骨材を混練して、又は、炭酸化混練物とセメントの残部と骨材を混練して、セメント組成物を得る工程を含む方法によれば、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、以下の[1]~[4]を提供するものである。
[1] セメント、骨材、セメント分散剤、及び水を含み、かつ、二酸化炭素を固定させてなるセメント組成物を製造するための方法であって、上記セメントの一部と、上記水の一部又は全部と、上記セメント分散剤を混合して、水セメント比が30~100%であるセメント含有混練物を得るセメント含有混練物調製工程と、上記セメント含有混練物の中に、固定の対象である上記二酸化炭素の気体の状態である炭酸ガスを供給して、炭酸化混練物を得る炭酸化混練物調製工程と、上記炭酸化混練物と、上記セメントの残部と、上記水の残部と、上記骨材を混練して、又は、上記炭酸化混練物と、上記セメントの残部と、上記骨材を混練して、上記セメント組成物を得るセメント組成物調製工程、を含むことを特徴とするセメント組成物の製造方法。
【0006】
[2] 上記セメント組成物の水セメント比が、30~65%である前記[1]に記載のセメント組成物の製造方法。
[3] 上記セメント含有混練物調製工程において、上記セメント全量中の上記セメントの一部の量の割合が1~80質量%である前記[1]又は[2]に記載のセメント組成物の製造方法。
[4] 上記セメント含有混練物調製工程において、上記セメントの一部と、上記水の一部を混合し、かつ、上記水全量中の上記水の一部の量の割合が30~99質量%である前記[1]~[3]のいずれかに記載のセメント組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明のセメント組成物の製造方法によれば、二酸化炭素含有ガスが吹き込まれるセメント含有混練物の水の量を少なくしても、装置内の閉塞がなく、かつ、二酸化炭素の固定化量を多くすることができ、得られるセメント組成物の水セメント比が過度に大きくならないため、用途の限定がされにくいセメント組成物を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明のセメント組成物の製造方法は、セメント、骨材、セメント分散剤、及び水を含み、かつ、二酸化炭素を固定させてなるセメント組成物を製造するための方法であって、セメントの一部と、水の一部又は全部と、セメント分散剤を混合して、水セメント比が30~100%であるセメント含有混練物を得るセメント含有混練物調製工程と、セメント含有混練物の中に、固定の対象である二酸化炭素の気体の状態である炭酸ガスを供給して、炭酸化混練物を得る炭酸化混練物調製工程と、炭酸化混練物と、セメントの残部と、水の残部と、骨材を混練して、又は、炭酸化混練物と、セメントの残部と、骨材を混練して、セメント組成物を得るセメント組成物調製工程を含む方法である。
以下、工程ごとに詳しく説明する。
【0009】
[セメント含有混練物調製工程]
本工程は、セメントの一部と、水の一部又は全部と、セメント分散剤を混合して、水セメント比が30~100%であるセメント含有混練物を得る工程である。
上記セメントとしては、特に限定されるものではなく、例えば、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント等の各種ポルトランドセメントや、高炉セメント、フライアッシュセメント等の混合セメントや、エコセメント等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
中でも、汎用性等の観点から、普通ポルトランドセメントが好ましい。
【0010】
セメントの全量(セメント組成物に含まれるセメントの全量)中の上記セメントの一部の量の割合は、好ましくは1~80質量%、より好ましくは10~78質量%、さらに好ましくは20~75質量%、さらに好ましくは30~72質量%、さらに好ましくは40~70質量、さらに好ましくは50~70質量%、特に好ましくは60~70質量%である。上記割合が1質量%以上であれば、セメント組成物に固定化される二酸化炭素の量がより多くなる。上記割合が80質量%以下であれば、セメント組成物の強度発現性がより向上する。
【0011】
上記水としては、特に限定されず、例えば、上水道水、スラッジ水等が挙げられる。
本工程において、水の一部を混合する場合、水の全量(セメント組成物に含まれる水の全量)中の水の一部の量の割合は、好ましくは30~99質量%、より好ましくは32~90質量%、さらに好ましくは35~80質量%、さらに好ましくは38~70質量%、さらに好ましくは40~60質量%、特に好ましくは40~50質量%である。上記割合が30質量%以上であれば、セメント含有混練物の流動性がより向上し、後述の炭酸化混練物調製工程において、セメント含有混練物に、均質に炭酸ガスを供給しやすくなる。上記割合が99質量%以下であれば、セメント組成物に含まれる空気量がより大きくなるため、セメント組成物の流動性がより向上する。
【0012】
本工程における、セメント含有混練物の水セメント比は、30~100%、好ましくは35~95%、より好ましくは40~90%、さらに好ましくは50~80%、特に好ましくは55~70%である。上記比が30%以上であれば、セメント含有混練物の流動性がより向上し、後述の炭酸化混練物調製工程において、セメント含有混練物に、均質に炭酸ガスを供給することが容易になる。上記比が100%以下であれば、セメント組成物に固定化される二酸化炭素の量がより多くなる。また、得られるセメント組成物の水セメント比が過度に大きくならないため、セメント組成物の用途が限定されにくくなる。
なお、水セメント比とは、水(本工程では、水の一部又は全部)とセメント(本工程では、セメントの一部)の質量比(水/セメント)を百分率(%)で表したものである。
本工程において、セメントの一部と、水の一部または全部を混合する方法は特に限定されず、例えば、撹拌槽等に水の一部または全部を投入し、次いで、セメントの一部を投入した後、混合してもよく、撹拌槽等に水の一部又は全部とセメントの一部を同時に投入した後、混合してもよい。
【0013】
セメント分散剤の例としては、減水剤、AE減水剤、高性能減水剤及び高性能AE減水剤等が挙げられる。中でも、セメント組成物の流動性を改善する観点から、遅延形の、減水剤、AE減水剤、又は高性能AE減水剤が好ましい。
これらは1種を単独で用いてもよいが、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
セメント分散剤の量は、セメントの全量(セメント組成物に含まれるセメントの全量)100質量部に対して、好ましくは0.1~5.0質量部、より好ましくは0.3~4.0質量部、さらに好ましくは0.5~3.0質量部、さらに好ましくは0.8~2.5質量部、特に好ましくは1.0~2.0質量部である。上記量が0.1質量部以上であれば、セメント含有混練物調製工程及び炭酸化混練物調製工程において、機械内の閉塞がより起こりにくくなる。また、二酸化炭素の固定化量をより大きくすることができる。上記量が5.0質量部以下であれば、材料にかかるコストをより低減することができる。
なお、セメント含有混練物調製工程において、通常、セメント分散剤の全量が用いられる。ただし、本発明において、セメント分散剤の一部を、後述するセメント組成物調製工程で投入してもよい。この実施形態も、本発明に包含されるものである。この場合、セメント組成物に含まれるセメント分散剤の全量100質量%中の上記セメント分散剤の一部の量の割合は、好ましくは10~80質量%、より好ましくは20~70質量%、特に好ましくは30~60質量%である。
【0014】
[炭酸化混練物調製工程]
本工程は、セメント含有混練物調製工程の後に設けられる工程であって、前工程で得られたセメント含有混練物の中に、固定の対象である二酸化炭素の気体の状態である炭酸ガスを供給して、炭酸化混練物を得る工程である。
本工程において、セメント含有混練物に均質に炭酸ガスを供給する観点から、セメント含有混練物を流動させながら炭酸ガスを供給することが好ましい。
セメント含有混練物の中に炭酸ガスを供給する方法としては、例えば、以下の(i)~(iii)の方法等が挙げられる。
(i) セメント含有混練物調製工程で用いたセメント含有混練物を得るための撹拌槽内に、セメント含有混練物中に炭酸ガスを供給するための炭酸ガス供給手段を設置し、セメント含有混練物の中に炭酸ガスを供給する方法。
より具体的な例としては、セメントと水を撹拌し混合してセメント含有混練物を得るための撹拌槽と、該撹拌槽の中の混合物収容用空間内に配設された、炭酸ガス供給手段(例えば、散気板)を備えた装置内において、上述のセメント含有混練物調製工程で得たセメント含有混練物を撹拌しながら、該セメント含有混練物の中に、上記炭酸ガス供給手段を用いて炭酸ガスを吹き込んで、炭酸化混練物を得る方法が挙げられる。
【0015】
(ii) セメント含有混練物を、セメント含有混練物を収容するための撹拌槽から、炭酸ガスを供給するための炭酸ガス供給手段(例えば、散気板)を有する装置内に移送した後、該装置内でセメント含有混練物の中に炭酸ガスを吹き込んで、炭酸化混練物を得て、次いで、該炭酸化混練物を、炭酸化混練物を収容するための炭酸化混練物槽に移送する方法。
なお、上記撹拌槽と上記炭酸化混練物槽は、同一のものであってもよく、異なるものであってもよい。
【0016】
より具体的な例としては、セメントと水を撹拌し混合してセメント含有混練物を得るための撹拌槽に収容された、セメントの一部と水の一部又は全部を混合してなる混合物(セメント含有混練物調製工程で得られたセメント含有混練物)を、炭酸ガスを供給するための炭酸ガス供給手段(例えば、散気板)を有する装置内に、ポンプ等を用いて、上記撹拌槽の中の上記混合物を上記装置内に供給するための第一の流通路を通して移送した後、上記装置内において、上記混合物を撹拌しながら、上記混合物の中に炭酸ガスを供給し、次いで、炭酸ガス供給後の混合物を、上記撹拌槽に、ポンプ等を用いて、上記装置内の上記混合物を上記撹拌槽に供給するための第二の流通路を通して移送して、炭酸化混練物を得る方法が挙げられる。
上記装置の例としては、上記混合物を収容しかつ撹拌するための混合物収容槽と、該混合物収容槽の中の混合物収容用空間内に配設された、上記炭酸ガスを供給するための散気手段(例えば、散気板)を備えたものが挙げられる。
また、上記混合物を、十分な量の炭酸ガスが供給されるまで、上記撹拌槽、上記第一の流通路、上記装置、及び、上記第二の流通路の順に繰り返し循環させてもよい。
さらに、炭酸化混練物を得た後、上記炭酸化混練物を、炭酸化混練物槽とは異なる、炭酸化混練物を貯蔵するための貯蔵槽に一旦貯蔵して、該貯蔵槽から、上記炭酸化混練物を、適宜、上記炭酸化混練物槽に供給してもよい。
【0017】
(iii) セメント含有混練物を、セメント含有混練物を収容するための撹拌槽から、炭酸化混練物を収容するための炭酸化混練物槽に移送する際に、セメント含有混練物の中に炭酸ガスを吹き込む方法。
より具体的な例としては、セメントと水を撹拌し混合してセメント含有混練物を得るための撹拌槽内に収容された、セメントの一部と水の一部又は全部を混合してなる混合物(上記セメント含有混練物調製工程で得られたセメント含有混練物)を、上記撹拌槽から供給された上記混合物を流通させるための管路内で流通させながら、上記混合物の中に炭酸ガスを供給かつ撹拌して、炭酸化混練物を得た後、該炭酸化混練物を上記炭酸化混練物槽に移送する方法が挙げられる。
【0018】
上記管路としては、例えば、上記管路内を流通している上記混合物に上記炭酸ガスを供給するための炭酸ガス供給口を有し、上記混合物と上記炭酸ガスを撹拌して混合することのできる形態を有するものが挙げられる。具体的には、管路内に、上記炭酸ガスを供給するための散気手段(例えば、散気板)、及び、撹拌手段(例えば、ラインミキサーやスタティックミキサー)を配設したものが挙げられる。
また、上記混合物の中に炭酸ガスを供給した後、該混合物を、炭酸化混練物槽に移送せずに、上記撹拌槽に戻してもよい。さらに、上記混合物を、上記撹拌槽、及び、上記管路内の順に繰り返し循環させて、十分な量の炭酸ガスを供給した後、上記混合物を炭酸化混練物として、炭酸化混練物槽に移送してもよい。
また、上記方法において、上記炭酸化混練物を得た後、炭酸化混練物を貯蔵するための混練物貯蔵槽に一旦貯蔵して、該貯蔵槽から、上記炭酸化混練物を、適宜、上記炭酸化混練物槽に供給してもよい。
【0019】
セメント組成物に固定化される二酸化炭素の量を増加させる観点から、炭酸ガスの供給は、セメント含有混練物の表面の加圧下(例えば、セメント含有混練物を収容してなるタンクの内部圧力を、大気圧を超える1,200hPa以上に高めるなど)で行ってもよい。
このことから、炭酸ガスを供給するための炭酸ガス供給手段は加圧できる構造のものが好ましい。
【0020】
また、炭酸ガス(二酸化炭素ガス)は、炭酸ガスのみからなる気体として、セメント含有混練物に供給されてもよいが、入手の容易性等の観点から、炭酸ガスを含む気体として、セメント含有混練物に供給されてもよい。
炭酸ガスを含む気体中の炭酸ガスの割合は、好ましくは5体積%以上、より好ましくは10体積%以上、さらに好ましくは20体積%以上、さらに好ましくは50体積%以上、さらに好ましくは80体積%以上、特に好ましくは90体積%以上である。該割合が5体積%以上であれば、セメント組成物に固定化される二酸化炭素の量をより増やすことができる。また、炭酸ガスの供給に要する時間を短くすることができる。
炭酸ガスを含む気体の例としては、セメント製造工程において発生した排ガス(炭酸ガス濃度:約20体積%)、製鉄工程において発生した排ガス(炭酸ガス濃度:約20体積%)、火力発電工程において発生した排ガス(炭酸ガス濃度:約10体積%)、及び、これらの排ガスからの分離回収ガス(炭酸ガス濃度:約100体積%)等が挙げられる。
【0021】
本工程において、炭酸ガスの供給は、炭酸化混練物のpHが、好ましくは5.0~11.5、より好ましくは5.5~11.0、さらに好ましくは6.0~10.0、特に好ましくは6.5~9.5の範囲内となるように行われる。上記pHが5.0以上となるように炭酸ガスの供給を行った場合、セメント組成物の強度発現性がより向上する。また、炭酸ガスの供給に要する時間が短くなり、本発明の方法における製造効率がより向上する。上記pHが11.5以下となるように炭酸ガスの供給を行った場合、セメント組成物に固定化される二酸化炭素の量がより多くなる。なお、炭酸ガスを供給することによって、炭酸化混練物のpHは低下する。
セメント組成物に固定化される二酸化炭素の量を十分に多くするために必要な、炭酸ガスの供給時間は、水セメント比、炭酸ガス供給手段、該手段を用いて供給される炭酸ガスを含む気体の炭酸ガス濃度等によって変わる。このため、本工程において、炭酸ガスの供給を終了するタイミングは、炭酸化混練物のpHの実測値を基に定めることが好ましい。
【0022】
[セメント組成物調製工程]
本工程は、炭酸化混練物調製工程の後に設けられる工程であって、前工程で得られた炭酸化混練物と、セメントの残部と、水の残部と、骨材を混練して、又は、炭酸化混練物と、セメントの残部と、骨材を混練して、セメント組成物を得る工程である。
セメントの全量(セメント組成物に含まれるセメント全量)中の上記セメントの残部の量の割合は、好ましくは20~99質量%、より好ましくは22~90質量%、さらに好ましくは25~80質量%、さらに好ましくは28~70質量%、さらに好ましくは30~60質量%、さらに好ましくは30~50質量%、特に好ましくは30~40質量%である。上記割合が20質量%以上であれば、セメント組成物の強度発現性がより向上する。上記割合が99質量%以下であれば、セメント組成物に固定化される二酸化炭素の量をより多くすることができる。
【0023】
本発明で用いられる骨材としては、細骨材のみ、または、細骨材と粗骨材の組み合わせが挙げられる。また、天然骨材、人工骨材、再生骨材のいずれも用いることができる。
細骨材としては、特に限定されず、例えば、川砂、山砂、陸砂、海砂、砕砂、珪砂、スラグ細骨材、及び軽量細骨材、又は、これらの中から選ばれる2種以上からなる混合物等が挙げられる。
粗骨材としては、特に限定されず、例えば、川砂利、山砂利、陸砂利、海砂利、砕石、スラグ粗骨材、及び軽量粗骨材、又は、これらの中から選ばれる2種以上からなる混合物等が挙げられる。
骨材の配合量(細骨材と粗骨材を併用する場合は、各々の配合量)は特に限定されず、モルタル又はコンクリートにおける一般的な配合量であればよい。
【0024】
本工程において、炭酸化混練物とセメントの残部と水の残部を混練する場合、水の全量(セメント組成物に含まれる水の全量)中の上記水の残部の量の割合は、好ましくは1~70質量%、より好ましくは10~68質量%、さらに好ましくは20~65質量%、さらに好ましくは30~62質量%、さらに好ましくは40~60質量%、特に好ましくは40~50質量%である。上記割合が1質量%以上であれば、セメント組成物に含まれる空気量をより大きくすることができ、セメント組成物の流動性がより向上する。上記割合が70質量%以下であれば、セメント含有混練物調製工程において得られるセメント含有混練物の流動性が、相対的に向上するため、炭酸化混練物調製工程において、セメント含有混練物に、均質に炭酸ガスを供給しやすくなる。
【0025】
本工程において、炭酸化混練物とセメントの残部と水の残部と骨材を混練する場合、各材料を混練する順番は特に限定されるものではなく、例えば、(i)炭酸化混練物とセメントの残部と骨材を混練した後、次いで、混練物に水の残部を投入して混練する方法、(ii)炭酸化混練物と水の残部を混練した後、次いで、混練物にセメントの残部と骨材を投入して混練する方法等が挙げられる。中でも、セメント組成物の流動性の向上の観点から、(i)炭酸化混練物とセメントの残部と骨材を混練した後、次いで、混練物に水の残部を投入して混練する方法が好ましい。
【0026】
なお、セメント含有混練物調製工程及びセメント組成物調製工程において、通常、水の全量が用いられる。ただし、本発明において、水の一部を、上述した炭酸化混練物調製工程で投入してもよい。この実施形態も、本発明に包含されるものである。この場合、水の全量100質量%中の上記水の一部の量の割合は、好ましくは10質量%以下、より好ましくは8質量%以下、特に好ましくは5質量%以下である。
【0027】
また、セメント組成物の水セメント比(セメント組成物に含まれる、水の全量と、セメントの全量の質量比(〔(水の全量)/(セメントの全量)〕を百分率(%)で表したもの)は、好ましくは30~65%、より好ましくは35~60%、特に好ましくは40~55%である。上記比が30%以上であれば、前述のセメント組成物調製工程における混練の作業性、得られたセメント組成物を打設するときの作業性(セメント組成物の流動性)がより向上する。上記比が65%以下であれば、セメント組成物の強度発現性がより向上する。また、セメント組成物の用途が限定されにくくなる。
【0028】
また、セメント組成物は、セメント組成物の空気連行性及び流動性をより向上する観点から、AE剤を含むことが好ましい。AE剤は、通常、セメント含有混練物調製工程とセメント組成物調製工程のいずれか一方又は両方で供給し、混合又は混練される。中でも、セメント組成物の空気連行性及び流動性をより向上する観点から、セメント組成物調製工程において供給し、混練されることが好ましい。また、AE剤は、通常、水と予め混合された後、供給される。
また、セメント組成物の凝結を遅延、調整させる目的で、セメント組成物は、グルコン酸、クエン酸、及び酒石酸等の遅延剤を使用してもよい。
さらに、セメント組成物は、必要に応じて、フライアッシュ、シリカフューム、高炉スラグ微粉末等の各種混和材、消泡剤、流動化剤等の各種混和剤を含んでいてもよい。各種混和材、混和剤の混合方法は、特に限定されないが、製造の効率性や、炭酸化混練物調製工程において炭酸化混練物のpHに影響を与えない等の観点から、セメント組成物調製工程において供給し、混練されることが好ましい。
【実施例0029】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[使用材料]
(1)セメント;太平洋セメント社製、普通ポルトランドセメント
(2)細骨材;山砂
(3)粗骨材;砕石
(4)セメント分散剤1;AE減水剤、ポゾリスソリューションズ社製、商品名「マスターポリヒード15S」
(5)セメント分散剤2;高性能AE減水剤、ポゾリスソリューションズ社製、商品名「マスターグレニウムSP8SV」
(6)AE剤;ポゾリスソリューションズ社製、商品名「マスターエア303A」
(7)消泡剤:ポゾリスソリューションズ社製、商品名「マスターエア404」
(8)水;上水道水
【0030】
[参考例1~2]
水セメント比(水とセメントの質量比を百分率で表したもの)が表1の数値となる量のセメントと水を、容器内でハンドミキサを用いて60秒間混練して混合物(セメント含有混練物、温度:23℃)を得た。
上記容器内の混合物を、流通路を通して、上記混合物に炭酸ガスを供給するための無気泡溶解水製造装置(巴商会社製、商品名「高濃度気体溶解装置」)に移送した後、該装置内で上記混合物に二酸化炭素を供給し、次いで、上記流通路とは異なる流通路を通して、上記容器内に上記混合物を移送することを繰り返して、上記混合物を循環させ、炭酸化混練物を得た。
循環を8時間行っても、装置内で閉塞が起こらず、炭酸化混練物が得られたものを「〇」、循環の途中で、装置内で閉塞が起こったものを「×」と評価した。
【0031】
[参考例3~5]
水セメント比が表1の数値となる量のセメントと水と、表1に示す量となるAE減水剤を、容器内でハンドミキサを用いて60秒間混練して混合物(セメント含有混練物、温度:23℃)を得た(本発明のセメント含有混練物調製工程に該当)。上記混合物を用いる以外は、参考例1と同様にして、炭酸化混練物を得た(本発明の炭酸化混練物調製工程に該当)。
循環を8時間行っても、装置内で閉塞が起こらず、炭酸化混練物が得られたものを「〇」、循環の途中で、装置内で閉塞が起こったものを「×」と評価した。
結果を表1に示す。
【0032】
【0033】
[実施例1~2]
セメント含有混練物調製工程として、表2に示す単位量となる量のセメントの一部と水の一部とAE減水剤を、容器内でハンドミキサを用いて60秒間混練して混合物(セメント含有混練物、温度:23℃)を得た。
炭酸化混練物調製工程として、上記容器内の混合物を、参考例1と同様にして、無気泡溶解水製造装置(巴商会社製、商品名「高濃度気体溶解装置」)を用いて、8時間循環させ、炭酸化混練物を得た。
セメント組成物調製工程として、表2に示す単位量のセメントの残部と細骨材と粗骨材を30秒間空練りしてなる混合物と、上記炭酸化混練物を、2軸強制練ミキサを用いて60秒間混練して混練物を得た。次いで、ミキサの内壁に付着した上記混練物を掻き落とした後、表2に示す単位量の水の残部と表2に示す量となるAE剤を混合してなる液状物とを添加して、60秒間混練し、セメント組成物を得た。
なお、表2、4に示す単位量とは、最終的に得られるセメント組成物1m3に対する各材料の量(質量)を示すものとする。
【0034】
得られたコンクリート(セメント組成物)のスランプを、「JIS A 1101:2020(コンクリートのスランプ試験方法)」に準拠して測定した。
また、得られたコンクリートの材齢7日及び28日の圧縮強度を、「JIS A 1108:2018(コンクリートの圧縮強度試験方法)」に準拠して測定した。
さらに、圧縮強度を測定するため用いた材齢28日のコンクリートの供試体のモルタル部分の二酸化炭素の割合(質量%)を、熱重量-示差熱分析(TG-DTA)を用いて求めた。具体的には、上記供試体を粉砕して粗骨材を除去した後、粗骨材が除去された試料(モルタル部分)について、熱重量-示差熱分析(TG-DTA)を行い、測定結果から、550~800℃付近の吸熱ピーク範囲における質量の減少を、上記モルタル部分に含まれている炭酸カルシウムの脱炭酸によるものと判断し、上記減少の量から、コンクリートの供試体のモルタル部分中の二酸化炭素の割合(質量%;炭酸カルシウムの二酸化炭素換算の値)を算出した。
【0035】
[比較例1]
表2に示す単位量となる量のセメントと細骨材と粗骨材を、2軸強制練ミキサを用いて30秒間空練りした。次いで、表2に示す単位量の水と表2に示す量となるAE減水剤とAE剤を混合してなる液状物を添加して、60秒間混練した。ミキサの内壁に付着した混練物を掻き落とした後、さらに60秒間混練し、セメント組成物を得た。
得られたコンクリート(セメント組成物)のスランプの測定等を実施例1と同様にして測定した。
[比較例2]
セメント含有混練物調製工程においてAE減水剤を使用せず、かつ、セメント組成物調製工程において、表2に示す単位量の水の残部と表2に示す量となるAE剤及びAE減水剤を混合してなる液状物を添加する以外は実施例1と同様にしてセメント組成物を得た(セメント組成物調製工程)。
得られたコンクリート(セメント組成物)のスランプの測定等を実施例1と同様にして測定した。
結果を表3に示す。
【0036】
【0037】
【0038】
[実施例3]
セメント含有混練物調製工程として、表4に示す単位量となる量のセメントの一部と水の一部とAE減水剤を、容器内でハンドミキサを用いて60秒間混練して混合物(セメント含有混練物、温度:23℃)を得た。
炭酸化混練物調製工程として、上記容器内の混合物を、参考例1と同様にして、無気泡溶解水製造装置(巴商会社製、商品名「高濃度気体溶解装置」)を用いて、8時間循環させ、炭酸化混練物を得た。
セメント組成物調製工程として、表4に示す単位量のセメントの残部と細骨材と粗骨材を30秒間空練りしてなる混合物と、上記炭酸化混練物を、2軸強制練ミキサを用いて60秒間混練して混練物を得た。次いで、ミキサの内壁に付着した上記混練物を掻き落とした後、表4に示す単位量の水の残部と表4に示す量となる消泡剤及び高性能AE減水剤を混合してなる液状物とを添加して、60秒間混練し、セメント組成物を得た。
得られたコンクリート(セメント組成物)のスランプフローを、「JIS A 1150:2020(コンクリートのスランプフロー試験方法)」に準拠して測定した。
また、得られたコンクリートの材齢7日及び28日の圧縮強度の測定、及び、材齢28日のコンクリートの供試体のモルタル部分の二酸化炭素の割合(質量%)の算出を実施例1と同様にして行った。
【0039】
[比較例3]
表4に示す単位量となる量のセメントと細骨材と粗骨材を2軸強制練ミキサを用いて30秒間空練りした。次いで、表4に示す単位量の水と表4に示す量となる消泡剤及び高性能AE減水剤を混合してなる液状物を添加して、60秒間混練した。ミキサの内壁に付着した混練物を掻き落とした後、さらに60秒間混練し、セメント組成物を得た。
得られたコンクリート(セメント組成物)のスランプフローの測定等を実施例3と同様にして行った。
[比較例4]
セメント含有混練物調製工程においてAE減水剤を使用せず、かつ、セメント組成物調製工程において、表4に示す単位量の水の残部と表4に示す量となる消泡剤及び高性能AE減水剤を混合してなる液状物を添加する以外は実施例3と同様にしてセメント組成物を得た(セメント組成物調製工程)。
得られたコンクリート(セメント組成物)のスランプフローの測定等を実施例3と同様にして行った。
【0040】
【0041】
【0042】
表1の参考例3~5から、セメント含有混練物調製工程においてAE減水剤を用いることで、水セメント比が40~80%であっても、炭酸化混練物調製工程において装置内の閉塞が起こらないことがわかる。
また、表3、5から、実施例1~3のモルタル部分中の二酸化炭素の含有率(6.83~11.29質量%)は、比較例1~4のモルタル部分中の二酸化炭素の含有率(1.89~3.14質量%)よりも大きく、本発明によれば、より多くの二酸化炭素を固定化できることがわかる。