(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023136598
(43)【公開日】2023-09-29
(54)【発明の名称】運転支援システム、および運転支援方法
(51)【国際特許分類】
B61L 27/12 20220101AFI20230922BHJP
【FI】
B61L27/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022042361
(22)【出願日】2022-03-17
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110002365
【氏名又は名称】弁理士法人サンネクスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】牧 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】三田寺 剛
【テーマコード(参考)】
5H161
【Fターム(参考)】
5H161AA01
5H161JJ01
5H161JJ21
5H161JJ24
5H161JJ32
5H161JJ36
(57)【要約】
【課題】走行時分や消費電力量を適正に評価し、列車運行の省エネ化を実現できる運転支援システムおよび運転支援方法を提供する。
【解決手段】
運転支援システムは、運行データ記録部と、消費電力量算出部と、走行時分算出部と、消費電力量および走行時分について、それぞれの比較対象である参考消費電力量および参考走行時分を設定し、前記消費電力量と前記参考消費電力量の比較結果および前記走行時分と前記参考走行時分の比較結果に基づいて、列車の運行時における運転手の運転評価を算出する評価指標比較部と、前記運行データ記録部のデータに基づいて、前記列車の運行時に発生した通常運行に対する阻害条件を抽出する通常運行阻害条件抽出部と、前記阻害条件に基づいて、前記参考消費電力量と前記参考走行時分をそれぞれ算出する比較用運行データ作成部と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
列車の運行実績に関する運行データを記録する運行データ記録部と、
前記運行データ記録部に記録された前記運行データに基づいて、前記列車の運行時における駅間の消費電力量を算出する消費電力量算出部と、
前記運行データ記録部に記録された前記運行データに基づいて、前記列車の運行時における駅間の走行時分を算出する走行時分算出部と、
前記消費電力量および前記走行時分について、それぞれの比較対象である参考消費電力量および参考走行時分を設定し、前記消費電力量と前記参考消費電力量の比較結果および前記走行時分と前記参考走行時分の比較結果に基づいて、前記列車の運行時における運転手の運転評価を算出する評価指標比較部と、
前記運行データ記録部に記録された前記運行データに基づいて、前記列車の運行時に発生した通常運行に対する阻害条件を抽出する通常運行阻害条件抽出部と、
前記阻害条件に基づいて、前記参考消費電力量と前記参考走行時分をそれぞれ算出する比較用運行データ作成部と、を備える
運転支援システム。
【請求項2】
請求項1に記載の運転支援システムであって、
前記評価指標比較部で算出される前記運転評価を、前記運転者に対して提示する評価結果提示部を備える
運転支援システム。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の運転支援システムであって、
前記参考走行時分は、前記阻害条件の存在下において、前記列車が出発駅を発車した時刻から、ダイヤ上の到着時刻以降で到着駅に到達できる最も早い到着時刻までの時間である
運転支援システム。
【請求項4】
請求項3に記載の運転支援システムであって、
前記評価指標比較部は、前記走行時分が前記参考走行時分に近いほど高評価となるように、前記運転評価を算出する
運転支援システム。
【請求項5】
請求項1に記載の運転支援システムであって、
前記参考消費電力量は、前記列車が前記参考走行時分で前記駅間を走行する場合において、最も消費電力の少ない走行をした場合に消費する電力量である
運転支援システム。
【請求項6】
請求項5に記載の運転支援システムであって、
前記評価指標比較部は、前記消費電力量が前記参考消費電力量に近いほど高評価となるように、前記運転評価を算出する
運転支援システム。
【請求項7】
請求項1に記載の運転支援システムであって、
前記参考消費電力量は、前記列車が前記参考走行時分で前記駅間を走行する場合においての平均的な消費電力量である
運転支援システム。
【請求項8】
請求項7に記載の運転支援システムであって、
前記評価指標比較部は、前記消費電力量が前記参考消費電力量を下回っている場合に、前記参考消費電力量を上回っている場合よりも高評価となるように、前記運転評価を算出する
運転支援システム。
【請求項9】
請求項1に記載の運転支援システムであって、
前記比較用運行データ作成部は、前記運行データ記録部に記録された過去の運行データのうち前記阻害条件が存在した場合の前記運行データを抽出することで、前記参考走行時分と前記参考消費電力量をそれぞれ算出する
運転支援システム。
【請求項10】
請求項1に記載の運転支援システムであって、
前記比較用運行データ作成部は、前記阻害条件を含んだコンピュータ上での走行シミュレーションによって、前記参考走行時分と前記参考消費電力量を算出する
運転支援システム。
【請求項11】
請求項1に記載の運転支援システムであって、
前記阻害条件は、恒久速度制限上には存在しない追加速度制限である
運転支援システム。
【請求項12】
請求項11に記載の運転支援システムであって、
前記追加速度制限は、信号装置による信号表示によって設定される速度制限である
運転支援システム。
【請求項13】
請求項11に記載の運転支援システムであって、
前記追加速度制限は、気象条件によって設定される速度制限である
運転支援システム。
【請求項14】
請求項11に記載の運転支援システムであって、
前記追加速度制限は、前記列車前方に存在する障害物によって設定される速度制限である
運転支援システム。
【請求項15】
請求項2に記載の運転支援システムであって、
前記評価結果提示部は、さらに前記運転評価に関連する前記阻害条件を表示する
運転支援システム。
【請求項16】
請求項2に記載の運転支援システムであって、
前記評価結果提示部は、さらに前記評価指標比較部において比較された、前記消費電力量と前記参考消費電力量の比較結果および前記走行時分と前記参考走行時分の前記比較結果のうち、少なくとも一方の前記比較結果について、グラフで表示する
運転支援システム。
【請求項17】
列車の運行実績に関する運行データに基づいて、前記列車の運行時における駅間の消費電力量と走行時分を算出し、
前記運行データに基づいて、前記列車の運行時に発生した通常運行に対する阻害条件を抽出し、
前記阻害条件に基づいて、前記参考消費電力量と前記参考走行時分をそれぞれ算出し、
前記消費電力量および前記走行時分と、参考消費電力量および参考走行時分とを比較することで、前記列車の運行時における運転手の運転評価を算出する
運転支援方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、運転支援システム、および運転支援方法に関する。
【背景技術】
【0002】
環境問題対応や運行コスト低減のため、鉄道事業者では列車運行に伴う消費電力量の低減が課題となっている。列車運行に伴った消費電力量を低減する方法のひとつとして、駅間走行の速度パターンの適正化が挙げられる。運転士による駅間走行の速度パターンにはばらつきが存在し、それによって走行時分と消費電力量にばらつきが生じる。そのため、速度パターンのばらつきを低減し、定時性を遵守できる範囲の走行時分で、省エネな運転をすることによって、列車運行に伴う消費電力量の低減する必要がある。
【0003】
省エネな運転を目指した駅間走行の速度パターンのばらつき低減には、運転を自動化する自動列車運転装置の採用のほか、手動運転を前提としたうえで、省エネな運転方法の教育や運転操作をアドバイスする運転支援システムの導入が効果的である。この運転支援システムの導入について、手動運転を前提とした方法は、自動列車運転装置の採用に比べて導入コストが抑えられるため、将来的に自動運転が主流になるまでの間は、手動運転を前提とした速度パターンのばらつき低減が有効である。
【0004】
また、省エネな運転を目指した運転支援システムにおいては、速度パターンのばらつき低減を進める上で、列車の運転士が走行に対してのモチベーションを維持できるかどうかが大きな課題となる。多くの運転士にとっては、従来から慣れ親しんだ運転方法を修正することになるため、少なからず心理的な抵抗が存在する。そのため、省エネな運転方法の定着のためには、省エネ効果が運転士の目に見えて実感できる必要がある。この課題に対応する方法のひとつとして、駅間走行に伴う消費電力量や走行時分、および運転技能の評価を運転台画面に表示する運転支援システムの導入が挙げられる。このようにすることで、駅間走行ごとに自らの運転結果や評価を確認することで、運転方法の工夫に対するモチベーションの維持が期待できる。
【0005】
例えば、特許文献1には、運転方法を教育する運転シミュレータにおいて、消費電力量や走行時分などを点数化し、評価結果として運転士に提示する構成が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載されている技術は、先行列車の影響が無いことを前提とした評価方法である。しかし、鉄道は定時運行が重要であるため、走行時分も考慮した上での消費電力量の評価を行う必要があり、運行状況によっては先行列車の影響などを受け、目標とする走行時分での走行が不可能な場合がある。そのため、先行列車の影響による遅着や、必要に迫られて実施した追加の加減速に伴うエネルギ消費が減点対象となってしまうため、与えられた制約の中で最良の運転がなされた場合でも評価結果が悪くなることがある。このように、適正な運転技能評価とは言えない状況が生じると、運転士が運転方法の工夫に対するモチベーションを維持する上では望ましくない。
【0008】
そこで本発明は、先行列車の影響等の通常運行を阻害する条件があった場合でも、走行時分や消費電力量を適正に評価し、列車運行の省エネ化を実現できる運転支援システムおよび運転支援方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
運転支援システムは、列車の運行実績に関する運行データを記録する運行データ記録部と、前記運行データ記録部に記録された前記運行データに基づいて、前記列車の運行時における駅間の消費電力量を算出する消費電力量算出部と、前記運行データ記録部に記録された前記運行データに基づいて、前記列車の運行時における駅間の走行時分を算出する走行時分算出部と、前記消費電力量および前記走行時分について、それぞれの比較対象である参考消費電力量および参考走行時分を設定し、前記消費電力量と前記参考消費電力量の比較結果および前記走行時分と前記参考走行時分の比較結果に基づいて、前記列車の運行時における運転手の運転評価を算出する評価指標比較部と、前記運行データ記録部に記録された前記運行データに基づいて、前記列車の運行時に発生した通常運行に対する阻害条件を抽出する通常運行阻害条件抽出部と、前記阻害条件に基づいて、前記参考消費電力量と前記参考走行時分をそれぞれ算出する比較用運行データ作成部と、を備える。
また、運転支援方法では、列車の運行実績に関する運行データに基づいて、前記列車の運行時における駅間の消費電力量と走行時分を算出し、前記運行データに基づいて、前記列車の運行時に発生した通常運行に対する阻害条件を抽出し、前記阻害条件に基づいて、前記参考消費電力量と前記参考走行時分をそれぞれ算出し、前記消費電力量および前記走行時分と、参考消費電力量および参考走行時分とを比較することで、前記列車の運行時における運転手の運転評価を算出する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、通常運行を阻害する条件があった場合でも、走行時分や消費電力量を適正に評価し、列車運行の省エネ化を実現できる運転支援システムおよび運転支援方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施形態に係る、運転支援システムの機能構成を示す図である。
【
図2】通常運行阻害条件および主影響運行阻害要因の例を示す図である。
【
図3】通常運行阻害条件および主影響運行阻害要因の例を示す図である。
【
図4】通常運行阻害条件および主影響運行阻害要因の例を示す図である。
【0012】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。以下の記載および図面は、本発明を説明するための例示であって、説明の明確化のため、適宜、省略および簡略化がなされている。本発明は、他の種々の形態でも実施する事が可能である。特に限定しない限り、各構成要素は単数でも複数でも構わない。
【0013】
図面において示す各構成要素の位置、大きさ、形状、範囲などは、発明の理解を容易にするため、実際の位置、大きさ、形状、範囲などを表していない場合がある。このため、本発明は、必ずしも、図面に開示された位置、大きさ、形状、範囲などに限定されない。
【0014】
(本発明の一実施形態、および全体構成)
【0015】
本発明の運転支援システムは、列車の駅間走行終了時およびそれ以降のタイミングにおいて、当該駅間走行に伴う消費電力量と走行時分に関して評価を行い、列車の運転士に対して評価結果を提示するシステムである。
【0016】
評価をするうえで比較対象となる消費電力量と走行時分の参考値は、列車の運行中に存在した、通常運行を阻害する条件を考慮したうえで決定される。下記の運転支援システムの説明では、列車の通常運行を阻害する条件として、信号装置から取得する先行列車影響による信号現示や、運行管理装置から取得する天候悪化などに起因する臨時速度制限や、障害物検知装置から取得する障害物リスクを例に挙げて、それに対応した速度制限を示している。
【0017】
(
図1)
運転支援システムは、運行データ記録部101、消費電力量算出部102、走行時分算出部103、評価指標比較部104、評価結果提示部105、通常運行阻害条件抽出部106、比較用運行データ作成部107、信号装置108、運行管理装置109および障害物検知装置110から構成される。
【0018】
運行データ記録部101は、列車の運行実績に関連する運行データを記録する装置である。具体的な装置例として、運転状況記録装置が挙げられる。運行データ記録部101は、少なくとも、列車位置、列車速度、運行に伴う電力消費に関する情報、速度制限に関する情報、当該列車の通常運行を阻害する要因について、時系列にデータを記録している。なお、これらの情報を時系列に記録することができる装置であれば、運行データ記録部101は運転状況記録装置に限らず、どのような装置でもよい。
【0019】
運行データ記録部101は、通常運行を阻害する条件の取得元として、信号装置108、運行管理装置109、および障害物検知装置110と接続されている。
図1では、これらの装置が運行データ記録部101に直接接続されているが、必要なデータさえ受信できれば、他装置を経由して間接的に接続されている形態でも構わない。
【0020】
信号装置108は、曲線などの線路条件や先行列車との間隔に応じて、自列車が守るべき制限速度を管理している装置である。本実施形態の信号装置108は車上装置として記載しているが、一般的に地上と車上に分かれて存在する。運行データ記録部101は、信号装置108から、現在の列車位置における制限速度である信号現示160を受信して常時記録している。信号現示160の情報は、運転台画面等によって列車の運転士に知らされる。信号現示160の情報を認識した運転士は、信号現示160を守るように列車速度を制御する。
【0021】
運行管理装置109は、路線内の各列車の運行を統括している地上装置であり、天候悪化などに対応した臨時速度制限情報の発信も行う。運行データ記録部101は、運行管理装置109から、臨時速度制限161を受信して記録している。臨時速度制限161は、路線内における速度制限に関して、対象区間と制限速度の値で定義される。臨時速度制限161の情報は、運転台画面等によって列車の運転士に知らされる。臨時速度制限161を認識した運転士は、臨時速度制限161を守るように列車速度を制御する。
【0022】
障害物検知装置110は、自列車の運行を妨げる障害物のリスクを判定する装置である。外界を認識するためのカメラやレーダなどのセンサを備え、外界の認識結果に応じて、障害物の種類とそれによる運行阻害へのリスクを判定している。運行データ記録部101は障害物検知装置110から、障害物リスク速度制限162を受信して記録している。障害物リスク速度制限162は、路線内における速度制限に関して、対象区間と制限速度の値とで定義される。障害物リスク速度制限162は、運転台画面等によって列車の運転士に知らされる。障害物リスク速度制限162を認識した運転士は、障害物リスク速度制限162を守るように列車速度を制御する。
【0023】
運行データ記録部101は、駅間走行終了時およびそれ以降のタイミングで、消費電力量算出部102へ、電力消費情報151と列車位置153と列車速度154を送信する。電力消費情報151の例として、列車内の各インバータの入力電圧と入力電流が挙げられるが、この場合は、消費電力量算出部102において、列車に搭載されている全インバータについて入力電圧と入力電流の積を合計することで、瞬時ごとの列車の消費電力を算出し、それを対象としている駅間走行の時間範囲について積算することで、実績駅間消費電力量152を算出する。消費電力量算出部102において列車位置153と列車速度154は、対象としている駅間走行の時間範囲を決めるために用いられる。この駅間走行の時間範囲とは、列車が対象としている駅間の発車駅位置において速度がゼロから正になった時刻から、停車駅位置において速度が正からゼロになった時刻までの時間範囲である。このように、消費電力量算出部102では、運行データ記録部101に記録された運行データに基づいて、列車の運行時における駅間の消費電力量152を算出している。消費電力量算出部102で算出された実績駅間消費電力量152は、評価指標比較部104へ送信される。
【0024】
なお、消費電力量算出部102における消費電力の算出においては、入力電流が正の場合のみ、すなわち回生を除いた力行についてのみを消費電力算出の対象としてもよい。そうすることで、他列車の在線状況や制駆動状態の影響を排除して、自列車単独の消費電力量を評価対象とすることができる。
【0025】
運行データ記録部101は、走行時分算出部103へ、列車位置153と列車速度154を送信する。走行時分算出部103では、対象としている駅間走行の発車駅の位置を列車位置153として、速度がゼロから正になった時刻から、列車位置153が停車駅位置にあって速度が正からゼロになった時刻までを、走行時分155として算出する。このように、走行時分算出部103は、運行データ記録部101に記録された運行データに基づいて、列車の運行時における駅間の走行時分155を算出する。走行時分算出部103で算出された走行時分155は、評価指標比較部104へ送信される。
【0026】
運行データ記録部101は、通常運行阻害条件抽出部106へ、列車位置153、追加速度制限情報157を送信する。追加速度制限情報157には、運行データ記録部101が保持している信号現示160、臨時速度制限161および障害物リスク速度制限162の内容がすべて含まれる。
【0027】
通常運行阻害条件抽出部106では、運行データ記録部101から取得する記録された運行データ情報に基づいて、列車の運行時に発生した通常運行に対する阻害条件158を抽出する。通常運行阻害条件158と主影響運行阻害要因163を生成する。このようにすることで、通常運行阻害条件158は、路線内の位置と速度の対応関係で定義される情報として、比較用運行データ作成部107へ送信される。また、主影響運行阻害要因163は、追加速度制限情報157に含まれる速度制限に関する複数の情報を対象に、速度の低位優先で通常運行阻害条件158に実質的に反映された要因を示す情報として、評価結果提示部105に送信される。通常運行阻害条件158および主影響運行阻害要因163の生成方法については、
図2~
図4で後述する。
【0028】
比較用運行データ作成部107は、通常運行阻害条件抽出部106から受信した通常運行阻害条件158を前提として、直近の運転実績と比較するための比較用運行データを作成し、当該運転実績を評価するための評価用参考値159を生成する。比較用運行データとは、時系列の運転データであり、速度、位置、ノッチ操作、およびそれに伴う消費電力の情報が含まれる。比較用運行データの作成方法は、後述する。また、評価用参考値159とは、阻害条件158に基づいて比較用運行データから生成される、比較基準となる駅間の消費電力量(以下、参考駅間消費電力量)と、比較基準となる駅間の走行時分(以下、参考駅間走行時分)であり、評価指標比較部104へ送られる。
【0029】
参考駅間消費電力量は、比較用運行データに含まれる消費電力を駅間走行中に亘って積算することで算出される。参考駅間走行時分の算出は、比較用運行データに含まれる位置情報と速度情報を参照し、列車が発車駅位置にあって速度がゼロから正になった時刻から、列車が停車駅位置にあって速度が正からゼロになった時刻までの時間として算出される。その算出方法は、走行時分算出部103における算出方法と同一である。
【0030】
評価指標比較部104では、比較用運行データ作成部107から受信した評価用参考値159と、消費電力量算出部102から受信した実績駅間消費電力量152と、走行時分算出部103から受信した実績駅間走行時分155とを比較して、評価結果156を生成する。具体的には、消費電力量152および走行時分155について、評価用参考値159に含まれるそれぞれの比較対象である参考消費電力量および参考走行時分を設定し、消費電力量152と参考消費電力量の比較結果および走行時分155と参考走行時分の比較結果に基づいて、列車の運行時における運転手の運転評価である評価結果156を算出する。算出した評価結果156は、評価結果提示部105へ送信される。
【0031】
評価指標比較部104で算出される運転評価である比較結果を受け取った評価結果提示部105では、車両情報装置の運転台画面など目視できる表示装置を介して、運転士に対して情報を表示することで提示する。詳細は
図7~9で後述する。
【0032】
なお、ここまでに説明した各処理部である、消費電力量算出部102、走行時分算出部103、評価指標比較部104、通常運行阻害条件抽出部106、および比較用運行データ作成部107の設置場所については、地上装置と車上装置のどちらに設置されても構わず、必要に応じて地上-車上間で通信を行ってデータの授受を行う。特に、比較用運行データ作成部107は処理が多く、また過去の運行データのデータベースを使用するため、高性能な地上サーバにて処理することで、車上装置のコスト低減・コンパクト化につなげることができる。評価結果提示部105は、車上の運転台画面などに実装されて、駅間走行終了直後に運転士が確認する前提であるが、それ以外に、運転士が持ち運ぶタブレット端末や、地上で使用するコンピュータ端末などに実装する形態でも構わない。
【0033】
(
図2~
図4)
通常運行阻害条件抽出部106において、通常運行阻害条件158および主影響運行阻害要因163の生成方法について説明する。なお、
図2~
図4に共通して、左図には、路線情報として既知である恒久速度制限と、恒久速度制限にはない阻害条件158の情報である追加速度制限情報157に含まれている速度制限情報が、位置と速度の関係で示されている。本実施形態において追加速度制限情報157には、信号現示160、臨時速度制限161および障害物リスク速度制限162の3種類があるが、場合によっては、一部あるいは全ての速度制限情報が発生しないこともある。その場合、追加速度制限情報157には、発生した速度制限情報のみが含まれる。右図には、通常運行阻害条件抽出部106で生成された、通常運行阻害条件158が位置と速度の関係で図示されている。また、右図下部には、通常運行阻害条件158の生成にあたって実質的に影響した(主影響の)速度制限情報として、主影響運行阻害要因163を示した。
【0034】
図2は、追加速度制限情報157が、信号現示160のみである場合の例である。
図2の左図には、駅間全体に亘る恒久速度制限と、着駅近くに存在する信号現示160が示されている。この場合、恒久速度制限と信号現示160について、速度の低位優先をとった右図の速度パターンが、通常運行阻害条件158となる。また、このとき、主影響の運行阻害要因163は、信号現示160のみである。つまり、追加速度制限情報157は、信号装置108による信号現示160によって設定される速度制限である。
【0035】
図3は、追加速度制限情報157が、信号現示160、臨時速度制限161および障害物リスク速度制限162の3種類である場合の例である。
図3の左図には、駅間全体に亘る恒久速度制限と、3種類の速度制限情報が示されており、3種類の速度制限は位置が重なっていない。この場合、恒久速度制限と3種類の速度制限について、速度の低位優先をとった右図の速度パターンが通常運行阻害条件158となる。また、このとき、主影響の運行阻害要因163は、信号現示160、臨時速度制限161および障害物リスク速度制限162の3種類全てである。つまり、追加速度制限情報157は、信号装置108による信号現示160だけでなく、気象条件の悪化等の状況によって設定される臨時速度制限161や列車前方に存在する障害物によって設定される速度制限である。
【0036】
図4は、追加速度制限情報157が、信号現示160、臨時速度制限161および障害物リスク速度制限162の3種類であるが、
図3と異なり制減速度に影響する阻害要因の位置が一部重なっている場合の例である。
図4の左図には、駅間全体に亘る恒久速度制限と、3種類の速度制限情報が示されている。3種類の速度制限のうち、信号現示160と臨時速度制限161の位置は重なっており、臨時速度制限161の区間が信号現示160の区間に包含されている。つまり、制限速度の値は、臨時速度制限161よりも信号現示160の方が低いため、低位側の信号現示160に合わせた速度制限になる。この結果、恒久速度制限と3種類の速度制限について、速度の低位優先をとった右図の速度パターンが通常運行阻害条件158となる。臨時速度制限161は実質的に、通常運行阻害条件158に影響していない。よって、主影響運行阻害要因163は、信号現示160と障害物リスク速度制限162の2種類である。
【0037】
以上説明した恒久速度制限上には存在しない追加速度制限を考慮して、通常運行阻害条件抽出部106が機能することで、新しい制限速度の情報ができるため、これらの情報を用いて、省エネを考慮した最適な走行パターンを探索する。
【0038】
なお、阻害要因はある程度のバリエーションでパターン化でき、たとえば橋のある区間や川のある区間等に限定されるため、過去に同じ条件を検索し、同じ制限速度の形の日に関するデータを取得し、省エネを考慮した最適な走り方、そのときの走行時分、消費電力量を、最終的な判定の閾値にすることもできる。
【0039】
(
図5)
比較用運行データ作成部107において、通常運行阻害条件158を考慮した最速パターンが比較用運行データとなる例を示す。恒久速度制限に加えて追加の速度制限が存在する条件下では、基本的に遅延を最小限にするように走行するべきであると考えられる。そのため、通常運行阻害条件158を考慮した最速パターンが、最良の走行速度パターンになるが、これだけ制限速度がたくさんあると恒久速度制限に対して大きく速度を下げなければならないことで目標よりも遅くなってしまうため、ダイヤより遅れても最速なものを、実績運転との比較用運行データとして最も適したものとして採用する。つまり、ダイヤで定められた走行時分と同じかそれよりも大きい走行時分が、比較用運行データとして採用される。このように、参考走行時分は、阻害条件158の存在下において、列車が出発駅を発車した時刻から、ダイヤ上の到着時刻以降で到着駅に到達できる最も早い到着時刻までの時間である。
【0040】
(
図6)
図6は、比較用運行データ作成部107において、省エネ走行パターン(省エネパターン)が比較用運行データとなる例を示す。前述した
図5の通常運行阻害条件158を考慮した走行速度パターンには最速パターンを適用しているため自由度が生まれない。しかし、省エネを考慮した最速パターンの走行時分が、ダイヤで定められた走行時分よりも短い場合には、ダイヤよりも早く走行できないため(ダイヤで定められた走行時分よりも短い走行時分はできないため)、ダイヤで定められた走行時分に合わせる必要がある。そうすると、省エネを考慮した最適な走行時分には最速パターンの走行時分よりも余裕ができる。この余裕分を活用することで、走行速度パターンに自由度が生まれるようにする。すなわち、ダイヤで定められた走行時分で走行したうえで、算出した最速パターンから最高速度を低下させたり惰行を増加させたりすることで、ダイヤで定められた走行時分でありかつ省エネに駅間走行をする最適な速度パターンを生成することができる。このような場合には、ダイヤで定められた走行時分で走行する、数理的に生成された省エネ走行パターンを比較用運行データとして採用する。
【0041】
なお、省エネパターンの数理的な生成方法については、動的計画法を用いる方法や山登り法を用いる方法など、多くの既存研究があるため、それらの方法を活用することができる。
【0042】
(
図7~
図9)
評価指標比較部104において、過去の運行データ検索および運行シミュレーションを用いて算出する省エネパターン(省エネな走行をする運行データ)、または過去の運行データ検索を用いて算出する平均パターン(平均的な消費電力量で走行する運行データ)に基づいて、参考消費電力量を算出して、参考消費電力量と実績値と比較して評価値を算出する過程について説明する。
【0043】
まず、省エネな走行をする運行データは過去の運行データの検索による方法と運行シミュレーションによる方法の2つの方法について説明する。
【0044】
(過去の運行データの検索を用いた比較用運行データ作成方法)
過去の運行データの検索は、対象駅間について過去に蓄積しておいた運行データ群を用いて行われる。蓄積されている運行データは、時系列の運転データであり、速度、位置、ノッチ操作、消費電力の情報、および制限速度の情報を含んでいる。制限速度の情報とは、信号現示160、臨時速度制限161、障害物リスク速度制限162、および恒久速度制限の低位優先をとった速度情報である(
図2~
図4参照)。なお、運行データの蓄積は、運転状況記録装置である運行データ記録部101の定期的なデータの取得によって実現することができる。
【0045】
過去の運行データの検索においては、位置と制限速度の関係を基に検索をする。蓄積されている各運行データは、時系列に位置と制限速度の情報が含まれているため、位置と制限速度の関係を作成することができる。また、前述した通常運行阻害条件158は、位置と制限速度の関係で定義されている。これを踏まえて、走行実績における通常運行阻害条件158と、位置と制限速度の関係が合致する過去の運行データを検索し、抽出する。
【0046】
抽出された過去の運行データの中からさらに、ダイヤよりも早く到着しない範囲で最も短い走行時分で駅間走行をしている運行データを再抽出する。この運行データの走行時分を、参考駅間走行時分と定義する。また、再抽出された運行データの中から、最も省エネな走行をした運行データと、平均的な消費電力量で走行した運行データを探し、それぞれの電力量を、参考駅間消費電力量(省エネ)、参考駅間消費電力量(平均)として定義する。消費電力量算出部102で、力行電力のみを対象とした消費電力算出を採用する場合は、ここでも、力行電力量の観点で省エネおよび平均的な電力量の運行データの検索を行う。
【0047】
なお、参考駅間走行時分が決まった際に、再抽出された運行データ数が少ない(3つ以下など)場合には、複数の運行データを再抽出するために、参考駅間走行時分は、ダイヤよりも早く到着しない範囲で走行時分に5~10秒程度の幅を持たせて最も短い走行時分としてもよい。
【0048】
このように、比較用運行データ作成部107は、運行データ記録部101に記録された過去の運行データのうち、阻害条件158が存在した場合の運行データを抽出することで、参考走行時分と参考消費電力量をそれぞれ算出している。
【0049】
(運行シミュレーションを用いた比較用運行データ作成方法)
運行シミュレーションに必要な条件設定として、車両条件(重量、走行抵抗特性、牽引力・制動力・電制力特性)や路線条件(駅キロ程、路線の勾配や曲率、トンネル有無、制限速度)、ダイヤ条件(駅間走行時分)、および運転方法の条件が挙げられる。これらのうち、制限速度以外の条件については、比較用運行データ作成部107にて予め保持しておく。そのうえで制限速度の条件として、通常運行阻害条件158を用いる。
【0050】
なお、車両条件に含まれる重量については、曜日や時間帯による乗車率変動によって影響を受けるため、シミュレーション対象の駅間走行における乗車率値を運行データ記録部101から追加取得して使用することで、速度パターンや電力消費量の観点でより高精度な運行シミュレーションが可能である。また、車両条件に含まれる牽引力特性については、電気鉄道においては架線電圧によって影響を受けるため、シミュレーション対象の駅間走行における架線電圧値を運行データ記録部101から追加取得して使用することで、速度パターンや電力消費量の観点でより高精度な運行シミュレーションが可能である。また、車両条件に含まれる電制力特性については、電気鉄道においては架線電圧によって影響を受けるため、シミュレーション対象の駅間走行における架線電圧値を運行データ記録部101から追加取得して使用することで、電力消費量の観点でより高精度な運行シミュレーションが可能である。また、運転方法の条件とは、駅間走行中の走行速度パターンの決め方であり、ひいてはノッチ扱いの戦略である。運転方法の条件の違いで、走行時分や消費電力量は変化する。
【0051】
比較用運行データ作成における運行シミュレーションでは、通常運行阻害条件158を前提にしたうえで、まず、駅間を最も短い時分で走行できる走行速度パターンを生成する。最速パターンは、安全性や乗り心地を考慮して許容される最大加速度・最大減速度を活用し、制限速度を超過しない範囲で速度を上げて走行する速度パターンである。
【0052】
図5に前述したように、最速パターンで駅間を走行した場合の走行時分が、ダイヤで定められた走行時分以上であれば、最速パターンを比較用運行データとする。恒久速度制限に対して、大きく速度を下げなければならないような通常運行阻害条件158が存在する場合には、
図6で前述したように、最速で走行してもダイヤで定められた走行時分よりも短い走行時分では走行できず、最速パターンが比較用運行データとなる。
【0053】
参考駅間走行時分は、最速パターンで駅間を走行した場合の走行時分と、ダイヤで定められた走行時分のうちの、長い方を採用する。参考駅間走行時分が、最速パターンで駅間を走行した場合の走行時分である場合、参考駅間消費電力量は、最速パターンで走行した場合の駅間消費電力量と定義する。また、参考駅間走行時分が、ダイヤで定められた走行時分である場合、参考駅間消費電力量は、省エネパターンで走行した場合の駅間消費電力量と定義する。
【0054】
ここで駅間消費電力量は、最速パターンに沿って走行するために必要とした牽引力・電制力の大きさから、機器効率などを考慮して推定して求めた瞬時ごとの消費電力を、駅間走行中に亘って積算することで算出できる。なお、消費電力量算出部102で、力行電力のみを対象とした消費電力算出を採用する場合は、ここでも、正の消費電力のみを積算することで、駅間の力行電力量を算出する。
【0055】
運行シミュレーションによる方法では、実運行における走行パターンのばらつきを表現することが難しいため、比較用運行データとして平均的な消費電力量で走行する運行データは生成せずに、省エネな走行をする運行データのみ生成する。
【0056】
このように、比較用運行データ作成部107は、阻害条件を含んだコンピュータ上での走行シミュレーションによって、参考駅間走行時分と参考駅間消費電力量を算出し、それらを閾値として実績駅間消費電力量152と実績駅間走行時分155などの実績値と比べることで、評価用参考値159を評価指標比較部104に出力する。以上2つの方法を踏まえて、
図7~
図9の評価結果について説明する。
【0057】
図7や
図9の省エネパターンでは、参考消費電力量は、列車が参考走行時分で駅間を走行する場合において、最も消費電力の少ない走行をした場合に消費する電力量である。
【0058】
図8の平均パターンでは、参考消費電力量は、列車が参考走行時分で駅間を走行する場合においての平均的な消費電力量である。省エネを目的とした指標を出すために、評価指標比較部104は、消費電力量152が参考消費電力量を下回っている場合に、参考消費電力量を上回っている場合よりも高評価となるように、運転評価を算出する。
【0059】
(評価結果の算出について)
評価指標比較部104の生成する評価結果156の算出について説明する。評価結果156である数値について、まず、走行時分や消費電力量の数値を比較し、差分を計算する。以下、
図7~
図9に示すように、評価結果156には、各比較対象の数値とともに、計算された差分が含まれる。差分は、評価用参考値159を基準とした値である。
【0060】
図7では、評価用参考値159に含まれる参考駅間走行時分(過去の運行データの検索による結果、省エネ)と、実績駅間走行時分155を比較する。また、評価用参考値159に含まれる参考駅間消費電力量(過去の運行データの検索による結果、省エネ)と、実績駅間消費電力量152を比較する。
【0061】
図8では、評価用参考値159に含まれる参考駅間走行時分(過去の運行データの検索による結果、平均)と、実績駅間走行時分155を比較する。また、評価用参考値159に含まれる参考駅間消費電力量(過去の運行データの検索による結果、平均)と、実績駅間消費電力量152を比較する。
【0062】
図9では、評価用参考値159に含まれる参考駅間走行時分(運行シミュレーションによる結果)と、実績駅間走行時分155を比較する。評価用参考値159に含まれる参考駅間消費電力量(運行シミュレーションによる結果)と、実績駅間消費電力量152を比較する。
【0063】
つづいて、走行時分や消費電力量の数値の比較に基づいて、理想的な値に実績値が近いほど高得点となるように点数をつける。走行時分の理想的な値は、評価用参考値159に含まれる参考駅間走行時分のうち、過去の運行データの検索による結果と、運行シミュレーションによる結果のいずれかを使用する。
【0064】
最後に、走行時分や消費電力量の数値の比較に基づいた評価結果(点数化結果)を予め定めた点数の基準値と比較して、基準値を上回る点数のときに合格とする合否判定を行う。また、消費電力量に関して、評価用参考値159に含まれる参考駅間消費電力量のうち、過去の運行データの検索による平均的な値と、実績駅間消費電力量を比較して、後者が前者よりも小さかったときに合格とする合否判定を行う。
【0065】
以上により評価された
図7~
図9の情報は、評価結果提示部105によって表形式で数値を表示したり、これらの数値をグラフ化したりして表示する。
【0066】
なお、評価結果提示部105は、
図7~
図9のすべての情報を表示する必要はなく、一部の情報のみを抜粋表示する形態でもよい。また、評価結果提示部105は、通常運行阻害条件抽出部106から取得した主影響運行阻害要因163の内容を、表示装置内に併記する(
図10、
図13、
図14参照)。これにより運転士は、自らの運転実績と比較されている参考駅間走行時分や参考駅間消費電力量が、どのような運行条件を前提として算出されたかを認識することができ、比較評価の結果の妥当性を確認できる。
【0067】
(
図10)
図10に、走行時分や消費電力量の数値を比較し、差分を計算した評価結果156および主影響運行阻害要因163の提示例である運転実績画面を示す。このように、評価結果提示部105は、評価指標比較部104において比較された、消費電力量152と参考消費電力量の比較結果および走行時分155と参考走行時分の比較結果のうち、少なくとも一方の比較結果について、グラフで表示する。また、評価結果提示部105は、さらに運転評価に関連する阻害条件158について運行阻害要因の有無を表示する。
【0068】
(
図11)
図11に、走行時分155に関する点数のつけ方の一例を示す。この例のグラフに示すように、参考駅間走行時分に近づくほど最高得点となるように時分範囲を設けており、その範囲から離れるにつれて点数が下がるような点数のつけ方をしている。このように、評価指標比較部104は、走行時分155が参考走行時分に近いほど高評価となるように、運転評価を算出している。
【0069】
(
図12)
図12に消費電力量152に関する点数のつけ方の一例を示す。この例では、参考駅間消費電力量の周辺に最高得点となる時分範囲を設けており、その範囲よりも電力量が大きくなるにつれて点数が下がるような点数のつけ方をしている。このように、評価指標比較部104は、消費電力量152が参考消費電力量に近いほど高評価となるように、運転評価を算出している。なお、消費電力量の理想的な値は、評価用参考値159に含まれる参考駅間消費電力量のうち、過去の運行データの検索による結果の省エネな値と、運行シミュレーションによる結果のいずれかを使用する。
【0070】
(
図13)
評価結果提示部105における評価結果156の提示例であり、前述した走行時分や消費電力量の数値の比較に基づいて、理想的な値に実績値が近いほど高得点となるように点数をつけた方法である。評価結果提示部105では、車両情報装置の運転台画面など、運転士が目視できる表示装置において、これらの点数を表示する。表示にあたって、走行時分の点数と消費電力量の点数は、個別に表示されてもいいし、何らかの重み付けをして両者を加算した値を表示してもよい。評価結果提示部105は、通常運行阻害条件抽出部106から取得した主影響運行阻害要因163の内容を、表示装置内に併記することが望ましい。
【0071】
(
図14)
評価結果提示部105における評価結果156の提示例であり、走行時分や消費電力量の数値の比較に基づいた評価結果(点数化結果)を、予め定めた点数の基準値と比較して、基準値を上回る点数のときに合格とする合否判定を表示している。
図14では、評価結果156が合格のときの例を示している。例えば図示するように、走行時分に関して「適正」、消費電力量に関して「ECO」といった表示が考えられる。
【0072】
以上説明した本発明は、列車の運行実績に関する運行データに基づいて、列車の運行時における駅間の消費電力量152と走行時分155を算出し、運行データに基づいて、列車の運行時に発生した通常運行に対する阻害条件158を抽出し、阻害条件に基づいて、参考消費電力量と参考走行時分をそれぞれ算出し、消費電力量152および走行時分155と、参考消費電力量および参考走行時分とを比較することで、列車の運行時における運転手の運転評価156を算出する。このような運転支援方法により、運行状況に即して適切な評価結果を提示することができる運転支援システムを提供できる。
【0073】
以上説明した本発明の一実施形態によれば、以下の作用効果を奏する。
【0074】
(1)運転支援システムは、列車の運行実績に関する運行データを記録する運行データ記録部101と、運行データ記録部101に記録された運行データに基づいて、列車の運行時における駅間の消費電力量152を算出する消費電力量算出部102と、運行データ記録部101に記録された運行データに基づいて、列車の運行時における駅間の走行時分155を算出する走行時分算出部103と、消費電力量152および走行時分155について、それぞれの比較対象である参考消費電力量および参考走行時分を設定し、消費電力量152と参考消費電力量の比較結果および走行時分155と参考走行時分の比較結果に基づいて、列車の運行時における運転手の運転評価156を算出する評価指標比較部104と、を備える。また、運行データ記録部101に記録された運行データに基づいて、列車の運行時に発生した通常運行に対する阻害条件158を抽出する通常運行阻害条件抽出部106と、阻害条件158に基づいて、参考消費電力量と参考走行時分をそれぞれ算出する比較用運行データ作成部107と、を備える。このようにしたことで、通常運行を阻害する条件があった場合でも、走行時分や消費電力量を適正に評価し、列車運行の省エネ化を実現できる。
【0075】
(2)評価指標比較部104で算出される運転評価を、運転者に対して提示する評価結果提示部105を備える。このようにしたことで、運転手は省エネを心掛けた運転方法の工夫に対するモチベーションを維持できる。
【0076】
(3)参考走行時分は、阻害条件158の存在下において、列車が出発駅を発車した時刻から、ダイヤ上の到着時刻以降で到着駅に到達できる最も早い到着時刻までの時間である。このようにしたことで、阻害条件158に基づいた走行時分の目標を作成できる。
【0077】
(4)評価指標比較部104は、走行時分155が参考走行時分に近いほど高評価となるように、運転評価を算出する。このようにしたことで、評価結果156を明確にすることができる。
【0078】
(5)参考消費電力量は、列車が参考走行時分で駅間を走行する場合において、最も消費電力の少ない走行をした場合に消費する電力量である。このようにしたことで、省エネで列車を走行する場合の電力量の基準を作成できる。
【0079】
(6)評価指標比較部104は、消費電力量が参考消費電力量に近いほど高評価となるように、運転評価を算出する。このようにしたことで、評価結果156を明確にすることができる。
【0080】
(7)参考消費電力量は、列車が参考走行時分で駅間を走行する場合においての平均的な消費電力量である。このようにしたことで、省エネで列車を走行する場合の電力量の基準を作成できる。
【0081】
(8)評価指標比較部104は、消費電力量152が参考消費電力量を下回っている場合に、参考消費電力量を上回っている場合よりも高評価となるように、運転評価156を算出する。このようにしたことで、平均的な消費電力量を基準とした、列車の省エネ走行の評価を明確にすることができる。
【0082】
(9)比較用運行データ作成部107は、運行データ記録部101に記録された過去の運行データのうち阻害条件158が存在した場合の運行データを抽出することで、参考走行時分と参考消費電力量をそれぞれ算出する。このようにしたことで、先行列車がいた場合であっても、列車の最適な省エネ走行の基準を作成することができる。
【0083】
(10)比較用運行データ作成部107は、阻害条件158を含んだコンピュータ上での走行シミュレーションによって、参考走行時分と参考消費電力量を算出する。このようにしたことで、過去に運行データがなかった場合でも評価基準を作成できる。
【0084】
(11)阻害条件158は、恒久速度制限上には存在しない追加速度制限である。このようにしたことで、例えば先行列車が存在する場合の列車の省エネ走行の基準を作成できる。
【0085】
(12)追加速度制限は、信号装置108による信号表示によって設定される速度制限である。このようにしたことで、先行列車が存在する場合の速度制限情報を加えた阻害条件158を作成できる。
【0086】
(13)追加速度制限は、気象条件によって設定される速度制限である。このようにしたことで、悪天候の場合の速度制限情報を加えた阻害条件158を作成できる。
【0087】
(14)追加速度制限は、列車前方に存在する障害物によって設定される速度制限である。このようにしたことで、例えば列車の走行に対してリスクが生じる外界の障害物を考慮した速度制限情報を加えた阻害条件158を作成できる。
【0088】
(15)評価結果提示部105は、運転評価に関連する阻害条件158を表示する。このようにしたことで、運転手は阻害条件158を明確に認識して、省エネを心掛けた運転方法の工夫に対するモチベーションを維持できる。
【0089】
(16)評価結果提示部105は、さらに評価指標比較部104において比較された、消費電力量152と参考消費電力量の比較結果および走行時分155と参考走行時分の比較結果のうち、少なくとも一方の比較結果について、グラフで表示する。このようにしたことで、運転手は自らの列車の走行評価結果156を認識できる。
【0090】
(17)本発明の運転支援方法は、列車の運行実績に関する運行データに基づいて、列車の運行時における駅間の消費電力量152と走行時分155を算出し、運行データに基づいて、列車の運行時に発生した通常運行に対する阻害条件158を抽出し、阻害条件158に基づいて、参考消費電力量と参考走行時分をそれぞれ算出し、消費電力量152および走行時分158と、参考消費電力量および参考走行時分とを比較することで、列車の運行時における運転手の運転評価156を算出する。このようにしたことで、通常運行を阻害する条件があった場合でも、走行時分や消費電力量を適正に評価し、列車運行の省エネ化を実現できる。
【0091】
なお、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内で様々な変形や他の構成を組み合わせることができる。また本発明は、上記の実施形態で説明した全ての構成を備えるものに限定されず、その構成の一部を削除したものも含まれる。
【符号の説明】
【0092】
101 運行データ記録部、102 消費電力量算出部、103 走行時分算出部、
104 評価指標比較部、105 評価結果提示部、106 通常運行阻害条件抽出部、
107 比較用運行データ作成部、108 信号装置、109 運行管理装置、
110 障害物検知装置、151 電力消費情報、152 実績駅間消費電力量、
153 列車位置、154 列車速度、155 実績駅間走行時分、156 評価結果、
157 追加速度制限情報、158 通常運行阻害条件、
159 評価用参考値、160 信号現示、161 臨時速度制限、
162 障害物リスク速度制限、163 主影響運行阻害要因